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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】複合積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/00 20060101AFI20240729BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240729BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20240729BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240729BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20240729BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
B32B5/00 A
B32B5/02 B
B32B5/26
C08J5/04 CEZ
B29C70/12
B29K101:12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021014208
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2022117614
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑山 淳
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/235344(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0203663(US,A1)
【文献】特開2018-035274(JP,A)
【文献】特開2012-051151(JP,A)
【文献】特開2005-305724(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111737(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0331233(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03722089(EP,A1)
【文献】特開昭58-213032(JP,A)
【文献】特開2000-006729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する複合積層体において、
前記複合積層体は、フィルム(A)とシート(B)とを含む積層物が、熱圧着により一体化されてなり、
前記積層物は、前記フィルム(A)が、複数の前記シート(B)の間において、前記シート(B)と直接的に接するように積層配置された部分を有し、
前記フィルム(A)は、平均繊維長が1μm以上100μm未満であり、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方である強化繊維(a1)と、熱可塑性樹脂(a2)とを含有し、
前記シート(B)は、平均繊維長が1mm以上である強化繊維(b1)と、熱可塑性樹脂(b2)とを含有し、
前記強化繊維(b1)の平均繊維径に対する前記強化繊維(a1)の平均繊維長の比((a1)の平均繊維長/(b1)の平均繊維径)が1を超えて10以下であることを特徴とする、複合積層体。
【請求項2】
前記積層物全体において、前記強化繊維(b1)に対する前記強化繊維(a1)の質量比((a1)/(b1))が0.01以上1以下であることを特徴とする、請求項1に記載の複合積層体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(a2)が、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、および熱可塑性ポリイミド樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の複合積層体。
【請求項4】
前記強化繊維(a1)の含有量が、前記フィルム(A)に含まれる成分の全量100質量%中において0.5質量%以上35質量%以下であることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項5】
前記フィルム(A)が、さらに球状粒子(a3)を含有することを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項6】
前記強化繊維(b1)が、炭素繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項7】
前記強化繊維(b1)の含有量が、前記シート(B)に含まれる成分の全量100質量%中において10質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(b2)が、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂および熱可塑性ポリイミド樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項9】
前記積層物における両側の最外層のうち少なくとも一方の最外層に、さらに前記フィルム(A)が設けられている、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項10】
前記積層物は、前記シート(B)が、複数の前記フィルム(A)の間において、前記フィルム(A)と直接的に接するように積層配置された部分を有する、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項11】
自動車部材用または電気・電子機器部材用である、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項12】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する複合積層体の製造方法において、
平均繊維長が1μm以上100μm未満であり、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方である強化繊維(a1)と、熱可塑性樹脂(a2)とを含有する、フィルム(A)と、平均繊維長が1mm以上である強化繊維(b1)と、熱可塑性樹脂(b2)とを含有する、シート(B)とを積層配置することにより、積層物を用意する工程(I)と、
前記積層物を、熱圧着によって一体化することにより、複合積層体を得る工程(II)とを備え、
前記工程(I)において、前記フィルム(A)が、複数の前記シート(B)の間において、前記シート(B)と直接的に接するように積層配置された部分を有し、前記強化繊維(b1)の平均繊維径に対する前記強化繊維(a1)の平均繊維長の比((a1)の平均繊維長/(b1)の平均繊維径)が1を超えて10以下となるように前記積層物を用意することを特徴とする、複合積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化された複合積層体及び該複合積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂は、軽くて強いことから金属に代わる材料として、ゴルフクラブ、テニスラケット、航空機、自動車などの様々な分野で用いられている。近年では、低燃費を達成するために自動車の軽量化が求められていることから、繊維強化樹脂が自動車分野において注目されている。しかし、自動車部材に繊維強化樹脂を用いるためには、様々な課題がある。例えば、熱硬化性樹脂からなる繊維強化樹脂は、成形後に熱処理(硬化反応)が必要であることから、自動車部材の製造で必須となる高い生産性と低いコストを達成できない。そこで、熱硬化性樹脂に代わり成形が容易な熱可塑性樹脂を用いた繊維強化熱可塑性樹脂(以下「FRTP」ともいう)が求められている。
【0003】
FRTPの代表的な形態としては、連続した強化繊維を一方向に配列させた強化繊維基材、または連続した強化繊維を織物加工した強化繊維基材に、熱可塑性樹脂を含浸せしめたシートを積層して、プレス等で加熱及び加圧することにより目的の形状に賦形した成形品が挙げられる。これにより得られた成形品は、連続した強化繊維を用いているため優れた機械的物性に設計することが可能であり、機械的物性のばらつきも小さい。しかし、連続した強化繊維であるために3次元形状等の複雑な形状を形成することは難しく、主として平面形状に近い部材に限られる。
【0004】
そこで、不連続な強化繊維を用いたFRTPが提案されている。例えば、特許文献1では、長さの異なる2種の不連続な強化繊維と、熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ(連続した又は不連続の強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状成形中間材料のことがプリプレグと称されることもある)が提案されている。また、特許文献2では、不連続な強化繊維と不連続な熱可塑性樹脂繊維を含む不織布からなるプリプレグを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-235779号公報
【文献】特開2018-095716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2のような不連続な強化繊維を用いた成形品は、連続した強化繊維を用いた成形品と比べて、機械的物性が低いという課題がある。また、強化繊維間の空隙によるボイドが発生し易くなり、これによっても機械的物性の低下等が生じ易いという課題がある。
【0007】
本発明の目的は、機械的物性に優れる、複合積層体及び該複合積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の複合積層体及びその製造方法を提供する。
【0009】
項1 強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する複合積層体において、前記複合積層体は、フィルム(A)とシート(B)とを含む積層物が、熱圧着により一体化されてなり、前記積層物は、前記フィルム(A)が、複数の前記シート(B)の間において、前記シート(B)と直接的に接するように積層配置された部分を有し、前記フィルム(A)は、平均繊維長が1μm以上100μm未満であり、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方である強化繊維(a1)と、熱可塑性樹脂(a2)とを含有し、前記シート(B)は、平均繊維長が1mm以上である強化繊維(b1)と、熱可塑性樹脂(b2)とを含有し、前記強化繊維(b1)の平均繊維径に対する前記強化繊維(a1)の平均繊維長の比((a1)の平均繊維長/(b1)の平均繊維径)が1を超えて10以下であることを特徴とする、複合積層体。
【0010】
項2 前記積層物全体において、前記強化繊維(b1)に対する前記強化繊維(a1)の質量比((a1)/(b1))が0.01以上1以下であることを特徴とする、項1に記載の複合積層体。
【0011】
項3 前記熱可塑性樹脂(a2)が、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、および熱可塑性ポリイミド樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、項1または項2に記載の複合積層体。
【0012】
項4 前記強化繊維(a1)の含有量が、前記フィルム(A)に含まれる成分の全量100質量%中において0.5質量%以上35質量%以下であることを特徴とする、項1~項3のいずれか一項に記載の複合積層体。
【0013】
項5 前記フィルム(A)が、さらに球状粒子(a3)を含有することを特徴とする、項1~項4のいずれか一項に記載の複合積層体。
【0014】
項6 前記強化繊維(b1)が、炭素繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、項1~項5のいずれか一項に記載の複合積層体。
【0015】
項7 前記強化繊維(b1)の含有量が、前記シート(B)に含まれる成分の全量100質量%中において10質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、項1~項6のいずれか一項に記載の複合積層体。
【0016】
項8 前記熱可塑性樹脂(b2)が、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂および熱可塑性ポリイミド樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、項1~項7のいずれか一項に記載の複合積層体。
【0017】
項9 前記積層物における両側の最外層のうち少なくとも一方の最外層に、さらに前記フィルム(A)が設けられている、項1~項8のいずれか一項に記載の複合積層体。
【0018】
項10 前記積層物は、前記シート(B)が、複数の前記フィルム(A)の間において、前記フィルム(A)と直接的に接するように積層配置された部分を有する、項1~項9のいずれか一項に記載の複合積層体。
【0019】
項11 自動車部材用または電気・電子機器部材用である、項1~項10のいずれか一項に記載の複合積層体。
【0020】
項12 強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する複合積層体の製造方法において、平均繊維長が1μm以上100μm未満であり、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方である強化繊維(a1)と、熱可塑性樹脂(a2)とを含有する、フィルム(A)と、平均繊維長が1mm以上である強化繊維(b1)と、熱可塑性樹脂(b2)とを含有する、シート(B)とを積層配置することにより、積層物を用意する工程(I)と、前記積層物を、熱圧着によって一体化することにより、複合積層体を得る工程(II)とを備え、前記工程(I)において、前記フィルム(A)が、複数の前記シート(B)の間において、前記シート(B)と直接的に接するように積層配置された部分を有し、前記強化繊維(b1)の平均繊維径に対する前記強化繊維(a1)の平均繊維長の比((a1)の平均繊維長/(b1)の平均繊維径)が1を超えて10以下となるように前記積層物を用意することを特徴とする、複合積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、機械的物性に優れる、複合積層体及び複合積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合積層体を構成する積層物を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の第2の実施形態に係る複合積層体を構成する積層物を示す模式的断面図である。
図3図3は、本発明の第3の実施形態に係る複合積層体を構成する積層物を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0024】
本発明の複合積層体は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する。また、本発明の複合積層体は、フィルム(A)とシート(B)とを含む積層物が、熱圧着により一体化されてなる。上記積層物は、フィルム(A)が、複数のシート(B)の間において、シート(B)と直接的に接するように積層配置された部分を有する。
【0025】
上記フィルム(A)は、強化繊維(a1)と、熱可塑性樹脂(a2)とを含有する。強化繊維(a1)は、平均繊維長が1μm以上100μm未満であり、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方である。
【0026】
上記シート(B)は、強化繊維(b1)と、熱可塑性樹脂(b2)とを含有する。強化繊維(b1)は、平均繊維長が1mm以上である。
【0027】
また、本発明においては、強化繊維(b1)の平均繊維径に対する強化繊維(a1)の平均繊維長の比((a1)の平均繊維長/(b1)の平均繊維径)が1を超えて10以下である。
【0028】
本発明の複合積層体は、上記の構成を備えるので、機械的物性に優れている。なお、この点については、以下のようにして説明することができる。
【0029】
本発明においては、シート(B)と、シート(B)の間に直接積層配置されたフィルム(A)が、熱圧着により一体化されるので、フィルム(A)の構成材料における一部または全部がシート(B)と混ざることとなり、強化繊維(b1)間の空隙に、ミクロ繊維である強化繊維(a1)が充填されると考えられる。このとき、強化繊維(b1)の平均繊維径と、強化繊維(a1)の平均繊維長の比が上記範囲内であると、強化繊維(b1)の補強効果を低下させることなく、複合積層体の機械的物性を向上させることができる。また、ボイドが発生し難くなり、成形性が向上することも期待できる。
【0030】
なお、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅の割には小さい平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さおよび幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JIS K6900)。例えば、厚さに関して言えば、狭義では100μm以上のものをシートと称し、100μm未満のものをフィルムと称することがある。しかし、シートとフィルムの境界は定かではなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとし、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むのとする。
【0031】
以下、本発明の複合積層体を構成する積層物の一例について説明する。
【0032】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合積層体を構成する積層物を示す模式的断面図である。
【0033】
図1に示すように、積層物1は、フィルム(A)とシート(B)とを含む。このような積層物1は、熱圧着により一体化されることにより、複合積層体として用いることができる。
【0034】
第1の実施形態において、積層物1は、4層のフィルム(A)と、11層のシート(B)により構成されている。具体的には、積層物1の中央部2にシート(B)が設けられている。中央部2のシート(B)は、互いに対向している第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。中央部2のシート(B)における第1の主面2a上に、1層のフィルム(A)、5層のシート(B)、及び1層のフィルム(A)がこの順に設けられている。中央部2のシート(B)における第2の主面2b上に、1層のフィルム(A)、5層のシート(B)、及び1層のフィルム(A)がこの順に設けられている。従って、積層物1では、両側の最外層3,4にフィルム(A)が設けられている。
【0035】
なお、図2に示す第2の実施形態の積層物21のように、両側の最外層3,4のうちの一方の最外層3のみにフィルム(A)が設けられていてもよいし、図3に示す第3の実施形態の積層物31のように、両側の最外層3,4の双方にフィルム(A)が設けられていなくてもよい。もっとも、本発明においては、両側の最外層3,4のうちの少なくとも一方にフィルム(A)が設けられていることが好ましく、両側の最外層3,4の双方にフィルム(A)が設けられていることがより好ましい。この場合、複合積層体の切削加工時において、切削断面にバリが生じ難く、切削加工性をより一層高めることができる。
【0036】
また、図3に示す第3の実施形態の積層物31のように、積層物31の内部において、1層のみのフィルム(A)が設けられていてもよい。具体的には、フィルム(A)が、複数のシート(B)の間において、シート(B)と直接的に接するように積層配置された部分を有していればよい。それによって、上述したように複合積層体の機械的物性を向上させることができる。もっとも、本発明においては、第1の実施形態のように、シート(B)も、複数のフィルム(A)の間において、フィルム(A)と直接的に接するように積層配置された部分を有することが好ましい。この場合、複合積層体の機械的物性をさらに一層向上させることができる。
【0037】
本発明において、積層物全体の積層数は、特に限定されないが、好ましくは5層以上、より好ましくは12層以上、好ましくは30層以下、より好ましくは18層以下である。積層物の積層数が上記範囲内にある場合、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができる。
【0038】
なお、積層物に含まれるフィルム(A)の数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。積層物に含まれるフィルム(A)の数が上記範囲内にある場合、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができる。
【0039】
また、積層物に含まれるシート(B)の数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは8以上、好ましくは26以下、より好ましくは14以下である。積層物に含まれるシート(B)の数が上記範囲内にある場合、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができる。
【0040】
本発明において、積層物全体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、好ましくは3mm以下、より好ましくは2.5mm以下である。積層物全体の厚みが上記範囲内にある場合、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができる。
【0041】
本発明においては、強化繊維(b1)の平均繊維径に対する強化繊維(a1)の平均繊維長の比((a1)の平均繊維長/(b1)の平均繊維径)が、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.5以上、好ましくは5以下、より好ましくは3.5以下である。比((a1)の平均繊維長/(b1)の平均繊維径)が上記範囲内にある場合、強化繊維(b1)の補強効果を低下させることなく、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができる。
【0042】
本発明において、積層物全体における強化繊維(b1)の含有量は、好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは15質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以上55質量%以下である。強化繊維(b1)の含有量を10質量%以上とすることで機械的物性のより一層優れた複合積層体を得ることができ、80質量%以下とすることで複合積層体の賦形性がより一層向上する。
【0043】
本発明において、積層物全体における強化繊維(b1)に対する強化繊維(a1)の質量比((a1)/(b1))は、好ましくは0.01以上1以下であり、より好ましくは0.01以上0.5以下であり、さらに好ましくは0.02以上0.3以下である。質量比を上記範囲内とすることで、強化繊維(b1)の補強強化を低下させることなく、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができる。
【0044】
本発明の複合積層体の各構成要素等について以下に説明する。
【0045】
<フィルム(A)>
本発明の複合積層体の製造に用いるフィルム(A)は、平均繊維長が1μm以上100μm未満であり、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方である強化繊維(a1)と、熱可塑性樹脂(a2)とを含有するフィルムであり、必要に応じて球状粒子(a3)と、その他添加剤を含有していてもよい。
【0046】
(強化繊維(a1))
強化繊維(a1)は、繊維状粒子から構成される粉末であり、平均繊維長が1μm以上100μm未満であり、好ましくは3μm以上70μm以下であり、より好ましくは5μm以上50μm以下である。平均繊維径は、好ましくは0.01μm以上15μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上10μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上7μm以下である。
【0047】
強化繊維(a1)の平均アスペクト比は、好ましくは3以上200以下であり、より好ましくは3以上100以下であり、さらに好ましくは5以上50以下である。
【0048】
本明細書において繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い辺を長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>T)と定義したときに、L/BおよびL/Tがいずれも3以上の粒子のことをいい、長径Lが繊維長、短径Bが繊維径に相当する。非繊維状粒子とは、L/Bが3より小さい粒子のことをいい、非繊維状粒子のうちL/Bが3より小さく、L/Tが3以上の粒子を板状粒子という。
【0049】
上述の平均繊維長および平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察により測定することができ、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は平均繊維長および平均繊維径より算出することができる。例えば、走査型電子顕微鏡により、複数の強化繊維(a1)を撮影し、その観察像から強化繊維(a1)を任意に300個選択して、それらの繊維長および繊維径を測定し、繊維長の全てを積算して個数で除したものを平均繊維長、繊維径の全てを積算し個数で除したものを平均繊維径とすることができる。
【0050】
強化繊維(a1)は、平均繊維長が1μm以上100μm未満であり、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方であれば、特に限定されない。複合積層体の摺動特性の観点からは、モース硬度が5以下であることが好ましい。なお、モース硬度とは、物質の硬さを表す指標であり、鉱物同士を擦り付けて傷ついたほうが硬度の小さい物質となる。また、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方に加えて、無機繊維、有機繊維、金属繊維、またはこれらの2種以上をさらに組み合わせて使用でき、例えば、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸マグネシウム、ゾノトライト、酸化亜鉛、塩基性硫酸マグネシウム等を組み合わせて使用することができる。
【0051】
チタン酸カリウムとしては、従来公知のものを広く使用でき、4チタン酸カリウム、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム等が挙げられる。チタン酸カリウムの寸法は、上述の強化繊維(a1)の寸法の範囲であれば特に制限はないが、平均繊維長が好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは3μm以上30μm以下、さらに好ましくは10μm以上20μm以下である。平均繊維径が好ましくは0.01μm以上1μm以下、より好ましくは0.05μm以上0.8μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.7μm以下である。平均アスペクト比が好ましくは10以上、より好ましくは10以上100以下、さらに好ましくは15以上35以下である。
【0052】
ワラストナイトは、メタ珪酸カルシウムからなる無機繊維である。ワラストナイトの寸法は、上述の強化繊維(a1)の寸法の範囲内であれば特に制限はないが、平均繊維長が好ましくは1μm以上100μm未満、より好ましくは10μm以上70μm以下、さらに好ましくは20μm以上40μm以下である。平均繊維径が好ましくは0.1μm以上15μm以下、より好ましくは1μm以上10μm以下、さらに好ましくは2μm以上7μm以下である。平均アスペクト比が好ましくは3以上、より好ましくは3以上30以下、さらに好ましくは5以上15以下である。
【0053】
強化繊維(a1)は、熱可塑性樹脂(a2)との濡れ性を高め、得られる樹脂組成物の機械的物性等の物性をより一層向上させるために、本発明で使用する強化繊維(a1)の表面に表面処理剤からなる処理層が形成されていてもよい。
【0054】
表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。これらの中でもシランカップリング剤が好ましく、アミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、アルキル系シランカップリング剤がより好ましい。上記表面処理剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
アミノ系シランカップリング剤としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-エトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0056】
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0057】
アルキル系シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0058】
強化繊維(a1)の表面に表面処理剤からなる処理層を形成する方法としては、公知の表面処理方法を使用することができ、例えば、加水分解を促進する溶媒(例えば、水、アルコール又はこれらの混合溶媒)に表面処理剤を溶解して溶液として、その溶液を強化繊維(a1)に噴霧する方法等でなされる。
【0059】
表面処理剤を本発明で用いる強化繊維(a1)の表面へ処理する際の該表面処理剤の量は特に限定されないが、例えば、強化繊維(a1)100質量部に対して表面処理剤が0.1質量部以上20質量部以下となるように表面処理剤の溶液を噴霧すればよい。表面処理剤の量を上記範囲内にすることで、熱可塑性樹脂(a2)との密着性をより一層向上させ、強化繊維(a1)の分散性をより一層向上させることができる。
【0060】
強化繊維(a1)の含有量は、フィルム(A)に含まれる成分の全量100質量%中において0.5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上25質量%以下であることが更に好ましい。
【0061】
強化繊維(a1)の含有量を0.5質量%以上とすることで、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができ、35質量%以下とすることでフィルムの製膜性をより一層向上させることができる。
【0062】
(熱可塑性樹脂(a2))
熱可塑性樹脂(a2)としては、フィルム化できる熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、環状ポリオレフィン(COP)樹脂、環状オレフィン・コポリマー(COC)樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン(PS)樹脂、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体(MS)、メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン共重合体(MBS)、スチレン/ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン/イソプレン共重合体(SIR)、スチレン/イソプレン/ブタジエン共重合体(SIBR)、スチレン/ブタジエン/スチレン共重合体(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレン共重合体(SIS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン共重合体(SEBS)、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン共重合体(SEPS)等のポリスチレン系樹脂;ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリシクロヘキセレンジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール(POM)樹脂;ポリカーボネート(PC)樹脂;ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド6C樹脂、ポリアミド9C樹脂、ポリアミド6樹脂とポリアミド66樹脂の共重合体(ポリアミド6/66樹脂)、ポリアミド6樹脂とポリアミド12樹脂の共重合体(ポリアミド6/12樹脂)等の脂肪族ポリアミド(PA)樹脂;ポリアミドMXD6樹脂、ポリアミドMXD10樹脂、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂、ポリアミド10T樹脂等の芳香環を有する構造単位と芳香環を有さない構造単位からなる半芳香族ポリアミド(PA)樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂;ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂;液晶ポリエステル(LCP)樹脂;ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等のポリエーテル芳香族ケトン樹脂;ポリエーテルイミド(PEI)樹脂;ポリアミドイミド(PAI)樹脂;熱可塑性ポリイミド(TPI)樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂等を例示することができる。上記熱可塑性樹脂から選ばれる相溶性のある2種以上の熱可塑性樹脂同士の混合物、すなわちポリマーアロイ等も使用できる。
【0063】
これらのなかでも熱可塑性樹脂(a2)としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミド(PA)樹脂、半芳香族ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂および熱可塑性ポリイミド(TPI)樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0064】
熱可塑性樹脂(a2)は、シート(B)との密着性をより一層高める観点から、後述する熱可塑性樹脂(b2)と同種の樹脂であることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂(b2)が脂肪族ポリアミド(PA)樹脂である場合、熱可塑性樹脂(a2)は脂肪族ポリアミド(PA)樹脂または半芳香族ポリアミド(PA)樹脂であることが好ましい。
【0065】
熱可塑性樹脂(a2)の形状は、溶融混練が可能であれば特に制限はなく、例えば、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれをも使用することができる。
【0066】
熱可塑性樹脂(a2)の含有量は、フィルム(A)に含まれる成分の全量100質量%中において45質量%以上99質量%以下であることが好ましく、55質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、65質量%以上92質量%以下であることが更に好ましい。
【0067】
(球状粒子(a3))
フィルム(A)は、その好ましい物性を損なわない範囲において、球状粒子(a3)を含有することができる。球状粒子(a3)としては、シリカ、ガラスビーズ、ガラスバルーン、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、好ましくはシリカ、アルミナおよびガラスビーズよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0068】
本明細書において、「球状」とは、真球状のみならず、楕円状等の略球状、これらの表面に凹凸があるものなども含む。球状シリカのアスペクト比(長径と短径の比)は、例えば、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。アスペクト比は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて任意の50個の粒子の形状を観察し、これらの粒子のアスペクト比を平均した値として求めることができる。
【0069】
シリカとしては、狭義の二酸化ケイ素のみを示すものではなくケイ酸系充填材を意味し、従来の樹脂充填材として使用されるものの中から適宜選択して用いることができるが、非晶質シリカであることが好ましい。
【0070】
非晶質シリカとしては、例えば、乾式シリカ(無水シリカ)および湿式シリカ(含水ケイ酸)が挙げられる。乾式シリカは、例えば、四塩化ケイ素を酸素・水素炎中で燃焼させる燃焼法で得られる。湿式シリカは、例えば、珪酸ナトリウムを無機酸で中和する沈殿法もしくはゲル法、またはアルコキシシランを加水分解するゾルゲル法等で得られる。
【0071】
球状粒子(a3)の体積平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、さらに好ましくは0.05μm以上6μm以下であり、特に好ましくは0.1μm以上4μm以下であり、最も好ましくは0.3μm以上2μm以下である。体積平均粒子径を上記範囲内とすることで、複合積層体の機械的物性を一層向上させることができる。
【0072】
体積平均粒子径とは、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めたとき、体積50%に相当する点の粒子径のことであり、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0073】
球状粒子(a3)の比表面積(BET法)は、1m/g以上30m/g以下であることが好ましく、2m/g以上20m/g以下であることがより好ましく、3m/g以上10m/g以下であることが更に好ましい。
【0074】
比表面積(BET法)は、JIS Z8830に準拠して測定することができる。BET法とは、試料粉体粒子の表面上に占有面積のわかった窒素ガスを吸着させ、その吸着量から試料粉体粒子の比表面積を求める方法であり、この方法で求めた比表面積を「BET比表面積」という。
【0075】
球状粒子(a3)は、熱可塑性樹脂(a2)との濡れ性を高め、得られる樹脂組成物の機械的物性等の物性をより一層向上させるために、本発明で使用する球状粒子(a3)の表面に表面処理剤からなる処理層が形成されていてもよい。
【0076】
表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。これらの中でもシランカップリング剤が好ましく、アミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、アルキル系シランカップリング剤がより好ましい。上記表面処理剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
アミノ系シランカップリング剤としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-エトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0078】
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0079】
アルキル系シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0080】
球状粒子(a3)の表面に表面処理剤からなる処理層を形成する方法としては、公知の表面処理方法を使用することができ、例えば、加水分解を促進する溶媒(例えば、水、アルコール又はこれらの混合溶媒)に表面処理剤を溶解して溶液として、その溶液を球状粒子(a3)に噴霧する方法等でなされる。
【0081】
表面処理剤を本発明で用いる球状粒子(a3)の表面へ処理する際の該表面処理剤の量は特に限定されないが、例えば、球状粒子(a3)100質量部に対して表面処理剤が0.1質量部以上20質量部以下となるように表面処理剤の溶液を噴霧すればよい。表面処理剤の量を上記範囲内にすることで、熱可塑性樹脂(a2)との密着性がより一層向上し、球状粒子(a3)の分散性をより一層向上するこができる。
【0082】
フィルム(A)に球状粒子(a3)を含む場合、その含有量は、本発明の好ましい物性を損なわない範囲であれば特に制限はなく、フィルム(A)に含有する成分の全量100質量%中において0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。
【0083】
球状粒子(a3)の含有量を0.5質量%以上とすることで、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができ、20質量%以下とすることでフィルムの製膜性をより一層向上させることができる。
【0084】
(その他添加剤)
フィルム(A)は、その好ましい物性を損なわない範囲において、その他添加剤を含有することができる。その他添加剤としては、アラミド繊維、ポリフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、炭酸カルシウム、雲母、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリナイト、ベーマイト、スメクタイト、バーミキュライト、二酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、ベーマイト等の上述の強化繊維(a1)及び上述の球状粒子(a3)以外の充填材;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、グラファイト、二硫化モリブテン、二硫化タングステン、窒化ホウ素等の固体潤滑剤;銅化合物等の熱安定剤;ヒンダードフェノール系光安定剤等の光安定剤;核形成剤;アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯電防止剤、非イオン系帯電防止剤等の帯電防止剤;老化防止剤(酸化防止剤);耐候剤;耐光剤;金属不活性剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;防菌・防黴剤;防臭剤;炭素系導電剤、金属系導電剤、金属酸化物系導電剤、界面活性剤等の導電性付与剤;分散剤;ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤、エポキシ系可塑剤等の軟化剤(可塑剤);カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、染料等の着色剤;ホスファゼン系化合物、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、無機リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、金属酸化物系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ素化合物系難燃剤等の難燃剤;ドリッピング防止剤;制振剤;中和剤;ブロッキング防止剤;流動性改良剤;脂肪酸、脂肪酸金属塩等の離型剤;滑剤;耐衝撃性改良剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を含有することができる。
【0085】
フィルム(A)にその他添加剤を含む場合、その配合量は、本発明の好ましい物性を損なわない範囲であれば特に制限はなく、フィルム(A)に含まれる成分の全量100質量%中において、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0086】
(フィルム(A)の製造方法)
フィルム(A)の製造方法としては、特に限定されず、例えば、Tダイキャスト法、カレンダー法、プレス法などの公知の溶融成膜方法を採用することができる。
【0087】
より具体的には、上記含有量になるように、強化繊維(a1)と、熱可塑性樹脂(a2)と、必要に応じて球状粒子(a3)と、その他添加剤とを、直接混合して溶融製膜する方法;上記含有量になるように、強化繊維(a1)と、熱可塑性樹脂(a2)と、必要に応じて球状粒子(a3)と、その他添加剤とを、あらかじめ溶融混練して混合物のペレットを作製し、これを用いて溶融製膜する方法等を挙げることができる。
【0088】
なお、上記ペレットを構成する混合物の溶融粘度と、混合前の熱可塑性樹脂(a2)の溶融粘度との比(混合物/熱可塑性樹脂(a2))は、好ましくは1.01以上、好ましくは5以下である。溶融粘度比(混合物/熱可塑性樹脂(a2))が上記範囲内にある場合、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができる。溶融粘度の測定温度は、上記ペレットを構成する熱可塑性樹脂(a2)が融点を有する場合は融点より高い温度、また、上記ペレットを構成する熱可塑性樹脂(a2)が融点を有さずガラス転移温度を有する場合はガラス転移温度より高い温度において溶融混練に適した温度に設定すればよい。例えば、脂肪族ポリアミド(PA)樹脂及び半芳香族ポリアミド(PA)樹脂は融点より25℃高い温度を測定し、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂はガラス転移温度より150℃高い温度で溶融粘度を測定すればよい。
【0089】
フィルム(A)は、延伸フィルム、未延伸フィルムのいずれでも使用可能であるが、延伸フィルムは、加熱溶融時の収縮で、皺やたるみが防止できて成形品の外観がより一層向上するため好ましい。延伸倍率は2倍以上15倍以下が好ましい。本明細書において、延伸倍率は、フィルム製膜時のキャスティングロールが出てきたフィルム寸法を基準として、横方向の延伸倍率を縦方向の延伸倍率と掛け合わせた、面積倍率を延伸倍率とする。
【0090】
フィルム(A)の1枚当たりの厚みは、500μm未満であることが好ましく、30μm以上450μm以下であることがより好ましく、50μm以上300μm以下であることが更に好ましく、100μm以上200μm以下であることが最も好ましい。500μm未満であれば、複合積層体の機械的物性をより一層向上させることができる。
【0091】
<シート(B)>
本発明の複合積層体の製造に用いるシート(B)は、平均繊維長が1mm以上である強化繊維(b1)と熱可塑性樹脂(b2)とを含有するシートである。
【0092】
シート(B)の目付重量は、本発明の複合積層体の成形加工をスムーズに行うことを考慮して100g/m以上1500g/m以下が好ましい。
【0093】
(強化繊維(b1))
強化繊維(b1)は、平均繊維長が1mm以上であれば特に限定されず、無機繊維、有機繊維、金属繊維、またはこれらの2種以上を組み合わせて使用できる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などが挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のポリアミド繊維、ポリエステルなどが挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられ、または金属を被覆した炭素繊維でもよい。これらのなかでも炭素繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。最終成形物の強度等の機械的物性をより一層向上させる観点から、炭素繊維が更に好ましい。炭素繊維とは、アクリル繊維やピッチ(石油、石炭、コールタール等の副生成物)等を原料に高温で炭化して製造した繊維であり、JIS規格では有機繊維の前駆体を加熱炭化処理して得られる、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維と定義されている。アクリル繊維を使った炭素繊維は、PAN系炭素繊維、ピッチを使った炭素繊維はピッチ系炭素繊維と称されている。
【0094】
強化繊維(b1)は、繊維長が長すぎると成形時の流動性が低下する場合があり、繊維長が短すぎると強化繊維の抄造の製造が困難となる場合があり、成形性をより一層向上させる観点から、非連続繊維であることが好ましく、平均繊維長が1mm以上100mm以下であることが好ましく、10mm以上90mm以下であることがより好ましく、40mm以上80mm以下であることがさらに好ましい。強化繊維(b1)の平均繊維径は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることがより好ましく、5μm以上15μm以下であることがさらに好ましい。強化繊維(b1)は、上記平均繊維径であれば収束剤等で凝集した強化繊維の束となっていてもよい。
【0095】
強化繊維(b1)の含有量は、シート(B)に含まれる成分の全量100質量%中において10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上60質量%以下であることが更に好ましい。
【0096】
強化繊維(b1)の含有量を10質量%以上とすることで繊維によるより一層の補強効果が得られ、80質量%以下とすることでシートの製造性がより一層向上する。
【0097】
(熱可塑性樹脂(b2))
熱可塑性樹脂(b2)としては、繊維化又はフィルム化できる熱可塑性樹脂であれば特に限定はないが、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、環状ポリオレフィン(COP)樹脂、環状オレフィン・コポリマー(COC)樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン(PS)樹脂、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体(MS)、メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン共重合体(MBS)、スチレン/ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン/イソプレン共重合体(SIR)、スチレン/イソプレン/ブタジエン共重合体(SIBR)、スチレン/ブタジエン/スチレン共重合体(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレン共重合体(SIS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン共重合体(SEBS)、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン共重合体(SEPS)等のポリスチレン系樹脂;ポリ乳酸(PLA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリシクロヘキセレンジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール(POM)樹脂;ポリカーボネート(PC)樹脂;ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド6C樹脂、ポリアミド9C樹脂、ポリアミド6樹脂とポリアミド66樹脂の共重合体(ポリアミド6/66樹脂)、ポリアミド6樹脂とポリアミド12樹脂の共重合体(ポリアミド6/12樹脂)等の脂肪族ポリアミド(PA)樹脂;ポリアミドMXD6樹脂、ポリアミドMXD10樹脂、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂、ポリアミド10T樹脂等の芳香環を有する構造単位と芳香環を有さない構造単位とからなる半芳香族ポリアミド(PA)樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂;ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂;液晶ポリエステル(LCP)樹脂;ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等のポリエーテル芳香族ケトン樹脂;ポリエーテルイミド(PEI)樹脂;ポリアミドイミド(PAI)樹脂;熱可塑性ポリイミド(TPI)樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂等を例示することができる。上記熱可塑性樹脂から選ばれる相溶性のある2種以上の熱可塑性樹脂同士の混合物、すなわちポリマーアロイ等も使用できる。
【0098】
これらのなかでも熱可塑性樹脂(b2)としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミド(PA)樹脂、半芳香族ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂および熱可塑性ポリイミド(TPI)樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0099】
熱可塑性樹脂(b2)の形状は、溶融混練が可能であれば特に制限はなく、例えば、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれも使用することができる。
【0100】
熱可塑性樹脂(b2)の含有量は、シート(B)に含まれる成分の全量100質量%中において20質量%以上90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上70質量%以下であることが更に好ましい。
【0101】
(シート(B)の製造方法)
シート(B)は、上記含有量になるように、強化繊維(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸させた複数のプリプレグを積層し、得られた積層物を成形機により加熱及び加圧することで一体化することによって得られる。また、強化繊維(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸させたプリプレグをそのまま用いることもできる。すなわち、強化繊維(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸させたプリプレグをそのままシート(B)として用いてもよい。
【0102】
プリプレグの製造方法としては、フィルム、不織布、マット、織編物状等のシート状とした熱可塑性樹脂(b2)を2枚準備し、その2枚の間に、強化繊維(b1)をシート状に並べたシート、または強化繊維(b1)をカットして抄紙法により作製したシート(不織材料)を挟み込み、加熱及び加圧を行うことにより得る方法を挙げることができる。より具体的には、2つのロールから2枚の熱可塑性樹脂からなるシートを送り出すとともに、強化繊維のシートのロールから供給される強化繊維のシートを2枚の熱可塑性樹脂からなるシートの間に挟み込ませた後に、加熱及び加圧する。加熱及び加圧する手段としては、公知のものを用いることができ、2個以上の熱ロールを利用したり、予熱装置と熱ロールの対を複数使用したりするなどの多段階の工程を要するものであってもよい。ここで、シートを構成する熱可塑性樹脂は1種類である必要はなく、別の種類の熱可塑性樹脂からなるシートを、上記のような装置を用いてさらに積層させてもよい。
【0103】
プリプレグの他の製造方法としては、強化繊維(b1)の繊維束を開繊した強化繊維(b1)と繊維状とした熱可塑性樹脂(b2)を所望の質量比にて混綿してシート状にし、さらに積層して不織布を得た後、該不織布を加熱及び加圧を行うことにより得る方法を挙げることができる。混綿は市販のブレンダー機を用いることができる。シート化及び積層化についてはカーディング方式を用いることができ、市販のカード機を用いることができる。また、加熱及び加圧する手段としては、公知のものを用いることができる。不織布の製造に用いる繊維状の熱可塑性樹脂(b2)の平均繊維長は、混綿する強化繊維(b1)と同程度のものを用いることができ、繊度は2.2dtex以上22dtex以下が好ましい。繊度を2.2dtex以上22dtex以下とすることで強化繊維(b1)と繊維状とした熱可塑性樹脂(b2)の分散性が良くなり、より均一な不織布を形成しやすくなる。また、プリプレグを用いて成形体を得る際の厚み方向へのシートが膨張する現象をより一層抑制する観点で、プリプレグは混綿において一般的に用いられるニードルパンチ機による痕跡が5個/cm以下であることが好ましい。さらに、プリプレグの断面において、強化繊維(b1)の一部と他部が厚み方向に1mm以上変位しているものの本数が80本/cm以下であることが好ましい。
【0104】
上記加熱温度は、熱可塑性樹脂(b2)の種類にもよるが、通常、100℃以上400℃以下であることが好ましい。一方、加圧時の圧力は、通常0.1MPa以上10MPa以下であることが好ましい。この範囲であれば、プリプレグに含まれる強化繊維(b1)の間に、熱可塑性樹脂(b2)をより一層含浸させることができるので好ましい。
【0105】
強化繊維(b1)と熱可塑性樹脂(b2)とを含むプリプレグにおいて、強化繊維(b1)が一方向に配向した連続繊維の場合、本発明の複合積層体に用いることができるプリプレグは、レーザーマーカー、カッティングプロッタや抜型等を利用して切込を入れることにより得ることが好ましい。切込により強化繊維(b1)が切断されるが、機械的物性と流動性の観点から、切断された強化繊維(b1)の長さとしては5mm以上100mm以下とすることが好ましく、10mm以上50mm以下とすることがより好ましい。
【0106】
上記のようにして得られたプリプレグを強化繊維(b1)の方向が疑似等方、または交互積層になるよう2枚以上積層して積層基材を作製してもよい。上記積層基材は、プリプレグを4層以上96層以下となるように積層することが好ましい。プリプレグの層数のより好ましい範囲は8層以上32層以下である。プリプレグの層数を8層以上とすることで強化繊維の方向を疑似等方的に積層することができ、32層以下とすることで積層工程の作業負荷をより一層低減することができるので好ましい。
【0107】
上記のようにして得られた積層基材を加熱および加圧して一体化した積層基材を成形することで、シート(B)を製造してもよい。このとき、シート(B)とシート(B)との間にフィルム(A)を配置することで、またはシート(B)の積層基材とシート(B)との間にフィルム(A)を配置することで、シート(B)の製造と同時に、本発明の複合積層体を製造することもできる。加熱工程の後に、冷却工程を実施することが好ましい。冷却を行なうことにより、熱可塑性樹脂が固化するのでシート(B)の取り扱いがより一層容易となる。
【0108】
上記加熱においては、プリプレグに含まれる熱可塑性樹脂(b2)の種類にもよるが、100℃以上400℃以下で加熱することが好ましく、150℃以上350℃以下で加熱することがより好ましい。また、上記加熱に先立って、予備加熱を行ってもよい。予備加熱については、通常150℃以上400℃以下、好ましくは200℃以上380℃以下で加熱することが望ましい。
【0109】
上記加圧において積層基材にかける圧力としては、好ましくは0.1MPa以上10MPa以下であり、より好ましくは0.2MPa以上2MPa以下である。この圧力については、プレス力を積層基材の面積で除した値とする。
【0110】
上記加熱および加圧する時間は、0.1分以上30分以下であることが好ましく、より好ましくは0.5分以下20分以下である。また、加熱および加圧の後に設ける冷却時間は、0.5分以上30分以下であることが好ましい。
【0111】
上記成形を経て一体化したシート(B)の厚さは、目的とする部材の形状により任意に選択でき、成形性と機械的物性の観点から0.3mm以上15mm以下であることが好ましく、1mm以上12mm以下であることがより好ましい。
【0112】
<複合積層体の製造方法>
本発明の複合積層体は、フィルム(A)を、複数のシート(B)の間に直接積層配置された積層物を、加熱および加圧によって熱圧着することでフィルム(A)及びシート(B)を一体化することにより製造することができる。また、フィルム(A)を、シート(B)の片面上又は両面上に積層配置してもよい。加熱工程の後に、冷却工程を実施することが好ましい。冷却を行なうことにより、熱可塑性樹脂が固化するので複合積層体の取り扱いが容易となる。
【0113】
上記積層物の加熱においては、フィルム(A)に含まれる熱可塑性樹脂(a2)、シート(B)に含まれる熱可塑性樹脂(b2)の種類にもよるが、100℃以上400℃以下で加熱することが好ましく、150℃以上350℃以下で加熱することがより好ましい。また、上記加熱に先立って、予備加熱を行ってもよい。予備加熱については、通常150℃以上400℃以下、好ましくは200℃以上380℃以下で加熱することが好ましい。
【0114】
上記加圧において積層物にかける圧力としては、好ましくは0.1MPa以上10MPa以下であり、より好ましくは0.2MPa以上2MPa以下である。この圧力については、プレス力を積層物の面積で除した値とする。
【0115】
上記加熱及び加圧する時間は、0.1分以上30分以下であることが好ましく、より好ましくは0.5分以上20分以下である。また、加熱および加圧の後に設ける冷却時間は、0.5分以上30分以下であることが好ましい。
【0116】
上記加熱における成形機の金型温度(Th)は、上記積層物に含まれる熱可塑性樹脂が融点(Tm)を有する場合、Tm≦Th≦(Tm+100)(℃)とすることが好ましく、(Tm+10)≦Th≦(Tm+80)(℃)とすることがより好ましい。上記加熱における成形機の金型温度(Th)は、上記積層物に含まれる熱可塑性樹脂が融点(Tm)を有さずガラス転移温度(Tg)を有する場合、Tg≦Th≦(Tg+100)(℃)とすることが好ましく、(Tg+10)≦Th≦(Tg+80)(℃)とすることがより好ましい。成形機の金型温度(Th)を上記範囲にすることで、金型の膨張を防ぎつつ、また樹脂の劣化を抑制しつつ、上記積層物を一体化することができる。
【0117】
上記加熱における成形機の金型温度(Th)と積層物を冷却する時の成形機の金型温度(Tc)の差(Th-Tc)は、10≦(Th-Tc)≦250(℃)とすることが好ましく、30≦(Th-Tc)≦200(℃)とすることがより好ましい。金型温度の差を上記範囲にすることで、熱可塑性樹脂のより一層均一な溶融、固化を可能とし、得られる複合積層体の耐久性をより一層向上することができる。
【0118】
本発明の複合積層体全体の厚みは、目的とする部材の形状により任意に選択でき、成形性と機械的物性の観点から、例えば、1mm以上、10mm以下とすることができる。
【0119】
本発明の複合積層体は、スタンピング成形等のプレス成形により任意の形状に賦形することができる成形用中間材料として用いることができ、自動車、電気・電子機器(パソコン筐体、タブレット等)などの各種部品・部材に賦形することができる。
【実施例
【0120】
以下に実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例で使用した原材料は具体的には以下の通りである。
【0121】
(強化繊維(a1))
チタン酸カリウム繊維(商品名:TISMO D101、大塚化学社製、平均繊維長:15μm、平均繊維径:0.5μm、平均アスペクト比:30)
【0122】
(球状粒子(a3))
球状シリカ(商品名:SC2500-SEJ、アドマテックス社製、非晶質シリカ、球状粒子、体積平均粒子径:0.6μm、比表面積:6.0m/g、表面処理剤:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
【0123】
(熱可塑性樹脂(a2))
ポリアミドMXD10樹脂(商品名:LEXTER8500、三菱瓦斯化学社製)
【0124】
(その他)
板状タルク(商品名:TALC GH7、林化成社製、平均長径:5.8μm、厚み:0.1μm)
【0125】
<試験例1~試験例6>
表1に示す配合割合で、二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレットを製造した。なお、二軸押出機のシリンダ温度は、240℃であった。
【0126】
得られたペレットを乾燥後、フィルム押出機(東洋精機社製、ラボプラストミル4C150-01に単軸押出機D2020(L/D=20)を接続)を用いて、シリンダ温度240℃にて、Tダイ(幅:150mm、厚み:0.2mm)から押し出した溶融樹脂を、フィルム引取り装置を介してフィルムが目的の厚みになるように一軸延伸を行い、フィルムを得た。フィルムの厚みは、100μmとした。
【0127】
【表1】
【0128】
<実施例1、比較例1~2>
試験例1~2で製造したフィルムをフィルム(A)とし、炭素繊維(平均繊維長:70mm、平均繊維径:7μm)とポリアミド6樹脂の繊維との不織布から形成されたシート(シートの厚み:3mm、炭素繊維含有量:40質量%、ポリアミド6樹脂含有量:60質量%)をシート(B)とした。
【0129】
上記フィルム(A)、シート(B)を、表2に記載の積層順序で積層して2枚のイミドフィルム(商品名:UPILEX 75S、宇部興産社製)に挟み込み、プレス機(東洋精機社製、商品名:Mini Test Press MP-WCH)にて天板温度280℃、予熱時間5分、圧力4.8MPa、加圧時間3分の条件にてプレスし、プレス後にイミドフィルムを剥離することで複合積層体を製造した。得られた複合積層体の厚みを測定し表2に示した。
【0130】
<実施例2~3、比較例3~4>
試験例3~6で製造したフィルムをフィルム(A)とし、炭素繊維(平均繊維長:70mm、平均繊維径:7μm)とポリアミド6樹脂の繊維との不織布から形成されたシート(シートの厚み:3mm、炭素繊維含有量:40質量%、ポリアミド6樹脂含有量:60質量%)をシート(B)とした。
【0131】
上記フィルム(A)、シート(B)を、表3に記載の積層順序で積層して2枚のイミドフィルム(商品名:UPILEX 75S、宇部興産社製)に挟み込み、プレス機(東洋精機社製、商品名:Mini Test Press MP-WCH)にて天板温度280℃、予熱時間5分、圧力4.8MPa、加圧時間3分の条件にてプレスし、プレス後にイミドフィルムを剥離することで複合積層体を製造した。得られた複合積層体の厚みを測定し表3に示した。
【0132】
<曲げ強度の測定>
上記で製造した実施例1~3、比較例1~4の複合積層体においてアブレシブウォータージェット装置によりJIS試験片(曲げ試験片)の形状に切削した。切削条件は、ノズル径φ0.76mm、水圧400MPa、速度200mm/min、水量約2.5L/min、研磨剤使用量:garnet(石榴石)#80を400g/minとした。なお、曲げ試験片の長さ方向が、試験例1~試験例6におけるフィルムの引き出し方向と一致するように切削した。
【0133】
得られた曲げ試験片について、JIS K7171に準じ、オートグラフAG-5000(島津製作所社製)を用いて支点間距離60mmの3点曲げ試験を行い、曲げ強度を測定した。結果を表2および表3に示した。なお、積層順序において、Aはフィルム(A)、Bはシート(B)、/は積層を表す。また、括弧内の数字は積層した枚数を表す。また、積層順序における左側が表側を表し、右側が裏側を表す。具体的に、実施例1は、図1に示す積層構造を有している。比較例1及び比較例2は、図1において、中央側における2枚のフィルム(A)が設けられていないこと、及びシート(B)の総数を12層としたこと以外は、図1と同じ積層構造を有している。実施例2~3及び比較例3~4は、図1において、裏側の5層のシート(B)が、4層に変更されていること以外は、図1と同じ積層構造を有している。
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
表2に示すように、実施例1は、比較例1および比較例2よりも、曲げ強度の向上に大きく寄与すると考えられる強化繊維(b1)の含有量が少ないにもかかわらず曲げ強度が大きいことから、フィルム(A)が中間層に存在することで曲げ強度が顕著に向上するという予期せぬ効果が奏されていることが分かる。
【0137】
表3に示すように、比較例3と比較例4から、フィルム(A)に板状タルクを配合すると曲げ強度は低下する。しかしながら、実施例2と比較例4から、チタン酸カリウム繊維を配合することで曲げ強度が向上している。このことから、配合する強化材の形状が繊維状であることにより曲げ強度が向上していることがわかる。
【0138】
また、実施例2と実施例3から、フィルム(A)にさらに球状シリカが含有されると曲げ強度がより向上していることから、無機繊維に球状粒子を併用することで相乗効果があることがわかる。
【符号の説明】
【0139】
1,21,31…積層物
2…中央部
2a…第1の主面
2b…第2の主面
3,4…最外層
図1
図2
図3