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特許7527756リチウム二次電池電解液組成物およびこれを含むリチウム二次電池
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  • 特許-リチウム二次電池電解液組成物およびこれを含むリチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】リチウム二次電池電解液組成物およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240729BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20240729BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M50/409
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018188298
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2019207854
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-09-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】10-2018-0061204
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 尹 聖
(72)【発明者】
【氏名】高 ギ 錫
(72)【発明者】
【氏名】趙 廷 英
(72)【発明者】
【氏名】金 イッ 圭
(72)【発明者】
【氏名】呂 悦 梅
(72)【発明者】
【氏名】呉 承 ミン
(72)【発明者】
【氏名】金 思 欽
(72)【発明者】
【氏名】崔 誠 ミン
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】山本 章裕
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076145(WO,A1)
【文献】特開2015-037054(JP,A)
【文献】特開2005-302634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M4/00-4/62
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、
負極活物質を含む負極と、
前記正極と負極との間に位置する分離膜と、
電解質と、を含むリチウム二次電池において、
前記電解質は、
リチウム塩と、溶媒と、添加剤と、からなる電解液組成物を含み、
前記添加剤は、ビス(トリメチルシリル)フマラートおよびビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートのうち少なくとも一つを含み、
前記添加剤は、トリメチル(フェニル)シランおよびビニレンカーボネート(VC)をさらに含み、
前記ビス(トリメチルシリル)フマラートおよびビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートの総含量は、全体電解液組成物に対して0.2~0.5wt%であり、
前記トリメチル(フェニル)シランの含量は、全体電解液組成物に対して0.2~1.0wt%であり、
前記ビニレンカーボネート(VC)の含量は、全体電解液組成物に対して0.5wt%であることを特徴とするリチウム二次電池
【請求項2】
前記リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiClO、LiCl、LiBr、LiI、LiB10Cl10、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiN(SO、Li(CFSON、LiCSO、LiB(C、Li(SOF)N(LiFSI)および(CFSONLiよりなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)よりなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質は、Ni含量が30%以上100%未満であるリチウムニッケル-マンガン-コバルト三成分系正極活物質を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記分離膜は、セラミックコーティング分離膜を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
リチウム塩と、
溶媒と、
添加剤と、からなり、
前記添加剤は、ビス(トリメチルシリル)フマラートおよびビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートのうち少なくとも一つを含み、
前記添加剤は、トリメチル(フェニル)シランおよびビニレンカーボネート(VC)をさらに含み、
前記ビス(トリメチルシリル)フマラートおよびビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートの総含量は、全体電解液組成物に対して0.2~0.5wt%であり、 前記トリメチル(フェニル)シランの含量は、全体電解液組成物に対して0.2~1.0wt%であり、
前記ビニレンカーボネート(VC)の含量は、全体電解液組成物に対して0.5wt%であることを特徴とするリチウム二次電池電解液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電解液組成物およびこれを含むリチウム二次電池に係り、より詳しくは、
リチウム塩および溶媒に負極の表面に保護膜を形成するための添加剤を混合することにより、抵抗を減少させて、リチウム二次電池の出力を向上させ、HFスカベンジャーの役割をする添加剤としてトリメチル(フェニル)シランを混合することにより、寿命特性を改善させた中大型用リチウム二次電池用電解液組成物およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、リチウム二次電池は、電気活性物質を受容することにより、鉛電池やニッケル/カドミウム電池に比べて作動電圧が高くて、エネルギー密度が大きい。これに伴い、リチウム二次電池は、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)のエネルギー保存手段として注目されている。
【0003】
電気自動車の走行距離向上のために、電池エネルギーの高密度化が最も重要なイシューであり、これを達成するためには、使用される素材のエネルギー密度が向上しなければならない。現在は、Ni、Co、Mn系の正極素材および黒鉛負極を使用したリチウム二次電池が開発されているが、出力および寿命特性を向上させることができる電解液組成の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再表01/063686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が目的とするところは、出力および寿命特性を向上させたリチウム二次電池用電解液組成物およびこれを含むリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、正極と負極との間に位置する分離膜と、電解質と、を含むリチウム二次電池において、
前記電解質は、リチウム塩と、溶媒と、ビス(トリメチルシリル)フマラートおよびビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートのうち少なくとも一つを含む添加剤と、からなる電解液組成物を含むことを特徴とする。
【0007】
前記添加剤の含量は、全体電解液組成物に対して10wt%以下(0は除外)であることを特徴とする。
【0008】
前記添加剤の含量は、全体電解液組成物に対して0.2~3wt%であることを特徴とする。
【0009】
前記添加剤は、トリメチル(フェニル)シランをさらに含むことを特徴とする。
【0010】
前記トリメチル(フェニル)シランの含量は、全体電解液組成物に対して10wt%以下(0は除外)であることを特徴とする。
【0011】
前記トリメチル(フェニル)シランの含量は、全体電解液組成物に対して0.5~5wt%であることを特徴とする。
【0012】
前記添加剤は、ビニレンカーボネート(VC)をさらに含むことを特徴とする。
【0013】
前記ビス(トリメチルシリル)フマラート、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレート、ビニレンカーボネート(VC)およびトリメチル(フェニル)シランを含む添加剤の総含量は、全体電解液組成物の10wt%以下(0は除外)であることを特徴とする。
【0014】
前記ビス(トリメチルシリル)フマラート、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレート、ビニレンカーボネート(VC)およびトリメチル(フェニル)シランを含む添加剤の総含量は、全体電解液組成物の0.5~1.5wt%であることを特徴とする。
【0015】
前記リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiClO、LiCl、LiBr、LiI、LiB10Cl10、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiN(SO、Li(CFSON、LiCSO、LiB(C、Li(SOF)N(LiFSI)および(CFSONLiよりなる群から選択された1種以上であることを特徴とする。
【0016】
前記溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)よりなる群から選択された1種以上であることを特徴とする。
【0017】
前記正極活物質は、Ni含量が30%以上100%未満であるリチウムニッケル-マンガン-コバルト三成分系正極活物質を含むことを特徴とする。
【0018】
前記分離膜は、セラミックコーティング分離膜を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、リチウム塩と、溶媒と、ビス(トリメチルシリル)フマラートまたはビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートを含む添加剤と、を含むことを特徴とする。
【0020】
前記添加剤の含量は、全体電解液組成物に対して0.2~3wt%であることを特徴とする。
【0021】
前記添加剤は、トリメチル(フェニル)シランをさらに含むことを特徴とする。
【0022】
前記トリメチル(フェニル)シランの含量は、全体電解液組成物の0.5~5wt%であることを特徴とする。
【0023】
前記添加剤は、ビニレンカーボネート(VC)をさらに含むことを特徴とする。
【0024】
前記ビス(トリメチルシリル)フマラート、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレート、ビニレンカーボネート(VC)およびトリメチル(フェニル)シランを含む添加剤の総含量は、全体電解液組成物の1~2.5wt%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、負極活物質に被膜を生成して寿命を増大させるビス(トリメチルシリル)フマラートとビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートのうち少なくとも一つを添加剤として使用することにより、既存のVCの含量を低減しながらも、低抵抗特性の具現を通じてリチウム二次電池の出力を向上させることができるので、中大型電池に適用するのに有用である。
また、Ni、Co、Mnで構成された正極活物質問寿命を低下させるHFの発生を抑制できるトリメチル(フェニル)シランを添加剤として使用することにより、水分脆弱性を補完して、リチウム二次電池の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例2、8および比較例1による100サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。
図2】実施例13~16および比較例2による100サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。
図3】実施例15および比較例2による200サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。
図4】実施例17~30および比較例2による200サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。
図5】実施例17~30および比較例2による200サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について添付の図面および表を参照して詳細に説明する。まず、本発明によるリチウム二次電池用電解液が適用されるリチウム二次電池について説明した後、リチウム二次電池用電解液について詳細に説明する。
リチウム二次電池は、一般的にLiCoOのようなリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として使用し、黒鉛系物質を負極活物質として使用し、リチウムイオンの移動通路の役割をする電解質は、比較的高い電圧でも安定したカーボネート系有機溶媒を使用している。
【0028】
充電時には、リチウムイオンの源泉の役割をする正極活物質からリチウムイオンが脱離(Deintercalation)して、リチウムイオンの貯蔵所の役割をする負極の炭素層状構造の層間に移動し、放電時には、これとは反対に、リチウムイオンが負極から正極に戻って電気を発生する。したがって、正極活物質のリチウムイオン活性化度と負極活物質にリチウムイオンを挿入(intercalation)し得る十分な空間が存在するか否かが、電池の性能を左右する。
しかし、活物質と電解液が副反応を起こしてガスが発生する問題点と、充放電時に、電解液にマンガンおよびその他金属が溶出されて、他の有機物と結合して抵抗を増加させ、究極的には、リチウムカチオンの挙動が自由でないため、電池の出力特性が低下する問題点がある。
【0029】
具体的に、マンガン成分の析出は、高温保存時にさらに深刻に現れるが、溶出されたマンガン成分が負極活物質の表面に析出されて、負極活物質から電子を受けて還元反応により電解液が負極活物質で分解されて、電池の抵抗を増加させる。

一般的に、リチウム二次電池の電解質は、電極と接触しながら界面で酸化-還元反応を起こす。そのため、LiF、LiCO、LiO、LiOHなどの物質が生成されて、負極の表面に被膜を形成するが、このような被膜を固体電解質(Solid Electrolyte Interface、以下SEI)膜という。
SEI膜は、最初充電時に一旦形成されると、以後、電池の使用による充放電の反復時にリチウムイオンと負極または他の物質との反応を阻止し、電解液と負極との間でリチウムイオンのみを通過させるイオントンネルとしての役割を担う。
したがって、電極の表面にSEI膜の形成が可能な添加剤の開発が試みられている。
【0030】
実施例は、正極、負極、分離膜および電解質を含むリチウム二次電池で、電解質がリチウム塩、溶媒および添加剤を含む電解液組成物からなるリチウム二次電池についてのものである。
電極構造体を構成する正極、負極および分離膜には、リチウム二次電池の製造に通常的に使用されたものがいずれも使用できる。
負極活物質としては、通常、リチウムイオンが吸蔵および放出される黒鉛系などが使用でき、特定の黒鉛系に限定されない。
また、分離膜としては、通常の多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムを単独でまたは積層して使用でき、またはセラミックコーティングが使用できるが、これに限定されるものではない。
【0031】
実施例による電解液組成物は、ニッケル-リッチ(Ni-rich)正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池において使用することがより好ましく、したがって、前記正極は、リチウムニッケル-マンガン-コバルト三成分系正極活物質を含む。
具体的に、前記リチウムニッケル-マンガン-コバルト三成分系正極活物質は、Niを主成分として含む。Niは、バッテリー可逆容量および寿命特性を向上させる元素であって、その含量は、三成分系組成に対して30%以上100%未満である。好ましくは、Niの含量は、60%以上である。より好ましくは、80~90%である。
以下、開示された実施例によるリチウム二次電池用電解液の成分および成分間の組成比についてより具体的に説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は、質量%(wt%)である。
本発明のリチウム二次電池用電解液組成物は、リチウム塩と、溶媒と、ビス(トリメチルシリル)フマラートおよびビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートのうち少なくとも一つを含む添加剤からなる。
【0032】
リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiClO、LiCl、LiBr、LiI、LiB10Cl10、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、LiN(SO、Li(CFSON、LiCSO、LiB(C、Li(SOF)N(LiFSI)および(CFSONLiよりなる群から1種以上選択される。
一方、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)よりなる群から1種以上選択される。
【0033】
ビス(トリメチルシリル)フマラート)は、負極活物質の表面に安定したSEI膜を形成する添加剤であって、その含量が多すぎる場合、負極電極の抵抗が増加して、出力が劣る問題があるため、本発明では、その上限を10.0%に限定する。好ましくは、ビス(トリメチルシリル)フマラートの含量は、0.2~3.0%であり、より好ましくは、0.1~0.5%である。
ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートは、負極活物質の表面に安定したSEI膜を形成する添加剤であって、その含量が多すぎる場合、負極電極の抵抗が増加して、セル出力が劣る問題があるため、本発明では、その上限を10.0%に限定する。好ましくは、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートの含量は、0.2~3.0%であり、より好ましくは、0.1~0.5%である。
開示された実施例によるリチウム二次電池用電解液組成物は、添加剤として、トリメチル(フェニル)シランをさらに含むことができる。
【0034】
トリメチル(フェニル)シランは、シリル(silyl)基を含むことにより、電解質内水分を除去して、リチウム塩が加水分解(hydrolysis)されることを抑制する役割を有する。それだけでなく、電解質内リチウム塩が加水分解されて、酸性物質(例えば、HFなど)が生成されても、トリメチル(フェニル)シランの酸化分解生成物と、酸性物質の中和反応により酸性物質が選択的に除去される。ひいては、トリメチル(フェニル)シランを添加すれば、正極の表面に安定したSEI膜を形成する付随的な効果がある。
前述したように、トリメチル(フェニル)シランは、正極活物質の遷移金属の溶出を抑制する役割をする添加剤である。ただし、その含量が多すぎる場合、過量によるセル費用が増加すると同時に、重量当たりエネルギー密度に否定的な影響を及ぼすので、その上限を10.0%に限定する。好ましくは、トリメチル(フェニル)シランの含量は、0.5~5.0%であり、より好ましくは、0.2~1.5%である。
【0035】
本発明のさらに他の態様によるリチウム二次電池用電解液組成物は、添加剤としてトリメチル(フェニル)シランと共にビニレンカーボネート(VC)をさらに含む。
五角構造内環ひずみ(ring strain)とビニル構造を有するビニレンカーボネート(VC)は、一般的に、電解質に使用される有機溶媒より低いLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)エネルギーを有し、還元分解傾向性が相対的に高いため、負極の表面に安定したSEI膜を形成する役割を担う。
ビニレンカーボネート(VC)とトリメチル(フェニル)シランを共に添加する場合には、VCが電解質分解反応が起こることを防止すると同時に、電解質分解反応が起こるとしても、その分解生成物である酸性物質(例えば、HFなど)をトリメチル(フェニル)シランが効果的に除去することができるので、水分脆弱性を補完することができる。
具体的に、VC、トリメチル(フェニル)シランと共にビス(トリメチルシリル)フマラート、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートのうち少なくとも1種以上を混合した添加剤の含量は、10%以下(0は除外)である。好ましくは、0.5~1.5%であり、より好ましくは、1~2.5%である。
【0036】
以下、本発明のリチウム二次電池用電解液組成物の実施例と比較例を通じて本発明の出力および寿命特性を説明する。ただし、下記実施例は、本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の範囲が下記実施例に限定されるのではない。
出力および寿命特性評価のための試験を行うために、下記組成比による実施例および比較例のリチウム二次電池用電解液組成物を製造した。比較例および各実施例の添加剤の含量は、下記表1に整理した。
【0037】
実施例1~6
エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)を2:3:5の体積比で混合した混合液に、リチウム塩として0.5MのLiPFと0.5MのLiFSIを使用し、電解液の総重量に対して下記表1の添加剤としてビス(トリメチルシリル)フマラートを0.1質質量%、0.5質質量%、1.0質質量%、1.5質質量%、2.0質質量%および5.0質質量%で混合して、電解液を製造した。
負極活物質として炭素粉末95質量%、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)/カルボキシメチルセルロース(CMC)3質量%、導電材としてSuper-P 2質量%をHOに添加して、負極混合物スラリーを製造した。これを銅箔の両面にコーティング、乾燥および圧着して、負極を製造した。
【0038】
正極活物質としてLi(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O、バインダーとしてポリビニリデンフルオライド(PVdF)および導電材としてカーボンを93:4:3の重量比で混合した後、N-メチル-2-ピロリドンに分散させて正極スラリーを製造して、アルミ箔にコーティングし、乾燥および圧着して、正極を製造した。製造された負極と正極との間にセラミックコーティングポリオレフィン系の分離膜を介在して電極組立体を形成した後、前記製造された電解液を注入して、パウチ型リチウム二次電池を製作した。
実施例7~12
添加剤としてビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートを使用したことを除いて、実施例1~6と同一に実施した。
比較例1
添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を2質量%使用したことを除いて、実施例1~6と同一に実施した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1による条件下で製造されたリチウム二次電池の出力および寿命特性を評価し、評価結果を下記表2に示す。
寿命特性と関係した容量維持率は、下記のように計算した。
100回目サイクルにおける容量維持率=100回目サイクル放電容量/最初のサイクル放電容量
【0041】
【表2】
【0042】
図1は、実施例2、8および比較例1による100サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。
表2および図1に示すように、比較例1によるリチウム二次電池に比べて、実施例2および8のリチウム二次電池は、100サイクル以後にも初期容量に比べて95%以上の高い容量を維持した。
実施例1による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)フマラート0.1質量%を含み、実施例1の電池の初期抵抗特性は、99%と測定された。
実施例2による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)フマラート0.5質量%を含み、実施例2の電池の初期抵抗特性は、86%であり、100サイクル後の抵抗特性は、90%であり、高温保存後の抵抗特性は、96%であって、比較例1の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。また、実施例2の電池は、比較例1の電池に比べてさらに向上したサイクル特性および電解液イオン伝導度を示す。
【0043】
実施例3による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)フマラート1.0質量%を含み、実施例3の電池の初期抵抗特性は、87%であり、100サイクル後の抵抗特性は、91%であり、高温保存後の抵抗特性は、98%であって、比較例1の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。また、実施例3の電池は、比較例1の電池に比べてさらに向上したサイクル特性および電解液イオン伝導度を示す。
実施例4による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)フマラート1.5質量%を含み、実施例4の電池の初期抵抗特性は、89%であり、100サイクル後の抵抗特性は、94%であって、比較例1の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。また、実施例4の電池は、比較例1の電池に比べてさらに向上したサイクル特性を示す。
実施例5による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)フマラート2.0質量%を含み、実施例5の電池の初期抵抗特性は、92%であり、100サイクル後の抵抗特性は、93%であって、比較例1の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。また、実施例4の電池は、比較例1の電池に比べてさらに向上したサイクル特性を示す。
【0044】
実施例7による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレート0.1質量%を含み、実施例7の電池の初期抵抗特性は、99%と測定された。
実施例8による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレート0.5質量%を含み、実施例8の電池の初期抵抗特性は、91%であり、100サイクル後の抵抗特性は、94%であって、比較例1の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。また、実施例8の電池は、比較例1の電池に比べてさらに向上したサイクル特性および電解液イオン伝導度を示す。
実施例9による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレート1.0質量%を含み、実施例9電池の初期抵抗特性は、95%であり、100サイクル後の抵抗特性は、95%であって、比較例1の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。また、実施例9の電池は、比較例1の電池に比べてさらに向上したサイクル特性を示す。
【0045】
実施例10による電解液組成物は、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレート1.5質量%を含み、実施例10の電池の100サイクル後の抵抗特性は、93%であって、比較例1の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。
結論的に、負極被膜型添加剤として既存VC対比低い抵抗を有するビス(トリメチルシリル)フマラートまたはビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートを使用する場合、出力特性が改善される効果があることを確認することができる。
【0046】
次に、ビニレンカーボネート(VC)を共に添加する場合のリチウム二次電池の出力および寿命特性を説明する。
実施例13~14
電解液添加剤としてVCと共に、ビス(トリメチルシリル)フマラート、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートのうちいずれか一つを使用したことを除いて、実施例1~6と同一条件で実施した。
実施例15~16
トリメチル(フェニル)シランをさらに添加したことを除いて、実施例13~14と同一条件で実施した。
比較例2
添加剤としてVCの含量を1質量%としたことを除いて、比較例1と同一条件で実施した。
表3による条件下で製造されたリチウム二次電池の出力および寿命特性を評価し、評価結果を下記表4に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
図2は、実施例13~16および比較例2による100サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。図3は、実施例15および比較例2による200サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。
表2および図3に示すように、比較例2によるリチウム二次電池に比べて、実施例15のリチウム二次電池は、200サイクル以後にも初期容量対比94.5%以上の高い容量を維持した。
実施例13の電池の100サイクル後の抵抗特性は、92%であり、高温保存後の抵抗特性は、96%であって、比較例2の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。
実施例14の電池の100サイクル後の抵抗特性は、93%であり、高温保存後の抵抗特性は、97%であって、比較例2の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。
【0050】
実施例15の電池の100サイクル後の抵抗特性は、89%であり、高温保存後の抵抗特性は、93%であって、比較例2の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。また、実施例15の電池は、比較例2の電池に比べてさらに向上したサイクル特性を示す。
実施例16の電池の100サイクル後の抵抗特性は、91%であり、高温保存後の抵抗特性は、94%であって、比較例2の電池に比べてさらに向上した出力特性を示す。また、実施例16の電池は、比較例2の電池に比べてさらに向上したサイクル特性を示す。
結論的に、ビス(トリメチルシリル)フマラートまたはビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートをVCと共に使用する場合、VC含量を低減しながらも、セル抵抗が改善される効果があることが確認できる。また、さらにトリメチル(フェニル)シランを添加する場合には、寿命特性が向上する効果があることを実施例15および16を通じて確認することができる。
【0051】
次に、ビニレンカーボネート(VC)とトリメチル(フェニル)シランを共に添加する場合の寿命特性を説明する。
実施例17~30
電解液添加剤としてVC、トリメチル(フェニル)シランと共に、ビス(トリメチルシリル)フマラート、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートのうち少なくとも1種以上を混合して使用したことを除いて、実施例1~6と同一条件で実施した。
VC、ビス(トリメチルシリル)フマラート、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートおよびトリメチル(フェニル)シランの含量を変えて製造されたリチウム二次電池の寿命特性を評価し、評価結果を下記表5に示す。
【0052】
【表5】
【0053】
図4および図5は、実施例17~30および比較例2による200サイクル中の電池寿命特性結果を示すグラフである。
表5および図4に示すように、VCのみを添加した比較例2によるリチウム二次電池に比べて、VC、ビス(トリメチルシリル)フマラートおよびトリメチル(フェニル)シランを混合した実施例17~20のリチウム二次電池は、200サイクル以後にも初期容量対比93.9%以上の高い容量を維持した。
表5および図4に示した比較例2によるリチウム二次電池に比べて、VC、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートおよびトリメチル(フェニル)シランを混合した実施例21~24のリチウム二次電池は、200サイクル以後にも初期容量対比93.4%以上の高い容量を維持した。
【0054】
表5および図5に示したように、比較例2によるリチウム二次電池に比べて、VC、ビス(トリメチルシリル)フマラート、ビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートおよびトリメチル(フェニル)シランを混合した実施例25~30のリチウム二次電池は、200サイクル以後にも初期容量対比94.1%以上の高い容量を維持した。
ただし、表1および表2に示したように、ビス(トリメチルシリル)フマラートまたはビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートの添加量が5%である実施例6および12の場合には、出力および寿命特性が低下することを確認することができ、セルの効用性を考慮して添加剤を2種以上混合しなかった。これに伴い、添加剤の含量は、全体電解液組成物に対して0.5~2.5wt%、好ましくは1~2.5wt%であることが好適であることを確認できる。
【0055】
実施例1~30を参照すると、実施例による添加剤は、ビス(トリメチルシリル)フマラートワビス(トリメチルシリル)チオフェン-2、5-ジカルボキシレートを多様に単独でまたはVC、トリメチル(フェニル)シランと共に組み合わせて用意することができる。
結論的に、実施例による電解液組成物は、VC含量を低減しながらも、初期および高温出力特性を向上させることはもちろん、水分脆弱性を補完してリチウム二次電池の寿命特性を同時に向上させることができる。これに伴い、開示された実施例による電解液組成物を含むリチウム二次電池は、高出力と長寿名が要求される車両用中大型電池に適用が可能である。
【0056】
以上、本発明に関する好ましい実施例を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の属する技術分野を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5