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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20240729BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
F16D48/02 640A
B60T8/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020111892
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022011031
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-06-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】東 人司
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-006354(JP,A)
【文献】特開平03-028029(JP,A)
【文献】特開平02-159419(JP,A)
【文献】特開昭61-055413(JP,A)
【文献】特開2017-180773(JP,A)
【文献】特開2015-105701(JP,A)
【文献】特開2012-116301(JP,A)
【文献】特開昭61-052428(JP,A)
【文献】実開昭61-059947(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00-39/00
48/00-48/12
F16H 59/00-61/12
61/16-61/24
61/66-61/70
63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、
前記原動機からの動力を走行装置に伝達する接続状態と、前記走行装置への動力の伝達を切断する切断状態とに切り換え可能な走行クラッチと、
前記走行クラッチを前記切断状態から前記接続状態に切り換え可能な自動切換制御部と、
少なくとも前記原動機及び前記走行装置のいずれかの状態を検出可能な状態検出装置と、
制動操作部材の操作に応じて前記走行装置の制動が可能な制動装置と、
前記制動操作部材の操作に応じて前記制動を行う制動制御部と、
前記制動制御部による前記制動を行うか否かを選択する選択部材と、
を備え、
前記自動切換制御部は、前記選択部材によって前記制動を行わないと選択された場合、前記制動制御部による前記制動操作部材の操作に応じた前記走行装置の制動が行われず、前記制動操作部材の操作に応じて前記走行クラッチを前記切断状態から前記接続状態に切り換え、
前記自動切換制御部は、前記走行クラッチを前記切断状態から前記接続状態に切り換える切換速度を、前記状態検出装置が検出した状態に基づいて変更し、
前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値以上である場合には、前記接続状態から前記切断状態に切り換え、前記操作量が第1閾値未満である場合には、前記切断状態から前記接続状態に切り換え
前記状態検出装置は、前記走行装置の進行方向として前記走行装置の後退を検出し、
前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されたときの前記切換速度を、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されなかったときの前記切換速度よりも遅くする作業車両。
【請求項2】
前記状態検出装置は、前記原動機の負荷を検出し、
前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満になったときの前記負荷に応じて前記切換速度を変更する請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記負荷が第2閾値以上であるときの前記切換速度を、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記負荷が第2閾値未満であるときの前記切換速度よりも遅くする請求項に記載の作業車両。
【請求項4】
前記走行装置が後退したときの距離又は時間を設定する設定部を備え、
前記自動切換制御部は、前記設定部で設定された前記後退の距離又は時間を超えた場合には、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されたときの前記切換速度を、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されなかったときの前記切換速度よりも遅くする処理を停止する請求項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のブレーキ操作をした際に走行装置への動力を伝達するクラッチを切断する技術として特許文献1が知られている。特許文献1の工事用車両では、ブレーキを押し上げることによって、クローラに動力を伝達するクラッチを接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許5048655号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ブレーキを操作した場合にクラッチを切断から接続状態にしていたため、クラッチの接続状況によっては、当該クラッチの切り換え時にエンジンストールを行うことがあった。
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、原動機の動力を走行装置に伝達する走行クラッチを接続する際に効率よくエンジンストールを防止することができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
作業車両は、原動機と、前記原動機からの動力を走行装置に伝達する接続状態と、前記走行装置への動力の伝達を切断する切断状態とに切り換え可能な走行クラッチと、前記走行クラッチを前記切断状態から前記接続状態に切り換え可能な自動切換制御部と、少なくとも前記原動機及び前記走行装置のいずれかの状態を検出可能な状態検出装置と、制動操作部材の操作に応じて前記走行装置の制動が可能な制動装置と、前記制動操作部材の操作に応じて前記制動を行う制動制御部と、前記制動制御部による前記制動を行うか否かを選択する選択部材と、を備え、前記自動切換制御部は、前記選択部材によって前記制動を行わないと選択された場合、前記制動制御部による前記制動操作部材の操作に応じた前記走行装置の制動が行われず、前記制動操作部材の操作に応じて前記走行クラッチを前記切断状態から前記接続状態に切り換え、前記自動切換制御部は、前記走行クラッチを前記切断状態から前記接続状態に切り換える切換速度を、前記状態検出装置が検出した状態に基づいて変更し、前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値以上である場合には、前記接続状態から前記切断状態に切り換え、前記操作量が第1閾値未満である場合には、前記切断状態から前記接続状態に切り換え、前記状態検出装置は、前記走行装置の進行方向として前記走行装置の後退を検出し、前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されたときの前記切換速度を、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されなかったときの前記切換速度よりも遅くする
【0007】
記状態検出装置は、前記走行装置の進行方向を検出し、前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が閾値未満になったときの前記進行方向に応じて前記切換速度を変更する。
【0008】
前記状態検出装置は、前記進行方向として前記走行装置の後退を検出し、前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されたときの前記切換速度を、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されなかったときの前記切換速度よりも遅くする。
前記状態検出装置は、前記原動機の負荷を検出し、前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満になったときの前記負荷に応じて前記切換速度を変更する。
【0009】
前記自動切換制御部は、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記負荷が第2閾値以上であるときの前記切換速度を、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記負荷が第2閾値未満であるときの前記切換速度よりも遅くする。
作業車両は、前記走行装置が後退したときの距離又は時間を設定する設定部を備え、前記自動切換制御部は、前記設定部で設定された前記後退の距離又は時間を超えた場合には、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されたときの前記切換速度を、前記制動操作部材の操作量が第1閾値未満且つ前記後退が検出されなかったときの前記切換速度よりも遅くする処理を停止する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原動機の動力を走行装置に伝達する走行クラッチを接続する際に効率よくエンジンストールを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】トラクタの構成及び制御ブロック図を示す図である。
図2】運転席の周りを示す図である。
図3】前進切換弁に対して出力した制御信号を示す図である。
図4】設定画面の一例を示す図である。
図5】トラクタの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図5は作業車両1の一実施形態を示す側面図であり、図5は作業車両1の一実施形態を示す平面図である。本実施形態の場合、作業車両1はトラクタである。但し、作業車両1は、トラクタに限定されず、コンバインや移植機等の農業機械(農業車両)であってもよいし、ローダ作業機等の建設機械(建設車両)等であってもよい。
【0013】
以下、トラクタ(作業車両)1の運転席10に着座した運転者の前側を前方、運転者の後側を後方、運転者の左側を左方、運転者の右側を右方として説明する。また、作業車両1の前後方向に直交する方向である水平方向を車体幅方向として説明する。
図5に示すように、トラクタ1は、車体3と、原動機4と、変速装置5とを備えている。車体3は走行装置7を有していて走行可能である。走行装置7は、前輪7F及び後輪7Rを有する装置である。前輪7Fは、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。また、後輪7Rも、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。
【0014】
原動機4は、ディーゼルエンジン、電動モータ等であって、この実施形態ではディーゼルエンジンで構成されている。変速装置5は、変速によって走行装置7の推進力を切換可能であると共に、走行装置7の前進、後進の切換が可能である。車体3には運転席10が設けられている。
また、車体3の後部には、図示しない連結部が設けられている。連結部には、作業装置を着脱可能である。作業装置を連結部に連結することによって、車体3によって作業装置を牽引することができる。作業装置は、耕耘する耕耘装置、肥料を散布する肥料散布装置、農薬を散布する農薬散布装置、収穫を行う収穫装置、牧草等の刈取を行う刈取装置、牧草等の拡散を行う拡散装置、牧草等の集草を行う集草装置、牧草等の成形を行う成形装置等である。
【0015】
図2に示すように、運転席10の周囲には、車体3の操舵を行うステアリングホイール30、制動操作部材31及びクラッチ切換部材32が設けられている。制動操作部材31は、複数の操作部、例えば、左側に設けられたブレーキペダル31Lと、右側に設けられたブレーキペダル31Rとを含んでいる。ブレーキペダル31L及びブレーキペダル31Rは、車体3に揺動自在に支持され、運転席10に着座した運転者が操作することができる。
【0016】
クラッチ切換部材32は、クラッチペダル32Aと、クラッチレバー32Bとを含んでいる。クラッチペダル32Aは、車体3に揺動自在に支持されていて、ブレーキペダル31L及びブレーキペダル31Rと同様に、運転席10に着座した運転者が操作することができる。クラッチレバー32Bは、例えば、ステアリングホイール30の近傍で揺動自在に支持されていて、前進位置(F)と、後進位置(R)と、中立位置(N)とに切換可能である。クラッチレバー32Bを前進位置(F)に切り換え、図1に示したアクセルペダル、アクセルレバー等のアクセル41を操作することによって、トラクタ(作業車両)1を前進させることができる。また、クラッチレバー32Bを後進位置(R)に切り換え、アクセル41を操作することによって、トラクタ(作業車両)1を後進させることができる。クラッチレバー32Bが中立位置(N)である場合は、アクセル41を操作しても、トラクタ(作業車両)1は原動機4の駆動力によって前進も後進もしない。
【0017】
図1に示すように、変速装置5は、主軸(推進軸)5aと、主変速部5bと、副変速部5cと、走行クラッチ5dと、PTO動力伝達部5eと、を備えている。推進軸5aは、変速装置5のハウジングケース(ミッションケース)に回転自在に支持され、当該推進軸5aには、原動機4のクランク軸からの動力が伝達される。主変速部5bは、複数のギア及び当該ギアの接続を変更するシフタを有している。主変速部5bは、複数のギアの接続(噛合)をシフタで適宜変更することによって、推進軸5aから入力された回転を変更して出力する(変速する)。
【0018】
副変速部5cは、主変速部5bと同様に、複数のギア及び当該ギアの接続を変更するシフタを有している。副変速部5cは、複数のギアの接続(噛合)をシフタで適宜変更することによって、主変速部5bから入力された回転を変更して出力する(変速する)。
走行クラッチ5dは、走行装置7(前輪7F、後輪7R)に動力を伝達する接続状態と、走行装置7への動力の伝達を切断する切断状態とに切り換え可能なクラッチである。走行クラッチ5dは、シャトル軸12と、クラッチ切換部13とを有している。シャトル軸12には、原動機4から出力された動力が伝達される。クラッチ切換部13は、前進側、後進側及び中立側に切り換えられる油圧クラッチである。
【0019】
クラッチ切換部13は、油路(図示省略)等を介して接続された前進切換弁26及び後進切換弁27に接続されている。前進切換弁26及び後進切換弁27は、例えば、二位置電磁切換弁である。前進切換弁26のソレノイドが励磁された場合は、クラッチ切換部13は、前進側に切り換わり、後進切換弁27のソレノイドが励磁された場合は、クラッチ切換部13は、後進側に切り換わる。前進切換弁26及び後進切換弁27のソレノイドのそれぞれが消磁された場合は、クラッチ切換部13は、中立側に切り換わる。
【0020】
図1に示すように、クラッチ切換部13の切換は、クラッチ切換部材32及び制御装置40によって行うことが可能である。クラッチレバー32Bが前進位置(F)である場合には、制御装置40から出力された電流等の制御信号によって、前進切換弁26のソレノイドが励磁され、一方で、後進切換弁27のソレノイドが消磁され、クラッチ切換部13は前進側に切り換えられる。クラッチレバー32Bが後進位置(R)である場合には、制御装置40から出力された電流等の制御信号によって、前進切換弁26のソレノイドが消磁され、一方で、後進切換弁27のソレノイドが励磁され、クラッチ切換部13は後進側に切り換えられる。クラッチレバー32Bが中立位置(N)である場合には、制御装置40から出力された電流等の制御信号によって、が前進切換弁26及び後進切換弁27のソレノイドの消磁が維持され、クラッチ切換部13は中立側に切り換えられる。
【0021】
また、クラッチレバー32Bが前進位置(F)及び後進位置(R)の状態で、クラッチペダル32Aが操作されると、制御装置40から出力された電流等の制御信号によって、前進切換弁26及び後進切換弁27のいずれかのソレノイドが励磁され、クラッチ切換部13は前進側及び後進側のいずれかから中立側に切り換えられる。
シャトル軸12は、推進軸5aに接続されている。推進軸5aの動力は、主変速部5b及び副変速部5cに伝達され、副変速部5cから出力された動力は後輪デフ装置20Rに伝達される。後輪デフ装置20Rは、後輪7Rが取り付けられた後車軸21Rを回転自在に支持している。つまり、走行クラッチ5dは、クラッチ切換部13が前進側及び後進側のいずれかに切り換えられた場合は、接続状態であって走行装置7(前輪7F、後輪7R)に動力を伝達する。また、走行クラッチ5dは、クラッチ切換部13が中立側に切り換えられた場合は、切断状態であって走行装置7への動力の伝達を切断する。
【0022】
PTO動力伝達部5eは、PTO推進軸14と、PTOクラッチ15とを有している。PTO推進軸14は、回転自在に支持され、推進軸5aからの動力が伝達可能である。PTO推進軸14は、ギア等を介してPTO軸16に接続されている。PTOクラッチ15は、例えば、油圧クラッチ等で構成され、油圧クラッチの入切によって、推進軸5aの動力をPTO推進軸14に伝達する状態と、推進軸5aの動力をPTO推進軸14に伝達しない状態とに切り換わる。
【0023】
図1に示すように、トラクタ1は、制動装置を備えている。制動装置は、左制動装置46aと、右制動装置46bとを有している。左制動装置46a及び右制動装置46bは、
ディスク型の制動装置であり、制動する制動状態と、制動を解除する解除状態に切換可能である。左制動装置46aは、後車軸21Rの左側に設けられ、右制動装置46bは、後車軸21Rの右側に設けられている。トラクタ1を操作する運転者が図2に示すブレーキペダル31Lを操作する(踏み込む)ことによって、ブレーキペダル31Lに連結された左連結部材47aが制動方向へ動き、左制動装置46aを制動状態にすることができる。運転者がブレーキペダル31Rを操作する(踏み込む)ことによって、ブレーキペダル31Rに連結された右連結部材47bが制動方向へ動き、右制動装置46bを制動状態にすることができる。
【0024】
また、左連結部材47aには、作動油により作動する左油圧作動部48aが連結されている。左油圧作動部48aには、油路を介して左制動弁49aが接続されている。左制動弁49aによって、左油圧作動部48aを作動させることにより、左連結部材47aを制動方向に移動させることができる。また、右連結部材47bには、作動油により作動する右油圧作動部48bが連結されている。右油圧作動部48bには、油路を介して右制動弁49bが接続されている。右制動弁49bによって、右油圧作動部48bを作動させることにより、右連結部材47bを制動方向に移動させることができる。
【0025】
以上のように、左制動装置46a及び右制動装置46bは、ブレーキペダル31L及びブレーキペダル31Rの操作によって、左の後輪7R及び右の後輪7Rのそれぞれを独立して制動状態にすることができる。
図1に示すように、トラクタ1は、制御装置40を備えている。制御装置40は、トラクタ1の様々な制御を行う。制御装置40は、状態検出装置42が接続されている。状態検出装置42は、トラクタ1(走行装置7)の進行方向を検出可能な車速センサ42a、原動機4にかかっている負荷を検出可能な負荷検出センサ42b、制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作量を検出するブレーキ操作検出センサ42c、クラッチレバー32Bのポジションを検出するクラッチレバーセンサ42d、クラッチペダル32Aの操作量を検出するクラッチ操作検出センサ42eと、含んでいる。なお、状態検出装置42は、車速センサ42a、負荷検出センサ42b、ブレーキ操作検出センサ42c、クラッチレバーセンサ42d、クラッチ操作検出センサ42eの全てを含んでいる必要はなく、トラクタ1の仕様に応じたセンサを含んでいればよく、限定されない。
【0026】
制御装置40は、制動制御部40Aを有している。制動制御部40Aは、制御装置40に設けられた電気電子回路、当該制御装置40に設けられたプログラム等である。制御装置40には、制動制御部40Aによる制動を行うか否かを選択する選択部材45が接続されている。選択部材45、運転席10の周囲に設置され、ON/OFFに切換え可能なスイッチである。選択部材45は、ONである場合には、制動制御部40Aによる制動を行うことが選択されたことを制御装置40に指令し、OFFである場合には、制動制御部40Aによる制動を行わないことが選択されたことを制御装置40に指令する。
【0027】
制動制御部40Aは、選択部材45がONであり且つ、ブレーキペダル31Lの操作がブレーキ操作検出センサ42cにより検出された場合、左油圧作動部48aを作動させることにより左制動装置46aによる制動を行う。また、制動制御部40Aは、選択部材45がONであり且つ、ブレーキペダル31Rの操作がブレーキ操作検出センサ42cにより検出された場合、右油圧作動部48bを作動させることにより右制動装置46bによる制動を行う。また、制動制御部40Aは、選択部材45がONであり且つ、ブレーキペダル31L及びブレーキペダル31Rの操作がブレーキ操作検出センサ42cにより検出された場合、左油圧作動部48a及び左油圧作動部48aを作動させることにより、左制動装置46a及び右制動装置46bによる制動を行う。
【0028】
制御装置40は、クラッチレバーセンサ42dによってクラッチレバー32Bが前進位置(F)に切り換えられたことを検出された場合、前進切換弁26のソレノイドを励磁することによって、走行クラッチ5dを前進側に切り換える。制御装置40は、クラッチレバーセンサ42dによってクラッチレバー32Bが後進位置(R)に切り換えられたことを検出された場合、後進切換弁27のソレノイドを励磁することによって、走行クラッチ
5dを後進側に切り換える。制御装置40は、クラッチレバーセンサ42dによってクラッチレバー32Bが中立位置(N)に切り換えられたことを検出された場合、前進切換弁26及び後進切換弁27のソレノイドを消磁することによって、走行クラッチ5dを切断状態にする。
【0029】
制御装置40は、自動切換制御部40Bを有している。自動切換制御部40Bは、制御装置40に設けられた電気電子回路、当該制御装置40に設けられたプログラム等である。自動切換制御部40Bは、制動制御部40Aによる制動が行われないとき、即ち、選択部材45がOFFであるとき、制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作に応じて、走行クラッチ5dを切り換え可能である。
【0030】
具体的には、自動切換制御部40Bは、走行クラッチ5dが前進側に切り換えられている状態で、ブレーキ操作検出センサ42cによって検出された制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作量が第1閾値以上である場合には、前進切換弁26及び後進切換弁27へ出力した制御信号によって走行クラッチ5dを接続状態から切断状態に切り換える。また、自動切換制御部40Bは、走行クラッチ5dが前進側に切り換えられている状態で、制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作量が第1閾値未満である場合には、前進切換弁26及び後進切換弁27へ出力した制御信号によって切断状態から接続状態に切り換える。
【0031】
即ち、走行クラッチ5dが前進側に切り換えられている状態で、操作量が第1閾値以上になるまでブレーキペダル31L、ブレーキペダル31Rを踏み込むと、走行装置7への動力の伝達が遮断され、トラクタ1は前進しない状態になる。一方、走行クラッチ5dが前進側に切り換えられている状態で、ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31Rを踏み込んで操作量を第1閾値以上にした状態から、踏み込みを解除することでブレーキペダル31L、ブレーキペダル31Rの操作量を第1閾値未満にした場合、走行装置7への動力の伝達が行われ、トラクタ1は前進する。
【0032】
図3は、自動切換制御部40Bによって、走行クラッチ5dを切断状態から接続状態に切り換えたときの前進切換弁26に出力した制御信号を示している。
図3に示すように、ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31Rの操作量が時点P10で第1閾値未満になった場合、自動切換制御部40Bは、前進切換弁26のソレノイドに出力する制御信号の電流値A1を瞬間的に上昇させた後(ワンショット区間T1)、電流値A1を低下させて、その後、電流値A1を徐々に上昇させる(モジュレーション区間T2)。自動切換制御部40Bは、モジュレーション区間T2においては、進行方向に応じて制御信号の電流値A1の速度(切換速度)、即ち、モジュレーション区間T2における制御信号の電流値A1を示す直線L1の角度を変更する。
【0033】
具体的には、自動切換制御部40Bは、ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31Rの操作量が第1閾値未満になったときの時点P10におけるトラクタ1(走行装置7)の進行方向を参照する。自動切換制御部40Bは、時点P10で、状態検出装置42が進行方向としてトラクタ1(走行装置7)の後退を検出しなかった場合、切換速度(第2速度)を直線L1の実線で示される状態にする。一方、自動切換制御部40Bは、時点P10で、トラクタ1(走行装置7)の後退を検出した場合、切換速度(第1速度)を直線L1の点線で示される状態することで、切換速度(第1速度)を遅くする。つまり、自動切換制御部40Bは、制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作量が第1閾値未満且つ後退が検出されたときの切換速度(1速度)を、制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作量が第1閾値未満且つ後退が検出されなかったときの切換速度(第2速度)よりも遅くする。
【0034】
以上によれば、例えば、トラクタ1(走行装置7)が坂道に位置している状態で、運転者がブレーキペダル31L、ブレーキペダル31Rから足を離し、走行クラッチ5dを切り換えることでトラクタ1(走行装置7)を前進させる場合、トラクタ1(走行装置7)が後方に下がったとしても(後退)したとしても)、走行クラッチ5dの切換速度(第1速度)を遅くすることで、原動機4のエンジンストールを防止することができる。
【0035】
なお、トラクタ1(走行装置7)が坂道に位置している状態で、走行クラッチ5dの切
換速度(第1速度)が遅すぎると、トラクタ1(走行装置7)が後方に下がってしまう距離等が長くなることがある。そこで、トラクタ1では、当該トラクタ1(走行装置7)が後方に下がってしまう距離、時間を、運転者が設定できる。
図1に示すように、制御装置40は、設定部40Cを備えている。設定部40Cは、制御装置40に設けられた電気電子回路、当該制御装置40に設けられたプログラム等である。トラクタ1の運転席10の周囲に設けられた表示装置50に対して所定の操作を行うと、図4に示すように、設定部40Cは、設定画面M1を表示する。設定画面M1は、後退の許容できる距離(許容距離)を入力する距離入力部61と、後退の許容できる時間(許容時間)を入力する時間入力部62とを含んでいる。運転者が表示装置50に接続されたスイッチ等を操作することによって、距離入力部61、時間入力部62のそれぞれに、許容距離、許容時間を入力することができる。許容距離、許容時間は、制御装置40に記憶される。
【0036】
なお、設定画面M1は、距離入力部61、時間入力部62のどちらか一方を表示して、許容距離、許容時間のどちらか一方を入力できるようにしてもよい。
自動切換制御部40Bは、許容距離が設定されている場合、状態検出装置42が後退を検出してからの後退距離を監視する。後退距離は、例えば、車速センサ42aで検出された車軸の回転数等から演算することができる。なお、上述した後退距離の演算方法は、一例であり、限定されない。自動切換制御部40Bは、モジュレーション区間T2において、直線L1の点線に対応するように、制御信号の電流値A1を前進切換弁26に出力している状況において、後退距離が許容距離に達すると、制御信号を急峻に立ち上げることで、切換速度(第1速度)を変更する制御(第1速度を第2速度よりも低下させる低下処理)を終了する。
【0037】
また、自動切換制御部40Bは、許容時間が設定されている場合、状態検出装置42が後退を検出してからの後退時間を監視する。後退時間は、例えば、制御装置40内に設けられた計時部(タイマー)により計ることができる。なお、上述した後退時間の計測方法は、一例であり、限定されない。自動切換制御部40Bは、モジュレーション区間T2において、直線L1の点線に対応するように、制御信号の電流値A1を前進切換弁26に出力している状況において、後退時間が許容時間に達すると、制御信号を急峻に立ち上げることで、切換速度(第1速度)を変更する制御(低下処理)を終了する。
【0038】
したがって、運転者が意図した許容距離、許容時間の中で、低下処理を行うことができる。
さて、上述した実施形態では、トラクタ1(走行装置7)の後退の有無等に基づいて、走行クラッチ5dの切換速度を変更していたが、原動機4の負荷(原動機4にかかっている負荷)に応じて、走行クラッチ5dの切換速度を変更してもよい。
【0039】
自動切換制御部40Bは、制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作量が第1閾値未満になったときの原動機4の負荷に応じて切換速度を変更する。具体的には、自動切換制御部40Bは、ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31Rの操作量が第1閾値未満になったときの時点P10におけるトラクタ1(走行装置7)の原動機4の負荷を参照する。原動機4の負荷は、状態検出装置42(負荷検出センサ42b)により検出することができる。
【0040】
図3に示すように、自動切換制御部40Bは、時点P10で、状態検出装置42(負荷検出センサ42b)が検出した負荷が第2閾値未満であるとき、切換速度(第2速度)を直線L1の実線で示される状態にする。一方、自動切換制御部40Bは、時点P10で、状態検出装置42(負荷検出センサ42b)が検出した負荷が第2閾値以上であるとき、切換速度(第1速度)を直線L1の点線で示される状態することで、切換速度(第1速度)を遅くする。つまり、自動切換制御部40Bは、制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作量が第1閾値未満且つ原動機4の負荷が第2閾値以上であるときの切換速度(1速度)を、制動操作部材31(ブレーキペダル31L、ブレーキペダル31R)の操作量が第1閾値未満且つ原動機4の負荷が第2閾値未満であるときの切換速度(第2速度)よりも遅くする。
【0041】
以上によれば、例えば、坂道でトラクタ1(走行装置7)を制動操作部材31の操作による走行クラッチ5dによって前進させる場合において、原動機4の負荷が第2閾値以上であって負荷が高いときに、走行クラッチ5dの切換速度(第1速度)を遅くすることで、原動機4のエンジンストールを防止することができる。なお、原動機4の負荷が第2閾値未満であって負荷が低いときは、原動機4のエンジンストールが発生し難いため、走行クラッチ5dの切換速度(第2速度)を速くすることで、素早く坂道を上ることができる。
【0042】
作業車両1は、原動機4と、原動機4からの動力を走行装置7に伝達する接続状態と、走行装置7への動力の伝達を切断する切断状態とに切り換え可能な走行クラッチ5dと、走行クラッチ5dを切断状態から接続状態に切り換え可能な自動切換制御部40Bと、少なくとも原動機4及び走行装置7のいずれかの状態を検出可能な状態検出装置42と、を備え、自動切換制御部40Bは、走行クラッチ5dを切断状態から接続状態に切り換える切換速度を、状態検出装置42が検出した状態に基づいて変更する。これによれば、原動機4及び走行装置7のいずれかの状態に対応して、走行クラッチ5dを切断状態から接続状態に切り換える切換速度を変更することができるため、例えば、原動機4の負荷、走行装置7の進行方向などに基づいて、走行クラッチ5dの切換速度を自動的に速くしたり、遅くしたりすることができる。その結果、走行クラッチ5dの変更時において原動機4に掛かる力を低減することができ、原動機4のエンジンストールの防止を行うことができる。
【0043】
作業車両1は、制動操作部材31の操作に応じて走行装置7の制動が可能な制動装置と、制動操作部材31の操作に応じて制動を行う制動制御部40Aと、制動制御部40Aによる制動を行うか否かを選択する選択部材45と、を備え、自動切換制御部40Bは、選択部材45によって制動を行わないと選択された場合、制動操作部材31の操作に応じて走行クラッチ5dを切断状態から接続状態に切り換える。これによれば、制動制御部40Aによって制動を行わない場合に、作業車両1を停止した状態から制動操作部材31の操作を行うだけで、走行クラッチ5dの切換により、作業車両1を簡単に発進させることができる。このように、制動操作部材31の操作により作業車両1を簡単に発進させるという中で、原動機4及び走行装置7のいずれかの状態を見ながら、走行クラッチ5dの切換速度を変更できることから、制動操作部材31によって停止及び発進を繰り返すような場合であっても、エンジンストールを防止することができる。
【0044】
自動切換制御部40Bは、制動操作部材31の操作量が第1閾値以上である場合には、接続状態から切断状態に切り換え、操作量が第1閾値未満である場合には、切断状態から接続状態に切り換える。これによれば、制動操作部材31の操作量が第1閾値以上で大きい場合には、走行クラッチ5dを切断することにより、原動機4の動力を走行装置7へ伝達しないようにすることができる一方で、制動操作部材31の操作量が第1閾値未満で小さい場合には、走行クラッチ5dを接続することにより、原動機4の動力を走行装置7へ伝達して発進を行うことができる。
【0045】
状態検出装置42は、走行装置7の進行方向を検出し、自動切換制御部40Bは、制動操作部材31の操作量が閾値未満になったときの進行方向に応じて切換速度を変更する。これによれば、例えば、作業車両1の発進時に進行方向が変化するような状況でも、エンジンストールを防止することができる。
状態検出装置42は、進行方向として走行装置7の後退を検出し、自動切換制御部40Bは、制動操作部材31の操作量が第1閾値未満且つ後退が検出されたときの切換速度を、制動操作部材31の操作量が第1閾値未満且つ後退が検出されなかったときの切換速度よりも遅くする。これによれば、例えば、作業車両1が坂道で停止している状態から発進(前進)させる場合において、走行装置7が後退してしまうことを許容しつつもエンジンストールを防止することができる。
【0046】
状態検出装置42は、原動機4の負荷を検出し、自動切換制御部40Bは、制動操作部材31の操作量が第1閾値未満になったときの負荷に応じて切換速度を変更する。これによれば、原動機4に掛かる負荷に応じて切換速度を変更するため、確実にエンジンストー
ルを防止することができる。
自動切換制御部40Bは、制動操作部材31の操作量が第1閾値未満且つ負荷が第2閾値以上であるときの切換速度を、制動操作部材31の操作量が第1閾値未満且つ負荷が第2閾値未満であるときの切換速度よりも遅くする。これによれば、原動機4へ掛かる負荷が大きい場合には、切換速度を遅くすることで、よりエンジンストールを防止することができる。
【0047】
作業車両1は、走行装置7が後退したときの距離又は時間を設定する設定部40Cを備え、自動切換制御部40Bは、設定部40Cで設定された後退の距離又は時間を超えた場合には、切換速度を遅くする処理を停止する。これによれば、走行クラッチ5dの切り換え時に後退してしまう状況であっても、設定部40cによって設定された距離、時間よりも長くならない範囲で、切換速度を遅くして、可及的にエンジンストールを防止することができる。
【0048】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 :作業車両
4 :原動機
5d :走行クラッチ
7 :走行装置
31 :制動操作部材
40A :制動制御部
40B :自動切換制御部
40C :設定部
42 :状態検出装置
45 :選択部材
図1
図2
図3
図4
図5