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特許7527914抗菌・抗かび性繊維構造物およびその製法
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  • 特許-抗菌・抗かび性繊維構造物およびその製法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】抗菌・抗かび性繊維構造物およびその製法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/355 20060101AFI20240729BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20240729BHJP
   D06M 13/188 20060101ALI20240729BHJP
   D06M 13/207 20060101ALI20240729BHJP
   C07F 3/06 20060101ALI20240729BHJP
   A01N 43/40 20060101ALI20240729BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240729BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
D06M13/355
D06M15/53
D06M13/188
D06M13/207
C07F3/06
A01N43/40 101L
A01P3/00
D06M101:32
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020159902
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2021055249
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019177581
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000205432
【氏名又は名称】大阪化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】合志 修
(72)【発明者】
【氏名】神田 知秀
(72)【発明者】
【氏名】梅林 秀宇
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-126778(JP,A)
【文献】特開2007-100232(JP,A)
【文献】特開2014-118387(JP,A)
【文献】特開昭61-239082(JP,A)
【文献】特開2001-288014(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102258064(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
D06M10/00-11/84、16/00、19/00-23/18、
A01N1/00-65/48、A01P1/00-23/00、
C07F3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌・抗かび剤(A)と塩析剤(B)とを含有する合成繊維構造物であって、上記抗菌・抗かび剤(A)がピリジン系抗菌・抗かび剤であり、上記塩析剤(B)が無機化合物であり、上記合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、上記塩析剤(B)とともに固定されていることを特徴とする抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項2】
上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全量に対し200~20000mg/kgであり、上記塩析剤(B)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~10000mg/kgである請求項1記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項3】
抗菌・抗かび剤(A)と、塩析剤(B)と、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを含有する合成繊維構造物であって、上記抗菌・抗かび剤(A)がピリジン系抗菌・抗かび剤であり、上記塩析剤(B)が無機化合物であり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、下記の第1群(c1)、第2群(c2)および第3群(c3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、上記合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、上記塩析剤(B)および上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とともに固定されていることを特徴とする抗菌・抗かび性繊維構造物。
(c1)界面活性剤からなる第1群。
(c2)ブタノール、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ブチレングリコールからなる第2群。
(c3)芳香族系化合物からなる第3群。
【請求項4】
上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全量に対し200~20000mg/kgであり、上記塩析剤(B)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~10000mg/kgであり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~500mg/kgである請求項3記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項5】
上記抗菌・抗かび剤(A)が、ピリジン系金属錯体である請求項1~4のいずれか一項に記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項6】
上記塩析剤(B)が、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第IIb族金属塩、第III族金属塩および第VII族金属塩からなる群から選択される少なくとも一つの無機塩である請求項1~5のいずれか一項に記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項7】
上記塩析剤(B)が、アルカリ金属塩から選択される少なくとも一つの無機塩である請求項6記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項8】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)のうち、上記第1群(c1)が、下記の式(1)、(2)で示される界面活性剤の少なくとも一つを含むものである請求項3または4記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【化1】
【化2】
【請求項9】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)のうち、上記第3群(c3)が、下記の式(3)~(6)で示される芳香族系化合物から選択される少なくとも一つを含むものである請求項3または4記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項10】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)、第2群(c2)および第3群(c3)からなる群から選択される少なくとも二つの化合物を含むものである請求項3または4記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項11】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである請求項3または4記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項12】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである請求項3または4記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項13】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである請求項3または4記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項14】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである請求項3または4記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項15】
合成繊維構造物に抗菌・抗かび加工を施して抗菌・抗かび性繊維構造物を得る方法であって、下記の抗菌・抗かび剤(A)と塩析剤(B)とを含有する加工液を準備する工程と、上記加工液と合成繊維構造物とを接触させ、70~150℃の加熱を10~120分行うことにより、上記合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)を、上記塩析剤(B)とともに固定する加工工程とを備えたことを特徴とする抗菌・抗かび性繊維構造物の製法。
(A)ピリジン系抗菌・抗かび剤からなる抗菌・抗かび剤。
(B)無機化合物からなる塩析剤。
【請求項16】
上記加工液において、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、加工液全量に対し0.001~0.2重量%であり、上記塩析剤(B)の含有量が、加工液全量に対し0.1~30重量%である請求項15記載の抗菌・抗かび性繊維構造物の製法。
【請求項17】
合成繊維構造物に抗菌・抗かび加工を施して抗菌・抗かび性繊維構造物を得る方法であって、下記の抗菌・抗かび剤(A)と塩析剤(B)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを含有する加工液を準備する工程と、上記加工液と合成繊維構造物とを接触させ、70~150℃の加熱を10~120分行うことにより、上記合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)を、上記塩析剤(B)および抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とともに固定する加工工程とを備えたことを特徴とする抗菌・抗かび性繊維構造物の製法。
(A)ピリジン系抗菌・抗かび剤からなる抗菌・抗かび剤。
(B)無機化合物からなる塩析剤。
(C)下記の第1群(c1)、第2群(c2)および第3群(c3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物からなる抗菌・抗かび剤固定補助剤。
(c1)界面活性剤からなる第1群。
(c2)ブタノール、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ブチレングリコールからなる第2群。
(c3)芳香族系化合物からなる第3群。
【請求項18】
上記加工液において、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、加工液全量に対し0.001~0.2重量%であり、上記塩析剤(B)の含有量が、加工液全量に対し0.1~30重量%であり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量が、加工液全量に対し0.01~1重量%である請求項17記載の抗菌・抗かび性繊維構造物の製法。
【請求項19】
上記合成繊維構造物が少なくともポリエステル繊維を含むものであり、上記加工工程が、密封容器内に加工液および合成繊維構造物を入れ、液中で加圧下、100℃以上150℃未満で10分以上120分未満加熱する工程である請求項15または16記載の抗菌・抗かび性繊維構造物の製法。
【請求項20】
上記合成繊維構造物がポリエステル繊維を含まないものであり、上記加工工程が、加工液に合成繊維構造物を入れ、液中で常圧下、70℃以上100℃未満で10分以上120分未満加熱する工程である請求項15または16記載の抗菌・抗かび性繊維構造物の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性繊維構造物およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生や健康に対する意識の高まりから、衣料やタオル、寝具等、身の回りの繊維製品に、抗菌性や抗かび性を付与したものが多く出回っている。しかし、抗菌・抗かび剤は、繊維と化学的に結合しにくいものが多いため、抗菌・抗かび性が付与された繊維製品の多くは、抗菌・抗かび剤を、樹脂等のバインダーによって繊維表面にコーティング加工して付着させているにすぎない。このため、上記繊維製品を繰り返し洗濯すると、繊維表面から抗菌・抗かび剤が容易に脱落しやすく、抗菌・抗かび性能が洗濯の都度低下してしまうという問題がある。また、合成繊維については、繊維自身に抗菌・抗かび剤を練り込んで紡糸したものも出回っているが、このような練り込みおよび紡糸温度(ポリエステルの場合300℃以上)に耐えられる抗菌剤は極めて少なく、また耐熱性の高い無機抗菌剤は合成繊維内に封入されるとブリードしないことから、抗菌・抗かび性能が充分に得られないという問題がある。
【0003】
ところで、ポリエステル繊維は耐熱性に優れており、高圧高温加工または常圧高温加工(いわゆるベイキング加工)によって染色処理等の加工が広く行われている。例えば、ピリジン系抗菌・抗かび剤の分散液中にポリエステル繊維品を浸漬し、常圧または加圧下で、90~160℃で高温加熱処理を行うことにより、ポリエステルの緻密な非晶領域を緩ませて、生じた隙間にピリジン系抗菌・抗かび剤を浸透固定し、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性能を付与する技術が提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
また、得られる抗菌性が不充分な場合には、下記の特許文献2、3のように、ピリジン系抗菌剤と相乗効果を発揮する抗菌性助剤の併用が提案されている。特に、特許文献2では、繊維構造物中に、ピリジン系抗菌剤とともに、カルボン酸系化合物、フェノール系化合物および尿素系化合物から選ばれる少なくとも一つの抗菌性補助剤を用いて、抗菌性の相乗効果を得ることが提案されている。すなわち、ピリジン系抗菌剤をポリエステル繊維に130℃の温度で液中熱浸透処理をした場合、ピリジン系抗菌剤の利用効率が実際には30%程度と低いため、このような低湿潤条件において抗菌効力を向上させるために、上記抗菌性補助剤を0.01重量%(100mg/kg)以上配合することで、ピリジン系抗菌剤と上記抗菌性補助剤による抗菌性の相乗効果を実現したものである。
【0005】
なお、上記「利用効率」とは、加工液中の全ピリジン系抗菌・抗かび剤の量に対して、合成繊維内に浸透固定されるピリジン系抗菌・抗かび剤の量の割合であって、繊維表面に付着しているだけの状態のものを除く趣旨である。固定された抗菌・抗かび剤は、表面に付着した分を洗濯等で取り除いた後に分析することによって、特定することができる。
【0006】
また、上記特許文献2では、耐熱性の低いアクリル繊維やナイロン繊維等の単独繊維に対する、それぞれに適した温度での加工は検証されているが、合成繊維全般に対するピリジン系抗菌剤の利用効率の向上について何ら検証されておらず、繊維内部へのピリジン系抗菌剤の固定化を促進させる効果を謳っているものではない。また、実施例で界面活性剤と溶剤を使用しているが、その目的は抗菌性補助剤の水への分散と可溶化であり、その併用による利用効率向上効果や、繊維内部へのピリジン系抗菌剤の固定化を促進させる効果についても、何ら検証されていない。
【0007】
一方、下記の非特許文献1には、フェニルフェノールを用いたポリエステル繊維への染料拡散速度の向上に関する報告がなされている。しかしながら、従来の検討は、ポリエステル繊維に対して高い親和性を持つように合成された染料を対象としたものであり、ポリエステル繊維と親和性の低いピリジン系抗菌・抗かび剤に対する検証はなされておらず、さらに補助剤等との併用による利用効率向上効果の検証も不充分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-8275号公報
【文献】特開2007-126778号公報
【文献】特表平10-509171号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】日本化学会誌,1972,p127~132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、上記特許文献1、2等によれば、ポリエステル繊維100%の繊維製品に対して90~160℃の高温下において抗菌剤を効果的に付与することも可能となっているものの、実際の抗菌剤の利用効率は、依然として30%程度にとどまっており、加工後、固定されなかった70%もの抗菌剤を含む加工液の廃液が排出されているのが実情である。したがって、近年の環境問題を鑑みると、抗菌剤の廃棄量を減らして環境負荷を軽減することが重要な課題である。また、コストの点からも、抗菌剤の利用効率を高めて廃棄量を減らすことが求められている。
【0011】
ちなみに、図2は、ピリジン系抗菌・抗かび剤(具体的にはジンクピリチオン、いわゆるZPT)を所定濃度でポリエステル繊維に液中加工によって固定する場合のZPTの利用効率(加工液中に含有されるZPT量のうち繊維内に固定されるZPTの割合、%)についての説明図である。
【0012】
図2の、向かって左側に示す円グラフにおいて、Pは、例えば130℃の液中加工によって繊維内に固定されたZPTの利用効率(この例では、繊維に固定有されるZPT量÷加工液中のZPT量)を示しており、その割合は約30%であって、残りの約70%(図においてQで示す部分)が、加工液の残液とともに廃棄される。したがって、加工液に用いられるZPTの多くが利用されずに捨てられていることがわかる。
【0013】
このため、図2の向かって右側に示す円グラフに示すように、液中での利用効率(図においてPで示す部分)を、例えば70%に向上させることができれば、環境に排出されるZPTの量を低減することができ、また加工液濃度を半減させても同等のZPT固定量が得られることにより、コスト削減も可能となる。したがって、その実現が強く求められるのである。
【0014】
本発明は、このような課題に応えるためになされたもので、例えば液中加工においても抗菌・抗かび剤の高い利用効率を実現して得られたものであって、環境にやさしく低価格で、しかも洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性繊維構造物およびその製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題に応えるため、本発明は、抗菌・抗かび剤(A)と塩析剤(B)とを含有する合成繊維構造物であって、上記抗菌・抗かび剤(A)がピリジン系抗菌・抗かび剤であり、上記塩析剤(B)が無機化合物であり、上記合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、上記塩析剤(B)とともに固定されている抗菌・抗かび性繊維構造物を第1の要旨とする。
【0016】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全量に対し200~20000mg/kgであり、上記塩析剤(B)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~10000mg/kgである抗菌・抗かび性繊維構造物を第2の要旨とする。
【0017】
そして、本発明は、抗菌・抗かび剤(A)と、塩析剤(B)と、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを含有する合成繊維構造物であって、上記抗菌・抗かび剤(A)がピリジン系抗菌・抗かび剤であり、上記塩析剤(B)が無機化合物であり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、下記の第1群(c1)、第2群(c2)および第3群(c3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、上記合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、上記塩析剤(B)および上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とともに固定されている抗菌・抗かび性繊維構造物を第3の要旨とする。
(c1)界面活性剤からなる第1群。
(c2)有機溶媒からなる第2群。
(c3)芳香族系化合物からなる第3群。
【0018】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全量に対し200~20000mg/kgであり、上記塩析剤(B)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~10000mg/kgであり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~500mg/kgである抗菌・抗かび性繊維構造物を第4の要旨とする。
【0019】
さらに、本発明は、これらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、ピリジン系金属錯体である抗菌・抗かび性繊維構造物を第5の要旨とする。
【0020】
そして、本発明は、これらのなかでも、特に、上記塩析剤(B)が、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第IIb族金属塩、第III族金属塩および第VII族金属塩からなる群から選択される少なくとも一つの無機塩である抗菌・抗かび性繊維構造物を第6の要旨とし、なかでも、上記塩析剤(B)が、アルカリ金属塩から選択される少なくとも一つの無機塩である抗菌・抗かび性繊維構造物を第7の要旨とする。
【0021】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)のうち、上記第1群(c1)が、下記の式(1)、(2)で示される界面活性剤の少なくとも一つを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第8の要旨とし、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)のうち、上記第3群(c3)が、下記の式(3)~(6)で示される芳香族系化合物から選択される少なくとも一つを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第9の要旨とする。
【0022】
【化1】
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
【化4】
【0026】
【化5】
【0027】
【化6】
【0028】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)、第2群(c2)および第3群(c3)からなる群から選択される少なくとも二つの化合物を含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第10の要旨とし、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第11の要旨とする。
【0029】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第12の要旨とし、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第13の要旨とし、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第14の要旨とする。
【0030】
そして、本発明は、合成繊維構造物に抗菌・抗かび加工を施して抗菌・抗かび性繊維構造物を得る方法であって、下記の抗菌・抗かび剤(A)と塩析剤(B)とを含有する加工液を準備する工程と、上記加工液と合成繊維構造物とを接触させ、70~150℃の加熱を10~120分行うことにより、上記合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)を、上記塩析剤(B)とともに固定する加工工程とを備えた抗菌・抗かび性繊維構造物の製法を第15の要旨とする。
(A)ピリジン系抗菌・抗かび剤からなる抗菌・抗かび剤。
(B)無機化合物からなる塩析剤。
【0031】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記加工液において、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、加工液全量に対し0.001~0.2重量%であり、上記塩析剤(B)の含有量が、加工液全量に対し0.1~30重量%である抗菌・抗かび性繊維構造物の製法を第16の要旨とする。
【0032】
さらに、本発明は、合成繊維構造物に抗菌・抗かび加工を施して抗菌・抗かび性繊維構造物を得る方法であって、下記の抗菌・抗かび剤(A)と塩析剤(B)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを含有する加工液を準備する工程と、上記加工液と合成繊維構造物とを接触させ、70~150℃の加熱を10~120分行うことにより、上記合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)を、上記塩析剤(B)および抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とともに固定する加工工程とを備えた抗菌・抗かび性繊維構造物の製法を第17の要旨とする。
(A)ピリジン系抗菌・抗かび剤からなる抗菌・抗かび剤。
(B)無機化合物からなる塩析剤。
(C)下記の第1群(c1)、第2群(c2)および第3群(c3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物からなる抗菌・抗かび剤固定補助剤。
(c1)界面活性剤からなる第1群。
(c2)有機溶媒からなる第2群。
(c3)芳香族系化合物からなる第3群。
【0033】
そして、本発明は、そのなかでも、特に、上記加工液において、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、加工液全量に対し0.001~0.2重量%であり、上記塩析剤(B)の含有量が、加工液全量に対し0.1~30重量%であり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量が、加工液全量に対し0.01~1重量%である抗菌・抗かび性繊維構造物の製法を第18の要旨とする。
【0034】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記合成繊維構造物が少なくともポリエステル繊維を含むものであり、上記加工工程が、密封容器内に加工液および合成繊維構造物を入れ、液中で加圧下、100℃以上150℃未満で10分以上120分未満加熱する工程である抗菌・抗かび性繊維構造物の製法を第19の要旨とし、上記合成繊維構造物がポリエステル繊維を含まないものであり、上記加工工程が、加工液に合成繊維構造物を入れ、液中で常圧下、70℃以上100℃未満で10分以上120分未満加熱する工程である抗菌・抗かび性繊維構造物の製法を第20の要旨とする。
【発明の効果】
【0035】
すなわち、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物は、抗菌・抗かび剤(A)であるピリジン系抗菌・抗かび剤とともに、塩析剤(B)として無機化合物が用いられているか、これらとともに、さらに、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、界面活性剤からなる第1群(c1)と、有機溶媒からなる第2群(c2)と、芳香族系化合物からなる第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物が用いられており、合成繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、上記塩析剤(B)とともに固定されているか、もしくは上記塩析剤(B)および抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とともに固定されている、という特徴を備えている。
【0036】
ここで、ポリエステル繊維等の合成繊維は、一般に、ガラス転移点以上でポリマーの鎖状分子の運動が高まり、非結晶領域の間隙が広がるという特性を有している。そして、高温であればあるほど、上記鎖状分子の運動が高まり、非結晶領域の間隙が広がりやすくなる。このため、一般に、合成繊維に染料や抗菌剤等を常圧高温加工や高圧加工にて浸透させる場合、繊維が熱的ダメージを受けない範囲で、できるだけガラス転移点以上の高温加熱条件で、染料や抗菌剤を浸透させている。しかし、合成繊維に対する抗菌剤等の利用効率(吸尽率ともいう)は、現状では満足のいくものではなかった。
【0037】
そこで、本発明では、塩析剤(B)を単独で用いるか、塩析剤(B)と特定の抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを組み合わせて用いることにより、合成繊維への抗菌・抗かび剤(A)の浸透を高め、抗菌・抗かび剤の利用効率を高めることができるようにしたものである。
【0038】
より詳しく説明すると、上記塩析剤(B)は、加工液中の上記抗菌・抗かび剤(A)の水溶解度を抑制し、水中と繊維である合成樹脂との間の分配係数を変更する作用を果たすもので、その作用によって、加工液中に分散する抗菌剤等が繊維である合成樹脂に浸透するのを促進する効果を奏する。
【0039】
そして、上記塩析剤(B)により、抗菌・抗かび剤(A)の利用効率を向上させる効果は充分に得られるが、その効果を得るには、上記抗菌・抗かび剤(A)の量に対して大量の塩析剤(B)を要する傾向がある。このため、抗菌・抗かび剤(A)の利用効率が向上しても、今度は塩析剤(B)を大量に廃棄しなければならないおそれがあり、環境面からもコスト面からも好ましくない。
【0040】
そこで、上記塩析剤(B)と上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを併用することにより、上記塩析剤(B)の配合量を抑制しつつ、抗菌・抗かび剤(A)の高い利用効率を達成することができるため、より好ましい効果が得られる。
【0041】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、(c1)の界面活性剤を用いた場合には、界面活性剤によって繊維表面エネルギーを変えることで、ピリジン系抗菌・抗かび剤の繊維表面への親和性を上げ、選択的にピリジン系抗菌・抗かび剤の繊維表面近傍における存在確率を高める効果と、ピリジン系抗菌・抗かび剤を先導して合成繊維内に浸透する効果により、抗菌・抗かび剤の浸透を補助する。
【0042】
また、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、(c2)の有機溶媒を用いた場合には、難水溶性であるピリジン系抗菌・抗かび剤の加工液中の溶解濃度を高める効果により、ピリジン系抗菌・抗かび剤の浸透速度を促進する効果を発揮する。
【0043】
さらに、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、(c3)の芳香族系化合物を用いた場合には、これらの化合物がポリエステル繊維に浸透することで非結晶領域の鎖状分子の運動を活発にし、かつ非結晶領域の間隙を広げることで抗菌剤等の浸透速度を促進する効果を奏する。
【0044】
したがって、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物は、本来の液中加工に比べて、抗菌・抗かび剤(A)の高い利用効率が達成されており、環境への抗菌・抗かび剤(A)の排出が抑制され、製品コストも低減されたものであって、しかも優れた抗菌・抗かび性を備えている。
【0045】
特に、本発明では、上記抗菌・抗かび剤(A)として、メチシリン耐性ブドウ球菌(いわゆるMRSA)や、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)といったより薬剤耐性の強い菌に対しても充分に抗菌性を発揮するピリジン系抗菌・抗かび剤を用いているため、この繊維構造物を、病院や施設での手術着や介護着、シーツといった、各種のリネンサプライ用品に適用することが最適である。そして、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物は、工業洗濯を繰り返し受けても、その優れた抗菌・抗かび性を維持することができる。
【0046】
なお、抗菌・抗かび剤(A)に対して塩析剤(B)を単独で用いた本発明において、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全量に対し200~20000mg/kgであり、上記塩析剤(B)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~10000mg/kgであるものは、とりわけ優れた抗菌・抗かび性と洗濯耐久性が発揮されるため、好適である。
【0047】
また、抗菌・抗かび剤(A)に対して、塩析剤(B)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを併用した本発明において、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全量に対し200~20000mg/kgであり、上記塩析剤(B)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~10000mg/kgであり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量が、繊維構造物全量に対し1~500mg/kgであるものは、とりわけ、さらに優れた抗菌・抗かび性と洗濯耐久性が発揮されるため、好適である。
【0048】
そして、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、ピリジン系金属錯体であるものは、とりわけ、メチシリン耐性ブドウ球菌(いわゆるMRSA)や、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)といったより薬剤耐性の強い菌に対して優れた抗菌性を示すことから、好適である。
【0049】
そして、本発明のなかでも、特に、上記塩析剤(B)が、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第IIb族金属塩、第III族金属塩および第VII族金属塩からなる群から選択される少なくとも一つの無機塩であるもの、そして、そのなかでも、特に、上記塩析剤(B)が、アルカリ金属塩から選択される少なくとも一つの無機塩であるものは、とりわけ、上記抗菌・抗かび剤(A)の利用効率が向上するため、好適である。
【0050】
また、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)のうち、上記第1群(c1)が、前記の式(1)、(2)で示される2種類の界面活性剤の少なくとも一つを含むもの、また、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)のうち、上記第3群(c3)が、前記の式(3)~(6)で示される4種類の芳香族系化合物の少なくとも一つを含むものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の利用効率がさらに向上するため、好適である。
【0051】
そして、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)、第2群(c2)および第3群(c3)からなる群から選択される少なくとも二つの化合物を含むもの、あるいは、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の利用効率がさらに向上するため、好適である。
【0052】
また、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むもの、あるいは、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の利用効率がさらに向上するため、好適である。
【0053】
さらに、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)が、上記第1群(c1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(c2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の利用効率がさらに向上するため、好適である。
【0054】
また、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物の製法によれば、従来に比べて、合成繊維構造物の繊維内に抗菌・抗かび剤を、高い利用効率で固定することができるため、環境に排出する抗菌・抗かび剤固定補助剤(A)を大幅に低減することができる。したがって、環境面からもコスト面からも優れた製法となり、しかも優れた抗菌・抗かび性を備えた合成繊維構造物を提供することができる。
【0055】
そして、上記製法のなかでも、特に、上記加工液において、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、加工液全量に対し0.001~0.2重量%であり、上記塩析剤(B)の含有量が、加工液全量に対し0.1~30重量%であるものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の利用効率をさらに向上させることができ、好適である。
【0056】
また、上記製法のなかでも、特に、上記加工液において、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、加工液全量に対し0.001~0.2重量%であり、上記塩析剤(B)の含有量が、加工液全量に対し0.1~30重量%であり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量が、加工液全量に対し0.01~1重量%であるものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の利用効率をさらに向上させることができ、好適である。
【0057】
ここで、これらの製法において、加工液に対する各成分の好ましい含有量の幅が大きいのは、加工の際に設定する浴比(繊維構造物量と加工液量の割合)が、処理条件によって大きく変動することによるものである。例えば最新染色機を用いて加工する場合、通常、浴比1:5(繊維構造物重量1tに対して加工液量5t)で加工するのに対し、従来の、一般的な染色機を利用して加工する場合には、例えば浴比1:30(繊維構造物重量1tに対して加工液量30t)で加工する場合があり、各成分の含有量が大幅に変化する。
【0058】
そして、上記製法のなかでも、特に、上記繊維構造物が少なくともポリエステル繊維を含むものであり、上記加工工程が、密封容器内に加工液および繊維構造物を入れ、液中で加圧下、100℃以上150℃未満で10分以上120分未満加熱する工程であるものは、加圧して高圧処理を行うことが望ましいポリエステル繊維に対して、従来よりも大幅に高い利用効率で、優れた抗菌・抗かび性を付与することができ、好適である。
【0059】
また、上記製法のなかでも、特に、上記繊維構造物がポリエステル繊維を含まないものであり、上記加工工程が、加工液に繊維構造物を入れ、液中で常圧下、70℃以上100℃未満で10分以上120分未満加熱する工程であるものは、ポリエステル繊維に対するような100℃を超える処理を行う必要がなく、しかも従来よりも大幅に高い利用効率で、優れた抗菌・抗かび性を付与することができ、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物の製造方法の一例を示す模式的な説明図である。
図2】本発明の課題を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
つぎに、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限られるものではない。
【0062】
まず、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物(以下、単に「繊維構造物」という場合もある)は、抗菌・抗かび剤(A)と、塩析剤(B)とを含有する合成繊維構造物、または、上記抗菌・抗かび剤(A)と、塩析剤(B)と、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを含有する合成繊維構造物である。
【0063】
上記「合成繊維構造物」とは、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維からなる繊維構造物であり、一種類の繊維からなるものであっても、複数種類の繊維の混紡品や混繊品、交織品、交編品等であってもよい。
【0064】
なお、本発明が対象とする「合成繊維構造物」は、100%合成繊維からなるものである必要はなく、繊維全体の重量に対して20重量%以上の割合で合成繊維が含まれていれば、残りの繊維が、セルロース、アセテート等の半合成繊維や、絹、綿、羊毛、麻等の天然繊維等の非合成繊維であっても差し支えない。抗菌・抗かび剤(A)を含有した合成繊維を20重量%以上混合することで、全体として充分に抗菌・抗かび性が付与されていれば、優れた抗菌・抗かび性を発揮するからである。
【0065】
上記合成繊維の太さは、その繊維の種類にもよるが、ポリエステル繊維の場合、その太さは、抗菌・抗かび剤処理加工を施すには、例えば、その平均単糸繊度が0.1~100dtexであることが好ましく、なかでも0.5~50dtexであることがより好ましい。
【0066】
また、上記合成繊維がポリエステル繊維以外の、ポリウレタン、ポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維である場合、その太さは、抗菌・抗かび処理加工を施すには、例えば、その平均単糸繊度が0.1~1000dtexであることが好ましく、なかでも1~500dtexであることがより好ましい。
【0067】
そして、本発明において、「繊維構造物」の形態としては、糸、編物、織物、不織等、各種の形態をあげることができる。具体的な製品としては、例えば各種の衣料品、靴下、タイツ、スポーツウェア、アウトドア製品、寝装寝具、敷物、カーテン、屋内クロス、包帯・ガーゼ・マスク等の衛生用品等があげられる。特に、本発明の繊維構造物は、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性を備えていることから、医療施設や介護施設において繰り返し工業洗濯にかけられて使用されるリネンサプライ用品(手術着や白衣、寝間着、シーツ等)への適用が好適である。
【0068】
また、本発明に用いられる抗菌・抗かび剤(A)としては、抗菌・抗かび性能に優れ、しかも人体への安全性が高いピリジン系抗菌・抗かび剤が用いられる。このようなピリジン系抗菌・抗かび剤としては、例えば、後記の式(7)で示されるピリジン系金属錯体が好適に用いられる。すなわち、上記ピリジン系金属錯体は、前述のとおり、メチシリン耐性ブドウ球菌(いわゆるMRSA)や、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)といったより薬剤耐性の強い菌に対しても優れた抗菌性を発揮するからである。そして、前記特許文献1にも記載のとおり、上記ピリジン系金属錯体は、有機性値/無機性値がポリエステル繊維と近いことから、ポリエステル系繊維に固定しやすい。したがって、ポリエステル系繊維に適用する場合、とりわけ好適である。
【0069】
上記ピリジン系金属錯体として、より具体的には、下記の式(7)において、金属を示す「M」がCuであるビス(2-ピリジルチオ)銅-1,1'-ジオキサイド(以下、「ピリチオン銅」という)、「M」がZnであるビス(2-ピリジルチオ)亜鉛-1,1'-ジオキサイド(以下、「ピリチオン亜鉛」という)、「M」がFeであるビス(2-ピリジルチオ)鉄-1,1'-ジオキサイド(以下、「ピリチオン鉄」という)等があげられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。ただし、上記ピリチオン鉄は、溶液が紫色を呈するため、着色が問題とならない用途に用いることが好ましい。そして、着色を問題にすることなく用いることができる点で、白色であるピリチオン亜鉛を用いることが、とりわけ好ましい。
【0070】
【化7】
【0071】
上記ピリジン系金属錯体は、水にも有機溶媒にも殆ど溶けず、しかも非常に比重が大きいことから、抗菌・抗かび処理加工時に安定した懸濁状態を保持させるために、平均粒径が0.1~0.7μmのものを用いることが好適であり、とりわけ0.3~0.5μmであることが好適である。そして、2μm以上の粒径のピリジン系金属錯体が全ピリジン系金属錯体に対し5重量%以下、好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下となるよう粉砕されていることが好適である。
【0072】
なお、上記ピリジン系金属錯体の平均粒径は、JIS R1629に準拠してレーザ回折粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布において、累積50%に相当するメジアン径として求められるものである。
【0073】
また、本発明に用いられる塩析剤(B)は、加工液中の上記抗菌・抗かび剤(A)の水溶解度を抑制し、水中と繊維である合成樹脂との間の分配係数を変更する作用を果たすもので、その作用によって、加工液中に分散する抗菌剤等が繊維である合成樹脂に浸透するのを促進する効果を奏する。
【0074】
そして、上記塩析剤(B)による効果、もしくは、上記塩析剤(B)と後述する抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)との相乗効果によって、本発明では、液中加工であっても、抗菌・抗かび剤(A)の繊維に対する利用効率を高めることができる。
【0075】
上記塩析剤(B)としては、無機化合物が用いられる。そして、より具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩:硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム等のアルカリ金属塩:塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属塩:塩化亜鉛、硝酸亜鉛等の第IIb族金属塩:硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の第III族金属塩:硝酸第二鉄、塩化第二鉄等の第VII族金属塩等の無機塩があげられる。これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、これらの複塩を用いてもよい。
【0076】
上記塩析剤(B)のなかでも、効果および取り扱い性の点から、中性塩であることが好ましく、特に、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム等のアルカリ金属塩を用いることが好ましく、とりわけ、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムを用いることが好ましい。
【0077】
また、上記塩析剤(B)を選択する上で、塩析剤(B)を加えることでpHが変動する場合には、pHが4.5~8.0になるように、より好ましくはpH5.5~7.0になるように、二つ以上の塩析剤(B)を組み合わせて選択することが好ましい。
【0078】
また、本発明において、上記塩析剤(B)とともに用いることのできる抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)としては、下記の第1群(c1)、第2群(c2)および第3群(c3)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物があげられる。
(c1)界面活性剤からなる第1群。
(c2)有機溶媒からなる第2群。
(c3)芳香族系化合物からなる第3群。
【0079】
上記第1群(c1)の界面活性剤としては、通常、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤が用いられる。上記非イオン界面活性剤としては、ラウリン酸グリセリンやソルビタン脂肪酸エステル等のエステル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等のエステルエーテル型非イオン界面活性剤、ステアリン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型非イオン界面活性剤、オクチルグルコシド等のアルキルグリコシド型非イオン界面活性剤、セタノール等の高級アルコール型非イオン界面活性剤があげられる。また、上記陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤等があげられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0080】
これらの界面活性剤を用いた場合には、界面活性剤によって繊維表面エネルギーを変えることで、ピリジン系抗菌・抗かび剤の繊維表面への親和性を上げ、選択的にピリジン系抗菌・抗かび剤(A)の繊維表面近傍における存在確率を高めることができる。そして、上記抗菌・抗かび剤(A)とともに界面活性剤が繊維の非結晶領域に浸透して、上記抗菌・抗かび剤(A)の浸透を補助する効果を発揮する。
【0081】
上記界面活性剤のなかでも、抗菌・抗かび剤(A)を繊維に固定させる効果の点から、エーテル型非イオン界面活性剤を用いることがとりわけ好ましく、なかでも、下記の式(1)または(2)で示される2種類の非イオン界面活性剤の少なくとも一つを用いることが最適である。
【0082】
【化8】
【0083】
【化9】
【0084】
なお、上記式(1)、(2)の化合物において、アルキル基における炭素数や、オキシアルキレンの繰り返し数nの値は、非イオン界面活性剤のHLB値を好ましい値に調節するために適宜調整される。ちなみに、上記非イオン界面活性剤のHLB値は、抗菌・抗かび剤(A)を繊維に固定させる効果の点で、6~19に設定することが好ましく、なかでも8~18に設定することがより好ましい。
【0085】
そして、上記第2群(c2)の有機溶媒としては、揮発性の低いものが望ましく、具体的には、沸点が100℃以上の低揮発性有機溶媒が用いられる。より好ましくは、沸点が120℃以上のものが用いられる。沸点が100℃未満の有機溶媒では、加工条件によっては圧力異常を起こすおそれがあり、好ましくない。それに対し、沸点が100℃以上のものは、圧力異常を起こす可能性が低い。このような、揮発性の低い有機溶媒としては、例えば、ブタノール(沸点117.7℃)、酢酸ブチル(沸点126.6℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点132.2℃)、プロピレングリコール(187.4℃)、ジメチルスルホキシド(DMSO、沸点189℃)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、沸点202℃)、1,3-ブチレングリコール(沸点204℃)等があげられ、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機溶媒は、抗菌・抗かび剤(A)の浸透性や、組み合わせて用いられる他の抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の運動性を高める効果がある。
【0086】
一方、上記第3群(c3)の芳香族系化合物としては、トルエンや安息香酸等の一置換芳香族単環化合物、キシレンやサリチル酸、サリチル酸メチル、グアイアコール(メトキシフェノール)等の二置換芳香族単環化合物、サリチル酸フェニルやo-フェニルフェノール等の芳香多環化合物、ナフタレンやアントラセン等の縮合環化合物等があげられ、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0087】
これらの芳香族系化合物は、繊維に浸透することで非結晶領域の鎖状分子の運動を活発にし、繊維の非結晶領域の間隙を広げることで抗菌剤等の浸透速度を促進する効果がある。
【0088】
上記芳香族系化合物のなかでも、効果の点から、とりわけ下記の式(3)~(6)で示される4種類の芳香族系化合物の少なくとも一つを用いることが最適である。
【0089】
【化10】
【0090】
【化11】
【0091】
【化12】
【0092】
【化13】
【0093】
なお、上記式(3)~(6)の化合物において、芳香環に導入される置換基の炭素数は、少なすぎると繊維に浸透する前に揮発するおそれがあり、多すぎると繊維に浸透しないおそれがあるため、通常、炭素数が1~10の範囲内にあるものが好ましく、炭素数が1~5の範囲内にあるものがより好ましい。
【0094】
より具体的に例示すると、上記化学式(3)で表される化合物としては、R4が水素原子である安息香酸、R4がメチル基である安息香酸メチル、R4がエチル基である安息香酸エチル、R4がブチル基である安息香酸ブチル、R4がオクチル基である安息香酸オクチル等があげられる。
【0095】
また、上記化学式(4)で表される化合物としては、R5がメチル基であるパラオキシ安息香酸メチル、R5がエチル基であるパラオキシ安息香酸エチル、R5がブチル基であるパラオキシ安息香酸ブチル、R5がオクチル基であるパラオキシ安息香酸オクチル等があげられる。
【0096】
さらに、上記化学式(5)で表される具体的な化合物としては、例えば、式中のR6がフェニル基であるp-フェニルフェノール、o-フェニルフェノール等のフェニルフェノール、R6がベンジル基であるo-ベンジルフェノール等のベンジルフェノール等があげられる。また、上記化学式(6)で表される具体的な化合物としては、例えば、R7がペンチル基であるペンチルオキシフェノール等のアルコキシフェノール等があげられる。
【0097】
このように、本発明に用いることのできる抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)は、第1群(c1)の界面活性剤、第2群(c2)の有機溶媒、第3群(c3)の芳香族系化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であり、いずれかを単独で用いてもよいが、上記三つの群全体のなかから少なくとも二つの化合物を選択し、組み合わせて用いる方が、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量を増大させることができ、好ましい。
【0098】
そして、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、上記三つの群全体のなかから少なくとも三つの化合物を選択し、組み合わせて用いる方が、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量をさらに増大させることができるため、より好ましい。
【0099】
また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、上記第1群(c1)の界面活性剤から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(c2)の有機溶媒から選択される少なくとも一つの化合物とを組み合わせて用いることが、効果の点でより好ましい。
【0100】
さらに、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、上記第1群(c1)の界面活性剤から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)の芳香族系化合物から選択される少なくとも一つの化合物とを組み合わせて用いることが、効果の点でより好ましい。
【0101】
また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、上記第2群(c2)の有機溶媒から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)の芳香族系化合物から選択される少なくとも一つの化合物とを組み合わせて用いることが、効果の点でより好ましい。
【0102】
そして、とりわけ、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として、上記第1群(c1)の界面活性剤から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(c2)の有機溶媒から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(c3)の芳香族系化合物から選択される少なくとも一つの化合物をさらに組み合わせて用いることが、特に優れた効果を得る点で、好ましい。
【0103】
本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物は、上記抗菌・抗かび剤(A)と、塩析剤(B)と、を用いるか、あるいはこれに、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)をさらに用いて、例えばつぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、抗菌・抗かび剤(A)を、水の存在下、ボールミル、ハンマーミル等の粉砕手段によって粉砕し攪拌することにより、抗菌・抗かび剤(A)を含有する水性懸濁液もしくは水性乳化液からなる分散液を得る。そして、加工処理時にこの分散液と塩析剤(B)を混合・希釈することで加工液とする。
【0104】
また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)を用いる場合は、上記抗菌・抗かび剤(A)の分散液を調製する際、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)も配合して均一に分散混合させることができる。あるいは、抗菌・抗かび剤(A)を上記と同様にして水性懸濁液にするとともに、塩析剤(B)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)とを水性乳化液もしくは水性可溶化液にして、加工処理時に混合して用いるための二液とする。これらの液を、便宜上、「加工用準備液」といい、これを用いて最終的に加工処理に用いるための加工液として調製されるものを「加工液」という。
【0105】
そして、上記加工用準備液を用い、例えば図1に示すように、繊維構造物に対する抗菌・抗かび剤の加工処理を、密封容器10を用いて高圧下で行うことができる。この場合は、まず、上記密封容器10の蓋を開いて、容器10内において、上記と同様にして加工液を調製した後、繊維構造物2を投入する。そして、蓋を閉じて密閉後、容器10内を加熱することで加圧し、目的とする抗菌・抗かび性繊維構造物を得ることができる(「高圧加工」という)。上記密封容器10としては、液流染色機やチーズ染色機等の各種の高圧染色機を流用することができる。
【0106】
繊維構造物に対し、このような高圧下での処理を行う場合、処理時の圧力は、繊維の種類や繊維構造物の形態にもよるが、通常、0.5~4kg/cm2(49~392kPa)(ゲージ圧)の条件下に設定することが好適である。圧力が高すぎてもそれ以上の効果が得られないおそれがあり、逆に圧力が低すぎると、繊維によっては時間を長くしないと抗菌・抗かび性が不充分になるおそれがあり、効率が低下して好ましくない。
【0107】
また、本発明における加工温度は、その加工を常圧下で行うか高圧下で行うかにかかわらず、通常、70~150℃の範囲内で行われる。また、加工時間は、通常、10~120分に設定することが好適である。
【0108】
すなわち、加工温度が70℃よりも低いと抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量が少なすぎて抗菌・抗かび性が不充分になるおそれがあり、150℃より高いと、圧力が高くなりすぎて危険を生じるおそれがある。また、加工時間が10分未満では、合成繊維に充分に熱が伝わらず抗菌・抗かび剤(A)が合成繊維に充分に浸透しないおそれがあり、120分を超えると、それ以上の時間をかけても利用効率に変化がなく、好ましくない。
【0109】
また、本発明において、特に、上記繊維構造物が少なくともポリエステル繊維を含むものである場合には、前述のように、密封容器内に加工液および繊維構造物を入れ、液中で加圧下、100℃以上150℃未満で10分以上120分未満加熱する工程を備えた加工処理を行うことにより、従来よりも大幅に高い利用効率で、優れた抗菌・抗かび性を付与することができ、好適である。なかでも、加工温度は120~140℃であることがより好適であり、加工時間は20~100分であることがより好適である。
【0110】
一方、本発明において、特に、上記繊維構造物がポリエステル繊維を含まないものである場合には、上記加工工程が、加工液に繊維構造物を入れ、液中で常圧下、70℃以上100℃未満で10分以上120分未満加熱する工程を備えた加工処理を行うことにより、従来よりも大幅に高い利用効率で、優れた抗菌・抗かび性を付与することができ、好適である。
【0111】
なお、本発明の製法においては、最終的に得られる繊維構造物に含有される各薬剤(A)と(B)、もしくは(A)と(B)と(C)の含有量が、抗菌・抗かび性を発揮する上で充分な、好ましい範囲となるように、加工液の濃度が調整される。そして、上記加工液の濃度は、従来の濃度と同じとした場合であっても、抗菌・抗かび剤(A)の繊維に対する利用効率が高くなることから、加工処理後、繊維に固定化されずに廃棄される抗菌・抗かび剤(A)の量が大幅に減少するため、材料コストを抑制することができるとともに、廃棄物による環境負荷が低減される。これも本発明の大きな効果である。
【0112】
ちなみに、本発明の製法において、加工処理に用いられる加工液における抗菌・抗かび剤(A)、塩析剤(B)、抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量は、例えば、以下のように調整することが、効果の上で好適である。すなわち、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量は、加工液全量に対し0.001~0.2重量%であることが好ましく、上記塩析剤(B)の含有量は、加工液全量に対し0.1~30重量%であることが好ましく、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量は、加工液全量に対し0.01~1重量%であることが好ましい。
【0113】
そして、本発明の製法において、加工処理時の浴比は、繊維の材質や形態、用いる処理装置のタイプ等によって適宜の浴比が設定されるが、通常、浴比1:5~1:30の条件とすることが好ましく、さらには浴比1:5~1:20の条件とすることがより好ましい。これは、加工液量が小さいほど成分濃度を高く配合でき、高い利用効率が得られるためである。
【0114】
なお、すでに述べたように、塩析剤(B)とともに抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)を用いる場合は、両者の相乗効果によって、抗菌・抗かび剤(A)に対する塩析剤(B)の配合割合を小さくしても、優れた利用効率向上効果が得られ、好適である。
【0115】
また、本発明の製法において、抗菌・抗かび剤(A)と塩析剤(B)を含有する加工液、もしくは上記(A)、(B)とともに抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)を含有する加工液を調製するにあたり、そのための加工用準備液を長期にわたって安定に保ち、繊維に対する抗菌・抗かび剤(A)の固定率を向上させるには、上記加工用準備液のpHを、通常、pHを4~10の間、好ましくは5.5~8.5、より好ましくは6~8の間に調整することが好適である。上記加工用準備液が上記範囲よりもアルカリ側にある場合には、酢酸、塩酸、リン酸等の酸を添加し、酸性側にある場合には、炭酸ナリトウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加すればよい。なお、上記「酸」もしくは「アルカリ」は、本発明の塩析剤(B)と異なるものであり、両者は区別される。
【0116】
そして、上記加工用準備液もしくは加工液には、さらに、必要に応じて任意の添加物を配合することができる。例えば、有機溶媒(抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)として用いられる有機溶媒とは異なる、例えは沸点が100℃未満の高揮発性有機溶媒である)、増粘剤、凍結防止剤、防汚剤、柔軟剤、防炎剤、難燃剤、防虫剤、帯電防止剤、UVカット剤等があげられる。
【0117】
上記有機溶媒(高揮発性有機溶媒)としては、例えば、沸点が100℃未満のアルコール類等があげられる。これらは、水に対する難溶性成分を可溶化させるために用いられるが、最終製品からは揮発して残留することがない。
【0118】
さらに、上記増粘剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、酢酸デンプン等があげられ、上記凍結防止剤としては、グリセリン、酢酸カリウム等があげられる。
【0119】
このようにして得られる本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物は、塩析剤(B)による効果、あるいは上記塩析剤(B)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)との相乗効果によって、繊維表面の抗菌・抗かび剤(A)に対する親和性が向上し、あるいは繊維内への浸透性が促進され、もしくは、繊維の非結晶領域の鎖状分子の運動が高まって空隙が広げることで、抗菌・抗かび剤(A)の浸透が、効率よく行われ、従来では得ることのできなかった高い利用効率が達成されている。しかも、上記抗菌・抗かび剤(A)が繊維内にしっかりと浸透固定されているため、繰り返しの洗濯によっても抗菌・抗かび剤(A)が脱落しにくい。したがって、この抗菌・抗かび性繊維構造物によれば、長期にわたって良好に抗菌・抗かび性を発揮することができる。
【0120】
本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物における抗菌・抗かび剤(A)の含有量は、繊維構造物の形態や処理温度にもよるが、実用的な抗菌・抗かび性能を得るには、製品として仕上げられた段階、すなわち未使用の状態で、通常、繊維構造物全量に対し200~20000mg/kgであることが好ましく、なかでも、400~4000mg/kgであることがより好適である。
【0121】
また、上記抗菌・抗かび剤(A)とともに用いられる塩析剤(B)の含有量は、繊維構造物の形態や処理温度にもよるが、製品として仕上げられた段階、すなわち未使用の状態で、通常、繊維構造物全量に対し1~10000mg/kgであることが好ましく、なかでも、1~1000mg/kgであることがより好適であり、1~100mg/kgであることがさらに好適である。
【0122】
また、上記抗菌・抗かび剤(A)とともに用いることのできる抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)の含有量は、繊維構造物の形態や処理温度にもよるが、製品として仕上げられた段階、すなわち未使用の状態で、通常、繊維構造物全量に対し1~500mg/kgであることが好ましい。そして、第1群(c1)の化合物が用いられる場合、その含有量は、繊維構造物全量に対し、1~100mg/kgであることが好適であり、1~50mg/kgであることがより好適である。また、第2群(c2)および第3群(c3)の化合物が用いられる場合、その含有量は、繊維構造物全量に対し、ともに10~500mg/kgであることが好適であり、10~100mg/kgであることがさらに好適である。
【0123】
このように、同じ抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)であっても、第1群(c1)と、第2群(c2)および第3群(c3)とで好適な含有量に差があるのは、第1群(c1)の化合物が、主に繊維外で働き、繊維内では抗菌・抗かび剤(A)の先導として出入りすることから繊維内には比較的低濃度で活性を示すのに対し、第2群(c2)および第3群(c3)の化合物は、繊維内に入ることで繊維の運動性および膨張に寄与するため、比較的高濃度で繊維内に固定されやすいことによるものである。
【実施例
【0124】
つぎに、本発明の実施例を、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0125】
まず、抗菌・抗かび剤(A)としてピリチオン亜鉛を準備し、以下に示すようにして、抗菌・抗かび剤(A)のみが分散含有された加工用準備液X(水性懸濁液)を調製した。また、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)のみを含有した加工用準備液Y(水溶液または乳化液)を、以下に示すようにして調製した。そして、上記加工用準備液Xおよび加工用準備液Yを水によって適宜希釈し、ピリチオン亜鉛を繊維に浸透固定させるための加工液として用いた。
【0126】
<加工用準備液Xの調製>
ピリチオン亜鉛(ロンザジャパン社製、粉末状態、粒径ほぼ0.025mm、「ZPT」と略す場合がある)を20重量部、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(分散剤)を3重量部、ポリアクリル酸ナトリウム(増粘剤)を0.5重量部、グリセリン(凍結防止剤)を2重量部、水を74.5重量部用意し、ボールミル(ガラス製ボール使用)に仕込み、粉砕を行った。粉砕開始時点の液のpHは6.5であったが、12時間粉砕した後のpHは10.5となった。この時点で、pHを調節するため酢酸を添加し、pHを8.0に調節して、加工用準備液Xを得た。得られた加工用準備液X中のピリチオン亜鉛の平均粒径は0.4μmで、2μm以上の粒径のピリチオン亜鉛は、全ピリチオン亜鉛に対し0.5重量%であった。また、上記加工用準備液X中のピリチオン亜鉛濃度は20重量%であり、均一な分散状態を示した。この加工用準備液Xの一部を1リットルの容器に移し、24時間放置したが、極端な分離は認められなかった。
【0127】
<加工用準備液Yの調製>
以下に示す塩析剤(B)を、後記の表1~表10に示す組成となるように配合した。また、同様にして、以下に示す抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)を、後記の表1~表10に示す組成となるように配合し、水に対して希釈可能な加工用準備液Yを調製した。
【0128】
そして、上記加工用準備液X、Yを用いて、後記の表1~表10に示す組成の処理加工液を調製した。上記処理加工液に含有される各成分、加工の対象とする繊維構造物(生地)を構成する繊維は、以下に示すとおりである。
【0129】
<塩析剤(B)>
無機塩1:硫酸ナトリウム
【0130】
<抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)>
第1群(c1)
界面活性剤1:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(EO付加モル11 HLB12.8)、商品名 ブラウノンSR-711(青木油脂工業社製)
界面活性剤2:ポリオキシエチレンアルキルフェノール(EO付加モル10 HLB13.6)、商品名 ブラウノンNK-810(青木油脂工業社製)
界面活性剤3:ポリオキシエチレンアルキルアミンル(EO付加モル2 HLB5.1
)、商品名ブラウノンS-202(青木油脂工業社製)
界面活性剤4:多価アルコール脂肪酸エステル(HLB4.3)、商品名 ブラウノンP-80(青木油脂工業社製)
第2群(c2)
有機溶媒1:1-メチル-2-ピロリドン(富士フィルム和光純薬社製)
第3群(c3)
芳香族系化合物1:サリチル酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)
芳香族系化合物2:ベンジルアルコール(富士フィルム和光純薬社製)
芳香族系化合物3:2-フェノキシエタノール(富士フィルム和光純薬社製)
芳香族系化合物4:ビフェニル(富士フィルム和光純薬社製)
芳香族系化合物5:1-ナフトール(富士フィルム和光純薬社製)
芳香族系化合物6:ヒドロキシベンゾフェノン(富士フィルム和光純薬社製)
芳香族系化合物7:サリチル酸ベンジル(東京化成工業社製)
芳香族系化合物8:サリチル酸フェニル(東京化成工業社製)
芳香族系化合物9:安息香酸フェニル(東京化成工業社製)
芳香族系化合物10:o-フェニルフェノール(東京化成工業社製)
芳香族系化合物11:1-メチルナフタレン(東京化成工業社製)
芳香族系化合物12:ベンゾフェノン(富士フィルム和光純薬社製)
芳香族系化合物13:2,6-ジフェニルフェノール(富士フィルム和光純薬社製)
【0131】
<加工対象である繊維構造物の繊維>
繊維1:ポリエステル繊維
【0132】
そして、このようにして準備した加工液と繊維構造物(上記繊維1からなる生地)を用い、下記の加工法を適用することにより、目的とする抗菌・抗かび性繊維構造物を得た。
【0133】
<加工法>
密封容器として、染色機(辻井染機社製、MCD-306-2EPT)を用い、染色機の処理槽内に加工液と合成繊維構造物(生地)を投入して(浴比1:10~1:400)、後記の表1~表10に示す条件で加圧加熱処理を施した後、容器から取り出して繊維表面の余分な成分を除去するため洗濯機でオーバーフロー5分間水洗後、一晩風乾することにより、目的とする抗菌・抗かび性繊維構造物を得た。
【0134】
そして、上記加工処理によって得られた実施例品、比較例品に対し、以下の項目について、各項目に述べる手順に従って分析、評価を行った。
【0135】
<抗菌・抗かび剤(A)の含有量の分析>
得られた処理品(実施例品、比較例品、以下同じ)0.1gを灰化した後、塩酸にて亜鉛を抽出し、原子吸光法により、繊維中のピリチオン亜鉛に由来する亜鉛の量を測定した。この亜鉛の量から、ピリチオン亜鉛含有量を算出した。
【0136】
<抗菌性1、2の評価>
JIS L1902に準拠する方法に従い、抗菌性1の評価では、試験菌種として「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」を用い、抗菌性2の評価では、試験菌種として「肺炎かん菌(Klebsiella pneumoniae)」を用いて評価した。すなわち、まず、標準布(抗菌活性を示さない綿布)および得られた処理繊維生地のそれぞれに接種し、37℃で18~24時間培養後に各生地の生菌数を測定した。得られた各生菌数から以下に示す計算で抗菌活性値を算出した。
【0137】
抗菌活性値=(LogCt-LogCo)-(LogTt-LogTo)
標準布の増殖値=(LogCt-LogCo)
LogCo:標準布の試験菌接種直後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogCt:標準布の18時間培養後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogTo:処理繊維生地の試験菌接種直後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogTt:処理繊維生地の18時間培養後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
【0138】
そして、上記抗菌活性値が「標準布の増殖値」以上の場合を「○(非常に有効)」、同じく抗菌活性値が「標準布の増殖値」未満で「2.2」以上のものを「△(有効)」、同じく抗菌活性値が「2.2」未満のものを「×(無効)」とした。この評価方法は、一般財団法人繊維評価技術協議会の「SEKマーク繊維製品認証基準」に準じた。そして、後述の洗濯方法に従って洗濯した処理品(洗濯後)についても、同様にして抗菌性1、2を評価した。
【0139】
<抗かび性の評価>
JIS L1921に準拠する方法に従い、試験菌種として「白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)」を用い、菌体内に含まれるATP量の測定によって評価した。すなわち、まず、上記試験菌種の胞子が懸濁した液体培地を、得られた処理品に接種して25℃で42時間培養した。そして、培養後のATP量を測定し、未処理綿繊維の同様の試験値(ATP量)との対比を抗かび活性値として、その抗かび活性値が未処理綿繊維の増殖値の1000分の1を表す「3」以上減少している場合を「○(非常に有効)」、同じく未処理綿繊維の増殖値の100分の1を表す「2」以上、「3」未満の減少の場合を「△(有効)」とした。また、上記抗かび活性値が「2未満」である場合を「×(無効)」とした。そして、抗菌性1、2の評価と同様、洗濯した処理品(洗濯後)についても、同様にして抗かび性を評価した。
【0140】
<洗濯方法>
(一般社団法人)繊維評価技術協議会が規定する「SEKマーク繊維製品の洗濯方法(高温加速洗濯)」に準拠する方法により、洗濯50回を実施した。
【0141】
<抗菌・抗かび剤(A)の利用効率(%)>
上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量の分析により得られたピリチオン亜鉛含有量(mg/kg)から加工生地全体のピリチオン亜鉛含有量を算出し、つぎに加工液に配合した全ピリチオン亜鉛量で割ることで利用効率を得た。例えば、1gの加工布から0.6mgのピリチオン亜鉛が検出された場合、全加工布(10kg)のピリチオン亜鉛量は6gとなる。加工液100kgに20gのピリチオン亜鉛を配合していた場合の利用効率は、6g/20g×100(%)であり、30%となる。なお、加工液中のピリチオン亜鉛量は、滴定でも測定できる。すなわち加工液に塩酸を加えてピリチオン亜鉛を溶解し、でんぷんを加え、沃素溶液を用いて滴定することによって、滴定量からピリチオン亜鉛量を測定してもよい。
【0142】
[実施例1~4、比較例1]
下記の表1に示す加工条件で、繊維構造物(繊維1からなる生地)に対する加工を行うことにより、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例1~4品、比較例1品について、前述のとおり分析、評価を行い、それらの結果を、下記の表1に併せて示す。
【0143】
【表1】
【0144】
上記の結果から、実施例1~4品は、いずれも洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性が付与されていることがわかる。特に、塩析剤(B)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)を組み合わせた実施例4品は、実施例1品との対比でわかるように、塩析剤(B)の含有量が少なくても利用効率が向上しており、より効率よく無駄なく優れた抗菌・抗かび性の付与が行われていることがわかる。一方、比較例1品は、抗菌・抗かび性は付与されているものの、利用効率が低く、環境面でもコスト面でも問題を有していることがわかる。
【0145】
[実施例5~36、比較例2~7]
下記の表2~表10に示す加工条件で、繊維構造物(繊維1からなる生地)に対する加工を行うことにより、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例5~36品、比較例2~7品について、前述のとおり分析、評価を行い、それらの結果を、下記の表2~表10に併せて示す。
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
【表5】
【0150】
【表6】
【0151】
【表7】
【0152】
【表8】
【0153】
【表9】
【0154】
【表10】
【0155】
上記の結果から、同一の加工条件において、塩析剤(B)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(C)を組み合わせて用いたものは、これらを用いなかったものに比べて、ピリチオン亜鉛の利用効率が向上しており、より効率よく無駄なく優れた抗菌・抗かび性の付与が行われていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、高い利用効率で抗菌・抗かび剤による抗菌・抗かび性が付与されており、その抗菌・抗かび性が洗濯耐久性に優れている合成繊維からなる繊維構造物に利用することができる。
図1
図2