(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】電流制限装置、ロボットシステムおよび電流制限方法
(51)【国際特許分類】
B25J 9/16 20060101AFI20240729BHJP
H02P 29/40 20160101ALI20240729BHJP
【FI】
B25J9/16
H02P29/40
(21)【出願番号】P 2020140784
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】田邊 雅隆
(72)【発明者】
【氏名】梶原 慎司
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢太
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-194645(JP,A)
【文献】特開2008-73790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
H02P 29/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が流されることにより力またはモーメントを発生し、駆動力伝達部を介して駆動力を伝達する駆動部に通電する電流を制限する電流制限装置であって、
前記駆動部に通電する電流を制限値の範囲内に制限する電流制限部を備え、
前記制限値は、
前記駆動部の駆動方向と前記駆動部から出力される力またはモーメントの方向とが同じである場合の順効率時の制限値と、前記順効率時の制限値と異なる値を有し、前記駆動部の駆動方向と前記駆動部から出力される力またはモーメントの方向とが逆である場合の逆効率時の制限値とを含み、
前記順効率時の制限値の絶対値は、前記駆動部の速度が大きくなるにしたがって大きくなるように設定され、
前記逆効率時の制限値の絶対値は、前記駆動部の速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている、電流制限装置。
【請求項2】
前記順効率時の制限値の増加率および前記逆効率時の制限値の減少率は、前記駆動部の速度が大きくなるにしたがって大きくなるように設定されている、請求項
1に記載の電流制限装置。
【請求項3】
前記駆動部は、モータを含み、
前記駆動力伝達部は、前記モータの回転を減速して伝達する減速部を含み、
前記制限値は、前記モータの回転数に応じて変化するように設定されている、請求項1
または2に記載の電流制限装置。
【請求項4】
前記制限値は、前記駆動部が発生する力またはモーメントによって前記駆動力伝達部が損傷されるのを抑制するように、かつ、前記駆動力伝達部の出力側の力またはモーメントを一定の値に維持するように設定されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電流制限装置。
【請求項5】
前記駆動部は、ロボットの関節に設けられるモータを含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電流制限装置。
【請求項6】
前記ロボットは、医療用のロボットを含む、請求項
5に記載の電流制限装置。
【請求項7】
ロボットと、
前記ロボットを制御するロボット制御部とを備え、
前記ロボットは、
関節と、
前記関節に設けられるモータと、
前記モータの回転を減速させる減速部とを含み、
前記ロボット制御部は、前記モータに通電する電流を制限値の範囲内に制限する電流制限部を含み、
前記制限値は、
前記モータの駆動方向と前記モータから出力される力またはモーメントの方向とが同じである場合の順効率時の制限値と、前記順効率時の制限値と異なる値を有し、前記モータの駆動方向と前記モータから出力される力またはモーメントの方向とが逆である場合の逆効率時の制限値とを含み、
前記順効率時の制限値の絶対値は、前記モータの速度が大きくなるにしたがって大きくなるように設定され、
前記逆効率時の制限値の絶対値は、前記モータの速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている、ロボットシステム。
【請求項8】
電流が流されることにより力またはモーメントを発生し、駆動力伝達部を介して駆動力を伝達する駆動部に通電する電流を制限する電流制限方法であって、
前記駆動部の速度を取得するステップと、
取得された前記駆動部の速度に基づいて、前記駆動部に通電する電流の制限値を設定するステップと、
前記設定された制限値の範囲内において、前記駆動部に通電するステップとを備え
、
前記制限値は、前記駆動部の駆動方向と前記駆動部から出力される力またはモーメントの方向とが同じである場合の順効率時の制限値と、前記順効率時の制限値と異なる値を有し、前記駆動部の駆動方向と前記駆動部から出力される力またはモーメントの方向とが逆である場合の逆効率時の制限値とを含み、
前記順効率時の制限値の絶対値は、前記駆動部の速度が大きくなるにしたがって大きくなるように設定され、
前記逆効率時の制限値の絶対値は、前記駆動部の速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている、電流制限方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、電流制限装置、ロボットシステムおよび電流制限方法に関し、特に、モータに通電する電流を制限する電流制限装置、ロボットシステムおよび電流制限方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータに通電する電流の上限値が設定されたロボットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、複数のリンクが関節を介して接続されているロボット本体と、ロボット本体の関節に設けられるモータと、モータの回転を減速する減速部とを備えるロボットが開示されている。このロボットには、モータに通電している電流を計測する電流計測手段が設けられている。そして、ロボット本体の静止時に、電流計測手段によって計測された電流値に基づいて、モータに通電する電流の上限値が設定される。具体的には、ロボットの静止時に、所定の姿勢を維持するために必要なモータのトルクに応じて、電流の一定の上限値が設定される。これにより、ロボットの姿勢に応じて関節に与える駆動トルクを適切に制限することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のような、モータの回転を減速する減速部が設けられている従来のロボットでは、減速部の回転数が大きくなるにしたがって減速部の損失トルクが大きくなる。また、一般的に、モータは、モータの回転数が大きくなるにしたがってモータが発生するトルクが小さくなる。これらのため、上記特許文献1に記載のように、モータに通電する電流に対して一定の上限値を設定した場合、モータの回転数が大きくなるにしたがって減速部の損失トルクが大きくなること、および、モータ(駆動部)の発生トルクが低下することに起因して、減速部から所望のトルクを出力できなくなるという問題点がある。
【0006】
この開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この開示の1つの目的は、駆動部に通電する電流の上限値が設定されている構成において、駆動部の速度が大きくなった場合でも、駆動力伝達部から所望の力またはモーメントを出力することが可能な電流制限装置および電流制限方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この開示の第1の局面による電流制限装置は、電流が流されることにより力またはモーメントを発生し、駆動力伝達部を介して駆動力を伝達する駆動部に通電する電流を制限する電流制限装置であって、駆動部に通電する電流を制限値の範囲内に制限する電流制限部を備え、制限値は、駆動部の駆動方向と駆動部から出力される力またはモーメントの方向とが同じである場合の順効率時の制限値と、順効率時の制限値と異なる値を有し、駆動部の駆動方向と駆動部から出力される力またはモーメントの方向とが逆である場合の逆効率時の制限値とを含み、順効率時の制限値の絶対値は、駆動部の速度が大きくなるにしたがって大きくなるように設定され、逆効率時の制限値の絶対値は、駆動部の速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている。
【0008】
この開示の第1の局面による電流制限装置では、上記のように、駆動部に通電する電流の制限値は、駆動部の速度に応じて変化するように設定されている。これにより、駆動部の速度に応じて変化する駆動力伝達部の損失、および、駆動部の発生する力またはモーメントの低下に応じて、制限値を変化させることができる。その結果、駆動部に通電する電流の上限値が設定されている構成において、駆動部の速度が大きくなった場合でも、駆動力伝達部から所望の力またはモーメントを出力することができる。
【0009】
この開示の第2の局面によるロボットシステムは、ロボットと、ロボットを制御するロボット制御部とを備え、ロボットは、関節と、関節に設けられるモータと、モータの回転を減速させる減速部とを含み、ロボット制御部は、モータに通電する電流を制限値の範囲内に制限する電流制限部を含み、制限値は、モータの駆動方向とモータから出力される力またはモーメントの方向とが同じである場合の順効率時の制限値と、順効率時の制限値と異なる値を有し、モータの駆動方向とモータから出力される力またはモーメントの方向とが逆である場合の逆効率時の制限値とを含み、順効率時の制限値の絶対値は、モータの速度が大きくなるにしたがって大きくなるように設定され、逆効率時の制限値の絶対値は、モータの速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている。
【0010】
この開示の第2の局面によるロボットシステムでは、上記のように、モータに通電する電流の制限値は、モータの速度に応じて変化するように設定されている。これにより、モータの速度に応じて変化する駆動力伝達部の損失、および、モータの発生する力またはモーメントの低下に応じて、制限値を変化させることができる。その結果、モータに通電する電流の上限値が設定されている構成において、モータの速度が大きくなった場合でも、駆動力伝達部から所望の力またはモーメントを出力することが可能なロボットシステムを提供することができる。
【0011】
この開示の第3の局面による電流制限方法は、電流が流されることにより力またはモーメントを発生し、駆動力伝達部を介して駆動力を伝達する駆動部に通電する電流を制限する電流制限方法であって、駆動部の速度を取得するステップと、取得された駆動部の速度に基づいて、駆動部に通電する電流の制限値を設定するステップと、設定された制限値の範囲内において、駆動部に通電するステップとを備え、制限値は、駆動部の駆動方向と駆動部から出力される力またはモーメントの方向とが同じである場合の順効率時の制限値と、順効率時の制限値と異なる値を有し、駆動部の駆動方向と駆動部から出力される力またはモーメントの方向とが逆である場合の逆効率時の制限値とを含み、順効率時の制限値の絶対値は、駆動部の速度が大きくなるにしたがって大きくなるように設定され、逆効率時の制限値の絶対値は、駆動部の速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている。
【0012】
この開示の第3の局面による電流制限方法では、上記のように、取得された駆動部の速度に基づいて、駆動部に通電する電流の制限値を設定するステップを備える。これにより、駆動部の速度に応じて変化する駆動力伝達部の損失、および、駆動部の発生する力またはモーメントの低下に応じて、制限値を変化させることができる。その結果、駆動部に通電する電流の上限値が設定されている構成において、駆動部の速度が大きくなった場合でも、駆動力伝達部から所望の力またはモーメントを出力することが可能な電流制限方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、上記のように、駆動部に通電する電流の上限値が設定されている構成において、駆動部の速度が大きくなった場合でも、駆動力伝達部から所望の力またはモーメントを出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態によるロボットシステムの構成を示す図である。
【
図2】本開示の一実施形態によるロボット制御部のブロック図である。
【
図3】本開示の一実施形態によるロボット制御部の制御ブロック図である。
【
図4】
減速部の回転数と減速部の損失トルクとの関係を示す図である。
【
図5】モータの回転数とモータから発生するトルクとの関係を示す図である。
【
図6】モータの回転数によらず一定である制限値を示す図である。
【
図7】モータの回転数によらず一定である順効率時の制限値および逆効率時の制限値を示す図である。
【
図8】モータの回転数に応じて変化する順効率時の制限値および逆効率時の制限値を示す図である。
【
図9】モータが正方向に回転する場合の順効率時の制限値および逆効率時の制限値を示す図である。
【
図10】モータが負方向に回転する場合の順効率時の制限値および逆効率時の制限値を示す図である。
【
図11】本開示の一実施形態による電流制限方法を説明するためのフロー図である。
【
図12】変形例による医療用のロボットの構成を示す図である。
【
図13】変形例によるロボット制御部の構成を示すブロック図(1)である。
【
図14】変形例によるロボット制御部の構成を示すブロック図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を具体化した本開示の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1~
図11を参照して、本実施形態によるロボットシステム100の構成について説明する。
【0017】
図1に示すように、ロボットシステム100は、ロボット10と、ロボット10を制御するロボット制御部20とを備えている。ロボット10は、たとえば、6軸ロボットである。また、ロボット10は、たとえば、産業用のロボットである。
【0018】
図1に示すように、ロボット10は、アーム部11を含む。アーム部11は、関節12を有する。関節12は、複数設けられている。たとえば、関節12(関節12a~12f)は、6個設けられている。また、アーム部11は、基台13に取り付けられている。関節12aは、鉛直方向に延びる軸線L1回りに回動可能に構成されている。関節12bは、水平方向に延びる軸線L2回りに回動可能に構成されている。関節12cは、軸線L2に対して平行に延びる軸線L3回りに回動可能に構成されている。
【0019】
関節12dは、軸線L3に直交する軸線L4回りに回動可能に構成されている。関節12eは、軸線L4に直交する軸線L5回りに回動可能に構成されている。関節12fは、軸線L5に直交する軸線L6回りに回動可能に構成されている。
【0020】
図2に示すように、複数の関節12a~12fの各々には、モータ14a~14fが設けられている。また、モータ14a~14fの各々には、モータ14a~14fの各々の駆動力を伝達する減速部15a~15fが設けられている。モータ14a~14fは、各々、電流が流されることにより力またはモーメント(本実施形態では、トルク)を発生し、減速部15a~15fを介して駆動力を伝達する。また、減速部15a~15fは、各々、モータ14a~14fの回転を減速して伝達する。これにより、関節12a~12fが回動する。以下では、モータ14a~14fをまとめてモータ14と記載する場合がある。また、減速部15a~15fをまとめて、減速部15と記載する場合がある。なお、モータ14(14a~14f)は
、駆動
部の一例である。また、減速部15(15a~15f)は
、駆動力伝達
部の一例である。
【0021】
モータ14a~14fの各々には、エンコーダ16a~16fが設けられている。エンコーダ16a~16fは、モータ14a~14fの各々の出力軸17a~17fの角度位置を検出する。検出された出力軸17a~17fの角度位置は、後述する位置/速度制御部22に送信される。以下では、エンコーダ16a~16fをまとめてエンコーダ16と記載する場合がある。また、出力軸17a~17fをまとめて、出力軸17と記載する場合がある。
【0022】
また、ロボット制御部20には、減速部15を介して駆動力を伝達するモータ14に通電する電流を制限する電流制限装置21が設けられている。電流制限装置21は、位置/速度制御部22と、モータ14に通電する電流を制限値の範囲内に制限する電流制限部23とを含む。
【0023】
位置/速度制御部22は、モータ14a~14fの各々に、電気的に接続されており、モータ14a~14fの各々に電流を流して、モータ14a~14fの各々から出力されるトルクを制御する。また、位置/速度制御部22は、位置制御部22a(
図3参照)と速度制御部22b(
図3参照)とを含む。また、位置/速度制御部22には、記憶部24が接続されている。記憶部24には、モータ14a~14fの各々を駆動するためのプログラムが記憶されている。
【0024】
また、電流制限部23は、複数のモータ14a~14fの各々に設けられている電流制限部23a~23fを含む。また、電流制限部23a~23fの各々と、モータ14a~14fとの間には、アンプ25a~25fが設けられている。以下では、アンプ25a~25fをまとめてアンプ25と記載する場合がある。
【0025】
次に、
図3を参照して、モータ14のトルク制御について説明する。
【0026】
位置/速度制御部22は、記憶部24(上位命令装置)から関節12の位置指令値(時刻歴指令位置)を取得する。そして、位置制御部22aは、取得された位置指令値と、関節12のエンコーダ16から所得された角度位置(実角度位置)との偏差を算出する。そして、位置制御部22aは、算出された偏差に位置ゲインを乗算する。また、位置制御部22aは、位置指令値を微分して関節12の目標とする速度である速度指令値を算出する。
【0027】
次に、速度制御部22bは、上記の位置ゲインが乗算された偏差と、生成された速度指令値とを加算するとともに、この加算値から、実角度位置を微分して得られる実角速度を減算して速度偏差を算出する。そして、速度制御部22bは、算出した速度偏差に速度ゲインを乗算する。これにより、速度制御部22bは、モータ14から出力する目標トルクに応じた目標電流値を生成する。
【0028】
そして、速度制御部22bは、生成した目標電流値を、電流制限部23に送信する。電流制限部23は、送信された目標電流値が電流の制限値の範囲内である場合、目標電流値をそのままアンプ25に送信する。一方、電流制限部23は、送信された目標電流値が電流の制限値の範囲外である場合、目標電流値を電流の制限値の範囲内の値に制限して、アンプ25に送信する。
【0029】
ここで、本実施形態では、モータ14に通電する電流の制限値は、モータ14の速度に応じて変化するように設定されている(
図8参照)。電流の制限値を設ける理由の一つは、モータ14が出力するトルクを、駆動系の許容トルク(たとえば、減速部15が損傷されるのを抑制するトルクなど)以下にすることである。
【0030】
一方、
図4に示すように、減速部15の回転数(横軸)が増加するにしたがって、減速部15の損失トルク(縦軸)が上昇する。具体的には、減速部15には、クーロン摩擦と粘性摩擦とが含まれる。クーロン摩擦は、減速部15にかかる力に比例する。また、粘性摩擦は、減速部15に含まれるグリスやオイルの粘性に起因する摩擦であり、減速部15の回転数の増加とともに増加する。
【0031】
また、
図5に示すように、モータ14が発生するトルク(縦軸)は、モータ14の回転数(横軸)の増加とともに減少する。モータ14の回転数(回転速度)が大きくなるにしたがって、モータ14に発生する逆起電力が大きくなり、モータ14に電流が流れにくくなるからである。
【0032】
ここで、
図6に示すように、モータ14の回転数によらず、電流の制限値が一定である場合、モータ14の回転数が比較的大きい領域では、減速部15の損失トルクが大きくなるととともにモータ14が発生するトルクは小さくなるため、減速部15から所望のトルクを発生することができなくなる。
【0033】
そこで、本実施形態では、
図8に示すように、制限値の絶対値は、モータ14の速度(回転数)が大きくなるにしたがって大きくなるか(後述する順効率の場合)、または、小さくなる(後述する逆効率の場合)ように設定されている。また、制限値の絶対値は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって徐々に大きくなるか、または、徐々に小さくなるように設定されている。なお、減速部15の損失トルクが摩擦にのみ起因する場合、制限値の絶対値は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって徐々に大きくなるか、または、徐々に小さくなる。しかしながら、モータ14の制御によっては、モータ14に回転数に応じて制限値の絶対値を小さくしていき、ある回転数以降、絶対値を大きくするように変化させる場合もある。
【0034】
また、図
4に示すように、減速部15の損失トルクの増加率は、減速部15の回転数が大きくなるにしたがって大きくなる。また、
図5に示すように、モータ14が発生するトルクの減少率は、減速部15の回転数が大きくなるにしたがって大きくなる。そこで、本実施形態では、制限値の変化率は、モータ14の速度(回転数)が大きくなるにしたがって大きくなるように設定されている。なお、
図8の制限値の変化率は一例であり、制限値の変化率は、モータ14の速度(回転数)が大きくなるにしたがって大きくならない場合もある。つまり、減速部15の損失トルクの変化に沿うように制限値の変化率が設定される。
【0035】
また、モータ14の駆動方向(回転方向)とモータ14から出力される力またはモーメント(本実施形態では、トルク)の方向とが同じある場合を、順効率という。言い換えると、順効率の場合、モータ14および減速部15において、モータ14側から減速部15側にトルクが伝達される。順効率は、たとえば、モータ14によって関節12の回動を加速する場合に相当する。順効率時では、減速部15の損失トルクは、モータ14が発生するトルクに対してマイナスに寄与する。
【0036】
また、モータ14の駆動方向(回転方向)とモータ14から出力される力またはモーメント(本実施形態では、トルク)の方向とが逆である場合を、逆効率という。言い換えると、逆効率の場合、減速部15の出力側からモータ14側にトルクが伝達される。逆効率は、たとえば、モータ14の減速度が大きい場合に相当する。逆効率時では、減速部15の損失トルクは、モータ14が発生するトルクに対してプラスに寄与する。このように、順効率時と逆効率時とで、モータ14が発生するトルクに対する減速部15の損失トルクの寄与が異なる。
【0037】
そこで、本実施形態では、
図8に示すように、電流の制限値は、モータ14の駆動方向(回転方向)とモータ14から出力される力またはモーメント(本実施形態では、トルク)の方向とが同じである場合の順効率時の制限値と、順効率時の制限値と異なる値を有し、モータ14の駆動方向(回転方向)とモータ14から出力される力またはモーメント(本実施形態では、トルク)の方向とが逆である場合の逆効率時の制限値とを含む。そして、順効率時の制限値および逆効率時の制限値は、モータ14の速度(回転数)に応じて変化するように設定されている。なお、順効率時の制限値の絶対値は、逆効率時の制限値の絶対値よりも大きな値を有する。
【0038】
図7に示すように、順効率時の制限値がモータ14の回転数によらず一定である場合、モータ14の回転数の増加に伴って、マイナスに寄与する減速部15の損失トルクが大きくなり、減速部15の出力側のトルクが低下してしまう。また、逆効率時の制限値がモータ14の回転数によらず一定である場合、モータ14の回転数の増加に伴って、プラスに寄与する減速部15の損失トルクが大きくなり、減速部15に比較的大きなトルクがかかってしまう。このため、減速部15が破損したり、減速部15のボルトのゆるみ等が発生したり、また減速時のアームへの負担(応力)が増大する場合などがある。
【0039】
そこで、本実施形態では、
図8に示すように、順効率時の制限値の絶対値は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるように設定され、逆効率時の制限値の絶対値は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている。
【0040】
また、上記のように、減速部15の損失トルクの増加率は、減速部15の回転数が大きくなるにしたがって大きくなる(
図4参照)。また、モータ14が発生するトルクの減少率は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなる(
図5参照)。そこで、本実施形態では、順効率時の制限値の増加率および逆効率時の制限値の減少率は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるように設定されている。
【0041】
詳細には、
図9に示すように、モータ14に正方向に電流が流され(電流指令値が正)、かつ、モータ14の回転が正方向である場合(順効率)、順効率時の制限値は、正の値であるとともに、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなる。また、モータ14に正方向に電流が流され(電流指令値が正)、かつ、モータ14の回転が負方向である場合(逆効率)、逆効率時の制限値は、正の値であるとともに、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって小さくなる。
【0042】
また、
図10に示すように、モータ14に負方向に電流が流され(電流指令値が負)、かつ、モータ14の回転が負方向である場合(順効率)、順効率時の制限値は、負の値であるとともに、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって小さくなる(絶対値は大きくなる)。また、モータ14に負方向に電流が流され(電流指令値が負)、かつ、モータ14の回転が正方向である場合(逆効率)、逆効率時の制限値は、負の値であるとともに、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなる(絶対値は小さくなる)。
【0043】
また、本実施形態では、制限値は、モータ14が発生する力またはモーメント(本実施形態では、トルク)によって減速部15が損傷されるのを抑制するように、かつ、減速部15の出力側の力またはモーメント(本実施形態では、トルク)を一定の値に維持するように設定されている。具体的には、順効率時の制限値は、モータ14の回転数が増加した場合でも、減速部15の出力側のトルクが一定に保持されるように設定される。つまり、順効率時の制限値は、減速部15の損失トルクとモータ14が発生するトルクの減少分とを補うことが可能なように(かつ、減速部15が損傷されるのを抑制するように)設定される。また、逆効率時の制限値は、モータ14の回転数が増加した場合でも、減速部15の損失トルクの増加に起因する減速部15の損傷が抑制されるように設定される。順効率時の制限値および逆効率時の制限値は、実際にモータ14を駆動させて、減速部15の損失トルクおよびモータ14のトルクの低下を測定し、この測定の結果に基づいて取得される。
【0044】
次に、
図11を参照して、減速部15を介して駆動力を伝達するモータ14に通電する電流を制限する電流制限方法について説明する。
【0045】
ステップS1において、電流制限装置21は、モータ14の速度(回転数)を取得する。具体的には、上位命令装置からの時刻歴指令位置を微分して速度(指令速度)を取得する。なお、エンコーダ16から取得されるモータ14の出力軸17の角度位置に基づいて、モータ14の回転数を取得してもよい。
【0046】
ステップS2において、電流制限部23は、取得されたモータ14の速度(回転数)に基づいて、モータ14に通電する電流の制限値を設定する。
【0047】
ステップS3において、電流制限部23は、設定された制限値の範囲内において、モータ14に通電する。上記のステップS1~S3の動作は、モータ14の動作中に繰り返し行われている。
【0048】
[本実施形態の効果]
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0049】
本実施形態では、上記のように、モータ14に通電する電流の制限値は、モータ14の回転数に応じて変化するように設定されている。これにより、モータ14の回転数(速度)に応じて変化する減速部15の損失、および、モータ14の発生するトルクの低下に応じて、制限値を変化させることができる。その結果、モータ14に通電する電流の上限値が設定されている構成において、モータ14の回転数が大きくなった場合でも、減速部15から所望のトルクを出力することができる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、制限値の絶対値は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるかまたは小さくなるように設定されている。ここで、減速部15の損失は、モータ14が発生するトルクにプラスに寄与する場合(逆効率の場合)と、マイナスに寄与する場合(順効率の場合)とがある。そこで、減速部15の損失が、モータ14が発生する力にマイナスに寄与する場合に、順効率の制限値をモータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくすることによって、モータ14の発生するトルクの低下と減速部15の損失とを補うようにモータ14に通電する電流を調整することができる。また、減速部15の損失が、モータ14が発生する力にプラスに寄与する場合に、逆効率の制限値をモータ14の回転数が大きくなるにしたがって小さくすることによって、減速部15の損失がプラスになる分を除去するようにモータ14に通電する電流を調整することができる。これらの結果、減速部15の損失がプラスに寄与する場合とマイナスに寄与する場合との両方において、モータ14に通電する電流を適切に調整することができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、制限値の変化率は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるように設定されている。これにより、減速部15の損失の変化率、および、モータ14の発生するトルクの低下の変化率は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるので、制限値の変化率をモータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるように設定することによって、モータ14に通電する電流をより適切に調整することができる。その結果、モータ14のトルクを適切に調整することができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、電流の制限値は、モータ14の駆動方向(回転方向)とモータ14から出力される力またはモーメント(本実施形態では、トルク)の方向とが同じである場合の順効率時の制限値と、順効率時の制限値と異なる値を有し、モータ14の駆動方向(回転方向)とモータ14から出力される力またはモーメント(本実施形態では、トルク)の方向とが逆である場合の逆効率時の制限値とを含み、順効率時の制限値および逆効率時の制限値は、モータ14の回転数に応じて変化するように設定されている。ここで、順効率の場合、減速部15の損失は、モータ14が発生する力にマイナスに寄与し、逆効率の場合、減速部15の損失は、モータ14が発生する力にプラスに寄与する。そこで、上記のように、制限値が、順効率時の制限値と、順効率時の制限値と異なる値を有する逆効率時の制限値とを含むことによって、順効率および逆効率のいずれの場合においても、モータ14に通電する電流を適切に調整することができる。
【0053】
また、本実施形態では、上記のように、順効率時の制限値の絶対値は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるように設定され、逆効率時の制限値の絶対値は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている。これにより、順効率の場合には、減速部15の損失は、モータ14が発生するトルクにマイナスに寄与するので、順効率時の制限値の絶対値をモータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるように設定することによって、モータ14の発生するトルクの低下と減速部15による損失とを補うようにモータ14に通電する電流を適切に調整することができる。また、逆効率の場合には、減速部15の損失は、モータ14が発生するトルクにプラスに寄与するので、逆効率時の制限値の絶対値をモータ14の回転数が大きくなるにしたがって小さくなるように設定することによって、減速部15に過大なトルクがかかることに起因して減速部15が損傷するのを抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態では、上記のように、順効率時の制限値の増加率および逆効率時の制限値の減少率は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるように設定されている。これにより、減速部15の損失の増加率、および、モータ14の発生するトルクの低下の減少率は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるので、順効率時の制限値の増加率および逆効率時の制限値の減少率をモータ14の回転数が大きくなるにしたがって大きくなるように設定することによって、モータ14に通電する電流をより適切に調整することができる。
【0055】
また、本実施形態では、上記のように、制限値は、モータ14の回転数に応じて変化するように設定されている。これにより、モータ14の回転数に応じて変化する減速部15の損失トルク、および、モータ14の発生するトルクの低下に応じて、制限値を変化させることができる。その結果、モータ14の回転数が大きくなった場合に、減速部15の損失、および、モータ14の発生するトルクの低下を考慮して、モータ14に通電する電流を調整することができるので、モータ14の回転数が大きくなった場合でも、減速部15から所望のトルクを出力することができる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、制限値は、モータ14が発生するトルクによって減速部15が損傷されるのを抑制するように、かつ、減速部15の出力側のトルクを一定の値に維持するように設定されている。これにより、減速部15が損傷されるのを抑制しながら、減速部15から所望のトルクを出力することができる。
【0057】
また、本実施形態では、上記のように、モータ14は、ロボット10の関節12に設けられている。これにより、ロボット10の関節12に設けられるモータ14において、モータ14の回転数が大きくなった場合でも、減速部15から所望のトルクを出力することができる。
【0058】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0059】
たとえば、上記実施形態では、産業用のロボット10に本
開示を適用する例を示したが、本
開示はこれに限られない。たとえば、
図12に示すように、医療用のロボット30に本
開示を適用してもよい。ロボット30は、ポジショナ31(多関節ロボット)と、アームベース32と、複数のアーム33とを備えている。複数のアーム33の各々の先端には、医療器具34が取り付けられている。本
開示の電流制限装置は、たとえば、ポジショナ31(多関節ロボット)やアーム33の関節のモータに流れる電流を制限する。これにより、医療用のロボット30において、モータ14の速度(回転数)が大きくなった場合でも、減速部15から所望のトルクを出力することができる。
【0060】
特に医療用のロボット30では、医療用のロボット30を配置するためのスペースが限られている、関節が多い、衝突時の衝撃の低減のために駆動電圧を低くする必要がある、などの理由から、低出力のモータ14を高減速比で使用することがある。この場合、駆動系の摩擦による影響が大きくなるため、本開示のように電流の制限値をモータ14の回転数に応じて変化させることは特に有効である。
【0061】
また、上記実施形態では、本開示の「駆動部」としてモータ14が適用される例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、本開示の「駆動部」として比例ソレノイド、リニアモータ、ボイスコイルおよび球面アクチュエータなどのアクチュエータを適用してもよい。また、本開示の「駆動部」としてパウダクラッチ・ブレーキ、ヒステリシスクラッチ・ブレーキを適用してもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、本開示の「駆動力伝達部」として減速部15が適用される例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、モータが直線運動するリニアモータである場合、駆動力伝達部は、リニアモータの直線運動の力を伝達する。また、制限値は、リニアモータの直線移動の速度に応じて変化するように設定される。
【0063】
また、上記実施形態では、順効率時の制限値の絶対値は、モータ14の回転が大きくなるにしたがって徐々に大きくなり、逆効率時の制限値の絶対値は、モータ14の回転が大きくなるにしたがって徐々に小さくなるように設定されている例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、順効率時の制限値の絶対値が、モータ14の回転が大きくなるにしたがって段階的に大きくなり、逆効率時の制限値の絶対値が、モータ14の回転が大きくなるにしたがって段階的に小さくなるように設定されていてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、制限値の変化率は、モータの速度が大きくなるにしたがって大きくなるように設定されている例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、減速部15の損失トルクやモータ14の回転数の増加に伴うモータ14の発生するトルク低下の変化率が小さい場合(線形に近い場合)など、制限値の変化率が一定であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、順効率時の制限値と逆効率時の制限値とが設けられている例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、順効率時の制限値と逆効率時の制限値との差異が小さい場合などでは、順効率と逆効率とにおいて共通の制限値が設けられていてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、逆効率時の制限値の絶対値は、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって小さくなるように設定されている例を示したが、本開示はこれに限られない。たとえば、モータ14の制御によっては、モータ14の回転数の高速域において、逆効率時の制限値の絶対値を、モータ14の回転数が大きくなるにしたがって小さくなるように設定してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、位置/速度制御部22が、モータ14a~14fに対して共通に(1つ)設けられている例を示したが、本
開示はこれに限られない。たとえば、
図13に示すように、位置/速度制御部122a~122fが、モータ14a~14fに対して個別に設けられていてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、位置/速度制御部22と、電流制限部23a~23fとが個別に設けられている例を示したが、本
開示はこれに限られない。たとえば、
図14に示すように、位置/速度制御部および電流制限部を含む1つの制御部26が設けられていてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、電流制限部23が、アンプ25の上流側に設けられている例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、電流制限部23は、位置/速度制御部22とモータ14とが接続されるラインの何処か(アンプ25の出力側、エンコーダ16からフィードバックされるラインなど)に設けられていればよい。
【符号の説明】
【0070】
10 ロボット
12、12a~12f 関節
14、14a~14f モータ(駆動部)
15、15a~15f 減速部(駆動力伝達部)
20 ロボット制御部
21 電流制限装置
23、23a~23f 電流制限部
30 ロボット(医療用のロボット)
100 ロボットシステム