(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】インク組成物、それに用いられる分散液、その硬化膜であるインク硬化膜層が形成された積層体、像形成方法、及び印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/101 20140101AFI20240729BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240729BHJP
C09D 11/30 20140101ALN20240729BHJP
【FI】
C09D11/101
B41M5/00 120
B41M5/00 100
C09D11/30
(21)【出願番号】P 2020061844
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】犬丸 雅基
(72)【発明者】
【氏名】宇高 公淳
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩司
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056860(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189185(WO,A1)
【文献】特開2016-196655(JP,A)
【文献】特開2017-149825(JP,A)
【文献】特開2017-226143(JP,A)
【文献】特開2019-183018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線重合性化合物と、光重合開始剤と、黄色系色材と、を含む、光線により硬化する黄色系インク組成物であって、
前記黄色系色材の濃度が0.005%になるようにエチルジグリコールアセテートによって前記黄色系色材を希釈して吸光度評価用サンプルを作成し、該吸光度評価用サンプルに光線を照射して測定される吸光度において、波長395nmにおける下記一般式で定義される吸光度が1.54以上であり、
A
395=-log
10(I/I
0)・・・(1)
(式(1)中、A
395は波長395nmのときの吸光度、I
0は波長395nmのときの入射光強度、Iは波長395nmのときの透過光強度を意味する。)
前記光線重合性化合物は、重合性化合物Aを含み、
前記重合性化合物Aは、アミノ基と、エーテル基と、を含む構造を持つ繰り返し配列を有し、光線により重合される2つ以上の(メタ)アクリレート基を有するアミン(メタ)アクリレート化合物である重合性化合物であり、
前記光線重合性化合物は、重合して得られるポリマーのガラス転移点Tgが25℃以上60℃以下であって、光線により重合される(メタ)アクリレート基を有する(メタ)アクリレート化合物である
単官能重合性化合物をインク組成物全量中54.0質量%以上の割合でさらに含み、
前記光重合開始剤は、水素引抜型の開始剤を少なくとも含む、黄色系インク組成物。
【請求項2】
前記黄色系色材はC.I.Pigment Yellow 155、C.I.Pigment Yellow 120、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 154、及びC.I.Pigment Yellow 180からなる群より選択される少なくとも1以上を含む請求項1に記載の黄色系インク組成物。
【請求項3】
前記光重合開始剤の分子量は1000以下である請求項1又は2に記載の黄色系インク組成物。
【請求項4】
波長385nm以上395nm以下の光を含む光線によって硬化する、請求項1から
3のいずれかに記載の黄色系インク組成物。
【請求項5】
基材上に、請求項1から
4のいずれかに記載の黄色系インク組成物の硬化膜であるインク硬化膜層が形成された積層体。
【請求項6】
請求項1から
4のいずれかに記載の黄色系インク組成物を使用して基材上に画像及び/又は凹凸像を形成する像形成方法。
【請求項7】
請求項1から
4のいずれかに記載の黄色系インク組成物を使用して基材上に画像及び/又は凹凸像を形成する印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、それに用いられる分散液、その硬化膜であるインク硬化膜層が形成された積層体、像形成方法、及び印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線、電子線その他の活性エネルギー線によって硬化する活性エネルギー線硬化型インク組成物の開発が進められている。活性エネルギー線硬化型インク組成物は、重合性化合物が活性エネルギー線によって重合することで速やかにインク組成物の硬化膜を形成するものであるため、揮発性溶媒を含んでおらず環境に対して有害な成分の揮発が少ないことや、様々な基材に印刷できること等の優れた性能を有するためにインクジェット印刷等の幅広い分野で利用されている。
【0003】
インクジェット印刷は、基材の材質や形状を問わず、簡便・安価に画像を作成することができるため、ロゴ、図形、写真画像等の通常の印刷から、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷までの様々な分野に応用されており、活性エネルギー線硬化型インク組成物の性能と相まって、より良好な印刷物が得られるものとして期待が高まっている。そして最近では、印字後に延伸や曲げ加工される様々な基材にもインクジェット方式で印刷できるように要求されるようになっている。
【0004】
又、近年においては、環境保護の観点から、活性エネルギー線硬化型インク組成物の光源が、水銀ランプやメタルハライドランプから、発光ダイオード(LED)に置き換わりつつあり、生産効率性の観点から、LEDの照射エネルギーが小さい場合でも、十分に硬化できるインク組成物が要求されるようになってきている。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、所定のアミン化合物を含む光硬化型インクジェット用のインク組成物が開示されている。特許文献1、2によれば、これらのインク組成物は、LEDの光に対する硬化性に優れ、所定のシートに対する密着性が良好なインク組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-35650号公報
【文献】特許第5618997号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、黄色系色材は、青色や紫色等の比較的短波長側の光を吸収することにより黄色に発色する色材ではある。そして、例えば、Pigment Yellow155等の波長360nmから400nm程度の光の吸光度の大きい色材を含むことにより、高演色に優れるインク組成物となる。
【0008】
しかしながら、波長360nmから400nm程度の光の吸光度の大きい色材は、インク組成物を硬化させるための光線をも吸収してしまうことから、インク組成物の硬化性が低下する場合があることが本発明者によって見出された。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、所定波長の光の吸光度の大きい黄色系色材が含有されたインク組成物であっても、優れた硬化性を有する硬化膜を形成することができるインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、所定の重合性化合物及び光重合開始剤を含有したとインク組成物であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)光線重合性化合物と、光重合開始剤と、黄色系色材と、を含む、光線により硬化する黄色系のインク組成物であって、
前記黄色系色材の濃度が0.005%になるようにエチルジグリコールアセテートによって前記黄色系色材を希釈して吸光度評価用サンプルを作成し、該吸光度評価用サンプルに光線を照射して測定される吸光度において、波長395nmにおける下記一般式で定義される吸光度が1.54以上であり、
A395=-log10(I/I0)・・・(1)
(式(1)中、A395は波長395nmのときの吸光度、I0は波長395nmのときの入射光強度、Iは波長395nmのときの透過光強度を意味する。)
前記光線重合性化合物は、重合性化合物Aを含み、
前記重合性化合物Aは、アミノ基と、エーテル基と、を含む構造を持つ繰り返し配列を有し、2つ以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性化合物であり、
前記光重合開始剤は、水素引抜型の開始剤を少なくとも含む、インク組成物。
【0012】
(2)前記黄色系色材はC.I.Pigment Yellow 155、C.I.Pigment Yellow 120、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 154及びC.I.Pigment Yellow 180からなる群より選択される少なくとも1以上を含む(1)に記載の黄色系インク組成物。
【0013】
(3)前記光重合開始剤の分子量は1000以下である(1)又は2に記載の黄色系インク組成物。
【0014】
(4)前記光線重合性化合物は、更に単官能重合性化合物を含む、(1)から(3)のいずれかに記載の黄色系インク組成物。
【0015】
(5)波長385nm以上395nm以下の光を含む光線によって硬化する、(1)から(4)のいずれかに記載の黄色系インク組成物。
【0016】
(6)基材上に、(1)から(5)のいずれかに記載の黄色系インク組成物の硬化膜であるインク硬化膜層が形成された積層体。
【0017】
(7)(1)から(5)のいずれかに記載の黄色系インク組成物を使用して基材上に画像及び/又は凹凸像を形成する像形成方法。
【0018】
(8)(1)から(5)のいずれかに記載の黄色系インク組成物を使用して基材上に画像及び/又は凹凸像を形成する印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の黄色系インク組成物は、所定波長の光の吸光度の大きい黄色系色材が含有された黄色系インク組成物であっても、優れた硬化性を有する硬化膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
<黄色系インク組成物>
本発明の一実施形態の黄色系インク組成物は、光線重合性化合物と、光重合開始剤と、を含む黄色系インク組成物である。そして、光線重合性化合物は、重合性化合物Aを含む。尚、本明細書において、重合性化合物とは、その分子量によっては、モノマー、オリゴマー又はポリマーと称される化合物も含む概念として使用される。
【0022】
[光線重合性化合物]
光線重合性化合物とは、遠紫外線、紫外線、近紫外線、可視光線、赤外線等の光線により、重合されるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物である。光線重合性化合物に含まれる重合性化合物Aについて説明する。
【0023】
(重合性化合物A)
重合性化合物Aとは、アミノ基と、エーテル基と、を含む構造を持つ繰り返し配列を有し、2つ以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性化合物である。アミノ基と、エーテル基と、を含む構造を持つ繰り返し配列を有し、2つ以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性化合物Aを含む黄色系インク組成物であれば、硬化性、延伸性とタックの軽減との両立を可能とする硬化膜を形成することができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。これらは単独であっても複数であってもよい。
【0024】
重合性化合物Aとしては、アミノ基と、エーテル基と、を含む構造を持つ繰り返し配列を有し、2つ以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性化合物であればよく、具体的には、CN371NS(サートマー社製)、Genomer5275(Rahn社製)、Genomer5271(Rahn社製)等を挙げることができる。
【0025】
重合性化合物Aは、モノマー(低分子)であっても分子量によっては、オリゴマー又はポリマーと称される化合物であってもよい。重合性化合物Aの分子量は特に限定されるものではないが、分子量が50以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましい。分子量が1500以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。
【0026】
重合性化合物Aの合計含有量は黄色系インク組成物全量中1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更により好ましい。重合性化合物Aの合計含有量が黄色系インク組成物全量中1質量%以上であることにより、硬化膜の硬化性を向上させることができる。
【0027】
重合性化合物Aの合計含有量は黄色系インク組成物全量中15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、11質量%以下であることが更により好ましい。重合性化合物Aの合計含有量が黄色系インク組成物全量中15質量%以下であることにより、硬化膜の延伸性を向上させることができる。
【0028】
重合性化合物Aの合計含有量は光線重合性化合物全量中1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが最も好ましい。重合性化合物Aの合計含有量が黄色系インク組成物全量中1質量%以上であることにより、硬化性の延伸性を向上させることができる。
【0029】
(その他の重合性化合物)
上記の重合性化合物Aに加え、本発明の目的を達成できる範囲で、更に別の単官能重合性化合物及び/又は多官能重合性化合物を適宜加えてもよい。
【0030】
単官能重合性化合物としては、例えば、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(TBCH)、3,3,5-トリエチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(TMCHA)、トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート(CTFA)、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、γ-ブチロラクトン(メタ)アクリレート、クレゾール(メタ)アクリレート、2-アクリロイロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイロキシプロピルフタレート、パラクミルフェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルカプロラクタム、イミド(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及び、これらの(メタ)アクリレートにアルコキシ変性、及びカプロラクトン変性等の各種変性を有するもの、を挙げることができる。単官能重合性化合物を含むことにより、硬化膜の硬化性を向上させることができる。
【0031】
上記の単官能重合性化合物でも単官能重合性化合物を重合して得られるポリマーのガラス転移点Tgが25℃以上60℃以下となる単官能重合性化合物を含むことが好ましい。重合して得られるポリマーのガラス転移点Tgが25℃以上60℃以下となる単官能重合性化合物を含むことにより、硬化膜のタックを軽減し、硬化膜の延伸性を向上させることができる。重合して得られるポリマーのガラス転移点Tgが25℃以上60℃以下となる単官能重合性化合物とは、例えば、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(TBCH)、3,3,5-トリエチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート(TMCHA)、トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート(CTFA)等を挙げることができる。重合して得られるポリマーのガラス転移点とは、単官能重合性化合物A9gと、例えば、Irgacure 184(1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン)のような光重合開始剤を混合し、メタルハライドランプにて硬化させることにより作成したポリマーをJIS K7121記載のDSC法(示差走査熱量計)にて昇温速度10℃/分の条件で測定したガラス転移点を意味する。
【0032】
多官能重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルコキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、及びこれらの変性数違い、変性種違い、構造違いの(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0033】
多官能重合性化合物の合計含有量は光線重合性化合物全量中3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましい。多官能重合性化合物の合計含有量は光線重合性化合物全量中3質量%以上であることにより、硬化膜の硬化性を向上させることができる。
【0034】
多官能重合性化合物の合計含有量は光線重合性化合物全量中3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましい。多官能重合性化合物の合計含有量は光線重合性化合物全量中3質量%以上であることにより、硬化膜の硬化性を向上させることができる。
【0035】
多官能重合性化合物の合計含有量は光線重合性化合物全量中35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。多官能重合性化合物の合計含有量は光線重合性化合物全量中35質量%以下であることにより、硬化膜の延伸性を向上させることができる。
【0036】
[光重合開始剤]
本実施形態の黄色系インク組成物は、水素引抜型の開始剤である光重合開始剤を含む。水素引抜型の開始剤とは、光照射により水素を励起させラジカルを発生させる開始剤を意味する光重合開始剤である。
【0037】
光線は、ラジカル、カチオン、アニオン等の重合反応を契機し得るエネルギー線であれば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等いずれであってもよいが、硬化速度、照射装置の入手容易さ、価格等の観点において、紫外線照射による硬化が好ましい。水素引抜型の開始剤としては、従来公知の水素引抜型の開始剤を用いることができる。水素引抜型の開始剤の具体例として、例えば、チオキサントン等を含む芳香族ケトン類、α-アミノアルキルフェノン類、α-ヒドロキシケトン類、芳香族オニウム塩類、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物等が挙げられる。中でも、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン(チオキサントン系光重合開始剤)、4-ベンゾイル 4’-メチルジフェニル スルフィドが好ましい。
【0038】
本実施形態に関する光重合開始剤の量は光線重合性化合物の光重合反応を適切に開始できる量であればよく、黄色系インク組成物全体に対して1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましい。又、黄色系インク組成物全体に対して20.0質量%以下であることが好ましい。
【0039】
光重合開始剤と、光線重合性化合物と、の含有量比は、光重合開始剤/光線重合性化合物の質量比で0.001以上であることが好ましい。光重合開始剤/光線重合性化合物の質量比で0.001以上であることにより、硬化膜の硬化性をより効果的に向上させることができる。光重合開始剤と、光線重合性化合物と、の含有量比は、光重合開始剤/光線重合性化合物の質量比で0.1以下であることが好ましい。重合開始剤/光線重合性化合物の質量比で0.1以下であることにより、硬化膜の延伸性をより効果的に向上させることができる。
【0040】
又、光重合開始剤の分子量は1000以下であることが好ましく、700以下であることがより好ましく、500以下であることが更に好ましい。黄色系インク組成物中の光重合開始剤の分散性が向上し、光重合開始剤が均一に分散することができることから、硬化膜の硬化性が硬化膜全体で均一となる。
【0041】
[黄色系色材]
本実施形態の黄色系インク組成物は、黄色系色材を含有する。色材を含有することで、硬化膜を加飾用の硬化膜として好ましく用いることができる。色材は、染料であっても無機顔料又は有機顔料であってもよい。
【0042】
具体的には、黄色系色材の濃度が0.005%になるようにエチルジグリコールアセテートによって黄色系色材を希釈して吸光度評価用サンプルを作成し、吸光度評価用サンプルに光線を照射して測定される吸光度において、波長395nmにおける下記一般式で定義される吸光度が1.54以上である。波長395nmにおける一般式で定義される吸光度が1.54以上であることにより、高演色に優れる黄色系インク組成物となる。
【0043】
A395=-log10(I/I0)・・・(1)
(式(1)中、A395は波長395nmのときの吸光度、I0は波長395nmのときの入射光強度、Iは波長395nmのときの透過光強度を意味する。)
【0044】
黄色系色材により作成された吸光度評価用サンプルの吸光度が1.54以上であれば、その黄色系色材を含む黄色系インク組成物は高演色に優れる黄色系インク組成物である。
【0045】
このような黄色系色材としては、具体的にはPigment Yellow155(吸光度:2.46)、Pigment Yellow120(吸光度:1.96)、Pigment Yellow151(吸光度:2.08)、Pigment Yellow154(吸光度:1.52)、及びC.I.Pigment Yellow 180(吸光度:2.32)からなる群より選択される少なくとも1以上を挙げることができる。なお、括弧内の吸光度とは、吸光度評価用サンプルの波長395nmにおける吸光度である。
【0046】
尚、波長395nmにおける一般式で定義される吸光度が1.54以上であることが好ましく、1.60以上であることがより好ましく、1.80以上であることが更により好ましく、2.00以上であることが更に尚好ましい。
【0047】
本実施形態の黄色系インク組成物において黄色系色材として顔料を用いる場合、顔料の好ましい分散粒径は、レーザー散乱法による体積平均粒径で10nm以上であることが好ましい。又、本実施形態の黄色系インク組成物の顔料の好ましい分散粒径は、レーザー散乱法による体積平均粒径で300nm以下であることが好ましい。体積平均粒径を10nm以上、300nm以下、又は10nm以上300nm以下にすることで、耐光性を維持することが可能となることや、分散の安定化が可能となり顔料の沈降や記録装置で黄色系インク組成物を吐出する際でのヘッド詰まりや吐出曲がりが発生する可能性が軽減することが可能となるため、より好ましい黄色系インク組成物とすることができる。
【0048】
本実施形態において、顔料を用いる場合、その含有量は適宜調整されればよい。顔料の種類によっても異なるが、黄色系インク組成物全量における、顔料の含有量は、分散性と着色力を両立する点から、有機顔料の場合、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。又、分散性と着色力を両立する点から、有機顔料の場合、20.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましい。
【0049】
[分散剤]
本実施形態の黄色系インク組成物は、必要に応じて分散剤を含有してもよい。分散剤としては例えば高分子分散剤が挙げられる。この高分子分散剤の主鎖はポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプロラクトン系等からなり、高分子分散剤は、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基等の極性基やこれらの塩を有するのが好ましい。
【0050】
好ましい高分子分散剤はポリエステル系分散剤であり、具体例として、日本ルーブリゾール社製「ソルスパース33000」、「ソルスパース32000」、「ソルスパース24000」;ビックケミー社製「Disperbyk168」、「BYKJET-9150」、「BYKJET-9151」、「BYKJET-9152」;味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」、エボニック・ジャパン社製「TEGO Dispers685」等が挙げられる。
【0051】
[表面調整剤]
本実施形態の黄色系インク組成物は、更に表面調整剤を含有していてもよい。表面調整剤としては特に限定されないが、具体例としては、ジメチルポリシロキサンを有するビックケミー社製「BYK-306」、「BYK-333」、「BYK-371」、「BYK-377」、「BYK-UV3570」、「BYK-UV3500」、エボニックデグサジャパン社製「TegoRad2010」「TegoRad2100」、「TegoRad2200N」、「TegoRad2300」等が挙げられる。
【0052】
表面調整剤の含有量は、黄色系インク組成物全量に対して0.1質量%以上であることが好ましい。又、表面調整剤の含有量は、黄色系インク組成物全量に対して5.0質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以上、又は、5.0質量%以下とすることで、黄色系インク組成物が熱可塑性樹脂基材等に対し好ましい濡れ性を有することとなり、基材上に記録する(像を形成する)際に黄色系インク組成物がハジキを生じることなく濡れ広がることが可能となるため、特に好ましい黄色系インク組成物とすることができる。
【0053】
[艶消し剤]
本実施形態の黄色系インク組成物は、必要に応じて、艶消し剤を含有してもよい。艶消し剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムなどの各種の粉粒体を使用することができる。艶消し剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0054】
[その他の添加剤]
又、本実施形態の黄色系インク組成物は、その他の添加剤として、可塑剤、重合禁止剤、光安定化剤、酸化防止剤等、種々の添加剤を含有していてもよい。溶剤は本発明の目的を達成する範囲内で添加することもできる。
【0055】
又、本実施形態の黄色系インク組成物の表面張力は、インクジェットの吐出性、吐出安定性の点から、40℃での表面張力が20mN/m以上であることが好ましい。又、40℃での表面張力が40mN/m以下であることが好ましい。
【0056】
<分散液>
本実施形態の分散液は、上記の実施形態の黄色系インク組成物に用いられる分散液である。具体的には、光線重合性化合物を含み、必要に応じて色材等を含むが、光重合開始剤を含まない。本実施形態の分散液は、上記の実施形態の黄色系インク組成物の製造の前段階の分散液である。尚、光重合開始剤を除き、分散液に含まれる光線重合性化合物、色材、分散剤、表面調整剤、艶消し剤、各添加剤等は、上記の実施形態の黄色系インク組成物と同様である。本実施形態の分散液を用いることにより、上記の実施形態の黄色系インク組成物を製造することができる。
【0057】
<黄色系インク組成物の製造方法>
本実施形態の黄色系インク組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。又、粒状の色材、粒状の艶消し剤などを用いる場合は、分散機を用いて、光線重合性化合物、光重合開始剤、分散剤等で分散し、その後、必要に応じて表面調整剤等を添加して均一に撹拌し、更にフィルターで濾過することによって本実施形態の黄色系インク組成物が得られる。
【0058】
<積層体の製造方法>
本実施形態の積層体の製造は、上記黄色系インク組成物を、基材上へ好ましくはインクジェット方式で印刷した後、光線で硬化することによって行われる。印刷は、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スプレー方式、刷毛塗り方式など従来公知の方式で印刷可能であるが、小ロット多品種に対応できる点でインクジェット方式であることが好ましい。又、インクジェット方式で印刷する際にインクジェットヘッドを加熱した状態で印刷してもよいし、室温のまま印刷してよい。
【0059】
なお、本実施形態の黄色系インク組成物を使用して基材に画像を形成することができる。例えば、様々な色合いの色材をそれぞれ含有させたインク組成物のインクセットを用意し、インクジェット方式により印刷後、インク組成物を硬化することによって、基材に様々な画像を形成することができる。このような硬化膜を形成するインク組成物や基材上に画像を形成する像形成方法も本発明の範囲である。尚、本明細書において「画像」とは、単色又は複数の色からなる文字、図表、図形、記号、写真等を含む視覚を通じて認識することができる装飾的な像を意味し、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字などからなる絵柄等も含まれる。
【0060】
[基材]
基材は特に限定されず、例えば塗工紙、非塗工紙、布帛等の吸収体、非吸収性基材のいずれも使用することができる。具体的には、非塗工紙としては、更紙、中質紙、上質紙、塗工紙としては、コート紙、アート紙、キャスト紙、軽量コート紙、微塗工紙、布帛等の吸収体としては、綿、化繊織物、絹、麻、布帛、不織布、皮革等を例示でき、非吸収性基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系合成紙、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、金属、金属箔コート紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム等を例示できる。又、本実施形態のインク組成物は、金属等の可撓性を有しない基材を被記録媒体として使用する場合に限定されず、可撓性を有する基材を被記録媒体として使用する場合であっても、可撓性を有する基材が曲がることに起因する硬化膜の割れを効果的に抑制することができる。尚、「可撓性を有する」とは、室温時において曲率半径を通常直径1m、好ましくは50cm、より好ましくは30cm、更に好ましくは10cm、特に好ましくは5cmに曲げることが可能であることをいう。
【0061】
[光線による硬化]
本実施形態の黄色系インク組成物を含むインク組成物を硬化させた硬化膜(以下、「硬化膜」と表記することがある。)を形成するための光線は、光源から照射される波長385nm以上395nm以下の光を含む光線であることが好ましい。尚、「波長385nm以上395nm以下の光」とは、波長385nm以上395nm以下の光を含んでいればよく、例えば、波長385nm未満及び/又は波長395nm超の光を含む光線であってもよい。「波長385nm以上395nm以下の光を含む光線」は光線全体の30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが更に尚好ましい。なお、本明細書において「硬化膜」とは、黄色系インク組成物のみを硬化させた黄色系硬化膜のみを意味するものではない。黄色系インク組成物のみを硬化させた黄色系硬化膜も含むが、例えば黄色系インク組成物を含む複数のインク組成物のインクセット(例えば、YMCKやそれらに白などのインクをも含めたインクセット)により硬化させた硬化膜をも含む概念である。
【0062】
光源は、特に限定されるものではなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、太陽光、LED等が挙げられる。これらの光源を用い、積算光量が100mJ/cm2以上、好ましくは200mJ/cm2以上になるように光線を照射することにより、黄色系インク組成物を瞬時に硬化させることができる。
【0063】
省エネルギーであり、印刷装置の設計設備の自由度が高く生産効率性の観点から、光源としてLEDを用いることがより好ましい。特に、本実施形態の黄色系インク組成物は、硬化性を有する硬化膜を形成することのできるインク組成物であることから、比較的LEDの照射エネルギーが小さいLEDであっても効果的にインク組成物を硬化させることができる。
【0064】
光源は上述した光重合開始剤により水素を励起させラジカルを発生させる光源であればよい。光線は、ラジカル、カチオン、アニオン等の重合反応を契機し得るエネルギー線であれば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等いずれであってもよいが、硬化速度、光源の入手容易さ、価格等の観点において、紫外線照射による硬化が好ましい。
【0065】
[硬化膜]
上述した本実施形態の黄色系インク組成物を光線によって重合することで硬化膜が得られる。硬化膜の厚さは、1μm以上であることが好ましい。又、硬化膜の厚さは、100μm以下であることが好ましい。1μm以上にすることで、色材を含有する硬化膜の色濃度が薄くなることなく、意匠性や装飾性の低下や密着性、伸長性等の物性が向上するため、より好ましい。100μm以下にすることで、インク組成物に対して光線を照射した際に、インク組成物をより短時間で充分に硬化することができるようになるため、より好ましい。
【0066】
硬化膜の厚さの測定方法は、作製した硬化膜と同様の塗布条件でPETフィルム(東洋紡績社製、A4300)に本実施形態の黄色系インク組成物を塗布し、得られた硬化膜の厚さをマイクロメーターにより測定することができる。尚、本明細書において、硬化膜の厚さとは1サンプルにつき10箇所行い、これらの平均値を厚さ(平均厚さとする)。後述の保護層及びプライマーについても同様のものとする。
【0067】
また、黄色系インク組成物を含む複数のインク組成物のインクセットによって画像を形成することもできる。さらに、インク組成物の吐出量やインク組成物を吐出してから光線照射までの時間等の条件を調節することで、硬化膜の膜厚をあえて不均一にすることで凹凸が付けられた凹凸像を形成することもできる。具体的には、吐出量を吐出箇所によって増減させることで凹凸を付与することもできるし、又同一箇所でインク組成物の吐出と光線の照射とを繰り返すことで他の箇所との凹凸差を付与することもできる。このような基材上に画像及び/又は凹凸像を形成する像形成方法や印刷物の製造方法も本発明の範囲である。なお、そのようなは凹凸像の形成は条件調整が容易である点からインクジェット方式で形成することが好ましい。
【0068】
[その他の層]
本実施形態の黄色系インク組成物により形成される硬化膜に表面には硬化膜を保護するオーバーコート層を設けてもよい。このオーバーコート層は従来公知のオーバーコート組成物を用いて形成されてもよいし、本実施形態の黄色系インク組成物において色材を添加しないクリアインク組成物をオーバーコート層用の組成物として利用してもよい。
【0069】
本実施形態の黄色系インク組成物により形成される硬化膜は基材との密着性を向上させるためにプライマー層を設けてもよい。このプライマー層は従来公知のプライマー組成物を用いて形成されてもよいし、本実施形態の黄色系インク組成物において色材を添加しないクリアインク組成物をプライマー層用の組成物として利用してもよい。
【0070】
基材にオーバーコート層及び/又はプライマー層を形成する場合、これらの層を形成する方法としてはどのような方法であってもよく、例えば、スプレー塗布、タオル、スポンジ、不織布、ティッシュ等を用いた塗布、ディスペンサー、刷毛塗り、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット、熱転写方式等のいずれであってもよい。
【0071】
なお、オーバーコート層は、インク組成物の硬化膜からなる層の表面に形成される場合に限らず、基材の表面に直接形成されていてもよいし、基材の表面に形成された、プライマー層の表面に形成されていてもよい。
【0072】
オーバーコート層の厚さは、1μm以上であることが好ましい。1μm以上とすることで、硬化膜を適切に保護することができるため好ましい。又、オーバーコート層の厚さは、100μm以下であることが好ましい。100μm以下とすることで、オーバーコート層を形成するために乾燥時間が短縮され、生産性に優れたものとすることができるため好ましい。
【0073】
又、オーバーコート層を形成する際にインク組成物の吐出量やインク組成物を吐出してから光線照射までの時間等の条件を調節することで、オーバーコート層に凹凸差を付与することもできる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0075】
<インク組成物の調製>
実施例、比較例及び参考例における、インク組成物全量中の光線重合性化合物、光重合開始剤、重合禁止剤、高分子分散剤、添加剤、顔料(顔料分散体)の質量部を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1中、TMCHAとは、「3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート」Tg=52℃(単官能重合性化合物に相当)である。
【0078】
表1中、DPHAとは、「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」(多官能光線重合性化合物に相当)である。
【0079】
表1中、1,6HDAとは、「1,6-ヘキサンジオールジアクリレート」(多官能光線重合性化合物に相当)である。
【0080】
表1中、TMPTAとは、「トリメチロールプロパントリアクリレート」(多官能光線重合性化合物に相当)である。
【0081】
表1中、「Genomer5271(アミンアクリレート)」とは、アミノ基と、エーテル基と、を含む構造を持つ繰り返し配列を有し、2つ以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性化合物Aである。
【0082】
表1中、「ガンマブチロラクトン」とは、水溶性有機溶剤である。
【0083】
表1中、「JRCURE TPO」とは、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(分子量:348.37)あって光重合開始剤である。
【0084】
表1中、「DETX」とは、2,4-ジエチルチオキサントン(分子量268.3)であって水素引抜型の光重合開始剤である。
【0085】
表1中、「SpeedCURE BMS」とは、4-ベンゾイル 4’-メチルジフェニル スルフィド(分子量304.41)あって光重合開始剤である。
【0086】
表1中、「アンテージTDP」とは、フェノチアジン(川口化学工業社製)であって重合禁止剤である。
【0087】
表1中、「BYK-UV3570」とは、ビックケミー・ジャパン社製のBYK-UV3570(ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン溶液(有効成分70%))であって界面活性剤である。
【0088】
表1中、「Ye(PY155)ベース D/P=0.5,Pig12%(TBCH)」とは、黄色系顔料(Pigment Yellow155)分散剤/顔料比が0.5で黄色系顔料が12%になるように、TBCH(アクリル酸4-(1,1-ジメチルエチル)を加えた後、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)により分散して作製したイエローミルベースである。
【0089】
Pigment Yellow155の濃度が0.005%になるようにエチルジグリコールアセテートによって「Ye(PY155)ベース D/P=0.5,Pig12%(TBCH)」を希釈して吸光度評価用サンプルを作成した。そして、吸光度評価用サンプルの波長395nmにおける吸光度を測定したところ、「2.46」であった。
【0090】
表1中、「Ye(PY150)ベース D/P=0.5,Pig12%(TBCH)」とは、黄色系顔料(Pigment Yellow150)分散剤/顔料比が0.5で黄色系顔料が12%になるように、TBCH(アクリル酸4-(1,1-ジメチルエチル)を加えた後、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)により分散して作製したイエローミルベースである。
【0091】
Pigment Yellow150の濃度が0.005%になるようにエチルジグリコールアセテートによってYe(PY150)ベース D/P=0.5,Pig12%(TBCH)」を希釈して吸光度評価用サンプルを作成した。そして、吸光度評価用サンプルの波長395nmにおける吸光度を測定したところ、「0.96」であった。
【0092】
<臭気試験>
実施例、比較例及び参考例のインク組成物について、臭気試験を行った。具体的には、インク組成物をポリエチレングリコールで希釈し(インク組成物:ポリエチレングリコール=1:1000)、被験者5人に臭いを嗅いでもらい、官能評価した。過半数の評価が「臭気がしない」と判断した場合は“○”とし、過半数の評価が「不快な臭気がある」又は「わずかに臭気がある」と判断した場合は“×”とし、(表中、「臭気」と表記)。測定結果を表1に示す。
【0093】
〔積層体の製造〕
厚さ80μmの塩化ビニルを基材として積層体を製造した。基材の表面に、表1に示すインク組成物をインクジェット法にて硬化膜からなる各評価用サンプルを作製した。そして、UV-LEDランプ(波長395nm)を用いて積算光量が240mJでインク組成物を硬化した。積算光量及びピーク照度の測定は、紫外線光量計UV Power Puck 2(EIT社製)を用いて行った。これにより、硬化膜を作製した。
【0094】
<吐出性試験>
上記の硬化膜の表面を目視で確認して、実施例及び比較例のインク組成物を評価した。細線が正しく再現できている場合を“○”とし、わずかに曲がりがみられる場合を“△”とし、着弾位置がずれ、曲がりがみられる場合を“×”とした(表中、「吐出性」と表記)。
【0095】
<硬化性試験>
硬化性の評価は、硬化後の硬化膜を綿棒で擦り、色移りの有無を確認することにより行った。結果を表1に示す。綿棒により色移りが全く見られなかった場合を“○”とし、綿棒により色移りが殆ど見られなかった場合を“△”とし、綿棒により色移りが見られ、実質上許容範囲を超えた場合を“×”とした(表中、「硬化性」と表記。)。
【0096】
<評価結果>
表1より、所定波長(波長395nm)の吸光度の大きい黄色系色材が含有された実施例1~6のインク組成物は、優れた硬化性を有する硬化膜を形成することができるインク組成物であることが分かる。
【0097】
一方、比較例1のインク組成物は、アミノ基と、エーテル基と、を含む構造を持つ繰り返し配列を有し、2つ以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性化合物Aを含んでおらず、十分な硬化性を有する硬化膜を形成できていない。
【0098】
また、比較例2のインク組成物は、水素引抜型の光重合開始剤を含んでおらず、十分な硬化性を有する硬化膜を形成できていない。
【0099】
なお、参考例1~3のインク組成物は、優れた硬化性を有する硬化膜を形成することができたが、Pigment Yellow150を黄色系色材として含有しており、波長395nmにおける吸光度が1.54以上の黄色系色材を含まないインク組成物である。そのため、実施例1~6のインク組成物と比べ、高演色ではないインク組成物であることが推認される。
【0100】
一方、参考例2は、黄色系色材が異なることを除けば比較例1と同じ組成であり、参考例3は、黄色系色材が異なることを除けば比較例2と同じ組成であるが、参考例2、3は比較例1、2とは異なり硬化膜が良好となっている。このことから、本発明の課題として挙げられている硬化性の低下は、C.I.Pigment Yellow 155のような所定波長の光の吸光度の大きい所定の黄色系色材を含む黄色系インク組成物である場合に限り発生するものであることが分かる。