(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】新規なジンセノサイドを含む更年期症状の予防又は改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20240729BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240729BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240729BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20240729BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240729BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240729BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240729BHJP
A61P 5/30 20060101ALI20240729BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240729BHJP
A61K 36/258 20060101ALI20240729BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240729BHJP
A23G 3/34 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61P25/18
A61P25/20
A61P19/10
A61P25/24
A61P25/04
A61P3/00
A61P5/30
A61P43/00 111
A61K36/258
A23L33/105
A23G3/34 101
(21)【出願番号】P 2020150716
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】10-2019-0119642
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506213681
【氏名又は名称】アモーレパシフィック コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
【住所又は居所原語表記】100, Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン, ヨン ドク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ヒョン ウ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-515523(JP,A)
【文献】Identification of a novel triterpene saponin from Panax ginseng seeds, pseudoginsenoside RT8, and its antiinflammatory activity,Journal of Ginseng Research,2018年,44,145-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 36/258
A23L 33/105
A23G 3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1->2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール((20S,24R)-6-O-β-D-glucopyranosyl(1->2)-β-D-glucopyranoside-dammar-3-one-20,24-epoxy-6a,12b,25-triol)、その薬学的に許容可能な塩、その水和物又はその溶媒和物を有効成分として含む、更年期症状の予防又は改善用組成物。
【請求項2】
前記有効成分は、下記の化学式1で表される構造を有するものである、請求項1に記載の組成物。
【化1】
【請求項3】
前記有効成分は、高麗人参の種子から抽出したものである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
当該組成物は、めまい、睡眠障害、顔面紅潮、骨粗鬆症、夜間発汗、鬱病、頭痛、及び疲労感のうちの一つ以上を含む症状の予防又は改善用途である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
当該組成物の対象への投与時におけるエストロゲン受容体のうちのERα(estrogen receptor α)に対するERβ(estrogen receptor β)の活性比は1.1倍以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記有効成分を、組成物の総重量に対して0.0001~99.9重量%の範囲で含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
当該組成物の投与量は、0.05mg/kg/日~10g/kg/日である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
当該組成物の投与対象は、エストロゲン受容体の活性が減少した対象である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
当該組成物は、食品組成物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
当該組成物は、薬学組成物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願に対する相互参照]
本出願は、2019年9月27日付で出願された大韓民国特許出願第10-2019-0119642号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容を本出願に参照として援用する。
【0002】
本明細書は、新規なジンセノサイド及びこれを含む組成物に関して記述する。
【背景技術】
【0003】
高麗人参(Panax ginseng C.A. Meyer)は、五加皮科人参属に属する植物で、韓国、中国、日本等で2,000年余りの前から使用されてきた生薬である。高麗人参の代表的生理活性成分として、サポニン、多糖類、ペプチド、シトステロール、ポリアセチレン及び脂肪酸が知られており、これらのうち高麗人参のサポニンをジンセノサイド(ginsenoside)という。高麗人参の効能や効果としては、中枢神経系に対する作用、抗発癌作用と抗癌活性、免疫機能調節作用、抗糖尿作用、肝機能亢進効能、心血管障害改善及び抗動脈硬化作用、血圧調節作用、更年期障害改善及び骨粗鬆症に及ぼす効果、抗ストレス及び抗疲労作用、抗酸化活性及び老化抑制効能などが知られている。前記ジンセノサイドは、高麗人参の根、葉、実、花、種子などの部位に応じてその含量や組成に大きな差異があるが、前記のように知られた効能の大半は、高麗人参の根の部分に関するものであって、高麗人参の根を除いた高麗人参の他の部分に関する研究は不足している実情である。
【0004】
エストロゲンは、エストロゲン受容体と結合して様々な生理現象を発現し、女性の場合、生殖器官である卵巣の機能が低下しつつ更年期になると、エストロゲンホルモンの分泌が減少し且つエストロゲン受容体の活性が減少して様々な症状が発現するようになる。代表的な更年期症状としては、めまい、睡眠障害、顔面紅潮、夜間発汗などの身体的症状と鬱病、疲労感などの心理的症状がある。したがって、女性のエストロゲン受容体の活性管理が更年期症状の改善や予防において極めて重要な役割をするといえる。更年期の前後の時期にエストロゲンを補充することが勧奨され、症状によっては薬物治療が併行される。しかし、従来知られたエストロゲン補充療法(estrogenic therapy)の場合、乳癌細胞の成長や細胞分裂が増加して乳癌の発病率を高くし、その他子宮内膜炎、血栓塞栓症、高血圧などの副作用を引き起こすことがあると報告されており、人体への副作用の少ない天然物質由来の健康機能性食品や医薬品の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】大韓民国公開特許第10-2016-0086149号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Deroo BJ et al., J Clin Invest 116:561(2006)
【文献】Harris HA et al., Evaluation of an estrogen receptor-beta agonist in animal models of human disease, Endocrinology 144:4241(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一観点において、本発明が解決しようとする課題は、更年期症状の予防又は改善効能を有する新規なジンセノサイドを含む組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面において、本発明は、(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1->2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール((20S,24R)-6-O-β-D-glucopyranosyl(1->2)-β-D-glucopyranoside-dammar-3-one-20,24-epoxy-6a,12b,25-triol)、その薬学的に許容可能な塩、その水和物又は溶媒和物を有効成分として含む更年期症状の予防又は改善用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
一観点において、本発明は、更年期症状の予防又は改善に優れた効果を有する新規なジンセノサイド、その薬学的に許容可能な塩、その水和物又は溶媒和物を含む組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち本発明の新規なジンセノサイド(Cpd.10)の分離過程を示した図である。
【
図2a】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物1~3の化学構造を示した図である。
【
図2b】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物4~6の化学構造を示した図である。
【
図2c】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物7の化学構造を示した図である。
【
図2d】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物8の化学構造を示した図である。
【
図2e】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物9の化学構造を示した図である。
【
図2f】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物10の化学構造を示した図である。
【
図2g】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物11の化学構造を示した図である。
【
図2h】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物12の化学構造を示した図である。
【
図2i】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物13の化学構造を示した図である。
【
図2j】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物14の化学構造を示した図である。
【
図2k】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物15の化学構造を示した図である。
【
図2l】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物16の化学構造を示した図である。
【
図3a】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち既知のジンセノサイドに該当する化合物1の分光学的証拠及び構造を示した図である。
【
図3b】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち既知のジンセノサイドに該当する化合物2の分光学的証拠及び構造を示した図である。
【
図3c】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち既知のジンセノサイドに該当する化合物3の分光学的証拠及び構造を示した図である。
【
図3d】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち既知のジンセノサイドに該当する化合物4の分光学的証拠及び構造を示した図である。
【
図3e】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち既知のジンセノサイドに該当する化合物5の分光学的証拠及び構造を示した図である。
【
図3f】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち既知のジンセノサイドに該当する化合物6の分光学的証拠及び構造を示した図である。
【
図4】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち本発明の新規なジンセノサイドに該当する化合物10の
1H-NMRスペクトルを示した図である。
【
図5】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち本発明の新規なジンセノサイドに該当する化合物10の
13C-NMRスペクトルを示した図である。
【
図6】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち本発明の新規なジンセノサイドに該当する化合物10のCOSYスペクトルを示した図である。
【
図7】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち本発明の新規なジンセノサイドに該当する化合物10のHSQCスペクトルを示した図である。
【
図8】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち本発明の新規なジンセノサイドに該当する化合物10のHMBCスペクトルを示した図である。
【
図9】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち本発明の新規なジンセノサイドに該当する化合物10のMSスペクトルを示した図である。
【
図10】高麗人参の種子抽出物から分画された化合物のうち本発明の新規なジンセノサイドに該当する化合物10の核心HMBC相関関係を示した図である。
【
図11】高麗人参の種子抽出物から分離した本発明の新規なジンセノサイドに該当するGS#10と本発明の比較例であるジンセノサイドGS#01-GS#06のエストロゲン受容体ERαの活性調節効果を比較した図である。(*** P<0.001 vs. (-)、** P<0.01 vs. (-)、* P<0.05 vs. (-))
【
図12】高麗人参の種子抽出物から分離した本発明の新規なジンセノサイドに該当するGS#10と本発明の比較例であるジンセノサイドGS#01-GS#06のエストロゲン受容体ERβの活性調節効果を比較した図である。(*** P<0.001 vs. (-)、** P<0.01 vs. (-)、* P<0.05 vs. (-))
【
図13】高麗人参の種子抽出物から分離した本発明の新規なジンセノサイドに該当するGS#10と本発明の比較例であるジンセノサイドGS#01-GS#06のエストロゲン受容体ERαに対するERβの活性比率を比較した図である。(** P<0.01 vs. (-))
【
図14】高麗人参の種子抽出物から分離した本発明の新規なジンセノサイドに該当するGS#10と本発明の比較例である高麗人参の種子抽出物(GSE)のエストロゲン受容体ERα及びERβの活性調節効果を比較した図である。(*** P<0.001 vs. (-)、** P<0.01 vs. (-)、* P<0.05 vs. (-))
【
図15】高麗人参の種子抽出物から分離した本発明の新規なジンセノサイドに該当するGS#10と本発明の比較例であるジンセノサイドGS#01-GS#06が副作用としての乳癌有病率を増加させたか否かを確認するためのMCF-7乳癌細胞株細胞の成長程度を比較した図である。(** P<0.01 vs. (-))
【
図16】紅参指標成分であるジンセノサイドRg1、Rg3及びRb1と本発明の新規なジンセノサイドに該当するGS#10のエストロゲン受容体ERαの活性調節効果を比較した図である。(*** P<0.001 vs. (-)、** P<0.01 vs. (-)、* P<0.05 vs. (-))
【
図17】紅参指標成分であるジンセノサイドRg1、Rg3及びRb1と本発明の新規なジンセノサイドに該当するGS#10のエストロゲン受容体ERβの活性調節効果を比較した図である。(*** P<0.001 vs. (-)、** P<0.01 vs. (-)、* P<0.05 vs. (-))
【
図18】本発明の新規なジンセノサイドに該当する化合物10(GS#10)の細胞生存率(%Viable cells)を示した図である。(*** P<0.001 vs. (-)、** P<0.01 vs (-)、* P<0.05 vs. (-))
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照しつつ、本出願の実施例についてより詳細に説明することとする。しかし、本出願に開示された技術は、ここで説明される実施例に限定されるものではなく、他の形態に具体化されてもよい。単に、ここで紹介される実施例は、開示された内容が徹底かつ完全となり得るよう、そして、当業者に本出願の思想が十分に伝えられるようにするために提供されるものである。図面において各構成要素を明確に表現するために、構成要素の幅や厚さなどの大きさを多少拡大して示した。また、説明の便宜のために、構成要素の一部のみを図示したが、当業者であれば、構成要素の残りの部分についても容易に把握することができるであろう。また、当該分野における通常の知識を有する者であれば、本出願の技術的思想を逸脱しない範囲内で、本出願の思想を多様な他の形態に具現できるであろう。
【0012】
一実施例において、本発明は、新規なジンセノサイド、その薬学的に許容可能な塩、その水和物又は溶媒和物を有効成分として含む更年期症状の予防又は改善用組成物を提供することができる。
【0013】
一実施例において、前記ジンセノサイドは、新規なトリテルペンサポニン(triterpene saponin)であって、(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1->2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール((20S,24R)-6-O-β-D-glucopyranosyl(1->2)-β-D-glucopyranoside-dammar-3-one-20,24-epoxy-6a,12b,25-triol)である。
【0014】
一実施例は、更年期症状の予防又は改善用組成物の製造に用いるための(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1->2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール、その薬学的に許容可能な塩、その水和物、又はその溶媒和物の用途を提供することができる。
【0015】
一実施例は、(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1->2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール、その薬学的に許容可能な塩、その水和物、又はその溶媒和物を、これを必要とする対象に有効量で投与することを含む更年期症状の予防又は改善方法を提供することができる。
【0016】
一実施例は、更年期症状の予防又は改善用組成物に用いるための有効成分として、(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1->2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール、その薬学的に許容可能な塩、その水和物、又はその溶媒和物を提供することができる。また、更年期症状の予防又は改善のための有効成分として、(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1->2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール、その薬学的に許容可能な塩、その水和物、又はその溶媒和物の非治療的用途を提供することができる。
【0017】
本明細書において「薬学的に許容可能」とは、通常の医薬的服用量(Medicinal dosage)で用いる際に相当な毒性効果を避けることにより、動物、より具体的には、ヒトに用いることができるという政府又はこれに準ずる規制機構の承認を受けることができ、又は承認を受け、又は薬局方に列挙され、又はその他一般的な薬局方に記載されたものと認定されることを意味する。
【0018】
本明細書において「薬学的に許容可能な塩」は、薬学的に許容可能であり、親化合物(parent compound)の好ましい薬理活性を有する本発明の一側面に係る塩を意味する。前記塩は、(1)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などといった無機酸から形成されるか;又は、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンテンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタン-ジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2,2,2]-oct-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert-ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸といった有機酸から形成される酸付加塩(acid addition salt);又は、(2)親化合物に存在する酸性プロトンが置換されるときに形成される塩を含んでよい。
【0019】
本明細書において「水和物(hydrate)」は、水が結合している化合物を意味し、水と混合物との間で化学的な結合力のない内包化合物を含む広範な概念である。
【0020】
本明細書において「溶媒和物」は、溶質の分子やイオンと溶媒の分子やイオンとの間で生じた高次の化合物を意味する。
【0021】
一実施例において、前記ジンセノサイドの分子式は、C42H70O15であり、下記のような化学構造を有する。
【0022】
【0023】
本明細書では、前記新規なジンセノサイドを「シュードジンセノーサイドRT8(pseudoginsenosideRT8)」又は「PG-RT8」と命名した。
一実施例において、前記ジンセノサイドは、高麗人参の種子抽出物から分離されたものであってよいが、これに制限されるものではない。一実施例において、前記種子抽出物を得た高麗人参は、オタネニンジン(Panax ginseng C.a. Meyer)である。
【0024】
本明細書において「分離」とは、高麗人参の種子抽出物から抽出又は分画されたことを含む意味であり、水、有機溶媒などを用いてよく、当業者に知られた如何なる方法も適用可能である。前記分画は、前記抽出以降に行うことであってよい。
【0025】
本明細書において「抽出物」とは、天然物からその中の成分を抽出して得られた物質であれば、抽出方法や成分の種類を問わずいずれも含む。例えば、水や有機溶媒を用いて天然物から溶媒に溶解される成分を抽出して得たもの、天然物の特定の成分のみを抽出して得たものなどをいずれも含む広義の概念である。
【0026】
本明細書において「分画物」は、ある溶媒を用いて特定の物質や抽出物を分画して得たもの又は分画して残ったもの、そして、これらを特定の溶媒で再び抽出して得たものを含む。分画方法や抽出方法は当業界における通常の技術者に知られたものであればいずれも用いてよい。
【0027】
一実施例において、前記ジンセノサイドは、高麗人参の種子のメタノール及びブタノール溶解性抽出物から分離したものであってよい。具体的に、前記ジンセノサイドは、HPLC-ESI-Q-TOF-MSを用いて高麗人参の種子のメタノール及びブタノール溶解性抽出物を分析して検出、分離されたものであってよい。高麗人参の種子抽出物の主成分が脂質であるため、あらゆるトリテルペンやステロイド性サポニンが高麗人参の種子の粗(crude)抽出物からHPLC-UV又はHPLC-ELSDによって観察できるものではない。
【0028】
本明細書において用語「更年期症状」は、エストロゲンホルモンの分泌が減る、又はエストロゲン受容体の活性が減少するにつれて現われる身体的又は心理的変化乃至症状を意味する。一実施例として、前記更年期症状は、閉経期症侯群を含んでよい。例えば、前記更年期症状は、めまい、睡眠障害、顔面紅潮、骨粗鬆症、夜間発汗、鬱病、頭痛、及び疲労感のうちの一つ以上を含む身体的又は心理的症状を含んでよい。
【0029】
本明細書において用語「予防」とは、本発明の一実施例に係る組成物を投与して目的とする症状を抑制又は遅延させるすべての行為を意味する。本明細書において用語「治療」とは、本発明の一実施例に係る組成物を投与して目的とする症状又は疾病を好転させたり治したりするすべての行為を意味する。本明細書において用語「改善」とは、本発明の一実施例に係る組成物を投与して目的とする症状を投与の前よりも好転又は良くするすべての行為を意味する。
【0030】
本発明の一実施例に係る前記組成物は、エストロゲン受容体のうちのERα(estrogen receptor α)とERβ(estrogen receptor β)の活性を増加させることができる。エストロゲン受容体ERα及びERβの活性が増加すると、更年期症状が緩和され得るが、安全な更年期症状の改善のための分子的ターゲットは、ERαよりもERβの方が適合するといえる。本明細書にその全体が参照として取り込まれるDeroo BJ et al., J ClinInvest 116:561(2006)では、大半の乳癌細胞ではERαが過発現しており、これは主にERαの増加によって現われることが報告されている。当該文献に開示した癌で増加するESR1はERαである。また、本明細書にその全体が参照として取り込まれるHarris HA et al., Evaluation of an estrogen receptor-beta agonist in animal models of human disease, Endocrinology 144:4241(2003)では、ERβの減少は大腸癌にも影響を及ぼすことが報告されている。本発明の一実施例に係る前記組成物は、特にERαに対するERβの活性比が高く、従来の更年期症状改善製品で現れていた乳癌の発病可能性が高いという副作用を改善して、効果的に更年期症状を予防又は改善することができる。一実施例として、前記組成物の対象への投与時におけるエストロゲン受容体のうちのERαに対するERβの活性比は、1.1倍以上、具体的には、1.1倍以上3倍以下で示されてよいが、これに制限されない。より具体的には、ERαに対するERβの活性比が、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上、2倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、又は2.5倍以上であり、且つ3倍以下、2.9倍以下、2.8倍以下、2.7倍以下、2.6倍以下、2.5倍以下、2.4倍以下、2.3倍以下、2.2倍以下、2.1倍以下、又は2倍以下であってよい。
【0031】
一実施例において、本発明は、前記有効成分を、組成物の総重量に対して0.0001~99.9重量%の範囲で含んでよい。具体的に、前記組成物は、一実施例として、前記有効成分を、組成物の総重量に対して0.0001重量%以上、0.0005重量%以上、0.001重量%以上、0.01重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上、4重量%以上、5重量%以上、6重量%以上、7重量%以上、8重量%以上、9重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、又は99.9重量%以上含んでよいが、前記範囲に制限されるものではない。又は、前記組成物は、一実施例として、前記有効成分を、組成物の総重量に対して100重量%以下、99重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、75重量%以下、70重量%以下、65重量%以下、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、9重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、6重量%以下、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.1重量%以下、0.01重量%以下、0.001重量%以下、又は0.0005重量%以下含んでよいが、前記範囲に制限されるものではない。
【0032】
本発明の実施例に係る組成物は、前記有効成分を含む食品組成物であってよい。
【0033】
例えば、前記有効成分を含む発酵乳、チーズ、ヨーグルト、ジュース、生菌製剤、及び健康食品などといった機能性食品として加工されてよく、その他、多様な食品添加剤の形態で用いられてよい。一実施例として、組成物は、健康食品用組成物であってよい。一実施例として、前記健康食品用組成物は、丸剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、キャラメル剤又はドリンク剤などに剤形化することができる。他の一実施例として、液剤、粉末、顆粒、錠剤又はティーバッグなどの形態に加工されてもよい。前記組成物は、単純飲用、注射投与、スプレー方式又はスクイーズ方式などの様々な方法で投与されてよい。前記組成物は、本発明の主効果を損なわない範囲内で主効果に相乗効果を与え得る他の成分などを含有してよい。例えば、物性改善のために、香料、色素、殺菌剤、酸化防止剤、防腐剤、保湿剤、増粘剤、無機塩類、乳化剤、及び合成高分子物質などの添加剤をさらに含んでよい。その他にも、水溶性ビタミン、油溶性ビタミン、高分子ペプチド、高分子多糖、及び海草エキスなどの補助成分をさらに含んでよい。前記成分は、剤形又は使用目的に応じて当業者が適宜選定して配合してよく、その添加量は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲内で選択されてよい。例えば、前記成分の添加量は、組成物の全重量を基準に、0.0001重量%~99.9重量%の範囲であってよい。一実施例として、前記食品組成物の投与量は、対象の年齢、性別、体重と、対象が持っている特定の疾患又は病理状態、疾患又は病理状態の深刻度、投与経路などの判断に応じて異なり得、このような因子に基づく投与量の決定は当業者の水準内にある。例えば、前記投与量は、0.05mg/kg/日以上又は1mg/kg/日以上であってよく、且つ10g/kg/日以下、100mg/kg/日以下、又は10mg/kg/日以下であってよいが、前記投与量は、如何なる方法でも本明細書の範囲を限定するものではない。
【0034】
本発明の実施例に係る組成物は、前記有効成分を含む薬剤学的組成物であってよい。前記薬剤学的組成物は、防腐剤、安定化剤、水和剤又は乳化促進剤、浸透圧調節のための塩及び/又は緩衝剤などの薬剤学的補助剤、並びにその他治療的に有用な物質をさらに含有してよい。
【0035】
一実施例として、前記薬剤学的組成物は、経口投与剤であってよく、前記経口投与剤は、例えば、錠剤、丸剤、硬質及び軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、粉剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、ペレット剤などがある。これらの剤形は、有効成分の他、界面活性剤、希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及びグリシン)、滑沢剤(例:シリカ、タルク、ステアリン酸及びそのマグネシウム又はカルシウム塩、並びにポリエチレングリコール)を含有してよい。錠剤は、さらに、マグネシウムアルミニウムシリケート、澱粉ペースト、ゼラチン、トラガカンス、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びポリビニルピロリジンといった結合剤を含有してよく、場合に応じて、澱粉、寒天、アルギン酸又はそのナトリウム塩といった崩解剤、吸収剤、着色剤、香味剤、及び甘味剤などの薬学的添加剤を含有してよい。前記錠剤は、通常の混合、顆粒化又はコーティング方法によって製造されてよい。
【0036】
一実施例として、前記薬剤学的組成物は、非経口投与剤であってよく、前記非経口投与剤は、直腸、局所、皮下、径皮投与型剤形であってよい。例えば、注射剤、点滴剤、軟膏、ローション、ゲル、クリーム、スプレー、懸濁剤、乳剤、坐剤、パッチなどの剤形であってよいが、これらに制限されるものではない。
【0037】
一実施例として、前記薬剤学的組成物の投与量は、治療を受ける対象の年齢、性別、体重と、治療する特定の疾患又は病理状態、疾患又は病理状態の深刻度、投与経路及び処方者の判断に応じて異なり得る。このような因子に基づく投与量の決定は当業者の水準内にある。例えば、前記投与量は、0.05mg/kg/日以上又は1mg/kg/日以上であってよく、且つ10g/kg/日以下、100mg/kg/日以下、又は10mg/kg/日以下であってよいが、前記投与量は、如何なる方法でも本明細書の範囲を限定するものではない。
【0038】
以下、実施例、比較例、及び試験例を参照して本発明を詳しく説明する。なお、これらは単に本発明をより具体的に説明するために例示したものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例、比較例及び試験例によって制限されないことは当業者にとって自明であろう。
【0039】
以下のすべての実験値は、3回以上の繰り返しの実験により得た値の平均を示すものであり、標準偏差(SD)は誤差棒で表した。p値は、one-way ANOVAとDunnett testで計算し、0.05未満のp値は統計的に有意なものと見なした。
【0040】
[実施例1]ジンセノサイドの分離
分画
高麗人参の種子(Seeds of Panax ginseng)5.5kgをミキサーで細かく粉砕して粉末状にしてメタノールで抽出後、n-ヘキサン、エチルアセテート、n-ブタノールなどを用いて段階的に分画した。脂質(Lipid)の大部分はn-ヘキサンによって除去され、エチルアセテート分画物に残っている脂質はメタノール:水=1:1(v/v)で懸濁した後、フリーザーに一晩保管してから上層液だけを取った後、遠心分離機を利用してもう一回除去した。このように前処理が施されたエチルアセテート分画物2.61gとn-ブタノール分画物114.64gをカラム及びHPCCC(High Performance Counter-Current Chromatography)によって下記のように分画した。
【0041】
n-ブタノール分画物のコラム及びHPCCCを用いた分画
n-ブタノール分画物114.64gに対してMPLCにて分画を分け、このときに用いた溶媒はn-ヘキサン/エチルアセテート=10:1→5:1→1:1→CHCl3/MeOH=10:1→5:1(v/v)であり、流速は50mL/minとした。前記条件を用いて合計12個の下位分画に分け、各分画をさらにHPCCC、HPLC(High-performance liquid chromatography)、セファデックス(Sephadex)LH-20カラムなどを用いて各分画に含有されている成分を分離し、NMR(Nuclear magnetic resonance)、UV(Ultraviolet rays)、MS(Mass spectrometry)を用いて構造を同定して16種の化合物を究明した。
【0042】
前記分離された16種の化合物は、プロトパナキサトリオールサポニン(protopanaxatriol saponin)であるジンセノサイドRg1(化合物1)、ジンセノサイドRg2(化合物2)及びジンセノサイドRe(化合物3);プロトパナキサジオールサポニン(protopanaxadiol saponin)であるジンセノサイドRd(化合物4)、ジンセノサイドRb1(化合物5)及びジンセノサイドRb2(化合物6);ステロールグリコシド(sterol glycosides)であるスティグマ-5-エン-3-O-β-D-グルコピラノシド(Stigma-5-en-3-O-β-D-glucopyranoside)(化合物7)、スティグマ-5,24(28)-ジエン-3-O-β-D-グルコピラノシド(Stigma-5,24(28)-dien-3-O-β-D-glucopyranoside)(化合物8)及びスティグマ-5,22-ジエン-3-O-β-D-グルコピラノシド(Stigma-5,22-dien-3-O-β-D-glucopyranoside)(化合物9);本発明の一実施例に係る新規なジンセノサイドとして、天然から初めて分離される新規な化合物である(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1→2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール((20S,24R)-6-O-β-D-glucopyranosyl(1→2)-β-D-glucopyranoside-dammar-3-one-20,24-epoxy-6a,12b,25-triol)(化合物10);フェノール性グリコシド(phenolic glycosides)であるフェネチルアルコールβ-D-キシロピラノシル(1→6)-β-D-グルコピラノシド(phenethyl alcohol β-D-xylopyranosyl(1→6)-β-D-glucopyranoside)(化合物12)及びオイゲノールβ-ゲンチオビオシド(Eugenyl β-gentiobioside)(化合物13);フラボノイドであるイソラムネチン3-O-β-D-グルコピラノシド(isorhamnetin 3-O-β-D-glucopyranoside)(化合物15);一次代謝体であるアデノシン(Adenosine)(化合物11)、ウラシル(uracil)(化合物14)、及びトリプトファン(Tryptophan)(化合物16)であった。
【0043】
前記化合物10に該当する本発明の一実施例に係る新規なジンセノサイドの分離過程を
図1に示した。前記16種の化合物の化学構造を
図2a乃至
図21に示し、前記化合物のうち既知のジンセノサイドである化合物1-6の分光学的証拠及び化学構造を
図3a乃至
図3fに別途に示した。
【0044】
化合物10は、カチオンESI-Q-TOF-MS(Electrospray Ionization-Quadrupole-Time-of-flight mass spectrometry)スペクトルにおいてm/z 837.4617[(M+Na)
+calcd.837.4612]でのナトリウム化擬分子イオンピーク(sodiated pseudomolecular ion peak)に基づいてC
42H
70O
15の分子式を示す白色無定形粉末として分離した。前記化合物10の
1H NMRスペクトルは、[δ
H 1.86(3H,s,H-28),1.69(3H,s,H-29),1.47(3H,s,H-27),1.25(6H,s,H-21,26),1.10(3H,s,H-18),0.81(3H,s,H-30),0.75(3H,s,H-19)]で8個のメチル共鳴を含むものであった。また、2個の糖残基においてアノマー陽子(anomeric proton)と炭素原子に相応する二対の信号がδ
H 6.02(1H,d,J=7.8,H-2")/δ
C 104.08(C-1')及びδ
H4.91(1H,d,J=7.7,H-1')/δ
C 104.32(C-1")で検出された。
13CNMR及び異種核単一量子相関関係(HSQC)スペクトルは42個の炭素信号を突き止めた。前記2つの糖残基と別個に、化合物10のアグリコン(aglycone)は8個のメチレン、4個のメチン、3個の酸素含有メチン[δ
C 79.79(C-6),71.40(C-12)及び86.09(C-24)]、5個の4級炭素原子、2個の酸素化された4級炭素原子[δ
C 87.15(C-20)及び70.78(C-25)]、8個のメチル基及びカルボニル炭素[δ
C 218.85(C-3)]を有していた。
1Hand
13CNMRデータの徹底的な解釈結果、化合物10のアグリコンがシュドジンセングゲニン(pseudoginsengenin)R1[(20S,24R)-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6α,12β,25-トリオール([(20S,24R)-dammar-3-one-20,24-epoxy-6α,12β,25-triol])]に重畳していると示された。化合物10においてC-20の絶対配列はC-21の化学的移動(δ
C 27.67)からSに推論され、24R配列は既に公開されたところに従いC-24(δ
C 86.09)の化学的移動によって決定された。二糖単位(unit)は、酸加水分解データ及びガスクロマトグラフィー(GC)分析結果とともに
1HNMRスペクトル及び12個の炭素共鳴でアノマー陽子のカップリング定数からβ-D-グルコピラノシル(β-D-glucopyranosyl)残基であることが明らかになった。グリコシド結合はδ
H 6.02(H-1")/δ
C 79.49(C-2')及びδ
H 4.91(H-1')/δ
C 79.79(C-6)で交差ピークを示した異種核多重結合相関関係(HMBC)によって決定され、2-O-(β-D-グルコピラノシル)-β-D-グルコピラノシル(2-O-(β-D-glucopyranosyl)-β-D-glucopyranosyl)残基がシュドジンセングゲニン(pseudoginsengenin)R1でアグリコンのC-6に連結されていることを立証した。前記化合物10の各分析スペクトルと核心のHBMC相関関係を
図4乃至
図10に示した。
【0045】
前記分析結果、化合物10の化学構造は(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1→2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール((20S,24R)-6-O-β-D-glucopyranosyl(1→2)-β-D-glucopyranoside-dammar-3-one-20,24-epoxy-6a,12b,25-triol)と決定され、シュードジンセノーサイドRT8(pseudoginsenoside RT8、PG-RT8)と命名した。
【0046】
前記高麗人参の種子抽出物から分離されたジンセノサイドのうちPPT(ProtoPanaxTriol)系のジンセノサイドであるジンセノサイドRg1(化合物1)、ジンセノサイドRg2(化合物2)、ジンセノサイドRe(化合物3)は、ジンセノサイドバックボーン(backbone)に3個のヒドロキシ基(hydroxyl group)を含む。PPD(ProtoPanaxDiol)系のジンセノサイドであるジンセノサイドRd(化合物4)、ジンセノサイドRb1(化合物5)、ジンセノサイドRb2(化合物6)は、ジンセノサイドバックボーンに2個のヒドロキシ基を含む。一方、本発明において新規に分離同定されたジンセノサイドである化合物10は、PPT系のバックボーンを有しているものの、前記バックボーンの末端ヒドロキシ基がケトン(ketone)で、ジンセノーシイドの線形鎖(linear chain)がフラン環(furan ring)に環化(cyclization)された構造であることに構造的差異がある。
【0047】
前記本発明において新規に分離同定した化合物10の分子式はC42H70O15であり、ESI-Q-TOF-MSにおいてm/zは837.4617[M+Na]+であり、1H、13C-NMRスペクトルは下記の表に表したとおりである。
【0048】
【0049】
【0050】
[試験例1]エストロゲン受容体の活性効能の比較
本発明の一実施例に係る高麗人参の種子由来のジンセノサイドGS#10がエストロゲン受容体の活性を調節できるか否かを調べるために次の実験を実施した。
【0051】
ヒトERα/βレポーターオセイパネル(#IB00421-48P;Indigo Bioscience)を購買し、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10と既存の高麗人参の種子抽出物から分離した他のジンセノサイドGS#01-GS#06、高麗人参の種子抽出物を、それぞれ10μg/mlの濃度で24時間処理し、エストロゲン受容体ERα及びERβの活性増加の度合いを分析した。前記#IB00421-48Pキットに含まれていた細胞では、ERα及びERβがそれぞれ過発現しており、且つERE-ルシフェラーゼレポーター遺伝子(ERE-luc reporter gene)が含まれている。これに前記実施例又は比較例をそれぞれ処理してERの活性が増加すると、ERα及びERβがEREに結合しルシフェラーゼ(luciferase)発現を誘導するので、このときに細胞から発される光の強さを測定してERα及びERβの活性を測定することができる。前記高麗人参の種子抽出物は、本発明の比較例であって、本明細書で上述した実施例1においてジンセノサイドの分離に用いられた高麗人参の種子(Seeds of Panax ginseng)メタノール抽出物であり、前記新規なジンセノサイドGS#10を約0.2% w/wで少量含有している。
【0052】
陽性対照群としては、前記#IB00421-48Pキットに含まれていた17β-エストラジオール(17β-estradiol)を用いた。エストロゲン受容体ERα及びERβの活性が増加すると、更年期症状の緩和はできるものの、70%以上の乳癌細胞でERが過発現しており、これは、主にERα(ESR1)の増加によることが報告されている(Deroo BJ et al., J Clin Invest 116:561(2006)参照)。
図11に示されたように、高麗人参の種子由来のジンセノサイドのうちのGS#03(ジンセノサイドRe)、GS#05(ジンセノサイドRb1)とGS#10はERαの活性を僅か増加させた。一方、
図12に示されたように、高麗人参の種子由来のジンセノサイドのうちの本発明の一実施例であるGS#10だけがERβを活性化させた。
図13は、前記
図11及び
図12の結果に基づいてERαに対するERβの活性比を示した図であって、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10は、高麗人参の種子由来のジンセノサイドのうち唯一にERα及びERβ活性をともに増加させながらも、ERαに対するERβの活性比が約1.7倍を示し、1を超えた。これは、陽性対照群よりも著しく改善した効果である。
【0053】
また、
図14に示すように、高麗人参の種子抽出物(GSE)そのものでは、エストロゲン受容体ERα及びERβの活性増加効果を示していないのに対し、前記高麗人参の種子抽出物(GSE)から分離・精製された分画である本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10では、エストロゲン受容体ERα及びERβの活性増加効果を示した。これは、エストロゲン受容体の活性増加による更年期症侯群の予防又は改善効能が、高麗人参の種子抽出物からは示されない本発明の一実施例に係る新規なジンセノサイドGS#10だけの固有の効能であることを意味する。
【0054】
[試験例2]乳癌細胞成長活性の比較
前記試験例1において、陽性対照群である17β-エストラジオールは、ERα及びERβの活性をともに増加させるのに対し、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10は、ERαよりもERβの活性を大きく増加させる結果を示した(
図13)。ERαが活性化すると、乳癌細胞の成長や細胞分裂が増加して乳癌の有病率が高くなるが、ERβは、ERαの活性を抑制して癌細胞の成長を抑制することから、ERαよりもERβの活性増加率が高い場合、エストロゲン補充療法(estrogenic therapy)の代表的な副作用と知られた乳癌の発病可能性が著しく低下することと予想される。そこで、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10が癌細胞の成長を促進する副作用を現すか否かを調べるために、MCF-7乳癌細胞株(ATCC)を用いて細胞の成長を観察した。具体的に、MCF-7乳癌細胞株(ATCC)に対し、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10及び既存の高麗人参の種子抽出物から分離した他のジンセノサイドGS#01-GS#06をそれぞれ10μg/mlの濃度で48時間処理した後、細胞計数装置(cell counting device;Countess、Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞数を測定した。
【0055】
その結果、
図15に示すように、17β-エストラジオールは、優れたERβ活性化効果を示すものの、ERαをも活性化させることから乳癌細胞の成長が促進しているのに対し、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10は、このような副作用を示していない。これは、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10が既存のエストロゲン補充療法(estrogenic therapy)での副作用を示すことなくエストロゲン受容体活性化効果を奏することを意味する。
【0056】
[試験例3]エストロゲン受容体活性効能の比較
本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10の更年期症状の予防又は改善効能を、本発明の比較例として紅参指標成分であるジンセノサイドRg1、Rg3、及びRb1(Sigma社から購買)と比較した。このとき、前記本発明の比較例であるジンセノサイドRg3の化学構造は次のとおりである。実験は、前記試験例1と同法にてそれぞれ行った。
【0057】
【0058】
その結果、
図16及び
図17に示すように、紅参指標成分であるジンセノサイドRb1、Rg1、及びRg3ともに、一定のレベルのエストロゲン受容体活性化を示したが、珍しくも、ERα活性増加に関しては、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10がジンセノサイドRg1及びRb1よりも優れていない結果を示したのに対し、ERβ活性効能に関しては、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10がRg1及びRb1に比べて最小3倍以上の高い結果を示した(Rg1 32%、Rb1 15%、GS#10 136%)。これは、本発明の一実施例である新規なジンセノサイドGS#10のほうが紅参指標成分であるジンセノサイドRb1、Rg1、及びRg3よりもERαに対するERβ活性比が高く、乳癌の発病危険が低いながらも優れたエストロゲン受容体活性化効果を奏することから、更年期症状の予防又は改善剤として製品に商業的な適用が可能な程度に高い薬剤学的可能性のある素材であることを示唆する。
【0059】
[試験例4]細胞毒性
ジンセノサイドが細胞毒性活性を通じて更年期症状の予防又は改善効能に影響を及ぼす可能性を排除するために、CCK(Cell Counting Kit)-8を用いて本発明の実施例である新規なジンセノサイドGS#10の存在時の細胞成長を評価した。実験方法は次のとおりである。
【0060】
CCK-8試薬を、培養中のSH-SY5Y細胞(Dojindo、MD、USA)に、96-ウェルプレート(well plate)基準で10μl入れ、37℃で2時間放置した後、450nmにおける吸光度を測定した。前記細胞生存力を未処理サンプルに対する各サンプルの絶対光学密度の百分率(%)で表示した。このとき、前記細胞が培養される培地に含まれる本発明の実施例である新規なジンセノサイドGS#10の濃度は、それぞれ0.1、1、5、10、20、50μMとした。
【0061】
その結果、
図18から確認できるように、本発明の実施例である新規なジンセノサイドGS#10は、50μMまでは細胞毒性を示さなかった。このような結果は、本発明の実施例である新規なジンセノサイドが細胞生存力に有害な影響を与えることなく更年期症状の予防又は改善効果を奏し得ることを示す。
【0062】
以下、本明細書の一実施例に係る組成物の剤形例を説明するが、他の種々の剤形への応用も可能であり、これは、本明細書を限定するためではない単に具体的に説明するためのものである。
【0063】
[剤形例1]錠剤
ジンセノサイドPG-RT8 100mg、ラクトース400mg、とうもろこし澱粉400mg及びステアリン酸マグネシウム2mgを混合した後、通常の錠剤の製造方法に従い打錠して錠剤を製造した。
【0064】
[剤形例2]カプセル剤
ジンセノサイドPG-RT8 100mg、ラクトース400mg、とうもろこし澱粉400mg及びステアリン酸マグネシウム2mgを混合した後、通常のカプセル剤の製造方法に従いゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0065】
[剤形例3]顆粒剤
ジンセノサイドPG-RT8 50mg、無水結晶ブドウ糖250mg及び澱粉550mgを混合し、流動層造粒機を用いて顆粒に成形した後、分包に充填した。
【0066】
[剤形例4]ドリンク剤
ジンセノサイドPG-RT8 50mg、ブドウ糖10g、クエン酸0.6g、及び液状オリゴ糖25gを混合した後、精製水300mlを加えて、各瓶に200mlずつ充填する。瓶に充填した後、130℃で4~5秒間殺菌してドリンク剤を製造した。
【0067】
[剤形例5]キャラメル剤形
ジンセノサイドPG-RT8 50mg、とうもろこしシロップ(corn syrup)1.8g、脱脂牛乳0.5g、大豆レシチン0.5g、バター0.6g、植物性硬化油0.4g、砂糖1.4g、マーガリン0.58g、び食塩20mgを混合し、キャラメル成形した。
【0068】
[剤形例6]健康食品
【0069】
【0070】
前記ビタミン及び無機質混合物の組成比は、比較的に健康食品に適合した成分を例にして混合組成したが、その配合比を任意に変形実施しても構わなく、通常の健康食品の製造方法に従い前記成分を混合した後、顆粒を製造し、通常の方法に従い健康食品の組成物の製造に用いてよい。
【0071】
[剤形例7]健康飲料
【0072】
【0073】
前記表のように総体積900mlになるように残量の精製水を添加して通常の健康飲料の製造方法に従い前記成分を混合してから約1時間85℃で撹拌加熱し、これにより調製された溶液をろ過して得られたろ液を滅菌された2リットルの容器に入れて密封滅菌した後に冷蔵保管して健康飲料の組成物の製造に用いてよい。
【0074】
[剤形例8]注射剤
下記の表に記載された組成にて通常の方法に従い注射剤を製造した。
【0075】
【0076】
本発明は、一実施例として、次の実施形態を提供することができる。
【0077】
第1実施形態は、(20S,24R)-6-O-β-D-グルコピラノシル(1→2)-β-D-グルコピラノシド-ダンマル-3-オン-20,24-エポキシ-6a,12b,25-トリオール((20S,24R)-6-O-β-D-glucopyranosyl(1→2)-β-D-glucopyranoside-dammar-3-one-20,24-epoxy-6a,12b,25-triol)、その薬学的に許容可能な塩、その水和物又はその溶媒和物を有効成分として含む、更年期症状の予防又は改善用組成物を提供することができる。
【0078】
第2実施形態は、第1実施形態において、前記有効成分は、下記化学式1で表される構造を有するものである、組成物を提供することができる。
【0079】
【0080】
第3実施形態は、第1実施形態又は第2実施形態において、前記有効成分は高麗人参の種子から抽出したものである、組成物を提供することができる。
【0081】
第4実施形態は、第1実施形態~第3実施形態のいずれか一つ以上において、めまい、睡眠障害、顔面紅潮、骨粗鬆症、夜間発汗、鬱病、頭痛、及び疲労感のうちの一つ以上を含む症状の予防又は改善用途である、組成物を提供することができる。
【0082】
第5実施形態は、第1実施形態~第4実施形態のいずれか一つ以上において、当該組成物の対象への投与時におけるERα(estrogen receptor α)に対するERβ(estrogen receptor β)の活性比は1.1倍以上である、組成物を提供することができる。
【0083】
第6実施形態は、第1実施形態~第5実施形態のいずれか一つ以上において、前記有効成分を組成物の総重量に対して0.0001~99.9重量%の範囲で含む、組成物を提供することができる。
【0084】
第7実施形態は、第1実施形態~第6実施形態のいずれか一つ以上において、当該組成物の投与量は0.05mg/kg/日~10g/kg/日の範囲である、組成物を提供することができる。
【0085】
第8実施形態は、第1実施形態~第7実施形態のいずれか一つ以上において、当該記組成物の投与対象は、エストロゲン受容体活性が減少した対象である、組成物を提供することができる。
【0086】
第9実施形態は、第1実施形態~第8実施形態のいずれか一つ以上において、当該組成物は食品組成物である、組成物を提供することができる。
【0087】
第10実施形態は、第1実施形態~第9実施形態のいずれか一つ以上において、当該組成物は薬学組成物である、組成物を提供することができる。
【0088】
前記実施形態は本発明の説明のために開示されたものであり、前記説明は本発明の範囲を制限するものではない。したがって、本発明の意味及び範囲を逸脱しない限り、種々の修正、変形、及び置き換えが当該技術分野の通常の技術者から生じることがある。