(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンド
(51)【国際特許分類】
B22C 1/22 20060101AFI20240729BHJP
B22C 1/02 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B22C1/22
B22C1/02 B
(21)【出願番号】P 2020193232
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-08-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 :特殊鋳型システムと省エネルギー研究部会(R1-3) 開催日 :令和元年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】小川 文幸
(72)【発明者】
【氏名】岩切 峻
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161883(JP,A)
【文献】特開2016-002573(JP,A)
【文献】特開2014-117740(JP,A)
【文献】特開平09-001285(JP,A)
【文献】特開昭62-124046(JP,A)
【文献】特公平05-079423(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/027038(WO,A1)
【文献】特開昭62-282742(JP,A)
【文献】特開2004-106038(JP,A)
【文献】特開平05-000352(JP,A)
【文献】特開平10-182915(JP,A)
【文献】特開2003-260539(JP,A)
【文献】特開平01-266939(JP,A)
【文献】特開昭58-003745(JP,A)
【文献】特開2016-161217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性骨材と樹脂粘結剤とを混練して、かかる耐火性骨材の表面を該樹脂粘結剤にて被覆してなるレジンコーテッドサンドにして、
前記耐火性骨材が、50質量%以上のSiO
2 を含有し、充填率が53%以上であるものであると共に、該レジンコーテッドサンドが、0.30W/m・K以上の熱伝導率を有して
おり、更に該レジンコーテッドサンドにおける20メッシュ篩上のダマ量が、3質量%以下であることを特徴とする鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンド。
【請求項2】
前記耐火性骨材が、ケイ砂を主体とすることを特徴とする請求項1に記載の鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンド。
【請求項3】
前記耐火性骨材が、30~90のAFS指数を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンド。
【請求項4】
金属酸化物が、更に含有せしめられていることを特徴とする請求項1乃至請求項
3の何れか1項に記載の鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンド。
【請求項5】
崩壊性向上剤として、酸素酸塩、リン酸エステル、及び脂肪族縮合リン酸エステルのうちの少なくとも何れか一つが、更に含有せしめられていることを特徴とする請求項1乃至請求項
4の何れか1項に記載の鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンドに係り、特に、鋳型特性の向上と共に、鋳造後における崩壊性に優れた鋳型を有利に造型し得るレジンコーテッドサンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の砂型鋳造による鋳物の製造に際しては、各種の耐火性骨材からなる鋳物砂を用いて造型することにより得られた鋳型内において、溶融金属を冷却して、凝固、固化させた後、かかる鋳型を構成する主型や砂中子の除去を行なう必要があるが、そのような鋳型、特に、砂中子の除去方法としては、一般的に、鋳造してから鋳物の温度が常温付近になるまで冷却した後、ノックアウトマシン等の振動機を用いて、鋳物に振動を与えて、砂中子を崩壊させることで、かかる砂中子の除去が行なわれるようになっている。しかし、砂中子には、鋳物砂を相互に結合するバインダ(粘結剤)として、フェノール樹脂等のレジン(樹脂)が用いられているところから、かかるレジンにて鋳物砂が固着して、単に振動を与えただけでは、容易に崩壊しなかったりして、鋳物からの鋳物砂の除去に時間がかかったりする等の問題があった。
【0003】
ところで、そのようなレジンにて固着された砂中子を崩壊させるには、加熱によって、かかるレジンを熱分解させる手法の採用が考えられるのであるが、砂中子に含まれているレジンを熱分解させるためには、充分な熱量を砂中子に与える必要があり、例えば、アルミニウム鋳物の場合では、アルミニウムの溶融温度に近い温度で1~2時間保持することにより、レジンを熱分解させ、砂中子を形成する鋳物砂の固化物を分解、分離させることが出来る。また、そのような加熱の後、5~6時間かけて冷却せしめ、次いで振動を与えることで、砂中子を崩壊させ、鋳物砂の除去が行なわれることとなる。しかし、この方法においては、レジンの分解のために、大きな熱エネルギーと共に、長い処理時間を要する問題があり、仮に未分解のレジンが残存したりすると、振動を加えたとしてもエネルギーが吸収され、砂崩壊に有効に働かないため、砂中子を除去するには充分な熱処理を施す必要があった。
【0004】
また、特開平9-182952号公報等においては、高圧水を噴射させて、鋳物の内部に吹き付けることにより、砂中子を粉砕して、鋳物内部から中子を除去する手法が提案されているのであるが、この高圧水を用いた場合にあっては、水が飛び散ることで、作業現場が水浸しとなり、そのために、作業現場や作業者に防水対策を施す必要性がある等、作業性が悪化すると共に、高圧水を噴射させる装置を用意する必要がある等の設備上の問題に加えて、除去した砂が水に濡れてしまうところから、砂を再利用するには、砂の乾燥等の、手間のかかる作業が必要となる問題を、内在するものであった。
【0005】
さらに、特開平9-1285号公報においては、鋳物砂及びフェノール系樹脂と共に、ZnOやZnO・B2O3の如き酸化亜鉛系化合物からなる崩壊性改善剤を必須成分として含有するシェルモールド用鋳型材料が提案され、そこでは、かかる酸化亜鉛系化合物に、更に、Br含有有機化合物やZnBr2 等のハロゲン含有化合物を組み合わせて含有せしめることにより、鋳造後の砂落し作業性がより一層容易となることが明らかにされているのであるが、そのようなハロゲン系添加物が併用されていることにより、鋳型の崩壊性はよいものの、鋳物や鋳造金型に腐食が惹起される問題があり、実用上において採用され難いものであった。
【0006】
加えて、特開昭62-124046号公報や特公平5-79423号公報においては、シェルモールド用鋳型材料に、崩壊性向上剤として、芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩を含有せしめたり、過マンガン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の熱分解生成物を含有せしめて、鋳造後における鋳型の崩壊性や砂落し性が向上せしめられ得ることが明らかにされているのであるが、それら崩壊性向上剤の添加による鋳型の崩壊性の向上には限界があり、また、鋳型の崩壊性をより一層高めるべく、そのような崩壊性向上剤の使用量を増大せしめたりすると、鋳型の物性に悪影響をもたらす等の問題を内在するものであった。
【0007】
このように、鋳型の崩壊性向上のための公知の何れの手法においても、それぞれの手法に内在する問題点があり、鋳造後の鋳型の崩壊性を有利に高め得る手法としては、実用上において、そのまま採用し得るものではなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-182952号公報
【文献】特開平9-1285号公報
【文献】特開昭62-124046号公報
【文献】特公平5-79423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンドを提供することにあり、また、他の課題とするところは、鋳型特性の向上を図りつつ、鋳造後における鋳型の崩壊性がより一層高められ得た鋳型を、実用的に有利に造型することの出来るレジンコーテッドサンドを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、上記せるような課題を解決するために、耐火性骨材と樹脂粘結剤とを混練して、かかる耐火性骨材の表面を該樹脂粘結剤にて被覆してなるレジンコーテッドサンドにおいて、前記耐火性骨材が、50質量%以上のSiO2 を含有し、充填率が53%以上のものであると共に、該レジンコーテッドサンドが、0.30W/m・K以上の熱伝導率を有していることを特徴とする鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンドを、その要旨とするものである。
【0011】
なお、かかる本発明に従う鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンドの望ましい態様の一つによれば、前記耐火性骨材は、ケイ砂を主体とする耐火性粒子である。
【0012】
また、そのような本発明に従うレジンコーテッドサンドにおいては、耐火性骨材は、有利には、30~90の範囲内のAFS指数を有しているものである。
【0013】
さらに、本発明に従うレジンコーテッドサンドは、望ましくは、3質量%以下のダマ量を有するものである。
【0014】
そして、本発明に従う鋳型崩壊性に優れたレジンコーテッドサンドの好ましい態様の一つによれば、金属酸化物が、更に含有せしめられており、また、崩壊性向上剤として、酸素酸塩、リン酸エステル及び脂肪族縮合リン酸エステルのうちの少なくとも何れか一つが、更に含有せしめられているものである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明に従うレジンコーテッドサンドにあっては、耐火性骨材として、SiO2 含有量が50質量%以上である、特にケイ砂を主体とする天然骨材が用いられ、その充填率が53%以上のものであることに加えて、0.30W/m・K以上の、高い熱伝導率を有するレジンコーテッドサンドとして構成されているところから、そのようなレジンコーテッドサンドを用いて造型される鋳型の熱伝導率が、効果的に高められ得ることとなるのであり、これによって、造型して得られる鋳型の内部まで効果的に硬化せしめ得て、未硬化部位の存在が有利に抑制乃至は解消され得ることとなるところから、鋳造に際して、金属溶湯の熱を鋳型全体により均一に伝え易くなるのであり、そのために、そのような金属溶湯の熱にて、耐火性骨材を結合する樹脂粘結剤の結合力を有利に低下せしめ得ることによって、鋳型の崩壊性が効果的に向上せしめられ得ることとなるのである。
【0016】
しかも、そのような本発明に従うレジンコーテッドサンドを用いて造型して得られる鋳型においては、熱伝導性に優れていることによって、従来の如き、造型時の加熱によっても充分に硬化し得ない未硬化部位の存在が効果的に低減乃至は消滅され得ることとなるところから、強度等の鋳型特性の向上が有利に実現され得るようになると共に、造型サイクル時間も効果的に短縮され得、更には、鋳造時における鋳型からのガス発生量の低減も効果的に図られ得ることとなるところから、鋳物欠陥の発生の抑制乃至は阻止をも、有利に実現され得ることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例において中子の崩壊性を測定するために用いた鋳造試験用砂型の縦断面説明図である。
【
図2】実施例において廃中子を内包したアルミニウム合金鋳物の縦断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ところで、本発明に従うレジンコーテッドサンド(RCS)は、耐火性骨材と樹脂粘結剤とを混練して、かかる耐火性骨材の表面を、樹脂粘結剤にて被覆することによって得られるものであり、そこにおいて、耐火性骨材としては、RCSの熱伝導率を向上せしめる上において、ケイ砂を主体とする耐火性粒子、特に天然粒子(骨材)が用いられ、そこでは、ケイ砂のみを使用する場合の他、ケイ砂に公知の鋳物砂を混合せしめてなる混合砂であっても、何等差し支えなく、更に、それらの回収砂や再生砂であっても、同様に使用可能である。尤も、そのような耐火性粒子からなる耐火性骨材は、一般に、50質量%以上のSiO2 を含有していることが望ましく、特に60質量%以上、中でも70質量%以上のSiO2 含有量であることが望ましく、これによって、RCSの熱伝導率の向上により一層有利に寄与し得ることとなる。
【0019】
そして、本発明にあっては、かくの如き耐火性粒子として、充填率が53%以上であるものが用いられることとなる。このような充填率を有する耐火性粒子は、小さな粒子を除去したり、研磨等により粒子の角を丸めたり、更には球状化したり、粒度を整える等の処置を施したりすることによって、得ることが可能である。なお、かかる充填率よりも低い耐火性粒子を用いた場合にあっては、熱伝導率が良好なRCSを得ることが困難となり、そのために、そのようなRCSを用いて造型された鋳型の崩壊性を改善することも困難となるからである。
【0020】
なお、かかる充填率は、鋳物砂の見掛の容積中に占める砂粒子の充填部の容積の比率を言うものであり、本発明において、そのような充填率は、以下の方法で測定した数値として、定義されるものである。即ち、先ず、200mlのメスシリンダーに、水:メタノール=7:3(重量比)の混合溶液の100mlを収容し、これに、別のメスシリンダーで流し込み法によって計量した鋳物砂(耐火性粒子)の100mlを徐々に加えた後に、密閉し、気泡が出なくなったことを確認した後、メスシリンダーの液面を読み、この数値:Mmlと200mlの目盛りとの差:200-Mを、空隙率:Vとして求め、更に、この空隙率:Vを100から減じてなる値:100-Vを、充填率:Xとして、求められるものである。なお、メスシリンダーに収容される液体として、水とメタノールの混合液に代えて、水に界面活性剤を加えたものや、他の液体を用いることも可能である。
【0021】
また、そのような耐火性粒子(耐火性骨材)は、一般に、30~90のAFS指数を有していることが望ましく、中でも、好ましくは35~80、より好ましくは40~70のAFS指数を有していることが望ましい。このAFS指数が30よりも小さくなると、耐火性粒子の粒度が大きくなり過ぎて、熱伝導度に悪影響をもたらす他、鋳型としての特性を低下せしめる恐れがあり、更に、鋳肌の悪化等の問題も惹起されることとなる。一方、AFS指数が90を超えるようになると、耐火性粒子の粒度が小さくなり過ぎて、樹脂粘結剤と混練したときに、耐火性粒子の凝集物であるダマの発生量が多くなることに加えて、熱伝導率の向上を充分に実現し難くなる等の問題が惹起され易くなる。
【0022】
本発明に従うRCSは、上述の如き耐火性骨材に、所定の樹脂粘結剤を混練せしめて、かかる耐火性骨材の表面を、樹脂粘結剤にて被覆することによって形成されるものであるが、その際、用いられる樹脂粘結剤としては、従来から公知の各種のものを挙げることが出来、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、アミンポリオール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂等の中から、適宜に選択して用いられることとなるが、本発明にあっては、フェノール樹脂が有利に用いられることとなる。
【0023】
ところで、かかる本発明において、樹脂粘結剤として好適に用いられるフェノール樹脂は、よく知られているように、フェノール類とアルデヒド類とを酸性触媒又は塩基性触媒の存在下において反応させることにより得られる、固体状乃至は液体状(ワニス形態のものやエマルジョン形態のものを含む)の縮合生成物であって、そこで用いられる触媒の種類によって、ノボラック型又はレゾール型と称されるものであり、所定の硬化剤乃至は硬化触媒の存在下又は非存在下において加熱することにより、熱硬化性を発現するフェノール樹脂である。
【0024】
なお、そのようなフェノール樹脂の原料として用いられるフェノール類は、フェノール及びフェノールの誘導体を意味するものであって、例えば、フェノールの他に、クレゾール、キシレノール、p-tert-ブチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール、レゾルシノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA等の多価フェノール、ナフトール類等、及びそれらの混合物等の公知のものを挙げることが出来、そして、それらのうちの1種が、単独で、或いは2種以上が組み合わされて、用いられることとなる。
【0025】
また、アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンの他、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、パラアルデヒド、プロピオンアルデヒド等を挙げることが出来、更にそれら以外の公知のアルデヒド化合物も適宜に用いることが出来る。そして、それらアルデヒド類は、単独で用いられても、2種以上を組み合わせて用いられても、何等差支えない。
【0026】
ここで、本発明において用いられるノボラック型フェノール樹脂は、上記したフェノール類とアルデヒド類とを用いて、よく知られているように、酸性触媒、例えば塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸等の有機酸、更には、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酸化マグネシウム、酢酸亜鉛等の酸性物質にて縮合反応させて、形成されるものである。なお、その際、アルデヒド類(F)とフェノール類(P)の配合モル比(F/P)としては、用いられる反応触媒の種類等に応じて、適宜に選定されるところであるが、好ましくは0.55~0.80の範囲内において選定されることとなる。
【0027】
一方、レゾール型フェノール樹脂は、上記のフェノール類とアルデヒド類とを用いて、従来と同様にして、公知の塩基性触媒にて縮合反応せしめることにより、形成されることとなる。なお、塩基性触媒としては、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や、アルカリ土類金属の酸化物を用いることが出来る他、ジメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ナフタレンジアミン等のアミン類、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミンや、その他2価金属のナフテン酸塩や2価金属の水酸化物等を用いることが出来る。また、そのような縮合反応におけるアルデヒド類とフェノール類の配合モル比(F/P)は、そこで用いられる反応触媒の種類等に応じて、適宜に選定されるところであるが、一般に1.1~4.0の範囲内において選定されることとなる。
【0028】
なお、上記のノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂は、それぞれ、単独で用いられる他、適宜の割合で混合して用いられても、何等差支えなく、また、公知の如く、フェノールの一部をビスフェノールA、ナフトール等の成分に変更して得られる変性フェノール樹脂も使用可能であり、更には、ベンジリックエーテル型のフェノール樹脂として用いることも可能である。
【0029】
また、上記したフェノール樹脂の如き樹脂粘結剤を、耐火性骨材に混練せしめるに際して、かかる樹脂粘結剤の配合量としては、使用する樹脂の種類や要求される鋳型の強度等を考慮して、適宜に決定されるところであって、一義的に規定され得るものではないが、一般的には、耐火性骨材の100質量部に対して、0.2~10質量部程度の範囲内であり、好ましくは0.5~8質量部、更に好ましくは1~5質量部の範囲内とされることとなる。
【0030】
ところで、本発明の望ましい態様によれば、本発明に従うRCSには、更に、金属酸化物が含有せしめられ、これによって、鋳型の崩壊性がより一層向上せしめられ得ることとなる。そのような金属酸化物は、一般に、平均粒子径が10μm以下の粒子乃至は粉状形態を呈するものであって、耐火性骨材と樹脂粘結剤の混練に際して配合されて、RCS中に含有せしめられることとなる。そして、そのような金属酸化物は、具体的には、鉄、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛等の金属の酸化物であって、例えば、酸化第一鉄、酸化第二鉄、四三酸化鉄、水酸化酸化鉄、酸化第一コバルト、酸化第二コバルト、酸化第一ニッケル、酸化第二ニッケル、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化亜鉛等を挙げることが出来る。また、そのような金属酸化物の含有量としては、一般に、耐火性骨材の100質量部に対して、0.1~3質量部程度、好ましくは0.1~1質量部程度、更に好ましくは0.1~0.5質量部程度とされることとなる。
【0031】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、本発明に従うRCSには、上記した金属酸化物と共に、或いは、それに代えて、崩壊性向上剤として、酸素酸塩、リン酸エステル及び脂肪族縮合リン酸エステルのうちの少なくとも何れか一つが、更に含有せしめられ、これによって、そのようなRCSを用いて造型される鋳型の崩壊性が効果的に向上せしめられることとなる。なお、ここで用いられる酸素酸塩としては、一般に、アルカリ金属の酸素酸塩であることが望ましく、具体的には、硝酸アルカリ金属塩、過マンガン酸アルカリ金属塩、モリブデン酸アルカリ金属塩、タングステン酸アルカリ金属塩等を挙げることが出来る。中でも、鋳型強度面から、硝酸アルカリ金属塩、モリブデン酸アルカリ金属塩及びタングステン酸アルカリ金属塩が好ましく、更には、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等に代表される硝酸のアルカリ金属塩が、特に好ましく用いられることとなる。このような酸素酸塩の含有量としては、一般に、樹脂粘結剤の100質量部に対して、0.1~50質量部程度、好ましくは1~20質量部程度の割合が採用されることとなる。
【0032】
また、かかる酸素酸塩と共に、又はそれに代えて、含有せしめられるリン酸エステル及び/又は脂肪族縮合リン酸エステルとしては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-2-エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジエチル-N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、ブチルホスホン酸ジブチル等の脂肪族や芳香族の各種のリン酸エステル類、Fyrol PNX(ICL JAPAN株式会社製)等の脂肪族縮合リン酸エステル類を挙げることが出来、それらの中から適宜に選択、使用されることとなる。なお、このリン酸エステル類及び/又は脂肪族縮合リン酸エステル類の含有量としては、一般に、樹脂粘結剤の100質量部に対して、0.5~30質量部、より好ましくは1~10質量部程度の割合が、採用されることとなる。
【0033】
なお、本発明にあっては、上述の如き配合成分の他にも、必要に応じて、RCSや鋳型の物性改善等を目的として、従来より一般的に用いられている各種の添加剤も、適宜に配合されて、RCS中に含有せしめることが可能である。例えば、RCSの流動性の向上等に寄与する滑剤として、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックス、モンタン酸ワックス等のワックス類;ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド等の脂肪酸アマイド類;メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド等のアルキレン脂肪酸アマイド類は、樹脂、RCSの何れの製造時にも含有させることが可能である。ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸金属塩、ステアリン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレート、硬化油等は、RCS製造時に添加することが可能である。また、鋳型の硬化速度の向上に寄与する添加剤として、ベンゼンカルボン酸類;安息香酸、サリチル酸、パラアミノ安息香酸、アントラニル酸、フタル酸、テレフタル酸等を、樹脂、RCSの何れの製造時に含有させることも可能である。更に、耐火性骨材と樹脂粘結剤との結合を強化するカップリング剤を含有せしめることも有効であり、例えば、シランカップリング剤、ジルコンカップリング剤、チタンカップリング剤等を、樹脂、RCSの何れの製造時にも含有させることが出来る。加えて、離型剤として、パラフィン、ワックス、軽油、マシン油、スピンドル油、絶縁油、廃油、植物油、脂肪酸エステル、有機酸、黒鉛微粒子、雲母、蛭石、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤等も使用可能である。
【0034】
ところで、上述せる如き配合成分を用いて、本発明に従うRCSを製造するに際しては、所定の耐火性粒子(骨材)に対して、樹脂粘結剤や他の配合成分が、常法に従って混練せしめられることとなるのであるが、そこで採用される製造法としては、特に限定されるものではなく、ドライホットコート法やセミホットコート法、コールドコート法、粉末溶剤法等の、従来から公知の方法が、何れも採用され得るところである。尤も、本発明にあっては、特に、ワールミキサーやスピードミキサー等の混練機内で、予熱された耐火性粒子と樹脂粘結剤とを混練した後、ヘキサメチレンテトラミン等の所定の硬化剤や硬化促進剤の水溶液、更には他の配合成分等を加えると共に、送風冷却によって塊状内容物を粒状に分離させ、次いで、ステアリン酸カルシウムの如き滑剤を加える、所謂ドライホットコート法の採用が推奨される。なお、樹脂粘結剤や硬化剤/硬化促進剤等を耐火性粒子と混練せしめるタイミングとしては、当業者の知識に基づいて適宜に選定されるところであって、単独に、順次混練せしめられる他、適宜に組み合わせて混練することも可能である。
【0035】
かくして得られる本発明に従うRCSにあっては、その粒状形態において熱伝導率を測定したときに、従来からのRCSとは異なり、0.30W/m・K以上、好ましくは0.33W/m・K以上の熱伝導率を有しているものであって、これにより、本発明の目的とする鋳型崩壊性の向上に有利に寄与し得ることとなるのである。ここで、RCSの熱伝導率は、JIS-R-2551-1:2007に準拠した非定常熱線加熱法(プローブ法)により、測定され得るものである。具体的には、京都電子工業株式会社製の迅速熱伝導率計(QTM-710)を用いて、所定の粉体容器内に、測定対象であるRCSを収容して、プローブ(加熱線+熱電対)を用いて、かかる加熱線に一定電流を通じて発熱させる一方、加熱線の温度を熱電対にて測定して、その得られた昇温グラフ(時間軸を対数目盛りにしたグラフ)の傾きから、測定対象であるRCSの熱伝導率が、求められるのである。
【0036】
また、かくの如き本発明に従うRCSは、その製造工程において生じる、複数の耐火性粒子が結合(凝集)した複合粒子である、所謂ダマの含有量が少ないものであることが望ましく、一般に、製造工程から取り出されたRCSを篩分けしたとき、20メッシュの篩を通過し得なかったもの、換言すれば20メッシュ篩上のダマ量が、RCSの総量に対して3質量%以下、より好ましくは1質量%以下であることが推奨されるのである。これに反して、RCS中のダマ量が多くなると、鋳型を造型するための成形型の成形キャビティ内への充填性が悪くなって、鋳型の硬化特性に悪影響をもたらし、鋳型強度等の鋳型特性の向上を充分に図り難くなることに加えて、鋳造後における鋳型の崩壊性も充分でなくなる等の問題を、惹起するようになる。なお、かかるダマの含有量は、本発明に関わる好ましい範囲の粒度指数(AFS)の耐火性骨材を用いることと、添加する平均粒子径が10μm以下の金属酸化物等の量を好ましい範囲に制限することで、制御が可能となる。
【0037】
さらに、上述の如くして得られるRCSを用いて、シェルモールド鋳型の如き、所定の鋳型を造型するに際しては、かかるRCSの加熱硬化を図るべく、加熱下において、目的とする鋳型の造型が行なわれることとなるが、そのような加熱造型方法としては、特に限定されるものではなく、従来から公知の手法が、何れも有利に用いられることとなる。例えば、上述せる如きRCSを、目的とする鋳型を与える所望の形状空間を有する、150~300℃程度に予熱された成形型内に、重力落下方式や吹込み方式等によって充填せしめ、硬化させた後、かかる成形型から硬化した鋳型を抜型することにより、目的とする鋳造用鋳型を得ることが出来るのである。
【0038】
また、かかる造型して得られた鋳型を用いて、アルミニウム溶湯等の所定の金属溶湯の鋳造が行なわれ、その凝固の後、ノックアウトマシン等の振動機を用いて、鋳物に振動を与えて、鋳型を崩壊させることにより、鋳型が除去されることとなるのであるが、本発明に従うRCSを用いた鋳型にあっては、RCS自体が高い熱伝導率を有するものであるところから、注湯される金属溶湯の熱によって、耐火性骨材を結合する樹脂粘結剤の劣化が効果的に進行され得て、結合力が有利に低下せしめられているところから、短時間の振動の付与によって容易に鋳型が崩壊せしめられ得、以て、鋳型(鋳物砂)の除去作業が簡便に且つ容易に行なわれ得ることとなったのである。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。なお、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0040】
また、以下の記載において、部及び%は、充填率が容器%であること以外は、特に断りのない限り、それぞれ、質量部及び質量%を意味するものである。更に、以下において製造されたRCSの各特性や、それから得られた鋳型の崩壊性については、以下の方法に従って評価されたものである。
【0041】
-ダマ含有量-
それぞれの実施例で得られたRCSを20メッシュの篩で篩分け、その篩上の20メッシュ以上の粒径を有する複合粒子(ダマ)を取り出す。ダマ量は、混練に使用した砂(耐火性骨材)の質量に対するダマの質量の質量%として、以下の式に従って算出する。
ダマ量(%)=[ダマ質量/(ダマ質量+20メッシュ以下の砂の質量)]×100
【0042】
-熱伝導率-
京都電子工業株式会社製の迅速熱伝導率計:QTM-710を用いて、先に記載の方法に従って求められた昇温グラフから、各試料(RCS)の熱伝導率を算出する。
【0043】
-鋳型強度-
各RCSを用いて得られた、幅:10mm×厚み:10mm×長さ:60mmの大きさの試験片(成形温度:250℃)について、その破壊荷重を、測定器(高千穂精機株式会社製:デジタル鋳物砂強度試験機)を用いて、測定する。そして、この測定された破壊荷重を用いて、抗折強度を、下記の式により、算出して、鋳型強度とする。
抗折強度(N/cm2)=1.5×LW/ab2
[但し、L:支点間距離(cm)、W:破壊荷重(N)、a:試験片の幅(cm)、 b:試験片の厚み(cm)]
【0044】
-崩壊性-
先ず、
図1に示されるように、幅:40mm、長さ:75mm、厚さ:25mmのサイズのドッグボーン型抗張力試験片2を、各RCSで作製して、崩壊性試験用中子とした。
【0045】
次いで、125mm×80mm×75mmのサイズにおいて、上記中子試験片2より少し大きな空間を有する外型4を別途作製し、その中に、上記の中子試験片2をセットした後、720℃の温度のアルミニウム合金溶湯を、S/M:0.383において鋳込んで、目的とする鋳物6(
図2参照)を鋳造した。
【0046】
そして、かかる鋳物6の冷却の後、鋳物6の1箇所(
図2における白抜き矢印で示される部位)に、チッピング圧:0.3MPaにおいて、エアハンマーにより振動を与えて、鋳物の排出口(径:16mm)より排出される砂の重量を時間毎に測定し、全部排出されたときの総重量で除して、その量を%で表示した。そこでは、その数値が大きくなる程、崩壊性が良好であることを示している。
【0047】
-耐火性骨材の調整-
実施例1~10及び比較例1~4において用いた耐火性骨材は、何れも、ケイ砂を主体とする耐火性粒子(天然骨材)であって、下表に示される如きSiO2 含有量、AFS指数及び充填率を有するものである。そこにおいて、実施例2における研磨再生砂は、鋳造工程から回収された鋳物砂を、常法に従って再生して、得られた再生砂を研磨したものであり、また、実施例10における耐火性骨材は、再生砂とジルコンを7:3の比率で混合して得られた混合砂である。そして、実施例1~10における耐火性骨材は、何れも、それぞれのAFS指数を与える篩を用いて篩い分けして得られたものであり、また、比較例1~4における再生砂は、鋳造工程から回収されたケイ砂を、常法に従って再生して得られたものである。なお、各骨材中のSiO2 含有量は、蛍光X線分析法で測定されたものであり、また充填率は、明細書本文中において説明した測定方法によって求められたものである。
【0048】
-実施例1-
150℃に加熱した新砂(オーストラリア産の天然ケイ砂、商品名:フラタリー)の100部に、市販のノボラック型フェノール樹脂(旭有機材株式会社、SP610、軟化点約90℃)の1.6部と、金属酸化物である酸化第二銅の0.1部と、硝酸カリウム(酸素酸塩)及びリン酸トリブチル(リン酸エステル)の下表に示される割合とを加えて、スピードミキサーで50秒間混練した後、ヘキサメチレンテトラミンの0.23部を水1.5部に溶解してなる溶液を添加して、砂が個々の粒子に分離するようになるまで混練し、更にステアリン酸カルシウムの0.1部を添加して15秒間混合した後、ミキサーから排出することにより、目的とするRCSを得た。
【0049】
-実施例2~実施例10-
耐火性骨材として、下記表1に示されるものを用いると共に、金属酸化物、酸素酸塩、リン酸エステル、脂肪族縮合リン酸エステルとして、下記表1に示されるものを用いることとしたこと以外は、実施例1と同様にして、目的とするRCSをそれぞれ製造した。
【0050】
【0051】
-比較例1~比較例4-
耐火性骨材として、下記表2に示される再生砂(ケイ砂)を用いると共に、フェノール樹脂の添加量を2.6部とする一方、下記表2に示される割合の金属酸化物、酸素酸塩又はリン酸エステルを添加することとしたこと以外は、実施例1と同様にして、各種のRCSを製造した。
【0052】
【0053】
-RCSの評価-
上記の実施例1~10及び比較例1~4において、それぞれ製造されたRCSについて、そのダマ含有量、熱伝導率、鋳型強度について評価すると共に、それらRCSから得られる鋳型の鋳造試験を実施して、その崩壊性の評価を行い、それらの結果を、下記表3及び表4に示した。
【0054】
【0055】
【0056】
かかる表3及び表4の結果から明らかな如く、実施例1~10において得られた各RCSは、何れも、耐火性骨材として、充填率が53%以上の耐火性粒子を用いたものであると共に、RCSの熱伝導率が0.30W/m・K以上となるものであり、しかも、ダマ含有量が3%以下である性状であるところから、鋳造後における鋳型の崩壊が、振動を加えると、直ちに進行して、その崩壊性が極めて良好であることが認められる。特に、実施例1~4において得られたRCSは、何れも、鋳型の崩壊性において極めて優れた結果を示すものであった。
【0057】
これに対して、比較例1~4において得られたRCSにあっては、高いSiO2 含有量を有する耐火性粒子を用いてはいるものの、その充填率が低く、そのために、ダマ含有量が多くなり、また熱伝導率も低くなるものであるところから、金属酸化物、酸素酸塩又はリン酸エステルを含有せしめてなるRCSにあっても、鋳型の崩壊性試験において、振動を加えるノックアウト時間が10秒以内では、鋳型の崩壊が認められず、鋳型の崩壊性において、劣るものであることが認められた。
【符号の説明】
【0058】
2 中子試験片
4 外型
6 鋳物