(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】電気掃除機
(51)【国際特許分類】
A47L 9/28 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
A47L9/28 A
A47L9/28 U
(21)【出願番号】P 2019084295
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-03-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】坪井 雅倫
(72)【発明者】
【氏名】松本 正士
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 敏弘
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】長馬 望
【審判官】関口 哲生
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194837(WO,A1)
【文献】特表2010-503505(JP,A)
【文献】特開2008-2372(JP,A)
【文献】特開2020-49092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを有する電動送風機と、
バッテリと、
前記バッテリからの出力をPWM制御して前記モータに供給する制御部と、
前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、
ハンドルと、
を備えたスティックタイプの電気掃除機であって、
ユーザが床面の掃除を行うために前記電気掃除機を使用する場面における、前記電気掃除機の長軸に沿って床面側の方向を下、その逆の方向を上としたときに、
前記電動送風機は前記電気掃除機の上側である一方の側に設けられており、前記ハンドルは前記電動送風機近傍の当該一方の側に設けられており、
前記制御部には、前記PWM制御されたパルス電圧を発生するパルス発生部と、
前記回転数検出部からの前記回転数を示す信号を参照してパルスデューティを決定し、前記パルス発生部を制御するデューティ決定部と、が設けられ、
前記デューティ決定部は、前記モータの回転数が、第1の回転数以上である高回転領域と、前記第1の回転数より小さい第2の回転数以下である低回転領域の範囲内になるように前記パルス発生部を制御し、かつ、
前記モータの回転数が前記高回転領域内となるように前記パルス発生部を制御した場合に、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記第1の回転数以上を保てなくなると、前記モータの回転数が前記低回転領域内となるように前記パルス発生部を制御し、
前記第1の回転数及び前記第2の回転数は、前記第2の回転数と前記第1の回転数の間の前記モータの回転数の領域が、前記電気掃除機において不快音を発生させる領域として、定められていることを特徴とする電気掃除機。
【請求項2】
前記デューティ決定部は、
前記高回転領域内の制御から、前記低回転領域内の制御への移行を、
前記モータの回転数が徐々に変化するように前記パルス発生部を制御して実行することを特徴とする、請求項1に記載の電気掃除機。
【請求項3】
モータを有する電動送風機と、
バッテリと、
前記バッテリからの出力をPWM制御して前記モータに供給する制御部と、
前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、
ハンドルと、
を備えたスティックタイプの電気掃除機であって、
前記制御部には、前記PWM制御されたパルス電圧を発生するパルス発生部と、
前記回転数検出部からの前記回転数を示す信号を参照してパルスデューティを決定し、前記パルス発生部を制御するデューティ決定部と、が設けられ、
前記デューティ決定部は、前記モータの回転数が、第1の回転数以上である高回転領域と、前記第1の回転数より小さい第2の回転数以下である低回転領域の範囲内になるように前記パルス発生部を制御し、かつ、
前記モータの回転数が前記高回転領域内となるように前記パルス発生部を制御した場合に、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記第1の回転数以上を保てなくなると、前記モータの回転数が前記低回転領域内となるように前記パルス発生部を制御し、
前記第1の回転数及び前記第2の回転数は、前記第2の回転数と前記第1の回転数の間の前記モータの回転数の領域が、前記電気掃除機において不快音を発生させる領域として、定められており、
前記デューティ決定部は、前記モータの回転数が一定値となるように前記パルス発生部を制御するとともに、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記一定値を保てなくなった場合に、前記モータの回転数が前記一定値よりも低い他の一定値となるように前記パルス発生部を制御することを特徴とす
る電気掃除機。
【請求項4】
前記デューティ決定部は、パルスデューティが一定値となるように前記パルス発生部を制御するとともに、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記第1の回転数以上を保てなくなった場合に、前記モータの回転数が前記低回転領域内となる、パルスデューティが前記一定値よりも低い他の一定値となるように前記パルス発生部を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の電気掃除機。
【請求項5】
前記モータの回転数の制御目標が、前記第1の回転数以上である強モードと、前記第2の回転数以下である弱モードとを有しており、
前記強モードまたは前記弱モードを指示するユーザ操作を受け付けて、前記デューティ決定部に伝達する操作部を更に備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気掃除機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリを備えた電気掃除機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動掃除機には、空気と共に塵埃を吸引し集塵部に集めるための電動送風機が設けられている。電動送風機による吸引力を制御するために、電動送風機のモータの回転数を制御することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動送風機のモータは、毎分数千回転以上の高速で回転する。そのため、特定の回転数域においては、モータが共振による耳障りな不快音を発生する。そこで従来、不快音を発生する帯域を避けて電動送風機のモータの回転数が設定されていた。特許文献1のような従来技術では、電動掃除機の電源として商用交流を用いているので、電源電圧は変動しない。よって、設定した値からモータの回転数から大きく変動してしまうことは無く、不快音が発生してしまう事態には至らなかった。
【0005】
しかし、コードレス電気掃除機のように、バッテリを電動送風機の電源として用いる場合には、放電に従ってバッテリの出力電圧が減少する。このようなバッテリの出力電圧変化は、モータの回転数の変動をもたらすことになる。すると、満充電の状態では不快音を発生するような回転数域を避けていた場合であっても、出力電圧の低下に伴って耳障りな不快音を発生することがあった。
【0006】
本発明の一態様は、バッテリを電動送風機の電源として用いる電気掃除機において、バッテリの出力電圧の変化に伴い生じ得る耳障りな不快音の発生を低減できる電気掃除機を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電気掃除機は、モータを有する電動送風機と、バッテリと、前記バッテリからの出力をPWM(Pulse Width Modulation)制御して前記モータに供給する制御部と、前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、ハンドルと、を備えたスティックタイプの電気掃除機であって、ユーザが床面の掃除を行うために前記電気掃除機を使用する場面における、前記電気掃除機の長軸に沿って床面側の方向を下、その逆の方向を上としたときに、前記電動送風機は前記電気掃除機の上側である一方の側に設けられており、前記ハンドルは前記電動送風機近傍の当該一方の側に設けられており、前記制御部には、前記PWM制御されたパルス電圧を発生するパルス発生部と、前記回転数検出部からの前記回転数を示す信号を参照してパルスデューティを決定し、前記パルス発生部を制御するデューティ決定部と、が設けられ、前記デューティ決定部は、前記モータの回転数が、第1の回転数以上である高回転領域と、前記第1の回転数より小さい第2の回転数以下である低回転領域の範囲内になるように前記パルス発生部を制御し、かつ、前記モータの回転数が前記高回転領域内となるように前記パルス発生部を制御した場合に、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記第1の回転数以上を保てなくなると、前記モータの回転数が前記低回転領域内となるように前記パルス発生部を制御し、前記第1の回転数及び前記第2の回転数は、前記第2の回転数と前記第1の回転数の間の前記モータの回転数の領域が、前記電気掃除機において不快音を発生させる領域として、定められている構成を備えている。上記の課題を解決するために、本発明の別の一態様に係る電気掃除機は、モータを有する電動送風機と、バッテリと、前記バッテリからの出力をPWM制御して前記モータに供給する制御部と、前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、ハンドルと、を備えたスティックタイプの電気掃除機であって、前記制御部には、前記PWM制御されたパルス電圧を発生するパルス発生部と、前記回転数検出部からの前記回転数を示す信号を参照してパルスデューティを決定し、前記パルス発生部を制御するデューティ決定部と、が設けられ、前記デューティ決定部は、前記モータの回転数が、第1の回転数以上である高回転領域と、前記第1の回転数より小さい第2の回転数以下である低回転領域の範囲内になるように前記パルス発生部を制御し、かつ、前記モータの回転数が前記高回転領域内となるように前記パルス発生部を制御した場合に、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記第1の回転数以上を保てなくなると、前記モータの回転数が前記低回転領域内となるように前記パルス発生部を制御し、前記第1の回転数及び前記第2の回転数は、前記第2の回転数と前記第1の回転数の間の前記モータの回転数の領域が、前記電気掃除機において不快音を発生させる領域として、定められており、前記デューティ決定部は、前記モータの回転数が一定値となるように前記パルス発生部を制御するとともに、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記一定値を保てなくなった場合に、前記モータの回転数が前記一定値よりも低い他の一定値となるように前記パルス発生部を制御することを特徴とする構成を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、バッテリを電動送風機の電源として用いる電気掃除機において、バッテリの出力電圧の変化に伴い生じ得る耳障りな不快音の発生を低減できる電気掃除機が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る電動掃除機を斜め後方から視た斜視図である。
【
図2】実施形態1に係る電動掃除機の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施形態1に係る電動掃除機の動作例を示すタイムチャートである。
【
図4】実施形態2に係る電動掃除機の動作例を示すタイムチャートである。
【
図5】実施形態3に係る電動掃除機の構成を示すブロック図である。
【
図6】実施形態3に係る電動掃除機の動作例を概念的に示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、
図1~3を用いて詳細に説明する。
【0011】
(電気掃除機の全体形状)
図1は、実施形態1に係る電気掃除機1を斜め後方から視た斜視図である。電気掃除機1はいわゆるスティックタイプのコードレス掃除機であり、一方の側(上側)に電動送風機収容部14や集塵部15を備え、他方の端部(下端)に吸込口体19を備える。電動送風機収容部14の下方に集塵部15が直接接続される。集塵部15は、電動送風機収容部14の側のフィルタ収納部151と、反対側の集塵容器152とからなる。
【0012】
ここで、ユーザが床面の掃除を行うために電気掃除機1を使用する場面における、電気掃除機1の長軸に沿って床面側の方向を下、その逆の方向を上としている。また、ユーザが電気掃除機1を押すときに進む方向を前方、引くときに進む方向を後方とする。
【0013】
電気掃除機1の上端はハンドル12である。電気掃除機1の前方にはハンドル12から下方に向けて連続した部分である駆動装置収容部13、吸引管部16が続いている。駆動装置収容部13の後方には、電動送風機収容部14が位置する。吸引管部16の後方には集塵部15が位置する。バッテリユニット11が電動送風機収容部14の後方に脱着可能に接続されている。
【0014】
集塵部15は吸引管部16に連結され、吸引管部16と吸込口体19とが延長管17を介して連通連結されている。
【0015】
吸込口体19は、床面上を前後方向に走行する吸込口本体193と、その上側の関節部192、更にその上側の管状接続部191とから構成される。吸込口本体193には底部(下側)に吸込口194が設けられている。吸込口体19は、吸込口194近傍に回転可能に設けられた回転ブラシ195を有している。吸込口本体193は、関節部192と管状接続部191を通じて延長管17に連通連結されている。
【0016】
(電気掃除機の機能ブロック)
図2は、実施形態1に係る電気掃除機1の機能ブロックを示したブロック図である。図示されるように、電気掃除機1は、バッテリ20、駆動用電源回路21、制御用電源回路22、制御部23、電動送風機24、回転数検出部25、操作部26を備えている。制御部23には、少なくともパルス発生部231とデューティ決定部232とが設けられている。電動送風機24には、モータ241とファン242とが設けられている。
【0017】
バッテリ20は、バッテリユニット11の内部に収容されている。バッテリ20は、電気掃除機1全体に電力を供給する2次電池である。バッテリ20の出力は駆動用電源回路21を通じてパルス発生部231に供給される。駆動用電源回路21は、バッテリ20の出力電圧を適正な電圧に変換してパルス発生部231に供給するための回路である。
【0018】
また、バッテリ20の出力は制御用電源回路22を通じて制御部23に供給される。制御用電源回路22は、制御部23のデューティ決定部232等の、比較的低電圧で動作する回路部分に対して、バッテリ20からの出力電圧を変換して供給するための回路である。
【0019】
制御部23は、駆動装置収容部13の内部に収容されている。パルス発生部231は、バッテリ20からの直流出力を基に、PWM制御されたパルス電圧を発生して電動送風機24のモータ241に供給する回路である。パルス発生部231は、入力された直流電圧をスイッチング素子によりオン/オフしてチョッピングを行い、PWM制御されたパルス電圧を発生する。パルスデューティ(デューティ比)が一定である場合、パルス発生部231の出力するパルス電圧はバッテリ20からの出力電圧に依存して変動する。パルス発生部231の出力するパルスのパルスデューティ(デューティ比)は、デューティ決定部232により制御される。
【0020】
電動送風機24は、電動送風機収容部14の内部に収容されている。電動送風機24のモータ241によりファン242が駆動され、回転数に応じ、塵埃を吸い込むための吸引力が発生する。電動送風機24のモータ241は直流モータであり、その回転数はパルス発生部231の出力するパルスの平均電圧に依存する。なお、パルス発生部231と電動送風機24のモータ241の間に、平滑回路が設けられていてもよい。
【0021】
回転数検出部25は、モータ241の回転数を検出し、当該回転数を示す信号をデューティ決定部232に出力する。回転数検出部25は、磁気あるいは光学センサを備え、回転数を直接検出するものであって良い。あるいは、モータ241を流れる電流波形を検出することにより回転数を検出するものであって良い。あるいはモータ241の温度により間接的に回転数を検出するものであってもよい。
【0022】
デューティ決定部232は、回転数検出部25からの回転数を示す信号を参照して、パルス出力のパルスデューティ(デューティ比)を決定し、パルス発生部231にパルス出力を発生させるPWM制御を実行する。デューティ決定部232は、回転数検出部25を通じてモータ241の回転数をフィードバック制御することが可能である。
【0023】
駆動装置収容部13の前面に設けられる操作部26(
図1に不図示)には、電気掃除機1運転時の吸引力を強または弱に変更するための、ユーザが操作するスイッチが設けられている。操作部26は、ユーザの操作に応じて、強モードまたは弱モードが選択されていることを示す信号を、デューティ決定部232に伝達する。デューティ決定部232は、当該信号に基づいて、電動送風機24のモータ241の回転数の目標値を調整し得る。
【0024】
なお電気掃除機1が、このような吸引力のモードの切り替え機能を備えていることは必須では無く、その場合操作部26は無くても構わない。またその場合、電気掃除機1は、上記強モードのみで動作することと同義となる。
【0025】
(電気掃除機の動作)
図3は、電気掃除機1の実施形態1の動作例を示すタイムチャートである。図において、電動送風機24のモータ241の回転数と、パルス発生部231の出力するパルスのパルスデューティ(デューティ比)が示されている。以下においては、電気掃除機1が強モードに設定されているものとする。
【0026】
図3に、電動送風機24のモータ241の回転数の範囲が、71000rpmを超え75000rpm未満である領域を記号Zで示す。この領域Zは、実施形態1の電気掃除機1において、電動送風機24のモータ241が不快音を発生させる回転数の範囲である。制御部23は、回転数が、75000rpm(第1の回転数)以上である高回転領域Hと、71000rpm(第2の回転数)以下である低回転領域Lの範囲内になるように、以下の通り電動送風機24のモータ241の回転数制御を行う。
【0027】
最初の期間T1の開始時において、バッテリ20は満充電状態であるとする。当初の回転数の目標値は77000rpmであり、当該回転数となるように、デューティ決定部232はパルスデューティ(デューティ比)を調整し、
図3の例では81%と決定する。
【0028】
期間T1の間、バッテリ20の放電に従いバッテリ20からの出力電圧が低下すると、パルスデューティ(デューティ比)が当初の81%のままであればパルス発生部231の出力するパルスのパルス電圧は低下する。しかし、デューティ決定部232は、回転数を維持するようにフィードバック制御を実行する。電気掃除機1の吸引力を一定に維持するためである。パルスの平均電圧の低下を補うためデューティ決定部232はパルスデューティ(デューティ比)を徐々に増大させる。
【0029】
パルスデューティ(デューティ比)の値には最大値が設定されており、実施形態1においては例示として90%とする。最大値はモータや電池、筐体の構成などに応じて安全性を担保するためのものである。最大値が100%となることもあり得る。パルスデューティ(デューティ比)を徐々に増大させた結果、パルスデューティ(デューティ比)が最大値に達すると、もはやそれ以上続けて、回転数77000rpmを維持できない(期間T1の終了)。
【0030】
すると、デューティ決定部232は、次の目標回転数を、当初の目標回転数である77000rpmよりも低下した値である76000rpmに再設定し、パルスデューティ(デューティ比)を徐々に低下させる(期間T2)。回転数検出部25の検出した回転数が、再設定した目標回転数の76000rpmになると、デューティ決定部232は、当該回転数を維持するようにフィードバック制御を実行する(期間T3の開始)。
【0031】
期間T3においても、期間T1と同様に、デューティ決定部232は、パルスの平均電圧の低下を補うためパルスデューティ(デューティ比)を徐々に増大させる。パルスデューティ(デューティ比)が最大値の90%に達すると、もはやそれ以上続けて、回転数76000rpmを維持できない(期間T3の終了)。
【0032】
すると、デューティ決定部232は、その次の目標回転数を更に低下した値75000rpmに再設定する。デューティ決定部232はパルスデューティ(デューティ比)を徐々に低下させる(期間T4)。回転数検出部25の検出した回転数が再設定した目標回転数の75000rpmになると、デューティ決定部232は、当該回転数を維持するようにフィードバック制御を実行する(期間T5の開始)。
【0033】
期間T5においても、期間T1と同様に、デューティ決定部232は、パルスの平均電圧の低下を補うためパルスデューティ(デューティ比)を徐々に増大させる。パルスデューティ(デューティ比)が最大値の90%に達すると、もはやそれ以上続けて、回転数75000rpmを維持できない(期間T5の終了)。
【0034】
回転数75000rpmは、高回転領域Hの下限であるから、これよりも回転数がやや低い値に目標回転数を設定すると、耳障りな不快音が発生してしまう。従ってデューティ決定部232は、次に目標回転数を低回転領域Lの上限の、71000rpmに設定する。デューティ決定部232はパルスデューティ(デューティ比)を低下させる(期間T6)。回転数検出部25の検出した回転数が71000rpmになると、当該回転数を維持するようにフィードバック制御を実行する(期間T7の開始)。
【0035】
デューティ決定部232は、耳障りな不快音が発生する回転数の領域Zにおいてパルスデューティ(デューティ比)を低下させるにあたり、回転数の急激な変化によってユーザの違和感が生じることを抑制するため、パルスデューティ(デューティ比)を徐々に低下させる。例えば、0.3秒毎にパルスデューティ(デューティ比)を0.1%ずつ下げるようにすればよい。しかし、領域Zにおける不快音の発生期間をできるだけ短くするため、パルスデューティ(デューティ比)を急激に低下させることも可能である。
【0036】
実施形態1に係る電気掃除機1によれば、バッテリ20の出力電圧の変動に係わらず、電動送風機24のモータ241から耳障りな不快音が発生することを低減できる。従って使用するユーザの不快感が抑制された、バッテリにより駆動される電気掃除機1を実現することができる。
【0037】
更に、バッテリ20の出力電圧の低下に伴いステップ状に電動送風機24のモータ241の回転数を低下させつつも、できる限り一定の強い吸引力を発揮し得る制御を行う電気掃除機1を実現することができる。
【0038】
(付記事項)
電気掃除機1が、吸引力のモードの切り替え機能を備えている場合には、バッテリ20の放電に伴う電圧低下の無い初期状態における目標回転数が、次のように設定されることが望ましい。強モードでの目標回転数は高回転領域Hの下限値(第1の回転数)よりも高い回転数に、弱モードでの目標回転数は低回転領域L内に設定する。
【0039】
吸引力の高い強モードでユーザが電気掃除機1を使用していると、
図3に示されたようにバッテリ20の出力電圧の低下に伴い、制御部23が一定値であるようにフィードバック制御する目標の回転数が徐々に低下する。実施形態1において、耳障りな不快音が発生する回転数の範囲(領域Z)を71000rpmを超えて75000rpm未満の範囲としている。しかし、ユーザによって不快音と感じる回転数の範囲の広狭が異なる。敏感なユーザであれば、例えば回転数が75000rpmである際にも不快感を持ったり、あるいは電気掃除機1になんらかの異常が発生していると感じる可能性がある。
【0040】
このような場合、ユーザは、操作部26を操作して、不快もしくは異常を感じる状態を解消しようと試みる。その結果、吸引力のモード切り替えにより、弱モードが選択され、不快もしくは異常を感じる状態が解消される。すると違和感が解消されて、ユーザは電気掃除機1の使用を継続する。
【0041】
このように、一定の回転数の領域を回避する構成に加えて、吸引力のモードの切り替え機能を備えていることにより、不快音に対して敏感なユーザの違和感をも解消し得るように作用し得る。
【0042】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。以下の実施形態についても同様である。
【0043】
実施形態2に係る電気掃除機の構成は、
図1及び
図2に示された実施形態1の電気掃除機1と同じである。実施形態2は、デューティ決定部232が設定する回転数の目標値の定め方が実施形態1とは異なる事例である。
【0044】
図4は、実施形態2における、電気掃除機1の動作を説明するためのタイムチャートである。以下においては、電気掃除機1が強モードに設定されているものとする。
【0045】
最初の期間T1の開始時において、バッテリ20は満充電状態であるとする。当初の回転数の目標値は77000rpmであり、当該回転数となるように、デューティ決定部232は、パルスデューティ(デューティ比)を81%と決定する。
【0046】
期間T1の間、デューティ決定部232は期間T1の当初のパルスデューティ(デューティ比)を維持するようにパルス発生部231を制御する。パルスデューティ(デューティ比)が一定であるため、バッテリ20の放電に従い、パルス発生部231の出力するパルスのパルス電圧は低下する。すると、パルス電圧の低下に伴ってパルスの平均電圧も低下するから、回転数が徐々に低下する。
【0047】
デューティ決定部232が、回転数が高回転領域Hの下限値(第1の回転数)である75000rpmに達することを、回転数検出部25を通じて検出する(期間T1の終了)と、次の目標回転数を低回転領域Lの上限(第2の回転数)である71000rpmに設定する。
【0048】
デューティ決定部232はパルスデューティ(デューティ比)を低下させる(期間T2)。回転数の低下により、回転数検出部25の検出した回転数が71000rpmとなると、次にそのパルスデューティ(デューティ比)を維持する(期間T3の開始)。
図4の例では、その際のパルスデューティ(デューティ比)は76%であった。なお、期間T3の開始時のパルスデューティ(デューティ比)は、回転数検出部25の検出結果に合わせて決める必要はなく、あらかじめ定めた値としてもよい。
【0049】
期間T3において、デューティ決定部232は期間T3の当初のパルスデューティ(デューティ比)を維持するようにパルス発生部231を制御する。パルスデューティ(デューティ比)が一定であるため、バッテリ20の放電に従い、パルス発生部231の出力するパルスのパルス電圧は低下する。すると、パルス電圧の低下に伴ってパルスの平均電圧も低下するから、回転数が徐々に低下する。
【0050】
実施形態2においても、バッテリ20の出力電圧の変動に係わらず、電動送風機24のモータ241から耳障りな不快音が発生することが抑制される。従って使用するユーザの不快感が抑制された、バッテリにより駆動される電気掃除機1を実現することができる。
【0051】
実施形態1においては、なるべく吸引力を一定とするために、各期間において徐々にパルスデューティ(デューティ比)を上昇させる制御を行った。一方実施形態2においては、高回転領域Hでの運転の期間T1及び低回転領域Lでの運転の期間T3のそれぞれにおいて、パルスデューティ(デューティ比)が、各期間の当初において目標回転数が実現されたときの値に固定される。従って、期間中にパルスデューティ(デューティ比)が高い値に上昇していくことは無く、パルスデューティ(デューティ比)の値によっては、その分バッテリ容量の消費が、実施形態1と比較すると抑制される。従って、実施形態2においては、より長時間の運転が可能なバッテリ駆動式の電気掃除機が実現される。
【0052】
〔実施形態3〕
図5は、実施形態3に係る電気掃除機の機能ブロックを示した図である。実施形態1に係る電気掃除機1と比較すると、実施形態3に係る電気掃除機は、報知部27を備えている点が異なる。報知部27は、デューティ決定部232から指令を受けて、ユーザに情報の報知を行う機能ブロックである。なお、
図5においては、実施形態1における操作部26を備えていないが、実施形態3に係る電気掃除機は、これを備えているものであってもよい。
【0053】
図3の実施形態1の電気掃除機1の高回転領域Hにおける動作において、一旦パルスデューティ(デューティ比)が最大値90%に達して目標回転数が下げられた後の各ステップ(期間T3と期間T5)におけるパルスデューティ(デューティ比)の推移は、各ステップにおいて同様となる。それぞれの目標回転数のステップにおいて、パルスデューティ(デューティ比)が最大値90%に達した後、目標回転数を同量の一定値下げたところから開始しているからである。
【0054】
実施形態3の電気掃除機は、この点に着目したものであり、一旦パルスデューティ(デューティ比)が最大値に達して目標回転数が下げられた後のステップ(期間T3と期間T5)において、特徴的な動作を実行するものである。
図6のタイムチャートを参照して、実施形態3に係る電気掃除機の動作を説明する。
図6は
図3と同様のタイムチャートである。
【0055】
電動送風機24への塵埃の吸入を防止するためのフィルタ(フィルタ収納部151内に設置)が目詰まりした場合、あるいは、例えば、布を吸い込んで吸込口194が閉じられた状態(閉塞状態)になった場合には、電動送風機24のモータ241の負荷が軽減して回転数が上昇しようとする。一定の目標回転数に維持するようにフィードバック制御を行っている場合にあっては、デューティ決定部232は、回転数を維持するためにパルスデューティ(デューティ比)を低下させる。パルスデューティ(デューティ比)が低下するように示されている、
図6の期間T3におけるT3a、期間T5におけるT5aは、そのような現象を概念的に示している。また、パルスデューティ(デューティ比)が増加するように示されている、
図6の期間T3におけるT3b、期間T5におけるT5bは、ユーザの対処によりそのような現象が解消し、通常の状況に復帰する状態を概念的に示している。
【0056】
図6の期間T3及びT5におけるD1は、フィルタの交換やフィルタ清掃、あるいは吸込口194を塞ぐ物体の除去を必要とするような目詰まりの状態(閉塞度)に相当するパルスデューティ(デューティ比)値を示している。デューティ決定部232は、期間T3または期間T5において、決定したパルスデューティ(デューティ比)がD1以下になると、報知部27に指示して、フィルタの交換や清掃、あるいは吸込口194を塞ぐ物体の除去が必要となったことをユーザに報知する。報知の方法は具体的にはランプ点灯で示すことが挙げられる。
【0057】
更に、フィルタの目詰まりがひどくなると、あるいは、吸い込んだ物体により吸込口194が塞がれてしまうと、塵埃の吸引を行うことが困難となる。そのような場合に、強制的に電気掃除機の運転が停止するように制御することも可能である。
図6の期間T3及びT5におけるD2は、そのような塵埃の吸引を継続することが困難となる状態に相当するパルスデューティ(デューティ比)値を示している。D2は当然にD1よりも小さい値である。
【0058】
デューティ決定部232は、期間T3または期間T5において、決定したパルスデューティ(デューティ比)がD2以下になると、報知部27に指示して、フィルタの交換が必要となったことをユーザに報知する。またその際、デューティ決定部232は、パルス発生部231を制御してパルスの発生を停止する。
【0059】
実施形態3においても上記実施形態1と同様の効果が得られる。更に、フィルタの交換や清掃、あるいは吸込口194を塞ぐ物体の除去が必要な状況になったことをユーザが認識でき、ユーザの利便性が高まる。また強制的に電気掃除機の運転を停止することにより、塵埃の吸引を行うことが困難であるのに動作し続けることが無くなる。よって、ユーザはフィルタの即時の交換が必要なことを認識でき、ユーザの利便性が更に高まる。
【0060】
〔ソフトウェアによる実現例〕
電気掃除機1の機能ブロック(特にデューティ決定部232)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0061】
後者の場合、電気掃除機1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0062】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る電気掃除機は、モータを有する電動送風機と、バッテリと、前記バッテリからの出力をPWM制御して前記モータに供給する制御部と、前記モータの回転数を検出する回転数検出部とを備え、前記制御部には、前記PWM制御されたパルス電圧を発生するパルス発生部と、前記回転数検出部からの前記回転数を示す信号を参照してパルスデューティを決定し、前記パルス発生部を制御するデューティ決定部と、が設けられ、前記デューティ決定部は、前記モータの回転数が、第1の回転数以上である高回転領域と、前記第1の回転数より小さい第2の回転数以下である低回転領域の範囲内になるように前記パルス発生部を制御する構成を備える。
【0063】
上記の構成によれば、バッテリを電動送風機の電源として用いる電気掃除機において、バッテリの出力電圧の変化に伴い生じ得る耳障りな不快音の発生を低減できる電気掃除機が実現できる。
【0064】
本発明の態様2に係る電気掃除機は、上記態様1において、前記デューティ決定部が、前記モータの回転数が前記高回転領域内となるように前記パルス発生部を制御し、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記第1の回転数以上を保てなくなった場合に、前記モータの回転数が前記低回転領域内となるように前記パルス発生部を制御する構成を備えていてもよい。
【0065】
上記の構成によれば、バッテリを電動送風機の電源として用いる電気掃除機において、放電によるバッテリの出力電圧の低下に伴い生じ得る耳障りな不快音の発生を低減できる電気掃除機が実現できる。
【0066】
本発明の態様3に係る電気掃除機は、上記態様2において、前記デューティ決定部が、前記高回転領域内の制御から、前記低回転領域内の制御への移行を、前記モータの回転数が徐々に変化するように前記パルス発生部を制御して実行する構成を備えていてもよい。
【0067】
上記の構成によれば、回転数の急激な変化によってユーザの違和感が生じることを抑制する電気掃除機を実現することができる。
【0068】
本発明の態様4に係る電気掃除機は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記デューティ決定部が、前記モータの回転数が一定値となるように前記パルス発生部を制御するとともに、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記一定値を保てなくなった場合に、前記モータの回転数が前記一定値よりも低い他の一定値となるように前記パルス発生部を制御する構成を備えていてもよい。
【0069】
上記の構成によれば、バッテリの出力電圧の低下に伴いステップ状に電動送風機のモータの回転数を低下させつつも、できる限り一定の強い吸引力を発揮し得る制御を行う電気掃除機を実現することができる。
【0070】
本発明の態様5に係る電気掃除機は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記デューティ決定部が、パルスデューティが一定値となるように前記パルス発生部を制御するとともに、前記バッテリの出力電圧の低下に伴って、前記モータの回転数が前記第1の回転数以上を保てなくなった場合に、前記モータの回転数が前記低回転領域内となる、パルスデューティが前記一定値よりも低い他の一定値となるように前記パルス発生部を制御する構成を備えていてもよい。
【0071】
上記の構成によれば、耳障りな不快音の発生を低減できつつ、バッテリの消費を抑制し長時間運転し得る電気掃除機を実現することができる。
【0072】
本発明の態様6に係る電気掃除機は、上記態様1から5のいずれかにおいて、前記モータの回転数の制御目標が、前記第1の回転数以上である強モードと、前記第2の回転数以下である弱モードとを有しており、前記強モードまたは前記弱モードを指示するユーザ操作を受け付けて、前記デューティ決定部に伝達する操作部を更に備えていてもよい。
【0073】
上記の構成によれば、不快音に対して敏感なユーザの違和感をも解消し得るように作用し得る。
【0074】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 電気掃除機
11 バッテリユニット
12 ハンドル
13 駆動装置収容部
14 電動送風機収容部
15 集塵部
151 フィルタ収納部
152 集塵容器
16 吸引管部
17 延長管
19 吸込口体
191 管状接続部
192 関節部
193 吸込口本体
194 吸込口
195 回転ブラシ
20 バッテリ
21 駆動用電源回路
22 制御用電源回路
23 制御部
231 パルス発生部
232 デューティ決定部
24 電動送風機
241 モータ
242 ファン
25 回転数検出部
26 操作部
27 報知部