(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】変位計測装置および変位計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 5/30 20060101AFI20240729BHJP
G01B 5/00 20060101ALI20240729BHJP
G01V 1/01 20240101ALI20240729BHJP
G01V 1/18 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G01B5/30
G01B5/00 A
G01V1/01 100
G01V1/18
(21)【出願番号】P 2021004693
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】山崎 康雄
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 大毅
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-175075(JP,A)
【文献】特開2014-016286(JP,A)
【文献】特開2009-270853(JP,A)
【文献】特開2007-014671(JP,A)
【文献】特開2015-127707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00- 5/30
G01B 21/00-21/32
G01D 9/00
G01V 1/00ー99/00
A63B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造に対する上部構造の変位を計測する装置であって、
前記上部構造の底面または該底面に対向する下部構造の上面のいずれか一方の面に取り付けられ、他方の面へ向けて延びる棒状部材と、
前記他方の面に接触して配置される中空の球体と、
前記棒状部材の端部に取り付けられ、前記球体を回転可能に収容する受け部材と、
前記球体内に収容され、前記球体の回転を検出する検出手段と、
前記球体内に収容され、外部と無線通信を行う通信手段と、
前記検出手段および前記通信手段へ電力を供給する蓄電手段と
を含む、変位計測装置。
【請求項2】
前記棒状部材と前記受け部材との間に設けられる弾性部材を含む、請求項1に記載の変位計測装置。
【請求項3】
前記検出手段は、ジャイロセンサである、請求項1または2に記載の変位計測装置。
【請求項4】
前記通信手段と通信を行い、前記検出手段と同期して前記下部構造の動きを検出する動き検出手段を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の変位計測装置。
【請求項5】
前記動き検出手段は、加速度計である、請求項4に記載の変位計測装置。
【請求項6】
前記他方の面と前記球体との間に設けられる所定の範囲の摩擦係数を有する平板を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の変位計測装置。
【請求項7】
下部構造に対する上部構造の変位を計測する方法であって、
前記上部構造の底面または該底面に対向する下部構造の上面のいずれか一方の面に取り付けられ、他方の面へ向けて延びる棒状部材と、前記他方の面に接触して配置される中空の球体と、前記棒状部材の端部に取り付けられ、前記球体を回転可能に収容する受け部材とを含む変位計測装置を、前記上部構造の底面と前記下部構造の上面との間に設置する段階と、
前記下部構造の移動に伴って前記球体が回転する段階と、
前記球体内に収容される検出手段により前記球体の回転を検出する段階と、
前記球体内に収容される通信手段により外部と無線通信を行い、前記検出手段の検出結果を前記外部へ送信する段階と
を含む、変位計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部構造に対する上部構造の変位を計測する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震発生時に免震建物がどのように、どの程度揺れたかという変位を計測する装置として、その軌跡を記録するケガキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。ケガキ装置は、上部構造の底面または下部構造の上面の一方の面に傷跡付与可能な記録板を固定し、他方の面に記録板の表面に先端を押圧するケガキ針を備えた装置である。
【0003】
ケガキ装置は、記録板の傷跡から、どの方向にどの程度の距離動いたかは分かるが、得られる結果がデジタルデータではないことから、どの方向にどのくらいの時間をかけて動いたかは分からない。また、記録板の傷跡は、連続して形成され、交差し、重なり合うことがあり、設計時などに作成した解析モデルを用いた解析結果との比較が困難である。免震建物の場合、地震直後に記録板を回収するために免震ピットに入る必要があるが、余震発生の可能性があるため、地震直後に免震ピットに入るのは危険である。このため、地震発生から数日待ってからの回収となり、即時性がないという問題がある。
【0004】
そこで、光学式やボール式のマウスを使用して座標のデータを時間経過とともに検出し、検出した座標のデータから単位時間当たりの水平方向の変位量を算出する装置や方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、ロッドとガイドロッドが自在継手を介して建物と免震層床とに繋がり、免震層床が動くとロッドが傾き、ガイドロッドが上に持ち上がり、このときの自在継手の回転軸の回転量を測定し、幾何学的に水平2方向の変位を計測する直立型変位計も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平5-6323号公報
【文献】特開2014-16286号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】“地震時における免震装置の動きを計測するための直立型変位計を開発し、適用”、[online]、株式会社竹中工務店、[令和2年11月9日検索]、インターネット<URL:https://www.takenaka.co.jp/news/2020/09/01/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の装置や非特許文献1に記載の直立型変位計は、ケーブル配線を必要とし、断線のおそれがあるという問題があった。また、上記特許文献2に記載の装置においてボール式マウスを使用する場合、ボール以外にマウスの検出面が接触面に摺動する必要があり、接触面に左右されるという問題があり、上記非特許文献1に記載の直立型変位計は、機構が複雑であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、下部構造に対する上部構造の変位を計測する装置であって、
上部構造の底面または該底面に対向する下部構造の上面のいずれか一方の面に取り付けられ、他方の面へ向けて延びる棒状部材と、
他方の面に接触して配置される中空の球体と、
棒状部材の端部に取り付けられ、球体を回転可能に収容する受け部材と、
球体内に収容され、球体の回転を検出する検出手段と、
球体内に収容され、外部と無線通信を行う通信手段と、
検出手段および通信手段へ電力を供給する蓄電手段と
を含む、変位計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、断線のおそれをなくし、接触面に左右されることなく、簡易な構成で下部構造に対する上部構造の変位を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】球体内の各ユニットの配置構成の一例を示した図。
【
図7】変位計測装置を使用した下部構造に対する上部構造の変位を計測する流れの一例を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ビル、マンション、病院、学校等の建物は、地震により倒壊しないように、耐震構造もしくは制震構造または免震構造により構築される。耐震構造は、柱や壁を、筋交いや面材等を使用して強化し、建物自体の強度を高めた構造である。制震構造は、ダンパー等の衝撃吸収機構を組み込み、揺れを吸収する構造である。免震構造は、地面と建物の間に免震装置を設置し、揺れを直接建物に伝えないようにする構造である。
【0012】
建物の耐震性能を維持するには、ダンパーや免震装置等の維持管理が不可欠である。その維持管理において、ダンパーや免震装置等の変位を継続的に監視することが必要とされる。その変位を監視するために、変位計測装置が用いられる。変位計測装置について説明する前に、変位計測装置が用いられる建物の構造として、免震構造を取り上げて詳細に説明する。なお、免震構造は一例であるので、変位計測装置が用いられる建物の構造は、耐震構造であってもよいし、制震構造であってもよい。
【0013】
図1は、免震構造の一例を示した図である。免震構造は、上部構造の一例である建物10と、下部構造の一例である基礎11との間に、免震装置12を設け、地震による揺れが直接建物10に伝わらないようにした構造である。建物10は、屋根、周壁を有する建造物である。基礎11は、建物10の荷重を支持し、地盤に伝える構造物で、コンクリートや鉄筋コンクリートにより構築される。基礎11の種類としては、布基礎、べた基礎、杭基礎等がある。
【0014】
免震装置12としては、天然ゴムや高減衰性ゴムと鋼板を交互に重ね合わせ、地震時に水平方向へ変形する積層ゴム、適当な摩擦抵抗力を保ちながら横滑りする滑り支承、ボールベアリングを用いて建物10を支持しながら地震時に水平方向へ自由に移動可能とする転がり支承等が用いられる。なお、免震装置12は、積層ゴムもしくは滑り支承または転がり支承と、ダンパーを併用したものであってもよい。
【0015】
基礎11は、免震装置12を設置するための上部へ突出した免震装置支持部11aを有する。建物10は、底面から突出する突出部10aを有する。免震装置12は、突出部10aと免震装置支持部11aの間に配置され、ボルト等の締結部材を用いて締結される。
【0016】
建物10は、複数の免震装置12を介して基礎11と連結され、複数の免震装置12のみにより支持される。このため、地震の揺れは、免震装置12により吸収され、上部の建物10への伝達が抑制される。建物10の底面と基礎11の上面の間には、複数の免震装置12が所定の間隔をあけて設置され、1つの空間が形成される。この空間は、免震装置12の維持管理を行うために、作業員が点検の際に立ち入る免震ピット13とされる。
【0017】
作業員は、定期的に免震ピット13へ入り、各免震装置12の目視による点検、触診による点検、異常があった場合の補修等を行う。
【0018】
図2は、免震装置12の変位、すなわち基礎11に対する建物10の変位を計測する変位計測装置14の第1の構成例を示した図である。変位計測装置14は、免震ピット13内に設置される。なお、耐震構造や制震構造に適用する場合は、電気配線や通信配線を通すためのスペース(EPS)内や、生活給排水の配管を通すスペース(PS)内に設置し、上部構造と下部構造との間(層間)の変位を計測することができる。
【0019】
変位計測装置14は、建物10の底面に取り付けられ、建物10の底面から該底面に対向する基礎11の上面へ向けて延びる棒状部材20と、基礎11の上面に接触して配置される中空の球体(ボール)21と、棒状部材20の端部に取り付けられ、ボール21を回転可能に収容する受け部材(ボール受け)22とを含む。
【0020】
ボール21内には、ボール21の回転を検出する検出手段と、外部と無線通信を行う通信手段と、検出手段および通信手段へ電力を供給する蓄電手段が収容されている。また、ボール21内には、メモリなどの保存手段が収容されていてもよい。
【0021】
この例では、棒状部材20が、建物10の底面に取り付けられているが、基礎11の上面に取り付けられ、基礎11の上面から建物10の底面へ向けて延びていてもよく、ボール21が、建物10の底面と接触し、ボール受け22が、ボール21を支持する形であってもよい。
【0022】
棒状部材20およびボール受け22は、ある程度の剛性(硬さ)を有し、変形しないものであればいかなる材料を使用してもよく、例えば鋼材、軽量鉄骨、プラスチック製のものなどを用いることができる。ボール受け22は、基礎11の上面に近隣する棒状部材20の先端に取り付けられ、ボール21を回転可能に収容するための凹部が設けられる。なお、凹部は、ボール21を収容する空洞部分の断面の形状が矩形のものに限らず、半楕円形や半円形のものであってもよい。
図2に示す例では、ボール受け22は、中空の半球状部材とされている。
【0023】
ボール受け22は、ボール21の周囲を取り囲み、ボール21が接触する建物10の底面へ向けて延びており、ボール21の周囲を取り囲むボール受け22と建物10の底面との距離Lは、ボール21の径φより小さい。このため、ボール21は、ボール受け22の外部へ飛び出ることはない。
【0024】
ボール21は、外部との間で無線により通信を行うことから、電波を通すプラスチック等の素材により作製される。ただし、地震時の衝撃等で簡単に破損しないように、強度の高いプラスチック、例えば繊維強化プラスチック(FRP)等を用いることが望ましい。なお、電波を通す素材であれば、プラスチックに限定されるものではない。ボール21の外側表面は、基礎11の上面でもボール21が滑らず、確実に回転するように、ある程度の摩擦係数を有することが望ましい。
【0025】
地震が発生していない状況では、ボール21は静止し、内部の検出手段はボール21の回転を検出しない。一方、地震が発生すると、基礎11の揺れに伴い、ボール21が揺れの方向へ回転する。ボール21は、基礎11の上面上のいずれの方向へも回転可能である。
【0026】
検出手段は、所定の水平方向をx軸方向とし、x軸方向に垂直な水平方向をy軸方向とし、鉛直方向をz軸方向とした3軸方向の回転を検出する。検出手段は、検出結果をデジタルデータとして出力する。通信手段は、外部のPC(Personal Computer)と無線通信し、検出結果のデジタルデータをPCへ送信する。検出結果は、揺れの方向と、角速度または加速度である。デジタルデータは、数値化したデータとして得られ、正確で、伝送によっても劣化せず、再現性が高い。保存手段を備える場合、保存手段は、通信手段による通信が上手くいかないなどの場合に検出結果を保存する。
【0027】
PCは、通信手段から送られてきた角速度を積分し、または加速度を2回積分し、変位を計算し、変位の計算結果を揺れの方向の情報および受信した時刻とともに、自身が備える記憶装置等に記録する。
【0028】
作業員は、PCに記録された変位の記録を解析することで、地震直後に、設計時の解析結果との比較が容易となる。また、無線通信により検出結果を取得するため、ケーブル配線が不要となり、断線のおそれがない。さらに、ケーブル配線が不要であるため、形状を球体とすることができ、球体とすることで、基礎11との接触部が最小となり、接触面に左右されなくなる。このため、摩擦抵抗が小さい滑り板を設置する必要がなくなり、その設置の手間を省くことができる。
【0029】
通信手段は、例えばLPWA(Low Power Wide Area)を使用し、低消費電力で広域通信が可能な通信手段を採用することができる。このため、蓄電手段として電池を用いる場合においても、電池の交換なしに数年程度の計測が可能となる。なお、検出手段としては、ボール21の角速度を計測するジャイロセンサもしくは加速度を計測する加速度センサを用いることができる。加速度から変位に変換するより角速度から変位に変換するほうが、データの精度が高いことから、ジャイロセンサを用いることが望ましい。
【0030】
図2に示した例では、ボール21が基礎11の上面に直接接触しているが、基礎11の上面に摩擦抵抗が小さい、所定の範囲の摩擦係数を有する滑り板を設け、ボール21の回転をスムーズにしてもよい。滑り板の大きさは、上部構造である建物と、建物の下部の周囲に離間して設けられる擁壁との免震クリアランス(建物が可動できる空間)程度の大きさ(通常1m程度)を基準とし、約1m×1mとすることができる。ボール21の径は、滑り板の大きさより小さい径であればいかなる径であってもよく、例えば10cm程度とすることができる。これは一例であるので、滑り板の大きさ、ボール21の径は、この大きさに限定されるものではない。
【0031】
図3は、ボール21内の各ユニットの配置構成の一例を示した図である。
図3(a)は、ボール21内に各ユニットを配置した断面図で、
図3(b)は、固定用設置板を上方から見た図を示した図で、
図3(c)は、固定用設置板を下方から見た図を示した図である。
【0032】
ボール21内には、ボール21の内径とほぼ同じ径を有する円形で所定の厚さの固定用設置板30が配設される。固定用設置板30は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド等のプラスチックを素材とし、所定の径で作製することができる。ここでは、固定用設置板30の素材をプラスチックとしたが、無線通信および計測基盤31等を固定することができれば、素材はプラスチックに限定されるものではない。
【0033】
固定用設置板30は、ボール21内に嵌め込み、固定される。固定用設置板30の上には、無線通信および計測基盤31が設置され、無線通信および計測基盤31上に通信手段として機能する無線通信IC(Integrated Circuit)チップ32と検出手段としてのジャイロセンサ33が設置される。これらは、接着材やボルト等の締結部材を使用して、固定用設置板30および無線通信および計測基盤31に固定することができる。
【0034】
固定用設置板30の下側には、蓄電手段としての電池を装着する電池ボックス34が設けられる。
【0035】
図4は、開閉可能な構成のボール21において、ボール21を開き、内部を露出させたところを示した図である。ボール21は、
図4(a)に示すように、2つの中空の半球体23、24から構成され、2つの半球体23、24のそれぞれの端部を嵌め合わせることにより閉じ、嵌め合わせた部分を引き抜き、2つの半球体23、24に分離することで内部を開けることができる。
【0036】
具体的には、ボール21を構成する2つの中空の半球体のうち、一方の半球体23の端部には、
図4(a)の破線で示すAの部分を拡大した
図4(b)に示すように、ボール21の略半分の厚さtで、ボール21の内側面に沿って他方の半球体24へ向けて突出するリング状の内側突出部25が設けられる。他方の半球体24の端部には、ボール21の略半分の厚さtで、ボール21の外側面に沿って一方の半球体23へ向けて突出するリング状の外側突出部26が設けられる。
【0037】
内側突出部25のリング状の外径は、外側突出部26のリング状の内径にほぼ等しい、もしくはわずかに小さい。このため、外側突出部26内に内側突出部25を挿入もしくは圧入することで、外側突出部26の内側の面と内側突出部25の外側の面が隣接もしくは密接して嵌合し、ボール21が形成される。
【0038】
電池交換やジャイロセンサ33等のメンテナンスの際は、外側突出部26内に挿入もしくは圧入した内側突出部25を引き抜くことで、半球体23、24を分離してボール21を開き、固定用設置板30をボール21内から取り出すことができる。なお、このような構成は一例であるので、内部の固定用設置板30の取り出しが可能な構成であればいかなる構成であってもよい。
【0039】
ジャイロセンサ33は、x軸、y軸、z軸の3軸の角速度を計測することが可能なセンサで、センサ軸が決められており、センサ軸のx軸、y軸、z軸に対応するボール21の外側表面にそれぞれの印を設け、それらの印を基に、基礎11の上面に配置することができる。例えば、予め決めた基準方向や、方位磁石で示される南北方向に、x軸を合わせて配置することができる。ジャイロセンサ33としては、機械式、光学式、振動式のいずれであってもよい。
【0040】
ジャイロセンサ33は、動作温度により検出される角速度の精度に影響を与えることから、無線通信および計測基盤31には、温度センサを設置し、温度センサにより検出される温度を用いて検出された角速度に対して温度補正を行うことができる。
【0041】
図5は、変位計測装置14の第2の構成例を示した図である。
図4に示す例では、棒状部材20が、基礎11の上面に取り付けられ、基礎11の上面から建物10の底面へ向けて延び、棒状部材20とボール受け22の間に弾性部材27が設けられている。また、建物10の底面には、滑り板28が設けられている。ボール21は、ボール受け22内に収容され、建物10の底面と接触し、内部には検出手段、通信手段、蓄電手段が収容されている。
【0042】
この例では、棒状部材20が、基礎11の上面に接続されているが、建物10の底面に取り付けられ、建物10の底面から基礎11の上面へ向けて延びていてもよく、ボール21が、基礎11の上面と接触していてもよい。また、滑り板28は、必要に応じて設けることができ、ボール21が建物10の底面に沿って適切に回転するのであれば、設置しなくてもよい。
【0043】
図5に示す構造は、ボールペンの先端を模した構造であり、棒状部材20とボール受け22の間に弾性部材27を設け、地震の上下動によるボール21やボール21内部の各ユニットの破損を防止している。弾性部材27は、例えばコイルバネとされ、所定の弾性係数を有するものとされる。これは、ボール21の回転に引きずられてボール受け22が水平方向へ移動せず、適度な力でボール21を建物10の底面に押し付け、ボール21の正確な回転を検出することができるようにするためである。
【0044】
図6は、変位計測装置の第3の構成例を示した図である。
図5に示す例では、
図4に示した構成に加え、基礎11の上面に設置される、動き検出手段としての加速度計29を含んでいる。加速度計29以外のユニットについては、既に説明したので、ここでは加速度計29についてのみ説明する。
【0045】
加速度計29は、加速度を計測する加速度センサと、通信手段と、蓄電手段とを含む。通信手段は、ボール21内に収容される通信手段と同様のもので、加速度センサにより計測された加速度を計測結果として無線により外部へ送信する。蓄電手段も、ボール21内に収容される蓄電手段と同様のもので、加速度センサおよび通信手段へ電力を供給する。
【0046】
加速度計29の加速度センサも、ジャイロセンサ33と同様、x軸、y軸、z軸の3軸方向の加速度を計測するセンサである。加速度センサによる加速度の計測により、基礎11の動き、すなわち変位を計測することができる。加速度センサとしては、ピエゾ抵抗型3軸加速度センサ、静電容量型3軸加速度センサ、熱検知型3軸加速度センサのいずれであってもよい。
【0047】
加速度計29が備える通信手段と、ボール21内に収容される通信手段は、無線通信ICチップを含み、無線通信ICチップ間で、例えばCAN(Controller Area Network)を構築し、相互に通信可能とされる。このため、加速度計29の加速度センサをジャイロセンサ33と同期させ、ジャイロセンサ33で角速度を検出したタイミングで加速度センサにより加速度を計測することができる。計測された加速度は、外部のPCへ無線により送信される。これにより、PCは、同時性のあるデータを取得し、記録することができる。
【0048】
PCは、免震ピット13内あるいは建物10の居室等に設置される。PCは、デジタルデータとして受信した角速度を1回積分し、変位に変換し、変換した変位、角速度、加速度を受信した時刻とともに記録する。なお、PCは、受信した加速度を2回積分し、変位に変換してもよい。記録したデータは、設計時などに作成した解析モデルを用いた解析結果との比較等を行い、補修が必要かどうか等を判断するために使用される。
【0049】
加速度センサをジャイロセンサ33と同期させる理由は、地震の震度が加速度から求まることから、震度がいくらの時、変位(免震層の挙動)がどの程度であったかを知ることができるようにするためである。また、計測開始のトリガーとして使用できるようにするためである。これにより、例えば、加速度センサで震度2以上を検出した場合、ジャイロセンサ33による計測を開始することができる。さらに、これらを同期させることで、同期して検出結果を送信しない場合、電池切れや故障等を検知することができる。加速度計29は、変位計測において必ず設置しなければならない装置ではないが、これらの理由から設置することが望ましい。
【0050】
図7は、変位計測装置14を用いて下部構造に対する上部構造の変位計測の流れの一例を示したフローチャートである。上部構造と下部構造との間(層間)に変位計測装置14を設置することにより、ステップ100から計測を開始する。ステップ101では、計測時間か否かを判断する。計測時間でない場合、計測時間に達するまで、ステップ101の処理を繰り返す。ステップ102では、棒状部材20およびボール受け22の移動の有無を検出する。移動した場合、ステップ103へ進み、ボール21が回転し、ステップ104でボール21内のジャイロセンサ33がボール21のx軸、y軸、z軸の各方向の角速度を計測する。
【0051】
一方、移動しない場合、ステップ105へ進み、ボール21は回転せず、ジャイロセンサ33は、x軸、y軸、z軸の各方向につき、角速度0を出力する。ステップ106では、ジャイロセンサ33が計測した結果を無線通信により外部のPCへ送信する。保存手段を備える場合は、ジャイロセンサ33が計測した結果が保存手段に保存される。そして、再びステップ101へ戻り、電池交換等により変位計測を停止するまで、この処理を繰り返す。
【0052】
図7に示す例では、計測開始のトリガーの物理量を時間として記載しているが、これに限られるものではなく、物理量は角速度や加速度などであってもよい。計測開始のトリガーの物理量を角速度や加速度とすることで、変位や所定の震度の地震が発生した場合に計測を開始し、それらが発生しない場合は計測を行わないので、電池の寿命を延ばし、故障の可能性を低減させることができる。
【0053】
これまで本発明の変位計測装置および変位計測方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
10…建物
10a…突出部
11…基礎
11a…免震装置支持部
12…免震装置
13…免震ピット
14…変位計測装置
20…棒状部材
21…ボール
22…ボール受け
23、24…半球体
25…内側突出部
26…外側突出部
27…弾性部材
28…滑り板
29…加速度計
30…固定用設置板
31…無線通信および計測基盤
32…無線通信ICチップ
33…ジャイロセンサ
34…電池ボックス