(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】制御システム、表示装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240729BHJP
E03F 5/22 20060101ALI20240729BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240729BHJP
G06Q 50/26 20240101ALI20240729BHJP
【FI】
C02F1/00 D
E03F5/22
G06Q50/06
G06Q50/26
(21)【出願番号】P 2020056887
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-01-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】行谷 宗大
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-097811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 1/78
G05B 23/00-23/02
E03F 1/00-11/00
G06Q 50/06
G06Q 50/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水処理プラント
内で使用される
機器の使用電力を制御する制御システムであって、
前記機器の運転に係る演算を行う演算制御部を備え、
前記演算制御部は、排水処理プラント内で使用される電力の契約使用量を上回らないよう、前記排水処理
プラントに流入する被処理水の量に応じて、排水処理プラント内で使用される機器のうち、優先順位の高い順に稼働させる
ための演算を行うことを特徴とする、制御システム。
【請求項2】
前記機器のうち、前記排水処理
プラントに流入する被処理水の量が多いときは、揚水ポンプを優先して稼働させることを特徴とする、
又は、
前記演算制御部に基づく機器の制御内容について表示する表示部を備え、前記表示部で表示された情報に基づき、管理者又は作業者は、排水処理プラントの制御内容に対し、操作を行うことを特徴とする、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記排水処理プラントで使用される各機器の使用電力に関するデータを記憶している記憶部を備え、
前記記憶部のデータに基づき、前記機器の運転制御を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記排水処理プラントで使用される各機器の運転状況と処理状況を監視する監視部を備え、
前記監視部のデータに基づき、前記機器の運転制御を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の制御システム。
【請求項5】
排水処理プラント内で使用される
機器の使用電力の契約使用量を上回らないよう、前記排水処理
プラントに流入する被処理水の量に応じて、排水処理プラント内で使用される機器のうち、優先順位の高い順に稼働させる
ための演算を行う
演算制御システムの制御結果及び制御内容を表示することを特徴とする、表示装置。
【請求項6】
排水処理プラント
内で使用される
機器の使用電力を制御する制御方法であって、
排水処理プラント内で使用される電力の契約使用量を上回らないよう、前記排水処理
プラントに流入する被処理水の量に応じて、排水処理プラント内で使用される機器のうち、優先順位の高い順に稼働させる
ための演算を行う工程を備えることを特徴とする、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御システム、表示装置及び制御方法に関するものである。特に、排水処理プラントで使用される制御システム、表示装置及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラントの運転においては、処理条件等に応じて、プラントが備える機器のうち、運転対象となる機器の選択や、機器の運転台数の決定などに係る運転制御が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、下水処理場に流入する被処理水を後続の水処理設備に送水する複数のポンプの運転計画を立案するポンプ運転計画支援装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、プラントにおいて、複数台あるポンプの運転に係る運転計画を立案し、最適なポンプの運転を行うことができるように制御することは知られている。
しかし、特許文献1に記載されるように、複数のポンプを備えるプラントの場合、電気使用に係る契約上、運転台数にかかわらず、プラント内で消費されることが想定される消費電力の最大値(最大需要電力)に基づき契約する必要がある。このため、機器の運転に係る制御を個別に行っても、ベースとなる電力の契約使用量に係るコスト削減にはつながらないという問題がある。
【0006】
一方、電力の契約使用量を下げた契約を行った場合、仮にプラントの異常や、プラントの処理能力の増加が急激に要求されるような緊急事態が生じ、契約使用量を超えた電力使用を行うと、それ以降の契約において契約先からペナルティーを科されることになるという問題がある。そのため、通常時及び緊急事態時のいずれにおいても、契約使用量内に収まるようにプラント内の消費電力を制御することが求められる。
【0007】
また、排水処理プラントにおいては、流入してきた被処理水をプラント内に長期間留めることができず、必ず外部に排出する必要がある。このため、プラント全体としては被処理水が継続して送水されるように連続した運転を行うことが必要となる。したがって、通常時及び緊急事態時のいずれにおいても、処理能力を最低限維持しつつ、契約使用量内に収まるようにプラント内の消費電力を制御することが求められる。
【0008】
本発明の課題は、排水処理プラントの運転において、排水処理プラントで使用される電力が常に契約使用量以内となるように電力を制御し、電力に係るコストを削減するとともに、管理者や作業者が、排水処理プラントの電力制御に係る情報を把握することができる制御システム、表示装置及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、排水処理プラントにおいて、排水処理プラント内で使用される電力の契約使用量を上回らないように、機器の運転制御を行うことで、排水処理プラント内で使用される電力を常に契約使用量以内に収め、電力に係るコスト削減が可能になるとともに、管理者や作業者が、排水処理プラントの電力制御に係る情報を把握できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の制御システム、表示装置及び制御方法である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の制御システムは、排水処理プラントで使用される電力を制御する制御システムであって、排水処理プラント内で使用される電力の契約使用量を上回らないよう、排水処理プラント内で使用される機器の運転制御を行うという特徴を有する。
【0011】
本発明の制御システムによれば、排水処理プラントの電力の契約使用量を基準として、排水処理プラント内で使用される機器の運転制御を行うことで、排水処理プラント内で使用される電力を常に契約使用量以内に収めることが可能となる。これにより、使用電力の削減だけではなく、契約使用量自体の引き下げが可能になる等、電力に係るコスト削減が可能になる。また、機器の運転制御に係る情報を得ることで、管理者や作業者が、排水処理プラントの電力制御に係る情報を把握することが可能となる。
【0012】
また、本発明の制御システムの一実施態様としては、機器は、排水処理プラント内における処理として優先順位の高い順に稼働させるという特徴を有する。
この特徴によれば、排水処理プラント内で使用される電力を契約使用量以内に収めるに当たり、処理として優先順位が高いものから機器を稼働させることにより、緊急事態時にプラントにおける処理能力を最低限度維持した状態としつつ、電力を契約使用量内に収めることができる。これにより、プラントの安定運転を継続させるとともに、プラントの電力コストを低減させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の制御システムの一実施態様としては、排水処理プラントで使用される各機器の使用電力に関するデータを記憶している記憶部を備え、記憶部のデータに基づき、機器の運転制御を行うという特徴を有する。
この特徴によれば、各機器の使用電力に関するデータを用いて機器の運転制御を行うことができ、契約使用量内に収まるようにどの機器をどの程度稼働させることができるのかについての演算に係る精度を高めることが可能となる。これにより、機器の運転制御に係る精度を高めることが可能となる。
【0014】
また、本発明の制御システムの一実施態様としては、排水処理プラントで使用される各機器の運転状況と処理状況を監視する監視部を備え、監視部のデータに基づき、機器の運転制御を行うという特徴を有する。
この特徴によれば、各機器の運転状況と処理状況に関するデータを用いて機器の運転制御を行うことができ、契約使用量内に収まるようにどの機器をどの程度稼働させることができるのかについての演算に係る精度を高めることが可能となる。これにより、機器の運転制御に係る精度を高めることが可能となる。
【0015】
また、上記課題を解決するための本発明の表示装置としては、排水処理プラント内で使用される電力が契約使用量を上回らないよう、排水処理プラント内で使用される機器の運転制御を行う制御システムの制御結果及び制御内容を表示するという特徴を有する。
この特徴によれば、排水処理プラント内で使用される電力を制御するために、排水処理プラント内で使用される機器の運転制御を行う制御システムにて得られた制御結果及び制御内容を、プラントの管理者や作業者に開示することが可能となる。これにより、管理者や作業者は制御システムにより進行している制御内容を把握することができるとともに、必要に応じて制御内容に介入するための情報を得ることが可能となる。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明の制御方法としては、排水処理プラントで使用される電力を制御する制御方法であって、排水処理プラント内で使用される電力の契約使用量を上回らないよう、排水処理プラント内で使用される機器の運転制御工程を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、排水処理プラントの電力の契約使用量を基準として、排水処理プラント内で使用される機器の運転制御を行うことで、排水処理プラント内で使用される電力を常に契約使用量以内に収めることが可能となる。これにより、使用電力の削減だけではなく、契約使用量自体の引き下げが可能になる等、電力に係るコスト削減が可能になる。また、機器の運転制御に係る情報を得ることで、管理者や作業者が、排水処理プラントの電力制御に係る情報を把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、排水処理プラントの運転において、排水処理プラントで使用される電力が常に契約使用量以内となるように電力を制御し、電力に係るコストを削減するとともに、管理者や作業者が、排水処理プラントの電力制御に係る情報を把握することができる制御システム、表示装置及び制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施態様に係る制御システムの概略説明図である。
【
図2】本発明の実施態様の制御システムによる排水処理プラント内の消費電力量の推移を示すグラフである。
【
図3】従来の排水処理プラント内の消費電力量の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る制御システム及び表示装置の実施態様を詳細に説明する。また、本発明の制御方法については、以下の制御システムの構成及び作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する制御システム及び表示装置については、本発明に係る制御システム及び表示装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明の制御システムは、プラントにおける電力制御に使用される。さらに詳しくは、本発明の制御システムは、プラントで使用される電力の契約使用量を上回らないように電力制御を行うものである。
【0021】
本発明の制御システムを適用するプラントとしては、排水処理プラントが挙げられる。排水処理プラントにおいては、流入してくる被処理水については、一旦プラント内に全量を受け入れる必要がある一方で、プラント内に被処理水を長期間留めることが困難であり、流入した分は何らかの形でプラント外に排出する必要がある。つまり、排水処理プラントにおいて電力使用に係るコスト低減を行うには、仮にプラントの異常や、プラントの処理能力の増加が急激に要求されるような緊急事態が生じた場合においても、契約使用量内に収まるようにプラント内の消費電力を制御しつつ、最低限の処理能力は維持する必要がある。このため、本発明の制御システムが好適に使用される。
このような排水処理プラントの例としては、工場排水処理施設や下水処理施設などの水処理施設が挙げられる。なお、実施態様において、排水処理プラントとして主に下水処理施設を例示したが、これに限定されるものではない。
【0022】
〔実施態様〕
図1は、本発明の実施態様における制御システム1を示す概略説明図である。
本実施態様に係る制御システム1は、
図1に示すように、排水処理プラント100に係る電力制御を行うものである。
【0023】
(排水処理プラント)
排水処理プラント100内で使われる機器の種類については特に限定されない。例えば、本実施態様における排水処理プラント100として下水処理施設を例とした場合、
図1に示すように、プラント100は、設備101~107を備え、設備101がポンプ場、設備102が最初沈殿池、設備103が生物処理設備(反応槽)、設備104が最終沈殿池、設備105が消毒処理設備、設備106が汚泥処理設備、設備107が脱臭設備としてそれぞれ相当するものを備えることが挙げられる。このとき、被処理水Wは、設備101から設備105を経ることで処理水W1として外部に排出される。一方、設備102及び設備104で排出される汚泥は、設備106に移送されて処理される。また、設備107は、排水処理プラント100で発生する臭気全体の脱臭を行う。なお、本実施態様においては、7種類の設備101~107について例示しているが、設備の種類及び個数については特に限定されるものではない。
さらに、それぞれの設備101~107に応じた機器が備えられている。例えば、設備101は機器101a~101eとして複数の揚水ポンプを備え、設備102は機器102aとして沈殿池内の掻寄機を備え、設備103は機器103aとして曝気装置を備え、設備104は機器104aとして沈殿池内の掻寄機を備え、設備105は機器105aとして薬剤添加装置を備え、設備106は機器106aとして汚泥脱水機を備え、設備107は機器107aとして脱臭塔を備えるものが挙げられる。なお、本実施態様においては7種類の設備101~107に対し、それぞれ代表的な機器を1種類ずつ例示しているが、機器の種類及び個数は特に限定されるものではない。本発明においては、電力により駆動する機器は全て本制御システム1の制御対象となる。
【0024】
なお、これらの機器101a~107aには、機器の運転状態を監視するための各種計器を備え、各種計器により得られた情報は、排水処理プラント100の機器の運転状況や処理状況に係る情報として、後述する監視部4にて利用することが好ましい。
各種計器としては、例えば、流量計、温度計、圧力計、水位計、水質計等のように各種測定データを得ることができるものや、カメラ等のように各種画像データを得ることができるものなどが挙げられる。
【0025】
(制御システム)
以下、本実施態様における制御システム1の各構成について説明する。
制御システム1は、
図1に示すように、演算制御部2、記憶部3、監視部4、表示部5を備えるものである。なお、
図1において、一点鎖線で示された矢印は、制御又は入出力可能に接続されていることを示している。
【0026】
(演算制御部)
演算制御部2は、排水処理プラント100内で使用される電力を制御するために、排水処理プラント100内で使用される機器101a~107aの運転に係る演算及び制御を行うためのものである。また、演算制御部2は、排水処理プラント100の運転に関わる機器(機器101a~107a等)に対し制御可能となるように接続されており、後述する記憶部3、監視部4、表示部5とは、入出力可能となるように接続されている。
また、演算制御部2は、排水処理プラント100内で使用される電力の契約使用量を基準とし、この契約使用量を上回らないように、各機器101a~107aの運転制御を行うものである。より具体的には、演算制御部2では、各機器101a~107aの稼働に伴う消費電力量の合計が契約使用量を上回らないように、機器101a~107aの稼働数、稼働率、あるいは稼働停止を決定するものである。
【0027】
一般的に、電力の使用に当たっては、電力会社との契約が必要となる。このとき、電気料金は、基本料金と実際に使用した電力量料金との合計となる。ここで、基本料金は、過去の使用実績や協議により決定する契約使用量に基づき算出される。従来、電力使用の契約時には、排水処理プラント100内にある機器全ての消費電力の最大値で契約することになっており、契約使用量のベースが高く設定されるという状況にあった。したがって、電力に係るコストを削減するためには、使用する電力量の削減と併せ、基本料金を算出する根拠となる契約使用量のベースを下げる必要がある。
一方で、契約使用量のベースを下げても、使用した電力の最大需要電力(デマンド値)が契約使用量を超えた場合、契約先からペナルティーが科されるとともに、契約更新により契約使用量のベースを上げる必要が生じるという課題がある。したがって、契約使用量のベースを下げるとともに、使用する電力が契約使用量を超えないようにする必要がある。
【0028】
図2は、本実施態様の制御システムによるプラント内の機器の運転制御に係る消費電力量の推移の一例を示すグラフである。また、
図3は、従来のプラント内の機器の消費電力量の推移を示すグラフである。
なお、
図2及び
図3では、排水処理プラント100内の機器101a~101eの運転台数が変化する際における消費電力量の推移を示している。
【0029】
図3に示すように、従来の排水処理プラント内の機器の消費電力量の推移は、グラフの右端に示すように、機器101a~101e及び機器102a~107aの全てが稼働したときの消費電力量に基づき算出された契約使用量が設定され、機器102a~107aの消費電力は一定のまま、機器101a~101eの稼働台数の増加に応じて、合計の消費電力量が増加していくことになる。このため、通常時に機器101aと101bのみが稼働している状態であっても、基本料金に関わる契約使用量は機器101a~101eが稼働している分と同じ設定値となるため、結果として電力コストが割高になっている。
【0030】
一方、本実施態様における制御システム1では、排水処理プラント100の設計上、通常時として想定されている被処理水Wの量を安定して処理することができる機器の稼働分に基づく消費電力量を基準として契約使用量を決定する。例えば、
図2に示すように、通常時として機器101aと101b、及び、機器102a~107aが稼働しているときの消費電力量に基づき契約使用量を決定する。これにより、
図3に示した従来のものと比べ、契約使用量のベースを低減することが可能となる。また、通常時は、演算制御部2による機器の制御は不要となる。
一方、通常時とは異なる運転条件下となった場合、例えば、
図2に示すように、機器101a~101eの運転台数を増加させた場合においては、その他の機器102a~107aの稼働合計が減少するように、演算制御部2において機器の運転制御を行う。そして、機器全体の消費電力量の合計が契約使用量を下回るようにする。これにより、契約使用量自体のベースを下げることができ、かつ最大需要電力が契約使用量を超えないように排水処理プラント100の運転を行うことが可能となる。
【0031】
本実施態様における演算制御部2において、
図2に示すように、いずれかの機器の運転台数が増えた場合に、他の機器の稼働抑制あるいは稼働停止するための演算及び制御に係る具体的な手段については特に限定されない。例えば、排水処理プラント100内における処理として優先順位の高い順に機器を稼働させる一方で、処理として優先順位の低い順に機器の稼働停止あるいは稼働率の低減を行うように、各機器の運転を制御することが挙げられる。
【0032】
排水処理プラント100内の機器の稼働に係る優先順位の設定の一例について説明する。
一般に、排水処理プラント100においては、プラント100内に流入してくる被処理水Wは、プラント100内に受け入れた後、順次後段の設備に送っていく必要がある。
したがって、仮に、大雨などにより一時的に排水処理プラント100内に流入する被処理水Wの量が増加するといった緊急事態が生じた場合、排水処理プラント100においては、設備101(ポンプ場)における機器101a~101eである揚水ポンプの稼働が最優先される。
次いで、設備102及び設備104における機器102a及び機器104aの稼働が継続され、これにより排出される汚泥に係る処理を行う設備106における機器106aである汚泥脱水機の稼働が優先される。
大雨などによる被処理水Wの一時的な増加の場合、被処理水W自体は雨水により希釈された状態となっているため、処理能力は通常よりも必要とはされない。したがって、設備103における機器103aである曝気装置の稼働に係る優先度は低く設定される。
最後に、排水処理プラント100内の処理環境に関わる設備107における機器107aである脱臭塔の稼働に係る優先度が最も低く設定される。
【0033】
すなわち、流入する被処理水Wの量が増加し、必要となる機器101a~101e(揚水ポンプ)の稼働台数が増えるごとに、優先度の最も低い機器107a(脱臭塔)の稼働を停止し、次いで機器103a(曝気装置)の稼働停止あるいは稼働率を低下させ、次いで機器106a(汚泥脱水機)の稼働停止あるいは稼働率を低下させるという制御を行うものとすることが挙げられる。
【0034】
また、流入する被処理水Wの量の一時的な増加が解消し、排水処理プラント100の運転を通常時に戻す場合には、機器101a~101eの稼働台数が減るごとに、優先度が比較的高く、稼働停止などの制御を最後に行った順に稼働を回復させる。すなわち、機器106a、機器103a、機器107aの順に稼働を回復させ、排水処理プラント100の運転を通常時に戻していく制御を行うものとすることが挙げられる。
【0035】
なお、機器の稼働に係る優先度の設定は、上述したものに限定されない。例えば、排水処理プラント100内に設備106である汚泥処理設備自体が設置されていない場合もある。また、機器106aである汚泥脱水機自体が連続稼働されているとは限らない。このため、機器106aである汚泥脱水機の稼働に係る優先度の設定は、機器103a(曝気装置)や機器107a(脱臭塔)よりも低くするものとしてもよい。
【0036】
(記憶部)
記憶部3は、排水処理プラント100で使用される各機器101a~107aの使用電力に関するデータを記憶するためのものである。また、記憶部3と演算制御部2は入出力可能となるように接続されており、記憶部3のデータは、演算制御部2における演算及び制御に利用されるものである。
【0037】
記憶部3で記憶されるデータとしては、例えば、機器101a~107aごとの最大消費電力量、稼働率と消費電力量の関係等が挙げられる。これらのデータについては、機器101a~107aの装置仕様に基づき、あらかじめ作業者などが記憶部3に入力しておくものとすることや、機器101a~107aごとに稼働率と消費電力量の関係をテストした結果を利用することなどが挙げられる。
【0038】
記憶部3で記憶した各機器の使用電力に関するデータを用い、演算制御部2において機器の運転制御を行うことで、契約使用量内に収めるためには、どの機器をどの程度稼働させることができるのかについての演算に係る精度を高めることが可能となる。これにより、演算制御部2による機器の運転制御に係る精度を高めることが可能となる。
【0039】
(監視部)
監視部4は、排水処理プラント100で使用される各機器101a~107aの運転状況と処理状況を監視するためのものである。また、監視部4と演算制御部2は入出力可能となるように接続されており、監視部4で得られた機器101a~107aの運転状況及び処理状況に係るデータは、演算制御部2における演算及び制御に利用されるものである。
【0040】
監視部4で監視される機器101a~107aの運転状況及び処理状況に係るデータとしては、例えば、機器101a~107aに設置した各種計器から得られる測定データあるいは画像データのほか、排水処理プラント100の運転状況に関わる排水処理プラント100外の外部データも含まれる。このとき、外部データの一例としては、例えば、排水処理プラント100が下水処理施設である場合、排水処理プラント100の周辺地域における降水量、天候(晴、曇、雨、雪等)、風向、風速、気温、湿度、河川の水位等の実測値あるいは予測値や、家庭及び工場等における上水使用量データなどが挙げられる。
【0041】
監視部4で取得した各機器の運転状況及び処理状況に係るデータを用い、演算制御部2において機器の運転制御を行うことで、契約使用量内に収めるためには、どの機器をどの程度稼働させることができるのかについての演算に係る精度を高めることが可能となる。また、処理状況に係るデータから、排水処理プラント100として必要最低限の処理能力を維持した状態となるように、各機器の稼働割合を演算することが可能となる。これにより、演算制御部2による機器の運転制御に係る精度を高めることが可能となる。
【0042】
また、監視部4による監視を行うことで、演算制御部2により一部の機器の稼働停止あるいは稼働率を低下させた際における処理状況に対する影響を把握することが可能となる。この処理状況に係る影響を基に、機器の停止解除あるいは稼働率の回復を行った際に、必要に応じて、稼働停止・稼働抑制前よりも稼働率を高め、一時的に処理能力を高める制
御を行うものとしてもよい。これにより、仮に稼働停止・稼働抑制時に処理能力の低下を生じていた場合であっても、処理能力の回復を図ることが可能となる。
【0043】
演算制御部2、記憶部3及び監視部4においては、演算、機器の運転制御あるいはデータ取得を実行するための具体的手段は特に限定されない。例えば、作業者や管理者等、人による操作や判断を行うもの以外に、ネットワーク回線を介したデータの送受信装置や、データの整理、演算を行う計算装置等、あらかじめ設定されたプログラムなどに基づき、操作や演算を自動化するものなどが挙げられる。
演算制御部2、記憶部3及び監視部4に係る操作や演算を自動化するものの例としては、例えば、記憶部3としては、ROMやRAM等、半導体記憶素子やHDDで構成されるものを用いることが挙げられる。また、演算制御部2や監視部4としては、データ取得、演算及び機器の運転制御を行うために必要なプログラムを作成し、CPU等のプロセッサにより実行するものが挙げられる。
【0044】
(表示部(表示装置))
表示部5は、演算制御部2による演算に基づく機器の制御結果及び制御内容について表示するものである。また、表示部5は、演算制御部2、記憶部3、監視部4と入出力可能となるように接続されている。
表示部5は、管理者や作業者が視認できる形で情報を表示することができるディスプレイを備えるものとすることが挙げられる。
【0045】
表示部5は、排水処理プラント100内の機器101a~107aに対する制御結果及び制御内容に係る情報を表示することができるものであればよい。例えば、表示部5としては、
図2に示したように、契約使用量と、通常時におけるそれぞれの機器の稼働状態と、演算制御部2による制御下にある現在のそれぞれの機器の稼働状態とをグラフで示すことが挙げられる。また、必要に応じ、記憶部3や監視部4のデータを併せて表示することができるものとしてもよい。
【0046】
なお、表示部5は、機器101a~107aに対する制御結果及び制御内容、さらに記憶部3及び監視部4のデータについて全てを表示するものとしてもよいが、表示する情報量が多過ぎると、かえって管理者や作業者が内容を把握することが難しくなる可能性がある。そのため、表示部5で表示させる内容と非表示とする内容を選択あるいは切替可能とすることがより好ましい。例えば、排水処理プラント100の運転として、演算制御部2による制御を必要とする緊急事態が生じている際に、制御対象となった機器に係る制御結果及び制御内容を優先的に表示させることなどが挙げられる。
【0047】
また、表示部5で表示された情報に基づき、管理者や作業者は、排水処理プラント100の制御内容に対し、介入する判断及び操作を行ってもよい。これにより、排水処理プラント100の運転制御に係る精度をより一層高めることが可能となる。
【0048】
なお、表示部5に係る構成は、本発明に係る表示装置として独立したものとすることができる。この表示装置は、既設のプラント監視システムやプラント運転支援システムに組み込むものとすることができる。これにより、プラントの電力削減に係る制御内容等に関する情報を他のシステムにおいても提供することができる。
【0049】
以上のように、本実施態様における制御システムによれば、排水処理プラントの電力の契約使用量を基準として、排水処理プラント内で使用される機器の運転制御を行うことで、排水処理プラント内で使用される電力を常に契約使用量以内に収めることが可能となる。これにより、使用電力の削減だけではなく、契約使用量自体の引き下げが可能になる等、電力に係るコスト削減が可能になる。
【0050】
また、本実施態様における制御システムでは、機器の運転制御に際し、排水処理プラント内における処理として優先順位の高い順に稼働させ、処理として優先順位の低い順に稼働停止あるいは稼働率を低下させることで、緊急事態時にプラントにおける処理能力を最低限度維持した状態としつつ、電力を契約使用量内に収めることができる。これにより、プラントの安定運転を継続させるとともに、プラントの電力コストを低減させることが可能となる。
【0051】
なお、上述した実施態様は制御システム、表示装置及び制御方法の一例を示すものである。本発明に係る制御システム、表示装置及び制御方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る制御システム、表示装置及び制御方法を変形してもよい。
【0052】
例えば、本実施態様の制御システムにおいて、排水処理プラントの運転状況あるいは処理状況の変化に応じ、演算制御部においてその都度機器の制御に係る演算を行うものとしてもよいが、過去の運転状況及び処理状況における機器の制御結果を履歴として記憶させ、この履歴に基づく制御を行うものとしてもよい。これにより、演算制御部における演算処理に係る負荷を減らすことができる。また、過去に行った制御内容に基づく制御を行うことで、管理者や作業者が過去の制御内容及び制御結果を参照しながら、現在進行している運転制御に係る内容の把握及び運転制御への介入に係る判断がしやすくなるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の制御システム、表示装置及び制御方法は、排水処理プラントに対して利用されるものである。
【符号の説明】
【0054】
1 制御システム、2 演算制御部、3 記憶部、4 監視部、5 表示部、100 排水処理プラント、101~107 設備、101a~101e,102a~107a 機器、W 被処理水、W1 処理水