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特許7527629二酸化チタン着色粒子及びその製造方法、並びに二酸化チタン粒子混合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】二酸化チタン着色粒子及びその製造方法、並びに二酸化チタン粒子混合物
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20240729BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20240729BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20240729BHJP
   C23C 8/24 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C01G23/00 Z
C09C3/06
C09C3/08
C23C8/24
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020130912
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027110
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-01-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行者名:公益社団法人日本セラミックス協会 刊行物名:The 13th Pacific Rim Conference of Ceramic Societiesの講演予稿集(PACRIM13 CONFERENCE PROGRAM) 29-B4-S19-18 主催者名:公益社団法人日本セラミックス協会 発行日:令和1年10月27日(2019年10月27日) (2)発行者名:公益社団法人日本セラミックス協会 刊行物名:公益社団法人日本セラミックス協会2020年年会(Annual Meeting of the Ceramic Society of Japan, 2020)の講演予稿集を集録したCD-ROM 3Q02 主催者名:公益社団法人日本セラミックス協会 発行日:令和2年3月2日(2020年3月2日)
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】殷 シュウ
(72)【発明者】
【氏名】曹 ジンヂ
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 拓哉
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】ZHOU, Xiaosong et al.,Effect of nitrogen-doping temperature on the structure and photocatalytic activity of the B,N-doped TiO2,Journal of Solid State Chemistry,2010年11月11日,Vol.184,pp.134-140
【文献】GEORGIEVA, J. et al.,A simple preparation method and characterization of B and N co-doped TiO2 nanotube arrays with enhanced photoelectrochemical performance,Applied Surface Science,2017年04月08日,Vol.413,pp.284-291
【文献】ZHAO, Jingzhong et al.,A Novel Method To Prepare B/N Codoped Anatase TiO2,THE JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY,2015年03月19日,Vol.119 Issue14,pp.7732-7737
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
C09C 3/06
C09C 3/08
C23C 8/24
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶構造がブルッカイト型若しくはルチル型の結晶構造であり、少なくとも窒素及びホウ素がコドープされた、二酸化チタン着色粒子。
【請求項2】
格子欠陥を有する、請求項1に記載の二酸化チタン着色粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二酸化チタン着色粒子を少なくとも1種含む、二酸化チタン粒子混合物。
【請求項4】
ブルッカイト型若しくはルチル型の結晶構造を有し、少なくとも窒素及びホウ素がコドープされた二酸化チタン着色粒子を少なくとも1種含む、二酸化チタン粒子混合物。
【請求項5】
前記二酸化チタン着色粒子が格子欠陥を有する二酸化チタン着色粒子である、請求項4に記載の二酸化チタン着色粒子混合物。
【請求項6】
請求項1に記載の二酸化チタン着色粒子又は請求項4に記載の二酸化チタン着色粒子の製造方法であって、
二ホウ化チタンを、酸又は尿素の存在下で水熱反応し、次いで、アンモニアガス雰囲気下、又は、尿素若しくはカーボンナイトライドと混合して、窒化処理する、製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の二酸化チタン着色粒子又は請求項5に記載の格子欠陥を有する二酸化チタン着色粒子の製造方法であって、
二ホウ化チタンを、酸又は尿素の存在下で水熱反応し、次いで、アンモニアガス雰囲気下又は尿素若しくはカーボンナイトライドと混合して窒化処理し、更に、前記水熱反応と前記窒化処理との間又は前記窒化処理の後に不活性ガス中若しくは真空中で仮焼成処理を行う、製造方法。
【請求項8】
請求項2に記載の二酸化チタン着色粒子又は請求項5に記載の格子欠陥を有する二酸化チタン着色粒子の製造方法であって、
二ホウ化チタンを、酸又は尿素の存在下で水熱反応し、次いで、アンモニアガス雰囲気下又は尿素若しくはカーボンナイトライドと混合して窒化処理する際に前記窒化処理と同時に不活性ガス中若しくは真空中で仮焼成処理を行う、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタン着色粒子及びその製造方法、並びに二酸化チタン粒子混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンは、屈折率が高く、優れた隠蔽力を有し、化学的に安定で無毒である。このような優れた特性を有する二酸化チタンは、無機顔料や光触媒などに広く利用されている。二酸化チタンは3.0eV又は3.2eVのバンドギャプ(BG)を有しており、白色を呈している。しかし、二酸化チタンを白色以外の色に発色できると、塗料用顔料、医療用途、化粧品用顔料、食品添加剤等の様々な新規機能性材料としての応用が期待される。
白色の二酸化チタンを種々の色に発色させる方法として、例えば、二酸化チタンに遷移金属イオン(例えば、鉄イオン、クロムイオン、カドミウムイオン)をドープする方法が知られている。例えば、鉄イオンをドープすると赤色二酸化チタンが得られる。しかし、遷移金属イオンをドープした二酸化チタンは、遷移金属に由来する生体毒性を発現し、無毒であるという優れた生体適合性を損なって、医療用途、化粧品用途、食品添加剤等には利用できない等、機能性材料としての用途が限定されてしまう。
【0003】
そこで、遷移金属イオン以外のアニオンをドーピングして着色させた二酸化チタンが提案されている。例えば、アナターゼ型の結晶相(結晶構造)を有する二酸化チタンに窒素アニオンをドープした、黄色の二酸化チタンが挙げられる(非特許文献1)。また、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンに窒素アニオンとホウ素アニオンをコドープした、赤色の二酸化チタン光触媒が挙げられる(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】R.Asahi, et al. Science, 2011, 293, P.269-271
【文献】Liu G, et al. Energy Environ. Sci., 2012, 5, P.9603-9610
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1及び2には、二酸化チタンに黄色又は赤色を発色させるものの、それ以外の色の発色については記載も示唆もなく、二酸化チタンを新規機能性材料として使用するには、赤色や黄色だけでなく、多種多様な色を発色させることが求められる。
【0006】
本発明は、上記の問題点を克服して、二酸化チタンの無毒性を維持しながらも、赤色以外及び黄色以外の色も発色可能な二酸化チタン着色粒子、及び二酸化チタン着色粒子を含む二酸化チタン粒子混合物を提供することを、課題とする。また、本発明は、上述の優れた特性を示す二酸化チタン着色粒子を、環境負荷が小さく簡便なプロセスで製造できる製造方法を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、二酸化チタンの発色について検討したところ、二酸化チタンの結晶構造としてブルッカイト型又はルチル型を採用したうえで窒素及びホウ素の両イオンをコドープすることにより、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンが発色する色以外の色も発色させることが可能になることを見出した。また、出発原料として二ホウ化チタンを用いて、これを酸又は尿素の存在下で高温高圧の水を溶媒とする水熱反応させ、次いで窒化処理することにより、窒素及びホウ素の両イオンをコドープしたブルッカイト型又はルチル型の結晶格子を有する二酸化チタン着色粒子を、環境負荷が小さく簡便なプロセスで製造できることを見出した。
本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>ブルッカイト型若しくはルチル型の結晶構造を有し、少なくとも窒素及びホウ素がコドープされた、二酸化チタン着色粒子。
<2>格子欠陥を有する、<1>に記載の二酸化チタン着色粒子。
<3>上記<1>又は<2>に記載の二酸化チタン着色粒子を少なくとも1種含む、二酸化チタン粒子混合物。
<4>上記<1>に記載の二酸化チタン着色粒子の製造方法であって、
二ホウ化チタンを、酸又は尿素の存在下で水熱反応し、次いで、アンモニアガス雰囲気下、又は、尿素若しくはカーボンナイトライド(C)と混合して、窒化処理する、製造方法。
<5>上記<2>に記載の二酸化チタン着色粒子の製造方法であって、
前記水熱反応と前記窒化処理との間、又は前記窒化処理の後に、不活性ガス中若しくは真空中で仮焼成処理を行う、製造方法。
<6>上記<2>に記載の二酸化チタン着色粒子の製造方法であって、
前記窒化処理と同時に仮焼成処理を行う、製造方法。
【0009】
本発明において、「粒子」には微粉末等の形態を包含する。そのため、「着色粒子」に関して、「着色材」又は「着色材料」ということもできる。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、二酸化チタンの無毒性を維持しながらも、赤色以外及び黄色以外の色も発色可能な二酸化チタン着色粒子、及び二酸化チタン着色粒子を含む二酸化チタン粒子混合物を提供できる。また、本発明は、上述の優れた特性を示す二酸化チタン着色粒子を、環境負荷が小さく簡便なプロセスで製造できる製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1-1、1-2及び参考例1-1で製造した各二酸化チタン着色粒子の拡散反射スペクトルを示す図である。
図2図2は、図1に示す拡散反射スペクトルからバンドギャップの算出に用いたTauc Plotを示す図である。
【0012】
図3図3は、実施例2-1及び2-2で製造した各二酸化チタン着色粒子の拡散反射スペクトルを示す図である。
図4図4は、実施例3-1及び3-2で製造した各二酸化チタン着色粒子の拡散反射スペクトルを示す図である。
図5図5は、実施例4-1及び4-2で製造した各二酸化チタン着色粒子の拡散反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[二酸化チタン着色粒子]
本発明の二酸化チタン着色粒子は、ブルッカイト型若しくはルチル型の結晶構造を有しており、少なくとも窒素及びホウ素の両イオンをドーパントとしてコドープされている。好ましくは更に格子欠陥を有している。この二酸化チタン着色粒子は、後述するように、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンが発色する以外の色も発色できる。
その理由の詳細はまだ明らかではないが、以下のように考えられる。
二酸化チタンに窒素及びホウ素をコドープすると、両ドーパント(窒素及び特に後述する格子間型B)による混成軌道が伝導帯側に形成されと考えられる。そのため、コドープした二酸化チタンにおける混成軌道と伝導帯とのバンドギャップが、二酸化チタンの価電子帯と伝導帯とのバンドギャップよりも縮小する。また、二酸化チタンは結晶構造に特有のバンドギャップを有している。その結果、コドープした二酸化チタンは、結晶構造に特有のバンドギャップからコドープにより縮小したバンドギャップに対応する特有の色を発現し、結晶構造及び/又はバンドギャップを変化させることにより(吸収スペクトルが変更して)種々の色を発現させる(発色制御する)ことができると考えられる。例えば、バンドギャップが小さくなると、発現する色は青味若しくは緑味が強くなる傾向にある。
本発明者は、二酸化チタンの発色について更に検討を進めたところ、二酸化チタンの結晶格子に酸素欠陥やTi3+等の格子欠陥を導入することにより、色の深み等を調整でき、更に多種多様な色を発色させることが可能になることも見出した。コドープした二酸化チタンに格子欠陥を形成すると、可視光の吸収量が増減し(吸収スペクトルが変更し)、また窒素のドープ量が変化し、更にはコドープした酸化チタンのバンド構造との相関より、更なる可視光吸収をもたらすと考えられる。そのため、この格子欠陥に由来して、色の深みが増して紫色や黒色に変化する。そして、上記結晶構造及び/又はバンドギャップの変化に加えて格子欠陥に由来する色の深みを調整することによって、両作用が相まって、二酸化チタンに多種多様な色を発現させることができると考えられる。
【0014】
二酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型(正方晶)、ルチル型(正方晶)及びブルッカイト型(斜方晶)の3種が知られているが、本発明の二酸化チタン着色粒子の結晶構造はブルッカイト型又はルチル型である。二酸化チタンを相転移させるとイオンのドープ量が低減することから、通常、ルチル型又はブルッカイト型の結晶構造を有する二酸化チタンを相転移により製造することは困難であり、アナターゼ型結晶構造を経ることなく、ルチル型又はブルッカイト型の結晶構造を直接形成することがイオンのドープ量、ひいては色の制御に重要である。二酸化チタンの結晶構造は、粉末X線回折法(XRD)等の公知の方法により同定することができる。
本発明の二酸化チタン着色粒を構成する結晶構造には、本発明の作用効果を損なわない範囲でアナターゼ型を含んでいてもよく、その含有量(存在量)としては、例えば、粉末X線解析(XRD)法により定量されるアナターゼ相が50%以下とすることができ、30%以下とすることがよい。
【0015】
本発明の二酸化チタン着色粒子が有するドーパントは、窒素及びホウ素の両イオンを含んでいればよく、これら以外のイオンを含んでいてもよい。任意のドーパントとしては、遷移金属元素以外の元素のイオンが挙げられ、例えば、ハロゲン元素のイオン、更には、硫黄、フッ素、リン、炭素(カーボン)等の各元素のイオンが挙げられる。中でも、多様な色を発色できる(発色性に優れる)点で、ハロゲン元素のイオンが好ましく、塩素元素のイオンがより好ましい。
ドーパントは、通常、結晶格子内又は結晶格子間にイオンとしてドープされるが、本発明においては、元素単独のイオンに限らず、他の元素とともにイオン群として、中性元素等として、ドープされていてもよい。
【0016】
二酸化チタン着色粒子におけるドーパントのドープ量は、特に制限されず、適宜に決定される。例えば、ホウ素イオンの(総)ドープ量は、0.01~10%原子%に設定することができ、2~5%原子%が好ましい。窒素イオンの(総)ドープ量は、0.01~10%原子%に設定することができ、0.01~3原子%が好ましく、0.01~1.0原子%がより好ましい。ハロゲンイオンイオンの(総)ドープ量は、0.01~10原子%に設定することができ、0.01~3原子%が好ましい。上記の各範囲内でドーパントのドープ量を変更することにより、種々の色を発現させることができる。
ドープ量は後述する実施例における測定方法により測定することができる。
【0017】
二酸化チタン着色粒子は、結晶格子間にドープされるホウ素イオン(格子間型Bという)と、結晶格子内で酸素イオンを置換してドープされるホウ素イオン(置換型Bという)とを有している。本発明においては、格子間型Bの存在は、得られる二酸化チタンについて400~600nmの波長光の吸収に作用すると考えられ、色の発色に関与する。一方、置換型Bの存在は、900~1700nmの波長光の吸収に作用すると考えられ、目視で認識できる色への影響は小さい。そのため、格子間型Bのドープ量を変更することにより、発色する色を変化させて、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンが発色する以外の色も発色することができる。例えば、格子型Bの存在量(ドープ量)を多くすると、発色する色の赤味が強くなる傾向にある。
格子間型Bの存在量は、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンよりも少ない、3.0原子%以下であることが好ましい。ブルッカイト型の結晶構造を有する二酸化チタン着色粒子における格子間型Bのドープ量はより好ましくは1.0~2.5原子%であり、ルチル型の結晶構造の結晶構造を有する二酸化チタン着色粒子における格子間型Bのドープ量はより好ましくは1.0~3.0原子%である。本発明の二酸化チタン着色粒子において、置換型Bのドープ量に対する格子間型Bのドープ量の比[格子間型Bのドープ量/置換型Bのドープ量]は、特に限定されず、例えば2~5であることが好ましい。
【0018】
一方、窒素イオン等も、結晶格子間及び結晶格子内にそれぞれドープされる。各ドープ量は、特に制限されず、適宜に設定される。
各イオンは、後述する水熱反応等により、ドープすることができる。
【0019】
本発明の二酸化チタン着色粒子は、チタン以外の遷移金属元素のイオンを含有してなく、二酸化チタンの無毒性を維持している。本発明において、チタン以外の遷移金属元素のイオンを含有していないとは、二酸化チタンの発色(制御)にチタン以外の遷移金属元素を使用しないことを意味し、不可避的な含有を排除するものではない。例えば、チタン以外の遷移金属元素のイオンの含有量(ドーパントのドープ量と同様にして測定される)は、二酸化チタン着色粒子中、0.2原子%以下とすることができる。
【0020】
本発明の二酸化チタン着色粒子は、格子欠陥を有することが、色の深み(明るさ)等をも調整でき、多種多様な色を発現させることができる点で、好ましい。格子欠陥は、結晶構造における原子配列の乱れをいい、原子空孔による欠陥(例えば酸素欠陥)を含むが、Ti4+の、低酸化状態のチタンイオン(Ti3+、Ti2+等)による置換が変色により強い影響がある。格子欠陥を有する二酸化チタン着色粒子は、酸素欠陥二酸化チタン着色粒子、低次二酸化チタン着色粒子ということができる。格子欠陥の存在量は、特に制限されないが、色の深み等を適宜に調整できる点で、低次二酸化チタン着色粒子を式:TiO(2-x)で表する場合、xが0.01~1であることが好ましく、0.01~0.3であることがより好ましい。格子欠陥の存在量を多くするほど、色が濃くなり、例えば深紫色、黒色等に変色させることができる。格子欠陥の存在量xは後述する実施例における測定方法により測定することができる。
格子欠陥は、例えば、後述する仮焼成処理により形成できる。
【0021】
本発明の二酸化チタン着色粒子の形態は、特に制限されず、キューブ形、顆粒状、球形、偏平状、ロッド状(棒状)、不定形、更には微細粒子、微粉末状等のいずれでもよい。その平均粒径は、特に制限されず、一次及び二次粒径のいずれも、例えば、0.01~10μmの範囲とすることができる。二酸化チタン着色粒子を顔料として用いる場合、平均粒径は、0.05~5μmであることが好ましい。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察して、任意に20個選択した粒子の各粒子径を計測し、その平均値を算出することによって、測定することができる。
【0022】
本発明の二酸化チタン着色粒子は、後述するように、多種多様な色を発色する。本発明の二酸化チタン着色粒子が呈する色は、結晶構造の種類、各イオンのドープ量、格子欠陥の存在量等の調整によって一義的に決定できず、後述するように、両イオンで形成される混成軌道のバンドギャップ、更には格子欠陥の存在量に応じた色となる。
【0023】
[二酸化チタン粒子混合物]
本発明の二酸化チタン粒子混合物は、本発明の二酸化チタン着色粒子を少なくとも1種含む2種以上の二酸化チタン粒子の混合物である。混合される二酸化チタン粒子の種類数は、特に制限されず、例えば2~5種とすることができる。混合される二酸化チタン粒子の種類によって、本発明の二酸化チタン着色粒子単独では実現できない色を表現できる。
本発明の二酸化チタン粒子混合物は、本発明の二酸化チタン着色粒子2種以上の混合物でもよく、更に公知の二酸化チタン粒子(例えば、白色、赤色若しくは黄色の二酸化チタン粒子)との混合物でもよい。表現する色に応じて混合する二酸化チタン粒子を適宜に選択し、それらの含有量を適宜に設定することができる。二酸化チタン粒子の混合により発色させる方法は、特に制限されず、所定の色を有する二酸化チタン粒子同士を適宜に混合すればよく、減法混色等を採用することもできる。
本発明の二酸化チタン粒子混合物は、公知の混合法により製造できる。
この二酸化チタン粒子混合物は、本発明の二酸化チタン着色粒子を含有し、通常異なる色を呈する二酸化チタン粒子を混合するものであるから、混合する二酸化チタン粒子の組み合わせ、及び混合量等を適宜に設定することにより、本発明の二酸化チタン着色粒子単独では実現しえない、色相(色あい)、明度(明るさ)及び彩度(鮮やかさ)のいずれか1つを調整することができ、多種多様な色を実現できる。
【0024】
本発明の二酸化チタン着色粒子及び二酸化チタン粒子混合物は、上述のように多種多様な色を呈するので、塗料、化粧品等の各種顔料、光触媒、更には無毒性を活かして医療用途、食品添加剤等として利用することができる。特にブルッカイト型の結晶構造を有する二酸化チタン着色粒子及びこれを含む二酸化チタン粒子混合物は、290~400nmの波長光に対して二酸化チタン白色粒子と同等以上の光触媒活性を示し、光触媒として好適に用いることができる。
【0025】
[二酸化チタン着色粒子の製造方法]
本発明の二酸化チタン着色粒子の製造方法は、二ホウ化チタンを、酸又は尿素の存在下で水熱反応(ソルボサーマル反応)させて、ホウ素をドープした二酸化チタン粒子を合成し、次いで、生成物を、窒素源としてのアンモニアガス雰囲気下で、又は尿素若しくはカーボンナイトライド(C)と混合して、窒化処理することにより、ホウ素及び窒素をコドープした二酸化チタン粒子を合成する方法である。
本発明の二酸化チタン着色粒子の製造方法(本発明の製造方法ともいう。)では、水熱反応を利用して、特定の結晶構造を有する二酸化チタン粒子の合成と、二酸化チタンへのホウ素イオンのドープを一挙に行うことができる。そのため、環境負荷を低減しながらも簡便に合成することができる。
【0026】
<水熱反応>
水熱反応には、チタン源及びホウ素源として二ホウ化チタンを用いる。
水熱反応に用いる酸としては、特に制限されず、有機酸、無機酸を用いることができ、無機酸が好ましい。無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。無機酸を用いる場合、塩基、例えば用いる無機酸のアルカリ金属塩を併用することもできる。酸の使用量は、二酸化チタンを合成するのに必要な量であればよく、通常、二ホウ化チタン1モルに対して、1~10モルとすることができ、2~3モルとすることが好ましい。また、塩基の使用量は、特に制限されず適宜に設定できるが、例えば、ホウ化チタン1モルに対して、0.5~5モルとすることができる。
本発明の製造方法においては、酸の代わりに尿素を用いることができる。尿素は水溶液として用いることが好ましい。尿素の使用量は、二酸化チタンを合成するのに必要な量であればよく、通常、二ホウ化チタン1モルに対して、0.5~15モルとすることができ、0.5~5モルとすることが好ましく、2~3モルとすることがより好ましい。
水熱反応においては、塩基(金属塩)を用いることができる。塩基としては、例えば、乳酸ナトリウム等のカルボン酸のアルカリ金属塩、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機酸のアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩を用いることができる。また、塩基の使用量は、特に制限されず適宜に設定できるが、例えば、ホウ化チタン1モルに対して、0.5~5モルとすることができる。
【0027】
水熱反応において、ルチル型の結晶構造を有する二酸化チタンを優先的に合成する場合、酸の存在下で二ホウ化チタンを水熱反応させることが好ましい。酸の存在下における水熱反応において、用いる酸の種類、使用量を変更することにより、最終的に合成される本発明の二酸化チタン着色粒子に種々の色を発現させる(発色制御する)ことができる。例えば、酸の種類を変更する場合、HClを用いることにより、発色する色を濃くなる傾向にある。HNOを使用すると、後述するようにブルッカイト相となり、緑色が強くなる傾向にある。また、酸の使用量を低減すると、発色する色を明るい色に変色できる傾向にあり、一方、使用量を増大すると、色彩度が低下し、暗い色に変色できる傾向にある。より具体的には、塩酸濃度を増大させると下記Lab色空間イメージにおいてLが減少する傾向にあり、一方、HSO濃度を増大させると下記Lab色空間イメージにおいてLが若干減少、aが増加する傾向にある。
【0028】
また、無機酸のアルカリ金属塩等を併用する場合、硫酸ナトリウムを用いずに塩酸を用いる場合、aは0未満となり、緑色を呈するが、硫酸ナトリウムを添加するとaが0以上となり、赤味を増す。このとき、硫酸ナトリウムの存在下、塩酸濃度を増大させると下記Lab色空間イメージにおいてL、a及びbがいずれも減少する傾向にあり、塩酸の存在下、硫酸ナトリウムの濃度を増大させると下記Lab色空間イメージにおいてLの明るさが減少する傾向にある。また、塩酸の存在下、塩化ナトリウムの濃度を増大させると下記Lab色空間イメージにおいてL及びbがいずれも増大して明るさ及び黄色みが強くなる傾向にある。更に、硫酸ナトリウムの存在下、硫酸濃度を増大させると、下記Lab色空間イメージにおいてLが減少して明るさが低下する傾向にあり、a及びbがいずれも増大して赤味及び黄色味が強くなる傾向にある。
【0029】
上記色の変化について用いたLab色空間イメージにおいて、L値は明るさを表し、数値が大きい程明るくなることを示す。色みはaで表され、a共に0の場合には無彩色となる。aがプラスの方向になるほど赤味が強くなり、マイナスの方向になるほど緑みが強くなることを示す。bがプラスの方向になるほど黄色味が強くなり、マイナスの方向になるほど青みが強くなることを示す。
【0030】
一方、ブルッカイト型の結晶構造を有する二酸化チタンを優先的に合成する場合、酸の中でも硝酸を用いて二ホウ化チタンを水熱反応させるか、尿素と乳酸ナトリウムの存在下で二ホウ化チタンを水熱反応させることが好ましい。尿素の存在下における水熱反応において、用いる尿素の使用量を変更することにより、最終的に合成される本発明の二酸化チタン着色粒子に種々の色を発現させることができる。尿素及び乳酸ナトリウムを添加する場合、結晶構造がルチル型になるため、緑色になる傾向にある。
具体的には、酸の濃度が増加すると、発色する色が暗くなる、赤味及び黄色味が減少する傾向にある。HCl系中の塩酸ナトリウム(NaCl)の添加量が増えると、明るさと黄色味が増加する傾向にあり、HCl系中の硫酸ナトリウム(NaSO)を添加すると、明るさが減少し、ルチル相からアナターゼ相の割合が増加し、赤色に変色できる傾向にあり、硫酸濃度が増加すると、発色する色を赤味と黄色味が増加する色に変色できる傾向にある。
なお、本発明においては、沈殿剤としてアルカリを使用することによっても、その種類、使用量を変更することにより、色を変化させることができる。
【0031】
水熱反応は、通常、水(通常蒸留水)中で行うが、水溶性溶媒との混合溶媒中で行うこともできる。使用可能な水溶性溶媒としては、アルコール溶媒が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
水溶媒の使用量は、特に制限されないが、二ホウ化チタン1質量部に対して、50~1000質量部とすることができ、50~100質量部とすることが好ましい。水溶性溶媒の使用量は適宜に設定される。
【0032】
水熱反応の条件は、水熱反応による二酸化チタンの合成に通常適用される条件を特に制限されずに適用することができる。例えば、反応温度は、通常100℃以上に設定され、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。上限温度は、通常、水の超臨界温度374℃以下に設定されるが、本発明においては、250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。反応圧力は、通常、1~250atmに設定され、1~40atmであることが好ましく、1~12atmであることがより好ましい。反応時間は、設定される反応温度及び反応圧力に応じて適宜に設定され、例えば、1~48時間とすることができ、6~30時間とすることが好ましい。pHは、特に制限されず、用いる酸又は尿素等に応じて酸性又は塩基性に設定される。
水熱反応は、例えば、オートクレーブ等の耐圧性反応容器を用いて、攪拌しながら行うことができる。
【0033】
水熱反応で得られた反応生成物は、通常、固液分離して得た固形分を洗浄、乾燥される。こうして、ブルッカイト型又はルチル型の結晶構造を有し、ホウ素をドープした二酸化チタン粒子を、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンを経ることなく、合成することができる。
【0034】
<窒化処理>
本発明の製造方法においては、ホウ素をドープした二酸化チタン粒子を窒化処理する。窒化処理の方法及び条件は二酸化チタンに窒素ドープする際に通常適用される方法及び条件を特に制限されずに適用することができる。
窒化処理は、特に制限されず、窒素源としてアンモニアガス雰囲気下で加熱する処理、窒素源として尿素(通常粉末)若しくはカーボンナイトライド(C、通常粉末)と混合して加熱する処理等が挙げられる。本発明においては、アンモニアガス雰囲気下で加熱する処理が好ましく、アンモニアガス気流下で行うことが好ましい。アンモニアガス気流下で行う場合、アンモニアガスの流量は、窒化処理する二酸化チタン粒子の使用量、更には反応容器の容量等により、変動するので、一義的に規定できないが、二酸化チタン粒子1gに対し、例えば、アンモニアガス流量が50~1000mL/minであることが好ましく、200~300mL/minであることがより好ましい。処理温度は、特に制限されないが、400℃以上であることが好ましく、500~900℃であることがより好ましく、550~750℃であることが更に好ましい。処理温度を650℃以上に設定すると、窒化処理と同時に、後述する仮焼成処理(格子欠陥の導入)を実施することができる。ただし、得られる二酸化チタン着色粒子の結晶構造をブルッカイト型にするには、処理温度は650℃以下とする。
【0035】
窒化処理において、処理温度を変更することにより、最終的に合成される本発明の二酸化チタン着色粒子に種々の色を発現させることができる。処理温度を高くすると、窒素イオンのドープ量が増大して発色する色の青みが増す傾向にある。より具体的には、上記Lab色空間イメージにおいてL、a及びbがいずれも減少する傾向になる。また、処理温度を650℃以上に設定して結晶構造をブルッカイト型からルチル型に転移させることにより、ルチル型の結晶構造に特有の色に変色させることができ、更には、格子欠陥をも形成することができ、発色を調整できる。
窒化処理において、アンモニアガスの流量を変更することにより、最終的に合成される本発明の二酸化チタン着色粒子に種々の色を発現させることができる。例えば、アンモニアガスの流量を多くすると、窒素イオンのドープ量が増大する傾向にある。
処理時間は、設定される処理温度等に応じて適宜に設定され、例えば、0.5~5時間とすることができ、1~2時間とすることが好ましい。窒化処理において、処理時間を変更することにより、最終的に合成される本発明の二酸化チタン着色粒子に種々の色を発現させることができる。例えば、処理時間を長くすると、上記Lab色空間イメージにおいてL、a及びbがいずれも減少する傾向にある。
【0036】
窒化処理を行うに際して、ホウ素をドープした二酸化チタン粒子を粉砕、解砕することもできる。
窒化処理は、適宜の反応容器を用いて行うことができる。
上記水熱反応及び窒化処理により、ブルッカイト型又はルチル型の結晶構造を有し、ホウ素と窒素とをコドープした二酸化チタン着色粒子が合成される。
こうして合成された本発明の二酸化チタン着色粒子は、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンが発色する色以外の色も発色する。本発明の二酸化チタン着色粒子が呈する色は、上述のように合成条件等の変更により適宜に変動するが、両イオンで形成されるバンドギャップ、更には格子欠陥の存在量に応じた色となる。例えば、後述する実施例において合成した二酸化チタン着色粒子は、ブルッカイト型の結晶構造を有するものは黄色味を帯びた緑色を発色し、一方、ルチル型の結晶構造を有するものは青色味を帯びた緑色を発色する。そして、上述のように、合成条件、ドープ量等の変更により、呈する色の多様化を実現でき、更には色の深み等を調整することもできる。
【0037】
<仮焼成処理>
本発明者は、格子欠陥の導入方法として、不活性ガス中若しくは真空中での仮焼成処理を窒化処理の前後、又は、窒化処理条件下において窒化処理と同時に、行うことにより、色の深み等を調整できることを見出した。すなわち、本発明の好ましい製造方法においては、窒化処理の前又は後に、不活性ガス雰囲気若しくは真空雰囲気での仮焼成処理を行って格子欠陥を形成する。この製造方法においては、上記両イオンのドープで発現する発色を更に調整できる。
仮焼成処理は、水熱処理により二酸化チタンを合成(結晶構造を形成)した後であれば、適宜のタイミングで行うことができる。本発明の製造方法においては、水熱反応と窒化処理との間、窒化処理の後に、又は、窒化処理と同時に、行うことができる。水熱反応と窒化処理との間、又は窒化処理の後に仮焼成処理を行うと、得られる二酸化チタンの結晶構造は用いる二酸化チタンの結晶構造に関わらずルチル型となる。
【0038】
仮焼成処理の方法及び条件は二酸化チタンに格子欠陥を形成する処理(仮焼成処理)に通常適用される方法及び条件を特に制限されずに適用することができる。
仮焼成処理に用いる不活性ガスは、希ガス、窒素ガス等を挙げることができ、窒素ガスが好ましい。仮焼成処理を行う真空状態は、特に制限されないが、通常0.05atm以下に設定される。仮焼成処理は不活性ガスの気流下で行うこともでき、この場合の流量は上記窒化処理での流量と同じ範囲に設定できる。
仮焼成処理温度は、特に制限されないが、400℃以上であることが好ましく、500~1000℃であることがより好ましく、550~750℃であることが更に好ましい。ただし、得られる二酸化チタン着色粒子の結晶構造をブルッカイト型にするには、処理温度は650℃以下とする。
【0039】
仮焼成処理において、処理温度を変更することにより、形成される格子欠陥の存在量又は窒素のドープ量を調整することができ、最終的に合成される本発明の二酸化チタン着色粒子に種々の色を変化させることができる。例えば、処理温度を高くすると、格子欠陥の存在量が多くなって、又は窒素のドープ量が減少して、発色する色の明るさが低下し、濃色に変色する傾向にある。また、処理温度を650℃以上に設定して結晶構造をブルッカイト型からルチル型に転移させることにより、ルチル型の結晶構造に特有の色に変色させることができる。
また、仮焼成処理の処理時間を変更することにより、二酸化チタン着色粒子の色を変化させることができる。例えば、処理時間を長くすると、発色する色の明るさが低下し、濃色に変色する傾向にある。
更に、仮焼成処理を行うタイミングを変更することによっても、色を変化させることができる。窒化処理の前又は後に仮焼成処理すると、上記Lab色空間イメージにおいてL及びbがいずれも減少して、明るさ、赤味、黄色味が減少する傾向にある。特に窒化処理の後に仮焼成処理すると、Lab色空間イメージにおいてL及びbの減少量が大きくなって明るさ、黄色味の減少幅が大きくなる等の傾向にある。より具体的には、水熱反応と窒化処理との間に仮焼成処理を行う場合、ホウ素及び窒素の両イオンをコドープした二酸化チタン着色粒子に対して、結晶構造がブルッカイト型である二酸化チタン着色粒子は濃色に変化し、結晶構造がルチル型である二酸化チタン着色粒子は、濃色に変化するものの、ブルッカイト型等に比べるとその程度は小さくより薄色状になる傾向にある。また、窒化処理の後に仮焼成処理を行う場合、ホウ素及び窒素の両イオンをコドープした二酸化チタン着色粒子に対して、いずれも、濃色に変化する傾向にある。窒化処理と同時に仮焼成処理を行うと、窒素ドープ量を増大させることができる。
【0040】
<粉砕処理>
上記窒化処理で得られた二酸化チタン粒子、上記仮焼成処理で得られた二酸化チタン粒子を、通常の方法により粉砕又は解砕して、粒径を整えることもできる。
【0041】
本発明の製造方法は、二酸化チタンの合成(結晶構造の構築)に水熱反応を採用し、次いで窒化反応、好ましくは更に仮焼成処理を行う。そのため、多種多様な色を呈する二酸化チタン着色粒子を、環境負荷を低減しながらも、簡便なプロセスで製造することができる。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載によって制限されるものではない。
【0043】
<参考例1-1>
非特許文献2を参照して、アナターゼ型の結晶構造を有し、窒素及びホウ素の両イオンがコドープされた二酸化チタン着色粒子を製造した。
具体的には、2mL(40mmol)の硫酸(関東化学社製、純度>96.0%)と5.6816g(40mmol)の硫酸ナトリウム(関東化学社製、純度>99.0%)を蒸留水と混合して全量80mLになるように前駆体溶液を調製した。更に、調製した前駆体溶液に、1.1118g(16mmol)の二ホウ化チタン粉末(Aldrich社製、粒径<10μm)を加え、磁気撹拌機で二ホウ化チタン粉末が均一に分布するまで撹拌混合した。得られた混合液をテフロン(登録商標)内張オートクレーブに封入し、回転式電気炉を用いて、180℃(飽和水蒸気圧、約10atm)で24時間水熱反応を行った。反応後の懸濁液を減圧濾過により固体生成物を分離し、蒸留水で数回洗浄した後、80℃の空気中で乾燥させた。こうして、アナターゼ型の結晶構造を有し、ホウ素イオンがドープしたTiO)を灰色粉末として1.0g得た。
次いで、得られた灰色粉末1.0gを乳鉢で粉砕し、50mL/minのアンモニアガス気流中において600℃で1時間、窒化処理を行った。
こうして、ホウ素及び窒素の両イオンがドープしたTiO(B/N-TiO(アナターゼ))の粒子(平均一次粒径<0.6μm、平均二次粒径約5μm程度)を1.0g製造した。このTiOの結晶構造はアナターゼ型であり、目視で赤色を呈していた。
【0044】
<実施例1-1>
下記のようにして、ルチル型の結晶構造を有し、窒素及びホウ素の両イオンがコドープされた二酸化チタン着色粒子を製造した。
具体的には、3mLの6M塩酸(関東化学社)を200mL蒸留水で希釈して0.5mol/Lの塩酸水溶液を調製した。調製した塩酸水溶液(HClとして0.2mol)と、1.1118g(16mmol)の二ホウ化チタンとをよく混合して混合液を調製した(全量80mL)。この混合液を用いて、上記参考例1-1と同様(同一の反応条件)にして、水熱反応、次いで窒化処理を行った。
こうして、ホウ素及び窒素の両イオンがドープしたTiO(B/N-TiO(ルチル))の粒子(幅0.05~0.1μmで長さ0.2~0.5μmのロッド状粒子、平均二次粒径5μm)を0.9g製造した。このTiOの結晶構造はルチル型であり、目視で(青色味を帯びた)緑色を呈していた。
【0045】
<実施例1-2>
下記のようにして、ブルッカイト型の結晶構造を有し、窒素及びホウ素の両イオンがコドープされた二酸化チタン着色粒子を製造した。
具体的には、9.6096g(160mmol)の尿素(濃度99.0質量%、和光純薬工業社)を約75mLの蒸留水に溶かし尿素水溶液を調製した。更に3mLのDL-乳酸ナトリウム溶液(濃度60質量%、SIGMA社製)を投入し、二ホウ化チタン1.1118g(16mmol)を加えて撹拌混合し、前駆体溶液を調製した(全量80mL)。得られた前駆体溶液を、上記参考例1-1と同様にして、180℃で8時間水熱反応を行った。
次いで、得られた粉末0.8gを用いて、参考例1-1と同様(同一の反応条件)にして、窒化処理を行った。
こうして、ホウ素及び窒素の両イオンがドープしたTiO(B/N-TiO(ブルッカイト))の粒子(平均一次粒径0.01μm、平均二次粒径5μm))を0.8g製造した。このTiOの結晶構造はブルッカイト型であるが、アナターゼ型及びルチル型が上記存在量未満(極少量)で混入していた。得られたB/N-TiO(ブルッカイト)は目視で(黄色味を帯びた)緑色を呈していた。
【0046】
<拡散反射スペクトルの測定>
製造した各二酸化チタン着色粒子(B/N-TiO)の拡散反射スペクトル(DSR)を下記方法及び条件で測定した。その結果を図1に示す。図1中、「B/N-Anatase」は参考例1-1で製造したB/N-TiO(アナターゼ)を示し、「B/N-Rutile」は実施例1-1で製造したB/N-TiO(ルチル)を示し、「B/N-Brookite」は実施例1-2で製造したB/N-TiO(ブルッカイト)を示す。図1において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は吸光度(a.u.)を示す。
図1を参照すると、可視光の波長領域において、各B/N-TiOが特有の波長吸収を示しており、発色を目視で確認した結果を裏付けていることが分かる。

- 拡散反射スペクトルの測定方法及び測定条件 -
製造した各二酸化チタン着色粒子の粉末試料を拡散反射ユニットに設置し、200~2000nmの波長範囲において拡散反射率を測定することにより、光吸収スペクトルを得た。
【0047】
<バンドギャップの算出>
各二酸化チタン着色粒子(B/N-TiO)のバンドギャップを、上記拡散反射スペクトルからTauc Plot法により、以下のようにして算出(換算)した。

- バンドギャップの算出方法 -
Taucらによって提案された以下の関係式に基づいて、バンドギャップの計算を行った。
関係式:(hνα)1/n=k(hν-Eg)
ここで、hはプランク定数、νは振動数、αは吸光係数、kは比例定数、Egはバンドギャップである。nは半導体の遷移の種類に特有の値であり、直接遷移半導体である二酸化チタンの場合、n=1/2とする。

拡散反射スペクトルからバンドギャップの算出に用いたTauc Plotを図2に示す。図2中、「B/N-Anatase」は参考例1-1で製造したB/N-TiO(アナターゼ)を示し、「B/N-Rutile」は実施例1-1で製造したB/N-TiO(ルチル)を示し、「B/N-Brookite」は実施例1-2で製造したB/N-TiO(ブルッカイト)を示す。
算出したバンドギャップは、B/N-TiO(アナターゼ)が1.81eVであり、B/N-TiO(ルチル)が2.89eVであり、B/N-TiO(ブルッカイト)が2.23eVであった。
また、図2に示すように、B/N-TiO(アナターゼ)のバンドギャップは、非コドープのTiO(アナターゼ)のバンドギャップ3.2eVと比べて、約1.39eVも縮まり、最も小さなバンドギャップを示した。
【0048】
<ドープ量の測定>
製造した各二酸化チタン着色粒子(B/N-TiO)における、イオンの存在量(ドープ量)、格子間にドープされたイオンのドープ量、酸素イオンを置換してドープされたイオンのドープ量を、下記方法により測定若しくは算出した。その結果を表1に示す。

測定方法及び条件:X線光電子分光法(XPS)により、N1s軌道及びB1s軌道の相当するピーク面積の割合よりイオンのドープ量を決定した。
【0049】
【表1】
【0050】
B/N-TiO(ルチル)は、表1に示すドープ量で窒素及びホウ素を含有し、かつ非コドープのTiO(ルチル)に特有のバンドギャップ3.06eVが縮小して2.89eVのバンドギャップを有していた。その結果、上記の特有の色を発現したと考えられる。また、B/N-TiO(ブルッカイト)は、表1に示す各イオンのドープ量でホウ素及び窒素がコドープされており、2.23eVまで縮小したバンドギャップを有している。その結果、上記の特有の色を発現したと考えられる。
【0051】
<実施例2-1>
以下のようにして、水熱反応、仮焼成処理及び窒化処理をこの順で行い、B/N-TiO(2-x)(ルチル)を製造した。
具体的には、実施例1-1と同様にして水熱反応を行い、ホウ素ドープ二酸化チタン(B-TiO(ルチル))を得た。このB-TiOを、Nガス(純窒素G1、純度99.99995%)雰囲気中に800℃で仮焼成処理して、窒化処理する前に格子欠陥(酸素欠陥及びTi3+)を導入した。得られた二酸化チタンを、実施例1-1と同様にして窒化処理した。
こうして、B/N-TiO(2-x)(ルチル)の粒子(平均一次粒子径0.05~0.1μmで長さ0.2~0.5μmのロッド状粒子、平均二次粒子径5μm)を製造した。この二酸化チタン着色粒子においてxは0.10であった。
xの定量は、熱重量分析(TG-DTA)を用い、空気中加熱に伴い、TiO(2-x)がTiOに酸化された際の質量増化によって定量した。なお、得られた二酸化チタンに導入された欠陥が酸素欠陥とTi3+であることを電子常磁性共鳴(EPR)分析により確認した。以下の実施例についても同様。
【0052】
<実施例2-2>
以下のようにして、水熱反応、仮焼成処理及び窒化処理をこの順で行い、(B/N-TiO(2-x)(ルチル))を製造した。
具体的には、実施例1-2と同様にして水熱反応を行い、ホウ素ドープ二酸化チタン(B-TiO(ブルッカイト))を得た。次いで、このB-TiOを実施例2-1と同様にして仮焼成処理した後に、実施例1-1と同様にして窒化処理した。
こうして、B/N-TiO(2-x)(ルチル)の粒子(平均一次粒径(幅)0.02μmの微粒子、平均二次粒径3μm)を製造した。この二酸化チタン着色粒子においてxは>0.20であった。
【0053】
<拡散反射スペクトルの測定>
実施例1-1と同様にして、製造した二酸化チタンの拡散反射スペクトルを測定した。その結果を図3に示す。図3において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は吸光度(a.u.)を示す。図3の「B/N-Rutile」で示される図において、「600℃,NH」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ルチル)の結果を示し、「800℃,N+600℃、NH」は実施例2-1で製造したB/N-TiO(2-x)(ルチル)を示す。また、図3の「B/N-Brookite」で示される図において、「600℃,NH」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ブルッカイト)の結果を示し、「800℃,N+600℃、NH」は実施例2-2で製造したB/N-TiO(2-x)(ルチル)を示す。
【0054】
実施例2-2で製造したB/N-TiO(2-x)(ルチル)は、アンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ブルッカイト)よりも目視では濃色となったが、これは、図3に示されるように可視光領域(波長350~750nm)の吸収量が多くなっていることから裏付けられている。一方、実施例2-1で製造したB/N-TiO(2-x)(ルチル)は、アンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ルチル)よりも目視では若干薄色となったが、これは、図3に示されるように可視光の吸収量が少なくなっていることから裏付けられている。
【0055】
<実施例3-1>
以下のようにして、水熱反応を行った後に窒化処理において仮焼成処理も同時に行い、B/N-TiO(2-x)(ルチル)を製造した。
具体的には、実施例1-1において、アンモニアガス(純度99.999%)気流中で行う窒化処理の温度を600℃から650℃又は700℃に変更して、窒素のドープとともに格子欠陥を形成した(窒化処理兼仮焼成処理を実施した)こと以外は、実施例1-1と同様にして、B/N-TiO(2-x)(ルチル)の粒子(平均一次粒子径0.02μm、平均二次粒径3μm)を製造した。この二酸化チタン着色粒子においてx>.10であった。
【0056】
<実施例3-2>
以下のようにして、水熱反応を行った後に窒化処理において仮焼成処理も同時に行い、(B/N-TiO(2-x)(ブルッカイト))を製造した。
具体的には、実施例1-2において、アンモニアガス気流中で行う窒化処理の温度を600℃から650℃又は700℃に変更して、窒素のドープとともに格子欠陥を形成した(窒化処理兼仮焼成処理を実施した)こと以外は、実施例1-2と同様にして、B/N-TiO(2-x)(ブルッカイト)の粒子(平均一次粒子径0.02μm、平均二次粒径3μm程度)を製造した。この二酸化チタン着色粒子においてx>0.2であった。
【0057】
<拡散反射スペクトルの測定>
実施例1-1と同様にして、製造した二酸化チタンの拡散反射スペクトルを測定した。その結果を図4に示す。図4において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は吸光度(a.u.)を示す。図4の「B/N-Rutile」で示される図において、「600℃,NH」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ルチル)の結果を示し、「650℃,NH」はアンモニアガス気流中において650℃で窒化処理兼仮焼成処理をして得た実施例3-1のB/N-TiO(2-x)(ルチル)の結果を示し、「700℃,NH」はアンモニアガス気流中において700℃で窒化処理兼仮焼成処理をして得た実施例3-1のB/N-TiO(2-x)(ルチル)の結果を示す。また、図4の「B/N-Brookite」で示される図において、「600℃,NH」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ブルッカイト)の結果を示し、「650℃,NH」はアンモニアガス気流中において650℃で窒化処理兼仮焼成処理をして得た実施例3-2のB/N-TiO(2-x)(ブルッカイト)の結果を示し、「700℃,NH」はアンモニアガス気流中において700℃で窒化処理兼仮焼成処理をして得た実施例3-2のB/N-TiO(2-x)(ブルッカイト)の結果を示す。
【0058】
実施例3-1で得られたB/N-TiO(2-x)(ルチル)及び実施例3-2で得られたB/N-TiO(2-x)(ブルッカイト)のいずれにおいても、窒化処理の温度を高くするほど、目視で確認できる色の明るさが低下していた。具体的には、窒化処理の温度を650℃としたB/N-TiO(2-x)は、アンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ブルッカイト)及びB/N-TiO(ルチル)と比べて、目視で、色彩度は保たれていたが、明るさが低下していた。更に、窒化処理の温度を700℃としたB/N-TiO(2-x)は、肉眼では判別しにくいほど濃い色になった。このことは、窒化処理兼仮焼成処理の温度を高くするほど、格子欠陥の存在量が多くなって図4に示されるように可視光領域の吸収量が多くなることからも裏付けられている。
【0059】
<実施例4-1>
以下のようにして、水熱反応、窒化処理及び仮焼成処理をこの順で行い、B/N-TiO(2-x)(ルチル)を製造した。
具体的には、実施例1-1において水熱反応及び窒化処理して得たTiO(B/N-TiO(ルチル))を、Nガス(純窒素G1、純度99.99995%)雰囲気中で、仮焼成処理温度を800℃又は900℃に設定して、仮焼成処理を行った。
こうして、B/N-TiO(2-x)(ルチル)の粒子(平均一次粒子径0.05~0.1μm、平均二次粒径3μm)を製造した。この二酸化チタン着色粒子においてx>0.2であった。
【0060】
<実施例4-2>
以下のようにして、水熱反応、窒化処理及び仮焼成処理をこの順で行い、(B/N-TiO(2-x)(ルチル))を製造した。
具体的には、実施例1-1において水熱反応及び窒化処理して得たTiO(B/N-TiO(ブルッカイト))を、実施例4-1と同様にして仮焼成処理して、B/N-TiO(2-x)(ルチル)の粒子(平均一次粒子径0.05~0.1μm、平均二次粒径0.4μm)を製造した。この二酸化チタン着色粒子においてx>0.20であった。
【0061】
<拡散反射スペクトルの測定>
実施例1-1と同様にして、製造した二酸化チタンの拡散反射スペクトルを測定した。その結果を図5に示す。図5において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は吸光度(a.u.)を示す。図5の「B/N-Rutile」で示される図において、「600℃,NH」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ルチル)の結果を示し、「600℃,NH+800℃,N」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をした後に800℃で窒化処理して得た実施例4-1のB/N-TiO(2-x)(ルチル)の結果を示し、「600℃,NH+900℃,N」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をした後に900℃で窒化処理して得た実施例4-1のB/N-TiO(2-x)(ルチル)の結果を示す。また、図5の「B/N-Brookite」で示される図において、「600℃,NH」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をして得たB/N-TiO(ブルッカイト)の結果を示し、「650℃,NH+800℃,N」はアンモニアガス気流中において800℃で窒化処理をして得た実施例4-2のB/N-TiO(2-x)(ルチル)の結果を示し、「600℃,NH+900℃,N」はアンモニアガス気流中において600℃で窒化処理をした後に900℃で窒化処理して得た実施例4-2のB/N-TiO(2-x)(ルチル)の結果を示す。
【0062】
実施例4-1で得られたB/N-TiO(2-x)(ルチル)及び実施例4-2で得られたB/N-TiO(2-x)(ルチル)のいずれにおいても、目視で黒色味が強くなり、仮焼成処理温度を高くすると更に濃くなってほぼ黒色になった。このことは、仮焼成処理温度を高くするほど、ドープされた窒素の量が増加して、図5に示されるように、波長領域400~500nmにおける窒素ドーパントの存在を表す特徴的なピークの強度が弱くなり、仮焼成温度900℃ではほぼ焼失していることからも裏付けられている。また、Ti3+に由来する長波長領域における立ち上がりが強くなり、格子欠陥(Ti3+)の存在量が増えていることが分かる。
【0063】
上記実施例及び参考例の結果から明らかなように、二酸化チタンの結晶構造をブルッカイト型又はルチル型としたうえで、更に、窒素及びホウ素の両イオンをコドープした本発明の二酸化チタン着色粒子は、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンが発色する以外にも種々の色を発色させることができる。しかも、この二酸化チタン着色粒子に格子欠陥を形成することにより、色の深み等を更に調整することができ、多種多様な色を発色させることができる。また、窒化処理温度や仮焼成処理温度等の製造条件を変更することにより、二酸化チタン着色粒子に発色させる色を調整(制御)できる。更に、このような種々の色を発現する二酸化チタン着色粒子を用いて調製した二酸化チタン粒子混合物は、混合する二酸化チタン粒子の組み合わせ及び配合量等によって、更に多種多様な色を発現する。このような種々の色を発現する本発明の二酸化チタン着色粒子及び二酸化チタン粒子混合物は、塗料、化粧品等の各種顔料、光触媒、更には無毒性を活かして医療用途、食品添加剤等として利用することができる。
また、本発明の二酸化チタン着色粒子の製造方法は、種々の色を発色可能な二酸化チタン着色粒子を、環境負荷の小さな水熱反応及び窒化処理という、ゾルゲル法よりも簡便な両プロセスで、製造できる。しかも、両プロセスの製造条件、更には仮焼成処理を行うタイミング等を変更することにより、異なる色を発現させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5