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特許7527657水処理方法、脱窒剤または硝化促進剤の製造方法および製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】水処理方法、脱窒剤または硝化促進剤の製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240729BHJP
【FI】
C02F3/34 101A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021502390
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020008188
(87)【国際公開番号】W WO2020175661
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019034915
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510238627
【氏名又は名称】バイオ燃料技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】梶間 央士
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-202549(JP,A)
【文献】国際公開第2017/174775(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103772149(CN,A)
【文献】特開2018-009067(JP,A)
【文献】国際公開第2007/060993(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1754687(EP,A2)
【文献】国際公開第2019/039531(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/00-3/34
C07C29/00-31/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機炭素源を添加して生物学的硝化脱窒処理を行なう水処理方法であって、
グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離工程と、
により、グリセリン含有液を製造し、
得られたグリセリン含有液を、前記生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として添加する脱窒処理工程および/または硝化処理工程を備えるとともに
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化工程を備え、
前記第二のエステル化工程においては、前記第一の分離工程で分離された第一の油分および/または前記第二の分離工程で分離された第二の油分と、前記アルコール分離工程で分離された1価のアルコールとを、原料として用いる、
水処理方法。
【請求項2】
有機炭素源を添加して生物学的硝化脱窒処理を行なう水処理方法であって、
脂肪酸グリセリンエステルを含む原料と、無機酸とを、1価アルコールの存在下で反応させ、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
により、グリセリン含有液を製造し、
得られたグリセリン含有液を、前記生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として添加する脱窒処理工程および/または硝化処理工程を備え、
前記第一の分離工程における前記反応は、反応液のpHが3以下であり、反応時間が4時間以上である、
水処理方法。
【請求項3】
前記第二の分離工程の後に、前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離工程を備える、請求項に記載の水処理方法。
【請求項4】
生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として用いられる、脱窒剤または硝化促進剤の製造方法であって、
グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離工程と、
により、グリセリン含有液を製造し、
得られたグリセリン含有液を、前記生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として前記脱窒剤または前記硝化促進剤に含有させるとともに、
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化工程を備え、
前記第二のエステル化工程においては、前記第一の分離工程で分離された第一の油分および/または前記第二の分離工程で分離された第二の油分と、前記アルコール分離工程で分離された1価のアルコールとを、原料として用いる
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項5】
前記第一の分離工程における前記原料は、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリン、および遊離脂肪酸の製造過程で副生されるグリセリン、の少なくとも1種を含む、請求項に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項6】
生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として用いられる、脱窒剤または硝化促進剤の製造方法であって、
脂肪酸グリセリンエステルを含む原料と、無機酸とを、1価アルコールの存在下で反応させ、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
により、グリセリン含有液を製造し、
得られたグリセリン含有液を、前記生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として前記脱窒剤または前記硝化促進剤に含有させ、
前記第一の分離工程における前記反応は、反応液のpHが3以下であり、反応時間が4時間以上である
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
前記第一の分離工程における前記原料は、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを含む、請求項6に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項8】
前記第二の分離工程の後に、前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離工程を備える、請求項6または7に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項9】
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化工程を備え、
前記第二のエステル化工程においては、前記第一の分離工程で分離された第一の油分および/または前記第二の分離工程で分離された第二の油分と、前記アルコール分離工程で分離された1価のアルコールとを、原料として用いる、
請求項4、5または8に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項10】
前記アルコール分離工程の後に、前記1価のアルコールが分離されたグリセリン液を希釈する希釈工程を備える、請求項4、5、8または9に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項11】
前記希釈工程において、従属栄養性の微生物を用いた生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として用いられる所定濃度のメタノールとTOC指標および/またはCOD指標が同等の値となるように、前記グリセリン液を希釈する、請求項10に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項12】
前記アルコール分離工程の後に、第三の油分を分離させて除去する油分除去工程を備える、請求項4、5および8~11のいずれか一項に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項13】
前記アルコール分離工程の後に、界面活性剤を添加して油分の分離を抑制する油分分離抑制工程を備える、請求項4、5および8~12のいずれか一項に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項14】
前記第一の分離工程における前記原料は、酸価10mgKOH/g以上の高酸価油を含む、請求項4~13のいずれか一項に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項15】
前記第一の分離工程における前記無機酸が濃硫酸である、請求項4~14のいずれか一項に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項16】
前記中和工程において、グリセリン液のpHが4.0~7.5となるように中和する、請求項4~15のいずれか一項に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項17】
前記アルカリ性物質が廃グリセリンおよび/または油滓を含む、請求項4~16のいずれか一項に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
【請求項18】
生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として用いられる脱窒剤または硝化促進剤の製造システムであって、
グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離装置と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和装置と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離装置と、
前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離装置と、
を備えるとともに、
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化装置を備え、
前記第二のエステル化装置には、前記第一の分離装置で分離された第一の油分および/または前記第二の分離装置で分離された第二の油分と、前記アルコール分離装置で分離された1価のアルコールとが供給される
ことを特徴とする、脱窒剤または硝化促進剤の製造システム。
【請求項19】
生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として用いられる脱窒剤または硝化促進剤の製造システムであって、
脂肪酸グリセリンエステルを含む原料と、無機酸とを、1価アルコールの存在下で反応させ、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離装置と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和装置と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離装置と、
を備え、
前記第一の分離装置における前記反応は、反応液のpHが3以下であり、反応時間が4時間以上である
ことを特徴とする、脱窒剤または硝化促進剤の製造システム。
【請求項20】
前記第二の分離装置の後段に、前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離装置を備える、請求項19に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機炭素源を添加して生物学的硝化脱窒処理を行う水処理方法、脱窒剤または硝化促進剤の製造方法、および脱窒剤または硝化促進剤の製造システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素の発生を削減し、資源のリサイクルに繋がるような、従来の化石燃料に替わる燃料の開発が進められており、その一つとして、植物油や廃食油等を原料とするバイオディーゼル燃料が注目されている。バイオディーゼル燃料の合成方法としては、動植物の油脂および1価アルコールを原料とし、水酸化カリウム等のアルカリ性物質を触媒としてエステル交換反応により合成する方法が主流である(例えば、非特許文献1)。この合成反応において、グリセリンを含有する副産物(本明細書において「廃グリセリン」ともいう。)も生成される。
【0003】
また、油脂から遊離脂肪酸を工業的に製造する場合、その製造方法としては、高温高圧分解法、酵素分解法等が挙げられるが、いずれも動植物等に由来する油脂を加水分解して脂肪酸を遊離するものである。かかる加水分解においても、グリセリンを含有する副産物が生成される。
【0004】
グリセリンを含有する廃棄物は、触媒や未反応油脂等の不純物を多く含むものである。そのため、グリセリンそのものには、医薬品や化粧品等の原料としての用途があるものの、上述したグリセリン含有廃棄物を医薬品や化粧品等の原料として用いるためには多大なコストをかけて精製しなければならず、実用的ではなかった。そのため、グリセリン含有廃棄物は、産業廃棄物として処分されることが多かった。
【0005】
一方、食用油などの油脂が劣化すると、加水分解が生じたり、炭素鎖が切れてさらに酸化したりするため、酸価の高い油(高酸価油)となる。また、植物油脂の精製における脱酸工程において、油脂(原油)から油滓が分離される。これらの高酸価油や油滓は、脂肪酸グリセリンエステルを含む廃棄物である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本マリンエンジニアリング学会誌,2012年,第47巻,第1号,第45-50頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グリセリン含有廃棄物や脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物は、環境負荷を低減する観点から、これらを有効活用する試みがなされている。しかし、これまで提案されている方法はいずれも十分なものとはいえず、さらに近年はバイオディーゼル燃料が注目されていることから、グリセリン含有廃棄物や脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物の利用法の確立はより一層喫緊の課題となっている。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、グリセリン含有廃棄物や脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物を有効活用することのできる新たな用途、およびその用途への利用に好適なグリセリン含有廃棄物および脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料に無機酸を加え、その後グリセリン液を中和し油脂および塩を分離することで、生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として好適に利用できるグリセリン含有液を製造できるとともに、グリセリン含有廃棄物および脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物を有効に再資源化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0010】
〔1〕 有機炭素源を添加して生物学的硝化脱窒処理を行なう水処理方法であって、
グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
により、グリセリン含有液を製造し、
得られたグリセリン含有液を、前記生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として添加する脱窒処理工程および/または硝化処理工程を備える、
水処理方法。
〔2〕 前記第二の分離工程の後に、前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離工程を備える、〔1〕に記載の水処理方法。
〔3〕 生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として用いられる、脱窒剤または硝化促進剤の製造方法であって、
グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
により、グリセリン含有液を製造し、
得られたグリセリン含有液を、前記生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として前記脱窒剤または前記硝化促進剤に含有させることを特徴とする、製造方法。
〔4〕 前記第一の分離工程における前記原料は、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリン、および遊離脂肪酸の製造過程で副生されるグリセリン、の少なくとも1種を含む、〔3〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔5〕 前記第一の分離工程における前記原料は、酸価10mgKOH/g以上の高酸価油を含む、〔3〕〔4〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔6〕 前記第一の分離工程における前記無機酸が濃硫酸である、〔3〕~〔5〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔7〕 前記第一の分離工程において、前記原料と前記無機酸との混合液のpHが3以下である、〔3〕~〔6〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔8〕 前記中和工程において、グリセリン液のpHが4.0~7.5となるように中和する、〔3〕~〔7〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔9〕 前記アルカリ性物質が廃グリセリンおよび/または油滓を含む、〔3〕~〔8〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔10〕 前記第二の分離工程の後に、前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離工程を備える、〔3〕~〔9〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔11〕 前記アルコール分離工程の後に、前記1価のアルコールが分離されたグリセリン液を希釈する希釈工程を備える、〔10〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔12〕 前記希釈工程において、従属栄養性の微生物を用いた生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として用いられる所定濃度のメタノールとTOC指標および/またはCOD指標が同等の値となるように、前記グリセリン液を希釈する、〔11〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔13〕 前記アルコール分離工程の後に、第三の油分を分離させて除去する油分除去工程を備える、〔10〕~〔12〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔14〕 前記アルコール分離工程の後に、界面活性剤を添加して油分の分離を抑制する油分分離抑制工程を備える、〔10〕~〔13〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔15〕 アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化工程を備え、
前記第二のエステル化工程においては、前記第一の分離工程で分離された第一の油分および/または前記第二の分離工程で分離された第二の油分と、前記アルコール分離工程で分離された1価のアルコールとを、原料として用いる、
〔10〕~〔14〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造方法。
〔16〕 生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として用いられる脱窒剤または硝化促進剤の製造システムであって、
グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離装置と、
前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和装置と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離装置と、
を備えることを特徴とする、脱窒剤または硝化促進剤の製造システム。
〔17〕 前記第二の分離装置の後段に、前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離装置を備える、〔16〕に記載の脱窒剤または硝化促進剤の製造システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る水処理方法、本発明に係る製造方法または製造システムにより製造された脱窒剤または硝化促進剤によれば、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料を処理することで、生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として好適に利用することができるようになり、グリセリン含有廃棄物および脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物を有効に再資源化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る脱窒剤または硝化促進剤の製造方法のフローを表す図である。
図2】本発明の好ましい実施形態が備える第二のエステル化工程のフローを表す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る水処理方法における脱窒処理工程および硝化処理工程のフローを表す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る脱窒剤または硝化促進剤の製造システムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔脱窒剤/硝化促進剤の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る脱窒剤または硝化促進剤の製造方法は、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と;第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と;中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と;により、グリセリン含有液を製造し、得られたグリセリン含有液を、生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として、脱窒剤または硝化促進剤(以下、「脱窒剤/硝化促進剤」と略することがある。)に含有させるものである。
【0014】
図1は、本実施形態に係る脱窒剤/硝化促進剤の製造方法の特に好適な実施形態におけるフローを表す図である。図1においては、第一の分離工程、中和工程および第二の分離工程に加えて、任意工程であるアルコール分離工程、希釈工程、油分除去工程、および油分分離抑制工程が、第二の分離工程の後に実施されるよう図示されている。
【0015】
本実施形態の脱窒剤/硝化促進剤は、得られたグリセリン含有液を、生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として脱窒剤/硝化促進剤に含有させることで、グリセリン含有廃棄物および脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物を有効に活用できるとともに、脱窒効果および硝化促進効果に優れたものとなる。また、精製グリセリンは生分解性であるため、環境負荷のおそれが低いものとなる。
【0016】
後述するように、グリセリンを含有する廃棄物には、グリセリン以外の成分が含まれている。そのため、これらをそのまま脱窒剤/硝化促進剤として用いると、微生物を用いた生物学的硝化脱窒処理に悪影響を及ぼすおそれがある。しかし、本実施形態によれば、第一の分離工程、中和工程および第二の分離工程により油分、無機塩等の含有量が低減されているため、微生物を用いた生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源(すなわち、脱窒剤/硝化促進剤)として好適に利用することができる。また、バイオディーゼル燃料や遊離脂肪酸等の原料として様々な油脂が用いられることに応じ、グリセリン含有廃棄物の品質も一定しないという問題があるが、本実施形態によれば、品質が安定化された脱窒剤および硝化促進剤を提供することが可能となる。
さらに、本実施形態においては、第一の分離工程、中和工程および第二の分離工程を行うことで、グリセリンの収量を高め、油分の分離効率を高めることが可能となり、さらにはグリセリン含有廃棄物に限定されない多様な原料(例えば、脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物)を本方法にて処理することができる。
【0017】
(1)原料
本実施形態において用いる原料は、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含むものであれば、特に限定されない。
グリセリンを含む原料としては、例えば、グリセリンを含有する廃棄物が例示される。また、脂肪酸グリセリンエステルを含む原料は、後述する第一の分離工程において、酸触媒エステル交換反応等によりグリセリンを生成するため、これらも好適に利用することができる。
以下、グリセリン含有廃棄物および脂肪酸グリセリンエステル含有組成物についてやや詳しく説明する。
【0018】
(1-1)グリセリン含有廃棄物
本実施形態において使用し得るグリセリン含有廃棄物には、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリン、遊離脂肪酸の製造工程で副生されるグリセリン廃液、甘水、脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水などが例示される。
【0019】
ここで、遊離脂肪酸の製造工程で副生されるグリセリン廃液とは、動植物の油脂を加水分解して遊離脂肪酸を製造する場合に副生される廃棄物である。加水分解による遊離脂肪酸の製造方法としては、高温高圧分解法、酵素分解法等が挙げられる。かかる製造工程で副生されるグリセリン廃液には、グリセリンの他、未反応の油脂、部分的に加水分解された油脂等が含まれる。
また、甘水は、油脂を鹸化(アルカリ加水分解)して脂肪酸塩を生成させる場合(例えば、石鹸の製造過程など)における副生成物であり、グリセリン、水分、アルカリ等を含む。
脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水は、バイオディーゼル燃料をはじめとする脂肪酸アルキルエステルの製造過程において、反応物を洗浄したときに生じる廃水であり、水分の他、脂肪酸アルキルエステルの製造反応において副生されるグリセリンが含まれ、さらに未反応の遊離脂肪酸およびその塩、1価アルコール等が含まれる。
【0020】
次に、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンについて、やや詳しく説明する。
バイオディーゼル燃料となる脂肪酸アルキルエステルは、植物油などの原料油脂に、メタノール等の1価アルコールと、水酸化カリウム等のアルカリ触媒とを加え、エステル交換反応を行うことで得られる。
【0021】
バイオディーゼル燃料の原料油脂としては、菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油、大麻油等の植物油;魚油、豚脂、牛豚等の獣脂;天ぷら油等の廃食油;などを用いることができる。
1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、エチルヘキサノール等を用いることができ、メタノールおよびエタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム等を用いることができるが、本実施形態で分離回収される無機塩の析出性や再利用容易性等の観点から、水酸化カリウムが好ましい。
【0022】
上記エステル交換反応においては、原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリンエステルが1価アルコールと反応し、脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンが生成する。得られる反応液は、脂肪酸アルキルエステル相と、廃グリセリン相とに液々分離し、バイオディーゼル燃料の製造においては、得られた脂肪酸アルキルエステル相を回収して洗浄等を行い、バイオディーゼル燃料とする。
【0023】
一方、廃グリセリン相は、グリセリンを高濃度に含む他、未反応の1価アルコール、未反応の油脂、脂肪酸およびその塩、アルカリ触媒、さらには原料油脂に由来する夾雑物などが含まれる。廃グリセリンとしては、液状の廃グリセリンであっても良いし、また、固体状の廃グリセリンであっても良いが、作業性、取り扱い等の観点から、液状の廃グリセリンであることが好ましい。
廃グリセリンにおけるグリセリン、1価アルコール、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の含有量は特に限定されないが、通常、廃グリセリン全体に対して、グリセリンは25質量%以上65質量%以下、1価アルコールは2質量%以上20質量%以下、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の合計は30質量%以上50質量%以下となる場合が多い。本実施形態に係る脱窒剤/硝化促進剤の製造方法をより安定的に実施可能とする観点から、廃グリセリン全体に対して、それぞれ、グリセリンは30質量%以上65質量%以下、1価アルコールは3質量%以上15質量%以下、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の合計含有量は25質量%以上55質量%以下、であってよい。
【0024】
廃グリセリンはアルカリ触媒を多量に含むため、pHは9以上であることが多く、本実施形態においては、9~13であってよい。
第一の分離工程において、廃グリセリンに含まれる未反応の油脂および1価アルコールによる酸触媒エステル化反応を進行させやすくする観点から、廃グリセリンにおける水分の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。廃グリセリンにおける水分含有量は、加熱、減圧、乾燥剤等の使用、精製グリセリン中を透過させることなどにより適宜調整することができる。
【0025】
ここで、グリセリンは医薬品や化粧品等の原料となり得るが、廃グリセリンに含まれるグリセリンをかかる用途に用いるためには高純度に精製する必要があり、多大なコストやエネルギーを要する。そのため廃グリセリンはグリセリンとしての利用価値がかなり低く、従来は処理困難物となっていた。
しかし、脱窒剤/硝化促進剤として用いる場合には、比較的簡便な方法で精製したグリセリンでも十分な脱窒効果および硝化促進効果を発揮するため、安価な廃グリセリンは、本実施形態の脱窒剤/硝化促進剤の原料として特に好適である。また、本実施形態によれば、産業廃棄物である廃グリセリンを有効活用できる観点からも、環境負荷を低減することができる。
【0026】
本実施形態においては、後述する第一の分離工程における利用のしやすさの観点から、以上述べたグリセリン含有廃棄物の中でも、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリン、および遊離脂肪酸の製造工程で副生されるグリセリン廃液の少なくとも1種を用いることが好ましく、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを用いることが特に好ましい。
【0027】
(1-2)脂肪酸グリセリンエステル含有組成物
本実施形態においては、脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物も原料として用いることができる。本実施形態においては、無機酸を用いた第一の分離工程、中和工程および第二の分離工程にて行うため、脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物を用い、第一の分離工程における酸触媒エステル化反応等により、グリセリンの収量を高めることができる。脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物としては、例えば、廃食油、動植物油、高酸価油(グリストラップ油、下水油、地溝油、廃液処理再生油、マヨネーズ、ドレッシング等)の脂肪酸グリセリンエステルを主成分とする油脂;油滓、石鹸等の脂肪酸塩を主成分とする組成物;などが挙げられる。
なお、本明細書において「主成分とする」とは、当該組成物において含有量が最も多い成分(ただし最も多い成分が水である場合には2番目に含有量が多い成分)であることを意味し、好ましくは含有量が40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0028】
ここで、高酸価油は、酸価10mgKOH/g以上の油脂をいい、油脂の主成分である脂肪酸グリセリンエステルの他、遊離脂肪酸等を含む。酸価は20mgKOH/g以上であってよく、さらには50mgKOH/g以上であってもよい。なお、酸価の上限は、通常は200mgKOH/g以下である。
油滓は、植物油脂の精製における脱酸工程において油脂(原油)から分離される副生成物であり、脂肪酸塩、脂肪酸グリセリンエステル、アルカリ、水分等を含む。
【0029】
(2)第一の分離工程
第一の分離工程は、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを相分離する工程である。
本工程で分離される油分には、脂肪酸アルキルエステルの他、脂肪酸グリセリンエステル、遊離脂肪酸が含まれる。
【0030】
グリセリンを含む原料を用いる場合、中でも廃グリセリンを用いる場合には、本工程において、廃グリセリンに含まれる脂肪酸の塩が、無機酸により遊離脂肪酸に変換される。また、脂肪酸およびその塩は、無機酸を酸触媒とし、廃グリセリンに含まれる未反応の1価アルコールとのエステル化反応により、脂肪酸アルキルエステルを生成する。
【0031】
また、原料として脂肪酸グリセリンエステル含有組成物を用いる場合には、1価アルコールとのエステル交換反応により、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを生成する。この場合の1価アルコールは、別途添加することができ、例えば、後述するアルコール分離工程において回収した1価アルコールを用いることができる。また、脂肪酸グリセリンエステル含有組成物と同時に廃グリセリンを処理することにより、廃グリセリンに含まれる未反応の1価アルコールを利用してもよい。
1価アルコールの存在下で第一の分離工程を行う場合、本工程は、酸触媒エステル化工程ということもできる。なお、後述する第二のエステル化反応との対比において、第一の分離工程を「第一のエステル化工程」という場合がある。
【0032】
なお、1価アルコールが含まれない場合であっても、脂肪酸グリセリンエステルは、第一の分離工程において酸の存在下でグリセリンを生成する。また、原料に脂肪酸塩が含まれる場合は、酸により脂肪酸塩が遊離脂肪酸に変換され、グリセリンと分離しやすくなる。
そのため、原料に1価アルコールが含まれない場合であっても、本実施形態を好適に適用することができる。
【0033】
本実施形態においては、無機酸の存在下で第一の分離工程を行うため、多様な原料を同時に処理することができる。また、第一の分離工程を行うことにより、廃グリセリン、廃食油、高酸価油など、グリセリンや脂肪酸グリセリンエステルを含有する廃棄物を有効活用できるため、環境負荷の低減にも寄与することができる。
なかでも高酸価油は、酸価が10mgKOH/g以上と高いことから前述したアルカリ触媒によるエステル交換反応の原料としての利用は困難である。しかし、酸触媒エステル化反応ともいうべき第一の分離工程においては、高酸価油も原料として好適に用いることができる。
【0034】
廃グリセリンや脂肪酸グリセリンエステル含有組成物などを原料として用いる場合には、第一の分離工程で生じる脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸は、第一の油分からなる油相に移行するため、第一のグリセリン液と分離することができる。なお、油相を回収した場合、得られた第一の油分(脂肪酸アルキルエステル,遊離脂肪酸等)は、さらなるエステル化反応(後述する第二のエステル化工程)に付し、最終的にはバイオディーゼル燃料等の原料とすることができる。また、得られた油分は、脂肪酸アルキルエステルの製造以外に、コンポスト材料として活用することもできる。
一方、第一のグリセリン液は、無機酸の添加により酸性化されている。また、第一のグリセリン液は、無機酸と廃グリセリンに含まれるアルカリとから生成した無機塩を含有する。なお、無機塩の一部は析出していてもよく、すなわち第一のグリセリン液は、酸性グリセリン相と析出した無機塩とを含んでいてもよい。
【0035】
第一の分離工程において使用し得る原料は、水分含有量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。水分含有量が低い原料(例えば、水分含有量の少ない廃グリセリン等)を用いることで、後述する反応液の水分含有量を低くすることが容易となる。なお、原料の水分含有量は、加熱、減圧、乾燥剤等の使用、精製グリセリン中を透過させることなどにより適宜調整することができる。
【0036】
第一の分離工程で用いる無機酸としては、濃硫酸、リン酸、濃硝酸、塩化水素等が挙げられるが、水分含有量の低い濃硫酸およびリン酸が好ましく、濃硫酸が特に好ましい。
【0037】
第一の分離工程においては、上記原料と上記無機酸との混合液(反応液)のpHを3以下にすることが好ましく、1以下にすることが特に好ましい。反応液のpHは、上記無機酸の添加量により調整することができる。
反応液は、水分含有量を10質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以下とすることが特に好ましい。反応液の水分含有量は、各原料の水分含有量および投入量の調整、反応液への乾燥剤の使用などにより適宜調整することができる。
反応液のpHおよび水分含有量を上記範囲とすることで、酸触媒エステル化反応の効率を高めることができ、また第一の油分と第一のグリセリン液(酸性グリセリン相、無機塩を含む)とを良好に分離させることができる。
【0038】
第一の分離工程における反応液の温度は、30~64℃とすることができ、さらには50~60℃とすることができる。また、反応時間は、0.5~12時間とすることができ、さらには4~12時間とすることができる。この間は反応液を攪拌することが好ましい。
上記反応(あるいは攪拌)が終了したのち、0.2~12時間静置することで、脂肪酸アルキルエステルや未反応の油脂等を含む第一の油分と、酸性グリセリン相や無機塩を含む第一のグリセリン液とが分離する。第一の油分は、さらなるエステル化反応(後述する第二のエステル化工程)に付すことで、脂肪酸アルキルエステルの生成に用いることができる。一方、第一のグリセリン液は、続く中和工程に付される。
【0039】
(3)中和工程
中和工程は、第一の分離工程で得られた第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する工程である。
かかるアルカリ性物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物、を用いることができる。また、本実施形態においては、中和工程の後に第二の分離工程を行うことから、アルカリ性物質として多様な物質を用いることができる。
【0040】
例えば、上記アルカリ性物質として、グリセリンを含有する物質を用いることができる。かかるグリセリン含有アルカリ性物質としては、例えば、上記廃グリセリン等、油脂のアルカリ触媒エステル交換反応による副生成物;などが挙げられる。これらは、酸性グリセリンを中和できるのみならず、グリセリンの収量を高めることができるため、かかる観点からもグリセリン含有アルカリ性物質の使用は好ましい。かかるグリセリン含有アルカリ性物質は、脂肪酸塩や脂肪酸グリセリンエステルを含有するものでもよい。
上記グリセリン含有アルカリ性物質は、グリセリン含有量が25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば99質量%以下であってよく、90質量%以下であってよい。
また、上記グリセリン含有アルカリ性物質は、pHが9以上であることが好ましく、9~13であることが特に好ましい。
【0041】
さらに、上記アルカリ性物質として、脂肪酸塩を主成分とする組成物を用いてもよい。脂肪酸塩を主成分とするアルカリ性物質としては、例えば、油滓、アルカリ石鹸などが挙げられる。
【0042】
上記中和工程においては、グリセリン液のpHが4.0~7.5となるように、さらには4.5~7.0となるように、特に5.0~6.5となるように中和することが好ましい。グリセリン液のpHがかかる範囲となるように中和することで、続く第二の分離工程において、油分が分離しやすくなり、また無機塩も析出しやすくなる。グリセリン液のpHは、上記アルカリ性物質の添加量を制御することで適宜調整することが可能である。
【0043】
中和工程で得られるグリセリン液は、水分含有量が10質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。中和工程においては、水分による反応阻害といった問題は生じないが、続く第二の分離工程において無機塩を十分に析出させて分離効率を高める観点から、水分含有量の上限値を上述のように規定することが好ましい。なお、水分含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、0.5質量%以上であってもよい。
【0044】
中和工程においては、液性が酸性から中性付近に移行するよう、酸性グリセリン液を撹拌しながら上記アルカリ性物質を添加することが好ましい。前述したとおり、中和に用いるアルカリ性物質として脂肪酸塩を含有する物質を用いてもよいところ、上記のような添加順序とすることで、脂肪酸塩が酸により遊離脂肪酸に変換される。遊離脂肪酸は、グリセリン液から相分離した油相に移行し、グリセリン液のpHが高くなってもグリセリン液に再溶解し難くなる。これにより、続く第二の分離工程における分離がより一層容易となる。なお、脂肪酸塩は、上述した脂肪酸の塩を主成分とする物質のほか、油脂のアルカリ触媒エステル交換反応やアルカリ加水分解による副生成物にも含まれる。
【0045】
上記アルカリ性物質により、第一の分離工程で得られた第一のグリセリン液は中和される。中和されたグリセリン液は、続く第二の分離工程に付される。
【0046】
(4)第二の分離工程
第二の分離工程は、中和工程にて得られた中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する工程である。本工程により、第二の油分および析出した無機塩を分離して得られるグリセリン液を、第二のグリセリン液ということがある。
【0047】
ここで、分離される第二の油分には、第一の分離工程でも分離されず第一のグリセリン液に残った油脂や脂肪酸の他、中和工程において添加されたアルカリ性物質に由来する油脂や遊離脂肪酸などが含まれる。
また、第二の分離工程において分離される無機塩は、第一の分離工程において添加された無機酸(濃硫酸等)と、アルカリ(カリウム、ナトリウム等)との塩であり、好ましくは硫酸カリウムである。上記アルカリは、第一の分離工程に投入される原料(廃グリセリン等)や、中和工程において添加されたアルカリ性物質に含まれるものであり、無機塩は第一の分離工程や中和工程において析出している。
【0048】
一方、第二のグリセリン液には、グリセリンの他、廃グリセリンに由来する1価アルコールが含まれ、水分等が含まれる場合もある。かかる第二のグリセリン液に対し、油分や無機塩は溶解度が低いため、第二のグリセリン液と分離する。
【0049】
第二の分離工程においては、中和後の原料を3~12時間ほど静置後、上部液(油分)、下部液(第二のグリセリン液)を別々に回収し、下部液となる第二のグリセリン液を得ることができるが、遠心分離等により分離速度を高めることが好ましい。かかる遠心分離においては、軽液(すなわち油分)、重液(すなわち第二のグリセリン液)および固形物(すなわち無機塩)を分離することのできる三相分離型の遠心分離機を好適に用いることができる。また、本実施形態においては無機塩が多量に析出するため、デカンタ型等の固液分離が可能な遠心分離機により一定程度の無機塩をあらかじめ分離した後、液相部分をさらに三相分離型遠心分離機により分離することも好ましい。
【0050】
第二の分離工程において得られる第二の油分は、例えば、第一の分離工程において分離された第一の油分と合わせ、さらなるエステル化反応(後述する第二のエステル化工程)に付すことで、脂肪酸アルキルエステルの生成に用いることができる。
また、無機塩は、例えば、洗浄工程等を経て無機肥料等の原料とすることができる。
一方、以上のようにして得られた第二のグリセリン液は、そのまま脱窒剤/硝化促進剤(生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源)として用いることができる。
ただし、作業性の問題や、また危険物として取り扱う必要があり、これらの問題を回避する観点から、さらにアルコール分離工程などに付されることが好ましい。
【0051】
(5)アルコール分離工程
アルコール分離工程は、第二の分離工程で得られた第二のグリセリン液から1価アルコールを分離する工程である。
【0052】
上記第二のグリセリン液には、廃グリセリンに由来し、第一の分離工程(酸触媒エステル化反応)においても残存した1価アルコールが含まれ得る。かかる1価アルコールは、生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源としての効果を妨げるものではないため、脱窒剤/硝化促進剤に残存していても良いが、1価アルコールの濃度によってはグリセリン液を危険物として取り扱う必要が生じ得る。すなわち、第二のグリセリン液は、グリセリンが3価のアルコールであるため、危険物第4類(引火性液体)の第3石油類に該当する。そして、第二のグリセリン液にはエステル交換反応に寄与しなかった1価アルコール(例えば、メタノール等)が残存しているために、容量が2000L以上になると指定可燃物となる。
【0053】
ここで、従来の脱窒剤としては、メタノールが多く用いられている。消防法の規定によれば、アルコールと水以外の成分を含有せず、アルコールの含有量が60%以上である製品は、危険物第4類(引火性液体)アルコール類と分類され、貯留設備などの構造が安全性を確保するための規制の対象となるところ、脱窒剤として使用されているメタノールは非危険物として取扱うことができるように、アルコールの含有量が50%程度に調整され、貯留設備は当該規制の制限を受けることなく構築されている。
かかるメタノールの代替として、上記第二のグリセリン液をそのまま用いる場合、容量が2000L未満の貯留設備であればメタノールを対象とした既存の貯留設備をそのまま使用できるが、容量が2000L以上になると指定可燃物として規制の対象となり、メタノールを対象とした既存の貯留設備をそのまま使用することができない。これに対し、アルコール分離工程により1価アルコールを分離した後のグリセリン液は、消防法に規定する第4類引火性液体であっても引火点が無いために非危険物と判断され、容量が2000L以上であってもメタノールを対象とした既存の貯留設備をそのまま使用できるようになる。
【0054】
アルコール分離工程においては、減圧蒸留法、気液接触法、膜分離法などを採用することができる。
減圧蒸留法は、グリセリン液を加温(例えば、60℃程度)して1価アルコール等を蒸発させ、その後減圧することで1価アルコール等を分離する方法である。分離した1価アルコール等は冷却して回収することができる。
気液接触法は、グリセリン液を微細な液滴として気相と接触させ、沸点の低い1価アルコールを気相に移行させて分離する方法であり、具体的にはスプレードライ法等を好適に採用することができる。
膜分離法は、1価アルコールを優先的に透過させる膜を用いる方法である。
【0055】
なお、第二のグリセリン液には水分がさらに含まれている場合がある。かかる水分は、脱窒剤/硝化促進剤としての効果を妨げるものではなくグリセリン液に残存していてもよいが、例えば減圧蒸留法や気液接触法等においては、1価アルコールとともに気相に移行するため水分を除去することもできる。
また、上記1価アルコールを分離するアルコール分離工程の前または後に、イオン交換法や、活性白土、珪藻土、炭素、ゼオライト等を用い、さらなる精製処理を行ってもよい。
【0056】
本工程で得られたグリセリン液は、グリセリンの純度が85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることがとりわけ好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。本実施形態においては、上述した分離工程およびアルコール分離工程を介することにより、グリセリン含有廃棄物が原料であるにも関わらず、比較的簡便な方法でありながら、上記数値範囲のような高純度のグリセリン液を得ることができる。なお、グリセリンの純度はガスクロマトグラフィーにより測定した値とする。
【0057】
一方、分離された1価アルコールは、そのまま、あるいは必要に応じて再蒸留等により精製し、アルカリ触媒エステル交換反応や酸触媒エステル化反応の原料として再利用することができる。また、上記第二の分離工程において分離された無機塩等の洗浄液等として用いてもよい。
【0058】
(6)油分除去工程,油分分離抑制工程
上記第二のグリセリン液(さらには、1価アルコールを分離したグリセリン液)には、遊離脂肪酸などの油分がわずかに残存していることがある。これらの油分はグリセリン液中には良好に溶解しており、また脱窒効果および硝化促進効果を損なうものではない。しかし、これらの油分はグリセリン液を希釈すると水に溶解できず油分として相分離することがある。また、希釈工程において、中和甘水や脂肪酸アルキルエステル洗浄廃水の親水相などを用いた場合には、これらに由来する油分も希釈後に相分離することがある。相分離した油分は、脱窒剤/硝化促進剤の保管システムや送液システム等に好ましくない影響を与える場合がある。
かかる影響を避けるため、上記希釈工程の前または後に、油分を除去してもよい(油分除去工程)。また、界面活性剤を添加して相分離を抑制してもよい(油分分離抑制工程)。
【0059】
(6-1)油分除去工程
油分除去工程における具体的な方法は特に限定されず、静置分離、遠心分離、膜分離、フィルター除去などにより油分を分離するほか、活性白土、珪藻土、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、モレキュラーシーブ等の吸着剤に油分または水分を吸着させて除去してもよく、これらを適宜組み合わせてもよい。特に好ましい態様として、静置分離または遠心分離により、残存する油分の大部分を分離除去した後、膜分離、フィルター除去、吸着剤等により、さらに残存する油分の他、色素や残存する無機塩等の夾雑物も合わせて除去する方法が挙げられる。
【0060】
また、油分の分離を促進するため、所定の界面活性剤を添加することは、特に好ましい態様の一つである。具体的には、HLB値が14以下、より好ましくは13以下の界面活性剤を添加する。HLB値の下限値は特に限定されないが、例えば8以上であってよく、10以上であってもよい。なお、本明細書におけるHLB値はグリフィンのHLB計算値である。
油分分離を促進するための界面活性剤は、上記HLB値を有するものであれば、その種類は特に限定されないが、生分解性を有するものであることが好ましく、ノニオン系界面活性剤であることが好ましい。さらに具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることが好ましい。
【0061】
界面活性剤の添加量は、油分分離促進効果が発揮される限り特に限定されないが、例えば、脱窒剤/硝化促進剤に対し0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上となるように添加されると、油分分離促進効果が好適に発揮される。
一方、界面活性剤の添加量の上限は特に限定されないが、脱窒剤/硝化促進剤に対し10質量%以下、さらには5質量%以下、さらにまた1質量%以下となるように添加することができる。
【0062】
上記界面活性剤は、任意のタイミングで添加することができる。例えば、前述した希釈工程において、希釈に用いる水や水溶液等と同時に精製グリセリンに添加してもよく、また、上記界面活性剤を添加した水や水溶液等を用いて希釈してもよい。さらに、希釈した脱窒剤/硝化促進剤に上記界面活性剤を添加してもよい。
さらに、図4に図示するように、希釈前の精製グリセリンに上記界面活性剤を添加して油分を分離させて除去し、油分が分離された精製グリセリンを、希釈工程等の更なる工程に付してもよい。
【0063】
かかる界面活性剤を添加することで油分の分離が促進されるため、静置分離、遠心分離等の簡便な方法により、油分を分離することができる。静置分離による場合、静置時間は、例えば、2時間以上であってよく、24時間以上であってよく、3日以上であってよく、7日以上であってよい。
油分はグリセリン液の上層に分離するため、グリセリン液である下層を回収することで、油分を除去することができる。
【0064】
除去された油分は、これを回収して再利用してもよい。例えば、前述した第一および第二の分離工程で分離された第一および第二の油分と合わせ、さらなる酸触媒エステル化反応に付すことで、脂肪酸アルキルエステルの生成に用いることができる。
【0065】
(6-2)油分分離抑制工程
油分分離抑制工程は、所定の界面活性剤を添加することにより、油分の分離を抑制する工程である。上記精製方法で得られた精製グリセリンに対し直接行ってもよいが、上述した油分除去工程に付されたグリセリンに対し行われることが好ましい。油分除去工程の後に油分分離抑制工程が行われることにより、相当程度の油分があらかじめ除去されているため、さらなる油分の分離が効果的に抑制される。
【0066】
本工程において添加する界面活性剤は、HLB値15以上であることが好ましく、17以上であることが特に好ましい。
また、界面活性剤の種類は、上記HLB値を有するものであれば、その種類は特に限定されないが、生分解性を有するものであることが好ましく、ノニオン系界面活性剤であることが好ましい。さらに具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることが特に好ましい。
【0067】
上記界面活性剤の添加量は、油分分離抑制効果が発揮される限り特に限定されないが、例えば、脱窒剤/硝化促進剤に対し0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上となるように添加されると、油分分離抑制効果が好適に発揮される。また、必要に応じてさらに高濃度に添加しても良い。具体的には、脱窒剤/硝化促進剤に対し1質量%以上となるように、さらには2質量%以上となるように添加されても良い。
一方、界面活性剤の添加量の上限は特に限定されないが、例えば、脱窒剤/硝化促進剤に対し10質量%以下、さらには5質量%以下、さらにまた1質量%以下とすることができる。
【0068】
(7)希釈工程
本実施形態で得られるグリセリン液は、そのまま脱窒剤/硝化促進剤として用いることもできるが、グリセリンを高濃度に含むため、高粘度で作業性の問題が生じ得るとともに、また危険物として取り扱う必要がある。これらの問題を回避する観点から、本実施形態においては、さらに希釈工程を経ることが好ましい。
希釈工程は、上記グリセリン液を希釈する工程である。高粘度であるグリセリン液を希釈することで作業性を改善できるとともに、危険物としての取り扱いが不要となる。
図1においては、油分除去工程および油分分離抑制工程の後に希釈工程が図示されているが、本実施形態はこの順序に限定されるものではない。例えば、希釈工程により精製グリセリンを希釈した後、油分除去工程や油分分離抑制工程に付してもよい。
【0069】
希釈には、水道水等の水を適宜用いることができる。また、本実施形態に係る脱窒効果または硝化促進効果を損ねない範囲において、中和甘水、脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水の親水相など、グリセリンを含有する水溶液を用いてもよい。
ここで、中和甘水は、前述した甘水(油脂を鹸化して脂肪酸塩を生成させる場合における副生成物)を中和したものであり、グリセリン、水分のほか、少量の無機塩を含む。
また、脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水の親水相は、前述した脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水から遊離脂肪酸およびその塩を除去したものであり、水分、グリセリン、1価アルコール等を含む。
なお、グリセリンを含有するこれらの水溶液は、脂肪酸や脂肪酸アルキルエステル等が含まれる場合があるため、これらを希釈に用いる場合には、後述する油分除去工程や油分分離抑制工程の前に行うことが好ましい。
中和甘水、脂肪酸アルキルエステル洗浄廃水の親水相などは、グリセリン以外の成分も含む水溶液であるが、使用量を調整すれば脱窒効果および硝化促進効果に支障はなく、これらは産業廃棄物でありながら有効活用できるため、環境負荷を低減することができる。
希釈倍率は、脱窒効果または硝化促進効果を発揮する限りにおいて特に限定されないが、例えば、水を用いて希釈する場合は、グリセリン液:水が1:0.5~1:4であってよく、1:2~1:4であってよい。
【0070】
グリセリン含有液を脱窒剤として用いる場合、希釈工程においては、従属栄養性の微生物を用いた生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として用いられる所定濃度のメタノールと、TOC指標および/またはCOD指標が同等の値となるように、1価アルコールを分離したグリセリン液を希釈することが好ましい。これにより、従来有機炭素源として用いられていた所定濃度のメタノールと同等の脱窒性能を発揮する脱窒剤として、グリセリン液を効果的に利用できるようになる。
ここで、TOC(全有機炭素)とは、水中の有機物の総量を、「有機物中に含まれる炭素量」として表現する指標である。また、COD(化学的酸素要求量)とは、水中の有機物量を、「酸化剤により分解した時の酸素消費量」として表現する指標であり、使用する酸化剤の種類や反応条件に応じて複数の種類がある。本実施形態では、COD指標として、酸化剤に二クロム酸カリウムを用いる「CODCr」を好適に用いることができる。酸化剤に過マンガン酸カリウムを使う「CODMn」は実際の有機物量に対する捕捉率が低いためである。
【0071】
以上のようにして得られたグリセリン含有液は、生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として好適であり、脱窒剤/硝化促進剤として用いることができる。
上記脱窒剤/硝化促進剤は、本実施形態の効果を阻害しない範囲において、添加剤を含有してもよい。かかる添加剤としては、例えば、pH調整剤、殺菌剤、キレート剤、色素、香料などが挙げられる。
【0072】
以上の方法により製造された脱窒剤/硝化促進剤は、生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として脱窒効果および硝化促進効果に優れる。本実施形態によれば、グリセリン含有廃棄物を処理することで、生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として好適に利用することができるようになり、グリセリン含有廃棄物を有効に再資源化することができる。
【0073】
なお、上記実施形態における各要素は、適宜設計変更などが可能である。例えば、上記実施形態に係る脱窒剤/硝化促進剤の製造方法においては、次に述べる第二のエステル化工程をさらに備えていても良い。
【0074】
(8)第二のエステル化工程
上述した第一および第二の分離工程においては、分離した油相より第一および第二の油分がそれぞれ回収される。また、上述したアルコール分離工程においては、分離した1価アルコールが回収される。これらは、アルカリ触媒法による脂肪酸アルキルエステルの製造における原料として循環供給することも考えられるが、純度が必ずしも高くないため、そのままの状態で原料として用いようとすると、脂肪酸アルキルエステルを効率的に製造することが困難な場合がある。また、第一および/または第二の油分には、遊離脂肪酸等の酸価の高い油脂が含まれており、とりわけ第一の油分は、酸触媒を用いたエステル化反応ともいうことができる第一の分離工程(第一のエステル化工程)にて分離されたものであるため、酸性の油分となっている。そのため、第一および第二の油分をそのままアルカリ触媒による脂肪酸アルキルエステルの製造の原料として用いることはより一層困難となる。
【0075】
しかし、アルカリ触媒法以外の方法であれば、酸価の高い油脂であっても、脂肪酸アルキルエステルを製造することが可能である。そこで、本実施形態においては、アルカリ触媒法以外の方法により脂肪酸アルキルエステルを製造する、第二のエステル化工程を備えることが好ましい。
【0076】
第二のエステル化工程においては、第一の分離工程で分離された第一の油分、および/または上記第二の分離工程で分離された第二の油分を原料として用いることが好ましい。
また、上記アルコール分離工程で1価のアルコールが回収されている場合には、かかる回収された1価のアルコールを原料として用いることもまた好ましい。
その他の原料としては、上記酸反応工程(第一のエステル化工程)と同様の原料(高酸価油等)を用いることができる。
【0077】
これらを原料とすることにより、上述した脱窒剤/硝化促進剤の製造において、産業廃棄物をより一層効率的に再資源化することが可能となる。アルカリ触媒法以外の方法であれば、これらの原料であっても好適に用いることができる。
【0078】
第二のエステル化工程で採用し得る方法は、アルカリ触媒法以外の方法であり、より具体的には、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法が例示される。これらの方法であれば、酸価の高い廃食油や油脂であっても、さらには未反応の遊離脂肪酸を含む油脂であっても、メタノールなどの1価アルコールとエステル交換反応を行うことができる。
【0079】
第二のエステル化工程においては、脂肪酸アルキルエステルを含有する油分とともに、グリセリンが副生される。第二のエステル化工程で得られる油分と、グリセリン液とは、静置、遠心分離等により、相分離させることができる。分離した油分は、脂肪酸アルキルエステルを回収し、バイオディーゼル燃料等とすることができる。一方、副生されたグリセリンは、例えば、上記第一の分離工程(第一のエステル化工程)で得られた第一のグリセリン液とともに中和工程に供給することができる。このように構成すると、第二のエステル化工程で副生されたグリセリンについても、中和工程、第二の分離工程等を経てグリセリン液の一部とすることができるため、より一層効率的に再資源化することができる。
【0080】
第二のエステル化工程として、上述したアルカリ触媒法以外の方法の中でも、特に酸触媒法を採用することが好ましい。
図2に示すように、第二のエステル化工程として酸触媒法を採用する場合には、上記第一の油分および/または第二の油分を原料として用いる。その他の原料としては、アルコール分離工程で回収された1価のアルコールを用いることができ、さらには、第一の分離工程(第一のエステル化工程)と同様の原料(高酸価油等)を用いても良い。
第二のエステル化工程で得られた反応液は、脂肪酸アルキルエステルを含む油分と、副生したグリセリンや酸触媒およびその塩等を含むグリセリン液とに分離させる。得られる油分およびグリセリン液はいずれも酸性となっており、このうち酸性グリセリン液は上記中和工程などに供給することができる。
【0081】
一方、脂肪酸アルキルエステルを含む油分については、中和や脱水等を行うことが好ましい。ここで、中和・脱水の方法としては、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを用いる方法が好ましく例示される。具体的には、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを脱アルコール化してタンク等に貯留しておき、当該タンクの下部から、中和させる油分を投入して廃グリセリンと接触させる。これにより、酸性の油分は廃グリセリンのアルカリにより中和され、さらに油分に含まれる水および1価アルコールは廃グリセリン液に吸収される。そして、下部から投入された油分は比重差により上部からオーバーフローされるため、容易に回収することができる。このような方法により、中和、脱水および脱アルコールを同時に行うことができ、高品質な油分を簡便に得ることができる。なお、水および1価アルコールを吸収した廃グリセリン液は、上述した中和工程に供給することができ、第二の分離工程等を経てグリセリン含有液の一部とすることができる。
【0082】
なお、第二のエステル化工程において、酸触媒法以外の方法としては、生体触媒法、超臨界法、亜臨界法を好ましく例示することができる。
生体触媒法は、エステル変換反応の触媒活性を備えたリパーゼやホスホリパーゼを用いて、エステル交換反応を促す方法である。生体触媒法は、反応条件が穏やかであるが、酸価値の高い油脂であってもエステル交換反応を促進でき、副生成物が少ないという特性がある。
超臨界法や亜臨界法は、温度や圧力を調整して、原材料を超臨界状態または亜臨界状態に変えることで、物質の相状態を気液二相から液液二相、さらに誘電率を下げて一相へと変化させて、本来触媒を用いる必要があった反応系を無触媒系へと変えて、加水分解を促進する方法である。
【0083】
このような第二のエステル化工程を行うことにより、産業廃棄物をより一層効率的に再資源化することが可能となる。
【0084】
〔水処理方法〕
以上の方法により製造された脱窒剤/硝化促進剤は、し尿処理場等で実施される汚水処理において、生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として用いることができる。
以下、上記脱窒剤/硝化促進剤を用いた脱窒処理工程および硝化処理工程について説明する。
図3に示すように、し尿処理場では、窒素含有有機性廃水を処理するために、循環脱窒法など、従属栄養性の微生物を用いた生物学的硝化脱窒法が採用されている。当該硝化脱窒法は、被処理水中のアンモニア性窒素をアンモニア酸化細菌により亜硝酸性窒素に酸化し、更に亜硝酸性窒素を亜硝酸酸化細菌により硝酸性窒素に酸化する硝化処理工程と、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素を従属栄養性の脱窒菌により窒素ガスにまで分解する脱窒処理工程を経て、被処理水中のアンモニア性窒素を窒素ガスにまで分解する方法である。なお、硝化処理工程の硝化液が脱窒処理工程に循環供給される。
【0085】
このような、脱窒処理工程における、メタノールの代替品として、上述のグリセリン含有廃棄物の処理における第一および第二の工程を経て取り出されたグリセリン含有液を、従属栄養性の微生物を用いた生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として添加する。この場合、用いるグリセリン含有液は、主に脱窒剤として作用する。
【0086】
一方、硝化処理工程において、従属栄養性の微生物を用いた生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として上述のグリセリン含有液を添加することもできる。この場合、用いるグリセリン含有液は、主に硝化促進剤として作用する。
本実施形態に係る硝化促進剤は、BOD(生物化学的酸素要求量)に対するアンモニア性窒素(NH-N)の比が大きい被処理水を処理する場合に、特に好適に利用可能である。このような被処理水は、アンモニア性窒素に対してBODが不足しているということができ、硝化細菌(アンモニア酸化細菌,亜硝酸酸化細菌)による硝化反応が十分に進行しない場合があるが、本実施形態に係る硝化促進剤を添加することで、有機炭素源が補われてNH-NとBODとのバランスが良好なものとなり、硝化細菌による硝化反応が好適に進行しやすくなる。
このような被処理水としては、例えば、NH-N(mg/L):BOD(mg/L)の比が50:100以上、さらには100:100以上となるような被処理水が挙げられる。このような被処理水に対し、本実施形態に係る硝化促進剤を添加し、NH-N(mg/L):BOD(mg/L)の比を、例えば30:100以下、さらには20:100以下などに調整することで、硝化反応がより好適に促進される。
【0087】
上述したグリセリン含有液は、脱窒処理工程または硝化処理工程のいずれか一方に添加してもよく、両工程に添加してもよい。これらは、脱窒反応および硝化反応の程度に応じて適宜調整することができる。
【0088】
当該グリセリン含有液は、従属栄養性の微生物を用いた生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として短時間に分解されるので、有機汚濁物質が残存しにくい。
【0089】
このように、生物学的硝化脱窒法の脱窒処理工程で有機炭素源として大量のメタノール等を添加する代わりに、脂肪酸メチルエステルの製造工程で副生される廃グリセリン等のグリセリン含有廃棄物や、高酸価油や油滓等の脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物を有効利用することで、メタノール分の薬品コストを削減することができるとともに、化石燃料由来のメタノールを使用しないことによる温室効果ガスの排出量を抑制することができるようになる。
【0090】
〔脱窒剤/硝化促進剤の製造システム〕
上述した実施形態に係る脱窒剤/硝化促進剤の製造方法を実現することのできる、本発明の一実施形態に係る脱窒剤/硝化促進剤の製造システムについて説明する。
【0091】
図4に示すように、脱窒剤/硝化促進剤の製造システム1は、第一の分離装置11と、中和装置12と、第二の分離装置13とを備えて構成されている。なお、図4に図示される脱窒剤/硝化促進剤の製造システム1は、さらにアルコール分離装置14と、貯留タンク15と、第二のエステル化装置21とを備えている。
【0092】
原料である、グリセリンまたは脂肪酸グリセリンエステルを含む組成物は、無機酸とともに、第一の分離装置11に投入され、酸触媒エステル交換反応等が行われる。一定時間が経過すると、反応液は酸性グリセリン相(第一のグリセリン液)と油相(第一の油分)とに相分離する。
第一のグリセリン液には、グリセリン、無機塩、1価アルコール等が含まれており、第一のグリセリン液は中和装置12に供給され、アルカリ性物質が投入されて中和される。
【0093】
中和装置12にて中和して得られた中和グリセリン液は、第二の分離装置13に供給され、第二のグリセリン液、油分(第二の油分)、および無機塩に分離される。第二の分離装置13としては、三相分離型遠心分離機などを好適に用いることができ、その前段にデカンタ型などの固液分離可能な遠心分離機などを設けても良い。
なお、第二の分離装置13より分離された無機塩は、肥料などに用いることができる。
【0094】
第二の分離装置13で分離された第二のグリセリン液には、1価アルコールが残存しており、これをアルコール分離装置14にて分離する。希釈されたグリセリン含有液(脱窒剤/硝化促進剤)は、貯留タンク15に送られ貯留される。
なお、アルコール分離装置14、および脱窒剤/硝化促進剤貯留タンク15は、同じ敷地に設けられている必要はない。例えば、アルコール分離装置14で1価アルコールが分離されたグリセリン液である脱窒剤/硝化促進剤を、車載タンク等により距離が離れた貯留タンク15に輸送してもよい。
【0095】
さらに、本実施形態の好ましい一態様においては、脱窒剤/硝化促進剤の製造システム1は、さらに第二のエステル化装置21を備えている。第二のエステル化装置21は、アルカリ触媒法以外の方法を用いて脂肪酸アルキルエステルを製造するためのエステル化反応槽で構成されている。第二のエステル化装置21には、第一の分離装置11で分離された油分(第一の油分)、および/または、第二の分離装置13で分離された油分(第二の油分)が供給され、さらに、アルコール分離装置14で分離された1価アルコールが供給される。
第二のエステル化装置21においては、アルカリ触媒法以外の方法、より具体的には、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法または固体触媒法が実施される。これらのいずれかの方法によりエステル化反応(エステル交換反応を含む)が行われ、脂肪酸アルキルエステルを含む油分と、グリセリン液とが分離される。副生されたグリセリン液は、例えば、上述した中和装置12に供給され、中和および分離を経て脱窒剤/硝化促進剤の原料として再資源化することができる。
なお、第二のエステル化装置21において酸触媒法によりエステル化反応が行われる場合は、脂肪酸アルキルエステルを含む油分は酸性となっている。かかる酸性の油分は、廃グリセリンを貯留したタンク等(図示しない)の下部から注入してグリセリン相の上部にオーバーフローさせることで、中和・脱水・脱アルコール化を同時に行ってもよい。
【0096】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0097】
以下、実施例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0098】
(廃グリセリンの準備)
水酸化カリウムを触媒とするアルカリ触媒法により、廃食油とメタノールとをエステル交換させてバイオディーゼル燃料を製造した。このとき生成したグリセリンを含む副生成物を廃グリセリンとして回収した。
【0099】
この廃グリセリンにゼオライトを廃グリセリン1kgあたり20g添加して水分を除去した。ゼオライトが添加された廃グリセリンは、250メッシュのフィルターを通過させて、ゼオライトおよび固体状の不純物を除去した。
こうして得られた原料としての廃グリセリン(以下、「原料廃グリセリン」という。)の組成および物性は表1に示すとおりであった。
【0100】
【表1】
【0101】
(第一の分離工程)
加温冷却機能を有する容量1000Lの反応タンクに、原料廃グリセリン500kg、高酸価油(150mgKOH/g)300kgを投入し、攪拌(120rpm)しながら55℃まで加温した。この状態で、濃硫酸32Lを反応容器中に15分かけて添加した。濃硫酸の添加にあたり、反応容器中の混合物の温度が65℃を超えないように留意した。濃硫酸を全量添加した後の反応液のpHは1であった。濃硫酸の添加終了後、240分間攪拌を継続した。その後10時間静置し、油相(第一の油分)と酸性グリセリン相(第一のグリセリン液)とに分離させ、第一のグリセリン液(酸性グリセリン相,析出した硫酸カリウムを含む)を回収した。以上の操作を繰り返すことにより、第一のグリセリン液5000kgを得た。
【0102】
(中和工程)
容量15000Lの反応タンクに、攪拌しながら第一のグリセリン液5000kg、廃グリセリン5000kgを投入した。pHは5.0であった。その後も4時間攪拌を継続し、その後24時間静置した。
【0103】
(第二の分離工程)
中和されたグリセリンを、デカンタ型遠心分離機(製品名:Z18H-V,タナベウィルテック社製)にて5500rpm、180分間処理し、析出した硫酸カリウムを分離回収した。液相について、さらに三相分離型遠心分離機(アルファ・ラバル社製)にて8000rpm、180分間処理し、第二の油分、第二のグリセリン液、硫酸カリウムをそれぞれ分離回収した。
【0104】
(アルコール除去工程,希釈工程)
三相分離により得られたグリセリン含有液を蒸留してメタノールおよび水を除去し、純度99質量%(ガスクロマトグラフィーにて測定)の精製グリセリンを得た。
得られた精製グリセリンを、水で希釈し1週間静置し、分離した油相を除き、得られた希釈グリセリン相について、バグフィルター5ミクロンおよび活性白土を充填したカラム内を通過させ油分(および夾雑物)を除去し、脱窒剤/硝化促進剤Aを得た。また、脱窒剤/硝化促進剤Aに界面活性剤(製品名:ソフタノール,日本触媒社製)0.1質量%を投入し、脱窒剤/硝化促進剤Bを得た。
【0105】
(脱窒処理試験)
以上のようにして得られた脱窒剤AおよびBについて、以下のようにして脱窒効果を試験した。
【0106】
既存設備における生物処理後の活性汚泥を採取してビーカーに2Lずつ分取し、スターラーで撹拌しながら30℃で24時間放置し、残存するアンモニア等を全て硝酸まで硝化させた。かかる前処理の後における硝酸性窒素(NO-N)は10.2mg/Lであり、亜硝酸性窒素(NO-N)は検出されなかった。次に、前処理後の活性汚泥2Lに10%硝酸カリウムを5mL添加し、前処理後に残存するNO-Nと合わせた初期NO-Nを44.5mg/Lに設定した。
【0107】
硝酸カリウムを添加して10分後に、脱窒剤AおよびBをそれぞれ2mLずつ添加し、脱窒素試験を開始した。なお、対照として水2mLを添加した試験区と、比較例として比較例として50%メタノール2mLを添加した試験区を設定した。各試験区の設定、炭素源の比重およびTOC量を表2に示す。なお、TOC量はポータブル吸光光度計(DR900,HACH社製)およびメーカー提供の測定試薬により測定した。
【0108】
【表2】
【0109】
脱窒素試験においては、試験開始後0h、3h、6h、9h、12hおよび24hにサンプリングを行い、直ちに遠心分離(3500rpm×15分)およびろ紙(No.5C)によりろ過した。得られたろ液について、アニオン用イオンクロマトグラフィーにより硝酸性窒素(NO-N)および亜硝酸性窒素(NO-N)を測定し、これら2種の合計としてNO-Nを算出した。
【0110】
試験区2および3では、NO-Nが試験開始後3時間後に16~17mg/Lにまで減少し、6時間後にはNO-Nがほぼ消滅していた。これに対し、比較例である試験区4では6時間後には約30mg/LのNO-Nが残存し、24時間後にほぼ消滅していた。なお、対照である試験区1では、6時間後で約40mg/L、24時間後でも32mg/L程度のNO-Nが残存していた。
これらの結果より、本発明品である脱窒剤AおよびBが、優れた脱窒効果を有することが確認された。なお、ソフタノールの添加(脱窒剤B)による脱窒効果への影響は認められなかった。
【0111】
(硝化処理試験)
以上のようにして得られた硝化促進剤Bについて、以下のようにして硝化促進効果を試験した。
【0112】
硝化処理試験においては、既存設備における生物処理後の活性汚泥および膜分離後の透過液を用いた。かかる活性汚泥および膜透過液の分析結果は以下のとおりであった。
【0113】
【表3】
【0114】
上記活性汚泥2.5L、上記透過液2.5Lおよび水道水5Lの合計10Lの試験区1および2を設定した。また、上記活性汚泥1Lおよび上記透過液3Lの合計4Lをブランク区として設定した。これらはいずれも浮遊物質(SS)が2300mg/Lとなるよう調整されたものとなる。
【0115】
上記の各試験区を容器に入れて27℃の恒温室内でエアレーションを行うことにより、硝化試験を開始した。
試験区1(実施例)には、炭素源としての硝化促進剤B(BOD:400,000mg/L)を7.5mL/日ずつ添加した。かかる試験区1におけるBOD/SS負荷は0.13kg/kg・日となる。
一方、試験区2(比較例)には、50%メタノールを7.5mL/日ずつ添加した。ブランクには炭素源を添加しなかった。
なお、7日、13日、18日後においてpHが6を下回った試験区については、0.3M NaOHを添加してpH調整を行った。また、試験過程で適宜溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素不足がないことを確認した。
【0116】
硝化試験においては、試験開始後4日、8日、14日および19日後に40mLずつサンプリングを行い、直ちに遠心分離(3500rpm×5分)およびろ紙(No.5C)によりろ過した。得られたろ液について、HACH社製簡易分析計にてNH-N(mg/L)を測定した。
【0117】
ブランクでは、NH-Nが試験開始時の1200mg/L程度から徐々に増加していった。これは、本試験で用いた活性汚泥のBODが僅少であって硝化反応が進行せず、さらに馴化期間中に炭素源(BOD源)を加えていないため、自己分解が進みアンモニアが増加したものと考えられる。
試験区1(硝化促進剤B)では、NH-Nが試験開始時の600mg/Lから4日後、8日後までは大きな変化が見られなかったものの(500~700mg/L)、14日後には大きく減少して検出限界以下となり、19日後も同様であった。この結果は、この活性汚泥で不足していたBODが、硝化促進剤Bを加えることに補われ、硝化細菌による硝化反応が促進されて、NH-Nが減少したものと認められる。なお、各試験区を入れた容器内において、汚泥が滞留する嫌気ゾーンの存在が目視で確認されたことから、硝化反応とともに脱窒反応も進んだものと考えられる。
一方、試験区2(50%メタノール)では、NH-Nが試験開始時の600mg/Lから4日後、8日後、14日後および19日後に至っても、大きな変化が見られなかった(500~700mg/L)。すなわち、メタノールを炭素源として用いても、硝化促進効果は乏しいものと認められた。
これらの結果より、本発明品である硝化促進剤が、優れた硝化促進効果を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源として脱窒効果および硝化促進効果に優れた脱窒剤/硝化促進剤を製造することができるとともに、グリセリン含有廃棄物を、生物学的硝化脱窒処理における有機炭素源として好適に利用することができる処理方法を提供することができ、グリセリン含有廃棄物を有効に再資源化することができる。さらに、従来は利用価値が低いとされていた廃グリセリンや高酸価油等を利用することができ、産業上の利用価値は大なるものがある。
【符号の説明】
【0119】
1:脱窒剤/硝化促進剤の製造システム
11:第一の分離装置
12:中和装置
13:第二の分離装置
14:アルコール分離装置
15:貯留タンク
21:第二のエステル化装置
図1
図2
図3
図4