(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】食事由来の多糖の利用性が高い新規ビフィドバクテリウム属細菌
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240729BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240729BHJP
C12N 15/56 20060101ALN20240729BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
C12N15/56
(21)【出願番号】P 2021512007
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014045
(87)【国際公開番号】W WO2020203782
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019065395
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02928
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02929
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02930
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02931
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02932
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02933
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋平
(72)【発明者】
【氏名】原 妙子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 好美
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】松木 隆広
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0288585(US,A1)
【文献】特表2007-527199(JP,A)
【文献】国際公開第2019/112053(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/112054(WO,A1)
【文献】Applied microbiology and biotechnology,2005年01月14日,vol. 67, no. 5,pp. 641-647
【文献】Frontiers in microbiology,2017年04月19日,vol. 8,article 640 (pp. 1-10)
【文献】“Accession: BAQ29203.1 [GI: 757808417] DEFINITION putative endoxylanase [Bifidobacterium catenulatu,NCBI Sequence Revision History [online],2016年10月07日,<URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/757808417?sat=3&satkey=37584595 > [2020.06.09 retrieved] which retrieved from the internet: <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/BAQ29203.1?report=girevhist >
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシラナーゼ遺伝子をゲノム上に有するビフィドバクテリウム属細菌
であって、キシラナーゼ遺伝子が配列番号1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド又は当該塩基配列と90%以上の同一性を有し、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、ビフィドバクテリウム属細菌。
【請求項2】
キシラン類を資化する能力を有する請求項
1記載のビフィドバクテリウム属細菌。
【請求項3】
キシラン類がキシラン及びアラビノキシランである請求項
2記載のビフィドバクテリウム属細菌。
【請求項4】
スターチを資化する能力を有する請求項1~
3のいずれか1項記載のビフィドバクテリウム属細菌。
【請求項5】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムに分類される請求項1~
4のいずれか1項記載のビフィドバクテリウム属細菌。
【請求項6】
ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11027(NITE BP-02928)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11055(NITE BP-02929)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057(NITE BP-02930)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11952(NITE BP-02931)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11954(NITE BP-02932)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT12989(NITE BP-02933
)。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項記載のビフィドバクテリウム属細菌を含有する飲食品。
【請求項8】
発酵乳飲食品である請求項
7記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムに分類されるビフィドバクテリウム属細菌に関する。
【背景技術】
【0002】
プロバイオティクスが宿主の生理機能に影響を及ぼす要因の一つは、プロバイオティクスが、消化管内に残存する糖源を代謝し、乳酸、酢酸等の短鎖脂肪酸を産生することであると推察される。これまでの検討から、成人の腸管で優占するビフィズス菌種のゲノムには、乳児由来のビフィズス菌種に比べて植物由来の難消化性多糖、特に成人の食事に多く含まれるキシラン類の代謝に関わる遺伝子が多いことが明らかとなっている。
【0003】
従って、難消化性多糖の利用性が高いビフィズス菌株は、成人の腸内での増殖と高い有機酸産生能が期待されることから、成人向けプロバイオティクスの有望な候補になると考えられる。
【0004】
従来、難消化性多糖類を利用可能なビフィズス菌として、例えば、スターチを資化できるビフィドバクテリウム・ブレーベ株(非特許文献1)やビフィドバクテリウム・ビフィダム株(非特許文献2)、アラビノガラクタンを資化できるビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム株(非特許文献3)等の存在が知られている。
【0005】
しかしながら、食事中に含まれる主要な難消化性多糖であるキシラン類のキシロース骨格を分解可能なビフィズス菌はこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】BMC Genomics (2014) 15:170
【文献】Environmental Microbiology (2015) 17(7), 2515-2531
【文献】日本食品微生物学会雑誌、Vol.24 No.4 Page.163-170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、キシラン類を利用可能な新規ビフィズス菌株を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、ヒトの腸内より、キシラン類を効率よく資化できる新規微生物株を単離、同定することができた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の1)~9)に係るものである。
1)キシラナーゼ遺伝子をゲノム上に有するビフィドバクテリウム属細菌。
2)キシラナーゼ遺伝子が配列番号1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド又は当該塩基配列と70%以上の同一性を有し、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである、1)のビフィドバクテリウム属細菌。
3)キシラン類を資化する能力を有する1)又は2)のビフィドバクテリウム属細菌。
4)キシラン類がキシラン及びアラビノキシランである3)のビフィドバクテリウム属細菌。
5)スターチを資化する能力を有する1)~4)のいずれかのビフィドバクテリウム属細菌。
6)ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムに分類される1)~5)のいずれかのビフィドバクテリウム属細菌。
7)ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11027(NITE BP-02928)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11055(NITE BP-02929)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057(NITE BP-02930)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11952(NITE BP-02931)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11954(NITE BP-02932)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT12989(NITE BP-02933)、又はこれらと近縁な菌株。
8)1)~7)のいずれかのビフィドバクテリウム属細菌を含有する飲食品。
9)発酵乳飲食品である8)の飲食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る新規なビフィドバクテリウム属は、成人の食事に多く含まれるキシラン類、特にアラビノキシランを分解資化する能力を有する。したがって、本発明のビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムは、成人の腸内での増殖と高い有機酸産生能が期待され、成人向けプロバイオティクスとして、医薬品、食品等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】YIT11057株のキシロース骨格切断活性。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のビフィドバクテリウム属細菌は、キシラナーゼ遺伝子をゲノム上に有するものであればその種は特に限定されない。例えば、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium.pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B.bifidum)、ビフィドバクテリウム・アニマーリス(B.animalis)、ビフィドバクテリウム・ズイス(B.suis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(B.adolescentis)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(B.catenulatum)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(B.lactis)、ビフィドバクテリウム・グロボサム(B.globosum)、ビフィドバクテリウム・アンギュラータム(B.angulatum)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(B.dentium)等のいずれの種であってもよいが、好適にはビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムが挙げられる。
従来、キシラナーゼ遺伝子をゲノム上に有するビフィズス菌は知られておらず、本発明のビフィドバクテリウム属細菌は新規な細菌であると言える。
【0013】
「キシラナーゼ遺伝子」とは、GH10に分類されるキシラナーゼをコードする遺伝子(endo-1,4-beta-xylanase A ;xynA)を指すが、本発明のビフィドバクテリウム属細菌がそのゲノム上に保有する「キシラナーゼ遺伝子」としては、具体的には、配列番号1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド又は当該塩基配列と70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有し、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが包含される。
ここで、配列番号1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、後述するYIT11057株が保有するキシラナーゼ遺伝子を指す。
【0014】
また、塩基配列の同一性は、比較すべき2つの核酸配列の塩基ができるだけ多く一致するように両塩基配列を整列させ、一致した塩基数を全塩基数で除したものを百分率で表したものである。当業者であれば、BLAST、ClustalXやGenetyxといったソフトウェアのパラメーターを適当に設定し、塩基配列の同一性を決定することができる。
また、キシラナーゼ活性とは、キシラン類を基質とし、キシラン類のキシロース骨格を加水分解してキシロオリゴ糖及びキシロースを生成する活性(キシラン加水分解活性)を意味する。
ここで、キシラン類としては、キシラン、アラビノキシラン、グルクロノキシラン、グルクロノアラビノキシラン、アセチルキシラン等が挙げられるが、キシラン及びアラビノキシランが好ましい。
したがって、本発明のキシラナーゼ遺伝子をゲノム上に有するビフィドバクテリウム属細菌は、換言すれば、キシラン類のキシロース骨格を分解する能力を有するビフィドバクテリウム属細菌である。
【0015】
本発明において、「キシラン類を資化する能力を有する」とは、キシラン類を炭素源として増殖できる能力を有していることをいう。具体的には、例えば、キシラン類を唯一の炭素源とする培地において増殖できることをいう。例えば、キシラン類のみを糖源とする培地で72時間培養したときの濁度、例えば、OD600増加量が0.1以上であることを言う。濁度は、OD600増加量が0.3以上であるのが好ましく、0.4以上がより好ましい。また、不溶性画分の多いキシラン類を添加した培地など、濁度の変化を測定できない場合では、72時間培養したときの培養上清中の短鎖脂肪酸の産生、例えば、乳酸、酢酸及びギ酸の合計産生量が10mM以上であることを言う。短鎖脂肪酸産生量は、合計20mM以上が好ましく、40mM以上がより好ましい。
【0016】
キシラン類資化能の試験に用いられる培養培地としては、糖源を除いた培地にキシラン類を添加したものを用いればよく、糖源を除いた培地の組成は、M-ILS培地、Peptone-Yeast (PY)培地等の組成とすることができる。
キシラン類の培地への添加量は、培地中に0.01~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましく、0.1~1質量%が更に好ましい。なお、対照として糖源を除いた培地で対象となるビフィドバクテリウム属細菌を培養し、ODを確認しておくことが望ましい。
【0017】
斯様に、本発明のキシラナーゼ遺伝子をゲノム上に有するビフィドバクテリウム属細菌は、キシラン類を分解資化する能力を有することから、キシラン類が分解されることにより産生される酢酸、乳酸、ギ酸等の短鎖脂肪酸の供給に寄与することができる。
【0018】
本発明のビフィドバクテリウム属細菌は、キシラナーゼ遺伝子の存在や、上述のキシラン類を資化する能力を指標として、例えばヒト(例えば、成人、乳幼児)の腸内に存在するビフィドバクテリウム属細菌、好ましくはビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムからスクリーニングすることにより取得することができる。例えば、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムから、後記実施例で示した16株、更にはYIT11027、YIT11055、YIT11057、YIT11952、YIT11954、YIT12989の6株を選抜することができる。本発明のビフィドバクテリウム属細菌としては、キシラナーゼ遺伝子をゲノム上に有する限り、これらには限定はされず、生物学上、遺伝学上これらに近縁な菌株が包含される。また、本発明のビフィドバクテリウム属細菌としては、キシラナーゼ遺伝子をゲノム上に有する限り、自然界に存在する天然株でもよく、天然株の変異種、又は遺伝子改変種であってもよい。
【0019】
YIT11027株、YIT11055株、YIT11057株、YIT11952株、YIT11954株、YIT12989株は、以下に示すように、2019年3月25日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されている。
ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11027(NITE BP-02928)、
ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11055(NITE BP-02929)、
ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11057(NITE BP-02930)、
ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11952(NITE BP-02931)、
ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT11954(NITE BP-02932)、
ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム YIT12989(NITE BP-02933)。
このうち、キシラン類を資化する能力の点、更にスターチ資化能を併せ持つ点から、YIT11027株、YIT11057株、YIT11954株又はその近縁な菌株が好ましい。更に、酸・胆汁酸耐性を有する、ゲノム中に溶原ファージが検出されないという特性を併せ持つ点から、YIT11057株又はその近縁な菌株がより好ましい。
ここで、スターチ資化能とは、スターチを炭素源として増殖できる能力を有していることをいう。酸・胆汁酸耐性とは、人工胃酸及び人工胆汁酸の連続暴露処理後の生残性をいう。溶原ファージが存在しないとは、ファージ探索プログラムサーバーであるPHASTER(http://phaster.ca/)を用いてゲノム配列中に既存のファージと相同性の高い領域が検出されなかったことをいう。
【0020】
また、近縁な菌株とは、複数のハウスキーピング遺伝子配列を評価するMultilocus sequence analysis(MLSA)法により配列が一致する菌株を示す。
具体的には、ビフィズス菌のMLSA解析に適した遺伝子として報告(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2006), 56, 2783-2792)されているDNA gyrase subunit B(gyrB)、50S ribosomal protein L2(rplB)、Amidophosphoribosyltransferase(purF)、DNA-directed RNA polymerase subunit beta(rpoB)、ATP-dependent Clp
protease ATP-binding subunit ClpC1(clpC)、Elongation factor G(fusA)、Isoleucine-tRNA ligase(ileS)の全長配列を取得し、各菌株ごとに全遺伝子を連結後、VSEARCHやBLAST等のプログラムを用いて比較対象株間の配列の一致性を検証し、配列同一性が90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である場合に近縁種であると判断できる。
YIT11057株におけるgyrB遺伝子、rplB遺伝子、purF遺伝子、rpoB遺伝子、clpC遺伝子、fusA遺伝子及びileS遺伝子の塩基配列を配列表に示す(gyrB:配列番号2、rplB:配列番号3、purF:配列番号4、rpoB:配列番号5、clpC:配列番号6、fusA:配列番号7、ileS:配列番号8)。
【0021】
本発明のビフィドバクテリウム属細菌の利用形態は特に制限されず、凍結乾燥したものであってもよく、あるいはこれら細菌を含む培養物として利用することもできるが、いずれの形態であっても、細菌が生菌の状態であることが好ましい。
【0022】
本発明のビフィドバクテリウム属細菌は、固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で利用することもできる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0023】
本発明のビフィドバクテリウム属細菌は、上記のような製剤とするだけでなく、飲食品に配合して使用することもできる。飲食品に配合する場合は、そのまま、又は種々の栄養成分と共に含有せしめればよい。具体的に本発明のビフィドバクテリウム属細菌を飲食品に配合する場合は、飲食品として使用可能な添加剤を適宜使用し、慣用の手段を用いて食用に適した形態、すなわち、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペースト等に成形してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、清涼飲料、茶飲料等の飲料に添加して使用してもよい。なお、飲食品には、動物の飼料も含まれる。
【0024】
更に飲食品としては、本発明のビフィドバクテリウム属細菌を生菌の状態で含有する発酵乳飲食品、発酵豆乳、発酵果汁、発酵野菜汁等の発酵飲食品が好適に用いられ、特に発酵乳飲食品の利用が好ましい。発酵乳飲食品の製造は常法に従えばよく、例えば発酵乳を製造する場合には、殺菌した乳培地に本発明のビフィドバクテリウム属細菌を単独又は他の微生物と同時に接種培養し、これを均質化処理して発酵乳ベースを得る。次に別途調製したシロップ溶液を添加混合し、ホモゲナイザー等で均質化し、更にフレーバーを添加して最終製品に仕上げればよい。このようにして得られる発酵乳飲食品は、シロップ(甘味料)を含有しないプレーンタイプ、ソフトタイプ、フルーツフレーバータイプ、固形状、液状等のいずれの形態の製品とすることもできる。
【0025】
斯かる発酵乳飲食品にはシロップ等の甘味料、乳化剤、増粘(安定)剤、各種ビタミン等の任意成分を配合することができる。シロップとしては、グルコース、ショ糖、フルクトース、果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、ガラクトオリゴ糖(GOS)、キシロオリゴ糖(XOS)、アラビノキシロオリゴ糖(AXOS)、キシラン、アラビノキシラン、アラビノオリゴ糖(AOS)、アラビナン、麦芽糖、蜂蜜、糖蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコール等の増粘(安定)剤を配合してもよい。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE類等のビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル分、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、クリーム、バター、サワークリーム等の乳脂肪、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類、ハーブエキス、黒糖エキス等を配合することも可能である。
【0026】
発酵乳飲食品の製造には、本発明のビフィドバクテリウム属細菌以外の微生物を併用することも可能である。このような微生物としては例えば、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ブヒネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・アミロボラス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・ラムノーザス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・ケフィア(L.kefir)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・クリスパタス(L.crispatus)、ラクトバチルス・ゼアエ(L.zeae)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L.helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(L.salivalius)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L.fermentum)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカス(L.delbrueckii subsp.bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.デルブルッキィ(L.delbrueckii subsp.delbrueckii)、ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス(Lactococcus lactis subsp.lactis)、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)等のエンテロコッカス属細菌、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属細菌、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyses cerevisiae)、トルラスポラ・デルブルッキィ(Torulaspora delbrueckii)、キャンジダ・ケフィア(Candida kefyr)等のサッカロマイセス属、トルラスポラ属、キャンジダ属等に属する酵母が挙げられる。本発明のビフィドバクテリウム属細菌と共にラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス属細菌から選ばれる1種以上を併用して発酵乳飲食品を製造すると高い嗜好性が得られ、飲食が容易となるため好ましい。
【0027】
本発明のビフィドバクテリウム属細菌を使用する場合の投与量に厳格な制限はないが、その好適な投与量は生菌数として1日当たり105cfu~1013cfuであり、特に108cfu~1012cfuが好ましい。
【実施例】
【0028】
実施例1 キシラン類を資化する能力を有するビフィドバクテリウム属細菌の選抜
i)使用菌株
ヒト糞便より単離され、Bifidobacterium pseudocatenulatumと同定された53株をスクリーニング対象とした。
【0029】
ii)基質
キシラン(オーツ麦由来) 、アラビノキシラン(小麦由来)、キシランの酵素処理により工業的に製造されるキシロオリゴ糖(xylooligo-saccharide; XOS) を解析に用いた。キシラン及びアラビノキシランに関しては、HPLCで確認した結果、単糖の混入は認められなかった(データ未掲載)。また、それぞれの構成単糖であるキシロース及びアラビノース、増殖確認用コントロールとして、代表的な難消化性多糖であるスターチ及びその構成単糖であるグルコース、そしてラクトースも解析に供した。各基質の1%懸濁液を調製後、キシラン、アラビノキシラン、スターチはオートクレーブ滅菌、他の基質は0.22μmフィルターを用いて濾過滅菌した。
【0030】
iii)資化性試験
増殖に付随したpH低下による菌の増殖抑制を防ぐため、100 mM PIPESを添加したm-PY培地を用いた。使用時まで窒素ガス充填下で冷蔵保存していた2倍濃縮m-PY培地に、1%基質溶液を等量混合して培養試験に用いた(終濃度0.5%)。
凍結菌液を変法GAM寒天培地に植菌後、2-3日間培養して得られたコロニーを、1%グルコース・ラクトース添加変法GAM液体培地に継代した。継代の際には、多数のコロニーを掻き取るように注意した。37℃で一晩静置培養し、翌朝、新鮮な同培地に5 %量の菌液を再度継代した。対数増殖期に到達するまで6-9時間程度培養後、濁度を測定した。培養液100μlを遠心して上清を除去後、OD600=0.2となるように糖源無添加m-PY培地を添加してペレットを懸濁した。96穴プレートに各培地198μlを分注し、菌液2μlを添加後、50μlのミネラルオイルを重層して、マイクロプレートリーダーPowerWave 340(バイオテック社)内で、37℃で培養した。
30分ごとに濁度を測定し、培養開始から60時間までの濁度をモニタリングした。以上の培養操作は全て嫌気グローブボックス内で行った。60時間後、培養液を一部分取し、除タンパク処理後、HPLCに供して短鎖脂肪酸産生量を測定した。なお、キシラン添加m-PY培地に多量の不溶性粒子が認められる場合は、濁度の測定のみでは菌体の増殖を確認できないことから、短鎖脂肪酸産生の有無で資化性を判断した。60時間培養したときの培養上清中の短鎖脂肪酸をHPLCを用いて測定し、乳酸、酢酸及びギ酸の合計産生量が10mM以上であることを確認した。各種基質をどれだけの株が資化できたかの結果を表1に示す。
【0031】
【0032】
B.pseudocatenulatumの全菌株でキシロオリゴ糖の利用性が認められたが、より長鎖であるキシラン類の利用性は菌株間で異なり、キシラン及びアラビノキシランを資化した16株を、キシラン類を資化する能力を有するビフィドバクテリウム属細菌として選抜した。
【0033】
キシラン類を資化する能力を有するビフィドバクテリウム属細菌株を、キシランを糖源とする液体培地で培養し、対数増殖期前期の培養上清中のオリゴ糖をHPLCで解析した。その結果、キシロース及びキシロオリゴ糖が生成したことを確認した。このことから、本細菌はキシロース骨格をキシロース及びキシロオリゴ糖に切断する活性を有することが確認された。上記16株の一つであるYIT11057株を用いた解析結果を代表例として
図1に示す。
図1中のX1~X6は、それぞれキシロース及びその数のキシロース骨格を有するキシロオリゴ糖を示しており、培地中では確認できなかったキシロース及びキシロオリゴ糖が、YIT11057株の培養により産生されたことがわかる。
【0034】
実施例2 YIT11027、YIT11055、YIT11057、YIT11952、YIT11954、YIT12989の6株の諸性質
上記のキシラン類を資化する能力を有する16株から選ばれた次の6株、YIT11027、YIT11055、YIT11057、YIT11952、YIT11954、YIT12989の資化性を以下に示す。YIT11027、YIT11057、YIT11954の3菌株は、キシラン類の資化性とともにスターチの資化性も確認できた(表2)。
【0035】
【0036】
実施例3 ゲノム解析
菌体からゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンサーMiseq(イルミナ社)を用いてドラフトゲノムを決定した。遺伝子領域を予測した後に、全アミノ酸配列を糖代謝遺伝子データベースdbCANに参照し、糖代謝遺伝子を抽出した。キシラン類の利用性と分布が一致する遺伝子を探索した結果、GH10に属するendo-1,4-beta-xylanase A遺伝子(xynA)を持つ株は、全てキシラン類を利用できた。また、同遺伝子を持たない株は全てキシラン類を利用できなかった。
【0037】
実施例4 YIT11057の諸性質
YIT11057について、酸・胆汁酸耐性、病原因子の網羅的探索、ゲノム中の溶原ファージの検出を評価した。
1)酸・胆汁酸耐性
i)人工液組成
<人工胃液組成 (pH3.6)>
ペプシン 40mg/L
プロテオースペプトン 5g/L
胃ムチン 1.5g/L
NaCl 5g/L
NaHCO3 3g/L
KH2PO4 1g/L
3.6N HCl pHを3.6に調整
<人工腸液>
NaCl 5g/L
KCl 1g/L
NaHCO3 3g/L
3M Na2CO3 pHを8.0に調整
【0038】
ii)1%グルコース・ラクトース添加mGAM液体培地で一晩培養した菌液0.1mlを、人工胃液2mlに添加し、37℃で1時間インキュベートした。その後、人工腸液5.5ml及び16%胆汁酸0.5mlを加え、37℃で1時間静置した。酸処理前後、胆汁酸処理後に菌液を採取し、生理食塩水で希釈後、50μlをmGAM寒天培地に塗抹してCFUを測定した。その結果、胆汁酸処理後でも0.1%ほどの生残率を示した(
図2)。耐性を持たない場合、各処理後のCFUが検出下限値以下になることから、YIT11057は比較的高い酸・胆汁酸耐性を有していることがわかった。
【0039】
2)病原因子の網羅的探索
PATRICサーバー (https://www.patricbrc.org/) (Wattam et al., 2017) にドラフトゲノム情報を入力し、Virulence Factorデータベースの配列と高い相同性を有する遺伝子の有無を確認した。その結果、病原因子遺伝子は検出されなかった。
【0040】
3)ゲノム中の溶原ファージの検出
菌株のゲノム情報について、PHASTERサーバー (http://phaster.ca/) (Arndt et al., 2016) を用いて、ファージデータベースに登録されている溶原ファージの検出を試みた。その結果、溶原ファージは検出されなかった。
【配列表】