(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】掻寄機
(51)【国際特許分類】
B01D 21/18 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
B01D21/18 D
B01D21/18 F
(21)【出願番号】P 2023131382
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2020048895の分割
【原出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岸 睦英
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-028315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/00-34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する槽内に設けられ、
動力ワイヤから加えられる張力により、掻寄板を掻寄角度に保持して固形物を前記槽の一端側から他端側へ掻き寄せる掻寄走行と、前記掻寄板を離底角度に保持して前記槽の他端側から一端側へ戻る戻り走行を行う掻寄機であって、
前記掻寄機は、前記走行のための車輪を有する本体部と、前記掻寄板とを備え、
前記掻寄板は、前記本体部から張り出すように設けられた支持部に回転可能に取り付けられ、
前記掻寄板のうち、前記支持部に対する取付部にあたる部分には、
前記掻寄板のなす掻寄面よりも前記支持部から遠ざかった位置に面をなすよう形成された凹部と、
該凹部から前記支持部に向かって伸びる支持ブラケットとを備えていること
を特徴とする掻寄機。
【請求項2】
前記支持部の前記本体部に対する上下方向の位置を調整可能なスライド部を備えたこと
を特徴とする請求項1に記載の掻寄機。
【請求項3】
前記支持部と前記本体部は、前記スライド部において垂直方向に沿った面をなして互いに接触すると共に、
前記支持部側の部材と前記本体部側の部材を上下に貫通する調整具を備え、
該調整具の締め込みの度合を調整することにより、前記本体部に対する前記支持部の上下方向の位置を調整可能に構成されていること
を特徴とする請求項
2に記載の掻寄機。
【請求項4】
前記掻寄板として、本体部の前方に設けられた前側掻寄板と、前記本体部の後方に設けられた後側掻寄板とを備え、
前記支持部として、前記前側掻寄板を支持する前側支持部と、前記後側掻寄板を支持する後側支持部とを備えていること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の掻寄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の貯留される槽内で、底部の固形物を掻き寄せる掻寄機に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を貯留する槽を備えた施設においては、前記槽の底部に溜まった固形物を掻き寄せる掻寄機が用いられる場合がある。
【0003】
こうした掻寄機は、例えば浄水場の沈殿池に設置される。沈殿池をなす槽には、湖川から引き込まれて適宜の処理を施された水が貯留され、水に含まれていた固形物が貯留されている間に沈殿除去され、上澄みは回収されてさらに下流側の各種設備へ送られる。除去された固形物は、沈殿池をなす槽の底部に沈殿して溜まっていくので、これを集めて除去するために、上述のような掻寄機が用いられる。
【0004】
掻寄機には、無端チェーンに取付けた掻寄板を循環的に動作させて掻き寄せを行う型式と、槽の底部に沿って掻寄板を往復させる型式とがあるが、後者の場合、掻寄板の下端を往路(掻寄走行時)では槽の底面に接触させる一方、復路(戻り走行時)では槽の底面から離間させる必要がある。往路で槽の一端側から他端側へ掻き寄せた固形物を、復路で一端側へ掻き戻すことを避けるためである。
【0005】
往復式の掻寄機において、このような動作を行うためには、掻寄板を回転させる機構が採用されることが多い。すなわち、水平方向に沿った向きに掻寄板の回転軸を設定し、掻寄走行時には掻寄板を垂直に近い角度(以下、「掻寄角度」とする)に立てて下端を槽の底部に接触させる一方、戻り走行時には掻寄板を前記回転軸を中心に回転させて水平に近い角度(以下、「離底角度」とする)に寝かせ、槽の底部から上方へ離間させるのである。
【0006】
掻寄板の回転動作を行う機構は、掻寄機全体の動作をなるべく少数の動力源で行う観点から、掻寄板を掻寄方向に沿って往復させる機構と連動するように構成されることが多い。掻寄板は、一般に掻寄方向と直交する水平方向に長手方向が沿うように設置され、該掻寄板の往復動作は、掻寄方向に沿って張り渡されたワイヤの張力によって行われる(尚、以下では、掻寄方向のうち、掻き寄せに向かう向きを前方、その逆の向きを後方とする。また、掻寄方向と直交する水平方向を「左右方向」とする)。そこで、前記回転軸を例えば掻寄板のなす面に沿って左右方向に伸びる形で設け、前記ワイヤの張力により、該ワイヤに沿った掻寄板の往復動作に加え、前記回転軸を中心とする掻寄板の回転動作も行われるようにする。回転動作に必要な張力が、往復動作に必要な張力よりも小さければ、掻寄走行時には、前方に向かってワイヤから加えられる張力によってまず掻寄板が掻寄角度に回転し、掻寄角度への回転が完了してから、同じワイヤの張力によって掻寄機の前方への移動が開始する。一方、戻り走行時には、後方に向かってワイヤから加えられる張力によってまず掻寄板が離底角度に回転し、離底角度への回転が完了してから、同じワイヤの張力によって掻寄機の後方への移動が開始することになる。
【0007】
尚、この種の掻寄機に関する一般的技術水準を示す文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述の如く掻寄板の往復動作と回転動作を連動させる機構は、例えばワイヤの張力を回転力に変換するシーブと、該シーブの回転動作を掻寄板に伝達する複数のリンクを備えた複雑な構造となりがちである。特に、浄水場の沈殿池等においては、槽の底部に溜まった固形物をなるべく余さず掻き取りたいという要請から、掻寄板を前後に2枚備えた構造が採用されることが多く、そのような構造では、動作の連動に関わる部品数が多くなるため、回転力の伝達にあたり、部品間で大きな抵抗が生じてしまう可能性が高くなる。部品間で生じる抵抗が、掻寄板の往復動作に必要な張力を超えると、回転動作が完了する前に往復動作に移ってしまう。すなわち、掻寄板が掻寄角度に達しないのに掻寄走行が開始したり、掻寄板が掻寄角度にあるままの状態で戻り走行が開始するといった不具合が生じる可能性がある。そこで、掻寄機の掻寄板に関し、なるべく単純な構成で回転動作の連動を実行できるような機構の実現が求められていた。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡単な構成で掻寄板の動作を好適に実行し得る掻寄機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、液体を貯留する槽内に設けられ、動力ワイヤから加えられる張力により、掻寄板を掻寄角度に保持して固形物を前記槽の一端側から他端側へ掻き寄せる掻寄走行と、前記掻寄板を離底角度に保持して前記槽の他端側から一端側へ戻る戻り走行を行う掻寄機であって、前記掻寄機は、前記走行のための車輪を有する本体部と、前記掻寄板とを備え、前記掻寄板は、前記本体部から張り出すように設けられた支持部に回転可能に取り付けられ、前記掻寄板のうち、前記支持部に対する取付部にあたる部分には、前記掻寄板のなす掻寄面よりも前記支持部から遠ざかった位置に面をなすよう形成された凹部と、該凹部から前記支持部に向かって伸びる支持ブラケットとを備えていることを特徴とする掻寄機にかかるものである。
【0012】
上述の掻寄機は、前記支持部の前記本体部に対する上下方向の位置を調整可能なスライド部を備えてもよい。
【0013】
上述の掻寄機において、前記支持部と前記本体部は、前記スライド部において垂直方向に沿った面をなして互いに接触すると共に、前記支持部側の部材と前記本体部側の部材を上下に貫通する調整具を備え、該調整具の締め込みの度合を調整することにより、前記本体部に対する前記支持部の上下方向の位置を調整可能に構成してもよい。
【0014】
上述の掻寄機は、前記掻寄板として、本体部の前方に設けられた前側掻寄板と、前記本体部の後方に設けられた後側掻寄板とを備え、前記支持部として、前記前側掻寄板を支持する前側支持部と、前記後側掻寄板を支持する後側支持部とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の掻寄機によれば、簡単な構成で掻寄板の動作を好適に実行し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施による掻寄機と、これを備えた沈殿池の形態の一例を示す全体側断面図である。
【
図2】本発明の実施による掻寄機と、これを備えた沈殿池の形態の一例を示す全体平面図である。
【
図3】本実施例の掻寄機の形態を示す側面図である。
【
図4】本実施例の掻寄機の形態を示す平面図である。
【
図5】本実施例の掻寄機の形態を示す正面図であり、右半分は説明の便宜のため掻寄板を欠いた状態を図示している。
【
図6】本実施例における動作ユニットの構造を拡大して示す背面図である。
【
図7】ストッパの周辺の形態を拡大して示す側面図である。
【
図8】別の実施例の掻寄機の形態を示す平面図である。
【
図9】本実施例における前側掻寄板の支持部および取付部の構造を拡大して示す側断面図である。
【
図10】本実施例における前側掻寄板の支持部および取付部の構造を拡大して示す平断面図である。
【
図11】掻寄板の取付部の参考例を示す側断面図である。
【
図12】掻寄板の取付部に関する別の実施例を示す側断面図である。
【
図13】別の実施例における前側掻寄板の支持部および取付部の構造を拡大して示す平断面図である。
【
図14】本実施例における後側掻寄板の支持部および取付部の構造を拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1~
図7は本発明の実施による掻寄機の形態の一例を示している。ここでは浄水場の沈殿池に掻寄機を設置する場合を想定しており、掻寄機1は、液体として水Wを貯留する槽Tとしての沈殿池内に、該槽Tの底部に沿って往復動作を行うように設置される。往復動作を行う方向(すなわち、掻寄機1にとっての前後方向)は、
図1、
図3、
図7における左右方向、
図2、
図4における上下方向、
図5、
図6における紙面に直交する方向に、それぞれ相当する。
【0019】
尚、
図1~
図6に示す掻寄機1は説明のために簡略化された図であって、本発明の趣旨と直接関係のない部品や構造については適宜図示を省略している(後に言及する
図6~
図14についても同様である)。
【0020】
掻寄機1は、槽T内を往復走行する本体部2と、該本体部2の前後に設けられた掻寄板(前側掻寄板3および後側掻寄板4)を備えている。
【0021】
本体部2は、左右方向に関して両側の下部に、それぞれ前後一対(計4輪)の車輪5を備えている。槽Tの底部における車輪5にあたる位置には、前後方向に沿って伸びる一対のレール6が敷設されており、本体部2は、該レール6の上面に車輪5を接した状態で、車輪5を回転させつつ、レール6上を前後に走行できるようになっている。
【0022】
前側掻寄板3は、細長い板状の部材であり、本体部2から前方に張り出す位置に、長手方向が左右方向に沿う形で支持されている。本体部2の前面には、左右方向に関して複数の位置に支持部(前側支持部)7が張り出しており、複数の該前側支持部7の先端部に設けられた取付部(前側取付部)8において、前側掻寄板3が左右方向に関し複数の位置で回転可能に支持されている。
【0023】
同様に、細長い板状の部材である後側掻寄板4は、本体部2から後方に張り出す位置に、長手方向が左右方向に沿う形で支持されている。本体部2の後面には、左右方向に関して複数の位置に支持部(後側支持部)9が張り出しており、複数の該後側支持部9の先端部に設けられた取付部(後側取付部)10において、後側掻寄板4が左右方向に関し複数の位置で回転可能に支持されている。尚、前後の支持部7,9や取付部8,10の構造については、後に詳しく説明する。
【0024】
槽T内には、
図1に示す如く、掻寄機1の動作方向(掻寄方向、前後方向)に沿って2本の動力ワイヤ11が張り渡されている。この動力ワイヤ11は、中途部を掻寄機1に接続されると共に(掻寄機1における動力ワイヤ11の接続構造については次に述べる)、槽Tの掻寄方向に関し両側において図示しない巻揚機に接続されており、掻寄機1に対して掻寄方向の前後から張力を加えることができるようになっている。張力を加える向きは、前記巻揚機の動作により、前後に自在に切り替えることができる。
【0025】
掻寄機1は、本体部2の左右両側に動作ユニット12を備えており、動力ワイヤ11から加えられる張力は、この動作ユニット12を介し、掻寄板3,4の回転動作や、レール6に沿った掻寄機1自体の往復動作として掻寄機1に伝達されるようになっている。
【0026】
動作ユニット12は、
図3~
図6に示す如く、左右方向に関して外側に位置する操作シーブ13と、該操作シーブ13の回転軸をなし、該操作シーブ13から左右方向に関して内側に伸びる支持軸14と、該支持軸14の中途部に操作シーブ13と同軸に取り付けられた2個の伝達シーブ(第一の伝達シーブ15および第二の伝達シーブ16)を備えている。操作シーブ13、支持軸14および伝達シーブ15,16は、基台17の上面に球面軸受である2個の軸受18を介して支持されている。
【0027】
支持軸14は、掻寄機1に対し左右方向に沿って水平に設けられており、上述のシーブや軸受は、左右方向に関して外側から順に、操作シーブ13、軸受18、第一の伝達シーブ15、第二の伝達シーブ16、軸受18の順に支持軸14に取り付けられている。最も外側に位置する操作シーブ13は、基台17から外側に張り出している。操作シーブ13および2個の伝達シーブ15,16は支持軸14に固定されており、これらのシーブは基台17に対し、支持軸14と共に一体的に回転するようになっている。
【0028】
また、支持軸14の中途部の適宜位置(ここに示した例では、外側の軸受18と第一の伝達シーブ15の間)には、該支持軸14から径方向外側へ張り出すようにストッパ19が設けられている。このストッパ19は、支持軸14を回転させようとする力が加わった際、該支持軸14の回転動作に伴って基台17側の部材に接触し、これにより、支持軸14がそれ以上回転しないように阻止する役割を果たすようになっている。
【0029】
操作シーブ13の左右方向における位置は、動力ワイヤ11の張り渡された位置と一致しており、該動力ワイヤ11は、中途部を操作シーブ13に巻き掛けられている。
【0030】
尚、本体部には上述の通り前後に複数の支持部7,9を備えているが、本体部2の一部をなす動作ユニット12の基台17にも、左右方向に関して外側にあたる位置に前後に支持部7,9を備えており、ここでも前後の掻寄板3,4を支持するようになっている。
【0031】
支持軸14に取り付けられた第一の伝達シーブ15には、無端状のワイヤである伝達ワイヤ(第一の伝達ワイヤ)20が巻き掛けられている。この第一の伝達ワイヤ20は、第一の伝達シーブ15に巻き掛けられると共に、前側掻寄板3に取り付けられた従動シーブ(第一の従動シーブ21)にも巻き掛けられている。
【0032】
第一の従動シーブ21は、前側掻寄板3に対し一体的に取り付けられたシーブである。前側掻寄板3は、上述の通り前側支持部7の先端に設けられた前側取付部8を介し、複数箇所において本体部2に対し回転可能に設けられているが、これら複数の前側取付部8における前側掻寄板3の回転軸は、本体部2の左右方向に関して水平方向に沿って伸び、且つ互いに同軸となるよう設計されている。さらに、第一の従動シーブ21の回転軸も、前側取付部8における前側掻寄板3の回転軸と同軸に設計されている。
【0033】
前側掻寄板3における第一の従動シーブ21の左右方向に関する取付位置は、支持軸14に取り付けられた第一の伝達シーブ15の位置と一致しており、両シーブの間を第一の伝達ワイヤ20が接続している。こうして、支持軸14が回転すると、該支持軸14の回転に伴う第一の伝達シーブ15の回転が第一の伝達ワイヤ20を介して第一の従動シーブ21に伝達され、前側掻寄板3は、第一の従動シーブ21および前側取付部8のなす回転軸に沿い、第一の従動シーブ21の回転に従って回転するようになっている。
【0034】
同様に、支持軸14に取り付けられた第二の伝達シーブ16には、無端状のワイヤである伝達ワイヤ(第二の伝達ワイヤ)22が巻き掛けられている。この第二の伝達ワイヤ22は、第二の伝達シーブ16に巻き掛けられると共に、後側掻寄板4に取り付けられた従動シーブ(第二の従動シーブ23)にも巻き掛けられている。
【0035】
第二の従動シーブ23は、後側掻寄板4に対し一体的に取り付けられたシーブである。後側掻寄板4は、上述の通り後側支持部9の先端に設けられた後側取付部10を介し、複数箇所において本体部2に対し回転可能に設けられているが、これら複数の後側取付部10における後側掻寄板4の回転軸は、本体部2の左右方向に関して水平方向に沿って伸び、且つ互いに同軸となるよう設計されている。さらに、第二の従動シーブ23の回転軸も、後側取付部10における後側掻寄板4の回転軸と同軸に設計されている。
【0036】
後側掻寄板4における第二の従動シーブ23の左右方向に関する取付位置は、支持軸14に取り付けられた第二の伝達シーブ16の位置と一致しており、両シーブの間を第二の伝達ワイヤ22が接続している。こうして、支持軸14が回転すると、該支持軸14の回転に伴う第二の伝達シーブ16の回転が第二の伝達ワイヤ22を介して第二の従動シーブ23に伝達され、後側掻寄板4は、第二の従動シーブ23および後側取付部10のなす回転軸に沿い、第二の従動シーブ23の回転に従って回転するようになっている。
【0037】
すなわち、動力ワイヤ11から操作シーブ13に対し張力が加えられ、操作シーブ13が回転すると、該操作シーブ13と共に支持軸14が回転する。該支持軸14の回転に伴い、これと一体的に設けられた伝達シーブ15,16も回転し、その回転は伝達ワイヤ20,22を介して従動シーブ21,23に伝達され、該従動シーブ21,23の取り付けられた掻寄板3,4が回転する。こうして、動力ワイヤ11から加えられる張力により、前後の掻寄板3,4が回転するようになっている。尚、このような回転動作の範囲は、支持軸14に取り付けられたストッパ19により制限を受ける。
【0038】
ストッパ19の周辺の構成を
図7に拡大して示す。基台17の上面におけるストッパ19にあたる位置には、支持軸14を挟んで両側(
図7中における左右の位置)に、上方へ向かって突出するように一対の当接部17aが設けられており、ストッパ19は、一方の当接部17aに当接する位置と、他方の当接部17aに当接する位置との間でのみ、支持軸14の周方向に沿って動くようになっている。そして、ストッパ19が動く範囲においてのみ、支持軸14と連動する掻寄板3,4の回転動作は許容され、これにより、掻寄板3,4の動作範囲は掻寄角度と離底角度の間に限定されるようになっている。このように、支持軸14にストッパ19を設けると、掻寄板3,4の回転動作の範囲を簡単な構造で好適に限定することができる。
【0039】
操作シーブ13の径は、第一、第二の伝達シーブ15,16より大きく設定され、また、第一、第二の従動シーブ21,23の径は、第一、第二の伝達シーブ15,16より大きく設定されている。動力ワイヤ11から張力を加えられる操作シーブ13の径を伝達シーブ15,16より大きくすることで、伝達シーブ15,16から伝達ワイヤ20,22を介して従動シーブ21,23に伝達される回転力を大きくし、また、掻寄板3,4と一体的に回転する従動シーブ21,23の径を伝達シーブ15,16より大きくすることで、伝達シーブ15,16から伝達される回転力を従動シーブ21,23において増幅している。このように、各シーブの径を適宜設定することで、梃子の原理により掻寄板3,4の回転動作がなるべく滑らかに行われるようにしている。
【0040】
掻寄機1を構成する各部の位置関係について補足する。計4輪の車輪5は、本体部2の最下部の四隅に配置されており、槽Tの底面に沿って敷設されたレール6の上面と接している。前側掻寄板3は前側の一対の車輪5より前方に、後側掻寄板4は後側の一対の車輪5より後方に、それぞれ位置している。車輪5およびレール6の左右方向における位置は、掻寄板3,4の左右方向における両端よりも内側である。
【0041】
掻寄板3,4は、掻寄角度において下端が槽Tの底面に接するようになっている。一方、2本のレール6は槽Tの底面に沿って敷設されており、且つ、左右方向に関して掻寄板3,4の両端部より内側に位置している。すなわち、2本のレール6と、掻寄板3,4の下端とは、槽Tの底面において交差している。そこで、掻寄板3,4の下端(掻寄角度における下端)には、レール6に対応する位置に切欠部3a,4aが設けられており、掻寄角度に起立した状態においてレール6と干渉しないようになっている。
【0042】
動作ユニット12は、車輪5より上方に位置し、本体部2から左右方向に関して車輪5より外側に張り出している。支持軸14は、この動作ユニット12の上面に支持される。したがって、支持軸14に取り付けられた操作シーブ13および伝達シーブ15,16は、車輪5よりも外側且つ上方に位置している。掻寄板3,4に取り付けられた従動シーブ21,23の左右方向における位置は、伝達シーブ15,16と一致しているので、従動シーブ21,23は車輪5よりも左右方向に関して外側に位置している。この位置は、左右方向に関して掻寄板3,4の両端よりも内側である。従動シーブ21,23の高さは、車輪5の高さとほぼ同じである。
【0043】
尚、本実施例では、一基の掻寄機1の本体部2に対し2本の動力ワイヤ11を設け、これに合わせて各々が支持軸14を備えた動作ユニット12を左右に計2基設けた場合を例示したが、動作ユニット12の構成はこれに限定されず、設置対象である槽Tの幅等の条件により適宜変動し得る。例えば、
図8に別の実施例として示す如く、比較的幅の狭い槽Tに小さい掻寄機を備えるような場合は、掻寄機1の左右方向中央に設けた一本の動力ワイヤ11および操作シーブ13により、両側に備えた支持軸14を動作させるようにしてもよい。その他、動力ワイヤ11の設置数や、動作ユニット12の設置数、構成等は適宜変更してよい。
【0044】
また、ここでは一基の掻寄機1に対し、掻寄板3,4を前後に計2枚設けた場合を例示したが、掻寄機としては、掻寄板を1枚のみ備えた型式もあり得る。そのような掻寄機においては、例えば一基の動作ユニットにおいて、支持軸に伝達シーブを1個のみ設け、操作シーブの回転を1枚の掻寄板に取り付けた従動シーブと連動させるようにすればよい。このように、本明細書で説明するような構造は、本実施例とは異なる構成の掻寄機にも適宜適用することができる。
【0045】
上に説明したような機構に加え、さらに掻寄板3,4の回転を滑らかにするため、本実施例では支持部7,9および取付部8,10に関し、以下に述べるような構造を採用している。
【0046】
前側支持部7および前側取付部8の構造を
図9、
図10に示す。前側支持部7は、本体部2の前面から張り出すように設けられた部材であり、先端には前側掻寄板3を取り付けるための前側取付部8が設けられている。
【0047】
前側取付部8は、前側支持部7の先端に形成された一対のピン取付部24と、前側掻寄板3に取り付けられた支持シーブ25を備えている。ピン取付部24は、支持シーブ25を挟むように軸方向両側に位置し、支持シーブ25の回転軸をなすピン25aを両側で支持している。ピン25aは、本体部2に対し左右方向に伸びるよう、複数の前側取付部8の支持シーブ25間、および第一の従動シーブ21との間で同軸に設置され、上に述べたような前側掻寄板3の回転軸をなしている。支持シーブ25内におけるピン25aの取り付け位置には球面軸受が設けられ、ピン25aに対する支持シーブ25の回転が滑らかに行われるようになっている。
【0048】
支持シーブ25は、前側掻寄板3の短手方向に関して中間部に取り付けられるが、この支持シーブ25の取付位置において、前側掻寄板3のなす面は、支持シーブ25を挟んで前側支持部7と反対側に凹んでいる。すなわち、前側掻寄板3のうち、前側取付部8にあたる部分には、前側支持部7から遠ざかった位置に面をなすよう、凹状の断面形状を有する凹部26が形成されている。そして、該凹部26の中央部には、前側支持部7に向かって突出するように支持ブラケット27が設けられており、該支持ブラケット27に支持シーブ25が支持されている。このようにすると、前側掻寄板3の重心を、支持シーブ25によって構成される回転軸の位置に近づけ、理想的には一致させることができる。
【0049】
例えば
図11に参考例として示すように、前側掻寄板3に凹部26を設けず、平板状に形成された前側掻寄板3の短手方向中間部から前側支持部7に向かって突出する形で支持ブラケット27を設けた場合、支持シーブ25単体の重心は回転軸の位置に一致するものの、支持シーブ25の取付けられる前側掻寄板3が回転軸から径方向に離れて位置することになるため、支持ブラケット27および支持シーブ25を含む前側掻寄板3全体の重心は回転軸から離れてしまう。すなわち、前側掻寄板3の回転動作にとっては、重心が回転軸から偏心した状態であり、前側掻寄板3の姿勢によっては、滑らかな回転動作が阻害されてしまう。例えば、離底角度にある前側掻寄板3を掻寄角度へ引き起こそうとする場合に、前側掻寄板3の自重が引き起こしの動作を妨げる向きに作用してしまう、といった事態が想定される。むろん、補助ウェイト等を取り付けて重心の位置を是正することは可能ではあるものの、部品点数が増えて構造が複雑になってしまうほか、部分的な重量が増す結果、一部の動作を却って妨げてしまう場合もある。無論、装置全体の重量が増してしまうという問題もある。
【0050】
そこで、
図9、
図10に示すように、前側掻寄板3の前側取付部8にあたる部分に凹部26を設け、そこに形成した支持ブラケット27に支持シーブ25を取り付けるようにすれば、支持シーブ25を前側支持部7に取付けた状態において、前側掻寄板3を構成する部材の大部分が支持シーブ25の回転軸に近づくことになる。その結果、前側掻寄板3全体の重心が回転軸に近づき、偏心が改善あるいは解消され、前側掻寄板3の回転動作を滑らかに行うことが可能となる。
【0051】
尚、
図9、
図10に示すような凹部26を設けなくとも、例えば
図12、
図13に別の実施例として示す如き構造を採用すれば、同様に前側掻寄板3の偏心を改善することはできる。ここに示す別の実施例では、前側掻寄板3に凹部を設けず、支持シーブ25の回転軸をなすピン25aが、平板状の前側掻寄板3のなす面に沿うような形で支持シーブ25を取り付けている。支持シーブ25は前側掻寄板3の両面に突出する形であり、支持シーブ25の回転軸をなすピン25aを支持する前側支持部7先端のピン取付部24も、前側支持部7の先端から見て前側掻寄板3の反対側へ一部が突出している。前側掻寄板3における支持シーブ25の取付箇所の周囲には、ピン取付部24との干渉を避けるための開口28が設けられている。
【0052】
このようにしても、前側掻寄板3全体の重心を回転軸に近づけることができる。重心を中心軸に近づけるには、前側掻寄板3や前側支持部7、ピン取付部24、支持シーブ25を構成する部材自体が妨げになるが、
図9、
図10に示す実施例では、凹部26を設けることでこれらの部材同士の干渉を回避していた。
図12に示す別の実施例では、凹部26の代わりに、開口28によって干渉を避けているのである。ただし、この別の実施例の場合、支持シーブ25と前側掻寄板3を接続する部分に十分な強度を持たせるための構造が必要であると考えられるほか、開口28を設けたことで周囲の材料強度が低下してしまう懸念がある。
図9、
図10に示すように凹部26を設けた構造であれば、十分な厚みを有する支持ブラケット27で支持シーブ25と前側掻寄板3を接続することができ、しかも開口28にあたる部分は凹部26によって補強されるので、支持シーブ25に前側掻寄板3を支持するにあたって十分な強度を容易に確保することができる。
【0053】
さらに本実施例では、前側支持部7と本体部2との接続箇所にスライド部29を設け、前側支持部7を本体部2に対し上下にスライド可能に構成することで、部品製造時の誤差や組付誤差に起因する回転軸のずれを是正できるようにしている。
【0054】
スライド部29の構成を説明する。
図9に示す如く、前側支持部7の基部、および本体部2の前面は、それぞれ垂直に沿った面をなして互いに接している。本体部2における前側支持部7との接触面29aの上方には、前方へ向かって張り出すように調整ブラケット29bが設けられている。そして、本体部2側の部材である調整ブラケット29bと、前側支持部7の基部をなす部材を垂直に沿った向きに上下に貫通するように、ボルトとナットを備えた調整具29cが取付けられている。前側支持部7は、調整具29cによって調整ブラケット29bから吊り下げられる形で本体部2に支持されると共に、調整具29cの締め込みの度合を調整することにより、前側支持部7の位置を接触面29aに沿って上下にずらし、本体部2に対する前側支持部7の上下方向の位置を調整できるようになっている。尚、図示は省略するが、前側支持部7を本体部2に対し固定するための固定具が別途設けられており、調整具29cによって前側支持部7の位置を調整した後、前記固定具によって前側支持部7および前側掻寄板3が本体部2に対し固定されるようになっている。
【0055】
支持シーブ25と第一の従動シーブ21によって構成される前側掻寄板3の回転軸は、上述の通り同軸に設計されている。しかしながら、各部品の製造時や、部品同士の組付け時に生じる誤差により、複数の支持シーブ25や第一の従動シーブ21の間で回転軸がずれてしまう場合がある。こうした回転軸のずれは、前側掻寄板3の回転動作にとって抵抗となる。そこで、このようにスライド部29を設け、本体部2に対する前側支持部7の上下方向の位置を調整可能に構成すれば、前側支持部7の位置を適宜個別に変更することによって誤差を吸収し、回転軸のずれを是正して回転動作に対する抵抗を減らすことができる。また、スライド部29として上述の如き調整具29cを用いた簡単な構造を採用することで、位置の調整を簡便に行うことができる。
【0056】
尚、上では前側支持部7および前側取付部8について説明したが、本実施例では、後側支持部9および後側取付部10についても同等の構造を採用している。すなわち、
図14に示すように、後側支持部9の先端に設けられた後側取付部10は、後側支持部9側に取り付けられた一対のピン取付部24と、後側掻寄板4に取り付けられた支持シーブ25を備えており、後側掻寄板4における支持シーブ25の取付位置には、後側支持部9から遠ざかった位置に面をなすよう、凹部26が形成されている。凹部26の中央部には、後側支持部9に向かって突出するように支持ブラケット27が設けられ、該支持ブラケット27に支持シーブ25が支持されている。
【0057】
また、後側支持部9と本体部2との接続箇所にはスライド部30が設けられ、後側支持部9を本体部2に対し上下にスライドできるようになっている。後側支持部9の基部、および本体部2の後面は、それぞれ垂直に沿った面をなして互いに接しており、本体部2における後側支持部9との接触面30aの下方には、前方へ張り出す形で調整ブラケット30bが設けられている。また、後側支持部9の基部にも、接触面30aから前方に張り出す形で調整ブラケット30cが設けられている。そして、本体部2側の部材である調整ブラケット30bと、後側支持部9側の部材である調整ブラケット30cを垂直に沿った向きに貫通するように、調整具30dが取付けられている。後側支持部9は、調整具30dによって調整ブラケット30bから吊り下げられる形で本体部2に支持されると共に、調整具30dの締め込みの度合を調整することにより、本体部2に対する後側支持部9の上下方向の位置を個別に調整できるようになっている。また、調整具30dによって本体部2に対する後側支持部9の位置を調整した後、図示しない固定具によって後側支持部9および後側掻寄板4が本体部2に対し固定されるようになっている。
【0058】
こうして、後側支持部9および後側取付部10においても、回転軸に対する重心の偏心を改善し、また、部品製造時の誤差や組付誤差に起因する回転軸のずれを是正して回転動作に対する抵抗を減らし、これにより、後側掻寄板4の回転動作を滑らかに行うことができるようになっている。
【0059】
上記した掻寄機1の掻寄走行時、および戻り走行時の動作について説明する。
【0060】
掻寄のための動作を開始する前の初期状態においては、掻寄機1は沈殿池である槽Tの一端側(
図1における右側)に位置しており、掻寄板3,4は、いずれも
図3中に一点鎖線にて示す離底角度にある。ここから、動力ワイヤ11に他端側(左側)に向かう張力を加えると、該動力ワイヤ11の巻き掛けられた操作シーブ13が時計回りに回転しようとする。
【0061】
初期状態において、支持軸14に取り付けられたストッパ19は、支持軸14に対して図中左側の位置にて当接部17aに当接しており(
図7中に一点鎖線にて示す)、支持軸14の時計回りの回転がストッパ19によって妨げられることはない。支持軸14は、動力ワイヤ11から操作シーブ13に加えられる回転力により、本体部2に対し時計回りに回転する。尚、この段階では、槽Tにおける掻寄機1の位置は動かない。
【0062】
支持軸14の回転に伴い、該支持軸14に取り付けられた伝達シーブ15,16も時計回りに回転する。伝達シーブ15,16の回転は、伝達ワイヤ20,22を介し、前後の掻寄板3,4に取り付けられた従動シーブ21,23に伝達される。従動シーブ21,23は、掻寄板3,4と共に時計回りに回転する。
【0063】
支持軸14の回転は、該支持軸14と共に回転するストッパ19が図中右側(
図7中に実線および破線にて示す位置)に達し、右側の当接部17aと接触するまで続く。ストッパ19が当接部17aの部材と接触すると、支持軸14はそれ以上回転できなくなって回転を停止し、支持軸14の回転と連動する伝達シーブ15,16および従動シーブ21,23の回転も停止する。この停止した状態において、掻寄板3,4は
図3中に実線で示す掻寄角度に起立し、下端は槽Tの底面に接している。
【0064】
支持軸14が回転できなくなると、動力ワイヤ11の張力は、動作ユニット12を備えた掻寄機1全体を移動させるように作用する。掻寄機1は、掻寄板3,4を掻寄角度に起立させた状態で保持しつつ、レール6に沿って槽Tの他端側(
図1における左側)へ移動を開始し、掻寄板3,4によって槽Tの底部の固形物を一端側から他端側へ掻き寄せる掻寄走行が行われる。
【0065】
掻寄機1が槽Tの他端に達したら、戻り走行を行い、掻寄機1を再び一端側へ戻す。掻寄走行の終了時点において、掻寄板3,4は
図3中に実線で示す掻寄角度にあるが、戻り走行の際には、掻寄板3,4を離底角度に倒し、下端が槽Tの底面に接触しない状態とする必要がある。
【0066】
動力ワイヤ11に一端側(
図3における右側)に向かう張力を加えると、操作シーブ13は反時計回りに回転しようとする。ストッパ19は支持軸14に対して図中右側の位置(
図7中に実線および破線にて示す位置)にて当接部17aと当接しており、支持軸14の反時計回りの回転がストッパ19によって妨げられることはない。支持軸14は、動力ワイヤ11から操作シーブ13に加えられる回転力により、本体部2に対し反時計回りに回転する。この段階では、槽Tにおける掻寄機1の位置は動かない。
【0067】
支持軸14の回転に連動して、伝達シーブ15,16も反時計回りに回転し、その回転は、伝達ワイヤ20,22を介して前後の掻寄板3,4に取り付けられた従動シーブ21,23に伝達される。従動シーブ21,23は、掻寄板3,4と共に反時計回りに回転する。
【0068】
支持軸14の回転は、該支持軸14と共に回転するストッパ19が図中左側(
図7中に一点鎖線にて示す位置)に達し、左側の当接部17aと接触するまで続く。ストッパ19が当接部17aと接触すると、支持軸14はそれ以上回転できなくなって回転を停止し、伝達シーブ15,16および従動シーブ21,23の回転も停止する。この停止した状態において、掻寄板3,4は
図3中に一点鎖線にて示す離底角度に倒れており、下端は槽Tの底面から離間している。
【0069】
支持軸14が回転できなくなると、動力ワイヤ11の張力は、動作ユニット12を備えた掻寄機1全体を移動させるように作用する。掻寄機1は、掻寄板3,4を離底角度に倒した状態で保持しつつレール6に沿って槽Tの一端側(
図1における右側)へ移動を開始し、戻り走行が行われる。
【0070】
このように、本実施例の掻寄機1では、動力ワイヤ11の巻き掛けられた操作シーブ13の回転を、伝達ワイヤ20,22を介して従動シーブ21,23に伝達し、掻寄板3,4の回転動作と連動させるようにしている。棒状の部材を組み合わせた複雑なリンク機構ではなく、伝達ワイヤ20,22を用いた単純な機構により回転動作の連動を行うようにしているので、連動に関わる部品の点数、および各部品間の接続部の数が少なく、結果として部品同士の間に発生する動作抵抗を最小限に抑えることができ、抵抗の少ない滑らかな掻寄板3,4の回転動作が実現される。
【0071】
また、伝達ワイヤ20,22を用いた単純な機構であるため、回転動作に係る機構全体の重量を抑えることができるほか、複雑な設計の装置を組み上げる必要がなく、掻寄機1に係る製造費を低減することができるというメリットもある。
【0072】
しかも、上述したように、掻寄板3,4の重心を回転軸に近づける構造を採用し、さらにスライド部29,30により回転軸の位置を合わせることができるようにもなっているので、掻寄板3,4の回転動作をいっそう滑らかにすることができる。また、偏心が是正されるため補助ウェイト等も不要であり、装置の重量をさらに軽減することができる。
【0073】
また、本実施例の掻寄機1の場合、車輪5の位置を左右方向に関して掻寄板3,4の両端より内側に設定し、さらに掻寄板3,4とほぼ同じ高さに設定している。これには、地震対策にとって2つの点でメリットがある。
【0074】
第一に、耐震工事への対応である。近年、既設の浄水場等の設備に対し、追加で耐震工事が行われることがある。沈殿池の場合、こうした耐震工事は、例えばもともと設置されている沈殿池の内壁に対し、補強構造を追加する形で行われる。
【0075】
ここで、従来の沈殿池や掻寄機では、例えば沈殿池の左右の内壁の上下方向に関して中間の高さに水平方向に沿ってレールを設置すると共に、車輪はレールの位置に合わせ、掻寄機に対し左右方向に関して最も外側に配置するといった型式が採用されていた。こういった沈殿池において、上述のような耐震工事を内壁に行った場合、もともと内壁に設置されていたレールは、耐震のための補強構造に埋もれて使用できなくなってしまう。むろん、補強構造の他に新たなレールを設置することもできるが、追加の工事費が発生してしまう。
【0076】
本実施例のように、車輪5が左右方向に関して掻寄板3,4の両端より内側に位置し、しかも槽Tの底面に沿って敷設したレール6上で動作するように配置されていれば、上述の如き補強工事を槽Tの内壁に対して行ったとしても、同じレール6や掻寄機1をそのまま使用することができる。
【0077】
第二に、スロッシングの影響の緩和である。地震等によって液体を満たした槽に外部から周期的な揺動が加わると、これによって液体に揺れが生じるが、揺動の振動数と、槽の幅と深さによって決まる固有振動数が一致した場合、共振によって強い揺れ(スロッシング)が発生する。スロッシングは、規模によっては槽からの液体の漏れや、設備の損傷等を招く場合があるが、このスロッシングの影響は、水面付近で特に大きく、底部に向かうほど小さくなることが知られている。本実施例の配置では、槽Tの底面に沿って敷設されたレール6上に車輪5を接する形で、本体部2を設置することになり、上述したような従来の構造(沈殿池の左右の内壁の上下方向に関して中間の高さに水平方向に沿ってレールを設置し、車輪は左右方向に関して最も外側に配置する)と比較すると槽T内における掻寄機1全体の重心の位置が低くなっているので、スロッシングの影響を最小限に抑えることができるのである。
【0078】
以上のように、上記本実施例は、液体Wを貯留する槽T内に設けられ、動力ワイヤ11から加えられる張力により、掻寄板3,4を掻寄角度に保持して固形物を槽Tの一端側から他端側へ掻き寄せる掻寄走行と、掻寄板3,4を離底角度に保持して槽Tの他端側から一端側へ戻る戻り走行を行う掻寄機1に関し、動力ワイヤ11を巻き掛けられる操作シーブ13と、該操作シーブ13と同軸に設けられ、該操作シーブ13と共に回転する伝達シーブ15,16と、掻寄板3,4に取り付けられ、該掻寄板3,4と共に回転する従動シーブ21,23と、伝達シーブ15,16および従動シーブ21,23に巻き掛けられ、伝達シーブ15,16の回転を従動シーブ21,23に伝達する伝達ワイヤ20,22とを備えている。このようにすれば、伝達ワイヤ20,22を用いた単純な機構により回転動作の連動を行うため、連動に関わる部品の点数、および各部品間の接続部の数が少なく、結果として部品同士の間に発生する動作抵抗を最小限に抑え、抵抗の少ない滑らかな掻寄板3,4の回転動作を実現することができる。また、回転動作に係る機構全体の重量を抑えることができるほか、複雑な設計の装置を組み上げる必要がなく、掻寄機1に係る製造費を低減することができる。
【0079】
また、本実施例の掻寄機1は、操作シーブ13の回転軸をなす支持軸14に、操作シーブ13の回転範囲を制限するストッパ19を備えている。このようにすれば、操作シーブ13の回転による掻寄板3,4の回転動作の範囲を簡単な構造により好適に限定することができる。
【0080】
本実施例の掻寄機1は、左右方向に関して掻寄板3,4の両端より内側に車輪5を備え、車輪5は、槽Tの底面に沿って敷設されたレール6上を移動するよう構成されている。このようにすれば、耐震のための補強工事を槽Tの内壁に行ったとしても、同じレール6や掻寄機1をそのまま使用することができる。また、槽T内における掻寄機1の重心を低く設定してスロッシングの影響を抑えることができる。
【0081】
本実施例の掻寄機1は、伝達シーブとして、第一の伝達シーブ15と第二の伝達シーブ16を備え、掻寄板として、本体部2の前方に設けられた前側掻寄板3と、本体部2の後方に設けられた後側掻寄板4とを備え、従動シーブとして、前側掻寄板3に取り付けられた第一の従動シーブ21と、後側掻寄板4に取り付けられた第二の従動シーブ23とを備え、伝達ワイヤとして、第一の伝達シーブ15の回転を第一の従動シーブ21に伝達する第一の伝達ワイヤ20と、第二の伝達シーブ16の回転を第二の従動シーブ23に伝達する第二の伝達ワイヤ22とを備えている。このようにすれば、前後2枚の掻寄板3,4を備えた掻寄機1において、上述の作用効果を奏することができる。
【0082】
本実施例の掻寄機1において、掻寄板3,4は、本体部2から張り出すように設けられた支持部7,9に回転可能に取り付けられ、掻寄板3,4のうち、支持部7,9に対する取付部8,10にあたる部分には、支持部7,9から遠ざかった位置に面をなすよう形成された凹部26と、該凹部26から支持部7,9に向かって伸びる支持ブラケット27とを備えている。このようにすれば、掻寄板3,4全体の重心が回転軸に近づくことにより、掻寄板3,4の回転動作を滑らかに行うことが可能となる。
【0083】
本実施例の掻寄機1は、支持部7,9の本体部2に対する上下方向の位置を調整可能なスライド部29,30を備えている。このようにすれば、支持部7,9の位置を適宜変更することにより、各部品の製造時や部品同士の組付け時に生じる誤差を吸収し、回転軸のずれを是正して回転動作に対する抵抗を減らすことができる。
【0084】
本実施例の掻寄機1において、支持部7,9と本体部2は、スライド部29,30において垂直方向に沿った面をなして互いに接触すると共に、支持部7,9側の部材と本体部2側の部材を上下に貫通する調整具29c,30dを備え、該調整具29c,30dの締め込みの度合を調整することにより、本体部2に対する支持部7,9の上下方向の位置を調整可能に構成されている。このようにすれば、簡単な構成のスライド部29,30により、本体部2に対する支持部7,9の位置を簡便に調整することができる。
【0085】
本実施例の掻寄機1は、掻寄板として、本体部2の前方に設けられた前側掻寄板3と、本体部2の後方に設けられた後側掻寄板4とを備え、支持部として、前側掻寄板3を支持する前側支持部7と、後側掻寄板4を支持する後側支持部9とを備えている。このようにすれば、前後2枚の掻寄板3,4を備えた掻寄機1において、上述の効果を奏することができる。
【0086】
したがって、上記本実施例によれば、簡単な構成で掻寄板の動作を好適に実行し得る。
【0087】
尚、本発明の掻寄機は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0088】
1 掻寄機
2 本体部
3 掻寄板(前側掻寄板)
4 掻寄板(後側掻寄板)
5 車輪
6 レール
7 支持部(前側支持部)
8 取付部(前側取付部)
9 支持部(後側支持部)
10 取付部(後側取付部)
11 動力ワイヤ
13 操作シーブ
14 支持軸
15 伝達シーブ(第一の伝達シーブ)
16 伝達シーブ(第二の伝達シーブ)
19 ストッパ
20 伝達ワイヤ(第一の伝達ワイヤ)
21 従動シーブ(第一の従動シーブ)
22 伝達ワイヤ(第二の伝達ワイヤ)
23 従動シーブ(第二の従動シーブ)
26 凹部
27 支持ブラケット
29 スライド部
29a 接触面
29c 調整具
30 スライド部
30a 接触面
30d 調整具
T 槽(沈殿池)
W 液体(水)