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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】歯科用口腔内装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/06 20060101AFI20240729BHJP
   A61F 5/56 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
A61M16/06 D
A61F5/56
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020219722
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104465
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石▲橋▼ 美咲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲司
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-055699(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203981(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0001160(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0085546(US,A1)
【文献】米国特許第04955393(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0036165(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/06
A61F 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内に装着して、上顎に対して下顎を前方に移動した状態で保持する歯科用口腔内装置であって、
上顎の歯牙に装着される上顎装着部と、
下顎の歯牙に装着される下顎装着部と、
前記上顎装着部と前記下顎装着部とを連結する連結部と、を備え、
前記上顎装着部と、前記下顎装着部と、前記連結部とは、均質な材料で一体に形成され
前記連結部の少なくとも一部は、孔を有する単位領域が略規則的に配置されて形成され、
前記単位領域の奥歯部分に形成された孔の径は、前記単位領域の前歯部分に形成された孔の径より小さくなるように形成されている
ことを特徴とする、歯科用口腔内装置。
【請求項2】
前記材料は、ガラス転移温度が80℃以上であるものを含む
ことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項3】
前記材料の曲げ弾性率は、1000MPa以上3500MPa以下である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項4】
前記材料は、重合性単量体を含む光硬化性組成物である
ことを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項5】
前記連結部は、前記上顎装着部と前記下顎装着部を前歯部分から奥歯部分にわたって全体的に連結している
ことを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項6】
前記連結部の少なくとも一部は、メッシュ状に形成されている
ことを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項7】
前記単位領域の断面形状は、平面充填を利用して形成されている
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項8】
前記単位領域の断面形状は、平面充填できる多角形を利用して形成されている
ことを特徴とする、請求項7に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項9】
前記単位領域の断面形状は、平面充填できる正多角形を利用して形成されている
ことを特徴とする、請求項7又は8に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項10】
前記単位領域の断面形状は、一種類で平面充填できる多角形を利用して形成されている
ことを特徴とする、請求項7~9の何れか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項11】
前記単位領域の断面形状は、一種類で平面充填できる正多角形を利用して形成されている
ことを特徴とする、請求項7~10の何れか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項12】
前記単位領域は、空間充填できる立体で形成されている
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項13】
前記単位領域は、空間充填できる多面体で形成されている
ことを特徴とする、請求項12に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項14】
前記単位領域は、空間充填できる一様多面体で形成されている
ことを特徴とする、請求項12又は13に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項15】
前記単位領域は、一種類で空間充填できる多面体で形成されている
ことを特徴とする、請求項12~14の何れか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項16】
前記単位領域は、一種類で空間充填できる一様多面体で形成されている
ことを特徴とする、請求項12~15の何れか一項に記載の歯科用口腔内装置。
【請求項17】
口腔内に装着する歯科用口腔内装置の製造方法であって、
患者の口腔内の情報を取得する口腔内情報取得ステップと、
患者の気道の気道画像を取得する気道画像取得ステップと、
前記気道画像に基づいて、上顎の歯牙に装着される上顎装着部に対する、下顎の歯牙に装着される下顎装着部の前方移動量を選択する移動量選択ステップと、
前記口腔内情報取得ステップで取得した前記情報と、前記移動量選択ステップで選択した前記前方移動量とに基づいていて、前記上顎装着部と、前記下顎装着部と、前記上顎装着部と前記下顎装着部とを連結する連結部と、を一体にし、前記連結部の少なくとも一部が、孔を有する単位領域が略規則的に配置して形成され、前記単位領域の奥歯部分に形成された孔の径が、前記単位領域の前歯部分に形成された孔の径より小さくなるように形成された三次元造形データを生成する三次元データ生成ステップと、
前記三次元造形データに基づいて、三次元造形をする三次元造形ステップと、を含む
ことを特徴とする、歯科用口腔内装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に装着する歯科用口腔内装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群等の治療用の歯科用口腔内装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、上顎用及び下顎用の2つのセパレート型のマウスピースを少なくとも1枚の接着片で接着固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-080225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、異種材料の接着により作製された構造体は、破壊が生じやすい。まず、界面の汚れ、水分、気泡等により接着面が減少し、さらにノッチのように働いて応力集中を招くことで、接着強度は著しく低下する。それらが極力低減されたとしても、接着界面は不均一であり、接着部の端は、中央よりも応力集中しやすいことが知られている。この作用は、接着材が薄くなるほど顕著になり、接着に用いた材料そのものが局所的に伸びることで、さらに著しくなる。加えて、異種材料の物理的化学的性質の相違によって、不可避的に残留ひずみや残留応力が発生する。つまり、接着界面や接着材は、あらかじめ力がかかった状態になる。これは、自然剥離や亀裂を発生させる。
【0006】
特許文献1に記載の歯科用口腔内装置は、熱可塑性樹脂で形成された上顎用及び下顎用のマウスピースを、強化繊維で形成された接着片で接着固定しているため、接着界面で破壊が生じやすい、という問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、破壊が生じにくい歯科用口腔内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の歯科用口腔内装置は、口腔内に装着して、上顎に対して下顎を前方に移動した状態で保持する歯科用口腔内装置であって、上顎の歯牙に装着される上顎装着部と、下顎の歯牙に装着される下顎装着部と、前記上顎装着部と前記下顎装着部とを連結する連結部と、を備え、前記上顎装着部と、前記下顎装着部と、前記連結部とは、均質な材料で一体に形成されている。さらに、前記連結部の少なくとも一部は、孔を有する単位領域が略規則的に配置されて形成され、前記単位領域の奥歯部分に形成された孔の径は、前記単位領域の前歯部分に形成された孔の径より小さくなるように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された本発明の歯科用口腔内装置は、破壊を生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のオーラルアプライアンスと上顎及び下顎を示す分解側面図である。
図2】実施例1のオーラルアプライアンスを口腔内に装着した状態を示す断面図であり、単位領域を概略的に示している。
図3】実施例1のオーラルアプライアンスの連結部を説明する説明図であり、単位領域を概略的に示している。
図4】実施例1の単位領域を示す斜視図である。
図5】実施例1の変形例の単位領域を示す斜視図である。
図6】実施例1の変形例の単位領域を示す斜視図である。
図7】実施例1のオーラルアプライアンスの製造方法を示すフローチャートである。
図8】実施例1の口腔内情報取得ステップを説明する説明図である。
図9】実施例1の気道画像取得ステップと移動量選択ステップを説明する説明図である。
図10】実施例1の三次元造形で製造されたオーラルアプライアンスを示す斜視図である。
図11】実施例2の単位領域を示す斜視図である。
図12】別の実施例のオーラルアプライアンスの連結部を説明する説明図であり、単位領域を概略的に示している。
図13】別の実施例の単位領域を示す斜視図である。
図14】別の実施例の単位領域を示す平面図である。
図15】別の実施例の単位領域を示す平面図である。
図16】別の実施例の単位領域を示す平面図である。
図17】別の実施例の単位領域を示す平面図である。
図18】別の実施例の単位領域を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による歯科用口腔内装置を実現する実施形態を実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
実施例1の歯科用口腔内装置は、特に睡眠時に装着して種々の疾患の治療、症状緩和を意図するマウスピース類に用いることができる。具体的には、たとえば睡眠時無呼吸やいびきなどの症状を緩和するためのオーラルアプライアンス、顎関節疾患の治療のため顎を保定するマウスピース、歯ぎしり防止のためのマウスピースなどに用いることができる。実施例1における歯科用口腔内装置は、口腔内に装着して、上顎に対して下顎を前方に移動した状態で保持するオーラルアプライアンスに適用される。
【0013】
[オーラルアプライアンスの構成]
図1は、実施例1のオーラルアプライアンスと上顎及び下顎を示す分解側面図である。図2は、実施例1のオーラルアプライアンスを口腔内に装着した状態を示す断面図であり、単位領域を概略的に示している。図3は、実施例1のオーラルアプライアンスの連結部を説明する説明図であり、単位領域を概略的に示している。図4は、実施例1の単位領域を示す斜視図である。図5は、実施例1の変形例の単位領域を示す斜視図である。図6は、実施例1の変形例の単位領域を示す斜視図である。以下、実施例1のオーラルアプライアンスの構成を説明する。
【0014】
オーラルアプライアンス30は、三次元データに基づいて、三次元造形装置によって形成される。図1に示すように、オーラルアプライアンス30は、患者1の口腔2に装着される。オーラルアプライアンス30は、上顎10の歯牙11と、下顎20の歯牙21に装着されて、上顎10に対して下顎20を前方に移動した状態で保持する。
【0015】
図1の下図に示すように、上顎10の歯牙11は、歯牙11の根元を取り巻く歯肉15によって支持される。上顎10の歯牙11は、前歯11aと臼歯11bとで構成される。下顎20の歯牙21は、歯牙21の根元を取り巻く歯肉25によって支持される。下顎20の歯牙21は、前歯21aと臼歯21bとで構成される。
【0016】
図1及び図2に示すように、オーラルアプライアンス30は、上顎10に装着される上顎装着部31と、下顎20に装着される下顎装着部32と、上顎装着部31と下顎装着部32とを連結する連結部40と、を備えている。
【0017】
(上顎装着部)
上顎装着部31は、上顎10の全部の歯牙11と、上顎10の一部の歯肉15を覆うように、凹溝状に形成されている。すなわち、上顎装着部31は、上顎10の全部の歯牙11に装着される。
【0018】
(下顎装着部)
下顎装着部32は、下顎20の全部の歯牙21と、下顎20の一部の歯肉25を覆うように、凹溝状に形成されている。すなわち、下顎装着部32は、下顎20の全部の歯牙21に装着される。
【0019】
(連結部)
図1に示すように、連結部40は、上顎装着部31と下顎装着部32を前歯部分から奥歯部分にわたって全体的に連結している。具体的には、図2に示すように、上顎装着部31の下部と、下顎装着部32の上部とを、前歯部分から奥歯部分にわたって全体的に連結している。
【0020】
連結部40は、メッシュ状に形成することができる。メッシュ状とは、規則的な、あるいは少なくとも一部がランダムに配置されている立体網目構造を指す。連結部40は、孔41bを有する単位領域41が略規則的に全体的に配置されて、メッシュ状に形成されることもできる。
【0021】
図1に示すように、奥歯部分に形成された単位領域41の孔41bの径は、前歯部分に形成された単位領域41の孔41bの径より小さくなるように形成することもできる。
【0022】
なお、連結部40は、少なくとも一部が、メッシュ状に形成されていてもよい。例えば、連結部40は、前歯部分だけがメッシュ状に形成されていてもよい。
【0023】
図3に示すように、単位領域41の断面形状は、単位領域41の基となる平面51に形成された基礎単位領域41Aを、曲面52に投影した投影形状とする。すなわち、平面51に略規則的に配置された基礎単位領域41Aを、曲面52に投影した投影形状が、連結部40に形成される単位領域41の断面形状となる。
【0024】
単位領域41は、連結部40の内周面40a又は外周面40bに垂直な方向に貫通した孔41bを有している。孔41bは、口腔内から口腔外に向けて開口している。
【0025】
単位領域41の断面形状は、平面充填を利用して形成されてもよい。図4図6に、単位領域41の一例を示す。
【0026】
(単位領域が正六角形)
図4に示すように、単位領域41の断面形状は、一種類で平面充填できる正多角形である正六角形を利用して形成される。すなわち、基礎単位領域41Aは、一種類で平面充填できる正多角形である正六角形で形成される。
【0027】
単位領域41は、側壁41aによって筒状に形成され、連結部40の内周面40a又は外周面40bに垂直な方向に貫通した孔41bを有する。
【0028】
単位領域41の一辺の長さLは、例えば、0.1[mm]以上とすることが唾液の通過性の面から好ましい。単位領域41の高さHは、所定の値にすることができる。側壁41aの厚さTは、所定の値(例えば、0.02[mm])にすることができる。長さLに対する厚さTの比L/Tは、1.25~50が好ましく、1.5~40がより好ましく、2.0~30がさらに好ましい。長さLに対する厚さTの比L/Tが1.25以上であることで唾液が通過しやすくなり、長さLに対する厚さTの比L/Tが50以下であることで辺を構成する側壁が座屈しにくくなる。
【0029】
(単位領域が正三角形)
図5に示すように、他の例の単位領域41の断面形状は、一種類で平面充填できる正多角形である正三角形を利用して形成される。すなわち、基礎単位領域41Aは、一種類で平面充填できる正多角形である正三角形で形成される。
【0030】
単位領域41は、側壁41aによって筒状に形成され、連結部40の内周面40a又は外周面40bに垂直な方向に貫通した孔41bを有する。
【0031】
単位領域41の一辺の長さLは、例えば、0.1[mm]以上とすることが唾液の通過性の面から好ましい。単位領域41の高さHは、所定の値にすることができる。側壁41aの厚さTは、所定の値(例えば、0.02[mm])にすることができる。長さLに対する厚さTの比L/Tは、2.5~100が好ましく、3.0~90がより好ましく、3.5~80がさらに好ましい。長さLに対する厚さTの比L/Tが2.5以上であることで唾液が通過しやすくなり、長さLに対する厚さTの比L/Tが100以下であることで辺を構成する側壁が座屈しにくくなる。
【0032】
(単位領域が正四角形)
図6に示すように、さらに異なる例の単位領域41の断面形状は、一種類で平面充填できる正多角形である正四角形を利用して形成されてもよい。すなわち、基礎単位領域41Aは、一種類で平面充填できる正多角形である正四角形で形成される。
【0033】
単位領域41は、側壁41aによって筒状に形成され、連結部40の内周面40a又は外周面40bに垂直な方向に貫通した孔41bを有する。
【0034】
単位領域41の一辺の長さLは、例えば、0.1[mm]以上とすることが唾液の通過性の面から好ましい。単位領域41の高さHは、所定の値にすることができる。側壁41aの厚さTは、所定の値(例えば、0.02[mm])にすることができる。長さLに対する厚さTの比L/Tは、2.0~80が好ましく、2.5~70がより好ましく、3.0~60がさらに好ましい。長さLに対する厚さTの比L/Tが2.0以上であることで唾液が通過しやすくなり、長さLに対する厚さTの比L/Tが80以下であることで辺を構成する側壁が座屈しにくくなる。
【0035】
なお、単位領域41の断面形状は、正六角形や、正三角形や、正四角形で形成される態様に限定されず、一種類で平面充填できる正多角形や、一種類で平面充填できる多角形や、平面充填できる正多角形や、平面充填できる多角形を利用することができる。
【0036】
[オーラルアプライアンスの製造方法]
図7は、実施例1のオーラルアプライアンスの製造方法を示すフローチャートである。図8は、実施例1の口腔内情報取得ステップを説明する説明図である。図9は、実施例1の気道画像取得ステップと移動量選択ステップを説明する説明図である。図10は、実施例1の三次元造形で製造されたオーラルアプライアンスを示す斜視図である。以下、実施例1のオーラルアプライアンスの製造方法を説明する。
【0037】
図7に示すように、オーラルアプライアンス30は、口腔内の情報を取得する口腔内情報取得ステップ(ステップS101)と、患者1の気道5の気道画像Qを取得する気道画像取得ステップ(ステップS102)と、上顎装着部31に対する下顎装着部32の前方移動量を選択する移動量選択ステップ(ステップS103)と、上顎装着部31と下顎装着部32を一体にした三次元造形データを生成する三次元データ生成ステップ(ステップS104)と、三次元造形をする三次元造形ステップ(ステップS105)と、を経て製造される。
【0038】
(口腔内情報取得ステップ)
口腔内情報取得ステップでは、例えば、口腔内スキャナーにより採得したり、シリコーン・アルジネート印象から作製した模型をスキャンしたりして、口腔内の情報を取得する。図8は、取得した口腔内の情報としてのスキャナー画像Pを示している。
【0039】
(気道画像取得ステップ)
気道画像取得ステップでは、例えば、ジョージゲージ等の下顎前方移動量計測器を、仰臥位の患者1に装着して、下顎20を前方に段階的に移動させて、画像取得装置によって、気道画像Qを取得する。なお、前方移動量を変えて作製したマウスピースを患者1に装着して、下顎20を前方に段階的に移動させて、画像取得装置によって、気道画像Qを取得してもよい。また、気道画像Qを取得する際は、患者1は、仰臥位であることが好ましいが、仰臥位が困難な場合は立位や座位でもよい。画像取得装置は、内視鏡やCTや3DCT等とすることができる。
【0040】
図9には、下顎20を4段階に移動させて取得した気道画像Q1~Q4を示している。図9(a)~図9(d)は、上図に患者1の頭部の縦断面図を示し、下図に患者1の咽頭部の横断面を示している。
【0041】
図9(a)に示すように、下顎20を移動していない状態では、舌4の付け根である舌根4aが沈下しており、気道5がかなり塞がれている。図9(b)に示すように、下顎20が最大前方位(下顎20を前方に最大限移動した位置)の20%の位置に移動した状態では、舌根4aの沈下が大分改善され、塞がれていた気道5が開いている。図9(c)に示すように、下顎20が最大前方位の50%の位置に移動した状態では、舌根4aの沈下がほぼ改善され、塞がれていた気道5が開いている。図9(c)に示すように、下顎20が最大前方位の位置に移動した状態では、舌根4aの沈下がほぼ改善され、塞がれていた気道5が開いている。
【0042】
(移動量選択ステップ)
移動量選択ステップでは、気道画像Qに基づいて、上顎10の歯牙11に装着される上顎装着部31に対する、下顎20の歯牙21に装着される下顎装着部32の前方移動量を選択する。具体的には、図9に示すように、気道画像Qに基づいて、塞がれていた気道5が著しく拡大している、下顎20が最大前方位の20%の位置を選択する。
【0043】
なお、気道画像Qから、気道5の断面積や容積を算出して、予め定められた判断基準より大きくなった移動量を選択してもよい。また、例えば、下顎20の最大前方位の0%と、20%と、50%をまず試し、最大前方位の20%で気道5が拡大したら、次は下顎20の最大前方位の5%と、10%と、15%を試すように、より前方移動量が少なくなるように、選択することが好ましい。前方移動量を少なくすることにより、患者が就寝時に違和感を覚えにくくなり、オーラルアプライアンス30の装着率が向上する。また、副作用として生じうる顎関節疾患や咬合の不調和を低減するなどの効果が期待できる。
【0044】
(三次元データ生成ステップ・三次元造形ステップ)
三次元データ生成ステップでは、口腔内情報取得ステップで取得した口腔内の情報と、移動量選択ステップで選択した前方移動量とに基づいていて、上顎10の歯牙11に装着される上顎装着部31と、下顎20の歯牙21に装着される下顎装着部32と、上顎装着部31と下顎装着部32とを連結する連結部40と、を一体にした三次元造形データを生成する。
【0045】
三次元造形ステップでは、生成した三次元造形データに基づいて、三次元造形によって、図10に示すようなオーラルアプライアンス30を造形する。
【0046】
このように構成されたオーラルアプライアンス30は、就寝する際に、患者1の上顎10の歯牙11と、下顎20の歯牙21とに装着されて、気道5を確保することで、睡眠時無呼吸症候群等の症状を緩和する。
【0047】
[歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス)の作用]
以下、実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の作用を説明する。実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)は、口腔内に装着して、上顎10に対して下顎20を前方に移動した状態で保持する歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)であって、上顎10の歯牙11に装着される上顎装着部31と、下顎20の歯牙21に装着される下顎装着部32と、上顎装着部31と下顎装着部32とを連結する連結部40と、を備え、上顎装着部31と、下顎装着部32と、連結部40とは、均質な材料(例えば、アクリル樹脂)で一体に形成されている(図1)。
【0048】
ここで、「均質な材料」とは、全体的に均一な組成を持つ、単一材料又は複数の材料の組み合わせからなる材料を指す。例えば、後述する光硬化性組成物にミクロ~ナノサイズの有機微粒子や無機微粒子が分散されていたり、光硬化性組成物の造形物の内部でミクロ~ナノサイズの相分離が生じていたりしてもよい。
【0049】
これにより、上顎装着部31、下顎装着部32及び連結部40との間には物理化学的特性の差や接着界面が存在しないため、従来の歯科用口腔内装置で生じていた、物理化学的特性の差や接着界面に由来する応力集中や残留応力を低減することができる。なお、このような作用は、ミクロ~ナノレベルの材料の不均一性によってはなんら阻害されない。
【0050】
ところで、上顎装着部31と下顎装着部32とを連結する連結部40が、上顎装着部31や下顎装着部32と異なる材料を使用して、接着されていると、界面では異なる材料の性質に起因する応力集中が生じ、接着界面で破壊が生じやすい。
【0051】
実施例1では、上顎装着部31と、下顎装着部32と、連結部40とが、均質な材料で一体に形成されているので、異なる材料に起因する応力集中を避けることができる。そのため、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の強度を向上させることができ、破壊を生じにくくすることができる。
【0052】
異種の非晶質高分子同士をガラス転移温度以上で貼り合わせると、界面において分子鎖が相互侵入し、1nm程度の厚みで分子鎖の一部のみが絡み合う。すなわち、双方の最表面だけが混ざり合った領域(接着界面)が生じる。
【0053】
このような異種材料の接着界面が存在することは、以下の方法で確認できる。接着材が厚い場合には、接着に用いた材料は目視や、物理化学的性質の差、例えば、硬度や溶剤への溶解性の違いにより確認できる。接着材が薄い場合には、画像観察により確認できる。例えば、四酸化ルテニウムにより非晶質を染色して走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察する、異種材料に含まれる元素を走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM/EDX)によりマッピングする、などの方法がある。
【0054】
上顎装着部と下顎装着部とが別体で形成され、分離した連結部によって、上顎装着部と下顎装着部とが連結されることで形成される歯科用口腔内装置は、上顎装着部と下顎装着部との相対位置を調整する必要がある。そのため、上顎装着部と下顎装着部との相対位置を狙いの位置にすることが困難となる問題がある。
【0055】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)は、上顎装着部31と下顎装着部32と連結部40とが一体に形成されているので、上顎装着部31と下顎装着部32の相対的な位置を調整することがない。そのため、上顎装着部31と下顎装着部32との相対位置を狙いの位置に形成することができる。
【0056】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、連結部40は、上顎装着部31と下顎装着部32を前歯部分から奥歯部分にわたって全体的に連結している(図1)。
【0057】
ところで、上顎装着部31と下顎装着部32とを、一部分において連結すると、連結部40応力集中が生じてしまい強度が低下する、という問題がある。
【0058】
実施例1では、連結部40は、上顎装着部31と下顎装着部32を全体的に連結しているので、所定の強度を確保することができる。
【0059】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、連結部の少なくとも一部は、メッシュ状に形成されていてもよい。
【0060】
ところで、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)を口腔内に装着すると、上顎装着部31と下顎装着部32とを連結している連結部40が、口を塞いでしまい、呼吸が苦しくなる、という問題を生じる場合がある。
【0061】
連結部40の少なくとも一部がメッシュ状に形成されている場合、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)を装着した患者1にとって、呼吸し易くすることができる。
【0062】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、連結部40の少なくとも一部は、孔41bを有する単位領域41が略規則的に配置されて形成されていてもよい(図1)。
【0063】
これにより、連結部40にかかる力を等方的に分散させて、応力の集中を防ぐことができる。そのため、連結部40が弾性変形する量を増加させて、塑性変形や破壊を生じさせないようにすることができる。
【0064】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域41の断面形状は、平面充填を利用して形成されていてもよい(図3)。
【0065】
これにより、連結部40を、単位領域41で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部40を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0066】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域41の断面形状は、平面充填できる多角形を利用して形成されていてもよい(図3)。
【0067】
これにより、連結部40を、単位領域41で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部40を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0068】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域41の断面形状は、平面充填できる正多角形を利用して形成されていてもよい(図3)。
【0069】
これにより、連結部40を、単位領域41で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部40を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0070】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域41の断面形状は、一種類で平面充填できる多角形を利用して形成されていてもよい(図3)。
【0071】
これにより、連結部40を、均一な形状の単位領域41で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部40を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0072】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域41の断面形状は、一種類で平面充填できる正多角形を利用して形成されていてもよい(図3)。
【0073】
これにより、連結部40を、均一な形状の単位領域41で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部40を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0074】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域41の奥歯部分に形成された孔41bの径は、単位領域41の前歯部分に形成された孔41bの径より小さくなるように形成されていてもよい(図1)。
【0075】
これにより、睡眠時により力が加わる奥歯部分の強度を強化することができる。そのため、耐久性の優れた歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)とすることができる。
【0076】
実施例1の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の製造方法は、口腔内に装着する歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の製造方法であって、患者1の口腔内の情報を取得する口腔内情報取得ステップと、患者1の気道5の気道画像Qを取得する気道画像取得ステップと、気道画像Qに基づいて、上顎10の歯牙11に装着される上顎装着部31に対する、下顎20の歯牙21に装着される下顎装着部32の前方移動量を選択する移動量選択ステップと、口腔内情報取得ステップで取得した情報と、移動量選択ステップで選択した前方移動量とに基づいていて、上顎装着部31と、下顎装着部32と、上顎装着部31と下顎装着部32とを連結する連結部40と、を一体にした三次元造形データを生成する三次元データ生成ステップと、三次元造形データに基づいて、三次元造形をする三次元造形ステップと、を含む(図8)。
【0077】
これにより、上顎装着部31と下顎装着部32とを一体にして形成された歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)とすることができる。そのため、上顎装着部31と下顎装着部32との相対位置を狙いの位置にした歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)とすることができる。
【0078】
また、上顎装着部31と、下顎装着部32と、連結部40とを一体にした三次元造形データに基づいて、三次元造形されるので、上顎装着部31と、下顎装着部32と、連結部40とを均質な材料で一体に形成することができる。そのため、異なる材料に起因する応力集中を避けることができる。そのため、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)としての強度を向上させることができる。
【0079】
ところで、接着界面での破壊を生じにくくする技術として、同一の材料からの切削加工が考えられる。しかしながら、マウスピースのような、中空構造を含み得る複雑形状を有する成形体を切削加工により作製することは困難であり、ドリルの寸法や位置、方向などに強い制約がかかる。特に、歯牙を被覆するキャビティ部などには、ドリルが到達しない場合もある。
【0080】
実施例1では、上顎装着部31と、下顎装着部32と、連結部40とを一体にした三次元造形データに基づいて、三次元造形されるので、簡便に製造することができる。
【実施例2】
【0081】
実施例2のオーラルアプライアンスは、連結部の構成が異なる点で、実施例1のオーラルアプライアンスと相違する。
【0082】
[オーラルアプライアンスの構成]
図11は、実施例2の単位領域を示す斜視図である。以下、実施例2のオーラルアプライアンスの構成を説明する。なお、上記実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一の符号を用いて説明する。
【0083】
図11に示すように、実施例2の連結部140は、孔141bを有する単位領域141が略規則的に配置されてメッシュ状に形成されていてもよい。単位領域141は、一種類で空間充填できる多面体である正六面体で形成されていてもよい。
【0084】
単位領域141は、六面体の辺の部分を構成する枠141cによって、枠状に形成され、各面には、孔141bが形成されていてもよい。
【0085】
単位領域141が連結部140に空間充填されることで、連結部140が形成される。
【0086】
単位領域141の一辺の長さLは、例えば、0.1[mm]以上とすることができる。枠141cの幅Wは、所定の値(例えば、0.02[mm])にすることができる。長さLに対する幅Wの比L/Wは、2.0~80が好ましく、2.5~70がより好ましく、3.0~60がさらに好ましい。長さLに対する幅Wの比L/Wが2.0以上であることで唾液が通過しやすくなり、長さLに対する幅Wの比L/Tが80以下であることで辺を構成する柱が座屈しにくくなる。
【0087】
なお、単位領域141は、正四面体で形成される態様に限定されず、一種類で空間充填できる一様多面体や、一種類で空間充填できる多面体、例えば、切頂八面体や菱形十二面体や、空間充填できる一様多面体や、空間充填できる多面体や、空間充填できる立体にすることができる。
【0088】
また、単位領域141の辺を構成する柱の形状は、特に限定されないが、柱の長軸を中心として対称的な形状であることが好ましい。具体的には、単位領域141の辺を構成する柱の形状は、円柱、正三角柱、正四角柱、正五角柱、正六角柱、その他任意の正角柱、円錐、正三角錐(正四面体)、正四角錐、その他任意の正角錐等が挙げられる。なかでも、単位領域141の辺を構成する柱の形状は、円柱、正三角柱、正四角柱、正五角柱、正六角柱、その他任意の正角柱がより好ましく、円柱、正三角柱、正四角柱、正六角柱がさらに好ましい。
【0089】
[歯科用口腔内装置の作用]
以下、実施例2の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の作用を説明する。実施例2の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域141は、空間充填できる立体で形成されていてもよい(図11)。
【0090】
これにより、連結部140を、単位領域141で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部140を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0091】
実施例2の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域141は、空間充填できる多面体で形成されていてもよい(図11)。
【0092】
これにより、連結部140、単位領域141で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部140を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0093】
実施例2の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域141は、空間充填できる一様多面体で形成されていてもよい(図11)。
【0094】
これにより、連結部140を、均一な形状の単位領域141で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部140を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0095】
実施例2の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域141は、一種類で空間充填できる多面体で形成されていてもよい(図11)。
【0096】
これにより、連結部140を、均一な形状の単位領域141で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部140を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0097】
実施例2の歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)において、単位領域141は、一種類で空間充填できる一様多面体で形成されていてもよい(図11)。
【0098】
これにより、連結部140を、均一な形状の単位領域141で隙間なく敷き詰めることができる。そのため、所定の強度を確保しつつ、連結部140を薄くして、軽量化をすることができる。その結果、歯科用口腔内装置(オーラルアプライアンス30)の装着性を向上させることができる。
【0099】
なお、他の構成及び作用効果については、上記実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0100】
以上、本発明の歯科用口腔内装置を実施例1及び実施例2に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や各実施例の組み合わせ等は許容される。
【0101】
実施例1では、連結部40の単位領域41の断面形状は、基礎単位領域41Aを、曲面52に投影した投影形状とする例を示した。しかし、単位領域の断面形状は、この態様に限定されず、例えば、図12に示すように、基礎単位領域41Aを、前後方向に平行投影した形状としてもよい。また、単位領域の断面形状は、連結部40の内周面40a又は外周面40bに沿うように、平面充填された形状に形成されてもよい。
【0102】
実施例1では、連結部40は、1層の単位領域41で形成される例を示した。しかし、連結部40は、図13に示すように、2層の単位領域41で形成されてもよいし、3層以上の単位領域で形成されてもよい。
【0103】
実施例1では、単位領域41の断面形状は、一種類で平面充填できる正多角形とする例を示した。しかし、単位領域の断面形状は、一種類で平面充填できる多角形としてもよい。
【0104】
例えば、一種類で平面充填できる多角形としては、図14(a)に示すような平行四辺形にすることができる。また、一種類で平面充填できる多角形としては、図14(b)に示すような合同な三角形を2つ組み合わせることで平行四辺形にすることもできる。また、一種類で平面充填できる多角形としては、図15(a)に示すような平行六辺形にすることもできる。また、一種類で平面充填できる多角形としては、図15(b)に示すような合同な四角形を2つ組み合わせることで平行六辺形にすることもできる。また、一種類で平面充填できる多角形としては、図16(a)に示すような合同な五角形を2つ組み合わせることで平行六辺形にすることもできる。また、一種類で平面充填できる多角形としては、図16(b)に示すような平面充填可能な五角形とすることもできる。
【0105】
また、二種類以上で平面充填できる多角形としては、アルキメデスの平面充填の形状である正多角形とすることができる。例えば、二種類以上で平面充填できる多角形は、図17に示すように、正三角形8枚に、正六角形1枚からなる形状とすることができる。
【0106】
平面充填できる多角形は、好ましくは三角形、四角形、五角形、正多角形、平行六辺形のうち1種類以上の組み合わせとすることができる。平面充填できる多角形は、より好ましくは、正多角形、平行四辺形、平行六辺形のうち1種類以上の組み合わせとすることができる。平面充填できる多角形は、さらに好ましくは、正三角形、正四角形、正六角形のうち1種類以上の組み合わせとすることができる。単位領域の対称性が向上することで、与えられた荷重が集中しにくくなり、塑性変形や破壊が生じにくくなる。特に、正三角形、正四角形、正六角形においては、与えられた荷重が等方的に分散するため、塑性変形や破壊が著しく抑制される。
【0107】
すなわち、単位領域の断面形状は、平面充填できる正多角形で形成することができるし、平面充填できる多角形で形成することができるし、平面充填できる図形で形成することができる。
【0108】
実施例2では、単位領域141は、一種類で空間充填できる正六面体(アルキメデスの正四角柱)とする例を示した。しかし、単位領域は、一種類で空間充填できる一様多面体としてもよい。
【0109】
一種類で空間充填できる一様多面体としては、例えば、アルキメデスの正三角柱や、アルキメデスの正六角柱や、切頂八面体や、菱形十二面体等にすることができる。
【0110】
単位領域は、一種類で空間充填できる多面体としてもよい。一種類で空間充填できる多面体としては、例えば、異相双三角柱(ジョンソンの立体26番)等にすることができる。
【0111】
単位領域は、二種類以上で空間充填できる一様多面体としてもよい。二種類以上で空間充填できる一様多面体としては、例えば、正四面体と正八面体からなるものや、正四面体と切頂四面体からなるものや、正八面体と切頂六面体からなるものや、正八面体と立方八面体からなるものや、斜方切頂立方八面体と正八角柱からなるものとすることができる。
【0112】
また、二種類以上で空間充填できる一様多面体としては、例えば、切頂四面体と切頂八面体と立方八面体からなるものや、切頂四面体と切頂六面体と斜方切頂立方八面体からなるものや、正四面体と立方体と斜方立方八面体からなるものや、立方体と立方八面体と斜方立方八面体からなるものや、立方体と切頂八面体と斜方切頂立方八面体からなるものとすることができる。
【0113】
また、二種類以上で空間充填できる一様多面体としては、例えば、立方体と切頂六面体と斜方切頂立方八面体と正八角柱を組み合わせたものや、等面菱形多面体の各種を組み合わせたものとすることもできる。
【0114】
単位領域は、二種類以上で空間充填できる多面体としてもよい。二種類以上で空間充填できる多面体としては、例えば、ジョンソンの立体1番(正四角錐)とジョンソンの立体3番(正三角台塔)とからなるものや、ジョンソンの立体1番(正四角錐)とジョンソンの立体7番(正三角錐柱)とからなるものや、ジョンソンの立体1番とジョンソンの立体27番(同相双三角台塔)とからなるものや、正四面体とジョンソンの立体1番とからなるものや、正四面体とジョンソンの立体4番(正四角台塔)とからなるものや、正四面体とジョンソンの立体8番(正四角錐柱)とからなるものや、正四面体とジョンソンの立体28番(同相双四角台塔)とからなるものや、正八面体とジョンソンの立体3番とからなるものや、正八面体とジョンソンの立体7番(正三角錐柱)とからなるものや、正八面体とジョンソンの立体12番(双三角錐)とからなるものや、切頂四面体とジョンソンの立体12番とからなるものや、切頂六面体とジョンソンの立体1番とからなるものや、立方八面体とジョンソンの立体1番とからなるものとすることができる。
【0115】
また、二種類以上で空間充填できる多面体としては、例えば、正四面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体18番(正三角台塔柱)とからなるものや、正四面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体35番(同相双三角台塔柱)とからなるものや、正四面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体36番(異相双三角台塔柱)とからなるものや、正四面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体15番(双四角錐柱)とからなるものや、正四面体と正六面体とジョンソンの立体28番とからなるものや、正四面体と正八面体とジョンソンの立体15番とからなるものや、正六面体と正十二面体とジョンソンの立体91番(双三日月双丸塔)とからなるものや、正六面体と立方八面体とジョンソンの立体4番とからなるものや、正六面体と立方八面体とジョンソンの立体19番(正四角台塔柱)とからなるものや、正六面体と立方八面体とジョンソンの立体28番とからなるものや、正六面体と正四面体とジョンソンの立体19番とからなるものや、正八面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体3番とからなるものや、正八面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体7番とからなるものとすることができる。
【0116】
また、二種類以上で空間充填できる多面体としては、例えば、正四面体と正六面体と立方八面体と[ジョンソンの立体28番、ジョンソン立体29番(異相双四角台塔)]のいずれかまたは組み合わせからなるものや、正四面体とジョンソンの立体1番と[正六面体、ジョンソンの立体8番、ジョンソンの立体15番]のいずれかまたは組み合わせと[ジョンソンの立体28番、ジョンソン立体29番]のいずれかまたは組み合わせからなるものや、正四面体と正六面体と立方八面体とジョンソンの立体37番(異相双四角台塔柱)からなるものや、正四面体と正六面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体8番からなるものや、正四面体と正八面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体15番からなるものや、正四面体とジョンソンの立体8番とジョンソンの立体15番とジョンソンの立体19番からなるものや、正四面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体28番と[正六面体、ジョンソンの立体8番、ジョンソンの立体15番]のいずれかまたは組み合わせからなるものや、正四面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体37番と[正六面体、ジョンソンの立体8番、ジョンソンの立体15番]のいずれかまたは組み合わせからなるものや、正四面体と正六面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体19番と[ジョンソンの立体8番、ジョンソンの立体15番]のいずれかまたは組み合わせからなるものや、正四面体とジョンソンの立体1番とジョンソンの立体4番と[正六面体、ジョンソンの立体8番、ジョンソンの立体15番]のいずれかまたは組み合わせからなるものとすることができる。
【0117】
空間充填できる多面体は、好ましくは正多面体、半正多面体、正角柱、正反角柱、ジョンソンの立体、のうち1種類以上の組み合わせとすることができる。空間充填できる多面体は、より好ましくは正多面体、立方八面体、正多角柱、菱形十二面体などの等面菱形多面体、平行六面体、切頂八面体、長菱形十二面体などの平行多面体、斜方立方八面体、斜方切頂立方八面体、のうち1種類以上の組み合わせとすることができる。空間充填できる多面体は、さらに好ましくは1種類以上の正四面体、正六面体(立方体)、正八面体、正三角柱、正四角柱(直方体)、正六角柱、切頂八面体、菱形十二面体、長菱形十二面体の組み合わせとすることができる。
【0118】
単位領域の対称性が向上することで、与えられた荷重が集中しにくくなり、塑性変形や破壊が生じにくくなる。特に、正四面体、正六面体(立方体)、正八面体、正三角柱、正四角柱(直方体)、正六角柱、切頂八面体、菱形十二面体、長菱形十二面体においては、与えられた荷重が等方的に分散するため、塑性変形や破壊が著しく抑制される。
【0119】
すなわち、単位領域は、空間充填できる一様多面体で形成することができるし、空間充填できる多面体で形成することができるし、空間充填できる立体で形成することができる。
【0120】
実施例1及び実施例2では、連結部40,140の全体が、孔41b,141bを有する単位領域41,141が略規則的に配置されてメッシュ状に形成される例を示した。しかし、連結部の一部を、孔を有する単位領域が略規則的に配置されてメッシュ状に形成されてもよい。例えば、前歯部分だけが孔を有する単位領域が略規則的に配置されてメッシュ状に形成されることができる。また、この孔の形状は、特に限定されないが、対称性の高い形状であることが好ましい。具体的には、孔の形状は、断面が円、正三角形、正四角形、正五角形、正六角形、その他正多角形となる形状とすることができる。孔の形状は、断面が円、正三角形、正四角形、正六角形であるものがより好ましい。孔の形状は、破断の起点となるノッチ部を形成しない点から断面が円となる形状がさらに好ましい。
【0121】
実施例1及び実施例2では、単位領域を構成する辺が直線である例を示した。しかし、本発明の効果を損なわない範囲で単位領域を構成する辺が曲線であっても良い。例えば、単位領域の辺の長さLに対して曲率半径Rは0.3倍以上であることが好ましく、0.5倍以上であることがより好ましく、1.0倍以上であることがさらに好ましい。Rの上限は特に限定されないが、例えば単位領域の辺の長さLの100倍以下とすることができる。
【0122】
実施例1及び実施例2では、側壁41a,141aが中実状である例を示した。しかし、側壁は、一部に孔を有していてもよい。この孔の形状は、特に限定されないが、対称性の高い形状であることが好ましい。具体的には、孔の形状は、断面が円、正三角形、正四角形、正五角形、正六角形、その他正多角形とすることができる。孔の形状は、断面が円、正三角形、正四角形、正六角形がより好ましい。孔の形状は、破断の起点となるノッチ部を形成しない点から断面が円となる形状がさらに好ましい。
【0123】
実施例1及び実施例2では、側壁41a,141aの間に補強の構造を含まない例を示した。しかし、図18に示すように、側壁41aの間に筋交い45などの補強の構造を含んでいてもよい。
【0124】
実施例1及び実施例2では、単位領域41,141の奥歯部分に形成された孔41b,141bの径は、単位領域41,141の前歯部分に形成された孔41b,141bの径より小さくなるように形成されている例を示した。しかし、単位領域41,141の奥歯部分に形成された孔41b,141bの径は、単位領域41,141の前歯部分に形成された孔41b,141bの径と略均一な大きさとしてもよいし、小さくなるように形成されてもよい。
【0125】
実施例1及び実施例2では、上顎装着部31及び下顎装着部32は、歯牙と歯茎の一部を覆うように凹溝状に形成される例を示した。しかし、上顎装着部及び下顎装着部は、歯牙だけを覆うように、凹溝状に形成されてもよい。
【0126】
実施例1及び実施例2では、連結部40,140には、孔41b,141bを有する単位領域41,141が略規則的に全体的に配置されて、メッシュ状に形成されている例を示した。しかし、連結部40,140の前歯部分だけ、メッシュ状に形成されていてもよい。
【0127】
実施例1及び実施例2を含む本発明の歯科用口腔内装置の製造は、三次元造形装置として、紫外線レーザ光によって硬化する光硬化性組成物を使用して光造形装置を用いて行ってもよいし、プロジェクターの光を利用して光硬化性組成物を硬化させ積層していくプロジェクション方式であってもよいし、液状の光硬化性組成物を噴射して、紫外線を照射することにより硬化させ積層させるインクジェット方式であってもよいし、熱可塑性樹脂を1層ずつ積み上げていく熱溶解積層方式であってもよいし、粉末状の材料に高出力のレーザ光線をあて焼結させる粉末焼結方式であってもよい。
【0128】
そのうちでも、本発明では、光硬化性組成物を硬化させるための装置として、光造形装置を用いることが好ましく、光硬化性組成物を硬化させるための光エネルギーとして、活性エネルギー線を用いるのが好ましい。「活性エネルギー線」は、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波等のような光硬化性組成物を硬化させ得るエネルギー線を意味する。例えば、活性エネルギー線は、300~400nmの波長を有する紫外線であってもよい。活性エネルギー線の光源としては、Arレーザ、He-Cdレーザ等のレーザ;ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LED、水銀灯、蛍光灯等の照明等が挙げられ、レーザが特に好ましい。光源としてレーザを用いた場合には、エネルギーレベルを高めて造形時間を短縮することが可能であり、しかもレーザ光線の良好な集光性を利用して、造形精度の高い造形物を得ることができる。
【0129】
[歯科用口腔内装置の材料]
本発明の歯科用口腔内装置の材料は、顎の保定性の観点から、80℃以上のガラス転移温度を含むことが好ましく、90℃以上のガラス転移温度を含むことがより好ましく、100℃以上のガラス転移温度を含むことがさらに好ましく、上限は特に限定されないが、例えば、200℃以下とすることができる。ガラス転移温度は、光硬化性組成物の場合、それを構成するモノマーの組み合わせによって、適宜調節することができる。
【0130】
80℃以上のガラス転移温度を含むとは、単一のガラス転移温度を有し、それが80℃以上である場合と、複数のガラス転移温度を有し、その少なくともひとつ(最も高いもの)が80℃以上である場合とを含む。すなわち、材料は、少なくとも一つ以上のガラス転移温度を有し、最も高いガラス転移温度が80℃以上とすることができる。
【0131】
また、本発明の歯科用口腔内装置の材料の曲げ弾性率は、顎の保定性の観点から、1000MPa以上が好ましく、1200MPa以上がより好ましく、1500MPa以上がより好ましい。また、曲げ弾性率が過剰に高くなると靭性が低下してしまう傾向があることから、光硬化性組成物の造形物の曲げ弾性率は、3500MPa以下が好ましい。上記物性を有することによって、患者の歯列に対する適合性を有しながらも、変形しにくいという性質を示すことができる。ガラス転移温度および曲げ弾性率が低い場合、変形しやすい柔軟な造形物となり、就寝中の顎の保定するための材料として適正な効果を発揮しにくい場合がある。また、オーラルアプライアンスの靭性が低すぎる、すなわち脆い造形物の場合、就寝時の顎の力により破折し、治療効果を得られないばかりか口腔内の損傷や窒息のリスクを生じる可能性もある。
【0132】
例えば、EVA樹脂(エヴァ樹脂)等の弾性率の低い樹脂で形成されている歯科用口腔内装置は、例えば実施例1のような態様において、下顎20の位置を上顎10に対して前方に出した状態で、下顎20を保持することは困難な場合がある。弾性率の低い樹脂は容易に変形し、変形に対して押し戻す力も弱いため、就寝時に力がかかり続けている顎を正確な位置に保定するという目的を適切に達成できない場合がある。弾性率が低い樹脂であっても、厚みを大きくすることで押し戻す力を大きくすることはできるが、患者の装着感を悪化させて睡眠を妨げる場合がある。
【0133】
本発明の歯科用口腔内装置の材料が上記のような高い曲げ弾性率を有することによって、実施例1の態様において、より効果的に下顎20の位置を上顎10に対して前方に出した状態で、下顎20を保持することができる。
【0134】
一般に市販されているマウスピース類には、ガラス転移温度が40℃以上70℃以下である製品が多く存在する。これらの製品では、湯で温めてガラス転移温度以上にすることで軟化したマウスピースを患者に噛みしめさせ、口腔内でガラス転移温度以下に冷却することで、患者の歯列に適合したマウスピースとする、という使用方法を意図している。
【0135】
しかしながら、これら製品の最終的なデザインは、患者本人に委ねられることになる。多くの患者は、マウスピースのデザイン能力や歯科治療の専門性を有さない。そのため、例えば、冷却が完了していない状態でマウスピースを口腔内から取り出すことで、マウスピースが変形してしまい、意図したデザインが得られないなどの不利益をこうむる恐れがある。
【0136】
また、これらの材料は、湯の温度で患者が深く噛みしめられる硬さで、かつ、噛みしめに対して追随する物理化学的性質を有していなければならない。そのため、ガラス転移温度及び弾性率が低い、柔軟な樹脂に限られる。しかしながら、就寝中にマウスピースを使用する場合、覚醒時よりもはるかに大きな力が無意識的に顎や歯列にかかるため、これらを保定するための材料としては、変形し難い硬質な樹脂が好ましい。
【0137】
実施例1及び実施例2では、歯科用口腔内装置の材料として、紫外線レーザ光によって硬化する光硬化性組成物を例として示した。光硬化性組成物には、例えば、重合性単量体(A)、光重合開始剤(B)が含まれる。
【0138】
光硬化性組成物に含まれる重合性単量体(A)は特に限定されないが、例として、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類等が挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物が好ましく用いられる。また、強度に優れる観点から多官能性重合性単量体(a-1)、靭性に優れる観点から単官能性重合性単量体(a-2)を含有することが好ましい。
【0139】
多官能性重合性単量体(a-1)の例として、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体等が挙げられる。多官能性重合性単量体(a-1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してよい。
【0140】
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0141】
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、硬化性、硬化物の強度に優れ、重合体(造形物)のガラス転移温度が80℃以上となり、変形を抑制する点で、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートが好ましい。
【0142】
三官能性以上の重合性単量体としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等が挙げられる。
【0143】
多官能性重合性単量体(a-1)としては、硬化性に優れ、得られる歯科用口腔内装置の靭性に優れることから、分子内にウレタン結合を有することが好ましい。
【0144】
前記分子内にウレタン結合を有する多官能性重合性単量体は、例えば、前記ポリマー骨格を含有するポリオールと、イソシアネート基(-NCO)を有する化合物と、水酸基(-OH)を有する(メタ)アクリレート化合物とを付加反応させることにより、容易に合成することができる。また、分子内にウレタン結合を含有する多官能性重合性単量体は、水酸基を有する重合性単量体に、ラクトン又はアルキレンオキシドに開環付加反応させた後、得られた片末端に水酸基を有する化合物を、イソシアネート基を有する化合物に付加反応させることにより、容易に合成することができる。
【0145】
前記分子内にウレタン結合を有する多官能性重合性単量体は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる構造を含有することが得られる立体造形物の靭性に優れることから好ましい。これらは前記の構造であれば特に限定されないが、例えば、ポリエステルとしては、フタル酸と炭素数2~12のアルキレンジオールの重合体、アジピン酸と炭素数2~12のアルキレングリコールの重合体、マレイン酸と炭素数2~12のアルキレンジオールの重合体、β-プロピオラクトンの重合体、γ-ブチロラクトンの重合体、δ-バレロラクトン重合体、ε-カプロラクトン重合体及びこれらの共重合体などが挙げられる。ポリカーボネートとしては、炭素数2~12の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~12の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートなどが挙げられる。ポリウレタンとしては、炭素数2~12の脂肪族ジオールと炭素数1~12のジイソシアネートの重合体などが挙げられる。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリ(1-メチルブチレングリコール)などが挙げられる。ポリ共役ジエン及び水添ポリ共役ジエンとしては、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-イソプレン)、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(イソプレン-スチレン)、ポリファルネセン、及びこれらの水添物が挙げられる。これらの中でも、強度と靭性に優れる点で、ポリエステル、ポリカーボネートの構造が好ましい。分子内にウレタン結合を有する多官能性重合性単量体の製造には、前記したポリマー骨格を有するポリオールを用いることができる。
【0146】
前記イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、トリシクロデカンジイソシアネート(TCDDI)、及びアダマンタンジイソシアネート(ADI)等が挙げられる。
【0147】
前記水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0148】
イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物との付加反応は、公知の方法に従って行うことができ、特に限定はない。
【0149】
得られる分子内にウレタン結合を含有する多官能性重合性単量体としては、前記の、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するポリオールと、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物との任意の組み合わせの反応物が挙げられる。
【0150】
前記単官能性重合性単量体(a-2)としては、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の脂肪族系単官能性(メタ)アクリル酸エステル化合物;o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート等の芳香環を有する単官能性(メタ)アクリル酸エステル化合物;ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環を有する単官能性(メタ)アクリル酸エステル化合物、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-オクチルアクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド等の単官能性(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。これらの中でも、重合体(造形物)のガラス転移温度が80℃以上となり、歯科用口腔内装置の変形を抑制する点で、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。また、これらの中でも、歯科用口腔内装置の靭性が優れる点で、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドがより好ましい。
【0151】
多官能性重合性単量体(a-1)は、重合性単量体全量100質量部に対して40質量部以上含むことが好ましく、50質量部以上含むことがより好ましく、60質量部以上含むことがさらに好ましい。多官能性重合性単量体(a-1)を40質量部以上含むことにより、造形物の曲げ弾性率を向上させることができる。また、単官能性重合性単量体(a-2)を、重合性単量体全量100質量部に対して5質量部以上含むことが好ましく、10質量部以上含むことがより好ましく、15質量部以上含むことがさらに好ましい。単官能性重合性単量体(a-2)を5質量部以上含むことにより、造形物の靭性を向上させることができる。また、前記多官能性重合性単量体(a-1)もしくは前記単官能性重合性単量体(a-2)の少なくとも一種類の重合体のガラス転移温度は80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。
【0152】
光硬化性組成物は、光重合開始剤(B)を含むことが好ましい。光重合開始剤(B)は、成形精度と硬化物の強度、靭性、及び色調に優れる観点から、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ヒドロキシケトン系化合物、α-アミノケトン系化合物、ベンゾインアルキルエーテル化合物、チオキサントン類、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、及びアントラキノン類から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0153】
光重合開始剤(B)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ヒドロキシケトン系化合物、及びα-アミノケトン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが、紫外線領域に強い吸収があり、かつ色を視認しやすい450nm以上の可視光領域での吸収が小さいことから好ましい。これにより、紫外線領域での光硬化性に優れ、Arレーザ、He-Cdレーザ等のレーザ;ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード(LED)、水銀灯、蛍光灯等の照明等のいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示し、着色が少ない歯科用口腔内装置が得られる。
【0154】
本発明の歯科用口腔内装置の材料として、熱溶解積層方式の三次元造形装置で造形される熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、顎の保定性の観点から、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、例えば、200℃以下とすることができる。なお、歯科用口腔内装置に適用される材料は、ガラス転移温度が80℃以上であるものを含んでいればよい。熱可塑性樹脂の曲げ弾性率は、顎の保定性の観点から、1000MPa以上が好ましく、1200MPa以上がより好ましく、1500MPa以上がより好ましい。また、曲げ弾性率が過剰に高くなると靭性が低下してしまう傾向があることから、熱可塑性樹脂の曲げ弾性率は、3500MPa以下が好ましい。
【0155】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、PMMA、PEMA等のポリ(メタ)アクリレート類、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ナイロン、ポリアリレート等のエンジニアリングプラスチック類、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等のスーパーエンプラ類等が挙げられ、これらの中でも、顎の保定性、靭性、無色透明な観点から、ポリ(メタ)アクリレート類、ポリウレタン、ポリカーボネート、ナイロンが好ましく、PMMA、ポリカーボネート、ポリウレタンがさらに好ましい。
【符号の説明】
【0156】
10 上顎
11 歯牙
20 下顎
21 歯牙
30 オーラルアプライアンス(歯科用口腔内装置の一例)
31 上顎装着部
32 下顎装着部
40 連結部
41 単位領域
41b 孔
図1
図2
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