IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 因幡電機産業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-袋入り耐火措置材 図1
  • 特許-袋入り耐火措置材 図2
  • 特許-袋入り耐火措置材 図3
  • 特許-袋入り耐火措置材 図4
  • 特許-袋入り耐火措置材 図5
  • 特許-袋入り耐火措置材 図6
  • 特許-袋入り耐火措置材 図7
  • 特許-袋入り耐火措置材 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】袋入り耐火措置材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20240729BHJP
   A62C 3/16 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
E04B1/94 A
E04B1/94 F
E04B1/94 T
A62C3/16 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020163731
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055984
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】龍田 佳招
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-070199(JP,A)
【文献】特開2005-073357(JP,A)
【文献】特開2015-057560(JP,A)
【文献】特開2011-074969(JP,A)
【文献】特開2016-195475(JP,A)
【文献】特開平7-276552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
A62C 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の区画体に形成された貫通孔と前記貫通孔に挿通される長尺体との間の隙間空間に配置される袋入り耐火措置材であって、
柔軟性を有する袋体と、
前記袋体の内部に封入されたペースト状の第一熱膨張性耐火材と、
前記第一熱膨張性耐火材と共に前記袋体の内部に封入された、前記第一熱膨張性耐火材よりも稠度及び膨張開始温度が低い、ペースト状の第二熱膨張性耐火材と、
を備える袋入り耐火措置材。
【請求項2】
前記第一熱膨張性耐火材の稠度が300以上であり、前記第二熱膨張性耐火材の稠度が100~300である請求項1に記載の袋入り耐火措置材。
【請求項3】
前記第一熱膨張性耐火材の膨張開始温度と前記第二熱膨張性耐火材の膨張開始温度との差が20℃以上である請求項1又は2に記載の袋入り耐火措置材。
【請求項4】
前記第一熱膨張性耐火材の容積が、前記第二熱膨張性耐火材の容積の2倍~10倍である請求項1から3のいずれか一項に記載の袋入り耐火措置材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袋入り耐火措置材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築物の内部空間は壁・床・天井等の区画体によって複数の室空間に区画されている。これら複数の室空間に亘って例えば配管やケーブル等の長尺体を配設するため、区画体に貫通孔を形成して当該貫通孔に長尺体を挿通させる場合がある。この場合、その貫通孔と長尺体との間の隙間空間を埋めて閉塞する等の後処理が必要となる。例えば、ある室空間において火災が発生した場合における延焼を防止するためには、貫通孔と長尺体との間の隙間空間に防火措置を施す必要がある。
【0003】
例えば特開2005-73357号公報(特許文献1)には、袋体(袋14)とそれに内包されたペースト状の熱膨張性耐火材(ペースト状耐火材12)とを含む袋入り耐火措置材(防火処理用パッド10)を用いた防火措置構造が開示されている。袋入り耐火措置材は、区画体の貫通孔に設置された支持部材(受け金具22)の開口側で、長尺体の周囲に巻き付けられて、その後、貫通孔(支持部材)に押し込まれる。そして、袋入り耐火部材は、支持部材に支持された状態で貫通孔の内面と長尺体の外面との間に生じる隙間空間を埋める。
【0004】
しかし、特許文献1の袋入り耐火措置材は、火災発生時の熱で袋体が溶融した際、ペースト状の熱膨張性耐火材が熱膨張する前に流れ出てしまう可能性があった。熱膨張性耐火材の流出は、耐火性能の不安定化につながるため好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-73357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
施工性が良く、安定した耐火性能を発揮することができる袋入り耐火措置材の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る袋入り耐火措置材は、
建築物の区画体に形成された貫通孔と前記貫通孔に挿通される長尺体との間の隙間空間に配置される袋入り耐火措置材であって、
柔軟性を有する袋体と、
前記袋体の内部に封入されたペースト状の第一熱膨張性耐火材と、
前記第一熱膨張性耐火材と共に前記袋体の内部に封入された、前記第一熱膨張性耐火材よりも稠度及び膨張開始温度が低い、ペースト状の第二熱膨張性耐火材と、
を備える。
【0008】
この構成によれば、いずれもペースト状である第一熱膨張性耐火材及び第二熱膨張性耐火材が柔軟性を有する袋体に封入されているので、袋入り耐火措置材を変形自在とすることができる。このような袋入り耐火措置材を用いて、施工性良く、貫通孔と長尺体との間の隙間空間を閉塞することができる。火災発生時には、第二熱膨張性耐火材が第一熱膨張性耐火材よりも早く熱膨張を開始することになるが、その第二熱膨張性耐火材は相対的に低稠度であるので、仮に流れ出るにしても流出量が少なく抑えられる。そして、熱膨張後の第二熱膨張性耐火材は、遅れて熱膨張する相対的に高稠度の第一熱膨張性耐火材を堰き止めてその流出を抑制する。その結果、いずれもペースト状である第一熱膨張性耐火材及び第二熱膨張性耐火材の両方の流出が少なく抑えられるので、安定した耐火性能を発揮させることができる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0010】
一態様として、
前記第一熱膨張性耐火材の稠度が300以上であり、前記第二熱膨張性耐火材の稠度が100~300であることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、主に稠度が300以上の高稠度の第一熱膨張性耐火材が収容された部分で、複数の長尺体どうしの間に凹部が形成される場合に、当該凹部にも形状追従して密着し、隙間空間の全体を適切に閉塞することができる。また、稠度が100~300の相対的に低稠度の第二熱膨張性耐火材が収容された部分で、火災発生時に第一熱膨張性耐火材の流出を抑制することができる。
【0012】
一態様として、
前記第二熱膨張性耐火材の稠度が100~200であることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、第一熱膨張性耐火材と第二熱膨張性耐火材との稠度の差が大きくなる(具体的には、100以上となる)ので、袋体内で、これらが界面において混ざり合いにくい。よって、第一熱膨張性耐火材及び第二熱膨張性耐火材がそれぞれの役割を適切に果たすことができる。特に第二熱膨張性耐火材は、稠度が200以下と、より低稠度であるので、自身の流出をより少なく抑えることができ、ひいては第一熱膨張性耐火材の流出をもより少なく抑えることができる。
【0014】
一態様として、
前記第一熱膨張性耐火材の膨張開始温度と前記第二熱膨張性耐火材の膨張開始温度との差が20℃以上であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、より確実に第二熱膨張性耐火材を第一熱膨張性耐火材よりも早く熱膨張させることができる。よって、第一熱膨張性耐火材の流出をより確実に少なく抑えることができる。
【0016】
一態様として、
前記第一熱膨張性耐火材の容積が、前記第二熱膨張性耐火材の容積の2倍~10倍であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、相対的に高稠度の第一熱膨張性耐火材の量が第二熱膨張性耐火材の量に比べて十分に多くなるので、複数の長尺体どうしの間に凹部が形成される場合に、当該凹部を含む隙間空間の全体をより適切に閉塞することができる。
【0018】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る防火措置構造の破断斜視図
図2】実施形態の袋入り耐火措置材の平面図
図3】袋入り耐火措置材の断面図
図4】防火措置ユニットの斜視図
図5】防火措置構造の施工手順の一局面を示す斜視図
図6】防火措置構造の施工手順の一局面を示す斜視図
図7】防火措置構造の縦断面図
図8】防火措置構造の横断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
袋入り耐火措置材の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態では、袋入り耐火措置材1を、延焼防止を目的とする防火措置ユニット100及びそれを用いた防火措置構造に適用した例について説明する。袋入り耐火措置材1は、防火措置ユニット100と共に建築物の区画体6に形成された貫通孔6Hに挿入され、当該貫通孔6Hとそれに挿通される複数の長尺体7との間の隙間空間Sに配置される。
【0021】
本実施形態では、防火措置構造が適用される区画体6は、建築物内の空間を複数の室空間に区画する耐火性及び防火性の構造体である。本実施形態の区画体6は、図1に示すように複数の室空間を鉛直方向に区画する床(又は天井)である。区画体6は、例えば鉄筋コンクリート造(RC)や軽量気泡コンクリート造(ALC)等の中実壁であっても良いし、石膏ボード等の中空壁であっても良い。もちろん、これら以外の構造を有するものを区画体6として用いても良い。
【0022】
区画体6には、当該区画体6をその厚み方向(図示の例では鉛直方向)に貫通する貫通孔6Hが形成されている。本実施形態では、円形状の貫通孔6Hが形成されている。但し、そのような構成に限定されることなく、貫通孔6Hの具体的形状は、例えば楕円状や多角形状、その他の各種形状であって良い。
【0023】
区画体6の貫通孔6Hには、長尺体7が挿通されている。長尺体7は、例えば線状体、管状体、及び帯状体等の、一方向に延びる長尺状の構造を有するものである。このような長尺体7としては、例えば空調装置用の配管・配線類を例示することができる。本実施形態では、長尺体7は、冷媒循環用の配管部材71とドレイン水排出用のドレイン管72と給電用の電気ケーブル73とを含む。
【0024】
配管部材71は、内部を冷媒が流通する流体管71Aと、その流体管71Aの周囲を被覆する被覆材71Bとを有する。流体管71Aは例えば金属製の管状部材であり、被覆材71Bは流体管71Aに外装された例えば合成樹脂製の断熱材である。ドレイン管72は例えば合成樹脂製の管状部材である。電気ケーブル73は、例えば導体線の周囲に絶縁被覆材が設けられて構成される。本実施形態では、複数の長尺体7は、束となって貫通孔6Hに挿通されている。束となった複数の長尺体7は、貫通孔6H内において、互いに外面どうしが接する状態で密集して配置されている。そして、互いに隣り合う長尺体7のそれぞれの外面に亘って、V字状の凹部である谷間空間Vが形成されている(図7も参照)。
【0025】
貫通孔6Hと複数の長尺体7との間の隙間空間Sに、防火措置構造が設けられている。隙間空間Sは、貫通孔6Hの内面と複数の長尺体7のそれぞれの外面との間の径方向の隙間に広がる空間である。本実施形態の防火措置構造は、主に、貫通孔6Hに配置される袋入り耐火措置材1を用いて実現されている。より具体的には、防火措置構造は、袋入り耐火措置材1と、この袋入り耐火措置材1を支持するとともに貫通孔6Hに挿入されるスリーブ部材8とを備える防火措置ユニット100を用いて実現されている。
【0026】
袋入り耐火措置材1は、火災発生時に貫通孔6Hと長尺体7との間の隙間空間Sを閉塞して延焼を防止するための部材である。図2及び図3に示すように、袋入り耐火措置材1は、袋体12と、ペースト状の第一熱膨張性耐火材14と、ペースト状の第二熱膨張性耐火材16とを備えている。
【0027】
袋体12は、柔軟性を有する。袋体12は、例えば樹脂製のフィルム材(例えばポリエチレンフィルムやナイロンフィルム等のプラスチックフィルム)等で形成することができる。袋体12は、例えば2枚の矩形状(一対の長辺と一対の短辺とを有する長方形状)のフィルム材を重ね合わせて、その四方の周縁部を熱融着によって封止して形成することができる。袋体12は、その周縁部に沿う封止部12Aを有し、袋体12の内部には、封止部12Aによって密封された空間として、収容空間Pが形成されている。
【0028】
第一熱膨張性耐火材14は、袋体12の内部に封入されている。第一熱膨張性耐火材14は、袋体12の内部に形成された収容空間Pに収容されている。第一熱膨張性耐火材14は、熱膨張性(加熱により体積が増加する性質)と耐火性(火熱に耐えやすい性質、溶融温度が高く燃えにくい性質)とを有する。第一熱膨張性耐火材14としては、公知の材質のものを特に制限なく用いることができ、例えばパテ状部材(熱膨張性パテ状耐火材)を用いることができる。但し、本実施形態の第一熱膨張性耐火材14は、可塑剤(水性の場合は水、油性の場合は油)の含有量が通常よりも多く、全体としてペースト状となっている。
【0029】
このペースト状の第一熱膨張性耐火材14は、公知のパテ状耐火材に比べて遥かに柔らかい。従来のパテ状耐火材は稠度が50~80程度であるのに対して、本実施形態のペースト状の第一熱膨張性耐火材14は、その稠度が例えば300以上である。第一熱膨張性耐火材14の稠度は、例えば300~400程度が好ましく、320~380程度がさらに好ましい。
【0030】
第二熱膨張性耐火材16も、第一熱膨張性耐火材14と共に袋体12の内部に封入されている。第二熱膨張性耐火材16は、第一熱膨張性耐火材14と共に、袋体12の内部に形成された収容空間Pに収容されている。第二熱膨張性耐火材16も、熱膨張性と耐火性とを有する。第二熱膨張性耐火材16としても、公知の材質のものを特に制限なく用いることができ、例えばパテ状部材(熱膨張性パテ状耐火材)を用いることができる。但し、本実施形態の第二熱膨張性耐火材16は、第一熱膨張性耐火材14と同様、可塑剤(水性の場合は水、油性の場合は油)の含有量が通常よりも多く、全体としてペースト状となっている。
【0031】
このペースト状の第二熱膨張性耐火材16は、第一熱膨張性耐火材14ほどは柔らかくないものの、公知のパテ状耐火材に比べると十分に柔らかい。すなわち、第二熱膨張性耐火材16として、第一熱膨張性耐火材14よりも低稠度の熱膨張性耐火材が用いられている。本実施形態のペースト状の第二熱膨張性耐火材16は、その稠度が例えば100~300である。第二熱膨張性耐火材16の稠度は、例えば100~250程度が好ましく、100~200程度がさらに好ましい。
【0032】
なお、第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16の稠度は、それらの差が100以上となるように設定されていることが好ましい。稠度の差が大きいと、本実施形態のように第一熱膨張性耐火材14と第二熱膨張性耐火材16とが袋体12の内部の収容空間Pにまとめて封入される場合でも、それらが界面で混ざり合いにくいというメリットがある。
【0033】
このように、いずれも柔らかい第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16を柔軟性のある袋体12に封入して用いることで、袋入り耐火措置材1は、自由に変形させることが可能となっている。そして、袋入り耐火措置材1を変形させることで、互いに隣り合う長尺体7のそれぞれの外面に亘る谷間空間Vも含め、貫通孔6Hと複数の長尺体7との間の隙間空間Sを容易に埋めることができる。特に、高稠度(好ましくは稠度300以上)の第一熱膨張性耐火材14が収容された部分で、それぞれの長尺体7の外面に良好に密着して、隙間空間Sの全体を適切に閉塞することができる。
【0034】
なお、本明細書において、「稠度」は、JIS K2235 5.4.2(1)に規定される針入度計を用いて、JIS K2220 5.3(ちょう度試験方法)に規定されるちょう度計における針及びおもりを円錐に置き換えて測定するものとする。より具体的には、試料中に上記の円錐を垂直に5秒間進入させ、円錐が進入した深さを0.1mm単位で測定し、これを10倍した値(無名数)を「稠度」とする。ここで、円錐はJIS K2235 5.10.2(2)図9に示される形状・寸法のもので、その質量は102.5±0.05gとし、円錐を支える保持具はJIS K2235 5.4.2(3)に規定されるもので、その質量は47.5±0.05gとする。
【0035】
袋体12にまとめて封入される第一熱膨張性耐火材14と第二熱膨張性耐火材16とのそれぞれの容積は、特に限定されないが、少なくとも第一熱膨張性耐火材14の方が大きいことが好ましい。第二熱膨張性耐火材16よりも高稠度の第一熱膨張性耐火材14の容積を大きくすることで、袋入り耐火措置材1をより変形しやすくすることができ、谷間空間Vをより適切に埋めることができる。第一熱膨張性耐火材14の容積が相対的に大きくなるに従ってその傾向は大きくなるが、第二熱膨張性耐火材16も所定量以上の容積が確保されていることが好ましい。第一熱膨張性耐火材14の容積は、第二熱膨張性耐火材16の容積の2倍~10倍であることが好ましく、3~6倍であることがより好ましい。
【0036】
第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16は、例えば火災発生時に火炎の熱等で加熱された際に膨張する。第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16の熱膨張率は、いずれも、例えば2倍~40倍程度であって良い。
【0037】
第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16の膨張開始温度に関しては、少なくとも、第二熱膨張性耐火材16の膨張開始温度が第一熱膨張性耐火材14の膨張開始温度よりも低い。第二熱膨張性耐火材16の膨張開始温度は、第一熱膨張性耐火材14の膨張開始温度よりも20℃以上低いことが好ましく、30℃以上低いことがさらに好ましい。なお、第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16の膨張開始温度は、それぞれの材質及び組成を変更することによって調整することができる。第一熱膨張性耐火材14の膨張開始温度は、180℃~280℃であることが好ましく、200℃~250℃がより好ましい。また、第二熱膨張性耐火材16の膨張開始温度は、170℃~220℃であることが好ましく、150℃~200℃がより好ましい。
【0038】
このように、本実施形態の袋入り耐火措置材1では、ペースト状の第一熱膨張性耐火材14と、この第一熱膨張性耐火材14よりも稠度及び膨張開始温度が低いペースト状の第二熱膨張性耐火材16とが、まとめて袋体12の内部に封入されている。なお、このような袋入り耐火措置材1は、3辺が封止された袋体12の非封止の部分から2本のノズルを挿入し、これらから第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16をそれぞれ注入し、その後、ノズルを挿入していた開口部分を封止して得ることができる。
【0039】
スリーブ部材8は、区画体6の貫通孔6Hに挿入されるとともに、袋入り耐火措置材1を支持するための部材である。図4に示すように、スリーブ部材8は、本体部81と、この本体部81の上端部に設けられた鍔部82とを含む。本実施形態では、本体部81は、全体として円筒状を呈するC字状に湾曲した湾曲板状部として形成されている。鍔部82は、本体部81から外側に向かって延びる状態で、本体部81と一体的に形成されている。鍔部82は、全周に亘って設けられている。なお、スリーブ部材8は、例えば樹脂製とすることができる。
【0040】
スリーブ部材8と袋入り耐火措置材1とは、スリーブ部材8の下端部で一体化されている。本実施形態では、袋入り耐火措置材1は、第二熱膨張性耐火材16が封入されている側の封止部12Aで、スリーブ部材8と一体化されている。また、袋入り耐火措置材1は、スリーブ部材8の本体部81の内面に沿う状態で一体化されている。スリーブ部材8と袋入り耐火措置材1とを一体化するための一体化手段としては、特に限定されない。当該一体化手段として、例えば接着剤(接着層)、熱融着、クリップ部材、フック部材、及びハトメ部材等を利用することができる。
【0041】
以下、本実施形態の防火措置ユニット100を用いて実現される防火措置構造の施工手順について説明する。まず、図5に示すように、建築物の区画体6に形成された貫通孔6Hに複数の長尺体7の束が配置された状態で、貫通孔6Hの外側で、一束の長尺体7の周囲を取り囲むようにスリーブ部材8を配置する。このとき、C字状のスリーブ部材8の端部どうしを互いに離間させて拡開させた状態で、一束の長尺体7の周囲にスリーブ部材8を配置し、その後、端部どうしを再度近付けることによって略円筒状とする。また、袋入り耐火措置材1を、スリーブ部材8の内側で、同じく略円筒状とする。
【0042】
その状態で、貫通孔6Hと長尺体7との間の隙間空間Sに、袋入り耐火措置材1が一体化されたスリーブ部材8を、長尺体7の長手方向に沿って挿入する。このとき、スリーブ部材8と袋入り耐火措置材1とがスリーブ部材8の下端部で一体化されており、この一体化された下端部からこれらが挿入されるので、本実施形態のように袋入り耐火措置材1が柔らかい場合であっても、容易に奥まで挿入することができる。
【0043】
スリーブ部材8は、鍔部82が区画体6の表面に当接するまで挿入される。この状態で、図6に示すように、袋入り耐火措置材1におけるスリーブ部材8とは一体化されていない方の上端部を、貫通孔6Hの内部(スリーブ部材8の内部)へと押し込む。この押込操作により、図7に示すように、袋入り耐火措置材1はその全体が奥まで押し込まれ、隙間空間Sにおいて長尺体7の周囲を取り囲むように配置される。
【0044】
このとき、袋入り耐火措置材1の内部で、下方側(挿入方向の奥側)に第二熱膨張性耐火材16が層をなして配置され、上方側(手前側)に第一熱膨張性耐火材14が層をなして配置される状態となる。また、図8に示すように、互いに隣り合う長尺体7のそれぞれの外面に亘る谷間空間Vにも、第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16が配置される状態となる(図8は、第一熱膨張性耐火材14が配置されている位置のもの)。よって、複数の谷間空間Vも含めて貫通孔6Hと長尺体7との間の隙間空間Sを十分に埋めることができる。
【0045】
建築物において火災が発生すると、火炎の熱によって周囲温度が上昇し、長尺体7を構成する被覆材71Bが溶融・燃焼し、貫通孔6Hと長尺体7との間の隙間空間Sがさらに拡大する可能性がある。この場合であっても、周囲温度の上昇に応じて袋入り耐火措置材1に内包された第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16が熱膨張して、被覆材71Bの溶融・燃焼によって生じる空間を埋める(言い換えれば、隙間容積の増加分を補填する)ことができる。よって、簡単な施工で十分な耐火性能をもたらす防火措置構造を実現することができる。
【0046】
このとき、下側に層をなして配置されている第二熱膨張性耐火材16は、第一熱膨張性耐火材14よりも膨張開始温度が低いので、先に熱膨張し始める。この先に熱膨張する第二熱膨張性耐火材16は、第一熱膨張性耐火材14よりも稠度が低いので、仮に流れ落ちるにしても流出量が少なく抑えられる。そして、熱膨張後の第二熱膨張性耐火材16は、遅れて熱膨張する高稠度の第一熱膨張性耐火材14を、下方から堰き止めてその流出を抑制する。よって、仮に第一熱膨張性耐火材14が流れ落ちるにしても、その流出量を少なく抑えることができる。その結果、いずれもペースト状である第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16の両方の流出を少なく抑えることができ、安定した耐火性能を発揮させることができる。
【0047】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、2枚のフィルム材を重ね合わせて四方を熱融着によって封止して袋体12を形成する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば1枚のフィルム材を2つ折にして重ね合わせ、四方又は折り目部分を除く三方を熱融着して袋体12を形成しても良い。
【0048】
(2)上記の実施形態では、第一熱膨張性耐火材14の稠度が300以上で、第二熱膨張性耐火材16の稠度が300以下である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16の両方の稠度が稠度300以下であっても良い。この場合、例えば第一熱膨張性耐火材14の稠度が200~300程度であり、第二熱膨張性耐火材16の稠度が100~200程度であっても良い。
【0049】
(3)上記の実施形態では、袋体12の内部にペースト状の第一熱膨張性耐火材14及びペースト状の第二熱膨張性耐火材16のみが封入されている構成を主に想定して説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、袋入り耐火措置材1として、袋体12の内部に、第一熱膨張性耐火材14及び第二熱膨張性耐火材16に加え、非ペースト状の充填材(例えば無機繊維や無機球体等)を封入したものを用いても良い。
【0050】
(4)上記の実施形態では、スリーブ部材8と袋入り耐火措置材1とが一体化されている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、スリーブ部材8と袋入り耐火措置材1とが別体とされ、これらが別々に貫通孔6Hに挿入されても良い。このような場合には、柔らかい袋入り耐火措置材1を容易に挿入することができるように、例えば金属製シート材等で形成された保形部材が袋体12に一体化されていても良い。
【0051】
(5)上記の実施形態で説明した、貫通孔6H内で袋入り耐火措置材1を支持するためのスリーブ部材8の具体的構成は任意である。例えば本体部81は、より間口の大きい略C型の筒状に形成されても良い。また、本体部81が、貫通部を有していても良い。また、鍔部82が、複数に分かれて断続的に設けられても良い。また、本体部81におけるスリーブ部材8と袋入り耐火措置材1とが一体化されている方の端部(下端部)に、本体部81から内側に向かって突出し、袋入り耐火措置材1を下方からする支持片部が設けられても良い。
【0052】
(6)上記の実施形態では、袋入り耐火措置材1を、貫通孔6Hの内部で樹脂製のスリーブ部材8で支持する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、スリーブ部材8に代えて、例えば金属製の線材で形成された支持部材によって、貫通孔6Hの内部で袋入り耐火措置材1を支持しても良い。この場合、当該支持部材は、バックアップ材を介して袋入り耐火措置材1を支持しても良い。
【0053】
(7)上記の実施形態では、貫通孔6Hの内部で、第二熱膨張性耐火材16と第一熱膨張性耐火材14とが長尺体7の長手方向(軸方向)に沿って二層に分かれて配置される構成を主に想定して説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば第二熱膨張性耐火材16と第一熱膨張性耐火材14とが、貫通孔6Hの内部で長尺体7の長手方向に直交する方向(径方向)に沿って二層に分かれて配置されても良い。この場合において、第一熱膨張性耐火材14が径方向内側(長尺体7側)に配置され、第二熱膨張性耐火材16が径方向外側(区画体6側)に配置されても良いし、或いはその逆配置であっても良い。
【0054】
(8)上記の実施形態では、複数の室空間を鉛直方向に区画する床(又は天井)に形成された貫通孔6Hに長尺体7が鉛直方向に挿通される部位での防火措置に本発明を適用した例について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば複数の室空間を水平方向に区画する壁部に形成された貫通孔6Hに長尺体7が水平方向に挿通される部位での防火措置にも、本発明を適用することができる。
【0055】
(9)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 袋入り耐火措置材
6 区画体
6H 貫通孔
7 長尺体
12 袋体
14 第一熱膨張性耐火材
16 第二熱膨張性耐火材
S 隙間空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8