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特許7527799攪拌機を備えた熱処理装置およびその熱処理装置を備えた熱処理設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】攪拌機を備えた熱処理装置およびその熱処理装置を備えた熱処理設備
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/18 20060101AFI20240729BHJP
   B01F 27/00 20220101ALI20240729BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20240729BHJP
   G01P 3/481 20060101ALI20240729BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20240729BHJP
   C21D 1/64 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
C21D1/18 U
B01F27/00
C21D1/74 X
G01P3/481 Z
C21D1/06 A
C21D1/64
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020018540
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021123757
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】306039120
【氏名又は名称】DOWAサーモテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】永石 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】大塚 真弥
(72)【発明者】
【氏名】池山 正芳
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-173262(JP,A)
【文献】特開2019-019380(JP,A)
【文献】特開2010-111893(JP,A)
【文献】実開平04-081640(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/18
C21D 1/62-1/64
C21D 1/06
C21D 1/74
B01F 27/00-27/96
B01F 23/43
B01F 35/212-35/222
G01P 3/481
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの熱処理が行われる処理室と、
前記処理室の内方に位置する攪拌翼と、前記攪拌翼に接続されたシャフト部とを有する攪拌機と、
前記攪拌機の回転に連動して該攪拌機の回転数と同一の回転数で回転するように該攪拌機に設けられたM個(M:2以上の整数)の被検知部と、
前記被検知部の回転軌跡の近傍に配置された近接センサと、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記近接センサから入力された入力信号をパルス信号化する入力部と、
前記入力信号のパルス数をカウントするL個(L:2以上の整数)のカウンタと、(60/M)秒を周期的に計測するタイマとを備えた記憶部と、
前記攪拌機の回転数の計測値である計測回転数を出力する出力部と、を有し、
各カウンタは、カウント値が積算される周期であるカウント周期の開始時間が {60/(M×L)}秒ずつ異なるように設定され、
前記タイマの値が所定の秒数に到達したときに、複数の前記カウンタのうち、あらかじめ設定された、前記タイマの値に対応する一の前記カウンタのカウント値を読み出し、読み出された前記カウント値を前記計測回転数として出力するように構成されている、熱処理装置。
【請求項2】
前記カウンタが(60/M)個設けられている、請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記攪拌機の回転数の設定値である設定回転数と前記計測回転数の誤差が所定の閾値内にあるか否かの判定を行い、前記誤差が所定の閾値を超える場合には、警告信号を出力する、請求項1または2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記処理室は、油槽である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱処理装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱処理装置を備えた、ワークの熱処理が行われる熱処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌機を備えた熱処理装置およびその熱処理装置を備えた熱処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理設備の一例である浸炭処理設備においては、ワーク表面に炭素を浸入させる熱処理である浸炭処理が行われる浸炭装置や、浸炭後の熱処理である焼入れ処理が行われる焼入れ装置等の熱処理装置を備えている。浸炭装置には、ワークが、より均一な条件で熱処理されるように例えば処理室内の雰囲気を攪拌するための撹拌機が設けられる。また、焼入れ装置には、ワークが、より均一な条件で熱処理されるように例えば油槽内の油を攪拌するための撹拌機が設けられる。このような攪拌機を備える熱処理装置として、特許文献1には焼入れ油を攪拌する高速攪拌機構を備えた焼入れ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-207239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
攪拌機の回転数は要求される製品品質に応じて適宜設定されるが、攪拌力が不足する場合には、ワークに当たるガスや油などの流速が不均一になりやすい。この場合、例えば浸炭深さや窒化深さ、硬度等が、要求される製品仕様を満たさなかったり、同時に処理される1ロット内のワーク同士で、ばらついたりすることがある。したがって、所望の仕様の製品を得る観点において、より理想的な条件で熱処理を行うためには、攪拌機の実際の回転数が、設定値(以下、“設定回転数”)の通りに回転していることが好ましい。このため、攪拌機の回転数を計測し、計測された回転数(以下、“計測回転数”)が、設定回転数に対する誤差として許容できる範囲内にあるか否か確認することが好ましい。しかしながら、タコメータのような高精度な計測機器を使用すると、コストの増加を招くことに加え、タコメータを制御するための配線によって制御盤が複雑化または大型化する。
【0005】
また、実操業においては、ワークが処理室に搬入される際に、稼働中の攪拌機の設定回転数が変更され、攪拌機の実際の回転数が設定回転数に到達したことが確認された後にワークが搬入されることがある。攪拌機の実際の回転数の変動に伴い、計測回転数も変動することになるが、この際に計測精度が悪いことによって計測回転数として出力された値が実際の回転数を反映していない場合には、処理室内の攪拌力が想定通り発揮されているか不明なため、ワークを処理室に搬入することができない。加えて、攪拌機の実際の回転数が、設定回転数の誤差として許容できる範囲内にあったとしても、計測精度が悪いことにより計測回転数が設定回転数の誤差として許容できない数値を示した場合には、本来は正常処理品として扱われるはずの製品が、異常処理品として扱われ、生産性が低下することになる。このため、攪拌機の実際の回転数をより短時間で精度良く計測することが求められる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、攪拌機を備えた熱処理装置において、タコメータを使用せずにより短時間で精度良く攪拌機の回転数を計測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の一態様は、熱処理装置であって、ワークの熱処理が行われる処理室と、前記処理室の内方に位置する攪拌翼と、前記攪拌翼に接続されたシャフト部とを有する攪拌機と、前記攪拌機の回転に連動して該攪拌機の回転数と同一の回転数で回転するように該攪拌機に設けられたM個(M:2以上の整数)の被検知部と、前記被検知部の回転軌跡の近傍に配置された近接センサと、制御部と、を備え、前記制御部は、前記近接センサから入力された入力信号をパルス信号化する入力部と、前記入力信号のパルス数をカウントするL個(L:2以上の整数)のカウンタと、(60/M)秒を周期的に計測するタイマとを備えた記憶部と、前記攪拌機の回転数の計測値である計測回転数を出力する出力部と、を有し、各カウンタは、カウント値が積算される周期であるカウント周期の開始時間が{60/(M×L)}秒ずつ異なるように設定され、前記タイマの値が所定の秒数に到達したときに、複数の前記カウンタのうち、あらかじめ設定された、前記タイマの値に対応する一の前記カウンタのカウント値を読み出し、読み出された前記カウント値を前記計測回転数として出力するように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
攪拌機を備えた熱処理装置において、タコメータを使用せずにより短時間で精度良く攪拌機の回転数を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る熱処理装置の概略構成を示す図である。
図2】近接センサと攪拌機の被検知部の位置関係を示す、攪拌機のシャフト部を上から見た図である。
図3】制御システムの概略構成を示す図である。
図4】回転数計測時における制御部の動作を示すフローチャートである。
図5】タイマの値と、カウント値の読出対象となるカウンタの対応関係を示す図である。
図6】別の実施形態に係る制御部の動作を示すフローチャートである。
図7】比較例1の回転数計測方法を示す図である。
図8】比較例2の回転数計測方法を示す図である。
図9】比較例3の回転数計測方法を示す図である。
図10】実施例1の回転数計測方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
<熱処理装置の構成>
図1は本実施形態の熱処理装置1の概略構成を示す図である。熱処理装置1は、ワークの熱処理が行われる処理室2と、攪拌機10を備えている。攪拌機10は、処理室2の内方に位置する攪拌翼11と、攪拌翼11に接続されたシャフト部12と、シャフト部12を回転させるモータ13を有している。なお、本明細書においては、攪拌翼11の回転(換言すると、シャフト部12の回転)のことを“攪拌機の回転”と称しており、攪拌機10の回転数とは厳密には攪拌翼11の回転数(換言すると、シャフト部12の回転数)のことを指している。
【0012】
本実施形態の熱処理装置1は、熱処理の一例である油焼入れ処理を行う油焼入れ装置である。すなわち、本実施形態の処理室2は、内部に焼入れ用の油が貯留した油槽であり、攪拌機10は、処理室2内に貯留した焼入れ油を攪拌する。熱処理装置1は、油焼入れ装置に限定されず、例えばワークの加熱が行われる処理室2としての加熱室を備えた加熱装置や、ワークの浸炭が行われる処理室2としての浸炭室を備えた浸炭装置、ワークの窒化が行われる処理室2としての窒化室を備えた窒化室を備えた窒化装置等であってもよい。熱処理装置1が、ガス雰囲気下で熱処理を行う装置である場合、攪拌機10は処理室2内の雰囲気を攪拌する攪拌機である。なお、熱処理装置は、1つの設備を構成する装置として複数設けられていてもよく、熱処理設備が、例えば浸炭に係る一連の熱処理が行われる浸炭処理設備である場合は、加熱装置、浸炭装置、油焼入れ装置等の複数の熱処理装置が配置される。
【0013】
図1および図2に示されるように、シャフト部12の、処理室2の外側に位置する部分には、シャフト部12から外方に向かって延びた部材3が取り付けられている。本明細書においては当該部材を“被検知部3”と称す。本実施形態の被検知部3は、水平方向、かつ、シャフト部12の回転中心からシャフト部12の半径方向に沿って延びた柱状部材である。このように被検知部3が設けられていることによって、被検知部3は、攪拌機10が回転した際に攪拌機10の回転に連動して攪拌機10の回転数と同一の回転数で回転する。本実施形態の被検知部3は、2個設けられており、互いの被検知部3のなす角は180°となっている。なお、被検知部3の個数は複数であれば特に限定されない。被検知部3の個数が多いほど、攪拌機10の設定回転数の変更後から計測回転数として信頼できる数値が得られるまでの時間を短くすることができるが、被検知部3の個数が多い場合には、被検知部3の検知漏れを防ぐために、各部品の製作精度を高める等の対応が必要となり、コストが増加する。したがって、設定回転数の変更後から計測回転数として信頼できる数値が得られるまでの時間、被検知部3の検知精度、およびコストのバランスをとる観点からは、被検知部3の個数は2~4個であることが好ましい。
【0014】
また、被検知部3の形状は特に限定されない。さらに、被検知部3は、シャフト部12と別体の部材であってもよいし、一体成形のように当初からシャフト部12と一体となっていてもよい。また、被検知部3は、シャフト部12に設けられることに限定されず、例えば攪拌翼11に設けられていてもよい。いずれの場合であっても、被検知部3が攪拌機10の回転に連動して攪拌機10の回転数と同一の回転数で回転するように攪拌機10に設けられていれば、後述の回転数の計測を実施することが可能である。なお、複数の被検知部3は、攪拌機10の回転方向に沿って等間隔で設けられていることが好ましい。例えば被検知部3が4個の場合は、隣り合う被検知部3のなす角は90°であることが好ましい。複数の被検知部3が回転方向に沿って等間隔で設けられることによって、回転数の計測精度を高めることができる。
【0015】
本実施形態の熱処理装置1には、例えばシャフト部12の、処理室2の外側に位置する部分を囲うようにケーシング4が設けられており、ケーシング4の壁部には、近接センサ5が固定されている。近接センサ5の固定方法は特に限定されない。本実施形態の近接センサ5は、被検知部3の高さと同等の高さ、かつ、被検知部3の先端近傍に配置されている。被検知部3と近接センサ5の位置関係は本実施形態で説明したものに限定されず、近接センサ5は、被検知部3の回転軌跡Rの近傍に配置されていればよい。ここでいう“近傍”とは、回転する被検知部3が近接センサ5の前を通過する際に近接センサ5が反応する程度に近い領域のことをいう。
【0016】
熱処理装置1は、近接センサ5から入力された情報に基づいて攪拌機10の計測回転数(回転数の計測値)を出力する制御部20を備えている。本実施形態においては、制御部20の一例としてPLC(プログラマブルロジックコントローラ)が用いられている。図3に示されるように、制御部20は、近接センサ5から入力された入力信号をパルス信号化する入力部21と、所定のプログラムが格納された記憶部22と、攪拌機10の計測回転数の情報を含む信号を出力する出力部23と、入力部21から入力された信号の処理や、記憶部22に格納されたプログラムの読み出し、記憶部22への記憶領域への情報の書き込み、出力部23への信号の送信処理等を行う演算部24と、を備えている。
【0017】
記憶部22に格納されたプログラム上には、近接センサ5から入力された入力信号、すなわち近接センサ5のON信号のパルス数をカウントする複数のカウンタと、0秒から所定の時間までを繰り返し計測するタイマが設けられている。
【0018】
カウンタの個数L(L:2以上の整数)は、稼働中の攪拌機10の設定回転数が変更された際に、実際の回転数が反映された計測回転数として信頼できる数値が得られるまでの時間の長さに寄与する。例えばカウンタの個数が多いほど、攪拌機10の設定回転数の変更後から計測回転数として信頼できる数値が得られるまでの時間を短くすることができる。したがって、カウンタの個数Lは、稼働中の攪拌機10の設定回転数の変更時において、計測回転数として信頼できる数値を得るための時間として生産性の観点から許容される時間に応じて適宜変更される。カウンタは、例えば被検知部3がM個(M:2以上の整数)設けられるとすると、(60/M)個設けられる。本実施形態においては被検知部3が2個設けられており、30個のカウンタ1~30が設けられている。
【0019】
タイマが繰り返し計測する時間の上限値は、被検知部3の個数Mに応じて変更され、タイマは、(60/M)秒を周期的に計測可能なように設けられる。タイマの値は、1周期ごとにリセットされる。本実施形態の場合、被検知部3が2個設けられているため、タイマの1周期あたりの計測時間は0~30秒である。
【0020】
各カウンタのカウント値は、入力部21からの入力信号のパルス数に対応しており、入力信号のパルス数が入力される度に各カウンタのカウント値が“1”ずつ増えていく。例えば、パルス信号化された入力信号が100回入力された場合、カウント値は“100”となる。
【0021】
各カウンタは、タイマの1周期あたりの計測時間と同じ長さの時間分のカウント値が積算されるように設定されている。各カウンタのカウント値は周期的にリセットされるが、カウント値が積算される周期(以下、“カウント周期”)の開始時間は、各カウンタでΔt秒ずつ異なるように設定されている。Δtは、被検知部3の個数Mと、カウンタの個数Lから{60/(M×L)}の式に基づいて算出される。本実施形態においては、被検知部3が2個(M=2)設けられ、カウンタが30個(L=30)設けられているため、カウント周期の開始時間のずれ量を示すΔtは“1”である。このため、例えばカウンタ1では、タイマの1周期目の0~30秒の間の入力信号のパルス数が積算され、カウンタ2では、タイマの1周期目の1~30秒の間および2周期目の0~1秒の間の入力信号のパルス数が積算され、カウンタ3では、タイマの1周期目の2~30秒の間および2周期目の0~2秒の間の入力信号のパルス数が積算される。
【0022】
熱処理装置1は、さらに本実施形態のように表示部6を備えていてもよい。表示部6は、例えば熱処理装置1の操作盤や熱処理装置1から離れた位置に設置されたディスプレイである。表示部6には、制御部20から出力された攪拌機10の計測回転数が表示される。また、表示部6と共に、または表示部6に代えて、制御部20から出力された攪拌機10の計測回転数に基づき、例えば攪拌機10の設定回転数と計測回転数の誤差が所定の閾値内にあるか否かを通知するランプ(不図示)や、音を発生させる音響発生部(不図示)等が設けられていてもよい。
【0023】
本実施形態の熱処理装置1は以上のように構成されている。
【0024】
<回転数の計測方法>
次に、本実施形態における攪拌機10の回転数の計測方法について説明する。図4は、回転数計測時における制御部20の動作を示すフローチャートである。
【0025】
まず、ステップS100として、近接センサ5からの入力信号があるか否かの判定が行われる。ステップS100において、入力信号がないと判定された場合には、ステップS100が再度実施される。一方、ステップS100において、入力信号があると判定された場合には、ステップS101に進む。次に、ステップS101として、各カウンタ(本実施形態の場合はカウンタ1~30)において、入力部21においてパルス信号化された入力信号のパルス数がカウントされ、各カウンタのカウント値にそれぞれ1が加えられる。
【0026】
その後、ステップS102において、タイマの値がn秒に到達したか否かの判定が行われる。ステップS102において、タイマの値がn秒に到達していないと判定された場合にはステップS100に戻る。このように、ステップS102において、タイマの値がn秒に到達したと判定されない限りは、ステップS100~S102が繰り返し実施され、各カウンタのカウント値が積算されていく。一方、ステップS102において、タイマの値がn秒に到達したと判定された場合には、ステップS103に進む。なお、ステップS102における“n秒”は、各カウンタのカウント周期の開始時間のずれ量を示すΔt秒に応じて変動する秒数である。n秒の初期値は、Δt秒である。前述の通り、Δtは、被検知部3の個数Mと、カウンタの個数Lに基づいて{60/(M×L)}の式で算出され、本実施形態におけるΔt秒は1秒である。したがって、本実施形態の場合は、n秒の初期値が1秒となる。
【0027】
ステップS103においては、カウンタN(N:整数)のカウント値が読み出される。本実施形態の各カウンタは、図3のようにナンバリングされており、ステップS103におけるカウンタNとは、複数のカウンタのうちの一のカウンタを指している。タイマの値と、カウント値の読出対象となるカウンタNとの対応関係は、あらかじめ設定されており、ステップS103においてカウント値が読み出されるカウンタNは、タイマの値に応じて一つに特定される。本実施形態においては、タイマの値とカウンタNとの対応関係が図5のような関係となるようにあらかじめ設定されている。例えばステップS102においてn=1であった場合には、ステップS103においては、カウンタ1のカウント値が読み出される。また、例えばステップS102においてn=30であった場合には、ステップS103においては、カウンタ30のカウント値が読み出される。N”の初期値は“1”であるため、最初のステップS103においては、カウンタ1のカウント値が読み出される。
【0028】
ステップS103において読み出されたカウント値は、タイマが計測する1周期の時間(本実施形態では30秒)と同じ長さの時間内にカウントされたON信号のパルス数である。このカウント値は、攪拌機10の計測回転数[rpm]に等しい。例えば本実施形態のように被検知部3が2個設けられた場合において、攪拌機10の回転数が60rpmで一定であったと仮定すると、第1の被検知部3a(図2)は30秒間で約30回、近接センサ5の前を通過する。すなわち、第1の被検知部3aが検知されることで入力されるON信号のパルス数は約30となる。同様に、第2の被検知部3b(図2)も30秒間で約30回、近接センサ5の前を通過することになり、第2の被検知部3bが検知されることで入力されるON信号のパルス数は約30となる。このため、第1の被検知部3aと第2の被検知部3bの両方が検知されることで入力されるON信号のパルス数は約60となり、1つのカウンタあたりのカウント値は約60となる。この数値は、上記の60rpmと等しくなる。つまり、1つのカウンタで30秒間積算されたカウント値は、そのまま攪拌機10の計測回転数として利用することができる。本実施形態の場合、“n”の初期値が“1”であるため、ステップS103においては、タイマの値が1秒に到達した際に、カウンタ1のカウント値が読み出される。本実施形態の場合、ここで読み出されるカウント値は、タイマの値が0~1秒の間に入力されたON信号のパルス数と、タイマの値が直前の周期の2~30秒の間に入力されたON信号のパルス数の合計値であり、カウンタ1のカウント値から得られた攪拌機10の回転数である。
【0029】
ステップS103で読み出されたカウント値は、ステップS104において、出力部23を介して表示部6に出力される。表示部6においては、読み出されたカウント値が攪拌機10の計測回転数として表示される。
【0030】
ステップS103においてカウント値が読み出されたカウンタNは、その後、ステップS105において、演算部24からリセット信号が送られることにより、カウント値がリセットされる。
【0031】
次に、ステップS106として、攪拌機10の回転数の計測を終了するか否かの判定が行われる。ステップS106において、例えば攪拌機10の運転停止信号が制御部20に入力されている場合には、制御部20による回転数計測が終了する。一方、ステップS106において、回転数の計測を継続して実施する場合には、ステップS107に進む。
【0032】
ステップS107では、現在までの“N”の値が上限値であるか否かの判定が行われる。“N”の上限値は、カウンタの個数Lに等しく、本実施形態の場合は、カウンタが30個設けられているため、“N”の上限値は“30”である。
【0033】
ステップS107において、“N”の値が上限値でない場合には、ステップS108に進む。ステップS108では、現在までの“n”の値に、カウント周期の開始時間のずれ量であるΔtが加えられる。本実施形態の場合、“n”の初期値が“1”であり、Δtも“1”であるため、最初のステップS108においては、“n”の値が“2”となる。また、ステップS108においては、現在までの“N”の値に“1”が加えられる。“N”の初期値は“1”であるため、最初のステップS108においては“N”の値が“2”となる。
【0034】
ステップS108の終了後、再度ステップS100~S104が実施される。再度実施されるステップS102においては、“n”の値が“2”となっているため、タイマの値が2秒に到達するまでの間、ステップS100~S101が繰り返し実施される。その後、ステップS103において、カウンタ2のカウント値が読み出される。ここで読み出されるカウント値は、タイマの値が0~2秒の間に入力されたON信号のパルス数と、タイマの値が直前の周期の3~30秒の間に入力されたON信号のパルス数の合計値であり、カウンタ2のカウント値から得られた攪拌機10の回転数である。カウンタ2のカウント値は、ステップS104で表示部に出力され、カウンタ1から得られた計測回転数が、カウンタ2から得られた計測回転数に更新される。
【0035】
以上のように、ステップS107において“N”の値が上限値となるまでの間は、ステップS100~S108が繰り返し実施される。これにより、各カウンタのカウント値が順番に読み出され、回転数の計測結果が更新されていく。
【0036】
一方、ステップS107において“N”の値が上限値であった場合には、ステップS109に進む。ステップS109においては、“n”の値が初期値、すなわちΔtに戻される。本実施形態の場合、Δtは“1”であるため、“n”の値は“1”となる。また、ステップS109においては、“N”の値が“1”に戻される。その後、ステップS106において、回転数の計測を終了すると判定されるまでの間、ステップS100~S108が繰り返し実施される。これにより、各カウンタのカウント値が順番に読み出され、回転数の計測結果が更新されていく。その結果、オペレータは、攪拌機10の最新の計測回転数を確認することができる。
【0037】
ところで、カウンタのカウント周期内の途中で、攪拌機10の設定回転数が新たな値に変更されたような場合においては、ステップS104で読み出されたカウント値は、設定回転数変更前の入力信号のパルス数と、設定回転数変更後の、実際の回転数が変動している最中の入力信号のパルス数との合計値となる。このため、カウント周期内の途中で攪拌機10の設定回転数が変更された場合のカウンタNから読み出されるカウント値は、攪拌機10の実際の回転数との誤差が大きい可能性があり、攪拌機10の計測回転数の値として信頼することができない。後述の実施例で示されるように、例えばカウンタが1つしか設けられていないような場合、実際の回転数が反映された計測回転数として信頼できる数値が得られるまでに多大な時間を要する。
【0038】
一方で、本実施形態のように、カウント周期の開始時間がΔt秒ずつずれた複数のカウンタを設け、かつ、タイマの値が所定の秒数に到達した際にあらかじめ設定された一のカウンタのカウント値を読み出す制御を実施すれば、回転数の計測時に各カウンタのカウント値をΔt秒ごとに順番に読み出すことが可能となる。後述の実施例で示されるように、そのような回転数の計測方法によれば、攪拌機10の設定回転数が変更された際に、従前の方法よりも短い時間で計測回転数としての信頼できる数値を得ることが可能となる。
【0039】
なお、図4のフローチャートは一例であり、本実施形態と同等の制御を行うことが可能であれば、適宜変更が加えられてもよい。例えばステップS104とステップS105の順番は入れ替えられていてもよい。
【0040】
また、制御部20は、例えば図6のフローチャートに沿って動作するように構成されていてもよい。図6のステップS200~S205は、図4のステップS100~S105と同一の内容であり、図6のステップS208~S211は、図4のステップS106~S109と同一の内容である。したがって、図6のフローチャートにおいては、図4のフローチャートに対してステップS206とステップS207が追加されている。
【0041】
ステップS206においては、設定回転数と計測回転数の誤差が所定の閾値内にあるか否かの判定が行われる。ステップS206において、設定回転数と計測回転数の誤差が所定の閾値内にある場合には特段の処理はなされない。一方で、ステップS206において、設定回転数と計測回転数の誤差が所定の閾値を超えている場合には、ステップS207として、誤差が所定の閾値を超えていることを示す警告信号が出力される。ここで出力される警告信号は、出力部23を介して例えば表示部6やランプ、音響発生部等に送信され、オペレータに異常が発生していることが通知される。また、ここで出力された警告信号を利用し、例えば警告信号が出力された段階で熱処理されていたワークを異常品として処理室2から搬出することにしてもよい。ステップS206における所定の閾値は、要求される品質レベルに応じて適宜変更されるが、例えば±5rpmである。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例
【0043】
被検知部の個数、カウンタの個数およびカウント周期の設定が異なる熱処理装置において、攪拌機の設定回転数を200rpmから600rpmに変更した場合における攪拌機の回転数の計測試験を実施した。なお、本計測試験で用いられた攪拌機は、実際の回転数が200rpmから600rpmに上昇するまでに約15秒を要する仕様となっている。
【0044】
図7は比較例1における回転数の計測方法を示す図である。比較例1においては、被検知部が1個、カウンタが1個設けられており、カウント周期は60秒である。稼働中の攪拌機の設定回転数が途中で変更された場合、カウンタのカウント周期が開始されるタイミングによっては、攪拌機の実際の回転数が変動している状態で、カウント値の積算が開始される。このため、攪拌機の実際の回転数が600rpmに到達していたとしても、カウンタから読み出されるカウント値には、実際の回転数が600rpmに到達する前に計測されたカウント値も含まれてしまい、読み出されたカウント値は“600”とはならない。したがって、実際の回転数が反映された計測回転数として信頼できる数値を得るためには、次のカウント周期のカウント値が読み出されるまで待つ必要がある。この待ち時間は、ワークの熱処理を行うことができない時間を意味し、待ち時間が長ければ長いほど、生産性が低下することになる。
【0045】
比較例1の場合、攪拌機の実際の回転数が600rpmに到達した後、カウンタから読み出されるカウント値が約600になるまでの時間は、最小で約60秒、最大で約119秒となる。前述の通り、本計測試験では、攪拌機の実際の回転数が200rpmから600rpmに上昇するまで約15秒かかる。したがって、比較例1においては、攪拌機の実際の回転数が上昇するタイミング、すなわち設定回転数を変更するための信号が攪拌機に入力されたタイミングから、最小で約75秒、最大で約134秒経過した後に、設定回転数変更後の計測回転数として信頼できる数値が得られる。実操業においては、ここで得られる計測回転数が設定回転数の誤差として許容できる範囲内であれば、ワークが処理室に搬入される。
【0046】
図8は比較例2における回転数の計測方法を示す図である。比較例2においては、被検知部が2個、カウンタが1個設けられており、カウント周期は30秒である。比較例2においては、攪拌機の実際の回転数が600rpmに到達した後、カウント値が約600になるまでの時間は、最小で約30秒、最大で約59秒となる。したがって、本計測試験の攪拌機の仕様を考慮すると、比較例2においては、設定回転数を変更するための信号が攪拌機に入力されたタイミングから、最小で約45秒、最大で約74秒経過した後に、設定回転数変更後の計測回転数として信頼できる数値が得られる。
【0047】
図9は比較例3の回転数の計測方法を示す図である。比較例3においては、被検知部が2個、カウンタが1個設けられており、カウント周期は10秒である。ただし、比較例3においては、10秒に1回読み出されるカウント値を3倍した値を、攪拌機の計測回転数として出力する。比較例3においては、攪拌機の実際の回転数が600rpmに到達した後、カウント値の3倍の値が約600になるまでの時間は、最小で約10秒、最大で約19秒となる。したがって、本計測試験の攪拌機の仕様を考慮すると、比較例3においては、設定回転数を変更するための信号が攪拌機に入力されたタイミングから、最小で約25秒、最大で約34秒経過した後に、設定回転数変更後の計測回転数として信頼できる数値が得られる。
【0048】
熱処理においては、回転数が1rpm異なるだけでも製品の仕上がりに影響が出ることから、実際の回転数を精度良く計測し、設定回転数を調節するなどして実際の回転数を設計上の回転数に近づけることが好ましい。しかしながら、比較例3の計測方法では、設定回転数と計測回転数の誤差が大きくなる場合がある。例えば攪拌機の実際の回転数が600rpmである場合において、カウント値が200であるとすると、200×3=600となり、計測回転数としては精度が高いものが得られる。一方で、カウント値が199であった場合には、199×3=597となり、実際の回転数との誤差が大きくなる。このように比較例3においては計測回転数のバラつきが大きくなる。
【0049】
図10は本発明例(実施例1)における回転数の計測方法を示す図である。実施例1においては、被検知部が2個、カウンタが30個設けられており、カウント周期は30秒である。実施例1においては、カウンタ1~30のカウント値が1秒ごとに出力されており、攪拌機の実際の回転数が600rpmに到達したタイミングと同時または直後にカウント周期が開始されるカウンタ14が存在する。カウンタ14のカウント周期が開始されて30秒後に読み出されるカウント値は約600となり、攪拌機の計測回転数として精度の高い値が出力される。すなわち、実施例1においては、攪拌機の実際の回転数が600rpmに到達した後、カウント値が約600になるまでの時間は、最小で約30秒、最大でも約30秒となる。したがって、本計測試験の攪拌機の仕様を考慮すると、実施例1においては、設定回転数を変更するための信号が攪拌機に入力されたタイミングから、最小で約45秒、最大でも約45秒経過した後に、設定回転数変更後の計測回転数として信頼できる数値が得られる。
【0050】
本計測試験の結果で示されるように、実施例1における回転数の計測方法によれば、攪拌機の設定回転数が新たな設定回転数に変更された場合において、攪拌機の回転数を短時間で精度良く計測することができる。
【0051】
次に、比較例3および実施例1の方法で計測された計測回転数の精度について評価した。この評価では、まず設定回転数を100rpmに設定してから1分間経過した後に比較例3および実施例1の方法で1分間計測された計測回転数を確認した。ここで計測される計測回転数は、設定回転数の変更後、十分に時間が経過した後の数値であるため、攪拌機の実際の回転数は定常状態にある。その後、設定回転数を200~600rpmの範囲で100rpmずつ変化させて同様の評価を行い、各設定回転数における計測回転数のバラつきを確認した。その結果を下記表1に示す。なお、表1には、参考としてタコメータを用いて計測した回転数の値も示している。タコメータは、オムロン社製のH7cx-R11D1-Nを使用した
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示されるように、比較例3の方法による計測回転数は、タコメータを用いた計測回転数に対して誤差が最大3rpmであり、計測値のバラつきも大きい。一方、実施例1の方法による計測回転数は、タコメータを用いた計測値に対して誤差が最大1rpmであり、計測値のバラつきも小さくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、浸炭処理や窒化処理等のワークの熱処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 熱処理装置
2 処理室
3 被検知部
4 ケーシング
5 近接センサ
6 表示部
10 攪拌機
11 攪拌翼
12 シャフト部
13 モータ
20 制御部
21 入力部
22 記憶部
23 出力部
24 演算部
R 被検知部の回転軌跡

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10