(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ゲル状組成物及びゲル状組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20240729BHJP
【FI】
C01B32/174
(21)【出願番号】P 2021008331
(22)【出願日】2021-01-21
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大矢 剛嗣
(72)【発明者】
【氏名】小川 稜
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0021762(KR,A)
【文献】特開2005-162578(JP,A)
【文献】新垣 諒汰他,フタロシアニン誘導体を用いた新規カーボンナノチューブヒドロゲルの開発,応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集,日本,2019年09月18日,Vol. 80,15-102
【文献】小川 稜他,カーボンナノチューブ分散液のゲル化が可能な分散剤の検証,応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集,日本,2020年09月08日,Vol. 81,15-007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/174
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、分散剤、及び、水を含み、
前記分散剤は、前記カーボンナノチューブの表面と物理吸着可能な対称構造をもつ分子を核とし、前記核に親水性の基を複数備え、前記親水性の基の1つが0.6nm以上の長さの有機基を有
し、
前記カーボンナノチューブの直径が0.4~2.0nmであり、
前記分散剤がコバラミンである、ゲル状組成物。
【請求項2】
前記コバラミンが、シアノコバラミンまたはヒドロキソコバラミンである、請求項
1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの直径が0.78~0.84nmである、請求項
1または2に記載のゲル状組成物。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが、(6,5)カイラリティカーボンナノチューブ、または、Signis CG300(登録商標)である、請求項
3に記載のゲル状組成物。
【請求項5】
前記分散剤と、前記カーボンナノチューブとを水中に分散させてカーボンナノチューブ分散液を作製する分散化工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液をゲル化させるゲル化工程と、
を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載のゲル状組成物の製造方法。
【請求項6】
前記分散化工程、及び/または、前記ゲル化工程において、超音波照射を行う、請求項
5に記載のゲル状組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ゲル化工程において、前記カーボンナノチューブ分散液を40~90℃で加熱する、請求項
5または
6に記載のゲル状組成物の製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブ分散液中の前記分散剤の濃度が0.6質量%以上である、請求項
5~
7のいずれか一項に記載のゲル状組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状組成物及びゲル状組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子が六角形の各頂点に存在する蜂の巣構造のシートを丸めた円筒状を呈している。その特徴として、強靭な機械的強度、高い熱伝導性、高い電子移動度、それに金属的・半導体的性質を持つ、アスペクト比が高い等、多くの機能・特徴を有している。
【0003】
このような機能・特徴に着目したカーボンナノチューブの応用例として、特許文献1には、紙原料のパルプ繊維にカーボンナノチューブを分散させたカーボンナノチューブ複合紙に、増感色素と電解液を含浸して色素増感太陽電池とすることが提案されている。
【0004】
また、別の応用例として、特許文献2には、カーボンナノチューブと糸との複合材料であるカーボンナノチューブ複合糸よりなる糸トランジスタが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5646879号公報
【文献】特許第5908291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
3次元的にカーボンナノチューブ同士が接触したゲル状組成物については開発の余地があり、新規な構成を有するCNTヒドロゲルが待ち望まれている。また、カーボンナノチューブは巨大なπ結合を表面に持ち、カーボンナノチューブ同士が容易に凝集するため加工が困難であり、3次元的にカーボンナノチューブ同士の接触を確保することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、新規なカーボンナノチューブのゲル状組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、極めて簡便な方法によって、3次元的にカーボンナノチューブ同士が接触したゲル状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決する本発明は以下の(1)~(10)によって規定される。
(1)カーボンナノチューブ、分散剤、及び、水を含み、
前記分散剤は、前記カーボンナノチューブの表面と物理吸着可能な対称構造をもつ分子を核とし、前記核に親水性の基を複数備え、前記親水性の基の1つが0.6nm以上の長さの有機基を有する、ゲル状組成物。
(2)前記分散剤がコバラミンである、(1)に記載のゲル状組成物。
(3)前記コバラミンが、シアノコバラミンまたはヒドロキソコバラミンである、(2)に記載のゲル状組成物。
(4)前記カーボンナノチューブの直径が0.4~2.0nmである、(1)~(3)のいずれかに記載のゲル状組成物。
(5)前記カーボンナノチューブの直径が0.78~0.84nmである、(4)に記載のゲル状組成物。
(6)前記カーボンナノチューブが、(6,5)カイラリティカーボンナノチューブ、または、Signis CG300(登録商標)である、(5)に記載のゲル状組成物。
(7)前記分散剤と、前記カーボンナノチューブとを水中に分散させてカーボンナノチューブ分散液を作製する分散化工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液をゲル化させるゲル化工程と、
を含む、(1)~(6)のいずれかに記載のゲル状組成物の製造方法。
(8)前記分散化工程、及び/または、前記ゲル化工程において、超音波照射を行う、(7)に記載のゲル状組成物の製造方法。
(9)前記ゲル化工程において、前記カーボンナノチューブ分散液を40~90℃で加熱する、(7)または(8)に記載のゲル状組成物の製造方法。
(10)前記カーボンナノチューブ分散液中の前記分散剤の濃度が0.6質量%以上である、(7)~(9)のいずれかに記載のゲル状組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規なカーボンナノチューブのゲル状組成物を提供することができる。また、極めて簡便な方法によって、3次元的にカーボンナノチューブ同士が接触したゲル状組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るゲル化のメカニズムを説明するための模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブの直径と分散剤のサイズとの関係を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のゲル状組成物及びゲル状組成物の製造方法の好適な実施の形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
<ゲル状組成物>
本発明の実施形態に係るゲル状組成物は、カーボンナノチューブ、分散剤、及び、水を含む。ここで、
図1を参照して、本発明の実施形態に係るゲル状組成物が生成する際のゲル化のメカニズムについて説明する。
図1(a)~(c)では、2つのカーボンナノチューブが、上下に離間して、互いに直交するような方向に延びている様子を模式的に示している。
【0013】
ゾル状態時は、
図1(a)に示すように、カーボンナノチューブ(CNT)のほぼ全体が分散剤によって覆われて、分散剤同士の静電気的斥力によって分散状態を保っているが、加熱を行うと、
図1(b)に示すように、熱運動により、分散剤の一部がカーボンナノチューブの表面から離脱する。次に、
図1(c)に示すように、この分散剤の一部が離脱して生じた隙間に、間近に存在する別のカーボンナノチューブが嵌る。これは、カーボンナノチューブの表面は疎水性であり、水中で互いに引き合って吸着するためである。すると、疎水性相互作用とπ-π相互作用により、物理的結合を形成することによって、カーボンナノチューブ同士が固定され、ネットワーク(3次元構造)を形成し、当該ネットワークの中に水が取り込まれる。このようなネットワークが多数形成されることで、ゲル化すると考えられる。
【0014】
また、上述のようなゲル化のメカニズムにより、本発明の実施形態に係るゲル状組成物は、カーボンナノチューブの直径及び分散剤のサイズを調整することで、より良好にゲル化する。本発明の実施形態に係るゲル状組成物のゲル化に関し、カーボンナノチューブの直径と分散剤のサイズとの関係について
図2を用いて説明する。
【0015】
図2(a)は、分散剤の例として、C.I.Reactive Blue 21の構造式及び当該分散剤の分子サイズが1.5nmであることを示している。
図2(b)は、当該分散剤に覆われた直径が0.78nmのカーボンナノチューブの様子を模式的に示している。
図2(b)において、カーボンナノチューブの上下にそれぞれ存在する分散剤は、それぞれカーボンナノチューブから0.33~0.35nm離間しており、当該分散剤同士の距離は1.44~1.48nmとなっている。このような距離の関係によれば、カーボンナノチューブとそれを覆う分散剤の全体の直径が1.44~1.48nmであり、分散剤の分子サイズである1.5nmとほぼ同等であるため、
図2(c)の左図に示すように、分散剤の一部が離脱して生じた隙間に、間近に存在する別のカーボンナノチューブが嵌ることができ、ゲル化が可能となる。一方、カーボンナノチューブとそれを覆う分散剤の全体の直径と分散剤の分子サイズが大きく異なると、
図2(c)の右図に示すように、分散剤の一部が離脱して生じた隙間に、間近に存在する別のカーボンナノチューブが嵌ることができず、ゲル化が困難となる。
【0016】
このような観点から、カーボンナノチューブの直径が0.4~2.0nmであることが好ましい。カーボンナノチューブの直径が0.4~2.0nmであると、カーボンナノチューブの直径が本発明の実施形態に係る分散剤の分子サイズと同等の大きさとなり、上述のメカニズムによって、ゲル化が良好に進行する。なお、このような直径を有するカーボンナノチューブは、単層のカーボンナノチューブであることが多い。
【0017】
なお、本発明の実施形態において、カーボンナノチューブの直径とは、平均直径を意味し、製品として売られているカーボンナノチューブであれば、その仕様値を指す。また、カーボンナノチューブの直径はカイラル指数が分かれば理論的に導出されるほか、ラマン散乱測定を実施することによっても同定することもできる。
【0018】
カーボンナノチューブの直径は、0.78~0.84nmであるのがより好ましい。0.78nmの直径を有する単層のカーボンナノチューブとしては、(6,5)カイラリティカーボンナノチューブが挙げられる。また、0.84nmの直径を有する単層のカーボンナノチューブとしては、Sigma-Aldrich社製のSignis CG300(登録商標)が挙げられる。
【0019】
カーボンナノチューブは、ゲル状組成物において、0.1質量%以上含まれていることが好ましい。カーボンナノチューブの含有量が0.1質量%以上であると、ゲル化が良好に進行する。また、カーボンナノチューブの含有量の上限は、特に限定されないが、ゲル状組成物を柔らかくする等の目的から、20質量%以下にすることもできる。
【0020】
分散剤は、カーボンナノチューブの表面と物理吸着可能な対称構造をもつ分子を核とし、核に親水性の基を複数備え、親水性の基の1つが0.6nm以上の長さの有機基を有する。有機基としては、特に直鎖が好ましい。直鎖は、厳密には炭素-炭素結合が枝分かれなく環も作らずに直線状に連なっている構造を指すが、ここでは広義に炭素-酸素結合、炭素-窒素結合なども含めて鎖状に延びており、五員環、六員環などの多員環が途中または末端に含まれていてもよいとする。
【0021】
上述のように、ゲル化には、カーボンナノチューブの表面から分散剤が離脱することが必要である。このとき、分子の中心に対して対称構造をもつ核を有する分散剤であれば、分散剤に方向依存性が無いため、分散剤が離脱したカーボンナノチューブ同士は、互いに分散剤が離脱した空間の形状が同様となっている。このため、
図1(c)に示すように、この分散剤の一部が離脱して生じた隙間に、間近に存在する別のカーボンナノチューブが嵌りやすくなり、ゲル化が良好に進行する。
【0022】
このような分子の中心に対して対称構造をもつ核としては、フタロシアニン骨格、ポルフィリン骨格、コリン骨格等が挙げられる。特に、フタロシアニン骨格は、
図3に示すような六員環骨格であるため、多官能基を有し、π-π相互作用でカーボンナノチューブ表面に良好に吸着することができることから、上述のゲル化のメカニズムがより良好に進行する。
【0023】
分散剤は、核に親水性の基を複数備えることで、水中に良好に分散することができる。親水性の基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基等が挙げられる。
【0024】
分散剤の核が備える親水性の基の1つが0.6nm以上の長さの有機基を有することで、当該有機基がカーボンナノチューブから離脱するきっかけとなる。すなわち、このような構成によれば、分散剤がカーボンナノチューブから離脱しやすくなる。有機基としては特に限定されず、どのような構造のものであってもよい。また、カーボンナノチューブの1つの六員環の直径が0.6nmであるため、有機基が0.6nm以上の長さを有すると、カーボンナノチューブに張り付くことが抑制され、カーボンナノチューブからの離脱のきっかけになりやすい。したがって当該有機基の長さは、0.6nm以上であるのが好ましい。当該有機基の長さの上限は特に限定されず、例えば、2.0nm以下とすることができる。当該有機基の長さは、例として、シアノコバラミンの場合、
図4に示す直鎖の長さLで示される。これは、分散剤の核が備える親水性の基から最も離れた元素までの長さである。
【0025】
カーボンナノチューブの表面と物理吸着可能な対称構造をもつ分子を核とし、核に親水性の基を複数備え、親水性の基の1つが0.6nm以上の長さの有機基を有する分散剤としては、フタロシアニン骨格を核として有するC.I.Reactive Blue 21、コリン骨格を核として有するコバラミン等が挙げられる。また、コバラミン系の分散剤としては、特に、シアノコバラミンまたはヒドロキソコバラミンが好ましい。
【0026】
分散剤は、ゲル状組成物において、0.6質量%以上含まれていることが好ましい。分散剤の含有量が0.6質量%以上であると、ゲル化が良好に進行する。また、分散剤の含有量の上限は、特に限定されないが、硬さを制御する等の目的から、5.0質量%以下にすることもできる。なお、分散剤の含有量が多くなるにつれて、ゲル状組成物が柔らかくなる。
【0027】
分散剤(A)とカーボンナノチューブ(B)との質量比(A/B)は、5/1~11/1であるのが好ましい。当該質量比(A/B)がこの範囲にあることでカーボンナノチューブを水に良好に分散することができる。
【0028】
本発明の実施形態に係るゲル状組成物において、カーボンナノチューブ、分散剤、及び、水以外の成分(その他の成分)としては、特に限定されないが、カーボンナノチューブの製造工程で混入するような金属微粒子、水に含まれるミネラル分、及び、カーボンナノチューブ以外の炭素物質であるアモルファスカーボン・炭素粉末等が含まれていても良い。また、これらその他の成分は、ゲル状組成物において、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
<ゲル状組成物の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係るゲル状組成物の製造方法について詳細に説明する。
まず、上述のカーボンナノチューブと上述の分散剤とを水中に分散させてカーボンナノチューブ分散液を作製する。
【0030】
このとき、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ分散液に対して0.1質量%以上添加することが好ましく、分散剤は、カーボンナノチューブ分散液に対して0.6質量%以上添加することが好ましい。カーボンナノチューブ及び分散剤の濃度が上述の範囲であると、ゲル化が良好に進む。また、カーボンナノチューブ及び分散剤の濃度が高いほど、ゲル化の時間が短くなり、ゲル状組成物の製造効率が向上する。一方、カーボンナノチューブ及び分散剤の濃度が高すぎると、水中に分散しきれないという問題が生じるおそれがある。これらの観点から、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ分散液に対して0.1~20質量%添加することがより好ましく、分散剤は、カーボンナノチューブ分散液に対して0.6~5質量%添加することがより好ましい。
【0031】
カーボンナノチューブと分散剤とを水中に添加して撹拌することでもカーボンナノチューブ分散液を作製することができるが、超音波照射を行うことで、より良好に分散させることができる。超音波照射は、所望の分散状態や分散に要する時間によって適宜調整することができるが、例えば、20kHzの超音波を、出力10~600Wで0.5~2時間照射することが好ましい。
【0032】
超音波照射の際の水温は、0~20℃であるのが好ましい。0℃以上であると、ゲル化速度を高めることができ、20℃以下であると、ゲル化前に十分に分散をすることができ、より良いゲルが得られる。
【0033】
次に、カーボンナノチューブ分散液をゲル化させることで、ゲル状組成物を作製する。カーボンナノチューブ分散液のゲル化としては、超音波照射を行ってもよく、加熱を行ってもよく、または、超音波照射の後に加熱を行ってもよい。
【0034】
超音波照射は、所望のゲル化の進行度合いやゲル化に要する時間によって適宜調整することができるが、例えば、カーボンナノチューブ分散液に20kHzの超音波を、出力10~600Wで0.5~2時間照射することが好ましい。
【0035】
加熱は、所望のゲル化の進行度合いやゲル化に要する時間によって適宜調整することができるが、例えば、カーボンナノチューブ分散液を40~90℃で0.5~2時間加熱することが好ましい。ゲル状組成物の硬さを調製するには、加熱温度の制御が有効である。例えば、ゲル状組成物を硬くしたい場合は、加熱温度を高くし、ゲル状組成物を柔らかくしたい場合は、加熱温度を低くする。
【0036】
また、ゲル化後のゲル状組成物に対し、超音波照射を行うことで、ゲル状組成物をゾル状態に戻すことも可能である。ゲル状組成物に、更に超音波照射を行うことで、カーボンナノチューブのネットワークを破壊し、ネットワーク内に閉じ込められた水を放出することで、再びゾル状組成物を作製することができる。
【0037】
上述のように、本発明の実施形態に係るゲル状組成物及びゲル状組成物の製造方法によれば、新規なカーボンナノチューブのゲル状組成物を得ることができる。また、適切なカーボンナノチューブ及び分散剤を選び、水に分散させてゲル化させるという極めて簡便な方法によって、3次元的にカーボンナノチューブ同士が接触したゲル状組成物を得ることができる。さらに、ゲル化剤を用いることなくゲル状組成物の作製が可能となるため、原料からの体積減少が小さく、また、従来法に対し、より短時間にゲル状組成物を製造することができる。
【0038】
<ゲル状組成物の用途>
本発明の実施形態に係るゲル状組成物は、例えば、表面に凹凸があるような対象物に対して密着が得られる他、フレキシブルな導電材料として利用可能である。例えば、センサ、触媒(担体)、アクチュエータ、キャパシタ、電極、光電変換素子、熱伝導材、3D印刷用導電インク、生体用電極パッド等に利用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
カーボンナノチューブとして、直径が0.84nmである、Signis CG300(登録商標)(以下、CG300とも呼ぶ)を準備した。分散剤として、シアノコバラミンを準備した。
【0041】
次に、CG300とシアノコバラミンを、水温を0℃に保持した純水に添加して撹拌し、超音波照射を行うことで、CG300とシアノコバラミンとの分散液(カーボンナノチューブ分散液)を作製した。カーボンナノチューブ分散液中のCG300の濃度は0.17質量%であり、シアノコバラミンの濃度は2.27質量%であった。また、超音波照射については、20kHzの超音波を、出力20Wで1時間照射した。
【0042】
次に、カーボンナノチューブ分散液を60℃で1時間加熱したところ、カーボンナノチューブ分散液がゲル化した。これにより、ゲル状組成物が製造されたことを確認した。