IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 泰喜物産株式会社の特許一覧

特許7527697豆腐用凝固剤およびこれを利用した豆腐の製造方法
<>
  • 特許-豆腐用凝固剤およびこれを利用した豆腐の製造方法 図1
  • 特許-豆腐用凝固剤およびこれを利用した豆腐の製造方法 図2
  • 特許-豆腐用凝固剤およびこれを利用した豆腐の製造方法 図3
  • 特許-豆腐用凝固剤およびこれを利用した豆腐の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】豆腐用凝固剤およびこれを利用した豆腐の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/45 20210101AFI20240729BHJP
【FI】
A23L11/45 106A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024031937
(22)【出願日】2024-03-04
【審査請求日】2024-03-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507108265
【氏名又は名称】泰喜物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 健三
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸隆
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-012090(JP,A)
【文献】特開2015-192613(JP,A)
【文献】特開昭61-227756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/00- 11/70
CAplus/MEDLINE/AGRICOLA/EMBASE/FSTA/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルからなる油相と、塩化マグネシウム水溶液を水相とする油中水型乳化物を有効成分とする豆腐用凝固剤であって、
前記凝固剤中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が2.4~6.0質量%であり、
油相中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに対して、質量比で0.01~0.12のコメヌカロウ及び/又はカルナバロウを含有させたことを特徴とする豆腐用凝固剤。
【請求項2】
水相中の塩化マグネシウム・6水和物の濃度が50~70質量%であり、油相中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの濃度が6~20質量%であり、水相/油相比が60/40~75/25である請求項1の豆腐用凝固剤。
【請求項3】
豆腐の製造に、請求項1または2記載の豆腐用凝固剤を用いることを特徴とする豆腐の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化形態の豆腐用凝固剤およびこれを利用した豆腐の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐は、豆乳に苦汁等の凝固剤を添加して大豆タンパクを架橋し、ゲル化させることで製造される。この凝固剤としては、穏やかな甘味を付与して大豆風味を引き立てる豆腐に仕上げることができる塩化マグネシウムが多用されている。ただし、塩化マグネシウムの凝固作用(大豆タンパクの架橋・ゲル化)は非常に速効性であり、豆乳中に均一拡散する前に凝固反応が素早く進行し、ゲル化組織の均質性に優れた高品位な豆腐を得るには、小スケールに限り、かつ、熟練した技術を要する。
【0003】
凝固剤として塩化マグネシウムを用いて均一な大豆タンパク架橋・ゲル組織の豆腐を製造するために、油脂及び乳化剤を導入し、塩化マグネシウムを内相とする油中水型乳化形態にすることにより、その速効性を制御した遅効性を有する豆腐用凝固剤が開発されてきた。特許文献1には、植物性油脂とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを油相として、塩化マグネシウム水溶液を水相として均質乳化した油中水型乳化凝固剤が提案されている。また、特許文献2には、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含むプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる油相中に、多価アルコールとデキストリンを含む塩化マグネシウムを混合分散し、微粒子化した凝固剤が提案されている。
【0004】
上記特許文献に記載の油中分散乳化形態の塩化マグネシウム凝固剤により、豆腐凝固プロセスでの塩化マグネシウムの速効性が大きく制御され、つまり、遅効性を付与でき、連続自動豆腐凝固製造システムの普及と相まって、豆腐の大量生産が定着し、ここ25年豆腐製造業の工業的発展が図られてきた。また、特許文献3、4には油中水型乳化物である豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウムの高濃度化が図られている。
【0005】
いずれも、耐塩性に優れた強力な油中水型乳化剤であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、塩化マグネシウムを主体とする乳化形態の凝固剤製剤には必須であり、凝固剤中の塩化マグネシウム濃度の高濃度化に従って、油相中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの濃度も高くせざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-32942号公報
【文献】特開2006-101848号公報
【文献】特開2015-100280号公報
【文献】国際公開第WO2019/224892号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを用いた豆腐用凝固剤製剤は、その添加量が多過ぎると、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル特有の異味により豆腐の風味を害する場合がある。また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを用いた製剤は、その強い乳化力により豆乳中に分散しにくいという特徴を有するため、強力なせん断力で攪拌をおこなわなければ凝固にムラが生じ、白い油滴が豆腐中に残留し(図1)、これがフィルムやパックに粒状に付着することがある。また、調理によって湯豆腐などで浮遊物としてあらわれクレームにもなる。
【0008】
連続成型ラインでの大量生産においては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルによる遅効性の付与は飛躍的に生産効率を高めるが、カット絹製品の生産、崩し工程を経た木綿豆腐の生産において、この白い油滴により、ベルトラインへの付着、水晒し工程での廃水汚染をもたらし、特に、昨今の大規模工場では、この廃水処理に多大な経費を費やしている。このような白い油滴の存在により豆腐の製造に種々の問題が生じることは本出願人が初めて見出したものである。
【0009】
本発明の課題は、上記のようなポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを油相に含有する油中水型乳化物を有効成分とする豆腐用凝固剤において、豆腐製造時に生じる白い油滴(浮遊物)の発生を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、油相中に特定の種類のロウを特定の量で含有させることにより、豆腐製造時に生じる白い油滴の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、植物油とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルからなる油相と、塩化マグネシウム水溶液を水相とする油中水型乳化物を有効成分とする豆腐用凝固剤であって、
油相中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに対して、質量比で0.01~0.12のコメヌカロウ及び/又はカルナバロウを含有させたことを特徴とする豆腐用凝固剤である。
【0012】
また、本発明は、豆腐の製造に、上記豆腐用凝固剤を用いることを特徴とする豆腐の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の豆腐用凝固剤は、豆腐製造時に生じる白い油滴の発生を抑制できるため、豆腐製品の品質改善、生産ラインでのトラブル抑制に有用である。また、本発明の豆腐用凝固剤を用いると製造される豆腐自体の味も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを6質量%含有する従来の豆腐用凝固剤で凝固させた絹豆腐(400g)を2Lビーカーの中でホイッパー3回転で崩したあと、加水表面に浮上してくる白い油滴(浮遊物)を示す図である。
図2】試験例1において、型箱中の絹豆腐をホイパーで均一に崩した後の状態を示す図である。
図3】試験例1において、型箱に上清分取して回収した白い油滴(浮遊物)を示す図である。
図4】試験例1において、回収、濾別した白い油滴(浮遊物)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の豆腐用凝固剤は、植物油とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルからなる油相と、塩化マグネシウム水溶液を水相とする油中水型乳化物を有効成分とするものであって、油相中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに対して、質量比で0.01~0.12のコメヌカロウ及び/又はカルナバロウを含有させたものである。
【0016】
上記で用いられる植物油は、食用であれば特に限定されず、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、ヤシ油、パーム油、オリーブ油等が挙げられる。これら植物油は1種または2種以上を混合して用いることもできる。これらの植物油は常温で液状を有するものに限られる。
【0017】
上記で用いられるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、PGPRと呼ばれるものである。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを構成するグリセリン重合体のグリセリン単位の数に特に制限はないが、乳化安定性の観点から、グリセリン重合度(平均重合度)を4~6とすることが好ましい。また、同様の観点から、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルにおける縮合リシノレイン酸は、2~5分子のリシノレイン酸が縮合した構造であることが好ましい。これらポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
上記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの物性は特に限定されず、酸価、水酸基価、ヨウ素価等は豆腐用の凝固剤に用いることのできる一般的な範囲であればよい。
【0019】
上記で用いられるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは通常の方法で合成することができる。また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、例えば、MASEMUL PGPR9090(PT.MUSIM MAS製)、サンソフトNo.818SK(太陽化学社製)、サンソフトNo.818R(太陽化学社製)、SYグリスターCR-500(阪本薬品工業社製)、ポエムPR-300(理研ビタミン社製)等の商品名で市販されているものを用いてもよい。
【0020】
上記で用いられるコメヌカロウ及び/又はカルナバロウは、特に限定されないが、融点が70~90℃、好ましくは73~87℃のものが挙げられる。これらの中でも融点80℃のコメヌカロウ及び/又は融点83℃のカルナバロウが好ましい。これらはそれぞれ精製ライスワックスS-100(横関油脂工業製)、精製カルナウバワックスR-100(横関油脂工業製)等の商品名で市販されているので、これを用いることができる。
【0021】
本発明の豆腐用凝固剤において、油相を構成するポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの油相における含有量は特に限定されないが、例えば、6.0~20.0質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは8.0~16.0%である。また、豆腐用凝固剤におけるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は特に限定されないが、例えば、1.8~8.0%、好ましくは2.4~5.0%である。
【0022】
また、上記油相には、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに対して、質量比で0.01~0.12、好ましくは0.02~0.10のコメヌカロウ及び/又はカルナバロウを含有させる。上記油相には、コメヌカロウとカルナバロウの一方を含有させても構わないが、両方含有させることが好ましく、特にコメヌカロウとカルナバロウを質量比で70:30~30:70、好ましくは70:30~50:50で含有させることがより好ましい。
【0023】
上記油相中にコメヌカロウ及び/又はカルナバロウを含有させる方法は特に限定されないが、コメヌカロウ及び/又はカルナバロウの融点以上、例えば、油相を形成するのに用いる植物油の一部を90~100℃に加熱し、これにコメヌカロウ及び/又はカルナバロウを溶解させた後、50℃以下に急速冷却する方法等が挙げられる。急速冷却した後には、植物油中にコメヌカロウ及び/又はカルナバロウの微結晶が析出している。ここで微結晶とはレーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-2300(島津製作所)で測定したメジアン径が100μm以下、好ましくは30μm以下であることをいう。
【0024】
上記油相は、上記のようにコメヌカロウ及び/又はカルナバロウを含有させた植物油と、別途残りの植物油にポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを混合したものとを攪拌機等で混合して調製する。
【0025】
なお、上記油相には必要により、例えば、モノアシルグリセロール、ソルビタン脂肪酸エステル等のポリオール脂肪酸エステル等を含有させてもよいが、上記成分からなるものが好ましい。
【0026】
上記で用いられる塩化マグネシウム水溶液は、塩化マグネシウムを含有する水溶液であれば特に限定されないが、例えば、塩化マグネシウム・6水和物の濃度が50~70%、好ましくは60~70%である。このような塩化マグネシウム水溶液は、塩化マグネシウム・6水和物を上記濃度となるように水に溶解して、これを水相とすればよい。
【0027】
なお、上記水相には必要により、例えば、塩化カルシウム等の無機塩等を含有させてもよいが、上記成分からなるものが好ましい。
【0028】
上記油相と上記水相から油中水型乳化物を得る方法は特に限定されないが、通常の乳化分散方法を採用することができる。例えば、加熱した油相に、ホモミキサー等の攪拌機で撹拌しながら水相を滴下する方法等が挙げられる。加熱温度は特に限定されないが、40℃以上、好ましくは50~70℃である。また、撹拌は予備乳化と本乳化の2段階に分けて行ってもよい。
【0029】
上記油中水型乳化物における水相と油相の質量比は特に限定されないが、例えば、水相/油相比が60/40~75/25、好ましくは60/40~70/30である。
【0030】
以上説明した油中水型乳化物の好ましい態様としては以下のものが挙げられる。
油相:植物油、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、コメヌカロウ及びカルナバロウからなり、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに対して、質量比で0.01~0.12のコメヌカロウ及びカルナバロウを含有し、コメヌカロウ及びカルナバロウが質量比で70:30~50:50である。
水相:塩化マグネシウム水溶液からなる。
水相中の塩化マグネシウム・6水和物の濃度が60~70質量%であり、油相中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの濃度が6~20質量%であり、水相/油相比が60/40~70/30である。
【0031】
本発明の豆腐用凝固剤は、上記のようにして得られる油中水型乳化物を有効成分とすればよく、適宜希釈などをしてもよい。
【0032】
本発明の豆腐用凝固剤は、加熱した豆乳に添加することによりタンパク質を凝固させることができるので従来の豆腐用の凝固剤に代えるだけで、豆腐の製造に利用することができる。また、本発明の豆腐用凝固剤が利用できる豆腐としては、特に限定されず、例えば、木綿豆腐、絹ごし豆腐、充填豆腐等が挙げられる。本発明の豆腐用凝固剤を豆腐の製造に用いる場合、添加量は目的の豆腐の種類等にあわせて適宜設定すればよく、従来の豆乳の凝固剤と同じ使用量となるよう本発明の豆腐用凝固剤を、例えば、塩化マグネシウムの量を基準として添加すればよい。
【0033】
なお、本発明の豆腐用凝固剤は、豆腐製造時に生じる白い油滴(浮遊物)の発生を抑制することができるため、豆腐製品の品質改善、生産ラインでのトラブルを抑制することができる。また、上記白い油滴(浮遊物)が抑制できたかどうかは、例えば、豆腐製造後に崩し、加水、静置、上清の分取を繰り返して白い油滴(浮遊物)を回収し、その回収量を測定することにより確認することができる。
【0034】
また、本発明の豆腐用凝固剤を用いて製造された豆腐は、豆腐自体の風味も単にポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを用いた場合に得られる豆腐よりも向上する。
【0035】
更に、この豆腐は、例えば、焼き豆腐、油揚げ、がんもどき、厚揚げ等のように加工してもよい。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
製造例1
油相試料の調製:
表1に示す、30%PGPR油、5%WAX油及び菜種油を配合して、油相試料を調製した。菜種油は日清菜種サラダ油S(日清オイリオ製)を用いた。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPRと略す)はMASEMUL PGPR9090(PT. MUSIM MAS製)(酸価0.70、水酸基価86、ヨウ素価85)を用いた。まず、30%のPGPRを菜種油に溶解して、30%PGPR油とした。
【0038】
上記で用いた5%WAX油は次のように調製した。菜種油450gにライスワックス30gとカルナウバワックス20gを配合し、90℃に加温して完全溶解する。5℃以下に冷却した菜種油500gに、攪拌下で、前記ワックスが完全溶解した菜種油を混合、50℃以下に急速冷却し、5%のワックスの微細結晶(メジアン径:10~15μm)を含む5%WAX油を調製した。なお、コメヌカロウとして精製ライスワックスS-100(横関油脂工業製:融点80℃)を、カルナバロウとして精製カルナウバワックスR-100(横関油脂工業製:融点83℃)を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1~8、比較例1~7
豆腐用凝固剤の調製:
表2に示す配合組成(質量%)で油中水型乳化物よりなる豆腐用凝固剤(本発明品1~8、比較例1~7)を調製した。表2に記載の70%塩化マグネシウム水溶液には、塩化マグネシウム6水和物(MgCl・6HO)として、ソフトウェハー(商品名:赤穂化成製)を用いた。
【0041】
水相の70%塩化マグネシウム水溶液、油相の油相試料を60℃まで加温した。油相試料中に70%塩化マグネシウム水溶液を滴下しながら、ホモミキサー(TKホモミキサーMARKII:プライミクス製)を用いて5500rpmで5分間攪拌して油中水型予備乳化物を得た。この予備乳化物を、マイルダー(MDN303:太平洋機工製)に、ゼネレーター(Δ/G/M)9000rpm、流速600ml/分にて1パス通液させて油中水型乳化物の豆腐用凝固剤を得た。
【0042】
【表2】
【0043】
試験例1
豆腐用凝固剤を用いた豆乳の凝固評価と白い油滴(浮遊物)の回収:
大豆(2022年度カナダ産W4白目)を原料として得たBrix12の豆乳を使用し、上記で調製した豆腐用凝固剤を用いて豆腐を製造した。具体的には、凝固剤分散機システムマグ(型式:TK-42型:アースシステム21製)を用いて、82℃に調温した10kgの豆乳に、流路管内で、塩化マグネシウム・6水和物換算で36g相当の豆腐用凝固剤が連続添加され、添加直後にTKホモミキサーで高速分散された豆乳/豆腐用凝固剤分散処理液を型箱(430×300×120mm:SUS製)に流し込み、全量流し込み後、20分間熟成して絹豆腐を得た。
【0044】
この際、全量流し込み後、型箱内での分散液の流動性が無くなる(豆乳の凝固が始まる)までの時間(遅効性:秒表示)を25秒にセットして遅効性同等レベルにて絹豆腐を製造した。型箱内での絹豆腐の凝固状態は、丸型(棒)マルチョウ式簡易硬度測定器で硬さ評価を行った。その結果を表3に示した。
【0045】
次に、この型箱中の絹豆腐をホイッパー10往復で均一に崩し、プレス圧をかけ、再成型して水晒しを行い、カット、充填して木綿豆腐を得る。この工程途中、型箱中の絹豆腐をホイッパーで均一に崩した後(図2:白いのは豆腐)に、加水、静置、上清分取を繰り返して、表面に浮上してくる白い油滴(浮遊物)を全て回収した。型箱に上清分取して回収した白い油滴(浮遊物)を図3に示す。この型箱中の白い油滴(浮遊物)が浮遊している上清をガラスフィルターに通して白い油滴を濾別した。濾別した白い油滴(浮遊物)をシャーレに移し(図4)、一昼夜風乾して、内容物の白い油滴(浮遊物)の質量を測定した。その結果も表3に示した。
【0046】
【表3】
【0047】
豆腐用凝固剤中のPGPR含有率に従って、白い油滴の発生量も増大した。実施例2と4の比較、比較例2と3の比較より、油相中のPGPR濃度が低いと白い油滴の発生量が減少した。また、PGPRに対して、質量比0.12~0.01のコメヌカロウ及び/又はカルナバロウの存在は、絹豆腐の硬さを維持して、白い油滴の発生を1/3~1/5に低減することが分かった。特に、凝固剤中PGPR4.8%以下の豆腐用凝固剤は白い油滴の発生の抑制に有効であり、豆腐製品の品質改善、生産ラインでのトラブル抑制に有用である。また、実施例1~8の豆腐用凝固剤を利用して製造された豆腐の風味は、比較例1~8のものと比較して豆腐自体の味も向上していた。
【0048】
なお、上記実施例、比較例の白い油滴(浮遊物)を凍結乾燥して水分量を測定したところ、86~96%の水分を含んでおり、白い油滴(浮遊物)は高含水の油中水型乳化物の凝集物と推定される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の豆腐用凝固剤は、豆腐の製造に利用することができる。
【要約】
【課題】ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを油相に含有する油中水型乳化物を有効成分とする豆腐用凝固剤において、豆腐製造時に生じる白い油滴(浮遊物)の発生を抑制する技術を提供する。
【解決手段】植物油とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルからなる油相と、塩化マグネシウム水溶液を水相とする油中水型乳化物を有効成分とする豆腐用凝固剤であって
、油相中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに対して、質量比で0.01~
0.12のコメヌカロウ及び/又はカルナバロウを含有させたことを特徴とする豆腐用凝固剤およびこれを利用した豆腐の製造方法。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4