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  • 特許-コーディエライト質焼結体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】コーディエライト質焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/195 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
C04B35/195
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024536082
(86)(22)【出願日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2024021479
【審査請求日】2024-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2023129489
(32)【優先日】2023-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 研作
(72)【発明者】
【氏名】中林 正史
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/066914(WO,A1)
【文献】特開2010-173878(JP,A)
【文献】特開2016-204198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/195
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相がコーディエライトからなり、その他の結晶相としてMgAlSiを含み、MgAlSiの粉末X線回折による(400)面ピーク強度:IMASON(400)とコーディエライトの(312)面ピーク強度:IMAS(312)との比:IMASON(400)/IMAS(312)が、0.05以上0.28以下であるコーディエライト質焼結体。
【請求項2】
ヤング率が145GPa以上である、請求項1に記載のコーディエライト質焼結体。
【請求項3】
22℃における熱膨張係数の絶対値が0.05×10-6/℃以下である、請求項1又は2に記載のコーディエライト質焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星ミラー用基材、望遠鏡用非球面ミラー基材、精密ミラー用基材、パワーレーザー用ミラー基材、基準スケール用基材、精密測定機のテーブル部材、精密露光装置のテーブル部材、精密測定に関する基準器部材等に好適に使用されるコーディエライト質焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星や望遠鏡の高精度化、半導体の高集積化や非球面レンズの高精密化等により、これら宇宙・天文用装置、半導体製造装置や測定装置に使用される部材には、高い形状寸法精度とその経時的な安定性が求められてきている。
【0003】
また、これらの超精密な装置には、レーザーや紫外線反射用の基準ミラーや位置決め用ミラー、そして集光用の非球面ミラー等が必要となってきている。これらの精密ミラーには非常に平滑な面(表面粗さの小さい面)が要求されており、材料としても超平滑面の得られる高品質の材料が求められてきている。超平滑面の得られる高品質の材料としては、特許文献1に開示されているものが知られている。
【0004】
すなわち、特許文献1には、コーディエライトを主成分とし、その他の結晶相としてLaMgAl1119を含み、ヤング率が142GPa以上であるコーディエライト質焼結体が開示されている。この特許文献1によって、精密研磨性(高精度ミラー加工性)を持ちつつ、複雑・微細加工性を合わせ持った低熱膨張材料が得られた。
しかしながら、近年、更に高剛性のものが必要とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-204198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、コーディエライト質焼結体において、その低膨張率、寸法の経時安定性、及び精密研磨性といった特徴を損なわずに、その剛性を更に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため本発明者が鋭意検討した結果、主結晶相がコーディエライトからなるコーディエライト質焼結体中に、その他の結晶相としてMgAlSiを含有させることで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
(1)主結晶相がコーディエライトからなり、その他の結晶相としてMgAlSiを含み、MgAlSiの粉末X線回折による(400)面ピーク強度:IMASON(400)とコーディエライトの(312)面ピーク強度:IMAS(312)との比:IMASON(400)/IMAS(312)が、0.05以上0.28以下であるコーディエライト質焼結体。
(2)ヤング率が145GPa以上ある、(1)に記載のコーディエライト質焼結体。
(3)22℃における熱膨張係数の絶対値が0.05×10-6/℃以下である、(1)又は(2)に記載のコーディエライト質焼結体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコーディエライト質焼結体は、主結晶相のコーディエライトに対して、その他の結晶相としてMgAlSiを含有することで、剛性が向上する。すなわち本発明によれば、コーディエライト質焼結体において、その低膨張率、寸法の経時安定性、及び精密研磨性といった特徴を損なわずに、その剛性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明例である表1の実施例5のCu-Kα線による粉末X線回折測定強度データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコーディエライト質焼結体は、主結晶相がコーディエライトからなり、その他の結晶相としてMgAlSi(以下「N結晶相」という。)を含む。なお、本発明においてコーディエライト(コーディエライトの結晶相)とは、純粋なコーディエライト結晶に加え、他元素の固溶により格子定数が若干変化しているものの、X線回折によりコーディエライト結晶の回折ピークを持つと特定できる結晶相も含むものとする。
【0012】
本発明のコーディエライト質焼結体においてN結晶相は、N結晶相の粉末X線回折による(400)面ピーク強度:IMASON(400)とコーディエライトの(312)面ピーク強度:IMAS(312)との比:IMASON(400)/IMAS(312)が、0.05以上0.28以下となる範囲で含まれる。IMASON(400)/IMAS(312)が0.04未満になると、N結晶相による剛性向上の効果が得られない。一方、IMASON(400)/IMAS(312)が0.28を超えると、コーディエライトによる低膨張性が損なわれる。IMASON(400)/IMAS(312)は、0.08以上0.12以下であることが好ましい。なお、Cu-Kα線による粉末X線回折において、N結晶相の(400)面ピークは2θの25.2°付近に、コーディエライトの(312)面ピークは26.3°付近に観察される。
【0013】
本発明のコーディエライト質焼結体は、上述の通り主結晶相がコーディエライトからなるが、具体的にはコーディエライトを87質量%以上含むことが好ましい。また本発明のコーディエライト質焼結体は、その他の結晶相としてN結晶相を含むが、更にその他の結晶相として、例えばムライトの結晶相、あるいはN結晶相の原料である窒化珪素、サイアロン、N結晶相の合成過程で副産物として生成されるSi2-xAl1+x2-x(O’-サイアロン)、SiO(酸窒化珪素)などを含みうる。ただし、コーディエライトが本来有する低膨張率、寸法の経時安定性、及び精密研磨性といった特徴を損なわずに剛性を向上させる観点から、本発明のコーディエライト質焼結体において粉末X線回折により観察される結晶相は、コーディエライトとN結晶相の2相のみから構成されていても良く、コーディエライトとN結晶相に加えて、N結晶相の原料である窒化珪素、サイアロン、N結晶相の合成過程で副産物として生成されるSi2-xAl1+x2-x(O’-サイアロン)、SiO(酸窒化珪素)などが一部残留していても良い。
【0014】
本発明のコーディエライト質焼結体の剛性は、自重変形や加速度による変形を小さくするために具体的にはヤング率が145GPa以上であることが好ましい。また本発明のコーディエライト質焼結体の熱膨張係数は、温度変化による変形を考慮すれば、できる限り小さいことが好ましく、22℃において、0.05×10-6/K以下であることがより好ましい。なお、熱膨張係数は、熱膨張が非常に小さいため、JIS R3251(低熱膨張ガラスのレーザー干渉法による線熱膨張係数測定方法)により測定した値とする。
【0015】
本発明のコーディエライト質焼結体は、原料粉末(MgO源、Al源、SiO源、 N源)を混合し、更に必要に応じて焼結助剤を混合し焼結することにより製造できる。
MgO源としては、マグネシア、タルク、電融コーディエライト、合成コーディエライト、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、マグネシアスピネル等が使用できる。大型形状や複雑形状品の焼結性の面から電融コーディエライト、合成コーディエライト粉末等が原料粉末としては最適である。また、Al源、SiO源としては、前記のタルク、電融コーディエライト、合成コーディエライトの他に、微粒アルミナ粉末、結晶質シリカ粉末、非晶質シリカ粉末等が好適に使用できる。N源としては、窒化珪素、サイアロン等が使用できる。焼結助剤としては、炭酸カルシウム、酸化鉄等が使用できる。これら原料粉末及び焼結助剤の平均粒径は、その分散性の観点から0.1~5μmの微細粒径が好ましい。
【0016】
焼結方法としては、ホットプレス法、HIP法、ガス圧焼結法、常圧焼結法等が適用できるが、精密研磨時の平均表面粗さを小さくするためには、焼結体中の気孔をできる限り少なくする必要があり、そのため最終熱処理においてはホットプレス法、HIP法、ガス圧焼結法等の加圧焼結法が有効である。また、焼結の雰囲気はアルゴン又は窒素中とすることができる。
【実施例
【0017】
原料粉末としては、MgO源、Al源、SiO源として合成コーディエライト粉末(平均粒径1.9μm)、N源として窒化珪素粉末(平均粒径1.1μm)を使用し、更に焼結助剤として炭酸カルシウム粉末(平均粒径0.9μm)を使用した。なお、合成コーディエライトについては、マグネシア粉末、シリカ粉末及びアルミナ粉末を理論組成にて混合し1420℃で10時間反応してコーディエライト化した顆粒を粉砕したものを使用した。
これらの原料粉末及び焼結助剤を表1に示すように配合し、樹脂バインダーを加えて、水を溶媒としてボールミル中で24時間混合した。得られたスラリーを乾燥造粒し、静水圧150MPaで成形した。得られた成形体を脱脂後、アルゴン又は窒素中にて1300℃以上で焼結し、その後、アルゴンガス圧100MPaにて1300℃でHIP焼成を実施した。
【0018】
得られた焼結体について、嵩密度、22℃における熱膨張係数、及びヤング率を測定した。具体的には、嵩密度は、JIS R1634に準じた方法により測定した。22℃における熱膨張係数は、前記のJIS R3251(低熱膨張ガラスのレーザー干渉法による線熱膨張係数測定方法)により測定した。ヤング率は、超音波パルスエコー法により測定した。
また、得られた焼結体について、その精密研磨性を評価するために精密研磨面の平均表面粗さ(Ra)を測定した。具体的には、100×100×20mmのサンプルにて精密研磨を実施して、その精密研磨面の平均表面粗さ(Ra)を非接触の走査型白色干渉法にて測定した。精密研磨においては、平均粒径0.5μmのセリアスラリーにて中仕上げした後、1/10μm粒度のダイアモンドスラリーにて最終仕上げを行った。
更に、得られた焼結体を粉末にしてCu-Kα線(波長1.54059オングストローム)による粉末X線回折測定を実施して生成した結晶相を同定すると共に、N結晶相の(400)面ピーク強度:IMASON(400)とコーディエライトの(312)面ピーク強度:IMAS(312)との比:IMASON(400)/IMAS(312)を求めた。
なお、得られた焼結体中のコーディエライトの含有率は、表1に示した合成コーディエライト粉末(表1では「CDR」と表記)の配合割合と実質的に同一となる。
【0019】
【表1】
【0020】
表1中の実施例1~6は本発明の範囲内に属する本発明例である。これらの本発明例のコーディエライト質焼結体は、22℃における熱膨張係数の絶対値が0.05×10-6/℃以下、精密研磨面の平均表面粗さ(Ra)が0.9nm以下、及びヤング率が145GPa以上であり、低膨張率及び精密研磨性を有すると共に高剛性を有する。なかでも、IMASON(400)/IMAS(312)が0.08以上0.12以下と好ましい範囲内にある実施例2~4のコーディエライト質焼結体は、低膨張率と高剛性をバランス良く備えている。なお、図1には粉末X線回折測定結果の一例として、実施例5のデータを示している。結晶相は、実質的にコーディエライトとN結晶相の2相及びO’-サイアロン、酸窒化珪素を含んでいる。他の実施例においても同様であった。
【0021】
表1中の比較例1は、IMASON(400)/IMAS(312)が本発明の下限値を下回る例である。ヤング率が低く剛性が十分でない。一方、比較例2はIMASON(400)/IMAS(312)が本発明の上限値を上回る例である。熱膨張係数が高くなると共に、精密研磨面の平均表面粗さ(Ra)が大きくなって精密研磨性が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のコーディエライト質焼結体は、人工衛星用ミラー、望遠鏡用非球面ミラー、超精密ミラー、パワーレーザー用ミラー基材のほか、精密ステージ用支持部材、テーブル、スライダーとして利用可能であり、また、エンコーダ用スケール基盤及びゲージ類、校正用標準尺、基準スケール、オプチカルフラット、フォトマスク用標準など精密測定にかんする基準器部材としても利用可能である。
【要約】
本発明は、コーディエライト質焼結体において、その低膨張率、寸法の経時安定性、及び精密研磨性といった特徴を損なわずに、その剛性を更に向上させる。本発明に係るコーディエライト質焼結体は、主結晶相がコーディエライトからなり、その他の結晶相としてMgAlSiを含み、MgAlSiの粉末X線回折による(400)面ピーク強度:IMASON(400)とコーディエライトの(312)面ピーク強度:IMAS(312)との比:IMASON(400)/IMAS(312)が、0.05以上0.28以下である。
図1