(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】プロスタサイクリン類似体製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5575 20060101AFI20240729BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240729BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240729BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240729BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240729BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240729BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240729BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240729BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/24
A61P9/10
A61P9/12
A61P11/00
A61P43/00 112
(21)【出願番号】P 2019514208
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(86)【国際出願番号】 EP2017073359
(87)【国際公開番号】W WO2018050864
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-16
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】505345749
【氏名又は名称】カムルス エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】チベルグ、フレドリック
(72)【発明者】
【氏名】バロウスカス、ユスタ
(72)【発明者】
【氏名】ニスター、カタリン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、マルクス
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】石井 徹
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-526934(JP,A)
【文献】特表2014-522878(JP,A)
【文献】特表2014-527050(JP,A)
【文献】特表2016-504352(JP,A)
【文献】特表2008-501676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備製剤であって、
a)ジオレイン酸グリセロール(GDO)を38~52重量%;
b)ホスファチジルコリン(PC)を35~55重量%;
c)
エタノールもしくはエタノールとプロピレングリコールとの混合物からなる生体適合性有機溶媒を
2~20重量%;及び
d)トレプロスチニル塩、好ましくはトレプロスチニルナトリウム塩;
を含む予備製剤であって、
前記予備製剤は、トレプロスチニル遊離酸に基づき0.1~
6.2重量%の成分d)を含み、
少なくとも等体積量の水性流体と接触すると、少なくとも1つの液晶相構造を
形成する予備製剤。
【請求項2】
医薬品として使用するための、請求項1に記載の予備製剤。
【請求項3】
肺動脈高血圧症(PAH)、重症PAH、レイノー病、および
虚血から選択される少なくとも1つの状態を解消するために、それを必要とするヒトの対象を処置するために用いられる、請求項1または2に記載の予備製剤。
【請求項4】
投与経路が静脈内ではない;または
前記投与経路が浅皮下もしくは深皮下注射、局所または口腔内である
請求項3に記載の予備製剤。
【請求項5】
1~60日ごとに、
好ましくは1、2、3、7(±1)、14(±2)、21、28、30(±3)、または60日ごとに、
最も好ましくは7(±1)日ごとに、または14(±2)日ごとに、または30(±3)日ごとに、
それを必要とするヒトに投与するために用いられる、請求項3または4に記載の予備製剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の予備製剤を含有する、プレフィルド投与デバイス。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の予備製剤≦1mLを含む、請求項6に記載のプレフィルド投与デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性物質を制御放出するための組成物をin situ生成するための製剤前駆体(予備製剤(pre-formulation))、及びそのような製剤を用いる処置方法に関する。詳細には、本発明は、体液などの水性流体に曝露されると相転移を起こして制御放出組成物を形成する、両親媒性成分と少なくとも1つのプロスタサイクリン類似体との予備製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、栄養素、ビタミンなどを含む多くの生理活性物質は、「機能発現枠(functional window)」を有する。すなわち、これらの作用物質が何らかの生物学的作用をもたらすことを観察することができる濃度範囲が存在する。適切な身体部分における濃度(例えば、局所的な濃度、または血清濃度によって実証される濃度)が一定のレベルを下回ると、その作用物質はいかなる有益効果も発揮し得ない。同様に、上限濃度レベルが一般に存在し、そのレベルを超えると、濃度を高くしてもさらなる有益効果は得られない。場合によっては、特定レベルを超えて濃度を高めると、望ましくない影響または危険な影響すら生じる。
【0003】
一部の生理活性物質は、生物学的半減期が長く、及び/または機能発現枠が広いので、時として、機能的な生物学的濃度をかなりの期間(例えば、6時間~数日間)にわたって維持するように投与され得る。別の場合においては、クリアランス速度が速く、及び/または機能発現枠が狭いので、生物学的濃度をこの枠の範囲内に維持するためには、少量ずつの定期的(また、さらには継続的)な投与が必要となる。これは、非経口投与経路(例えば、非経口投与)が望ましいか、または必要な場合には、特に困難であり得る。それというのも、自己投与が困難な場合があり、したがって不都合が生じるか、及び/または服薬遵守が低下するためである。そのような場合には、1回の投与で、活性が必要な期間全体にわたって活性物質を治療レベルで供給することが有利であろう。
【0004】
クリアランス速度が速く、かつ半減期が短い活性物質の特定のクラスの1つが、プロスタサイクリン及びその類似体である。プロスタサイクリンは、エイコサノイドファミリーの内在メンバーであり、血小板活性化、血管拡張及び血圧調節を含むいくつかのプロセスに関係している。プロスタサイクリンは、合成で得られた物質に関する場合にはエポプロステノールとしても公知であり、これらの用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0005】
エポプロステノールは、FDAによって1995年に肺動脈高血圧症(PAH)の処置について認可された。PAHは、≧25mmHgの平均肺動脈圧(mPAP)と正常な肺動脈楔入圧(PAWP)(≦15mmHg)とによって特徴づけられる潜在的に致死性の状態である。しかしながら、エポプロステノール自体が1分未満のin vivo半減期を有するので、これは、典型的には中心静脈カテーテルによる継続投与を必要とする。静脈内治療用エポプロステノールナトリウムは、Flolan(登録商標)(GlaxoSmithKline)として市販されている。2008年から、エポプロステノールの室温安定な製剤(Veletri(登録商標)、Actelion Pharmaceuticals)も利用可能となっている。全世界で推定100,000~200,000の個体がPAHに罹患していると考えられる。
【0006】
イロプロスト(Bayer)、及びトレプロスチニルを含む、半減期がより長いいくつかのプロスタサイクリン類似体が公知である。トレプロスチニルは、FDAによって2002年に認可され、2.9~4.6時間の血漿半減期を有する。エポプロステノールと比較すると長い半減期にも関わらず、トレプロスチニルの継続静脈内注入または定期的な皮下投与がまだ通常は必要である。静脈内治療は、中心静脈カテーテルの外科的挿入を必要とし、感染及び血栓のリスクがあり、通常、患者にとって不快である。エポプロステノールは、吸入または経口経路によっても投与され得る。しかしながら、これらの経路は、静脈内経路よりも低い累積用量のエポプロステノールを提供する。したがって、これらはすべての患者にとって適切であるということにはなり得ない。
【0007】
Remodulin(登録商標)(United Therapeutics Corporation)は、静脈内または継続皮下注射のために設計されたトレプロスチニルの製剤である。継続皮下注射は、マイクロインフュージョンポンプによって達成される。これは、嵩高なポンプ装置に関連する問題のいくつかには対処しているが、まだ理想的ではなく、さらに、患者がバックアップのインフュージョンポンプに直ちにアクセスできることが推奨される。
【0008】
定期的な皮下投与は静脈内または継続皮下投与、経口または吸入経路の欠点に多少とも対処しているが、投与部位疼痛が、大部分の患者において重大な障害であり(患者の85%が経験する)、有害事象によるトレプロスチニルの中止例のほぼすべての原因である(長期試験群のうちの合計23%)。これについては、適切な部位の選択によって、可能な限り管理されている。部位疼痛は、部位を変えてから最初の数日がピークであり、4週間以上にわたる単一部位の使用が場合によっては、有益であり、安全であり得る。
【0009】
貯蔵に対して安定していて、中心静脈カテーテルを介するか、または継続皮下投与による継続投与を必要とせずに投与することができ、機械的故障のリスクを受けにくく、及び/または既存の皮下製剤よりも部位疼痛を少なくしながら、より低い頻度で投与することができるプロスタサイクリン類似体(複数可)の製剤が明らかに必要とされている。本発明は、これらの欠陥の一部または全部に対処する。
【0010】
PAHのための処置を受ける患者は典型的には、治療用量がかなりの期間にわたって維持されることを必要とし、典型的には、何カ月もまたは何年にもわたる継続した処置を必要とする。したがって、より長期間にわたって、より多い用量の負荷及び制御放出を可能にするデポーシステムは、従来の送達系を上回るかなりの利点をもたらすであろう。
【0011】
これに関して、第1相治験を行っているTransCon Treprostinil(Ascendis Pharma)など、トレプロスチニルを含有するポリマー送達系が開発されている。TransCon Treprostinilは、トレプロスチニルの1日1回自己投与型皮下注射として設計されており、ポリマー送達系、特にポリ(オキサゾリン)またはPEGベースのポリマーに基づく。TransCon Treprostinilは、より安全でより便利な投与経路でありながら、現行の非経口投与経路と関連する部位反応及び血流感染リスクを減少させて、継続注入されるプロスタサイクリン類似体と同じ有効性をもたらすことが意図されている。
【0012】
徐放性製剤の分解に典型的に使用されるポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリ乳酸-コ-グリコール酸ポリマーもまた、少なくとも一部の患者において何らかの刺激の原因となる。特に、これらのポリマーは典型的には、酸性不純物、例えば乳酸及びグリコール酸をある程度の割合で含有しており、この不純物が、投与時に注射部位を刺激する。次いでポリマーが分解されると、乳酸及びグリコール酸が分解物となり、さらなる刺激が引き起こされる。
【0013】
患者の快適性及びやや低い頻度(1日1回)の投与に関してTransCon Treprostinilによってもたらされる潜在的な利点にも関わらず、酸性不純物に分解されないPEGなどのポリマーを使用しても、ポリマー系は、高い粘度を有する傾向があり、その結果、太い針による注射を必要とする、及び/またはかなり短い持続期間の製品しか提供されない。トレプロスチニルなどの活性物質へのPEGグラフト化は典型的には、生物学的寿命を延長するが、結合を妨害することがあり、注射の間の数日間にわたって活性であり続ける製品を現在提供することはできない。太い針による投与及び/または刺激性の内容物の複合効果の結果として、投与部位における不快感及び結合性瘢痕組織の形成は多くの場合に、望んでいるよりも大きくなる。このことは、提案されているトレプロスチニル製剤の場合には増大する。それというのも、注射は、毎週またはより長い周期性ではなく、少なくとも毎日であるためである。結果として、長期の処置持続期間にわたって、多数の刺激性の投与を少数の部位で行う必要があるか、または多数の部位を利用して、対象に広範な不快感をもたらすこととなる。
【0014】
明らかに、細い針で容易に投与することができ、したがって施術中の患者の不快感を減少させ、部位疼痛をより少なくする均一な溶液、微粒子の分散液、またはL2相などの低粘度の系を提供することが有利であろう。複数の既存のトレプロスチニル処置と同様に、患者が自己投与管理下にあり、既に1日数回自己投与していてもよい場合、この投与の容易性は特に重要である。数日の持続期間は有するが、医療従事者による処置を必要とするほど十分に投与が複雑な持続性製剤を提供することは、すべての患者にとって、1日2回または毎日の自己投与を越えて有利であるということにはならず、より経費がかかる可能性もある。投与のために医療従事者を訪問することが正当であるような十分に長い持続期間をもたらす製剤を提供すること、及び/または容易に自己投与することができる製剤は、かなり有利であろう。実際の投与の前に、医療従事者または患者の準備時間を減らすことも重要な問題である。
【0015】
薬剤送達の観点から、ポリマーデポー組成物は一般的に、比較的少量の薬物しか装填することができず、また「バースト/ラグ」放出プロファイルを持つという欠点を有する。ポリマーマトリックスは、特に溶液またはプレポリマーとして適用された場合、組成物が最初に投与されたときに、薬物放出のバーストを最初に起こす。この後、放出の少ない期間が続き、その間にマトリックスの分解が始まる。その後、最終的には所望の持続的なプロファイルまで放出速度が上昇する。このバースト/ラグ放出プロファイルによって、活性物質のin vivo濃度は、投与直後に機能発現枠を超えてバーストし、次いで、ある期間にわたって持続的な機能性濃度に達する前に、ラグ期間中に機能発現枠の下限を経て低下し得る。このバースト/ラグ放出プロファイルは、機能性及び毒性の観点から明らかに望ましいものではなく、また危険であり得る。これは、「ピーク」時点での有害作用の危険性のために、提供され得る平衡濃度をも制限し得る。さらに、ラグ期間の存在によって、治療用量を維持しながらデポーから提供される活性の濃度が機能以下となるようにするために、デポー処置の立ち上がり期間中に注射の繰り返しによる補足的な投薬が必要となり得る。
【0016】
制御放出製剤は典型的には、例えばインプラントまたは注射可能なビーズの形態の生体適合性のポリマーから生成される。ポリマーマイクロスフェア製剤は一般に、サイズの大きな、典型的には20ゲージ以上の針を用いて投与しなければならない。これは、典型的にはポリマー懸濁液である使用されるポリマー投薬システムの性質の結果として必要である。細い針によって容易に投与でき、したがって、その施術中の患者の不快感を低減し得る、均一な溶液、微粒子の分散液、またはL2相などの低粘度システムを提供することは有利であろう。投与の容易性は、患者が自己投与するであろう場合には特に重要であり、また、医療従事者が投与を行っている場合にも、彼らの負担を減らす。
【0017】
加えて、特定の既存のデポーシステムでPLGAマイクロビーズ及び懸濁液を製造することも相当に困難である。特に、ビーズは粒子状であるので、一般に濾過滅菌することができず、さらに、PLGA共重合体は高温で溶融するので、熱処理して滅菌することもできない。結果として、複雑な製造工程が無菌で行われなければならない。
【0018】
生物分解性ポリマーミクロスフェアに伴うさらなる問題には、注射前の再構成が複雑であること、及び貯蔵安定性が限定的であることが含まれ、いずれも送達システム及び/または活性物質の凝集及び分解が原因である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特定のペプチドについて、脂質ベースの除放性組成物が記載されている。例えば、WO2006/131730は、GLP-1及びその類似体のための脂質デポーシステムを開示している。これは非常に効果的な製剤であるが、製剤に含ませることができる活性物質の濃度は、その溶解性によって制限される。明らかに、より高い濃度の活性物質が、より長い持続期間のデポー製品、より高い全身濃度を維持する製品、及び注射体積がより少ない製品の実現を可能にし、これらの因子すべてが適切な状況下では大きな利点になる。したがって、活性物質をより高濃度で脂質ベースのデポー製剤に含ませることができる方法を確立すること、ならびに負荷、安定性、製造及び/または制御放出の観点から特に有効な活性物質及び送達システムの組合せを同定することは非常に価値のあることであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、少なくとも1つの中性モノ-、ジ-またはトリアシル脂質及び/またはトコフェロール、任意選択で少なくとも1つのリン脂質、少なくとも1つの生体適合性の有機モノアルコール溶媒、及び少なくとも1つのプロスタサイクリン類似体またはその塩を、分子溶液またはL2(逆ミセル)相などの低粘度相中に含む予備製剤を提供することによって、公知のトレプロスチニル製剤の不足点の多くに対処し、プロスタサイクリン類似体の制御放出をもたらすために適用し得る予備製剤を生成し得ることを立証した。慎重に選択した比率の特定成分を使用することによって、既存のプロスタサイクリン類似体製剤の性能を越える特性の組み合わせを持ち、Remodulin(登録商標)またはTransConトレプロスチニルなどの既知のトレプロスチニル組成物を超える利点をもたらすデポー製剤を生成することができる。
【0021】
特に、予備製剤は、非常に有利な放出プロファイルを示し、製造が容易であり、濾過滅菌し得、低粘度を有し(典型的には細い針による、簡単で痛みの少ない投与を可能にする)、高レベルの生理活性物質を含めることを可能にし(したがって、使用する組成物及び/または活性物質の量を潜在的に少なくする)、浅い注射でよく、及び/またはin vivoで「低バースト」放出プロファイルを有する所望の非ラメラデポー組成物を形成する。組成物はまた、非毒性で、生体許容性で、かつ生分解性である物質から形成され、中心静脈カテーテルまたは継続皮下注射ではなく単回の筋肉内または皮下注射によって投与することができ、自己投与に適している。加えて、予備製剤は注射時の刺激レベルが非常に低く、好ましい場合では、注射部位で刺激(一過性刺激を含む)を起こし得ない。予備製剤は、提案されている「徐放性」製剤よりも低い頻度で投与することができ、その結果、患者の服薬遵守が良好となり、及び/または頻繁な投与の繰り返しによる刺激が少なくなる。
【0022】
本発明の製剤は、投与後に非ラメラ液晶相を形成する。生理活性物質の送達における非ラメラ相構造(非ラメラ液晶相など)の使用は現在、比較的良好に確立されている。最も有効な脂質デポーシステムがWO2005/117830に記載されており、非常に好ましい脂質デポーがその文献に記載されている。しかしながら、いくつかの点で性能が改善されたデポー製剤を達成する余地が残っており、特に、先行する研究で開示された成分の幅及び割合を慎重に選択及び最適化することによって、驚くべき改善を達成することができる。
【0023】
PLGAマイクロスフェアなどのポリマー製剤を超える本発明の組成物の利点には、(滅菌を含む)製造、取り扱い、及び使用特性の容易性と共に、活性物質の初期放出が少ない(「低バーストプロファイル」)ことが含まれる。これは、1週間の投与期間の最初の24時間における血漿中濃度-時間曲線下面積が、曲線全体についての曲線下面積(時間0から無限大、または時間0から最後のサンプリング時点で測定または推定したもの)の50%未満、より好ましくは40%未満、最も好ましくは30%未満であると定義され得る。さらにこれは、予備製剤の注射後の活性物質のin vivoでの最大血漿中濃度(Cmax)が、治療期間における平均血漿中濃度(Cave)の10倍以下、好ましくは8倍以下、最も好ましくは5倍以下と定義され得る(すなわち、Cmax/Cave≦10、好ましくは≦8、より好ましくは≦5)。
【0024】
[発明の概要]
本発明は、脂質添加剤、有機アルコール溶媒及びプロスタサイクリン類似体及びある特定の任意選択成分の適切な組み合わせを含み、上記の必要性の1つまたは複数に対処するためのデポー予備製剤(本明細書では簡潔に予備製剤と呼ぶ)として使用することができる医薬製剤を提供する。発明者らは、これらの成分を最適化することによって、特性の非常に有利な組み合わせを有するプロスタサイクリン類似体、特にトレプロスチニルのデポー組成物、及び対応する前駆製剤を生成することができることを立証している。
【0025】
第1の実施形態では、本発明は、
a)モノ-、ジ-またはトリ-アシル脂質及び/またはトコフェロールのうちの少なくとも1つ;
b)任意選択で、少なくとも1つのリン脂質;
c)少なくとも1つの生体適合性有機溶媒;及び
d)少なくとも1つのプロスタサイクリン類似体またはその塩
を含み、任意選択で、ただし好ましくは、過剰な水性流体と接触すると、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか、または形成することができる予備製剤を提供する。
【0026】
本発明のすべての態様に適用可能な好ましい一実施形態では、プロスタサイクリン類似体は、3,4-cis縮合シクロペンタン環、前記シクロペンタン環の1位にOH基及びシクロペンタン環の2位にC1~10基を含有し、これらの構造は、本明細書でより詳細に定義される。プロスタサイクリン類似体は例えば、本明細書に示すような式I、Ia、IbまたはIcのものであってよい。
【0027】
本発明によるプロスタサイクリン類似体は典型的には、分子内にカルボン酸部分を含むか、またはその塩であってよい。しかしながら、プロスタサイクリン類似体が、酸ユニットを含有せず、塩を形成することができない場合、「遊離酸」という用語は、本明細書で使用する場合、中性分子(例えば中性エステル)と解釈されるべきである。
【0028】
別の好ましい実施形態では、プロスタサイクリン類似体(遊離酸)は、500g/mol未満の分子量を有し、ポリペプチドではない。
【0029】
別の好ましい実施形態では、プロスタサイクリン類似体(遊離酸)は、予備製剤の0.1~10%、好ましくは0.2~6%のレベルで存在する。一実施形態では、プロスタサイクリン類似体(遊離酸)は、0.2~5%、0.5~5%、特に0.2~4%または0.75~4%などのレベルで存在する。
【0030】
別の好ましい実施形態では、プロスタサイクリン類似体は、トレプロスチニル(TPN)またはその塩、好ましくはトレプロスチニルナトリウム塩を含むか、またはそれからなる。
【0031】
好ましい一実施形態では、成分c)は、アルコール、アミン、アミド、スルホキシド及び/またはエステルからなる群から選択される少なくとも1つの溶媒を含むか、またはそれからなる。
【0032】
好ましい一実施形態では、c)は、エタノールまたはエタノール及びプロピレングリコールの混合物を含むか、またはそれからなり、好ましくはエタノールとPGとの比は、1:1~10:1、より好ましくは1.5:1~8:1、最も好ましくは2:1~5:1(例えばほぼ3:1)である。
【0033】
別の好ましい実施形態では、予備製剤は、本明細書で定義するとおり、HPLCによって測定されるような活性物質アッセイに関して、25℃及び60%RHで3カ月後に、好ましくは6カ月後に、特に12カ月後に少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、特に少なくとも98%の安定性を有する。
【0034】
別の好ましい実施形態では、予備製剤は、HPLCによって測定されるような活性物質アッセイに関して、40℃及び75%RHでの貯蔵後1カ月後に、好ましくは3カ月後に、特に6カ月後に少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、特に少なくとも98%の安定性を有する。
【0035】
特に好ましい実施形態では、
成分a)はGDOを含むか、またはそれからなり、
成分b)は大豆PCを含むか、またはそれからなり、;
成分c)はエタノール及び任意選択でプロピレングリコールを含み;及び
成分d)はトレプロスチニルまたはその塩(例えばナトリウム)を含むか、またはそれからなる。
【0036】
第2の態様では、本発明は、プロスタサイクリン類似体の持続投与での、本明細書で定義するような予備製剤の使用に関する。
【0037】
別の態様では、本発明は、医薬品として使用するための(例えば本明細書に記載の状態の処置において使用するための)第1の実施形態による予備製剤または上記予備製剤を過剰な水性流体に曝露することによって得られる組成物を提供する。
【0038】
別の態様では、本発明は、対象に本明細書で定義するような予備製剤を投与することを含む、ヒトまたは非ヒト哺乳類対象を処置するための方法を提供する。
【0039】
一実施形態では、処置方法(さらには対応する使用及び他の態様)は、ヒトまたは非ヒト哺乳類対象(特にそれを必要とするもの)を処置するための方法である。さらなる一実施形態では、処置方法(さらには対応する使用及び他の態様)は、肺動脈高血圧症(PAH)、PAH関連慢性閉塞性肺疾患(COPD)、重症レイノー病、虚血及び関連状態から選択される少なくとも1つの状態を処置するための方法である。
【0040】
一実施形態では、この処置方法は、本明細書で定義するような予備製剤を1~60日ごとに、好ましくは1、2、3、7、14、21、28、30、または60日ごとに(いずれの場合でも例えば、その±3日、または20%ごとに)、最も好ましくは7(±1)日ごとに、または14(±2)日ごとに、または30(±3)日ごとに投与することを含む。
【0041】
一実施形態では、この処置方法は、上記プロスタサイクリン類似体またはその塩を0.005~2.5mg/kg/週のレベルで、好ましくは0.01~1mg/kg/週、特に0.015~0.7mg/kg/週のレベルで投与することを含む。
【0042】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の処置方法(本明細書に記載のすべての疾患、状態、投薬量、方法または投与及び投与プロトコルを含む)で使用するための、本明細書に記載のような予備製剤に関する。
【0043】
別の態様では、本発明は、肺動脈高血圧症(PAH)、PAH関連COPD、レイノー病、虚血及び関連状態から選択される少なくとも1つの状態を処置するためのデポーのin vivo形成において使用するための医薬品の製造における、本明細書で定義するような予備製剤の使用に関する。
【0044】
別の態様では、本発明は、本明細書で定義するような予備製剤を含有するプレフィルド投与デバイスを提供する。
【0045】
別の態様では、本発明は、好ましくはオートインジェクター、カートリッジ及び/またはペンを備えた、本明細書で定義するような投与デバイスを備えたキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】時間(a)及び時間の平方根(b)を関数とした、表1から選択された製剤のin vitro放出プロファイルを示すグラフである。
【
図2】製剤B1及びB2を使用して投与するパイロット研究中のラットにおける体重変化の結果を示すグラフである(実施例2及び表2を参照されたい)。
【
図3】選択された製剤L~AAの粘度を示すグラフである(実施例3及び表6を参照されたい)。
【
図4】製剤N、P、Q、R及びS(累積放出パーセンテージ)のin vitro放出プロファイル(a)と、0~20%放出領域の拡大図(b)とを示すグラフである。
【
図5】水性媒体中で平衡化させた後の製剤L~Sの25℃、37℃及び42℃でのX線回折図である。
【
図6】水性媒体中で平衡化させた後の製剤T~AAの25℃、37℃及び42℃でのX線回折図である。
【
図7】製剤EE、FF、GGまたはHHの投与後のラットにおけるTPNの平均血漿中濃度を示すグラフである。
【
図8】製剤FF、EE、X及びHHのin vitro放出プロファイル(累積放出パーセンテージ)を示すグラフである。
【
図9】雄及び雌のビーグル犬への予備製剤中3、15、22.5及び30mgのTPNの単回皮下注射後の平均トレプロスチニル血漿中濃度-時間プロファイルを示すグラフである。
【
図10】雄及び雌のビーグル犬への予備製剤中3、15、22.5及び30mgのTPNの単回皮下注射後の平均トレプロスチニルAUC
0-168hr値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の製剤は、投与後に非ラメラ液晶相を生成する。生理活性物質の送達における非ラメラ相構造(液晶相など)の使用は、今日では比較的十分に確立されている。一般使用に最も有効な脂質デポーシステムがWO2005/117830に記載されており、本発明で使用するために適した脂質マトリクスが同文献に一般名で記載されており、その文献の開示はすべて、参照により本明細書に援用される。そのような製剤の最も好ましい相構造の説明については、WO2005/117830における論述、特にその29頁を参照されたい。
【0048】
別段に示さない限り、本明細書を通じて、すべての%は重量により規定される。さらに、文脈が許す場合、示される重量%は、本明細書に示す成分のすべてを含む予備製剤全体の%である。プロスタサイクリン類似体の重量パーセンテージは、酸またはその塩のいずれが使用されるかに関わらず、遊離酸の重量に基づき計算される。予備製剤は任意選択で、本明細書に示す成分のみから本質的になってもよく(適切な場合には、本明細書で後で示す、及び添付の請求項に記載の付加的な任意選択の成分を含む)、一態様では、全体的にそのような成分からなる。製剤が、本明細書のある特定の成分「から本質的になる」と示されている場合、規定の成分がその製剤の本質的な性質を提供していて、例えば、規定の成分が製剤の少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%を構成している。
【0049】
好ましくは、本発明による予備製剤は、分子溶液であるか、またはL2相構造(投与前)を有する。予備製剤は、投与後に非ラメラ(例えば液晶)相を形成する。そのような相変化は典型的には、本明細書に示すような、生理環境からの水性流体の吸収によってもたらされる。モノ-アルコール溶媒が存在することを条件として、慎重に水量を制御することで許容され得ることがWO2012/160213において以前に立証されていたが、投与時に、予備製剤は大量の水性流体に曝露されることは理解されるであろう。典型的には、予備製剤は、少なくとも等体積量の水性流体と接触すると非ラメラ相を形成する。
【0050】
本発明者らは今や意外にも、プロスタサイクリン類似体及び生体適合性有機溶媒と共に脂質成分の種類、絶対量及び比率を適切に選択することによって、本発明の予備製剤から形成されるデポー組成物の放出特性を非常に有利なもの、かつトレプロスチニルの既存のデポー製剤よりも優れたものにすることができることを立証している。特に、プロスタサイクリン類似体の単回投与の放出持続期間は、既存のトレプロスチニルデポーの単回投与の放出持続期間をはるかに超えており、in vivoでの最大血漿中濃度は、投与期間中の平均またはさらには最低濃度の小さな倍数でしかない。
【0051】
成分a)-アシル脂質/トコフェロール
成分a)の好ましい範囲は、15~85重量%、好ましくは20~80%、好ましくは30~60重量%、好ましくは35~55%、例えば38~52%、特に38~52%である。一部の実施形態では、ほぼ43%(例えば41~45%)のレベルが特に好ましい。
【0052】
成分b)の好ましい範囲は、15~85重量%、好ましくは20~80%、好ましくは30~60重量%、好ましくは35~55%、例えば38~52%、特に38~52%である。一部の実施形態では、ほぼ43%(例えば41~45%)のレベルが特に好ましい。
【0053】
a:bの比は典型的には、40:60~60:40、好ましくは45:55~55:45、より好ましくは47:53~53:47である。ほぼ50:50(例えば±2)の比が非常に有効である。
【0054】
本明細書に示されているような成分「a」は、モノ-またはジ-アシル脂質及び/またはトコフェロールの1種または複数を含む。最も好ましくは、成分a)は、モノ-またはジアシル脂質を含むか、またはそれからなり、したがって、1つまたは2つの非極性「テール」基を有する。本発明で使用するためのアシルグリセロール(例えばモノ-またはジ-アシルグリセロール)は一般に、純化合物として、25℃の水中では、非ラメラ液晶相構造を形成しない。
【0055】
一実施形態では、成分a)は、モノ-アシル脂質であってよい。モノ-アシル脂質は、1つの極性「ヘッド」基及び1つの非極性「テール基」を含有する。「ヘッド」基は、グリセロール、ジグリセロール、糖部分(イノシトール及びグルコシルをベースとする部分など);及びポリオールのエステル、例えば酢酸エステルまたはコハク酸エステルであってよい。モノ-アシル脂質の好ましいクラスは、ヘキシタン、例えばソルビタンのエステルである。この専門用語では、「ヘキシタン」は、1当量の水を失うことによって環化して、5または6員の環、好ましくは5員フラノース環を形成している式HOCH2(CHOH)4CH2OHのヘキシトールを示している。ソルビタンが、特に好ましいヘッド基である。ヘッド基は、好ましくはエステル結合を介してテール基に連結している。適切なテール基を以下で論述する。
【0056】
特に好ましい実施形態では、成分a)は、少なくとも1つのジアシル脂質、好ましくはジアシルグリセロール(DAG)を含むか、またはそれからなる。ジアシル脂質は、上記のような1つの極性ヘッド基及び、好ましくはエステル結合を介して極性ヘッド基に連結している2つの非極性テール基を含む。ジアシル脂質に最も好ましい極性ヘッド基は、グリセロールである。
【0057】
非極性基(複数可)は、同じか、または異なる数の炭素原子を有してよく、それぞれ独立に飽和または不飽和であってよい。非極性基の例には、C6~C32アルキル及びアルケニル基が含まれ、これらは典型的には、長鎖カルボン酸のエステルとして存在する。これらは多くの場合に、炭素原子の数及び炭素鎖中の不飽和の数を参照して記載される。したがって、CX:Zは、X個の炭素原子及びZ個の不飽和を有する炭化水素鎖を示す。例には特に、ラウロイル(C12:0)、ミリストイル(C14:0)、パルミトイル(C16:0)、フィタノイル(C16:0)、パルミトレオイル(C16:1)、ステアロイル(C18:0)、イソ-ステアロイル(C18:0)、オレオイル(C18:1)、エライドイル(C18:1)、リノレオイル(C18:2)、リノレノイル(C18:3)、アラキドノイル(C20:4)、ベヘノイル(C22:0)及びリグノセロイル(C24:9)基が含まれる。したがって、典型的な非極性鎖は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、フィタン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、もしくはリグノセリン酸、またはそれらに対応するアルコールを含む、天然エステル脂質の脂肪酸をベースとしている。好ましい非極性鎖は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸、特にオレイン酸である。
【0058】
成分a)として、任意の数のモノ-またはジアシル脂質の混合物を使用してよい。好ましくは、この成分は、モノオレイン酸ソルビタン(SMO)、ジオレイン酸グリセロール(GDO)及び/またはジリノール酸グリセロール(GDL)などのC18脂質(例えば、C18:0、C18:1、C18:2、またはC18:3非極性基を1つまたは複数(すなわち、1つまたは2つ)有するDAG)の少なくとも一部を含む。非常に好ましい例は、GDOを少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%含み、さらには実質的に100%含むDAGである。
【0059】
GDOならびに他のモノ-及びジ-アシルグリセロールは、天然源に由来する生成物であるので、一般的に他の鎖長などを有する「混入」脂質がある程度の割合で存在する。したがって、一態様では、本明細書で使用する場合のGDOは、随伴不純物を有する任意の商用グレードのGDO(すなわち、商用純度のGDO)を示すために使用される。これらの不純物を精製によって分離及び除去してもよいが、グレードにばらつきがなければ、これはほとんど必要ない。しかしながら、必要な場合には、「GDO」は本質的に化学的に純粋なGDO、例えば、純度が少なくとも80%、好ましくは純度が少なくとも85%、より好ましくは純度が少なくとも90%の純粋なGDOであってよい。
【0060】
成分a)の全部または一部として使用するための化合物の代替または追加の好ましいクラスは、トコフェロールである。本明細書で使用する場合、「トコフェロール」という用語は、多くの場合にビタミンEとして公知の非イオン性脂質トコフェロール、及び/またはその任意の適切な塩及び/または類似体を示すために使用される。適切な類似体は、本発明の組成物を特徴づける相挙動、無毒性、及び水性流体への曝露時の相変化をもたらすものである。そのような類似体は一般に、純粋な化合物として25℃の水中で非ラメラ液晶相構造を形成しない。最も好ましいトコフェロールは、下記の構造を有するトコフェロールそのものである。明らかに、これが天然源から精製されている場合、わずかな割合の非トコフェロール「混入物」が存在することがあるが、これは、有利な相挙動または無毒性を変更するほどではない。典型的には、トコフェロールは、重量基準で10%以下、好ましくは5%以下、最も好ましくは2%以下の非トコフェロール類似体化合物を含有する。
【0061】
【0062】
本発明の一実施形態では、成分a)は、トコフェロール、特に下に示すようなトコフェロールから本質的になる。
【0063】
成分a)のための構成成分の好ましい組合せは、少なくとも1つのジアシルグリセロール(DAG、例えば少なくとも1つのC16~C18DAG、例えばGDO)と少なくとも1つのトコフェロールとの混合物である。そのような混合物には、重量基準で2:98~98:2のトコフェロール:DAG、例えば10:90~90:10のトコフェロール:DAG、特に20:80~80:20のこれらの化合物が含まれる。トコフェロールと他のアシルグリセロール、例えば、本明細書で論述するもののいずれかとの同様の混合物も適している。
【0064】
成分b)-リン脂質
本発明の好ましい脂質マトリクスにおける任意選択の成分「b」は、少なくとも1つのリン脂質である。成分a)と同様に、この成分は1つの極性ヘッド基と少なくとも1つの非極性テール基を含む。成分a)とb)との間の違いは、主に極性基にある。したがって、非極性部位は、上記で成分a)について検討した脂肪酸またはそれらに対応するアルコールに由来することが好適であり得る。リン脂質(例えばPC)は、2つの非極性基を含有する。この場合も、C18基が好ましく、任意の他の適切な非極性基、特にC16基と組み合わせてよい。本発明で使用するためのリン脂質は、純粋な化合物として25℃の水中で非ラメラ液晶相構造を形成しないものであってよい。別法では、本発明で使用するためのリン脂質は、25℃の水中で非ラメラ液晶相構造、例えば六方晶系液晶相を形成するものであってよい。
【0065】
リン脂質部分は、いずれのジアシルグリセロール部分よりもさらに好適に天然源に由来し得る。リン脂質の適切な供給源には、卵、心臓(例えばウシ)、脳、肝臓(例えばウシ)、及び大豆を含む植物源が含まれる。そのような供給源は、成分bの1つまたは複数の構成成分を供給し得るが、その構成成分は、リン脂質の任意の混合物を含んでいてもよい。
【0066】
成分b)のための適切な極性ヘッド基には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールが含まれる。最も好ましいのは、ホスファチジルコリン(PC)及び/またはホスファチジルエタノールアミン(PE)である。リン脂質の全量に対して重量基準で少なくとも50%のPEの使用が、デポーの強固性の改善をもたらし得ることがWO2013/038460及びWO2013/083459において示されている。
【0067】
WO2016/066655から、リン脂質成分の存在を必要とせずに、トリアシル脂質をベースとする脂質徐放マトリクスは、水性流体に曝露されるとデポー組成物を形成し得るが、リン脂質が存在してもよいことが公知である。したがって、一実施形態では、成分a)は、トリアシル脂質(複数可)を含むか、それからなるか、または本質的にそれからなり、成分b)は任意選択である。しかしながら、別の実施形態では、成分a)が50%超のモノ-アシルまたはジアシル脂質、または少なくとも1つのトコフェロール、またはこれらの成分のいずれかの混合物を含む場合、リン脂質成分b)が好ましくは存在する。一実施形態では、成分a)は、50%未満(例えば0~49%または0.1~45%)のトリアシル脂質(成分a)の全量に対して)を含み、成分b)が存在する(例えば予備製剤の20~80重量%で、または本明細書の様々な実施形態で示されているような他の量で)。
【0068】
本発明では、成分b)が1つまたは複数のPCを含むか、またはそれからなることが特に好ましい。例えば、成分b)のヘッド基の少なくとも50%、好ましくはヘッド基の65%超、特に85%超または90%超は、PCであるべきである。これらまたは他の供給源からの任意の単一のPCまたはPCの混合物を使用してよいが、大豆PCまたは卵PCを含む混合物が非常に適している。PC成分は好ましくは、少なくとも50%の大豆PCまたは卵PC、より好ましくは少なくとも75%の大豆PCまたは卵PC、最も好ましくは本質的に純粋な大豆PCまたは卵PCを含有する。
【0069】
本発明のすべての態様に適用可能な一実施形態において、成分b)はPCを含むか、またはそれからなる。好ましくはPCは大豆由来である。好ましくはPCは、18:2脂肪酸を第1の脂肪酸成分として含み、16:0及び/または18:1脂肪酸を第2の脂肪酸成分として含む。これらは好ましくはPCにおいて、1.5:1~6:1の比で存在する。18:2がおよそ60~65%、16:0が10~20%、18:1が5~15%で、残りが主に他の16炭素及び18炭素脂肪酸であるPCが好ましく、それは大豆PCに典型的である。
【0070】
代替的であるが同等に好ましく、また本発明のすべての態様に適用可能な一実施形態では、PC成分は、合成ジオレオイルPC(DOPC)を含み得る。これは安定性の向上をもたらすと考えられるので、長期の貯蔵のために安定性を必要とする組成物及び/またはin vivoでの放出期間が長い組成物にとって特に好ましい。この実施形態において、PC成分は好ましくは少なくとも50%の合成ジオレオイルPC、より好ましくは少なくとも75%の合成ジオレオイルPC、最も好ましくは本質的に純粋な合成ジオレオイルPCを含有する。残りの任意のPCは、上記のように好ましくは大豆PCまたは卵PCである。
【0071】
一実施形態では、本発明の前駆製剤は、少なくとも部分的に合成DOPCからなり(すなわち、少なくとも95%のPCヘッド基及び少なくとも90%のオレオイル(C18:1)アシル基を有するPC)、少なくとも6カ月、より好ましくは少なくとも12カ月、最も好ましくは少なくとも24カ月後にHPLCによってアッセイした場合に5%未満の活性物質分解と定義される、15~25℃での貯蔵に対する安定性を有する。
【0072】
本発明の予備製剤は、プロスタサイクリン類似体の制御放出のために対象に投与されるので、その成分に生体適合性があることが重要である。これに関して、本発明の予備製剤で使用するために好ましい脂質マトリクスは、PC及びDAGの両方の許容性が良好で、かつin vivoで、哺乳動物の体内に自然に存在する成分へと分解されるので非常に有利である。
【0073】
ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)及びパルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、さらには本明細書に記載の他の様々な高純度PCなどの合成PCまたは高度に精製されたPCは、成分b)の全部または一部として非常に適している。
【0074】
非常に好ましい実施形態では、成分b)は、少なくとも95%のホスファチジルコリンを含む極性ヘッド基、及びそれぞれ独立に16~20個の炭素を有する2つのアシル鎖を有し、少なくとも1つのアシル鎖が炭素鎖に少なくとも1つの不飽和を有し、2つの炭素鎖で4つ以下の不飽和が存在するリン脂質からなる「高純度」PCである。
【0075】
典型的には、これは、少なくとも95%のPCヘッド基及び少なくとも95%の、0~3つの不飽和を有するC16~C20アシル鎖を有するPCであってよい。
【0076】
合成ジオレオイルPCは、最も好ましくは1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンであり、他の合成PC成分には、DDPC(1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);DEPC(1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);DLOPC(1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);DLPC(1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);DMPC(1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);DOPC(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);DPPC(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);DSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);MPPC(1-ミリストイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ3-ホスホコリン);MSPC(1-ミリストイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);PMPC(1-パルミトイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);POPC(1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);PSPC(1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);SMPC(1-ステアロイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);SOPC(1-ステアロイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン);及びSPPC(1-ステアロイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)、またはその任意の組み合わせが含まれる。
【0077】
成分a)及びb)の特に好ましい組合せは、SMOとPCとの、GDOとPCとの、特にGDOと大豆PC及び/または「高純度」PCとの組合せである。組合せに適した各成分の適切な量は、任意の組合せにおいて個々の成分について本明細書で示した量である。これは、文脈が許すならば、本明細書に示す成分の任意の組合せにも当てはまる。
【0078】
成分a:bの比は、40:60~60:40の範囲内である。好ましくは、a:b比は、45:55~55:45、より好ましくは47:53~53:47の範囲内である。最も好ましくは、a:b比は、およそ50:50、例えば48:52~52:48である。
【0079】
一実施形態では、成分a)の絶対量は、40~47%であり、成分b)の絶対量は40~47%であり、a:bの比は、48:52~52:48であり、成分c)の量は、5~20%、好ましくは8~12%であり、成分c)は、2.5:1~3.5:1の比のエタノール及びプロピレングリコールからなり、成分d)は、2.5~50mg/ml(遊離酸に基づく)、例えば5~50mg/mL(遊離酸に基づく)のトレプロスチニルナトリウムである。
【0080】
成分c)-生体適合性有機溶媒
本発明の予備製剤の成分c)は、生体適合性有機溶媒である。予備製剤は、(例えばin vivoでの)投与後に、典型的には水性流体に接触した時に、デポー組成物を生成するためのものであるので、この溶媒は対象にとって許容性があり、かつ水性流体との混合が可能であり、及び/または予備製剤を水性流体に分散または溶解させることができることが望ましい。したがって、溶媒が少なくとも適度な水溶性を有することが好ましい。
【0081】
成分c)は、モノ-アルコール溶媒及びジ-及びポリアルコール溶媒を含むアルコール、アミン、アミド、スルホキシドまたはエステルからなる群から選択される生体適合性有機溶媒を含むか、またはそれからなる。成分c)が、モノ-アルコール溶媒を含むか、またはそれからなることが特に好ましい。
【0082】
成分c)は、上記の溶媒のリストから2種以上の成分、特に、モノ-アルコール溶媒及びアミド、スルホキシドまたはジ-アルコール溶媒から選択される溶媒を含んでよい。モノ-アルコール溶媒ではないいずれかの溶媒(複数可)は、共溶媒と本明細書では称されることがある。2種以上の溶媒が存在する場合、特に好ましい組合せは、エタノール及びアミド(エタノール及びNMPなど)、エタノール及びスルホキシド(エタノール及びDMSOなど)、またはエタノール及びジ-もしくはポリ-アルコール溶媒(エタノール及びPGなど)である。溶媒の非常に好ましい組み合わせは、特にエタノールとPGとの比が1:5~20:1、好ましくは1:1~10:1、より好ましくは1.5:1~8:1、最も好ましくは2:1~5:1(例えば約3:1、例えば2.8:1~3.2:1)である場合のエタノール及びPGである。成分c)は、エタノール、プロパノール、イソ-プロパノール、ベンジルアルコールまたはその混合物を含んでよいか、またはそれからなってよい。最も好ましくは、成分c)は、エタノールを含むか、またはそれからなる。
【0083】
予備製剤中の成分c)の量は、いくつかの特徴についてかなりの作用を有する。特に、溶媒レベルで粘度及び放出速度(及び持続期間)が著しく変化する。したがって、溶媒の量は、少なくとも低粘度の混合物が得られれば十分ではあるが、付加的に、所望の放出速度が得られるように決定される。これは、下記の実施例を考慮してルーチン的な方法によって決定することができる。典型的には、1~30%、特に2~25%の溶媒レベルが、適切な放出及び粘度特性をもたらす。これは好ましくは2~20%、好ましくは5~15%であり、約10%(例えば10±3%)の量が非常に有効である。これらのレベルは、上述のように成分c)の一部として存在する任意の共溶媒を含む。
【0084】
上記で示したように、本発明の予備製剤中の成分c)の量は、少なくとも成分a)、b)、c)及びd)の低粘度の混合物(例えば分子溶液)が得られれば十分であり、標準的な方法によって、成分の任意の特定の組合せのために容易に決定される。
【0085】
相挙動は、目視観察などの技法を、偏光顕微鏡法、X線散乱法、X線回折法、核磁気共鳴法、極低温透過型電子顕微鏡法(cryo-TEM)と組み合わせて溶液、L2またはL3相、または液晶相を、またはcryoTEMの場合ではそのような相の分散部位を観察して分析することができる。粘度は、標準的な手段によって直接測定してもよい。上記のように、適切な実用粘度とは、シリンジで効果的に使用することができ、特に除菌濾過することができるものである。これは本明細書に示すように容易に評価される。
【0086】
成分a)、b)及びc)での特に好ましい組合せは、GDO、大豆PC及び/または「高純度PC」、及びエタノール、またはSMO、大豆PC及びエタノールである。他の好ましい組合せには、GDO/SPC/エタノール/DMSO、GDO/SPC/エタノール/NMP及びGDO/SPC/エタノール/PGが含まれる。上記で示したように、組み合わせに適した各成分の適切な量は、任意の組合せにおいて個々の成分について本明細書に示した量である。
【0087】
成分c)は、本明細書で使用する場合、単一の溶媒であっても適切な溶媒の混合物であってもよいが、一般的に低粘度である。このことは重要である。それというのも、本発明の重要な態様の1つは、低粘度の予備製剤を提供することであり、適切な溶媒の主たる役割は、その粘度を低減することだからである。この低減は、溶媒の粘度がより低いという効果と、溶媒と脂質組成物との間の分子相互作用の効果の組み合わせである。本発明者らの観察の1つは、本明細書に記載の低粘度の酸素含有溶媒は非常に有利で、かつ組成物の脂質部分と予期しない分子相互作用を起こし、それによって少量の溶媒の添加によって非線形的な粘度の低減がもたらされるということである。
【0088】
「低粘度」溶媒成分c)(単一の溶媒または混合物)の粘度は典型的には、20℃で18mPas以下であるべきである。これは、好ましくは20℃で15mPas以下、より好ましくは10mPas以下、最も好ましくは7mPas以下である。
【0089】
WO2012/160213において、「極性溶媒」または「共溶媒」、例えばジオールまたは水と組み合わせたアルコール溶媒の使用が、ある種の脂質をベースとする制御放出組成物の性能の著しい改善を可能にすることが立証されている。特に、ジオール(プロピレングリコールなど)または水の添加は、放出プロファイルに悪影響を及ぼすことなくアルコール割合の増加を可能にする、及び/または放出プロファイルの改善を可能にする、及び/または活性物質のより高い負荷を可能にすることが観察されている。
【0090】
典型的な共溶媒は、それらの高い極性に対応して、比較的高い誘電率を有する。したがって、適切な共溶媒は一般に、25℃で少なくとも28、より好ましくは25℃で少なくとも30の誘電率を有する。非常に適した例には、水(約80)、プロピレングリコール(約32)、ジメチルスルホキシド(約47)及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP、約32)が含まれる。
【0091】
一部の実施形態では、成分c)のための溶媒の特に適切な組み合わせは、モノ-アルコール溶媒とアミド、スルホキシドまたはジオールからなる群から選択される共溶媒とを含む。特に好ましい組合せは、エタノール及びアミド、エタノール及びスルホキシドまたはエタノール及びジオールである。特に好ましい組合せは、エタノール及びプロピレングリコール(PG);エタノール及びジメチルスルホキシド(DMSO);ならびにエタノール及びN-メチル-ピロリドン(NMP)である。
【0092】
存在する場合、共溶媒の適切な量は典型的には、予備製剤の1重量%超、例えば2~15重量%、特に4~12.0重量%、殊に4~10重量%である。成分c)としてのモノ-アルコール溶媒及び共溶媒の組合せは、本発明の組成物において潜在的な利点を有する。特に、モノ-アルコール成分と混和性である多少の共溶媒を含むことによって、アルコール含分によって注射部位で起こり得るわずかな感覚が実質的に除去され得る。したがって、一実施形態では、モノ-アルコール成分:共溶媒の比は、30:70~90:10、より好ましくは50:50~80:20、特に60:40~80:20の範囲内であってよい。およそ等量の成分(w/w)が非常に適している。
【0093】
成分d)-プロスタサイクリン類似体
本発明の予備製剤は、少なくとも1つのプロスタサイクリン類似体またはその塩を含有する。プロスタサイクリン及び合成類似体ベラプロスト、エポプロステノール、イロプロスト及びトレプロスチニルを下に示す。
【0094】
【0095】
所望の治療効果を達成し、予備製剤の相挙動に悪影響を及ぼさない限り、プロスタサイクリン類似体の選択は、本発明にとって特には重要ではない。
【0096】
しかしながら典型的には、プロスタサイクリン類似体成分d)は、次の特徴のうちの1つまたは複数を有する。第1に、これは好ましくは、合成非ペプチドである。第2に、これは好ましくは、500amu未満、好ましくは400amu未満の分子量を有する(遊離酸)。第3に、これは好ましくは、1-ヒドロキシ置換基、2位にC3~12アルキル、アルケニルまたはアルキニル基、及び3,4-cis縮合5員または6員環を有するシクロペンタン単位を含む。使用している番号付けは、上記で示した構造を参照すれば容易に理解される。第4に、プロスタサイクリン類似体は好ましくは、カルボン酸及び/またはエステル単位を含む。ベラプロスト、エポプロステノール、イロプロスト及びトレプロスチニルの構造から分かり得るように、これらの構造的特徴は、プロスタサイクリンと既知の合成類似体ベラプロスト、イロプロスト及びトレプロスチニルとの間で共有されている。
【0097】
本発明のすべての態様で使用するためのプロスタサイクリン類似体は特に、式(I)のプロスタサイクリン類似体を含み得る。
【0098】
【0099】
[式中:
nは、1または2であり;
Xは、O、CH2、CHFまたはCF2であり;
Rは、H、R10であるか、または結合単位によってポリエチレングリコール(PEG)に結合しており;
R1は、H、FまたはC1~C10置換もしくは非置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニルであり;
R2’は、H、FまたはC1~C6置換もしくは非置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニルであり;
R2は、飽和または不飽和C1~12置換または非置換アルキル、アルケニルまたはアルキニル基、好ましくは飽和または不飽和C1~10基であり;
R5は、X(CH2)aCO2R9であり、ここで、Xは、OまたはCH2であり、aは、0~4、好ましくは1または2であり、
R9は、H、C1~C6置換もしくは非置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニルまたは生物学的に許容されるカチオンであり;
R8及びR8’はそれぞれ独立に、H、FまたはC1~C6アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、好ましくはHであり;
nは、1または2であり;
すべてのR4及びR4’基はそれぞれ独立に、H、FまたはC1~C6置換もしくは非置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニルであり;かつ
R5’は、H、FまたはC1~C6置換もしくは非置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニル基、好ましくはHであるか;または
R5’及び隣接するR4及び/またはR4’基は、5、6または7員置換または非置換環、好ましくは6員環、最も好ましくは置換または非置換6員芳香環を形成していて;かつ
任意の追加のR4及び/またはR4’基は、それぞれ独立に、H、FまたはC1~C6置換もしくは非置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニルである
かのいずれかであり、
R10は、保護部分またはプロドラッグ部分などの基である]。適切な保護部分及び/またはプロドラッグ部分には、後続のセクションで定義するものを含むエステルが含まれる。
【0100】
好ましい一実施形態では、nが1である場合、構造は、式(I-a)の構造
【0101】
【0102】
[式中、R4及びR4’はそれぞれ独立に、H、FまたはC1~C6アルキル、好ましくはHであり;
R5’は、H、FまたはC1~C6アルキル基、好ましくはHであり;
残りの置換基は、式(I)について上記で定義したとおりである]
または
式(I-b)の構造
【0103】
【0104】
[置換基は、式(I)について上記で定義したとおりである]
のいずれかである。
【0105】
さらに好ましい一実施形態では、nが2である場合、構造は、式(I-c)の構造である。
【0106】
【0107】
[式中、R4及びR4’はそれぞれ独立に、H、FまたはC1~C6アルキル、好ましくはHであり:
残りの置換基は、式(I)について上記で定義したとおりである]
次が特に好ましい実施形態である。
式(I)、(Ia)、(Ib)及び(Ic)のそれぞれについて:
Xは、好ましくはOまたはCH2であり;
R1は、好ましくはHであり;
R2は好ましくは、シクロペンタン単位からのR2の第3の炭素原子に結合しているOH基を含み;
R2’は、好ましくはHであり;
R4及びR4’は、すべて好ましくはHであるか、またはR5’と共にフェノール環を形成しており;
R8及びR8’は両方とも、好ましくはHである。
【0108】
上記の好ましい実施形態に加えて、式(Ia)について:
R2は、好ましくは不飽和C6~C12基、好ましくは不飽和C8~C10基であり、特にシクロペンタン単位からのR2の第3の炭素原子に結合しているOH基を含む。さらにより好ましくはR2は、
【0109】
【0110】
であり、なおより好ましくはR2は:
【0111】
【0112】
であるか、またはR2は:
【0113】
【0114】
であるか、またはR2は:
【0115】
【0116】
であり、なおより好ましくは、R2は:
【0117】
【0118】
であるか、またはR2は:
【0119】
【0120】
であり、
R5’は、好ましくはHであり;
Xは、OまたはCH2であり;
R5は、好ましくはCH2CH2CH2CO2R9であり、ここで、R9は、上記で定義したとおり、特にCH2CH2CH2CO2Hであり;
Rは、好ましくはHである。
【0121】
一実施形態では、プロスタサイクリン類似体は、イロプロストであってよい。
【0122】
式(Ib)について:
R2は、好ましくは不飽和C6~C12基、好ましくは不飽和C8~C10基であり、特にシクロペンタン単位からのR2の第3の炭素原子に結合しているOH基を含む。さらにより好ましくはR2は、
【0123】
【0124】
であり、なおより好ましくはR2は:
【0125】
【0126】
であり、
Xは、好ましくはOであり;
R5は、好ましくはCH2CH2CH2CO2R9であり、ここで、R9は、上記で定義したとおり、特にCH2CH2CH2CO2Hであり;
Rは、好ましくはHである。
【0127】
一実施形態では、プロスタサイクリン類似体は、ベラプロストであってよい。
【0128】
式(Ic)について:
Xは、好ましくはCH2であり;
Rは、好ましくはHであるか、または連結基を介してPEGに結合しており;
R2は、特にシクロペンタン単位からのR2の第3の炭素原子に結合しているOH基を含めて、好ましくは飽和C6~C10基、好ましくは飽和C8基である。さらにより好ましくはR2は:
【0129】
【0130】
であるか、またはR2は:
【0131】
【0132】
であり、なおより好ましくはR2は:
【0133】
【0134】
であるか、またはR2は:
【0135】
【0136】
であり、
R5は、好ましくはOCH2CO2R9であり、ここで、R9は、上記で定義したとおりであり、最も好ましくはOCH2CO2Hである。
【0137】
一実施形態では、プロスタサイクリン類似体は、トレプロスチニルであってよい。
【0138】
OH基が(特に、基ORとして、または基R2の元素として)存在する本明細書に示す式のいずれにおいても、そのような基は、プロドラッグとして保護されていてもよい。そのようなプロドラッグは典型的には、in vivoで加水分解されて、遊離-OH部分を再生成し、エステル及び/またはアセタール基を含んでもよい。特に適切なプロドラッグは、その全体が本明細書に援用される米国特許第9394227号においてR1及びR2位について記載されているとおりである。
【0139】
OH部分がプロドラッグとして保護されているような場合、いずれの-OH基も独立に、-O-R10基として保護されていてよく、R10は、それぞれ出現するごとに独立に、次のいずれかである。
【0140】
【0141】
[式中、
R11は、それぞれ出現するごとに独立に、アルキル、アルキルアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリールまたはヘテロアリールであり、これらはそれぞれ任意選択で置換されていてもよく;
R12及びR13は、それぞれ出現するごとに独立に、水素、C1~C6アルキルまたはC3~C6シクロアルキルであるか、またはR12及びR13及びそれらが結合している炭素原子は、C3~C6シクロアルキル環を形成しており;
R14は、それぞれ出現するごとに独立に、水素、R11、-C(=O)R11、-C(=O)OR11または-C(=O)NR15R16であるか;または
R14及びR12またはR13は、それらが結合している原子と一緒に、複素環式環を形成しており;
R15及びR16は、それぞれ出現するごとに独立に、水素、アルキル、-アルキルアリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリールまたはヘテロアリールであるか;または
R15及びR16ならびにそれらが結合している窒素原子は、複素環式またはヘテロアリール環を形成しており;
jは、それぞれ出現するごとに独立に、0~4の整数であり;
mは、それぞれ出現するごとに独立に、1~10の整数である]。
【0142】
特定の実施形態では、R11は、それぞれ出現するごとに独立に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチルまたはtert-ブチルであり;R12及びR13は、それぞれ出現するごとに独立に、水素、メチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり;R14は、それぞれ出現するごとに独立に、水素またはR11であり;jは、0であり;mは、1である。
【0143】
置換が-OH基について成される場合、これは独立に、任意の1つの-OH基においてであってよいか、または好ましくは、すべての遊離-OH基においてである。好ましい一実施形態では、ORとして、または基R2の一部として存在するすべての-OH基が、同じプロドラッグ-O-R10基で保護される。一部の実施形態では、存在する-OH基のいずれか1つまたはそれぞれが、エステルに置換されている。「-OH」基を置換してプロドラッグを得るために使用することができる一部の特定の例のエステルには、エチル、イソプロピルまたはコハク酸エステルが含まれる。
【0144】
プロスタサイクリン類似体d)がプロドラッグであるすべての実施形態では、プロドラッグを、
a)モノ-、ジ-またはトリ-アシル脂質及び/またはトコフェロールのうちの少なくとも1つ;
b)任意選択で少なくとも1つのリン脂質;及び
c)少なくとも1つの生体適合性、有機溶媒;
を含む予備製剤において製剤化することが好ましく、その予備製剤は、過剰な水性流体と接触すると、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか、または形成することができる。
【0145】
特に、プロスタサイクリン類似体d)がプロドラッグであるすべての実施形態では、プロドラッグを、
a)ジアシル脂質、最も好ましくはジオレイン酸グリセロール(GDO);
b)少なくとも1つのリン脂質、好ましくはホスファチジルコリン(PC);及び
c)少なくとも1つの生体適合性、有機溶媒;
を含む予備製剤において製剤化することが好ましく、その予備製剤は、過剰な水性流体と接触すると、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか、または形成することができる。
【0146】
すべての実施形態において、式(I)による環系の配置は、好ましくは:
【0147】
【0148】
である。
【0149】
好ましい一実施形態では、プロスタサイクリン類似体は、500g/mol未満の分子量を有する。
【0150】
最も好ましくは、成分d)は、ベラプロスト、エポプロステノール、イロプロストまたはトレプロスチニル(例えばエポプロステノール、イロプロストまたはトレプロスチニル)、最も好ましくはトレプロスチニルを含むか、またはそれからなる。プロスタサイクリン類似体の任意の生物学的に許容される塩を使用してもよい。成分d)の量が、重量パーセンテージとして示されている場合、文脈によって別段に許されない限り、遊離酸に基づく重量が意図されている。特に好ましい実施形態では、成分d)は、トレプロスチニル遊離酸(TPN)またはその塩、最も好ましくはトレプロスチニルナトリウム塩(TPN(Na))を含むか、またはそれからなる。エステル誘導体、例えば、エチルエステルまたは他の生物学的に許容されるアルコール(ジオールまたはポリ-ヒドロキシアルコール、例えばプロピレングリコールまたはグリセロールを含む)のエステルの使用も予見され、プロスタサイクリン類似体の放出及び/またはその生物学的半減期の制御において有用であり得る「プロドラッグ」効果をもたらし得る。
【0151】
特に式(i)の「R」位または他の構造上の対応する部位における「連結単位」または「リンカー」の任意選択の使用が、本明細書において示されている。そのようなリンカーは、例えば、R位でエステル結合を形成し得、いずれも必要があれば置換されていても、または非置換であってもよい直鎖、分枝及び/または環式アルキル及び/またはアルケニル部分、エステル基、アミド基、アミン基、エーテル基、チオール、チオエステル及び環式部分、例えばピロリジン及びピロリジンジオン(例えば3-スルファニル-2,5-ピロリジンジオン)基によって、より大きな部分、例えばペプチド、タンパク質、PEG基を結合し得る。
【0152】
本発明で使用するために適した他のプロスタサイクリン類似体には、すべてのプロスタサイクリン受容体アゴニスト、例えばセレキシパグが含まれる。
【0153】
【0154】
セレキシパグ
成分d)は、プロスタサイクリン類似体遊離酸に基づき0.1~15%、好ましくは0.1~10%、例えば1~12%、特に2~8%の量で存在する。一部の実施形態では、プロスタサイクリン類似体のレベルは、4~8%であってよい。これらのレベルは特に、トレプロスチニルに適している。
【0155】
本発明者らの意外な発見は、トレプロスチニルなどのプロスタサイクリン類似体の放出持続期間が活性物質の量及び溶媒成分c)の性質の両方に著しく依存していることである。したがって、1つまたは複数のこれらのパラメーターを変えることによって、デポーの放出特性を調整することができる。
【0156】
本発明者らのさらなる意外な発見は、製剤溶媒及び溶媒比の適切な選択によって、トレプロスチニルなどのプロスタサイクリン類似体の放出を効果的に制御することができることである。
【0157】
一般にホスファチジルコリンなどのリン脂質を含むモノ-及び/またはジアシル脂質(GDOなど)のデポー製剤では、活性物質の放出は主に、製剤の相挙動によって制御され、その相挙動自体は主に、脂質成分の性質及び割合によって制御される。しかしながら、この場合、発明者らは、放出特性、特に投与後に達成される最大in vivo濃度(Cmax)を溶媒及び溶媒比の選択によって有用に最適化することができることを立証している。一実施形態では、例えば、本発明は、成分c)がエタノール及びプロピレングリコールを含むか、本質的にそれを含むか、またはそれからなり、エタノールとPGとの比が1:1と10:1との間、より好ましくは1.5:1~8:1、最も好ましくは2:1~5:1(例えば約3:1)である本発明の前駆製剤を提供する。特に、エタノール及びPG(例えば、それぞれ少なくとも0.5%)の両方を有し、エタノールの量がPGの量よりも多い製剤は、PGと比較してエタノールの量が等量以下である製剤よりも低いCmax(すなわち、低い「ピーク」in vivo濃度)をもたらし得る。放出特性のそのような制御は、徐放性製剤において多大に重要であり、溶媒比の選択によってもたらされるとは予測されなかった。
【0158】
成分d)のレベルに関して、
図4aは、GDO/PC/EtOH(45:45:10)のマトリクス中に1.53~7.76%のTPN(Na)を含有する製剤からのTPNのin vitro放出を図示している。7.76%のTPN(Na)の負荷では、製剤は、「バースト」の特徴を示し、すなわち、TPN(Na)の約50%が約24時間の期間後には放出されているのに対して、6.17%以下のレベルでは、TPN(Na)の放出はかなり漸進的である。単純に成分の適切な選択によってバーストプロファイルを変えることができることは潜在的に、本発明の予備製剤の非常に有用な特徴である。一実施形態では、これらに、溶媒及び溶媒比の選択によって影響を与え得る。
【0159】
一実施形態では、特に、製剤が1~3日間にわたる短期放出をもたらすことが望ましい場合、6.5%以上、特に6.7%以上、または7%以上のプロスタサイクリン類似体、特にTPNまたはTPN(Na)のレベルで操作することが望まれ得る。しかしながら一般に、プロスタサイクリン類似体のレベルは典型的には、5重量%以下、好ましくは4重量%以下(例えば0.5~4重量%、例えばほぼ1重量%、ほぼ2重量%またはほぼ3重量%)である。
【0160】
1~3日間にわたって有効な放出をもたらす短期放出デポーを、エタノールを唯一の成分c)として少なくとも11%、好ましくは少なくとも12%、特に少なくとも13%のレベルで用いて製剤化することができる。別法では、エタノール及びスルホキシド、特にエタノール及びDMSOの混合物を成分c)として20%以下、例えば10~20%、特に12~18%の量で使用してよい。この実施形態では、エタノール:スルホキシドの比は、20:80~60:40(w:w)の範囲、特に30:70~50:50の範囲である。
【0161】
例えば1週間または2週間または1カ月間用デポーのために、プロスタサイクリン類似体のより漸進的な放出を得ることが望ましい場合、6.5%未満、例えば6.2%以下、特に5.5%以下または5%以下のd)のレベルで操作することが望まれ得る。上記のように、プロスタサイクリン類似体のレベルは典型的には、5重量%以下、好ましくは4重量%以下(例えば0.5~4重量%、例えばほぼ1重量%、ほぼ2重量%またはほぼ3重量%)である。したがって、1週間に1回または2週間に1回投与するための予備製剤は好ましくは、1~7%、例えば1~3%のプロスタサイクリン類似体、特にTPNまたはTPN(Na)を含んでよい。
【0162】
5日間超、例えば1週間または2週間の期間にわたって有効な放出をもたらす長期放出デポーは、エタノールを唯一の成分c)として11%未満、例えば10%以下のレベルで用いて製剤化することができる。別法では、エタノール及びジ-またはポリアルコール溶媒、特にエタノール及びPGまたはエタノール及び水の混合物を5~20%、特に5~15%の量で、40:60~60:40(w:w)の範囲のエタノール:PGまたはエタノール:水の比で使用してよく、約50:50のレベルが特に好ましい。ほぼ2.5%のPG及び約7.5%のエタノールの量が非常に有効である。
【0163】
一態様では、本明細書の実施形態のそれぞれは任意選択で、静菌剤及び防腐剤を含む抗菌剤または微生物静止剤を含有することができる。そのような薬剤には、塩化ベンザルコニウム、m-クレゾール、ベンジルアルコール、または他のフェノール系防腐剤が含まれる。当技術分野で公知のような典型的な濃度を使用することができる。
【0164】
成分a)~d)として述べたものの他に付加的な成分が、少しでも存在する場合には、好ましくは0~5重量%(例えば0.01重量%~5重量%)、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下の量で存在する。
【0165】
一実施形態では、成分a)及びb)(これらの成分の性質に本質的に内在する任意の不純物を勘案する)は、組成物の脂質成分の少なくとも95%を占める。好ましくは予備製剤の脂質含分全体の少なくとも99%が成分a)及びb)からなる。好ましくは予備製剤の脂質成分は、本質的に成分a)及びb)からなる。
【0166】
投与
本発明の予備製剤は一般的に、非経口投与されるように製剤化される。この投与は一般的に、血管内法ではなく、好ましくは皮下(s.c.)、腔内、または筋肉内(i.m.)である。重要なことに、本発明の予備製剤は、静脈内または継続皮下注射のいずれかで投与する必要がないという利点を有する。好ましくは投与は、静脈内または継続皮下投与ではない。
【0167】
典型的には、投与は注射によるが、この用語は本明細書では、製剤を針、カテーテルまたはニードルレス(無針)注射器などによって皮膚に通す任意の方法を示すために使用される。好ましい非経口投与は、筋肉内または皮下注射、最も好ましくは皮下注射による。本発明の組成物の重要な特徴は、これを、毒性または重大な局所作用を伴わずに、特に重大な部位疼痛をもたらさずに筋肉内及び皮下の両方、及び他の経路によって投与することができることである。これは腔内投与にも適している。皮下注射は、(深)筋肉内注射よりも深くなく、また対象にとって痛みが少ないという利点を有し、注射の容易性と局所的な副作用のリスクの低さとを兼ね備えているため、この場合に技術的に最も適している。本発明者らの意外な観察の1つは、皮下注射によって、製剤が予測可能な期間にわたり活性物質の持続放出をもたらすことであり、典型的には、プロスタサイクリン類似体の既存の製剤と比較して、本発明の製剤により、かなり長い放出持続期間が利用可能となる。
【0168】
本発明の好ましい脂質予備製剤は、特にin vivoで水性流体に曝露されると、非ラメラ液晶デポー組成物を提供する。本明細書で使用する場合、「非ラメラ」という用語は、通常の、またはより好ましくは逆液晶相(逆立方晶または六方晶相など)、またはL3相またはその任意の組み合わせを示すために使用されている。液晶という用語は、すべての六方晶系、すべての立方晶系液晶相、及び/またはそのすべての混合物を意味する。六方晶系は、本明細書で使用する場合、「通常の」または「逆」六方晶系(好ましくは逆)を示し、「立方晶系」は別段に指定がない限り、任意の立方晶系液晶相を示す。当業者であれば、本明細書において提供する記載及び実施例と、WO2005/117830とを参照することで、適切な相挙動を有する組成物の特定に困難はないであろうが、相挙動にとって最も好ましい組成範囲は、成分a:bの比の範囲が、先行するセクションに記載のとおりである場合である。ほぼ50:50(例えば±2)の比が多くの製剤に非常に好ましく、ほぼ50:50が最も好ましい。
【0169】
本発明の予備製剤は低粘度であるということを理解することが重要である。結果として、これらの予備製剤は、なんらかのバルク液晶相であってはならない。それというのも、すべての液晶相は、シリンジまたは同様の注射装置によって投与し得る粘度よりもかなり高い粘度を有しているためである。したがって、本発明の予備製剤は、溶液、L2またはL3相、特に溶液またはL2などの非液晶状態にある。本明細書を通じて使用されるL2相は好ましくは、粘度低減作用を有する有機溶媒(成分c)を5重量%より多く、好ましくは7%よりも多く、最も好ましくは9%よりも多く含有する「膨潤」L2相である。L2相の状態にある本発明の予備製剤は、好ましい一式の予備製剤を形成している。
【0170】
本明細書で使用する場合、「低粘度混合物」または「低粘度予備製剤」という用語は、対象に容易に投与することができ、特に標準的なシリンジ及び針配置によって容易に投与することができる混合物を示すために使用されている。これは、例えば、ゲージの小さい針によって1ml使い捨てシリンジから投薬される能力によって表され得る。好ましくは、低粘度混合物は、19ゲージの針、好ましくは19ゲージ未満、より好ましくは23ゲージ(または最も好ましくは27ゲージ)の針を介して手動圧によって投薬することができる。特に好ましい実施形態では、低粘度混合物は、0.22μmシリンジフィルタなどの標準的な滅菌濾過膜を通過可能な混合物でなければならない。適切な粘度の典型的な範囲は、20℃で、例えば10~1000mPas、より好ましくは10~800mPas、最も好ましくは200~700mPasであろう。
【0171】
投与すると、本発明の好ましい脂質系予備製剤は、低粘度混合物から高粘度(一般的に、組織に付着性の)デポー組成物へと相構造転移を起こす。一般的に、これは、分子混合物、膨潤L2及び/またはL3相から、逆六方晶系もしくは立方晶系液晶相またはその混合物などの1つまたは複数の(高粘度)液晶相への転移である。投与後に、さらなる相転移も起こり得る。明らかに、本発明が機能するために完全な相転移は必要ではないが、投与された混合物の少なくとも表面層は液晶構造を形成する。一般的に、投与された製剤の少なくとも表面領域(空気、体の表面及び/または体液と直接接触する部位)については、この転移が速い。これは最も好ましくは、数秒または数分(例えば、1秒から最大で30分、好ましくは最大で10分、より好ましくは5分以下)にわたる。組成物の残りの部分は、分散によって、及び/または表面領域が分散するにつれて、よりゆっくり液晶相に相変化し得る。
【0172】
理論に拘束されることはないが、本発明の予備製剤は、過剰な水性流体に曝露されると、その中に含まれる有機溶媒の一部または全部を(例えば、分散によって)失い、身体環境(例えは、in vivo環境)から水性流体を取り込むと考えられる。脂質予備製剤では、製剤の少なくとも一部が好ましくは、非ラメラ構造、特に液晶相構造を生成する。ほとんどの場合、これらの非ラメラ構造は非常に粘稠性で、in vivo環境に容易に溶解または分散されない。その結果、限られた領域のみが体液に曝露されるモノリシックな「デポー」がin vivoで形成される。さらに、非ラメラ構造は、大きな極性領域、非極性領域、及び境界領域を有するので、脂質デポーは、活性物質を溶解及び安定化する上で、及びこれらを分解メカニズムから保護する上で非常に有効である。予備製剤から形成されるデポー組成物は、数日間、数週間、または数カ月の期間にわたって漸進的に分解されるため、活性物質は組成物から漸進的に放出及び/または分散される。デポー組成物内の環境は比較的保護されているので、本発明の予備製剤は、生物学的半減期が比較的短い活性物質に非常に適している。
【0173】
少なくとも2%(例えば少なくとも5%)の極性共溶媒(特に少なくとも5%のPG、水、NMPまたはDMSO)を予備製剤に組み込むことによって、実質的に水が存在しない、有機溶媒を含む組成物と比較して、注射された予備製剤の表面での非ラメラ(例えば、液晶)相への相転換の速度を増強することができると考えられる。したがって、結果として得られるデポーの性能が改善し、活性物質の放出に対するさらなる制御を実現できる。
【0174】
本発明の製剤によって形成されるデポーシステムは、分解から活性物質を保護する際に非常に有効であり、したがって長期間の放出を可能にする。したがって、本発明の製剤は、1~60日ごとに1回だけ投与を必要とするプロスタサイクリン類似体のin vivoデポーを提供し得る。典型的な投与間隔は、例えば、1、2、3、7、14、21、28、30、または60日ごとであり、計画的にか、または時折かのいずれかで、わずかに(いずれの適切な場合でも例えば、その±3日、または±20%)変化させてよい。非常に好ましい投与頻度には、7(±1)日ごと、または14(±2)日ごと、または30(±3)日ごとが含まれる。一実施形態では、比較的低レベルのプロスタサイクリン類似体(例えば0.5~2.0%)を含有する製剤を1週間に1回、2週間に1回、または1カ月に1回投与してよく、より高いレベルのプロスタサイクリン類似体を有する製剤(例えば2.5重量%~4重量%以上)を1週間に1回またはそれより高い頻度で、例えば、3日ごとに1回、2日ごとに1回または毎日投与してよい。
【0175】
明らかに、患者の快適性及び服薬遵守のためには、より長く安定した放出期間が望ましく、また組成物が自己投与されない場合、医療従事者が要する時間は短い方が望ましい。組成物が自己投与される場合、投与の必要を忘れないようにするために、患者の服薬遵守は、毎週(例えば、7日ごと、任意でその±1日ごと)または毎月(例えば、28または30日ごと(任意で±7日ごと))の投与によって支援され得る。継続的に、または1日1回よりも多く投与する必要のない製剤を提供することも、この分野の多くの症例において、患者の健康を多大に改善するであろう。
【0176】
すべての態様に、しかし特に処置方法及び対応する使用に適用可能な本発明の一実施形態では、基礎疾患(本明細書に示す疾患のいずれかなど)の進行に対応するために、投与用量及び頻度を徐々に上げてよい。したがって、1mg/週または5mg/週のプロスタサイクリン類似体の投薬が、初期段階にある対象では十分であり得、これらを必要に応じて毎週、2週間ごと、または毎月提供してよい(例えば、4週ごとに10mg/mlでの1.5ml注射は、3.75mg/週の平均用量を与えるであろうし、疾患の初期段階では十分であり得る。疾患が進行するにつれて、投薬量を2週間ごとに1ml(10mg/mlで)(5mg/週)、毎週0.75ml(7.5mg/週)及び1.0ml/週(10mg/週)に増加させてよい。次いで、その後の増加は、より高い濃度の製剤、例えば2週毎の30mg/ml製剤1.0ml(15mg/週)によって、さらに上げて頻度及び量を例えば毎週1.0ml(30mg/週)に、次いで、必要な場合には週に複数回の投与に増やすことによって達成し得る。
【0177】
ほぼ1~4ng/kg/分の継続注入を使用する公知のプロスタサイクリン類似体の当初用量は典型的には、出発注入用量として、特にエポプロステノール及びその塩(例えばナトリウム塩)では、1週間当たりほぼ10~40μg/kgに対応している。そのような用量は、本発明の製剤に適した出発用量を形成し、次いで、これを、適切な有効性/耐容性バランスが達成されるまで増量してよい。トレプロスチニル(及び塩、例えばナトリウム塩)では、適切な出発用量は典型的には、エポプロステノールの出発用量のほぼ半分であり、0.5~2ng/kg/分(1週間当たりほぼ5~20μg/kg)に対応する。この場合も、適切な用量が確立されるまで、増量を適用することができる。
【0178】
本発明の投与方法の重要な態様は、本明細書に記載の前駆製剤が好ましくはプロスタサイクリン類似体の制御放出を少なくとも7日間にわたって提供するが、投与頻度は、これよりも早くてよいことである。したがって、例えば、本発明の予備製剤の単回注射後7日目のプロスタサイクリン類似体の血漿中濃度は、投与後1日目の終了時の血漿中濃度の10-3以上、好ましくは10-2以上、最も好ましくは10-1以上に低下してよい。そのような制御放出性能は、疾患の初期段階での7日間用製品では十分であり得、それに関しては著しい利点をもたらす。しかしながら、上記のような放出特性を有する製品の投与を7日ごとよりも頻繁に繰り返してもよい(例えば、週に2回、3日ごと、2日ごと、または毎日)。この投与を、1回目の投与の作用が有効でなくなるかなり前に実施する。しかしながら、本明細書に記載の長期用製品の複数回の注射(例えば複数の部位での)は、プロスタサイクリン類似体血漿中濃度のさらに大きな平坦化(levelling)をもたらし、多量の注射を必要とせずに非常に高い用量を可能にする。
【0179】
したがって、例えば、1.0ml~30mg/ml製剤の週2回の注射は、いずれの大きな注射も用いずに、非常に安定な放出プロファイルで60mg/週をもたらすが、それというのも、1回の放出の「ピーク」が先行投与の安定なプラトーレベルに対応するためである。この方法によって、疾患の進行が認められるときには、想定上は7日間またはそれ以上の持続期間(例えば上記の7日間放出プロファイル)を有する本発明の予備製剤を週2回、3日ごと、2日ごと、または毎日使用して、プロスタサイクリン類似体の高く安定な濃度を得ることができる。
【0180】
本発明のデポー前駆体の別の重要な利点は、それらが安定な均一な相であることである。すなわち、それらを、相分離なしに、室温または冷蔵庫温度でかなりの期間(好ましくは少なくとも6カ月、特に少なくとも12カ月)にわたって貯蔵することができる。有利な貯蔵及び容易な投与を提供することに加えて、選択された容量を注射することによって、プロスタサイクリン類似体の用量を、個々の対象の種類、年齢、性別、体重、及び/または健康状態を参照して選択することができる。
【0181】
したがって、本発明は、個体に固有の投薬量を、特に対象の体重によって選択することを含む方法を提供する。この用量選択の手段は、投与体積の選択である。
【0182】
本発明の予備製剤は、それらの最終的な「直ぐに投与できる」形態での長期貯蔵に対して安定性があるため非常に有利である。結果として、それらは、医療従事者、または患者、もしくは十分に訓練を受けた医療従事者である必要はなく、また複雑な調剤を作製する経験または能力がない場合もある患者の介護者のいずれかによって、投与のために容易に提供され得る。これは、糖尿病などの長期遅効性疾患において特に重要である。
【0183】
PDE5阻害薬
本発明のさらなる一態様では、本発明の前駆製剤は、少なくとも1つのプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似体、例えば、本明細書に記載のものなどを含み、付加的に少なくとも1つのPDE5阻害薬を含んでよい。
【0184】
PDE5阻害薬は典型的には、勃起機能不全(ED)の即時処置のために投与されていて、有利には即効性製剤で提供されている。しかしながら、適切な用量のPDE5阻害薬は、肺動脈高血圧症(PAH)を含むいくつかの臨床的に重要な状態の長期処置で適応とされており、及び/または試験されている。したがって、二重効果処置を得るために、PDE5阻害薬の適切な用量を本発明の製剤のいずれかに添加してよい。
【0185】
適切なPDE5阻害薬には、公知の阻害薬、例えば、アバナフィル、ロデナフィル、ミロデナフィル、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ウデナフィル、ザプリナスト、イカリイン(及びその合成誘導体)、ベンズアミドナフィル、ダサンタフィル、その塩、プロドラッグ及び混合物が含まれる。非常に適したPDE5阻害薬には、タダラフィル(Cialis)及びバルデナフィル(Levitra)が含まれる。
【0186】
週1回投与に適したPDE5阻害薬の用量は典型的には、PDE5阻害薬1~75mg(遊離塩基または非保護薬物分子として計算)、好ましくは1週間当たり2~50mg(すなわち、投与1回当たり)、最も好ましくは1週間当たり5~25mgの範囲であろう。
【0187】
2週に1回投与に適したPDE5阻害薬の用量は典型的には、PDE5阻害薬2~150mg(遊離塩基または非保護薬物分子として計算)、好ましくは2週間当たり5~100mg(すなわち、投与1回当たり)、最も好ましくは2週間当たり10~50mgの範囲であろう。
【0188】
月1回投与に適したPDE5阻害薬の用量は典型的には、PDE5阻害薬5~300mg(遊離塩基または非保護薬物分子として計算)、好ましくは1カ月当たり10~200mg(すなわち、投与1回当たり)、最も好ましくは1カ月当たり20~100mgの範囲であろう。
【0189】
別法では、本発明のデポー前駆体を、少なくとも1つのPDE5阻害薬を含む同等の製剤に付随して投与してよい(すなわち、一方でプロスタサイクリン類似体を含有する予備製剤を投与し、かつ他方でPDE5阻害薬を含有する予備製剤を投与する)。そのような付随投与は、同時でも、いずれかの順序で連続してもよいが、典型的には同日においてであり、デポー前駆製剤は同様の持続期間を有する(例えば、両方とも1カ月用製剤または両方とも1週間用製剤である)。好ましくは付随投与は、同様の制御放出マトリクスを含む前駆製剤の投与であり(例えば、両方とも脂質または両方ともポリマー、例えば本明細書に示す好ましいシステムのいずれか)、最も好ましくは、両方とも脂質製剤であり、かつ同じか、または実質的に同じ脂質成分を含む前駆製剤(任意選択で、同じか、または実質的に同じ溶媒成分を含む)の投与である。最も好ましい成分は、本明細書に記載のようなDAG(例えばGDO)及びリン脂質(例えばPC)を含む。
【0190】
デバイス
またさらなる態様では、本発明は、計測済みの用量の本発明の予備製剤を予め装填した使い捨て投与デバイス(デバイス部品も含む)を提供する。このようなデバイスは典型的には、投与準備が完了している単回用量を含有し、一般的には、組成物が投与時までデバイス内で貯蔵されるように無菌包装されている。適切なデバイスには、カートリッジ、アンプル、及び特に一体型の針または適切な使い捨て用の針を収容するように適合させた標準的な取り付け具(例えば、ルアー)のいずれかを備えたシリンジ及びシリンジバレルが含まれる。同様に適切なデバイスには、ニードルレスインジェクター、プレフィルドシリンジと組み合わせた多回もしくは単回使用自動注入装置、任意選択で多回使用ペン型デバイスと組み合わせたカートリッジ、またはバイアルが含まれる。明らかに、そのようなプレフィルドシリンジ及びカートリッジは、任意の適切な注射用デバイス、例えば多回使用または単回使用注射器またはニードルレス注射ユニットのためのものであってよい。
【0191】
本発明のデバイスは好ましくは、2~50mg/ml、好ましくは5~40mg/ml、最も好ましくは7~35または10~30mg/mlの範囲の投薬量を送達する本発明の予備製剤を含有してよい。投与容量は典型的には、2ml以下(例えば0.1~2ml)、例えば0.25~1.5mlまたは0.5~1mlである。週1回またはそれより頻繁に投与される製剤は好ましくは、1.2mlまたは1.0ml以下の容量であってよく、2週間に1回または月1回投与のための製剤は好ましくは、2mlまたは1.5ml以下の容量であってよい。本発明のすべての態様に適用可能な一実施形態では、本発明のデバイスは、プロスタサイクリン類似体1~200mg、例えば2~150mg(例えば5~120mg)の単回用量を含有してよい。
【0192】
本発明のデバイスは、プロスタサイクリン類似体をほぼ0.005~2.5mg/kg/週で、好ましくは0.01~1mg/kg/週、特に0.015~0.7mg/kg/週のレベルで含有してよい。50kg、70kgまたは80kgの対象、さらには他のすべての対象または様々な対象体重のための用量を対応して計算することができる。例えば、70kgの対象でのプロスタサイクリン類似体の適切な用量は、0.35~175mg/週、好ましくは0.7~70mg/週、特に1~50mg/週の範囲であろう。
【0193】
本発明のデバイスは、2ml以下、好ましくは1ml以下、特に0.5ml以下を投与するための全量を含有してよい。
【0194】
本発明のプレフィルドデバイスはまた、投与キットに適切に組み込まれていてもよく、このキットもまた本発明のさらなる態様を成す。したがって、さらに別の態様では、本発明は、少なくとも1つのプロスタサイクリン類似体の投与用キットを提供し、上記キットは、計測済みの用量の本発明の製剤を含有し、任意選択で投与デバイスまたはその部品を含有する。好ましくは、筋肉内または好ましくは皮下投与に適している用量が、デバイスまたは部品内に保持される。キットは、針、スワブなどの付加的な投与用部品を備えていてもよく、任意選択で、かつ好ましくは投与のための説明書を備えている。このような説明書は典型的には、本明細書に記載の経路による、及び/または本明細書で上に示した疾患を処置するための投与に関するものである。
【0195】
キット
本発明は、本明細書に記載の予備製剤を含む本明細書に示すようなプレフィルド投与デバイス及び本明細書に示すようなキットを提供する。適切なキットは単回または多回使用注射デバイス、例えばオートインジェクターを含んでよいか、またはそのようなデバイスで使用するためのカートリッジまたは部品を含んでよい。
【0196】
本発明のキットは、追加的に(任意選択で、しかし好ましくは)次の部品のいずれかを含む:
i)注射デバイス、例えば、シリンジまたはオートインジェクター
ii)用量計測デバイス(例えば、投与容量を計測または設定するための計量デバイス)
iii)パラメーター、例えば対象の体重及び/または投与頻度に基づき投薬容量を計算及び/または設定するための表、チャート、スマートフォンアプリまたは電子計算機。疾患進行及び/またはプロスタサイクリン類似体濃度などの因子が明確に、または暗にそのような計算において考慮され得る。
iv)対象の体重及び/または投与頻度、疾患進行(例えば平均肺動脈圧)及び/またはプロスタサイクリン類似体濃度などの因子に従って投与する、または投与を漸増させるための説明書。
【0197】
好ましい特徴及び組合せ
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴の組合せでは、本発明の予備製剤は、次の好ましい特徴の1つまたは複数を独立に、または組み合わせで有してよい:
本明細書に示す割合はすべて任意選択で、規定の量の10%まで、任意選択で、かつ好ましくは5%まで変動してよい;
成分a)は、GDOを含むか、本質的にそれからなるか、または好ましくはそれからなる;
成分b)は、大豆PC及び/または「高純度PC」、例えばDOPCを含むか、本質的にそれからなるか、または好ましくはそれからなる;
成分c)は、1、2、3または4炭素アルコール、好ましくはイソプロパノールまたはより好ましくはエタノールを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる;
成分c)は、極性溶媒、例えば水、NMP、DMSO、プロピレングリコール、またはその混合物を含む。
【0198】
予備製剤は、本明細書に示すような低粘度を有する。
【0199】
予備製剤は、in vivo投与すると、本明細書に示すような液晶相を含み形成する。
【0200】
予備製剤は、in vivo投与後にデポーを生成し、そのデポーは、少なくとも3日間、好ましくは少なくとも5日間、より好ましくは少なくとも7日間にわたって少なくとも1つのプロスタサイクリン類似体を放出する。
【0201】
予備製剤は、対象へのin vivo投与後にデポーを生成し、そのデポーは、投与後7日目の終わりでの上記対象におけるプロスタサイクリン類似体の血漿中濃度が、投与後1日目の終わり(すなわち投与後24時間目)での上記対象におけるプロスタサイクリン類似体の血漿中濃度の10-4倍、または10-3倍以上、好ましくは10-2倍以上、より好ましくは10-1倍以上であるように、少なくとも1つのプロスタサイクリン類似体を放出する。
【0202】
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴の組合せでは、本発明の処置方法(複数可)は、次の好ましい特徴の1つまたは複数を独立に、または組み合わせで有してよい:
方法は、上記で示した1つまたは複数の好ましい特徴を有する少なくとも1つの製剤を投与することを含む;
方法は、筋肉内、皮下、または好ましくは深皮下注射によって、本明細書に示すような少なくとも1つの製剤を投与することを含む;
方法は、本明細書に示すようなプレフィルド投与デバイスによる投与を含む;
方法は、20ゲージ以下、好ましくは20ゲージ未満、最も好ましくは23ゲージ以下の針による投与を含む;
方法は、3~10日、好ましくは5~8日ごとに単回投与することを含む。
【0203】
方法は、頻度が週1回以下から3日ごとの投与以上に増え、用量が10または20mg/週以下から30または40mg/週以上に増えるように、疾患(本明細書に示すもの)の進行に伴って用量及び頻度を増やすことを含む。
【0204】
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴の組合せでは、医薬品の製造における本明細書に示す予備製剤の使用(複数可)は、次の好ましい特徴の1つまたは複数を独立に、または組み合わせで有してよい:
使用は、上記で示したような1つまたは複数の好ましい特徴を有する少なくとも1つの製剤の使用を含む;
使用は、筋肉内、皮下、または好ましくは深皮下注射による、本明細書に示すような少なくとも1つの製剤の投与のための医薬品の製造を含む;
使用は、本明細書に示すようなプレフィルド投与デバイスによる投与のための医薬品の製造を含む;
使用は、20ゲージ以下、好ましくは20ゲージ未満、最も好ましくは23ゲージ以下の針による投与のための医薬品の製造を含む;
使用は、毎日、または2、3、7、14、21、28、30、または60日ごとに1回投与するための医薬品の製造を含み、計画的にか、または時折かのいずれかで、わずかに(いずれの適切な場合でも例えば、その±3日、または±20%)変化させてよい。
【0205】
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴の組合せでは、本発明のプレフィルドデバイスは、次の好ましい特徴の1つまたは複数を独立に、または組み合わせで有してよい:
それらは、本明細書に示すような好ましい製剤を含む;
それらは、20ゲージ未満、好ましくは23ゲージ以下の針を備えている;
それらは、2.5~50mg/mlのプロスタサイクリン類似体(遊離酸に基づく)、例えば5~50mg/mL(遊離酸に基づく)の単回用量を含む。
【0206】
それらは、本発明の組成物の均一な混合物を直ぐに注射可能な形態で含む。
【0207】
それらは、プロスタサイクリン類似体と組み合わせて本発明の予備製剤を形成するために、成分a)~c)の製剤を含む。
【0208】
それらは、5ml以下、好ましくは3ml以下、例えば2ml以下、より好ましくは1.5ml以下の全投与容量を含む。
【0209】
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴の組合せでは、本発明のキットは、次の好ましい特徴の1つまたは複数を独立に、または組み合わせで有してよい:
それらは、本明細書に示すような好ましい製剤を含む;
それらは、本明細書に示すようなプレフィルドデバイスを含む;
それらは、20ゲージ未満、好ましくは23ゲージ以下の針を含む;
それらは、プロスタサイクリン類似体(本明細書に記載のとおり)1~100mg、より好ましくは2~75mg、より好ましくは3.5~60mgの単回用量を含む。
【0210】
それらは、本発明の脂質製剤及びプロスタサイクリン類似体をそれぞれ含む少なくとも2つの容器を備えた「2部構成キット」を含む。
【0211】
それらは、5ml以下、好ましくは3ml以下、例えば2ml以下、より好ましくは1.5ml以下の全投与容量を含む。
【0212】
それらは、本明細書に示すような経路及び/または頻度によって投与するための説明書を含む;
それらは、本明細書に記載のような処置方法で使用する投与のための説明書を含む。
【0213】
本明細書で使用する場合、数値また数値範囲に関する「約」、「ほぼ」、「実質的に」または「およそ」という用語は一般に、規定の数値及び範囲が好ましいが、関連する物質、組成物または同様の生成物の特性に実質的な影響を及ぼすことなく、そのような数値をある程度変化させてもよいことを示す。当業者は典型的には、本発明の重要な利点に害を及ぼすことなく、そのような数値を変動させ得る程度を容易に確立することができる。一般的な指針として、そのような数値またはそのような範囲の終端を±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±1%変えてよい。対応する意味は、特定の成分「から本質的になる」組成物に起因し、これは、規定のものに加えて、10%まで、好ましくは5%まで、最も好ましくは1%まで他の成分を含んでよい。化学基、鎖または他の部分が本明細書において、任意選択で置換されていると記載されている場合、そのような置換は、存在しなくてもよいか、またはその部分の1個もしくは複数の原子(典型的には1個または複数の水素及び/または炭素)がハロゲン化物(例えばF、Cl、Br、I)基、酸素をベースとする部分、例えばエーテル、アルコール、エステル、カルボン酸もしくはエポキシド、窒素をベースとする基、例えばアミン、アミド、ニトリルもしくはニトロ基、または硫黄をベースとする基、例えばチオール、ジスルフィド、チオエステルなどの基で置換されていてもよい。文脈が許すならば、ほぼ10までのそのような置換が成されていてよいが、典型的には、独立に選択される置換基での3つ以下の置換、例えば1、2または3つの置換が典型的である。
【0214】
次に、下記の非限定の実施例及び添付の図面を参照して、本発明をさらに説明する。
【0215】
[実施例]
物質
トレプロスチニルナトリウム塩、TPN(Na)、Sanofi製;大豆ホスファチジルコリン、SPC、Lipoid S100、Lipoid製;ジオレイン酸グリセロール、GDO、Cithrol GDO HP-SO-(LK)、Croda製;ジオレオイルホスファチジルコリン、DOPC、NOF製;エタノール、EtOH(99.7%、欧州薬局方)、Solveco製;プロピレングリコール、PG(欧州薬局方)、Fischer製;N-メチルピロリドン、NMP、及びジメチルスルホキシド、DMSO、Sigma-Aldrich製を、届けられたまま使用した。他の薬品はすべて、分析グレードの純度のものであった。
【0216】
予備製剤の調製
適切な量のSPC、GDO及び溶媒を滅菌ガラスバイアル内に秤量することによって、脂質ストック混合物を調製した。次いで、密閉したバイアルを、透明で均一な液体溶液に完全に混合されるまで(<24時間)、室温(RT)でローラーミキサーに入れた。TPN(Na)粉末を、新たなガラスバイアル中の個々の脂質プラセボ製剤に添加した。次いで、バイアルを密閉し、透明で均一な液体溶液(<24時間)に完全に混合されるまで、室温でローラーミキサーに入れた。調製した製剤を、さらなる実験まで室温、暗所で貯蔵した。探索的安定性評価のために、製剤を滅菌2Rガラスバイアル(1バイアル当たり製剤1g)に分配した。バイアルを密閉し、制御環境貯蔵キャビネット内に入れた。事前に決定しておいたサンプリング時点で、製剤の2つのバイアルを各貯蔵キャビネットから取り出し、1時間にわたって室温に置き、UV検出を用いる勾配HPLCを使用して、含有率及び純度について分析した。
【0217】
実施例1:TPN(Na)溶解性及びin vitro放出の評価
TPN(Na)を個々の脂質ストック混合物に添加し、続いて、透明で均一な液体溶液に完全に混合されるまで、ローラーミキサーで室温(RT)で混合することによって、溶解性を評価した。調製中に、サンプルを視覚的に検査した。結果は、TPN(Na)が様々な予備製剤において良好な溶解性を有すること、及び少なくとも7重量%の薬物負荷(TPN(0)約78mg/mL)が適していることを示した。表1に示すとおり、測定された製剤の粘度は、共溶媒の種類、濃度及び組成に応じて185~628mPasの範囲である。
【0218】
【0219】
定量化のために、UV/VIS分光法に基づくストレートフォワードアッセイを使用して、TPN(Na)のin vitro放出試験を行った。この試験では、個々の予備製剤0.03~0.10g(目標は0.1g)を、20Rガラス製注射バイアル内に保持されているPBS(pH7.4)10mLに注入することによって、デポーを調製した。各バイアルに添加される製剤の正確な量を秤量によって決定した。バイアルをゴム栓及びアルミニウムクリンプキャップで密閉し、37℃に保持されたインキュベーター内で振盪させた。放出媒体を、計画されていた時点でサンプリングし、希釈し、石英キュベットに移し、Perkin Elmer Lambda 25、ダブルビームUV-VIS分光光度計で273nmで分析した。
【0220】
in vitro放出測定からの結果を
図1aに示す。結果から、溶媒量及び組成の両方が、トレプロスチニルの当初in vitro放出に影響を及ぼすことが明らかである。共溶媒としてPGを含む製剤は、DMSOを含む製剤よりも遅い初期放出(24h)を示す。また、EtOHを唯一の溶媒として含む製剤を比較すると、溶媒含有率が高いほど、初期放出が速い。
図1bはさらに、in vitroの放出が二相であり、溶媒及び薬物が同時に放出される初期相の後は、モノリシックなデポーマトリクスからの拡散-制御放出機構によって予測されるとおり、放出が時間の平方根と直線的であることを示している。
実施例2:ラットにおけるTPN(Na)を含む予備製剤の投与:製剤及び体重変化
このパイロット研究の主な目的は、ラットに、TPN(Na)を含む予備製剤を単回皮下注射した後の、局所及び全身の両方でのTPNの耐容性を評価することであった(製剤組成を表2に示す)。用量漸増研究として、TPN3、9及び27mg/kgの投与用量で研究を設計した(表3)。
【0221】
【0222】
【0223】
図2は、研究中の平均相対体重変化を示している。製剤B1及びB2の注射部位の紅斑/浮腫について、パイロット研究で次のようにモニターした:
【0224】
【0225】
製剤B1及びB2の投与後の紅斑及び浮腫形成の程度を下記の表4に示す:
【0226】
【0227】
製剤B1及びB2の血管新生/出血について、パイロット研究で、次のようにモニターした:
血管新生のレベルを0~3の範囲によって定義した:
0は血管新生なし。
1は小規模な血管新生。血管の限定的な成長。
2は中規模の血管新生。血管成長の進展。
3は大規模な血管新生。広範な血管成長。
【0228】
出血のレベルを0~3の範囲によって定義した:
0は出血なし。
1は小規模な出血。1つまたは複数のびまん性発赤領域。
2は中規模の出血。少なくとも1つの十分に確定される発赤領域。
3は大規模な出血。いくつかの十分に確定される発赤領域。
【0229】
製剤B1及びB2の投与後の血管新生及び出血の程度を下の表5に示す。
【0230】
【0231】
実施例3:種々の量のTPN(Na)を関数とする完全水和予備製剤のナノ構造に対する作用
下記の製剤L~AAを調製したが、その組成及び測定粘度をそれぞれ表6及び
図3に示す。
【0232】
【0233】
小角X線回折を使用して、表6からの完全水和製剤のナノ構造を評価した。簡単に述べると、製剤約100mgをPBS緩衝液5mLに注入し、SAXD測定の前に、静置したバイアル内で8日間にわたって周囲温度で平衡化させた。合計981×1043ピクセルを含む1M PILATUS 2D検出器(Dectris)を使用した、I911-4ビームラインでMAX IVラボラトリーで行われたシンクロトロンSAXD測定(Max II電子加速器を1.5GeVで操作、Lund University、Sweden)を使用し、TPN(Na)濃度を関数とする完全水和製剤のナノ構造を研究した。特注の鋼製サンプルホルダー内の薄いポリイミドフィルムの間に、サンプルから検出器まで1919.5mmの距離で、サンプルをマウントした。0.91ÅのX線波長及び0.25×0.25mm(半値全幅)のビーム断面で、サンプルの回折図を記録した。コンピューター制御Lauda RE 420Gサーモスタット(Lauda-Brinkmann、LP)を使用して、温度制御を達成した。25、37、及び42℃で、各温度で60秒の曝露時間で、温度ステップ間に10分間の待ち時間を置いて、実験を連続的に行った。得られたCCDイメージを集積し、ESRF(European Synchrotron Radiation Facility、France)が提供するFit2Dソフトウェアを使用して解析した。ベヘン酸銀で校正されたサンプル-検出器距離及び検出器位置を使用した。
【0234】
図5及び
図6は、TPN濃度及び温度を関数として、完全水和脂質/EtOH(90/10重量%)及び脂質/EtOH/PG(85/7.5/7.5)製剤のナノ構造から得られたSAXD結果を示している。
図5のデータは、37~42℃の温度領域では、完全水和した10%EtOHベースの製剤は、TPNが3.1重量%まで逆六方晶系(H2)及び逆ミセル立方晶系(Fd3m)相の混合物を形成することを示している。4.65及び6.2重量%のTPNでは、単一のH2が形成され、これは、さらに高い濃度のTPNでは、無秩序ミセル溶液(L2)に変化し始める。加えて、TPN濃度が上昇するにつれて、Fd3m相での格子定数は変化しないままである一方で、H2相では上昇し始める。4.65重量%のTPN(Na)から始まる格子定数の上昇は、ゲル化実験で観察されるデポーの機械的軟度の上昇に関連している可能性がある。総じて、TNPの濃度の上昇に伴って観察されたFd3m及びH2の混合物から、単一のH2への、及びさらにはH2及びL2相の混合物への変換は、得られたin vitro放出結果と相関しており、放出されるTPNの劇的な増加が6.2及び7.75重量%のTPNで見い出される(
図4)。比較として、
図6は、7.5/7.5重量%のEtOH/PG混合物で調製された完全水和製剤で得られたSAXD結果を示している。この場合、37~42℃の温度領域では、TPNが1.55重量%までのみ、Fd3m及びH2相のはっきりと明白な混合物が形成される。2.33及び6.2重量%のTPNの間でTPN濃度が上昇すると、L2相を含むH2相混合物が観察される。さらに、7.75重量%のTPNでは、ラメラ(Lα)及びL2相の混合物が形成する。加えて、六方晶系相での格子定数が既に3.10重量%のTPN(Na)で増加し始める。これらの結果に基づき、EtOH/PG7.5/7.5を使用して調製された完全水和製剤は、より膨潤した液晶相(特にLα)に変換する前には、それほどTPNを含有することはできず、このことは、持続放出の観点からあまり有利ではないと結論付けることができる。
製剤N、P、Q、R及びSのインビトロ放出プロファイルを測定し、
図4a~bに示す(累積放出%)。
実施例4:TPN(Na)を含有する予備製剤の物理的及び化学的安定性
製剤BB、CC及びDD(表7及び8)の貯蔵安定性を≦-25℃(凍結条件);25℃/60%RH;及び40℃/75%RHの条件下でHPLCによって研究した。探索的安定性試験からの結果は、溶媒として10%EtOHを使用する予備製剤、及びEtOH/PGの混合物を用いる予備製剤の両方において、TPNの良好な物理的、さらには化学的安定性を示している。TPNは、25℃/60%RH及び40℃/75%RHで貯蔵した場合に、少なくとも最高3カ月にわたる良好な安定性を示す(表9)。
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実施例5:ラットにおけるTPN(Na)を含む予備製剤の投与
種々の溶媒組成(表10)を使用して製剤EE~HHを調製し、24匹のラットからなる群に投与し、先行する実施例のスコアリングシステムを使用して紅斑、浮腫、血管新生及び出血についてモニターした。
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実施例6:TPN(Na)を含む予備製剤のラットPKデータ
ラットに投与された実施例7の製剤EE~HHについて、14日間にわたって薬物動態データを収集した。データを
図7に、かつ対応するin vitro放出プロファイルを
図8に図示する。
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実施例7:イヌにおけるTPN(Na)を含む予備製剤の皮下注射
この研究の目的は、最大耐量毒性研究でビーグル犬にTPN(Na)を含む予備製剤(製剤コードJJ、TPN(Na)/GDO/SPC/EtOH/PGの組成は3.38/43.31/43.31/7.50/2.50重量%)を皮下注射した後に、TPNへの曝露を評価することであった。このイヌ研究で使用されたTPN用量(TPNの酸形態として計算)を表15に示す。得られた用量依存性PKプロファイル及び曝露(AUC0~168h)値をそれぞれ
図9及び
図10に示す。
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