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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】コイル部品及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
H01F17/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020033726
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021136395
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青柳 善雄
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-195620(JP,A)
【文献】特開2018-170440(JP,A)
【文献】特開2019-134141(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208428(WO,A1)
【文献】特開2016-103591(JP,A)
【文献】特開2015-076606(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0196906(US,A1)
【文献】特開2003-225897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスエポキシ基板と、
前記ガラスエポキシ基板の一方の面上に設けられ、金属元素又は前記金属元素の合金からなり、巻軸が前記一方の面に垂直で平面視において渦巻状に巻回した平面渦巻状の巻回部を含むコイル導体と、
前記ガラスエポキシ基板の前記一方の面上に前記ガラスエポキシ基板に接して設けられる、シリコンを含む絶縁膜と、
前記ガラスエポキシ基板の前記一方の面上に、前記巻軸に垂直な一方の面が前記シリコンを含む絶縁膜に接して設けられ、前記巻回部の間を平面視において前記巻回部に沿って渦巻状に延在する平面渦巻状の樹脂壁と、を備え
前記シリコンを含む絶縁膜は、前記ガラスエポキシ基板と前記巻回部との間から前記ガラスエポキシ基板と前記樹脂壁との間にかけて設けられ、
前記巻回部の前記ガラスエポキシ基板側の面及び前記樹脂壁の前記一方の面は前記シリコンを含む絶縁膜の上面に接している、コイル部品。
【請求項2】
前記シリコンを含む絶縁膜の厚さを前記ガラスエポキシ基板の前記シリコンを含む絶縁膜が設けられた面の算術平均粗さで割った値は3以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記シリコンを含む絶縁膜の厚さを前記ガラスエポキシ基板の前記シリコンを含む絶縁膜が設けられた面の算術平均粗さで割った値は0.5以上2.5以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記シリコンを含む絶縁膜の前記樹脂壁が設けられた面の算術平均粗さは、前記ガラスエポキシ基板の前記シリコンを含む絶縁膜が設けられた面の算術平均粗さよりも大きい、請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記シリコンを含む絶縁膜は酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、又は酸化窒化シリコン膜である、請求項1から4のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記樹脂壁はエポキシ樹脂で形成され、
前記シリコンを含む絶縁膜は酸化シリコン膜である、請求項からのいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記樹脂壁を挟んで位置する前記巻回部の間の、前記樹脂壁が前記絶縁膜に接している部分の最短距離である前記樹脂壁の幅は20μm未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記巻回部は前記ガラスエポキシ基板に接触していない、請求項1から7のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載のコイル部品と、
前記コイル部品が実装されている回路基板と、を備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に平面状のコイル導体が設けられたコイル部品が知られている。例えば、平面状のコイル導体と、コイル導体の巻回部が間に延びる樹脂壁を有する樹脂体と、が基板上に設けられたコイル部品が知られている(例えば、特許文献1)。また、フェライト層を有する磁性基板と絶縁層の密着力を向上させる方法(例えば、特許文献2)、及び絶縁層とめっき膜の密着力を向上させる方法(例えば、特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-103591号公報
【文献】特開2015-76606号公報
【文献】特開2003-225897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器の小型化及び高機能化に伴い、コイル部品に更なる小型化が要求されている。ガラスエポキシ基板上に平面状のコイル導体とコイル導体の巻回部の間に延在する樹脂壁とが設けられたコイル部品では、小型化のために樹脂壁の幅を狭くすると、樹脂壁の密着性が低下し、コイル導体がガラスエポキシ基板と樹脂壁の界面を介して短絡する場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ガラスエポキシ基板と樹脂壁の密着性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ガラスエポキシ基板と、前記ガラスエポキシ基板の一方の面上に設けられ、金属元素又は前記金属元素の合金からなり、巻軸が前記一方の面に垂直で平面視において渦巻状に巻回した平面渦巻状の巻回部を含むコイル導体と、前記ガラスエポキシ基板の前記一方の面上に前記ガラスエポキシ基板に接して設けられる、シリコンを含む絶縁膜と、前記ガラスエポキシ基板の前記一方の面上に、前記巻軸に垂直な一方の面が前記シリコンを含む絶縁膜に接して設けられ、前記巻回部の間を平面視において前記巻回部に沿って渦巻状に延在する平面渦巻状の樹脂壁と、を備え、前記シリコンを含む絶縁膜は、前記ガラスエポキシ基板と前記巻回部との間から前記ガラスエポキシ基板と前記樹脂壁との間にかけて設けられ、前記巻回部の前記ガラスエポキシ基板側の面及び前記樹脂壁の前記一方の面は前記シリコンを含む絶縁膜の上面に接している、コイル部品である。
【0007】
上記構成において、前記シリコンを含む絶縁膜の厚さを前記ガラスエポキシ基板の前記シリコンを含む絶縁膜が設けられた面の算術平均粗さで割った値は3以下である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記シリコンを含む絶縁膜の厚さを前記ガラスエポキシ基板の前記シリコンを含む絶縁膜が設けられた面の算術平均粗さで割った値は0.5以上2.5以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記シリコンを含む絶縁膜の前記樹脂壁が設けられた面の算術平均粗さは、前記ガラスエポキシ基板の前記シリコンを含む絶縁膜が設けられた面の算術平均粗さよりも大きい構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記シリコンを含む絶縁膜は酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、又は酸化窒化シリコン膜である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記樹脂壁はエポキシ樹脂で形成され、前記シリコンを含む絶縁膜は酸化シリコン膜である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記樹脂壁を挟んで位置する前記巻回部の間の、前記樹脂壁が前記絶縁膜に接している部分の最短距離である前記樹脂壁の幅は20μm未満である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記巻回部は前記ガラスエポキシ基板に接触していない構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記に記載のコイル部品と、前記コイル部品が実装されている回路基板と、を備える、電子機器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラスエポキシ基板と樹脂壁の密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本願発明の第1の実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。
図2図2(a)は、図1のA方向から見た場合の内部透視平面図であり、図2(b)は、図1のB-B断面図である。
図3図3(a)から図3(e)は、第1の実施形態のコイル部品の製造方法の一例を示す断面図(その1)である。
図4図4(a)及び図4(b)は、第1の実施形態のコイル部品の製造方法の一例を示す断面図(その2)である。
図5図5は、本願発明の第2の実施形態に係るコイル部品を示す断面図である。
図6図6(a)から図6(e)は、第2の実施形態のコイル部品の製造方法の一例を示す断面図である。
図7図7は、本願発明の第3の実施形態に係る電子機器を示す斜視図である。
図8図8(a)は、実施例に相当する試料の断面図、図8(b)は、比較例に相当する試料の断面図である。
図9図9(a)から図9(c)は、表1の結果をグラフで表した図である。
図10図10(a)から図10(c)は、絶縁膜の膜厚が変わることで絶縁膜の表面粗さが変化するメカニズムを示す図である。
図11図11は、絶縁膜に酸化チタン膜を用いた場合の剥離試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を適宜参照しながら、本願発明の実施形態について説明する。但し、本願発明は図示された態様に限定される訳ではない。また、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0018】
[第1の実施形態]
図1は、本願発明の第1の実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。図2(a)は、図1のA方向から見た場合の内部透視平面図であり、図2(b)は、図1のB-B断面図である。なお、図1のA方向とは反対の方向から見た場合の内部透視平面図は図2(a)と同様であるため図示を省略する。図2(a)では、図の明瞭化のために、コイル導体21aと樹脂壁30aにハッチングを付している。図1図2(a)、及び図2(b)では、コイル部品として例えばパワーインダクタに用いられる薄膜インダクタの場合を例に示すがその他の場合でもよい。
【0019】
図1図2(a)、及び図2(b)を参照して、コイル部品100は、ガラスエポキシ基板10、コイル20、樹脂壁30a及び30b、絶縁膜40a及び40b、磁性体膜50、及び外部電極60a及び60bを備える。コイル部品100の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向をそれぞれ、図1図2(a)、及び図2(b)において「L」方向、「W」方向、「T」方向と図示している。コイル部品100は、例えば、長さ寸法(L軸方向の寸法)が1mm~5mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.5mm~4mm、厚さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1mm~3mmである。
【0020】
ガラスエポキシ基板10は、例えば矩形状であり、中央部に主面11aから主面11aとは反対の主面11bにかけて貫通する円形状の貫通孔12が設けられている。ガラスエポキシ基板10は例えばFR-4基板又はFR-5基板である。ガラスエポキシ基板10の厚さは例えば40μm~120μmである。
【0021】
ガラスエポキシ基板10の主面11a上に主面11aに接して絶縁膜40aが設けられ、ガラスエポキシ基板10の主面11b上に主面11bに接して絶縁膜40bが設けられている。絶縁膜40a及び40bは、シリコン(Si)を含む絶縁膜であり、例えば酸化シリコン(SiO)膜、窒化シリコン(SiN)膜、又は酸化窒化シリコン(SiON)膜である。絶縁膜40a及び40bの厚さは、後述のように絶縁膜40a及び40bが接するガラスエポキシ基板10の主面11a及び11bの算術平均粗さと関係し、例えば、絶縁膜40a及び40bの厚みを各々が接するガラスエポキシ基板10の主面11a及び11bの算術平均粗さで割った値が3以下である。これを具体的な絶縁膜40a及び40bの厚み寸法で言うならば、例えば10nm~1000nmが好ましく、50nm~300nmがより好ましい。絶縁膜40a及び40bが薄すぎるとガラスエポキシ基板10の主面11a及び11bの凹凸を十分に被覆しない場合があり、厚すぎるとコイル部品100の低背化に不利であり且つ製造コストが増大するためである。絶縁膜40a及び/又は40bは、ガラスエポキシ基板10の貫通孔12の内面に延びていてもよい。
【0022】
ガラスエポキシ基板10の主面11a上に絶縁膜40aを介して平面状のコイル導体21aが形成され、ガラスエポキシ基板10の主面11b上に絶縁膜40bを介して平面状のコイル導体21bが形成されている。コイル導体21aは、平面状に巻回された渦巻状の巻回部22aと、巻回部22aから引き出された引出部23aと、を有する。すなわち、コイル導体21aは、ガラスエポキシ基板10の主面11aに平行に延在する平面渦巻状のコイル形状をしている。同様に、コイル導体21bは、平面状に巻回された渦巻状の巻回部22bと、巻回部22bから引き出された引出部23bと、を有する。すなわち、コイル導体21bは、ガラスエポキシ基板10の主面11bに平行に延在する平面渦巻状のコイル形状をしている。
【0023】
コイル導体21aの巻回部22aとコイル導体21bの巻回部22bは、ガラスエポキシ基板10の貫通孔12の周りを回って設けられている。巻回部22aと巻回部22bは、ガラスエポキシ基板10の貫通孔12の内面に設けられた金属層(不図示)によって電気的に接続されている。これにより、コイル導体21aと21bからコイル20が形成されている。コイル導体21a及び21bは、金属元素又は金属元素の合金からなり、例えば銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、又はこれらの合金で形成されている。
【0024】
ガラスエポキシ基板10の主面11a上に絶縁膜40aに接して樹脂壁30aが形成され、ガラスエポキシ基板10の主面11b上に絶縁膜40bに接して樹脂壁30bが形成されている。樹脂壁30a及び30bは、感光性樹脂で形成された有機樹脂膜であり、例えばエポキシ樹脂又はポリイミド樹脂で形成されている。樹脂壁30a及び30bには、例えば無機物等のフィラーは含まれていない。樹脂壁30aで囲まれた空間内にコイル導体21aが形成され、樹脂壁30bで囲まれた空間内にコイル導体21bが形成されている。すなわち、樹脂壁30aはコイル導体21aの巻回部22aの間を延在し、樹脂壁30bはコイル導体21bの巻回部22bの間を延在している。
【0025】
樹脂壁30a及び30bの幅Xは例えば5μm以上20μm未満である。樹脂壁30a及び30bの高さYは例えば30μm以上150μm未満である。コイル導体21aの巻回部22a及びコイル導体21bの巻回部22bの幅は例えば10μm以上80μm未満である。コイル導体21aの巻回部22a及びコイル導体21bの巻回部22bの高さは、樹脂壁30a及び30bの高さ未満であることが隣接する導体間の絶縁性の上で好ましく、次いで高さが等しいことが好ましく、例えば30μm以上150μm未満である。
【0026】
コイル導体21a及び21bの上面を覆って樹脂膜32が設けられていてもよい。樹脂膜32は、樹脂壁30a及び30bと同じ材料で形成されていてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。
【0027】
ガラスエポキシ基板10の主面11a及び11b上にコイル導体21a及び21b並びに樹脂壁30a及び30bを覆って磁性体膜50が設けられている。磁性体膜50はガラスエポキシ基板10の貫通孔12内にも埋め込まれている。磁性体膜50は、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、又はFe-Si-Cr-Al系等の軟磁性合金材料、Fe又はNi等の磁性金属材料、アモルファス磁性金属材料、或いはナノ結晶磁性金属材料等の金属磁性材料を含む膜である。磁性体膜50は、Ni-Zn系又はMn-Zn系のフェライト材料を含む膜であってもよい。
【0028】
磁性体膜50の表面に外部電極60a及び60bが設けられている。外部電極60aはコイル導体21aの引出部23aに電気的に接続され、外部電極60bはコイル導体21bの引出部23bに電気的に接続されている。
【0029】
図2(a)及び図2(b)では、ガラスエポキシ基板10の主面11aにコイル導体21aが設けられ、主面11bにコイル導体21bが設けられている場合を例に示したがこの場合に限られない。ガラスエポキシ基板10の一方の主面、例えば主面11aにのみコイル導体が設けられ、主面11bにコイル導体が設けられていない場合でもよい。この場合、ガラスエポキシ基板10の主面11aに設けられたコイル導体はその両端部に第1引出部と第2引出部を有する。外部電極60aはガラスエポキシ基板10の主面11aに設けられた第1引出部に電気的に接続され、外部電極60bはガラスエポキシ基板10の貫通孔12を通って主面11aから主面11bにかけて延在する第2引出部に電気的に接続される。
【0030】
[製造方法]
図3(a)から図4(b)は、第1の実施形態のコイル部品の製造方法の一例を示す断面図である。図3(a)を参照して、ガラスエポキシ基板10の中央部にドリル加工又はレーザ加工等を用いて貫通孔12を形成する。次いで、ガラスエポキシ基板10の主面11a及び11b上に、例えばスパッタリング法を用いて、Siを含む絶縁膜40a及び40bを形成する。スパッタリング法以外に、化学気相成長(CVD)法、パルスレーザ体積(PLD)法、分子線エピタキシー(MBE)法、又は原子層体積(ALD)法を用いることもできるが、本願発明においてはスパッタリング法を用いることが好ましい。絶縁膜40a及び/又は40bはガラスエポキシ基板10の貫通孔12の内面に形成されてもよい。次いで、絶縁膜40a及び40b上に、例えばスパッタリング法、CVD法、PLD法、MBE法、又はALD法を用いて、めっきのためのシード層25を形成する。シード層25と絶縁膜40a及び40bの間にチタン等の密着層を形成してもよい。
【0031】
図3(b)を参照して、シード層25上にレジスト膜26を形成した後、レジスト膜26を所望の形状にパターニングする。ガラスエポキシ基板10に貫通孔12が設けられていることから、レジスト膜26はドライフィルムレジストを用いて形成することが好ましい。次いで、レジスト膜26をマスクとしてシード層25をエッチングする。
【0032】
図3(c)を参照して、レジスト膜26を除去した後、ガラスエポキシ基板10の主面11a及び11b上に感光性樹脂膜35を形成する。感光性樹脂膜35はSiを含む樹脂膜である。ガラスエポキシ基板10に貫通孔12が設けられていることから、感光性樹脂膜35はシートタイプの感光性樹脂膜を用いることが好ましい。
【0033】
図3(d)を参照して、感光性樹脂膜35に対して露光及び現像を行ってパターニングし、樹脂壁30a及び30bを形成する。
【0034】
図3(e)を参照して、シード層25上に電解めっき法を用いてコイル導体21a及び21bを形成する。
【0035】
図4(a)を参照して、コイル導体21a及び21bの上面に樹脂膜32を形成する。樹脂膜32は、例えばコイル導体21a及び21b上にシートタイプの感光性樹脂膜を貼り付け、この感光性樹脂膜に対して露光及び現像を行ってパターニングすることで形成される。次いで、ガラスエポキシ基板10の貫通孔12に充填され且つコイル導体21a及び21bと樹脂壁30a及び30bを覆う磁性体膜50を形成する。
【0036】
図4(b)を参照して、磁性体膜50の表面に、例えばペースト印刷法、めっき法、又はスパッタリング法等の薄膜プロセスで用いられる方法によって、コイル導体21aに接続される外部電極60a及びコイル導体21bに接続される外部電極60bを形成する。
【0037】
第1の実施形態によれば、図2(b)のように、ガラスエポキシ基板10上にガラスエポキシ基板10に接してシリコンを含む絶縁膜40aが設けられている。樹脂壁30aはガラスエポキシ基板10上にシリコンを含む絶縁膜40aに接して設けられている。これにより、樹脂壁30aに含まれる炭素(C)と絶縁膜40aに含まれるシリコン(Si)とが結合し、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aとの間の密着性を向上させることができる。よって、コイル導体21aがガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの界面を介して短絡することを抑制できる。ガラスエポキシ基板10の主面11b上に形成されたシリコンを含む絶縁膜40b、樹脂壁30b、及びコイル導体21bに関しても同様である。
【0038】
絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられた主面11aの算術平均粗さで割った値は3以下である場合が好ましい。絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の主面11aの算術平均粗さで割った値が3以下であれば、絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられる面の表面粗さが小さくなることが抑制される。このため、樹脂壁30aと絶縁膜40aの間のアンカー効果が向上し、樹脂壁30aとガラスエポキシ基板10との密着性がより向上する。絶縁膜40aの厚さは走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察により測定することができる。ガラスエポキシ基板10の主面11aの算術平均粗さは、平面研磨及びウエットエッチングによってガラスエポキシ基板10の主面11aを露出させ、露出した主面11aを原子間力顕微鏡(AFM)で測定することで求められる。上記と同様な理由から、絶縁膜40bの厚さをガラスエポキシ基板10の絶縁膜40bが設けられた主面11bの算術平均粗さで割った値は3以下である場合が好ましい。
【0039】
絶縁膜40aが厚くなると絶縁膜40aの表面粗さが小さくなってアンカー効果が弱まることから、絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられた主面11aの算術平均粗さで割った値は2.5以下である場合がより好ましい。一方、絶縁膜40aが薄くなるとガラスエポキシ基板10の主面11aの凹凸に対する絶縁膜40aの被覆性が悪くなり且つ絶縁膜40aの表面粗さも小さくなる。このため、絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられた主面11aの算術平均粗さで割った値は0.5以上が好ましい。同様に、絶縁膜40bの厚さをガラスエポキシ基板10の絶縁膜40bが設けられた主面11bの算術平均粗さで割った値は0.5以上2.5以下である場合が好ましい。
【0040】
絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さは、ガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられた主面11aの算術平均粗さよりも大きい場合が好ましい。これにより、樹脂壁30aと絶縁膜40aのアンカー効果が高まり、樹脂壁30aとガラスエポキシ基板10との密着性が向上する。同様に、絶縁膜40bの樹脂壁30bが設けられる面の算術平均粗さは、ガラスエポキシ基板10の絶縁膜40bが設けられる主面11bの算術平均粗さよりも大きい場合が好ましい。
【0041】
絶縁膜40a及び40bは酸化シリコン、窒化シリコン、又は酸化窒化シリコンで形成される場合が好ましい。これにより、樹脂壁30a及び30bに含まれる炭素(C)と絶縁膜40a及び40bに含まれるシリコン(Si)とが結合し、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30a及び30bとの間の密着性が向上する。
【0042】
コイル部品100の小型化のために樹脂壁30a及び30bの幅X(図2(b)参照)は20μm未満の場合が好ましい。この場合、樹脂壁30a及び30bがガラスエポキシ基板10に接合する面積が小さくなる。このため、樹脂壁30a及び30bとガラスエポキシ基板10の密着力が小さくなり、樹脂壁30a及び30bが部分的にガラスエポキシ基板10の主面11a及び11bより剥離してしまい、隣接するコイル導体21aの巻回部22a同士及びコイル導体21bの巻回部22b同士で絶縁不良が生じることがある。本願発明では、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30a及び30bとの間にシリコンを含む絶縁膜40a及び40bが設けられることで、樹脂壁30a及び30とガラスエポキシ基板10の密着性の低下を抑制でき、樹脂壁30a及び30bが部分的にガラスエポキシ基板10の主面11a及び11bより剥離し、隣接するコイル導体21aの巻回部22a同士及び隣接するコイル導体21bの巻回部22b同士で絶縁不良が生じることを抑制できる。さらに、コイル部品100の小型化のために樹脂壁30a及び30bの幅X(図2(b)参照)は15μm未満の場合がより好ましく、10μm未満の場合が更に好ましい。樹脂壁30a及び30bの幅Xを小さくした場合、樹脂壁30a及び30bとガラスエポキシ基板10の密着力が小さくなるため、樹脂壁30a及び30bの高さYを高く作製することが困難になる。コイル導体21aの巻回部22a及びコイル導体21bの巻回部22bは、隣接するコイル導体21aの巻回部22a同士及び隣接するコイル導体21bの巻回部22b同士で絶縁性を保つ必要から、その高さを樹脂壁30a及び30bの高さ以下とすることが好ましい。このことは、コイル導体21aの巻回部22a及びコイル導体21bの巻回部22bを高アスペクト比寸法とすることが困難になることを意味する。本願発明では、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30a及び30bとの間にシリコンを含む絶縁膜40a及び40bが設けられることで、樹脂壁30a及び30とガラスエポキシ基板10の密着性の低下を抑制できるため、樹脂壁30a及び30bの幅Xを小さくした場合でも、樹脂壁30a及び30bの高さYを高く作製することができる。よって、コイル導体21aの巻回部22a及びコイル導体21bの巻回部22bを高アスペクト比寸法とすることができる。このことは、限られた部品寸法で、コイル周回数を多くでき且つコイル導体のRdc(直流抵抗)を小さくできることになり、コイル部品を小型化できる。
【0043】
[第2の実施形態]
図5は、本願発明の第2の実施形態に係るコイル部品を示す断面図である。図5を参照して、コイル部品200では、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの間に設けられた絶縁膜40aはコイル導体21aが設けられた箇所で分断されている。コイル導体21aは、絶縁膜40aとは接してなく、絶縁膜40aから離れて設けられている。同様に、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30bの間に設けられた絶縁膜40bはコイル導体21bが設けられた箇所で分断されている。コイル導体21bは、絶縁膜40bとは接してなく、絶縁膜40bから離れて設けられている。その他の構成は、第1の実施形態のコイル部品100と同じであるため説明を省略する。
【0044】
[製造方法]
図6(a)から図6(e)は、第2の実施形態のコイル部品の製造方法の一例を示す断面図である。図6(a)を参照して、ガラスエポキシ基板10の中央部にドリル加工又はレーザ加工等を用いて貫通孔12を形成する。次いで、ガラスエポキシ基板10の主面11a及び11b上に、例えばスパッタリング法、CVD法、PLD法、MBE法、又はALD法を用いて、めっきのためのシード層25を形成する。シード層25とガラスエポキシ基板10の間にチタン等の密着層を形成してもよい。
【0045】
図6(b)を参照して、シード層25上にレジスト膜26を形成した後、レジスト膜26を所望の形状にパターニングする。次いで、レジスト膜26をマスクとしてシード層25をエッチングする。
【0046】
図6(c)を参照して、ガラスエポキシ基板10の主面11a及び11b上に、例えばスパッタリング法を用いて、Siを含む絶縁膜40a及び40bを形成する。スパッタリング法以外に、CVD法、PLD法、MBE法、又はALD法を用いることもできるが、本願発明においてはスパッタリング法を用いることが好ましい。
【0047】
図6(d)を参照して、レジスト膜26及びレジスト膜26上の絶縁膜40a及び40bをリフトオフ法により除去することができる。これにより、上述したようにコイル導体21a及び21bと絶縁膜40a及び40bが接しないようにすることができ、ガラスエポキシ基板10の主面11a及び11bのコイル導体21a及び21bの面を平滑化できるため高周波特性を良好にできる。その後、ガラスエポキシ基板10の主面11a及び11b上に感光性樹脂膜35を形成する。感光性樹脂膜35はSiを含む樹脂膜である。
【0048】
図6(e)を参照して、感光性樹脂膜35に対して露光及び現像を行ってパターニングし、樹脂壁30a及び30bを形成する。次いで、シード層25上に電解めっき法を用いてコイル導体21a及び21bを形成する。これ以降は、第1の実施形態の図4(a)及び図4(b)で説明した工程と同じ工程を行う。
【0049】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同じく、ガラスエポキシ基板10上に、ガラスエポキシ基板10に接してシリコンを含む絶縁膜40aが設けられ、シリコンを含む絶縁膜40aに接して樹脂壁30aが設けられている。また、ガラスエポキシ基板10上に、ガラスエポキシ基板10に接してシリコンを含む絶縁膜40bが設けられ、シリコンを含む絶縁膜40bに接して樹脂壁30bが設けられている。これにより、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30a及び30bとの間の密着性を向上させることができる。
【0050】
コイル部品に高周波信号が入力される場合は一般的に表皮効果が見られる。表皮効果によってコイル導体21aの表面での電流密度が高くなる。第1の実施形態のように、コイル導体21aが絶縁膜40aに接して設けられている場合、絶縁膜40aの表面粗さはアンカー効果が発揮されるように大きいことから、コイル導体21aの絶縁膜40aに接合する面の表面粗さが大きくなる。このため、表皮効果によってコイル導体21aの表面での電流密度が高くなる場合では、電流の損失が大きくなってしまう。一方、第2の実施形態のように、コイル導体21aが絶縁膜40aから離れて設けられている場合、コイル導体21aは表面粗さの大きい絶縁膜40aに接していないことから、コイル導体21aの表面粗さが小さくなる。よって、表皮効果によってコイル導体21aの表面での電流密度が高くなる場合でも、電流の損失を抑えることができる。コイル導体21bにおいても同様である。
【0051】
[第3の実施形態]
図7は、本願発明の第3の実施形態に係る電子機器を示す斜視図である。図7では、図の明瞭化のために、半田72にハッチングを付している。図7を参照して、電子機器300は、回路基板70と、回路基板70に実装された第1の実施形態のコイル部品100と、を備える。コイル部品100は、外部電極60a、60bが半田72によって回路基板70の電極71に接合されることで、回路基板70に実装されている。これにより、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30a及び30bとの間の密着性が向上したコイル部品100を備えた電子機器300が得られる。なお、第3の実施形態では、回路基板70に第1の実施形態のコイル部品100が実装されている場合を例に示したが、第2の実施形態に係るコイル部品200が実装されていてもよい。
【実施例
【0052】
以下、本願発明についてより具体的に説明するが、本願発明はこれらに記載された態様に限定されるわけではない。
【0053】
[実施例1]
図8(a)は、実施例に相当する試料の断面図である。図8(a)を参照して、ガラスエポキシ基板10の主面11a上に酸化シリコン(SiO)膜である絶縁膜40aをスパッタリング法で形成した。絶縁膜40a上にシートタイプの感光性エポキシ樹脂膜を貼り付け、この感光性エポキシ樹脂膜に対して露光及び現像を行ってパターニングすることで、絶縁膜40a上にエポキシ樹脂で形成された樹脂壁30aを形成した。絶縁膜40aの厚さを50nmとした。樹脂壁30aの幅Xは15μmとした。
【0054】
[実施例2]
絶縁膜40aの厚さを100nmとした点以外は、図8(a)の構造とした。
【0055】
[実施例3]
絶縁膜40aの厚さを150nmとした点以外は、図8(a)の構造とした。
【0056】
[実施例4]
絶縁膜40aの厚さを200nmとした点以外は、図8(a)の構造とした。
【0057】
[実施例5]
絶縁膜40aの厚さを250nmとした点以外は、図8(a)の構造とした。
【0058】
[実施例6]
絶縁膜40aの厚さを300nmとした点以外は、図8(a)の構造とした。
【0059】
[実施例7]
絶縁膜40aの厚さを350nmとした点以外は、図8(a)の構造とした。
【0060】
[実施例8]
絶縁膜40aの厚さを400nmとした点以外は、図8(a)の構造とした。
【0061】
[比較例1]
図8(b)は、比較例1に相当する試料の断面図である。図8(b)を参照して、ガラスエポキシ基板110の主面111a上に絶縁膜を介さずにエポキシ樹脂によって樹脂壁130aを形成した。樹脂壁130aはガラスエポキシ基板110の主面111a上にシートタイプの感光性エポキシ樹脂膜を貼り付け、この感光性エポキシ樹脂膜に対して露光及び現像を行ってパターニングすることで形成した。樹脂壁130aの幅Xは実施例1から実施例8と同じ15μmとした。
【0062】
実施例1から実施例8及び比較例1について各々126個の試料を作製し、これらに対して、絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の主面11aの算術平均粗さで割った値(以下、絶縁膜40aの膜厚比と称す場合がある)の算出、樹脂壁30a、130aの剥離試験、樹脂壁30a、130aの密着力測定、及び、絶縁膜40aとガラスエポキシ基板110の表面粗さ測定を行った。
[絶縁膜の膜厚比の算出]
絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の主面11aの算術平均粗さで割った値を求め、126個の試料の平均値を算出した。
[剥離試験]
ニチバンセロハンテープNo.405(粘着力:3.93N/cm)を樹脂壁30a、130aの上面に付着させた後にガラスエポキシ基板10、110から引き剥がすテープ剥離試験を行い、126個の試料のうち樹脂壁30a、130aがガラスエポキシ基板10、110から剥離した試料の割合を剥離率として算出した。
[密着力測定]
フォースゲージ(イマダ製デジタルフォースゲージZTAシリーズ)を用いた引張試験によって樹脂壁30a、130aのガラスエポキシ基板10、110に対する密着力を測定し、126個の試料の平均値を算出した。
[表面粗さ測定]
ガラスエポキシ基板110の主面111a及び絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられる面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定してガラスエポキシ基板110の主面111a及び絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられる面の算術平均粗さを求め、126個の試料の平均値を算出した。以下において、ガラスエポキシ基板110の主面111a及び絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられる面の算術平均粗さを、ガラスエポキシ基板110及び絶縁膜40aの算術平均粗さと称す場合がある。
【0063】
得られた結果を表1に示す。
【表1】
【0064】
図9(a)から図9(c)は、表1の結果をグラフで表した図である。図9(a)は、絶縁膜40aの膜厚比と、樹脂壁30a、130aの剥離率並びに絶縁膜40a及びガラスエポキシ基板110の算術平均粗さと、の関係を示す図である。図9(b)は、絶縁膜40a及びガラスエポキシ基板110の算術平均粗さと、樹脂壁30a、130aの剥離率と、の関係を示す図である。図9(c)は、絶縁膜40a及びガラスエポキシ基板110の算術平均粗さと、樹脂壁30a、130aの密着力と、の関係を示す図である。図9(a)から図9(c)では、比較例1の測定結果を白丸及び白四角で示し、実施例1から実施例8の測定結果を黒丸及び黒四角で示している。
【0065】
表1及び図9(a)のように、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの間に絶縁膜40aが設けられた実施例1から実施例8は、ガラスエポキシ基板110と樹脂壁130aの間に絶縁膜が設けられていない比較例1に比べて、樹脂壁30aの剥離率が低下した結果であった。絶縁膜40aの膜厚比が2.3よりも大きくなると樹脂壁30aの剥離率は上昇しているが、絶縁膜40aの膜厚比が2.8以降は樹脂壁30aの剥離率の上昇率が小さくなっている。このことから、絶縁膜40aの膜厚比を大きくしていくと、樹脂壁30aの剥離率は絶縁膜が設けられていない比較例1よりも低い一定の値で落ち着くと考えられる。
【0066】
このように、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの間に酸化シリコン膜である絶縁膜40aが設けられた実施例1から実施例8は、絶縁膜が設けられていない比較例1に比べて、樹脂壁30aの剥離率が低下したのは次の理由によるものと考えられる。すなわち、樹脂壁30aはエポキシ樹脂で形成され、絶縁膜40aは酸化シリコン膜であることから、樹脂壁30aに含まれる炭素(C)と絶縁膜40aに含まれるシリコン(Si)とが結合し、これによりガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの密着性が向上したためと考えられる。この理由を踏まえると、樹脂壁30aが樹脂で形成され、絶縁膜40aがシリコンを含む絶縁膜であれば、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの密着性が向上し、樹脂壁30aの剥離率が低下すると考えられる。このことから、ガラスエポキシ基板10上に、ガラスエポキシ基板10に接してシリコンを含む絶縁膜40aが設けられ、シリコンを含む絶縁膜40aに接して樹脂壁30aが設けられることで、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの密着性が向上することが確認された。
【0067】
絶縁膜40aの膜厚比が2.3より大きくなると樹脂壁30aの剥離率が上昇しているのは、絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さが小さくなり、樹脂壁30aと絶縁膜40aの間のアンカー効果が弱まったためと考えられる。ここで、図10(a)から図10(c)を用いて、絶縁膜40aの膜厚が変わることで絶縁膜40aの表面粗さが変化するメカニズムについて説明する。図10(a)のように、ガラスエポキシ基板10の主面11aには、ガラス繊維及び/又はエポキシ樹脂に由来した凹凸が形成されている。図10(b)のように、ガラスエポキシ基板10の主面11aに絶縁膜40aが形成される場合、凹凸の凹み部分は絶縁膜40aの成膜レートが遅いため、絶縁膜40aの膜厚が薄い段階では、絶縁膜40aの表面粗さが大きくなる。図10(c)のように、絶縁膜40aが厚くなると、凹凸部の凹み部分にも絶縁膜40aが埋まり、その結果、絶縁膜40aの表面粗さは小さくなる。このような理由から、絶縁膜40aの膜厚比が1.9までは絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さが大きくなり、絶縁膜40aの膜厚比が1.9より大きくなると絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さが小さくなったと考えられる。
【0068】
表1及び図9(a)から、絶縁膜40aの膜厚比が3以下の場合では、絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さは比較例1でのガラスエポキシ基板110の主面111aの算術平均粗さより大きく、樹脂壁30aの剥離率が低い結果であった。したがって、絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられる主面11aの算術平均粗さで割った値である絶縁膜40aの膜厚比を3以下とすることで、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの密着性が向上することが確認された。
【0069】
絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられる主面11aの算術平均粗さで割った値である絶縁膜40aの膜厚比が1.4以上2.3以下の場合では、樹脂壁30aの剥離が生じない結果であった。これは、絶縁膜40aの膜厚比が1.4以上2.3以下では、絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さが大きく、樹脂壁30aと絶縁膜40aの間のアンカー効果が高まったためと考えられる。このことから、絶縁膜40aの厚さをガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられる主面11aの算術平均粗さで割った値である絶縁膜40aの膜厚比は、0.1以上3以下が好ましく、0.5以上2.5以下がより好ましく、1.0以上2.3以下が更に好ましいことが確認された。
【0070】
図9(b)のように、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの間に絶縁膜40aが設けられた実施例1から実施例8では、絶縁膜が設けられていない比較例1に比べて、絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さがガラスエポキシ基板110の主面111aの算術平均粗さよりも大きい場合に限られず小さい場合でも樹脂壁30aの剥離率が低下した結果であった。これは上述したように、樹脂壁30aに含まれる炭素(C)と絶縁膜40aに含まれるシリコン(Si)とが結合し、これによりガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの密着性が向上したためと考えられる。
【0071】
図9(c)のように、ガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの間に絶縁膜40aが設けられた実施例1から実施例8は、絶縁膜が設けられていない比較例1に比べて、絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さがガラスエポキシ基板110の主面111aの算術平均粗さよりも大きい場合に限られず小さい場合でも樹脂壁30aのガラスエポキシ基板10に対する密着力が高い結果であった。これは上述したように、樹脂壁30aに含まれる炭素(C)と絶縁膜40aに含まれるシリコン(Si)とが結合し、これによりガラスエポキシ基板10と樹脂壁30aの密着性が向上したためと考えられる。例えば、製造プロセスを考慮すると樹脂壁30aの密着力は40kPa以上の場合が好ましく、この場合は実施例3から実施例5であるため樹脂壁30aの剥離率が0%の場合である。この結果から、樹脂壁30aの剥離が生じなかった条件は製造プロセス的に問題が起こり難いパターンが形成されることが言える。
【0072】
図9(b)及び図9(c)の結果から、絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さがガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられる主面11aの算術平均粗さよりも大きい場合に、樹脂壁30aとガラスエポキシ基板10の密着性が効果的に向上することが確認された。樹脂壁30aとガラスエポキシ基板10の密着性向上の点から、絶縁膜40aの樹脂壁30aが設けられた面の算術平均粗さbは、ガラスエポキシ基板10の絶縁膜40aが設けられた主面11aの算術平均粗さをaとした場合に、a<b≦2aの場合が好ましく、a<b≦1.9aの場合がより好ましい。
【0073】
[比較例2]
酸化シリコン膜である絶縁膜40aの代わりに酸化チタン(TiO)膜である絶縁膜を用いた。酸化チタン膜である絶縁膜の厚さをガラスエポキシ基板の主面の算術平均粗さで割った値である絶縁膜の膜厚比が0.9、1.4、1.9、2.3である試料を各々126個作製し、これらに対して樹脂壁の剥離試験を行った。図11は、絶縁膜に酸化チタン膜を用いた場合の剥離試験の結果を示す図である。図11のように、ガラスエポキシ基板と樹脂壁の間に酸化チタン膜である絶縁膜を設けた場合では、絶縁膜の膜厚比が0.9~2.3の範囲において、126個の試料の全てで樹脂壁の剥離が生じた結果であった。この結果から、ガラスエポキシ基板と樹脂壁の間にSiを含む絶縁膜を設けた場合に、上述した理由によって、ガラスエポキシ基板と樹脂壁の密着性が向上して樹脂壁の剥離率が低下することが確認された。
【0074】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 ガラスエポキシ基板
11a、11b 主面
12 貫通孔
20 コイル
21a、21b コイル導体
22a、22b 巻回部
23a、23b 引出部
25 シード層
26 レジスト膜
35 感光性樹脂膜
30a、30b 樹脂壁
32 樹脂膜
40a、40b 絶縁膜
50 磁性体膜
60a、60b 外部電極
70 回路基板
71 電極
72 半田
100、200 コイル部品
300 電子機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11