(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】Sn粒子、それを用いた導電性組成物及びSn粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240729BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20240729BHJP
C22C 12/00 20060101ALI20240729BHJP
B22F 9/14 20060101ALI20240729BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20240729BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20240729BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20240729BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240729BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
B22F1/00 R
C22C13/00
C22C12/00
B22F9/14 Z
H01B5/00 E
H01B1/00 E
H01B1/02 Z
H01B13/00 501Z
C22C21/00 A
(21)【出願番号】P 2020569624
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002835
(87)【国際公開番号】W WO2020158685
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019012580
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 隆志
(72)【発明者】
【氏名】松山 敏和
(72)【発明者】
【氏名】織田 晃祐
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-332254(JP,A)
【文献】特開2013-004404(JP,A)
【文献】特開2008-106327(JP,A)
【文献】特開2013-004498(JP,A)
【文献】特開平08-246010(JP,A)
【文献】特開2006-274399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 8/00
B22F 9/00 - 9/30
C22C 13/00
C22C 12/00
H01B 5/00
H01B 1/00
H01B 1/02
H01B 13/00
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snと酸素(O)とを含むSn粒子であって、
前記Snを40質量%以上含み、前記Oを0.55質量%以下含み、
BET比表面積(m
2/g)に対するO含有量(質量%)の比(質量%・g/m
2)が0.40以下であ
り、
走査型電子顕微鏡観察によって測定された累積体積50容量%における体積累積粒径D
SEM50
に対する、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D
50
の比D
50
/D
SEM50
が、1.76以上4.5以下である、Sn粒子。
【請求項2】
前記Oを0.05質量%以上含む、請求項1に記載のSn粒子。
【請求項3】
Au、Ag、Cu、Si、Ni、Ti、Fe、Co、Cr、Mg、Al、Mn、Mo、W、Ta、In、Zr、Nb、Ge、Zn、Bi及びSbの少なくとも一種の金属を更に含む、請求項1又は2に記載のSn粒子。
【請求項4】
Agを0.1質量%以上4.0質量%以下含み、Cuを0.1質量%以上1.0質量%以下含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のSn粒子。
【請求項5】
走査型電子顕微鏡観察によって測定された累積体積90容量%における体積累積粒径D
SEM90が2.0μm以下である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のSn粒子。
【請求項6】
BET比表面積が1m
2/g以上である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のSn粒子。
【請求項7】
球状である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のSn粒子。
【請求項8】
請求項1ないし
7のいずれか一項に記載のSn粒子を含んでなる導電性組成物。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のSn粒子の製造方法であって、
チャンバー内に発生させたプラズマフレームにSn母粉を供給して該Sn母粉をガス化させ、ガス化した前記Sn母粉を冷却してSn粒子を生成させる工程を有し、
前記チャンバーは、その内部が還元ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気であり、且つその内部の圧力が大気圧よりも20kPa以上40kPa以下低く、
Sn母粉の供給量に対するプラズマ出力の比が、0.01kW・min/g以上20kW・min/g以下である、Sn粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sn粒子、それを用いた導電性組成物及びSn粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられる積層セラミックコンデンサ(MLCC)は、一般的に、Cuを含む外部電極と、Ni及びSnを含むメッキ層とを備えている。これに加えて、熱衝撃や物理的応力などの外的応力緩和の目的で、Sn等の金属粉及び樹脂を含む導電性樹脂層が、電極とメッキ層との間に形成されることがある。
【0003】
導電性樹脂層に用いられる材料として、例えば特許文献1には、Mnを0.005質量%以上0.1質量%以下、Geを0.001質量%以上0.1質量%以下で含み、残部の主成分をSnとしたはんだ合金を用いたペーストが記載されている。このはんだ合金は、酸化膜厚の増加が抑制され、融合性を向上させることができることも同文献に記載されている。
【0004】
特許文献2には、Snの含有量が40%以上である金属材料からなるはんだ層と、はんだ層の表面を被覆するSnO膜及びSnO2膜を備えたはんだ材料が記載されている。このはんだ材料は、はんだペーストとして、電子部品のはんだ継手に用いることができることも同文献に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US 2017/216975 A1
【文献】US 2017/252871 A1
【発明の概要】
【0006】
ところで近年、電子機器の小型化や高性能化に対応するため、導電性樹脂層の薄膜化が求められている。導電性樹脂層を薄膜化するためには、構成材料の一つであるSn粒子の粒子径を小さくすることが望まれている。しかし、特許文献1及び2に記載のはんだ材料は、Sn粒子の粒子径が大きいため、導電性樹脂層の薄膜化に対応することができない。
そこで、微細なSn粒子を製造する方法として、直流熱プラズマ法(以下、「DCプラズマ法」ともいう。)が用いられるが、現状の製造条件で得られるSn粒子は、酸素(O)の含有量が高くなってしまい、低温での溶融性が十分なものとはならなかった。また、これに起因して、電極の電気抵抗の増大や機械的強度の低下を引き起こす可能性があった。
【0007】
したがって、本発明の課題は、粒子径が小さく、且つ低温での焼結性に優れたSn粒子を提供することにある。
【0008】
本発明は、Snと酸素(O)とを含むSn粒子であって、
前記Snを40質量%以上含み、前記Oを0.55質量%以下含み、
BET比表面積(m2/g)に対するO含有量(質量%)の比(質量%・g/m2)が0.40以下である、Sn粒子を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記Sn粒子を含んでなる導電性組成物を提供するものである。
【0010】
更に本発明は、チャンバー内に発生させたプラズマフレームにSn母粉を供給して該Sn母粉をガス化させ、ガス化した前記Sn母粉を冷却してSn粒子を生成させる工程を有し、
前記チャンバーは、その内部が還元ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気であり、且つその内部の圧力が大気圧よりも20kPa以上40kPa以下低く、
Sn母粉の供給量に対するプラズマ出力の比が、0.01kW・min/g以上20kW・min/g以下である、Sn粒子の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明のスズ粒子を製造するDCプラズマ装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のスズ粒子(以下、これを「Sn粒子」ともいう。)は、スズ(Sn)と酸素(O)とを所定の割合で含み、且つ比表面積と酸素含有量とが所定の比となっているものである。
【0013】
Sn粒子は、その構成金属としてSnを含む。Sn粒子におけるSnの含有量は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。Snの含有量を40質量%以上とすることによって、コンデンサ等の電子素子を製造する際に、Sn粒子の融点を低く抑えて低温で焼結することができる。その結果、高温負荷に起因した素子の不具合を低減することができる。
【0014】
また、後述するように、Sn粒子は、Snを含む合金としてもよい。この場合のSn含有量は、上述した範囲と同様であることが好ましいが、Sn-Bi合金である場合には、該合金の低い融点に起因した、焼結後の導電膜の機械的強度の低下を防止する観点から、Sn含有量は30質量%以上100質量%未満であることが好ましい。いずれの場合であっても、Snの含有量は、例えば、ICP(高周波誘導結合プラズマ)によるプラズマ発光分析によって、Sn粒子を無機酸等の酸に溶解させて得られる試料溶液を分析対象として測定することができる。
【0015】
Sn粒子は、更にOを含む。本発明のSn粒子は、該粒子中のOの含有量が極めて少ないことを特徴の一つとしている。Sn粒子におけるOの含有態様は、例えばSn等のSn粒子を構成する金属の酸化物である。Sn粒子において、Snの酸化物を含む場合には、Oの含有態様は、SnO、SnO2及びSnO3のうち少なくとも一種であり得る。これらのSn酸化物は、Sn粒子の表面及びその近傍の部位に存在しており、該部位よりも粒子の内部域は、Snの単結晶相になっていることが好ましい。
【0016】
Sn粒子におけるOの含有量は、低温での焼結性を一層優れたものとする観点から、0.55質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましく、0.40質量%以下であることが更に好ましい。一方で、Oの含有量の下限は少なければ少ないほど好ましいが、大気中での粒子の安定性の観点から、0.05質量%であることが好ましい。
【0017】
Oの含有量は、例えば、LECO社製の酸素分析装置ONH836を用いて測定することができる。詳細には、測定試料0.1gを黒鉛坩堝内に秤量し、ヘリウムガス雰囲気下で加熱する。加熱の際に炭素と酸素とが反応して生成した一酸化炭素及び二酸化炭素を非分散赤外線吸収法で検出し、Oの含有割合(質量%)を算出した。
【0018】
これに加えて、Sn粒子は、BET比表面積(m2/g)に対するO含有量(質量%)の比(単位:質量%・g/m2)が、0.40以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。前記の比の下限は小さいほど好ましいが、大気での安定性を高める観点から、0.01であることが好ましい。
【0019】
Sn粒子におけるBET比表面積は、1m2/g以上であることが好ましく、1.5m2/g以上であることがより好ましい。BET比表面積の上限としては、5m2/gであることが好ましく、4m2/gであることがより好ましい。BET比表面積の大きさと、粒子径の小ささとは概ね相関しているので、BET比表面積がこのような範囲にあることによって、Sn粒子の粒子径を十分に小さくすることができる点で有利である。
【0020】
BET比表面積は、吸着ガスである窒素を30容量%、キャリアガスであるヘリウムを70容量%含有する窒素-ヘリウム混合ガスと、BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、HM model-1210)とを用いて、JIS R 1626「ファインセラミックス粉体の気体吸着 BET法による比表面積の測定方法」の「6.2流動法」の「(3.5)一点法」に従って測定することができる。
【0021】
Sn粒子は、その構成金属としてSnのみを含んでいてもよく、Snと、Au、Ag、Cu、Si、Ni、Ti、Fe、Co、Cr、Mg、Al、Mn、Mo、W、Ta、In、Zr、Nb、Ge、Zn、Bi及びSb等の金属元素の1種以上とを組み合わせた合金を含んでいてもよい。Sn粒子に含まれる合金の具体例としては、Sn-Bi合金、Sn-Ag合金、Sn-Cu合金、Sn-Ag-Cu合金等が挙げられる。これらのうち、Sn-Ag-Cu合金は、低温での焼結を十分に行うことができるとともに、焼結後の導電膜の導電性及び機械的強度を向上できる点で更に好ましく用いられる。つまり、Sn粒子は、その構成金属として、Snのみを含むか、又はSnと、Bi、Ag及びCuの少なくとも一種以上とを組み合わせた合金を含むことがより好ましく、Snと、Ag及びCuとの合金を含むことが更に好ましい。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、Sn粒子が不可避不純物を含有することは許容される。
【0022】
Sn粒子の好ましい態様として、Sn粒子にAg及びCuの双方を含む場合、Agの含有量は、Sn粒子を含む膜の機械的強度の向上を図る観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましい。Agの含有量の上限は、低温焼結性を良好なものとしつつ接続対象の溶食を抑制する観点から、4.0質量%であることが好ましく、3.5質量%であることがより好ましい。
【0023】
同様に、Cuの含有量は、接続対象の溶食を抑制する観点から0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。Cuの含有量の上限は、低温焼結性を良好なものとしつつ膜の機械的強度の向上を図る観点から、1.0質量%であることが好ましく、0.75質量%であることがより好ましい。
【0024】
電子機器の小型化や高性能化を実現可能な薄い導電膜を形成できるようにする観点から、Sn粒子は、特定の粒子径を有していることも好ましい。詳細には、Sn粒子は、走査型電子顕微鏡観察によって測定された累積体積90容量%における体積累積粒径DSEM90が2.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。DSEM90の下限値としては、0.3μmであることが現実的である。
【0025】
同様の観点から、走査型電子顕微鏡観察によって測定された累積体積50容量%における体積累積粒径DSEM50が1.5μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。DSEM50の下限としては、0.2μmであることが現実的である。
【0026】
また、走査型電子顕微鏡観察によって測定された累積体積10容量%における体積累積粒径DSEM10が0.7μm以下であることが好ましい。DSEM10の下限としては、0.1μmであることが現実的である。
【0027】
特に、Sn粒子が上述のDSEM10、DSEM50及びDSEM90の好ましい範囲をすべて満たす粒度分布であることによって、Sn粒子をペーストに用いたときに、ペーストを平滑に且つ均一に印刷することができる。また、該ペーストから形成される膜の厚さを一層薄いものとすることができ、電子機器の小型化や高性能化を実現可能な導電膜を形成することができる。
【0028】
DSEM90、DSEM50及びDSEM10は、Sn粒子の走査型電子顕微鏡像から、粒子どうしが重なり合っていないものを無作為に200個選んで粒径(ヘイウッド径)を測定し、次いで、得られた粒径から、粒子が球であると仮定したときの体積を算出し、これらの平均値から各粒径を求める。
【0029】
また、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50は電子機器の小型化や高性能化を実現可能な薄い導電膜を形成できるようにする観点から、0.3μm以上2.5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。
【0030】
D50は、例えば以下の方法で測定することができる。すなわち、0.1gの測定試料と水50mLとを混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製、US-300T)で1分間分散させる。その後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置、例えばマイクロトラックベル製MT3300 EXIIを用いて粒度分布を測定する。
【0031】
Sn粒子は、DSEM50に対するD50の比であるD50/DSEM50が、1.0以上4.5以下であることが好ましく、1.0以上4.0以下であることがより好ましく、1.0以上3.0以下であることが更に好ましい。一般的に、DSEM50は粒子の一次粒子径を表し、D50は粒子の二次粒子径を表すところ、D50/DSEM50が上述した範囲にあることによって、Sn粒子の凝集度が低く、一次粒子の割合が高いこととなる。その結果、Sn粒子をペーストに含有したときに、ペースト中でのSn粒子の分散性を高くできるとともに、塗布されたペースト表面を平滑にして、電気抵抗を一層低いものとすることができる。なお、一次粒子とは、外形上の幾何学的形態から判断して、粒子としての最小単位と認められる物体のことをいい、二次粒子とは複数個の一次粒子の凝集体をいう。
【0032】
Sn粒子の形状に特に制限はなく、例えば球状、フレーク状、多面体状など種々の形状を採用することができる。Sn粒子の分散性を高め、且つ焼結したときの緻密性を高める観点から、球状であることが好ましい。ここでいう球状とは、以下の方法で測定した円形度係数に基づき、好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.90以上となるものをいう。円形度係数は、Sn粒子の走査型電子顕微鏡像から、粒子どうしが重なり合っていないものを無作為に200個選び出し、粒子の二次元投影像の面積をSとし、周囲長をLとしたときに、粒子の円形度係数を4πS/L2の式から算出し、各粒子の円形度係数の算術平均値を上述した円形度係数とする。粒子の二次元投影像が真円である場合は粒子の円形度係数は1となるので、円形度係数の上限値は好ましくは1であり、円形度係数の数値が高いほど、粒子が真球に近い形状であるといえる。
【0033】
Sn粒子の取扱い性を高める観点から、Sn粒子は、表面処理剤によって表面処理が施されていることも好ましい。表面処理剤としては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類や、オレイン酸、ステアリン酸等の有機酸類を用いることができる。
【0034】
Sn粒子の低温での十分な焼結性と導電性とを両立する観点から、Sn粒子中の炭素(C)の含有量は、表面処理の有無によらず、Sn粒子の質量に対して、好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下であり、またその下限は、好ましくは0.001質量%である。
【0035】
Sn粒子中の炭素含有量は、例えば堀場製作所社製の炭素分析装置EMIA-920Vを用いて測定することができる。測定試料0.1gと、助燃剤としてタングステン粉1.5gと、Sn粉0.3gとを磁性坩堝内に秤量し、酸素ガス雰囲気化で加熱する。加熱の際に試料中の炭素と酸素とが反応して生成した一酸化炭素及び二酸化炭素を、非分散赤外線吸収法で検出し、炭素の含有割合(質量%)を算出した。このような炭素の含有量は、例えば高純度の原料を直流熱プラズマ法や高周波プラズマ法に供することによって調整することができる。
【0036】
以上の構成を有するSn粒子によれば、粒子径が小さく、且つ該粒子におけるOの含有量が少ないので、低温での焼結性に優れる。また、該Sn粒子を導電性ペーストとして用いたときに、該ペーストから形成される膜の厚みを薄くすることができ、その結果、Sn粒子を含む膜は薄膜でありながら緻密なものとなり、電極の電気抵抗の低減と、機械的強度とを兼ね備えたものとなる。
【0037】
次に、Sn粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、スズ母粉(以下、「Sn母粉」ともいう。)をDCプラズマ法に付して、該母粉からSn粒子を生成させるものである。詳細には、本製造方法は、チャンバー内に発生させたプラズマフレームにSn母粉を供給して、Sn母粉をガス化させ、ガス化した該母粉を冷却してSn粒子を生成させる工程を有する。Sn含有合金を含むSn粒子を製造する場合には、目的とするSn粒子の合金組成と同じとなるような比率でSn母粉と合金成分の母粉とを供給するか、又は目的とするSn粒子と同じ合金組成を有するSn含有合金の母粉を供給すればよい。以下の説明では、Sn母粉、合金成分の母粉及びSn含有合金の母粉を総称して、単に「母粉」ともいう。
【0038】
本製造方法に好適に用いられるDCプラズマ装置を
図1に示す。同図に示すように、DCプラズマ装置1は、粉末供給装置2、チャンバー3、DCプラズマトーチ4、回収ポット5、粉末供給ノズル6、ガス供給装置7及び圧力調整装置8を備えている。この装置においては、母粉は、粉末供給装置2から粉末供給ノズル6を通してDCプラズマトーチ4内部を通過する。DCプラズマトーチ4には、プラズマガスがガス供給装置7から供給されプラズマフレームが発生する。また、DCプラズマトーチ4で発生させたプラズマフレーム内で母粉がガス化されてチャンバー3に放出された後、ガス化された母粉が冷却され、Sn粒子の微粉末となって回収ポット5内に蓄積回収される。チャンバー3の内部は、圧力調整装置8によって粉末供給ノズル6よりも相対的に陰圧が保持されるように制御されており、母粉のDCプラズマトーチ4への供給を容易にするとともに、プラズマフレームを安定して発生する構造をとっている。なお
図1に示す装置は、DCプラズマ装置の一例であって、本発明のSn粒子の製造はこの装置に限定されるものではない。
【0039】
上述した構造を有するDCプラズマ装置を用いてSn粒子を製造する場合、チャンバー3は、その内部が水素ガス等を含む還元ガス雰囲気であるか、又は窒素ガス及びアルゴンガス等を含む不活性ガス雰囲気であることが好ましい。このような構成とすることによって、母粉のガス化から冷却されるまでの時間が短縮されるので、Sn粒子の粒成長及び粒子どうしの凝集を抑制して、生成されるSn粒子の微粒子化を達成できるとともに、Sn粒子表面の酸化が抑制される。また、還元ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気で製造することによって、大気中の酸素がチャンバー内へ混入することが少なくなるので、生成されるSn粒子表面の酸化を一層抑制できるという利点もある。還元ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気は、例えば、還元ガス/不活性ガス供給部(図示せず)をチャンバー3に接続して、チャンバー3内にプラズマガスとして上述の還元ガス又は不活性ガスを供給することによって達成することができる。
【0040】
特に、プラズマガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとを混合したガスを使用すると、窒素(2原子分子)ガスによって、一層大きな振動エネルギー(熱エネルギー)をSn母粉に付与することができ、そのことに起因して凝集状態を均一にできるので、粗粒が少なく、粒度分布がよりシャープな粒子を得ることができる。
【0041】
プラズマガスとして、アルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスを使用する場合、粒度分布のシャープな粒子を得る観点から、プラズマガスにおけるアルゴンガスと窒素ガスとの割合は、アルゴンガス:窒素ガスの流量比で99:1~10:90の範囲であることが好ましく、95:5~60:40の範囲であることが更に好ましい。また、目的とするSn粒子の粒度分布をよりシャープにする観点からは、アルゴンガスと窒素ガスの割合は、アルゴンガス:窒素ガスの流量比で99:1~55:45の範囲、特に95:5~55:45の範囲のように、窒素ガスよりもアルゴンガスの流量の方が多い比率内で調整すること好ましい。このような比率であることによって、プラズマフレームの減退を防止できるという利点も奏される。
【0042】
また、チャンバー3の内部は、その圧力が粉末供給ノズル6よりも相対的に陰圧が保持されるように制御されているところ、粉末供給ノズル6での圧力とチャンバー3の内部の圧力との差圧が特定の範囲であることが好ましい。従来のDCプラズマ装置による製造方法では、一般的に、チャンバー3の内部の圧力を大気圧よりも50kPa以上低くして陰圧とすることによって、母粉を粉末供給ノズル6からチャンバー3側へ吸引しやすくして、DCプラズマ装置への母粉の供給量を増加させて粒子の製造効率を高めていた。本発明者は、Sn粒子の製造効率を維持しつつ、Sn粒子の微粒子化と表面酸化の抑制とを両立する方法について鋭意検討したところ、チャンバー内部の圧力と大気圧との差圧を従来技術よりも小さくした陰圧の状態でSn粒子を製造することによって、意外にも、粒子の製造効率を維持しながらも、粒子径が更に小さく、粒子表面の酸化が抑制されたSn粒子を製造できることを見出した。
【0043】
詳細には、チャンバー3の内部の圧力が、大気圧よりも20kPa以上40kPa以下低いことが好ましく、20kPa以上35kPa以下低いことがより好ましい。このような範囲の陰圧に制御されていることによって、ガス化した母粉からSn粒子が形成される際に、Sn粒子の粒成長及び粒子どうしの凝集を一層抑制して、生成されるSn粒子の微粒子化を効率よく達成できるとともに、Sn粒子表面の酸化が一層抑制される。特に、チャンバー3の内部が還元ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気であることによって、更に一層有利に奏される。チャンバー3内部の圧力は、例えば圧力調整装置8によって適宜制御することができる。
【0044】
母粉のガス化から冷却までの時間を一層短縮して、生成されるSn粒子の微粒子化と、Sn粒子表面の酸化の低減とが両立したSn粒子を効率よく製造する観点から、チャンバー3の内部に冷却用ガスを供給して、ガス化した母粉を冷却することが好ましい。冷却用ガスの供給は、例えばチャンバー3の側壁部に接続された冷却用ガス供給部(図示せず)によって行うことができる。冷却用ガスとしては、例えば水素ガス等の還元ガスや、窒素ガス及びアルゴンガス等の不活性ガスを用いることができる。冷却用ガスは、チャンバー3内部の圧力が上述した範囲の陰圧となっていることを条件として、例えば0℃以上30℃以下の温度の冷却用ガスを、チャンバー3内部におけるプラズマフレームの先端近傍であり且つプラズマフレームの形成に干渉しない周囲に、1L/min以上400L/min以下供給することができる。
【0045】
本製造方法に用いられる母粉は、特に限定されるものではないが、表面の酸化が抑制されたSn粒子を得る観点から、酸化物の含有量が少ない母粉を用いることが好ましい。母粉のプラズマ噴射性とコストの観点から、母粉の粒径D50は、好ましくは3.0μm以上50μm以下、更に好ましくは5.0μm以上30μm以下である。得られるSn粒子の製造効率の観点から、母粉の供給量は、5g/min以上200g/min以下であることが好ましく、10g/min以上100g/min以下であることが更に好ましい。また、母粉の形状に特に制限はなく、例えば樹枝状、棒状、フレーク状、キュービック状、球状などが挙げられる。プラズマトーチへの供給効率を安定化させる観点から、球状の母粉を用いることが好ましい。母粉のD50の測定は、上述したSn粒子のD50の測定と同様の方法で行うことができる。
【0046】
DCプラズマ装置を使用して母粉を加熱噴射する場合、プラズマガスを使用して、プラズマフレームが層流状態となるように調整することが好ましい。このように調整すれば、投入した母粉はプラズマ炎中で瞬時に蒸発気化し、プラズマフレーム内で十分なエネルギーを供給することができるため、サブミクロンオーダーの微粒子を首尾よく形成することができる。これに加えて、粗粒の母粉が残存しにくくなるという利点がある。
【0047】
プラズマフレームが層流状態であるか否かは、プラズマフレームを、フレーム幅が最も太く観察される側面から観察したときに、フレーム幅に対するフレーム長さの縦横比(以下、フレームアスペクト比)が3以上であるか否かによって判断することができる。具体的には、フレームアスペクト比が3以上であれば層流状態と判断することができ、3未満であれば乱流状態と判断することができる。
【0048】
プラズマフレームが層流状態となるようにするためには、プラズマ出力とガス流量を調整することが有利である。詳細には、DCプラズマ装置のプラズマ出力を好ましくは2kW以上100kW以下、更に好ましくは2kW以上40kW以下に設定する。また、プラズマガスのガス流量に関しては、好ましくは0.1L/min以上25L/min以下、更に好ましくは0.5L/min以上21L/min以下に設定する。
【0049】
プラズマフレーム内で十分な熱エネルギーを母粉に供給し、サブミクロンオーダーの微粒子を首尾よく形成することに加えて、粗粒の母粉を残存しにくくするという観点から、母粉の供給量に対するプラズマ出力の比は、好ましくは0.01kW・min/g以上20kW・min/g以下であり、更に好ましくは0.05kW・min/g以上15kW・min/g以下である。
【0050】
特に、プラズマフレームを層流状態に安定的に保ちつつ、母粉のガス化に必要な流速を確実に得る観点から、上述の範囲のプラズマ出力及びガス流量を保ちつつ、プラズマ出力に対するプラズマガス流量の比(単位:L/(min・kW))を、好ましくは0.50以上2.00以下、より好ましくは0.70以上1.70以下、更に好ましくは0.75以上1.50以下に設定する。
【0051】
このようにして得られたSn粒子は、該粒子の集合体である微粉末となって回収ポット5内に蓄積回収される。回収されたSn粒子は、そのままでも用いてもよく、コンタミネーションとして存在する粗大凝集粒子の除去を行うために分級してもよい。分級は、適切な分級装置を用いて、目的とする粒度が中心となるように、粗粉や微粉を分離するようにすればよい。
【0052】
Sn粒子は、導電性組成物に配合される金属フィラーとして好適に用いられる。導電性組成物としては、例えば導電ペーストや導電インクなどが挙げられる。これらの導電性組成物は、金属フィラーとしてのSn粒子、バインダ樹脂及び有機溶媒等の成分を含むものである。導電性組成物は、例えばこれを所定の手段によって塗布することで、プリント配線基板の配線回路を形成することができる。またプリント配線基板中のビア充填用材料や、プリント配線基板に電子デバイスを表面実装するときの接着剤として用いることもできる。更に、チップ部品の電極形成に用いることもできる。特に、本発明のSn粒子は、粒子径が小さく、且つ低温での焼結性の高いものであるので、小型化や高性能化が要求される積層セラミックコンデンサ(MLCC)等の小型電子部品の導電性樹脂層等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0054】
〔実施例1〕
図1に示す構造のDCプラズマ装置1を用いて、以下のとおりSn粒子を製造した。粉末供給装置2から粉末供給ノズル6を通して、母粉としてSn-Ag-Cu母粉(Sn:96.5質量%、Ag:3.0質量%、Cu:0.5質量%、粒径D
50=13μm、球状粒子)を35g/minの供給量で導入した。これとともに、プラズマガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス(流量比として、アルゴンガス:窒素ガス=76:24)をプラズマフレームの内部に供給した。プラズマガスの流量は18.5L/minとした。プラズマ出力は16.5kWであり、プラズマ出力に対するプラズマガス流量の比は1.12(L/(min・kW))であった。また、母粉の供給量に対するプラズマ出力の比は0.47kW・min/gであった。プラズマフレームはフレームアスペクト比が4であり、層流状態であった。
【0055】
チャンバー3の内部は窒素ガス雰囲気とし、チャンバー3内部の圧力は大気圧よりも30kPa低くした。また、製造時において、冷却用ガスとして25℃の窒素ガスを290L/minの流量で供給した。このようにして、目的とするSn粒子を得た。本実施例のSn粒子におけるSn含有量は96.5質量%であった。
【0056】
〔実施例2〕
チャンバー3の内部の圧力を、大気圧よりも20kPa低くした他は、実施例1と同様にSn粒子を製造した。本実施例のSn粒子におけるSn含有量は96.5質量%であった。
【0057】
〔実施例3〕
母粉としてSn母粉(Sn:100質量%、粒径D50=15μm、球状粒子)を用いた他は、実施例1と同様にSn粒子を得た。本実施例のSn粒子におけるSn含有量は100質量%であった。
【0058】
〔比較例1〕
チャンバー3の内部の圧力を、大気圧よりも50kPa低くし、冷却用ガスの流量を10L/minとした他は、実施例1と同様にSn粒子を製造した。本比較例のSn粒子におけるSn含有量は96.5質量%であった。
【0059】
〔比較例2〕
チャンバー3の内部の圧力を、大気圧よりも50kPa低くした他は、実施例1と同様にSn粒子を製造した。本比較例のSn粒子におけるSn含有量は96.5質量%であった。
【0060】
〔比較例3〕
母粉としてSn母粉(Sn:100質量%、粒径D50=15μm、球状粒子)を11g/minの供給量で導入し、チャンバー3の内部の圧力を大気圧よりも50kPa低くし、冷却用ガスの流量を30L/minとした他は、実施例1と同様にSn粒子を得た。なお、本比較例では、母粉の供給量に対するプラズマ出力の比は1.5kW・min/gであった。本比較例のSn粒子におけるSn含有量は100質量%であった。
【0061】
〔粒子物性の評価〕
実施例及び比較例のSn粒子について、DSEM10、DSEM50、DSEM90、D50、BET比表面積、O含有量、C含有量及び円形度係数を上述の方法に従って、それぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0062】
〔焼結性の評価〕
アルミナ容器に実施例及び比較例のSn粒子を満たし、窒素ガス雰囲気下で室温(25℃)から300℃まで10℃/minの昇温速度で昇温した。その後、室温まで降温して、降温した後のSn粒子の収縮率を確認した。すなわち、焼結後のSn粒子を含んだアルミナ容器を上面方向から写真撮影し、当該写真データを用いて、アルミナ容器底面におけるピクセル数を画像処理ソフトとしてImage Jを用いて求めた。同様に、焼結後のSn粒子が存在する領域におけるピクセル数をImage Jを用いて求めた。アルミナ容器底面のピクセル数をP1とし、焼結後のSn粒子の存在領域のピクセル数をP2としたときの収縮率(%)を以下の式によって算出した。収縮率が高いほど溶融性が高く、焼結性に優れることを意味する。
収縮率(%)=(P1-P2)×100/P1
【0063】
【0064】
〔実施例4〕
実施例1で用いたSn-Ag-Cu母粉に代えて、Sn-Bi母粉(Sn:42質量%、Bi:58質量%、粒径D50=13μm、球状粒子)を30g/minの供給量で導入した。また、プラズマ出力を13.1kWに変更し、プラズマ出力に対するプラズマガス流量の比を1.41(L/(min・kW))とした。さらに、母粉の供給量に対するプラズマ出力の比を0.44kW・min/gとした。これに加えて、冷却用ガスの流量を130L/minとした、これらの条件以外は実施例1と同様にして、Sn-Bi粒子を製造した。本実施例のSn粒子におけるSn含有量は42質量%であった。
【0065】
〔比較例4〕
実施例4のチャンバー3の内部の圧力を大気圧よりも50kPa低くした以外は、実施例4と同様にして、Sn-Bi粒子を製造した。本比較例のSn粒子におけるSn含有量は42質量%であった。
【0066】
〔評価〕
実施例4及び比較例4のSn-Bi粒子について、上述と同様にして粒子物性及び焼結性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
表1及び表2に示すように、実施例のSn粒子は、比表面積が大きく、また、DSEM90が1μm程度の微粒子を効率よく製造できることが判る。また、大気圧とチャンバー3の内部の圧力との差圧を好適な範囲とした実施例のSn粒子は、比較例のSn粒子と比較して、Oの含有量が少なく、粒子どうしの焼結性に優れることが判る。また、実施例のSn粒子によれば、D50/DSEM50の比が小さいので、粒子分布がシャープとなり分散性が高く、該粒子を含むペーストとしたときに、平滑且つ薄い塗膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、粒子径が小さく、且つ低温での焼結性に優れたSn粒子及び該粒子を含む導電性組成物が提供される。