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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20240729BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20240729BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20240729BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20240729BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20240729BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240729BHJP
   B60L 58/31 20190101ALI20240729BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/00 A
H01M8/04537
H01M8/04302
H01M8/04858
H01M8/04746
B60L58/31
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021011555
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022115008
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】垣見 洋輔
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-205168(JP,A)
【文献】特開2006-260987(JP,A)
【文献】特開2007-165082(JP,A)
【文献】特開2014-194850(JP,A)
【文献】国際公開第2019/035172(WO,A1)
【文献】特開2019-193321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
H01M 8/04- 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスと、酸化剤ガスと、により電力を生成する燃料電池と、
ダイオードを有する第1経路を有し、前記燃料電池の電圧を昇圧する昇圧コンバータと、
蓄電装置と、
前記蓄電装置の電圧を測定する電圧センサと、
前記燃料電池の制御モードを制御する制御部と、
を備える燃料電池システムであって、
前記燃料電池に水素と酸素が残留し、前記燃料電池の電圧が前記蓄電装置の電圧よりも高くなると、前記燃料電池で発生する電力が前記第1経路によって前記蓄電装置に充電可能な状態になり、
前記制御モードは、
前記水素ガスと前記酸化剤ガスとが反応し、前記燃料電池の電圧が起動閾値電圧に到達するかを判定する起動シーケンスと、
前記燃料電池の電圧が前記起動閾値電圧に到達後に遷移する発電シーケンスと、
を含み、
前記制御部は、
前記起動シーケンスから前記発電シーケンスに遷移するか否かを判定し、
前記起動閾値電圧を前記蓄電装置の電圧に基づいて算出する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記起動閾値電圧の算出を前記燃料電池システムの起動時に行う
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
水素ガスと、酸化剤ガスと、により電力を生成する燃料電池と、
昇圧コンバータと、
蓄電装置と、
前記蓄電装置の電圧を測定する電圧センサと、
前記燃料電池の制御モードを制御する制御部と、
を備える燃料電池システムであって、
前記制御モードは、
前記水素ガスと前記酸化剤ガスとが反応し、前記燃料電池の電圧が起動閾値電圧に到達するかを判定する起動シーケンスと、
前記燃料電池の電圧が前記起動閾値電圧に到達後に遷移する発電シーケンスと、
を含み、
前記制御部は、
前記起動シーケンスから前記発電シーケンスに遷移するか否かを判定し、
前記起動閾値電圧を前記蓄電装置の電圧に基づいて算出し、
前記起動シーケンスから前記発電シーケンスに遷移した後に、前記蓄電装置の電圧に応じて目標電流を算出し、
前記目標電流と対応する酸化剤ガス量に対し、前記酸化剤ガス量よりも多い量を供給する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムの状態を判定するために、燃料電池の電圧閾値により異常を判定する燃料電池システムが存在する。燃料電池システムは、所定の電圧閾値に対する判定結果に基づいて、起動するか否かを判定することができる。
【0003】
燃料電池に水素と空気が供給された直後から燃料電池の電圧が所定の電圧閾値以上に到達したか否の判定結果に基づいて、燃料電池システムの起動を継続することが可能か否かを診断する燃料電池システムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、燃料電池の電圧を所定電圧に変換する昇圧コンバータ(DCDCコンバータ)と、昇圧コンバータと負荷との間に接続される蓄電装置とを備える燃料電池システムが存在する。燃料電池システムは、燃料電池による発電を停止した際に、燃料電池の電圧が蓄電装置の電圧よりも高くなるように燃料電池セルの枚数を設定し、発電を停止した際に燃料電池で発生する電力を昇圧コンバータに設けられたダイオードによる経路等によって蓄電装置に充電可能な状態とすることで、昇圧コンバータを動かさずに成り行きの降圧動作によって高電位回避を行うことができつつ、燃料電池の出力を最適とした状態とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-165082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、燃料電池システムに昇圧コンバータを適用した場合、空気と水素を供給すると、燃料電池の電圧が上昇する。しかし、昇圧コンバータの2次側に接続された蓄電装置の電圧が低いほど燃料電池と蓄電装置との電位差が大きくなるため、成り行きで大きな電流が流れることとなり、現在の空気の供給に対し、空気不足が生じる。これにより、燃料電池の電圧が低下することとなる。このため、燃料電池の電圧に対する閾値に基づいて起動するかの判断を行うと、燃料電池システムを起動することができない場合もある。本発明の一側面に係る目的は、燃料電池システムの異常判定と確実な起動を行うことが可能な燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一つの態様の燃料電池システムは、水素ガスと、酸化剤ガスと、により電力を生成する燃料電池と、昇圧コンバータと、蓄電装置と、前記蓄電装置の電圧を測定する電圧センサと、前記燃料電池の制御モードを制御する制御部と、を備える。前記制御モードは、前記水素ガスと前記酸化剤ガスとが反応し、前記燃料電池の電圧が起動閾値電圧に到達するかを判定する起動シーケンスと、前記燃料電池の電圧が前記起動閾値電圧に到達後に遷移する発電シーケンスと、を含む。前記制御部は、前記起動シーケンスから前記発電シーケンスに遷移するか否かを判定し、前記起動閾値電圧を前記蓄電装置の電圧に基づいて算出する。
【0008】
これにより、起動シーケンスにおいて燃料電池システムの異常判定を行うことができる適切な起動閾値電圧が設定されるとともに、発電シーケンスに遷移する際の燃料電池の起動閾値電圧の遷移条件を変更することで、発電シーケンスへ遷移させることができ、燃料電池システムを確実に起動することができる。
【0009】
また、前記制御部は、前記起動閾値電圧の算出を前記燃料電池システムの起動時に行うことを特徴とする。これにより、起動時に予め起動閾値電圧を算出しておくことで、システムの起動を早くすることができる。
【0010】
また、前記制御部は、前記起動シーケンスから前記発電シーケンスに遷移した後に、前記蓄電装置の電圧に応じて目標電流を算出し、前記目標電流と対応する酸化剤ガス量に対し、前記酸化剤ガス量よりも多い量を供給することを特徴とする。これにより、制御モードを起動シーケンスから発電シーケンスへ遷移させた後は、燃料電池の酸化剤ガスの状態を改善させるために、供給する酸化剤ガスの供給量を上げることで、酸化剤ガス不足を改善することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃料電池システムの異常判定と確実な起動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係わる燃料電池システムの一例を示す図である。
図2】燃料電池システムの制御モードの遷移状態を示す図である。
図3】燃料電池FCの電圧と蓄電装置Sの電圧との関係を示す図である。
図4】燃料電池FCの基準IVから目標電圧を算出する例を示すグラフである。
図5】燃料電池FCの基準IVから目標電圧を算出するフローチャートである。
図6】別実施形態に係わる燃料電池システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係わる燃料電池システムの一例を示す図である。
【0015】
図1に示す燃料電池システム1は、フォークリフトなどの産業車両や電気自動車などの車両Veに搭載され、負荷Loに電力を供給する。なお、負荷Loは、走行用モータ、電装部品、コンピュータやメモリなどに電力を供給するための電源などである。なお、燃料電池システム1は車両以外にも、定置型の非常用発電機などにも適用可能である。
【0016】
また、燃料電池システム1は、燃料電池FCと、電流検出部Si0と、電圧検出部V1、V2と、DCDCコンバータCnvと、蓄電装置Sと、制御部Cntとを備える。
【0017】
DCDCコンバータCnvは、燃料電池FCと、蓄電装置Sとの間に接続される。DCDCコンバータCnvは、リアクトルRe1、Re2、Re3と、電流検出部Si1、Si2、Si3と、6つのスイッチング素子Q1~Q6と、6つのダイオードD1~D6と、コンデンサCoとを備えている。
【0018】
燃料電池FCは、リアクトルRe1、Re2、Re3および電流検出部Si1、Si2、Si3を介して6つのスイッチング素子Q1~Q6および6つのダイオードD1~D6と接続される。電流検出部Si0は、燃料電池FCと、リアクトルRe1、Re2、Re3との間に接続される。
【0019】
スイッチング素子Q1~Q6として、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)を用いている。但し、スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いてもよい。6つのダイオードD1~D6はそれぞれ、6つのスイッチング素子(MOSFET)Q1~Q6の寄生ダイオードである。
【0020】
正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、u相上アームを構成するスイッチング素子Q1と、u相下アームを構成するスイッチング素子Q2が直列接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、v相上アームを構成するスイッチング素子Q3と、v相下アームを構成するスイッチング素子Q4が直列接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、w相上アームを構成するスイッチング素子Q5と、w相下アームを構成するスイッチング素子Q6が直列接続されている。
【0021】
正極母線Lp、負極母線LnにはコンデンサCoを介して蓄電装置Sが接続されている。
【0022】
DCDCコンバータCnvをMOSFETと、MOSFETの寄生ダイオードで構成することにより、DCDCコンバータCnvの構成をメカニカルスイッチ等で構成するよりも簡単な構成で作成することができ、燃料電池システム1の小型化を図ることができる。
【0023】
燃料電池FCから供給された電力がダイオードD1、D3、D5、または、D2、D4、D6を通る経路を、以下「第1経路」と呼ぶ。また、燃料電池FCから供給された電力がスイッチング素子Q1、Q3、Q5、または、Q2、Q4、Q6を通る経路を、以下「第2経路」と呼ぶ。
【0024】
u相上アームを構成するスイッチング素子Q1と、v相上アームを構成するスイッチング素子Q3と、w相上アームを構成するスイッチング素子Q5とが正極母線Lpを介して負荷Loに接続されている。u相下アームを構成するスイッチング素子Q2と、v相下アームを構成するスイッチング素子Q4と、w相下アームを構成するスイッチング素子Q6とが負極母線Lnを介して負荷Loに接続されている。
【0025】
上下のアームを構成するスイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作に伴い、蓄電装置Sの電圧である直流電圧を負荷Loに供給できるようになっている。負荷Loは、例えば車両駆動用モータや荷役用モータである。
【0026】
各スイッチング素子Q1~Q6のゲート端子には、制御部Cntが接続されている。制御部Cntは、制御信号であるパルスパターンに基づいてDCDCコンバータCnvのスイッチング素子Q1~Q6をスイッチング動作させる。
【0027】
DCDCコンバータCnvは、入力される制御信号によりスイッチング素子Q1~Q6をオン、オフすることで、燃料電池FCの電圧を一定電圧に変換し、負荷Loや蓄電装置Sに出力する。
【0028】
リアクトルRe1は、電流検出部Si0と、スイッチング素子Q1-スイッチング素子Q2間との間に接続される。リアクトルRe2は、電流検出部Si0と、スイッチング素子Q3-スイッチング素子Q4間との間に接続される。リアクトルRe3は、電流検出部Si0と、スイッチング素子Q5-スイッチング素子Q6間との間に接続される。
【0029】
電流検出部Si1は、リアクトルRe1と、スイッチング素子Q1-スイッチング素子Q2間との間に接続される。電流検出部Si2は、リアクトルRe2と、スイッチング素子Q3-スイッチング素子Q4間との間に接続される。電流検出部Si3は、リアクトルRe3と、スイッチング素子Q5-スイッチング素子Q6間との間に接続される。
【0030】
燃料電池FCは、互いに直列接続される複数の燃料電池セルにより構成される燃料電池スタックであり、制御部Cntの制御に基づき供給される水素と酸素(酸化剤ガス)との電気化学反応を利用して発電を行う。蓄電装置Sは、リチウムイオンキャパシタなどにより構成され、DCDCコンバータCnvと負荷Loとの間に接続される。
【0031】
DCDCコンバータCnvから出力される電力が、負荷Loが要求する電力より大きい場合、余剰分の電力が蓄電装置Sに供給され、蓄電装置Sが充電される。また、DCDCコンバータCnvから出力される電力が、負荷Loが要求する電力より小さい場合、不足分の電力が蓄電装置Sから負荷Loに供給される。また、負荷Loから蓄電装置Sに回生電力が供給されると、蓄電装置Sが充電される。なお、蓄電装置Sは、充電及び放電することが可能な蓄電装置(リチウムイオン電池など)であれば、リチウムイオンキャパシタに限定されない。
【0032】
電流検出部Si0は、電流計などにより構成され、燃料電池FCからDCDCコンバータCnvに流れる電流を検出し、その検出した電流を制御部Cntに出力する。
【0033】
電流検出部(電流検出手段)Si1は、電流計などにより構成され、スイッチング素子Q1またはスイッチング素子Q2を介してDCDCコンバータCnvに流れる電流を検出し、その検出した電流を制御部Cntに出力する。
【0034】
電流検出部(電流検出手段)Si2は、電流計などにより構成され、スイッチング素子Q3またはスイッチング素子Q4間を介してDCDCコンバータCnvに流れる電流を検出し、その検出した電流を制御部Cntに出力する。
【0035】
電流検出部(電流検出手段)Si3は、電流計などにより構成され、スイッチング素子Q5またはスイッチング素子Q6間を介してDCDCコンバータCnvに流れる電流を検出し、その検出した電流を制御部Cntに出力する。電圧検出部V1は、電圧計などにより構成され、燃料電池FCの電圧を検出し、その検出した電圧を制御部Cntに出力する。電圧検出部V2は、電圧計などにより構成され、蓄電装置Sの電圧を検出し、その検出した電圧を制御部Cntに出力する。なお、燃料電池FCの電圧の検出方法は、燃料電池FCの両端電圧を直接測定してもよいし、燃料電池FCを構成する燃料電池セルのうち、代表の1つのセル電圧を測定し積層した燃料電池セルの枚数を乗算した電圧としてもよい。あるいは、代表の1つのセル電圧自体を用いてもよい。すなわち、燃料電池の電圧が必要十分な精度で測定できればその手法は問わない。蓄電装置Sの電圧の検出に関しても同様である。
【0036】
制御部Cntは、CPU(Central Processing Unit)またはプログラマブルなデバイス(FPGA(Field Programmable Gate Array)やPLD(Programmable Logic Device))などにより構成され、制御信号を出力する。制御部Cntは、DCDCコンバータCnvの動作を制御することで燃料電池FCの発電量(電力)を制御する。すなわち、燃料電池FCに供給される燃料(水素)や空気(酸素)の量が増加するほど、燃料電池FCの発電量が増加し、燃料電池FCに供給される燃料や空気の量が減少するほど、燃料電池FCの発電量が減少する。なお、制御部Cntは、燃料電池FCに供給される燃料や空気の量を段階的に増加または減少させてもよい。また、制御部Cntは、燃料電池FCに供給される燃料や空気の量をゼロにすると、所定時間経過後に、燃料電池FCの発電が停止して燃料電池FCの発電量がゼロになるものとする。また、燃料電池FCから出力される電流が増加するほど、燃料電池FC(燃料電池セル)の電圧が減少し、燃料電池FCから出力される電流が減少するほど、燃料電池FC(燃料電池セル)の電圧が増加するものとする。
【0037】
また、制御部Cntは、負荷Loや蓄電装置Sから要求される電力に応じた電流が燃料電池FCから出力されるように、かつ、燃料電池FCの電圧が閾値を超えないように、DCDCコンバータCnvの動作を制御する。なお、燃料電池FCの電圧が閾値を超えて燃料電池FCが劣化しないように、DCDCコンバータCnvに流れる電流を調整する処理を高電位回避処理という。また、負荷Loや蓄電装置Sから要求される電力が増加するほど、制御信号のデューティ比が増加し、負荷Loや蓄電装置Sから要求される電力が減少するほど、制御信号のデューティ比が減少するものとする。また、閾値は、燃料電池FCが劣化するおそれがあるときの燃料電池FCの電圧とし、燃料電池FCの電圧が閾値を超えそうなとき、制御信号のデューティ比の減少が制限される。燃料電池システム1では、高電位回避を行うために燃料電池FCのセル当たりの電圧が第1の閾値以上とならないように設定している。この第1の閾値の電圧を、以下「高電位回避電圧」という。
【0038】
本実施形態においては、低コストの燃料電池システム1を作るために、燃料電池FCを構成するセルの枚数を減らして、昇圧式のDCDCコンバータCnvで燃料電池FCの電圧を昇圧させる構成としている。燃料電池FCの電圧は、下記式1を満たすよう設定される。下記式1における“燃料電池FCの電圧”とは、燃料電池FCの両端電圧である。
【0039】
燃料電池FCの電圧≦高電位回避電圧×セル枚数・・・式1
【0040】
DCDCコンバータCnvは、昇圧式なので、通常の運転時、即ち、負荷Loにより電流が引かれている場合には、燃料電池FCの電圧が、蓄電装置Sの電圧とオーバーラップしないよう、燃料電池FCの電圧が、蓄電装置Sの電圧よりも小さくなるようにセルの枚数を調整される。但し、燃料電池FCの電圧が小さくなるようにし過ぎると、セルの枚数が少なくなり過ぎる。その結果、燃料電池FCの出力が不足するため、燃料電池システムとして成立しなくなる。
【0041】
したがって、本実施形態においては、高電位回避を行うとともに、燃料電池システム1の出力を向上するために、燃料電池システム1は、燃料電池FCによる発電を停止した際に、燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも高くなるように設定する。具体的には、負荷Loや蓄電装置Sからの要求電力がなくなった際に燃料電池FCによる発電を停止し、高電位回避電圧×セル枚数の値が蓄電装置Sの電圧よりも高くなるようにセル枚数が定められている。なお、燃料電池システム1は、燃料電池FCによる発電中は燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも低く設定する。これにより、DCDCコンバータCnvの動作すべきタイミングが明確になるため、DCDCコンバータCnvの制御が容易となる。
【0042】
制御部Cntは、発電を停止した際に燃料電池FCで発生する電力を第1経路D1、D3、D5または第2経路Q1、Q3、Q5のうち少なくとも一方によって蓄電装置に充電可能な状態とする。
【0043】
本実施形態において、発電を停止した際に燃料電池FCで発生する電力とは、制御部Cntの制御に基づき供給がゼロにされた水素や酸素のうち、燃料電池システム1内に残留する水素や酸素の反応により生じる電力をいう。また、燃料電池FCによる発電を停止とは、燃料電池FCの発電量が完全にゼロになる場合だけでなく、燃料電池FCによる発電を抑制し、燃料電池FCの発電量が限りなくゼロに近くなる場合も含まれる。したがって、発電を停止した際には、第1経路(ダイオードD1、D3、D5)の方へ電流を流すことにより、燃料電池FCの電流を蓄電装置Sで充電することができる。
【0044】
また、燃料電池システム1では、蓄電装置Sが過充電とならないように、燃料電池FCの電圧が第2の閾値以上とならないように設定している。この第2の閾値の電圧を、以下「発電停止電圧」という。発電停止電圧は、燃料電池システム1の固有の値である。例えば、蓄電装置SのSOC(State Of Charge)の所定の割合(蓄電残量)における電圧を発電停止電圧として使用する。蓄電装置Sの電圧が発電停止電圧を越えた際に、燃料電池FCによる発電を停止する。燃料電池FCのセルの枚数は、下記式2により決定する。下記式2における“高電位回避電圧”とは、燃料電池FCの両端電圧である。
【0045】
セル枚数×高電位回避電圧=発電停止電圧+Vf・・・式2
【0046】
Vfは、ダイオードD1、D3、D5による損失分の閾値電圧(立ち上がり電圧)である。
【0047】
燃料電池FCのセル枚数を式2が成立するよう設定すると、燃料電池FCのセルの枚数を多く設定し、結果として燃料電池FCの出力をあげることができる。また、燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも小さくなる電圧(領域)においては成り行きに任せて電流を流しておくだけで、高電位回避を行い燃料電池FCの電圧を下げることができる。
【0048】
負荷Loにより電流が引かれている場合には、燃料電池FCの電圧は下がるので、DCDCコンバータCnvは燃料電池FCの電圧を昇圧して所望の電圧を出力する。昇圧する場合には、DCDCコンバータCnvは、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5を全てOFFにし、下アームのスイッチング素子Q2、Q4、Q6の位相をずらしてON-OFFする。
【0049】
負荷Loにより電流が引かれていない場合には、制御部Cntは、燃料電池FCによる発電を停止する。但し、燃料電池FCによる発電が停止された場合であっても、負荷Loにより電力が引かれない場合には、残留する燃料(水素)や空気(酸素)の反応で生じる電力により燃料電池FCの電圧が上がる。そして、下記式3を満たし、燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも高くなると、DCDCコンバータCnvにより昇圧することはできなくなる。下記式3における“燃料電池FCの電圧”とは、燃料電池FCの両端電圧である。
【0050】
燃料電池FCの電圧>蓄電装置Sの電圧・・・式3
【0051】
発電を停止した際に、式3の状態となった場合であっても、式2で設定したセル枚数とすることにより、成り行きで第1経路の方へ電流を流れるように、燃料電池FCの電流を蓄電装置Sで充電させることができ、燃料電池FCのセルが高電位回避電圧以下となる状態を維持できる。成り行きで電流を流す場合には、DCDCコンバータCnvは、上アームのスイッチング素子Q1、Q3、Q5、下アームのスイッチング素子Q2、Q4、Q6を全てOFFにする。式3の関係が成立している場合には、燃料電池FCで発生した電流は、上アームのダイオードD1、D3、D5を通って蓄電装置Sへ流れる。
【0052】
したがって、寄生ダイオードである上アームのダイオードD1、D3、D5の特性を活用して、成り行きで高電位回避を行うことができる。また、燃料電池FCの電圧と蓄電装置Sの電圧とのオーバーラップを許容することができるため、燃料電池FCのセルの枚数を増加させて、燃料電池FCの出力をあげることができる。
【0053】
また、式2を満たすセル枚数とすると、昇圧式のDCDCコンバータCnvを動かさずに(即ち制御せずに)成り行きで高電位回避を行うことができつつ、燃料電池FCの出力を最適とした状態が決まる。よって、燃料電池システム1の制御が複雑にならずに、セル枚数の最適化を図ることができる。
【0054】
このように、実施形態の燃料電池システム1では、燃料電池FCによる発電を停止した際に、燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも高くなるようにする。そして、燃料電池システム1は、燃料電池FCによる発電を停止した際に燃料電池FCで発生する電力をダイオードD1、D3、D5(第1の経路)またはスイッチング素子Q1、Q3、Q5(第2経路)のうち少なくとも一方によって蓄電装置Sに充電可能な状態とする構成である。
【0055】
これにより、負荷Loにより電流が引かれていない場合には、制御部Cntは、燃料電池FCによる発電を停止した場合であっても、成り行きで第1経路の方へ電流を流れるようセル枚数を決定することで、燃料電池FCの電流を蓄電装置Sで充電させることができる。これにより、高電位回避を行うことができるとともに、燃料電池システムの出力を向上することができる。
【0056】
また、制御部Cntは、燃料電池FCによる発電中は燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも低くなるようにDCDCコンバータCnvを制御する。具体的には、負荷の負荷Loや蓄電装置Sからの要求電力が発生したときに燃料電池FCによる発電を開始し、制御部Cntは要求電力に応じた目標の電流となるようDCDCコンバータCnvを制御する。これにより、DCDCコンバータCnvを動作すべきタイミングを明確にすることができるため、DCDCコンバータCnvの制御が容易となる。
【0057】
また、制御部Cntは、燃料電池FCの発電電圧範囲(燃料電池FCの制御における下限電圧及び上限電圧の範囲)のうち最も低い電圧を、蓄電装置Sの利用電圧範囲(蓄電装置Sの下限SOC及び上限SOCから設定した電圧の範囲)のうち最も低い電圧よりも低い電圧に設定する。これにより、蓄電装置Sの性能を可能な限り多く活用することができる。
【0058】
また、DCDCコンバータCnvのスイッチング素子をMOSFETで構成し、ダイオードをMOSFETの寄生ダイオードで構成する。これにより、DCDCコンバータCnvの構成をメカニカルスイッチ等で構成するよりも簡単な構成で作成することができ、燃料電池システム1の小型化を図ることができる。
【0059】
(モード制御)
図2は、燃料電池システムの制御モードの遷移状態を示す図である。燃料電池システム1の制御部Cntは、燃料電池FCの制御モードを制御する。制御モードは、少なくとも起動シーケンスと、発電シーケンスと、を備える。制御モードは、更に、停止シーケンスを備える。燃料電池FCの制御モードは、他のシーケンスを備えていてもよい。
【0060】
起動シーケンスでは、主に燃料電池システム1に異常があるか否かの異常判定の処理が行われる。起動シーケンスでは、スタンバイ、システムチェック、水素入れ、エア入れを含む処理が行われる。スタンバイ(スリープ)(S11)の状態において、運転手がキーONすると、燃料電池システム1が起動し、制御部Cntは、システムにエラーがあるか否かのシステムチェック(S12)の処理を行う。システムチェックの結果、エラーがない場合には、システムチェック後、制御部Cntは、水素入れ(S13)の処理を行う。水素入れの処理では、水素タンクに貯蔵されている水素がインジェクタを通じて、燃料電池FCへ供給される。
【0061】
供給された水素により燃料電池FCの水素圧力が所定の閾値akPa以上になると、水素入れが完了したとして、制御部Cntは、エア入れ(S14)の処理に移る。エア入れの処理では、エアーコンプレッサを通じて空気がbNL/minの流量(以下、「エア流量」とも呼ぶ)で燃料電池FCへ供給される。
【0062】
燃料電池FC内に、水素と酸素が供給されると、化学反応によって燃料電池FCの電圧が立ち上がり、制御部Cntは、所定の起動閾値電圧を超えたか否かを判定する。所定の起動閾値電圧を超えると、起動シーケンスは終了して、制御モードが発電シーケンスへ遷移する。所定の起動閾値電圧として、例えば、燃料電池FCの平均セル電圧が起動閾値電圧xV以上となったか否かに基づき判定される。
【0063】
ここで、空気が供給されてから所定時間経過しても、燃料電池Fの平均セル電圧が起動閾値電圧xVを超えることができない場合には、エア入れにおいて処理が滞留し、その結果、燃料電池システム1のシーケンスは、起動シーケンスから発電シーケンスへ遷移することができない。そして、所定時間以上平均セル電圧が起動閾値電圧xVを超えることができない状態が継続してタイムアウトすると、燃料電池FCに異常があると判断して、制御部Cntは、エラーにより燃料電池システム1の処理を終了する。
【0064】
本実施形態においては、燃料電池システム1に第1経路(寄生ダイオード)を備えた昇圧式のDCDCコンバータCnvを適用しているため、成り行きで第1経路に大きな電流が流れる場合(例えば、蓄電装置Sの電圧が低い時)があり、現在の空気の供給量に対し、空気不足(以下、「エア欠」ともいう)が生じることとなり、その結果、燃料電池FCの電圧が低くなる。なお、第1経路に流れる電流を遮断するためのスイッチ等の回路構成を設けた場合には、燃料電池FCの空気不足は発生しないが、別途回路構成を設けなければならず、コスト増となる。
【0065】
このため、平均セル電圧を起動閾値電圧xV以上とすることができずに、起動シーケンスから発電シーケンスへ遷移することができない状態が発生する。その結果、タイムアウトにより燃料電池システム1を起動することができないという事態が発生する。本実施形態において、空気不足(エア欠)は、現在燃料電池FCから流れている電流に対して供給されている空気の量が少ない状態をいう。
【0066】
燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも大きい状態、すなわち、上記式3の状態となった場合、燃料電池FCで発生した電流は、ダイオードD1,D3,D5を通って蓄電装置Sへ成り行きで流れてしまう。このため、燃料電池FCが空気不足となると、平均セル電圧は起動閾値電圧xV以上とならずに、シーケンスが起動シーケンスから発電シーケンスへと遷移できずに滞留してしまう。
【0067】
一方で、起動シーケンスにおけるエア入れの処理は、燃料電池FCの中に溜まった水等を吹き飛ばすのに必要最低限の量しか流さないため、固定値が設定されている。固定値に大きな値を設定し、空気不足を解消するために大量の空気を供給すれば、空気不足の状態は解消するが、燃料電池システム1の起動時から過剰の空気を供給すると、発電シーケンスに遷移されていないのにエアーコンプレッサの駆動により騒音の発生や、消費電力が大きくなる等の弊害が生じることとなる。また、運転手によりキーON操作が繰り返し実行された場合には、燃料電池FC内の水を吹き飛ばしすぎて乾いてしまうという背反が起きるので、必要最低限の量がエア入れの処理で供給される空気流量が固定値として設定されている。
【0068】
なお、起動シーケンスは、燃料電池システム1の起動時の不具合を確認しシステムチェックする位置づけで実行される。すなわち、起動シーケンスは、燃料電池システム1に異常があるか否かを判定するフェーズであるため、毎回同じ条件とするために、設定する起動閾値電圧xVを固定値としてもよい。あるいは、設定する起動閾値電圧xVを所定の条件式に基づき算出してもよい。
【0069】
シーケンスが起動シーケンスから発電シーケンスへ遷移すると、制御部Cntは、負荷Loの要求に応じて燃料電池FCにより発電(S21)、および、アイドル(S22)を含む処理を繰り返し実行する。
【0070】
停止シーケンスは、キャパシタ充電、停止処理、スタンバイを含む処理が行われる。キャパシタ充電(S31)の処理では、運転手がキーOFFしたときに、蓄電装置Sの充電率(SOC)が低い場合には、次回の起動時に必要な電圧となるように燃料電池FCから蓄電装置Sに充電する処理が行われる。例えば、キャパシタ充電の処理では、蓄電装置Sの電圧が次回の起動時に必要な閾値電圧cV以上となるまで蓄電装置Sの充電が行われる。閾値電圧cVは、起動シーケンスの起動閾値電圧xVよりも高い値が設定される。
【0071】
蓄電装置Sの電圧が閾値電圧cV以上となった場合には、キャパシタ充電の処理を終了し、停止処理(S32)が行われる。停止処理では、燃料電池FCによる発電が停止され、停止処理が完了すると、スタンバイ(S33)の状態に戻る。スタンバイの状態に戻ると、シーケンスは、停止シーケンスから起動シーケンスへ遷移状態が戻る。
【0072】
次に、図3を参照して、燃料電池FCの電圧と蓄電装置Sとの電圧の関係について説明する。図3は、燃料電池FCの電圧と蓄電装置Sの電圧との関係を示す図である。
【0073】
通常の起動状態であれば、図3(1)に示すように、キャパシタ充電(図2のS31)の処理により、蓄電装置Sの電圧は、次回の起動時に必要な閾値電圧cV以上となっているため、起動シーケンスにおいて、起動閾値電圧xVを超えることができ、発電シーケンスへ遷移することができる。しかし、非常停止により停止した場合など、異常により燃料電池システム1が停止した場合には、停止シーケンスを経ずに、次の起動シーケンスに入ってしまう場合がある。この場合においては、蓄電装置Sの電圧が燃料電池FCの電圧がよりも低く、電位差が通常よりも大きくなるため、図3(2)に示すように成り行きで第1経路に通常よりも大きな電流が流れることとなる。その結果、図3(3)に示すように、燃料電池FCの電圧が低くなり、起動シーケンスの起動閾値電圧xVを超えることができずに、シーケンスを発電シーケンスへ遷移することができない事態が生じる。
【0074】
本実施形態においては、起動シーケンスにおいて燃料電池システム1の異常判定を行うことができるとともに、起動シーケンスから発電シーケンスに遷移する際の燃料電池FCの起動閾値電圧xVの遷移条件を変更して、燃料電池システム1を発電シーケンスへ遷移させることにより、燃料電池システム1を確実に起動することができる。また、発電シーケンスへ遷移させた後は、燃料電池FCの空気不足の状態を改善させるために供給する空気の供給量を上げることで、空気不足を改善することができる。
【0075】
制御部Cntは、起動シーケンスにおける起動閾値電圧xVを蓄電装置Sの電圧に基づいて算出してもよい。具体的には、制御部Cntは、起動閾値電圧xVを、下記式4により算出する。下記式4における“燃料電池FCの電圧”とは、燃料電池FCの両端電圧である。
【0076】
起動閾値電圧xV×セル枚数≦燃料電池FCの電圧+α
起動閾値電圧xV≦(燃料電池FCの電圧V+α)/セル枚数・・・式4
【0077】
αは、DCDCコンバータCnvによる回路損失分の電圧Vであり、DCDCコンバータCnvの構成に依存する。制御部Cntは、起動シーケンスが開始されると、式4により起動閾値電圧xVを算出し、式4が成立するまで起動閾値電圧xVを下げる処理を行う。制御部Cntは、燃料電池システム1の起動時に起動閾値電圧xVを算出することができる。例えば、制御部Cntは、起動シーケンスにおいて運転手のキーONのタイミングで図2のスタンバイ(S11)から起動シーケンスが開始されたタイミングで、式4により起動閾値電圧xVを算出してもよい。制御部Cntは、起動シーケンスから発電シーケンスへ遷移する前の任意の時点において起動閾値電圧xVを算出してもよい。例えば、制御部Cntは、図2の起動シーケンスの処理(S11~S14)のうち、任意の処理において起動閾値電圧xVを算出してもよい。
【0078】
なお、制御部Cntは、起動閾値電圧xVが満たさないことにより、起動シーケンスから発電シーケンスへと遷移できずに所定時間経過後タイムアウトした場合に、起動閾値電圧xVを算出してもよい。制御部Cntは、算出した起動閾値電圧xVに基づいて起動シーケンスから発電シーケンスへと遷移する判定処理を行う。判定処理の結果、燃料電池FCの電圧が起動閾値電圧xV以上となった場合には、制御部Cntは、燃料電池システム1のシーケンスを起動シーケンスから発電シーケンスへと遷移する。
【0079】
ここで、蓄電装置Sの電圧に基づいて起動閾値電圧xVを算出した場合、すなわち、式4に基づいて起動閾値電圧xVを変更した場合には、起動シーケンスから発電シーケンスへと遷移する際に、成り行きで燃料電池FCから電流が流れてしまっている状態である。このため、通常設定された空気の流量では燃料電池FCへ供給される空気の流量不足が生じることとなる。この場合、制御部Cntは、シーケンスが起動シーケンスから発電シーケンスへと遷移したら、発電シーケンスにおいて、燃料電池FCへ供給する空気の流量(エア流量)を上げる処理を行う。
【0080】
具体的には、制御部Cntは、燃料電池FCへ供給する空気の流量(エア流量)を、下記式5により算出する。
【0081】
エア流量[NL/min]=(目標電流×60)/(96500×セル枚数/4/0.21×22.4×β・・・式5
【0082】
βは、供給される水素と空気とのストイキを示す。ストイキは、燃料電池FCの実電流から算出される燃料電池FCの発電に理論上必要な空気の流量である。例えば、ストイキが1.0の場合は、燃料電池FCにおいて反応する水素と空気(酸素)の比率は1となる。ストイキを高く設定すると、燃料電池FCにおいて反応する空気(酸素)が潤沢(過剰)な状態となる。ストイキは、供給される水素の量よりも空気の量が多くなるように設定することができる。これにより、燃料電池FCの各セルに対し必要十分な量を供給することができる。目標電流は、基準IV上での目標電圧となる電流である。基準IVは、燃料電池FC(セル)の性能に依存するグラフである。
【0083】
図4図5を参照して、燃料電池FCの基準IVから目標電圧を算出する例について説明する。図4は、燃料電池FCの基準IVから目標電圧を算出する例を示すグラフである。図5は、燃料電池FCの基準IVから目標電圧を算出するフローチャートである。図4のグラフは、横軸は燃料電池FCの電流を示し、縦軸は燃料電池FCの電圧を示す。
【0084】
制御部Cntは、現在の蓄電装置Sの電圧v1を測定する(S41)。そして、燃料電池FCの電圧は、測定結果に基づいて、現在の蓄電装置Sの電圧v1から、α(回路損失分の電圧V)を差し引いた電圧まで成り行きで引っ張られる。このため、制御部Cntは、蓄電装置Sの電圧v1に対しαを加算した値を目標電圧v2として算出する(S42)。
【0085】
制御部Cntは、基準IV上で目標電圧v2となる電流を目標電流として算出する(S43)。すなわち、制御部Cntは、基準IVのラインと、目標電圧v2とが接する点に基づいて、目標電流tcAを算出する(図4参照)。制御部Cntは、算出した目標電流tcAに基づいて、予め設定したストイキとなるように、燃料電池FCへ空気を供給する。空気不足が解消した場合には、制御部Cntは、空気の供給量を通常に戻し、発電シーケンスの処理が通常の状態にすることができる。
【0086】
以上の構成によって、燃料電池システム1に昇圧式のDCDCコンバータCnvを採用した場合であっても、起動シーケンスにおいて燃料電池システムの異常判定を行うことができるとともに、起動閾値電圧xVを下げることで、エラーを起こすことなく起動シーケンスから発電シーケンスへと遷移させることができ、燃料電池システムを確実に起動することができる。
【0087】
また、起動閾値電圧xVの算出を燃料電池システムの起動時に行うことで、システムの起動を早くすることができる。
【0088】
また、制御モードを起動シーケンスから発電シーケンスへ遷移させた後は、燃料電池FCの酸化剤ガスの状態を改善させるために、供給する酸化剤ガスの供給量を上げることで、酸化剤ガス不足を改善することができる。すなわち、発電シーケンスにおいて、目標電流に基づいてストイキとなる空気を供給することで、燃料電池FCの空気不足を解消することができ、燃料電池システム1の状態を安定にすることができる。
【0089】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0090】
<その他の実施形態>
燃料電池システム1は、図6に示すようなDCDCコンバータであってもよい。この場合、スイッチング素子を有する第2経路は有さないが、DCDCコンバータによる昇圧動作を停止した際はダイオードを有する第1経路によって電流が流れ、燃料電池FCの高電位回避が行われる。
【0091】
また、上述の実施形態においては、燃料電池FCのセルの枚数は、式2により決定しているがこの限りではない。例えば、燃料電池FCの電圧は、蓄電装置Sの電圧に加えてダイオードの閾値電圧(立ち上がり電圧)を加算した電圧よりも高くなるようにしてもよい。この場合、燃料電池FCのセルの枚数は、下記式6により決定される。下記式6における“高電位回避電圧”とは、燃料電池FCの両端電圧である。
【0092】
セル枚数×高電位回避電圧=発電停止電圧・・・式6
【0093】
また、上述の実施形態においては、成り行きで電流を流す場合には、上アームのダイオードD1、D3、D5へ電流を流しているがこの限りではない。
【0094】
制御部Cntは、電圧検出部V1で検出した燃料電池FCの電圧が電圧検出部V2で検出した蓄電装置Sの電圧よりも高いことを検出したときに、スイッチング素子Q1、Q3、Q5をON(閉じ状態)にしてもよい。これにより、燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも大きい状態(上記式3の状態)となった場合であっても、燃料電池FCで発生した電流は、スイッチング素子Q1、Q3、Q5を通って蓄電装置Sへ流れる。これにより、ダイオードによる電力の損失がなくなり、燃料電池FCで出力した電力を蓄電装置Sに効率よく充電することができる。
【0095】
また、制御部Cntは、スイッチング素子Q1~Q6のON-OFF状態(開閉状態)を検知可能にしてもよい。制御部Cntは、スイッチング素子Q1~Q6のON-OFF動作が行われていない場合に、第1経路または第2経路に電流が流れていることを検出した場合には、スイッチング素子Q1~Q6をOFF状態(閉じ状態)とする。これにより、燃料電池FCの電圧が蓄電装置Sの電圧よりも大きい状態(上記式3の状態)となった場合であっても、燃料電池FCで発生した電流は、スイッチング素子Q1、Q3、Q5を通って蓄電装置Sへ流れる。これにより、ダイオードによる電力の損失がなくなり、燃料電池FCで出力した電力を蓄電装置Sに効率よく充電することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 燃料電池システム
Ve 車両
Lo 負荷
FC 燃料電池
Si0 電流検出部
V1、V2 電圧検出部
Co コンデンサ
Re1、Re2、Re3 リアクトル
Si1、Si2、Si3 電流検出部
Cnv DCDCコンバータ
S 蓄電装置
Cnt 制御部
Q1~Q6 スイッチング素子
D1~D6 ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6