(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ポリウレタン化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 18/65 20060101AFI20240729BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20240729BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20240729BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20240729BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20240729BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C08G18/65
C08G18/42 069
C08G18/44
C08G18/76 078
C08G18/32 006
F16C13/00 A
(21)【出願番号】P 2020168650
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】野木村 龍
(72)【発明者】
【氏名】土居 信人
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-535865(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046369(WO,A1)
【文献】特開2012-108314(JP,A)
【文献】特開2012-017357(JP,A)
【文献】特表2001-527142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
F16C 13/00- 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)由来の構成成分と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)由来の構成成分と、ポリイソシアネート(B)由来の構成成分(ただし、ジイソシアネート化合物および数平均分子量が2000~4000であるポリカプロラクトンジオールを反応させて得られたイソシアネート基含有擬似プレポリマー由来の構成成分を除く。)と、鎖延長剤(C)由来の構成成分とを含み、
前記ポリオール(A1)がポリカーボネートジオール又はポリカプロラクトンジオールであり、前記ポリオール(A2)がポリカプロラクトンジオールであり、
前記ポリオール(A1)の数平均分子量に対する前記ポリオール(A2)の数平均分子量の比の値が2以上10以下であ
り、
前記ポリイソシアネート(B)が1,5-ナフタレンジイソシアネートを含む、ポリウレタン化合物。
【請求項2】
前記ポリオール(A1)の数平均分子量に対する前記ポリオール(A2)の数平均分子量の比の値が2.3以上5.0以下である、請求項1に記載のポリウレタン化合物。
【請求項3】
前記ポリウレタン化合物中、ポリオール(A1)由来の構成成分とポリオール(A2)由来の構成成分の各含有量のモル比が、(A1):(A2)=10:90~70:30を満たす、請求項1又は2に記載のポリウレタン化合物。
【請求項4】
数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)由来の構成成分と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)由来の構成成分と、ポリイソシアネート(B)由来の構成成分と、鎖延長剤(C)由来の構成成分とを含み、
前記ポリオール(A1)がポリカーボネートジオール又はポリカプロラクトンジオールであり、前記ポリオール(A2)がポリカプロラクトンジオールであり、
前記ポリオール(A1)由来の構成成分と前記ポリオール(A2)由来の構成成分の各含有量のモル比が、(A1):(A2)=35:65~60:40であり、
前記ポリオール(A1)の数平均分子量に対する前記ポリオール(A2)の数平均分子量の比の値が2.3以上5.0以下であ
り、
前記ポリイソシアネート(B)が1,5-ナフタレンジイソシアネートを含む、ポリウレタン化合物。
【請求項5】
前記ポリオール(A1)がポリカーボネートジオールである、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリウレタン化合物。
【請求項6】
前記鎖延長剤(C)が1,4-ブタンジオールを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリウレタン化合物。
【請求項7】
数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)と、ポリイソシアネート(B)との反応生成物と、鎖延長剤(C)とを反応させることを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリウレタン化合物の製造方法。
【請求項8】
数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)由来の構成成分と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)由来の構成成分と、ポリイソシアネート(B)由来の構成成分(ただし、ジイソシアネート化合物および数平均分子量が2000~4000であるポリカプロラクトンジオールを反応させて得られたイソシアネート基含有擬似プレポリマー由来の構成成分を除く。)と、鎖延長剤(C)由来の構成成分とを含み、
前記ポリオール(A1)がポリカーボネートジオール又はポリカプロラクトンジオールであり、前記ポリオール(A2)がポリカプロラクトンジオールであり、
前記ポリオール(A1)の数平均分子量に対する前記ポリオール(A2)の数平均分子量の比の値が2以上10以下である、ポリウレタン化合物を用いたワイヤーソー用ローラー。
【請求項9】
数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)由来の構成成分と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)由来の構成成分と、ポリイソシアネート(B)由来の構成成分と、鎖延長剤(C)由来の構成成分とを含み、
前記ポリオール(A1)がポリカーボネートジオール又はポリカプロラクトンジオールであり、前記ポリオール(A2)がポリカプロラクトンジオールであり、
前記ポリオール(A1)由来の構成成分と前記ポリオール(A2)由来の構成成分の各含有量のモル比が、(A1):(A2)=35:65~60:40であり、
前記ポリオール(A1)の数平均分子量に対する前記ポリオール(A2)の数平均分子量の比の値が2.3以上5.0以下である、ポリウレタン化合物を用いたワイヤーソー用ローラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン化合物は、機械強度に優れ、また、柔軟性を有し広い温度範囲でゴム弾性を示すことから、工業部品、医療用部材、日用品、車両内装材、スポーツ用品等として広く利用されている。ポリウレタン化合物は、一般的には、ポリオールと、ポリイソシアネートと、鎖延長剤(低分子ジオール化合物)とを重付加反応させることにより得られる。こうして得られるポリウレタン化合物は、ポリイソシアネートと鎖延長剤からなるハードセグメントと、ポリオールを主成分とするソフトセグメントとにより構成され、ポリウレタン化合物に特有の上記の機械的物性が発現する。
【0003】
ポリウレタン化合物の機械的物性を改良する技術が提案されている。例えば特許文献1には、脂肪族ポリイソシアネートと、ポリカーボネートポリオールと、環状構造を有するポリオールとを、ポリカーボネートポリオールと環状構造を有するポリオールとを特定の比率として反応させることにより、得られるポリウレタン樹脂の耐摩耗性等を高めたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリウレタン化合物の用途は多岐にわたり、その機械的物性のさらなる向上が求められている。この機械的物性の指標として、引張強度と引張破断伸びの積で表される抗張積が知られている。抗張積は材料の破壊に要するエネルギーの指標であり、この数値が大きいほど耐破壊特性に優れ、例えば、耐摩耗性が求められるワイヤーソー用ローラー、オムニホイール用バレル、搬送台車用キャスター、ジェットコースター用タイヤ、モノレール用案内輪等への適用性がより高められる。
本発明は、抗張積が十分に高められ、耐破壊特性に優れたポリウレタン化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタン化合物の原料として用いるポリオールとして、少なくとも、数平均分子量が比較的低分子量の特定の範囲内にあるポリオールと、数平均分子量がそれより高分子側の特定に範囲内にあるポリオールとを組合せて用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)由来の構成成分と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)由来の構成成分と、ポリイソシアネート(B)由来の構成成分と、鎖延長剤(C)由来の構成成分とを含む、ポリウレタン化合物。
〔2〕
前記ポリオール(A1)の数平均分子量に対する前記ポリオール(A2)の数平均分子量の比の値が2以上10以下である、〔1〕に記載のポリウレタン化合物。
〔3〕
前記ポリウレタン化合物中、ポリオール(A1)由来の構成成分とポリオール(A2)由来の構成成分の各含有量のモル比が、(A1):(A2)=10:90~70:30を満たす、〔1〕又は〔2〕に記載のポリウレタン化合物。
〔4〕
前記ポリオール(A1)がポリカーボネートジオール又はポリカプロラクトンジオールである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリウレタン化合物。
〔5〕
前記ポリオール(A2)がポリカプロラクトンジオールである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリウレタン化合物。
〔6〕
前記ポリイソシアネート(B)が1,5-ナフタレンジイソシアネートを含み、前記鎖延長剤(C)が1,4-ブタンジオールを含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリウレタン化合物。
〔7〕
数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)と、ポリイソシアネート(B)との反応生成物と、鎖延長剤(C)とを反応させることを含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のポリウレタン化合物の製造方法。
〔8〕
〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のポリウレタン化合物を用いたワイヤーソー用ローラー。
【0007】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリオール化合物は抗張積が十分に高められ、耐破壊特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、評価用プーリーを組み込んだシングルワイヤーソー評価試験機の構成を模式的に示す図面である。
【
図2】
図2は、
図1に示したシングルワイヤーソー評価試験機に組み込んだ評価用プーリーの状態を上からみた図面である。
【
図3】
図3は、評価用プーリーのV字溝に砥粒付きワイヤーをセットした状態における、当該評価用プーリーの一断面を示す図面である。
【
図4】
図4は、評価用プーリーを組み込んだシングルワイヤーソー評価試験機において、ワイヤーを往復運動させたときのワイヤーと評価用プーリーとの状態を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ポリウレタン化合物]
本発明のポリウレタン化合物は、数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)由来の構成成分と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)由来の構成成分と、ポリイソシアネート(B)由来の構成成分と、鎖延長剤(C)由来の構成成分とを含んでなる。すなわち、ポリウレタン化合物の原料として用いるポリオールとして、数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)とを組合せて用いる。なお、本発明のポリウレタン化合物は、ポリオール(A1)以外で、かつ、ポリオール(A2)以外のポリオール由来の構成成分を有していてもよい。
本発明のポリウレタン化合物は、ポリイソシアネート(B)と鎖延長剤(C)との重付加反応により生じるハードセグメントと、ポリイソシアネート(B)とポリオール(A1)との重付加反応により生じる、伸長結晶化が比較的生じやすいソフトセグメントと、ポリソシアネート(B)とポリオール(A2)との重付加反応により生じる、伸長結晶化速度の遅いソフトセグメントとを合わせ持つ特異な構造を有し、抗張積が高く、耐破壊特性に優れる。
本発明のポリウレタン化合物の構造により耐破壊特性が高められる理由は定かではないが、外力により大きな変形(伸長)に付された時に、相対的に低分子量のポリオール(A1)由来の構成成分がすばやく伸長結晶化して応力を担い、相対的に高分子量のポリオール(A2)由来の構成成分の伸長結晶化が穏やかに進む結果、ポリオール(A2)由来の構成成分の伸長結晶化の発現率が高められることが一因と考えられる。
【0011】
<ポリオール(A1)(A2)由来の構成成分>
本発明のポリウレタン化合物は、構成成分として、数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)由来の構成成分と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)由来の構成成分とを併せ持つものである。これらの構成成分はそれぞれ、ポリウレタン化合物においてソフトセグメントを構成する。ポリオール(A1)は、通常は同種のポリオールで構成され、ポリオール(A2)も同様に、通常は同種のポリオールで構成される。ポリオール(A1)とポリオール(A2)とは、同種のポリマーであっても、互いに異種のポリマーであってもよい。
好ましくは、ポリオール(A1)とポリオール(A2)とを混合して、微分分子量分布曲線(縦軸:モル濃度分率、横軸:分子量)で表した場合に、分子量分布が多峰性を示す(ピークが複数現れる)ことが好ましく、分子量分布が二峰性を示す(ピークが複2つ現れる)ことがより好ましい。微分分子量分布曲線は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、下記の測定条件で得られた値に基づき描かれるものである。ポリオールの数平均分子量も同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、下記の測定条件で得られた値に基づき決定することができる。
-測定条件-
装置:東ソー社製、HLC-8120GPC
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
温度:40℃
カラム:TSKgel SuperHM-M(東ソー社製)
ポリオール濃度:0.2質量%(ポリオール/(ポリオール+THF))
サンプル注入量:5μL
流速:0.5ml/min
分子量標準:ポリスチレン(東ソー社製、PStQuick Kit-H)
【0012】
ポリオール(A1)由来の構成成分とポリオール(A2)由来の構成成分との間で、伸長結晶化の速度差を十分に引き出す観点から、前記ポリオール(A1)の数平均分子量に対する前記ポリオール(A2)の数平均分子量の比の値[(A2)/(A1)]は、2.0以上であることが好ましく、2.3以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましい。また、ポリオール(A1)由来の構成成分による、ポリオール(A2)由来の構成成分の伸長結晶化促進作用を十分に引き出す観点から、上記の比の値は10以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、6.0以下がさらに好ましく、5.0以下がさらに好ましく、4.5以下が特に好ましい。
【0013】
ポリオール(A1)の数平均分子量は300~1200がより好ましく、400~1100がさらに好ましく、400~1000がさらに好ましく、400~900がさらに好ましい。また、ポリオール(A2)の数平均分子量は1500~4500がより好ましく、1700~4000がより好ましく、1800~3600がさらに好ましい。
【0014】
前記ポリウレタン化合物中、ポリオール(A1)由来の構成成分とポリオール(A2)由来の構成成分の各含有量のモル比は、(A1):(A2)=10:90~70:30を満たすことが好ましく、(A1):(A2)=30:70~60:40を満たすことがより好ましく、35:65~60:40を満たすことがさらに好ましい。各含有量のモル比を上記好ましい範囲内とすることにより、ポリオール(A1)由来の構成成分を主体とするソフトセグメントの量を適切な範囲に制御でき、ポリオール(A1)由来の構成成分によるポリオール(A2)由来の構成成分の伸長結晶化促進作用を十分に引き出すことができ、また、高ひずみ領域における破断伸びの低下も抑えることができる。
【0015】
上記ポリオール(A1)及び(A2)として採り得るポリマー種に特に制限はなく、例えば、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)などのポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール(好ましくは縮合系ポリエステルジオール);ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)などのラクトン系ポリエステルポリオール(好ましくはラクトン系ポリエステルジオール);ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール(好ましくはポリカーボネートジオール);およびアクリルポリオール(好ましくはアクリルジオール)などが挙げられる。
なかでも、耐摩耗性や機械強度の観点から、ポリオール(A1)及び(A2)がいずれも、ポリカーボネートジオール又はポリカプロラクトンジオールであることが好ましく、作業性の観点、坑張積のさらなる向上の観点も考慮すると、ポリオール(A1)がポリカーボネートジオール又はポリカプロラクトンジオールであり、かつポリオール(A2)がポリカプロラクトンジオールであることがより好ましい。
【0016】
<ポリイソシアネート(B)由来の構成成分>
ポリイソシアネート由来の構成成分を導くポリイソシアネートとしては、1分子中にイソシアネート基を2つ以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDII)などの脂環式又は脂肪族ポリイソシアネートが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
機械強度と耐摩耗性の観点から、上記ポリイソシアネートは芳香族ポリイソシアネートが好ましい。特に1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)はポリウレタン分子鎖の剛直性を効果的に高めることができ、結果、ポリウレタン化合物の耐摩耗性及び耐荷重性が高まり、また、耐熱性、耐油性等の諸特性も高めることができ好ましい。
【0017】
<鎖延長剤(C)由来の構成成分>
鎖延長剤としては、例えば低分子ジオール化合物や二官能の低分子グリコールエーテル化合物等が挙げられる。
低分子ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
なお、1-デカノール、1-ドデカノール、ステアリルアルコール、1-ドコサノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル等の官能基数が1の活性水素化合物や、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール等の官能基数が2より大きい活性水素化合物を併用してもよい。
二官能の低分子グリコールエーテル化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ポリオキシエチレン-オキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ポリオキシプロピレン-オキシフェニル)プロパン、ジメチロールヘプタンエチレンオキサイド付加物、ジメチロールヘプタンプロピレンオキサイド付加物のグリコールエーテル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
鎖延長剤の分子量は60以上400以下であることが好ましい。鎖延長剤の分子量をこの範囲内とすることにより、破断伸びを十分に担保しながら、所望のゴム弾性を発現させることが可能となる。
なかでも、鎖延長剤は1,4-ブタンジオールが好ましい。1,4-ブタンジオールは、1,5-ナフタレンジイソシアネートと組み合わせて用いることにより、優れた結晶化度を示す。
【0019】
[ポリウレタン化合物の調製]
本発明のポリウレタン化合物は、数平均分子量が250~1200の範囲内にあるポリオール(A1)と、数平均分子量が1500~5000の範囲内にあるポリオール(A2)と、ポリイソシアネート(B)との反応生成物と、鎖延長剤(C)とを反応させる工程を経て、得ることができる。この反応工程の具体的な実施形態として、ワンショット法、及びプレポリマー法のいずれも採用することができる。
ワンショット法とは、ポリイソシアネート、ポリオール、鎖延長剤などの原料化合物を一括に(同時に)反応させる方法である。
プレポリマー法とは、原料化合物を多段階で反応させる方法である。例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて低分子量のウレタンプレポリマーを合成した後に、鎖延長剤を反応させて高分子量化する方法である。本発明のポリウレタン化合物は、プレポリマー法によって合成することが好ましい。
プレポリマー法には、ポリオール(A1)とポリオール(A2)との混合物とポリイソシアネートとを反応させてウレタンプレポリマーを得て、これを鎖延長剤により高分子量化する方法があり、また、ポリオール(A1)とポリイソシアネートとを反応させたウレタンプレポリマーと、ポリオール(A2)とポリイソシアネートとを反応させたウレタンプレポリマーとを別々に得た上で、これら2種のウレタンプレポリマーと鎖延長剤とを反応させて高分子量化する方法もある。優れた機械強度と耐摩耗性を発現させる観点からは、前者の方法によって合成されることが好ましい。
本発明のポリウレタン化合物は、熱可塑性ポリウレタンの形態とすることができ、また、熱硬化性ポリウレタンの形態とすることもでき、熱硬化性ポリウレタンとして使用することが好ましい。
【0020】
本発明のポリウレタン化合物の合成において、鎖延長剤の反応時に、ウレタンプレポリマーの反応時間短縮のため、反応触媒を含有させることも好ましい。反応触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルイミダゾール、N-エチルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU;diazabicyclo undecene)等のアミン類;酢酸カリウム、スタナスオクトエート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、チタン酸エステル、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物、鉄化合物等の有機金属類;トリブチルホスフィン、ホスフォレン、ホスフォレンオキサイド等のリン系化合物;等が挙げられる。なお、これらの化合物はそれぞれ単独で、又は、2種以上を併用して使用することができる。
これらのうち、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU;diazabicyclo undecene)や、その誘導体からなる反応触媒は2次熱処理時間を大幅に短縮することが可能なため好ましい。使用される触媒の総量は、鎖延長剤に対して、100ppm以上5000ppm以下が好ましく、500ppm以上2000ppm以下がより好ましい。
【0021】
本発明のポリウレタン化合物は、成形前の材料(ペレット等)であってもよく、所望の形状に成形された成形品であってもよい。本発明のポリウレタン化合物の用途は特に制限されず、各種部材の材料として用いることができる。なかでも優れた耐破壊特性を生かして、例えば、耐摩耗性が要求されるワイヤーソー用ローラー、オムニホイール用バレル、搬送台車用キャスター、ジェットコースター用タイヤ、モノレール用案内輪等への適用に適している。
【0022】
本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
[実施例1] ポリウレタン化合物の調製
下記の各原料を用いてポリウレタン化合物を、下記の通り調製した。
【0024】
<ポリオール(A1)>
ポリオール(A1)として、数平均分子量(Mn)が500であるポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名:デュラネートT5650E)を用いた。
【0025】
<ポリオール(A2)>
ポリオール(A2)として、Mnが2000であるポリカプロラクトンジオール(ダイセル社製、商品名:プラクセル220N、Mw/Mn=1.24)を、120℃で2時間減圧乾燥したものを用いた。
【0026】
<ポリイソシアネート(B)>
1,5-ナフタレンジイソシアネート(クミアイ化学工業社製)を用いた。
【0027】
<鎖延長剤(C)>
1,4-ブタンジオール(三菱ケミカル社製)を用いた。
【0028】
<反応触媒>
商品名:U-CAT SA506(サンアプロ社製)を用いた。
【0029】
<ポリウレタン化合物の調製>
ポリオール(A1)35重量部と、ポリオール(A2)165重量部と、ポリイソシアネート(B)65.7重量部とを混合し、窒素気流下、125~132℃で30分間反応させて、末端イソシアネート基を持つウレタンプレポリマー液を得た。得られたプレポリマー液のイソシアネート基(NCO基)の含有量は5.55質量%であった。
得られたプレポリマー液265.7重量部に、鎖延長剤(C)を13.0重量部加え、鎖延長剤(C)に対して質量基準で1000ppmの反応触媒も加えて、OH基とNCO基のモル比が、NCO/OH(NCO Index)=1.03となるプレポリマー組成物を得た。
このプレポリマー組成物を、120℃に加熱したシート成形用金型に注入し、120℃で1時間熱プレスして硬化させたのち、更に120℃で120時間、2次加熱処理を施し、ポリウレタン化合物からなるシート状成形物を得た。このシート状成形物の引張強さ、破断伸び、及びこれらの積である抗張積を下記表1に示す。
【0030】
[実施例2~11、比較例1~5] ポリウレタン化合物の調製
使用する原料と配合比を下記表1に記載の通りに変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2~11、比較例1~5の、ポリウレタン化合物のシート状成形物を得た。各シート状成形物の引張強さ、破断伸び、及びこれらの積である抗張積を下記表1に示す。
【0031】
<引張強さ、破断伸びの測定>
JIS-K6251:2017に準拠して、厚さ2mmのJIS-5号に規定されたダンベル状の試験片を作製し、500mm/minの引張速度で、23℃において、引張強さと破断伸びを測定した。
【0032】
下表中、NDIは1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,4BGは1,4-ブタンジオールであり、配合量の単位は重量部である。また、数平均分子量は「Mn」で示した。実施例7のポリオール(A1)の全体としての数平均分子量は767.7である。
【0033】
【0034】
【0035】
上記表中、実施例2~11で用いたポリオールの詳細は次の通りである。
「PCD Mn=1000」:Mnが1000のポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名:デュラノールT5651)
「PCD Mn=800」:Mnが800のポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ社製、商品名:デュラノールT5650J)
「PCL Mn=500」:Mnが500のポリカプロラクトンジオール(ダイセル社製、商品名:プラクセル205U)
「PCL Mn=3000」は、Mnが3000のポリカプロラクトンジオール(ダイセル社製、商品名:プラクセル230N)
「PTMG Mn=650」:Mnが650のポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱ケミカル社製、商品名:PTMG650)
「PTMG Mn=1000」:Mnが1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱ケミカル社製、商品名:PTMG1000)
「PTMG Mn=2000」:Mnが2000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱ケミカル社製、商品名:PTMG2000)
「PTMG Mn=3000」:Mnが3000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱ケミカル社製、商品名:PTMG3000)
【0036】
上記表1の結果から、ポリウレタン化合物のソフトセグメントを特定の高分子量ポリオール(A2)のみで形成した場合、抗張積を十分に高めることができなかった。これに対し、ポリウレタン化合物のソフトセグメントを特定の高分子量ポリオール(A2)と特定の低分子量ポリオール(A1)の2種類で形成した場合には、抗張積が高められることがわかった(比較例1及び2と実施例1~7との比較、比較例3と実施例8との比較)。
なかでも、ポリオール(A2)のMnに対するポリオール(A1)のMnの比の値を2.5以上としたとき引張伸びがより高められ、また、この比の値を4.0以下としたとき引張強さもより強くなり、結果、抗張積が効果的に高められることもわかった(実施例1~3、5~7)。
また、上記表2の結果も表1と同様の結果となっており、ポリオールの種類によらず、本発明の構成によりポリウレタン化合物の抗張積が効果的に高められることがわかった(実施例9~11と比較例4及び5との比較)。
【0037】
なお、上記実施例1~11のシート状成形物はいずれも、JIS K6253に準拠して決定したタイプAデュロメータによる硬さ(23℃)が88以上、JIS-K6251:2017に準拠して決定した100%モジュラスが7.3MPa以上、JIS-K6252:2015に準拠して決定した引裂強度が113N/mm以上であり、硬さ、100%モジュラス、及び引裂強度のいずれにおいても十分に高い物性を示すものであった。
【0038】
[試験例] ワイヤーソーローラーとしての性能試験
本発明のポリウレタン化合物からなるワイヤーソー(WS)ローラーを作製し、このローラーの摩耗耐久性試験を行った。
【0039】
<WS用ローラーの作製>
実施例1と同様に、ポリオール(A1)としてMnが500であるポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ、商品名:デュラネートT5650E)を用い、ポリオール(A2)としてはMnが2000であるポリカプロラクトンジオール(ダイセル社製、商品名:プラクセル220N、Mw/Mn=1.24)を120℃で2時間減圧乾燥したものを用いた。
ポリイソシアネート(B)、鎖延長剤(C)、及び反応触媒は、上記各実施例で用いたものと同じである。
ポリオール(A1)35重量部と、ポリオール(A2)165重量部と、ポリイソシアネート(B)44.0重量部とを混合し、窒素気流下、125~132℃で30分間反応させて、末端イソシアネート基を持つウレタンプレポリマー液を得た。得られたプレポリマー液のイソシアネート基(NCO基)の含有量は2.05質量%であった。
得られたプレポリマー液265.7重量部に、鎖延長剤(C)を4.1重量部加え、鎖延長剤(C)に対して質量基準で1000ppmの反応触媒も加えて、OH基とNCO基のモル比が、NCO/OH(NCO Index)=1.03となるプレポリマー組成物を得た。
このプレポリマー組成物を、120℃に加熱した注型ローラー金型に注入し、120℃で16時間静置して硬化させた。更に120℃で120時間、2次加熱処理を施し、WS用ローラー(本発明品)を得た。同様にして、本発明品のWS用ローラーを合計3つ作製した。
【0040】
ポリオールとしてMnが2000であるポリカプロラクトンジオール(ダイセル社製、商品名:プラクセル220N、Mw/Mn=1.24)のみを用いた以外は上記と同様にして、WS用ローラー(比較品)を計3つ得た。
【0041】
<摩耗耐久性試験>
作製したWS用ローラーを、NC旋盤を用いて、外径73mm×内径47mm×厚さ8mmのプーリー状に加工したのち、外周に沿って深さ1.5mmのV字の溝を施し、評価用プーリーとした。
この評価用プーリーを、シングルワイヤーソー(SWS)評価試験機(タカトリ社製、品番:WSD-1A)に組み込んで、以下に示す条件にて評価した。評価用プーリーを組み込んだSWS評価試験機の構成を
図1に模式的に示す(なお、評価部におけるワイヤーと評価用プーリーとの関係をより詳細に示すと
図4の通りである。)。
評価用プーリーは、
図2に上面図として示すように、スペーサー2枚、ハウジング、及び真鍮キャップと組み合わせ、評価用ワークとした。SWS評価試験機において評価用ワークの慣性モーメントは544,400g/mm
2(±5%)に合わせた。
続いて、評価用プーリーのV字溝に、
図3に示すように、粒径0.16mmの砥粒付きワイヤー(旭ダイヤモンド工業社製、ダイヤモンドワイヤー)をセットし、加工液(大智化学産業社製、商品名:ルナクーラント DM#853)を吹きかけながら、ワイヤーテンション20N、線速度500m/min(加減速時間1.2秒、一定速度時間6秒)でワイヤーを往復運動させた。このワイヤーの往復運動において、ワイヤーと評価用プーリーとは
図4に示す状態にある。
ワイヤーの往復運動を1時間継続した後、評価用プーリーのV字溝をマイクロスコープにて観察し、試験前後のV字溝の深さの差を求めた。本発明品の評価用プーリー3つと、比較品の評価用プーリー3つについて試験前後のV字溝の差を測定し、3つの測定値の平均値を、溝摩耗深さ(単位:mm)とした。
【0042】
<試験結果>
比較品の評価用プーリーでは、試験前後のV字溝の深さの差は1.4mmであったのに対し、本発明品の試験前後のV字溝の深さの差は、わずか0.35mmであった。
このように、抗張積が高められた本発明のポリウレタン化合物は、優れた耐摩耗性を示すことがわかった。