(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】免疫疾患の予防または治療のためのRIPK1阻害剤とIKK阻害剤の組み合わせ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4178 20060101AFI20240729BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20240729BHJP
A61K 31/4365 20060101ALI20240729BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240729BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240729BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240729BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20240729BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240729BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20240729BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240729BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240729BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20240729BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61K31/381
A61K31/4365
A61P43/00 111
A61P37/02
A61P29/00
A61P43/00 121
C12N9/99 ZNA
C07K16/00
C07K14/00
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z
C12N15/115 Z
C12N9/12
(21)【出願番号】P 2020531104
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2018084055
(87)【国際公開番号】W WO2019110832
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-30
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516017846
【氏名又は名称】ユニベルジテート ツー ケルン
【氏名又は名称原語表記】Universitaet zu Koeln
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】パスパラキス,マノリス
(72)【発明者】
【氏名】オイコノム,ニコス
(72)【発明者】
【氏名】ポリクラティス,アポストロス
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-529088(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03017825(EP,A1)
【文献】334 Role of RIP kinase signalling in the development of skin inflammation in mice with keratinocyte-specific IKK deficiency,Journal of Investigative Dermatology,2016年,Vol. 136, No. 9, Suppl. 2,p. S218,https://doi.org/10.1016/j.jid.2016.06.354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C12N、C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における疾患の治療または予防での使用のための受容体相互作用セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ1(RIPK1)阻害剤を含む医薬であって、該疾患はκB阻害剤(IκB)キナーゼ(IKK)/核因子κB(NFκB)-シグナル阻害剤での対象の治療による副作用として引き起こされる病理学的または無秩序な免疫応答であり、前記RIPK1阻害剤およびIKK/NFκB-シグナル阻害剤が、小分子であり、
(i) 前記RIPK1阻害剤は、GSK2982772 、ネクロスタチン-1((5-(1H-インドール-3-イルメチル)-3-メチル-2-チオクソ-4-イミダゾリジノン)、 5-(インドール-3-イルメチル)-3-メチル-2-チオ-ヒダントイン)およびネクロスタチン-1安定( 5-(( 7-クロロ-1 H-インドール-3-イル)メチル)-3-メチル-2,4-イミダゾリジンジオン、5-(( 7-クロロ-1H-インドール-3-イル))メチル)-3メチルイミダゾリジン-2,4-ジオン)から選択される、
および、
(ii) 前記IKK/NFκB-シグナル阻害剤は、SPC839、MLN120BもしくはPS1145、BMS-345541(IKK阻害剤III)、SC- 514
*、IKK-2阻害剤IV([5-( p-フルオロ-フェニル)-2-ウレイド]チオフェン-3-カルボキサミド、TPCA-1)、IKK 阻害剤 II(ウェデロラクトン)、IKK 阻害剤 VII、IKK-2 阻害剤 V (N-(3,5-ビス-トリフルオロメチルフェニル)-5-クロロ-2-ヒドロキシベンズアミドIMD-0354)、IKK-2 阻害剤 VI ( 5フェニル-2-ウレイド) チオフェン-3-カルボキサミド)、IKK-2阻害剤 VIII (ACHP2-アミノ-6-( 2-(シクロプロピル-メトキシ) -6-ヒドロキシフェニル)-4-( 4-ピペリジニル)-3-ピリジンカルボニトリル)、または BI605906から選択される、
RIPK1阻害剤を含む医薬。
【請求項2】
疾患が、IKK/NFκB-シグナル阻害剤での対象の治療による副作用として引き起こされる全身性好中球増加症または増加したインターロイキン-1β(IL-1β)放出である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
対象が炎症性疾患に苦しむ、請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
治療または予防が、RIPK1阻害剤およびIKK/NFκB-シグナル阻害剤の両方の治療有効量の対象への連続的または同時の投与を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項5】
炎症性疾患の予防または治療に使用するためのIKK/NFκB-シグナル阻害剤を含む医薬であって、該予防または治療はIKK/NFκB-シグナル阻害剤およびRIPK1阻害剤の同時または連続の投与を含み、前記IKK/NFκB-シグナル阻害剤およびRIPK1阻害剤が、請求項1~4のいずれか一項に記載されるものである、医薬。
【請求項6】
炎症性疾患の治療または予防に使用するための組み合わせを特徴とする医薬であって、該組み合わせは、RIPK1阻害剤およびIKK/NFκB-シグナル阻害剤を含み、前記IKK/NFκB-シグナル阻害剤およびRIPK1阻害剤が、請求項1~5のいずれか一項に記載されるものである、医薬。
【請求項7】
治療または予防が、炎症性疾患に苦しむ対象へのIKK/NFκB-シグナル阻害剤の治療有効量の投与を含む、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
治療または予防が、対象へのIKK/NFκB-シグナル阻害剤の投与によって引き起こされる副作用を抑制または防ぐために、対象へRIPK1阻害剤の有効量を投与することを含む、請求項6または7に記載の医薬。
【請求項9】
RIPK1阻害剤が請求項1~4のいずれか一項に記載されるものであり、および/または、IKK/NFκB-シグナル阻害剤が請求項5に記載されるものである、請求項6または7に記載の医薬。
【請求項10】
疾患の治療または予防に使用するための医薬組成物であって、該疾患が、対象のIKK阻害剤治療の副作用、増加したインターロイキン-1β(IL-1β)放出または全身性好中球増加症であり、該医薬組成物は請求項1~9のいずれか一項に記載のRIPK1阻害剤およびIKK/NFκB-シグナル阻害剤を、薬学的に許容される担体および/または賦形剤と共に含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己免疫疾患、治療の副作用としての炎症性疾患または病理学的免疫反応などの免疫調節不全に関連する疾患の治療に関する。特に本発明は、そのような障害に苦しんでいる対象者における受容体相互作用セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ1(RIPK1)の阻害剤とκB阻害剤(IκB)キナーゼ(IKK)の阻害剤の組み合わせの使用を提供する。本発明はそのような阻害化合物および医療用途で使用するためのそれらの組み合わせ、ならびに本発明の化合物を含む医薬組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
NF-κBは、複数の炎症性遺伝子の発現を調節するヘテロ二量体転写因子である。NF-κBは、血管新生(非特許文献1)、粥状動脈硬化(非特許文献2)、エンドトキシンショックおよび敗血症(非特許文献3)、炎症性腸疾患(非特許文献4)、虚血再灌流障害(非特許文献5)、およびアレルギー性肺炎(非特許文献6)を含む多くの病態生理学的プロセスに関与している。このようにNF-κB活性化経路における標的調節タンパク質による NF-κBの阻害は、炎症状態におけるNF-κBの中心的な役割のため、免疫調節不全の治療のための治療法を生み出すための魅力的な戦略の代表となる。
【0003】
IκBキナーゼ(IKK)はNF-κBの活性化を調整する重要な調節シグナル分子である。TNFα、リポポリサッカライド(LPS)、IL-1β、CD3/CD28(抗原提示)、CD40L、FasL、ウイルス感染、および酸化的ストレスを含む多くの免疫および炎症性メディエーターは、NF-κBの活性化につながることが示されている。これらの多様な刺激を伝達する受容体複合体は、タンパク質構成成分が非常に異なっているように見えるが、これらの刺激事象のそれぞれが、IKKおよびNF-κBの活性化につながると理解されている。
【0004】
調節サブユニットNEMO/IKKγおよび触媒サブユニッIKKα/IKK1およびIKKβ/IKK2で構成される、IKK複合体はNF-κBの活性化に必須である。IKK/NF-κBシグナル伝達経路は、炎症反応の重要な調節因子である。したがって、IKK/NF-κBシグナル伝達の阻害剤は、炎症性疾患の治療に大きな可能性を秘めている。 しかしながら、骨髄細胞におけるIKK/NF-κBシグナル伝達の阻害は、遺伝的(IKKβノックアウト)または薬理学的(小分子IKK阻害剤)のいずれかで、IL-1βおよび全身性好中球の増加をもたらした (非特許文献7、非特許文献8)。これらの発見は、IKK/NF-κBシグナル伝達阻害剤の安全性について深刻な懸念を引き起こし、いくつかの企業はIKK阻害剤の開発と治療への応用のためのプログラムを終了した。さらに、腸と皮膚の上皮細胞および肝実質細胞におけるIKKシグナル伝達の阻害が、これらの組織に重度の炎症性疾患を引き起こしたことを示す従前の研究は、IKK阻害剤の安全性についてさらなる懸念を引き起こした(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Koch et al, Nature 1995, 376, 517-519
【文献】Brand et al. Clin Inv. 1996, 97, 1715-1722
【文献】Bohrer et al, J. Clin. Inv. 1997, 200972-985
【文献】Panes et al, Am J Physiol. 1995, 269,H1955-H1964
【文献】Zwacka et al, Nature Medicine 1998, 4,698-704
【文献】Gosset et al, Int Arch Allergy Immunol. 1995,206, 69-77
【文献】Greten et al, DOI:10.1016/j.ce11.2007.07.009
【文献】Hsu et al, DOI: 10.1038/ni. 1976
【文献】Pasparakis et al, DOI:lO.l0381nature00820
【文献】Nenci et al, DOI:l0.1038/nature05698
【文献】Luedde et al, DOI:10.1016/j.ccr.2006.12.016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明はIKK/NF-κBシグナル伝達の阻害を介して免疫関連障害に取り組むための新規治療アプローチを提供し、そのような治療の既知の副作用を克服しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、病理学的または無秩序な免疫応答、例えば、対象のインターロイキン-1β(IL-1β)放出の増加または全身性好中球増加症に関連する疾患の治療または予防に使用するための受容体相互作用セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ1(RIPK1)阻害剤による第1の態様によって解決される。
【0008】
理論に縛られるものではないが、本発明者らは、IKK阻害剤で処理した骨髄細胞によるIL-1ベータの産生の増加がRIPK1キナーゼ活性に大きく依存していると推測した。遺伝的(キナーゼ不活性RIPK1 D138Nを発現するノックインマウスを使用)または薬理学的(RIPK1の化学的阻害剤であるネクロスタチン-1を使用)のいずれかでRIPK1キナーゼ活性を阻害すると、2つの異なるIKK阻害剤で処理したマクロファージによるLPS誘導IL-1β産生が大幅に減少した 。これは、IKK阻害剤の最も深刻な既知の副作用、すなわち骨髄細胞によるIL-1βの産生の増加が、RIPK1の阻害によって防止できることを示す。よって、本発明者らは驚くべきことに、病理学的または無秩序な免疫応答、例えばIKK阻害によるインターロイキン-1β(IL-1β)放出の増加に関連する疾患の治療におけるRIPK1阻害剤の適用を発見した。
【0009】
このように、いくつかの好ましい態様において、IL-1β放出の増加または全身性好中球増加症に関連する疾患は、κB阻害剤(IκB)キナーゼ(IKK)/核因子κB(NFκB)-シグナル阻害剤での対象の治療により引き起こされる副作用または有害作用である。
【0010】
用語「RIPK1阻害剤」または「RIPK1の阻害剤」または「RIPK1のアンタゴニスト」または任意の同様の表現は、本発明に関して、RIPK1、またはRIPK1の変異体の発現、機能および/または安定性のモジュレーターとしての活性を持つ、任意の化合物または化合物の組み合わせを包含するものとする。
【0011】
本明細書において、モジュレーターは好ましくは阻害剤/アンタゴニストである。
【0012】
また、本発明に関して、用語「受容体相互作用セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ1」または「RIPK1」は 、配列番号1に示されるアミノ酸配列によるタンパク質をコードするヒト遺伝子に関する。RIPK1は、「受容体(TNFRSF)相互作用セリン-スレオニンキナーゼ1」または「受容体相互作用タンパク質キナーゼ1」(RIP)としても知られる(HUGO Gene Nomenclature Committee symbol: HGNC:10019, databaseversion of November 2017)。ヒトRIPK1遺伝子は6p25.2にあり、ホモログはマウス(MGI:108212; NCBI Gene:19766)とラット(Rat Genome Database (RGD) ID: 1310158)で知られている。
【0013】
本願明細書で使用される 用語「RIPK1タンパク質」または「RIPK1のタンパク質」は、配列番号1に示される配列を含むタンパク質(例えば、全長タンパク質、融合タンパク質または部分タンパク質など)に関係するものとする。この用語はまた、任意のタンパク質修飾を伴う、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を指すものとする。そのようなタンパク質修飾は、好ましくはポリペプチド鎖のアミノ酸配列を変化させないが、塩基性アミノ酸ポリマー鎖に共役する官能基を構成する。本発明に関してタンパク質修飾は、RIPK1アミノ酸鎖への追加のアミノ酸配列の結合、例えば、ユビキチン化、SUMO化(sumolation)、NEDD化(neddylation)、または同様の小タンパク質結合体から選択されてよい。他のタンパク質修飾はグリコシル化、メチル化、脂質結合、または当業者に知られるその他の天然または人工の翻訳後修飾が含まれるがこれに限定されるものではない。用語「RIPK1の変異体のタンパク質」などは、RIPK1の変異体に関して対応する意味を持つものとする。
【0014】
本明細書で使用される用語「RIPK1-mRNA」または「RIPK1のmRNA」は、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする領域を含むメッセンジャーリボ核酸(例えば、全長mRNA、融合mRNAまたは部分mRNA、および/またはそのスプライシング変異体)に関するものとする。これらの用語はまた、任意のコドンまたはヌクレオチド修飾を有する、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする領域を含むmRNAを指すものとする。そのような修飾は、コードされたポリペプチド鎖のアミノ酸配列を変化させないことが好ましい。用語「RIPK1の変異体のmRNA」等もRIPK1の変異体に関する対応する意味を有するものとする。
【0015】
いくつかの態様において、RIPK1の変異体は、配列番号1と少なくとも60%、70%、80%、90%、好ましくは少なくとも80%、例えば少なくとも90%の配列同一性を有し、および最も好ましくは配列番号1(ヒトRIPK1アミノ酸配列)と少なくとも95%以上(例えば少なくとも98%)の配列同一性を有する、アミノ酸配列を含むタンパク質である。本発明の好ましい1つの態様において、RIPK1の変異体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0016】
2以上の核酸またはタンパク質/ポリペプチド配列に関連して本明細書中で使用される場合、用語「同一」またはパーセント「同一性」 は、シーケンス比較アルゴリズムを使用して、または手動のアライメントと視覚的インスペクション(例えばNCBIウェブサイトを参照)によって測定されたものと同一である、または同一である特定の割合のアミノ酸残基またはヌクレオチドを有する(または少なくも有する)、すなわち、比較ウィンドウまたは指定された領域全体で最大の一致を得るように比較および整列した場合、少なくとも約60%の同一性、好ましくは少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%または94%の同一性、および、より好ましくは、特定の領域にわたって(できれば、完全長の配列を超えて)、少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性を有する、2以上の配列または部分配列を指す。特に、アミノ酸同一性に関しては、以下のパラメーターでBLASTP 2.2.28+を使用する:Matrix: BLOSUM62; GapPenalties: Existence: 11, Extension: 1; Neighboring words threshold: 11; Windowfor multiple hits: 40。
【0017】
本発明に関して、用語「対象」または「患者」は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サルなどの哺乳動物を好ましくは指し、または好ましくはヒト、例えばヒト患者を指す。本発明の対象は、本明細書中で定義されるIKK阻害剤の投与により、好ましくは誘導または引き起こされる、免疫調節不全に苦しむ危険性があるかもしれない。
【0018】
本発明に関して、「RIPK1もしくはIKK、または、RIPK1もしくはIKKの変異体の発現、機能および/または安定性のモジュレーター」または文法的に類似した表現は、例えば、阻害剤/アンタゴニストがRIPK1もしくはIKKそれぞれの、またはこれらの標的の変異体の発現、機能および/または安定性を、特にRIPK1もしくはIKKまたはこれらの変異体のタンパク質の発現、機能および/または安定性を、および/またはRIPK1もしくはIKKまたはこれらの変異体のmRNAの発現、機能および/または安定性を障害または妨害するときに影響を与える任意の化合物であり得る。
【0019】
本発明に関して、RIPK1阻害剤は、小分子、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、ペプチド模倣物、抗原結合タンパク質(ABP)(例えば、抗体、抗体様分子または他の抗原結合誘導体、またはその抗原結合断片)、ペプチド核酸(PNA)などの核酸の変異体または誘導体、CRISPR/Cas9コンストラクトなどの標的遺伝子編集用の遺伝子コンストラクト、および/またはガイド核酸(gRNAまたはgDNA)および/またはtracrRNAを含む、DNAまたはRNAのような核酸、例えばアンチセンスまたは阻害性のDNAまたはRNA、リボザイム、RNAまたはDNAアプタマー、RNAi、siRNA、shRNAなどから選択される。
【0020】
他の好ましい態様において、RIPK1またはRIPK1の変異体の発現、機能および/または安定性のモジュレーターは、以下に詳細に記載されるようなアンチセンスヌクレオチド分子であり、より好ましくは、RIPK1またはRIPK1の変異体の発現をコードまたは調節する核酸に結合する、例えば特異的に結合するものであり、あるいは、より好ましくは、RIPK1、またはRIPK1の変異体をコードする、または(その発現、機能および/または安定性を制御する遺伝子の発現を調節する)核酸に結合する、例えば特異的に結合するものである。
【0021】
本明細書で使用される、用語「RIPK1発現の阻害剤」など(RIPK1発現のアンタゴニストなどのような類似するものを含む)は、本明細書に開示される、RIPK1タンパク質の発現に対してアンタゴニスト活性を有するモジュレーターであって、RIPK1タンパク質またはRIPK1 mRNAの量(または量の変化)を測定することで決定してもよい、RIPK1タンパク質の発現の阻害、抑制、低減および/または低下させるモジュレーター(例えば、本明細書に記載される抗原結合性コンストラクトまたはアンチセンス分子)のいずれかに関するものとする。このことに関し、「発現」という用語は、遺伝子をmRNAに転写する細胞プロセスやその後のmRNAのタンパク質への翻訳を意味する。したがって、「遺伝子発現」は、生成されたmRNAの運命に関係なく、mRNAの生成のみ、あるいは代替的/追加的に、発現されたmRNAのタンパク質への翻訳を指す場合がある。一方、用語「タンパク質発現」は、タンパク質合成の完全な細胞プロセスを指すものとする。1つの好ましい態様において、本発明の阻害モジュレーター、例えば、アンチセンス分子は、RIPK1遺伝子またはmRNAに結合し、転写および/または翻訳またはRIPK1 mRNAを減少させる可能性がある。用語「RIPK1の変異体の発現の阻害剤」などは、RIPK1の変異体に関して対応する意味を持つものとする。
【0022】
用語「RIPK1安定性の阻害剤」など(RIPK1安定性のアンタゴニストなどのような類似するものを含む)は、本願明細書で開示される任意のモジュレーター(例えば、本願明細書に記載の抗原結合コンストラクトまたはアンチセンス分子)であって、RIPK1タンパク質の安定性に対して負の活性を有するものをいうものとする。
【0023】
用語「RIPK1機能の阻害剤」など(RIPK1機能のアンタゴニストなどのような類似するものを含む)は、本願明細書で開示される任意のモジュレーター(例えば、本願明細書に記載の抗原結合コンストラクトまたはアンチセンス分子)であって、RIPK1タンパク質またはmRNAの1つまたは複数の活性(本願明細書で開示される、例えば、RIPK1のキナーゼ活性のような1つまたは複数の活性)の量または割合の低下または減少の誘発のような損なうもの(例えば、RIPK1タンパク質またはmRNAの発現および/または安定性を損なうことによる)をいうものとする。
【0024】
そのような阻害モジュレーターは、例えば、RIPK1に結合し、その発現、機能および/または安定性などのRIPK1の1つまたは複数の特性の量または割合を低下させることによって、直接作用することができる。RIPK1のアンタゴニストまたは阻害剤は、その発現、安定性を損なうことにより、例えば、RIPK1タンパク質またはmRNAに結合しそれを改変することにより、例えば、部分の除去または付加などにより、またはその三次元構造を変更することにより、およびRIPK1タンパク質またはmRNAに結合し、その安定性または立体構造の完全性を低下させることにより、RIPK1の機能または活性の量または割合を減少させることもできる。RIPK1アンタゴニストまたは阻害剤はまた、例えば、調節分子または遺伝子領域に結合して調節タンパク質または遺伝子領域機能を調節することにより、間接的に作用することもできる、また、特にRIPK1タンパク質またはmRNAの1つ以上の活性を損なうことにより、(例えば、RIPK1タンパク質またはmRNAの発現量および/または安定性を変更することによって)、RIPK1発現、機能および/または安定性の量または割合の低下に影響を及ぼし得る。このように、RIPK1阻害剤またはアンタゴニストは、RIPK1の発現、機能および/または安定性の量または割合の低下をもたらすなど、障害を引き起こす任意のメカニズムによって作用することができる。
【0025】
いくつかの好ましい態様において、RIPK1阻害剤は、RIPK1タンパク質の発現またはタンパク質の安定性を妨げることなく、RIPK1のキナーゼ酵素活性または機能のみに影響を与え、それらを損なう化合物であることが好ましい場合がある。本明細書で使用される用語「キナーゼ活性」はRIPK1タンパク質によるRIPK1を含む基質のリン酸化を指す。RIPK1はキナーゼに依存しない機能を発揮することが知られており、その機能障害により、治療対象または患者にさらなる望ましくない有害作用が誘発または引き起こされ得ることが知られていることから、そのような態様は有利である可能性がある。本発明のいくつかの好ましい態様において、RIPK1キナーゼ活性を特異的に標的とし、低減/阻害するための、キナーゼ酵素活性またはRIPK1の自己リン酸化に選択的に結合し障害する化合物、または自己リン酸化によって誘導される構造変化の獲得、例えば、小分子化合物、例えばキナーゼ阻害剤に関係する。
【0026】
好ましくは本発明のRIPK1阻害剤は小分子化合物である。 そのような化合物は、好ましくは、GSK2982772、ネクロスタチン-1(5-(1H-インドール-3-イルメチル)-3-メチル-2-チオキソ-4-イミダゾリジノン、5-(インドール-3-イルメチル)-3-メチル-2-チオ-ヒダントイン)および ネクロスタチン-1安定(5-((7-クロロ-1 H-インドール-3-イル)メチル)-3-メチル-2,4-イミダゾリジンジオン、5-((7-クロロ-1H-インドール-3-イル) )メチル)-3-メチルイミダゾリジン-2,4-ジオン)から選択される。しかしながら、任意の他の公知のRIPK1阻害剤が本発明に関して使用されてよい。
【0027】
本明細書でさらに説明するように、好ましい態様において本発明の治療または使用に供される対象または患者は、免疫調節不全、例えば、治療の副作用としての自己免疫障害、炎症性疾患または病理学的免疫反応に関連する疾患に罹患している。いくつかの態様において、治療または予防は、治療有効量のRIPK1阻害剤の対象への投与を含む。そのような投与は、RIPK1阻害剤およびIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤の両方の治療有効量の対象への連続的または同時の投与であり得る。
【0028】
本明細書中、用語「治療有効量」 は 、本明細書の開示に従う、例えば、研究者または臨床医などが求めている、組織、系、動物または人間の対象の生物学的または医学的応答を引き出す化合物または組み合わせの量を意味する。さらに、用語「治療有効量」は、そのような量を受けていない対応する対象と比較して、疾患、障害、または副作用の改善された治療、治癒、予防、または改善をもたらす、または疾患または障害の進行率が低下する任意の量を意味する。
【0029】
本明細書で提供される医薬用途および治療方法のすべての態様および実施形態による、RIPK1および/またはIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤による治療を必要とする対象に少なくとも1回投与される化合物または組み合わせの有効量は、典型的には、投与あたり約0.01 mg/kg~約500 mg/kgまたは投与あたり約0.01 mg/kg~約100 mg/kg、例えば、投与あたり約1 mg/kg~約10 mg/kgである。いくつかの態様において、前記対象へ少なくも1回投与されるRIPK1および/またはIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤の有効量は、投与あたり約0.01 mg/kg~約0.1 mg/kg、投与あたり約0.1 mg/kg~約1 mg/kg、投与あたり約1 mg/kg~約5 mg/kg、投与あたり約5 mg/kg~約10 mg/kg、投与あたり約10 mg/kg~約50 mg/kg、または投与あたり約50 mg/kg~約100 mg/kgである。
【0030】
疾患の予防または治療のための、RIPK1および/またはIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤(またはそれを含む医薬組成物)の適切な用量は、治療する病気の種類、病気の重症度と経過、RIPK1および/またはIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤および/または医薬組成物が予防または治療目的のために投与されるかどうか、以前の治療、患者の病歴、年齢、サイズ/体重、およびRIPK1および/またはIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤および/または医薬組成物に対する応答、および主治医の裁量に依存する。RIPK1および/またはIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤および/または医薬組成物は、1回または一連の治療にわたって患者に適切に投与される。そのようにRIPK1および/またはIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤および/または医薬組成物が一連の治療にわたって投与された場合、所与の治療コースの総投与回数は、合計約2、3、4、5、6、7、8、9、10、または約10以上の治療からなってよい。例えば、治療は、1週間、1か月、または数か月の間、毎日1回(または1日に2、3または4回)行ってよい。ある態様において、治療コースは無期限に継続する場合がある。
【0031】
用語「IKK阻害剤」は最も広い意味で使用され、好ましくはIKKの活性化を妨げることにより、IKKによって媒介される生物活性を部分的または完全に遮断、阻害、または中和する任意の分子を含む。本発明に関するRIPK1阻害剤の性質および定義に関する前述のことは、「IKK阻害剤」の性質と定義に等しく適用されるものとする。 それに加え、好ましくは、IKK阻害剤は、例えばIKKの1以上のサブユニットに結合することにより、IKKの1以上のサブユニットに直接作用する。しかしながら、他の態様において、IKK阻害剤は、IKKがI-κBなどの基質と相互作用するのを妨げてもよく、および/またはIKKシグナル伝達経路、好ましくはIKKの下流の分子に作用してもよい。さらに他の態様において、IKK阻害剤は、IKK遺伝子発現のレベルを調節するか、影響を受ける細胞のIKKのレベルを低下させてもよい。分子がIKK活性化を阻害する能力は、当技術分野で周知のアッセイを使用して測定することができる。例えば、これに限定されるものではないが、IKK阻害剤は、免疫複合体キナーゼアッセイおよび遺伝子レポーターアッセイを使用して識別できる。簡潔に言えば、免疫複合体キナーゼアッセイでは、免疫沈降したIKK複合体を、GST-IκBαをin vitroでリン酸化する能力について調べる。例えば、IKK複合体は、プロテインAビーズに結合したマウス抗IKKα抗体(Santa Cruz Biotechnology)での4℃で3時間揺り動かしたインキュベーションにより、推定IKK阻害剤で処理された動物または細胞由来の透明な線条体抽出物から免疫沈降できる。ビーズは洗浄され、IKK活性は、10μCiの[32P]γ-ATPの存在下、30℃で30分間、1μgの精製GST-Iκ-Bα(N末端61アミノ酸)を用いてin vitroで評価することができる。生産物は、SDS-PAGEに続いてオートラジオグラフィーによって調べられる。
【0032】
さらに、用語「IKK阻害剤」 は、IKKサブユニットによって媒介される生物活性を模倣し、IKKの機能または発現、またはIKKを介したシグナル伝達の効率を特異的に変化させ、それにより、既存の生物活性を阻害するか、または新しい生物活性を誘発する任意の分子を含む。
【0033】
本発明に関して好ましいIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤は、IKK阻害剤、好ましくはIKK2/IKKβ阻害剤である。このタンパク質は、IKK-ベータ、IKK2、IKKB、NFKBIKB、または「核因子カッパBキナーゼサブユニットベータの阻害剤」として知られており(Human Gene Nomenclature CommitteeシンボルHGNC:5960)、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質である(https://www.genenames.org/参照)。
【0034】
好ましくは、本発明のIKK阻害剤は、SPC839 (Signal Pharmaceutical Inc.)、アニリノ-ピリミジン誘導体(Signal Pharmaceutical Inc.)、MLN120Bもしくは PS1145 (MillenniumPharmaceutical Inc.)、BMS- 34554 l*(Bristol-Myers SquibbPharmaceutical Research Institute、IKK阻害剤III)、SC- 514*(Smithkilne Beecham Corp.)、アミノイミダゾールカルボキサミド誘導体(Smithkilne Beecham Corp.)、ウレウドチオフェンカルボキサミド誘導体(AstraZeneca)、ジアリールピビジン誘導体(Bayer )、ピリドオキサジノン誘導体(Bayer)、インドールカルボキサミド誘導体(Aventis Pharma)、ベンゾイミダゾールカルボキサミド誘導体(Aventis Pharma)、ピラゾロ[4,3-c]キノリン誘導体(Pharmacia Corporation)、イミダゾリルキノリン-カルボアルデヒドセミカルバジド誘導体(Tulark Inc.)、ピリジルシアノグアニジン誘導体(Leo Pharma),IkB キナーゼ阻害剤ペプチド (CalBiochem)、IKK-2阻害剤IV[5-(p-フルオロ-フェニル)-2-ウレイド]チオフェン-3-カルボキサミド(CalBiochem)、IKK 阻害剤II、ウェデロラクトン(CalBiochem)、IKK 阻害剤 VII (CaIB iochem)、IKK-2 阻害剤 V N-(3,5-ビス-トリフルオロメチルフェニル)-5-クロロ-2-ヒドロキシベンズアミドIMD-0354(CalBiochem)、IKK-2 阻害剤 VI (5-フェニル-2-ウレイド)チオフェン-3-カルボキサミド(CalBiochem)、IKK-2阻害剤 VIII ACHP 2-アミノ-6-(2-(シクロプロピル-メトキシ)-6-ヒドロキシフェニル)-4-(4-ピペリジニル)-3-ピリジンカルボニトリル(CalBiochem)、TPCA-1、または BI605906から選択される。
【0035】
別の態様において、課題は炎症性疾患の予防または治療に使用するIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤であって、予防または治療は、本明細書で定義されるIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤およびRIPK1阻害剤の同時または逐次投与を含むIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤によって解決される。したがって、本発明はIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤の組み合わせの使用、例えば、炎症性疾患を罹患する対象の治療におけるIKK阻害剤およびRIPK1阻害剤を提供する。驚くべきことに、当該本発明の組み合わせは、IKK/NFκBシグナル伝達阻害により引き起こされる重篤な副作用の先行技術の問題、例えば、好中球増加症および/またはIL-1βの放出の増加を克服することができた。
【0036】
したがって、炎症性疾患の治療または予防で使用するための(化合物の)組み合わせも提供され、該組み合わせは、本明細書で定義されるRIPK1阻害剤およびIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤を含む。好ましくは、 該治療または予防は、炎症性疾患に罹患している対象への治療有効量のIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤の投与を含む。好ましくは、 該治療または予防は、IKK/NFκBシグナル伝達阻害剤の対象への投与によって引き起こされる IL-1β放出の増加および/または好中球増加症を抑制または防止するのに十分な量のRIPK1阻害剤を対象に投与することも含んでよい。
【0037】
本発明の組み合わせ、特にRIPK1阻害剤とIKK阻害剤の組み合わせは、好ましくは、相乗効果のある量で提供される。したがって、好ましい態様において本発明の組み合わせは、相乗的な組み合わせである。
【0038】
別の態様において、本発明は対象の増加したインターロイキン-1β(IL-1β)放出に関連する疾患の治療または予防における使用のための医薬組成物を提供するものであり、該医薬組成物は前述のRIPK1阻害剤と薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤を含む。好ましくは、該IL-1β放出増加または全身性好中球増加症はIKK阻害剤の副作用である。
【0039】
別の態様は、対象の増加したインターロイキン-1β(IL-1β)放出または全身性好中球増加症に関連する疾患の治療または予防における使用のための医薬組成物に関するものであり、該医薬組成物は前述のIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤と薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤を含む。
【0040】
本発明の医薬組成物は意図された投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例は、非経口、例えば、くも膜下腔内、動脈内、静脈内、皮内、皮下、経口、経皮(局所)、脳室内、実質内、および経粘膜投与を含む。一般に、本発明の医薬組成物は、RIPK1および/またはIKK/NFκBシグナル伝達を阻害する1以上の化合物、および少なくも1つの薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤を含むものとする。本明細書において医薬組成物は、免疫関連疾患を治療するための上述の方法での使用に特に有用である。
【0041】
本明細書で使用される用語「くも膜下腔内」は、脳と脊髄を覆うくも膜の下の空間に導入されるか、起こることを意味する。用語「脳室内」は、例えば、注射、注入、または移植を介して脳室系への(例えば、脳室への)組成物の投与を指す。本明細書中、用語「実質内」は脳組織への直接投与を指し得る。他の例において、実質内投与は、1以上の本発明の化合物の送達が本明細書に記載されるような1つ以上の障害を緩和または予防するのに有効である任意の脳領域を対象にすることができる。脳組織への直接投与形態は、いくつかの態様では好ましい。
【0042】
非経口、皮内、または皮下投与に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含み得る:注射用水などの無菌希釈剤、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン;プロピレングリコールまたは他の合成溶剤;ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や重硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などのバッファー、および塩化ナトリウムまたはブドウ糖などの張性を調整するための薬剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口製剤は、アンプル、使い捨て注射器、またはガラスまたはプラスチック製の複数回投与用バイアルに封入することができる。
【0043】
注射用に適した医薬組成物は無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および無菌注射用溶液または分散液の即時調製用の無菌粉末を含む。静脈内投与に適切な担体は、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。全ての場合において、注射用組成物は、組成物は無菌でなければならず、注射が容易に行える程度に流動的でなければならない。それは、製造および保管の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物のコンタミネーションから保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の活動の防止はさまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合において、組成物中に等張剤、例えば、糖、多価アルコール、例えば、マンニトール、ソルビトールおよび塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含めることによってもたらされ得る。
【0044】
無菌注射溶液は、必要量の活性化合物(例えば、硫酸転移酵素阻害剤)を適切な溶媒に上記列挙した成分の1つまたは組み合わせとともに組み込み、その後必要に応じてろ過滅菌することにより調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本的な分散媒および上記列挙したものからの必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。無菌注射溶液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、これにより、活性成分の粉末と、前もって無菌濾過された溶液から任意の追加の所望の成分が得られる。
【0045】
経口組成物は一般に、不活性希釈剤または食用担体を含む。それらはゼラチンカプセルに封入するか、錠剤に圧縮することができる。経口治療投与の目的のために、活性化合物は、賦形剤と共に組み込まれることができ、錠剤、トローチ、またはカプセルの形態で使用され得る。経口組成物は、うがい薬として使用するための流体担体を使用して調製することもでき、流体担体中の化合物は、経口的に適用され、すりつぶされ、吐き出されるか、または飲み込まれる。薬学的に適合性のある結合剤、および/またはアジュバント材料は組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、以下の成分のいずれか、または同様の性質の化合物を含むことができる:微結晶性セルロース、トラガカントガム、ゼラチンなどのバインダー;デンプンまたはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムやスターテス(Stertes)などの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖やサッカリンなどの甘味料;またはペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ風味などの香味料。
【0046】
吸入投与の用途では、化合物は、適切な噴霧剤、例えば二酸化炭素などのガス、またはネブライザーを含む加圧容器またはディスペンサーからのエアゾルスプレーの形態で送達される。
【0047】
全身投与は、経粘膜または経皮手段によるものであってもよい。経粘膜または経皮投与の場合、浸透すべきバリアに適した浸透剤が製剤に使用される。そのような浸透剤は、当技術分野で一般に知られており、例えば、経粘膜投与のために、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレーまたは坐剤を使用して行うことができる。経皮投与の場合、医薬組成物は、当技術分野で一般に知られているように、軟膏、膏薬、ゲル、またはクリームに製剤化される。
【0048】
ある態様において、医薬組成物は、活性成分の持続または制御放出のために製剤化される。生分解性、生体適合性ポリマーは、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などが使用され得る。そのような製剤の調製方法は当業者に明らかであろう。これらの材料は、例えば、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals、Incから商業的に入手することもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞を標的とするリポソームを含む)もまた、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0049】
投与を容易にし、投薬量を均一にするために、経口または非経口組成物を投薬単位形態で製剤化することが特に有利である。本明細書で使用される投薬単位形態は、治療される対象の単一投薬量として適した物理的に別個の単位を含み、各単位は、必要な医薬担体と関連して所望の治療効果を生み出すように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の投薬単位形態の仕様は、活性化合物の独特の特徴および達成されるべき特定の治療効果および個々の治療のためにそのような活性化合物を配合する技術に内在する制限によって決定され、そしてそれらに直接依存する。
【0050】
そのような化合物の毒性および治療効果は、細胞培養または実験動物における標準的な製薬手順、例えば、LD50(母集団の50%に致死的な用量)とED50(母集団の50%で治療的に有効な用量)を決定すること、によって決定することができる。毒性と治療効果の間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の割合として表すことができる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。有毒な副作用を示す化合物を使用することもできるが、非感染細胞への潜在的な損傷を最小限に抑え、それによって副作用を減らすために、そのような化合物を罹患組織の部位に向ける送達システムを設計するように注意する必要がある。
【0051】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータは、ヒトで使用するための投与量の範囲を策定する際に使用できる。そのような化合物の投与量は、毒性がほとんどないか全くないED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。投薬量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。本発明の方法で使用される化合物に関し、治療上有効な用量は、細胞培養アッセイから最初に推定できる。細胞培養で決定されたIC50(すなわち、症状の最大抑制の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルで用量を策定することができる。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。医薬組成物は、投与説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサーに含めることができる。
【0052】
本明細書で開示される化合物、組み合わせ、組成物は、病理学的または無秩序な免疫応答に関連する疾患、例えば、対象の細胞において、増加したインターロイキン-1β(IL-1β)放出または全身性好中球増加症に罹患している対象を予防または治療する方法において特に有用であり、該方法は治療有効量のRIPK1阻害剤の対象への投与を含む。
【0053】
本発明に関し、用語「免疫調節不全」は、対象における異常な、好ましくは有害な免疫応答を特徴とする任意の病的状態を指すものとする。好ましくは、そのような免疫応答は、例えば、骨髄細胞のような免疫系の細胞、例えば、骨髄由来の骨髄前駆細胞、単球またはマクロファージ、における増加したIL-1βの放出または全身性好中球増加症を特徴とする。好ましくは、そのような免疫調節不全は、IKK/NFκBシグナル伝達阻害剤を用いた対象の治療の悪影響である。
【0054】
本発明の化合物、組成物、組み合わせおよび方法で治療可能な疾患は、好ましくは炎症性障害である。本発明の目的で、用語「炎症性疾患」は「自己免疫疾患」も含む。本明細書中で、用語「自己免疫」は一般的に「自己」抗原を含む炎症性免疫媒介プロセスを包含するものと理解される。自己免疫疾患では、自己抗原が宿主の免疫応答を引き起こす。
【0055】
自己免疫および/または炎症性疾患の例はこれに限定されるものではないが、全身性エリテマトーデス(SLE)、円盤状ループス、ループス腎炎、サルコイドーシス、若年性関節炎を含む炎症性関節炎、関節リウマチ、乾癬性関節炎、ライター症候群、強直性脊椎炎、および痛風性関節炎、臓器または組織移植の拒絶反応、超急性、急性、または慢性拒絶反応および/または移植片対宿主病、多発性硬化症、高IgE症候群、結節性多発性動脈炎、原発性胆汁性肝硬変、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病(グルテン過敏性腸症)、自己免疫性肝炎、悪性貧血、自己免疫性溶血性貧血、乾癬、強皮症、重症筋無力症、自己免疫性血小板減少性紫斑病、自己免疫性甲状腺炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、免疫複合体疾患、慢性疲労免疫機能不全症候群(CFIDS)、多発性筋炎および皮膚筋炎、クリオグロブリン血症、血栓溶解、心筋症、尋常性天疱瘡、肺間質性線維症、I型およびII型糖尿病、1型、2型、3型、および4型遅延型過敏症、アレルギーまたはアレルギー性障害、治療用タンパク質に対する望ましくない/意図されていない免疫応答(例えばKorenら(2002)Curr.Pharm. Bio-technol. 3:349-60を参照)、喘息、チャーグ・シュトラウス症候群(アレルギー性肉芽腫症)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性および刺激性接触皮膚炎、じんましん、IgEを介したアレルギー、アテローム性動脈硬化症、血管炎、特発性炎症性ミオパシー、溶血性疾患、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシーなどを含む。
【0056】
本発明に従って治療される疾患に関連する細胞は、好ましくは骨髄由来の骨髄前駆細胞、単球またはマクロファージなどの骨髄細胞である。
【0057】
本発明の別の態様において、対象の炎症性疾患の治療方法が提供され、該方法は、(i)RIPK1阻害剤および(ii)IKK/NFκBシグナル伝達阻害剤の治療有効量の対象への同時または逐次投与を含む。
【0058】
前述のとおり、本発明の好ましい態様は、本明細書に記載の化合物、組成物、組み合わせおよびIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤での治療によって引き起こされる副作用の治療方法の使用に関する。説明したとおり、該態様は対象がIKK/NFκBシグナル伝達阻害剤を使用して主に治療される障害に苦しんでいる(罹患している)医療用途に関する。しかしながら、そのような治療はしばしば深刻な副作用を伴います。従って、本発明はいくつかの態様において、本明細書で提供される開示に従ってRIPK1阻害剤を同じ対象に投与することによるそのような副作用の予防的/治療的療法を提供する。よって、いくつかのさらなる態様において、治療される疾患は、RIPK1活性に関連する副作用または有害事象である。別のまたはさらなる態様において、一次障害(本明細書では、IKK/NFκBシグナル伝達阻害剤の使用によって治療される障害を意味する)は、RIPK1に関連しない障害である。
【0059】
いくつかの態様において、用語「悪影響」、「有害事象」、または「副作用」は、所与の疾患(ここでは一次疾患)に苦しむ患者を、その所与の(一次)疾患に必要とされる療法/治療法で治療することによって誘導される、引き起こされる、または悪化する医学的に好ましくない状態を意味する。従って、本明細書で開示される発明に関して、二次疾患として対象に生じる副作用または有害事象が好ましい場合があり、該対象は、二次疾患とは異なる一次疾患を患っており、本明細書に開示される化合物、組成物、組み合わせおよび方法、最も好ましくは本明細書に開示されているRIPK1阻害剤によって治療される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
本発明は、以下の実施例において、添付の図面および配列を参照してさらに記載されるが、それに限定されない。本発明の目的のために、本明細書に引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。図面については下記のとおりである。
【0061】
【
図1】RIPK1のキナーゼ活性の(A)遺伝的または(B)薬理学的不活性化は、異なる濃度のIKK2阻害剤で処理されたBMDMにおけるLPS誘導IL-1β分泌を抑制する。各バーは、各条件の3回の試料の平均+/- SEM値を表す。
【
図2-1】CRISPR/Cas9媒介遺伝子ターゲティングを使用したリジン44をアラニンに変異させた(K44A)内在性Ikk2遺伝子座由来のゲノムキナーゼ不活性化IKK2を発現するノックインマウスの作製。a)エクソン3上のリジン44の位置を示すマウスIkk2ゲノム遺伝子座(上のパネル)ならびにリジン44をアラニン(AAGからGCG)に変更する設計された変異を示す、野生型エクソン3と変異エクソン3の配列(下のパネル)の模式図。b)同腹仔の数と総数を示す表ならびに示された育種から得られたIkk2
K44A/K44Aマウスの数。Ikk2
K44A/K44Aマウスは、Ripk1
D138N/D138Nの遺伝的バックグラウンドでのみ取得されたことに留意。c)野生型およびホモ接合型Ikk2
K44A/K44Aマウス由来のゲノムDNAのDNA配列決定から、計画された突然変異がエクソン3で正しく導入されたことを示す。
【
図3】変異IKK2 K44Aを発現する細胞でのIKK2キナーゼ活性の喪失は、骨髄由来マクロファージ(BMDM)におけるTNFおよびLPSに応答したNF-κB活性化を強く抑制する。骨髄は、2週齢のコントロール(Ikk2
wt/K44A; Ripk1
wt/D138N および Ikk2
wt/K44A; Ripk1
D138N/D138N)およびIKK2キナーゼ不活性化マウス(Ikk2
K44A/K44A; Ripk1
D138N/D138N)の大腿骨と脛骨から単離された。BMDMは、20 ng/mlのM-CSF(Thermo Fisher Scientific、#14-8983-62)の存在下で7日間分化させ、6ウェルの細胞培養皿に1x10
6細胞で播種した。8日目に、TNF(20 ng/ml)およびLPS(100 ng/ml)での時間経過刺激がM-CSF(20 ng/ml)の存在下で行われた、そして、細胞溶解物は、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を補充したRIPAバッファーを使用して氷上で調製した。タンパク質(20μg)をSDS-PAGEで分離し、以下の抗体を使用してウエスタンブロットを実施した:ホスホ-IκB S32/36 (Cell Signaling、#9246L)、IκB (Santa Cruz Biotechnologies、#K1315)、ホスホ-RelA S536 (Cell Signaling、#3036S)、およびアルファチューブリン(Sigma-Aldrich、#T6074)。1つの野生型と1つのキナーゼ不活性IKK2対立遺伝子を運ぶコントロール細胞と比較して、IκBのリン酸化と分解、およびキナーゼ不活性IKK2をホモ接合で発現している細胞におけるRelAのリン酸化が強く抑制されることに留意。RIPK1D138N変異は、NF-κBの活性化に影響を与えない(Polykratis et al, 2014, J Immunol 193:1539-1543)。
【
図4】変異したIKK2 K44Aを発現する細胞でのIKK2キナーゼ活性の喪失は、肺線維芽細胞でのTNFおよびLPSに応答するNF-κB活性化を強く抑制する。肺線維芽細胞は、2週齢のコントロール(IKK2
wt/K44A; Ripk1
D138N/D138N)、およびIKK2およびRipk1キナーゼ死(Ikk2
K44A/K44A;Ripk1
D138N/D138N)マウスから分離された。ハサミとコラゲナーゼ処理を使用して肺を破壊し、その後7日間培養した。7日目に、肺線維芽細胞を6ウェル細胞培養皿に1×10
6細胞で播種した。 8日目に、TNF(20 ng/ml)およびLPS(100 ng/ml)による時間経過刺激が行われた、そして、細胞溶解物は、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を補充したRIPAバッファーを使用して氷上で調製した。タンパク質(20μg)をSDS-PAGEで分離し、以下の抗体を使用してウエスタンブロットを実施した:ホスホ-IκBS32/36 (Cell Signaling、#9246L)、IκB (Santa Cruz Biotechnologies、#K1315)およびアルファチューブリン(Sigma-Aldrich, #T6074)。
【
図5】RIPK1キナーゼ活性の阻害は、IKK2キナーゼ活性の骨髄細胞特異的阻害により、マウスの好中球増加症の発症を防ぐ。好中球の存在は、2.5ヶ月齢のコントロールマウス(Ikk2
FL/FL;Cx3cr1
WT/WT)、IKK2キナーゼ活性のマクロファージ特異的阻害(Ikk2
FL/K44A;Cx3cr1
Cre/WT)、およびすべての細胞でRIPK1キナーゼ活性も欠くIKK2キナーゼ活性のマクロファージ特異的阻害を有するマウス(Ikk2
FL/K44A; Cx3cr1
Cre/WT;Ripk1
D138N/D138N)から採取した末梢血のフローサイトメトリーで評価した。好中球は、CD115
-Ly6G
+Ly6C
+白血球として決定された。全血(50μL)は、以下の抗体を使用して、示された希釈で染色された:CD115(Biolegend、#135512) 1/100、Ly6G(Biolegend、#127618) 1/200、Ly6C(Biolegend, #128016) 1/200、生/死(Life/Dead) (Life technologies、#L34959) 1/400。赤血球の溶解と固定は、Fix/Lyse溶液(eBioscience、#00-5333-54)を使用して行った。染色された細胞を、0.5%FCSを補充したPBSに再懸濁し、LSRFortessa(BD Biosciences)を使用して取得を行った。代表的なFACSプロットは、示された遺伝子型のマウスが示される。グラフは、示された遺伝子型のマウスにおけるCD115
-Ly6G
+Ly6C
+白血球の割合を示す。各ドットは個々のマウスを表す。RIPK1キナーゼ活性の欠如は、IKK2キナーゼ活性の阻害によって引き起こされる好中球増加を完全に防ぐことに留意。
【発明を実施するための形態】
【0062】
配列番号1(RIPK1アイソフォーム1)
MQPDMSLNVIKMKSSDFLESAELDSGGFGKVSLCFHRTQGLMIMKTVYKGPNCIEHNEALLEEAKMMNRLRHSRVVKLLGVIIEEGKYSLVMEYMEKGNLMHVLKAEMSTPLSVKGRIILEIIEGMCYLHGKGVIHKDLKPENILVDNDFHIKIADLGLASFKMWSKLNNEEHNELREVDGTAKKNGGTLYYMAPEHLNDVNAKPTEKSDVYSFAVVLWAIFANKEPYENAICEQQLIMCIKSGNRPDVDDITEYCPREIISLMKLCWEANPEARPTFPGIEEKFRPFYLSQLEESVEEDVKSLKKEYSNENAVVKRMQSLQLDCVAVPSSRSNSATEQPGSLHSSQGLGMGPVEESWFAPSLEHPQEENEPSLQSKLQDEANYHLYGSRMDRQTKQQPRQNVAYNREEERRRRVSHDPFAQQRPYENFQNTEGKGTAYSSAASHGNAVHQPSGLTSQPQVLYQNNGLYSSHGFGTRPLDPGTAGPRVWYRPIPSHMPSLHNIPVPETNYLGNTPTMPFSSLPPTDESIKYTIYNSTGIQIGAYNYMEIGGTSSSLLDSTNTNFKEEPAAKYQAIFDNTTSLTDKHLDPIRENLGKHWKNCARKLGFTQSQIDEIDHDYERDGLKEKVYQMLQKWVMREGIKGATVGKLAQALHQCSRIDLLSSLIYVSQN
【0063】
配列番号2 (IKK2アイソフォーム1)
MSWSPSLTTQTCGAWEMKERLGTGGFGNVIRWHNQETGEQIAIKQCRQELSPRNRERWCLEIQIMRRLTHPNVVAARDVPEGMQNLAPNDLPLLAMEYCQGGDLRKYLNQFENCCGLREGAILTLLSDIASALRYLHENRIIHRDLKPENIVLQQGEQRLIHKIIDLGYAKELDQGSLCTSFVGTLQYLAPELLEQQKYTVTVDYWSFGTLAFECITGFRPFLPNWQPVQWHSKVRQKSEVDIVVSEDLNGTVKFSSSLPYPNNLNSVLAERLEKWLQLMLMWHPRQRGTDPTYGPNGCFKALDDILNLKLVHILNMVTGTIHTYPVTEDESLQSLKARIQQDTGIPEEDQELLQEAGLALIPDKPATQCISDGKLNEGHTLDMDLVFLFDNSKITYETQISPRPQPESVSCILQEPKRNLAFFQLRKVWGQVWHSIQTLKEDCNRLQQGQRAAMMNLLRNNSCLSKMKNSMASMSQQLKAKLDFFKTSIQIDLEKYSEQTEFGITSDKLLLAWREMEQAVELCGRENEVKLLVERMMALQTDIVDLQRSPMGRKQGGTLDDLEEQARELYRRLREKPRDQRTEGDSQEMVRLLLQAIQSFEKKVRVIYTQLSKTVVCKQKALELLPKVEEVVSLMNEDEKTVVRLQEKRQKELWNLLKIACSKVRGPVSGSPDSMNASRLSQPGQLMSQPSTASNSLPEPAKKSEELVAEAHNLCTLLENAIQDTVREQDQSFTALDWSWLQTEEEEHSCLEQAS
【0064】
【実施例】
【0065】
実施例1:RIPK1キナーゼ活性の阻害は、薬理学的IKK阻害剤で処理されたマクロファージにおけるLPS誘導IL-1産生を防ぐ。
【0066】
実験手順:
骨髄は、1匹のWTと1匹のRipk1D138N/D138Nマウス(6~7週齢)の脛骨と大腿骨から分離された。各マウスの片足由来の骨髄を直ちに凍結した。他方の足由来の骨髄細胞を1200 rpmで5分間遠心沈殿し、10ng/mlのM-CSFを含む20 mlの培地を含む15 cm2の非処理細胞培養プレートに播種した。細胞を6日間分化させ、その後、付着したBMDMを持ち上げ、カウントし、48ウェルプレートに2x105細胞/ウェルの密度で播種した。翌日、細胞を異なる濃度のIKK2阻害剤で30分間前処理してから、総容量250μlの100 ng/mlで刺激した。 各実験条件を三重にアッセイした。20~24時間後、上清を除去し、浮遊細胞から取り除き、サイトカイン測定まで凍結した。 IL-1β濃度は、製造元の指示に従って、特定のELISA(eBioscience)で測定した。
【0067】
Nec1を用いた実験では、凍結した骨髄細胞を使用した。解凍後、新鮮な骨髄細胞について上記のようにマクロファージを分化させた。ネクロスタチン-1(Nec-1)をIKK2阻害剤と一緒に30分間の前処理中に追加しBMDMをLPSで20-24時間刺激し上清をELISA測定のために保存した。
【0068】
結果:
野生型(WT)骨髄由来マクロファージ(BMDM)をIKK2/IKKβの2つの異なる阻害剤で処理すると、LPS刺激時にIL-1β分泌が生じた。両方のIKK2阻害剤は、程度は異なるが増強されたIL-1β分泌を使用し、TPCA-1ではより高い効力を示した。 遺伝的には、キナーゼ不活性RIPK1
D138N変異体を発現するノックインマウス由来のBMDMを使用し(
図1A)または薬理学的には、ネクロスタチン-1を使用し(
図1B)、RIPK1キナーゼ活性を阻害すると、分泌されるIL-1βの量が大幅に減少し、これは、IKK2阻害での、BMDMにおけるLPS誘導IL-1β分泌がRIPK1キナーゼ活性に依存することを示す。
【0069】
試薬:
培地: DMEM、10% FCS、2 mM グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、10 mM HEPES、100U/ml ペニシリン、100pg/ml ストレプトマイシン
M-CSF: 10 ng/ml (Immunotools)
Nec1: 30 pM (Enzo)
LPS: 100 ng/ml (サルモネラエンテリカ血清型腸炎菌、Sigma)
Bi-605906 (Hycultec)
TPCA-1(Tocris)
【0070】
実施例2:RIPK1キナーゼ活性の阻害は、マクロファージにおけるIKK2キナーゼ活性の阻害によって引き起こされる全身性好中球増加症の発症を防ぐ。
【0071】
IKK2キナーゼ活性のin vivoでの役割を調べるため、内因性Ikk2ゲノム遺伝子座からキナーゼ不活性IKK2を発現するノックインマウスを作製した。特に、我々はCRISPR/Cas9を介した標的変異誘発を使用して、ikk2遺伝子のエクソン3に2ヌクレオチドの変化を導入し、リジン44(AAG)をコードするコドンをアラニン(GCG)をコードするコドンに変更した(
図2a)。IKK2のATP結合ポケットのリジン44の変異は、その触媒活性を不活性化する(E Zandi et al., Cell 91, no. 2 (October 17, 1997): 243-52.)。Ikk2遺伝子をターゲティングするsgRNAと、所望の変異を含む修復オリゴおよびCas9をC57Bl/6マウス由来の受精卵の前核にマイクロインジェクションすると、K44A変異を子孫に伝達するファウンダーマウスが作製された。ヘテロ接合Ikk2
K44A/wtマウスは生存可能であり、成体期まで発達し、繁殖力があり、異常は見られなかった。Ikk2
K44A/wtマウスのヘテロ接合育種は、生存可能なホモ接合Ikk2
K44A/K44A子孫を生成することができず、これは、IKK2を欠くマウスで観察される胚性致死と一致する(Q Li et al.,Science (New York, NY) 284, no. 5412 (April 9, 1999): 321-25)。Ikk2
K44A/K44Aマウスの胚性致死がRIPK1キナーゼ活性に依存するかどうかを調べるために、発明者らは、これらのマウスを、キナーゼ不活性RIPK1を発現するRipk1
D138N/D138Nノックイン動物と交配させた。実際に、本発明者らは、生存可能なIkk2
K44A/K44A Ripk1
D138N/D138Nマウスを得て、RIPK1キナーゼ活性の阻害がIkk2
K44A/K44Aマウスの胚性致死を救済することを示した(
図2b)。Ikk2
K44A/K44A Ripk1
D138N/D138Nマウス由来のIkk2遺伝子の配列決定により、AAGがGCGに正しく変異し、リジン44がアラニンに変化していることが確認された(
図2c)。ダブルキナーゼ不活性Ikk2
K44A/K44A Ripk1
D138N/D138Nマウスは正常に生まれたが、これらのマウスは成長の低下を示し、2週齢で犠牲にする必要があり、これは、以前に示された、RelAとTNFR1ダブルノックアウト動物(生まれた後、細菌感染により生後3週間で死亡した)での日和見細菌による感染が原因と思われる(E Alcamo et al., Journal of Immunology (Baltimore, Md : 1950)167, no. 3 (August 1, 2001): 1592-1600.)。これらの結果は、RIPK1キナーゼ活性がIkk2
K44A/K44Aマウスの胚致死表現型を仲介するが、IKK2とRIPK1の両方のキナーゼ活性を欠くマウスは、おそらく深刻な免疫不全が原因で出産後に死亡することを示した。
【0072】
K44A変異がIKK2のキナーゼ活性を無効にしたことを確認するために、発明者らは、Ikk2
K44A/K44A Ripk1
D138N/D138Nマウスおよびコントロール細胞からの骨髄由来マクロファージ(BMDM)におけるNF-κBの活性化を分析した。
図3に示すとおり、Ikk2
K44A/K44A Ripk1
D138N/D138Nマウス由来のBMDMは、リン酸化の障害とIκBの分解ならびにTNFまたはLPSによる刺激に反応したRelA/p65のリン酸化によって示されるように、NF-κBの活性化が非常に強く抑制されたことを示した。TNFまたはLPSに応答して、Ikk2
K44A/K44A Ripk1
D138N/D138Nおよびコントロールマウスからの肺線維芽細胞におけるNF-κBの活性化を測定することにより、同様の結果が得られた(
図4)。これらの結果から、K44A変異がIKK2のキナーゼ活性を無効にし、TNFまたはLPSによるNF-κBの活性化を非常に強く抑制することを確認した。
【0073】
IKK2の骨髄細胞特異的ノックアウト、ならびにIKK2キナーゼ阻害剤によるマウスの治療は、全身性好中球増加症の発症をもたらした(Greten ら、DOI:10.1016/j.ce11.2007.07.009、Hsu et al, DOI: 10.1038/ni.1976)。これらの知見は、IKK/NF-κBシグナル伝達阻害剤の安全性について深刻な懸念を引き起こし、その結果、いくつかの企業はIKK阻害剤の開発と治療応用のためのプログラムを終了させた。本発明者らは、IKK2阻害に応じた好中球増加症の発症はRIPK1キナーゼ活性によって引き起こされる可能性があると仮定し、遺伝子実験を使用してこの仮説に取り組むことを目的とした。本発明者らは、1つのK44Aと1つのloxP隣接IKK2対立遺伝子(Ikk2
FL/K44A)を持つマウスを、マクロファージでCreリコンビナーゼを特異的に発現するCx3cr1-Creマウスと交配することにより、骨髄細胞でIKK2キナーゼ活性を阻害するマウスを作製した(Simon Yona ら、"Fate MappingReveals Origins and Dynamics of Monocytes and Tissue Macrophages UnderHomeostasis.," Immunity 38, no. 1 (January 24, 2013): 79-91,doi:10.1016/j.immuni.2012.12.001)。これらの動物において、Creリコンビナーゼは、野生型IKK2を発現するloxP隣接IKK2対立遺伝子を除去し、マクロファージでキナーゼ不活性IKK2
K44Aのみを発現させる。IKK2の骨髄細胞特異的ノックアウト、およびIKK2キナーゼ阻害剤によるマウスの治療に基づく従前の研究と一致して、本発明者らは、血液中の好中球の分析によって示されるように、マクロファージにおけるIKK2キナーゼ活性の阻害がマウスにおける全身性好中球増加の発生をもたらすことを見出した(
図5)。重要なことに、Ikk2
FL/K44A;Cx3cr1-Cre; Ripk1
D138N/D138Nの血液中の好中球の正常量によって示されるように、Ripk1
D138N/D138NマウスをIkk2
FL/K44A;Cx3cr1-Creマウスと交配すると、好中球増加の発症を救出した(
図4)。これらの知見は、IKK2キナーゼ活性の阻害による全身性好中球増加症の発症がRIPK1キナーゼ活性に依存しているという実験的証拠を提供する。
【0074】
これらの知見に基づき、本発明者らは、RIPK1キナーゼ阻害剤の投与が、IKK/NF-κBの阻害剤の深刻な副作用を克服し、それにより、炎症性疾患の治療のためのIKK/NF-κBシグナル伝達を阻害する薬物の安全な適用を可能にすることを提案する。RIPK1キナーゼ活性の阻害は、急性および慢性の炎症性病変のいくつかのモデルで炎症を阻害することも報告されていることから、RIPK1阻害剤とIKK/NF-κB阻害剤の同時投与は、後者の有害な副作用を防ぐだけでなく、2つの阻害剤の治療効果を組み合わせることにより相乗効果をもたらす可能性がある。
【0075】
図面の用語
protein coding タンパク質翻訳領域
Reverse strand リバース鎖
sequence 配列
Oligo オリゴ
Litter# 同腹仔番号
Litter size 産仔数
Total 総数
min 分
phospho-IκBαホスホ-IκBα
phospho-RelA ホスホ-RelA
Tubulin チューブリン
【配列表】