(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】フィルタプリーツパック及びエアフィルタユニット
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20240729BHJP
B01D 46/52 20060101ALI20240729BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240729BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B01D39/16 C
B01D46/52 A
B01D39/16 E
B01D69/02
B01D71/36
(21)【出願番号】P 2019232152
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018248631
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】内山 志穂
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-032514(JP,A)
【文献】特開2002-301343(JP,A)
【文献】特開2015-131266(JP,A)
【文献】特開2013-022547(JP,A)
【文献】特開平10-286415(JP,A)
【文献】特開2005-177641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
B01D 46/00-46/54
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリーツ状に折り畳まれたエアフィルタ濾材を備えるフィルタプリーツパックであって、
前記エアフィルタ濾材は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜と、通気性支持材との積層体を含み、
前記フィルタプリーツパックのプリーツ線と垂直に交わる平面により切断した当該フィルタプリーツパックの切断面を観察したときに、前記PTFE多孔質膜は、当該膜が延びる方向に、第1収束部、分割部及び第2収束部をこの順に有し、
前記分割部において、前記PTFE多孔質膜は当該膜の厚さ方向に複数の層に分割されるとともに、前記複数の層は互いに離間しており、
前記第1収束部及び前記第2収束部において、前記複数の層は1つの層に収束して
おり、
前記第1収束部及び前記第2収束部における前記PTFE多孔質膜の厚さが、7.0μm以下であるフィルタプリーツパック。
【請求項2】
前記分割部における前記複数の層の間の最大の離間距離が、前記第1収束部及び/又は前記第2収束部における前記PTFE多孔質膜の厚さ以上である請求項1に記載のフィルタプリーツパック。
【請求項3】
前記複数の層は、最も大きな厚さを有する主層と、前記主層の厚さの70%以下の厚さを有する1又は2以上の副層とを含む請求項1又は2に記載のフィルタプリーツパック。
【請求項4】
前記分割部が、前記プリーツ線の近傍の領域である前記積層体の折り返し領域に位置している請求項1~3のいずれかに記載のフィルタプリーツパック。
【請求項5】
前記分割部が、前記プリーツ線の近傍の領域である前記積層体の折り返し領域に位置しており、
少なくとも1つの前記副層が、前記主層に比べて前記積層体の折り返しの外方側に位置している請求項3に記載のフィルタプリーツパック。
【請求項6】
前記第1収束部及び/又は前記第2収束部における前記PTFE多孔質膜の厚さが5μmを超える請求項1~5のいずれかに記載のフィルタプリーツパック。
【請求項7】
前記エアフィルタ濾材の目付が30~260g/m
2である請求項1~6のいずれかに記載のフィルタプリーツパック。
【請求項8】
前記積層体が、2以上の前記通気性支持材を含み、
前記濾材の双方の主面が前記通気性支持材により構成されている請求項1~7のいずれかに記載のフィルタプリーツパック。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のフィルタプリーツパックと、前記フィルタプリーツパックを支持する枠体と、を備えるエアフィルタユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリーツ状に折り畳まれたエアフィルタ濾材を備えるフィルタプリーツパックと、当該フィルタプリーツパックを備えるエアフィルタユニットとに関する。
【背景技術】
【0002】
エアフィルタ濾材、特に半導体工業及び薬品工業等で利用されるクリーンルームのエアフィルタに使用される濾材、に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と記載する)多孔質膜を用いた濾材がある。PTFE多孔質膜を用いたエアフィルタ濾材は、ガラス繊維を用いた濾材に比べて、自己発塵性が低く、耐薬品性が高い等の特長を有する。また、PTFE多孔質膜を用いたエアフィルタ濾材は、ULPA(ultra-low penetration air grade)フィルタとしたときに、ガラス繊維を用いた濾材に比べて同じ捕集効率で2/3~1/2程度の低い圧力損失を達成できる。特許文献1には、PTFE多孔質膜を用いたエアフィルタ濾材とその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアフィルタ濾材においてPTFE多孔質膜は、当該膜を補強して濾材としての形状を維持するために、通常、通気性を有する支持材(以下、「通気性支持材」と記載する)と積層されている。また、エアフィルタ濾材は、できるだけ大きな濾過面積を確保するために、ひだ折り加工(プリーツ加工)によって、側面から見て連続したW字状となるようにプリーツ状に折り畳まれていることが一般的である。プリーツ加工されたエアフィルタ濾材は、さらに枠体に組み込まれて、エアフィルタユニットとして使用される。なお、プリーツ加工されたエアフィルタ濾材は、一般に、「フィルタプリーツパック」と当業者に称されている。
【0005】
PTFE多孔質膜は非常に薄い膜である。このため、通気性支持材と積層されていても、プリーツ加工時に当該膜に加わる応力によって、微小な欠陥がPTFE多孔質膜に生じることがある。PTFE多孔質膜に欠陥が生じると、フィルタプリーツパック及びこれを備えるエアフィルタユニットとしての捕集効率が低下する。特許文献1には、これらの現象及びその解決について何も示されていない。
【0006】
本発明は、PTFE多孔質膜を用いたエアフィルタ濾材を備えるフィルタプリーツパックであって、プリーツ加工時における捕集効率の低下が抑制されたフィルタプリーツパックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
プリーツ状に折り畳まれたエアフィルタ濾材を備えるフィルタプリーツパックであって、
前記エアフィルタ濾材は、PTFE多孔質膜と、通気性支持材との積層体を含み、
前記フィルタプリーツパックのプリーツ線と垂直に交わる平面により切断した当該フィルタプリーツパックの切断面を観察したときに、前記PTFE多孔質膜は、当該膜が延びる方向に、第1収束部、分割部及び第2収束部をこの順に有し、
前記分割部において、前記PTFE多孔質膜は当該膜の厚さ方向に複数の層に分割されるとともに、前記複数の層は互いに離間しており、
前記第1収束部及び前記第2収束部において、前記複数の層は1つの層に収束している、フィルタプリーツパック、
を提供する。
【0008】
別の側面において、本発明は、
上記本発明のフィルタプリーツパックと、前記フィルタプリーツパックを支持する枠体と、を備えるエアフィルタユニット、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるフィルタプリーツパックでは、当該フィルタプリーツパックにおける上記切断面を観察したときに、PTFE多孔質膜は、当該膜が延びる方向に、第1収束部、分割部及び第2収束部をこの順に有している。分割部において、PTFE多孔質膜は当該膜の厚さ方向に複数の層に分割されるとともに、当該複数の層は互いに離間している。また、第1収束部及び第2収束部において、上記複数の層は1つの層に収束している。分割部は、上記積層体を含むエアフィルタ濾材をプリーツ加工する際に形成されるが、プリーツ加工時にPTFE多孔質膜に加わる応力は分割部の形成によって分散及び緩和され、これにより、プリーツ加工によるPTFE多孔質膜への欠陥の発生が抑制される。したがって、本発明によれば、PTFE多孔質膜を用いたエアフィルタ濾材を備えるフィルタプリーツパックであって、プリーツ加工時における捕集効率の低下が抑制されたフィルタプリーツパックが達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本発明のフィルタプリーツパックの一例を模式的に示す平面図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aに示すフィルタプリーツパックの断面B-Bにおける領域Iを示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明のフィルタプリーツパックが有しうるPTFE多孔質膜の一例における分割部の近傍を示す模式図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明のフィルタプリーツパックが有しうるPTFE多孔質膜の一例における分割部の近傍を示す模式図である。
【
図2C】
図2Cは、本発明のフィルタプリーツパックが有しうるPTFE多孔質膜の一例における分割部の近傍を示す模式図である。
【
図2D】
図2Dは、本発明のフィルタプリーツパックが有しうるPTFE多孔質膜の一例における分割部の近傍を示す模式図である。
【
図2E】
図2Eは、本発明のフィルタプリーツパックが有しうるPTFE多孔質膜の一例における分割部の近傍を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明のフィルタプリーツパックが有しうる分割部の位置を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、本発明のフィルタプリーツパックが備えるエアフィルタ濾材の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明のエアフィルタユニットの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図6A】
図6Aは、実施例1のフィルタプリーツパックにおける分割部を含む切断面の走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と記載する)による観察像である。
【
図7A】
図7Aは、実施例1のフィルタプリーツパックにおける分割部を含む切断面のSEMによる観察像である。
【
図8A】
図8Aは、実施例2のフィルタプリーツパックにおける分割部を含む切断面のSEMによる観察像である。
【
図9A】
図9Aは、実施例3のフィルタプリーツパックにおける分割部を含む切断面のSEMによる観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下に示す実施形態に限定されない。
【0012】
[フィルタプリーツパック]
本発明のフィルタプリーツパックの一例を
図1A及び
図1Bに示す。
図1Bは、
図1Aの断面B-Bにおける領域Iの拡大図である。
図1A及び
図1Bのフィルタプリーツパック1は、プリーツ状に折り畳まれたエアフィルタ濾材2から構成される。エアフィルタ濾材2は、PTFE多孔質膜3と通気性支持材4(4A,4B)との積層体5を含む。積層体5は、一対の通気性支持材4A,4BによってPTFE多孔質膜3を挟持した3層の積層構造を有している。PTFE多孔質膜3と通気性支持材4A,4Bとは互いに接合している。エアフィルタ濾材2においてPTFE多孔質膜3は、被濾過気体に含まれる捕集対象物を捕集する機能を有する。捕集対象物は、典型的には、空気中の塵芥である。通気性支持材4A,4Bは、PTFE多孔質膜3を補強して、エアフィルタ濾材2としての形状を維持する機能を有する。いずれかの通気性支持材4A,4Bは、比較的大きなサイズの捕集対象物を捕集するプレフィルターとしての機能をさらに有しうる。また、通気性支持材4A,4Bによって、プリーツ加工に必要なコシがエアフィルタ濾材2に与えられる。
【0013】
図1Bに示す断面は、プリーツ線6と垂直に交わる平面により切断したフィルタプリーツパック1の切断面(以下、単に「切断面」と記載する)7である。なお、プリーツ線6は、プリーツ加工によってエアフィルタ濾材2に形成された折り線である。プリーツ線6は、フィルタプリーツパック1をその一方の面から見たときに、山折り線及び谷折り線として観察される。
【0014】
切断面7を観察したときに、PTFE多孔質膜3は、当該膜が延びる方向に、第1収束部13A、分割部9及び第2収束部13Bをこの順に有している。分割部9において、PTFE多孔質膜3は当該膜の厚さ方向に複数の層に分割されるとともに、当該複数の層は互いに離間している。第1収束部13A及び第2収束部13Bにおいて、上記複数の層は1つの層に収束している。切断面7の観察は、切断面7を拡大して観察することが可能なSEM等の手法により実施するとよい。拡大倍率は、例えば、100~2500倍である。フィルタプリーツパック1が備えうるPTFE多孔質膜3の例における分割部9の近傍を、
図2A~
図2Eに示す。
【0015】
図2AのPTFE多孔質膜3は、当該膜が延びる方向に、第1収束部13A、分割部9及び第2収束部13Bをこの順に有している。分割部9においてPTFE多孔質膜3は、上記複数の層として、最も大きな厚さを有する主層10と、主層の厚さの70%以下の厚さを有する副層11とに分割されている。主層10及び副層11は、空間12を挟んで互いに離間している。第1収束部13A及び第2収束部13Bにおいて、主層10及び副層11は1つの層に収束している。言い換えると、副層11は、その両端において主層10に接続している。なお、
図2A~
図2Eに示す副層11,11A,11Bは、いずれも、その両端において主層10に接続している。
【0016】
副層11の厚さは、主層10の厚さの70%以下であり、60%以下、50%以下、40%以下、さらには30%以下であってもよい。主層10の厚さに対する副層11の厚さの比の下限は、例えば1%以上であり、3%以上、5%以上、さらには10%以上であってもよい。
【0017】
図2Bに示す分割部9においてPTFE多孔質膜3は、主層10と、2つの副層11A,11Bとに分割されている。主層10、副層11A及び副層11Bの各々は、空間12を挟んで互いに離間している。第1収束部13A及び第2収束部13Bにおいて、主層10及び副層11A,11Bは1つの層に収束している。また、副層11A,11Bは、いずれも主層10から分岐している。ただし、分割部9は、副層11Aから分岐する副層11Bを有していてもよい(
図2C参照)。さらに、
図2B及び
図2Cに示す分割部9において副層11A,11Bは、主層10に対して同じ側、言い換えると、PTFE多孔質膜3の同じ面の側、に形成されているが、副層11A,11Bは、主層10に対して異なる側、言い換えると、PTFE多孔質膜3の各々の面の側に形成されていてもよい(
図2D参照)。また、
図2B及び
図2Dに示す分割部9では、PTFE多孔質膜3の延びる方向に沿って見たときに、副層11A,11Bが形成されている区間が一致しているが、副層11A,11Bが形成されている区間は一致していなくてもよい(
図2E参照)。主層10と副層11とにPTFE多孔質膜3が分割された分割部9において、主層10及び副層11の構成、例えば分割の状態や層の数等、は、上記例に限定されない。
【0018】
分割部9においてPTFE多孔質膜3が主層10と副層11とに分割されている場合、主層10の厚さによってPTFE多孔質膜3の強度をより確実に確保できる。ただし、分割部9におけるPTFE多孔質膜3の分割の態様は、主層10及び副層11への分割に限定されない。例えば、分割部9においてPTFE多孔質膜は、厚さの均等な複数の層に分割されていてる等、主層10を含まない分割の態様をとりうる。
【0019】
分割部9における上記複数の層の間の最大の離間距離D、例えば、主層10及び副層11の間の最大の離間距離D、は、第1収束部13A及び/又は第2収束部13BにおけるPTFE多孔質膜3の厚さ以上であってもよく、この場合、プリーツ加工時にPTFE多孔質膜3に加わる応力の分散及び緩和をより高めることができる。なお、最大の離間距離Dは、PTFE多孔質膜3の膜厚方向、例えば主層10に垂直に交わる方向、の距離とする。
図2A~
図2Eには、各分割部9における最大の離間距離Dが示されている。
【0020】
最大の離間距離Dは、第1収束部13A及び/又は第2収束部13BにおけるPTFE多孔質膜3の厚さの1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、さらには6倍以上であってもよい。
【0021】
分割部9は、典型的には、積層体5の折り返し領域II(
図3参照)に位置している。折り返し領域IIは、フィルタプリーツパック1のプリーツ線6の近傍の領域であって、プリーツ加工時にPTFE多孔質膜3に加わる応力が最も強くなる領域である。このため、分割部9が折り返し領域IIに位置することにより、当該応力のより確実な分散及び緩和が可能となる。なお、本明細書において折り返し領域IIは、エアフィルタ濾材2(積層体5)における折り返し部分の頂部14からエアフィルタ濾材2に沿った長さLにして1.5mm以内にある領域として定められる。長さLにして1.5mm以内にある領域は、プリーツ加工時の折り畳みによる影響をエアフィルタ濾材2及び積層体5が特に強く受ける領域に相当する。
【0022】
ただし、積層体5における分割部9の位置は上記例に限定されない。分割部9は、折り返し領域IIではなく、あるいは折り返し領域IIとともに、平坦領域IIIに位置していてもよい。折り返し領域IIとともに平坦領域IIIに分割部9を有する場合、上記応力の分散及び緩和がより確実となる。なお、本明細書において平坦領域IIIは、プリーツ状に折り畳まれたエアフィルタ濾材2(積層体5)における折り返し領域II以外の領域として定められる。
【0023】
分割部9における上記複数の層が主層10と副層11とを含むとともに、積層体5の折り返し領域IIに分割部9が位置している場合、少なくとも1つの副層11が、主層10に比べて積層体5の折り返しの外方側に位置していてもよい。
【0024】
エアフィルタ濾材2の目付は、例えば30~260g/m2である。目付の下限は、40g/m2以上、50g/m2以上、さらには55g/m2以上であってもよい。また、目付の上限は、200g/m2以下、150g/m2以下、120g/m2以下、100g/m2以下、90g/m2以下、80g/m2以下、さらには70g/m2以下であってもよい。
【0025】
エアフィルタ濾材2は、例えば、以下に示す特性を有する。
【0026】
エアフィルタ濾材2のPF(Performance Factor)値は、例えば23以上であり、25以上、27以上、さらには30以上であってもよい。PF値は、エアフィルタ濾材の捕集性能の指標となる数値であり、PF値が大きいほどエアフィルタ濾材の捕集性能は高い。PF値23以上のエアフィルタ濾材2は、半導体工業、薬品工業等のクリーンルームで使用されるエアフィルタの濾材に使用可能である。
【0027】
エアフィルタ濾材2のPF値は、透過流速5.3cm/秒(透過気体は空気)における濾材2の圧力損失PL1(単位:mmH2O)、及び粒子径0.10~0.20μmのポリアルファオレフィン粒子を用いて透過流速5.3cm/秒(透過気体は空気)において測定した濾材2の捕集効率CE1(単位:%)から、以下の式(1)により求められる値である。
PF値={-lоg[(100-CE1)/100]/PL1}×100 (1)
【0028】
エアフィルタ濾材2の圧力損失PL1は、例えば10~300Paであり、100~250Pa、さらには150~250Paであってもよい。
【0029】
エアフィルタ濾材2の圧力損失PL1は、次のように測定できる。通気口(円形、有効面積100cm2)を有するホルダーに対して、評価対象物であるエアフィルタ濾材を当該濾材が通気口を塞ぐようにセットする。次に、通気口内の評価対象物を空気が透過するように、ホルダーの一方の面と他方の面との間に圧力差を発生させる。そして、評価対象物を透過する空気の線流速が流量計で測定して5.3cm/秒となったときの上記圧力差を圧力計(マノメータ)により測定する。1つの評価対象物について上記圧力差を8回測定し、その平均値を、評価対象物の圧力損失とする。
【0030】
エアフィルタ濾材2の捕集効率CE1は、例えば20~100%であり、90~100%、さらには99.9~100%であってもよい。また、捕集効率CE1の下限は、99.9%以上、99.99%以上、さらには99.999%以上であってもよい。エアフィルタ濾材2は、日本工業規格(JIS)Z8122:2000に規定されたHEPA(high-efficiency particulate air grade)フィルタ用の濾材であってもよく、ULPA(ultra-low penetration air grade)フィルタ用の濾材であってもよい。
【0031】
エアフィルタ濾材2の捕集効率CE1は、次のように測定できる。通気口(円形、有効面積100cm2)を有するホルダーに、評価対象物である濾材を当該濾材が通気口を塞ぐようにセットする。次に、通気口内の評価対象物を空気が透過するように、ホルダーの一方の面と他方の面との間に圧力差を発生させる。次に、評価対象物を透過する空気の線流速が流量計で測定して5.3cm/秒を保持するように上記圧力差を調整した後、粒子径0.10~0.20μm(平均粒子径0.15μm)のポリアルファオレフィン粒子を、4×108個/L以上の濃度で、評価対象物を透過する空気に含ませる。ここで、評価対象物の下流側に配置したパーティクルカウンタを用いて、評価対象物を透過した空気に含まれるポリアルファオレフィン粒子の濃度を測定し、以下の式(2)により、評価対象物の捕集効率を求める。
捕集効率=[1-(下流側の粒子濃度)/(上流側の粒子濃度)]×100(%) (2)
【0032】
PTFE多孔質膜3は、通常、微細な繊維状構造体である無数のPTFEフィブリルにより構成される。PTFE多孔質膜3は、フィブリルに接続されたPTFEのノード(結節部)をさらに有していてもよい。
【0033】
PTFE多孔質膜3は、例えば、未焼成のPTFE粉末と液状潤滑剤との混和物を押出及び/又は圧延等の手法によりシートに成形し、得られた未焼成シートから液状潤滑剤を除去した後、延伸により多孔質化して得ることができる。延伸は、典型的には、PTFEシートのMD方向(長手方向)に対する延伸と、TD方向(幅方向)に対する延伸とを組み合わせた二軸延伸である。二軸延伸では、MD方向の延伸及びTD方向の延伸をこの順に実施することが好ましい。液状潤滑剤は、PTFE粒子の表面を濡らすことができるとともに、後に除去できるものであれば限定されず、例えば、ナフサ、ホワイトオイル、流動パラフィン等の炭化水素油である。分割部9の形成のためには、柔軟なPTFE多孔質膜3とすることが好ましい。そのために、例えば、延伸に供する未焼成シートを薄くする一方でMD方向の延伸倍率を低く保つことで、必要な強度を膜に与えながらMD方向のみにPTFE粒子が強く結着することを抑制して、厚く、かつ、MD及びTDの双方の方向に強度バランスの取れたPTFE多孔質膜3とするとともに、MD及びTDの双方の方向への延伸時に融点(327℃)未満の雰囲気にPTFEを保持する方法、を採用できる。当該方法において延伸する未焼成シートの厚さは、例えば50~550μmであり、その上限は500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、さらには100μm以下であることが好ましい。当該方法においてMD方向の延伸は、例えば、延伸倍率2~23倍、延伸温度150~300℃の条件で実施すればよい。MD方向の延伸倍率は、22倍以下、20倍以下、15倍以下、10倍以下、さらには5倍以下であることが好ましい。当該方法においてTD方向の延伸は、例えば、延伸倍率10~60倍、延伸温度150~190℃の条件で実施すればよい。TD方向の延伸温度は、170℃以下であることが好ましい。
【0034】
PTFE多孔質膜3の気孔率は、例えば70~98%である。この高い気孔率は、PTFE多孔質膜3を備えるエアフィルタ濾材2の低い圧力損失及び高い捕集効率に寄与する。気孔率は、次のように測定できる。測定対象物であるPTFE多孔質膜を一定の寸法(例えば、直径6cmの円形)に切り出して、その体積及び質量を求める。得られた体積及び質量を以下の式(3)に代入して、PTFE多孔質膜の気孔率を算出できる。式(3)のV(単位:cm3)は上記体積、W(単位:g)は上記質量、D(単位:g/cm3)はPTFEの真密度である。
気孔率(%)=100×[V-(W/D)]/V (3)
【0035】
PTFE多孔質膜3の目付は、例えば0.05~10g/m3であり、0.1~5g/m3、0.3~3g/m3であってもよい。
【0036】
第1収束部13A及び/又は第2収束部13BにおけるPTFE多孔質膜3の厚さは、例えば5.0μmを超えており、6.0μm以上、7.0μm以上、8.0μm以上、9.0μm以上、さらには10.0μm以上であってもよい。第1収束部13A及び/又は第2収束部13BにおけるPTFE多孔質膜3の厚さの上限は、例えば25μm以下である。PTFE多孔質膜3の平均孔径は、例えば0.1~50μmである。
【0037】
PTFE多孔質膜3のPF値、圧力損失及び捕集効率は、それぞれエアフィルタ濾材2の説明において上述したPF値、圧力損失及び捕集効率と同じ範囲をとりうる。PTFE多孔質膜3の圧力損失及び捕集効率は、評価対象物をPTFE多孔質膜として、エアフィルタ濾材2の圧力損失及び捕集効率を測定する方法と同じ方法により測定できる。
【0038】
通気性支持材4は、PTFE多孔質膜2に比べて厚さ方向の通気性が高い層である。通気性支持材4は、例えば、短繊維及び長繊維等の繊維の不織布、織布、メッシュを備える。通気性、強度、柔軟性及び作業性に優れることから、不織布を備える通気性支持材4が好ましい。
【0039】
通気性支持材4を構成しうる材料は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;芳香族ポリアミドを含むポリアミド;及びこれらの複合材料である。通気性支持材4は、2以上のこれら材料を含んでいてもよい。PTFE多孔質膜3との接合性が高いことから、当該材料はポリオレフィンが好ましく、PEがより好ましい。当該材料が複合材料である場合、ポリオレフィン、特にPE、が通気性支持材4におけるPTFE多孔質膜3との接合面に露出していることが好ましい。
【0040】
通気性支持材4を構成しうる複合材料の一例は、互いに異なる材料からなる芯部と、芯部を被覆する鞘部との芯鞘構造を有する複合繊維である。この複合繊維において、芯部を構成する材料の融点に比べて鞘部を構成する材料の融点が低いことが好ましい。芯部を構成する材料は、例えばPET等のポリエステルである。鞘部を構成する材料は、例えばPE等のポリオレフィンである。
【0041】
通気性支持材4を構成しうる繊維の平均繊維径は、例えば1~50μmであり、1~30μm、10~30μmであってもよい。
【0042】
通気性支持材3の目付は、例えば20~70g/m2である。目付の上限は、50g/m2以下、40g/m2以下、40g/m2未満、さらには35g/m2以下であってもよい。目付の下限は、例えば25g/m2以上である。
【0043】
エアフィルタ濾材2において、PTFE多孔質膜3と通気性支持材4とは互いに接合されている。接合方法は限定されず、例えば、熱ラミネート、接着剤によるラミネートである。接合部における圧力損失の上昇を抑制できることから、PTFE多孔質膜3及び通気性支持材4は熱ラミネートによって互いに接合されていることが好ましい。
【0044】
図1Bに示すエアフィルタ濾材2は、1つのPTFE多孔質膜3と、これを挟持する2つの通気性支持材4A,4Bとの3層構造の積層体5を含む濾材である。ただし、エアフィルタ濾材2及び積層体5が含むPTFE多孔質膜3及び通気性支持材4の数は限定されない。エアフィルタ濾材2及び積層体5は、2以上のPTFE多孔質膜3を含んでいてもよい。エアフィルタ濾材2は、3層以上の多層構造を有する積層体5を含むことが好ましい。
【0045】
エアフィルタ濾材2の別の一例を
図4に示す。
図4のエアフィルタ濾材2は、2つのPTFE多孔質膜3A,3Bと、3つの通気性支持材4A,4B,4Cとの5層構造の積層体5を含む。
図4のエアフィルタ濾材2では、通気性支持材4A、PTFE多孔質膜3A、通気性支持材4C、PTFE多孔質膜3B及び通気性支持材4Bが順に積層されている。
図1B及び
図4に示すエアフィルタ濾材2では、いずれも、2以上の通気性支持材4を積層体5が含み、当該濾材2の双方の主面(双方の最外層)が通気性支持材4により構成されている。
【0046】
エアフィルタ濾材2が2以上のPTFE多孔質膜3を含む場合、PTFE多孔質膜3が連続して積層されている部分があってもよい。また、当該2以上のPTFE多孔質膜3の構成は、同一であっても互いに異なっていてもよい。同様に、エアフィルタ濾材2が2以上の通気性支持材4を含む場合、通気性支持材4が連続して積層されている部分があってもよい。また、当該2以上の通気性支持材4の構成は、同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0047】
エアフィルタ濾材2及び積層体5は、本発明の効果が得られる限り、PTFE多孔質膜3及び通気性支持材4以外の層及び/又は部材を含んでいてもよい。
【0048】
エアフィルタ濾材2は、例えば、PTFE多孔質膜3と通気性支持材4とを、熱ラミネート、接着剤ラミネート等の各種のラミネート手法により積層及び接合して形成できる。
【0049】
フィルタプリーツパック1は、例えば、以下に示す特性を有する。
【0050】
フィルタプリーツパック1のPF(Performance Factor)値は、例えば40以上であり、45以上、50以上、55以上、さらには60以上であってもよい。PF値は、フィルタプリーツパックの捕集性能の指標となる数値であり、PF値が大きいほどフィルタプリーツパックの捕集性能は高い。PF値40以上のフィルタプリーツパック1は、半導体工業、薬品工業等のクリーンルームで使用されるエアフィルタに好ましく使用できる。
【0051】
フィルタプリーツパック1のPF値は、フィルタプリーツパック1の圧力損失PL2(単位:mmH2O)及び捕集効率CE2(単位:%)から、以下の式(4)により求められる値である。
PF値={-lоg[(100-CE2)/100]/PL2}×100 (4)
【0052】
フィルタプリーツパック1の圧力損失PL2は、例えば5~125Paであり、40~100Pa、さらには60~100Paであってもよい。
【0053】
フィルタプリーツパック1の圧力損失PL2は、当該フィルタプリーツパック1を枠体と組み合わせてエアフィルタユニットを形成し、形成したエアフィルタユニットに対してJIS B9908:2011に定められた試験方法形式1の圧力損失試験を実施して求めることができる。枠体には、例えば、外寸が610mm×610mm、開口部の寸法が580mm×580mmであるアルミ製の枠体を使用できる。
【0054】
フィルタプリーツパック1の捕集効率CE2は、例えば99.9~99.9999%であり、99.9~99.99999%、さらには99.9~99.999999%であってもよい。また、捕集効率CE2の下限は、99.99%以上、99.999%以上、さらには99.9999%以上であってもよい。フィルタプリーツパック1は、JIS Z8122:2000に規定されたHEPAフィルタ用であってもよく、ULPAフィルタ用であってもよい。
【0055】
フィルタプリーツパック1の捕集効率(全体捕集効率)CE2は、当該フィルタプリーツパック1を枠体と組み合わせてエアフィルタユニットを形成し、形成したエアフィルタユニットに対してEN(欧州規格)1822-1:2009に定められた方法に準拠した捕集効率の評価を実施して求めることができる。枠体には、例えば、外寸が610mm×610mm、開口部の寸法が580mm×580mmであるアルミ製の枠体を使用できる。また、評価は、以下の測定条件及び測定方法に従って実施するとともに、EN1822-1:2009に定められている最大透過粒子径(MPPS)に対する捕集効率ではなく、多分散(粒子径0.10~0.20μm、平均粒子径0.15μm)の試験粒子を使用して求めた捕集効率を、フィルタプリーツパックの全体捕集効率CE2とする。
・試験粒子:PAO(ポリアルファオレフィン)
・試験粒子径:0.1μm以上
・上流側粒子濃度:1.0×108個/L以上
・面風速:0.4±0.1m/秒
【0056】
フィルタプリーツパック1では、プリーツ加工時における捕集効率の低下が抑制される。このため、フィルタプリーツパック1では、低い圧力損失PL2及び高い捕集効率CE2の高いレベルでの両立が可能となる。この特性は、PF値及び捕集効率CE2により表現することができ、フィルタプリーツパック1は、例えば、40以上、好ましくは45以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは55以上、特に好ましくは60以上のPF値と、99.9%以上、好ましくは99.99%以上、より好ましくは99.999%以上、さらに好ましくは99.9999%以上の捕集効率CE2とを同時に有することができる。
【0057】
フィルタプリーツパック1は、エアフィルタ濾材2以外の部材をさらに備えていてもよい。当該部材は、例えば、一般に「ビード」と称される樹脂の紐状体である。ビードは、プリーツ加工されたエアフィルタ濾材の形状を維持するスペーサーの一種である。ビードは、通常、エアフィルタ濾材2のプリーツ線6(山折り線及び/又は谷折り線)と交差する方向に沿って進むように、折り畳まれたエアフィルタ濾材2の表面に配置されている。ビードは、エアフィルタ濾材2の一方の面に配置されていても、双方の面に配置されていてもよい。ただし、ビードは、PTFE多孔質膜3ではなく通気性支持材4上に配置されていることが好ましい。フィルタプリーツパック1は、ビードが配置されたエアフィルタ濾材2の面を平面視したときに、プリーツ線6の方向に所定の間隔をあけて互いに平行に配置された複数のビードを備えていてもよい。ビードは、例えば、樹脂を溶融して紐状に塗布することにより形成できる。樹脂は限定されず、例えばポリアミド、ポリオレフィンである。
【0058】
フィルタプリーツパック1は、エアフィルタ濾材2をプリーツ加工によってプリーツ状に折り畳んで形成できる。エアフィルタ濾材2は、プリーツ加工によって、その側面から見て連続したW字状となるように折り畳まれる。
【0059】
エアフィルタ濾材2のプリーツ加工は、例えば、レシプロ式の加工機を用いて、表面に交互かつ平行に設定された山折り線及び谷折り線によりエアフィルタ濾材2を連続して折り畳むことにより実施できる。
【0060】
[エアフィルタユニット]
本発明のエアフィルタユニットの一例を
図5に示す。
図5に示すエアフィルタユニット21は、フィルタプリーツパック1と、フィルタプリーツパック1を支持する枠体22とを備える。エアフィルタユニット21では、フィルタプリーツパック1の周縁部が枠体(支持枠)22により支持されている。枠体22は、例えば、金属、樹脂及びこれらの複合材料から構成される。樹脂から構成される枠体22である場合は、枠体22の成形と同時にフィルタプリーツパック1を当該枠体22に組み合わせることも可能である。枠体22の構成は、従来のエアフィルタユニットが備える枠体の構成と同様でありうる。
【0061】
フィルタプリーツパック1を備えるエアフィルタユニット21では、フィルタプリーツパック1を形成するためのプリーツ加工における捕集効率の低下が抑制される。エアフィルタユニット21は、PF値、圧力損失及び捕集効率(全体捕集効率)について、好ましい範囲を含め、フィルタプリーツパック1の説明において上述した数値範囲をとることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0063】
最初に、実施例及び比較例において作製したPTFE多孔質膜、エアフィルタ濾材及びフィルタプリーツパックの評価方法を示す。
【0064】
[厚さ]
通気性支持材、通気性支持材と積層する前のPTFE多孔質膜、及びエアフィルタ濾材の厚さは、デジタルダイヤルゲージにより評価した。また、フィルタプリーツパックに含まれるPTFE多孔質膜の厚さは、以下のように評価した。最初に、フィルタプリーツパックをエポキシ樹脂に包埋した後、PTFE多孔質膜を含む断面を露出させて研磨及び整面し、さらにイオンポリッシング加工した。次に、電解放出型SEM(FE-SEM;日本電子製JSM-7500F、加速電圧5kV、反射電子像)を用いて得た当該断面の拡大観察像(倍率2000倍程度)を画像解析することで、フィルタプリーツパックに含まれるPTFE多孔質膜の厚さを求めた。ただし、画像解析の際には、場所を変えながら5か所の測定ポイントにおける厚さを評価し、その平均値を、PTFE多孔質膜の厚さとした。なお、FE-SEMを用いた上記方法は、エアフィルタ濾材に含まれるPTFE多孔質膜の厚さの評価にも適用できる。
【0065】
[エアフィルタ濾材の捕集効率]
実施例及び比較例において作製したエアフィルタ濾材の捕集効率は、次のように測定した。最初に、通気口(円形、有効面積100cm2)を有するホルダーに、評価対象物であるエアフィルタ濾材を、評価対象物が通気口を塞ぐようにセットした。次に、通気口内の評価対象物を空気が透過するように、ホルダーの一方の面と他方の面との間に圧力差を発生させた。次に、評価対象物を透過する空気の線流速が流量計で測定して5.3cm/秒を保持するように上記圧力差を調整した後、粒子径0.10~0.20μm(平均粒子径0.15μm)のポリアルファオレフィン粒子を、4×108個/L以上の濃度で、評価対象物を透過する空気に含ませた。評価対象物の下流に配置したパーティクルカウンタを用いて、評価対象物を透過した空気に含まれるポリアルファオレフィン粒子の濃度を測定し、以下の式(2)により、評価対象物の捕集効率を求めた。
捕集効率=[1-(下流側の粒子濃度)/(上流側の粒子濃度)]×100(%) (2)
【0066】
[エアフィルタ濾材の圧力損失]
実施例及び比較例において作製したエアフィルタ濾材の圧力損失は、次のように評価した。最初に、通気口(円形、有効面積100cm2)を有するホルダーに、評価対象物であるエアフィルタ濾材を、評価対象物が通気口を塞ぐようにセットした。次に、通気口内の評価対象物を空気が透過するように、ホルダーの一方の面と他方の面との間に圧力差を発生させた。そして、評価対象物を透過する空気の線流速が流量計で測定して5.3cm/秒となったときの上記圧力差を圧力計(マノメータ)により測定した。1つの評価対象物について上記圧力差を8回測定し、その平均値を、評価対象物の圧力損失とした。
【0067】
[エアフィルタ濾材のPF値]
実施例及び比較例において作製したエアフィルタ濾材のPF値は、上述のように求めた捕集効率(CE1)及び圧力損失(PL1)から、以下の式(1)により求めた。ただし、式(1)に代入する圧力損失(PL1)の値は、単位Paのときの値を単位mmH2Oのときの値に換算した換算値とした。
PF値={-lоg[(100-CE1)/100]/PL1}×100 (1)
【0068】
[フィルタプリーツパックの捕集効率(全体捕集効率)]
実施例及び比較例において作製した各エアフィルタ濾材をプリーツ加工して得たフィルタプリーツパックの全体捕集効率は、当該プリーツパックを枠体に組み込んだエアフィルタユニットの全体捕集効率として、EN1822-1:2009に定められた方法に準拠して評価した。ただし、評価は、以下の測定条件及び測定方法に従って実施した。また、EN1822-1:2009に定められている最大透過粒子径(MPPS)に対する捕集効率ではなく、多分散(粒子径0.10~0.20μm、平均粒子径0.15μm)の試験粒子を使用して求めた捕集効率を、フィルタプリーツパックの全体捕集効率とした。
・試験粒子:PAO(ポリアルファオレフィン)
・試験粒子径:0.1μm以上
・上流側粒子濃度:1.0×108個/L以上
・面風速:0.4±0.1m/秒
・エアフィルタユニットのサイズ:外寸610mm×610mm、開口部の寸法580mm×580mm
EN1822-1:2009に定められた方法に従い、エアフィルタユニットの下流側の面に沿って、50mm×10mmの測定用開口部を有するプローブを速度22m/秒でスキャンさせて、エアフィルタユニットの全領域において下流側に漏れ出たPAO粒子の総数を計測した。次に、計測したPAO粒子の総数から、下流側粒子濃度を求めた。求めた下流側粒子濃度及び上記上流側粒子濃度から、式:全体捕集効率=[1-(下流側粒子濃度/上流側粒子濃度)]×100(%)により、エアフィルタユニット(フィルタプリーツパック)の全体捕集効率を求めた。
【0069】
[フィルタプリーツパックの圧力損失]
実施例及び比較例において作製した各エアフィルタ濾材をプリーツ加工して得たフィルタプリーツパックの圧力損失は、当該フィルタプリーツパックを枠体に組み込んだエアフィルタユニットの圧力損失として、JIS B9908:2011に定められた試験方法形式1の圧力損失試験を実施して評価した。評価には、外寸が610mm×610mm、開口部の寸法が580mm×580mmの枠体を使用した。
【0070】
[フィルタプリーツパックのPF値]
実施例及び比較例において作製した各フィルタプリーツパックのPF値は、上述のように求めた捕集効率(CE2)及び圧力損失(PL2)から、以下の式(4)により求めた。ただし、式(4)に代入する圧力損失(PL2)の値は、単位Paのときの値を単位mmH2Oのときの値に換算した換算値とした。
PF値={-lоg[(100-CE2)/100]/PL2}×100 (4)
【0071】
(実施例1)
PTFEファインパウダー(ダイキン製、ポリフロンF-104)100重量部と、液状潤滑剤としてドデカン20重量部とを均一に混合して混合物を得た。次に、得られた混合物を押出機を用いてシート状に押出成形して、帯状のPTFEシート(厚さ1.5mm、幅20cm)を得た。次に、形成したPTFEシートを1対の金属圧延ロールにより圧延した。圧延は、圧延の前後においてPTFEシートの幅が変化しないように、圧延ロールの下流に配置した別のロールを用いてPTFEシートを長手方向に引っ張りながら実施した。圧延後のPTFEシートの厚さは500μmであった。
【0072】
次に、PTFEシートを150℃の雰囲気に保持して液状潤滑剤を除去した。次に、PTFEシートを、ロール延伸法により、長手方向に延伸温度280℃、延伸倍率22倍で延伸した後、テンター延伸法により、幅方向に延伸温度150℃、延伸倍率40倍で延伸した。さらに、延伸後のPTFEシートを、当該シートの寸法を固定した状態で500℃の熱風により加熱して、PTFE多孔質膜Aを得た。得られたPTFE多孔質膜Aの厚さは6.5μmであった。
【0073】
次に、得られたPTFE多孔質膜Aと、PET/PE複合繊維の不織布(ユニチカ製、エルベスS0303WDO、目付30g/m2、厚さ210μm)から構成される通気性支持材とを、一対の当該通気性支持材がPTFE多孔質膜Aを挟持するように熱ラミネートにより積層して、通気性支持材/PTFE多孔質膜A/通気性支持材の3層構造を有するエアフィルタ濾材Aを得た。得られたエアフィルタ濾材Aの厚さは320μm、圧力損失は220Pa、捕集効率は99.9995%、PF値は24であった。
【0074】
次に、エアフィルタ濾材Aを、レシプロ式プリーツ加工機(ファルテック製)を用いて、山高さ(プリーツ高さ)35mm、プリーツ間隔8ppi(pleats per inch)でプリーツ加工して、フィルタプリーツパックAを得た。フィルタプリーツパックの形状を維持するためのビードには、ポリアミド樹脂を使用した。
【0075】
次に、得られたフィルタプリーツパックAをエポキシ樹脂に包埋した後、プリーツ線と垂直に交わる平面により切断したフィルタプリーツパックAの切断面を露出させて研磨及び整面し、さらにイオンポリッシング加工した。次に、電解放出型SEM(FE-SEM;日本電子製JSM-7500F、加速電圧5kV、反射電子像)により得た当該断面の拡大観察像(倍率100~2000倍)を確認したところ、プリーツ線の近傍の領域である折り返し領域に分割部9が形成されていた。また、分割部9は、上記切断面に観察される複数の折り返し領域に形成されており、切断面を変更して評価を実施した場合においても、同様の分割部9の形成が確認された。言い換えると、フィルタプリーツパックAでは、折り返し領域に位置する分割部9がその全体にわたり形成されていた。確認された分割部9の例を、
図6A~
図6B及び
図7A~
図7Cに示す。なお、
図6Bは、
図6Aにおける領域IVの拡大像である。また、
図7Bは、
図7Aにおける領域Vの拡大図であり、
図7Cは、
図7Bにおける領域VIの拡大像である。
【0076】
図6A及び
図6Bに示す分割部9においてPTFE多孔質膜は、主層10と、主層10の厚さの10%程度の厚さを有する1つの副層11とに分割されていた。主層10と副層11とは、互いに離間していた。また、副層11は、主層10に比べて積層体の折り返しの外方側に位置するように形成されていた。分割部9における最大の離間距離D(主層10と副層11との間の最大の離間距離)は、第1の収束部13A及び第2の収束部13BにおけるPTFE多孔質膜Aの厚さが7.0μmであるのに対して、およそ5倍の約35μmであった。
【0077】
図7A~
図7Cに示す分割部9においてPTFE多孔質膜は、主層10と、主層10の厚さの10~20%程度の厚さを有する2つの副層11A,11Bとに分割されていた。主層10、副層11A及び副層11Bは、互いに離間していた。また、副層11A,11Bは、いずれも、主層10に比べて積層体の折り返しの外方側に位置するように形成されていた。分割部9における最大の離間距離D(主層10及び副層11Bとの間の最大の離間距離D)は、第1の収束部13A及び第2の収束部13BにおけるPTFE多孔質膜Aの厚さが7.0μmであるのに対して、およそ5倍の約35μmであった。
【0078】
次に、上記切断面の評価とは別に、プリーツ加工により得たフィルタプリーツパックを、外寸が610mm×610mm、開口部の寸法が580mm×580mmであるアルミ製の枠体に、フィルタプリーツパックの四辺が枠体に密着するように接着剤により固定して、エアフィルタユニットを得た。得られたエアフィルタユニットの全体捕集効率(フィルタプリーツパックAの全体捕集効率)は99.9998%(5N8)であった。また、フィルタプリーツパックAの圧力損失は100Pa、PF値は55であった。
【0079】
(実施例2)
圧延後のPTFEシートの厚さが200μmとなるように圧延するとともに、長手方向の延伸倍率を10倍とした以外は実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜Bを得た。得られたPTFE多孔質膜Bの厚さは10μmであった。
【0080】
次に、PTFE多孔質膜Aの代わりにPTFE多孔質膜Bを用いた以外は実施例1と同様にして、通気性支持材/PTFE多孔質膜B/通気性支持材の3層構造を有するエアフィルタ濾材Bを得た。得られたエアフィルタ濾材Bの厚さは320μm、圧力損失は220Pa、捕集効率は99.9995%、PF値は24であった。
【0081】
次に、エアフィルタ濾材Aの代わりにエアフィルタ濾材Bを用いた以外は実施例1と同様にして、フィルタプリーツパックBを得た。フィルタプリーツパックAに対して実施した上述の手法により、プリーツ線と垂直に交わる平面により切断したフィルタプリーツパックBの切断面の拡大観察像を確認したところ、フィルタプリーツパックAと同様に、プリーツ線の近傍の領域である折り返し領域に分割部9が形成されていた。また、分割部9は、上記切断面に観察される複数の折り返し領域に形成されており、切断面を変更して評価を実施した場合においても、同様の分割部9の形成が確認された。言い換えると、フィルタプリーツパックBでは、折り返し領域に位置する分割部9がその全体にわたり形成されていた。確認された分割部の例を、
図8A~
図8Cに示す。なお、
図8A~
図8Cに示す例は、折り返し領域内ではあるが、折り返しの頂点より若干離れた位置に形成されている分割部9の例である。なお、
図8Bは、
図8Aにおける領域VIIの拡大像であり、
図8Cは、
図8Bにおける領域VIIIの拡大像である。
【0082】
図8A~
図8Cに示す分割部9においてPTFE多孔質膜は、主層10と、主層10の厚さの50%程度の厚さを有する、4つの副層11(11A~11D)に分割されていた。主層10及び副層11A~11Dは、互いに離間していた。また、副層11は、主層10を基準として積層体の折り返しの外方側の位置及び内方側の位置のいずれにも形成されていた。分割部9における最大の離間距離D(副層11Cと副層11Dとの間の最大の離間距離D)は、第1の収束部13A及び第2の収束部13BにおけるPTFE多孔質膜Bの厚さが6.7μmであるのに対して、およそ7倍の約47μmであった。
【0083】
次に、上記切断面の評価とは別に、プリーツ加工により得たフィルタプリーツパックを、外寸が610mm×610mm、開口部の寸法が580mm×580mmであるアルミ製の枠体に、フィルタプリーツパックの四辺が枠体に密着するように接着剤により固定して、エアフィルタユニットを得た。得られたエアフィルタユニットの全体捕集効率(フィルタプリーツパックBの全体捕集効率)は99.99993%(6N3)であった。また、フィルタプリーツパックBの圧力損失は100Pa、PF値は60であった。
【0084】
(実施例3)
圧延後のPTFEシートの厚さが100μmとなるように圧延するとともに、長手方向の延伸倍率を5倍とした以外は実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜Cを得た。得られたPTFE多孔質膜Cの厚さは12.5μmであった。
【0085】
次に、PTFE多孔質膜Aの代わりにPTFE多孔質膜Cを用いた以外は実施例1と同様にして、通気性支持材/PTFE多孔質膜C/通気性支持材の3層構造を有するエアフィルタ濾材Cを得た。得られたエアフィルタ濾材Cの厚さは320μm、圧力損失は220Pa、捕集効率は99.9995%、PF値は24であった。
【0086】
次に、エアフィルタ濾材Aの代わりにエアフィルタ濾材Cを用いた以外は実施例1と同様にして、フィルタプリーツパックCを得た。フィルタプリーツパックAに対して実施した上述の手法により、プリーツ線と垂直に交わる平面により切断したフィルタプリーツパックCの切断面の拡大観察像を確認したところ、フィルタプリーツパックA,Bと同様に、プリーツ線の近傍の領域である折り返し領域に分割部9が形成されていた。また、分割部9は、上記切断面における複数の折り返し領域に形成されており、切断面を変更して評価を実施した場合においても、同様の分割部9の形成が確認された。言い換えると、フィルタプリーツパックCでは、折り返し領域に位置する分割部9がその全体にわたり形成されていた。また、フィルタプリーツパックCでは、折り返し領域以外の平坦領域においても分割部9が確認された。平坦領域において確認された分割部9の例を、
図9A及び
図9Bに示す。なお、
図9Bは、
図9Aにおける領域IXの拡大像である。
【0087】
図9A及び
図9Bに示す分割部9においてPTFE多孔質膜は、主層10と、主層10の厚さの50%程度の厚さを有する2つの副層11A,11Bとに分割されていた。主層10、副層11A及び副層11Bは、互いに離間していた。2つの副層11A,11Bは、主層10を間に挟むように形成されており、各々の副層11A,11Bは主層10と平行に延びていた。分割部9における最大の離間距離D(副層11Aと副層11Bとの間の最大の離間距離D)は、第1の収束部13A及び第2の収束部13BにおけるPTFE多孔質膜Cの厚さが10.0μmであるのに対して、およそ3倍の約30μmであった。
【0088】
次に、上記切断面の評価とは別に、プリーツ加工により得たフィルタプリーツパックを、外寸が610mm×610mm、開口部の寸法が580mm×580mmであるアルミ製の枠体に、フィルタプリーツパックの四辺が枠体に密着するように接着剤により固定して、エアフィルタユニットを得た。得られたエアフィルタユニットの全体捕集効率(フィルタプリーツパックCの全体捕集効率)は99.99998%(6N8)であった。また、フィルタプリーツパックCの圧力損失は100Pa、PF値は65であった。
【0089】
(比較例1)
圧延後のPTFEシートの厚さが600μmとなるように圧延するとともに、長手方向の延伸倍率を25倍とした以外は実施例1と同様にして、PTFE多孔質膜Dを得た。得られたPTFE多孔質膜Dの厚さは5.0μmであった。
【0090】
次に、PTFE多孔質膜Aの代わりにPTFE多孔質膜Dを用いた以外は実施例1と同様にして、通気性支持材/PTFE多孔質膜D/通気性支持材の3層構造を有するエアフィルタ濾材Dを得た。得られたエアフィルタ濾材Dの厚さは320μm、圧力損失は220Pa、捕集効率は99.9995%、PF値は24であった。
【0091】
次に、エアフィルタ濾材Aの代わりにエアフィルタ濾材Dを用いた以外は実施例1と同様にして、フィルタプリーツパックDを得た。フィルタプリーツパックAに対して実施した上述の手法により、プリーツ線と垂直に交わる平面により切断したフィルタプリーツパックDの切断面の拡大観察像を確認したが、折り返し領域及び平坦領域の全ての領域において分割部は確認されなかった。また、切断面を複数回変更し、各切断面について上記拡大観察像の確認を実施したが、いずれも分割部は確認されなかった。なお、フィルタプリーツパックDにおけるPTFE多孔質膜Dの厚さは5.0μmであった。
【0092】
次に、上記切断面の評価とは別に、プリーツ加工により得たフィルタプリーツパックを、外寸が610mm×610mm、開口部の寸法が580mm×580mmであるアルミ製の枠体に、フィルタプリーツパックの四辺が枠体に密着するように接着剤により固定して、エアフィルタユニットを得た。得られたエアフィルタユニットの全体捕集効率(フィルタプリーツパックDの全体捕集効率)は99.9995%(5N5)であった。また、フィルタプリーツパックDの圧力損失は100Pa、PF値は50であった。
【0093】
評価結果を以下の表1にまとめる。
【0094】
【0095】
表1に示すように、分割部9が形成されている実施例のフィルタプリーツパックでは、比較例のフィルタプリーツパックに比べて、エアフィルタ濾材としての圧力損失及び捕集効率は同等ながらも、フィルタプリーツパック及びこれを備えるエアフィルタユニットとしての捕集効率が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のフィルタプリーツパックは、エアフィルタ濾材を備える従来のフィルタプリーツパックと同様の用途に使用できる。用途は、例えば、半導体工業、薬品工業等で利用されるクリーンルームのエアフィルタユニットである。
【符号の説明】
【0097】
1 フィルタプリーツパック
2 エアフィルタ濾材
3,3A,3B PTFE多孔質膜
4,4A,4B,4C 通気性支持材
5 積層体
6 プリーツ線
7 切断面
9 分割部
10 主層
11,11A,11B,11C,11D 副層
12 空間
13A 第1収束部
13B 第2収束部
14 先端
21 エアフィルタユニット
22 枠体