(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】位相差層付偏光板
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240729BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240729BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
G02F1/13363
(21)【出願番号】P 2020562460
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051304
(87)【国際公開番号】W WO2020138368
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2018244815
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】三輪 和哉
(72)【発明者】
【氏名】上条 卓史
(72)【発明者】
【氏名】濱本 大介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ひかる
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】河原 正
【審判官】宮澤 浩
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3124708(JP,U)
【文献】国際公開第2017/170527(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/085918(WO,A1)
【文献】特開2009-52021(JP,A)
【文献】特開2016-147949(JP,A)
【文献】国際公開第02/35263(WO,A1)
【文献】特開2015-230386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素およびポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光子と該偏光子の一方の側に配置された保護層とを含む偏光板と、該偏光板の該保護層と反対側に配置された位相差層と、を有し、
該保護層のガラス転移温度が
、95℃以上であり、
該保護層のヨウ素吸着量が、4.0重量%以下であり、
該保護層の厚みが、5μm以下であり、
該保護層が、該偏光子上に直接形成されて
おり、該偏光子の表面に熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液を直接塗布して形成された塗布膜の固化物で構成されている、
位相差層付偏光板。
【請求項2】
前記位相差層が単一層であり、
該位相差層のRe(550)が100nm~190nmであり、
該位相差層の遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が40°~50°である、
請求項1に記載の位相差層付偏光板。
【請求項3】
前記位相差層が樹脂フィルムである、請求項2に記載の位相差層付偏光板。
【請求項4】
前記位相差層が液晶化合物の配向固化層である、請求項2に記載の位相差層付偏光板。
【請求項5】
前記位相差層が、第1層と第2層との積層構造を有し、
該第1層のRe(550)が200nm~300nmであり、その遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が10°~20°であり、
該第2層のRe(550)が100nm~190nmであり、その遅相軸と該偏光子の吸収軸とのなす角度が70°~80°である、
請求項1に記載の位相差層付偏光板。
【請求項6】
前記第1層および第2層が、それぞれ樹脂フィルムである、請求項5に記載の位相差層付偏光板。
【請求項7】
前記第1層および第2層が、それぞれ液晶化合物の配向固化層である、請求項5に記載の位相差層付偏光板。
【請求項8】
前記熱可塑性アクリル系樹脂が、ラクトン環単位、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位、無水マレイン酸単位およびマレイミド単位からなる群から選択される少なくとも1つを有する、請求項1から
7のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【請求項9】
画像表示装置の視認側に配置され、かつ、前記保護層が視認側に配置される、請求項1から
8のいずれかに記載の位相差層付偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差層付偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置)には、その画像形成方式に起因して、多くの場合、表示セルの少なくとも一方の側に偏光板が配置されている。さらに、実用的には、位相差板が偏光板と併用される場合が多く、偏光板と位相差板とを一体化した位相差層付偏光板が広く用いられている(例えば、特許文献1)。近年、画像表示装置の薄型化およびフレキシブル化が進んでおり、これに伴い、位相差層付偏光板の薄型化も強く要望されている。しかし、位相差層付偏光板を薄くすればするほど、加熱加湿環境下での光学特性が低下するという耐久性の問題が顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、非常に薄いにもかかわらず、耐久性に優れた位相差層付偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の位相差層付偏光板は、偏光子と該偏光子の一方の側に配置された保護層とを含む偏光板と、該偏光板の該保護層と反対側に配置された位相差層と、を有する。該保護層は、熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成されており、該保護層のガラス転移温度は95℃以上である。
1つの実施形態においては、上記位相差層は単一層であり、該位相差層のRe(550)は100nm~190nmであり、該位相差層の遅相軸と上記偏光子の吸収軸とのなす角度は40°~50°である。この場合、上記位相差層は、樹脂フィルムであってもよく液晶化合物の配向固化層であってもよい。
別の実施形態においては、上記位相差層は第1層と第2層との積層構造を有し;該第1層のRe(550)は200nm~300nmであり、その遅相軸と上記偏光子の吸収軸とのなす角度は10°~20°であり;該第2層のRe(550)は100nm~190nmであり、その遅相軸と該偏光子の吸収軸とのなす角度は70°~80°である。この場合、上記第1層および第2層はそれぞれ、樹脂フィルムであってもよく液晶化合物の配向固化層であってもよい。
1つの実施形態においては、上記保護層の厚みは10μm以下である。
1つの実施形態においては、上記保護層のヨウ素吸着量は4.0重量%以下である。
1つの実施形態においては、上記熱可塑性アクリル系樹脂は、ラクトン環単位、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位、無水マレイン酸単位およびマレイミド単位からなる群から選択される少なくとも1つを有する。
1つの実施形態においては、上記位相差層付偏光板は、画像表示装置の視認側に配置され、かつ、上記保護層は視認側に配置される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、位相差層付偏光板において保護層を熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成し、そのガラス転移温度を所定値以上とすることにより、非常に薄いにもかかわらず、耐久性に優れた位相差層付偏光板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板に用いられ得る偏光板の製造方法における加熱ロールを用いた乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)角度
本明細書において角度に言及するときは、当該角度は基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方を包含する。したがって、例えば「45°」は±45°を意味する。
【0009】
A.位相差層付偏光板の概略
図1は、本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。図示例の位相差層付偏光板100は、偏光子10と、偏光子10の一方の側に配置された保護層20と、偏光子10のもう一方の側に配置された位相差層40と、を有する。偏光子10と保護層20とは偏光板を構成する。したがって、位相差層付偏光板は、偏光子と該偏光子の一方の側に配置された保護層とを含む偏光板と、該偏光板の該保護層と反対側に配置された位相差層と、を有する。必要に応じて、偏光板は、偏光子10の保護層20とは反対側に別の保護層(図示せず)をさらに含んでいてもよい。言い換えれば、位相差層付偏光板100は、偏光子10と位相差層40との間に別の保護層(図示せず)をさらに含んでいてもよい。位相差層付偏光板において、偏光子10の厚みは、好ましくは8μm以下である。
【0010】
図1に示す実施形態においては、位相差層40は単一層である。この場合、位相差層40のRe(550)は例えば100nm~190nmであり、位相差層40の遅相軸と偏光子10の吸収軸とのなす角度は例えば40°~50°である。この場合、好ましくは、位相差層40の外側(偏光子10と反対側)に別の位相差層(図示せず)が設けられる。別の位相差層は、代表的には、屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す。あるいは、
図2に示すように、別の実施形態による位相差層付偏光板101においては、位相差層40は、第1層41と第2層42との積層構造を有する。この場合、第1層41のRe(550)は例えば200nm~300nmであり、第1層41の遅相軸と偏光子10の吸収軸とのなす角度は例えば10°~20°であり;第2層42のRe(550)は例えば100nm~190nmであり、第2層42の遅相軸と偏光子10の吸収軸とのなす角度は例えば70°~80°である。いずれの実施形態においても、位相差層40は、樹脂フィルムであってもよく液晶化合物の配向固化層であってもよい。位相差層40が積層構造を有する場合、代表的には、第1層41および第2層42はそれぞれ、樹脂フィルムまたは液晶化合物の配向固化層である。
【0011】
本発明の実施形態においては、保護層20は、熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成されている。このような構成であれば、保護層を非常に薄く(例えば、10μm以下に)することができる。さらに、保護層を偏光子に直接(すなわち、接着剤層または粘着剤層を介することなく)形成することができる。本発明の実施形態によれば、上記のとおり偏光子および保護層が非常に薄く、かつ、接着剤層または粘着剤層を省略することができるので、位相差層付偏光板の総厚みをきわめて薄くすることができる。位相差層が樹脂フィルムで構成される場合には、位相差層付偏光板の総厚みは、例えば80μm以下であり、好ましくは70μm以下であり、より好ましくは60μm以下である。位相差層付偏光板の総厚みの下限は、例えば30μmであり得る。位相差層が液晶化合物の配向固化層で構成される場合には、位相差層付偏光板の総厚みは、例えば25μm以下であり、好ましくは22μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。位相差層付偏光板の総厚みの下限は、例えば10μmであり得る。
【0012】
さらに、本発明の実施形態においては、保護層20のガラス転移温度(Tg)は95℃以上であり、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは105℃以上であり、さらに好ましくは110℃以上であり、特に好ましくは115℃以上である。保護層のTgがこのような範囲であれば、保護層を熱可塑性アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成することによる効果との相乗的な効果により、非常に薄いにもかかわらず、耐久性に優れた偏光板(結果として、位相差層付偏光板)を実現することができる。具体的には、加熱加湿環境下においても光学特性の低下が抑制された偏光板(結果として、位相差層付偏光板)を実現することができる。一方、保護層のTgは、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下であり、特に好ましくは160℃以下である。保護層のTgがこのような範囲であれば、成形性に優れ得る。
【0013】
上記のとおり、本発明の実施形態によれば、加熱加湿環境下においても光学特性の低下が抑制された偏光板(結果として、位相差層付偏光板)を実現することができる。このような偏光板(結果として、位相差層付偏光板)は、85℃および85%RHの環境下で48時間放置した後の単体透過率Tsの変化量ΔTsおよび偏光度Pの変化量ΔPが、それぞれ非常に小さい。単体透過率Tsは、例えば紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて測定され得る。偏光度Pは、紫外可視分光光度計を用いて測定される単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)および直交透過率(Tc)から、次式により算出される。
偏光度(P)(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
なお、上記Ts、TpおよびTcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。また、TsおよびPは、実質的には偏光子の特性である。ΔTsおよびΔPは、それぞれ下記式により求められる。
ΔTs(%)=Ts48-Ts0
ΔP(%)=P48-P0
ここで、Ts0は放置前(初期)の単体透過率であり、Ts48は放置後の単体透過率であり、P0は放置前(初期)の偏光度であり、P48は放置後の偏光度である。ΔTsは、好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは2.7%以下であり、さらに好ましくは2.4%以下である。ΔPは、好ましくは-0.05%~0%であり、より好ましくは-0.03%~0%であり、さらに好ましくは-0.01%~0%である。
【0014】
本発明の位相差層付偏光板は、上記以外の位相差層をさらに含んでいてもよい。そのような位相差層の光学的特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数、光弾性係数)、厚み、配置位置等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0015】
本発明の位相差層付偏光板は、導電層または導電層付等方性基材(いずれも図示せず)をさらに含んでいてもよい。導電層または導電層付等方性基材は、代表的には、位相差層40の外側(偏光子10と反対側)に設けられる。導電層または導電層付等方性基材が設けられる場合、位相差層付偏光板は、表示セル(例えば、液晶セル、有機ELセル)と偏光板との間にタッチセンサが組み込まれた、いわゆるインナータッチパネル型入力表示装置に適用され得る。
【0016】
位相差層付偏光板は、長尺状であってもよいし、枚葉状であってもよい。位相差層付偏光板が長尺状である場合、好ましくは、ロール状に巻回されて位相差層付偏光板ロールとされる。
【0017】
代表的には、位相差層付偏光板は、一方の側(代表的には、位相差層40側)の最外層として粘着剤層を有し、表示セルへの貼り合わせが可能とされている。必要に応じて、位相差層付偏光板には表面保護フィルムおよび/またはキャリアフィルムが剥離可能に仮着され、位相差層付偏光板を補強および/または支持し得る。位相差層付偏光板が粘着剤層を含む場合には、粘着剤層表面にはセパレーターが剥離可能に仮着され、実使用までの間粘着剤層を保護するとともに、位相差層付偏光板のロール化を可能としている。
【0018】
本発明の位相差層付偏光板は上記のとおり非常に薄いので、フレキシブルな画像表示装置に好適に適用され得る。より好ましくは、画像表示装置は、湾曲した形状(実質的には、湾曲した表示画面)を有し、および/または、屈曲もしくは折り曲げ可能である。画像表示装置の具体例としては、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)が挙げられる。言うまでもなく、上記の説明は、本発明の位相差層付偏光板が通常の画像表示装置に適用されることを妨げるものではない。
【0019】
以下、位相差層付偏光板の構成要素について詳細に説明する。
【0020】
B.偏光板
B-1.偏光子
偏光子としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。偏光子は、代表的には、二層以上の積層体を用いて作製され得る。偏光子の製造方法については、偏光板の製造方法としてD項で後述する。
【0021】
偏光子の厚みは、好ましくは1μm~8μmであり、より好ましくは1μm~7μmであり、さらに好ましくは2μm~5μmである。
【0022】
偏光子のホウ酸含有量は、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは13重量%~25重量%である。偏光子のホウ酸含有量がこのような範囲であれば、後述のヨウ素含有量との相乗的な効果により、貼り合わせ時のカール調整の容易性を良好に維持し、かつ、加熱時のカールを良好に抑制しつつ、加熱時の外観耐久性を改善することができる。ホウ酸含有量は、例えば、中和法から下記式を用いて、単位重量当たりの偏光子に含まれるホウ酸量として算出することができる。
【数1】
【0023】
偏光子のヨウ素含有量は、好ましくは2重量%以上であり、より好ましくは2重量%~10重量%である。偏光子のヨウ素含有量がこのような範囲であれば、上記のホウ酸含有量との相乗的な効果により、貼り合わせ時のカール調整の容易性を良好に維持し、かつ、加熱時のカールを良好に抑制しつつ、加熱時の外観耐久性を改善することができる。本明細書において「ヨウ素含有量」とは、偏光子(PVA系樹脂フィルム)中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光子中においてヨウ素はヨウ素イオン(I-)、ヨウ素分子(I2)、ポリヨウ素イオン(I3
-、I5
-)等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素含有量は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の量を意味する。ヨウ素含有量は、例えば、蛍光X線分析の検量線法により算出することができる。なお、ポリヨウ素イオンは、偏光子中でPVA-ヨウ素錯体を形成した状態で存在している。このような錯体が形成されることにより、可視光の波長範囲において吸収二色性が発現し得る。具体的には、PVAと三ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I3
-)は470nm付近に吸光ピークを有し、PVAと五ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I5
-)は600nm付近に吸光ピークを有する。結果として、ポリヨウ素イオンは、その形態に応じて可視光の幅広い範囲で光を吸収し得る。一方、ヨウ素イオン(I-)は230nm付近に吸光ピークを有し、可視光の吸収には実質的には関与しない。したがって、PVAとの錯体の状態で存在するポリヨウ素イオンが、主として偏光子の吸収性能に関与し得る。
【0024】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率Tsは、好ましくは40%~48%であり、より好ましくは41%~46%である。偏光子の偏光度Pは、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0025】
B-2.保護層
保護層は、上記のとおり、熱可塑性アクリル系樹脂(以下、単にアクリル系樹脂と称する)の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成されている。以下、保護層の構成成分について具体的に説明し、次いで、保護層の特性を説明する。
【0026】
B-2-1.アクリル系樹脂
アクリル系樹脂(後述のように、2種以上のアクリル系樹脂のブレンドおよびアクリル系樹脂と他の樹脂とのブレンドを含む)のTgは、保護層に関して上記A項で説明したとおりである。
【0027】
アクリル系樹脂としては、上記のようなTgを有する限りにおいて任意の適切なアクリル系樹脂が採用され得る。アクリル系樹脂は、代表的には、モノマー単位(繰り返し単位)として、アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含有する。本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。アクリル系樹脂の主骨格を構成するアルキル(メタ)アクリレートとしては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の炭素数1~18のものを例示できる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。さらに、アクリル系樹脂には、任意の適切な共重合モノマーを共重合により導入してもよい。アルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位は、代表的には、下記一般式(1)で表される:
【0028】
【0029】
一般式(1)において、R4は、水素原子またはメチル基を示し、R5は、水素原子、あるいは、置換されていてもよい炭素数1~6の脂肪族または脂環式炭化水素基を示す。置換基としては、例えば、ハロゲン、水酸基が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルが挙げられる。一般式(1)において、R5は、好ましくは、水素原子またはメチル基である。したがって、特に好ましいアルキル(メタ)アクリレートは、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルである。
【0030】
アクリル系樹脂は、単一のアルキル(メタ)アクリレート単位のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR4およびR5が異なる複数のアルキル(メタ)アクリレート単位を含んでいてもよい。
【0031】
アクリル系樹脂におけるアルキル(メタ)アクリレート単位の含有割合は、好ましくは50モル%~98モル%、より好ましくは55モル%~98モル%、さらに好ましくは60モル%~98モル%、特に好ましくは65モル%~98モル%、最も好ましくは70モル%~97モル%である。含有割合が50モル%より少ないと、アルキル(メタ)アクリレート単位に由来して発現される効果(例えば、高い耐熱性、高い透明性)が十分に発揮されないおそれがある。上記含有割合が98モル%よりも多いと、樹脂が脆くて割れやすくなり、高い機械的強度が十分に発揮できず、生産性に劣るおそれがある。
【0032】
アクリル系樹脂は、好ましくは、環構造を含む繰り返し単位を有する。環構造を含む繰り返し単位としては、ラクトン環単位、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位、無水マレイン酸単位、マレイミド(N-置換マレイミド)単位が挙げられる。環構造を含む繰り返し単位は、1種類のみがアクリル系樹脂の繰り返し単位に含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0033】
ラクトン環単位は、好ましくは、下記一般式(2)で表される:
【0034】
【化2】
一般式(2)において、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。アクリル系樹脂には、単一のラクトン環単位のみが含まれていてもよく、上記一般式(2)におけるR
1、R
2およびR
3が異なる複数のラクトン環単位が含まれていてもよい。ラクトン環単位を有するアクリル系樹脂は、例えば特開2008-181078号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。
【0035】
グルタルイミド単位は、好ましくは、下記一般式(3)で表される:
【0036】
【0037】
一般式(3)において、R11およびR12は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~8のアルキル基を示し、R13は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を示す。一般式(3)において、好ましくは、R11およびR12は、それぞれ独立して水素またはメチル基であり、R13は水素、メチル基、ブチル基またはシクロヘキシル基である。より好ましくは、R11はメチル基であり、R12は水素であり、R13はメチル基である。アクリル系樹脂には、単一のグルタルイミド単位のみが含まれていてもよく、上記一般式(3)におけるR11、R12およびR13が異なる複数のグルタルイミド単位が含まれていてもよい。グルタルイミド単位を有するアクリル系樹脂は、例えば、特開2006-309033号公報、特開2006-317560号公報、特開2006-328334号公報、特開2006-337491号公報、特開2006-337492号公報、特開2006-337493号公報、特開2006-337569号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。なお、無水グルタル酸単位については、上記一般式(3)におけるR13で置換された窒素原子が酸素原子となること以外は、グルタルイミド単位に関する上記の説明が適用される。
【0038】
無水マレイン酸単位およびマレイミド(N-置換マレイミド)単位については、名称から構造が特定されるので、具体的な説明は省略する。
【0039】
アクリル系樹脂における環構造を含む繰り返し単位の含有割合は、好ましくは1モル%~50モル%、より好ましくは10モル%~40モル%、さらに好ましくは20モル%~30モル%である。含有割合が少なすぎると、Tgが110℃未満となる場合があり、得られる保護層の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が不十分となる場合がある。含有割合が多すぎると、成形性および透明性が不十分となる場合がある。
【0040】
アクリル系樹脂は、アルキル(メタ)アクリレート単位および環構造を含む繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。そのような繰り返し単位としては、上記の単位を構成する単量体と共重合可能なビニル系単量体由来の繰り返し単位(他のビニル系単量体単位)が挙げられる。他のビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、アリルグリシジルエーテル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N-ビニルジエチルアミン、N-アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N-メチルアリルアミン、2-イソプロペニル-オキサゾリン、2-ビニル-オキサゾリン、2-アクリロイル-オキサゾリン、N-フェニルマレイミド、メタクリル酸フェニルアミノエチル、スチレン、α-メチルスチレン、p-グリシジルスチレン、p-アミノスチレン、2-スチリル-オキサゾリンなどがあげられる。これらは、単独で用いてもよく併用してもよい。他のビニル系単量体単位の種類、数、組み合わせ、含有割合等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0041】
アクリル系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1000~2000000、より好ましくは5000~1000000、さらに好ましくは10000~500000、特に好ましくは50000~500000、最も好ましくは60000~150000である。重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム,東ソー製)を用いて、ポリスチレン換算により求めることができる。なお、溶剤としてはテトラヒドロフランが用いられ得る。
【0042】
アクリル系樹脂は、上記の単量体単位を適切に組み合わせて用いて、任意の適切な重合方法により重合され得る。異なる単量体単位を有する2種以上のアクリル系樹脂をブレンドしてもよい。
【0043】
本発明の実施形態においては、アクリル系樹脂と他の樹脂とを併用してもよい。すなわち、アクリル系樹脂を構成するモノマー成分と他の樹脂を構成するモノマー成分とを共重合し、当該共重合体を後述する保護層の成形に供してもよく;アクリル系樹脂と他の樹脂とのブレンドを保護層の成形に供してもよい。他の樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。併用する樹脂の種類および配合量は、目的および得られるフィルムに所望される特性等に応じて適切に設定され得る。例えば、スチレン系樹脂(好ましくは、アクリロニトリル-スチレン共重合体)は、位相差制御剤として併用され得る。
【0044】
アクリル系樹脂と他の樹脂とを併用する場合、アクリル系樹脂と他の樹脂とのブレンドにおけるアクリル系樹脂の含有量は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは60重量%~100重量%、さらに好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは80重量%~100重量%である。含有量が50重量%未満である場合には、アクリル系樹脂が本来有する高い耐熱性、高い透明性が十分に反映できないおそれがある。
【0045】
B-2-2.保護層の構成および特性
保護層は、上記のとおり、アクリル系樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物で構成されている。このような塗布膜の固化物であれば、押出成形フィルムに比べて厚みを格段に薄くすることができる。保護層の厚みは、上記のとおり10μm以下であり、好ましくは7μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。保護層の厚みの下限は、例えば1μmであり得る。また、理論的には明らかではないが、このような塗布膜の固化物は、熱硬化性樹脂または活性エネルギー線硬化性樹脂(例えば、紫外線硬化性樹脂)の硬化物に比べてフィルム成形時の収縮が小さい、および、残存モノマー等が含まれないのでフィルム自体の劣化が抑制され、かつ、残存モノマー等に起因する偏光板(偏光子)に対する悪影響を抑制することができるという利点を有する。さらに、水溶液または水分散体のような水系の塗布膜の固化物に比べて吸湿性および透湿性が小さいので加湿耐久性に優れるという利点を有する。その結果、加熱加湿環境下においても光学特性を維持し得る、耐久性に優れた偏光板(結果として、位相差層付偏光板)を実現することができる。
【0046】
保護層のTgは、上記A項で説明したとおりである。
【0047】
保護層のヨウ素吸着量は、好ましくは4.0重量%以下であり、より好ましくは3.0重量%以下であり、さらに好ましくは2.0重量%以下であり、特に好ましくは1.0重量%以下であり、とりわけ好ましくは0.5重量%以下である。ヨウ素吸着量は小さいほど好ましく、その下限は例えば0.1重量%であり得る。ヨウ素吸着量がこのような範囲であれば、さらに優れた耐久性を有する偏光板(結果として、位相差層付偏光板)が得られ得る。ヨウ素吸着量は、後述の実施例に記載の方法で測定され得る。
【0048】
保護層は、好ましくは、実質的に光学的に等方性を有する。本明細書において「実質的に光学的に等方性を有する」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-20nm~+10nmであることをいう。面内位相差Re(550)は、より好ましくは0nm~5nmであり、さらに好ましくは0nm~3nmであり、特に好ましくは0nm~2nmである。厚み方向の位相差Rth(550)は、より好ましくは-5nm~+5nmであり、さらに好ましくは-3nm~+3nmであり、特に好ましくは-2nm~+2nmである。保護層のRe(550)およびRth(550)がこのような範囲であれば、当該保護層を含む位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に表示特性に対する悪影響を防止することができる。
【0049】
保護層の厚み3μmにおける380nmでの光線透過率は、高ければ高いほど好ましい。具体的には、光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率がこのような範囲であれば、所望の透明性を確保することができる。光線透過率は、例えば、ASTM-D-1003に準じた方法で測定され得る。
【0050】
保護層のヘイズは、低ければ低いほど好ましい。具体的には、ヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズが5%以下であると、フィルムに良好なクリヤー感を与えることができる。さらに、画像表示装置の視認側に位相差層付偏光板を使用する場合でも、表示内容が良好に視認できる。
【0051】
保護層の厚み3μmにおけるYIは、好ましくは1.27以下、より好ましくは1.25以下、さらに好ましくは1.23以下、特に好ましくは1.20以下である。YIが1.3を超えると、光学的透明性が不十分となる場合がある。なお、YIは、例えば、高速積分球式分光透過率測定機(商品名DOT-3C:村上色彩技術研究所製)を用いた測定で得られる色の三刺激値(X、Y、Z)より、次式によって求めることができる。
YI=[(1.28X-1.06Z)/Y]×100
【0052】
保護層の厚み3μmにおけるb値(ハンターの表色系に準じた色相の尺度)は、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.0以下である。b値が1.5以上である場合、所望でない色味が出る場合がある。なお、b値は、例えば、保護層を構成するフィルムのサンプルを3cm角に裁断し、高速積分球式分光透過率測定機(商品名DOT-3C:村上色彩技術研究所製)を用いて色相を測定し、当該色相をハンターの表色系に準じて評価することにより得られ得る。
【0053】
保護層(塗布膜の固化物)は、目的に応じて任意の適切な添加剤を含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、紫外線吸収剤;レベリング剤;ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーまたは無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。添加剤はアクリル系樹脂の重合時に添加されてもよく、フィルム形成時に溶液に添加されてもよい。添加剤の種類、数、組み合わせ、添加量等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0054】
保護層の偏光子側には、易接着層が形成されていてもよい。易接着層は、例えば、水系ポリウレタンとオキサゾリン系架橋剤とを含む。このような易接着層を形成することにより、保護層と偏光子との密着性を高めることができる。また、保護層には、ハードコート層が形成されていてもよい。ハードコート層は、保護層が視認側偏光板の視認側の保護層として用いられる場合に形成され得る。易接着層およびハードコート層の両方が形成される場合、代表的には、これらはそれぞれ保護層の異なる側に形成され得る。
【0055】
B-3.偏光板の製造方法
B-3-1.偏光子の製造方法
上記B-1項に記載の偏光子の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)とを含むポリビニルアルコール系樹脂層(PVA系樹脂層)を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは、60℃~120℃である。このような製造方法によれば、上記のような偏光子を得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を有するとともに、光学特性のバラつきが抑制された偏光子を得ることができる。具体的には、乾燥収縮処理工程において加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら、積層体全体に亘って均一に収縮することができる。これにより、得られる偏光子の光学特性を高めることができるだけでなく、光学特性に優れる偏光子を安定して生産することができ、偏光子の光学特性(特に、単体透過率)のバラつきを抑制することができる。以下、ハロゲン化物および乾燥収縮処理について説明する。これら以外の製造方法の詳細については、例えば特開2012-73580号公報に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0056】
B-3-1-1.ハロゲン化物
ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含むPVA系樹脂層は、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を熱可塑性樹脂基材上に塗布し、塗布膜を乾燥することにより形成され得る。塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0057】
ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0058】
塗布液におけるハロゲン化物の量は、PVA系樹脂100重量部に対して好ましくは5重量部~20重量部であり、より好ましくは10重量部~15重量部である。ハロゲン化物の量が多すぎると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光子が白濁する場合がある。
【0059】
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂基材の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A-PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性が向上し得る。
【0060】
B-3-1-2.乾燥収縮処理
乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行ってもよいし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光子を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは2%~10%であり、より好ましくは2%~8%であり、特に好ましくは4%~6%である。加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら連続的に幅方向に収縮させることができ、高い生産性を実現することができる。
【0061】
図3は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1~R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1~R6を配置してもよい。
【0062】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、さらに好ましくは65℃~100℃であり、特に好ましくは70℃~80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1~20秒であり、さらに好ましくは1~10秒である。
【0063】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは30℃~100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0064】
好ましくは、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に、洗浄処理を施す。上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
【0065】
このようにして、熱可塑性樹脂基材/偏光子の積層体を得ることができる。
【0066】
B-3-2.偏光板の製造方法
上記B-3-1項で得られた積層体表面に、アクリル系樹脂の有機溶媒溶液を塗布して塗布膜を形成し、当該塗布膜を固化させることにより保護層が形成される。
【0067】
アクリル系樹脂については、上記B-2-1項で説明したとおりである。
【0068】
有機溶媒としては、アクリル系樹脂を溶解または均一に分散し得る任意の適切な有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の具体例としては、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが挙げられる。
【0069】
溶液のアクリル系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、偏光子に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0070】
溶液は、任意の適切な基材に塗布してもよく、偏光子に塗布してもよい。溶液を基材に塗布する場合には、基材上に形成された塗布膜の固化物が偏光子に転写される。溶液を偏光子に塗布する場合には、塗布膜を乾燥(固化)させることにより、偏光子上に保護層が直接形成される。好ましくは、溶液は偏光子に塗布され、偏光子上に保護層が直接形成される。このような構成であれば、転写に必要とされる接着剤層または粘着剤層を省略することができるので、位相差層付偏光板をさらに薄くすることができる。溶液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。具体例としては、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)が挙げられる。
【0071】
溶液の塗布膜を乾燥(固化)させることにより、保護層が形成され得る。乾燥温度は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは50℃~70℃である。乾燥温度がこのような範囲であれば、偏光子に対する悪影響を防止することができる。乾燥時間は、乾燥温度に応じて変化し得る。乾燥時間は、例えば1分~10分であり得る。
【0072】
以上のようにして、保護層が形成され、結果として、熱可塑性樹脂基材/偏光子/保護層の積層体を得ることができる。この積層体から熱可塑性樹脂基材を剥離することにより、
図1および
図2に示すような偏光子10と保護層20とを有する偏光板を得ることができる。このような偏光板の偏光子表面に位相差層40を形成することにより、位相差層付偏光板を得ることができる。あるいは、熱可塑性樹脂基材/偏光子の積層体の偏光子表面に位相差層を構成する樹脂フィルムを貼り合わせ、次いで熱可塑性樹脂基材を剥離し、当該剥離面に保護層を形成してもよい。この場合には、高い製造効率で位相差層付偏光板を得ることができる。なお、位相差層の形成については業界で周知の方法が採用されるので、詳細な説明は省略し、後述のC項で簡単に説明する。
【0073】
C.位相差層
C-1.単一層で構成される位相差層
位相差層が単一層で構成される場合、当該位相差層は、上記のとおり、Re(550)が例えば100nm~190nmであり、位相差層40の遅相軸と偏光子10の吸収軸とのなす角度が例えば40°~50°である。位相差層は、代表的には偏光板に反射防止特性を付与するために設けられ、1つの実施形態においてはλ/4板として機能し得る。位相差層は、上記のとおり、樹脂フィルムであってもよく液晶化合物の配向固化層であってもよい。
【0074】
位相差層は、好ましくは屈折率特性がnx>ny≧nzの関係を示す。位相差層の面内位相差Re(550)は、上記のとおり例えば100nm~190nmであり、好ましくは110nm~170nmであり、より好ましくは130nm~160nmである。なお、ここで「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny<nzとなる場合があり得る。
【0075】
位相差層のNz係数は、好ましくは0.9~3であり、より好ましくは0.9~2.5であり、さらに好ましくは0.9~1.5であり、特に好ましくは0.9~1.3である。このような関係を満たすことにより、得られる位相差層付偏光板を画像表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。
【0076】
位相差層40の遅相軸と偏光子10の吸収軸とのなす角度θは、上記のとおり例えば40°~50°であり、好ましくは42°~48°であり、さらに好ましくは約45°である。角度θがこのような範囲であれば、位相差層をλ/4板とすることにより、非常に優れた円偏光特性(結果として、非常に優れた反射防止特性)を有する位相差層付偏光板が得られ得る。
【0077】
位相差層は、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。1つの実施形態においては、位相差層は、逆分散波長特性を示す。この場合、位相差層のRe(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1未満であり、より好ましくは0.8以上0.95以下である。このような構成であれば、非常に優れた反射防止特性を実現することができる。
【0078】
位相差層は、光弾性係数の絶対値が好ましくは2×10-11m2/N以下、より好ましくは2.0×10-13m2/N~1.5×10-11m2/N、さらに好ましくは1.0×10-12m2/N~1.2×10-11m2/Nの樹脂を含む。光弾性係数の絶対値がこのような範囲であれば、加熱時の収縮応力が発生した場合に位相差変化が生じにくい。その結果、得られる画像表示装置の熱ムラが良好に防止され得る。
【0079】
C-1-1.樹脂フィルム
位相差層が樹脂フィルムである場合、当該樹脂フィルムは代表的には延伸フィルムである。この場合、位相差層の厚みは、好ましくは60μm以下であり、より好ましくは30μm~55μmである。位相差層の厚みがこのような範囲であれば、加熱時のカールを良好に抑制しつつ、貼り合わせ時のカールを良好に調整することができる。
【0080】
位相差層は、上記の特性を満足し得る任意の適切な樹脂フィルムで構成され得る。そのような樹脂の代表例としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく組み合わせて(例えば、ブレンド、共重合)用いてもよい。位相差層が逆分散波長特性を示す樹脂フィルムで構成される場合、ポリカーボネート系樹脂またはポリエステルカーボネート系樹脂(以下、単にポリカーボネート系樹脂と称する場合がある)が好適に用いられ得る。
【0081】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切なポリカーボネート系樹脂を用いることができる。例えば、ポリカーボネート系樹脂は、フルオレン系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、イソソルビド系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、脂環式ジオール、脂環式ジメタノール、ジ、トリまたはポリエチレングリコール、ならびに、アルキレングリコールまたはスピログリコールからなる群から選択される少なくとも1つのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、を含む。好ましくは、ポリカーボネート系樹脂は、フルオレン系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、イソソルビド系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、脂環式ジメタノールに由来する構造単位ならびに/あるいはジ、トリまたはポリエチレングリコールに由来する構造単位と、を含み;さらに好ましくは、フルオレン系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、イソソルビド系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、ジ、トリまたはポリエチレングリコールに由来する構造単位と、を含む。ポリカーボネート系樹脂は、必要に応じてその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。なお、本発明に好適に用いられ得るポリカーボネート系樹脂の詳細は、例えば、特開2014-10291号公報、特開2014-26266号公報、特開2015-212816号公報、特開2015-212817号公報、特開2015-212818号公報に記載されており、当該記載は本明細書に参考として援用される。
【0082】
前記ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度は、110℃以上150℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以上140℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性があり、又、得られる有機ELパネルの画像品質を下げる場合がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、又フィルムの透明性を損なう場合がある。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じて求められる。
【0083】
前記ポリカーボネート系樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができる。還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定される。還元粘度の下限は、通常0.30dL/gが好ましく、より好ましは0.35dL/g以上である。還元粘度の上限は、通常1.20dL/gが好ましく、より好ましくは1.00dL/g、更に好ましくは0.80dL/gである。還元粘度が前記下限値より小さいと成形品の機械的強度が小さくなるという問題が生じる場合がある。一方、還元粘度が前記上限値より大きいと、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性が低下するという問題が生じる場合がある。
【0084】
ポリカーボネート系樹脂フィルムとして市販のフィルムを用いてもよい。市販品の具体例としては、帝人社製の商品名「ピュアエースWR-S」、「ピュアエースWR-W」、「ピュアエースWR-M」、日東電工社製の商品名「NRF」が挙げられる。
【0085】
位相差層40は、例えば、上記ポリカーボネート系樹脂から形成されたフィルムを延伸することにより得られる。ポリカーボネート系樹脂からフィルムを形成する方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、粉末成形法、FRP成形法、キャスト塗工法(例えば、流延法)、カレンダー成形法、熱プレス法等が挙げられる。押出成形法またはキャスト塗工法が好ましい。得られるフィルムの平滑性を高め、良好な光学的均一性を得ることができるからである。成形条件は、使用される樹脂の組成や種類、位相差層に所望される特性等に応じて適宜設定され得る。なお、上記のとおり、ポリカーボネート系樹脂は、多くのフィルム製品が市販されているので、当該市販フィルムをそのまま延伸処理に供してもよい。
【0086】
樹脂フィルム(未延伸フィルム)の厚みは、位相差層の所望の厚み、所望の光学特性、後述の延伸条件などに応じて、任意の適切な値に設定され得る。好ましくは50μm~300μmである。
【0087】
上記延伸は、任意の適切な延伸方法、延伸条件(例えば、延伸温度、延伸倍率、延伸方向)が採用され得る。具体的には、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮などの様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることもできる。延伸方向に関しても、長さ方向、幅方向、厚さ方向、斜め方向等、様々な方向や次元に行なうことができる。延伸の温度は、樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg-30℃~Tg+60℃であることが好ましく、より好ましくはTg-10℃~Tg+50℃である。
【0088】
上記延伸方法、延伸条件を適宜選択することにより、上記所望の光学特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数)を有する位相差フィルムを得ることができる。
【0089】
1つの実施形態においては、位相差フィルムは、樹脂フィルムを一軸延伸もしくは固定端一軸延伸することにより作製される。固定端一軸延伸の具体例としては、樹脂フィルムを長手方向に走行させながら、幅方向(横方向)に延伸する方法が挙げられる。延伸倍率は、好ましくは1.1倍~3.5倍である。
【0090】
別の実施形態においては、位相差フィルムは、長尺状の樹脂フィルムを長手方向に対して上記の角度θの方向に連続的に斜め延伸することにより作製され得る。斜め延伸を採用することにより、フィルムの長手方向に対して角度θの配向角(角度θの方向に遅相軸)を有する長尺状の延伸フィルムが得られ、例えば、偏光子との積層に際してロールトゥロールが可能となり、製造工程を簡略化することができる。なお、角度θは、位相差層付偏光板において偏光子の吸収軸と位相差層の遅相軸とがなす角度であり得る。角度θは、上記のとおり、好ましくは40°~50°であり、より好ましくは42°~48°であり、さらに好ましくは約45°である。
【0091】
斜め延伸に用いる延伸機としては、例えば、横および/または縦方向に、左右異なる速度の送り力もしくは引張り力または引き取り力を付加し得るテンター式延伸機が挙げられる。テンター式延伸機には、横一軸延伸機、同時二軸延伸機等があるが、長尺状の樹脂フィルムを連続的に斜め延伸し得る限り、任意の適切な延伸機が用いられ得る。
【0092】
上記延伸機において左右の速度をそれぞれ適切に制御することにより、上記所望の面内位相差を有し、かつ、上記所望の方向に遅相軸を有する位相差層(実質的には、長尺状の位相差フィルム)が得られ得る。
【0093】
上記フィルムの延伸温度は、位相差層に所望される面内位相差値および厚み、使用される樹脂の種類、使用されるフィルムの厚み、延伸倍率等に応じて変化し得る。具体的には、延伸温度は、好ましくはTg-30℃~Tg+30℃、さらに好ましくはTg-15℃~Tg+15℃、最も好ましくはTg-10℃~Tg+10℃である。このような温度で延伸することにより、本発明において適切な特性を有する位相差層が得られ得る。なお、Tgは、フィルムの構成材料のガラス転移温度である。
【0094】
C-1-2.液晶化合物の配向固化層
位相差層が液晶化合物の配向固化層である場合、液晶化合物を用いることにより、得られる位相差層のnxとnyとの差を非液晶材料に比べて格段に大きくすることができるので、所望の面内位相差を得るための位相差層の厚みを格段に小さくすることができる。その結果、位相差層付偏光板のさらなる薄型化を実現することができる。本明細書において「配向固化層」とは、液晶化合物が層内で所定の方向に配向し、その配向状態が固定されている層をいう。なお、「配向固化層」は、後述のように液晶モノマーを硬化させて得られる配向硬化層を包含する概念である。本実施形態においては、代表的には、棒状の液晶化合物が位相差層の遅相軸方向に並んだ状態で配向している(ホモジニアス配向)。
【0095】
液晶化合物としては、例えば、液晶相がネマチック相である液晶化合物(ネマチック液晶)が挙げられる。このような液晶化合物として、例えば、液晶ポリマーや液晶モノマーが使用可能である。液晶化合物の液晶性の発現機構は、リオトロピックでもサーモトロピックでもどちらでもよい。液晶ポリマーおよび液晶モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、組み合わせてもよい。
【0096】
液晶化合物が液晶モノマーである場合、当該液晶モノマーは、重合性モノマーおよび架橋性モノマーであることが好ましい。液晶モノマーを重合または架橋(すなわち、硬化)させることにより、液晶モノマーの配向状態を固定できるからである。液晶モノマーを配向させた後に、例えば、液晶モノマー同士を重合または架橋させれば、それによって上記配向状態を固定することができる。ここで、重合によりポリマーが形成され、架橋により3次元網目構造が形成されることとなるが、これらは非液晶性である。したがって、形成された位相差層は、例えば、液晶性化合物に特有の温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への転移が起きることはない。その結果、位相差層は、温度変化に影響されない、極めて安定性に優れた位相差層となる。
【0097】
液晶モノマーが液晶性を示す温度範囲は、その種類に応じて異なる。具体的には、当該温度範囲は、好ましくは40℃~120℃であり、さらに好ましくは50℃~100℃であり、最も好ましくは60℃~90℃である。
【0098】
上記液晶モノマーとしては、任意の適切な液晶モノマーが採用され得る。例えば、特表2002-533742(WO00/37585)、EP358208(US5211877)、EP66137(US4388453)、WO93/22397、EP0261712、DE19504224、DE4408171、およびGB2280445等に記載の重合性メソゲン化合物等が使用できる。このような重合性メソゲン化合物の具体例としては、例えば、BASF社の商品名LC242、Merck社の商品名E7、Wacker-Chem社の商品名LC-Sillicon-CC3767が挙げられる。液晶モノマーとしては、例えばネマチック性液晶モノマーが好ましい。
【0099】
液晶化合物の配向固化層は、所定の基材の表面に配向処理を施し、当該表面に液晶化合物を含む塗工液を塗工して当該液晶化合物を上記配向処理に対応する方向に配向させ、当該配向状態を固定することにより形成され得る。1つの実施形態においては、基材は任意の適切な樹脂フィルムであり、当該基材上に形成された配向固化層は、偏光子10の表面に転写され得る。別の実施形態においては、基材は別の保護層であり得る。この場合には転写工程が省略され、配向固化層(位相差層)の形成から連続してロールトゥロールにより積層が行われ得るので、生産性がさらに向上する。
【0100】
上記配向処理としては、任意の適切な配向処理が採用され得る。具体的には、機械的な配向処理、物理的な配向処理、化学的な配向処理が挙げられる。機械的な配向処理の具体例としては、ラビング処理、延伸処理が挙げられる。物理的な配向処理の具体例としては、磁場配向処理、電場配向処理が挙げられる。化学的な配向処理の具体例としては、斜方蒸着法、光配向処理が挙げられる。各種配向処理の処理条件は、目的に応じて任意の適切な条件が採用され得る。
【0101】
液晶化合物の配向は、液晶化合物の種類に応じて液晶相を示す温度で処理することにより行われる。このような温度処理を行うことにより、液晶化合物が液晶状態をとり、基材表面の配向処理方向に応じて当該液晶化合物が配向する。
【0102】
配向状態の固定は、1つの実施形態においては、上記のように配向した液晶化合物を冷却することにより行われる。液晶化合物が重合性モノマーまたは架橋性モノマーである場合には、配向状態の固定は、上記のように配向した液晶化合物に重合処理または架橋処理を施すことにより行われる。
【0103】
液晶化合物の具体例および配向固化層の形成方法の詳細は、特開2006-163343号公報に記載されている。当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。
【0104】
配向固化層の別の例としては、ディスコティック液晶化合物が、垂直配向、ハイブリッド配向及び傾斜配向のいずれかの状態で配向している形態が挙げられる。ディスコティック液晶化合物は、代表的には、ディスコティック液晶化合物の円盤面が位相差層のフィルム面に対して実質的に垂直に配向している。ディスコティック液晶化合物が実質的に垂直とは、フィルム面とディスコティック液晶化合物の円盤面とのなす角度の平均値が好ましくは70°~90°であり、より好ましくは80°~90°であり、さらに好ましくは85°~90°であることを意味する。ディスコティック液晶化合物とは、一般的には、ベンゼン、1,3,5-トリアジン、カリックスアレーンなどのような環状母核を分子の中心に配し、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等がその側鎖として放射状に置換された円盤状の分子構造を有する液晶化合物をいう。ディスコティック液晶の代表例としては、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.Liq.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されている、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体や、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されているシクロヘキサン誘導体、および、J.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系のマクロサイクルが挙げられる。ディスコティック液晶化合物のさらなる具体例としては、例えば、特開2006-133652号公報、特開2007-108732号公報、特開2010-244038号公報に記載の化合物が挙げられる。上記文献および公報の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0105】
位相差層が液晶化合物の配向固化層である場合、その厚みは、好ましくは0.5μm~7μmであり、より好ましくは1μm~5μmである。液晶化合物を用いることにより、樹脂フィルムよりも格段に薄い厚みで樹脂フィルムと同等の面内位相差を実現することができる。
【0106】
C-1-3.別の位相差層
上記のとおり、位相差層40が単一層で構成される場合には、好ましくは別の位相差層が設けられる。別の位相差層は、上記のとおり、屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す、いわゆるポジティブCプレートであり得る。別の位相差層としてポジティブCプレートを用いることにより、斜め方向の反射を良好に防止することができ、反射防止機能の広視野角化が可能となる。この場合、別の位相差層の厚み方向の位相差Rth(550)は、好ましくは-50nm~-300nm、より好ましくは-70nm~-250nm、さらに好ましくは-90nm~-200nm、特に好ましくは-100nm~-180nmである。ここで、「nx=ny」は、nxとnyが厳密に等しい場合のみならず、nxとnyが実質的に等しい場合も包含する。すなわち、別の位相差層の面内位相差Re(550)は10nm未満であり得る。
【0107】
nz>nx=nyの屈折率特性を有する別の位相差層は、任意の適切な材料で形成され得る。別の位相差層は、好ましくは、ホメオトロピック配向に固定された液晶材料を含むフィルムからなる。ホメオトロピック配向させることができる液晶材料(液晶化合物)は、液晶モノマーであっても液晶ポリマーであってもよい。当該液晶化合物および当該位相差層の形成方法の具体例としては、特開2002-333642号公報の[0020]~[0028]に記載の液晶化合物および位相差層の形成方法が挙げられる。この場合、別の位相差層の厚みは、好ましくは0.5μm~10μmであり、より好ましくは0.5μm~8μmであり、さらに好ましくは0.5μm~5μmである。
【0108】
C-2.2層構造の位相差層
位相差層40が位相差層は第1層41と第2層42との積層構造を有する場合、第1層41および第2層42のいずれか一方がλ/4板として機能し、他方がλ/2板として機能し得る。例えば、第1層41がλ/2板として機能し、第2層42がλ/4板として機能する場合、第1層の面内位相差Re(550)は、上記のとおり例えば200nm~300nmであり、好ましくは230nm~290nmであり、より好ましくは250nm~280nmである。第2層の面内位相差Re(550)は、上記のとおり例えば100nm~190nmであり、好ましくは110nm~170nmであり、より好ましくは130nm~160nmである。第1層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、上記のとおり例えば10°~20°であり、好ましくは12°~18°であり、より好ましくは約15°である。第2層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、上記のとおり例えば70°~80°であり、好ましくは72°~78°であり、より好ましくは約75°である。このような構成であれば、理想的な逆波長分散特性に近い特性を得ることが可能であり、結果として、非常に優れた反射防止特性を実現することができる。
【0109】
第1層41および第2層42は、一方が樹脂フィルムで他方が液晶化合物の配向固化層であってもよく、両方が樹脂フィルムであってもよく、両方が液晶化合物の配向固化層であってもよい。好ましくは、第1層41および第2層42は、両方が樹脂フィルムまたは液晶化合物の配向固化層である。
【0110】
第1層41および第2層42の厚みは、λ/4板またはλ/2板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。例えば、第1層41がλ/2板として機能し、第2層42がλ/4板として機能し、かつ、第1層41および第2層42が樹脂フィルムである場合、第1層41の厚みは例えば40μm~75μmであり、第2層42の厚みは例えば30μm~55μmである。第1層41および第2層42が液晶化合物の配向固化層である場合、第1層41の厚みは例えば2.0μm~3.0μmであり、第2層42の厚みは例えば1.0μm~2.0μmである。
【0111】
第1層および第2層を構成する樹脂フィルム、液晶化合物、第1層および第2層の形成方法、光学特性等については、単一層に関して上記で説明したとおりである。
【0112】
D.導電層または導電層付等方性基材
導電層は、任意の適切な成膜方法(例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、スプレー法等)により、任意の適切な基材上に、金属酸化物膜を成膜して形成され得る。金属酸化物としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、インジウム-スズ複合酸化物、スズ-アンチモン複合酸化物、亜鉛-アルミニウム複合酸化物、インジウム-亜鉛複合酸化物が挙げられる。なかでも好ましくは、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)である。
【0113】
導電層が金属酸化物を含む場合、該導電層の厚みは、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは35nm以下である。導電層の厚みの下限は、好ましくは10nmである。
【0114】
導電層は、上記基材から位相差層に転写されて導電層単独で位相差層付偏光板の構成層とされてもよく、基材との積層体(導電層付基材)として位相差層に積層されてもよい。好ましくは、上記基材は光学的に等方性であり、したがって、導電層は導電層付等方性基材として位相差層付偏光板に用いられ得る。
【0115】
光学的に等方性の基材(等方性基材)としては、任意の適切な等方性基材を採用し得る。等方性基材を構成する材料としては、例えば、ノルボルネン系樹脂やオレフィン系樹脂などの共役系を有さない樹脂を主骨格としている材料、ラクトン環やグルタルイミド環などの環状構造をアクリル系樹脂の主鎖中に有する材料などが挙げられる。このような材料を用いると、等方性基材を形成した際に、分子鎖の配向に伴う位相差の発現を小さく抑えることができる。等方性基材の厚みは、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは35μm以下である。等方性基材の厚みの下限は、例えば20μmである。
【0116】
上記導電層および/または上記導電層付等方性基材の導電層は、必要に応じてパターン化され得る。パターン化によって、導通部と絶縁部とが形成され得る。結果として、電極が形成され得る。電極は、タッチパネルへの接触を感知するタッチセンサ電極として機能し得る。パターニング方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。パターニング方法の具体例としては、ウエットエッチング法、スクリーン印刷法が挙げられる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。
【0118】
(1)ガラス転移温度Tg
実施例および比較例で用いた保護層を構成する材料を所定の溶媒に溶解した溶液を、アプリケーターにより基材(PETフィルム)に塗布し、60℃で乾燥して塗膜(厚み40μm)を形成した。得られた塗膜を基材から剥離し、短冊状に切り出して測定試料とした。当該測定試料をDMA測定に供し、Tgを測定した。測定装置および測定条件は以下のとおりであった。
(測定装置)
SIIナノテクノロジー社製、「DMS6100」
(測定条件)
・測定温度範囲 :-80℃~150℃
・昇降温速度 :2℃/分
・測定試料幅 :10mm
・チャック間距離:20mm
・測定周波数 :1Hz
・歪振幅 :10μm
・測定雰囲気 :N2(250mL/分)
(2)ヨウ素吸着量
実施例および比較例で用いた保護層を構成する材料を所定の溶媒に溶解した溶液を、アプリケーターにより基材(PETフィルム)に塗布し、60℃で乾燥して塗膜(厚み40μm)を形成した。得られた塗膜を基材から剥離し、1cm×1cm(1cm2)に切り出して測定試料とした。当該測定試料を燃焼IC法に供し、試料中のヨウ素量を定量分析した。具体的には以下のとおりである。測定試料をヘッドスペースバイアル(20mL容量)に採取および秤量した。次に、ヨウ素溶液(ヨウ素濃度1重量%、ヨウ化カリウム濃度7重量%)1mLを入れたバイアル瓶(2mL容量)を、このヘッドスペースバイアルに入れ、密栓した。その後、このヘッドスペースバイアルを乾燥機で65℃・6時間加熱し、加熱後の試料をセラミックポートに採取して自動燃焼装置を用いて燃焼させ、発生したガスを吸収液に捕集後、定量分析を行い、吸着されたヨウ素の重量%を求めた。なお、使用した装置は以下のとおりであった。
・自動試料燃焼装置:三菱化学アナリティック社製、「AQF-2100H」
・IC(アニオン):Thermo Fisher Scientific社製、「ICS-3000」
(3)色抜け
実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板から、偏光子の吸収軸方向に直交する方向および吸収軸方向をそれぞれ対向する二辺とする試験片(50mm×50mm)を切り出した。保護層が外側となるようにして粘着剤で試験片を無アルカリガラス板に貼り合わせ試験サンプルとし、当該試験サンプルを85℃および85%RHのオーブン内で48時間放置して加熱加湿し、標準偏光板とクロスニコルの状態に配置した時の、加湿後の位相差層付偏光板の色抜け状態を目視により調べ、以下の基準で評価した。
問題なし:色抜けは認められなかった
一部抜け:端部において色抜けが認められた
全抜け :偏光板全体にわたって色抜けが顕著であった
(4)単体透過率および偏光度
実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板から、偏光子の吸収軸方向に直交する方向および吸収軸方向をそれぞれ対向する二辺とする試験片(50mm×50mm)を切り出した。保護層が外側となるようにして粘着剤で試験片を無アルカリガラス板に貼り合わせ試験サンプルとし、当該試験サンプルについて、紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて、単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)および直交透過率(Tc)を測定し、偏光度(P)を次式により求めた。この時、測定光は保護層側より入射させた。
偏光度(P)(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
なお、上記Ts、TpおよびTcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。また、TsおよびPは、実質的には偏光子の特性である。
次に、位相差層付偏光板を85℃および85%RHのオーブン内で48時間放置して加熱加湿し(加熱試験)、加熱試験前の単体透過率Ts0および加熱試験後の単体透過率Ts48から、下記式を用いて単体透過率変化量ΔTsを求めた。
ΔTs(%)=Ts48-Ts0
同様に、加熱試験前の偏光度P0および加熱試験後の偏光度P48から、下記式を用いて偏光度変化量ΔPを求めた。
ΔP(%)=P48-P0
なお、加熱試験は、上記の色抜けの場合と同様にして試験サンプルを作製して行った。
(5)正面反射率
実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板から、偏光子の吸収軸方向に直交する方向および吸収軸方向をそれぞれ対向する二辺とする試験片(50mm×50mm)を切り出した。保護層が外側となるようにして粘着剤で試験片を無アルカリガラス板に貼り合わせ試験サンプルとした。この試験サンプルを、85℃、85%RHで48時間の加湿試験に供した。反射板(東レフィルム社製、商品名「DMS-X42」;反射率86%)の上に、上記加湿試験後の試験サンプルを、ガラスと反射板が対向するように (すなわち保護層が外側になるように) 配置した。続いて、分光測色計(コニカミノルタ製のCM-2600d)を用いて、SCI方式で正面反射率を測定した。
【0119】
<実施例1>
1.偏光子/樹脂基材の積層体の作製
樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が41.5%±0.1%となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は5.2%であった。
このようにして、樹脂基材上に厚み5μmの偏光子を形成し、偏光子/樹脂基材の積層体を作製した。偏光子の単体透過率(初期単体透過率)Ts0は41.5であり、偏光度(初期偏光度)P0は99.996%であった。
【0120】
2.位相差層を構成する位相差フィルムの作製
2-1.ポリエステルカーボネート系樹脂の重合
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン29.60質量部(0.046mol)、イソソルビド(ISB)29.21質量部(0.200mol)、スピログリコール(SPG)42.28質量部(0.139mol)、ジフェニルカーボネート(DPC)63.77質量部(0.298mol)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物1.19×10
-2
質量部(6.78×10
-5
mol)を仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネート系樹脂を水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。
【0121】
2-2.位相差フィルムの作製
得られたポリエステルカーボネート系樹脂(ペレット)を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:250℃)、チルロール(設定温度:120~130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み135μmの長尺状の樹脂フィルムを作製した。得られた長尺状の樹脂フィルムを、幅方向に、延伸温度133℃、延伸倍率2.8倍で延伸し、厚み48μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムのRe(550)は141nmであり、Re(450)/Re(550)は0.82であり、Nz係数は1.12であった。
【0122】
3.位相差層付偏光板の作製
上記1.で得られた積層体の偏光子表面に、上記3.で得られた位相差フィルムを、アクリル系粘着剤(厚み5μm)を介して貼り合わせた。このとき、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とが45°の角度をなすようにして貼り合わせた。樹脂基材を剥離して位相差層/偏光子の構成を有する位相差層付偏光板を得た。
【0123】
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(ラクトン環単位30モル%)20部をメチルエチルケトン80部に溶解し、アクリル系樹脂溶液(20%)を得た。このアクリル系樹脂溶液を、上記で得られた偏光板の偏光子表面にワイヤーバーを用いて塗布し、塗布膜を60℃で5分間乾燥して、塗布膜の固化物として構成される保護層を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは119℃であり、ヨウ素吸着量は0.25重量%であった。このようにして、保護層(塗布膜の固化物)/偏光子/位相差層の構成を有する位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板を上記(3)~(5)の評価に供した。さらに、保護層形成後の収縮の有無を目視により観察した。結果を表1に示す。
【0124】
<実施例2>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりに無水マレイン酸単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(無水マレイン酸単位7モル%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは115℃であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0125】
<実施例3>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりに100%ポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(楠本化成社製、製品名「B-728」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは116℃であり、ヨウ素吸着量は0.34重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0126】
<実施例4>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりにグルタルイミド環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(グルタルイミド環単位4モル%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは103℃であり、ヨウ素吸着量は2.3重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0127】
<実施例5>
ラクトン環単位を有する異なるポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂(ラクトン環単位20モル%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは104℃であり、ヨウ素吸着量は2.8重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0128】
<実施例6>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりにメチルメタクリレート/ブチルメタクリレート(モル比80/20)の共重合体であるアクリル系樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは95℃であり、ヨウ素吸着量は3.8重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0129】
<実施例7>
1.偏光子/樹脂基材の積層体の作製
実施例1と同様にして偏光子/樹脂基材の積層体を作製した。
【0130】
2.位相差層を構成する第1の配向固化層および第2の配向固化層の作製
ネマチック液晶相を示す重合性液晶(BASF社製:商品名「Paliocolor LC242」、下記式で表される)10gと、当該重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(BASF社製:商品名「イルガキュア907」)3gとを、トルエン40gに溶解して、液晶組成物(塗工液)を調製した。
【化4】
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み38μm)表面を、ラビング布を用いてラビングし、配向処理を施した。配向処理の方向は、偏光板に貼り合わせる際に偏光子の吸収軸の方向に対して視認側から見て15°方向となるようにした。この配向処理表面に、上記液晶塗工液をバーコーターにより塗工し、90℃で2分間加熱乾燥することによって液晶化合物を配向させた。このようにして形成された液晶層に、メタルハライドランプを用いて1mJ/cm
2の光を照射し、当該液晶層を硬化させることによって、PETフィルム上に液晶配向固化層Aを形成した。液晶配向固化層Aの厚みは2.5μm、面内位相差Re(550)は270nmであった。さらに、液晶配向固化層Aは、nx>ny=nzの屈折率特性を示した。
塗工厚みを変更したこと、および、配向処理方向を偏光子の吸収軸の方向に対して視認側から見て75°方向となるようにしたこと以外は上記と同様にして、PETフィルム上に液晶配向固化層Bを形成した。液晶配向固化層Bの厚みは1.5μm、面内位相差Re(550)は140nmであった。さらに、液晶配向固化層Bは、nx>ny=nzの屈折率特性を示した。
【0131】
3.位相差層付偏光板の作製
上記1.で得られた偏光子/樹脂基材の積層体の偏光子表面に、上記2.で得られた液晶配向固化層Aおよび液晶配向固化層Bをこの順に転写した。このとき、偏光子の吸収軸と配向固化層Aの遅相軸とのなす角度が15°、偏光子の吸収軸と配向固化層Bの遅相軸とのなす角度が75°になるようにして転写(貼り合わせ)を行った。なお、それぞれの転写(貼り合わせ)は、紫外線硬化型接着剤(厚み1.0μm)を介して行った。続いて、補強のために粘着剤付き基材を配向固化層Bの表面に貼り合わせた。続いて、樹脂基材を剥離し、偏光子/接着層/位相差層(第1の配向固化層/接着層/第2の配向固化層)/粘着剤付き基材の構成を有する位相差層付偏光板を得た。
【0132】
次いで、実施例3と同様にして、位相差層付偏光板の偏光子表面に保護層を形成した。最後に、粘着剤層付き基材を剥離し、保護層(塗布膜の固化物)/偏光子/位相差層の構成を有する位相差層付偏光板を得た。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0133】
<比較例1>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりにメチルメタクリレート/エチルアクリレート(モル比55/45)の共重合体であるアクリル系樹脂(楠本化成社製、製品名「B-722」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは39℃であり、ヨウ素吸着量は1.7重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0134】
<比較例2>
ラクトン環単位を有するポリメチルメタクリレートであるアクリル系樹脂の代わりにメチルメタクリレート/ブチルメタクリレート(モル比35/65)の共重合体であるアクリル系樹脂(楠本化成社製、製品名「B-734」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは71℃であり、ヨウ素吸着量は12重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0135】
<比較例3>
紫外線硬化型アクリル系樹脂(共栄社化学製、製品名「ライトアクリレートHPP-A」、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリル酸付加物)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層(硬化物)を形成した。具体的には、当該アクリル系樹脂97重量%および光重合開始剤(イルガキュア907、BASF社製)3重量%を配合した組成物を偏光子上に塗布し、窒素雰囲気下で高圧水銀ランプを用いて積算光量300mJ/cm2で紫外線を照射し、硬化層(保護層)を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは83℃であり、ヨウ素吸着量は6.6重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0136】
<比較例4>
紫外線硬化型アクリル系樹脂(東亜合成社製、製品名「アロニックスM-402」、ジペンタエリスリトールペンタおよびヘキサアクリレート(ペンタアクリレートが30%~40%))を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層(硬化物)を形成した。保護層の形成方法は比較例3と同様であった。保護層の厚みは3μmであった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0137】
<比較例5>
紫外線硬化型エポキシ系樹脂(ダイセル社製、製品名「セロキサイド2021P」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層(硬化物)を形成した。具体的には、当該エポキシ系樹脂95重量%および光重合開始剤(CPI-100P、サンアプロ社製)5重量%を配合した組成物を偏光子上に塗布し、空気雰囲気下で高圧水銀ランプを用いて積算光量500mJ/cm2で紫外線を照射し、硬化層(保護層)を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは95℃であり、ヨウ素吸着量は9重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0138】
<比較例6>
水系ポリエステル系樹脂(日本合成化学社製、製品名「ポリエスターWR905」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層(塗布膜の固化物)を形成した。保護層の厚みは3μmであり、ヨウ素吸着量は12重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0139】
<比較例7>
水系ポリウレタン系樹脂(第一工業製薬社製、製品名「スーパーフレックスSF210」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層(塗布膜の固化物)を形成した。保護層の厚みは3μmであり、Tgは107℃であり、ヨウ素吸着量は19重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0140】
<比較例8>
水系ポリウレタン系樹脂(ユニチカ社製、製品名「アローベースSE1200」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層(塗布膜の固化物)を形成した。保護層の厚みは3μmであり、ヨウ素吸着量は15重量%であった。この保護層を用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を作製した。得られた位相差層付偏光板を色抜けの評価に供したところ不良(「全抜け」)であったので、単体透過率および偏光度の評価は行わなかった。結果を表1に示す。
【0141】
【0142】
<評価>
表1から明らかなように、本発明の実施例の位相差層付偏光板は、非常に薄いにもかかわらず、加熱加湿環境下においても光学特性の低下が抑制され、耐久性に優れているとともに、保護層形成後の収縮が起こらず、実用に耐え得る位相差層付偏光板である。さらに、本発明の実施例の位相差層付偏光板は、加湿試験後の正面反射率が非常に小さく、良好な反射防止特性を示した。これは、例えば有機EL表示装置のような金属層を有する画像表示装置に適用した場合に当該金属層による外光の映り込みを防止する効果があることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の位相差層付偏光板は、画像表示装置に好適に用いられる。画像表示装置としては、例えば、携帯情報端末(PDA)、スマートフォン、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯ゲーム機などの携帯機器;パソコンモニター,ノートパソコン,コピー機などのOA機器;ビデオカメラ、テレビ、電子レンジなどの家庭用電気機器;バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオなどの車載用機器;デジタルサイネージ、商業店舗用インフォメーション用モニターなどの展示機器;監視用モニターなどの警備機器;介護用モニター、医療用モニターなどの介護・医療機器;が挙げられる。
【符号の説明】
【0144】
10 偏光子
20 保護層
40 位相差層
41 第1層
42 第2層
100 偏光板