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特許7527912弾性波デバイス、ウエハ、及びウエハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、ウエハ、及びウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240729BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020158550
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052275
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎二
(72)【発明者】
【氏名】三浦 道雄
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-510354(JP,A)
【文献】特開2020-136783(JP,A)
【文献】特開平05-063500(JP,A)
【文献】特開2018-061226(JP,A)
【文献】特開平02-001603(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0063330(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-976
H03H 3/08ー 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面を有する支持基板と、
前記支持基板の前記凹凸面上に設けられる圧電層と、
前記圧電層に弾性波を励振する電極と、
前記支持基板の前記凹凸面と前記圧電層との間に設けられ、前記凹凸面の凹み部分に位置する空隙を有する絶縁層と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記空隙の高さは、前記凹凸面の凹凸の平均高さの0.2倍以上である、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記空隙を前記凹凸面の上方から見たときの短手方向の最大の長さである前記空隙の幅は、前記凹凸面の凹凸の平均周期の0.01倍以上0.2倍以下である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記凹凸面は、複数の凸部が規則的に配置され、
複数の前記空隙を有し、前記複数の空隙の周期は前記複数の凸部の周期と略同じである、請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記凹凸面は、複数の凹部が規則的に配置され、
複数の前記空隙を有し、前記複数の空隙の周期は前記複数の凹部の周期と略同じである、請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記絶縁層は、酸化シリコンを主材料とする第1の絶縁膜と、前記第1の絶縁膜と前記支持基板の前記凹凸面との間に設けられ、前記第1の絶縁膜とはバルク波が伝搬する音速が異なる材料である第2の絶縁膜と、を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記空隙は、前記第2の絶縁膜にわたり設けられ、前記第1の絶縁膜のうちの一部のみに延在している、請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記空隙は、前記第1の絶縁膜と前記第2の絶縁膜のうち前記第2の絶縁膜にのみ設けられている、請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記空隙は、前記第2の絶縁膜の厚さ方向において前記第2の絶縁膜の厚さの0.5倍以上の長さで前記第2の絶縁膜に設けられている、請求項8に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記電極は、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える一対の櫛型電極である、請求項1から9のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
凹凸面を有する支持基板と、
前記支持基板の前記凹凸面上に設けられる圧電層と、
前記支持基板の前記凹凸面と前記圧電層との間に設けられ、前記凹凸面の凹み部分に位置する空隙を有する絶縁層と、を備えるウエハ。
【請求項12】
凹凸面を有する支持基板の前記凹凸面上に絶縁層を成膜することによって前記凹凸面の凹み部分に位置する空隙が前記絶縁層に形成されるように、前記支持基板の前記凹凸面上に前記絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層上に圧電層を形成する工程と、を備えるウエハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、ウエハ、及びウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に弾性表面波共振器等の弾性波素子が用いられている。弾性波素子を形成する圧電層を支持基板に貼り付けることが知られている。支持基板の上面を粗面とすることが知られている(例えば特許文献1)。支持基板と圧電層の間に空洞を有する層を設けることが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-61258号公報
【文献】特表2020-510354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
支持基板の上面を粗面にすることによりスプリアスを低減することができる。また、支持基板と圧電層の間に空洞を有する層を設けることによってもスプリアスを低減することができる。しかしながら、メイン応答の劣化を抑制しつつ、スプリアスを低減する点において改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、メイン応答の劣化を抑制しつつ、スプリアスを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、凹凸面を有する支持基板と、前記支持基板の前記凹凸面上に設けられる圧電層と、前記圧電層に弾性波を励振する電極と、前記支持基板の前記凹凸面と前記圧電層との間に設けられ、前記凹凸面の凹み部分に位置する空隙を有する絶縁層と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記空隙の高さは、前記凹凸面の凹凸の平均高さの0.2倍以上である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記空隙を前記凹凸面の上方から見たときの短手方向の最大の長さである前記空隙の幅は、前記凹凸面の凹凸の平均周期の0.01倍以上0.2倍以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記凹凸面は、複数の凸部が規則的に配置され、複数の前記空隙を有し、前記複数の空隙の周期は前記複数の凸部の周期と略同じである構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記凹凸面は、複数の凹部が規則的に配置され、複数の前記空隙を有し、前記複数の空隙の周期は前記複数の凹部の周期と略同じである構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記絶縁層は、酸化シリコンを主材料とする第1の絶縁膜と、前記第1の絶縁膜と前記支持基板の前記凹凸面との間に設けられ、前記第1の絶縁膜とはバルク波が伝搬する音速が異なる材料である第2の絶縁膜と、を含む構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記空隙は、前記第2の絶縁膜にわたり設けられ、前記第1の絶縁膜のうちの一部のみに延在している構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記空隙は、前記第1の絶縁膜と前記第2の絶縁膜のうち前記第2の絶縁膜にのみ設けられている構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記空隙は、前記第2の絶縁膜の厚さ方向において前記第2の絶縁膜の厚さの0.5倍以上の長さで前記第2の絶縁膜に設けられている構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記電極は、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える一対の櫛型電極である構成とすることができる。
【0016】
本発明は、凹凸面を有する支持基板と、前記支持基板の前記凹凸面上に設けられる圧電層と、前記支持基板の前記凹凸面と前記圧電層との間に設けられ、前記凹凸面の凹み部分に位置する空隙を有する絶縁層と、を備えるウエハである。
【0017】
本発明は、凹凸面を有する支持基板の前記凹凸面上に絶縁層を成膜することによって前記凹凸面の凹み部分に位置する空隙が前記絶縁層に形成されるように、前記支持基板の前記凹凸面上に前記絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層上に圧電層を形成する工程と、を備えるウエハの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、メイン応答の劣化を抑制しつつ、スプリアスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。
図2図2は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図3図3(a)から図3(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
図4図4(a)から図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
図5図5は、比較例に係る弾性波デバイスの断面図である。
図6図6は、実施例1に係る弾性波デバイス及び比較例に係る弾性波デバイスにおける周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
図7図7(a)は、実施例1における支持基板の凸部の第1配置例を示す平面図、図7(b)は、図7(a)のA-A断面図である。
図8図8(a)は、実施例1における支持基板の凸部の第2配置例を示す平面図、図8(b)は、図8(a)のA-A断面図である。
図9図9(a)は、実施例1における支持基板の凹部の第1配置例を示す平面図、図9(b)は、図9(a)のA-A断面図である。
図10図10(a)は、実施例1における支持基板の凹部の第2配置例を示す平面図、図10(b)は、図10(a)のA-A断面図である。
図11図11(a)から図11(p)は、実施例1における支持基板の凸部及び凹部の立体形状の例を示す図である。
図12図12は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
図13図13は、実施例2に係る弾性波デバイスにおける周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
図14図14は、実施例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
図15図15は、実施例4に係るフィルタの回路図である。
図16図16は、実施例5に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。図2は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板及び圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向、及びZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向及びY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0022】
図1及び図2に示すように、実施例1の弾性波デバイス100は、支持基板10上に圧電層14が設けられている。支持基板10と圧電層14の間に絶縁層15が設けられている。絶縁層15は、支持基板10と温度補償層12の間に設けられた境界層11と、境界層11と圧電層14の間に設けられた温度補償層12と、を含む。温度補償層12と圧電層14の間に接合層13が設けられているが、接合層13は設けられていない場合でもよい。支持基板10の境界層11側の面を面30とする。境界層11の温度補償層12側の面を面31とする。温度補償層12の圧電層14側の面を面32とする。
【0023】
支持基板10の面30は、支持基板10と境界層11との界面に相当し、凹凸面である。境界層11の面31は、境界層11と温度補償層12との界面に相当し、凹凸面である。温度補償層12の面32は、温度補償層12と接合層13又は圧電層14との界面に相当し、平坦面である。面30の凹凸と面31の凹凸とは対応している。面30は平面40に複数の凸部41が設けられることで凹凸面となっている。凸部41は規則的に配置されている。同様に、面31は平面45に複数の凸部47が設けられることで凹凸面となっている。凸部47は凸部41に対応して規則的に配置されている。
【0024】
凸部41の間であって凹凸面の凹み部分を起点とした空隙(スリット)16が絶縁層15内に設けられている。空隙16は境界層11から温度補償層12の一部にかけてZ方向に延びている。空隙16は、断面視において長方形状をしている場合に限られず、温度補償層12側の先端に向かって先細りした形状をしている場合もある。
【0025】
空隙16の高さをHa、空隙16の幅をWa、空隙16の周期をDaとする。空隙16の幅Waは、空隙16を平面視したときの短手方向における最大の長さである。凸部41の周期をD1、凸部47の周期をD2とする。面30の凹凸の高さをH1、面31の凹凸の高さをH2とする。凸部41の間隔をW1、凸部47の間隔をW2とする。
【0026】
空隙16の高さHaは、例えば支持基板10の面30の凹凸の平均高さの0.2倍以上であり、例えば0.1λから1.0λである。面30の凹凸の平均高さは、全ての凸部41の高さH1の平均値としてもよいが、凸部41の総数のうち1/4又は1/6の凸部41の高さH1の平均値としてもよい。平均値は相加平均で求めてもよい。また、弾性波デバイスの断面を観察したとき、空隙16の横に位置する数個(例えば5個程度)の凸部41の高さH1を測定し、その相加平均を面30の平均高さとしてもよい。空隙16の幅Waは、例えば凸部41の周期D1の0.01倍以上且つ0.2倍以下であり、例えば0.005λから0.2λである。面30の凹凸の平均周期は、全ての凸部41の周期D1の平均値としてもよいが、凸部41の総数のうち1/2又は1/3の凸部41の周期D1の平均値としてもよい。平均値は相加平均で求めてもよい。また、弾性波デバイスの断面を観察したとき、空隙16の横に位置する数個(例えば5個程度)の凸部41の周期D1を測定し、その相加平均を面30の凹凸の平均周期としてもよい。
【0027】
凸部41の周期D1と凸部47の周期D2は略同じであり、空隙16の周期Daは凸部41の周期D1及び凸部47の周期D2と略同じである。面30の凹凸の高さH1と面31の凹凸の高さH2は略同じである。凸部41の位置と凸部47の位置は略同じであり、面30の凹凸の位相と面31の凹凸の位相は略同じとなっている。略同じとは、製造誤差程度の誤差を許容し、例えば10%以下又は例えば1%以下の誤差を許容する(以下においても同じ)。境界層11、温度補償層12、接合層13、及び圧電層14の厚さをそれぞれT1、T2、T3、及びT4とする。なお、境界層11及び温度補償層12の厚さは均一でないため平均の厚さを厚さT1及び厚さT2とする。
【0028】
圧電層14上に弾性波素子20が設けられている。弾性波素子20は、例えば弾性表面波共振器であり、IDT21と反射器25を有する。反射器25は、IDT21のX方向の両側に設けられている。IDT21及び反射器25は、圧電層14上の金属膜26により形成される。
【0029】
IDT21は、対向する一対の櫛型電極22を備える。櫛型電極22は、複数の電極指23と、複数の電極指23が接続されたバスバー24と、を備える。一対の櫛型電極22は、少なくとも一部において電極指23がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。複数の電極指23が圧電層14内に励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極22のうち一方の櫛型電極22の電極指23のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指23のピッチをPとすると、一方の櫛型電極22の電極指23のピッチは電極指23の2本分のピッチPとなる。反射器25は、電極指23が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。
【0030】
圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO)層又は単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO)層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層又は回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。
【0031】
支持基板10は、例えばサファイア基板、シリコン基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、アルミナ基板、又は炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶Al基板であり、シリコン基板は単結晶又は多結晶のシリコン基板であり、スピネル基板は多結晶MgAl基板であり、石英基板はアモルファスSiO基板であり、水晶基板は単結晶SiO基板であり、炭化シリコン基板は単結晶又は多結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波素子の周波数温度依存性を小さくできる。
【0032】
温度補償層12は、圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。例えば圧電層14の弾性定数の温度係数は負であり、温度補償層12の弾性定数の温度係数は正である。温度補償層12は、例えば無添加又は弗素等の添加元素を含む酸化シリコン(SiO)層であり、例えばアモルファス層である。これにより、弾性波素子の周波数温度係数を小さくできる。温度補償層12が酸化シリコン層の場合、温度補償層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅くなる。
【0033】
温度補償層12が温度補償の機能を有するためには、IDT21によって圧電層14内に励振された主モードの弾性表面波のエネルギーが温度補償層12内にある程度存在することが求められる。弾性表面波のエネルギーが存在する範囲は、弾性表面波の種類に依存するものの、典型的には圧電層14の上面から2λ程度の深さまでである。特に、弾性表面波のエネルギーは、圧電層14の上面からλまでの範囲に集中する。そこで、圧電層14の厚さT4はλ以下であることが好ましい。
【0034】
IDT21は、主モードの弾性表面波を励振するときに、バルク波も励振する。バルク波は圧電層14の上面から10λ以上まで存在する。バルク波が下方に伝搬していくと、IDT21によって励振される弾性波のエネルギーが漏洩し、損失が大きくなる。一方、支持基板10までの界面でバルク波が反射しIDT21に戻るとスプリアスの原因となる。
【0035】
境界層11を伝搬するバルク波の音速と温度補償層12を伝搬するバルク波の音速とは異なり、支持基板10を伝搬するバルク波の音速と境界層11を伝搬するバルク波の音速とは異なる。これにより、面30及び31の凹凸によってバルク波を散乱させることができ、スプリアスを低減できる。境界層11と温度補償層12とでバルク波の音速は1.2倍以上異なる場合が好ましく、支持基板10と境界層11とでバルク波の音速は1.2倍以上異なる場合が好ましい。
【0036】
境界層11を伝搬するバルク波の音速は、温度補償層12を伝搬するバルク波の音速よりも速い場合が好ましい。これにより、圧電層14及び温度補償層12内に弾性波が閉じ込められ易くなる。境界層11を伝搬するバルク波の音速は、温度補償層12を伝搬するバルク波の音速よりも1.1倍以上速い場合が好ましく、1.2倍以上速い場合がより好ましい。境界層11を伝搬するバルク波の音速が速すぎると、境界層11と温度補償層12との界面でバルク波が反射され易くなってスプリアスが大きくなる恐れがある。したがって、境界層11を伝搬するバルク波の音速は、温度補償層12を伝搬するバルク波の音速の2.0倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましい。境界層11は、例えば多結晶又は非晶質であり、例えば酸化アルミニウム層、シリコン層、窒化アルミニウム層、窒化シリコン層、又は炭化シリコン層である。境界層11として材料の異なる複数の層が設けられていてもよい。境界層11の厚さT1は、例えば面30の凹凸の平均高さの0.5倍以上2.0倍以下である。
【0037】
支持基板10を伝搬するバルク波の音速は、境界層11を伝搬するバルク波の音速よりも速い場合が好ましく、境界層11を伝搬するバルク波の音速の1.1倍以上速い場合が好ましく、1.2倍以上速い場合がより好ましい。支持基板10を伝搬するバルク波の音速は、境界層11を伝搬するバルク波の音速の2.0倍以下が好ましい。
【0038】
温度補償層12を伝搬するバルク波の音速は、圧電層14を伝搬するバルク波の音速よりも速くてもよいが、弾性波が温度補償層12内に存在し易くなるために、圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅い場合が好ましい。温度補償層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.99倍以下が好ましい。温度補償層12を伝搬するバルク波の音速が遅すぎると、圧電層14内に弾性波が存在し難くなる。よって、温度補償層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.9倍以上が好ましい。
【0039】
接合層13を伝搬するバルク波の音速は、温度補償層12を伝搬するバルク波の音速よりも速い場合が好ましい。接合層13は、例えば多結晶又は非晶質であり、例えば酸化アルミニウム層、シリコン層、窒化アルミニウム層、窒化シリコン層、ダイヤモンドライクカーボン層、又は炭化シリコン層である。また、境界層11及び接合層13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速よりも速い場合が好ましい。
【0040】
金属膜26は、例えばアルミニウム、銅、又はモリブデンを主成分とする膜である。電極指23と圧電層14との間にチタン膜又はクロム膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指23よりも薄い。電極指23を覆うように絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜及び/又は温度補償膜として機能する。
【0041】
弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指23を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT21のデュティ比は、電極指23の太さ/電極指23のピッチであり、例えば30%から70%である。IDT21の開口長は例えば10λから50λである。
【0042】
[製造方法]
図3(a)から図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。図3(a)から図4(c)に示す製造方法はウエハ状態で行われ、最後にウエハを個片化することで実施例1の弾性波デバイスが形成される。ウエハには複数の弾性波デバイスが形成されるが、図3(a)から図4(c)では、1つの弾性波デバイスのみを図示している。
【0043】
図3(a)に示すように、表面が平坦なウエハ状の支持基板10を準備する。支持基板10の表面の算術平均粗さRaは例えば1nm以下である。
【0044】
図3(b)に示すように、支持基板10上に、開口を有するマスク層70を形成する。マスク層70は、例えばフォトレジストである。
【0045】
図3(c)に示すように、マスク層70をマスクに支持基板10の上部を除去する。これにより、支持基板10の面30は、平面40に複数の凸部41が設けられた凹凸面となる。支持基板10の上部の除去には、例えばエッチング法又はサンドブラスト法を用いる。例えば支持基板10がサファイア基板の場合、支持基板10の除去には塩素系ガスを用いたドライエッチング法を用いる。支持基板10の材料によりエッチング液及びエッチングガスを適宜選択する。
【0046】
図3(d)に示すように、支持基板10の面30上に境界層11をスパッタリング法により形成する。スパッタリング法による成膜は、凹凸面に対する被覆性が良好ではない。このため、スパッタリング法の成膜条件を適切に設定することで、凸部41の間の凹み部分を起点とした空隙16が境界層11に形成される。また、境界層11の面31は、支持基板10の面30の凹凸が反映され、平面45に複数の凸部47が設けられた凹凸面となる。なお、境界層11は、スパッタリング法によって形成される場合に限られず、凸部41の間の凹み部分に位置する空隙16が形成されれば、その他の方法によって形成されてもよい。
【0047】
図4(a)に示すように、境界層11の面31上に温度補償層12をCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成する。CVD法による成膜は、スパッタリング法による成膜に比べて、凹凸面に対する被覆性が良い。このため、温度補償層12は、凸部47の間の凹み部分に埋め込まれ易い。
【0048】
図4(b)に示すように、温度補償層12の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。その後、接合層13を介し温度補償層12の上面に圧電基板17を接合する。接合層13を介さずに温度補償層12と圧電基板17とを接合してもよい。接合には例えば表面活性化法を用いる。
【0049】
図4(c)に示すように、圧電基板17の上面を例えばCMP法を用いて平坦化し、薄層化した圧電層14とする。その後、図2に示すように、圧電層14の上面に金属膜26からなる弾性波素子20を形成する。最後にウエハを個片化することで、実施例1に係る弾性波デバイス100が形成される。
【0050】
[実験及びシミュレーション]
実施例1に係る弾性波デバイスに対してスプリアスを評価する実験を行った。また、比較例に係る弾性波デバイスに対してスプリアスを評価するシミュレーションを行った。
【0051】
図5は、比較例に係る弾性波デバイスの断面図である。図5に示すように、比較例の弾性波デバイス1000では、絶縁層15内に空隙16が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0052】
実験条件及びシミュレーション条件は以下である。
弾性波の波長λ:5μm
支持基板10:サファイア基板
境界層11:厚さT1が0.3λの酸化アルミニウム層
温度補償層12:厚さT2が0.4λの酸化シリコン層
接合層13:なし
圧電層14:厚さT4が0.4λの回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜26:厚さが0.1λのアルミニウム膜
凹凸の高さH1及びH2:0.5λ
凸部41の周期D1及び凸部47の周期D2:0.8λ
凸部41の間隔W1及び凸部47の間隔W2:0.02λ
空隙16の高さHa:0.4λ
空隙16の幅Wa:0.015λ
空隙16の周期Da:0.8λ
【0053】
図6は、実施例1に係る弾性波デバイス及び比較例に係る弾性波デバイスにおける周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。図6に示すように、主モードの弾性表面波によるメイン応答は実施例1及び比較例でほとんど変わらない。一方、実施例1のスプリアス応答の大きさは比較例に比べて小さくなっている。
【0054】
実施例1においてスプリアスが小さくなったのは以下の理由によるものと考えられる。実施例1では、絶縁層15に空隙16が設けられている。絶縁層15を伝搬するバルク波は、空隙16によって伝搬が抑制されるようになると考えられる。したがって、支持基板10の面30及び境界層11の面31の凹凸によってバルク波が散乱してスプリアス抑制効果が得られることに加え、凹凸だけでは散乱しきれないバルク波の伝搬が空隙16によって抑制されることで、スプリアス抑制効果が高められると考えられる。このような理由から、実施例1においてスプリアスは小さくなったと考えられる。
【0055】
また、空隙16は、凸部41の間の凹み部分に位置して設けられている。例えば、空隙16が凸部41に位置して設けられる場合、空隙16は圧電層14の近くに位置することになり、主モードの弾性表面波に悪影響を及ぼすことが考えられる。これに対し、空隙16が凸部41の間の凹み部分に位置して設けられることで、空隙16が圧電層14から離れて設けられ、主モードの弾性表面波への影響が抑えられると考えられる。よって、このような理由から、実施例1のメイン応答は比較例とほとんど変わらない結果になったと考えられる。
【0056】
実施例1によれば、図2のように、支持基板10の面30(凹凸面)と圧電層14との間に、面30の凹凸の凹み部分に位置する空隙16を有する絶縁層15が設けられている。絶縁層15に空隙16が設けられることで、面30の凹凸によってバルク波が散乱することに加えて、空隙16によって散乱しきれないバルク波の伝搬が抑制される。このため、図6のように、スプリアスを低減することができる。空隙16が凹凸の凹み部分に設けられることで、主モードの弾性表面波への影響が抑えられるため、図6のように、メイン応答の劣化を抑制することができる。
【0057】
図4(c)のように、支持基板10の面30(凹凸面)と圧電層14との間に、面30の凹凸の凹み部分に位置する空隙16を有する絶縁層15が設けられたウエハを用いる。このような弾性波デバイス用のウエハを用いて弾性波デバイスを製造することで、メイン応答の劣化が抑制されつつ、スプリアスが低減された弾性波デバイスが得られる。
【0058】
図3(d)及び図4(a)のように、支持基板10の面30(凹凸面)上に絶縁層15を成膜することによって面30の凹凸の凹み部分に位置する空隙16が絶縁層15に形成されるように、支持基板10の面30上に絶縁層15を形成する。図4(c)のように、絶縁層15上に圧電層14を形成する。このような弾性波デバイス用のウエハを用いて弾性波デバイスを製造することで、メイン応答の劣化が抑制されつつ、スプリアスが低減された弾性波デバイスが得られる。また、絶縁層15の成膜方法及び/又は成膜条件を適切に選択することで、面30の凹凸の凹み部分に空隙16を容易に形成することができる。
【0059】
バルク波の伝搬を抑制する点から、空隙16の高さHaは面30の凹凸の平均高さの0.2倍以上が好ましく、0.5倍以上がより好ましく、0.75倍以上が更に好ましく、1倍以上がより更に好ましい。
【0060】
空隙16の幅Waが大きくなり過ぎると、面30の凹凸によってバルク波を散乱させる効果が小さくなってしまう。よって、空隙16の幅Waは、面30の凹凸の平均周期の0.2倍以下が好ましく、0.15倍以下がより好ましく、0.1倍以下が更に好ましい。一方、空隙16の幅Waが小さくなり過ぎると、空隙16によってバルク波の伝搬を抑制する効果が小さくなってしまう。よって、空隙16の幅Waは、面30の凹凸の平均周期の0.01倍以上が好ましく、0.03倍以上がより好ましく、0.05倍以上が更に好ましい。
【0061】
図2のように、支持基板10の面30は複数の凸部41が規則的に配置され、空隙16の周期Daは複数の凸部41の周期D1と略同じである。これにより、バルク波の波長に応じてバルク波を散乱させるのに適した周期に凸部41の周期D1を設定した場合に、空隙16の周期Daもバルク波の波長に応じた適切な周期となる。このため、凸部41による凹凸によって散乱しきれなかったバルク波の伝搬を空隙16によって効果的に抑制でき、スプリアスを効果的に低減できる。
【0062】
絶縁層15は、酸化シリコンを主材料とする温度補償層12(第1の絶縁膜)と、温度補償層12と支持基板10の面30との間に設けられ、温度補償層12とはバルク波が伝搬する音速が異なる材料である境界層11(第2の絶縁膜)と、を含む。これにより、温度補償層12の温度補償機能によって弾性波素子20の周波数温度係数を小さくでき、且つ、境界層11と支持基板10の界面である面30の凹凸及び空隙16によってスプリアスを低減できる。
【0063】
図2のように、空隙16は、境界層11にわたり設けられ、温度補償層12のうちの一部のみに延在している場合が好ましい。周波数温度係数を小さくするために、主モードの弾性表面波は温度補償層12内を伝搬する。このため、空隙16が温度補償層12のうちの一部にのみ設けられることで、主モードの弾性表面波に及ぼす影響を低減でき、メイン応答の劣化を抑制できる。空隙16は、凸部47の先端よりも境界層11側に位置することが好ましい。
【0064】
弾性表面波のエネルギーが圧電層14の表面から2λまでの範囲にほとんど存在する場合には、主モードの弾性波のエネルギーを圧電層14及び温度補償層12内に閉じ込める点から、温度補償層12の支持基板10側の面と圧電層14の櫛型電極22側の面との距離(T2+T3+T4)は、電極指23のピッチPの平均値の4倍(2λ)以下が好ましく、3倍(1.5λ)以下がより好ましい。複数の電極指23のピッチPの平均値(平均ピッチ)は、IDT21のX方向の幅を電極指23の本数で除することで算出できる。
【0065】
主モードの弾性表面波のエネルギーを温度補償層12内に存在させる点から、圧電層14の厚さT4は、電極指23のピッチPの平均値の2倍(λ)以下が好ましく、1倍(0.5λ)以下がより好ましい。圧電層14が薄くなりすぎると弾性波が励振され難くなることから、圧電層14の厚さT4は、電極指23のピッチPの平均値の0.2倍(0.1λ)以上が好ましく、0.4倍(0.2λ)以上がより好ましい。
【0066】
バルク波を境界層11に通過させる点から、温度補償層12の厚さT2は、電極指23のピッチPの平均値の1.5倍(0.75λ)以下が好ましく、1倍(0.5λ)以下がより好ましい。温度補償層12の温度補償機能を発揮させる点から、温度補償層12の厚さT2は、電極指23のピッチPの平均値の0.2倍(0.1λ)以上が好ましく、0.4倍(0.2λ)以上がより好ましい。
【0067】
境界層11の厚さT1が薄いと、スプリアスが大きくなってしまう。したがって、境界層11の厚さT1は、電極指23のピッチPの平均値の0.6倍(0.3λ)以上が好ましく、1.4倍(0.7λ)以上がより好ましく、2倍(λ)以上が更に好ましく、4倍(2λ)以上が更に好ましい。
【0068】
バルク波を散乱させてスプリアスを抑制する点から、支持基板10の面30の凹凸の高さH1及び境界層11の面31の凹凸の高さH2は、電極指23のピッチPの平均値の0.2倍(0.1λ)以上が好ましく、0.6倍(0.3λ)以上がより好ましく、1倍(0.5λ)以上が更に好ましい。高さH1及びH2の上限は例えば2λである。温度補償層12の面32においてバルク波を散乱させないために、面32の算術平均粗さRaは例えば10nm以下が好ましく、1nm以下がより好ましい。
【0069】
スプリアスを抑制する点から、面30の凹凸の周期(凸部41の周期D1)及び面31の凹凸の周期(凸部47の周期D2)は、電極指23のピッチPの平均値の1.6倍(0.8λ)以上が好ましく、2.0倍(1.0λ)以上がより好ましい。メイン応答を大きくする点から、面30及び31の凹凸の周期は、電極指23のピッチPの平均値の4.8倍(2.4λ)以下が好ましく、3.2倍(1.6λ)以下がより好ましい。
【0070】
一対の櫛型電極22が主に励振する弾性波がSH(Shear Horizontal)波であるとき、バルク波が励振され易い。圧電層14が36°以上且つ48°以下回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層のとき、SH波が励振される。よって、このとき、絶縁層15内に空隙16を設けることが好ましい。
【0071】
実施例1において、支持基板10の面30と境界層11の面31とで位相が異なっていてもよい。凸部41の周期D1と凸部47の周期D2とは異なっていてもよい。面30の凹凸の高さH1と面31の凹凸の高さH2とは異なっていてもよい。境界層11の面31の凹凸は不規則であってもよい。
【0072】
[支持基板の凸部及び凹部の配置例]
図7(a)は、実施例1における支持基板の凸部の第1配置例を示す平面図、図7(b)は、図7(a)のA-A断面図である。図7(a)及び図7(b)に示すように、支持基板10の面30において、複数の凸部41が周期的に配列されている。凸部41の立体形状は円錐形状である。点42aは円錐形状の頂点である。凸部41は平面40に設けられている。凸部41の周期のうち最も小さい周期の方向は方向50a、50b、50cの3方向である。各方向50aから50cのなす角度は約60°である。方向50aはX方向と略平行である。凸部41の周期D1は略均一であり、凸部41の方向50aから50cにおける間隔W1は略均一であり、凸部41の高さH1は略均一である。凸部41の間は平面40でない場合でもよい。空隙16は、隣接する凸部41の間の凹み部分であって凸部41の間隔の狭い箇所に設けられている。空隙16は、平面視において、隣接する凸部41が向かい合う第1方向を短手方向、第1方向に直交する第2方向を長手方向とする略長方形状をしている。方向50aから50cにおける空隙16の周期Daは、略均一であり、方向50aから50cにおける凸部41の周期D1と略同じである。空隙16は、平面視において、略楕円形状等の他の形状をしていてもよい。
【0073】
図8(a)は、実施例1における支持基板の凸部の第2配置例を示す平面図、図8(b)は、図8(a)のA-A断面図である。図8(a)及び図8(b)に示すように、支持基板10の面30において、複数の凸部41が周期的に配列されている。凸部41は平面40に設けられている。凸部41は、線状又はストライプ状であり、断面形状が三角形状である。線42cは、凸部41における三角形の頂点をつなぐ線である。凸部41の周期のうち最も小さい周期の方向は方向50でありX方向と略平行である。凸部41の周期D1は略均一であり、凸部41の方向50における間隔W1は略均一であり、凸部41の高さH1は略均一である。線42cは、直線でもよいし曲線でもよい。凸部41の間は平面40でない場合でもよい。空隙16は、X方向で隣接する凸部41の間に設けられ、平面視においてY方向に延びた略長方形状をしている。方向50における空隙16の周期Daは、略均一であり、方向50における凸部41の周期D1と略同じである。空隙16は、平面視において、略楕円形状等の他の形状をしていてもよい。
【0074】
図7(a)及び図8(a)のように、空隙16は平面視において長手方向と短手方向を有する細長形状である場合が好ましい。これにより、バルク波の伝搬が空隙16によって抑制され易くなり、スプリアスを効果的に低減できる。空隙16の短手方向の長さに対する長手方向の長さの割合(長手方向の長さ/短手方向の長さ)は、5以上である場合が好ましく、7以上である場合がより好ましく、10以上である場合が更に好ましい。また、バルク波の伝搬を抑制する点から、空隙16は、平面視においてX方向に交差する方向(例えば直交する方向)に細長形状である場合が好ましい。
【0075】
図7(a)から図8(b)では、支持基板10の面30は、複数の凸部41が形成されることで凹凸面となる場合を例に示したが、複数の凹部が形成されることで凹凸面となる場合でもよい。図9(a)は、実施例1における支持基板の凹部の第1配置例を示す平面図、図9(b)は、図9(a)のA-A断面図である。図9(a)及び図9(b)に示すように、支持基板10の面30において、複数の凹部43が周期的に配列されている。凹部43の立体形状は円錐形状である。点44aは円錐形状の頂点である。凹部43は平面40に設けられている。凹部43の周期のうち最も小さい周期の方向は方向50a、50b、50cの3方向である。各方向50aから50cのなす角度は約60°である。方向50aはX方向と略平行である。凹部43の周期D3は略均一であり、凹部43の方向50aから50cにおける間隔W3は略均一であり、凹部43の深さH3は略均一である。凹部43の間は平面40でない場合でもよい。空隙16は、凹部43に点在し、平面視において略円形状をしている。方向50aから50cにおける空隙16の周期Daは、略均一であり、方向50aから50cにおける凹部43の周期D3と略同じである。空隙16は、平面視において、略正方形状等の他の形状をしていてもよい。
【0076】
図10(a)は、実施例1における支持基板の凹部の第2配置例を示す平面図、図10(b)は、図10(a)のA-A断面図である。図10(a)及び図10(b)に示すように、支持基板10の面30において、複数の凹部43が周期的に配列されている。凹部43は平面40に設けられている。凹部43は、線状又はストライプ状であり、断面形状が三角形状である。線44cは、凹部43における三角形の頂点をつなぐ線である。凹部43の周期のうち最も小さい周期の方向は方向50でありX方向と略平行である。凹部43の周期D3は略均一であり、凹部43の方向50における間隔W3は略均一であり、凹部43の深さH3は略均一である。線44cは、直線でもよいし曲線でもよい。凹部43の間は平面40でない場合でもよい。空隙16は、凹部43に設けられ、平面視においてY方向に延びた略長方形状をしている。方向50における空隙16の周期Daは、略均一であり、方向50における凹部43の周期D3と略同じである。空隙16は、平面視において、略楕円形状等の他の形状をしていてもよい。
【0077】
面30が複数の凹部43によって凹凸面となっている場合、面30の凹凸の平均高さは、全ての凹部43の深さH3の平均値としてもよいが、凹部43の総数のうち1/4又は1/6の凹部43の深さH3の平均値としてもよい。平均値は相加平均で求めてもよい。また、弾性波デバイスの断面を観察したとき、空隙16の横に位置する数個(例えば5個程度)の凹部43の深さH3を測定し、その相加平均を面30の平均高さとしてもよい。面30の凹凸の平均周期は、全ての凹部43の周期D3の平均値としてもよいが、凹部43の総数のうち1/2又は1/3の凹部43の周期D3の平均値としてもよい。平均値は相加平均で求めてもよい。また、弾性波デバイスの断面を観察したとき、空隙16の横に位置する数個(例えば5個程度)の凹部43の周期D3を測定し、その平均を面30の凹凸の平均周期としてもよい。
【0078】
図9(a)から図10(b)のように、支持基板10の面30は複数の凹部43が規則的に配置され、空隙16の周期Daは複数の凹部43の周期D3と略同じであってもよい。これにより、バルク波の波長に応じてバルク波を散乱させるのに適した周期に凹部43の周期D3を設定した場合に、空隙16の周期Daもバルク波の波長に応じた適切な周期となる。このため、凹部43による凹凸によって散乱しきれなかったバルク波の伝搬を空隙16によって効果的に抑制でき、スプリアスを効果的に低減できる。
【0079】
支持基板10の面30に複数の凸部41及び/又は複数の凹部43が規則的に配置されることで、スプリアスの大きさ等の特性の均一性を向上させることができる。
【0080】
[支持基板の凸部及び凹部の立体的形状]
図11(a)から図11(p)は、実施例1における支持基板の凸部及び凹部の立体形状の例を示す図である。図11(a)から図11(k)及び図11(n)から図11(p)は斜視図であり、凸部41のときは矢印51aのように上方向が+Z方向である。凹部43のときは矢印51bのように上方向が-Z方向である。図11(l)及び図11(m)は平面図及び断面図である。図11(a)から図11(m)では、凸部41及び凹部43は島状又はドット状である。図11(n)から図11(p)では、凸部41及び凹部43は線状又はストライプ状である。
【0081】
図11(a)に示すように、凸部41及び凹部43は、頂点42a及び44aを有する円錐形状であってもよい。図11(b)に示すように、凸部41は上面42bを有する円錐台形状であってもよいし、凹部43は下面44bを有する円錐台形状であってもよい。図11(c)に示すように、凸部41及び凹部43は円柱形状であってもよい。
【0082】
図11(d)に示すように、凸部41及び凹部43は、頂点42a及び44aを有する三角錐形状であってもよい。図11(e)に示すように、凸部41は上面42bを有する三角錐台形状であってもよいし、凹部43は下面44bを有する三角錐台形状であってもよい。図11(f)に示すように、凸部41及び凹部43は、三角柱形状であってもよい。
【0083】
図11(g)に示すように、凸部41及び凹部43は、頂点42a及び44aを有する四角錐形状であってもよい。図11(h)に示すように、凸部41は上面42bを有する四角錐台形状であってもよいし、凹部43は下面44bを有する四角錐台形状であってもよい。図11(i)に示すように、凸部41及び凹部43は、四角柱形状であってもよい。以上のように、凸部41及び凹部43の立体形状は、錐形状、錐台形状、又は柱体形状であってもよい。
【0084】
図11(j)に示すように、凸部41及び凹部43は、半球形状であってもよい。図11(k)に示すように、凸部41は半球形状の上を上面42bで切り取った形状であってもよいし、凹部43は半球形状の下を下面44bで切り取った形状であってもよい。このように、凸部41及び凹部43の立体形状は、球形状の一部でもよい。
【0085】
図11(l)及び図11(m)に示すように、凸部41及び凹部43は、ドーナツ形状の一部であってもよい。
【0086】
図11(n)に示すように、凸部41及び凹部43は、断面形状が三角形状の線状であってもよい。図11(o)に示すように、凸部41及び凹部43は、断面形状が半円形状の線状であってもよい。図11(p)に示すように、凸部41及び凹部43は、断面形状が四角形状の線状であってもよい。凸部41及び凹部43は、直線状に延びていてもよいし、曲線状に延びていてもよい。
【実施例2】
【0087】
図12は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面図である。図12に示すように、実施例2の弾性波デバイス200では、支持基板10aの面30aは規則的に配置された凸部41と凹部43によって凹凸面になっている。支持基板10aの面30a上に設けられた境界層11aは、実施例1における境界層11よりも厚い。境界層11aの厚さは、例えば面30aの凹凸の平均高さの10倍以上60倍以下であり、例えば5μmから30μmであり、例えば3λから20λである。境界層11aの厚さは、例えば面30aの凹凸の平均高さの30倍以下でもよい。境界層11aの面31aは平坦面である。空隙16aは、境界層11a内にZ方向に延びて設けられ、温度補償層12までは延びていない。空隙16aの高さHa´は、例えば3λから10λである。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0088】
[実験]
実施例2に係る弾性波デバイス200に対してスプリアスを評価する実験を行った。実験条件は以下である。なお、実験では、実施例1と同様に、凸部41の間に間隔W1が形成された試料を用いた。
弾性波の波長λ:2μm
支持基板10:サファイア基板
境界層11a:厚さT1が6.0λの酸化アルミニウム層
温度補償層12:厚さT2が0.2λの酸化シリコン層
接合層13:なし
圧電層14:厚さT4が0.4λの回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜26:厚さが0.1λのアルミニウム膜
凹凸の高さH1:0.35λ
凸部41の周期D1:0.8λ
凸部41の間隔W1:0.05λ
空隙16aの高さHa´:6.25λ
空隙16の幅Wa:0.025λ
空隙16の周期Da:0.8λ
【0089】
図13は、実施例2に係る弾性波デバイスにおける周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。図13に示すように、実施例2の弾性波デバイス200は、主モードの弾性表面波によるメイン応答の劣化が抑制されながら、スプリアス応答が小さくなっている。
【0090】
実施例2によれば、境界層11aの面31aは平坦面である。このような場合でも、絶縁層15内に凹部43に位置して空隙16aが設けられることで、メイン応答の劣化を抑制しつつ、スプリアスを低減することができる。
【0091】
実施例2のように、空隙16aは、温度補償層12及び境界層11aのうち境界層11aにのみ設けられ、温度補償層12までは延びていない場合が好ましい。周波数温度係数を小さくするために、主モードの弾性表面波は温度補償層12内を伝搬する。このため、温度補償層12に空隙16aが形成されないことで、主モードの弾性表面波に及ぼす影響を低減でき、メイン応答の劣化を抑制できる。
【0092】
境界層11a内のバルク波の伝搬を空隙16aによって抑制する点から、空隙16aは、境界層11aの厚さ方向において境界層11aの厚さT1の0.5倍以上の長さで境界層11aに設けられている場合が好ましく、0.6倍以上の長さで設けられている場合がより好ましく、0.7倍以上の長さで設けられている場合が更に好ましく、0.8倍以上の長さで設けられている場合がより更に好ましい。
【実施例3】
【0093】
図14は、実施例3に係る弾性波デバイスの断面図である。図14に示すように、実施例3の弾性波デバイス300では、支持基板10bの面30bは、凸部41aと凹部43aが不規則に配置されていて、不規則な凹凸を有する凹凸面である。面30bの凹凸は、例えばラッピング加工によって形成される。面30bの算術平均粗さRaは例えば0.1μm以上であり、例えば0.1μmから0.5μmである。面30bが不規則な凹凸面である場合、面30bの凹凸の平均高さは算術平均粗さRaとすることができ、面30bの凹凸の平均周期は5個又は10個の隣接する凸部41a又は隣接する凹部43aの間隔の平均値(相加平均)とすることができる。支持基板10bの面30b上に設けられた境界層11bは、実施例1における境界層11よりも厚い。境界層11bの厚さは、例えば5μmから30μmであり、例えば3λから20λである。境界層11bの面31bは平坦面である。空隙16bは、境界層11b内にZ方向に延びて設けられ、温度補償層12までは延びていない。空隙16bの高さHa´´は、例えば0.5λから20λである。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0094】
実施例3によれば、支持基板10bの面30bは不規則な凹凸を有する凹凸面である。このような場合でも、絶縁層15内に凹部43aに位置して空隙16bが設けられることで、メイン応答の劣化を抑制しつつ、スプリアスを低減することができる。
【0095】
実施例3においても、実施例2と同様に、空隙16bは境界層11bにのみ設けられているため、空隙16bが主モードの弾性表面波に及ぼす影響を低減でき、メイン応答の劣化を抑制できる。
【0096】
実施例1から実施例3において、支持基板10~10bの面30~30bに設けられた凹凸は、面30~30bの全面に設けられていてもよいし、面30~30bの弾性波素子20と重なる領域にのみ設けられていてもよい。弾性波素子20と重なる領域にのみ凹凸が設けられている場合、製造工程の最後にウエハを個片化する際のダイシングや劈開において凹凸の影響を受けなくて済む。
【0097】
実施例1から実施例3において、一対の櫛型電極22が励振する弾性波は、弾性表面波の場合に限られず、ラブ波の場合でもよいし、弾性境界波の場合でもよい。また、弾性波素子20は、圧電薄膜共振器の場合でもよい。
【実施例4】
【0098】
図15は、実施例4に係るフィルタの回路図である。図15に示すように、フィルタ400は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1又は複数の直列共振器S1からS3が直列に接続され、1又は複数の並列共振器P1及びP2が並列に接続されている。1又は複数の直列共振器S1からS3及び1又は複数の並列共振器P1及びP2の少なくとも1つに実施例1から実施例3の弾性波デバイスを用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。フィルタは多重モード型フィルタでもよい。
【実施例5】
【0099】
図16は、実施例5に係るデュプレクサの回路図である。図16に示すように、デュプレクサ500は、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ60が接続され、共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ61が接続されている。送信フィルタ60は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ61は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ60及び受信フィルタ61の少なくとも一方を実施例4のフィルタとすることができる。
【0100】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に示したが、トリプレクサ又はクワッドプレクサでもよい。
【0101】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0102】
10、10a、10b 支持基板
11、11a、11b 境界層
12 温度補償層
13 接合層
14 圧電層
15 絶縁層
16、16a、16b 空隙
20 弾性波素子
21 IDT
22 櫛型電極
23 電極指
24 バスバー
25 反射器
26 金属膜
30、30a、30b、31、31a、31b、32 面
40 平面
41、41a 凸部
43、43a 凹部
45 平面
47 凸部
60 送信フィルタ
61 受信フィルタ
100、200、300、1000 弾性波デバイス
400 フィルタ
500 デュプレクサ
図1
図2
図3
図4
図5
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図16