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特許7527793リチウムイオン電池用缶蓋、及び該リチウムイオン電池用缶蓋を備えたリチウムイオン電池用缶体
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  • 特許-リチウムイオン電池用缶蓋、及び該リチウムイオン電池用缶蓋を備えたリチウムイオン電池用缶体 図1
  • 特許-リチウムイオン電池用缶蓋、及び該リチウムイオン電池用缶蓋を備えたリチウムイオン電池用缶体 図2
  • 特許-リチウムイオン電池用缶蓋、及び該リチウムイオン電池用缶蓋を備えたリチウムイオン電池用缶体 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用缶蓋、及び該リチウムイオン電池用缶蓋を備えたリチウムイオン電池用缶体
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/174 20210101AFI20240729BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/188 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/191 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20240729BHJP
   H01M 50/197 20210101ALI20240729BHJP
【FI】
H01M50/174
H01M50/184 Z
H01M50/188
H01M50/191
H01M50/193
H01M50/197
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020008834
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021118048
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 雅矢
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐介
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-044303(JP,A)
【文献】特開2009-099527(JP,A)
【文献】特開2020-088137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅電極と蓋本体とを備えた、リチウムイオン電池用缶蓋であって、
前記銅電極は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含む樹脂硬化物によって前記蓋本体に固定されており、前記蓋本体に設けられた、前記銅電極を通すための孔と、前記銅電極との間の間隙は、前記樹脂硬化物により封止されており、
前記銅電極は、表面粗化された表面又は表面上に、3価クロム及び酸素を少なくとも含有する皮膜(但し6価クロム又はビニルアルコールの重合物を含むものを除く)を有する銅材料(但し、銅材料と皮膜との間に亜鉛又はスズを含むめっき層を有するものを除く。)であり、
前記皮膜において、
前記3価クロムの含有量は、5~70質量%であり、
前記酸素の含有量は、2~70質量%であり、かつ、
前記3価クロム及び前記酸素以外の成分の含有量は、50質量%以下であり、
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも一の樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一の樹脂である、
リチウムイオン電池用缶蓋。
【請求項2】
前記樹脂硬化物が、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンスルファイド(PPS)樹脂、及びポリエーテルサルフォン(PES)樹脂からなる群から選択される少なくとも一の樹脂を含む、請求項1に記載のリチウムイオン電池用缶蓋。
【請求項3】
前記樹脂硬化物における樹脂量が20質量%以上である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用缶蓋。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用缶蓋と、リチウムイオン電池用缶胴と、を備えた、リチウムイオン電池用缶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅電極と蓋本体とを備えたリチウムイオン電池用缶蓋に関する。また、該リチウムイオン電池用缶蓋を備えたリチウムイオン電池用缶体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車などに搭載される車載用電池として、特許文献1に記載のものなどが知られている。特許文献1では、金属の電池ケースに支持された電極端子部材は、絶縁部材によって絶縁されるとともに、Оリングなどのシールゴムにより、電池ケース内部の気密性が保たれている。
【0003】
一方で、特許文献2には、アルミニウム電極と非アルミニウム電極により構成されるリチウムイオン電池の蓋であって、アルミニウム部分の表面は20~80nm周期の超微細凹凸、又は直径20~80nmの超微細凹部若しくは超微細凸部で覆われ、蓋に設けられた貫通孔とアルミニウム電極との間隙等は、蓋の表面に射出された特定の樹脂を主成分とする樹脂組成物の成形品により封止されている、リチウムイオン電池の蓋が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-023142号公報
【文献】国際公開第2012/070654号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、Oリングなどのシールゴムによってリチウムイオン二次電池ケース内部の機密性を確保する場合、その機密性が十分に確保できない場合があった。そのため、本発明者らは、非アルミニウム電極として銅電極を用いて、特許文献2に記載されたリチウムイオン電池の蓋を製造して、リチウムイオン電池を製造することを試みた。
【0006】
特許文献2に記載された非アルミニウム電極の引き出し部は、当該非アルミニウム電極に食い込んだアルミニウム合金部材によって覆われており、このアルミニウム合金部材が樹脂組成物の成形品と接合し、蓋に設けられた貫通孔とアルミニウム合金部材との間隙が樹脂組成物の成形品によって封止されている。本発明者らは、より工程を簡略化すべく、銅電極を直接、樹脂成形体と接合することを試みた。その結果、銅電極と樹脂成形体との接合に関しては、リチウムイオン電池に含有される電解液中において、銅電極と樹脂成形体との接着性が維持できないという新たな課題に想到した。本発明は、リチウムイオン電池電解液中での銅電極と樹脂硬化物との接着性を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、銅電極と蓋本体とを備えた、リチウムイオン電池用缶蓋であって、前記銅電極は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含む樹脂硬化物によって前記蓋本体に固定されており、前記蓋本体に設けられた、前記銅電極を通すための孔と、前記銅電極との間の間隙は、前記樹脂硬化物により封止されており、前記銅電極は、表面粗化された表面又は表面上に、3価クロム及び酸素を少なくとも含有する皮膜(但し6価クロム又はビニルアルコールの重合物を含むものを除く)を有する銅材料(但し、銅材料と皮膜との間に亜鉛又はスズを含むめっき層を有するものを除く。)で
ある、リチウムイオン電池用缶蓋、を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下のものを含む。
【0008】
(1)銅電極と蓋本体とを備えた、リチウムイオン電池用缶蓋であって、
前記銅電極は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含む樹脂硬化物によって前記蓋本体に固定されており、前記蓋本体に設けられた、前記銅電極を通すための孔と、前記銅電極との間の間隙は、前記樹脂硬化物により封止されており、
前記銅電極は、表面粗化された表面又は表面上に、3価クロム及び酸素を少なくとも含有する皮膜(但し6価クロム又はビニルアルコールの重合物を含むものを除く)を有する銅材料(但し、銅材料と皮膜との間に亜鉛又はスズを含むめっき層を有するものを除く。)である、リチウムイオン電池用缶蓋。
(2)(1)に記載のリチウムイオン電池用缶蓋と、リチウムイオン電池用缶胴と、を備えた、リチウムイオン電池用缶体。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、電解液中に浸漬された場合であっても、銅電極と樹脂硬化物が十分な接着性を維持する、リチウムイオン電池用缶蓋を提供できる。また、該缶蓋と、リチウムイオン電池缶胴と、を備えたリチウムイオン電池缶体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】リチウムイオン電池用缶蓋の一実施形態を示す、断面模式図である。
図2】実施例1で使用した銅材料表面のSEM画像である(図面代用写真)。
図3】比較例2で使用した銅材料表面のSEM画像である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は、銅電極と蓋本体とを備えた、リチウムイオン電池用缶蓋である。そして、銅電極は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含む樹脂硬化物によって前記蓋本体に固定されており、前記蓋本体に設けられた、前記銅電極を通すための孔と、前記銅電極との間の間隙は、前記樹脂硬化物により封止されている。
更に、前記銅電極は、表面粗化された表面又は表面上に、3価クロム及び酸素を少なくとも含有する皮膜(但し6価クロム又はビニルアルコールの重合物を含むものを除く)を有する銅材料(但し、銅材料と皮膜との間に亜鉛又はスズを含むめっき層を有するものを除く。)である。
【0012】
<缶蓋>
缶蓋は、リチウムイオン電池用缶胴とともに、リチウムイオン電池缶体を構成する。リチウムイオン電池用缶胴を閉塞でき、該缶胴とともにリチウムイオン電池用缶体として使用できるものであれば、缶蓋の形状、構造、材質等は特段限定されない。
典型的にはリチウムイオン電池用缶胴と嵌合する嵌合部を缶蓋の周縁部に有する、アルミニウム又はアルミニウム合金製の板状の缶蓋(蓋本体)が挙げられるが、これに限られない。蓋本体を構成するアルミニウム合金としては、アルミニウムを50質量%以上含有するものが好ましく、例えば、Al-Mg系合金等を挙げることができる。アルミニウム合金におけるアルミニウム以外の合金成分としては、例えば、Si、Fe、Cu、Mn、Cr、Zn、Ti等を挙げることができる。板状の蓋本体には、孔を通してリチウムイオン電池用の電極が2本備えられており、そのうちの一方の電極は銅電極である。他方の電極は、リチウムイオン電池を構成できるものであれば特に限定されないが、例えばアルミニウム電極であり得る。アルミニウム電極は、アルミニウム又はアルミニウム合金製であってよい。アルミニウム電極を構成するアルミニウム合金としては、アルミニウムを50質量%以上含有するものが好ましく、例えば、Al-Mg系合金等を挙げることができる。アルミニウム合金におけるアルミニウム以外の合金成分としては、例えば、Si、Fe
、Cu、Mn、Cr、Zn、Ti等を挙げることができる。
【0013】
銅電極は、樹脂硬化物によって缶蓋の蓋本体に固定され、銅電極と、蓋本体に設けられた前記銅電極を通すための孔との間の間隙は、前記樹脂硬化物により封止される。典型的には、銅電極及び他方の電極が、樹脂硬化物によって缶蓋の蓋本体に固定され、蓋本体に設けられた、銅電極を通すための孔と、銅電極との間の間隙、及び蓋本体に設けられた、他方の電極を通すための孔と、他方の電極との間の間隙は、前記樹脂硬化物により封止される。
【0014】
図1にリチウムイオン電池用缶蓋の一実施形態を示す。
リチウムイオン電池用缶蓋10は、蓋本体を構成するアルミニウム合金部11と、アルミニウム電極13と、銅電極14とを有する。アルミニウム電極13及び銅電極14はそれぞれ、アルミニウム合金部11に設けられた、アルミニウム電極13を通すための孔及び銅電極14を通すための孔を通して配置され、樹脂硬化物12によって蓋本体に固定されている。樹脂硬化物12は、アルミニウム合金部11に設けられた孔と両電極との間の間隙を封止するとともに、金属材料同士を絶縁する。リチウムイオン電池用缶蓋10は、図示しないリチウムイオン電池用缶胴と嵌合することで、リチウムイオン電池用缶体となる。
【0015】
リチウムイオン電池用缶体は、その内部に電解液を含み、その電解液中にアルミニウム電極と銅電極とを含浸させることで、発電する。本実施形態の銅電極14は、表面が粗化された銅材料と樹脂硬化物12とが特定の皮膜を介して接合していることから、銅材料と樹脂硬化物12との接着維持性に優れる。
【0016】
<銅材料>
銅材料は、リチウムイオン電池から電気を取り出す電極となり得る。そのため、電極として許容される限り、その形状は特段限定されない。一例では、円柱状、角柱状、板状、棒状、などであり得る。
また、銅材料は、リチウムイオン二次電池の電極として許容される限り、他の金属を含有してもよく、銅合金であってもよく、純銅であってもよい。銅合金は、銅を50質量%以上含有するものが好ましく、例えば、黄銅等を挙げることができる。銅合金における銅以外の合金成分としては、例えば、Zn、P、Al、Fe、Ni等を挙げることができる。
さらに、銅材料は、リチウムイオン二次電池の電極として許容される限り、銅材料と、後述する特定の皮膜との間に、めっき層を有していてもよい。めっき層は、電気めっき、無電解めっき、置換めっきなどの任意の方法により形成することができる。めっき層は、例えば、銀、金、クロム、ニッケル、コバルトなどの金属を含むことができる。めっき層は、例えば、無電解ニッケル-リンめっきにより形成されるニッケル-リンめっき層である。但し、銅材料と皮膜との間に亜鉛又はスズを含むめっき層を有するものは、本願発明の銅電極から除かれる。
【0017】
銅材料は、その表面が粗面化(表面粗化とも称する。)されている。表面粗化の程度は特に限定されないが、銅材料の表面粗さRaが0.1μm以上であってよく、0.2μm以上であってよい。また表面粗さの上限は特に限定されず、高ければ銅材料と樹脂硬化物との接合力が向上するが、通常Raは0.1mm以下である。
【0018】
銅材料の表面粗化の方法は特段限定されず、やすりやサンドペーパーなどを用いて物理的に表面粗化してもよく、エッチング液などを用いて化学的に表面粗化してもよい。
一例としては、鉄イオンを含む希硝酸水溶液に銅材料を浸漬し、その後強塩基性の過マンガン酸カリウム水溶液により表面を酸化し、更に亜塩素酸ソーダ水溶液に浸漬して更に
表面を酸化する方法が挙げられる。
【0019】
他の例としては、アルカリと酸化剤とを含む処理剤と銅材料とを接触させることで、銅材料表面に微細な凹凸を有する酸化銅を形成し、その後還元剤と銅材料の表面とを接触させて酸化銅を金属銅に還元する方法が挙げられる。この場合の還元剤としては、水素化ホウ素アルカリであることが好ましい。
上記の銅材料の粗面化前に、水洗、脱脂などの表面清浄を行ってもよく、行わなくてもよい。
【0020】
<皮膜>
銅材料の表面又は表面上の皮膜は、3価クロム及び酸素を少なくとも含有する。銅材料の表面又は表面上に、3価クロム及び酸素を含有する皮膜を有することで、銅材料と樹脂硬化物との接着維持性を改善できる。但し、本実施形態では、6価クロム又はビニルアルコールの重合物を含む皮膜は除かれる。
【0021】
皮膜中には、3価クロム及び酸素以外の成分が含まれてもよい。3価クロム及び酸素以外の成分としては水素、炭素、窒素、フッ素、リン、硫黄、銅などが挙げられる。3価クロム及び酸素以外の成分を含む場合、その含有量は50質量%以下であってよく、30質量%以下であってよい。
【0022】
皮膜中の3価クロムの含有量は特に限定されず、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、また70質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。
皮膜中の酸素の含有量は特に限定されず、2質量%以上であってよく、5質量%以上であってよく、また70質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。
【0023】
銅材料の表面又は表面上に皮膜を形成する方法は特に限定されず、3価クロム及び酸素を含有する化成処理剤と、銅材料とを接触させればよく、接触の方法も特に限定されない。3価クロム及び酸素は、通常化成処理剤中でイオンとして存在し、錯イオンなどの形態であってよい。また、上記表面粗化の後、化成処理剤と銅材料とを接触させる前に、銅材料の表面を水洗・乾燥してもよく、銅材料の表面を水洗・乾燥しなくてもよい。
【0024】
皮膜中に3価クロム及び酸素が含まれることは、XPS分析により、3価クロム及び酸素のピークを確認することで確認することができる。また、皮膜中の3価クロム及び酸素の含有量は、蛍光X線分析装置により測定することができる。
【0025】
<樹脂硬化物>
銅材料に、上記皮膜を介して接合される樹脂硬化物は、熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂を含む。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられ、エンジニアリングプラスチックであってもよく、エンジニアリングプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンスルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂などが挙げられる。これらのうち、PBT樹脂、PPS樹脂が樹脂成形体の耐久性の観点、銅材料との接合力の観点から好ましく、PPS樹脂がより好ましい。
【0026】
樹脂硬化物は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂以外の成分、例えばフィラーなどを含んでもよい。フィラーとしては特に限定されず、ガラス繊維、アラミド繊維などの繊維類、炭酸カルシウム、マイカ、シリカなどの粉体フィラーが挙げられる。
樹脂硬化物中の樹脂量は特段限定されず、20質量%以上であってよく、40質量%以
上であってよく、また90質量%以下であってよく、70質量%以下であってよい。
樹脂硬化物中にフィラーが含まれる場合、樹脂硬化物中のフィラーの含有量は特段限定されず、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、また70質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。
【0027】
<リチウムイオン電池用缶蓋の製造方法>
本実施形態のリチウムイオン電池用缶蓋は、表面又は表面上に皮膜を有する銅材料である銅電極が、樹脂硬化物によって蓋本体に固定されたものであればよく、他の電極、典型的にはアルミニウム電極が、さらに蓋本体に樹脂硬化物を介して固定される。本実施形態のリチウムイオン電池用缶蓋の製造方法は特段限定されないが、典型的には射出成形により製造できる。
射出成形により製造する方法は、射出成形用金型に、表面粗化された表面又は表面上に、3価クロム及び酸素を少なくとも含有する皮膜を有する銅材料である銅電極及び蓋本体(及び必要に応じてもう1つの電極)を挿入し、次いで、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を金型に流し込み、射出成形することで、電極と蓋本体と、樹脂硬化物との接合体である缶蓋を得ることができる。またこれにより、樹脂組成物が、蓋本体に設けられた電極を通すための孔と、電極との間に形成される間隙を封止するとともに、金属材料同士を絶縁する。射出成形の条件は、成形する樹脂の種類に応じて、適宜設定することができる。
【0028】
銅材料と樹脂硬化物との間には、接着剤層を有してもよいし、有していなくてもよい。接着剤層としては、エポキシ樹脂を主成分とする接着剤、アクリル樹脂を主成分とする接着剤、ウレタン樹脂を主成分とする接着剤などが挙げられる。
【0029】
<缶蓋と、缶胴とを有するリチウムイオン電池缶体>
本発明の別の実施形態は、上記銅電極と蓋本体とを備えたリチウムイオン電池用缶蓋と、リチウムイオン電池用缶胴とを有するリチウムイオン電池缶体である。
リチウムイオン電池の構造は特に限定されるものではなく、典型的には、一方の取出し電極には正極活物質が、他方の取出し電極には負極活物質が堆積され、これらが電解液中に浸漬されており、対となる電極間にはセパレータが備えられる。
【実施例
【0030】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により、その範囲が限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
銅材料として幅20mm×長さ45mm×厚み1.5mmのJIS H 3100で規定されたC1020P材を用い、以下に示す表面清浄処理、表面粗化処理、化成処理をこの順に実施した。
【0032】
(表面清浄処理)
アルカリ脱脂液(日本パーカライジング(株)製FC-E6400、20g/L含有、液温60℃)中に、銅材料を3分間浸漬し、その後水洗した。その後、銅材料を酸洗液(10質量%硫酸含有、液温25℃)中に1分間浸漬し、その後水洗・乾燥する事により、銅材料の表面清浄を実施した。
【0033】
(表面粗化処理)
銅材料の表面粗化は、表面粗化処理剤(水酸化ナトリウム100g/L含有、亜塩素酸ナトリウム80g/L含有、液温90℃)を用いた。表面清浄処理後の銅材料を、表面粗化処理剤中に2分間浸漬し、その後、水洗・乾燥した。その後、10g/Lのジメチルア
ミンボラン含有水溶液(液温40℃)に銅材料を5分間浸漬し、その後水洗・乾燥する事により、銅材料の表面粗化処理を実施した。
【0034】
(化成処理)
表面粗化した銅材料を、化成処理液(3価クロム化合物を3価クロム換算として0.25g/L含有、過酸化水素1.5g/L含有、液温40℃、pH=4.0)中に5分間浸漬し、その後、水洗した。その後、熱風循環式乾燥炉内で100℃、5分間加熱する事で、皮膜を有する銅材料を作製した。
【0035】
表面処理後の、銅材料表面のSEM観察結果を図2に示す。また、XPS分析により皮膜の分析を実施したところ、577eVにCr2p領域の3価クロムに帰属されるピーク、531eVにO1s領域に帰属されるピークが確認される事から、皮膜には、3価クロム及び酸素が含有される事を確認した。また蛍光X線分析装置により銅材料表面の3価クロム付着量を測定したところ、56mg/mであった。
【0036】
<比較例1>
表面粗化、化成処理を実施しなかった以外は実施例1と同様に、銅材料を作製した。
【0037】
<比較例2>
表面粗化を実施しなかった以外は実施例1と同様に、銅材料を作製した。表面処理後の、銅材料表面のSEM観察結果を図3に示す。また、XPS分析により皮膜の分析を実施したところ、Cr2p領域において577eVに3価クロムに帰属されるピーク、O1s領域において531eVにピークが確認される事から、皮膜には、3価クロム及び酸素が含有される事を確認した。また蛍光X線分析装置により銅材料表面の3価クロム付着量を測定したところ、16mg/mであった。
【0038】
<比較例3>
化成処理を実施しなかった以外は実施例1と同様に、銅材料を作製した。
【0039】
(銅材料-樹脂接合体の作製)
上記実施例1、及び比較例1~3の銅材料を、それぞれ金型に配置し、ガラスファイバーを30質量%含むポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)を流し込み、銅材料-樹脂接合体を射出成形した。射出成形には東洋機械金属株式会社製電動サーボ射出成形機(Si-50III)を用いた。射出成形条件は、プレヒート125℃ 、成形温度320℃、金型温度135℃、射出速度30mm/秒、射出圧力1000kgf、保圧1200kgf、冷却時間15秒とした。成形された接合体におけるPPS樹脂の寸法は、幅10mm×長さ45mm×厚み3mmであった。また、基材とPPS樹脂の接合面積は10mm×5mmであった。
【0040】
<銅材料-樹脂接合体の接着性評価>
得られた銅材料-樹脂接合体について、初期接着性及び耐電解液接着維持性の評価を行った。
【0041】
(初期接着性)
得られた実施例1及び比較例1~3の銅材料-樹脂接合体について、ISO19095-3に基づく引張せん断試験方法により初期接着性を評価した。引張せん断試験は、株式会社島津製作所製オートグラフ精密万能試験機(AG-100kNX)を使用した。初期接着性評価は、室温25℃、引張速度10mm/分の条件にて行い、引張せん断試験後の銅材料と樹脂硬化物との間の接合部の接合形態を目視で調べた。評価基準は以下のとおりであり、3点の場合に、銅材料と樹脂硬化物との接合強度が優れているとした。
<評価基準>
3点;試験後の銅材料表面に残存する樹脂硬化物の面積率が、試験前の樹脂硬化物と銅材料との接合面積に対して70%以上である場合
2点:試験後の銅材料表面に残存する樹脂硬化物の面積率が、試験前の樹脂硬化物と銅材料との接合面積に対して10%以上70%未満である場合
1点:試験後の銅材料表面に残存する樹脂硬化物の面積率が、試験前の樹脂硬化物と銅材料との接合面積に対して10%未満である場合
【0042】
(耐電解液接着維持性)
得られた実施例1及び比較例1~3の銅材料-樹脂接合体を、キシダ化学株式会社製の電解液(商品名:LBG-00015、電解質:1M-LiPF、溶媒:EC/DMC/DEC=1/1/1(容量%))中に浸漬させ、60℃の恒温槽中に7日間維持した。その後、水洗、乾燥後、上記初期接着性の試験と同様に、ISO19095-3に基づく引張せん断試験方法により耐電解液接着維持性を評価した。評価基準は以下のとおりであり、3点の場合に、銅材料と樹脂硬化物との接合強度が優れているとした。
<評価基準>
3点;試験後の銅材料表面に残存する樹脂硬化物の面積率が、試験前の樹脂硬化物と銅材料との接合面積に対して70%以上である場合
2点:試験後の銅材料表面に残存する樹脂硬化物の面積率が、試験前の樹脂硬化物と銅材料との接合面積に対して10%以上70%未満である場合
1点:試験後の銅材料表面に残存する樹脂硬化物の面積率が、試験前の樹脂硬化物と銅材料との接合面積に対して10%未満である場合
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、実施例1の銅材料-樹脂接合体は、初期接着性、耐電解液接着維持性の何れも優れている事が確認された。
【符号の説明】
【0045】
10 リチウムイオン電池用缶蓋
11 アルミニウム合金部
12 樹脂硬化物
13 アルミニウム電極
14 銅電極
図1
図2
図3