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  • 特許-機械設備の振動監視装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】機械設備の振動監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 1/00 20060101AFI20240729BHJP
   G08B 21/18 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G01H1/00 Z
G08B21/18
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021132140
(22)【出願日】2021-08-16
(65)【公開番号】P2023026787
(43)【公開日】2023-03-01
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000200334
【氏名又は名称】JFEプラントエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】古志 英昭
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-291065(JP,A)
【文献】国際公開第2006/043511(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0125891(US,A1)
【文献】国際公開第2019/230520(WO,A1)
【文献】特開2006-125976(JP,A)
【文献】特開2003-085157(JP,A)
【文献】特開2005-121532(JP,A)
【文献】特開2019-207126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G08B 19/00-21/24
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械設備の振動を検出する振動センサから取得した振動波形に基づいて前記振動の異常の有無を判定し、該判定結果に基づいて警報を報知する警報装置を制御する機械設備の振動監視装置であって、
前記振動センサから出力されるアナログの振動波形を入力し、エイリアシングフィルタ処理を含むノイズ除去処理を行う振動入力ユニットと、
該振動入力ユニットから振動波形の入力並びに警報装置の制御を行うPLCとを備え、
該PLCは、振動診断を行うプログラムが設定されており、前記振動入力ユニットでノイズ除去されたアナログの振動波形を入力してデジタルの振動波形に変換し、該変換した振動波形のノイズ除去を行い、該ノイズ除去された振動波形に基づいて異常の有無を判定し、該判定結果に基づいて前記警報装置を制御する機能を備えたことを特徴とする機械設備の振動監視装置。
【請求項2】
前記振動入力ユニットは、利得調整するアナログ回路を含むことを特徴とする請求項1記載の機械設備の振動監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部を有する機械設備などに使用する機械設備の振動監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転部を有する機械設備においては、機械の異常を検知するため、回転部の駆動に伴う機械設備の振動を監視する場合がある。このような振動監視を行う振動監視装置は、回転部の近傍に設置される振動センサの出力信号をデータ処理・分析して異常振動の有無を判定する。上記のような振動監視装置の一例が、例えば特許文献1、2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5293300号
【文献】特許第6283591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2のような従来の振動監視装置は、振動監視を行う専用機であるので、基本的に外部機器を制御する機能を有していない。そのため、振動に異常が有ると判定された際に、例えば異常を知らせるブザーや警告ランプやパソコンなどの外部機器を動作させようとする場合には、振動診断に基づいて外部機器を制御する制御装置を別途作成する必要があり、開発コストがかかる。
【0005】
一方で、外部機器を制御する汎用機としてPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)がある。例えば、PLCに振動診断を行うプログラムを設定し、入力機器として振動センサ、出力機器としてブザーや警告ランプなどの警報装置を接続すれば、振動センサの信号に基づいてPLCが振動診断を行い、その診断結果に基づいて警報装置などを動作させることができる。
しかし、汎用機であるPLCのみを用いた振動診断では、PLC入力信号にサンプリング周波数の半分以上の高周波が含まれていると、実際の信号より低い周波数の信号として現れるエイリアシング(折り返し現象)が発生してしまう為、前述した専用機のような高精度の診断ができないという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、低コストで、精度の高い振動診断ができ、振動診断の結果に基づいて警報装置などの外部機器を制御可能な機械設備の振動監視装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、PLCによる振動診断において、専用機と同様の診断精度が得られれば、PLCの持っている機能を生かして他の機器との連携などが可能になるとの着想を得た。
本発明はかかる着想に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0008】
(1)本発明に係る機械設備の振動監視装置は、機械設備の振動を検出する振動センサから取得した振動波形に基づいて前記振動の異常の有無を判定し、該判定結果に基づいて警報を報知する警報装置を制御するものであって、前記振動センサから出力されるアナログの振動波形を入力してノイズ除去を行う振動入力ユニットと、該振動入力ユニットでノイズ除去されたアナログの振動波形を入力してデジタルの振動波形に変換し、該変換した振動波形のノイズ除去を行い、該ノイズ除去された振動波形に基づいて異常の有無を判定し、該判定結果に基づいて前記警報装置を制御するPLCとを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記振動入力ユニットは、利得調整するアナログ回路を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る機械設備の振動監視装置においては、振動センサから出力されるアナログの振動波形を入力してノイズ除去を行う振動入力ユニットと、振動入力ユニットでノイズ除去されたアナログの振動波形を入力してデジタルの振動波形に変換し、該変換した振動波形のノイズ除去を行い、該ノイズ除去された振動波形に基づいて異常の有無を判定し、該判定結果に基づいて警報装置を制御するPLCとを備えたことにより、開発コストが安価で、振動診断の精度が高く、警報装置などの外部機器との連携を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る機械設備の振動監視装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る機械設備の振動監視装置1(以下、単に「振動監視装置1」という)は、振動センサ3から出力されるアナログの振動波形に基づいて振動の異常の有無を判定し、該判定結果に基づいて警報装置7を制御するものであって、図1に示すように、振動センサ3から出力されるアナログの振動波形を入力してノイズ除去を行う振動入力ユニット5と、振動入力ユニット5でノイズ除去されたアナログの振動波形を入力して、異常の有無を判定し、該判定結果に基づいて警報装置7を制御するPLC9とを備えている。ここに記すノイズ除去とは、必要な周波数を抽出することである。
振動監視装置1の各構成について以下詳細に説明する。なお下記においては、振動センサ3として、振動加速度のアナログ波形を出力する加速度センサを用いた場合を例に説明する。
【0013】
<振動入力ユニット>
振動入力ユニット5は、振動センサ3から出力されるアナログの振動加速度波形に対してノイズ除去などのアナログ信号処理を行い、該処理後の振動加速度波形をPLC9に入力するものである。また振動入力ユニット5は、振動センサ3に対する電源の供給を行うこともできる。
【0014】
振動加速度波形に対するアナログ信号処理は、振動入力ユニット5の振動波形処理部11によって行われる。
振動波形処理部11はアナログ回路から構成されるものであり、振動加速度波形に対し、AC結合(HPF:ハイパスフィルタ)やエイリアシングフィルタ(LPF:ローパスフィルタ)などの処理を行い、ノイズ成分を除去する。
このようにアナログ信号の振動加速度波形に対してノイズ除去を行うことにより、PLC9のデジタル処理によるノイズ除去では対応できないノイズ成分を除去することができる。
【0015】
さらに、振動波形処理部11は、利得(ゲイン)調整(振動波形の振幅にあわせて増幅)するアナログ回路を含んでいる。振動入力ユニット5においてアナログの振動加速度波形に利得調整を行うことで、PLC9によるA/D変換の分解能をフルスケールで活用できるようになり好ましい。
【0016】
<PLC>
PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)9は、振動入力ユニット5でノイズ除去されたアナログの振動波形(本例では振動加速度波形)を入力して、デジタルの振動波形に変換し、該変換した振動波形のノイズ除去を行い、該ノイズ除去された振動波形に基づいて異常の有無を判定し、該判定結果に基づいて警報装置7を制御するものであり、A/D変換処理部13と、積分処理部15と、デジタルフィルタ処理部17と、解析・演算処理部19と、記憶部21と、制御部23と、通信部25とを備えている。
各構成について以下詳細に説明する。
【0017】
≪A/D変換処理部≫
A/D変換処理部13は、振動入力ユニット5から出力されるアナログの振動加速度波形をデジタルの振動加速度波形に変換するものである。前述したように、本実施の形態においては、振動入力ユニット5で振動加速度波形を利得調整(増幅)している為、A/D変換処理部13の分解能をフルスケールで活用でき、解析・演算処理部19における演算の精度が向上する(詳しくは後述)。
【0018】
≪積分処理部≫
積分処理部15は、A/D変換処理部13が生成した振動加速度波形に対して積分処理を行い、振動速度波形を生成するものである。
振動加速度波形から振動速度波形を生成することで、振動の状態を振動加速度と振動速度の両観点から解析することができる。これにより、回転部の破損及び潤滑不良など衝撃的な振動(加速度波形による判定が好適)や機械設備のガタ及びアンバランスなど動的な振動(速度波形による判定が好適)など、異なる挙動を示す異常振動も同時に判定できるようになり好ましい。
【0019】
≪デジタルフィルタ処理部≫
デジタルフィルタ処理部17は、A/D変換処理部13が生成した振動加速度波形と、積分処理部15が生成した振動速度波形に対し、デジタルフィルタ処理を行ってノイズ成分を除去するもので、デジタルフィルタ処理時間が振動測定時間の0.25倍以下で終了(0.25倍の具体例として、1点あたりの振動測定時間1.0秒間に対して、デジタルフィルタ処理時間は0.25秒間)する機能を有し、係る機能は所定のプログラムを実行することで実現される。
【0020】
≪解析・演算処理部≫
解析・演算処理部19は、デジタルフィルタ処理部17によってノイズが除去された振動加速度波形と振動速度波形について、振動診断に必要な演算を実施し、異常の有無を判定するものである。なお、解析・演算処理部19で振動診断される振動加速度波形と振動速度波形は記憶部21に保存される。
【0021】
異常の有無を判定する方法は限定しないが、例えば、予め記憶部21に通常時の振動波形(振動加速度波形及び振動速度波形)における最大値、実効値、波高率(以下、「レベル値」ともいう)などを振動解析パラメータとして保存しておき、該振動解析パラメータと診断対象のレベル値に基づいて異常の有無を判定すればよい。
【0022】
本実施の形態においては、振動センサ3から出力されるアナログの振動加速度波形に対しアナログ回路によるノイズ除去を行ってからPLC9に入力している為、従来のようにPLC9のデジタルフィルタ処理のみでノイズ除去していた場合と比べて、エイリアシングにより含まれるノイズ成分が除去される分だけ精度が向上する。
また、振動入力ユニット5の利得調整(増幅)によって、A/D変換処理部13の分解能をフルスケールで活用している為、例えば、絶対精度(A/D変換分解能では無く、監視装置全体の誤差精度)で、振動加速度では0.05[m/s2]以下の単位(測定周波数範囲:1000~15000Hz)、振動速度では0.5[mm/s]以下の単位(測定周波数範囲:10~1000Hz)での高精度な演算が可能となる。
したがって、従来のPLCによる振動診断よりも、信頼性の高い振動診断が可能である。
【0023】
≪記憶部≫
記憶部21は、各種データを保存するものであり、上述した振動解析パラメータ、監視対象の各振動波形(振動加速度波形、振動速度波形)、監視対象の過去のレベル値、警報を報知した異常振動の履歴データなどが保存される。
【0024】
≪制御部≫
制御部23は、解析・演算処理部19の判定結果に基づいて警報装置7を制御するものである。
警報装置7としては、例えばブザーや回転ランプなどが挙げられる。
解析・演算処理部19によって振動に異常が有ると判定された場合、制御部23は、警報装置7を動作させて警報を報知する。
なお、制御部23による制御は、PLC9の外部機器である操作画面27(タッチパネルなど)を介してオペレータが操作することもできる。
【0025】
≪通信部≫
通信部25は、他の機器29とネットワークを介してデータを送受信するものである。他の機器29はネットワークと通信部25を介してPLC9の記憶部21に保存されたデータにアクセスできる。
これにより、ネットワーク上のパソコンから各振動波形をリアルタイムで監視することが可能である。さらに1台のパソコンで複数のPLCから情報を取得することも可能である為、振動以外の操業情報も同時に監視できるようになり、設備の状態を効率的に監視できる。
また、他の機器29(パソコンや他PLCなど)が記憶部21から振動波形を取得して、さらに詳細な振動解析(周波数解析など)を行うことも可能である。
【0026】
上記のように本実施の形態によれば、振動センサ3から出力されるアナログの振動波形を、振動入力ユニット5を介してPLC9に入力することにより、PLC9のデジタル信号処理では対応できないノイズ成分が除去され、かつ、PLC9におけるA/D変換の分解能をフルスケールで活用できる為、PLC9による振動診断の精度が向上する。
【0027】
また、汎用機であるPLC9が有する外部機器の制御機能や通信機能を利用することにより、警報装置7の制御やネットワークを介した他の機器29との連携を低コストで実現できる。
【0028】
なお、前述したように本実施の形態では、振動センサ3として加速度センサを用いた場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の振動センサを用いることもできる。例えば、振動センサ3として、振動速度のアナログ波形を出力する速度センサを用いてもよく、その場合には、A/D変換処理部13でデジタルの振動速度波形データを生成した後、該データに微分処理を行って振動加速度波形データを生成すればよい。
【符号の説明】
【0029】
1 振動監視装置
3 振動センサ
5 振動入力ユニット
7 警報装置
9 PLC
11 振動波形処理部
13 A/D変換処理部
15 積分処理部
17 デジタルフィルタ処理部
19 解析・演算処理部
21 記憶部
23 制御部
25 通信部
27 操作画面
29 他の機器
図1