(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 7/00 20060101AFI20240729BHJP
C11C 1/00 20060101ALI20240729BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20240729BHJP
A23L 33/12 20160101ALN20240729BHJP
A61P 3/02 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
C11B7/00
C11C1/00
A61K31/202
A23L33/12
A61P3/02
(21)【出願番号】P 2021509585
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013656
(87)【国際公開番号】W WO2020196749
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019057754
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301049744
【氏名又は名称】日清ファルマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】野出 純一
(72)【発明者】
【氏名】竹本 健二
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-091940(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043251(WO,A1)
【文献】特開2001-240893(JP,A)
【文献】特開2015-063653(JP,A)
【文献】特開平10-095744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
A61K31/00-31/327
A23L 5/40-33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の製造方法であって、下
記:
エイコサペンタエン酸アルキルエステルを全脂肪酸中に50~92質量%含有する原料油を準備すること、該原料油に含有されるエイコサペンタエン酸アルキルエステルに対するドコサヘキサエン酸アルキルエステルの質量比は3.3質量%以下であり、かつ該原料油に含有されるエイコサペンタエン酸アルキルエステル中のトランス異性体の比率は2質量%以下である;
該原料油と、銀塩を含む水性溶液とを接触させること;
該原料油と接触させた銀塩を含む水性溶液を回収すること;
回収した銀塩を含む水性溶液と、有機溶媒とを接触させること;及び
該銀塩を含む水性溶液と接触させた有機溶媒を回収することにより、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを全脂肪酸中に96質量%以上含有し、且つ該エイコサペンタエン酸アルキルエステル中のトランス異性体の比率が1.5質量%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物を製造すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記原料油中のエイコサペンタエン酸アルキルエステルの含有量が全脂肪酸中60~85質量%である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記原料油中におけるドコサヘキサエン酸アルキルエステルの含有量が全脂肪酸中2質量%以下である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記原料油中における、アラキドン酸アルキルエステルとエイコサテトラエン酸アルキルエステルとの合計含有量が、エイコサペンタエン酸アルキルエステル100質量%に対して26質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記銀塩を含む水性溶液が回収された後の原料油を、新た
な銀塩を含む水性溶液と接触させ、次いで該原料油と接触させた銀塩を含む水性溶液を回収することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記
回収した銀塩を含む水性溶液と有機溶媒とを接触させることを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記原料油と接触するときの前記銀塩を含む水性溶液の温度が5~30℃である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒と接触するときの前記銀塩を含む水性溶液の温度が30~80℃である、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度不飽和脂肪酸(PUFA)の1種であるエイコサペンタエン酸(EPA)は、近年その薬理効果が明らかとなり、医薬品や健康食品の原料として利用されている。医薬品や食品の原料として用いるEPAには、極力不純物がなく高純度であることが求められている。とはいえ、EPA等のPUFAは、二重結合を複数有するため、化学合成によって得ることは容易ではない。工業利用されるEPAのほとんどは、EPAを豊富に含む海洋生物由来原料、例えば魚油などから抽出又は精製することによって製造されている。しかしながら、生物由来の油脂原料は、炭素数、二重結合の数や位置、さらには立体異性体の構成比などが異なる多種の脂肪酸の混合物であるため、目的とするEPAの含有量は必ずしも高くない。また、海洋生物由来原料から精製したEPAは、微量でも不純物を含有すると強い魚臭を発するため、カプセルへの封入やマスキング剤の添加などにより臭いを抑えなければ摂取時に不快感をもたらす。そのため、従来、生物由来の油脂原料からEPAを選択的に精製することが求められている。
【0003】
PUFAには、シス及びトランス型の異性体が存在する。生体内のPUFAはほとんどがシス体であるが、生物由来原料からの精製の段階で、加熱などによりシス体からトランス体に変換されることがある。したがって従来、生物由来原料から工業的に精製された熱履歴を有するPUFAは、ある程度の量のトランス異性体を含有する。しかしながら、トランス脂肪酸は、健康へのリスク、特にLDLコレステロール値を上昇させ、心血管疾患のリスクを高めることが報告されている。医薬品や食品の原料として用いるEPAにおいては、トランス脂肪酸の含有量を可能な限り低くすることが求められている。
【0004】
特許文献1~4には、EPA等のPUFAを含む原料に銀塩を含む水溶液を混合してPUFAと銀塩との錯体を形成させた後、該錯体を含む水層を、有機溶媒による抽出(特許文献1)、加温による錯体の解離(特許文献2)、液膜への透過(特許文献3)、又は希釈、もしくは錯体解離剤や銀イオン還元剤の添加(特許文献4)に供することにより、該PUFAやそのエステル等を取得する方法が記載されている。特許文献5には、EPA及び/又はDHA等のPUFAを含む原料と銀塩を含む水性溶液の混合液を、特定温度に維持しながら有機溶媒と接触させた後、水相を回収し、次いで該水相に有機溶媒を添加した後、有機溶媒相を回収することによって、EPA及び/又はDHAを選択的に精製することができることができることが記載されている。しかし、特許文献1~5に記載の方法では、銀塩を含む水溶液での処理の際にEPA以外のPUFAも銀塩との錯体を形成してしまうため、EPAを選択的に精製することは難しい。
【0005】
特許文献6には、EPA及び/又はDHA等PUFAを含む原料を銀塩を含む水性溶液と混合し、得られた水相に有機溶媒を添加し、得られた有機溶媒相を真空蒸留することにより、高濃度かつトランス体含量の低いEPAを含む組成物を製造することが記載されている。特許文献7には、EPA及び/又はDHA等のPUFAを含む原料を真空精密蒸留処理して、EPA又はその低級アルコールエステルの含有量が50重量%以上で、かつEPA以外のPUFA又はその低級アルコールエステルの含有量が10重量%以下の留分を採取し、次いで該留分を硝酸銀水溶液と混合し、上層の不純物成分を除去した後、有機溶媒と混合し、得られた有機溶媒相から有機溶媒を除去することにより、高純度EPA又はその低級アルコールエステルを精製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3001954号公報
【文献】特許第2786748号公報
【文献】特許第2935555号公報
【文献】特許第2895258号公報
【文献】特許第6234908号公報
【文献】国際公開公報第2014/054435号
【文献】特開平7-242895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、特許文献1~5に記載されるようなPUFAと銀塩との錯体形成を利用したPUFA精製方法(いわゆる銀塩法)では、原料油と銀塩を含む水溶液との混合の際に、原料油中のEPA以外のPUFAも同時に錯体を形成してしまうため、純度の高いEPAを得ることが難しかった。また、特許文献6~7に記載されるような蒸留と銀塩法とを組み合わせて用いるPUFA精製方法は、より高濃度なEPA含有組成物の製造を可能にするが、真空蒸留のための設備を要するためコストがかかる。さらに、特許文献6~7に記載の方法においてもなお、EPAと、それに物性が似ているアラキドン酸(AA)やエイコサテトラエン酸(ETA)等の他のPUFAとの分離は困難であり、高濃度かつ高純度でEPAを含有する組成物を得ることは容易ではなかった。より簡便かつ低コストに、医薬品や健康食品の原料として使用できる高濃度かつ高純度でEPAを含有する組成物を製造する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特許文献1に記載されるようなPUFAと銀塩の錯体形成に基づくPUFAの精製方法において、銀塩を含む水性溶液で処理する原料油に特定の脂肪酸組成を有する油脂原料を用いることによって、高濃度かつ高純度にEPAを含有する組成物を得ることができることを見出した。
【0009】
本発明は、以下を提供する。
〔1〕エイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物の製造方法であって、下記(1)~(5):
(1)エイコサペンタエン酸アルキルエステルを全脂肪酸中に50~92質量%含有する原料油を準備すること、該原料油に含有されるエイコサペンタエン酸アルキルエステルに対するドコサヘキサエン酸アルキルエステルの質量比は3.3質量%以下であり、かつ該原料油に含有されるエイコサペンタエン酸アルキルエステル中のトランス異性体の比率は2質量%以下である;
(2)該原料油と、銀塩を含む水性溶液とを接触させること;
(3)該原料油と接触させた銀塩を含む水性溶液を回収すること;
(4)回収した銀塩を含む水性溶液と、有機溶媒とを接触させること;及び
(5)該銀塩を含む水性溶液と接触させた有機溶媒を回収することにより、エイコサペンタエン酸アルキルエステルを全脂肪酸中に96質量%以上含有し、且つ該エイコサペンタエン酸アルキルエステル中のトランス異性体の比率が1.5質量%以下であるエイコサペンタエン酸アルキルエステル含有組成物を製造すること、
を含む、方法。
〔2〕前記原料油中のエイコサペンタエン酸アルキルエステルの含有量が全脂肪酸中60~85質量%である、〔1〕記載の方法。
〔3〕前記原料油中におけるドコサヘキサエン酸アルキルエステルの含有量が全脂肪酸中2質量%以下である、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記原料油中における、アラキドン酸アルキルエステルとエイコサテトラエン酸アルキルエステルとの合計含有量が、エイコサペンタエン酸アルキルエステル100質量%に対して26質量%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕(3’)前記(3)において銀塩を含む水性溶液が回収された後の原料油を、新たに調製した銀塩を含む水性溶液と接触させ、次いで該原料油と接触させた銀塩を含む水性溶液を回収することをさらに含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記(4)が、前記(3)及び(3’)で回収した銀塩を含む水性溶液と有機溶媒とを接触させることを含む、〔5〕記載の方法。
〔7〕前記原料油と接触するときの前記銀塩を含む水性溶液の温度が5~30℃である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の方法。
〔8〕前記有機溶媒と接触するときの前記銀塩を含む水性溶液の温度が30~80℃である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、EPA以外のPUFA含量が少なく、かつトランス異性体の比率が低い、高濃度かつ高純度でEPAを含有する組成物を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【0011】
本発明は、EPAアルキルエステル含有組成物の製造方法を提供する。当該本発明の方法は:(1)EPAアルキルエステルを含有する原料油を準備すること;(2)該原料油と、銀塩を含む水性溶液とを接触させること;(3)該原料油と接触させた銀塩を含む水性溶液を回収すること;(4)回収した銀塩を含む水性溶液と、有機溶媒とを接触させること;及び、(5)該銀塩を含む水性溶液と接触させた有機溶媒を回収すること、を含む。
【0012】
本発明のEPAアルキルエステル含有組成物の製造方法で用いられる原料油は、含有する脂肪酸中に主にEPAを含む油脂組成物である。該原料油は、EPAを含有する生物由来の油脂から調製され得る。当該生物由来油脂の例としては、魚類等の海産動物やプランクトン由来の油脂、藻類等の微生物由来の油脂などが挙げられ、中でもイワシ、サバ、マグロ等の魚類由来の油脂、及び藻類由来の油脂が好ましい例として挙げられる。これらの生物由来油脂は、主に、1分子のグリセリンに3分子の脂肪酸が結合したトリグリセリドの形態で脂肪酸を含有する。また少量ではあるが、ジグリセリドやモノグリセリド、遊離脂肪酸を含有し得る。
【0013】
上述したEPAを含有する生物由来の原料油を調製する方法としては、該EPAを含有する生物を加熱及び圧搾して油脂を取りだす方法、搾油された油脂を、さらに尿素処理、クロマトグラム処理、蒸留処理、超臨界処理等にかけて油脂分を分離する方法、などを挙げることができる。
【0014】
該原料油中のPUFAは、アルキルエステル化されている。原料油中のPUFAをアルキルエステル化することにより、本発明の製造方法において、目的とするEPAを、EPA以外の他のPUFAから効率よく分離することができる。当該PUFAのアルキルエステルを構成するアルキル基としては、炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはエチル基である。当該PUFAのアルキルエステルは、PUFAを含有する油脂と所望のアルキル基を有するアルコールとを公知の方法によりエステル化反応させることにより製造することができる。例えば、油脂中に含まれるPUFAトリグリセリドを、触媒又は酵素の存在下で低級アルコールと反応させてアルキルエステル化することにより、PUFAのアルキルエステルを得ることができる。
【0015】
当該原料油におけるEPAアルキルエステルの含有量は、該原料油の全脂肪酸中、50~92質量%、好ましくは50~85質量%、より好ましくは50~75質量%、さらに好ましくは60~85質量%、さらに好ましくは70~85質量%、さらに好ましくは75~85質量%である。全脂肪酸中におけるEPAアルキルエステルの含量が50質量%以上の原料油を用いることにより、最終的に、EPAを高濃度(全含有脂肪酸中96質量%以上)で含む組成物を効率よく得ることができる。他方、原料油のコストの観点、及び後述するように原料油中のトランス異性体比率を低く保つ観点からは、該原料油におけるEPAアルキルエステルの含有量は、92質量%以下であればよいが、85質量%以下がより好ましい。
【0016】
当該原料油は、EPAを主に含むが、EPA以外の他のPUFAも含有し得る。当該他のPUFAとしては、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(AA)、エイコサテトラエン酸(ETA)などを挙げることができる。当該原料油におけるDHA、AA、ETA等の、EPA以外のPUFAのアルキルエステルの含有量は低いことが好ましい。より詳細には、該原料油におけるEPAアルキルエステルに対するDHAアルキルエステルの質量比は、EPAアルキルエステル100質量%に対して、3.3質量%以下であればよいが、好ましくは2.7質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。好ましくは、該原料油におけるDHAアルキルエステルの含有量は、該原料油の全脂肪酸中2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。また好ましくは、該原料油における、AAアルキルエステルとETAアルキルエステルとの合計含有量の、EPAアルキルエステルの含有量に対する比率は、EPAアルキルエステル100質量%に対して26質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは11質量%以下である。
【0017】
上述したEPAを高含有する原料油は、上述したEPAを含有する生物、例えば魚類等の海産動物を加熱して圧搾し、次いで得られた油脂を含む生成物から、尿素処理、クロマトグラム処理、蒸留処理、超臨界処理等でさらに油脂分を分離することにより調製することができる。好適には、本発明で用いられる原料油は、蒸留等の熱処理を含む方法を用いて調製された原料油である。
【0018】
上述のような原料油調製過程での熱処理は、得られた原料油中に好ましくないトランス異性体を生成させることがある。そのような原料油の調製過程で生成されたトランス異性体を除去するために、本発明の方法は有用である。本発明の方法に用いられる原料油は、EPAアルキルエステルのトランス異性体を含有していてもよい。好ましくは、該原料油に含有されるEPAアルキルエステル中のトランス異性体の比率は、2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。EPAのトランス異性体比率が2質量%以下の原料油を用いることにより、最終的に、EPAを高濃度(全含有脂肪酸中96質量%以上)で含有し、かつEPA中のトランス異性体の比率が原料油よりも低減しており、かつ1.5質量%以下である組成物を効率よく得ることができる。
【0019】
本発明の製造方法に用いられる原料油には、EPAアルキルエステルの含有量、及びその他のPUFAアルキルエステルの含有量やトランス異性体の含有量が上述した範囲にある限りにおいて、市販の油脂類を用いてもよい。コスト及び目的とするEPAの収量の安定化の観点からは、含有するPUFAの種類や量が規格化された市販の魚油由来の油脂類を用いることが好ましい。
【0020】
製造されるEPAアルキルエステル含有組成物の品質保持、及び銀塩を含む水性溶液の劣化防止の観点から、本発明の製造方法に用いられる原料油は、酸化指標が低いことが好ましい。脂質の酸化指標は、過酸化物価(POV)、酸価(AV)などで表すことができる。本発明で用いる原料油は、POV(mEq/kg)が、好ましくは10以下、より好ましくは5以下であるか、又はAV(mg/g)が、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下である。さらに好ましくは、該原料油は、POVが10以下かつAVが0.3以下であり、なお好ましくはPOVが5以下かつAVが0.2以下である。POVはヨウ素滴定法(ISO 3960:2007)などによって測定することができる。AVは水酸化カリウム滴定法(ISO 660:2009)などによって測定することができる。
【0021】
油脂における全脂肪酸中の各構成脂肪酸の質量は、ガスクロマトグラフィー(例えば後述する参考例1に記載の方法)により測定することができる。
【0022】
本発明のEPAアルキルエステル含有組成物の製造方法において、上述した原料油は、液体の形態で適用されることが好ましい。当該原料油は、各工程での反応温度において液体の形態である場合は、そのまま本発明の方法の各工程に適用され得る。各工程での反応温度において固体の形態である場合は、当該原料油は、適宜有機溶媒や他の油に溶解又は希釈して適用され得る。該有機溶媒としては、下記工程(2)~(3)を遂行するために、水と分離可能な有機溶媒が使用され、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、四塩化炭素、ジエチルエーテル、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0023】
本発明のEPAアルキルエステル含有組成物の製造方法においては、まず、(1)上述した特定量でEPAアルキルエステル及びその他のPUFAアルキルエステルを含有する原料油を準備する。好ましくは、このような組成の原料油は、上述したように熱処理を含む方法を用いて調製された、熱履歴を有する原料油である。次いで、該(1)で準備された原料油に対して、下記(2)及び(3)の工程を行う:
(2)該原料油と、銀塩を含む水性溶液(以下、銀塩溶液ともいう)とを接触させること;
(3)該原料油と接触させた銀塩溶液を回収すること。
【0024】
当該(2)及び(3)の工程は、PUFAの炭素-炭素二重結合部に銀塩が錯体を形成することにより、EPAを含むPUFAアルキルエステルの抽出溶媒への溶解性が変わることを利用して、原料油からEPAアルキルエステルを分離する工程である。該工程は、例えば、特許文献1~6等に記載されている方法に従って行うことができる。
【0025】
当該銀塩としては、PUFAの不飽和結合と錯体を形成し得るものであれば特に制限されず、例えば硝酸銀、過塩素酸銀、四フッ化ホウ素酸銀、酢酸銀等が挙げられる。このうち、硝酸銀が好ましい。該銀塩溶液の溶媒としては、水、又は水とグリセリンやエチレングリコール等の水酸基を有する化合物との混合媒体が挙げられるが、好ましくは水が用いられる。該銀塩溶液中の銀塩濃度は、0.1mol/L以上であればよいが、好ましくは1~20mol/L程度である。原料油中のPUFAと銀塩とのモル比は、1:100~100:1、好ましくは1:5~1:1程度であるとよい。原料油中のPUFAのモル数は、原料油中のPUFAの総質量をPUFAの平均分子量で除することで算出できる。PUFAの平均分子量は、各PUFAの分子量と原料油中での組成比から算出できる。原料油中のPUFAの総質量及び組成比は、ガスクロマトグラフィー(例えば後述する参考例1に記載の条件での)を用いて算出することができる。
【0026】
上記(2)において、原料油と銀塩溶液とを接触させる手段は特に限定されない。例えば、反応槽に原料油と銀塩溶液をそれぞれ投入して、該反応槽内でそれらを接触させてもよく、又は、予め混合した原料油と銀塩溶液を反応槽に投入することで、該反応槽内でそれらを接触させてもよい。あるいは、WO2017/191821に記載される方法に従って、銀塩溶液の液滴を、反応槽に満たした原料油中に通過させることで、該原料油と銀塩溶液とを接触させてもよい。
【0027】
上記(2)において、当該原料油と接触するときの銀塩溶液の温度(該原料油と銀塩溶液との接触の際の反応温度)は、好ましくは約80℃以下、5℃以上であればよく、より好ましくは5~30℃、さらに好ましくは15~30℃である。該反応温度を上記範囲に維持するための方法としては、該原料油及び/又は銀塩溶液を上記範囲に加温又は冷却した後、それらを接触させる方法、該原料油と銀塩溶液とを接触させるための反応槽の温度を上記範囲に維持する方法、及びそれらの方法の組み合わせが挙げられる。該(2)において、原料油と銀塩溶液との接触の時間は、好ましくは5分~4時間、より好ましくは10分~2時間である。
【0028】
原料油と銀塩溶液との接触により、銀塩溶液中にPUFAと銀との錯体(本明細書においてPUFA-銀錯体とも称する)が生成される。形成された錯体は、水層、すなわち銀塩溶液に移行する。次いで、上記(3)において、原料油と接触させた銀塩溶液を回収することによってPUFA-銀錯体を含む液を取得することができる。
【0029】
上記(2)及び(3)における原料油と銀塩溶液との接触、及び該接触後の銀塩溶液の回収は、バッチ方式により行われてもよく、また連続方式により行われてもよい。例えば、バッチ方式では、EPAアルキルエステルを含む原料油に銀塩溶液を添加し、攪拌しながら原料油と銀塩溶液とを接触させた後、混合液を静置して水層を分離させ、これを回収すればよい。連続方式では、例えば、銀塩溶液の液滴を反応槽に満たした原料油中に通過させる際に、銀塩溶液を連続的に反応槽に投入する一方、通過後の銀塩溶液を連続的に回収するか、又は蓄積して回収すればよい。連続方式の別の例では、反応槽として流路型攪拌機を用いる。攪拌機の一方の口から原料油と銀塩溶液を投入し、これらを撹拌しながら他方の口へと移送して分離槽へと送り出し、分離槽で水層を分離して回収すればよい。
【0030】
好ましくは、本発明の製造方法は、上記(3)に続いて、以下の工程:
(3’)該(3)において銀塩溶液が回収された後の原料油を、新たな銀塩溶液と接触させ、次いで該原料油と接触させた銀塩溶液を回収すること、
をさらに含む。該(3)で銀塩溶液から分離された原料油には、錯体化されなかったEPAがなお含まれていることがある。そのため、分離した原料油を、新たな銀塩溶液と接触させることで、該原料油中に残存するPUFAをPUFA-銀錯体に変換することができるので、EPAの回収率(原料油中EPA量に対する回収したEPA量の割合)が向上する。該(3’)において、該原料油と接触させる新たな銀塩溶液としては、新たに調製した銀塩溶液を用いてもよく、又は後述の(5)の工程でPUFAを回収された銀塩溶液を、必要に応じて洗浄した後、再使用してもよい。原料油と銀塩溶液との接触の際の条件(温度等)は、上記(2)について記載した条件の範囲内で適宜設定可能である。該(3’)の工程は、2回以上繰り返してもよい。その場合、1回目の該(3’)で銀塩溶液から分離された原料油を、2回目の該(3’)に供し、必要に応じてこれを繰り返す。該(3’)で用いる原料油は、EPAアルキルエステルを全脂肪酸中に5質量%以上含有していることが好ましい。原料油中のEPAアルキルエステル含有量に応じて、該(3’)の回数を適宜決定することができる。該(3’)で回収された銀塩溶液は、別途回収されたPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液と合一して、後述するPUFAアルキルエステルの抽出工程(下記(4)及び(5))に供することもでき、又はそれ単独で該抽出工程に供することもできる。
【0031】
上記で回収したPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液は、PUFAアルキルエステルの抽出工程(下記(4)及び(5))に用いられる。必要に応じて、回収したPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液を、該抽出工程に用いる前に、有機溶媒で洗浄してもよい。該洗浄では、該回収した銀塩溶液を有機溶媒と接触、好ましくは撹拌した後、水層を分離、回収すればよい。該洗浄に用いる有機溶媒は、上述した原料油の溶解に用いることができる有機溶媒であればよい。洗浄の条件(温度等)は、上記(2)について記載した条件の範囲内で適宜設定可能である。
【0032】
本発明のEPAアルキルエステル含有組成物の製造方法においては、上述したPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液の回収に続いて、下記(4)及び(5)を行う:
(4)回収した銀塩溶液と、有機溶媒とを接触させること;
(5)該銀塩溶液と接触させた有機溶媒を回収すること。
【0033】
当該(4)及び(5)の工程は、上記(3)で回収したPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液に有機溶媒を添加し、該溶液中のEPAアルキルエステルを有機溶媒に抽出させた後、該EPAアルキルエステルを含む有機溶媒を回収する工程である。該工程は、例えば、特許文献1、5等に記載されている方法に従って行うことができる。
【0034】
上記(4)で用いる有機溶媒としては、ヘキサン、エーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の、PUFAへの溶解性が高く、かつ水と分離可能な溶媒が挙げられる。このうち、ヘキサン又はシクロヘキサンが好ましい。銀塩溶液と有機溶媒の量としては、体積比として、好ましくは100:3~300、より好ましくは100:3~200である。
【0035】
有機溶媒と銀塩溶液とを接触させる手段は特に限定されない。例えば、反応槽から回収された銀塩溶液は、銀塩溶液と有機溶媒との接触のための抽出槽に移送され、そこで有機溶媒と接触する。該有機溶媒と銀塩溶液との接触により、該銀塩溶液中のPUFAアルキルエステルが有機溶媒に移行する。次いで、上記(5)において、銀塩溶液と接触させた有機溶媒を回収することによって目的のEPAアルキルエステルを含有する有機溶媒を取得することができる。
【0036】
好ましくは、当該有機溶媒と接触するときの銀塩溶液の温度(該有機溶媒と銀塩溶液との接触の際の反応温度)は、上記(2)での反応温度、すなわちPUFA-銀錯体の生成温度よりも高い温度になるようにする。より好ましくは上記(2)での反応温度、すなわち該錯体の生成温度よりも20℃以上高い温度にする。例えば、工程(4)での反応温度は、好ましくは30~80℃、より好ましくは50~70℃である。該反応温度を上記範囲に維持するための方法としては、銀塩溶液及び/又は有機溶媒を上記範囲に加温した後、それらを接触させる方法、抽出槽の温度を上記範囲に維持する方法、及びそれらの方法の組み合わせが挙げられる。該(4)において、有機溶媒と銀塩溶液との接触の時間は、好ましくは5分~4時間、より好ましくは10分~2時間、さらに好ましくは30分~2時間である。
【0037】
上記(4)及び(5)における有機溶媒と銀塩溶液との接触、及び該接触後の有機溶媒の回収は、バッチ方式により行われてもよく、また連続方式により行われてもよい。例えば、バッチ方式では、有機溶媒に銀塩溶液を添加し、攪拌しながら有機溶媒と銀塩溶液とを接触させた後、混合液を静置して有機溶媒層を分離させ、これを回収すればよい。連続方式の例では、抽出槽として流路型攪拌機を用いる。攪拌機の一方の口から有機溶媒と銀塩溶液を投入し、これらを撹拌しながら他方の口へと移送して分離槽へと送り出し、分離槽で有機溶媒層を分離して回収すればよい。
【0038】
上記の工程で有機溶媒から分離された銀塩溶液は、必要に応じて、再度有機溶媒と接触させてもよい。例えば、上記の工程で有機溶媒から分離された銀塩溶液を、必要に応じて別途行われた上記(3)で回収した追加の銀塩溶液とともに、有機溶媒に添加する。ここで用いる有機溶媒には、上記の工程で回収したものを再使用してもよく、又は一部もしくは全部に新たな有機溶媒を用いてもよい。接触の際の条件(温度等)は、上記(4)と同様にすればよい。この操作をさらに繰り返してもよい。該有機溶媒と銀塩溶液との再度の接触によりPUFAアルキルエステルがさらに抽出されるので、目的のEPAアルキルエステルをより多く回収することができる。
【0039】
さらに、回収した有機溶媒をシリカゲル、活性炭、二酸化ケイ素などの吸着剤に通液することにより、残留する銀イオンをさらに除去してもよい。
【0040】
なお、上記の工程で有機溶媒から分離された銀塩溶液は、再度原料油と接触させてもよい。ここで用いる原料油には、EPAアルキルエステルの含有量、及びその他のPUFAアルキルエステルの含有量やトランス異性体の含有量が上述した範囲にある限りにおいて、上記の工程で銀塩溶液から分離したものを再使用してもよく、又は一部もしくは全部に新たな原料油を用いてもよい。該接触の際の条件(温度等)は、上記(2)と同様にすればよい。この操作をさらに繰り返してもよい。該原料油と銀塩溶液との再度の接触により多くのPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液を回収することができる。
【0041】
好ましくは、以上の本発明の製造方法の手順は、低酸素条件下で行われる。低酸素条件は、例えば、本発明の方法の系(例えば反応槽、抽出槽、分離槽、それらの連絡路等)を外気から遮断した密閉系とすること、系内部を窒素雰囲気下におくこと、系内部に液体(原料油、銀塩溶液、又は有機溶媒)を満たすこと、などにより達成することができる。好ましくは、系を外気から遮断した密閉系とし、これに原料油又は銀塩溶液を満たす。反応槽及び抽出槽でのプロセスを連続方式で行う場合、一旦系に液体を満たしてしまえば、あとは低酸素状態を維持することができる。好ましくは、本明細書における低酸素条件とは、酸素濃度0.4%未満、より好ましくは0.1%以下の条件をいう。また好ましくは、本発明の方法は、遮光下で行われる。本発明の方法を低酸素条件及び遮光下で行うことにより、銀塩溶液のpH低下や、原料油、銀塩溶液及び有機溶媒中の油脂の酸化を抑制し、銀塩溶液の劣化や精製されるPUFA含有組成物の劣化を防止することができる。
【0042】
本発明のEPAアルキルエステル含有組成物の製造方法において、上記(5)で回収された有機溶媒は、原料油から分離されたEPAのアルキルエステルを含有する。したがって、該回収された有機溶媒は、EPAアルキルエステル含有組成物として取得され得る。さらに必要に応じて、該回収された有機溶媒を、濃縮、クロマトグラフィー、蒸留などにより精製して、EPAアルキルエステルをより高濃度で含む組成物を調製してもよい。なお、精製によりEPAアルキルエステルを分離した後の有機溶媒は、上記(4)におけるEPAアルキルエステルの抽出に再使用することができる。
【0043】
本発明の製造方法により得られたEPAアルキルエステル含有組成物は、含有する全脂肪酸中に、EPAのアルキルエステルを、96質量%以上含有し、かつ該EPAアルキルエステル中のトランス異性体の比率は1.5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。また、本発明の製造方法によれば、90%以上、好ましくは95%以上のEPA回収率を達成することが可能である。したがって、本発明の製造方法によれば、96質量%以上の高濃度で、トランス異性体比率が1.5質量%以下の高純度EPAを含有する組成物を、高収量で製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0045】
(参考例1)脂肪酸組成比の分析
測定試料12.5mgをn-ヘキサン1mLに希釈し、ガスクロマトグラフィー分析装置(Type 7890 GC;Agilent Technologies製)を用いて、以下の条件にて全脂肪酸中における各脂肪酸の含有比を分析した。結果は、クロマトグラムの面積から換算した質量%として表した。
<注入口条件>
注入口温度:250℃、スプリット比:10
<カラム条件>
カラム:J&W社製DB-WAX 0.25mm×30m
カラム温度:210℃
He流量:1.0 mL/min、He圧力:20 PSI
<検出条件>
H2流量:40 mL/min、Air流量:450 mL/min
He流量:1.00 mL/min、DET温度:260℃
【0046】
分析した脂肪酸は、以下のとおりである:EPA-E:エイコサペンタエン酸エチルエステル、DHA-E:ドコサヘキサエン酸エチルエステル、AA-E:アラキドン酸エチルエステル、ETA-E:エイコサテトラエン酸エチルエステル。
【0047】
EPA-E回収率は、以下の式により計算した。
EPA-E回収率(%)=(生成物中におけるEPA-Eの質量(%)×生成物質量)/(原料油中におけるEPA-Eの質量(%)×原料質量)×100
【0048】
(原料油)
蒸留精製によって表1に示す脂肪酸組成を有する原料油1~13を準備した。
【0049】
【0050】
(実施例1)
30gの原料油1をシクロヘキサン14mLとよく攪拌混合して溶解させた。得られた溶液41gと銀塩溶液(50質量%硝酸銀水溶液)150gをフラスコに加え、窒素雰囲気(酸素濃度0.4%)下、20℃で20分間、300rpmの速度にて攪拌した。攪拌後の液体を15分間、20℃で静置し、分離した有機層と水層(PUFA-銀錯体を含む銀塩溶液)をそれぞれ回収した。回収した有機層に新たに調製した銀塩溶液150gを加え、窒素雰囲気(酸素濃度0.4%)下、20℃で20分間、300rpmの速度にて攪拌し、攪拌後の液体を15分間、20℃で静置した。分離した水層を回収し、これにシクロヘキサン15mLを加え、20℃で20分間、300rpmの速度で撹拌し、撹拌後の液体を15分間、20℃で静置し、分離した水層(PUFA-銀錯体を含む銀塩溶液)を回収した。得られた2つの水層を混合し、シクロヘキサン280mLを加え、60℃の条件下で20分間、300rpmの速度にて攪拌して、水層中のPUFAエチルエステルをシクロヘキサン中に抽出した。攪拌後の液体を静置し、分離した有機層を回収した後、濃縮してPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0051】
(実施例2)
原料油2を使用した以外は、実施例1と同様の手順でPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0052】
(実施例3)
30gの原料油3をシクロヘキサン35mLとよく攪拌混合して溶解させた。得られた溶液57gと銀塩溶液(50質量%硝酸銀水溶液)380gとをフラスコに加え、窒素雰囲気(酸素濃度0.4%)下、20℃で20分間、300rpmの速度にて攪拌した。攪拌後の液体を15分間、20℃で静置した。分離した水層を回収し、これにシクロヘキサン15mLを加え、20℃で20分間、300rpmの速度で撹拌し、撹拌後の液体を15分間、20℃で静置し、分離した水層(PUFA-銀錯体を含む銀塩溶液)を回収した。得られた水層を60℃に加温し、シクロヘキサン350mLを加え、60℃の条件下で20分間、300rpmの速度にて攪拌して、水層中のPUFAエチルエステルをシクロヘキサン中に抽出した。攪拌後の液体を静置し、分離した有機層を回収した後、濃縮してPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0053】
(実施例4)
原料油4を使用した以外は、実施例1と同様の手順でPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0054】
(実施例5)
30gの原料油11をシクロヘキサン14mLとよく攪拌混合して溶解させた。得られた溶液41gと銀塩溶液(50質量%硝酸銀水溶液)120gをフラスコに加え、窒素雰囲気(酸素濃度0.4%)下、20℃で20分間、300rpmの速度にて攪拌した。攪拌後の液体を15分間、20℃で静置し、分離した有機層と水層(PUFA-銀錯体を含む銀塩溶液)をそれぞれ回収した。回収した有機層に新たに調製した銀塩溶液120gを加え、窒素雰囲気(酸素濃度0.4%)下、20℃で20分間、300rpmの速度にて攪拌し、攪拌後の液体を15分間、20℃で静置した。分離した水層を回収し、これにシクロヘキサン60mLを加え、20℃で20分間、300rpmの速度で撹拌し、撹拌後の液体を15分間、20℃で静置し、分離した水層(PUFA-銀錯体を含む銀塩溶液)を回収した。得られた2つの水層を混合し、シクロヘキサン450mLを加え、60℃の条件下で20分間、300rpmの速度にて攪拌して、水層中のPUFAエチルエステルをシクロヘキサン中に抽出した。攪拌後の液体を静置し、分離した有機層を回収した後、濃縮してPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0055】
(実施例6)
原料油12を使用した以外は、実施例5と同様の手順でPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
(実施例7)
原料油13を使用した以外は、実施例1と同様の手順でPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0056】
(比較例1)
原料油5を使用した以外は、実施例1と同様の手順でPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0057】
(比較例2)
原料油6を使用した以外は、実施例3と同様の手順でPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0058】
(比較例3)
原料油7を使用した以外は、実施例1と同様の手順でPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0059】
(比較例4)
30gの原料油8をシクロヘキサン70mLとよく攪拌混合して溶解させた。得られた溶液84gと銀塩溶液(50質量%硝酸銀水溶液)380gとをフラスコに加え、窒素雰囲気(酸素濃度0.4%)下、20℃で20分間、300rpmの速度にて攪拌した。攪拌後の液体を15分間、20℃で静置した。分離した水層を回収し、これにシクロヘキサン38mLを加え、20℃で20分間、300rpmの速度で撹拌し、撹拌後の液体を15分間、20℃で静置し、分離した水層(PUFA-銀錯体を含む銀塩溶液)を回収した。得られた水層を60℃に加温し、シクロヘキサン350mLを加え、60℃の条件下で20分間、300rpmの速度にて攪拌して、水層中のPUFAエチルエステルをシクロヘキサン中に抽出した。攪拌後の液体を静置し、分離した有機層を回収した後、濃縮してPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0060】
(比較例5~6)
原料油9~10を使用した以外は、比較例4と同様の手順でPUFAエチルエステル含有組成物を得た。
【0061】
(試験1)
実施例1~7及び比較例1~6で得られた組成物の脂肪酸組成を参考例1の手順で測定した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、原料油におけるEPA-Eの含有量が高く、かつDHA-E/EPA-E比、及びEPA-Eトランス異性体量がいずれも低い場合、全脂肪酸中にEPA-Eを96質量%以上含有し、かつEPA-E中のトランス異性体の比率が1.5質量%以下である組成物を得ることができた。原料油中のEPA-E量が低すぎると、EPA-E量が充分に高い生成物を得られなかった。またDHA-E/EPA-E比又はEPA-Eトランス異性体量が高くなると、EPA-E回収率が低下する傾向があった。
【0062】