(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】事故予報システム、および事故予報方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240729BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G08G1/16 A
G08G1/00 J
(21)【出願番号】P 2020114235
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晃一
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215759(JP,A)
【文献】特開2002-163754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
事故予報の対象となる道路の対象区間に対して、前記対象区間の過去交通データと過去事故データを用いて所定の学習アルゴリズムに基づいて事故発生パターンを学習して、交通状況ごとの事故の発生しやすさを表す事故予報を実行する事故予報用テーブルを作成する事故予報用テーブル作成処理部と、
前記対象区間の交通状況を計測するセンサから現在交通データを取得する交通データ取得処理部と、
前記対象区間の前記現在交通データ、および、前記対象区間に対応する前記事故予報用テーブルを用いて、事故の発生しやすさを示す事故予報情報を算出する事故予報処理部と、
前記事故予報処理部の予報結果のうち、所定の交通状況における前記事故予報情報の出力を制限する閾値
として、前記対象区間を走行する車両の平均車速に関する制限を行う速度閾値と、前記対象区間における単位時間あたりの車両数に関する制限を行う交通量閾値の少なくとも一方を設定する設定部と、
前記閾値による制限を実行した後の前記予報結果を出力する出力制御部と、
を備える事故予報システム。
【請求項2】
前記設定部は、前記所定の交通状況における前記事故予報情報の出力を制限する閾値として、前記事故予報処理部に入力する前記現在交通データに対して制限を加える前記速度閾値と前記交通量閾値の少なくとも一方を設定する、
請求項
1に記載の事故予報システム。
【請求項3】
前記設定部は、前記所定の交通状況における前記事故予報情報の出力を制限する閾値として、前記事故予報処理部の算出結果に対して制限を加える前記速度閾値と前記交通量閾値の少なくとも一方を設定する、
請求項
1に記載の事故予報システム。
【請求項4】
前記事故予報処理部は、前記速度閾値と前記交通量閾値の少なくとも一方に基づいて、前記事故予報情報の出力制限を行う場合、前記対象区間における過去の事故履歴に基づいて出力制限を調整する、
請求項
3に記載の事故予報システム。
【請求項5】
事故予報の対象となる道路の対象区間に対して、前記対象区間の過去交通データと過去事故データを用いて所定の学習アルゴリズムに基づいて事故発生パターンを学習して、交通状況ごとの事故の発生しやすさを表す事故予報を実行する事故予報用テーブルを作成する事故予報用テーブル作成ステップと、
前記対象区間の交通状況を計測するセンサから現在交通データを取得する交通データ取得ステップと、
前記対象区間の前記現在交通データ、および、前記対象区間に対応する前記事故予報用テーブルを用いて、事故の発生しやすさを示す事故予報情報を算出する事故予報処理ステップと、
前記事故予報処理ステップにおける予報結果のうち、所定の交通状況における前記事故予報情報の出力を制限する閾値
として、前記対象区間を走行する車両の平均車速に関する制限を行う速度閾値と、前記対象区間における単位時間あたりの車両数に関する制限を行う交通量閾値の少なくとも一方を設定する設定ステップと、
前記閾値による制限を実行した後の前記予報結果を出力する出力制御ステップと、
を備える事故予報方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、事故予報システム、および事故予報方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、道路における各地点で過去に計測された交通データ(事故の発生時に計測された交通データを含む)を使用して学習を行い、学習モデルを作成する技術が提案されている。そして、この学習モデルに、現在の交通状況を入力することにより、事故(交通事故等)の発生しやすさを予報(予測)する技術が知られている。
【0003】
このような事故予報に用いる学習モデルは、実際に発生した事故の内容を示す事故帳票と、その事故が発生したときの交通状況(交通量や平均速度、車両密度、占有率等)等に基づき生成されている。このとき対応づける交通状況(データ)は、路側等に設置された路側センサにより所定間隔(例えば5分間隔)で間欠的に取得されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-215759号公報
【文献】特開2018-198026号公報
【文献】特開2018-92467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
事故帳票に記載された事故の発生場所と時刻に対応する交通状況(交通量や平均速度等)が、正確に事故発生時の交通状況を示しているとは限らない。例えば、事故の発生時刻と間欠的に取得される交通状況の取得時刻がずれていたり、事故の発生場所と路側センサの設置位置がずれていたりする場合がある。その結果、渋滞状態で発生した事故に拘わらず、高速走行時に発生した事故として学習されてしまう場合等がある。また、その逆の場合もある。
【0006】
したがって、このように学習された学習モデルにより実際の事故予報を実行しようとして、現在の交通状況を入力した場合、その交通状況において利用者(道路の管制官等)の期待する予報とは異なる予報が成されてしまう場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態における事故予報システムは、事故予報用テーブル作成処理部と、交通データ取得処理部と、事故予報処理部と、設定部と、出力制御部と、を備える。事故予報用テーブル作成処理部は、事故予報の対象となる道路の対象区間に対して、対象区間の過去交通データと過去事故データを用いて所定の学習アルゴリズムに基づいて事故発生パターンを学習して、交通状況ごとの事故の発生しやすさを表す事故予報を実行する事故予報用テーブルを作成する。交通データ取得処理部は、対象区間の交通状況を計測するセンサから現在交通データを取得する。事故予報処理部は、対象区間の現在交通データ、および、対象区間に対応する事故予報用テーブルを用いて、事故の発生しやすさを示す事故予報情報を算出する。設定部は、事故予報処理部の予報結果のうち、所定の交通状況における事故予報情報の出力を制限する閾値として、対象区間を走行する車両の平均車速に関する制限を行う速度閾値と、対象区間における単位時間あたりの車両数に関する制限を行う交通量閾値の少なくとも一方を設定する。出力制御部は、閾値による制限を実行した後の予報結果を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態における事故予報システムの構成を示す例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態において、道路に関して事故予報の単位となる区間と道路センサ部との関係を示す例示的かつ模式的な説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態における事故予報用テーブル作成処理部が実行する処理の流れを示す例示的なフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態において用いられる自己組織化マップの一般的な構成を示す例示的かつ模式的な図である。
【
図5】
図5は、実施形態において用いられる自己組織化マップのより具体的な構成示す例示的かつ模式的な図である。
【
図6】
図6(a)は、実施形態において用いられる自己組織化マップのより具体的な構成を示す例示的かつ模式的な図である。
図6(b)は、
図6(a)の自己組織化マップに対応する事故予報用テーブルを示す例示的な図である。
【
図7】
図7は、実施形態における事故予報処理部が実行する処理の流れを示す例示的なフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図5の自己組織化マップを用いて事故予報を行う場合の例示的な説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態における事故予報処理部において、現在交通データ(例えば、速度(平均速度)と交通量(単位時間当たりの通過台数))の分布を示す例示的かつ模式的な図である。
【
図10】
図10は、第1の実施形態における事故予報システムにおいて、入力する現在交通データに対して閾値を適用して、入力制限を行う場合の事故予報処理部が実行する処理の流れを示す例示的なフローチャートである。
【
図11】
図11は、第2の実施形態における事故予報システムにおいて、出力する事故予報に対して閾値を適用して、事故予報結果の出力制限または出力調整を行う場合の事故予報処理部が実行する処理の流れを示す例示的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下において、「予報(予測)」とは、道路における各地点での過去の交通データ(事故発生時の交通データを含む。)に基づいて、交通事故の発生の危険性を計算/予測(パターンマッチング、類似度を求める)して事故予報として報知する意味を含むが、予測結果の報知は行わすに、単に、当該各地点における事故の発生しやすさの「予報(予測)」だけを行う場合の意味も含むものとする。また、「路線」とは、道路法における路線の意味を含むが、それに限定されず、管理単位の道路という意味も含むものとする。
【0010】
<第1の実施形態>
まず、
図1、
図2を参照して、本実施形態における事故予報システム1の構成について説明する。
【0011】
図1は、実施形態における事故予報システム1の構成を示す例示的かつ模式的なブロック図である。
【0012】
図1に示す事故予報システム1は、
図2に示す道路R上の区間1、2、3、・・・それぞれに対応する道路センサ部RS1、RS2、RS3、・・・により計測される交通データを用いて、各区間における交通事故の発生しやすさ(事故発生の危険度)を予報するシステムである。
【0013】
図2は、実施形態において、道路に関して事故予報の単位となる区間と道路センサ部RSとの関係を示す例示的かつ模式的な説明図である。なお、
図2の白抜き矢印Yは、道路R(以下「R」の記載を省略する場合あり)上における車両の流れ方向を示す。
図2を用いた以下の説明では、説明を簡潔にするために、区間が区間1~3の3つであるものとする。
【0014】
道路センサ部RS1~RS3は、それぞれ、道路R上の区間1~3を走行する車両を検知可能なセンサを含む。このセンサは、例えば、路面下に設置されるループコイルや、路面を上方から監視するカメラまたは超音波センサなどから構成される。以下、道路センサ部RS1~RS3それぞれを特に区別しないときは、道路センサ部RSと総称する。
【0015】
また、道路センサ部RSは、交通データ処理部を含む。具体的に、交通データ処理部は、センサによって計測された交通データに基づいて、道路R上を走行する車両の交通量[台/h]、平均速度[km/h]、車両密度[台/km]、占有率(オキュパンシー)[%]などを算出し、算出結果を道路交通管制装置2に送信する。この算出と送信は、例えば、1分や5分等の時間単位で実行される。なお、道路センサ部RSがセンサによる計測結果だけを道路交通管制装置2の交通データ取得処理部211に送信し、交通データ取得処理部211が交通量等を算出するようにしてもよい。
【0016】
ここで、
図1において、本実施形態の事故予報システム1は、道路交通管制装置2と、事故予報用テーブル作成装置3と、を備える。
【0017】
道路交通管制装置2は、例えば、一般に道路交通管制システムと呼ばれているコンピュータシステムである。道路交通管制装置2は、
図1では説明を簡潔にするために1台のコンピュータ装置のように示しているが、複数台のコンピュータ装置によって実現してもよい。
【0018】
道路交通管制装置2は、処理部21と、記憶部22と、表示部23と、入力部24と、を備える。なお、道路交通管制装置2は、外部装置との通信のための通信部も有しているが、説明を簡潔にするために図示および説明を省略する。
【0019】
処理部21は、道路交通管制装置2の全体の動作を制御し、道路交通管制装置2が有する各種の機能を実現する。処理部21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、を備える。CPUは、道路交通管制装置2の動作を統括的に制御する。ROMは、各種プログラムやデータを記憶する記憶媒体である。RAMは、各種プログラムを一時的に記憶したり、各種データを書き換えたりするための記憶媒体である。CPUは、RAMをワークエリア(作業領域)としてROM、記憶部22等に格納されたプログラムを実行する。処理部21は、交通データ取得処理部211と、事故予報処理部212と、受信処理部213と、表示制御部214と、設定部215と、を備える。
【0020】
交通データ取得処理部211は、道路の区間ごとに設置されている道路センサ部RSそれぞれから、計測した交通データを定期的に取得する。そして、交通データ取得処理部211は、その取得した交通データを、記憶部22の現在データベース221に現在交通データとして蓄積するように送信するとともに、事故予報用テーブル作成装置3の記憶部32に過去交通データとして蓄積するように送信する。なお、道路の車線が複数で、それぞれの車線に対応して道路センサ部RSが設定されている場合、交通データ取得処理部211は、例えば、各車線の交通データを統合すればよい。また、本実施形態において、交通データのうち、例えば直近の数分間程度の交通データを現在交通データと称し、現在交通データを含む過去の長期間の交通データを過去交通データと称する。また、過去交通データは、事故発生時に計測された交通データも含んでいる。
【0021】
事故予報処理部212は、道路の区間ごとに、当該区間の現在交通データ(例えば、交通量、平均速度、車両密度)、および、当該区間に対応する事故予報用テーブル(詳細は後述)を用いて、事故の発生しやすさを予報(予測)する。
【0022】
受信処理部213は、事故予報用テーブル作成装置3の送信処理部312から受信した事故予報用テーブル(詳細は後述)を記憶部22の事故予報用テーブルデータベース222に格納する。受信処理部213は、事故予報用テーブルが複数の場合は、それぞれの識別情報とともに事故予報用テーブルデータベース222に格納する。
【0023】
表示制御部214は、事故予報処理部212による事故の予報結果(後述する事故発生度等)を表示部23に事故予報として表示するよう制御する出力制御部として機能する。例えば、事故発生度が高い区間については事故が発生しやすいものとして表示部23の警報ランプを点灯表示する等して管制員に知らせるのが好ましい。なお、道路交通管制装置2では、上記のように警報ランプを点灯表示する場合、例えば、併せて、音声出力手段(不図示)により警報音を鳴らす等してもよい。
【0024】
設定部215は、事故予報処理部212の予報結果のうち、所定の交通状況における事故予報情報の出力を制限する閾値を設定する。閾値の設定は、入力部24等を介してユーザ(道路の管制員等)によって可能である。閾値に関する詳細は後述するが、閾値としては、対象区間を走行する車両の平均車速に関する制限を行う速度閾値とすることができる。また、対象区間における単位時間あたりの車両数に関する制限を行う交通量閾値とすることができる。速度閾値と交通量閾値とは、少なくともいずれか一方を設定することで、事故予報処理部212の処理結果の一部を制限し、管制官の意図する交通状況に則した予報(警報)を実現することができる。
【0025】
さらに、閾値としては、占有率や、気象状況(降水有無、気温、路面温度)等を加えてもよい。この場合、そのときの交通状況に、より則した高精度の予報を行うことができる。
【0026】
また、設定部215は、閾値を設定する場合、事故予報処理部212に入力する現在交通データに対して制限を加える場合と、事故予報情報の出力に対して制限を加える場合とがある。すなわち、事故予報処理の実行に先立ち入力データに対して閾値を設定して出力結果に制限を加える場合(入力時の制限)と、事故予報処理の実行後に出力データに対して閾値を設定して最終的な出力結果に制限を加える場合(出力時の制限)とがある。
【0027】
記憶部22は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの記憶装置である。記憶部22は、現在データベース221と事故予報用テーブルデータベース222とを記憶する。
【0028】
現在データベース221は、交通データ取得処理部211が取得した直近の例えば数分間程度の交通データ(現在交通データ)を記憶する。また、現在データベース221では、交通データ取得処理部211にて取得された交通データを蓄積するとともに、対象道路の特性を表す道路特性データ(例えば道路長やセンサ設置位置、各計測地点の周辺情報、料金所位置等)や、施策情報、事故情報、工事情報等の道路交通管制において管理されている情報や制限速度情報等を格納する。対象道路の特性を表す道路特性データは、事前のシステム構築時に入力しておいてもよいが、管制官等により追記修正してもよい。また、施策情報、事故情報、工事情報等の道路交通管制において管理されている情報や制限速度情報は、例えば、道路交通管制装置2のユーザ(管制官等)が手作業で入力すればよい。そして、現在データベース221における現在交通データは、事故予報処理部212にて事故予報(予測)を行う際に利用される。このとき、事故予報(予測)を行う際には、現在データベース221に格納された道路特性データを参照してその事故予報の該当箇所に対応する現在交通データをデータセット(例えば、交通量[台/h]、平均速度[km/h]、車両密度[台/km](または占有率[%])のセット)として利用する。
【0029】
事故予報用テーブルデータベース222は、1つ以上の事故予報用テーブル(詳細は後述)を記憶する。
【0030】
表示部23は、例えば、事故予報処理部212による事故の予報結果等を表示する。表示部23は、例えば、液晶表示装置(LCD(Liquid Crystal Display))、有機EL(Electro-Luminescence)表示装置等により実現される。
【0031】
入力部24は、道路交通管制装置2に対するユーザの操作を受け付ける。入力部24は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置である。
【0032】
事故予報用テーブル作成装置3は、事故予報用テーブルを作成するためのコンピュータ装置である。事故予報用テーブル作成装置3は、処理部31と、記憶部32と、表示部33と、入力部34とを備えている。なお、事故予報用テーブル作成装置3は、外部装置との通信のための通信部も有しているが、説明を簡潔にするために図示および説明を省略する。
【0033】
処理部31は、事故予報用テーブル作成装置3の全体の動作を制御し、事故予報用テーブル作成装置3が有する各種の機能を実現する。処理部31は、例えば、CPUと、ROMと、RAMと、を備える。CPUは、事故予報用テーブル作成装置3の動作を統括的に制御する。ROMは、各種プログラムやデータを記憶する記憶媒体である。RAMは、各種プログラムを一時的に記憶したり、各種データを書き換えたりするための記憶媒体である。CPUは、RAMをワークエリア(作業領域)としてROM、記憶部32等に格納されたプログラムを実行する。処理部31は、事故予報用テーブル作成処理部311と、送信処理部312と、を備える。
【0034】
事故予報用テーブル作成処理部311は、それぞれが複数の区間に分けられている複数の道路に関して、区間の所定の集合ごとに、記憶部32における過去交通データと過去事故データを用いて所定の学習アルゴリズム(例えば自己組織化マップを用いた学習アルゴリズム)に基づいて事故発生パターンを学習して、交通状況(例えば、交通量、平均速度、車両密度、占有率等)ごとの事故の発生しやすさを表す事故予報用テーブルを作成する。ここで、自己組織化マップとは、プロセス解析や、制御、検索システム、さらには経営のための情報分析など、実社会における重要な分野に応用されるニューラルネットワークの一種であり、高次元の入力データを、教師信号(入力データに対して理想的と考えられる出力)などの予備知識なしにクラスタリングするためのアルゴリズムである。この自己組織化マップの具体的な内容については後述する。
【0035】
また、事故予報用テーブル作成処理部311は、所定のタイミングで、または、ユーザによる指示入力があったときに、その時点で取得している過去交通データと過去事故データを用いて事故予報用テーブルを更新する。所定のタイミングとは、例えば、1年ごとで、直近1年分の過去交通データ、過去事故データが蓄積されたタイミングである。この際に、事故予報用テーブル作成装置3で蓄積された1年分の当該データを用いて事故予報用テーブルを作成し、その事故予報用テーブルを道路交通管制装置2に送信して事故予報用テーブルデータベース222の事故予報用テーブルを更新する。また、ユーザによる指示入力があったときとは、例えば、対象道路の周辺に大きな道路ができた等により、対象道路の車両の流れが変わった場合に、その後、例えば数か月分程度等、充分な量の過去交通データと過去事故データが蓄積されたときにユーザが事故予報用テーブルの更新のための指示入力を事故予報用テーブル作成装置3の入力部34を用いて行った場合である。
【0036】
送信処理部312は、事故予報用テーブル作成処理部311が作成(初回作成、更新用作成)した事故予報用テーブルを道路交通管制装置2の処理部21の受信処理部213に送信する。
【0037】
記憶部32は、HDDやSSDなどの記憶装置である。記憶部32は、過去データベース321を記憶する。過去データベース321は、過去交通データと、過去事故データを記憶する。なお、この場合、事故発生地点、事故発生日時等に基づき、事故の発生状況に最も近い地点、時刻の交通状況が過去交通データとして関連付けられる。
【0038】
過去交通データは、事故の原因となりうる説明変数となる、交通量、平均速度、車両密度、占有率、気象情報(降水有無、気温、路面温度)等を含んだデータとなるが、必ずしも、これらの項目の全てを含む必要はない。過去交通データは、道路交通管制装置2の交通データ取得処理部211から受信する交通データにより順次蓄積される。
【0039】
過去事故データとは、対象道路において起きた過去の事故のデータである。この過去事故データは、例えば、ユーザが事故帳票等を見ながら事故予報用テーブル作成装置3の入力部34を用いて入力することで、記憶部32の過去データベース321に格納するようにすればよい。過去事故データは、具体的には、例えば、事故に関する情報として、事故発生地点、事故発生日時、事故タイプ等を含んでいる。過去事故データは、過去数年以上の事故情報であることが好ましい。
【0040】
また、過去事故データは、ユーザが事故予報用テーブル作成装置3の入力部34で入力するほか、ユーザが道路交通管制装置2の入力部24で入力して道路交通管制装置2から事故予報用テーブル作成装置3に送信することで、記憶部32の過去データベース321に格納するようにしてもよい。あるいは、他のコンピュータ装置にある過去事故データを、DVD(Digital Versatile Disk)やUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の情報記憶媒体を介して事故予報用テーブル作成装置3の記憶部32の過去データベース321に格納するようにしてもよい。
【0041】
表示部33は、各種画面を表示する。表示部33は、例えば、液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置等により実現される。
【0042】
入力部34は、事故予報用テーブル作成装置3に対するユーザの操作を受け付ける。入力部34は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置である。
【0043】
また、例えば、事故予報用テーブル作成装置3の事故予報用テーブル作成処理部311は、区間の所定の集合としての道路ごとに、事故予報用テーブルを作成する。そのとき、道路交通管制装置2の事故予報処理部212は、複数の道路それぞれについて、区間ごとに、当該区間の現在交通データ(例えば、交通量、平均速度、車両密度、占有率、気象情報等)、および、当該道路に対応する事故予報用テーブルを用いて、事故の発生しやすさを予報(予測)する。
【0044】
また、例えば、事故予報用テーブル作成装置3の事故予報用テーブル作成処理部311は、区間の所定の集合ごととして、複数の道路それぞれについて、道路状況に基づいて区間が分類された区間グループごとに、事故予報用テーブルを作成する。そのとき、道路交通管制装置2の事故予報処理部212は、複数の道路それぞれについて、区間ごとに、当該区間の現在交通データ(例えば、交通量、平均速度、車両密度、占有率、気象情報等)、および、当該区間が分類された区間グループに対応する事故予報用テーブルを用いて、事故の発生しやすさを予報(予測)する。
【0045】
次に、本実施形態における事故予報システム1の動作について説明する。
【0046】
図3は、本実施形態における事故予報用テーブル作成処理部311が実行する処理の流れを示す例示的なフローチャートである。
【0047】
図3に示すように、ステップS1において、事故予報用テーブル作成処理部311は、まず、過去データベース321から過去交通データと過去事故データを読み出す。
【0048】
次に、ステップS2において、事故予報用テーブル作成処理部311は、ステップS1で読み出した過去交通データと過去事故データに基づいて、交通データと事故の発生しやすさとの相関関係を学習する。学習方法としては、例えば、次のような自己組織化マップを用いた方法を用いる。
【0049】
図4は、本実施形態において用いられる自己組織化マップの一般的な構成の一例を示した図である。
【0050】
図4に示すように、自己組織化マップとは、入力層および競合層(出力層)を備えた2層構造のニューラルネットワークである。入力層は、分析対象のデータx1,…,xi,…,xnと同数のユニットを備えた平面として表される。ここで、分析対象のデータx1,…,xi,…,xnの組み合わせを、入力ベクトルと呼ぶ。また、競合層は、複数のユニット1,…,j,…,Nを備えた平面として表される。入力層の各ユニットと、競合層の各ユニットとは、入力ベクトルと同次元の重みベクトルwj=(wj1,…,wji,…,wjn)によって関連付けられている。
【0051】
図5は、本実施形態において用いられる自己組織化マップのより具体的な構成を示す例示的かつ模式的な図である。
【0052】
図5に示すように、過去データベース321から読み出された過去交通データが、学習対象の入力ベクトルとして用いられる。例えば、過去交通データは、道路R上の各地点において過去のある時点で計測された3種類のデータ(交通量、平均速度および車両密度)により構成される。
【0053】
図5の自己組織化マップでは、まず、(1)勝者ユニットを決定し、当該勝者ユニットの重みベクトルを更新する処理が実行される。そして、(2)勝者ユニットの近傍に位置する近傍ユニットの重みベクトルを更新する処理が実行される。なお、勝者ユニットとは、入力ベクトルと最も類似する重みベクトルによって当該入力ベクトルと関連付けられる競合層上の1つのユニットである。また、重みベクトルの更新は、学習回数と、所定の学習係数とを考慮した数式を用いて行われる。なお、入力ベクトルと最も類似する重みベクトルの決定方法や、重みベクトルの更新に用いられる数式の詳細については、例えば特開2014-35639号公報に開示されているため、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0054】
また、入力ベクトルとして用いられる過去交通データに対応して設定される事故発生度が入力される。事故発生度とは、入力ベクトルに対応して設定される事故の発生しやすさを示す値である。入力ベクトルの各要素が事故発生時の交通データである場合、事故発生度は、例えば「1」(または「100」)に設定される。また、入力ベクトルの各要素が事故の無い時の交通データである場合、事故発生度は、例えば「0」に設定される。また、入力ベクトルの各要素が事故発生直前の交通データである場合、事故発生度は、事故発生時の事故発生度(「1」(または「100」))よりも小さい値に設定される。
【0055】
本実施形態では、上記の(1)および(2)の処理が実行された後、(3)入力された事故発生度で、競合層上の勝者ユニットおよび近傍ユニットに対応する事故発生度分布の層上のユニットの値を更新する処理が実行される。具体的に、勝者ユニットに対応するユニットの値が、入力された事故発生度によって更新され、近傍ユニットに対応するユニットの値が、入力された事故発生度よりも小さい値によって更新される。この更新処理の詳細についても、上記の特開2014-35639号公報に開示されているため、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0056】
本実施形態では、上記の(1)~(3)の処理が繰り返し実行されることで、過去交通データと事故発生度との相関関係が学習される。
【0057】
図3に戻り、ステップS3において、事故予報用テーブル作成処理部311は、ステップS2における学習結果に基づいて、事故予報用テーブルを作成する。すなわち、事故予報用テーブル作成処理部311は、
図5に示した自己組織化マップによって得られた相関関係をテーブル化し、過去交通データと事故発生度との相関関係を定義する事故予報用テーブルを作成する。
【0058】
図6を用いて、自己組織化マップのより具体的な構成例と、その自己組織化マップに対応する事故予報用テーブルの例について説明する。
【0059】
図6(a)は、実施形態において用いられる自己組織化マップのより具体的な構成の一例を示した図である。
図6(b)は、
図6(a)の自己組織化マップに対応する事故予報用テーブルを示した図である。
【0060】
図6(a)に示すように、入力層には入力ベクトルとして交通量、平均速度および車両密度のデータが入力される。ここで、競合層には、1-1、1-2、・・・、10-10の100(10×10)のユニットがあるものとする。また、事故発生度の範囲は「0」~「10」とする。この場合、事故予報用テーブルは
図6(b)に示す通りとなる。
図6(b)に示す事故予報用テーブルでは、index(競合層や事故発生度分布のユニットに対応)ごとに、交通量に対する重み、平均速度に対する重み、車両密度に対する重み、および、事故発生度が関連付けられている。
【0061】
次に、
図7を参照して、実施形態における事故予報処理部212の基本動作について説明する。
図7で説明する基本動作では、設定部215が設定する閾値による制限を行わない例である。
図7は、事故予報処理部212が実行する処理の流れの一例を示したフローチャートである。
【0062】
図7に示すように、ステップS11において、事故予報処理部212は、予報タイミングが到来したか否かを判定する。ステップS11で、Yesの場合はステップS12に進み、Noの場合はステップS11に戻る。予報タイミングは、例えば、5分おきとすればよいが、これに限定されない。
【0063】
次に、事故予報処理部212は、ステップS12~S17で路線ごとの処理を行う。つまり、事故予報処理部212は、複数の路線について区間ごとの事故予報(予測)を行う場合、まず1つ目の路線についてステップS13~S16の処理を行い、次に2つ目の路線についてステップS13~S16の処理を行い、・・・、という処理をすべての路線について順番に行う。
【0064】
前記したように、事故予報処理部212は、ステップS13~S16で区間ごとの処理を行う。つまり、事故予報処理部212は、着目する路線に関し、まず1つ目の区間についてステップS14、S15の処理を行い、次に2つ目の区間についてステップS14、S15の処理を行い、・・・、という処理をすべての区間について行う。
【0065】
ステップS14において、事故予報処理部212は、着目する区間について、記憶部22の現在データベース221から現在交通データ(
図6の例では、交通量、平均速度、車両密度)を読み出す。
【0066】
次に、ステップS15において、事故予報処理部212は、その区間に対応する事故予報用テーブルを記憶部22の事故予報用テーブルデータベース222から読み出して用いて事故予報(予測)を行う。
【0067】
ここで、ステップS15について、
図8を用いて説明する。
【0068】
図8は、
図5の自己組織化マップを用いて事故予報(予測)を行う場合の説明図である。
図8に示すように、この自己組織化マップでは、次の(11)~(13)の処理を実行する。
【0069】
(11)勝者ユニットを決定(例えば、
図6(a)における競合層の「2-1」)。なお、勝者ユニットの決定の方法は、前記した(1)(
図5)の場合と同様である。
(12)当該勝者ユニットに対応した事故発生度分布の層上のユニットを選択(例えば、
図6(a)における事故発生度分布の「2-1」)。
(13)選択されたユニットの事故発生度を出力(例えば、
図6(b)の事故予報用テーブルにおけるindex「2-1」に対応する事故発生度「6.2」)。
【0070】
このようにして、事故予報処理部212は、ステップS12~S17で、複数の路線について、路線ごとに各区間の事故発生度を取得することができる。
【0071】
ステップS18において、表示制御部214は、事故予報処理部212による事故の予報結果(事故発生度等)を警報ランプ等とともに表示部23に事故予報として表示するよう制御を行う。これにより、道路交通管制装置2を用いる管制員等は、対象道路について、区間ごとに、現在の交通状況に対応した事故の発生しやすさを認識することができる。
【0072】
図9は、ある対象区間の道路センサ部RSで取得された、現在交通データ(例えば、速度(平均速度)と交通量(単位時間当たりの通過台数))の分布の一例を示す図である。
【0073】
上述したように、この現在交通データを事故予報用テーブルに入力し処理することにより、現在交通データ(現在の交通状況)に対する事故予報結果(事故発生度)が算出される。事故予報結果(事故発生度)は、事故発生度のレベル(警報レベル)ごとに、例えば、色分けされて、表示部23上に表示される。具体的には、例えば、事故発生度の高い予報結果は、赤色や橙色の輝点で表示され、事故発生度の低い予報結果は、緑色や青色の輝点で表示される。なお、輝点の色は、例えば、事故発生度の低い順から、青色(警報レベル0)<緑色<橙色<赤色(警報レベル10)等で表示することができる。事故予報結果の表示は、これに限らず、例えば、点滅の有無や点滅速度の違い等により表現してもよいし、音声等を伴って表示されてもよい。
【0074】
また、
図9の場合、交通状況を3つの領域に分けて表示している。
【0075】
「渋滞領域EA」は、所定の道路センサ部RSを1分間に通過した車両台数(交通量)が例えば300台未満で、通過車両の平均速度が例えば60km/h未満の領域である。つまり、渋滞領域EAとは、車両が低速で道路センサ部RSを通過し、その通過台数が少ない状況、すなわち、交通集中が生じて車両の動きがゆっくりである状況を示す領域である。
【0076】
また、「非拘束領域EB」は、1分間に通過した通過した車両台数が例えば300台未満で、通過車両の平均速度が例えば60km/h以上の領域である。非拘束領域EBとは、交通量がそれほど多くなく、交通集中渋滞には至っていない状況を示す領域である。
【0077】
また、「臨界領域EC」は、1分間に通過した通過した車両台数(交通量)が例えば300台以上の領域である。臨界領域ECとは、渋滞の無い非拘束領域EBから渋滞領域EAに移り変わる交通状況を示す領域、または渋滞が解消され、非拘束領域EB(高速領域)に移り変わる交通状況を示す領域である。
【0078】
ところで、機械学習により生成した事故予報用テーブルを用いた事故予報の場合、上述したように、事故予報用テーブル生成時の事故帳票と対応付ける交通状況のずれ等のノイズにより、事故予報がユーザ(管制員等)の意図しない結果となる場合がある。
【0079】
例えば、管制員が想定していない領域で高い事故発生度の警報が出力されてしまう場合がある。具体的には、交通量が少なく、かつ平均速度が高い非拘束領域EB、つまり、車両がスムーズに流れている交通状況で「追突事故注意警報」等が出力された場合、管制員にとっても道路利用者(ドライバー)にとっても有用度の低い(あまり意味を成さない)情報になってしまう可能性がある。また、例えば、渋滞領域EAでは、別のシステムにより、渋滞情報や渋滞時追突注意等の情報が既に出ている場合があり、別途、事故予報システム1から「追突事故注意警報」が出力された場合、重複情報とる場合がある。
【0080】
その結果、ドライバーに煩わしさを与えてしまったり、表示領域として制限のある道路情報板の表示が煩雑になり、認識し難くなってしまったりする場合がある。
【0081】
そこで、本実施形態の事故予報システム1の設定部215は、前述したように、事故予報処理部212の予報結果のうち、所定の交通状況における事故予報情報(警報)の出力を制限する閾値を設定する。すなわち、ユーザ(管制員等)が事故予報情報(警報)を出力したい領域のみに、当該事故予報情報(警報)を出力し、それ以外の領域では、事故予報情報(警報)を出力しないようにする閾値の設定を可能にする。
【0082】
事故予報情報(警報)を出力したい領域とは、例えば、渋滞が発生する直前の交通状況である。
【0083】
具体的には、
図9における臨界領域ECのうち、比較的車両の平均速度が高いものの、交通量が多い第1臨界領域EC1においてのみ、事故予報が表示されるように、事故予報用テーブルの利用時に適用する閾値を設定する。閾値としては、対象区間を走行する車両の平均車速に対して制限を加える速度閾値がある。また、対象区間における単位時間あたりの車両数に対して制限を加える交通量閾値がある。
【0084】
例えば、渋滞が発生しはじめると見なされる第1臨界領域EC1においてのみに、事故予報(警告)が表示されるようにする場合は、速度閾値を例えば60km/hに設定し、交通量閾値を例えば300台/1分に設定する。そして、速度閾値以上かつ交通量閾値以上の場合に肯定処理(現在交通データの入力許可や事故予測結果の出力許可)を行うようにすればよい。
【0085】
また、速度閾値を例えば60km/hに設定し、交通量閾値を例えば300台/1分に設定し、速度閾値未満、かつ交通量閾値以上の場合に肯定処理を行うようにする。この場合、
図9における臨界領域ECのうち、車両の平均速度が低下しているものの、交通量が多い第2臨界領域EC2においてのみ、事故予報(警報)が表示されるようにすることができる。
【0086】
同様に、渋滞領域EAと非拘束領域EBとの切り替わり、すなわち交通量が多い状況で加速や減速が行われ易い、臨界領域EC全体においてのみ、事故予報が表示されるようするためには、交通量閾値を例えば300台/1分に設定する。そして、交通量閾値以上の場合に肯定処理を行うようにすればよい。
【0087】
また、高速走行時の速度超過や追突事故等の注意喚起を行いたい非拘束領域EBにおいてのみに、事故予報が表示されるようするためには、交通量閾値を例えば300台/1分、速度閾値を例えば60km/hに設定する。そして、交通量閾値未満かつ速度閾値以上の場合に、肯定処理を行うようにすればよい。
【0088】
また、敢えて、渋滞領域EAにおいてのみに、事故予報(警告)が表示されるようにする閾値としては、速度閾値を例えば60km/hに設定し、交通量閾値を例えば300台/1分に設定する。そして、速度閾値未満かつ交通量閾値未満の場合に肯定処理を行うようにすればよい。
【0089】
設定部215の閾値設定による事故予報情報の出力制限は、事故予報処理部212に入力する現在交通データに対して制限を加えることで実行することができる。
【0090】
また、別の実施形態では、設定部215の閾値設定による事故予報情報の出力制限は、事故予報処理部212による事故予報情報の出力時に事故予報情報自体に制限を加えることで実行することができる。
【0091】
図10は、事故予報情報の出力制限を、事故予報処理部212に現在交通データを入力する段階で、当該現在交通データに対して制限を加えることで実行する場合の処理の流れを示す例示的なフローチャートである。なお、
図10の場合、事故予報結果(警報)を第1臨界領域EC1のみに表示し、他の領域では、警報を表示しない例を説明する。
【0092】
まず、設定部215は、ステップS20において、現在交通データの入力時に、当該現在交通データの入力を制限する閾値が設定済みか否かを判定し、Noの場合は、ステップS21において閾値の設定を受け付ける。閾値の設定は、例えば、管制員が入力部24を操作することにより実行することができる。この場合、管制員が、例えば
図9における第1臨界領域EC1のみにおいて、事故の予報結果(事故発生度等)に基づく警報を出力することを指定していた場合、速度閾値は例えば60km/hが設定され、交通量閾値は例えば300台/1分が設定される。なお、ステップS20において、既に閾値が設定済みの場合(Yesの場合)は、ステップS21の処理をスキップする。
【0093】
続いて、ステップS22において、事故予報処理部212は、交通データ取得処理部211を介して道路センサ部RSが取得した現在交通データを取得する。
【0094】
そして、ステップS23において、現在交通データが設定された閾値以上か否かの判定が行われ、Yesの場合、例えば、道路センサ部RSが取得した現在交通データが、平均速度が60km/h以上、かつ交通量(密度)が300台/1分以上の場合は、肯定処理として、ステップS24において、現在交通データを事故予報用テーブルに入力して事故予報処理を実行する。そして、ステップS25において、事故予報結果を、表示制御部214を介して表示部23に出力して、一旦このフローを終了する。つまり、第1臨界領域EC1における事故予報結果が、事故発生度(警報レベル)を伴って出力される。
【0095】
一方、ステップS23において、Noの場合、つまり、道路センサ部RSが取得した現在交通データが、閾値未満の場合(平均速度が60km/h未満、または交通量(密度)が300台/1分未満の場合)は、否定処理として、ステップS26において、事故予報用テーブルに現在交通データは入力されず(非入力)、一旦このフローを終了する。この場合、第1臨界領域EC1以外の領域における現在交通データの入力が行われないことになり、第1臨界領域EC1以外での事故予報結果の出力が抑制される。
【0096】
このように、事故予報処理を実行する際に、入力する現在交通データを所定の閾値によって制限することにより、ユーザ(管制官)が意図しない領域で事故予報(警報)が発生(出力)されてしまうことを回避することができる。つまり、ユーザ(管制官)が意図する領域で、交通状況に則した事故予報(警報)を発生(出力)させることができる。
【0097】
なお、閾値(速度閾値、交通量閾値等)を変化させることによって、事故予報結果(警報)の出力を行う領域(事故予報結果の出力を抑制する領域)の選択が可能となり、従来の学習モデルを利用しつつも、実際の交通状況に則した、つまり、ユーザ(管制官)が注意喚起させたい交通状況における事故予報(警報)の出力が可能となり、事故予報の信頼度向上ができる。
【0098】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態として、事故予報処理部212により事故予報処理が実行された後の段階で、当該事故予報結果に対して閾値を用いて制限を加えることで、事故予報情報の出力制限(警報の出力制限)を行う例を説明する。
【0099】
図11は、事故予報処理部212により事故予報処理が実行された後の段階で閾値を用いて制限を加えることで事故予報情報の出力制限を行う場合の処理の流れを示す例示的なフローチャートである。なお、
図11の場合、事故予報結果(警報)を第1臨界領域EC1のみに表示し、他の領域では、事故予報結果(警報レベル)を調整して表示または非表示とする例を説明する。
【0100】
まず、ステップS30において、設定部215は、事故予報処理が実行された後の段階で事故予報結果を制限する閾値が設定済みか否かを判定し、Noの場合は、ステップS31において閾値の設定を受け付ける。閾値の設定は、例えば、管制員が入力部24を操作することにより実行することができる。この場合、管制員が、例えば
図9における第1臨界領域EC1のみにおいて、事故の予報結果(事故発生度等)に基づく警報を出力することを指定していた場合、速度閾値は例えば60km/hが設定され、交通量閾値は例えば300台/1分が設定される。なお、ステップ30において、既に閾値が設定済みの場合(Yesの場合)は、ステップS31の処理をスキップする。
【0101】
続いて、ステップS32において、事故予報処理部212は、交通データ取得処理部211を介して道路センサ部RSが取得した現在交通データを取得する。この場合、取得された現在交通データは、ステップS33において、逐次、事故予報用テーブルに入力され、ステップS34において事故予報処理が実行される。
【0102】
そして、ステップ35において、事故予報結果が、設定部215で設定された閾値(速度閾値、交通量閾値)で定まる領域に含まれるか否かの判定を行う。ステップS35において、Yesの場合、すなわち、事故予報結果が、速度閾値以上(例えば、平均速度が60km/h以上)、かつ交通量閾値(例えば、交通量(密度)が300台/1分以上)の場合は肯定処理として、ステップS36において、事故予報処理部212は、算出した事故予報結果を、表示制御部214を介して表示部23に出力して、このフローを一旦終了する。
【0103】
一方、ステップS35において、Noの場合、すなわち、事故予報結果が、速度閾値未満(例えば、平均速度が60km/h未満)、または交通量閾値未満(例えば、交通量(密度)が300台/1分未満)の場合は、否定処理として、ステップS37において、事故予報処理部212は、交通予報結果の警報レベルを下げた事故予報結果(警報結果)を、表示制御部214を介して道路交通管制装置2から出力する、または警報を非実行として、一旦このフローを終了する。この場合、事故予報処理部212は、対象区間における過去の事故履歴に基づいて出力制限(警報レベルの変更や警報の非実行)の調整を行うことができる。事故予報結果(警報結果)の警報レベルを下げて出力を行うか、警報を非実行とするかは、設定部215において、閾値とともに設定することができる。なお、ユーザ(管制官)が意図しない領域において、一律に警報を非実行とするのではなく、警報レベルを下げて出力を行うことにより、ユーザ(管制官)が、事故の発生可能性は低いと見なしている交通状況においても、ドライバーに予備的な注意喚起が可能になり、事故予報のバリエーションを向上させ、サービス品質の向上ができる。
【0104】
上述したように、事故予報処理が実行された後の段階で閾値を用いて制限を加える場合、事故予報処理部212によって、一度、事故予報結果が算出される。したがって、事故予報処理部212は、明らかに危険度が低い交通状況において、警報が出力されようとした場合、対象区間の交通状況を含む全体的な交通状況を分析、考慮して警報レベルの変更や警告非実行を判定することができる。その結果、事故予報の信頼性の向上がさらにできる。
【0105】
このように、事故予報処理が実行された後に閾値(速度閾値、交通量閾値)により出力内容に制限を加えることにより、ユーザ(管制官)が意図しない領域で事故予報(警報)が発生(出力)されてしまうことを回避することができる。つまり、ユーザ(管制官)が意図する領域で、交通状況に則した事故予報(警報)を発生(出力)させることができる。なお、事故予報処理が実行された後に閾値を設定する場合でも、閾値を変化させることによって、事故予報結果の出力を行う領域(事故予報結果の出力を抑制する領域)の選択可能となり、従来の学習モデルを利用しつつも、実際の交通状況に則した、つまり、ユーザ(管制官)が注意喚起させたい交通状況における事故予報が可能となり、事故予報の信頼度の向上ができる。
【0106】
(変形例)
上記の実施形態では、学習および予報(予測)を行うための方法として、自己組織化マップを用いた方法を例示した。しかしながら、学習および予報(予測)の方法としては、自己組織化マップを用いた方法以外にも、種々の方法が考えられる。
【0107】
例えば、比較的簡単な方法として、事故発生時の過去交通データを保持(蓄積)して現在交通データと単純に比較する方法や、事故発生時の過去交通データの組合せを統計処理でクラスタリングし、事故発生時に類似したケースの交通データを生成する方法などが考えられる。また、他の方法として、例えばペイジアンネットワークなどの他の多変量解析を利用した方法も考えられる。
【0108】
また、
図1の事故予報用テーブル作成装置3を、クラウドコンピューティング技術を利用してクラウド化させてもよい。
【0109】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0110】
1 事故予報システム
2 道路交通管制装置
3 事故予報用テーブル作成装置
21,31 処理部
22,32 記憶部
23,33 表示部
24,34 入力部
211 交通データ取得処理部
212 事故予報処理部
213 受信処理部
214 表示制御部
215 設定部
221 現在データベース
222 事故予報用テーブルデータベース
311 事故予報用テーブル作成処理部
312 送信処理部
321 過去データベース
EA 渋滞領域
EB 非拘束領域
EC 臨界領域
RS 道路センサ部