(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】フェライト鋼製AM材の製造方法及びタービン部品
(51)【国際特許分類】
B22F 10/362 20210101AFI20240729BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20240729BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240729BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20240729BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240729BHJP
B22F 5/04 20060101ALI20240729BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240729BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240729BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240729BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20240729BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240729BHJP
C22C 38/44 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
B22F10/362
B22F10/38
B22F10/28
F01D25/00 L
F01D25/00 X
B22F1/00 T
B22F5/04
C22C33/02 B
B33Y10/00
B33Y80/00
B22F10/64
C22C38/00 302Z
C22C38/00 304
C22C38/44
(21)【出願番号】P 2021000099
(22)【出願日】2021-01-04
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 春樹
(72)【発明者】
【氏名】中谷 祐二郎
(72)【発明者】
【氏名】日野 武久
(72)【発明者】
【氏名】只野 智史
(72)【発明者】
【氏名】須賀 威夫
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-020422(JP,A)
【文献】特開2018-095911(JP,A)
【文献】特開2017-180376(JP,A)
【文献】特開2019-210490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形中温度において相変態が生じるフェライト系原料粉末を用い、パウダーベッド方式溶融AMプロセスにより、フェライト鋼製AM材を製造する方法であって、
電子ビームを用いて前記フェライト系原料粉末を溶融させて造形するとともに、
前記電子ビームによる
造形中における保持温度である予熱の温度を、
造形中に相変態を生じさせる温度より低い温度である第1の温度と、
造形中に相変態を生じさせる温度より高い温度である第2の温度との少なくとも2種の温度とし、前記フェライト鋼製AM材の部位によって予熱の温度を異ならせ、
前記第1の温
度に調整され
て相変態を生じさせて結晶粒を微細化させた部分と、
前記第2の温度に調整されて結晶粒を微細化させない部分とを1つのフェライト鋼製AM材の中に併存させる
ことを特徴とするフェライト鋼製AM材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のフェライト鋼製AM材の製造方法であって、
前記フェライト鋼製AM材の部位によって結晶粒径を変化させるように前記第1の温度と、前記第2の温度とを設定する
ことを特徴とするフェライト鋼製AM材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフェライト鋼製AM材の製造方法であって、
前記第1の温度及び前記第2の温度を、500℃~1500℃の間に設定する
ことを特徴とするフェライト鋼製AM材の製造方法。
【請求項4】
発電用のタービンを構成するタービン部品であって、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のフェライト鋼製AM材の製造方法によって製造されたフェライト鋼製AM材を用いたことを特徴とするタービン部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、フェライト鋼製AM材の製造方法及びタービン部品に関する。
【背景技術】
【0002】
AMとはAdditive Manufacturingの略で、付加製造を意味する。AMには、複雑形状部品が直接製造できるなどのメリットがあるため、多分野において実用化研究が進められている。このようなAMに関する技術には、フェライト系鉄粉を用いるパウダーベッド方式溶融AMプロセスが知られている。
【0003】
ところで、タービン部品の一部は、苛酷な高温環境で長時間使用されることから、極めて高いクリープ特性が求められる。一方、回転機器であるために、常に振動しており、信頼性確保のために同時に高い疲労特性も求められる。クリープ特性と疲労特性に対し、その材料の結晶粒径が大きく影響するが、クリープ特性を高めるために結晶粒径を大きくすると、疲労特性に対して良くない組織になってしまうという課題がある。一方、疲労特性を高めるために結晶粒径を小さくすると、クリープ特性に対して良くない組織になってしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-102257号公報
【文献】特開2017-20422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、タービン部品の一部は、高いクリープ特性と高い疲労特性を持つことが求められている。
【0006】
本発明の目的は、高いクリープ特性と高い疲労特性を持つフェライト鋼製AM材の製造方法及びタービン部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のフェライト鋼製AM材の製造方法は、造形中温度において相変態が生じるフェライト系原料粉末を用い、パウダーベッド方式溶融AMプロセスにより、フェライト鋼製AM材を製造する方法であって、電子ビームを用いて前記フェライト系原料粉末を溶融させて造形するとともに、前記電子ビームによる造形中における保持温度である予熱の温度を、造形中に相変態を生じさせる温度より低い温度である第1の温度と、造形中に相変態を生じさせる温度より高い温度である第2の温度との少なくとも2種の温度とし、前記フェライト鋼製AM材の部位によって予熱の温度を異ならせ、前記第1の温度に調整されて相変態を生じさせて結晶粒を微細化させた部分と、前記第2の温度に調整されて結晶粒を微細化させない部分とを1つのフェライト鋼製AM材の中に併存させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高いクリープ特性と高い疲労特性を持つフェライト鋼製AM材の製造方法及びタービン部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に使用するAM材の製造装置の構成を示す図。
【
図2】一実施形態に係るタービン部品の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフェライト鋼製AM材の製造方法及びタービン部品の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明のフェライト鋼製AM材の製造方法に用いるAM材の製造装置100の概略構成を模式的に示す図である。
【0012】
AM材の製造装置100は、フェライト系原料粉末を収容する原料粉末タンク102と、この原料粉末タンク102から供給されたフェライト系原料粉末の原料粉末層を形成するためのディスペンサ103とを具備している。このディスペンサ103は、図示しないディスペンサ駆動機構によって図中双方向矢印で示す水平方向に移動可能とされている。
【0013】
また、AM材の製造装置100は、その上に原料粉末層を形成して積層造形を実施するためのステージ104と、このステージ104を上下動させるステージ駆動部105、さらに、ステージ104上に形成された原料粉末層に対して高エネルギービーム(ここでは電子ビーム)を照射するための電子ビーム発生装置106及び電子ビーム発生装置106で発生させた電子ビームを原料粉末層に照射するための電子ビーム照射ヘッド107を具備している。電子ビーム照射ヘッド107は、図示しない照射ヘッド駆動機構により、水平方向(X-Y方向)に移動可能とされている。
【0014】
上記したステージ104、ディスペンサ103、電子ビーム照射ヘッド107等は、真空チャンバ101内に配置されており、フェライト鋼製AM材の製造は、この真空チャンバ101内において、真空雰囲気若しくは所定のガス雰囲気で実施される。また、真空チャンバ101内には、プレート又はローラー等からなる均し部材108が配置されている。この均し部材108は、ディスペンサ103と同様に図示しない駆動機構によって図中双方向矢印で示す水平方向に移動可能とされている。そして。ディスペンサ103から供給されたフェライト系原料粉末の表面を均し部材108で均すことにより、上面が平坦な原料粉末層を形成する。
【0015】
また、AM材の製造装置100は、コンピューターなどからなり、全体の動作を制御する制御部110を具備している。上記したディスペンサ103、ステージ104、電子ビーム照射ヘッド107、均し部材108等の動作は、この制御部110によって制御される。
【0016】
上記構成のAM材の製造装置100では、原料粉末タンク102からフェライト系原料粉末がディスペンサ103に供給され、ディスペンサ103は、図中双方向矢印で示すように水平方向に移動して、ステージ104上にフェライト系原料粉末を供給する。次に、均し部材108が図中双方向矢印で示すように水平方向に移動して、ステージ104上に供給されたフェライト系原料粉末の表面を平坦に均す。この動作によって、ステージ104上に所定の厚さの平坦なフェライト系原料粉末層が形成される。
【0017】
次に、電子ビーム発生装置106で発生させた電子ビームを、電子ビーム照射ヘッド107によって原料粉末層に照射する。電子ビーム照射ヘッド107による電子ビームの照射は、所定形状に電子ビームを照射して原料粉末層を溶融させ、所定形状のAM材を形成する溶融のための溶融照射ステップと、全体に亘って高速に電子ビームを照射して全体を予熱するための予熱照射ステップとがある。これらの溶融照射ステップ及び照射ステップは、例えば交互に行われ、予熱と溶融とが交互に行われる。溶融照射ステップでは、積層造形するタービン部品等の断面構成を記憶した3次元CADデータに基づいて電子ビームの照射が行われる。
【0018】
上記の溶融照射ステップでは、フェライト系原料粉末が、例えば、2000℃程度に加熱されて溶融し、一層分の造形が行われる。また、予熱照射ステップでは、全体の温度が、所定の保持温度、例えば、500℃~1500℃程度に保たれるように予熱が行われる。
【0019】
本実施形態では、上記したフェライト系原料粉末を用いるパウダーベッド方式溶融AMプロセスにおいて、造形中に相変態を生じさせることで結晶粒を微細化させ、部品に高い疲労特性を付与する。また、同じ化学組成、熱処理を経た部品であっても、その造形条件を調整することで、適正な疲労特性とクリープ特性とをバランスさせた特性を与えることができる。さらには、タービン部品の所望部位ごとに必要な疲労特性及びクリープ特性を分布させることができる。
【0020】
すなわち、本実施形態では、造形中に微細組織を形成させるために、造形中温度において相変態が生じるフェライト系原料粉末を用い、また造形中の保持温度を相変態が生じるように設定する。
【0021】
こうすることにより、造形表面において溶融時には融点以上まで昇温されるが、その後保持温度まで冷却される。この時、造形物の組織はオーステナイト相とフェライト相に交互に変態するが、結晶粒成長の起点は結晶粒界で生じやすいため、新たに生じる結晶粒は前の結晶粒よりも微細になる。これは一般的な組織制御手法であるが、従来の熱処理設備でこのような繰り返し熱処理を行うことは、大幅なコストアップになるため、行われていない。
【0022】
一方、積層造形では、一層、一層少しずつフェライト系原料粉末を溶融させて盛り上げていくため、自ずと繰り返しの入熱が与えられるが、その際の温度を適切に調整することで、組織制御された状態で造形物を仕上げることができる。
【0023】
以上のように、本実施形態では、造形材料にフェライト系原料粉末(フェライト系鉄粉)を用いたパウダーベッド方式溶融AMプロセスを用い、造形中の保持温度を少なくとも第1の温度と、この第1の温度とは異なる第2の温度とするように調整することで、相変態を生じさせて結晶粒を微細化させた部分と、この部分より結晶粒を微細化させない部分とを1つのフェライト鋼製AM材の中に併存させるように積層造形を行う。
【0024】
これによって、タービン部品において求められる、クリープ特性と疲労特性に対し、クリープ特性を高めるために結晶粒径を大きくすると、疲労特性に対して良くない組織になってしまい、疲労特性を高めるために結晶粒径を小さくすると、クリープ特性に対して良くない組織になってしまうという課題を解決することができる。
【0025】
すなわち、例えば、
図2に示すタービン動翼200の場合、タービンローターに取り付けられる植込み部201と、この植込み部201から延びる動翼本体202とを有している。そして、植込み部201はタービン動翼200の全体を支えることから、例えば、高い疲労特性を有するように結晶粒径を小さくするように構成し、一方、動翼本体202は高温に晒されることから高いクリープ特性を有するように植込み部201よりも結晶粒径を大きくするよう構成することができる。
【0026】
(実施例)
質量%でC:0.1%、Ni:0.5%、Cr:10.5%、Mo:1.0%、N:0.06%、残部はFeの合金組成の粉末をガスアトマイズで作成し、45~125μmに分級してフェライト系原料粉末とした。
【0027】
次に、電子ビームを熱源にしたAM材の製造装置(積層造形機)を使用してフェライト鋼製AM材を作製した。ビーム電流値が15mA、ビーム走査速度が1m/sの造形条件で、Φ16×90mmの丸棒を鉛直に36本造形した。ベースプレートには、□150×10mmのSUS316製の鋼鈑を使用した。
【0028】
電子ビームによる予熱は、造形前半における造形物下部の造形時では1100℃、造形後半における造形物上部の造形時では800℃に設定した。
【0029】
造形後に切断し、結晶粒度測定を行ったところ、表1の結果となった。このように造形条件によって組織形態が異なり、一つの部品の中でも結晶粒径に分布を持たせることができた。すなわち、上部における結晶粒径が、下部における結晶粒径よりも微細な構成を有するフェライト鋼製AM材を得ることができた。
【0030】
【0031】
なお、本実施例では、上下方向に結晶粒径の分布を持たせたが、例えば、EBM(電子ビーム加工機)では、同一造形面上で予熱条件を変化させて、水平方向に温度分布を持たせることができるため、結晶粒径の分布の仕方について上下方向に限定するものではなく、水平方向としてもよい。
【0032】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0033】
100……AM材の製造装置、101……真空チャンバ、102……原料粉末タンク、103……ディスペンサ、104……ステージ、105……ステージ駆動部、106……電子ビーム発生装置、107……電子ビーム照射ヘッド、108……均し部材、110……制御部。