(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】マルチビーム走査装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/153 20060101AFI20240729BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20240729BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H01J37/153 B
H01J37/28 B
H01L21/66 J
(21)【出願番号】P 2021045245
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長野 修
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203761(JP,A)
【文献】特開2019-153536(JP,A)
【文献】特開2007-184283(JP,A)
【文献】特開2013-232422(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0360951(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01L 21/66
G01N 23/2251
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にマトリクス状に設定された複数の走査領域に対して複数の電子ビームを照射し、前記走査領域から発生した二次ビームを検出することにより観察像を得るマルチビーム走査装置において、
前記複数の電子ビームの照射位置を個々に制御する制御ユニットを有しており、
前記走査領域は、前記電子ビームの走査方向である第1方向と直交する第2方向に分割された複数の分割走査領域で構成され、
前記制御ユニットは、前記第1方向に隣接する二つの前記走査領域に対して同じタイミングで走査される前記分割走査領域が、前記第2方向に所定距離ずれるように前記電子ビームの照射位置を制御する、マルチビーム走査装置。
【請求項2】
前記走査領域は、2つの前記分割走査領域で構成されており、前記第1方向に隣接する二つの前記走査領域に関して、一方の前記走査領域における前記分割走査領域の走査順序が前記第2方向の一方方向であり、他方の前記走査領域における前記分割走査領域の走査順序が
前記第2方向の反対方向である、請求項1に記載のマルチビーム走査装置。
【請求項3】
前記走査領域は、4つ以上の前記分割走査領域で構成されており、前記第1方向に隣接する二つの前記走査領域、および前記第2方向に隣接する二つの前記走査領域に関して、同じタイミングで走査される前記分割走査領域が、互いに接していない、請求項1に記載のマルチビーム走査装置。
【請求項4】
一つの前記走査領域を構成する複数の前記分割走査領域は、それぞれ異なる前記電子ビームで走査される、請求項1に記載のマルチビーム走査装置。
【請求項5】
一つの前記走査領域に設けられる前記分割走査領域の数と、前記第2方向に配列された電子ビームの数とが同一である、請求項1に記載のマルチビーム走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、マルチビーム走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1本の電子ビーム(シングルビーム)を用いて観察対象であるシリコンウェハ等の表面にあるパターンをスキャンして画像を取得する、シングルビーム走査型電子顕微鏡(Scanning Electrоn Micrоscоpe、以下適宜SEMと示す)装置に対し、複数本の電子ビームを同時にスキャンすることで、広い面積の観察対象のSEM画像を高速に取得するマルチビーム走査型のSEMが近年注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、観察画像の品質を向上させることができる、マルチビーム走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態のマルチビーム走査装置は、被検体にマトリクス状に設定された複数の走査領域に対して複数の電子ビームを照射し、前記走査領域から発生した二次ビームを検出することにより観察像を得るマルチビーム走査装置である。本実施形態のマルチビーム走査装置は、前記複数の電子ビームの照射位置を個々に制御する制御ユニットを有している。前記走査領域は、前記電子ビームの走査方向である第1方向と直交する第2方向に分割された複数の分割走査領域で構成される。前記制御ユニットは、前記第1方向に隣接する二つの前記走査領域に対して同じタイミングで走査される前記分割走査領域が、前記第2方向に所定距離ずれるように前記電子ビームの照射位置を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態にかかるマルチビーム走査装置の構成例を示すブロック図。
【
図5】比較例における一次ビームの走査方法を説明する図。
【
図6】比較例における走査線の歪みの一例を説明する図。
【
図7】比較例における二次ビームの誤検出の一例を説明する図。
【
図8】実施形態における一次ビームの走査方法を説明する図。
【
図9】各走査領域を3分割した場合の分割走査領域を説明する図。
【
図10】
図9に示す分割走査領域の走査方法を説明する図。
【
図11】各走査領域を4分割した場合の分割走査領域を説明する図。
【
図12】各走査領域を3分割した場合の別の走査方法を説明する図。
【
図13】各走査領域を3分割した場合の別の走査方法を説明する図。
【
図14】各走査領域を3分割した場合の別の走査方法を説明する図。
【
図15】各走査領域を3分割した場合の別の走査方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0008】
図1は、実施形態にかかるマルチビーム走査装置の構成例を示すブロック図である。本実施形態のマルチビーム走査装置は、被検体71である半導体装置(例えば、3次元構造のNANDメモリのメモリセルアレイなど、パターンが形成されたシリコンウェハ)に一次ビームと呼ばれる電子線を照射し、発生した二次電子や反射電子等(以下、二次ビーム呼ぶ)の信号から、被検体71の表面に形成されたパターンや構造体の観測に用いられる。例えば、形状や寸法を計測する測長装置や、パターンの形成状態を検査する検査装置として用いられる。また、VC(Vоltage Contrast)像を得ることにより、パターン内部(下層)を含めた半導体装置の回路パターンの電気的な結果を検出するための検査装置としても用いられる。
【0009】
実施形態のマルチビーム走査装置は、一次ビームを被検体71に照射する照射ユニットと、被検体71から発生した二次ビームを検出する検出ユニットと、被検体71を載置するステージユニットと、装置全体の制御を行う制御ユニットと、から構成される。なお、
図1において、点線は一次ビーム81を示し、一点鎖線は二次ビーム91を示している。
【0010】
照射ユニットは、電子銃11と、第1コンデンサレンズ12と、偏向器13、17と、アパーチャアレイ14と、第2コンデンサレンズ15と、ウィーンフィルタ16と、対物レンズ18とから主に構成される。電子銃11は、電子源から電子線(一次ビーム81)を発生させて、被検体71に向かって加速させる。電子銃11から射出された一次ビーム81は、第1コンデンサレンズ12と偏向器13によって、方向を整えられ平行化される。平行化された一次ビーム81は、アパーチャアレイ14によって分割される。
【0011】
図2は、アパーチャアレイ14の一例を説明する図である。
図2に示すように、アパーチャアレイ14は、二次元に配列された複数の開口を有する基板である。本実施形態において、アパーチャアレイ14は9個の開口14_1~14_9を有し、一次ビーム81は9本に分割される。なお、アパーチャアレイ14に形成される開口の数は9個に限定されない。例えば、25個や100個など9個以上であってもよいし、8個以下であってもよい。開口14_1~14_9は、3行×3列のマトリクス状に配置されている。
図1においては、9本に分割された一次ビーム81のうちの3本のビームについて図示している。なお、以下の説明において、開口14_m(m=1、2、…、9)から出射される一次ビーム81を一次ビーム81_mと示し、一次ビーム81_mに対応して発生した各二次ビーム91を二次ビーム91_mと示し、一次ビーム81_mごとに設けられた他の構成要素のそれぞれに対しても同様に表記することがある。
【0012】
アパーチャアレイ14により分割された一次ビーム81_mは、第2コンデンサレンズ15によって個別に収束される。一次ビーム81_mの結像位置付近には、ウィーンフィルタ16が設けられている。ウィーンフィルタ16は、中心軸に対して概略垂直な面内に互いに直交する磁界と電界とを発生させることにより、通過する電子に対してそのエネルギーに対応した偏向角度を与える。本実施形態では、一次ビーム81_mが直進し、かつ、反対側(z方向下側)から入射される二次ビーム91が検出器22に到達するよう所望の角度に偏向するように、磁界と電界の強さが設定される。
【0013】
ウィーンフィルタ16を通過した一次ビーム81_mは、対物レンズ18と偏向器17によって、被検体71の所定領域に縮小投影される。走査偏向用の偏向器17は、例えば、4極もしくは8極の電極を備えた静電偏向器であり、対物レンズ18中に設置されている。偏向器17は、分割された一次ビーム81_mごとに設けられる。実施形態の場合、対物レンズ18の中に9個の偏向器17_mが設けられる。一次ビーム81_mは、対応する偏向器17_m内に形成される偏向電界に応じて、所定の方向、所定の角度に偏向作用を受け、被検体71上を走査する。なお、それぞれの偏向器17_mに形成される偏向電界は、走査信号制御回路51から入力される走査信号に従って形成される。
【0014】
検出ユニットは、対物レンズ18と、ウィーンフィルタ16と、投影光学系21と、検出部22とから主に構成される。一次ビーム81_mが照射されることによって被検体71から発生する二次ビーム91_mは、対物レンズ18の収束作用をうけ、さらにウィーンフィルタ16によって所望の角度に偏向された後、投影光学系21によって検出器22の図示しない投影面に投影される。検出部22は、被検体71から発生する二次ビーム91_mのそれぞれに対応した複数の検出器22_mで構成される。上述の一例の場合、検出部22は、9本の二次ビーム91_1~91_9のそれぞれに対応した9個の検出器22_1~22_9で構成される。検出器22_mは、被検体71から発生した二次ビーム91_mを受光し、受光した二次ビームの強度に応じた信号を生成する。検出器22は、例えば、2次元のアレイ状に配置された複数個の半導体検出素子(固体撮像素子等)で構成される。半導体検出素子としては、例えば、PIN型フォトダイオードなどが用いられる。被検体71の照射領域において一次ビーム81_mにより生成された二次ビーム91_mは、検出器22_mの投影領域に配置された半導体検出素子により信号変換され、撮像信号として出力される。
【0015】
ステージユニットは、検体ステージ31と、ステージ駆動部32とから主に構成される。検体ステージ31は、モータなどのステージ駆動部32により、検体ステージ31表面と平行な直行する2方向(x方向、y方向)に移動することができる。x方向、及び/または、y方向に検体ステージ31を移動させることで、被検体71に対する一次ビーム81_mの照射領域を移動させることができる。なお、ステージ駆動部32の動作は、ステージ制御回路52によって制御される。
【0016】
制御ユニットは、設定された走査方法に従ってマルチビーム走査装置の全体の動作を制御する。また、走査の結果得られる被検体71の観察結果を保持する。制御ユニットは、制御装置41と、走査信号制御回路51と、ステージ制御回路52とから主に構成される。制御装置41は、例えばコンピュータであり、中央演算処理装置(CPU)42と、RAM43と、メモリ44とを備えている。CPU42は、メモリ44に記憶されたプログラムに従って動作し、制御装置41の各部を制御する。RAM43は、検出器22から入力されるデータを格納したり、後述の動作を実行した結果を格納したりする。
【0017】
メモリ44には、照射ユニット、及び、ステージユニットを動作させて所望の観察画像を得るための図示しない観察用ソフトウェアが格納されている。観察用ソフトウェアがRAM43に読み出されて展開され、CPU42において実行されることにより、被検体71の表面に形成されたパターンや構造体が観察される。なお、観察用ソフトウェアによって実現される動作を、ハードウェアとして構成された1つ以上の図示しないプロセッサが行うように、制御装置41を構成してもよい。観察用ソフトウェアによって実現される動作を行うプロセッサとしては、例えば、電子回路として構成されたプロセッサであっても構わないし、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路で構成されたプロセッサであってもよい。また、メモリ44には、検出部22から出力された撮像信号に基づき生成された観察画像が格納される。なお、撮像信号から観察画像を生成するための画像処理部については図示を省略している。なお、実施形態のマルチビーム走査装置は、観察画像を表示するためのディスプレイ61を備えていてもよい。
【0018】
次に、実施形態における被検体71の走査方法について説明する。
図3は、被検体における観察領域を説明する図である。また、
図4は、一次ビームの走査領域を説明する図である。被検体71の観察を行う場合、まず、被検体71の表面に観察領域72を設定する。
図3に示すように、例えば、被検体71の中央を含む矩形領域が観察領域72として設定される。この観察領域72を、一次ビーム81でくまなく走査することで、観察画像を取得する。観察領域72には、一次ビームの照射領域73が設定される。例えば、検体ステージ31を移動させることなく偏向器17による走査角度の制御のみで、電子銃11から出射され分割される複数の一次ビーム81_mが走査可能な範囲が、照射領域73として設定される。
【0019】
図4に示すように、照射領域73は、一次ビーム81の分割本数に応じて、走査領域R1~R9に分割される。走査領域R1~R9は、アパーチャアレイ14に設けられた開口14_1~14_9と同様のパターンで配置される。例えば、
図2のように、開口14_1~14_9が3行×3列のマトリクス状に配置されている場合、照射領域73を3行×3列のマトリクス状に分割したそれぞれの領域を、走査領域R1~R9とする。
【0020】
ここで、実施形態の走査方法を説明するにあたり、比較例における走査方法について説明する。
図5は、比較例における一次ビームの走査方法を説明する図である。走査領域R1~R9は、それぞれ、対応する一次ビーム81_1~81_9によって走査される。
図5において、各走査領域Rm内の複数の細矢印線は、一次ビーム81_mの走査線を模式的に表している。それぞれの細矢印線の矢印は、各走査線の走査方向を示している。また、複数の細矢印線の根本部分に記載した数字は、各走査領域Rm内における走査の順番を示している。すなわち、それぞれの一次ビーム81_mは、割り当てられた走査領域Rm内を、y方向負側に向かってライン走査する。以下において、y方向を走査線走査方向(第1方向)と示す場合がある。そして、走査領域Rm内を、走査線走査方向と直交する方向(
図5の場合、x方向負側)に走査線を移動させながら順次スキャンすることにより、走査領域Rm全体の走査を行う。このとき、一次ビーム81_mが被検体71の所望の位置に照射されるように、走査信号制御回路51による偏向器17_mの制御と、ステージ制御回路52による被検体71の位置の制御とが、統一的に行われる。
【0021】
設定された照射領域73の走査が完了すると、該照射領域73に対して検体ステージ31の移動方向と逆側に隣接する領域に次の照射領域73を設定し、一次ビームによる走査を実行する。なお、
図3において、検体ステージ31の移動方向を太矢印で示している。観察領域72の端部まで走査が終了したら、y方向負側に照射領域73を移動させて、一次ビーム81による照射領域73内の走査を繰り返す。すなわち、帯状領域74(y方向に照射領域73の幅を有し、x方向を長手方向とする領域)を一次ビーム81が順次走査するように、走査信号制御回路51による偏向器17_mの制御と、ステージ制御回路52による被検体71の位置の制御とが行われる。この帯状領域74は観察領域72をy方向において分割したものであり、複数の帯状領域74を走査することによって観察領域72全体が走査される。
【0022】
上述の比較例においては、照射領域73に設定された走査領域Rm内の走査は、全て同じ順番で行われる。すなわち、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmでは、同じタイミングで走査されるラインが同一直線上に配置される。一次ビーム81が被検体71表面に照射された瞬間、その照射点は、二次電子の放出によって強く正帯電する。照射から時間が経過するにつれて放出された二次電子が再配分され、照射点やその近傍の電位は緩やかな分布に収束する。走査領域Rmの境界近傍は、隣接する走査領域Rmからの帯電の影響を受ける。例えば、走査領域R1の境界近傍は、隣接する走査領域R2、R4からの電界の影響を受ける。自領域と隣接する領域において、同じタイミングで照射される走査線の距離が近いほど、電界の影響は大きくなる。
【0023】
例えば、走査領域R1、R2、R4において、1本目の走査線は、各領域の右端に位置する。走査領域R2の1本目の走査線よりも走査領域R4の1本目の走査線のほうが、走査領域R1の1本目の走査線と距離が近い。すなわち、走査領域Rmの境界近傍は、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmからの帯電の影響を大きく受ける。
【0024】
帯電の影響を、
図6を用いて説明する。
図6は、比較例における走査線の歪みの一例を説明する図である。走査領域R1の1本目のラインの終点は、走査領域R4の1本目のラインの始点の近傍となる。一次ビーム81の走査により、ビームが照射された領域は帯電する。走査領域R4における1本目の走査線の始点に一次ビーム81_4が照射されてから走査領域R1の1本目の走査線の終点に一次ビーム81_1が照射されるまでの時間が短い(例えば、数μs程度)。故に、走査領域R1の1本目の走査線の終点近傍は、走査領域R4の帯電の影響を受けて、例えば
図6に示すような歪みが生じてしまう。
【0025】
走査線走査方向に隣接する走査領域Rmからの帯電の影響は、走査線の歪みだけでなく、二次ビームの誤検出を引き起こす場合もある。
図7は、比較例における二次ビームの誤検出の一例を説明する図である。一次ビーム81の照射点から放出された二次電子の挙動は、以下の3通りに大別される。1つ目は、照射点の正帯電によって形成された電位分布によって照射点に戻る(再配分される)ものである。2つ目は、対物レンズ18内に引き込まれて、投影光学系21を通って検出部22へ入射されるものである。3つ目は、照射点周辺領域に再配分されるものである。既に一次ビーム81が照射された領域が照射点近傍にある場合、照射点周辺領域への再配分は、そこで形成された電位分布の影響を伴う。
【0026】
一次ビーム81_1の照射点近傍(例えば、数μm程度の位置)に、ほぼ同じタイミング(例えば、数μs差)で一次ビーム81_4が照射された場合、一次ビーム81_1の照射によって放出された二次電子は、一次ビーム81_4が形成した電位分布の影響を強く受ける。
図7において、一次ビーム81_4が形成した電位分布(表面帯電)により二次電子に印加される力を、網掛け付きの太矢印で示す。例えば
図7に示すように、一次ビーム81_1の照射点である走査領域R1から放出された二次電子(二次ビーム91)の軌道が変化して、本来到達する予定の検出器22_1ではなく、異なる検出器22_4に到達してしまう。すなわち、走査領域R1において、走査領域R4との境界近傍から放出された二次ビーム91_1の一部が、検出器22_4で誤検出される。故に、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmの近傍領域では、正しい観察画像が得られない可能性がある。
【0027】
次に、実施形態における走査方法について説明する。
図8は、実施形態における一次ビームの走査方法を説明する図である。本実施形態では、各走査領域Rmを、走査線走査方向と直交する方向に2分割し、分割走査領域Rmα(α=1、2)を設けている。走査領域R1n~R9nは、それぞれ、対応する一次ビーム81_1~81_9によって走査される。
【0028】
一次ビーム81_mは、2つの分割走査領域Rm1、Rm2を順次走査する。このとき、走査線走査方向に隣接する2つの走査領域Rmでは、互いに走査線走査方向に隣接する分割走査領域Rmαを異なるタイミングで走査する。例えば、走査領域R1の分割走査領域R11と、走査領域R4の分割走査領域R42を同じタイミングで走査し、分割走査領域R12と分割走査領域R41を同じタイミングで走査することにより、走査線走査方向に隣接する分割走査領域R11と分割走査領域R41とが異なるタイミングで走査され、また、走査線走査方向に隣接する分割走査領域R12と分割走査領域R42とが異なるタイミングで走査される。
【0029】
すなわち、実施形態の走査方法によれば、1つの走査領域Rmを、2回の走査(第1走査、第2走査)に分割して走査する。なお、比較例における1つの走査領域Rmの走査時間をTとした場合、実施形態における第1走査(第2走査)の走査時間は、T/2とする。第1走査では、走査領域Rmに設けられた一方の分割走査領域Rm1(またはRm2)を走査し、第2走査では、走査領域Rmに設けられた他方の分割走査領域Rm2(またはRm1)を走査する。走査線走査方向に隣接する2つの走査領域Rmでは、同じタイミングで走査する分割走査領域Rmαが、走査線走査方向に互いに重ならないように設定される。
【0030】
図8に示す一例では、走査領域R1~R3、R7~R9は、それぞれに設けられた分割走査領域Rmαについて、第1走査ではx方向正側に位置する分割走査領域Rm1を走査し、第2走査ではx方向負側に位置する分割走査領域Rm2を走査する。一方、走査領域R4~R6は、それぞれに設けられた分割走査領域Rmαについて、第1走査ではx方向負側に位置する分割走査領域Rm2を走査し、第2走査ではx方向正側に位置する分割走査領域Rm1を走査する。すなわち、走査領域Rmの配置ピッチ(x方向の幅)をPxとすると、走査線走査方向(第1方向)に隣接する走査領域Rmにおいて、同時に走査される分割走査領域Rmαは、x方向(第2方向)にPx/2だけシフトして配置されている。従って、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmからの帯電の影響が小さくなるため、走査線の歪みを抑制し、また、二次ビームの誤検出を防止することができ、観察画像の品質を向上させることができる。
【0031】
なお、第1走査から第2走査への分割走査領域Rmαの移動は、偏向器17_mに印加する電界や磁界の大きさを調整して、一次ビーム81_mの照射方向を制御することで実現される。例えば、
図8に示す一例において、走査領域R4~R6は、検体ステージ31がx方向正側に移動するのに対し、第1走査から第2走査への分割走査領域Rmαの移動も、x方向正側への移動となる。この場合、分割走査領域Rmαの移動は、偏向器17_4~17_6により一次ビーム81_4~81_6の照射方向を調整することで実現する。
【0032】
なお、各走査領域Rmに形成する分割走査領域Rmnの数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
図9は、各走査領域を3分割した場合の分割走査領域を説明する図である。また、
図10は、
図9に示す分割走査領域の走査方法を説明する図である。
図9に示すように、各走査領域Rmを、走査線走査方向と直交する方向に3分割し、分割走査領域Rmβ(β=1~3)を設けている。走査領域R1β~R9βは、それぞれ、対応する一次ビーム81_1~81_9によって走査される。
【0033】
各走査領域Rmを3分割した場合、
図10に示すように、1つの走査領域Rmを、3回の走査(第1走査、第2走査、第3走査)に分割して走査する。なお、比較例における1つの走査領域Rmの走査時間をTとした場合、実施形態における第1走査~第3走査の走査時間は、それぞれT/3とする。走査領域R1~R3、R7~R9は、それぞれに設けられた分割走査領域Rmβについて、第1走査ではx方向最負側に位置する分割走査領域Rm3を走査し、第2走査ではx方向中央に位置する分割走査領域Rm2を走査し、第3走査では、x方向最正側に位置する分割走査領域Rm1を走査する。一方、走査領域R4~R6は、それぞれに設けられた分割走査領域Rmβについて、第1走査ではx方向中央に位置する分割走査領域Rm2を走査し、第2走査ではx方向最正側に位置する分割走査領域Rm1を走査し、第3走査ではx方向最負側に位置する分割走査領域Rm3を走査する。すなわち、走査領域Rmの配置ピッチ(x方向の幅)をPxとすると、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmにおいて、同時に走査される分割走査領域Rmβは、x方向にPx/3、もしくはPx2/3シフトして配置されている。従って、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmからの帯電の影響が小さくなるため、走査線の歪みを抑制し、また、二次ビームの誤検出を防止することができ、観察画像の品質を向上させることができる。
【0034】
図11は、各走査領域を4分割した場合の分割走査領域を説明する図である。
図11に示すように、各走査領域Rmを、走査線走査方向と直交する方向に4分割し、分割走査領域Rmγ(γ=1~4)を設けている。走査領域R1γ~R9γは、それぞれ、対応する一次ビーム81_1~81_9によって走査される。
【0035】
各走査領域Rmを4分割した場合、1つの走査領域Rmを、4回の走査(第1走査、第2走査、第3走査、第4走査)に分割して走査する。なお、比較例における1つの走査領域Rmの走査時間をTとした場合、実施形態における第1走査~第4走査の走査時間は、それぞれT/4とする。走査領域R1~R3、R7~R9は、それぞれに設けられた分割走査領域Rmγについて、第1走査ではx方向最負側に位置する分割走査領域Rm4を走査し、第2走査ではx方向負側から2番目に位置する分割走査領域Rm3を走査し、第3走査では、x方向正側から2番目に位置する分割走査領域Rm2を走査し、第4走査ではx方向最正側に位置する分割走査領域Rm1を走査する。
【0036】
一方、走査領域R4~R6は、それぞれに設けられた分割走査領域Rmγについて、第1走査ではx方向正側から2番目に位置する分割走査領域Rm2を走査し、第2走査ではx方向最正側に位置する分割走査領域Rm1を走査し、第3走査ではx方向最負側に位置する分割走査領域Rm4を走査し、第4走査ではx方向負側から2番目に位置する分割走査領域Rm3を走査する。すなわち、走査領域Rmの配置ピッチ(x方向の幅)をPxとすると、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmにおいて、同時に走査される分割走査領域はRmγは、x方向にPx/2だけシフトして配置されている。また、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmにおいて、同時に走査される分割走査領域Rmγは、x方向にPx/24の間隔を有しており接点を持たないよう設定されている。従って、走査線走査方向に隣接する走査領域Rmからの帯電の影響がより小さくなるため、走査線の歪みを抑制し、また、二次ビームの誤検出を防止することができ、観察画像の品質をより向上させることができる。
【0037】
図12から
図15は、各走査領域を3分割した場合の別の走査方法を説明する図である。上述した走査方法では、1つの走査領域に含まれる分割走査領域は、同一の一次ビームによって走査している。これに対し、以下に説明する走査方法は、同じ走査領域に含まれる分割走査領域を、別の一次ビームによって走査する点が異なっている。
【0038】
まず、
図12に示すように、観察領域72の左上部から右下部に向かって一次ビーム81を走査させるべく、被検体71を初期設定する。すなわち、検体ステージ31の移動方向をx方向負側とする。
図12において、二点鎖線で示す矩形の領域RB1~RB9は、それぞれ、一次ビーム81_1~81_9によって照射可能な領域である。検体ステージ31を移動させ、観察領域72が領域RB1~RB9と重なると、一次ビーム81_1~81_9によって当該観察領域72の走査が可能となる。
【0039】
検体ステージ31を移動させ、観察領域72の左端に位置する走査領域(
図9における走査領域R3、R6、R9に対応する領域)が領域RB1、RB4、RB7と重なると、第1走査が開始される。
図13に示すように、第1走査では、走査領域R3の分割走査領域R33が一次ビーム81_1によって走査され、走査領域R6の分割走査領域R62が一次ビーム81_4によって走査され、走査領域R9の分割走査領域R93が一次ビーム81_7によって走査される。なお、
図13~15において、走査対象の分割走査領域を斜線で示す。また、
図14、15において、既に走査が完了した分割走査領域を網掛けで示す。
【0040】
第1走査が終わると、検体ステージ31を移動させ、
図14に示すように、観察領域72の左から2番目に位置する走査領域(
図9における走査領域R2、R5、R8に対応する領域)が領域RB1、RB4、RB7と重なるように設定する。設定が完了すると、第2走査が開始される。
図14に示すように、第2走査では、走査領域R2の分割走査領域R23が一次ビーム81_1によって走査され、走査領域R5の分割走査領域R52が一次ビーム81_4によって走査され、走査領域R8の分割走査領域R83が一次ビーム81_7によって走査される。また、走査領域R3の分割走査領域R32が一次ビーム81_2によって走査され、走査領域R6の分割走査領域R61が一次ビーム81_5によって走査され、走査領域R9の分割走査領域R92が一次ビーム81_8によって走査される。
【0041】
第2走査が終わると、再び検体ステージ31を移動させ、
図15に示すように、観察領域72の左から3番目に位置する走査領域(
図9における走査領域R1、R4、R7に対応する領域)が領域RB1、RB4、RB7と重なるように設定する。設定が完了すると、第3走査が開始される。
図15に示すように、第3走査では、走査領域R1の分割走査領域R13が一次ビーム81_1によって走査され、走査領域R4の分割走査領域R42が一次ビーム81_4によって走査され、走査領域R7の分割走査領域R73が一次ビーム81_7によって走査される。また、走査領域R2の分割走査領域R22が一次ビーム81_2によって走査され、走査領域R5の分割走査領域R51が一次ビーム81_5によって走査され、走査領域R8の分割走査領域R82が一次ビーム81_8によって走査される。更に、走査領域R3の分割走査領域R31が一次ビーム81_3によって走査され、走査領域R6の分割走査領域R63が一次ビーム81_6によって走査され、走査領域R9の分割走査領域R91が一次ビーム81_9によって走査される。
【0042】
このように、走査段階にかかわらず、一次ビーム81_1、81_6、81_7は、x方向最負側に位置する分割走査領域を走査し、一次ビーム81_2、81_4、81_8は、x方向中央に位置する分割走査領域を走査し、一次ビーム81_3、81_5、81_9は、x方向最正側に位置する分割走査領域を走査する。すなわち、一次ビーム81_mは、照射対象となる走査領域Rにおける分割走査領域の位置が固定されており、異なる一次ビームにより3段階の走査が行われることで、一つの走査領域R内の走査が完了する。例えば、走査領域R3は、第1走査において、一次ビーム81_1によって分割走査領域R33が走査される。続く第2走査において、一次ビーム81_2によって分割走査領域R32が走査される。最後に第3走査において、一次ビーム81_3によって分割走査領域R31が走査され、走査領域R3全体の走査が完了する。
【0043】
このように走査を行うことで、走査線走査方向に隣接する走査領域Rからの帯電の影響が小さくなるため、走査線の歪みを抑制し、また、二次ビームの誤検出を防止することができる。また、第1走査から第3走査にかけて、検体ステージ31を停止させることなく連続移動させて、検体ステージ31の移動に対して偏向器17のビーム走査を同期させることも可能である。これにより、ビーム走査毎に検体ステージ31を停止させることなく観察領域72をビーム走査することが可能となり、ステージ停止のための時間が削減できるためスループットを向上させることができる。
【0044】
なお、上述したマルチビーム走査装置は、一つの電子銃から射出された一次ビーム81をアパーチャアレイ14によって分割することにより複数の一次ビーム81_mを生成しているが、複数の電子銃(照射源)を用いて一次ビーム81_mを生成してもよい。
【0045】
本発明の実施形態を説明したが、本実施形態は一例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
11…電子銃、12…第1コンデンサレンズ、13、17…偏向器、14…アパーチャアレイ、15…第2コンデンサレンズ、16…ウィーンフィルタ、18…対物レンズ、21…投影光学系、22…検出器、31…検体ステージ、32…ステージ駆動部、41…制御装置、42…CPU、43…RAM、44…メモリ、51…走査信号制御回路、52…ステージ制御回路、71…被検体、72…観察領域、73…照射領域、74…帯状領域、81…一次ビーム、91…二次ビーム、