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特許7527920キサンテン系色素、染料組成物、陽極酸化アルミニウム用着色剤および着色方法、ならびに該色素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】キサンテン系色素、染料組成物、陽極酸化アルミニウム用着色剤および着色方法、ならびに該色素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 11/28 20060101AFI20240729BHJP
   C09B 67/24 20060101ALI20240729BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C09B11/28 E
C09B67/24 A
C25D11/18 305
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020165788
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2021055095
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2019178469
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】村上 智耶
(72)【発明者】
【氏名】永山 力丸
(72)【発明者】
【氏名】関根 和彦
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/064988(WO,A1)
【文献】特開昭51-087534(JP,A)
【文献】特開昭60-199079(JP,A)
【文献】特表2013-506053(JP,A)
【文献】特開昭59-213770(JP,A)
【文献】REGISTRY(STN),2004.11.25 RN 788780-98-3
【文献】REGISTRY(STN),2004.11.04 RN 775243-76-0
【文献】REGISTRY(STN),2004.10.15 RN 763883-78-9
【文献】REGISTRY(STN),2004.09.24 RN 750529-84-1
【文献】REGISTRY(STN),2004.08.30 RN 736095-53-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 11/28
C09B 67/20
C25D 11/00-11/38
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるキサンテン系色素を含有する染料組成物を含有する、陽極酸化アルミニウム用着色剤
【化1】

[式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基、または、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基を表し、
ただし、RおよびRのうち少なくとも1個は、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基である。]
【請求項2】
前記一般式(1)において、RまたはRが下記一般式(2)~(4)で表されるいずれか一種の1価基である、請求項1に記載の陽極酸化アルミニウム用着色剤
【化2】

【化3】

【化4】

[式(2)~(4)中、R~R21は、それぞれ独立に、―H、―OH、―COOM、―NO、―NO、―CN、―SOM、―SH、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、または
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の複素環基を表し、
Mは、水素原子またはアルカリ金属原子を表す。]
【請求項3】
前記一般式(2)または(3)において、R~R16が、それぞれ独立に、―H、―SOHまたは―SONaである、請求項2に記載の陽極酸化アルミニウム用着色剤
【請求項4】
前記一般式(4)において、R17~R21が、それぞれ独立に、―H、炭素原子数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数0~10のアミノ基である、請求項2または3に記載の陽極酸化アルミニウム用着色剤
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるキサンテン系色素を、0.02~10質量%含有する染料組成物を用いることを特徴とする、陽極酸化アルミニウム、陽極酸化アルミニウム酸化物または陽極酸化アルミニウム合金の着色方法。
【化5】

[式(1)中、R およびR はそれぞれ独立に、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基、または、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基を表し、
ただし、R およびR のうち少なくとも1個は、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極酸化アルミニウム用着色剤に適したキサンテン系色素および染料組成物に関する。また、該色素および染料組成物を用いる陽極酸化アルミニウムの着色方法、ならびに該色素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム(その酸化物または合金も含む)表面への着色方法として、水および適当な酸を含む電解液中でアルミニウムを陽極として通電(陽極酸化)し、表面に多孔質の酸化アルミニウム皮膜(アルマイト皮膜)を形成させた後、有機色素(または有機染料)を着色剤として表面を着色する方法が用いられている(特許文献1~5)。
【0003】
近年の多種多様な着色アルミニウム製品の需要に応じるために、様々な色の染料に対応可能な着色方法(特許文献4)が開発されている。例えば、陽極酸化アルミニウム用着色剤として紫色系のキサンテン系色素が知られている(特許文献4、5など)が、色相や耐光性が不十分であり、混色を必要とせず単一の色素で耐光性が良好な色素が求められている。
【0004】
また、アルマイト皮膜用の含クロム染料(特許文献1~3など)は、耐光性や耐熱性にも優れ、汎用的に使用されてきたが、近年、環境面から、クロムなどの重金属を含まない、様々な色相を有する色素が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-302256号公報
【文献】特開昭60-235867号公報
【文献】特表2002-522617号公報
【文献】特開昭63-312998号公報
【文献】特表2013-506053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クロムを含まず、所望の色相を有する色素は限られており、所望の色相を有する新規な構造の色素の開発は有用である。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アルミニウム、アルミニウム酸化物またはアルミニウム合金の表面に、クロムなどの重金属を含まない、かつ、単色で紫色系を呈する陽極酸化皮膜を形成することのできる新規なキサンテン系色素、該色素を含有する染料組成物、該染料組成物からなる陽極酸化アルミニウム用着色剤および着色方法、ならびに該色素の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、発明者らはアルミニウム陽極酸化用の色素(染料)を鋭意検討した結果、特定の構造を有するキサンテン系色素を陽極酸化アルミニウム用着色剤として用いることにより、陽極酸化アルミニウム上に、単色で紫色系を呈する陽極酸化皮膜を形成することができることを見出した。すなわち本発明は、以下の内容で構成されている。
【0009】
1.下記一般式(1)で表されるキサンテン系色素。
【0010】
【化1】
【0011】
[式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基、
または、置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基を表す。
ただし、RおよびRのうち少なくとも1個は、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基である。]
【0012】
2.前記一般式(1)において、RまたはRが下記一般式(2)~(4)で表されるいずれか一種の1価基であるキサンテン系色素。
【0013】
【化2】
【0014】
【化3】
【0015】
【化4】
【0016】
[式(2)~(4)中、R~R21は、それぞれ独立に、―H、―OH、―COOM、―NO、―NO、―CN、―SOM、―SH、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、または
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の複素環基を表す。
Mは、水素原子またはアルカリ金属原子を表す。]
【0017】
3.前記一般式(2)または(3)において、R~R16が、それぞれ独立に、―H、―SOHまたは―SONaであるキサンテン系色素。
【0018】
4.前記一般式(4)において、R17~R21が、それぞれ独立に、―H、炭素原子数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数0~10のアミノ基であるキサンテン系色素。
【0019】
5.前記キサンテン系色素を含有する染料組成物。
【0020】
6.前記染料組成物を含有する陽極酸化アルミニウム用着色剤。
【0021】
7.前記キサンテン系色素を、0.02~10質量%含有する染料組成物を用いることを特徴とする、陽極酸化アルミニウム、陽極酸化アルミニウム酸化物または陽極酸化アルミニウム合金の着色方法。
【0022】
8.キサンテン系色素の製造方法であって、
工程1のみを行うこと、または、工程1の次に工程2を行うこと、を特徴とする製造方法。
工程1:下記式(5)で表される化合物と、
下記一般式(2a)または(3a)で表される化合物を反応させること。
工程2:前記工程1で得られた中間体と、
下記一般式(2a)、(3a)または(4a)で表される化合物を反応させること。
【0023】
【化5】
【0024】
【化6】
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
[式(2a)、(3a)または(4a)中、R~R21は、前記一般式(2)~(4)の定義と同意義を示す。]
【発明の効果】
【0028】
本発明により、アルミニウム、アルミニウム酸化物またはアルミニウム合金の表面に、クロムなどの重金属を含まない、かつ、単色で紫色系を呈する陽極酸化皮膜を形成することのできる新規なキサンテン系色素、該色素を含有する染料組成物、該染料組成物からなる陽極酸化アルミニウム用着色剤および着色方法、ならびに該色素の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。以下、前記一般式(1)で表されるキサンテン系色素について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0030】
本発明に係るキサンテン系色素は、下記一般式(1)で表される。一般式(1)において、RおよびRはそれぞれ独立に、「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基」を表す。ただし、RおよびRのうち少なくとも1個は、「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」である。具体的には、Rが「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基」である場合には、Rは「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」である。また、Rが「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基」である場合には、Rは「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」である。さらに、RおよびRの両方が「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」であってよい。
【0031】
【化9】
【0032】
一般式(1)において、「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」における「炭素原子数」は、例えば、10~30、10~25、10~20、10~18、10~15、又は10~12であってよく、10であってもよい。一般式(1)において、「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基」における「炭素原子数」は、例えば、6~25、6~20又は6~18であってよい。
【0033】
一般式(1)において、「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基」における「置換基」としては、具体的に、
水酸基(―OH)、―COOM(Mは、リチウム原子(Li)、ナトリウム原子(Na)、カリウム原子(K)などのアルカリ金属原子)、カルボキシル基(―COOH)、ニトロ基(―NO)、ニトロソ基(―NO)、シアノ基(―CN)、―SOM(Mは、リチウム原子(Li)、ナトリウム原子(Na)、カリウム原子(K)などのアルカリ金属原子)、スルホン酸基(―SOH)、チオール基(―SH)、
無置換アミノ基;―NH―を介して炭素原子数0~20の基が結合した一置換アミノ基;―N<を介して炭素原子数0~20の基が結合した二置換アミノ基;
スルホンアミド(―S(=O)―NH)基、メシル基、トシル基などのスルホニル基(―S(=O)―)を有する基;
メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、n-オクチル基、t-オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基などの直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基などのシクロアルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などの直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基;
シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などのシクロアルコキシ基;
ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、またはこれらのアルケニル基が複数結合した直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基;
ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、アクリリル基、ベンゾイル基などのアシル基;
フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基などの芳香族炭化水素基;
ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチリジニル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基、カルバゾニル基、カルボリニル基、アクリジニル基、フェナントロリニル基、フェナントリジニル基、ヒダントイン基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、ピラニル基、クマリニル基、イソベンゾフラニル基、キサンテニル基、オキサントレニル基、ピラノニル基、チエニル基、チオピラニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、チオキサンテニル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、モルホリニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基などの複素環基;
シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、(1,3-もしくは1,4-)シクロヘキサジエニル基、1,5-シクロオクタジエニル基などの環状オレフィン基;などがあげられる。
これらの「置換基」は、1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、これら「置換基」は前記例示した置換基を有していてもよい。なお、「置換基」が炭素原子を含む場合、その炭素原子は、上記の「炭素原子数6~30」に算入される。
【0034】
一般式(1)で表されるキサンテン系色素において、RまたはRが下記一般式(2)~(4)で表されるいずれか一種の1価基であることが好ましい。一般式(2)で表される1価基はR~Rで表される基を有するナフチル基であり、一般式(3)で表される1価基は、R10~R16で表される基を有するナフチル基であり、一般式(4)で表される1価基は、R17~R21で表される基を有するフェニル基であり、それぞれ破線部は連結部を表す。
【0035】
【化10】
【0036】
【化11】
【0037】
【化12】
【0038】
一般式(2)~(4)において、R~R21は、それぞれ独立に、―H、―OH、―COO、―COOM、―NO、―NO、―CN、―SOM、―SH、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、または
置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の複素環基であることが好ましい。
ここで、Mは、水素原子(H);リチウム原子(Li)、ナトリウム原子(Na)、カリウム原子(K)などのアルカリ金属原子を表し、Mとしては、水素原子、ナトリウム原子であることが好ましい。なお、R~R21が炭素原子を含む場合、その炭素原子は、一般式(1)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基」における「炭素原子数6~30」に算入される。
【0039】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基」としては、無置換アミノ基(―NH)、一置換アミノ基、二置換アミノ基などがあげられる。一置換アミノ基または二置換アミノ基における炭素原子数は、例えば、1~20であり、1~10であってよく、2~6であってよい。置換基を有していてもよい炭素原子数0~20のアミノ基は、―NH―または―N<を介して、後述する炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、炭素原子数1~20のアシル基、炭素原子数2~20の複素環基が結合した基であってもよい。一置換アミノ基としては、エチルアミノ基、アセチルアミノ基、フェニルアミノ基などがあげられる。二置換アミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基などの炭素原子数2~20のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、アセチルフェニルアミノ基などがあげられる。
【0040】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「炭素原子数0~20の置換基を有していてもよいスルホニル基」は、―SO―R100(もしくは―S(=O)―R100)で表される置換基R100を有するスルホニル基を表すもの意味する。R100は、炭素原子を含む基であってもよく、炭素原子を含まない基であってもよい。R100が炭素を含む基である場合、R100の炭素原子数は、1~20であり、1~10であってよく、1~7であってよい。炭素原子数0~20の置換基を有していてもよいスルホニル基としては、スルホンアミド基(―S(=O)―NH)、メシル基、トシル基などがあげられる。
【0041】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソオクチル基、t-オクチル基などの分岐状のアルキル基があげられる。
【0042】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルキル基」における「炭素原子数3~20のシクロアルキル基」としては、具体的に、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基などがあげられる。
【0043】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」における「炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」としては、具体的に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基などの直鎖状のアルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基、t-オクチルオキシ基などの分岐状のアルコキシ基があげられる。
【0044】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基」における「炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基」としては、具体的に、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などがあげられる。
【0045】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては、具体的に、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、または、これらのアルケニル基が複数結合した直鎖状もしくは分岐状の基があげられる。
【0046】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基」は、―(C=O)―R101で表される基である。置換基R101は、炭素原子を含む基であってもよく、炭素原子を含まない基であってもよい。置換基R101が、炭素原子を含む基である場合、置換基R101の炭素原子数は、例えば、1~20であってよく、1~10であってよい。置換基R101としては、例えば、―H、―CH、―CHCHCH、―CH=CH、―C(フェニル基)などがあげられる。「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアシル基」における「炭素原子数1~20のアシル基」としては、具体的に、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、アクリリル基、ベンゾイル基などがあげられる。
【0047】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基」における「炭素原子数6~30の芳香族炭化水素基」としては、具体的に、フェニル基、ベンゾイル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基などがあげられ、アシル基やアミノ基を介していてもよい。ここで、本発明における「芳香族炭化水素基」とは、芳香族炭化水素基および縮合多環芳香族基を表すものとし、これらの中でも、フェニル基またはナフチル基が好ましい。
【0048】
一般式(2)~(4)において、R~R21で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の複素環基」における「炭素原子数2~20の複素環基」としては、具体的に、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、ナフチリジニル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基、カルバゾニル基、カルボリニル基、アクリジニル基、フェナントロリニル基、ヒダントイン基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基などがあげられる。
【0049】
一般式(2)~(4)においてR~R21で表される、
「置換基を有する炭素原子数0~20のアミノ基」、
「置換基を有する炭素原子数0~20のスルホニル基」、
「置換基を有する炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、
「置換基を有する炭素原子数3~20のシクロアルキル基」、
「置換基を有する炭素原子数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」、
「置換基を有する炭素原子数3~20のシクロアルコキシ基」、
「置換基を有する炭素原子数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」、
「置換基を有する炭素原子数1~20のアシル基」、
「置換基を有する炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基」または
「置換基を有する炭素原子数2~20の複素環基」における「置換基」としては、
前記した、一般式(1)における「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のナフチル基」または「置換基を有していてもよい炭素原子数6~30のフェニル基」における「置換基」としてあげたものと同じものがあげられる。これらの「置換基」は、1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、これら「置換基」は前記例示した置換基を有していてもよい。なお、「置換基」が炭素原子を含む場合、その炭素原子は、上記の「炭素原子数0~20」、「炭素原子数1~20」、「炭素原子数2~20」、「炭素原子数3~20」および「炭素原子数6~20」に算入される。さらに、これらの置換基同士が単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0050】
一般式(2)または(3)において、R~R16は、それぞれ独立に、―H、―SOHまたは―SONaであることが好ましい。
【0051】
~Rのうち少なくとも1個は、―SOMであってよく、Rが―SOMであってよい。R10~R16のうち少なくとも1個は、―SOMであってよく、R12又はR13が―SOMであってよい。
【0052】
一般式(4)において、R17~R21は、それぞれ独立に、―H、炭素原子数1~10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数0~10のアミノ基であることが好ましい。
【0053】
一般式(1)で表される本発明のキサンテン系色素である化合物(以下、単に色素(1)とも表す)は、生じ得るすべての立体異性体、互変異性体を包含するものとする。色素(1)の具体例を以下の式に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、構造式中では水素原子を一部省略して記載している。
【0054】
【化13】
【0055】
【化14】
【0056】
【化15】
【0057】
【化16】
【0058】
【化17】
【0059】
【化18】
【0060】
【化19】
【0061】
【化20】
【0062】
【化21】
【0063】
【化22】
【0064】
【化23】
【0065】
【化24】
【0066】
【化25】
【0067】
【化26】
【0068】
【化27】
【0069】
一般式(1)で表される本発明のキサンテン系色素(色素(1))の製造方法の一例を以下に示すが、この方法に限定されない。本発明の製造方法は、具体的に、
下記の「工程1」のみを行うことによって色素(1)を製造する方法、または、
前記「工程1」の次に下記の「工程2」を行うことによって色素(1)を製造する方法、である。
工程1:下記式(5)で表される化合物と、
下記一般式(2a)または(3a)で表される化合物を反応させること。
工程2:前記工程1で得られた中間体と、
下記一般式(2a)、(3a)または(4a)で表される化合物を反応させること。
【0070】
【化28】
【0071】
【化29】
【0072】
【化30】
【0073】
【化31】
【0074】
[式(2a)、(3a)または(4a)中、R~R21は、前記一般式(2)~(4)の定義と同意義を示す。]
【0075】
以下、「工程1」を説明する。出発原料である前記式(5)(3,6-ジクロロ-9-(2-スルホナトフェニル)キサンチリウム)と、前記一般式(2a)または(3a)で表される、相当する基(R~R16)を有するナフチルアミン誘導体とを、これらの原料を溶解する任意の溶媒中、適切な温度および反応時間などの条件で反応させることにより、目的とするキサンテン系色素、または、その中間体を得ることができる。
なお、上記溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、酢酸エチル、酢酸-n-ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)などのエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などのエーテルエステル類;アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類;ジアセトンアルコール(DAA)など;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)などがあげられる。これらの溶媒は、単独で用いても、2種類以上混合して用いてもよい。これらの中でも、N-メチルピロリドンが好ましい。
【0076】
以下、「工程2」を説明する。前記「工程1」を行った後、得られた中間体と、前記一般式(2a)、(3a)または(4a)で表される、相当する基(R~R16)を有するナフチルアミン誘導体化合物、または、相当する基(R17~R21)を有するアニリン誘導体化合物とを、これらの原料を溶解する任意の溶媒中、適切な温度および反応時間などの条件で反応させることにより、目的とするキサンテン系色素を得ることができる。上記溶媒としては、工程1であげたものと同じものを使用でき、これらの中でも、N-メチルピロリドンが好ましい。
【0077】
前記色素(1)の製造方法である工程1または工程2において、出発原料である前記式(5)と、前記一般式(2a)、(3a)または(4a)との仕込みモル比は、式(5)1molに対し、一般式(2a)、(3a)または(4a)が2~20倍モル当量であるのが好ましい。
【0078】
前記色素(1)は、カラムクロマトグラフィーによる精製;シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製;溶媒による再結晶や酸などを用いた各種の晶析法などの公知の方法で精製することができる。
【0079】
本発明の色素(1)、その中間体、または、前記工程1もしくは工程2で得られた各種生成物の同定や物性評価は、紫外可視吸収スペクトル分析(UV-Vis)、熱重量測定-示差熱分析(TG-DTA)、ガスクロマトグラフィー分析(GC)、薄層クロマトグラフィー分析(TLC)、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC/MS)、核磁気共鳴分析(NMR)分析などを行うことができる。
【0080】
本発明における、一般式(1)で表されるキサンテン系色素(色素(1))は、アルミニウム、アルミニウム酸化物またはアルミニウム合金の表面に、クロムなどの重金属を含まない、かつ、単色で紫色系を呈する陽極酸化皮膜を形成することができる。更に、色素(1)は、充分な耐熱性及び/又は耐光性を有することができる。したがって、色素(1)は、染料組成物の成分として用いることができる。色素(1)は、1種類単独で用いることによっても、アルミニウム、アルミニウム酸化物、繊維などを着色することができる。つまり、色素(1)は、1種類の単色の染料を単独で用いて、アルミニウム、アルミニウム酸化物、繊維などを着色するための色素化合物として好適に用いることができる。色素(1)は、混色により多様な色彩を得るために2種以上を併用してもよい。染料組成物は、最適な染色(染料を用いた着色)のために、その他の成分を混合してもよい。具体的には、水、アルコール、溶剤などの液体(溶媒);界面活性剤などの添加剤;などがあげられる。溶媒としては、水が好ましい。色素(1)は、他の色素を併用して、染料組成物の成分に用いてもよい。他の色素は、色素(1)以外の他の化合物、顔料、染料などであり、具体的に、ルテニウム錯体、クマリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、他のキサンテン系色素などがあげられる。色素(1)と、他の成分とを組み合わせて用いる場合、色素(1)に対する他の成分の使用量を10~200質量%とするのが好ましく、20~100質量%とするのがより好ましい。アルミニウム酸化物とは、アルミニウムが酸化された、主としてアルミニウムと酸素を含む組成物であり、その組成比は任意でよく、酸化アルミニウムを含み、結晶系は、単結晶でも多結晶もしくは非晶質であってもよく、それらの混合であってもよい。
【0081】
本発明の染料組成物は、陽極酸化アルミニウム用の着色剤として応用できる。上述した染料組成物は、陽極酸化アルミニウム合金に用いられる着色剤に用いることもできる。すなわち、本発明の一実施形態として、陽極酸化アルミニウム、または陽極酸化アルミニウム合金を着色するための一般式(1)で表されるキサンテン系色素または該色素を含有する染料組成物の使用(応用)が提供される。また、本発明の一実施形態として、陽極酸化アルミニウム、または陽極酸化アルミニウム合金用の着色剤の製造のための一般式(1)で表されるキサンテン系色素または該色素を含有する染料組成物の使用が提供される。
【0082】
色素(1)を陽極酸化アルミニウムなどの着色剤として用いる際、その着色(染色)方法において、色素(1)を含有する染料組成物における色素(1)の濃度は、染料組成物の全量を基準として、0.02~10質量%であることが好ましく、0.05~3質量%であることがより好ましい。色素(1)の濃度が低いほど淡色の着色を行うことができ、濃度が高いほど中間色~濃色の着色を行うことができる。
【0083】
ここで、陽極酸化アルミニウムとは、酸水溶液などの電解液中で、電解処理したアルミニウム表面に、細孔を有する酸化物層を形成する処理を行ったアルミニウムを意味する。陽極酸化アルミニウム用着色剤は、この細孔を有するアルミニウム表面に、色素(1)を細孔内に吸着させることにより、着色(染色)させることのできるものを意味する。通常、着色されたアルミニウム表面の耐久性、耐光性を向上させるために、着色後に細孔を塞ぐための封孔処理が行われる。
【0084】
陽極酸化アルミニウムにおけるアルミニウムとしては、アルミニウム、酸化アルミニウム、または他の金属とのアルミニウム合金など、アルミニウムを含有する金属または金属化合物などがあげられる。
【0085】
ここで、陽極酸化アルミニウム合金とは、アルミニウム合金の表面に陽極酸化処理を行った合金を意味する。陽極酸化アルミニウム合金におけるアルミニウム合金は、アルミニウムを主成分とする合金を意味しており、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、などの金属との合金を意味する。アルミニウムと他の金属との組成比は特に限定されない。
【0086】
陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いたアルミニウムの着色方法は、アルマイト染色法として公知の方法を用いることができる。例えば、日本産業規格(JIS H 8601:1999「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜」)、特許文献1などに記載の方法を用いることができる。アルミニウムの着色方法は、特に限定されないが、以下に一例を示す。
【0087】
最初に、アルミニウム板を硫酸、シュウ酸、クロム酸、スルホン酸などの酸水溶液を用いて脱脂処理し水洗する。次に、脱脂処理したアルミニウム板を陽極として、電解液として酸水溶液を用いて電解し、アルミニウム陽極表面上に、多くの細孔を形成する陽極酸化皮膜(アルマイト皮膜)を形成させ(陽極酸化処理)、水洗する。続いて、適宜、表面調整、水洗などを施した後、本発明の化合物を含有する染料組成物を含有する陽極酸化アルミニウム用着色剤水溶液などに浸漬し、細孔内に染料を吸着(染色、電解着色)させ、表面の細孔をアルミニウム酸化物水和物などで封孔し封孔物質を形成することによって、着色することができる。
本発明の染料組成物を2種以上併用する場合、あるいは本発明の染料組成物を他の色素と併用する場合、使用するすべての色素の混合溶液を調製して陽極酸化アルミニウムを浸漬してもよく、また、各色素溶液を別々に調製し、各溶液に陽極酸化アルミニウムを順に浸漬してもよい。
【0088】
本発明の着色時における電解条件は、直流電解でも交流電解でもよく、直流電解が好ましい。電流密度は、0.1~10A/dmが好ましく、0.5~3A/dmがより好ましい。通電時間は、10秒~60分が好ましい。陽極酸化皮膜の厚さは2~20μmが好ましい。これらの陽極酸化条件は、通電時間が長く陽極酸化皮膜が厚いほど濃色の着色となるため、これらの条件を調整することで、淡色~中間色~濃色の調整が行える。
【0089】
上記の各工程の処理温度は、それぞれ適した温度が好ましく、陽極酸化時の温度は0~80℃が好ましい。染色時の温度は10℃~70℃が好ましい。その他の処理温度は、10~80℃が好ましい。
【0090】
本実施形態における染料組成物は、アルミニウム以外の金属を用いた陽極酸化物についても同様に使用することができる。たとえば、マグネシウム、亜鉛、チタン、ジルコニウムなど、陽極酸化した細孔に染料を吸着することができるものあれば、導電性プラスチックなどの非金属にも応用可能である。
【0091】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤は、アルミニウムに着色した試料の特性を、色相、耐光性、耐熱性などを測定することによって評価することができる。色相は、目視で色味や均一性を評価することもでき、色差計により濃度(K/Sd)、色味(L*、a*、b*)および色差(ΔE*)として測定してもよい。
【0092】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いて表すことのできる色は、紫、青紫、赤紫などの紫色系を表すことができる。これらの淡色(薄紫など)や濃色(濃紫など)など濃淡の異なるものを表すことができる。本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤は、上述した化合物と、他の色素を併用することにより、混色したもの(中間色)を表すこともできる。
【0093】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いて着色したアルミニウムの耐光性試験は、紫外光を含む太陽光を模した試験機などを用いて、一定時間、試料に光照射し、試験前後の着色アルミニウムの色相の変化を測定することで行ってもよい。具体的には、色差計などを用い、CIE L***表色系で色味を測定して得られた光照射試験前後の色差ΔE* ab(またはΔE*)により評価してもよい。耐光性の判定には、着色アルミニウムの色相を、日本産業規格(JIS L 0804「変退色用グレースケール」)にて定める方法に従って、グレースケールを用いた目視による染色堅牢度判定を行ってもよい。
【0094】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いて着色したアルミニウムの耐熱性試験は、例えば50~300℃の温度範囲の恒温器や熱風乾燥機内で、30分~50時間などの範囲で、適当な一定時間加熱する方法など、耐光性試験と同様に試験前後の色相の変化を評価する方法があげられる。
【0095】
本実施形態の陽極酸化アルミニウム用着色剤を用いた着色アルミニウムは、多様多種のアルミ板材料、アルミニウム製外装を使用した製品に用いられる。
【実施例
【0096】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、以下の実施例に限定されない。なお、実施例中に、化合物(色素)の水溶液の紫外可視吸収スペクトル分析(UV-Vis)にり測定した極大吸収波長(λmax)(nm)を示す。
【0097】
[合成実施例1] 色素(1-1)の合成
反応容器に、3,6-ジクロロ-9-(2-スルホナトフェニル)キサンチリウム(またはジクロロスルホフルオラン、製品名:DCSF、太陽ファインケミカル株式会社製)40g、5-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸73.2g、N-メチルピロリドン(NMP)240mLを入れ、140℃で20時間撹拌した。反応液を120℃-減圧で溶媒除去し、濃縮した。残渣に30%塩酸300mLを加え、室温で30分間撹拌し、析出した固体をろ取し、乾燥し、目的の色素(1-1)を黒紫色粉末として得た(36.8g)(λmax:539nm)。
【0098】
[合成実施例2] 色素(1-2)の合成
反応容器に、DCSF 8.5g、6-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸22.5g、NMP40mLを入れ、160℃で21時間撹拌した。反応液を30℃以下に放冷後、アセトニトリル50mLを加え、30分間撹拌後、析出した固体をろ過した。17.5%塩酸60mLを加え、室温で30分間撹拌した後、析出した結晶をろ過し、乾燥することにより、目的の色素(1-2)を黒紫色粉末として得た(18.1g)(λmax:567nm)。
【0099】
[合成実施例3] 色素(1-3)の合成
反応容器に、DCSF 8.0g、7-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸9.7g、NMP30mL、を入れ、60℃で3時間撹拌した。反応液を30℃以下に放冷し、析出した固体をろ過し、乾燥することにより、中間体6.6gを得た。続いて、別の反応容器に、前記中間体5.0g、2-アミノ-5-(ジエチルアミノ)トルエン6.8g、NMP20mLを入れ、120℃で4時間撹拌した。反応液を5%塩酸200mLに入れ、室温で30分間撹拌した。析出した固体をろ取し、水50mLに入れ、48%水酸化ナトリウム水溶液を加え中性にし、この水溶液を80℃で24時間以上減圧乾燥し、目的の色素(1-3)を黒紫色粉末として得た(5.5g)(λmax:552nm)。
【0100】
[合成実施例4] 色素(1-4)の合成
反応容器に、DCSF 6.9g、6-アミノ-1-ナフトール-3-スルホン酸9.09g、NMP50mL、を入れ、140℃で21時間撹拌した。反応液を200mLの水に入れ、更に35%塩酸100mLを添加し、色素を析出させた。ろ過により固体を取り出し、乾燥後、目的の色素(1-4)を青紫色粉末として得た(14.3g)(λmax:563nm)。
【0101】
[実施例1]
<着色アルミニウムの作製>
以下の手順でアルミニウム基板上に、陽極酸化処理して、着色アルミニウムを作製した。なお、陽極酸化および染色の工程で、処理時間と染料化合物濃度を設定した。
(脱脂) 容器に、脱脂剤(奥野製薬工業株式会社製、トップADD-100)150mL、98%硫酸70mL、水1000mLを混合したものを脱脂液として調製し、適当な寸法に裁断した染色用アルミニウム基板を浸漬し、60℃で3分間脱脂処理を行い、処理後水洗した。
(陽極酸化) 98%硫酸を用いて180g/Lの電解液を調製し、電解装置の電極にアルミニウム基板を接続し、電解液槽に浸漬し、温度19~21℃、電流密度1.0A/dmの以下の通電時間の条件で陽極酸化を行い、以下の厚さの陽極酸化皮膜を得た。酸化後、水洗した。
陽極酸化条件:通電15分間 陽極酸化皮膜厚:5μm
(表面調整) 表面調整剤(奥野製薬工業株式会社製、TACソマール121)および水を用いて、濃度50mL/Lの表面調整液を調製し、45℃で1分間、アルミニウム基板を浸漬した。浸漬後アルミニウム基板を水洗した。
(染色) 合成実施例1で得られた色素(1-1)を用い、本発明の染料組成物としてそれぞれ下記の濃度の色素を含有する染色用水溶液を調製し、以下の染色時間で浸漬し、ともに温度(建浴温度)55℃で染色した。染色後アルミニウム基板を水洗した。
染色条件:色素濃度2.0重量% 染色時間:30秒間
(封孔) 封孔剤(奥野製薬工業株式会社製、トップシールH-298)および水を用いて40mL/Lの封孔液を調製し、約90℃で15分間封孔処理を行った。封孔処理後、温風で乾燥した。
【0102】
<色相の評価>
色素(1-1)を用いて着色した着色アルミニウム板の色相を目視と色差計(装置名:コニカミノルタ製分光色差計 型式:CM-3700A)でCIE L***表色系により評価した。評価した色相の結果を表1に示す。
【0103】
[実施例2~実施例4]
色素(1-1)の代わりに、色素(1-2)、(1-3)、または(1-4)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、着色アルミニウム板を作製し、色相を評価した。結果を表1にまとめて示す。
【0104】
[参考例1~参考例4]
色素(1-1)の代わりに、本発明に属さない、下記式で表される次の色素(水溶液の極大吸収波長(λmax)(nm)も示す。):
(D-1)C.I.Acid Red 289 (λmax:526nm)、
(D-2)C.I.Acid Violet 102 (λmax:533nm)、
(D-3)C.I.Acid Violet 9 (λmax:529nm)、
(D-4)C.I.Acid Red 92 (λmax:538nm)
について、実施例1と同様の作製条件で着色アルミニウムを作製し、色相を評価した結果を表1にまとめて示す。
【0105】
【化32】
【0106】
【化33】
【0107】
【化34】
【0108】
【化35】
【0109】
【表1】
【0110】
[実施例5]
<耐光性の評価>
色素(1-3)を用いて着色した着色アルミニウム板について、次の方法で耐光性試験を行った。キセノンフェードメーター/ATLAS Ci3000+Xenon Weather Ometer(アトラス社製)を用いて、放射照度:300~400nm、60W/m、試験槽内温度:38℃、湿度:50%、ブラックパネル(BP)温度:63℃ の条件で、着色アルミニウム板に50時間、100時間および200時間照射したものについて、色差計による色相および光照射前後の色差ΔE*の測定を行い、また、グレースケールの級数による染色堅牢度の目視判定(JIS L 0804「変退色用グレースケール」)により耐光性の判定を行った。級数は、5級が最高で、1級が最低であり、級数が高いものほど色が濃く(色差ΔE*が小さく)照射前の色相を保っていることを示す。本発明の評価方法では、級数の判定結果を3段階に分け、以下の判定基準で評価し、結果を表2に示す。
グレースケール判定基準:級数と本発明における評価との対応
5級~4級:A(特に良好な耐光性)
3級:B(通常レベルの耐光性)
2級以下:C(耐光性低い)
【0111】
[参考例5~参考例7]
色素(1-3)の代わりに、前記色素(D-2)~(D-4)を用いて作製した着色アルミニウムについて、実施例4と同様に耐光性を評価した結果を表2にまとめて示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表1および表2の結果から、本発明の色素を含有する染料組成物からなる陽極酸化アルミニウム着色剤を用いることにより、アルミニウム上に、紫色系で、従来品に対して遜色のない耐光性を有する皮膜を形成することができた。
【0114】
(耐熱性試験)
[実施例6~実施例8]
色素(1-1)、(1-2)および(1-4)について、上記実施例1において、陽極酸化皮膜厚および染色時間を淡色(7μm・30秒間)、中間色(11μm・2分間)、濃色(15μm・5分間) の3条件で染色したこと以外は、実施例1と同様に着色したアルミニウム板について、次の方法で耐熱性試験を行った。定温乾燥機(アズワン株式会社製、型式:87L EOP-450V)を用いて、下記の暴露条件で試料を加熱した。
乾燥機内温度および加熱時間:200℃-5時間、または250℃-3時間
本発明の耐熱性の評価方法は、加熱前後の着色アルミニウム試料の色差を下記の色差計で測定し、かつ、目視により、以下の判定基準で評価した。結果を表2に示す。
装置:色差計(コニカミノルタ株式会社製分光色差計、型式:CM-3700A)
色差計算式:ΔE ab(L、CIE 1976)
およびΔE 00(CIE DE2000)
視野角:10°
耐熱性判定基準:色差E abが小さいものほど良好な耐熱性であることを意味する。
A:良好な耐熱性 ΔE≦2.0
B:通常レベルの耐熱性 2.0<ΔE≦5.0
C:耐熱性低い ΔE>5.0
【0115】
【表3】
【0116】
[参考例8~参考例11]
参考例1~参考例2の化合物(D-1)~(D-4)について同様に着色した試料について、実施例6~実施例9と同様に耐熱性を評価した結果を表3にまとめて示す。
【0117】
表3の結果から、本発明の化合物を含有する染料組成物からなる陽極酸化アルミニウム着色剤を用いることにより、アルミニウム上に、紫色、青味の紫、青紫、青色系の皮膜を形成し、耐熱性の高い皮膜を形成することができた。従来の同系統色の紫~青色系のキサンテン色素と比較しても遜色ない耐熱性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明に係るキサンテン系色素を含有する染料組成物によれば、耐光性や耐熱性に優れた、クロムなどの重金属を含まない着色剤として様々な材料に利用できる。特に、単色で紫色系の着色皮膜を形成する陽極酸化アルミニウム用着色剤を得ることができる。また、該着色剤を用いることにより、単色で紫色系に着色された、耐光性や耐熱性に優れた陽極酸化アルミニウム皮膜を得ることができる。