(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】シートスライド装置及びシートスライド装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60N 2/07 20060101AFI20240729BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B60N2/07
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2021008671
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】517251797
【氏名又は名称】株式会社TF-METAL
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】今村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓郎
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-290516(JP,A)
【文献】特開2009-227152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/07
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に沿って延設されるロアレールと、
前記ロアレールの長手方向に沿って相対移動するアッパレールと、
前記アッパレールに回転自在に取り付けられ、前記相対移動する方向に沿って延びるスクリュ軸と、
前記ロアレールに取り付けられ、前記スクリュ軸に螺合するナット部材と、
前記アッパレールに取り付けられ、前記スクリュ軸が貫通する貫通孔を有する補強部材と、を備え、
前記アッパレールは、左右一対の側壁に形成され、前記補強部材の左右両側縁が係合する左右一対の係合孔と、左右一対の前記側壁に前記係合孔よりも上方に位置させて形成され、上端面が前記アッパレールの内方へ入り込んでいる左右一対の係止片部とを有し、
前記補強部材は、左右両側縁の下部に形成され、左右一対の前記係合孔に係合する左右一対の係止部と、左右両側縁の上部に形成され、左右一対の前記係止片部が係合する左右一対の凹部とを有し、
前記係止片部は、上端面が前記凹部の内側面に当接した状態で前記凹部内に入り込んでいると共に、前記凹部内において
第1屈曲部分で左右方向内側に屈曲されると共に前記第1屈曲部分よりも上方の第2屈曲部分で前記第1屈曲部分の屈曲方向とは逆方向に屈曲されて前記凹部に係合し
、前記係止片部の弾性回復によって前記凹部に常時接触している、
シートスライド装置。
【請求項2】
前記側壁には、車体前後方向に間隔をおいて一対の孔部が形成され、一対の前記孔部の間に橋渡し部分が形成されており、前記橋渡し部分の上端部を前記側壁から切り離して前記係止片部の上端面が形成されている、
請求項1に記載のシートスライド装置。
【請求項3】
前記凹部の内側面は、左右方向内側に行くに従い上下方向下側へと傾斜するテーパ面として形成されており、前記係止片部の上端面は、前記テーパ面に対して、前記係止片部の基端部を通り前記凹部のテーパ面に直交する位置よりも左右方向内側にまで入り込んでいる、
請求項1または2に記載のシートスライド装置。
【請求項4】
車体前後方向に沿って延設されるロアレールと、
前記ロアレールの長手方向に沿って相対移動するアッパレールと、
前記アッパレールに回転自在に取り付けられ、前記相対移動する方向に沿って延びるスクリュ軸と、
前記ロアレールに取り付けられ、前記スクリュ軸に螺合するナット部材と、
前記アッパレールに取り付けられ、前記スクリュ軸が貫通する貫通孔を有する補強部材と、を備えるシートスライド装置の製造方法であって、
前記アッパレールの左右一対の側壁に形成された左右一対の係合孔に前記補強部材の左右両側縁に形成された係止部を嵌合させる嵌合工程と、
前記嵌合工程の後に、左右一対の前記側壁に前記係合孔よりも上方に位置させて形成される左右一対の係止片部に対し、前記係止片部の上端面が凹部の内側面に当接した状態で前記係止片部の上下方向の中間部分を押圧して前記凹部内に押し込むことで
、前記凹部内において
前記係止片部の前記中間部分よりも下方の第1屈曲部分を左右方向内側に屈曲させると共に前記中間部分よりも上方の第2屈曲部分を前記第1屈曲部分の屈曲方向とは逆方向に屈曲させて
、前記係止片部の弾性回復によって前記凹部に常時接触するように前記凹部に係合させる押込工程と、を有する、
シートスライド装置の製造方法。
【請求項5】
前記押込工程は、押し込み治具が前記係止片部の
前記中間部分を押圧して前記凹部内に押し込むことで
、前記凹部内において
前記第1屈曲部分を左右方向内側に屈曲させると共に前記第2屈曲部分を前記第1屈曲部分の屈曲方向とは逆方向に屈曲させて
、前記係止片部の弾性回復によって前記凹部に常時接触するように前記凹部に係合させるものであり、前記押し込み治具は、前記係止片部との当接面が上下方向で断面円弧形状に形成されている、
請求項4に記載のシートスライド装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートスライド装置及びシートスライド装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動シートスライド装置は、アッパレールに大きな負荷が作用した場合に、アッパレールに固定されたギヤボックスの破壊を防止するために、アッパレールの内部に補強プレートが設けられている(特許文献1)。補強プレートは、上端の突出部をアッパレールの天壁にかしめ固定している。この場合、アッパレールの天壁に補強プレートのかしめ部が突出するため、シート側の取付ブラケットを溶接によってアッパレールの天壁に直接固定する構造には対応できない。これに対し、弾性変形可能な保持部材を用いて補強プレートをアッパレールの側壁に取り付ける構造(特許文献2)及び、アッパレールにナット等の固定要素を固定するためにアッパレールの側壁を内方へ突出又は曲げ形成する構造(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-241698号公報
【文献】特開2018-30475号公報
【文献】欧州特許第1033278号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2では、補強プレートをアッパレールに取り付ける際に、保持部材という別部品を使用するため、部品点数の増加を招く。特許文献3では、アッパレールに使用されるハイテン材(高張力鋼)はスプリングバックが大きいため、ガタ付きが発生し易く、補強プレートをアッパレールの側壁にガタなく固定することが難しい。
【0005】
そこで、本発明は、部品点数の増加を抑制しつつ、補強部材をアッパレールの側壁を利用してガタなく取り付けられるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシートスライド装置は、車体前後方向に沿って延設されるロアレールと、前記ロアレールの長手方向に沿って相対移動するアッパレールと、前記アッパレールに回転自在に取り付けられ、前記相対移動する方向に沿って延びるスクリュ軸と、前記ロアレールに取り付けられ、前記スクリュ軸に螺合するナット部材と、前記アッパレールに取り付けられ、前記スクリュ軸が貫通する貫通孔を有する補強部材と、を備え、前記アッパレールは、左右一対の側壁に形成され、前記補強部材の左右両側縁が係合する左右一対の係合孔と、左右一対の前記側壁に前記係合孔よりも上方に位置させて形成され、上端面が前記アッパレールの内方へ入り込んでいる左右一対の係止片部とを有し、前記補強部材は、左右両側縁の下部に形成され、左右一対の前記係合孔に係合する左右一対の係止部と、左右両側縁の上部に形成され、左右一対の前記係止片部が係合する左右一対の凹部とを有し、前記係止片部は、上端面が前記凹部の内側面に当接した状態で前記凹部内に入り込んでいると共に、前記凹部内においてS字形状に屈曲されて前記凹部に係合している。
【0007】
本発明のシートスライド装置の製造方法は、車体前後方向に沿って延設されるロアレールと、前記ロアレールの長手方向に沿って相対移動するアッパレールと、前記アッパレールに回転自在に取り付けられ、前記相対移動する方向に沿って延びるスクリュ軸と、前記ロアレールに取り付けられ、前記スクリュ軸に螺合するナット部材と、前記アッパレールに取り付けられ、前記スクリュ軸が貫通する貫通孔を有する補強部材と、を備えるシートスライド装置の製造方法であって、前記アッパレールの左右一対の側壁に形成された左右一対の係合孔に前記補強部材の左右両側縁に形成された係止部を嵌合させる嵌合工程と、前記嵌合工程の後に、左右一対の前記側壁に前記係合孔よりも上方に位置させて形成される左右一対の係止片部に対し、前記係止片部の上端面が凹部の内側面に当接した状態で前記係止片部の上下方向の中間部分を押圧して前記凹部内に押し込むことで、前記係止片部を前記凹部内においてS字形状に屈曲させて前記凹部に係合させる押込工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、部品点数の増加を抑制しつつ、補強部材をアッパレールの側壁を利用してガタなく取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係わるシートスライド装置の分解斜視図である。
【
図2】実施形態に係わるシートスライド装置の斜視図である。
【
図4】
図1に示されるアッパレールの側断面図である。
【
図5】
図4のアッパレールの舌片部周辺を示す拡大図である。
【
図6】
図1のシートスライド装置に使用される補強プレートの正面図である。
【
図7】
図3のアッパレールの舌片部周辺を示す拡大図である。
【
図8A】補強プレートをアッパレールに取り付ける作業順序を示す説明図である。
【
図8B】補強プレートをアッパレールに取り付ける作業順序を示す説明図である。
【
図8C】補強プレートをアッパレールに取り付ける作業順序を示す説明図である。
【
図8D】補強プレートをアッパレールに取り付ける作業順序を示す説明図である。
【
図8E】補強プレートをアッパレールに取り付ける作業順序を示す説明図である。
【
図9】
図1のシートスライド装置に使用されるナット部材の取付状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、図中の矢印FRで示す方向が車体前方、矢印RRで示す方向が車体後方、矢印LHで示す方向が車体左方、矢印RHで示す方向が車体右方である。以下の説明での「前後方向」及び「左右方向」は、特に断りがない限り、それぞれ「車体の前後方向」及び「車体の左右方向」に対応している。
【0011】
自動車に搭載される電動シートスライド装置は、
図1及び
図2に示すように、車体床面に固定されて車両前後方向に沿って延設されるロアレール1と、ロアレール1の内部において長手方向に沿って相対移動するアッパレール3とを備えている。アッパレール3は、図示しないシートの下面に取り付けられる。したがって、シートは、アッパレール3と共に、車体床面に取り付けられたロアレール1に対して前後方向に移動する。ロアレール1とアッパレール3とでレール体を構成している。
【0012】
ロアレール1は、底壁1aの左右両端から外側斜め上方に延びる傾斜壁1b,1cが形成されている。また、傾斜壁1b,1cの上端から上方に延びる左右の側壁1d,1eが形成されている。左右の側壁1d,1eの上端からは内側に向けて延びる上壁1f,1gが形成され、上壁1f,1gの内側端部から下方に向けて、側壁1d,1eとほぼ平行に延びる内側壁1h,1iが形成されている。ロアレール1は、底壁1aが図示しない複数の取付具を介して車体の床面に固定される。
【0013】
アッパレール3は、
図3に示すように、天壁3aの左右両側から下方に延びる左右の側壁3b,3cが形成され、左右の側壁3b,3cの下端から外側に向けて屈曲する折り返し部3d,3eが形成されている。アッパレール3は、天壁3aがシート側の図示しない複数の取付具を介してシートの下面に固定される。
【0014】
アッパレール3の折り返し部3d,3eに形成された下ボール保持部及び上ボール保持部と、ロアレール1との間に、下ガイドボール及び上ガイドボール(図示せず)がそれぞれ転動自在に収容される。下ガイドボール及び上ガイドボールは、ボールリテーナ(図示せず)に支持される。アッパレール3がロアレール1に対して前後方向に移動する際に、下ガイドボール及び上ガイドボールが回転することで、レール相互間の摩擦が抑制されて円滑な移動が可能となる。
【0015】
図1及び
図2に示すように、ロアレール1の前後両端部付近の左右には、それぞれ固定ストッパ1sが形成されている。固定ストッパ1sは、ボールリテーナに係合して、複数の下ガイドボール及び上ガイドボールの下ボール保持部及び上ボール保持部からの外れ及び前後方向の位置ずれを抑えている。
【0016】
アッパレール3の内部には、アッパレール3の移動方向に沿って延びるスクリュ軸17が配置されている。スクリュ軸17は、アッパレール3とほぼ同じ長さであり、アッパレール3に支持されている。一方、ロアレール1の長手方向中央よりやや後側の底壁1aには、ナット部材19が取り付けられている。ナット部材19は、スクリュ軸17の雄ねじ部17aが螺合する雌ねじ部19aを備えている。すなわち、スクリュ軸17が回転することで、スクリュ軸17(アッパレール3)がナット部材19(ロアレール1)に対して前後方向に移動する。
【0017】
スクリュ軸17は、モータ(図示せず)及びギヤボックス23を備えた駆動部25によって回転駆動される。駆動部25は、アッパレール3の長手方向の前側端部に形成された左右一対の取付板3fに取り付けられる。取付板3fに形成された取付孔3fhと締結具27(かしめピンやボルトナット等)とによって、駆動部25が取付板3fに取り付けられる。
【0018】
図1に示すように、スクリュ軸17の前側の端部には、セレーション17bが形成されている。セレーション17bをギヤボックス23内に回転可能に支持された図示しないウォームホイールに噛合わせることで、スクリュ軸17と駆動部25とが連結される。モータを除く電動シートスライド装置は、シートの左右位置にそれぞれ設けられている。シートのいずれか一方の電動シートスライド装置に設けられた単一のモータの出力軸が、図示しない連結部材により他方の電動シートスライド装置のギヤボックス23の図示しない入力軸に連結される。これにより、左右の電動シートスライド装置のスクリュ軸17が同期して駆動される。
【0019】
アッパレール3の前方側及び後方側には、補強部材としての補強プレート29,31が取り付けられている。補強プレート29,31は、スクリュ軸17に直交するほぼ板状に形成され、アッパレール3の左右の側壁3b,3c間を跨ぐようにしてアッパレール3の内部に取り付けられている。
【0020】
スリット3gが、
図4及び
図5に示すように上下方向に長く形成されている。スリット3gは、側壁3b,3cの下端からアッパレール3の長手方向の軸線に直交する方向(上下方向)に沿って側壁3b,3cの上下方向の中間位置まで延びている。
【0021】
図4及び
図5に示すように、アッパレール3の左右の側壁3b,3cには、スリット3gよりも上方に位置させて一対の孔部3i,3iが形成されている。一対の孔部3i,3iは、側壁3b,3cに前後方向に間隔をおいて形成され、これら一対の孔部3i,3iの間には、橋渡し部分が形成されている。この橋渡し部分の上端部をせん断により側壁3b,3cから切り離して係止片部としての舌片部3jが形成されている。
【0022】
図6は、スリット3gに取り付けられる前後二つの補強プレート29,31のうち後側の補強プレート29を示している。二つの補強プレート29,31は同一形状なので、補強プレート29についてのみ説明する。
【0023】
補強プレート29は、板状部29aの中央に貫通孔29bが形成され、貫通孔29bにスクリュ軸17が挿通される。貫通孔29bの内径は、スクリュ軸17の外径より大きい。したがって、スクリュ軸17は、貫通孔29bに挿通された状態で、補強プレート29に対して回転自在である。スクリュ軸17が、回転によってアッパレール3と共にナット部材19(ロアレール1)に対して前後に移動する際には、
図4に示すアッパレール突起3pが、
図1に示す前後一対のロアレール突起1pに当接する。これにより、アッパレール3の前後方向の移動が規制される。
【0024】
アッパレール突起3pは、
図4に示すように、アッパレール3前後方向中央よりやや後方側において、下方に向けて突出している。アッパレール突起3pは、左右側壁3b,3cと折り返し部3d,3eとの間の部分を曲げずに残すことによって、左右側壁3b,3cから連続するようにして下方に向けて突出しており、左右両側にそれぞれ形成している。前後に設けられたロアレール突起1pは、
図1に示すように、ロアレール1の底壁1aを上方に向けて切り起こして形成したもので、左右のアッパレール突起3pに対応して左右両側に形成している。
【0025】
後方の補強プレート29の後方側には軸受けナット33が、前方の補強プレート31の前方側には軸受けナット35が、それぞれ配置されている。軸受けナット33,35は、予めねじ山の一部を潰したロックナットであり、スクリュ軸17の雄ねじ部17aの所定位置までねじ込むことでその位置に固定される。なお、通常のナットをスクリュ軸17の雄ねじ部17aの所定位置にねじ込んだ状態で、ナットの外周部から軸心へ向かって複数個所を押圧することで、ナットをスクリュ軸17にかしめにより固定するようにしてもよい。
【0026】
車両の衝突等により車体前方へ向かう衝撃荷重がアッパレール3に作用した場合、車体前方の補強プレート31が車体前方へ移動するため、補強プレート31が車体前方の軸受けナット35に衝突する。したがって、アッパレール3から、アッパレール3に結合されたギヤボックス23へ直接に衝撃荷重が伝達するのを抑制できる。これにより、ギヤボックス23へ衝撃荷重が伝達されることによりギヤボックス23をスクリュ軸17から引き離す衝撃荷重が作用するのを抑制できる。このとき、スクリュ軸17には引張力が作用する。
【0027】
車体後方へ向かう衝撃荷重がアッパレール3に作用した場合は、車体後方の補強プレート29が車体後方の軸受けナット33に衝突する。したがって、アッパレール3からアッパレール3に結合されたギヤボックス23へ直接に衝撃荷重が伝達されることを抑制できる。これにより、ギヤボックス23へ衝撃荷重が伝達されてギヤボックス23がスクリュ軸17を押圧するのが抑制される。このときも、スクリュ軸17には引張力が作用する。
【0028】
スクリュ軸17は、アッパレール3内に配置された状態で、後方側の後端部17cがエンドキャップ37の軸受け部37aに回転自在に支持される。エンドキャップ37は、軸受け部37aを挟むように設けてある左右一対の係合爪37bによって、アッパレール3の側壁3b,3cに形成してある係合孔3hに係合して取り付けられる。スクリュ軸17のセレーション17bよりもさらに前方側の前端部17dには、雄ねじが形成されている。また、スクリュ軸17の雄ねじ部17aの端面に接するように、ワッシャ(座金)34が挿入されている。
図2に示すように、該雄ねじにナット36がねじ込まれることで、ギヤボックス23内の図示しないウォームホイールは、ワッシャ34(雄ねじ部17aの端面)とナット36の間に挟まれるように固定され、スクリュ軸17がギヤボックス23内の図示しないウォームホイールに軸方向に対して固定される。
【0029】
図6に示すように、補強プレート29は、板状部29aの左右方向両側の下部に、左右方向の外側に突出する下側係止部(係止部)29c,29dが形成されている。下側係止部29c,29dは、アッパレール3の側壁3b,3c下部のスリット3gに係合される部分である。
【0030】
また、補強プレート29は、板状部29aの左右方向両側の上部に、左右方向の内側に凹むように形成される凹部29eが形成されている。凹部29eは、アッパレール3の側壁3b,3c上部の舌片部3jに係合される部分である。凹部29eの上側面(上側の内側面)には、左右方向内側に行くに従い下方へと傾斜する上側テーパ面29tuが形成されており、凹部29eの下側面(下側の内側面)には、左右方向内側に行くに従い上方へと傾斜する下側テーパ面29tbが形成されている。上側テーパ面29tuの水平面に対する傾斜角度θ1は、下側テーパ面29tbの水平面に対する傾斜角度θ2よりも小さくなるように設定されている。
【0031】
さらに、補強プレート29は、板状部29aの上端部から上方に突出する上側係止部29fが形成されている。補強プレート29,31は、アッパレール3の天壁3aに形成された上側係合孔3ahに、上端部に形成された上側係止部29fが嵌合されて取り付けられる。上側係止部29fは、高さがアッパレール3の天壁3aから上方に突出しないように設定されている。
【0032】
図7に示すように、アッパレール3は、左右一対の側壁3b,3cに、補強プレート29の凹部29eに係合する舌片部3jを備えている。舌片部3jは、上端面(先端面)3juが凹部29eの上側テーパ面29tuに当接した状態で凹部29e内に入り込んでいると共に、凹部29e内においてS字形状に屈曲されて凹部29eに係合している。舌片部3jは、上下方向の中間部分(後述する冶具40の押圧位置)よりも下方の部位で左右方向内側に屈曲する第1屈曲部分3jaと、上下方向の中間部分(後述する冶具40の押圧位置)よりも上方の部位で第1屈曲部分3jaの屈曲方向とは反対側に屈曲する第2屈曲部分3jbとを有して、S字形状に形成されている。
【0033】
舌片部3jの上端面3juは、上側テーパ面29tuに対して、舌片部3jの基端部を通り凹部29eの上側テーパ面29tuに直交する位置P1よりも左右方向内側にまで入り込んでいる。
図7においては、舌片部3jの基端部を通り凹部29eの上側テーパ面29tuに直交する仮想線Xを側壁3b,3cの内側面を基準として示しており、この仮想線Xよりも左右方向の内側に、上端面3juの左右方向内側端の角部P2が入り込んでいる。この状態においては、舌片部3jの角部P2が、舌片部3jの基端部を中心とする前記の位置P1までの円Crの外側に位置している。このため、舌片部3jの角部P2が凹部29eの上側テーパ面29tuに引っ掛かり、舌片部3jの角部P2が前記の位置P1を越えてさらに左右方向外側へ移動することが抑制される。
【0034】
後述する治具40による舌片部3jによる押し込みの後に、治具40が外されるとS字形状に曲げられた舌片部3jが弾性回復(スプリングバック)によって第1屈曲部分3jaでは左右方向外側へ移動しようとする、一方、第2屈曲部分3jbでは左右方向内側へ移動しようとするため、舌片部3jは真っすぐに戻ろうとする。このため、舌片部3jの角部P2が凹部29eの上側テーパ面29tuを上方に押し上げることになり、舌片部3jの上端面3juと凹部29eの上側テーパ面29tuとの接触(係合)が外れることがない。
【0035】
治具40による舌片部3jによる押し込みの間に、舌片部3jの上端面3juと凹部29eの上側テーパ面29tuとの接触が外れないように、舌片部3jの押し込み前の上端位置Pu、上側テーパ面29tuの開始位置Ps及び上側テーパ面29tuの傾斜角度θ1が設定される。
【0036】
図8A、
図8B、
図8C、
図8D、
図8Eは、補強プレート29をアッパレール3に取り付ける作業順序を示している。
図8Aのように、補強プレート29をアッパレール3の下方からスリット3gに挿入する。このとき、補強プレート29の上側係止部29fが上側係合孔3ahに嵌合され、下側係止部29c,29dがスリット3gに嵌合される。この状態で治具(押し込み治具)40によるかしめ作業を実施する。かしめ作業時には、舌片部3jの上下方向のほぼ中間部分を、左右両側方から治具40により水平方向に押圧して舌片部3jをS字形状に成形する。治具40は、例えば、舌片部3jとの当接面40aが上下方向で断面円弧形状に形成される。
【0037】
ここで、
図8B、
図8C、
図8Dに示すように、治具40が舌片部3jの上下方向のほぼ中間部分を押圧して凹部29e内の所定位置まで押し込む。これにより、上下方向の中間部分(冶具40の押圧位置)よりも下方の第1屈曲部分3jaが左右方向の内側に押されて屈曲する。一方で、舌片部3jの上端面3juが、上側テーパ面29tuに接した状態を維持しつつ押し込まれることで、上下方向の中間部分(冶具40の押圧位置)よりも上方の第2屈曲部分3jbが第1屈曲部分3jaの屈曲方向とは反対側(左右方向の外側)に屈曲する。
【0038】
この状態から治具40による舌片部3jへの押圧を解除すると、
図8Eに示すように、S字形状に屈曲された舌片部3jの第1屈曲部分3jaが弾性回復(スプリングバック)により左右方向外側に若干戻ると共に、第2屈曲部分3jbが弾性回復(スプリングバック)により左右方向外側に若干戻る。この状態において舌片部3jが凹部29eの上側テーパ面29tuを上方へ押し上げる方向に力が作用するため、補強プレート29をアッパレール3の側壁3b,3cにガタなく取り付けることができる。補強プレート31も補強プレート29と同様にしてアッパレール3に取り付けられる。
【0039】
また、舌片部3jの上端面3juは、上側テーパ面29tuに対して、舌片部3jの基端部を通り凹部29eの上側テーパ面29tuに直交する位置P1よりも左右方向内側にまで入り込んでいる(
図7参照)。このため、舌片部3jの上端部(先端部)が凹部29eの開口側(左右方向の外側)に移動して、舌片部3jが凹部29eから離脱してしまうことを抑制することが可能になる。
【0040】
次に、ナット部材19のロアレール1に対する取付構造について説明する。
【0041】
ナット部材19は、
図9に示すように、ブラケット39によりロアレール1に取り付けられる。ブラケット39は、ナット部材19の上側を覆うようにしてロアレール1に固定される。ブラケット39とナット部材19との間には弾性部材45が介在されている。弾性部材45は、ゴムなどの弾性変形可能な材料で構成されており、側面視でU字形状に形成されている。
【0042】
ナット部材19は、上面19b、下面19c、左側面19d、右側面19e、前面19f及び後面19gを備え、全体としてほぼ直方体形状である。前面19fと後面19gとの間を前後方向に貫通する雌ねじ部19aが形成されている。
【0043】
左側面19dの前面19f側及び後面19g側には、前方及び後方に向けてそれぞれ突出する規制突起19hが形成されている。右側面19eの前面19f側及び後面19g側には、前方及び後方に向けてそれぞれ突出する規制突起19iが形成されている。各規制突起19h,19iは、ナット部材19の上下方向の全長にわたり形成されている。規制突起19h,19iは、ナット部材19に弾性部材45が装着された状態で、弾性部材45を左右両側から挟むようにして配置される。
【0044】
ブラケット39は、ナット部材19の上面19bに対向する平面部39aと、平面部39aの前後方向の両端から下方に延び、ナット部材19の前面および後面にそれぞれ対向する一対の壁面部39bとを備える。ブラケット39は、一対の壁面部39bの下端から互いに離れる方向(前後方向)に延びる一対の取付面部39cを備える。
【0045】
壁面部39bには、スクリュ軸17が挿入される挿入孔39bhが形成されている。挿入孔39bhの内径は、スクリュ軸17の外径よりも大きい。また、壁面部39bの挿入孔39bhよりも下方の部位には、回り止め突起39dが形成されている。取付面部39cには、ブラケット39をロアレール1の底壁1aに取り付けるための取付孔39chが形成されている。
【0046】
ブラケット39は金属板で形成されており、
図9に示すように、ロアレール1の底壁1aの上に、ブラケット39の取付面部39cを重ねた状態で、固定具47としてかしめピンを取付孔39chに下方から挿入し、取付面部39c側からかしめにより固定する。
【0047】
弾性部材45は、
図9に示すように、ナット部材19の下面19cと接するダンパ下面45aを備えている。ダンパ下面45aの前側の端縁及び後側の端縁から、それぞれ上方に向けて延びるダンパ前面45b及びダンパ後面45cが形成されている。ダンパ前面45b及びダンパ後面45cには、前後方向に貫通するダンパ貫通孔がそれぞれ形成されている。ダンパ貫通孔にはスクリュ軸17が挿入される。ダンパ貫通孔の内径は、スクリュ軸17の外径よりも大きく、ブラケット39の挿入孔39bhとほぼ同等である。
【0048】
ダンパ前面45b及びダンパ後面45cの左右方向の端縁は、ダンパ下面45aの左右方向の端縁よりも左右方向の内側に位置している。換言すれば、ダンパ下面45aの左右両側の端縁は、ダンパ前面45b及びダンパ後面45cの左右両側の端縁よりも左右方向の外側にそれぞれ突出している。
【0049】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0050】
(1)本実施形態のシートスライド装置は、車体前後方向に沿って延設されるロアレール1と、ロアレール1の長手方向に沿って相対移動するアッパレール3と、アッパレール3に回転自在に取り付けられ、相対移動する方向に沿って延びるスクリュ軸17と、ロアレール1に取り付けられ、スクリュ軸17に螺合するナット部材19と、アッパレール3に取り付けられ、スクリュ軸17が貫通する貫通孔29bを有する補強プレート29,31と、を備える。アッパレール3は、左右一対の側壁3b,3cに形成され、補強プレート29,31の左右両側縁が係合する左右一対のスリット3gと、左右一対の側壁3b,3cにスリット3gよりも上方に位置させて形成され、上端面3juがアッパレール3の内方へ入り込んでいる左右一対の舌片部3jとを有する。補強プレート29,31は、左右両側縁の下部に形成され、左右一対のスリット3gに係合する左右一対の下側係止部29c,29dと、左右両側縁の上部に形成され、左右一対の舌片部3jが係合する左右一対の凹部29eとを有する。舌片部3jは、上端面3juが凹部29eの上側面に当接した状態で凹部29e内に入り込んでいると共に、凹部29e内においてS字形状に屈曲されて凹部29eに係合している。
【0051】
アッパレール3のスリット3gに係合された補強プレート29,31の凹部29eに、アッパレール3に設けられた舌片部3jが係合している。舌片部3jは、上端面3juが凹部29eの上側面に当接した状態で凹部29e内に入り込んでいると共に、凹部29e内においてS字形状に屈曲されて凹部29eに係合している。このため、舌片部3jを上方へ押し上げる方向に力が作用するため、補強プレート29,31をアッパレール3の側壁3b,3cにガタなく取り付けることができる。
【0052】
(2)側壁3b,3cには、車体前後方向に間隔をおいて一対の孔部3i,3iが形成され、一対の孔部3i,3iの間に橋渡し部分が形成されており、橋渡し部分の上端部を側壁3b,3cから切り離して舌片部3jの上端面3juが形成されている。
【0053】
このように舌片部3jを構成することにより、舌片部3jを長く形成することが可能になる。
【0054】
(3)凹部29eの上側面は、左右方向内側に行くに従い下方へと傾斜する上側テーパ面29tuとして形成されており、舌片部3jの上端面3juは、上側テーパ面29tuに対して、舌片部3jの基端部を通り凹部29eの上側テーパ面29tuに直交する位置P1よりも左右方向内側にまで入り込んでいる。
【0055】
このように舌片部3jを構成することにより、舌片部3jの上端部が凹部29eの開口側(左右方向の外側)に移動して、舌片部3jが凹部29eから離脱してしまうことを抑制することが可能になる。
【0056】
(4)本実施形態のシートスライド装置の製造方法は、アッパレール3の左右一対の側壁3b,3cに形成された左右一対のスリット3gに補強プレート29,31の左右両側縁に形成された下側係止部29c,29dを嵌合させる嵌合工程と、嵌合工程の後に、左右一対の側壁3b,3cにスリット3gよりも上方に位置させて形成される左右一対の舌片部3jに対し、舌片部3jの上端面3juが凹部29eの上側面に当接した状態で舌片部3jの上下方向の中間部分を押圧して凹部29e内に押し込むことで、舌片部3jを凹部29e内においてS字形状に屈曲させて凹部29eに係合させる押込工程と、を有する。
【0057】
アッパレール3のスリット3gに係合された補強プレート29,31の凹部29eに、アッパレール3に設けられた舌片部3jが係合する。舌片部3jは、上端面3juが凹部29eの上側面に当接した状態で凹部29e内に入り込んでいると共に、凹部29e内においてS字形状に屈曲されて凹部29eに係合する。押込工程の後に舌片部3jのスプリングバックが発生しても、舌片部3jを上方へ押し上げる方向に力が作用するため、補強プレート29,31をアッパレール3の側壁3b,3cにガタなく取り付けることができる。
【0058】
(5)押込工程は、治具40が舌片部3jの上下方向の中間部分を押圧して凹部29e内に押し込むことで、舌片部3jを凹部29e内においてS字形状に屈曲させて凹部29eに係合させるものである。治具40は、舌片部3jとの当接面40aが上下方向で断面円弧形状に形成されている。
【0059】
治具40が左右方向内側に移動して舌片部3jを押圧する際に、舌片部3jとの当接点が変化しても応力集中が発生せず、舌片部3jの折れや破損を抑制することが可能になる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は本発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎず、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、上記実施形態で開示した具体的な技術事項に限らず、そこから容易に導きうる様々な変形、変更、代替技術なども含む。
【0061】
例えば、上記実施形態では、スクリュ軸17をアッパレール3に取り付け、ナット部材19をロアレール1に取り付けているが、スクリュ軸17をロアレール1に取り付け、ナット部材19をアッパレール3に取り付けてもよい。この場合、補強プレート29,31はロアレール1側に取り付けられる。
【符号の説明】
【0062】
1 ロアレール
3 アッパレール
3b,3c アッパレールの側壁
3g アッパレールのスリット(係合孔)
3i アッパレールの孔部
3j アッパレールの舌片部(係止片部)
17 スクリュ軸
19 ナット部材
29,31 補強プレート(補強部材)
29b 補強プレートの貫通孔
29c、29d 補強プレートの係止部(下側係止部)
29e 補強プレートの凹部
40 治具(押し込み治具)