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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ヒンジキャップ
(51)【国際特許分類】
   B65D 47/08 20060101AFI20240729BHJP
   B65D 47/32 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B65D47/08 100
B65D47/32 300
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020098469
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021191684
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】518172978
【氏名又は名称】メビウスパッケージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桝屋 夏生
(72)【発明者】
【氏名】岩水 敬太
(72)【発明者】
【氏名】金田 禎二郎
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-091281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0111723(US,A1)
【文献】特開2009-262969(JP,A)
【文献】特開2020-033089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 47/08
B65D 47/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップ本体と、上蓋と、前記キャップ本体と前記上蓋とを連結するヒンジとを備え、
前記キャップ本体は、
容器の口部に装着されるように構成された側部と、
第1の天板と、
前記第1の天板に設けられた開口部と、
前記開口部の外周側に設けられた、前記第1の天板から立ち上がって前記上蓋を閉栓固定するように内周側に第1の係合部を有する立ち上がり部と
を備え、
前記上蓋は、
第2の天板と、
前記第2の天板から垂下して閉蓋時に前記第2の天板と共に前記開口部を封じるように構成された封止部と、
前記封止部の外周側かつ前記立ち上がり部の内周側に位置するように前記第2の天板から垂下し、閉蓋時に前記第1の係合部と係合するように構成された第2の係合部を有する垂下部と
を備える、
ヒンジキャップであって、
閉蓋時に、前記第1の係合部と前記第2の係合部との係合によって、前記キャップ本体に対して前記上蓋が閉じた状態で固定されるように構成されており、
閉蓋時に前記封止部の内側の前記第2の天板に容器内圧による力が加わったときには、前記第2の天板と前記封止部とによって前記開口部が封じられたまま前記第2の天板が撓んで前記垂下部が内周側に変位して前記第1の係合部と前記第2の係合部との係合が外れ、その結果、前記キャップ本体に対して前記上蓋が開くように構成されている、
ヒンジキャップ。
【請求項2】
前記封止部は、前記開口部の内周側に位置する、請求項に記載のヒンジキャップ。
【請求項3】
前記上蓋は、前記第2の天板の周縁から垂下する上蓋側部をさらに備え、
前記上蓋側部の厚さをTとし、前記垂下部の厚さをTとしたときに、
/4<T≦T
である、請求項1又は2に記載のヒンジキャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒンジキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
容器の口部に装着されるヒンジキャップが知られている。ヒンジキャップでは、キャップ本体に、ヒンジ部を介して結合されたキャップ本体の開口部を閉塞する上蓋が設けられている。ヒンジキャップにおいて、密封性が高いことは、好ましい一つの特徴ではあるが、密封性が高いのみでは、例えば何らかの理由により容器内部の圧力が高くなったときに容器が破裂したり、キャップが外れて飛んだりするおそれがある。このような破裂等を防ぐため、容器内部の圧力が高くなったときに、容器内外を通じる隙間が形成されて内圧を逃がす種々の機構が知られている。例えば特許文献1には、上蓋において、キャップ本体の外周面に嵌合する部分の一部が他の部分よりも薄く形成されており、内圧が上昇したときにはこの薄肉部分が変形することで内圧を逃がすことができるヒンジキャップの構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-52820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているように、内圧が上昇したときに隙間が形成されるような機構によっても、急激に内圧が上昇した場合には、容器の破裂等を防ぎきれない場合があり得る。
【0005】
本発明は、通常時の密封性を有しながら、急激な内圧上昇に対しても破裂等防止機能を発揮するヒンジキャップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、ヒンジキャップは、キャップ本体と、上蓋と、前記キャップ本体と前記上蓋とを連結するヒンジとを備え、前記キャップ本体は、容器の口部に装着されるように構成された側部と、第1の天板と、前記第1の天板から立ち上がって前記上蓋を閉栓固定するように内周側に第1の係合部を有する立ち上がり部とを備える。前記上蓋は、第2の天板と、前記第2の天板の周縁から垂下する上蓋側部と、前記第2の天板から垂下する封止部と、前記封止部の外周側かつ前記立ち上がり部の内周側に位置するように前記第2の天板から垂下し、閉蓋時に前記第1の係合部と係合するように構成された第2の係合部を有する垂下部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒンジキャップは、通常時の密封性を有しながら、急激な内圧上昇に対しても破裂等防止機能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、キャップと容器との構成例の概略を示す斜視図である。
図2図2は、上蓋が閉じた状態のヒンジキャップの正面図である。
図3図3は、上蓋が閉じた状態のヒンジキャップの側面図である。
図4図4は、上蓋が開いた状態のヒンジキャップの側面断面図である。
図5図5は、上蓋が開いた状態のヒンジキャップの平面図である。
図6図6は、上蓋が閉じた状態の容器に装着されたヒンジキャップの側面断面図である。
図7図7は、第1の係合部と第2の係合部との係合部の拡大断面図である。
図8A図8Aは、容器の内圧が上昇したときのキャップの形状を模式的に示す図である。
図8B図8Bは、容器の内圧が上昇したときのキャップの第1の係合部と第2の係合部との係合部を模式的に示す拡大図である。
図9A図9Aは、比較例に係るキャップの上蓋が閉じた状態の模式的な側面断面図である。
図9B図9Bは、容器の内圧が上昇したときの比較例に係るキャップの形状を模式的に示す図である。
図9C図9Cは、比較例に係るキャップの容器の内圧が上昇したときの係合部を模式的に示す拡大図である。
図10A図10Aは、数値シミュレーションのための実施形態に係るヒンジキャップのモデルについて説明するための図である。
図10B図10Bは、数値シミュレーションのための比較例に係るヒンジキャップのモデルについて説明するための図である。
図11図11は、数値シミュレーションによるミーゼス応力分布の解析結果の一例を示す図である。
図12図12は、数値シミュレーションのための実施形態に係るヒンジキャップのモデルについて説明するための図である。
図13図13は、数値シミュレーションによる解析結果の一例を示す図であり、垂下部の厚さと開口直前の圧力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[キャップの構成]
一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、ヒンジキャップ1と、それが取り付けられる容器9との構成例の概略を示す斜視図である。ヒンジキャップ1は、キャップ本体2と、キャップ本体2にヒンジ4を介して連結された上蓋3とを備える。ヒンジキャップ1は、螺着や打栓によって容器9の口部91に装着されるが、装着方法に特に限定はなく、どのような方式によってもよい。キャップ本体2は、第1の天板21と、第1の天板21に設けられた開口部22とを有する。容器9の内容物は、開口部22を介して取り出され得る。
【0010】
上蓋3は、ヒンジ4を軸として、キャップ本体2に対して回動するように構成されている。上蓋3は、第2の天板31を有し、キャップ本体2の開口部22を開閉するようにキャップ本体2に着脱するように構成されている。第2の天板31のキャップ本体2と対向する面からは、開口部22に対応するように封止部33が設けられている。上蓋3が閉じられた閉蓋時に、開口部22は、第2の天板31及び封止部33によって塞がれるようにヒンジキャップ1は構成されている。
【0011】
本実施形態のヒンジキャップ1は、閉蓋時に容器を密封するように構成されており、内容物は、例えば非食品であってよく、あるいは、食品であってもよい。特に、本実施形態のヒンジキャップ1は、内容物として、気体を発生させる可能性があるものであってもよいように構成されている。すなわち、化学反応、発酵などによって内容物から気体が発生して容器内の圧力が高くなったときに、キャップの密封性が高いと、内圧が極めて高くなったときに容器が破裂したり蓋が外れて飛んだりするおそれがある。このような場合に、本実施形態のヒンジキャップ1は、上蓋3が開いて圧力を逃がし、破裂等を防ぐように構成されている。従来、内圧が上昇したときに隙間が形成されて圧力が徐々に逃がされる防爆キャップが知られているが、本実施形態に係るヒンジキャップ1は、隙間からゆっくりと圧力を逃がすのではなく、蓋が開くことで急激に上昇した圧力をも逃がすことができる。したがって、このヒンジキャップ1は、内容物から大量に気体が発生して容器内の圧力が急激に高くなるような場合においても、容器の破裂等を防止する機能を発揮する。
【0012】
図2乃至図7を参照してヒンジキャップ1の構成についてさらに説明する。図2及び図3は、それぞれ、上蓋3が閉じた状態のヒンジキャップ1の、正面図及び側面図である。図4及び図5は、それぞれ、上蓋3が開いた状態のヒンジキャップ1の、側面断面図及び平面図である。図6は、上蓋3が閉じた状態の容器9に装着されたヒンジキャップ1の側面断面図である。図7は、後述する第1の係合部と第2の係合部との係合部の拡大断面図である。
【0013】
図2及び図3に示すように、ヒンジキャップ1のキャップ本体2及び上蓋3の各々は、円筒形状を有しており、上蓋3が閉じられた状態では、ヒンジキャップ1は全体として円筒形状となる。本実施形態の説明では、上蓋3が閉じた閉蓋時の状態を基準にして、キャップ本体2側を下側、上蓋3側を上側と称することにする。また、上記円筒形状の中心軸側を内周側、側面側を外周側と称することにする。また、キャップ本体2及び上蓋3の直径方向についてヒンジ4の側をヒンジ側、その反対側を反ヒンジ側と称することにする。
【0014】
図2及び図3に示すように、キャップ本体2は、円筒形状の側部25を有する。ヒンジ4と反対側の側部25には、上蓋3を開ける際にユーザの指が収まるように設けられた窪み部251が設けられている。図4及び図6に示すように、側部25の内周面には、容器9の口部91のネジと結合するネジが形成されている。側部25の上側には、上述のとおり第1の天板21が設けられており、第1の天板21には、開口部22が設けられている。本実施形態では、一例として、開口部22は、円形をしており、第1の天板21の中心よりも反ヒンジ側に偏って設けられている。
【0015】
図4及び図5に示すように、開口部22の周囲には、第1の天板21から上側に立ち上がる注出口23が設けられている。注出口23の上端部には、開口部22の内側に向けて膨らむ凸部231が設けられている。第1の天板21の周縁のわずかに内周側には、ヒンジ4の近傍を除いて第1の天板21の周縁に沿って、第1の天板21から立ち上がる立ち上がり部24が設けられている。立ち上がり部24の上端部には、内周側に向けて膨らむ凸部242が設けられており、これは後述する上蓋3と係合する第1の係合部241として機能する。
【0016】
図2及び図3に示すように、上蓋3は、円筒形状の上蓋側部35を有する。上蓋3の上蓋側部35の外径は、キャップ本体2の側部25の外径と一致している。上蓋3の上蓋側部35の反ヒンジ側には、上蓋3を開ける際にユーザの指が引っ掛かるように設けられた指掛かり部352が設けられている。上蓋3の上側には、上述のとおり第2の天板31が設けられている。
【0017】
図4乃至図6に示すように、上蓋3は、第2の天板31から垂下する、封止部33を備える。封止部33は、閉蓋時に開口部22及び注出口23の内側に位置して、第2の天板31と共に開口部22を封じるように構成されている。封止部33の外周には、閉蓋時に注出口23の凸部231と接触し続ける形状を有する接触面331が設けられている。本実施形態では、接触面331は、一例として、第2の天板31から垂直に伸びる直円柱の周面形状となっている。
【0018】
また、上蓋3は、第2の天板31から垂下する、垂下部34を備える。垂下部34は、上蓋3の封止部33の外周側かつキャップ本体2の立ち上がり部24の内周側に立ち上がり部24に沿って位置するように、上蓋3の第2の天板31から垂下している。言い換えると、キャップ本体2の立ち上がり部24は、閉蓋時に上蓋3の上蓋側部35と垂下部34との間に位置する。
【0019】
垂下部34は、その外周側に設けられた、閉蓋時にキャップ本体2の立ち上がり部24に設けられた第1の係合部241と係合するように構成された第2の係合部341を有する。言い換えると、キャップ本体2の第1の天板21から立ち上がる立ち上がり部24の内周側の第1の係合部241と、上蓋3の垂下部34の外周側の第2の係合部341とは、閉蓋時に係合するように構成されている。本実施形態では、第2の係合部341は、垂下部34の外周側に設けられており、図5に示すように、第2の係合部341は、最も反ヒンジ側の部分の1か所に加えて、その両側に2か所、合計3か所に設けられている。しかしながら、これに限らない。例えば、第2の係合部341は、連続的に設けられていてもよいし、最も反ヒンジ側の両脇に2つの第2の係合部341が設けられていてもよいし、いくつに分割されて設けられていてもよい。本実施形態では、開口部22が反ヒンジ側に偏心して配置されているため、第2の係合部341を反ヒンジ側に偏って設けているが、開口部22が第1の天板21の中心に設けられているのであれば、第2の係合部341は、垂下部34の全周にわたって連続的に又は分割されて設けられていてもよい。
【0020】
図7は、第1の係合部241と第2の係合部341との係合部の拡大断面図である。閉蓋時には、第1の係合部241と第2の係合部341との係合によって、キャップ本体2に対して上蓋3が閉じた状態で固定される。そしてこの閉蓋時には、上述のように、キャップ本体2の開口部22が上蓋3の第2の天板31及び封止部33によって塞がれる。
【0021】
蓋を開くときには、ユーザは、窪み部251に指を置き、指掛かり部352にその指を掛けるようにして指掛かり部352を上側に持ち上げて、上蓋3を開く。このとき、窪み部251がやや窪んでいることで、指掛かり部352はややヒンジ側に押され、上蓋3全体はわずかにヒンジ側に押されやすくなる。その結果、第1の係合部241と第2の係合部341との係合が外れる方向に垂下部34は変位し、上蓋3は開きやすくなる。
【0022】
なお、本実施形態は、第1の係合部241と第2の係合部341とが、それぞれ立ち上がり部24及び垂下部34から凸状に設けられている例であるが、これに限らない。第1の係合部241と第2の係合部341とは互いに係合すればよいので、一方が凸形状で他方が凹形状であってもよい。
【0023】
[ヒンジキャップの破裂等防止機能]
本実施形態に係るヒンジキャップ1の破裂を防止する機能について説明する。図8Aは、容器9の内圧が上昇したときのヒンジキャップ1の形状を模式的に示す図である。図8Aに矢印で示すように、容器9内の圧力が高まったとき、キャップ本体2の第1の天板21及び上蓋3の第2の天板31に上向きに力が掛かると、封止部33の内側の第2の天板31が上方向に押され第2の天板31は上側にドーム状に撓む。このとき、容器9内の圧力によって第2の天板31をドーム状に撓ませるには開口部22の開口面積がある程度大きいことが必要である。例えば、第1の天板21及び開口部22で形成される面における開口部22が占める面積は、10~60%程度であることが好ましい。例えば、第1の天板21の直径が60mmであるとき、開口部22の直径が20~45mmであれば、開口部22が占める面積は、11~56%となる。
【0024】
図8Bは、容器9の内圧が上昇したときのヒンジキャップ1の立ち上がり部24と垂下部34との係合部を模式的に示す拡大図である。この図に示すように、第2の天板31が上側にドーム状に撓むことで、垂下部34は、内周側に変位する。また、第1の天板21が上側に撓むことで、立ち上がり部24は外周側に変位する。その結果、立ち上がり部24の第1の係合部241と垂下部34の第2の係合部341との係合が外れる。そして、上蓋3はキャップ本体2に対して開き、容器9の内圧が素早く解放される。このようにして容器が破裂したり、キャップが外れて飛んだりすることが防がれる。
【0025】
特に、図7に示すように本実施形態では、上蓋側部35の厚さをTとし、垂下部34の厚さをTとしたときに、T/4<T≦Tの関係がある。これにより、上蓋3の主構造を形成する上蓋側部35の強度を保ちつつ、垂下部34が撓みやすいことで、第2の天板31及び垂下部34に上向きの力が掛かったときに、第1の係合部241及び第2の係合部341の係合が外れやすく上蓋3が開きやすくなる。
【0026】
図9Aは、比較例に係るヒンジキャップ1aの上蓋3aが閉じた状態の模式的な側面断面図である。この比較例は、よく知られているヒンジキャップの一態様である。すなわち、上述の実施形態と同様に、比較例に係るヒンジキャップ1aは、キャップ本体2aとヒンジ4aを介して結合された上蓋3aとを有している。そして、キャップ本体2aは、円筒形状の側部25aと、開口部22aが設けられた第1の天板21aとを有しており、開口部22aの周縁には、第1の天板21aから立ち上がる注出口23aが設けられている。また、上蓋3aは、円筒形状の上蓋側部35aと、第2の天板31aとを有し、また、キャップ本体2aの開口部22aを塞ぐように第2の天板31aから垂下し、注出口23aの内側に嵌まる封止部33aを有する。この比較例では、キャップ本体2aの側部25aの上端部の外周側に第1の係合部241aが設けられており、上蓋3aの上蓋側部35aの下端部の内周側に第2の係合部341aが設けられている。そして、外向きの第1の係合部241aと内向きの第2の係合部341aとが係合することで、キャップ本体2aと上蓋3aとが固定される。
【0027】
図9Bは、容器9aの内圧が上昇したときの比較例に係るヒンジキャップ1aの形状を模式的に示す図である。図9Cは、比較例に係るヒンジキャップ1aの容器9aの内圧が上昇したときの係合部を模式的に示す拡大図である。これら図に示すように、容器9aの内圧が上昇したとき、封止部33aの内側の第2の天板31aが上方向に押され第2の天板31aは上側にドーム状に撓む。第2の天板31aが上側にドーム状に撓むことで、上蓋側部35aは、内周側に変位する。また、第1の天板21aが上側に撓むことで、第1の天板21aの外縁は、外周側に変位する。その結果、側部25aの第1の係合部241aと上蓋側部35aの第2の係合部341aとの係合は、より強まることとなる。したがって、容器9aの内圧が上昇しても、キャップ本体2aと上蓋3aとは開くことがなく、場合によっては、容器が破裂等するおそれがある。
【0028】
以上の比較からも明らかなように、本実施形態に係るヒンジキャップ1は、容器内部の圧力が高くなったときに、破裂を防ぐために素早く内圧を逃がすように上蓋3が開く機能を有する。
【0029】
[数値シミュレーション]
上述のヒンジキャップ1の破裂等防止機能に関する、数値シミュレーションの結果を示す。汎用構造解析ソフトウェアを用いて有限要素法によるシミュレーションを実施した。上述の本実施形態に係るヒンジキャップ1及び図9Aを参照して説明した比較例に係るヒンジキャップ1aの2次元かつ軸対称のモデルを作成し、定常解析を行った。図10Aは、本実施形態に係るヒンジキャップ1のモデルを示し、図10Bは、比較例に係るヒンジキャップ1aのモデルを示す。反ヒンジ側半分のみの図示した形状を使用して、これを軸対称とした形状の2次元モデルを作成した。モデルにおいて、材料はポリプロピレン(PP)とし、ヤング率は900MPa、ポアソン比0.3、降伏応力28MPaとした。図10Aに示すモデルにおいて、第2の天板31の厚さは1.6mmとし、上蓋側部35の厚さTは1.6mmとし、垂下部34の厚さTは0.8mmとした。解析では、嵌合状態の解析を行い、その後、内圧を付与した状態の解析を行った。矢印81で示した封止部33,33aよりも内側の部分に内圧に相当する力を付与した。
【0030】
ミーゼス応力分布の解析結果を図11に示す。図11において、左列は、本実施形態に係るヒンジキャップ1の解析結果を示し、右列は、比較例に係るヒンジキャップ1aの解析結果を示す。上段は初期配置の状態の解析結果を示し、中段は嵌合状態の解析結果を示し、下段は上蓋3,3aが開く直前(開口直前)の状態の解析結果を示す。
【0031】
これらの図に示すように、本実施形態においても比較例においても、中段に示した嵌合状態では、注出口23,23aと接する封止部33,33aに応力がかかっている。
下段に示した開口直前の状態の内圧は、比較例の場合では61kPaであった。これに対して、本実施形態では11kPaであった。すなわち、本実施形態のヒンジキャップ1では、比較例の場合よりも低い内圧で上蓋3が開くことが明らかになった。比較例では、高い内圧が付与されても上蓋3aが開かないので、上蓋3aにかかる応力は、実施形態の上蓋3にかかる応力よりも大きくなっている。
【0032】
本実施形態においては、開口直前では、特に、立ち上がり部24の第1の係合部241と係合している第2の係合部341を含む垂下部34の下側に高い応力がかかっていることがわかる。また、このとき封止部33にかかる応力は、嵌合状態よりも小さくなっている。このことからも、上蓋3の各部が図右側に変位していることがわかる。
【0033】
これに対して、比較例においては、開口直前で、側部25aの第1の係合部241aと係合する上蓋側部35aの第2の係合部341aにおいてかかる応力が高くなっている。上蓋3aは、第2の係合部341aの部分で左向きに力を受けているので、上述の実施形態のように上蓋3aが図右側に変位することがないので、相変わらず封止部33aにも高い応力がかかっている。
【0034】
本実施形態の上蓋3の構造において、図12に示すように、垂下部34の厚さを変更した4つのモデルを作成した。すなわち、図12の上から順に示すように、垂下部34の厚さTを0.4mm、0.8mm、1.2mm、1.6mmとした4つのモデルを作成した。これらの厚さは、上蓋側部35の厚さTとの関係では、それぞれ、T=(1/4)T、T=(1/2)T、T=(3/4)T、T=Tとなる。2番目に示す垂下部34の厚さTを0.8mmとしたものが、図10Aに示したモデルである。
【0035】
図13は、図12に示すモデルを用いて開口直前の圧力を解析した結果を示すグラフである。垂下部34の厚さTを0.4mm、0.8mm、1.2mm、1.6mmとしたときに、開口直前の圧力は、それぞれ2.5kPa、11kPa、13.5kPa、19.5kPaとなった。なお、本シミュレーションでは、本来は3次元形状であるヒンジキャップ1を2次元軸対称のモデルを用いて解析しているため、圧力の値は相対的にのみ有意義である。この結果から、垂下部34の厚さTが厚いほど、開口直前の圧力が高い、すなわち、上蓋3が開きにくくなることが明らかになった。グラフの形状から、T/4<T≦T、特に、T/2≦T<Tが好ましいと考えられた。
【0036】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【0037】
例えば、上述の実施形態では、閉蓋時に上蓋3の封止部33は、キャップ本体2の注出口23の内側に位置するものとしたが、閉蓋時に密封性を保てる構造を有していれば、封止部33は、注出口23の外側に位置してもよい。また、注出口23は、第1の天板21から下側に、すなわち容器9側に伸びていてもよい。また、第1の天板21から立ち上がる注出口23は設けられずに、第1の天板21に開口部22が設けられているのみで開口部22の縁が代わりに機能してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…ヒンジキャップ
2…キャップ本体
21…第1の天板
22…開口部
23…注出口、231…凸部
24…立ち上がり部、241…第1の係合部、242…凸部
25…側部、251…窪み部
26…ネジ
3…上蓋
31…第2の天板
33…封止部、331…接触面
34…垂下部、341…第2の係合部
35…上蓋側部、352…指掛かり部
4…ヒンジ
9…容器
91…口部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11
図12
図13