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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】偏光板および偏光板ロール
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240729BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020562451
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051288
(87)【国際公開番号】W WO2020138358
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2018244813
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】三輪 和哉
(72)【発明者】
【氏名】上条 卓史
(72)【発明者】
【氏名】濱本 大介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ひかる
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】河原 正
【審判官】宮澤 浩
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3124708(JP,U)
【文献】国際公開第2017/170527(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/085918(WO,A1)
【文献】特開2009-52021(JP,A)
【文献】特開2016-147949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素およびポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光子と、該偏光子の一方の側に配置された第1の保護層と、該偏光子のもう一方の側に配置された第2の保護層と、を有し
第1の保護層のガラス転移温度が95℃以上であり、
該第1の保護層のヨウ素吸着量が、4.0重量%以下であり、
該第2の保護層が、樹脂フィルムで構成されており、
該第1の保護層の厚みが、5μm以下であり、
該第1の保護層が、該偏光子上に直接形成されており、該偏光子の表面に熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液を直接塗布して形成された塗布膜の固化物で構成されている、
偏光板。
【請求項2】
前記熱可塑性アクリル系樹脂が、ラクトン環単位、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位、無水マレイン酸単位およびマレイミド単位からなる群から選択される少なくとも1つを有する、請求項に記載の偏光板。
【請求項3】
前記第1の保護層の面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-20nm~+10nmである、請求項1または2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記第1の保護層が画像表示装置の表示セル側に配置され、前記第2の保護層が該表示セルの反対側に配置される、請求項1からのいずれかに記載の偏光板。
【請求項5】
画像表示装置の視認側に配置される、請求項に記載の偏光板。
【請求項6】
請求項1からのいずれかの偏光板がロール状に巻回されてなる、偏光板ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板および偏光板ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置)には、その画像形成方式に起因して、多くの場合、表示セルの少なくとも一方の側に偏光板が配置されている。近年、画像表示装置の薄型化およびフレキシブル化が進んでおり、これに伴い、偏光板の薄型化も強く要望されている。しかし、偏光板を薄くすればするほど、加熱加湿環境下での光学特性が低下するという耐久性の問題が顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-210474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、非常に薄いにもかかわらず、耐久性に優れた偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の一方の側に配置された第1の保護層と、該偏光子のもう一方の側に配置された第2の保護層と、を有する。第1の保護層は熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成されており、該第1の保護層のガラス転移温度は95℃以上である。第2の保護層は樹脂フィルムで構成されている。
1つの実施形態においては、上記第1の保護層の厚みは10μm以下である。
1つの実施形態においては、上記第1の保護層のヨウ素吸着量は4.0重量%以下である。
1つの実施形態においては、上記熱可塑性アクリル系樹脂は、ラクトン環単位、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位、無水マレイン酸単位およびマレイミド単位からなる群から選択される少なくとも1つを有する。
1つの実施形態においては、上記第1の保護層の面内位相差Re(550)は0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)は-20nm~+10nmである。
1つの実施形態においては、上記第1の保護層は画像表示装置の表示セル側に配置され、上記第2の保護層は該表示セルの反対側に配置される。1つの実施形態においては、上記偏光板は、画像表示装置の視認側に配置される。
本発明の別の局面によれば、偏光板ロールが提供される。この偏光板ロールは、上記の偏光板がロール状に巻回されてなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、偏光子の両側に配置される保護層のうちの一方を熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成し、そのガラス転移温度を所定値以上とすることにより、非常に薄いにもかかわらず、耐久性に優れた偏光板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。
図2】本発明の1つの実施形態による偏光板の製造方法における加熱ロールを用いた乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.偏光板の概略
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。図示例の偏光板100は、偏光子10と、偏光子10の一方の側に配置された第1の保護層20と、偏光子10のもう一方の側に配置された第2の保護層30と、を有する。偏光子10の厚みは、好ましくは8μm以下である。偏光板100は、画像表示装置に適用される場合、表示セルの視認側に配置されてもよく、視認側と反対側(背面側)に配置されてもよい。いずれの場合も、第1の保護層20は表示セル側に配置されてもよく、表示セルと反対側(外側)に配置されてもよい。1つの実施形態においては、偏光板100は、表示セル(結果として、画像表示装置)の視認側に配置され、かつ、第1の保護層20は表示セル側に配置される。第1の保護層20を表示セル側に配置することにより、優れた光学特性と優れた耐久性とを両立した偏光板を実現することができる。
【0009】
偏光板は、長尺状であってもよいし、枚葉状であってもよい。偏光板が長尺状である場合、好ましくは、ロール状に巻回されて偏光板ロールとされる。
【0010】
代表的には、偏光板は、一方の側(代表的には、表示セル側)の最外層として粘着剤層を有し、表示セルへの貼り合わせが可能とされている。必要に応じて、偏光板には表面保護フィルムおよび/またはキャリアフィルムが剥離可能に仮着され、偏光板を補強および/または支持し得る。偏光板が粘着剤層を含む場合には、粘着剤層表面にはセパレーターが剥離可能に仮着され、実使用までの間粘着剤層を保護するとともに、偏光板のロール化を可能としている。
【0011】
本発明の実施形態においては、第1の保護層20は、熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成されている。このような構成であれば、保護層を非常に薄く(例えば、10μm以下に)することができる。さらに、保護層を偏光子に直接(すなわち、接着剤層または粘着剤層を介することなく)形成することができる。本発明の実施形態によれば、上記のとおり偏光子および第1の保護層が非常に薄く、かつ、接着剤層または粘着剤層を省略することができるので、偏光板の総厚みを非常に薄くすることができる。第2の保護層は樹脂フィルムで構成されている。第2の保護層を樹脂フィルムで構成することにより、偏光板の取扱い性(例えば、ロール搬送性)を確保することができる。
【0012】
偏光板の総厚みは、例えば50μm以下であり、好ましくは45μm以下であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは35μm以下である。偏光板の総厚みの下限は、例えば25μmであり得る。
【0013】
さらに、本発明の実施形態においては、第1の保護層20のガラス転移温度(Tg)は95℃以上であり、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは105℃以上であり、さらに好ましくは110℃以上であり、特に好ましくは115℃以上である。第1の保護層のTgがこのような範囲であれば、偏光子の両側に保護層を配置し、かつ、第1の保護層を熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成することによる効果との相乗的な効果により、非常に薄いにもかかわらず、耐久性に優れた偏光板を実現することができる。具体的には、加熱加湿環境下においても光学特性の低下が抑制された偏光板を実現することができる。一方、第1の保護層のTgは、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下であり、特に好ましくは160℃以下である。第1の保護層のTgがこのような範囲であれば、成形性に優れ得る。
【0014】
上記のとおり、本発明の実施形態によれば、加熱加湿環境下においても光学特性の低下が抑制された偏光板を実現することができる。このような偏光板は、85℃および85%RHの環境下で48時間放置した後の単体透過率Tsの変化量ΔTsおよび偏光度Pの変化量ΔPが、それぞれ非常に小さい。単体透過率Tsは、例えば紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて測定され得る。偏光度Pは、紫外可視分光光度計を用いて測定される単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)および直交透過率(Tc)から、次式により算出される。
偏光度(P)(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
なお、上記Ts、TpおよびTcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。また、TsおよびPは、実質的には偏光子の特性である。ΔTsおよびΔPは、それぞれ下記式により求められる。
ΔTs(%)=Ts48-Ts
ΔP(%)=P48-P
ここで、Tsは放置前(初期)の単体透過率であり、Ts48は放置後の単体透過率であり、Pは放置前(初期)の偏光度であり、P48は放置後の偏光度である。ΔTsは、好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは2.7%以下であり、さらに好ましくは2.4%以下である。ΔPは、好ましくは-0.05%~0%であり、より好ましくは-0.03%~0%であり、さらに好ましくは-0.01%~0%である。
【0015】
本発明の偏光板は上記のとおり非常に薄いので、フレキシブルな画像表示装置に好適に適用され得る。より好ましくは、画像表示装置は、湾曲した形状(実質的には、湾曲した表示画面)を有し、および/または、屈曲もしくは折り曲げ可能である。画像表示装置の具体例としては、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)が挙げられる。言うまでもなく、上記の説明は、本発明の偏光板が通常の画像表示装置に適用されることを妨げるものではない。
【0016】
以下、偏光子および保護層について詳細に説明する。
【0017】
B.偏光子
偏光子としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。偏光子は、代表的には、二層以上の積層体を用いて作製され得る。偏光子の製造方法については、偏光板の製造方法としてD項で後述する。
【0018】
偏光子の厚みは、好ましくは1μm~8μmであり、より好ましくは1μm~7μmであり、さらに好ましくは2μm~5μmである。
【0019】
偏光子のホウ酸含有量は、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは13重量%~25重量%である。偏光子のホウ酸含有量がこのような範囲であれば、後述のヨウ素含有量との相乗的な効果により、貼り合わせ時のカール調整の容易性を良好に維持し、かつ、加熱時のカールを良好に抑制しつつ、加熱時の外観耐久性を改善することができる。ホウ酸含有量は、例えば、中和法から下記式を用いて、単位重量当たりの偏光子に含まれるホウ酸量として算出することができる。
【数1】
【0020】
偏光子のヨウ素含有量は、好ましくは2重量%以上であり、より好ましくは2重量%~10重量%である。偏光子のヨウ素含有量がこのような範囲であれば、上記のホウ酸含有量との相乗的な効果により、貼り合わせ時のカール調整の容易性を良好に維持し、かつ、加熱時のカールを良好に抑制しつつ、加熱時の外観耐久性を改善することができる。本明細書において「ヨウ素含有量」とは、偏光子(PVA系樹脂フィルム)中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光子中においてヨウ素はヨウ素イオン(I)、ヨウ素分子(I)、ポリヨウ素イオン(I 、I )等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素含有量は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の量を意味する。ヨウ素含有量は、例えば、蛍光X線分析の検量線法により算出することができる。なお、ポリヨウ素イオンは、偏光子中でPVA-ヨウ素錯体を形成した状態で存在している。このような錯体が形成されることにより、可視光の波長範囲において吸収二色性が発現し得る。具体的には、PVAと三ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I )は470nm付近に吸光ピークを有し、PVAと五ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I )は600nm付近に吸光ピークを有する。結果として、ポリヨウ素イオンは、その形態に応じて可視光の幅広い範囲で光を吸収し得る。一方、ヨウ素イオン(I)は230nm付近に吸光ピークを有し、可視光の吸収には実質的には関与しない。したがって、PVAとの錯体の状態で存在するポリヨウ素イオンが、主として偏光子の吸収性能に関与し得る。
【0021】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率Tsは、好ましくは40%~48%であり、より好ましくは41%~46%である。偏光子の偏光度Pは、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0022】
C.保護層
C-1.第1の保護層
第1の保護層は、上記のとおり、熱可塑性アクリル系樹脂(以下、単にアクリル系樹脂と称する)の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成されている。以下、第1の保護層の構成成分について具体的に説明し、次いで、第1の保護層の特性を説明する。
【0023】
C-1-1.アクリル系樹脂
アクリル系樹脂(後述のように、2種以上のアクリル系樹脂のブレンドおよびアクリル系樹脂と他の樹脂とのブレンドを含む)のTgは、第1の保護層に関して上記A項で説明したとおりである。
【0024】
アクリル系樹脂としては、上記のようなTgを有する限りにおいて任意の適切なアクリル系樹脂が採用され得る。アクリル系樹脂は、代表的には、モノマー単位(繰り返し単位)として、アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含有する。本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。アクリル系樹脂の主骨格を構成するアルキル(メタ)アクリレートとしては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の炭素数1~18のものを例示できる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。さらに、アクリル系樹脂には、任意の適切な共重合モノマーを共重合により導入してもよい。アルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位は、代表的には、下記一般式(1)で表される:
【0025】
【化1】
【0026】
一般式(1)において、Rは、水素原子またはメチル基を示し、Rは、水素原子、あるいは、置換されていてもよい炭素数1~6の脂肪族または脂環式炭化水素基を示す。置換基としては、例えば、ハロゲン、水酸基が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルが挙げられる。一般式(1)において、Rは、好ましくは、水素原子またはメチル基である。したがって、特に好ましいアルキル(メタ)アクリレートは、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルである。
【0027】
アクリル系樹脂は、単一のアルキル(メタ)アクリレート単位のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるRおよびRが異なる複数のアルキル(メタ)アクリレート単位を含んでいてもよい。
【0028】
アクリル系樹脂におけるアルキル(メタ)アクリレート単位の含有割合は、好ましくは50モル%~98モル%、より好ましくは55モル%~98モル%、さらに好ましくは60モル%~98モル%、特に好ましくは65モル%~98モル%、最も好ましくは70モル%~97モル%である。含有割合が50モル%より少ないと、アルキル(メタ)アクリレート単位に由来して発現される効果(例えば、高い耐熱性、高い透明性)が十分に発揮されないおそれがある。上記含有割合が98モル%よりも多いと、樹脂が脆くて割れやすくなり、高い機械的強度が十分に発揮できず、生産性に劣るおそれがある。
【0029】
アクリル系樹脂は、好ましくは、環構造を含む繰り返し単位を有する。環構造を含む繰り返し単位としては、ラクトン環単位、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位、無水マレイン酸単位、マレイミド(N-置換マレイミド)単位が挙げられる。環構造を含む繰り返し単位は、1種類のみがアクリル系樹脂の繰り返し単位に含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0030】
ラクトン環単位は、好ましくは、下記一般式(2)で表される:
【0031】
【化2】
一般式(2)において、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。アクリル系樹脂には、単一のラクトン環単位のみが含まれていてもよく、上記一般式(2)におけるR、RおよびRが異なる複数のラクトン環単位が含まれていてもよい。ラクトン環単位を有するアクリル系樹脂は、例えば特開2008-181078号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。
【0032】
グルタルイミド単位は、好ましくは、下記一般式(3)で表される:
【0033】
【化3】
【0034】
一般式(3)において、R11およびR12は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~8のアルキル基を示し、R13は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を示す。一般式(3)において、好ましくは、R11およびR12は、それぞれ独立して水素またはメチル基であり、R13は水素、メチル基、ブチル基またはシクロヘキシル基である。より好ましくは、R11はメチル基であり、R12は水素であり、R13はメチル基である。アクリル系樹脂には、単一のグルタルイミド単位のみが含まれていてもよく、上記一般式(3)におけるR11、R12およびR13が異なる複数のグルタルイミド単位が含まれていてもよい。グルタルイミド単位を有するアクリル系樹脂は、例えば、特開2006-309033号公報、特開2006-317560号公報、特開2006-328334号公報、特開2006-337491号公報、特開2006-337492号公報、特開2006-337493号公報、特開2006-337569号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。なお、無水グルタル酸単位については、上記一般式(3)におけるR13で置換された窒素原子が酸素原子となること以外は、グルタルイミド単位に関する上記の説明が適用される。
【0035】
無水マレイン酸単位およびマレイミド(N-置換マレイミド)単位については、名称から構造が特定されるので、具体的な説明は省略する。
【0036】
アクリル系樹脂における環構造を含む繰り返し単位の含有割合は、好ましくは1モル%~50モル%、より好ましくは10モル%~40モル%、さらに好ましくは20モル%~30モル%である。含有割合が少なすぎると、Tgが110℃未満となる場合があり、得られる第1の保護層の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が不十分となる場合がある。含有割合が多すぎると、成形性および透明性が不十分となる場合がある。
【0037】
アクリル系樹脂は、アルキル(メタ)アクリレート単位および環構造を含む繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。そのような繰り返し単位としては、上記の単位を構成する単量体と共重合可能なビニル系単量体由来の繰り返し単位(他のビニル系単量体単位)が挙げられる。他のビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、アリルグリシジルエーテル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N-ビニルジエチルアミン、N-アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N-メチルアリルアミン、2-イソプロペニル-オキサゾリン、2-ビニル-オキサゾリン、2-アクロイル-オキサゾリン、N-フェニルマレイミド、メタクリル酸フェニルアミノエチル、スチレン、α-メチルスチレン、p-グリシジルスチレン、p-アミノスチレン、2-スチリル-オキサゾリンなどがあげられる。これらは、単独で用いてもよく併用してもよい。他のビニル系単量体単位の種類、数、組み合わせ、含有割合等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0038】
アクリル系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1000~2000000、より好ましくは5000~1000000、さらに好ましくは10000~500000、特に好ましくは50000~500000、最も好ましくは60000~150000である。重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム,東ソー製)を用いて、ポリスチレン換算により求めることができる。なお、溶剤としてはテトラヒドロフランが用いられ得る。
【0039】
アクリル系樹脂は、上記の単量体単位を適切に組み合わせて用いて、任意の適切な重合方法により重合され得る。異なる単量体単位を有する2種以上のアクリル系樹脂をブレンドしてもよい。
【0040】
本発明の実施形態においては、アクリル系樹脂と他の樹脂とを併用してもよい。すなわち、アクリル系樹脂を構成するモノマー成分と他の樹脂を構成するモノマー成分とを共重合し、当該共重合体を後述する第1の保護層の成形に供してもよく;アクリル系樹脂と他の樹脂とのブレンドを第1の保護層の成形に供してもよい。他の樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。併用する樹脂の種類および配合量は、目的および得られるフィルムに所望される特性等に応じて適切に設定され得る。例えば、スチレン系樹脂(好ましくは、アクリロニトリル-スチレン共重合体)は、位相差制御剤として併用され得る。
【0041】
アクリル系樹脂と他の樹脂とを併用する場合、アクリル系樹脂と他の樹脂とのブレンドにおけるアクリル系樹脂の含有量は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは60重量%~100重量%、さらに好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは80重量%~100重量%である。含有量が50重量%未満である場合には、アクリル系樹脂が本来有する高い耐熱性、高い透明性が十分に反映できないおそれがある。
【0042】
C-1-2.第1の保護層の構成および特性
第1の保護層は、上記のとおり、アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成されている。このような塗布膜の固化物であれば、押出成形フィルムに比べて厚みを格段に薄くすることができる。第1の保護層の厚みは、上記のとおり10μm以下であり、好ましくは7μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。第1の保護層の厚みの下限は、例えば1μmであり得る。また、理論的には明らかではないが、このような塗布膜の固化物は、熱硬化性樹脂または活性エネルギー線硬化性樹脂(例えば、紫外線硬化性樹脂)の硬化物に比べてフィルム成形時の収縮が小さい、および、残存モノマー等が含まれないのでフィルム自体の劣化が抑制され、かつ、残存モノマー等に起因する偏光板(偏光子)に対する悪影響を抑制することができるという利点を有する。さらに、水溶液または水分散体のような水系の塗布膜の固化物に比べて吸湿性および透湿性が小さいので加湿耐久性に優れるという利点を有する。その結果、加熱加湿環境下においても光学特性を維持し得る、耐久性に優れた偏光板を実現することができる。
【0043】
第1の保護層のTgは、上記A項で説明したとおりである。
【0044】
第1の保護層のヨウ素吸着量は、好ましくは4.0重量%以下であり、より好ましくは3.0重量%以下であり、さらに好ましくは2.0重量%以下であり、特に好ましくは1.0重量%以下であり、とりわけ好ましくは0.5重量%以下である。ヨウ素吸着量は小さいほど好ましく、その下限は例えば0.1重量%であり得る。ヨウ素吸着量がこのような範囲であれば、さらに優れた耐久性を有する偏光板が得られ得る。ヨウ素吸着量は、後述の実施例に記載の方法で測定され得る。
【0045】
第1の保護層は、好ましくは、実質的に光学的に等方性を有する。本明細書において「実質的に光学的に等方性を有する」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-20nm~+10nmであることをいう。面内位相差Re(550)は、より好ましくは0nm~5nmであり、さらに好ましくは0nm~3nmであり、特に好ましくは0nm~2nmである。厚み方向の位相差Rth(550)は、より好ましくは-5nm~+5nmであり、さらに好ましくは-3nm~+3nmであり、特に好ましくは-2nm~+2nmである。第1の保護層のRe(550)およびRth(550)がこのような範囲であれば、当該第1の保護層を含む偏光板を画像表示装置に適用した場合に表示特性に対する悪影響を防止することができる。なお、Re(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。Re(550)は、式:Re(550)=(nx-ny)×dによって求められる。Rth(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの厚み方向の位相差である。Rth(550)は、式:Rth(550)=(nx-nz)×dによって求められる。ここで、nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、nzは厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚み(nm)である。
【0046】
第1の保護層の厚み3μmにおける380nmでの光線透過率は、高ければ高いほど好ましい。具体的には、光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率がこのような範囲であれば、所望の透明性を確保することができる。光線透過率は、例えば、ASTM-D-1003に準じた方法で測定され得る。
【0047】
第1の保護層のヘイズは、低ければ低いほど好ましい。具体的には、ヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズが5%以下であると、フィルムに良好なクリヤー感を与えることができる。さらに、画像表示装置の視認側偏光板に使用する場合でも、表示内容が良好に視認できる。
【0048】
第1の保護層の厚み3μmにおけるYIは、好ましくは1.27以下、より好ましくは1.25以下、さらに好ましくは1.23以下、特に好ましくは1.20以下である。YIが1.3を超えると、光学的透明性が不十分となる場合がある。なお、YIは、例えば、高速積分球式分光透過率測定機(商品名DOT-3C:村上色彩技術研究所製)を用いた測定で得られる色の三刺激値(X、Y、Z)より、次式によって求めることができる。
YI=[(1.28X-1.06Z)/Y]×100
【0049】
第1の保護層の厚み3μmにおけるb値(ハンターの表色系に準じた色相の尺度)は、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.0以下である。b値が1.5以上である場合、所望でない色味が出る場合がある。なお、b値は、例えば、第1の保護層を構成するフィルムのサンプルを3cm角に裁断し、高速積分球式分光透過率測定機(商品名DOT-3C:村上色彩技術研究所製)を用いて色相を測定し、当該色相をハンターの表色系に準じて評価することにより得られ得る。
【0050】
第1の保護層(塗布膜の固化物)は、目的に応じて任意の適切な添加剤を含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、紫外線吸収剤;レベリング剤;ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーまたは無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。添加剤はアクリル系樹脂の重合時に添加されてもよく、フィルム形成時に溶液に添加されてもよい。添加剤の種類、数、組み合わせ、添加量等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0051】
第1の保護層の偏光子側には、易接着層が形成されていてもよい。易接着層は、例えば、水系ポリウレタンとオキサゾリン系架橋剤とを含む。このような易接着層を形成することにより、第1の保護層と偏光子との密着性を高めることができる。
【0052】
C-2.第2の保護層
第2の保護層は、上記のとおり、樹脂フィルムで構成されている。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アセテート系樹脂等の透明樹脂が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0053】
本発明の偏光板が画像表示装置の視認側に配置され、かつ、第2の保護層30が画像表示装置の表示セルと反対側(視認側)に配置される場合、第2の保護層30には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。さらに/あるいは、第2の保護層30には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理(代表的には、(楕)円偏光機能を付与すること、超高位相差を付与すること)が施されていてもよい。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、偏光板は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0054】
第2の保護層の厚みは、好ましくは10μm~50μm、より好ましくは10μm~30μmである。なお、表面処理が施されている場合、外側保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0055】
D.偏光板の製造方法
D-1.偏光子の製造方法
上記B項に記載の偏光子の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)とを含むポリビニルアルコール系樹脂層(PVA系樹脂層)を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは、60℃~120℃である。このような製造方法によれば、上記のような偏光子を得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を有するとともに、光学特性のバラつきが抑制された偏光子を得ることができる。具体的には、乾燥収縮処理工程において加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら、積層体全体に亘って均一に収縮することができる。これにより、得られる偏光子の光学特性を高めることができるだけでなく、光学特性に優れる偏光子を安定して生産することができ、偏光子の光学特性(特に、単体透過率)のバラつきを抑制することができる。以下、ハロゲン化物および乾燥収縮処理について説明する。これら以外の製造方法の詳細については、例えば特開2012-73580号公報に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0056】
D-1-1.ハロゲン化物
ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含むPVA系樹脂層は、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を熱可塑性樹脂基材上に塗布し、塗布膜を乾燥することにより形成され得る。塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0057】
ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0058】
塗布液におけるハロゲン化物の量は、PVA系樹脂100重量部に対して好ましくは5重量部~20重量部であり、より好ましくは10重量部~15重量部である。ハロゲン化物の量が多すぎると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光子が白濁する場合がある。
【0059】
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂基材の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A-PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性が向上し得る。
【0060】
D-1-2.乾燥収縮処理
乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行ってもよいし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光子を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは2%~10%であり、より好ましくは2%~8%であり、特に好ましくは4%~6%である。加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら連続的に幅方向に収縮させることができ、高い生産性を実現することができる。
【0061】
図2は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1~R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1~R6を配置してもよい。
【0062】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、さらに好ましくは65℃~100℃であり、特に好ましくは70℃~80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1~20秒であり、さらに好ましくは1~10秒である。
【0063】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは30℃~100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0064】
好ましくは、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に、洗浄処理を施す。上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
【0065】
このようにして、熱可塑性樹脂基材/偏光子の積層体を得ることができる。
【0066】
D-2.偏光板の製造方法
上記D-1項で得られた積層体の偏光子表面に、第2の保護層を構成する樹脂フィルムを貼り合わせる。次いで、熱可塑性樹脂基材を剥離し、当該剥離面にアクリル系樹脂の有機溶媒溶液を塗布して塗布膜を形成し、当該塗布膜を固化させることにより第1の保護層が形成される。このようにして、第1の保護層(塗布膜の固化物)/偏光子/第2の保護層(樹脂フィルム)の構成を有する偏光板を得ることができる。
【0067】
アクリル系樹脂については、上記C-1-1項で説明したとおりである。
【0068】
有機溶媒としては、アクリル系樹脂を溶解または均一に分散し得る任意の適切な有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の具体例としては、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが挙げられる。
【0069】
溶液のアクリル系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、偏光子に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0070】
溶液は、任意の適切な基材に塗布してもよく、偏光子に塗布してもよい。溶液を基材に塗布する場合には、基材上に形成された塗布膜の固化物が偏光子に転写される。溶液を偏光子に塗布する場合には、塗布膜を乾燥(固化)させることにより、偏光子上に第1の保護層が直接形成される。好ましくは、溶液は偏光子に塗布され、偏光子上に第1の保護層が直接形成される。このような構成であれば、転写に必要とされる接着剤層または粘着剤層を省略することができるので、偏光板をさらに薄くすることができる。溶液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。具体例としては、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)が挙げられる。
【0071】
溶液の塗布膜を乾燥(固化)させることにより、第1の保護層が形成され得る。乾燥温度は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは50℃~70℃である。乾燥温度がこのような範囲であれば、偏光子に対する悪影響を防止することができる。乾燥時間は、乾燥温度に応じて変化し得る。乾燥時間は、例えば1分~10分であり得る。
【0072】
以上のようにして、第1の保護層(塗布膜の固化物)/偏光子/第2の保護層(樹脂フィルム)の構成を有する偏光板を得ることができる。あるいは、熱可塑性樹脂基材をそのまま第2の保護層としてもよい。この場合には、熱可塑性樹脂基材/偏光子の積層体の偏光子表面にアクリル系樹脂の有機溶媒溶液を塗布して塗布膜を形成し、当該塗布膜を固化させることにより第1の保護層が形成され、結果として、第1の保護層(塗布膜の固化物)/偏光子/第2の保護層(熱可塑性樹脂基材)の構成を有する偏光板を得ることができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。
【0074】
(1)ガラス転移温度Tg
実施例および比較例で用いた第1の保護層を構成する材料を所定の溶媒に溶解した溶液を、アプリケーターにより基材(PETフィルム)に塗布し、60℃で乾燥して塗膜(厚み40μm)を形成した。得られた塗膜を基材から剥離し、短冊状に切り出して測定試料とした。当該測定試料をDMA測定に供し、Tgを測定した。測定装置および測定条件は以下のとおりであった。
(測定装置)
SIIナノテクノロジー社製、「DMS6100」
(測定条件)
・測定温度範囲 :-80℃~150℃
・昇降温速度 :2℃/分
・測定試料幅 :10mm
・チャック間距離:20mm
・測定周波数 :1Hz
・歪振幅 :10μm
・測定雰囲気 :N(250mL/分)
(2)ヨウ素吸着量
実施例および比較例で用いた第1の保護層を構成する材料を所定の溶媒に溶解した溶液を、アプリケーターにより基材(PETフィルム)に塗布し、60℃で乾燥して塗膜(厚み40μm)を形成した。得られた塗膜を基材から剥離し、1cm×1cm(1cm)に切り出して測定試料とした。当該測定試料を燃焼IC法に供し、試料中のヨウ素量を定量分析した。具体的には以下のとおりである。測定試料をヘッドスペースバイアル(20mL容量)に採取および秤量した。次に、ヨウ素溶液(ヨウ素濃度1重量%、ヨウ化カリウム濃度7重量%)1mLを入れたバイアル瓶(2mL容量)を、このヘッドスペースバイアルに入れ、密栓した。その後、このヘッドスペースバイアルを乾燥機で65℃・6時間加熱し、加熱後の試料をセラミックポートに採取して自動燃焼装置を用いて燃焼させ、発生したガスを吸収液に捕集後、定量分析を行い、吸着されたヨウ素の重量%を求めた。なお、使用した装置は以下のとおりであった。
・自動試料燃焼装置:三菱化学アナリティック社製、「AQF-2100H」
・IC(アニオン):Thermo Fisher Scientific社製、「ICS-3000」
(3)色抜け
実施例および比較例で得られた偏光板から、偏光子の吸収軸方向に直交する方向および吸収軸方向をそれぞれ対向する二辺とする試験片(50mm×50mm)を切り出した。第1の保護層が内側となるようにして粘着剤で試験片を無アルカリガラス板に貼り合わせ試験サンプルとし、当該試験サンプルを85℃および85%RHのオーブン内で48時間放置して加熱加湿し、標準偏光板とクロスニコルの状態に配置した時の、加湿後の偏光板の色抜け状態を目視により調べ、以下の基準で評価した。
問題なし:色抜けは認められなかった
一部抜け:端部において色抜けが認められた
全抜け :偏光板全体にわたって色抜けが顕著であった
(4)単体透過率および偏光度
実施例および比較例で得られた偏光板から、偏光子の吸収軸方向に直交する方向および吸収軸方向をそれぞれ対向する二辺とする試験片(50mm×50mm)を切り出した。保護層が外側となるようにして粘着剤で試験片を無アルカリガラス板に貼り合わせ試験サンプルとし、当該試験サンプルについて、紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて、単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)および直交透過率(Tc)を測定し、偏光度(P)を次式により求めた。この時、測定光は保護層側より入射させた。
偏光度(P)(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
なお、上記Ts、TpおよびTcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。また、TsおよびPは、実質的には偏光子の特性である。
次に、偏光板を85℃および85%RHのオーブン内で48時間放置して加熱加湿し(加熱試験)、加熱試験前の単体透過率Tsおよび加熱試験後の単体透過率Ts48から、下記式を用いて単体透過率変化量ΔTsを求めた。
ΔTs(%)=Ts48-Ts
同様に、加熱試験前の偏光度Pおよび加熱試験後の偏光度P48から、下記式を用いて偏光度変化量ΔPを求めた。
ΔP(%)=P48-P
なお、加熱試験は、上記の色抜けの場合と同様にして試験サンプルを作製して行った。
【0075】
<実施例1>
1.偏光子/樹脂基材の積層体の作製
樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が41.5%±0.1%となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は5.2%であった。
このようにして、樹脂基材上に厚み5μmの偏光子を形成し、偏光子/樹脂基材の積層体を作製した。偏光子の単体透過率(初期単体透過率)Tsは41.5であり、偏光度(初期偏光度)Pは99.996%であった。
【0076】
2.偏光板の作製
上記で得られた偏光子の表面に、第2の保護層を構成するフィルムとしてシクロオレフィン系フィルム(日本ゼオン社製、ZT-12、厚み23μm)を、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合せた。具体的には、硬化型接着剤の総厚みが1.0μmになるように塗工し、ロール機を使用して貼り合わせた。その後、UV光線をフィルム側から照射して接着剤を硬化させた。次いで、樹脂基材を剥離して第2の保護層(ZT-12)/偏光子の構成を有する偏光板を得た。
【0077】
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(ラクトン環単位30モル%)20部をメチルエチルケトン80部に溶解し、アクリル系樹脂溶液(20%)を得た。このアクリル系樹脂溶液を、上記で得られた偏光板の偏光子表面にワイヤーバーを用いて塗布し、塗布膜を60℃で5分間乾燥して、塗布膜の固化物として構成される第1の保護層を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは119℃であり、ヨウ素吸着量は0.25重量%であった。このようにして、第1の保護層(塗布膜の固化物)/偏光子/第2の保護層(ZT-12)の構成を有する偏光板を得た。得られた偏光板を上記(3)および(4)の評価に供した。さらに、保護層形成後の収縮の有無を目視により観察した。結果を表1に示す。
【0078】
<実施例2>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりに無水マレイン酸単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(無水マレイン酸単位7モル%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは115℃であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0079】
<実施例3>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりに100%ポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(楠本化成社製、製品名「B-728」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは116℃であり、ヨウ素吸着量は0.34重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0080】
<実施例4>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりにグルタルイミド環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(グルタルイミド環単位4モル%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは103℃であり、ヨウ素吸着量は2.3重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0081】
<実施例5>
ラクトン環単位を有する異なるポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(ラクトン環単位20モル%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは104℃であり、ヨウ素吸着量は2.8重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0082】
<実施例6>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりにメチルメタクリレート/ブチルメタクリレート(モル比80/20)の共重合体であるアクリル系樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは95℃であり、ヨウ素吸着量は3.8重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0083】
<比較例1>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりにメチルメタクリレート/エチルアクリレート(モル比55/45)の共重合体であるアクリル系樹脂(楠本化成社製、製品名「B-722」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは39℃であり、ヨウ素吸着量は1.7重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0084】
<比較例2>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりにメチルメタクリレート/ブチルメタクリレート(モル比35/65)の共重合体であるアクリル系樹脂(楠本化成社製、製品名「B-734」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは71℃であり、ヨウ素吸着量は12重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0085】
<比較例3>
紫外線硬化型アクリル系樹脂(共栄社化学製、製品名「ライトアクリレートHPP-A」、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリル酸付加物)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層(硬化物)を形成した。具体的には、当該アクリル系樹脂97重量%および光重合開始剤(イルガキュア907、BASF社製)3重量%を配合した組成物を偏光子上に塗布し、窒素雰囲気下で高圧水銀ランプを用いて積算光量300mJ/cmで紫外線を照射し、硬化層(第1の保護層)を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは83℃であり、ヨウ素吸着量は6.6重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0086】
<比較例4>
紫外線硬化型アクリル系樹脂(東亜合成社製、製品名「アロニックスM-402」、ジペンタエリスリトールペンタおよびヘキサアクリレート(ペンタアクリレートが30%~40%))を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層(硬化物)を形成した。第1の保護層の形成方法は比較例3と同様であった。第1の保護層の厚みは3μmであった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0087】
<比較例5>
紫外線硬化型エポキシ系樹脂(ダイセル社製、製品名「セロキサイド2021P」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層(硬化物)を形成した。具体的には、当該エポキシ系樹脂95重量%および光重合開始剤(CPI-100P、サンアプロ社製)5重量%を配合した組成物を偏光子上に塗布し、空気雰囲気下で高圧水銀ランプを用いて積算光量500mJ/cmで紫外線を照射し、硬化層(第1の保護層)を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは95℃であり、ヨウ素吸着量は9重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0088】
<比較例6>
水系ポリエステル系樹脂(日本合成化学社製、製品名「ポリエスターWR905」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層(塗布膜の固化物)を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、ヨウ素吸着量は12重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0089】
<比較例7>
水系ポリウレタン系樹脂(第一工業製薬社製、製品名「スーパーフレックスSF210」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層(塗布膜の固化物)を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、Tgは107℃であり、ヨウ素吸着量は19重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0090】
<比較例8>
水系ポリウレタン系樹脂(ユニチカ社製、製品名「アローベースSE1200」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして第1の保護層(塗布膜の固化物)を形成した。第1の保護層の厚みは3μmであり、ヨウ素吸着量は15重量%であった。この第1の保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
<評価>
表1から明らかなように、本発明の実施例の偏光板は、非常に薄いにもかかわらず、加熱加湿環境下においても光学特性の低下が抑制され、耐久性に優れているとともに、保護層形成後の収縮が起こらず、実用に耐え得る偏光板である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の偏光板は、画像表示装置に好適に用いられる。画像表示装置としては、例えば、携帯情報端末(PDA)、スマートフォン、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯ゲーム機などの携帯機器;パソコンモニター,ノートパソコン,コピー機などのOA機器;ビデオカメラ、テレビ、電子レンジなどの家庭用電気機器;バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオなどの車載用機器;デジタルサイネージ、商業店舗用インフォメーション用モニターなどの展示機器;監視用モニターなどの警備機器;介護用モニター、医療用モニターなどの介護・医療機器;が挙げられる。
【符号の説明】
【0094】
10 偏光子
20 第1の保護層
30 第2の保護層
100 偏光板
図1
図2