(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】異常検知装置および異常検知方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240729BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
G05B23/02 302R
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2021158068
(22)【出願日】2021-09-28
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】595145050
【氏名又は名称】株式会社日立プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】北島 慶一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏成
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-113027(JP,A)
【文献】特開平07-168619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の異常を検出する期間である解析対象期間より以前の期間である学習期間における時系列データである
当該設備の状態量に係る統計量を
基に、前記解析対象期間における当該設備の状態量の異常度合いを示す異常兆候指標を算出する異常兆候指標算出部と、
前記異常兆候指標と、前記異常兆候指標の変動要因となる変動要因候補との相関係数を算出する相関解析部とを備
え、
前記設備は、熱源システムであり、
前記変動要因候補は、外気温度および冷熱負荷の何れかである
ことを特徴とする異常検知装置。
【請求項2】
前記異常兆候指標算出部は、
前記状態量の特徴量の平均値との偏差と、前記特徴量の標準偏差との比に基づいて前記異常兆候指標を算出し、
前記特徴量は、
前記状態量そのもの、前記状態量の移動平均、および前記状態量の移動標準偏差の何れかである
ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記異常兆候指標算出部は、
前記状態量の特徴量をクラスタに分類して、前記クラスタに基づいて前記異常兆候指標を算出し、
前記特徴量は、
前記状態量そのもの、前記状態量の移動平均、および前記状態量の移動標準偏差の何れかである
ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記異常兆候指標算出部は、
前記設備を構成する機器に係る状態量の異常兆候指標における最大値を、当該機器の異常兆候指標として算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記設備は、複数の系統を有する熱源システムであり、
前記異常兆候指標算出部は、前記複数の系統のそれぞれにおける稼働状態の組み合わせごとに前記異常兆候指標を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項6】
前記状態量は、前記熱源システムの主機である冷凍機の電力・冷水還温度・冷水往温度・冷却水還温度・冷却水往温度・冷水流量・冷却水流量・冷熱負荷・エネルギー消費効率、補機である冷水ポンプの電力・周波数、前記補機である冷却水ポンプの電力・周波数、前記補機である冷却塔の電力・周波数のうち何れか少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項7】
前記異常兆候指標のなかで、各時刻において最大となる異常兆候指標を表示する解析結果表示部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項8】
異常検知装置の異常検知方法であって、
前記異常検知装置は、
設備の異常を検出する期間である解析対象期間より以前の期間である学習期間における時系列データである
当該設備の状態量に係る統計量を
基に、前記解析対象期間における当該設備の状態量の異常度合いを示す異常兆候指標を算出するステップと、
前記異常兆候指標と、前記異常兆候指標の変動要因となる変動要因候補との相関係数を算出するステップとを実行
し、
前記設備は、熱源システムであり、
前記変動要因候補は、外気温度および冷熱負荷の何れかである
異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備の異常兆候を検出する異常検知装置および異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントやオフィスビルなどに設置される設備の信頼性向上やダウンタイム低減、ランニングコスト低減を図る上で、設備の動作異常兆候を早期に検出することが重要である。設備の稼働状態は、センサで取得された温度・圧力・振動などの監視用データについて、設計値や経験に基づく閾値を設定して管理されている。例えば、特許文献1に記載の状態監視システムは、装置を構成する機械要素の状態を監視する状態監視システムであって、前記機械要素の状態を検出するためのセンサと、前記機械要素の異常を診断するための処理装置とを備え、前記処理装置は、前記センサの検出信号から複数の特徴量を算出し、算出した前記複数の特徴量から、経時的な傾向が互いに独立する少なくとも1つの特徴量を有効な特徴量として抽出し、抽出した前記有効な特徴量に基づいて前記機械要素の異常を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の状態監視システムは、特徴量の平均値や標準偏差などの統計量に基づいて閾値を設定し、特徴量が閾値を超えたときに異常と判定している。しかしながら、設備の挙動は、処理負荷や環境(例えば気象条件)などにより変化するため、特許文献1のような過去の統計量に基づく閾値による管理では、設備動作の異常兆候を早期に検知することが困難な場合がある。また、設備機器ごとに稼働状態の推定モデルを作成して異常判定する手法もあるが、推定モデル作成に工数を要するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、設備の異常兆候を効率よく抽出することを可能とする異常検知装置および異常検知方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため本発明に係る異常検知装置は、設備の異常を検出する期間である解析対象期間より以前の期間である学習期間における時系列データである当該設備の状態量に係る統計量を基に、前記解析対象期間における当該設備の状態量の異常度合いを示す異常兆候指標を算出する異常兆候指標算出部と、前記異常兆候指標と、前記異常兆候指標の変動要因となる変動要因候補との相関係数を算出する相関解析部とを備え、前記設備は、熱源システムであり、前記変動要因候補は、外気温度および冷熱負荷の何れかである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、設備の異常兆候を効率よく抽出することを可能とする異常検知装置および異常検知方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る異常検知装置の監視対象となる熱源システムの全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係る異常検知装置の機能ブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る状態量データベースのデータ構成図である。
【
図4】本実施形態に係る除外期間データベースのデータ構成図である。
【
図5】本実施形態に係る状態量属性データベースのデータ構成図である。
【
図6】本実施形態に係る異常兆候指標データベースのデータ構成図である。
【
図7】本実施形態に係る異常兆候サマリデータベースのデータ構成図である。
【
図8】本実施形態に係る冷凍機の冷熱負荷を示すグラフである。
【
図9】本実施形態に係る冷凍機の冷水往温度の移動平均、冷却水還温度の移動平均、および外気温度の移動平均を示すグラフである。
【
図10】本実施形態に係る冷凍機の消費電力を示すグラフである。
【
図11】本実施形態に係る冷水ポンプの消費電力、冷却水ポンプの消費電力、および冷却塔の消費電力を示すグラフである。
【
図12】本実施形態に係る冷凍機の系統の異常兆候指標を示すグラフである。
【
図13】本実施形態に係る稼働時における冷凍機の系統の異常兆候指標を示すグラフである。
【
図14】本実施形態に係る非稼働時における冷凍機の系統の異常兆候指標を示すグラフである。
【
図15】本実施形態に係る解析結果表示画面の画面構成図である。
【
図16】本実施形態に係る異常兆候解析処理のフローチャートである。
【
図17】本実施形態の変形例に係る熱源システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪異常検知装置:概要≫
以下に、本発明を実施するための形態(実施形態)における異常検知装置について説明する。異常検知装置は、設備に設置されたセンサが測定した設備の状態量から算出される特徴量に基づいて平均値からの乖離を示す異常兆候指標を算出して可視化する。特徴量は、例えば状態量の移動平均や移動標準偏差である。また、異常検知装置は、異常兆候指標と変動要因との相関係数を算出して可視化する。変動要因(変動要因候補)としては、例えば、時間や外気温度、冷熱負荷がある。
【0010】
異常兆候指標を見ることで設備の管理者(操作者)は、異常の兆候を把握することができる。また変動要因との相関度を見ることで管理者は、時間変化、季節変化、負荷変化との連動を把握でき、異常の要因を解明する手掛かりを得ることができる。結果として管理者は、時間・季節・負荷変化を考慮した異常発生の可能性を把握することができるようになる。
【0011】
≪熱源システムの全体構成≫
図1は、本実施形態に係る異常検知装置100(後記する
図2参照)の監視対象となる熱源システム200の全体構成図である。熱源システム200は、第1系統の冷却塔211と冷凍機221、第2系統の冷却塔212と冷凍機222、および第3系統の冷却塔213と冷凍機223を備える。熱源システム200は、配管および冷水往ヘッダ232を通じて冷熱負荷233(外調機、ファンコイルユニットなど)に冷水を送り、配管および冷水還ヘッダ231を通じて還流された冷水を冷やす。3つの系統は同時に稼働するとは限らず、稼働している外調機やファンコイルユニットが少なく負荷が小さい場合には、1つの系統のみが稼働する。
【0012】
熱源システム200には、稼働状態を監視するために冷水の温度や流量、冷却塔211,212,213や冷凍機221,222,223の消費電力などを計測するためのセンサが設置されている。
図1では、円で囲われたTが温度センサ、円で囲われたFが流量センサ、円で囲われたWが電力センサを示している。なお、円で囲われた△/▽はポンプを示し、ポンプにも電力センサが設置されている。これらのセンサは、所定のタイミング、例えば定期的に計測結果を異常検知装置100に送信する。
【0013】
≪異常検知装置:全体構成≫
図2は、本実施形態に係る異常検知装置100の機能ブロック図である。異常検知装置100はコンピュータであり、制御部110、記憶部120、および入出力部190を備える。入出力部190には、ディスプレイやキーボード、マウスなどのユーザインターフェイス機器が接続される。また、入出力部190が通信デバイスを備え、熱源システム200に設置されたセンサを含む他の機器とのデータ送受信が可能である。また入出力部190にメディアドライブが接続され、記録媒体を用いたデータのやり取りが可能であってもよい。
【0014】
≪異常検知装置:記憶部≫
記憶部120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)などの記憶機器を含んで構成される。記憶部120には、状態量データベース130、除外期間データベース140、状態量属性データベース150、異常兆候指標データベース160、異常兆候指標上限値データベース121、異常兆候サマリデータベース170、およびプログラム128が記憶される。プログラム128には、後記する
図16に示す異常兆候解析処理の記述が含まれる。
【0015】
図3は、本実施形態に係る状態量データベース130のデータ構成図である。状態量データベース130には、熱源システム200の状態量(監視データ)として、センサの計測値が計測日時(取得日時)とともに格納される。計測値としては、主機である冷凍機221,222,223の消費電力、冷水還温度、冷水往温度、冷却水還温度、冷却水往温度、冷水流量、冷却水流量、冷熱負荷、COP(成績係数、エネルギー消費効率)などがある。他の計測値としては、補機である冷水ポンプ、冷却水ポンプおよび冷却塔211,212,213の電力や周波数などがある。計測値は、例えば1時間周期の時系列データである。また、熱源システム200そのものの計測値ではないが、変動要因である外気温度も状態量データベース130に記憶される。
【0016】
図4は、本実施形態に係る除外期間データベース140のデータ構成図である。除外期間データベース140には、異常兆候指標の算出時に除外される期間(除外期間)について、除外理由、開始日時、および終了日時が、識別情報(
図4ではIDと記載)とともに格納される。除外理由としては、通常運転時とは異なる過度的な挙動を示す設備の起動シーケンスや停止シーケンス、保守などがある。
【0017】
図5は、本実施形態に係る状態量属性データベース150のデータ構成図である。状態量属性データベース150は、熱源システム200の状態量(監視データ)に係る情報として名称、設備分類、系統番号、機器分類、機器種類、物理量種類、相関算出などが関連付けられて記憶される。
名称としては「冷凍機1:消費電力」や「冷凍機1:冷水往温度」などがある。
設備分類としては「熱源システム」や「空調システム」などがある。
【0018】
機器分類としては「主機」や「補機」がある。
機器種類としては「冷凍機」や「冷水ポンプ」、「冷却水ポンプ」などがある。
物理量種類としては「電力」や「熱量」、「温度」、「流量」などがある。
相関算出は、「Y」または「N」であって、変動要因である時間、外気温度、および冷熱負荷との相関係数を算出するか否かを指定する。
【0019】
図6は、本実施形態に係る異常兆候指標データベース160のデータ構成図である。異常兆候指標データベース160は、状態量データベース130(
図3参照)に記憶されるデータの異常兆候指標が算出されて格納される。異常兆候指標データベース160のデータ構成は、状態量データベース130のデータ構成と同様である。
異常兆候指標上限値データベース121には、異常兆候指標が異常であるか否かの判定基準となる上限値が、異常兆候指標の項目と関連付けられて記憶される。
【0020】
図7は、本実施形態に係る異常兆候サマリデータベース170のデータ構成図である。異常兆候サマリデータベース170には、異常兆候指標データベース160にある異常兆候指標のなかで、異常兆候指標上限値データベース121にある上限値を超えた異常兆候指標に係る情報が格納される。詳しくは異常兆候サマリデータベース170には、名称、設備分類、系統番号、機器分類、機器種類、物理量種類、異常兆候指標のレコード数、上限を超過したレコード数、異常兆候指標の最大値、異常兆候指標の平均値、および変動要因(時間・冷熱負荷・外気温度)との相関係数が格納される。
【0021】
≪異常検知装置:制御部≫
図2に戻って異常検知装置100の制御部110の構成を説明する。制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、状態量取得部111、指定期間除外部112、運転状態判断部113、特徴量算出部114、異常兆候指標算出部115、相関解析部116、および解析結果表示部117が備わる。
状態量取得部111は、熱源システム200(
図1参照)に設置されたセンサから温度や流量、消費電力の計測結果(監視データ、状態量)を取得して状態量データベース130に格納する。状態量取得部111は、所定のタイミング、例えば1時間周期で計測結果を取得する。
【0022】
指定期間除外部112は、状態量データベース130にある状態量を解析するにあたり、除外期間データベース140にある期間の状態量を除外する。
運転状態判断部113は、指定期間除外部112が除外しなかった期間の状態量を稼働期間と非稼働期間とに分割する。詳しくは、運転状態判断部113は状態量属性データベース150(
図5参照)を参照して系統ごとに主機である冷凍機221,222,223の消費電力に基づいて稼働状態を判定する。例えば運転状態判断部113は、消費電力が所定値以上である場合には稼働状態であると判定し、当該所定値未満の場合には非稼働状態と判定する。当該所定値は冷凍機221,222,223ごとに設定される値である。また運転状態判断部113は、系統ごとに主機に対応する補機(冷水ポンプ、冷却水ポンプ、冷却塔)について、主機の稼働状態に従って補機の稼働状態を判定する。設備は稼働状態により異なる挙動を示すため、稼働状態別に状態量を解析することで、高精度に異常兆候を検知することができる。
【0023】
特徴量算出部114は、状態量(監視データ)から特徴量を算出する。特徴量としては、時系列データである状態量そのものの他に、状態量の所定期間(例えば1日)における移動平均や移動標準偏差がある。移動標準偏差とは、状態量の移動平均の第2所定期間における標準偏差であり、第2所定期間における移動平均のばらつき具合を示す。
【0024】
異常兆候指標算出部115は、異常兆候指標を算出して異常兆候指標データベース160(
図6参照)に格納する。詳しくは、異常兆候指標算出部115はデータ項目(状態量の項目)ごとに、特徴量算出部114が算出した特徴量の平均値μと標準偏差σとを算出し、((特徴量-μ)/σ)
2を異常兆候指標として算出する。ここで平均値μは、学習期間および全系統(熱源システム200では3系統)に亘る平均である。なお異常兆候指標算出部115は、データ項目および稼働状態ごとに異常兆候指標を算出してもよい。
【0025】
学習期間とは、異常兆候指標の算出における基準となる平均値μを求める期間であり、例えば状態量データベース130に蓄積されている状態量の期間、または1年、2年といった期間である。解析対象期間とは、学習期間後の期間であって、異常兆候指標を算出して熱源システム200を監視する期間である。既定の解析対象期間は、学習期間以降である。学習期間および解析対象期間は、除外期間を含まない。
【0026】
異常兆候指標算出部115は、異常兆候指標上限値データベース121にある上限値以上の異常兆候指標を含む異常兆候指標の項目(状態量の項目、データ項目)を抽出して、異常兆候サマリデータベース170(
図7参照)に格納する。詳しくは、異常兆候指標算出部115は当該異常兆候指標の算出元である状態量の項目の名称や系統番号などを異常兆候サマリデータベース170の「状態量属性」の欄に格納する。異常兆候指標算出部115は、解析対象期間のレコード数(データ数)や上限を超過したレコード数、異常兆候指標の最大値、平均値を「異常兆候指標」の欄に格納する。以下、
図8~
図14を参照しながら、状態量および異常兆候指標を説明する。
【0027】
図8は、本実施形態に係る冷凍機221の冷熱負荷(
図3記載の「冷凍機1」の「冷熱負荷」を参照)を示すグラフ310である。グラフ310は3日間のデータを示していて、夜間(21時から翌日7時まで)は冷凍機221が停止しており、冷熱負荷はほぼ0である。なお、
図8~
図11に示す冷熱負荷や温度、電力の移動平均のグラフ310,320,330,340は移動平均のグラフであり、移動平均との記載を省略して説明する。例えば、「外気温度」とは外気温度の移動平均のことである。
【0028】
図9は、本実施形態に係る冷凍機221の冷水往温度の移動平均(●でプロット)、冷却水還温度の移動平均(〇でプロット)、および外気温度の移動平均(▲でプロット)を示すグラフ320である。外気温度は、設備の状態量ではないが参考のために記載している。夜間には冷水往温度および冷却水還温度が、外気温度に近づいている(成り行きで推移している)ことがわかる。昼間の冷水往温度については、ほぼ一定で設定したとおりになっている。一方、冷却水還温度は昼過ぎ(12時から15時)頃の高く、外気温度の影響を受けていると見られる。
【0029】
図10は、本実施形態に係る冷凍機221の消費電力を示すグラフ330である。グラフ310(
図8参照)と同様に夜間(21時から翌日7時まで)は冷凍機221が停止しており、消費電力はほぼ0である。
【0030】
図11は、本実施形態に係る冷水ポンプの消費電力(●でプロット)、冷却水ポンプの消費電力(〇でプロット)、および冷却塔211の消費電力(▲でプロット)を示すグラフ340である。一部(3日目の21時~24時の冷水ポンプの消費電力(●でプロット)参照)を除いて夜間は消費電力が少なくなっており、冷水ポンプや冷却水ポンプ、冷却塔は稼働していない。
【0031】
図12は、本実施形態に係る冷凍機221の系統の異常兆候指標を示すグラフ350である。冷凍機221の系統の異常兆候指標とは、冷凍機221の冷却水往温度、冷凍機221の冷却水還温度、冷凍機221の消費電力、冷凍機221の冷水ポンプの消費電力、冷凍機221の冷却水ポンプの消費電力、および冷凍機221の冷却塔の消費電力それぞれについての移動平均を特徴量とする異常兆候指標の最大値である。冷凍機221の系統に係る他の状態量があれば、当該他の状態量の移動平均を特徴量とする異常兆候指標を含めた異常兆候指標の最大値であってもよい。
【0032】
点線で囲われた領域351にある異常兆候指標は、高い値を示しているが、点検保守直後の値であり異常ではない。このような異常ではない高い異常兆候指標を除くため、指定期間除外部112は、除外期間データベース140(
図4参照)に格納される期間の状態量を、解析対象から除く。
【0033】
図13は、本実施形態に係る稼働時における冷凍機221の系統の異常兆候指標を示すグラフ360である。点線で囲われた領域361にある異常兆候指標は、高い値を示している。同じ時間帯の冷凍機221の冷水往温度(グラフ320(
図9参照)の●)が上昇しており、空調システムの給気温度が上昇した可能性がある。
【0034】
図14は、本実施形態に係る非稼働時における冷凍機221の系統の異常兆候指標を示すグラフ370である。点線で囲われた領域371にある異常兆候指標は、高い値を示している。同じ時間帯の冷水ポンプの消費電力(グラフ340(
図11参照)●)が上昇している。夜間で通常は非稼働でありながら、冷水ポンプが稼働しており、電力が損失している可能性がある。
このように異常兆候指標を算出することで、特徴量(
図8~
図11記載のグラフ310,320,330,340)だけでは捉えにくい熱源システム200の異常の可能性を把握できるようになる。
【0035】
図2に戻って制御部110の説明を続ける。相関解析部116は、状態量属性データベース150(
図5参照)の「相関演算」が「Y」である状態量(データ項目)について、異常兆候指標と変動要因(時間、外気温度、冷熱負荷など)との相関係数を算出する。
時間との相関係数(例えばピアソンの積率相関係数)を算出することで、状態量項目の変化傾向(増加傾向/変化なし/減少傾向)が得られる。外気温度との相関係数を算出することで、状態量項目の季節性や気温との関連が得られる。また、冷熱負荷との相関係数を算出することで、状態量項目の負荷連動性が得られる。変動要因との相関度を見ることで管理者は、時間変化、季節変化、負荷変化との連動を把握でき、異常の要因を解明する手掛かりを得ることができる。
【0036】
解析結果表示部117は、解析結果表示画面400(後記する
図15参照)を、入出力部190に接続されたディスプレイに表示する。
図15は、本実施形態に係る解析結果表示画面400の画面構成図である。
最大異常兆候指標表示領域410には、解析対象期間に含まれる解析結果表示期間における異常兆候指標の最大値がグラフとして表示される。既定の解析結果表示期間は、例えば直近3カ月である。ハッチングされている期間は、異常兆候指標の最大値が所定の閾値を超えた期間を示している。
【0037】
解析結果表示領域420には、解析結果表示期間が表示される。解析結果表示期間は編集可能になっている。解析結果表示期間の編集後に「反映」ボタンが押下されると、最大異常兆候指標表示領域410、および後記する異常兆候指標表示領域450に編集結果の期間のグラフが表示される。
【0038】
期間長変更指定領域430には、解析結果表示期間の長さを変更するボタンが配置される。例えば「-1日」ボタンが押下されると解析結果表示期間が1日短くなる。開始日変更指定領域440には、解析結果表示期間の開始日を変更するボタンが配置される。例えば「前日」ボタンが押下されると解析結果表示期間の開始日が1日前になる。
【0039】
異常兆候指標表示領域450には、解析結果表示期間における各データ項目の異常兆候指標と元データ(状態量そのもの、ないしは状態量の移動平均)のグラフが表示される。
図15では「冷凍機1:消費電力」および「冷凍機1:冷熱負荷」の異常兆候指標および元データが表示されている。
「冷凍機1:消費電力」のグラフでハッチングされている期間は、異常兆候指標の最大値のグラフでハッチングされている期間と同じである。「冷凍機1:消費電力」の異常兆候指標が、異常兆候指標の最大値に係る所定の閾値を超えていることを示している。
【0040】
「異常兆候サマリ」ボタン481が押下されると、異常兆候サマリデータベース170(
図7参照)が表示される。「除外期間設定」ボタン482が押下されると、除外期間データベース140(
図4参照)の内容が表示される。当該内容を編集することで除外期間データベース140が更新される。
【0041】
≪異常兆候解析処理≫
図16は、本実施形態に係る異常兆候解析処理のフローチャートである。
ステップS11において特徴量算出部114は、予め設定された学習期間におけるそれぞれの状態量の特徴量を算出し、異常兆候指標算出部115は、特徴量の平均値μと標準偏差σとを算出する。
ステップS12において異常兆候指標算出部115は、解析対象期間を既定の期間に設定する。既定の期間は、学習期間以降の期間である。
【0042】
ステップS13において特徴量算出部114は、解析対象期間における特徴量を算出する。
ステップS14において異常兆候指標算出部115は、ステップS13で算出された特徴量から異常兆候指標を算出して、結果を異常兆候指標データベース160に格納する。また異常兆候指標算出部115は、異常兆候指標上限値データベース121に記憶される上限値を超える異常兆候指標の項目に係る状態量属性やレコード数などを異常兆候サマリデータベース170に格納する。
【0043】
ステップS15において相関解析部116は、解析対象期間における異常兆候指標と変動要因との相関係数を算出する。相関解析部116は、異常兆候サマリデータベース170に格納する。
ステップS16において解析結果表示部117は、解析結果表示画面400(
図15参照)を表示する。
ステップS17において解析結果表示部117は、解析結果表示画面400内の押下されたボタンに応じて分岐して進む。解析結果表示部117は、期間長変更指定領域430と開始日変更指定領域440とに配置された解析結果表示期間の変更に係るボタンが押下されると(ステップS17→変更)ステップS18に進む。
【0044】
解析結果表示部117は、解析結果表示領域420に配置された「反映」ボタンが押下されると(ステップS17→反映)ステップS19に進む。
解析結果表示部117は、「除外期間設定」ボタン482が押下されると(ステップS17→除外期間設定)ステップS20に進む。
解析結果表示部117は、「異常兆候サマリ」ボタン481が押下されると(ステップS17→異常兆候サマリ)ステップS21に進む。
解析結果表示部117は、「終了」ボタン483が押下されると(ステップS17→終了)異常兆候解析処理を終了する。
【0045】
ステップS18において解析結果表示部117は、ステップS17において押下されたボタンに応じた解析結果表示期間のグラフを表示して、ステップS17に戻る。詳しくは、解析結果表示部117は、異常兆候指標の最大値を示す当該解析結果表示期間のグラフを最大異常兆候指標表示領域410に、各データ項目の異常兆候指標と元データの当該解析結果表示期間のグラフを異常兆候指標表示領域450に表示する。例えば、期間長変更指定領域430に配置された「+1日」ボタンが押下されると、解析結果表示部117は解析結果表示期間を1日延長して表示する。
【0046】
ステップS19において解析結果表示部117は、異常兆候指標の最大値、各データ項目の異常兆候指標、および元データの、編集後の解析結果表示期間のグラフを表示して、ステップS17に戻る。
ステップS20において解析結果表示部117は、除外期間データベース140の内容を表示し、除外期間の変更を受け付けて、除外期間データベース140に反映する。続いて解析結果表示部117は、ステップS11に戻る。
ステップS21において解析結果表示部117は、異常兆候サマリデータベース170の内容を表示して、ステップS17に戻る。
【0047】
図16では、異常兆候指標を算出した後に、解析結果表示部117は指定される表示期間のグラフを表示している。新たに状態量が取得されたときには、当該状態量に係る異常兆候指標が算出されて、グラフに反映されるようにしてもよい。
また、
図16では異常兆候解析処理のたびに特徴量の平均や標準偏差、異常兆候指標を算出している。解析結果表示部117は、これらの算出結果を記憶しておき、学習期間や除外期間の変更がない限りは記憶した算出結果を利用して、グラフを表示するようにしてもよい。
【0048】
≪異常検知装置の特徴≫
異常検知装置100は、熱源システム200に設置されたセンサが測定した熱源システム200の状態量の特徴量に基づいて平均値からの乖離を示す異常兆候指標を算出して解析結果表示画面400を表示する。また、異常検知装置は、異常兆候指標と変動要因との相関係数を算出して可視化する。変動要因としては、例えば、時間や外気温度、冷熱負荷がある。
【0049】
異常兆候指標を見ることで設備の管理者(操作者)は、異常の兆候を把握することができる。また変動要因との相関度(相関係数)を見ることで管理者は、時間変化、季節変化、負荷変化との連動を把握することができる。結果として管理者は、時間・季節・負荷変化を考慮した異常発生の可能性を把握することができるようになる。
【0050】
≪変形例:異常兆候指標≫
上記した実施形態において異常兆候指標は、状態量の項目ごとに算出されている(
図6記載の異常兆候指標データベース160参照)。個々の設備(設備を構成する機器)、例えば冷凍機221に係るデータ項目の異常兆候指標の最大値を、冷凍機221の異常兆候指標としてもよい(
図12~
図14に記載のグラフ350,360,370参照)。
【0051】
また上記した実施形態において異常兆候指標は、学習期間における状態量の特徴量の平均値μと標準偏差σとを基に算出される。他の手法を用いて異常兆候指標を算出してもよい。例えば、状態量の特徴量をクラスタ分析して1つ以上のクラスタに分類して、このクラスタに基づいて異常兆候指標を算出してもよい。例えば異常兆候指標算出部115は、学習期間におけるデータからクラスタを生成して、解析対象期間のデータと最も近いクラスタとの距離を異常兆候指標としてもよい。また、異常兆候指標算出部115は、複数のデータ項目を標準化した上でユークリッド距離を算出するk平均法を用いてクラスタリングを行い、k近傍法による異常判定を行ってもよい。
【0052】
≪変形例:稼働モード≫
学習期間において平均値μと標準偏差σとの算出、および異常兆候指標の算出において、稼働モードを設けてもよい。稼働モードとは冷凍機221,222,223の稼働/非稼働の組み合わせであり、例えば冷凍機221が稼働で冷凍機222,223が非稼働である稼働モード、全ての冷凍機221,222,223が稼働である稼働モードなどがある。異常兆候指標算出部115は、稼働モードそれぞれごとに平均値μや標準偏差σを算出する。また異常兆候指標算出部115は、異常兆候指標を算出する際に、稼働モードに応じた平均値μや標準偏差σを用いる。
上記した実施形態の熱源システム200では、冷凍機221,222,223と冷却塔211,212,213とが1対1に冷却水配管で接続されている。これとは異なり、前冷凍機と全冷却塔とが冷却水配管で接続される形態がある。
【0053】
図17は、本実施形態の変形例に係る熱源システム200Aの全体構成図である。冷凍機221,222,223と冷却塔211,212,213とは、冷却水還ヘッダ241および冷却水往ヘッダ242を介して冷却水配管で接続されている。このような熱源システム200Aの場合には、冷却水配管(冷却水系統)は複数の冷凍機および冷却塔により共用されるため、個別の冷凍機の稼働状態のみでは熱源設備全体の稼働状況を区別できない。このため、全ての冷凍機221,222,223の稼働状態(稼働モード)を考慮して、それぞれの稼働状態に応じて異常兆候指標を算出することで、精度が向上する。
【0054】
≪その他変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。例えば、上記した実施形態において異常検知装置100は、各種データベースを記憶部120に記憶しているが、クラウドにあるストレージなど別の装置にあるデータベースにアクセスするようにしてもよい。
本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
100 異常検知装置
111 状態量取得部
112 指定期間除外部
113 運転状態判断部
115 異常兆候指標算出部
116 相関解析部
117 解析結果表示部
130 状態量データベース
140 除外期間データベース
150 状態量属性データベース
160 異常兆候指標データベース
121 異常兆候指標上限値データベース
170 異常兆候サマリデータベース
200,200A 熱源システム