(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】眼疾患の治療における使用のための、フォトクロミック化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 245/08 20060101AFI20240729BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240729BHJP
A61K 31/655 20060101ALI20240729BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240729BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240729BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240729BHJP
C07D 213/20 20060101ALI20240729BHJP
C07D 295/135 20060101ALI20240729BHJP
C09K 9/02 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
C07C245/08
A61K9/08
A61K31/655
A61K45/00
A61P27/02
A61P43/00 121
C07D213/20 CSP
C07D295/135
C09K9/02 B
(21)【出願番号】P 2020567613
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 IB2019054530
(87)【国際公開番号】W WO2019234567
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】102018000005987
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510121547
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・イスティトゥート・イタリアーノ・ディ・テクノロジャ
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE ISTITUTO ITALIANO DI TECNOLOGIA
(73)【特許権者】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】グリエルモ・ランツァーニ
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ・マリア・パテルノ
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスコ・ロドーラ
(72)【発明者】
【氏名】キアーラ・ベルタレッリ
(72)【発明者】
【氏名】ファビオ・ベンフェナーティ
(72)【発明者】
【氏名】マッティア・ロレンツォ・ディフランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】エリザベッタ・コロンボ
(72)【発明者】
【氏名】ホセ・フェルナンド・マヤ-ベテンコウルト
(72)【発明者】
【氏名】レティツィア・コレッラ
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104230746(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0207213(US,A1)
【文献】Dyes and Pigments,1993年,Vol. 23, No. 3,pp. 149-157
【文献】JOURNAL FUER PRAKTISCHE CHEMIE,1998年,Vol. 340, No. 2,pp. 122-128
【文献】JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2012年,Vol. 134, No. 10,pp. 4898-4904
【文献】BRITISH JOURNAL OF PHARMACOLOGY,2017年,Vol. 175,pp. 2296-2311
【文献】MACROMOLECULES,2009年,Vol. 42, No. 13,pp. 4775-4786
【文献】Chemistry Letters,1980年,No. 4,pp. 421-424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
A61K
A61P
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
【化1】
【化2】
【化3】
を含む群から選択される、化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物の少なくとも1つ、薬学的に許容可能な賦形剤、および適宜、1つ以上のさらなる活性成分を含む、医薬組成物。
【請求項3】
眼科用用途のための、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
網膜変性症の治療のための、請求項2または3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
網膜変性症が、網膜色素変性症および加齢黄斑変性症を含む群から選択される、請求
項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
眼内注射溶液の形態で製剤化される、請求項3~5のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、医療分野、特に変性網膜疾患の治療のための応用が見出される。
【背景技術】
【0002】
網膜色素変性症(RP)および加齢黄斑変性症(AMD)などの、遺伝性または加齢による網膜ジストロフィーは、失明の一般的な原因の1つである。これらの疾患は、進行性で重度の視力喪失を引き起こす、光受容体の変性を伴う。
【0003】
RPは光伝達に関与する遺伝子に関する、優性、劣性、またはX連鎖性変異によって引き起こされる。これらの遺伝子の変異は、杆体の生存を損なう。その結果、RPにおいて、暗所視は早期に影響を受ける。次の段階において、錐体が関与し、完全な失明が引き起こされる。
【0004】
AMDは、中心窩の錐体の選択的な変性から成り、75歳以上の人口の最大20%が影響を受ける。AMDにおいて、中心窩の光受容体の機能障害によって、視野の中心部分に高解像度の視力の低下が生じる。
【0005】
多くの努力にもかかわらず、光受容体の変性を防ぐための認められた薬理学的治療は、いまだに特定されていない。内部網膜の相対的な保存を考慮すると、後者の光刺激を通して、視力を回復させる試みがなされてきた。
【0006】
Bianco A et al. (Control of optical properties through photochromism: a promising approach to photonics. Laser Photonics Rev 2011; 1-26)は、内部網膜の光活性化のためのフォトクロミック分子を記載する。一般に、分子の光異性化可能な部位はアゾベンゼンであり、トランス(E)からシス(Z)に異性化して、暗状態および明状態の間で変化する活性基を露出させる。
【0007】
アゾベンゼン誘導体の異性化に関連した性質は、例えば、イオンチャネル、電圧、またはリガンド依存性に関する応用のために、広く研究されてきた。Gorostiza P and Isacoff E (Optical switches and triggers for the manipulation of ion channels and pores. Mol Biosyst 2007; 3, 686-704)を参照されたい。
【0008】
光スイッチイング可能なアフィニティーラベル(PAL)もまた、外因性遺伝子の操作や発現がない場合に、標的タンパク質において光依存性の配座の変化を誘発することが報告されている(Fortin DL et al. Photochemical control of endogenous ion channels and cellular excitability. Nat Methods 2008; 5, 331-338)。それらの中でも、Polosukhina A et al. (Photochemical restoration of visual responses in blind mice. Neuron 2012; 75, 271-282)は、K+チャネル、および他端のチャネル構造と相互作用するアクリルアミドなどの極性基と結合して阻害する、アゾベンゼン4級アンモニウム基(QA)の一端に共有結合する化合物を報告した。前記化合物は、遺伝的に盲目のマウスにおいて視覚を回復することができた。化合物の硝子体内投与の後に見られた効果は長続きせず、EからZへの異性体化を促進するためにUV照射が必要であった。欠点は、UV領域における励起の必要性に関連し、これは組織に有害であり、網膜にほとんど到達しない。可視光によって活性化することができ、長い半減期を示す、4級アンモニウムによって置換された新たなアゾベンゼン光スイッチを得る必要性によって、DENAQおよびBENAQについて説明することに繋がった(Tochitsky I et al. Restoring visual function to blind mice with a photoswitch that exploits electrophysiological remodeling of retinal ganglion cells. Neuron 2014; 81, 800-813. Tochitsky I et al. Restoring visual function to the blind retina with a potent, safe and long-lasting photoswitch. Sci Rep 2017; 7, 45487)。
【0009】
興奮性細胞の光刺激の分野においてこれまで行われてきた多くの努力にも関わらず、同時に生体適合性であり、可視光によって活性化可能であり、より長い半減期を有し、膜チャネルの本来の生理学的活性に干渉しない、新たなフォトクロミック化合物に対する強い必要性が未だに存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
脂質ラフトにおいて、細胞膜の内部に位置するフォトクロミック化合物が、本明細書において記載される。
本発明のさらなる目的は、網膜変性症の治療において用いるための前記化合物に関する。
【0011】
第一の目的において、本発明は請求項1および従属項に記載の、新規な化合物を提供する。
本発明の別の目的は、記載される化合物の少なくとも1つを含む医薬組成物である。
【0012】
さらなる目的において、本発明の化合物の医学的使用が記載される。
記載される化合物の合成方法は、本発明のさらなる目的を表す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)本発明に記載の化合物の異性体化方法のスキーム。DMSO中の25μMのジアピン2化合物の吸収(b)および発光(c)スペクトル。(d)水、DMSO、およびHEK293中のジアピン2の光スイッチ動態。(e,f)DMSO中の25μMのジアピン1の吸収およびフォトルミネセンス(e)、および450nmにおけるダイオードを用いた照射による、470nmにおける吸収ピークの出現。
【
図2】(a)Eおよび(b)Z配座における、膜モデル中のジアピン2の分子動態シミュレーション。(c)水および膜環境(POPC脂質モデル)中の、単一のジアピン2(E)分子の異なる3つのシミュレーションにおける、ジアピン2の重心(COM)と二重層の中心との距離の時間依存性;点線は、水とリン脂質基の極性ヘッドとの間の境界を大まかに示す。
【
図3】E(a)およびZ(b)配座における、POPC膜モデル中のジアピン1の分子動態シミュレーション。
【
図4】一次ニューロンの原形質膜の近傍(a)および脂質ラフト(b)における、ジアピン2分子の局在化を示す共焦点顕微鏡画像。グラフ(c)は、ジアピン2の約70%が、原形質膜および脂質ラフトに等しく存在し(上)、これによって細胞表面の約20%が覆われていること(下)を表す。
【
図5】一次ニューロンの原形質膜の近傍(a)および脂質ラフト(b)における、ジアピン1分子の局在化を示す、共焦点顕微鏡画像。グラフ(c)は、50%未満のジアピン1が、原形質膜および脂質ラフトに存在し(上)、細胞表面の約20%を覆うこと(下)を表す。
【
図6】ジアピン2で処理した、照射下における、HEK293細胞(a,b)、シナプス遮断薬の非存在下(c,d)または存在下における(e,f)一次ニューロンにおいて行われた、電気生理学。(a)DMSO 0.25%(v/v)(対照;黒線)、またはDMSO中の25μM ジアピン2(灰色線)と共にインキュベートしたHEK293細胞、および20ms(上)または200ms(下)間にわたって光刺激したHEK293細胞から記録された代表的な平均電流固定トレース(波長470nm、47mW/mm
2の光出力密度、灰色の網掛け部分)。(b)HEK293細胞における平均過分極、およびその後の脱分極。(c,d)シナプス遮断薬の非存在下(c)または存在下(e)において、DMSO 0.25%(v/v)(対照;黒線)、またはDMSO中の5μM ジアピン2(灰色線)においてインキュベートしたニューロンから記録した、受動的応答(過分極/脱分極、左)および活動的応答(活動電位、右)の、代表的な電流固定トレース。光刺激の持続時間(それぞれ、20および200ms)は、網掛け領域として示されている(波長470nm、20mW/mm
2の光出力密度)。(d,f)シナプス遮断薬の非存在下(d)または存在下(f)において、DMSOまたはジアピン2に曝露され、20または200msの光刺激を受けた一次ニューロンにおける、過分極(左)および脱分極(右)ピークの定量化。
【
図7】光刺激後の一次ニューロンにおける、膜静電容量およびコンダクタンスの調節。20ms(左)または200ms(右)で、シナプス阻害薬および光刺激阻害薬の存在下、0.25%(v/v) DMSO(対照;黒線)またはDMSO中の5μM ジアピン2(灰色線)とインキュベートした一次ニューロンからの固定電流において記録した、静電容量(a)およびコンダクタンス(b)の代表的なトレース(波長470nm、20mW/mm
2の光出力密度、網掛け領域)。(c,d)20および200msの光刺激によって誘発された、ピーク静電容量(c)およびコンダクタンス(d)の変動の定量化。
【
図8】一次海馬ニューロンにおける、受動的および能動的膜特性に対するジアピン1の影響。一次ニューロンをDMSO(0.25%v/v)またはジアピン1(DMSO中に5μM)とインキュベートし、次いでシナプス遮断薬の存在下(SB)または非存在下(対照)で、20または200msの光刺激に対する応答を記録した。(a)20/200msの光刺激に対する応答における、過分極(左)および脱分極(右)の定量化。(b,c)シナプス遮断薬の存在下で、DMSOまたはジアピン1に曝露されたニューロンにおいて、光刺激下で誘発された、ピーク(左)およびプラトー(右)静電容量(b)および経時的な変動ダイナミクス(c)の調節。(d)シナプス遮断薬(SB)の非存在下(対照)または存在下の、DMSO(黒線)またはジアピン1(灰色線)中の一次ニューロンにおける、活動電位(発火)の代表的な放電。(e,f)20ms(e)または200ms(f)にわたる光刺激に対する応答において記録された、DMSO(黒)またはジアピン1(灰色)中のニューロンにおける光誘導発火の調節の定量化。
【
図9】ジアピン2に曝露されたマウスの体性感覚皮質における、インビボで光によって誘導された皮質応答。(a)体性感覚皮質(S1ShNc、ラムダから前方2mm、正中線から外側2mm、および脳表面から腹側-723μm)におけるジアピン2(1μlの10%DMSO中に200mM)の定位固定注入、並びに光刺激および電場電位記録(LFP)のための16光ファイバー結合微小電極システムの模式的描写。(b)DMSO(黒線)またはジアピン2(灰色線)を注入したマウスにおける、20および200ms(43mW/mm
2)の光刺激によって体性感覚皮質において誘発された、代表的なLFPの記録。網掛けの領域は光刺激を表す。(c)光刺激の出力および持続時間に応じた、DMSO(黒線)またはジアピン2(灰色線)を注入したマウスにおける、LFPの用量反応分析。25および43mW/mm
2における刺激は、ジアピン2を注入した動物において応答を引き起こし、これはDMSOおよび20msの照射の場合は4mW/mm
2で処理した動物とは有意に異なる。より高い出力密度は、部分的には温度によって誘導されて、ジアピン2の存在下でより有意に高くなる応答を誘発する。光刺激の非存在下で、用いた最大出力(160mW/mm
2)において、DMSOのみに関しては有意な変化は観測されなかった。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;マン・ホイットニーU検定(いずれの実験群についても、N=3マウス)。
【
図10】本発明に記載される好ましい化合物の合成を示す図。
【
図11】本発明に記載される好ましい化合物の合成を示す図。
【
図12】本発明に記載のいくつかの化合物について、HEK293細胞において行った電気生理学試験の結果。
【
図13】本発明に記載のいくつかの化合物について、HEK293細胞において行った電気生理学試験の結果。
【
図14】本発明に記載のいくつかの化合物について、HEK293細胞において行った電気生理学試験の結果。
【
図15】本発明に記載のいくつかの化合物について、HEK293細胞において行った電気生理学試験の結果。
【
図16】本発明に記載のいくつかの化合物について、HEK293細胞において行った電気生理学試験の結果。
【
図17】本発明に記載のいくつかの化合物について、HEK293細胞において行った電気生理学試験の結果。
【
図18】化合物のトランス-シス異性体化反応を示す、470nmにおけるアゾベンゼン誘導体のUV-Vis吸収スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。用語に複数の定義がある場合は、このセクションの定義が優先される。
【0015】
本出願において、特に明記されていない限り、単数形の使用には複数形が含まれる。明細書および付属の特許請求の範囲において用いられるように、文脈から明確にそうでないことが示されていない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は複数形についての言及を含むことが当然示される。
【0016】
用語「適宜」または「適宜の」は、以下に記載される事象または状況が発生してもよく、発生しなくてもよく、明細書は前記の事象または状況が発生する例、およびそれらが発生しない例を含むことを意味する。例えば、「適宜置換されていてもよいアルキル」は、「アルキル」または「置換アルキル」を意味し;さらに、適宜置換されていてもよい基は、非置換(例えば、-CH2CH3)、完全置換(例えば、-CF2CF3)、一置換(例えば、-CH2CH2F)でありうるか、あるいは完全置換と一置換の間の任意の程度で置換されうる(例えば、-CH2CHF2、-CH2CF3、-CF2CH3、-CFHCHF2など)。
【0017】
本明細書において、C1-CxはC1-C2、C1-C3..C1-Cxを含む。あくまでも例として、「C1-C4」は、官能基に1~4個の炭素原子が存在すること、すなわち1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子、または4個の炭素原子を含む基、並びにC1-C2およびC1-C3の範囲を示す。そのため、あくまでも例として、「C1-C4アルキル」は、アルキル基に1~4個の炭素原子が存在すること、すなわちアルキル基が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、およびt-ブチルから選択されることを示す。本明細書に記載されている場合は常に、「1~10」などの数値範囲は、指定された範囲内の各整数を指し;例えば、「1~10個の炭素原子」は、当該基が1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子、4個の炭素原子、5個の炭素原子、6個の炭素原子、7個の炭素原子、8個の炭素原子、9個の炭素原子、または10個の炭素原子を有し得ることを意味する。
【0018】
本明細書で用いられる用語「環」および「末端環」は、単独で、または組み合わせで、本明細書に記載されるように、ヘテロ芳香族および多環式、脂環式、ヘテロ環式、縮合または非縮合の芳香環系などの、共有結合によって閉じた任意の構造をいう。
【0019】
環は適宜置換されていてもよい。
環は縮合環系の一部であってもよい。
【0020】
用語「末端」は、環を構成する骨格原子の数を示すことを意味する。
本明細書で用いられる用語「縮合」は、単独で、または組み合わせで、2つ以上の環が1つ以上の結合を共有する環状構造をいう。
【0021】
「置換された」という用語によって、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシから独立して選択される1つ以上の置換基によって置換されていることが意味される。
【0022】
本発明において、用語「3~14員のヘテロ環」は、水素原子を除去することによる、炭化水素に由来する環状基を意味する。例えば、当該用語としては、3~8員の単環式ヘテロ環、および6~14員の縮合ヘテロ環が挙げられる。
【0023】
用語「3~8員の単環式ヘテロ環」は、3~8員の飽和単環式ヘテロ環、および部分的に飽和な単環式ヘテロ環を意味する。用語「3~8員の飽和単環式ヘテロ環」は、単環式環が完全に飽和な環であることを意味する。
【0024】
用語「3~8員の部分的に飽和な単環式ヘテロ環」は、単環式環が部分的に飽和な環であることを意味する。
【0025】
本発明の第一の目的によれば、式(1)の化合物は、
【化1】
[式中、
YおよびZは独立して、O、N、Pであり;
R、R
1、R
2、R
3は、存在する場合、独立して、H、適宜置換されていてもよいC
1-C
12アルキル、好ましくは適宜置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、O、あるいは、RおよびR
1、並びに/またはR
2およびR
3は、それらが結合する原子Yおよび/またはZと一緒になって、適宜O、N、およびSから選択される1つ以上のさらなるヘテロ原子を含んでもよく、適宜置換されていてもよい、3~14員環を形成する。]
と記載される。
【0026】
好ましくは、前記C1-C6アルキルは、適宜置換されていてもよい直鎖、または適宜置換されていてもよい分岐鎖飽和炭化水素である。
【0027】
さらにより好ましくは、前記C1-C6アルキルは、C末端で正に帯電した基において、好ましくは三級アミノ基または芳香族アミンによって置換されている。
【0028】
本発明の好ましい局面において、R、R
1、R
2、および/またはR
3は、独立して、
【化2】
[式中、X=Br、Iであり、xは2から12の間に含まれる]
であるか;
あるいは、R、R
1、R
2、および/またはR
3は、独立して、
【化3】
[式中、X=Br、Iであり、xは2から12の間に含まれ、R’はC
1-C
4アルキル、好ましくはR’=CH
3、CH
2CH
3である]
である。
【0029】
本発明の好ましい局面によれば、記載される式(1)の化合物において、ZはNであり、前記RおよびR
1は、独立して、Hおよび/または
【化4】
であり、X=BrまたはIであり、xは2から12の間に含まれる。
【0030】
本発明の別の好ましい局面によれば、記載される式(1)の化合物において、YがNであり、前記R2およびR3がいずれも
【化5】
であり、X=BrまたはIであり、xは2から12の間に含まれる。
【0031】
本発明の特定の局面において、Yおよび/またはZがOである場合、前記RまたはR1、および/または前記R2またはR3は、適宜存在しなくてもよい。
好ましい局面において、前記ZRR1および/またはYR2R3基は、NO2である。
さらに好ましい局面において、前記ZRR1および/またはYR2R3基は、-OCH3である。
【0032】
前記環は、飽和、不飽和、または芳香環であり、置換されている場合、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、シクロプロピル、シクロブチル、-CF3、-OH、-OCH3、-OC2H5、-SH、-SCH3、-SCH2CH3、-CH2OH、-C(CH3)2OH、-Cl、-F、-CN、-COOH、-COOR5、-CONH2、-CONHR5、または-SO2NH2から独立して選択される、1つ以上の置換基で置換され、ここで、R5はHまたはC1-C3アルキルである。
【0033】
好ましい局面において、前記環は、原子YまたはZを除いて、炭素原子を含む。
さらにより好ましい局面において、前記環はアゼパンである。
【0034】
本発明の目的のために、表1の化合物が特に好ましい:
【表1】
式中、
【表2】
[式中、X=BrまたはIであり、xは2から12の間に含まれ、R’=-CH
3、-CH
2CH
3である。]
【0035】
本発明の特に好ましい局面によれば、以下の化合物が記載される:
【化6】
【化7】
【化8】
【0036】
医学的使用のための本明細書に記載される化合物は、本発明の目的をさらに形成する。
好ましい局面において、前記医学的使用は、眼疾患の治療におけるものである。
さらにより好ましくは、前記医学的使用は、例えば、網膜色素変性症および加齢黄斑変性症などの網膜ジストロフィーである、眼疾患の治療におけるものである。
【0037】
さらなる局面において、本発明に記載される、少なくとも1つの化合物、および適宜1つ以上のさらなる薬学的に許容可能な活性成分、および/または賦形剤を含む、組成物が記載される。
【0038】
本発明に記載される使用のための医薬組成物は、従来の方法で、マイクロインジェクション可能な製剤のために生理学的に使用可能な製剤中において、活性化合物の処理を容易にする、担体、希釈剤、またはリポソームなどの1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤を用いて、製剤化されうる。
【0039】
好ましい局面において、本発明の化合物は、液体組成物の形態で医薬組成物として提供される。
医薬組成物は、適切な液体賦形剤中に分散された、少なくとも1つの前記化合物を含みうる。
適切な液体賦形剤は、当技術分野において既知であり;例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesを参照されたい。
【0040】
特に好ましい実施態様において、前記製剤は、硝子体内または網膜下マイクロインジェクションされる。
本発明のさらなる目的は、好ましくは黄斑部における硝子体内または網膜下マイクロインジェクションによる、適切な分量の本発明の化合物の少なくとも1つを、必要な患者に投与することを含む、光受容体の変性疾患の治療のための方法である。
【0041】
光感受性の起こり得る減衰の後、投与を繰り返してもよい。
用語「マイクロインジェクション」は、マイクロリットルの桁数の体積を、ゆっくりと定期的に注入するために、マイクロシリンジを用いて調製物を投与することをいう。
【0042】
本発明に記載の化合物または組成物は、強膜を介した、または硝子体腔を介したマイクロインジェクションによって、網膜下量で投与される。
好ましい局面によると、本発明に記載される化合物または組成物は、網膜下腔へのマイクロインジェクションによって、投与/塗布/注射される。
【0043】
好ましくは、前記化合物または組成物は、以下の方法の1つによって投与される。
(i)治療する眼の結膜を切開する、好ましくは上部四分円の約2時の方向において、角膜輪部から1.5mmを切る;および/または
(ii)強膜および脈絡膜を切開する(約0.6mm)、好ましくは角膜輪部から1mm;および/または
(iii)高分子量ヒアルロン酸ナトリウム塩(例えば、IAL-F, Fidia Farmaceutici S.p.A., Italy)などの少量の粘弾性物質を、網膜下腔に注入することによって、網膜色素上皮から網膜を分離する;および/または
(iv)好ましくは、網膜下腔における強膜を介して、本発明に記載の1つ以上の化合物または組成物を注入する;
(vi)ジアテルミーによる強膜切開の凝固、および強膜創傷における結膜の再配置。
【0044】
これらの好ましい局面において、本発明に記載の1つ以上の化合物または組成物は、強膜および脈絡膜を介して浸透した後、網膜下領域において、優先的に黄斑にマイクロインジェクションによって投与される。
【0045】
これらの好ましい局面において、本発明に記載の1つ以上の化合物または組成物は、網膜下領域において、マイクロインジェクションによって投与される。
【0046】
別の好ましい局面によれば、注入は、結膜を開き、強膜および脈絡膜を切開し、強膜および網膜の色素上皮を分離し、網膜に粘弾性物質を注射し、最終的に本発明に記載の1つ以上の化合物または組成物を、網膜下領域に注射することによって行われる。
【0047】
さらに好ましい局面に従って、本発明に記載の1つ以上の化合物または組成物は、網膜および脈絡膜への損傷を防ぐために、強膜に接線方向に注射される。この位置において針で注射することによって生じる、接線方向の網膜下の流れは、完全な網膜剥離およびその後の化合物の均一な分布を促進するのに非常に有効である。
【0048】
前記組成物は、好ましくは注入可能な眼科用医薬組成物である。
本発明の眼科用組成物は、眼科用用途として一般に許容されるpHを特徴とし、好ましくは7.0および7.5の間に含まれる。
さらに、当該組成物は、眼科用用途として一般に許容される浸透圧を特徴とし、好ましくは290および300mOsm/Lの間に含まれる。
【実施例】
【0049】
合成戦略
図10および11にも示されるように、本発明に記載の2つの化合物の合成経路を以下に説明する。当業者は、本明細書に記載のさらなる化合物を得るために、本明細書に提示される合成戦略をどのように変更すべきかを知っている。
【0050】
特に特定されない限り、全ての試薬および溶媒は市販され、さらなる精製を行わずに用いる。空気および水に対して感受性の試薬および中間体の反応は、乾燥したガラス器具において、アルゴン雰囲気下で行った。必要に応じて、溶媒を従来の方法で無水化し、アルゴン下で保管した。
【0051】
2C
6
Br/2C
6
Br、Az/1C
6
Br、Az/2C
6
Br、および1C
6
Br/1C
6
Br
1.0gの4,4’-ジアミノアゾベンゼン(NH2/NH2)を、L. Hamryszak et al (J. Mol. Liq., 2012, 165, 12) において報告される方法に従って合成し、130mLの無水アセトニトリル中で撹拌した。2.60gのK2CO3および7.5mLの1,6-ジブロモヘキサンを、反応混合物に加えた。反応の進行をTLCで合計120時間追跡した。反応混合物を濾過し、固形物をジエチルエーテル、酢酸エチル、およびジクロロメタンで3回洗浄した。過剰なジブロモヘキサンを、60℃、減圧下(3x10-1mbar)で除去した。ヘキサン/ジエチルエーテル 3:1の混合物を移動相として用いて、シリカゲルによるフラッシュクロマトグラフィーによって、原料物質を精製し、52mgの2C6Br/2C6Br、32mgのAz/1C6Br、33mgのAz/2C6Br、および64mgの1C6Br/1C6Brを得た。
【0052】
ジアピン1(Az/1C
6
Py)
12mgのAz/1C6Brを、3mLのピリジンに溶解し、室温で42時間撹拌した。その後、3mLのメタノールを加え、次いで60時間撹拌した。減圧下で、過剰なピリジンおよびメタノールを反応混合物から除去し、固形物を得て、これを少量のヘキサンで洗浄した。
【0053】
ジアピン2(Az/2C
6
Py)
12mgのAz/2C6Brを3mLのピリジンに溶解させ、室温で42時間撹拌した。その後、3mLのメタノールを加え、次いで60時間撹拌した。減圧下で、過剰なピリジンおよびメタノールを反応混合物から除去し、固形物を得て、これを少量のヘキサンで洗浄した。
【0054】
2C
6
Py/2C
6
Py
12mgの2C6Br/2C6Brを3mLのピリジンに溶解させ、室温で42時間撹拌した。その後、3mLのメタノールを加え、次いで60時間撹拌した。減圧下で、過剰なピリジンおよびメタノールを反応混合物から除去し、固形物を得て、これを少量のヘキサンで洗浄した。
【0055】
1C
6
Py/1C
6
Py
12mgの1C6Br/1C6Brを3mLのピリジンに溶解させ、室温で42時間撹拌した。その後、3mLのメタノールを加え、次いで60時間撹拌した。減圧下、過剰なピリジンおよびメタノールを反応混合物から除去し、固形物を得て、これを少量のヘキサンで洗浄した。
【0056】
1C
6
Am/1C
6
Am
32mgの1C6Br/1C6Brを4mLのエタノールに溶解させ、0.3mLのトリメチルアミンを加えた。溶液を80℃で48時間加熱した。減圧下で、過剰なトリメチルアミンおよびエタノールを反応混合物から除去した。
【0057】
Az/1C
6
Am
32mgのAz/1C6Brを4mLのエタノールに溶解させ、0.3mLのトリメチルアミンを加えた。溶液を80℃で48時間加熱した。減圧下で、過剰なトリメチルアミンおよびエタノールを反応混合物から除去した。
【0058】
2C
6
Am/2C
6
Am
32mgの2C6Br/2C6Brを4mLのエタノールに溶解させ、0.3mLのトリメチルアミンを加えた。溶液を80℃で48時間加熱した。減圧下で、過剰なトリメチルアミンおよびエタノールを反応混合物から除去した。
【0059】
Az/2C
6
Am
32mgのA/2C6Brを4mLのエタノールに溶解させ、0.3mLのトリメチルアミンを少量加えた。溶液を80℃で48時間加熱した。減圧下で、過剰なトリメチルアミンおよびエタノールを反応混合物から除去した。
【0060】
NO
2
/1C
3
Br
1.0gのDisperse Orange 3を10mLの無水アセトニトリルに溶解させ、ここに1.0gのK2CO3および1.7mLの1,3-ジブロモプロパンを加えた。反応混合物を80℃に加熱し、反応を合計96時間、TLCで追跡した。反応混合物を次いで濾過し、固形物をジエチルエーテル、酢酸エチル、およびジクロロメタンで3回洗浄した。過剰なジブロモプロパンを、減圧下(3x10-1mbar)、60℃で除去した。ジクロロメタンを移動相として用いて、シリカゲルによるフラッシュクロマトグラフィーによって、原料物質を精製し、30mgのNO2/1C3Brを得た。
【0061】
NO
2
/1C
6
Br
1.0gのDisperse Orange 3を10mLの無水アセトニトリルに溶解させ、ここに1.0gのK2CO3および0.7mLの1,6-ジブロモヘキサンを加えた。溶液を80℃に加熱し、反応を合計96時間、TLCで追跡した。反応混合物を次いで濾過し、固形物をジエチルエーテル、酢酸エチル、およびジクロロメタンで3回洗浄した。過剰なジブロモヘキサンを減圧下(3x10-1mbar)、60℃で除去した。ジクロロメタンを移動相として用いて、シリカゲルによるフラッシュクロマトグラフィーによって、原料物質を精製し、32mgのNO2/1C6Brを得た。
【0062】
NO
2
/1C
12
Br
1.0gのDisperse Orange 3を10mLの無水アセトニトリルに溶解させ、ここに1.0gのK2CO3および5.5gの1,12-ジブロモドデカンを加えた。溶液を80℃に加熱し、反応を合計96時間、TLCによって追跡した。反応混合物を次いで濾過し、固形物をジエチルエーテル、酢酸エチル、およびジクロロメタンで3回洗浄した。ジクロロメタンを移動相として用いて、シリカゲルによるフラッシュクロマトグラフィーによって、原料物質を精製し、40mgのNO2/1C12Brを得た。
【0063】
NO
2
/1C
3
Py
12mgのNO2/1C3Brを3mLのピリジンに溶解させ、室温で42時間撹拌した。その後、3mLのメタノールを加え、次いで60時間撹拌した。減圧下で、過剰なピリジンおよびメタノールを反応混合物から除去し、固形物を得て、これを少量のヘキサンで洗浄した。
【0064】
NO
2
/1C
6
Py
12mgのNO2/1C6Brを3mLのピリジンに溶解させ、室温で42時間撹拌した。その後、3mLのメタノールを加え、次いで60時間撹拌した。減圧下で、過剰なピリジンおよびメタノールを反応混合物から除去し、固形物を得て、これを少量のヘキサンで洗浄した。
【0065】
NO
2
/1C
12
Py
12mgのNO2/1C12Brを3mLのピリジンに溶解させ、室温で42時間撹拌した。その後、3mLのメタノールを加え、次いで60時間撹拌した。減圧下で、過剰なピリジンおよびメタノールを反応混合物から除去し、固形物を得て、これを少量のヘキサンで洗浄した。
【0066】
薄層クロマトグラフィー(TLC)は、アルミニウムホイル(Sigma Aldrich)上のシリカゲルを用いて行った。NMRスペクトルはBruker ARX400機器によって得た。質量分析は、Bruker Equire 3000 plus機器によって行った。
【0067】
光物理学的特性
DMSOのジアピン2分子(
図1a)は、E異性体のn→π*およびπ→π*遷移にそれぞれ起因する、470nmを中心とする強い吸収ピーク(
図1b)および330nmにおけるピークを有する。青色光(450nm)の照射は、E→Zの異性体化を引き起こし、これは350-380nmおよび520-60nmにおけるZ配座異性体の吸収の同時増加を伴う、E異性体の吸収の減少からも分かる。アゾベンゼン蛍光はまた、光応答性物質のスイッチ動作、並びに生細胞における局在化および光力学を追跡するための理想的なツールである。DMSO溶液中で、青色光への曝露の後のジアピン2の時間依存性蛍光減少(
図1c)は、光異性体化反応によるE配座異性体のフォトルミネセンスの弱化に関連する。時間依存性蛍光測定(
図1d)によって、生存HEK293細胞における、明らかなアゾベンゼンの「光スイッチング」動態が示唆され、推定される異性体化/緩和度は、0.01cm
2J
-1および0.0085s
-1であった。これらの値は、細胞膜におけるジアピン2の光スイッチング能力が、DMSO中よりもわずかに低いことを示唆し、これはおそらく、二重層構造に内在化された時に、分子が遭遇するコンフォメーションの自由度が制限されたためである。類似性の特性評価は、ジアピン1分子を用いて行った(
図1e,f)。
【0068】
図18は、470nmにおけるアゾベンゼン誘導体のUV-Vis吸収スペクトルを示し、これは化合物のトランス-シス異性体化反応を示す。この場合において、プッシュプル配置を有するニトロ-アゾベンゼンは、調査された時間体制において、シス異性体の吸収が現れるのを阻害する、急速な熱緩和(>ns)を有するため、化合物NO
2/1C
6Pyの異性体化反応は観測されない(Bandara et al., Chem. Soc. Rev., 2012, 41, 1809-1825)。
【0069】
化合物局在化試験
分子は細胞膜に局在化し、そのコンフォメーションを変化させる傾向がある。疎水膜環境に対する特異的親和性は、ジアピン2分子のEおよびZ異性体の分子動力学シミュレーションによって研究され(
図2)、化合物が50~100nsの時間変数において、化合物が細胞外環境に添加された場合、膜への取り込みの有意な傾向が明らかになった(
図2b)。ジアピン1分子はまた、膜に挿入される傾向を示したが、しかしながら、その変形は少ないことを示した(
図3a,b)。原形質膜レベルにおける両分子の標的化は、細胞膜(Cell Mask,それぞれ
図4a、
図5a)、または脂質ラフト、コレステロールおよびイオンチャネルが豊富な膜領域(Vybrant,それぞれ
図4b、
図5b)についての特異的なマーカーを用いて、一次ニューロンの培養において解析した。神経細胞培養物を化合物に曝露した後、脂質ラフトにおける分子の局在化の割合は非常に高く、これはコレステロールおよびイオンチャネルが豊富な膜領域に対する顕著な親和性を示唆している(
図4c)。この効果は、ジアピン1よりもジアピン2分子についてさらにより顕著である(
図5c)。
【0070】
分子活性
可視光による光励起の後、E体は、より大きな立体障害を伴うZ体に異性体化する。このコンフォメーション変化に続いて、HEK293細胞株は、膜電位の過分極によって応答し(
図6aおよびb)、これは膜静電容量および抵抗に影響を与えうる、二重脂質膜の変形の結果として解釈される。
【0071】
一次ニューロンのように、電位依存性コンダクタンスの大きなセットを提供する興奮性組織の場合、過分極の後に脱分極が生じ、これによって活性電位が閾値に到達し、その結果、光刺激に応答して発火する(
図6c)。膜電位の調節は、光刺激の持続時間に依存しないが、過分極およびその後の脱分極の振幅は、ベクターのみ(DMSO)の存在下で記録された膜電位とは有意に異なっている(
図6d)。また、膜の二相性効果および化合物の発火電位は、阻害性および興奮性シナプス活性の遮断薬の存在下で、単一のニューロンレベルにおいて確認される(
図6eおよびf)。
【0072】
また、化合物と膜との相互作用は、受動的膜特性の光刺激下での調節によっても示される(
図7aおよびb)。実際に、膜の静電容量および伝導率の両方が、暗所での値と比較して、有意な減少を示し(
図7cおよびd)、これは脂質二重層の変形に関連する神経活性の調節の仮説を裏付けている。受動的および能動的な膜特性はまた、ジアピン1分子で処理した一次ニューロンにおいても試験し、一般に、光刺激後の調節効果が、ジアピン2によって得られるよりも低かった(
図8)。
【0073】
本発明に記載の化合物の有効性は、成体の動物の体性感覚皮質に、1μlのジアピン2を投与することによって、インビボで実証された。目的は、インビトロで観測された神経活性の光依存性調節が、インビボでも生じるかどうかを調査することであった。電気生理学的記録は、光刺激のために光ファイバーに連結させた16個の微小電極のアレイを移植することによって得た。蛍光分析によって、皮質細胞による分子の拡散および吸収の領域が、約1mmの直径を占めていることが明らかになった(
図9aおよびb)。異なる強度における472nmのレーザーを用いた、20および200ms間の光刺激によって、電場電位(LFP)の観点から評価して、有意な皮質活動の活性化が誘発された。この結果は、担体(DMSO)によって処理した動物においては観測されなかった。応答は、光刺激後200ms辺りでピークに達した(
図9cおよびd)。
【0074】
図12~17は、HEK293細胞において行った、20mW/mm
2の強度を有する光に対して、網掛け領域によって示される、可視光域の短い(20ms、左)および長い(200ms、右)光パルスによって刺激した時の、25μMの化合物の存在下における、本発明に記載のいくつかの化合物についての電気生理学試験の結果を示す。各トラックは、平均40の連続した光線として得られる。
【0075】
特に、
図16において、有意な脱分極は、電子受容体-供与体(プッシュ-プル)分子内配置を示す、誘導体の電荷移動容量に起因しうることがわかる。
【0076】
上記の説明から、本願特許出願の化合物によって提供される利点は、当業者に明らかであろう。
【0077】
例えば、本明細書に記載の化合物の活性は、K+チャネルに関連しておらず、そのため、本発明に記載の化合物の使用は、先行技術のフォトクロミック分子で処理することに必然的に起因する、K+チャネルの阻害に関連する過興奮のリスクに関連していないことが理解されるであろう。
* * *