(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】TCRリガンドの高スループットペプチド-MHC親和性スクリーニングのための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20240729BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240729BHJP
C07K 14/74 20060101ALI20240729BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240729BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240729BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240729BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240729BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240729BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15
C07K14/74 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12Q1/02
A61P37/04
A61P35/00
A61K39/00 H
(21)【出願番号】P 2021512579
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2019074511
(87)【国際公開番号】W WO2020053398
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-09
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】102018122546.6
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506258073
【氏名又は名称】イマティクス バイオテクノロジーズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】モリッツ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ブンク,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ワグナー,クラウディア
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/097699(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/158103(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/174822(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0162293(US,A1)
【文献】Structural Characterization of Disulfide-Stabilized Peptide/H2-D Complexes,Journal of Immunology,2017年,Vol.198, Supplement 1,146.12,DOI: 10.4049/jimmunol.198.Supp.146.12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)MHC Iの場合、安定化されたMHC分子のα1ドメインのαらせんとβシートの間に、少なくとも1つの人為的に導入された共有結合架橋を含んでなる、適切に安定化されたMHC分子を提供するステップと、
b)前記適切に安定化されたMHC分子をその多数のペプチドリガンドに接触させて、ペプチドリガンド/MHC(pMHC)分子複合体を形成するステップと、
c)前記pMHC分子複合体をTCR結合についてスクリーニングするステップと
を含んでなる、TCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体(pMHC)をスクリーニングする方法。
【請求項2】
前記MHC分子が、HLA、二量体、三量体、および四量体からなる群から選択される、HLA多量体またはMHC I多量体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノ酸間の前記人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋が、組換え的に導入されたジスルフィド橋、架橋されるべき非天然アミノ酸の導入、光架橋アミノ酸の導入、および化学的に導入された架橋から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アミノ酸間の前記人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋が、
(i)MHC Iの71位のアミノ酸およびMHC Iの22位のアミノ酸をシステインに変異させることによって;または
(ii)
αらせんとβシートの間に;および
αらせん間に、
導入される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アミノ酸間の前記人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋が、MHC Iの71位のアミノ酸およびMHC Iの22位のアミノ酸をシステインに変異させることによって、αらせんとβシートの間に;およびMHC Iの51位のアミノ酸およびMHC Iの175位のアミノ酸をシステインに変異させることによって、αらせん間に導入される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記
pMHC分子
複合体が、約4℃で、約1日以上
安定である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記pMHC分子複合体が、約4℃で、約1週間以上安定である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
pMHC複合体への結合についてのTCRの親和性スクリーニングの感度レベルが、約Kd1.0×10
-9よりも高
い、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
pMHC複合体への結合についてのTCRの親和性スクリーニングの感度レベルが、約Kd1.0×10
-6
よりも高い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
pMHC複合体への結合についてのTCRの親和性スクリーニングの感度レベルが、約Kd1.0×10
-3
よりも高い、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記TCRまたは前記MHC分子のどちらかが、チップ、バイオセンサー、スライドガラスまたはビーズからなる群から選択される固体表面上に適切に固定化されている、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、高スループットスクリーニング形式で実施される、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
MHC分子が、MHC Iのα1ドメイン内の2つのアミノ酸の間に、少なくとも1つの人為的に導入された共有結合架橋を含んでなる、安定化されたMHC分子またはそのペプチド結合断片を含んでなるまたはそれからなる、ポリペプチドであって、1つのアミノ酸はMHC Iのα1ドメインのβ1ユニットで修飾され、もう1つのアミノ酸はMHC Iのα1 ドメインのα1ユニットで修飾される、ポリペプチド。
【請求項14】
アミノ酸12~32位内
のβ1ユニット内で、1つのアミノ酸が修飾され;アミノ酸61~81位内
のα1ユニット内で別のアミノ酸が修飾される
、請求項
13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
アミノ酸17~27位内のβ1ユニット内で、1つのアミノ酸が修飾され;アミノ酸66~76位内のα1ユニット内で別のアミノ酸が修飾される、請求項14に記載のポリペプチド。
【請求項16】
アミノ酸20~24位内のβ1ユニット内で、1つのアミノ酸が修飾され;アミノ酸69~73位内のα1ユニット内で別のアミノ酸が修飾される、請求項14に記載のポリペプチド。
【請求項17】
アミノ酸22位のβ1ユニット内で、1つのアミノ酸が修飾され;アミノ酸71位のα1ユニット内で別のアミノ酸が修飾される、請求項14に記載のポリペプチド。
【請求項18】
MHC Iの74~84位
のアミノ酸と138~149位
のアミノ酸をシステインに変異させることによる、α1ドメインのアミノ酸とα2ドメインのアミノ酸との間の少なくとも1つの人為的共有結合架橋をさらに含んでなる、請求項
13~17のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項19】
MHC Iの84位のアミノ酸と139位のアミノ酸をシステインに変異させることによる、α1ドメインのアミノ酸とα2ドメインのアミノ酸との間の少なくとも1つの人為的共有結合架橋をさらに含んでなる、請求項18に記載のポリペプチド。
【請求項20】
(i)1つのアミノ酸がMHC Iのα1ドメインのβ1ユニットの22位で修飾され、1つのアミノ酸がMHC Iのα1ドメインのα1ユニットの71位で修飾される;または
(ii)1つのアミノ酸がMHC Iのα1ドメインのβ1ユニットの22位で修飾され、1つのアミノ酸がMHC Iのα1ドメインのα1ユニットの71位で修飾され、1つのアミノ酸がMHC Iのα1ドメインのα1ユニットの51位で修飾され、1つのアミノ酸がMHC Iのα2ドメインのα1ユニットの175位で修飾される、
請求項
13~19のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項21】
MHC I分子が、アミノ酸22位とアミノ酸71位との間に人為的に導入された1つの共有結合架橋を含む、安定化されたMHC I分子またはそのペプチド結合断片を含んでなるまたはそれからなるポリペプチド。
【請求項22】
MHC I分子が
(i)アミノ酸22位とアミノ酸71位との間に人為的に導入された1つの共有結合架橋;および
(ii)アミノ酸51位とアミノ酸175位の間に人為的に導入された1つの共有結合架橋
を含む、安定化されたMHC I分子またはそのペプチド結合断片を含んでなるまたはそれからなるポリペプチド。
【請求項23】
請求項13~22のいずれか一項に記載の少なくとも1つのポリペプチドを含む複合体。
【請求項24】
前記ポリペプチドが、ビーズ、フィラメント、ナノ粒子または他の担体に結合している、請求項23に記載の複合体。
【請求項25】
前記ポリペプチドにペプチドが負荷されている、請求項
23または24に記載の複合体。
【請求項26】
(a)事前選択されたTCRを含んでなる、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法を実施するステップと、
(b)TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記事前選択されたTCRの特定のアミノ酸結合モチーフを同定する追加的なステップと
を含んでなる、TCRの特定のアミノ酸結合モチーフを検出または生成するための方法。
【請求項27】
前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体が、異なる濃度を有する並行アッセイ反応で使用され
る、請求項
26に記載の方法。
【請求項28】
前記ステップ(a)および(b)が、同定された前記事前選択されたTCRのための修飾アミノ酸結合モチーフからなるペプチドのプールを含んでなるように繰り返される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
a)請求項
26~28のいずれか一項に記載の方法を実施するステップと、
b)TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記TCRの交差反応性を同定する追加的なステップと
を含んでなる、TCRの交差反応性を検出または判定するための方法。
【請求項30】
a)事前選択されたTCRを含んでなる、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法を実施するステップと
b)TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記TCRの交差反応性を同定する追加的なステップと
を含んでなる、TCRの交差反応性を検出または判定するための方法。
【請求項31】
TCRと、前記TCRに結合するTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体とを含んでなる、T細胞活性化を測定するステップをさらに含んでなる、請求項1~
12または
26~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項
13~17のいずれか一項に記載のポリペプチドを含んでなる、医薬組成物。
【請求項33】
共刺激分子および/またはこれらの共刺激分子の時系列配列の1つまたは組み合わせをさらに含んでなる、請求項
32に記載の医薬組成物。
【請求項34】
抗CD28抗体または抗41BB抗体をさらに含んでなる、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
請求項
32に記載の医薬組成物を含んでなる、ワクチン。
【請求項36】
薬剤
として使用するための請求項
35に記載のワクチン。
【請求項37】
がんの予防に使用するための請求項
35または
36に記載のワクチン。
【請求項38】
対象のT細胞応答を誘発することによる、がんの予防に使用するための請求項37に記載のワクチン。
【請求項39】
医薬品を製造するための、請求項
35に記載のワクチンの使用。
【請求項40】
がんの予防用の医薬品を製造するための、請求項
35に記載のワクチンの使用。
【請求項41】
対象のT細胞応答を誘発することによる、がんの予防用の医薬品を製造するための、請求項40に記載のワクチンの使用。
【請求項42】
請求項
13~17のいずれか一項に記載のポリペプチドをコード化する核酸分子。
【請求項43】
請求項
42に記載の核酸分子の少なくとも1つを含んでなる、ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化されたペプチド-MHC分子を含んでなるTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体の高スループットスクリーニングのための方法、および前記方法のそれぞれの使用に関する。本発明は、安定化されたMHC分子またはそのペプチド結合断片を含んでなるまたはそれからなるポリペプチド、前記ポリペプチドを含んでなる医薬組成物、前記医薬組成物を含んでなるワクチン、および薬剤の製造および/またはがんの予防のための前記ワクチンの使用にさらに関する。本発明は、前記ポリペプチドをコード化する核酸、および前記核酸を含んでなるベクターにさらに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞表面のMHC分子でのペプチドの提示は、ウイルス感染またはがんに対する免疫応答の基本的役割を果たす(1)。MHCクラスI分子は、多型重鎖、β-2ミクログロブリン(β2m)、およびペプチドリガンドからなる三量体複合体であり、典型的には8~10アミノ酸の長さであり、細胞質ゾルタンパク質の分解に由来する。T細胞は、それらのクローン特異的T細胞受容体(TCR)で特異的ペプチド-MHC複合体(pMHC)を認識し、免疫応答を開始し得る。
【0003】
可溶性pMHC複合体の生成は、pMHCとTCRとの相互作用を中心とした、科学的および臨床的分野での多くの異なる用途にとって重要である。それらは1992年にタンパク質発現および再折りたたみ技術を使用して最初に生成され、それ以来、例えば、フローサイトメトリーまたはTCR-pMHC相互作用の親和性測定を通じた抗原特異的T細胞の同定などの多くの用途で使用されている(2~5)。
【0004】
同族のpMHCに対するTCRの親和性は、発現しているT細胞の機能に大きな影響を及ぼす(6)。したがって、低親和性TCRの親和性を改善し、臨床用途に最適なレベルに到達させる努力がなされてきた(7)。大規模な成熟実験により、通常は抗体に制限される範囲であるピコモル濃度親和性を有するTCRが生成されている。それらは、モノマーの形態であっても、長い相互作用半減期で標的pMHCに結合することから、二重特異性T細胞エンゲージャー形式の腫瘍細胞に係合する成分として注目されている(8、9)。
【0005】
国際公開第2013/030620号パンフレットは、細菌中で産生され、エピトープ特異的CTLの検出のために不溶性の付着体として存在する、組換えMHCクラスI分子を開示している。これらは最初に、カオトロピック剤の溶液中で変性される。次に、カオトロープが所望のペプチドの存在下で除去され(復元、再折りたたみ)、ゲル濾過クロマトグラフィーによって、ペプチドクラスI複合体が、折りたたまれていないタンパク質から分離される。国際公開第2013/030620号パンフレットは、MHCクラスI分子をコード化するための遺伝子を提示し、MHCクラスI分子はα1らせんおよびα2らせんを有し、遺伝子はMHCクラスI分子中のα1らせんおよびα2らせんの間に結合が形成されるようにコード化されている。したがって、T細胞頻度の分析のためのキットが提供され得る。アミノ酸139はCys-139を提供するようにシステインで置換され、アミノ酸84はCys-84を提供するようにシステインで置換され、またはアミノ酸85はCys-85を提供するようにシステインで置換され、ジスルフィド架橋は、Cys-139とCys-84の間、またはCys-139とCys-85の間のMHCクラスI重鎖のα1らせんおよびα2らせんの間に形成される。
【0006】
米国特許第2009-017153号明細書は、2つのシステイン間に延びるジスルフィド結合によってMHCクラスI重鎖分子に共有結合した抗原ペプチドを含んでなる、いわゆるジスルフィドトラップを開示している。いくつかの構成では、ジスルフィドトラップ一本鎖三量体(dtSCT)などのジスルフィドトラップは、単一の連続ポリペプチド鎖を含んでなり得る。細胞内で合成されると、ジスルフィドトラップはERで適切に酸化され、T細胞によって認識され得る。いくつかの構成では、たとえペプチドが重鎖に比較的弱く結合している場合でも、ジスルフィドトラップのペプチド部分は、高親和性の競合ペプチドによって置換されない。様々な構成において、ジスルフィドトラップは、ワクチン接種、CD8T細胞の惹起、およびT細胞の数え上げと追跡のための多価MHC/ペプチド試薬で使用され得る。ジスルフィドトラップをコード化する配列を含んでなる核酸もまた、開示されている。DNAベクターであり得るこのような核酸は、ワクチンとして使用され得る。
【0007】
Zeynep Hein,et al.(in:Peptide-independent stabilization of MHC class I molecules breaches cellular quality control.J Cell Sci 2014 127:2885-2897)は、α1らせんおよびα2らせんがFポケットの近くのジスルフィド結合によって連結され、それらの可動性が制限されている、マウスMHC-IアロタイプH-2Kbの変種を記載している。C84-C139ジスルフィド結合は、正常なPLC相互作用および抗原提示を可能にするが、MHC-I表面発現をTAPおよびタパシン非依存性にして、順行性輸送を加速し、MHC-Iエンドサイトーシスの速度を大幅に低下させる。
【0008】
国際公開第2011/101681号パンフレットは、前記α鎖のα2ドメインと前記β鎖のβ2ドメインに位置するシステイン残基間のジスルフィド結合によって連結された、ジスルフィド結合安定化組換えMHCクラスII分子を開示しており、ここで前記システイン残基は、天然MHCクラスII α2およびβ2ドメインには存在しない。
【0009】
国際公開第2018/029350は、Kon率アッセイおよび改善されたTCRリガンドkoff率アッセイを開示しており、これはUVペプチド交換技術との新規組み合わせを通じたより広範な適用を可能にする。本開示は、高スループット様式で、Koff率MHCモノマーを調製することを可能にし、これは、次に、以前は実現不可能であったTCRリガンドKoff率アッセイなどのアッセイにおいて、拡張ペプチドライブラリのためのTCR候補をスクリーニングするために用いられ得る。さらに、Koff率MHCモノマーとのUVペプチド交換は、以前はkoff率MHC測定に干渉するかまたは無効にさせ得た、アミノ酸システインを担持する特定のペプチドを認識するTCR候補の分析を可能にする。
【0010】
Newell et al.(in:Newell EW,”Higher Throughput Methods of Identifying T Cell Epitopes for Studying Outcomes of Altered Antigen Processing and Presentation.”Frontiers in Immunology.2013;4:430)は、マスサイトメトリーを用いた高含量コンビナトリアルペプチド-MHC四量体の染色を開示している。
【0011】
Bakker et al.(in:Bakker AH,Hoppes R,Linnemann C,et al.,”Conditional MHC class I ligands and peptide exchange technology for the human MHC gene products HLA-A1,-A3,-A11,and -B7.”PNAS 2008;105(10):3825-3830)は、ヒトMHC分子HLA-A2のために設計され得る、長波長UV光への曝露時に崩壊する条件付きリガンドを開示している。このペプチド交換技術は、細胞傷害性T細胞免疫の分析のための高スループットMHCベースの用途に、一般に適用可能なアプローチに発展され得るとされる。
【0012】
Cochran and Stern(in:”A diverse set of oligomeric class II MHC-peptide complexes for probing T-cell receptor interactions.”Chem Biol.2000 Sep;7(9):683-96)は、T細胞における活性化過程の開始に関与する分子機序を研究するためのツールを開示している。二量体から四量体までサイズが様々なヒトMHCタンパク質HLA-DR1のトポロジー的に多様なオリゴマーのセットは、システイン残基の位置と、新規および市販の架橋剤上に担持されるスルフヒドリル反応基の数と間隔を変化させることによって、導入された。架橋剤に組み込まれた蛍光プローブは、T細胞表面へのオリゴマー結合の測定を容易にした。様々なMHC二量体、三量体、および四量体をはじめとするオリゴマーMHC-ペプチド複合体は、T細胞に結合し、抗原特異的様式でT細胞活性化過程を開始した。
【0013】
Chong et al.(in:”High-throughput and Sensitive Immunopeptidomics Platform Reveals Profound Interferon-γ-Mediated Remodeling of the Human Leukocyte Antigen(HLA)Ligandome.”Molecular & Cellular Proteomics:MCP.2018;17(3):533-548)は、細胞株と組織の双方に適した、プレート形式での最大96のサンプルからのHLA-Iおよび-IIペプチドの連続免疫親和性精製のための、高スループットで再現性のある高感度の方法を開示している。この方法は、全体的なペプチド収量と再現性を決定することから、免疫ペプチドミクスパイプラインの最も重要なステップとされる、サンプル調製を改善することを目的とする。
【0014】
Luimstra et al.(in:Luimstra JJ,Garstka MA,Roex MCJ,et al.”A flexible MHC class I multimer loading system for large-scale detection of antigen-specific T cells.”J Exp Med 2018;215(5):1493-1504)は、温度媒介ペプチド交換を用いて、多くの異なるMHCクラスI(MHC I)多量体を並行して生成するための、単純、高速、柔軟、かつ効率的とされる方法を開示している。彼らは、低温では安定なペプチド-MHC I複合体を形成するが、規定の高温に曝されると解離するHLA-A*02:01およびH-2Kbのための条件付きペプチドを設計した。単独で、または即時使用可能な多量体として調製された、得られた条件付きMHC I複合体には、追加的な処理なしに短い時間枠内で、選択されたペプチドが迅速に負荷され得る。
【0015】
TCR親和性増強の潜在的な欠点は、オフターゲット毒性の導入である。TCRの固有の交差反応性のために、これらはその他のpMHCに対する親和性も気づかれずに増加させることによって生じ得る(10)。これらのような複数の症例は、臨床研究で既に報告されている(11~13)。
【0016】
したがって、治療薬候補の有効性だけでなく、特異性と安全性を確保するためにも、包括的なスクリーニングが必要である(14)。これは、質量分析によって同定された少なくとも150,000のMHCクラスIリガンドペプチドを含む免疫ペプチドームのサイズが現在確立されていること、およびpMHC生成のために利用可能な方法を考えると、非常に複雑な課題である(15)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
pMHCライブラリの大規模な生成、そして例えば、結合モチーフ生成または潜在的に交差反応性のペプチドの直接同定および特性評価などの引き続くTCRの高スループット結合スクリーニングは、上記のような当該技術分野の一般的な技術を用いて達成することは依然として困難である。この困難さは、例えば、臨床状況での時間的制約のあるオンデマンド製造のためなど、pMHCを製造するのに必要な高度な技術を要する設備がない、個人または施設向けに、より少数であっても高品質のpMHC複合体を調製することにも及んでいる。したがって、本発明の目的は、この分野における改善されたストラテジーを提供することである。本発明のその他の目的および態様は、以下の本発明の説明を読むことで、当業者には明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
その第1の態様によれば、本発明の上記の目的は、
a)(i)MHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とα2ドメインのアミノ酸との間に;および/または
(ii)MHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインの2つのアミノ酸の間に;または
(iii)MHC IIの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインの2つのアミノ酸またはβ1ドメインの2つのアミノ酸の間に;および/または
(iv)MHC IIの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインの1つのアミノ酸とβ1ドメインの1つのアミノ酸との間に、
少なくとも1つの人為的に導入された共有結合架橋を含んでなる、適切に安定化されたMHC分子を提供するステップと、
b)前記適切に安定化されたMHC分子をその多数のペプチドリガンドに接触させて、ペプチドリガンド/MHC(pMHC)分子複合体を形成するステップと、
c)前記pMHC分子複合体をTCR結合についてスクリーニングするステップと
を含んでなる、TCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体(pMHC)をスクリーニングするための方法によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましいのは、本発明による方法であり、ここで前記安定化されたMHC分子は、例えば、MHC I(最初の24アミノ酸を除くIGMT番号付けに基づく)の(i)大部分のHLAではチロシンである84位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではアラニンである139位のアミノ酸(
図13を参照されたい)をシステインに変異させること、および/または(ii)大部分のHLAではフェニルアラニンである22位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではセリンである71位のアミノ酸(
図13を参照されたい)を変異させること、および/または(iii)大部分のHLAではトリプトファンである51位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではグリシンである175位のアミノ酸(
図13を参照されたい)を変異させること、または(iv)大部分のHLAではフェニルアラニンである22位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではセリンである71位のアミノ酸(
図13を参照されたい)を変異させること、および大部分のHLAではトリプトファンである51位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではグリシンである175位のアミノ酸(
図13を参照されたい)を変異させることによる、2つのアミノ酸間の少なくとも1つの人為的に導入された共有結合ジスルフィド架橋より好ましくはαらせん間のアミノ酸の間の少なくとも1つの人為的に導入された共有結合架橋を包含する。このような安定化されたMHC分子は、ジスルフィド修飾MHC分子またはジスルフィド修飾MHC変異体と称されてもよい。TCRまたはMHC分子はどちらも、特に高スループットスクリーニング形式で、チップ、スライドガラス、バイオセンサーまたはビーズなどの固体表面上に適切に固定化され得る。
【0020】
第2の態様において、本発明は、安定化されたMHC分子またはそのペプチド結合断片を含んでなるまたはそれからなるポリペプチドを提供し、これは、
(i)MHC Iのα1ドメイン内の2つのアミノ酸の間;および/または
(ii)アミノ酸160~179位内のMHC Iのα1ドメイン内の1つのアミノ酸とMCH Iのα2ドメイン内の1つのアミノ酸との間;または
(iii)MHC IIのα1ドメイン内の2つのアミノ酸またはβ1ドメイン内の2つのアミノ酸;および/または
(iv)MHC IIのα1ドメイン内の1つのアミノ酸とβ1ドメイン内の1つのアミノ酸との間
に、少なくとも1つの人為的に導入された共有結合架橋を含んでなる。
【0021】
例えば、天然アミノ酸の代わりにシステイン残基を人為的に導入することによって修飾され、共有結合橋を形成する2つのアミノ酸の位置は、それらの相対的な距離に基づいて選択される。ペプチド結合によって相互に連結されていないMHC IまたはMHC II中の2つのアミノ酸が、共有結合の距離と同様の距離を相互に自然に有する場合、例えばシステインなどの共有結合を形成し得るアミノ酸で、それらを置換することが好ましい。したがって、好ましくは、折りたたまれたタンパク質中で、3~7.5Aの距離(それぞれのアミノ酸のα炭素間で判定される)を有する2つのアミノ酸が修飾される。多数のMHC IおよびMHC II分子の3D構造が知られており、当業者は標準的なソフトウエアを使用して、折りたたまれた分子内の2つの特定のアミノ酸間の距離を判定し得る。
【0022】
MHC Iのα1ドメイン内で2つのアミノ酸が修飾されている場合、1つのアミノ酸はMHC Iのβ1ユニット内で修飾され、1つはα1ユニット内で修飾されていることが好ましい。特に、β1ユニット内の適切な領域は、アミノ酸12~32位内、好ましくはアミノ酸17~27位内、より好ましくはアミノ酸20~24位内、最も好ましくはアミノ酸22位である。特に、α1ユニット内の適切な領域は、アミノ酸61~81位内、好ましくはアミノ酸66~76位内、より好ましくはアミノ酸69~73位内、最も好ましくはアミノ酸71位である。いずれの場合も、2つのアミノ酸は、好ましくは、折りたたまれたMHC IまたはMHC IIタンパク質中で、3~7.5Aの距離(それぞれのアミノ酸のα炭素間で判定される)を有するように、それぞれ示されたアミノ酸の一連の配列内で選択される。
【0023】
MHC IIのα1ドメイン内で2つのアミノ酸が修飾されている場合、1つのアミノ酸はMHC IIのβ1ユニット内で修飾され、1つはα1ユニット内で修飾されていることが好ましい。特に、β1ユニット内の適切な領域は、アミノ酸10~40位内、好ましくはアミノ酸13~35位内、より好ましくはアミノ酸22~25位内、最も好ましくはアミノ酸22位である。特に、α1ユニット内の適切な領域は、アミノ酸45~78位内、好ましくはアミノ酸50~70位内、より好ましくはアミノ酸56~66位内、最も好ましくはアミノ酸59位である。いずれの場合も、2つのアミノ酸は、好ましくは、折りたたまれたMHC IまたはMHC IIタンパク質中で、3~7.5Aの距離(それぞれのアミノ酸のα炭素間で判定される)を有するように、それぞれ示されたアミノ酸の一連の配列内で選択される。
【0024】
MHC IIのβ1ドメイン内で2つのアミノ酸が修飾されている場合、1つのアミノ酸はMHC IIのβ3ユニット内で修飾され、1つはα3ユニット内で修飾されていることが好ましい。特に、β3ユニット内の適切な領域は、アミノ酸15~53位内、好ましくはアミノ酸17~41位内、より好ましくはアミノ酸21~28位内、最も好ましくはアミノ酸26位である。特に、α3ユニット内の適切な領域は、アミノ酸52~88位内、好ましくはアミノ酸66~76位内、より好ましくはアミノ酸65~80位内、最も好ましくはアミノ酸75位である。いずれの場合も、2つのアミノ酸は、好ましくは、折りたたまれたMHC IまたはMHC IIタンパク質中で、3~7.5Aの距離(それぞれのアミノ酸のα炭素間で判定される)を有するように、それぞれ示されたアミノ酸の一連の配列内で選択される。
【0025】
アミノ酸160~179位内で、MHCH Iのα1ドメイン内の1つのアミノ酸が修飾され、MHCH Iのα2ドメイン内の1つのアミノ酸が修飾されている場合、α1ドメイン内の1つのアミノ酸は、α1ユニット内で、好ましくはアミノ酸50~70位内で、より好ましくはアミノ酸50~60位内で、より好ましくはアミノ酸50~54位内で、最も好ましくはアミノ酸51位で、修飾されていることが好ましい。α2ドメイン内のその他のアミノ酸は、α2ユニット内で修飾されていることが好ましく、適切な領域は、アミノ酸165~178位内、より好ましくはアミノ酸170~177位内、より好ましくはアミノ酸173~176位内、最も好ましくはアミノ酸175位である。いずれの場合も、2つのアミノ酸は、好ましくは、折りたたまれたMHC Iタンパク質中で、3~7.5Aの間の距離を有するように、それぞれ示されたアミノ酸の一連の配列内で選択される。したがって、特に好ましい実施形態では、安定化されたMHC Iは、51位および175位に修飾アミノ酸を含んでなる。
【0026】
MHC IIのα1ドメイン内の1つのアミノ酸が修飾され、MHC IIのβ1ドメイン内の1つのアミノ酸が修飾されている場合、一実施形態では、α1ドメイン内の1つのアミノ酸はα1ユニット内で修飾されていることが好ましい。1対の修飾アミノ酸中で、第1の修飾アミノ酸は、アミノ酸50~70位内、より好ましくはアミノ酸50~60位内、より好ましくはアミノ酸50~54位内にあり、最も好ましくはアミノ酸51位にある。β1ドメイン内のその他の修飾アミノ酸は、好ましくはアミノ酸70~95位内、より好ましくはアミノ酸74~94位内、より好ましくはアミノ酸83~93位内、より好ましくはアミノ酸87~92位内、最も好ましくはアミノ酸89位に広がる、α3ユニット内にある。別の対において、第1の修飾アミノ酸は、アミノ酸70~90位内にあり、より好ましくはアミノ酸70~85位内にあり、より好ましくはアミノ酸72~79位内にあり、最も好ましくはアミノ酸76位にある。β1ドメイン内のその他の修飾アミノ酸は、好ましくはアミノ酸50~95位内、より好ましくはアミノ酸50~65位内、より好ましくはアミノ酸50~60位内、より好ましくはアミノ酸50~55位内、最も好ましくはアミノ酸53位に広がる、α3ユニット内にある。いずれの場合も、2つのアミノ酸は、好ましくは、折りたたまれたMHC IIタンパク質中で、3~7.5Aの間の距離を有するように、それぞれ示されたアミノ酸の一連の配列内で選択される。
【0027】
1つのMHC内に2対の修飾アミノ酸を含んでなることが、さらに好ましい。特に、組み合わせられてもよい好ましい組み合わせは、MHC Iについては上記(i)および(ii)の下に、MHC IIについては上記(iii)および(iv)の下に示されている。したがって、第1の修飾アミノ酸対は、β1ユニット内で修飾されたアミノ酸と、MHC Iのα1ユニット内で修飾されたアミノ酸とを含んでなることが好ましい。特に、β1ユニット内の適切な領域は、アミノ酸12~32位内、好ましくはアミノ酸17~27位内、より好ましくはアミノ酸20~24位内、最も好ましくはアミノ酸22位である。特に、α1ユニット内の適切な領域は、アミノ酸61~81位内、好ましくはアミノ酸66~76位内、より好ましくはアミノ酸69~73位内、最も好ましくはアミノ酸71位である。第2の修飾アミノ酸対は、アミノ酸160~179位内のMHC Iのα1ドメイン内で修飾された1つのアミノ酸と、MCH Iのα2ドメイン内で修飾された1つのアミノ酸とを含んでなる。α1ドメイン内の1つのアミノ酸は、α1ユニット内で、より好ましくはアミノ酸50~70位内、より好ましくはアミノ酸50~60位内、より好ましくはアミノ酸50~54位内、最も好ましくはアミノ酸51位で修飾されていることが好ましい。特に、α2ドメイン内のその他のアミノ酸を修飾するのに適した領域は、アミノ酸165~178位内、好ましくはアミノ酸170~177位内、より好ましくはアミノ酸173~176位内、最も好ましくはアミノ酸175位である。したがって、特に好ましい実施形態では、安定化されたMHC Iは、第1の修飾アミノ酸対を22および71位に、第2の修飾アミノ酸対を51および175位に含んでなる。
【0028】
MHC Iの上記修飾のいずれでも、第1の修飾アミノ酸は、アミノ酸80~90位内、好ましくはアミノ酸82~86位内、より好ましくはアミノ酸84位にあり、第2の修飾アミノ酸が、アミノ酸136~146位内、好ましくはアミノ酸137~141位内、より好ましくはアミノ酸139位にある1対の修飾とさらに組み合わされてもよい。
【0029】
驚くべきことに、上述のMHC IおよびMHC IIのアミノ酸領域のアミノ酸の修飾、およびそれぞれ示された位置でのアミノ酸の修飾、ひいては共有結合によって自然に連結されていない位置へのアミノ酸間の共有結合の導入は、以下のような修飾MHC IおよびMHC II分子の生成を可能にする:(i)適切に折りたたまれ、(ii)高い親和性でペプチドに結合し、(iii)高い特異性と選択性でTCR分子によって認識される。
【0030】
第2の態様の好ましい修飾MHC IおよびMHC II分子はまた、本発明のその他の全ての態様でも使用され得る。
【0031】
本発明はまた、修飾されたMHC IまたはMHC II分子のペプチド結合断片を含んでなる。当該技術分野で公知のように、MHC IおよびMHC IIはペプチドに結合し、続いてMHC IまたはMHC IIおよびペプチドの双方と相互作用するTCRによって結合される。しかし、TCRに「提示」されるペプチドへの結合には、MHC IおよびMHC II分子の一部のみが必要である。MHC Iでは、α1およびα2ドメインが折りたたまれてペプチドに結合する結合溝を形成し、MCH IIでは、α1およびβ1ドメインがペプチドに結合する結合溝を形成します。したがって、MHC IおよびMHC IIのペプチド結合断片は、それぞれ、少なくともα1およびα2ドメイン、またはα1およびβ1ドメインを含んでなる。したがって、結合断片は、膜貫通ドメイン、またはそれに加えてMHC Iのα3ドメイン、またはMHC IIのα2および/またはβ2ドメインを欠いていてもよい。少なくとも膜貫通ドメインを欠く断片は可溶性であり、医薬組成物、特にワクチンでの使用に特に適している。
【0032】
その第3の態様において、本発明は、事前選択されたTCRを含んでなるその第1の態様による方法を実施するステップと、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を決定および比較し、それによって、前記事前選択されたTCRの特定のアミノ酸結合モチーフを同定する、追加的なステップとを含んでなる、TCRの特定のアミノ酸結合モチーフを検出または生成するための方法を提供する。
【0033】
その第4の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による方法を実施するステップと、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記TCRの交差反応性を同定する追加的なステップとを含んでなる、TCRの交差反応性を検出または判定するための方法を提供する。
【0034】
その第5の態様において、本発明は、事前選択されたTCRを含んでなる本発明の第1の態様による方法を実施するステップと、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記TCRの交差反応性を同定する追加的なステップとを含んでなる、TCRの交差反応性を検出または判定するための方法を提供する。
【0035】
その第6の態様において、本発明による方法は、細胞性医薬品のスクリーニングまたは生体外プライミングに用られ得る。ビーズ、フィラメント、ナノ粒子またはその他の担体に結合した安定化されたHLA複合体は、抗原提示細胞を模倣するビーズペプチドで容易に負荷され得て、その後好都合には、共刺激分子(例えば、抗CD28、抗41BB)と組み合わされて、生体外プライミングおよび増殖のための「即時使用可能」人工抗原提示細胞として使用される。
【0036】
pMHCライブラリの大規模作成、高親和性TCRの高スループット結合モチーフ決定、および潜在的に交差反応性のペプチドの同定と特性評価のための現在の方法は、安定性の問題を抱えており、追加的な処理なしで、短い時間枠内で(上記のLuimstra et al.,のように)、多量体に選択されたペプチドを迅速に負荷する必要があり、これもまたUV交換などの技術を不適切なものにする。
【0037】
本技術により、本発明者らは、野生型分子またはその他の既存の交換技術に優る複数の利点を得る:空モノマーは、所望の実験に先立ってバルクで生成され得て、pMHCの生成は、所望のペプチドの調達と迅速なペプチド負荷反応以外のその他のいかなる方法によっても制限されない。本発明者らは、空モノマーを-80℃で少なくとも1年間保存し、劣化またはペプチド受容性の損傷が検出されない状態で成功裏に使用した。本発明者らはまた、得られたpMHC複合体を4℃で少なくとも2週間保存し、シグナルを失うことなく親和性測定に成功裏に再利用した。修飾を導入することによって達成されるこれら全ての利点に加えて、変異体によって提示されるpMHC複合体は、TCRリガンド結合に関して野生型複合体に実質的に相当する。
【0038】
一態様では、本発明は、TCR結合についてのTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体をスクリーニングするための方法を提供する。
【0039】
方法は、MHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とα2ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋、および/またはMHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインの2つのアミノ酸間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋、またはMHC IIの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とβ1ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋を含んでなる、適切に安定化されたMHC分子の使用を含んでなる。主要組織適合性複合体クラスIおよびクラスIIは、全体的に同様の折りたたみを共有する。結合プラットフォームは、MHCクラスIの場合には1本の重α鎖(HC)に由来し、MHCクラスIIの場合には2本の鎖(α鎖およびβ鎖)に由来する、2つのドメインからなる。2つのドメインは進化して、ベースとしてわずかに湾曲したβシートを形成し、上部に2つのαヘリックスを形成し、これらは、間にペプチド鎖を収容するのに十分離れている。それ故、本発明による方法の適切な安定化は、双方のMHCクラスについて達成され得る。
【0040】
一実施形態では、本発明は、その使用前に適切なペプチドを単に添加することによって負荷され得る、ジスルフィド安定化された、最初は空のMHC分子の使用を伴う。このジスルフィド修飾MHC分子を使用して生成されたpMHCは、非修飾野生型変種に相当するものであり、例えば、高親和性TCRの高スループット結合モチーフの判定、ならびに潜在的に交差反応性のペプチドの同定と特性評価などのスクリーニングに適する。
【0041】
空のMHCは、ガラスプレートなどの一般に使用される表面上では実質的に分解せず、ペプチドで負荷された場合の非修飾野生型変種に相当するものであり、スクリーニングに適しており、表面上に固定化されている場合であっても、pMHCを迅速に生成できるようにする。本発明の文脈において、これは、「適切に安定化された」または「安定化された」pMHCによって達成されるものと理解される。
【0042】
マウスMHCクラスI分子H-2Kbに関する先行研究では、84位のチロシンと139位のアラニンをシステインに変異させることで、Fポケット内の対向する残基間にジスルフィド結合を導入することで、複合体を安定化できた。したがって、一実施形態では、アミノ酸間に人為的に導入された共有結合架橋が、例えば、MHC Iの84位のチロシンおよび139位のアラニンをシステインに変異させることによって、αらせん間に導入された。場合によっては、いかなるペプチドリガンドもなしにモノマーを単離することは難しくあってもよいが、これは低親和性ペプチドを添加することによって効率的に克服され得る。「MHC」という用語は、「主要組織適合性複合体」という語句の略語である。MHCは細胞表面受容体の組であり、脊椎動物の変性天然または外来タンパク質に対する獲得免疫を確立する上で必須の役割を有し、それは次に組織内の組織適合性を決定する。MHC分子の主な機能は、変性タンパク質または病原体に由来する抗原に結合し、それらを細胞表面上に提示して適切なT細胞に認識させることである。ヒトMHCは、HLA(ヒト白血球抗原)複合体またはHLAとも称される。MHC遺伝子ファミリーは、クラスI、クラスII、クラスIIIの3つのサブグループに分けられる。ペプチドとMHCクラスIの複合体が、適切なTCRを有するCD8陽性T細胞によって認識される一方で、ペプチドとMHCクラスII分子の複合体は、適切なTCRを有するCD4陽性ヘルパーT細胞によって認識される。CD8依存性およびCD4依存性の双方のタイプの応答が、抗腫瘍効果と共同して相乗的に寄与するので、腫瘍関連抗原および対応するTCRの同定および特性評価は、ワクチンおよび細胞療法などのがん免疫療法の開発において重要である。MHC I分子は、MHC I重鎖とも称されるα鎖と、β2ミクログロブリン分子を構成するβ鎖とからなる。本発明の文脈において重鎖と同義的に使用されるα鎖は、3つのαメイン、すなわち、α1ドメイン、α2ドメイン、およびα3ドメインを含んでなる。α1およびα2ドメインは、主にペプチドポケットの形成に寄与して、ペプチドリガンドMHC(pMHC)複合体を生成する。MHC Iのα1ドメインは、アミノ酸1~90位に広がり、二次構造として、アミノ酸1~49位に広がるβシート(本明細書では「β1ユニット」と称される)と、それに続くアミノ酸50~84位に広がるαらせん構造(本明細書では「α1ユニット」と称される)とを含んでなる。MHC Iのα2ドメインは、アミノ酸91~182位に広がり、二次構造として、アミノ酸91~135位に広がるβシート(本明細書では「β2ユニット」と称される)と、それに続くアミノ酸138~179位に広がるαらせん構造(本明細書では「α2ユニット」と称される)とを含んでなる。MHC IIのβ1ドメインは別のポリペプチド上にあり、MHC II内で、MHC Iのα2ドメインの構造的役割を果たす。それはアミノ酸1~95位に広がり、二次構造として、アミノ酸1~49位のβシート(本明細書では「β3ユニット」と称される)と、それに続くアミノ酸50~95位のαらせん構造(本明細書では「α3ユニット」と称される)とを含んでなる。本明細書では、そしてMHC IまたはMHC II分子中のアミノ酸位置に言及する場合は、位置は、N末端の第1シグナルペプチドを除いたIGMT番号付けに基づいて示されており、典型的には20~29アミノ酸の間で長さが変動する。本発明の安定化されたMHC II分子は、2つの別個のポリペプチド上にα1およびβ1ドメインを含んでなってもよく、またはそれらは、1つのポリペプチド内で相互に連結されて、一本鎖MHC IIを形成してもよく、例えば、MHC IIのα1ドメインのC末端は、MHC IIのβ1ドメインのN末端に、直接またはペプチドリンカーを介して連結される。
【0043】
HLAは、ヒトによってアミノ酸配列が異なる分子である。しかし、HLAは、HLAの国際的に合意された命名法であるIMGT命名法によって同定され得る。例えば、HLA-Aへの分類は、配列アラインメントによって作成された各HLAの公式参照配列に対する所与のHLAの同一性に基づいている。したがって、配列番号6に記載のHLA-A配列に対して最も高い配列同一性を有する所与のHLA配列は、HLA-Aとして分類される。公式のHLA参照配列ならびに分類システムの情報は、www.ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/nomenclature/alignments.htmlで利用できる。このウェブサイトでは、特定の任意のHLA配列を分類する方法に関する以下の情報を提供している:
「作成されたアライメントファイルは、以下の命名法および番号付け規則を使用している。これらの規約は、ヒト遺伝子変異のため公開された推奨事項に基づいている。これらは、ヒトの対立遺伝子変異の配列をどのように命名し保存するかを検討している命名法作業グループによって作成された。これらの推奨事項は、Antonarakis SE and the Nomenclature Working Group Recommendations for a Nomenclature System for a Human Gene Mutations Human Mutation(1998)11 1-3に記載されている。
【0044】
-HLAシステムの要因に関するWHO命名委員会によって公式に認められた対立遺伝子のみが配列アラインメントに含まれる。
【0045】
-全てのヒト遺伝子変異について推奨されているように、アラインメントに標準的な参照配列を使用する必要がある。各対立遺伝子の参照配列の完全なリストを以下に示す。
【0046】
-参照配列は、この配列に誤りがない限り、常に同じ(元の)受入れ番号に関連付けられる。
【0047】
-全ての対立遺伝子は、参照配列に配列されている。
【0048】
-配列の命名は、公開されている命名規則SGE Marsh,et al.(2010)Tissue Antigens 2010 75:291-455に基づいている」。
【0049】
MHCクラスIタンパク質については、いずれの場合も以下のHLA参照タンパク質配列が2019年7月12日にウェブサイト上で示され、各HLAについて受入れ番号が経時的に変化しないことが示される:
MHCクラスIタンパク質
HLA-A(配列番号6)(受入番号HLA00001)
MAVMAPRTLLLLLSGALALTQTWAGSHSMRYFFTSVSRPGRGEPRFIAVGYVDDTQFVRFDSDAASQKMEPRAPWIEQEGPEYWDQETRNMKAHSQTDRANLGTLRGYYNQSEDGSHTIQIMYGCDVGPDGRFLRGYRQDAYDGKDYIALNEDLRSWTAADMAAQITKRKWEAVHAAEQRRVYLEGRCVDGLRRYLENGKETLQRTDPPKTHMTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWELSSQPTIPIVGIIAGLVLLGAVITGAVVAAVMWRRKSSDRKGGSYTQAASSDSAQGSDVSLTACKV
HLA-B(配列番号7)(受入番号HLA00132)
MLVMAPRTVLLLLSAALALTETWAGSHSMRYFYTSVSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDSDAASPREEPRAPWIEQEGPEYWDRNTQIYKAQAQTDRESLRNLRGYYNQSEAGSHTLQSMYGCDVGPDGRLLRGHDQYAYDGKDYIALNEDLRSWTAADTAAQITQRKWEAAREAEQRRAYLEGECVEWLRRYLENGKDKLERADPPKTHVTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDRTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWEPSSQSTVPIVGIVAGLAVLAVVVIGAVVAAVMCRRKSSGGKGGSYSQAACSDSAQGSDVSLTA
HLA-C(配列番号8)(受入番号HLA00401)
MRVMAPRTLILLLSGALALTETWACSHSMKYFFTSVSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDSDAASPRGEPRAPWVEQEGPEYWDRETQKYKRQAQTDRVSLRNLRGYYNQSEAGSHTLQWMCGCDLGPDGRLLRGYDQYAYDGKDYIALNEDLRSWTAADTAAQITQRKWEAAREAEQRRAYLEGTCVEWLRRYLENGKETLQRAEHPKTHVTHHPVSDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQWDGEDQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVMVPSGEEQRYTCHVQHEGLPEPLTLRWEPSSQPTIPIVGIVAGLAVLAVLAVLGAVVAVVMCRRKSSGGKGGSCSQAASSNSAQGSDESLIACKA
HLA-E(配列番号9)(受入番号HLA00934)
MVDGTLLLLLSEALALTQTWAGSHSLKYFHTSVSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDNDAASPRMVPRAPWMEQEGSEYWDRETRSARDTAQIFRVNLRTLRGYYNQSEAGSHTLQWMHGCELGPDRRFLRGYEQFAYDGKDYLTLNEDLRSWTAVDTAAQISEQKSNDASEAEHQRAYLEDTCVEWLHKYLEKGKETLLHLEPPKTHVTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQQDGEGHTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPEPVTLRWKPASQPTIPIVGIIAGLVLLGSVVSGAVVAAVIWRKKSSGGKGGSYSKAEWSDSAQGSESHSL
HLA-F(配列番号10)(受入番号HLA01096)
MAPRSLLLLLSGALALTDTWAGSHSLRYFSTAVSRPGRGEPRYIAVEYVDDTQFLRFDSDAAIPRMEPREPWVEQEGPQYWEWTTGYAKANAQTDRVALRNLLRRYNQSEAGSHTLQGMNGCDMGPDGRLLRGYHQHAYDGKDYISLNEDLRSWTAADTVAQITQRFYEAEEYAEEFRTYLEGECLELLRRYLENGKETLQRADPPKAHVAHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEEQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPQPLILRWEQSPQPTIPIVGIVAGLVVLGAVVTGAVVAAVMWRKKSSDRNRGSYSQAAV
HLA-G(配列番号11)(受入番号HLA00939)
MVVMAPRTLFLLLSGALTLTETWAGSHSMRYFSAAVSRPGRGEPRFIAMGYVDDTQFVRFDSDSACPRMEPRAPWVEQEGPEYWEEETRNTKAHAQTDRMNLQTLRGYYNQSEASSHTLQWMIGCDLGSDGRLLRGYEQYAYDGKDYLALNEDLRSWTAADTAAQISKRKCEAANVAEQRRAYLEGTCVEWLHRYLENGKEMLQRADPPKTHVTHHPVFDYEATLRCWALGFYPAEIILTWQRDGEDQTQDVELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPEPLMLRWKQSSLPTIPIMGIVAGLVVLAAVVTGAAVAAVLWRKKSSD
HLA-H(配列番号12)(受入番号HLA02546)
MVLMAPRTLLLLLSGALALTQTWARSHSMRYFYTTMSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDSDAASQRMEPRAPWMEREGPEYWDRNTQICKAQAQTERENLRIALRYYNQSEGGSHTMQVMYGCDVGPDGRFLRGYEQHAYDSKDYIALNEDLRSWTAADMAAQITKRKWEAARQAEQLRAYLEGEFVEWLRRYLENGKETLQRADPPKTHMTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTHTRSSWRPGLQGMEPSRSGRLWWCLLERSRDTPAMCSMRVCQSPSP*DGSHLPSPPSPSWASLLAWFYL*LWSLELWSLL*CGGRRAQIEKEGATLRLQAATVPRALMCLSRRESVX
HLA-J(配列番号13)(受入番号HLA02626)
MGSWRPEPSSCCSRGPWPWPRPGRAPTP*GISAPPFPGRAAGSPASLPWATWTTRSSCGSTVTP*V*G*RRGRGGWSRRGRSIGTYRHWAPRPRHRLTE*TCGPCSATTTRARRGITSSRECLAATWGPTGVSSAGMSSMPTTARITSP*TRTCAPGPPRIPRLRLPSASMRRPMWLSKGEPTWRAPAWSGSADTWRTGRRRCSARTPPKTHVTHPPL*T*GITRSWVLGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDMELVETRPTGDGTFQKWAVVVVPSGEEQRYTCHVQHKGLPKPLILRWEPSPQPTIPIVGIIAGLVLLGAVVTGAVVTAVMWRKKSSDRKGGSYSQAASSQSAQGSDVSLTACKV*
HLA-K(配列番号14)(受入番号HLA02654)
MGSWRPEPSSCCSWGPWP*PRPGRVPTP*GISAPPCPGRVAGSPGTSQWATWTTRSSCGSTATRRLRGCSRSRRGWSRRDRSIGTGAHGTSGPRTD*QE*TCPCRAATTTRARPGLTPSR*CMAATWGWKGASSAGMNSTPTMARIT*PGTRTCAPGPRRTWRLRSPSASGRQKNLQSRSGPTWRARAWRGSQTPGEREGDAAAHGPLPQTHMIHHSVSDYKATLRCWALGFYPVEITLAWQQDGEDQTRDMELLETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYPCHVQHEGLPKPLTLRWEQSSQPTIPIVGIVAGLVLLGAVVTGAVVSAVMCRKKNSDRVSYSEAASSDHAQGSDVSLTACKV*
HLA-L(配列番号15)(受入番号HLA02655)
MGVMAPRTLLLLLLGALALTETWAGSHSLRYFSTAVSQPGRGEPRFIAVGYVDDTEFVRFDSDSVSPRMERRAPWVEQEGLEYWDQETRNAKGHAQIYRVNLRTLLRYYNQSEAGSHTIQRKHGCDVGPTGASSAGMNSSPTMARITSP*TRTCTPGPPRTQRLRSPSTSGKRTNTQSRSGPT*GQVHGVAPQTPGEREGDAAARGSPKGTCDPAPHL*P*GHPEVLGPGPLPCGDHTDLAAGWGGPDPGHGACGDQACRGRNLPEVGGCSGAFRRGAEIHVPCAA*GAARAPHPEMGAVFSAHHPHRGHRCWPVSPWSCGHWSCGCCCDVEEEKLR*NKEELCSGCLQQLCSVL*CIS*YL*SLX
【0050】
HLA-A遺伝子は第6染色体の短腕上に位置し、HLA-Aのより大きなα鎖の構成物をコード化する。HLA-Aα鎖の多様性は、HLA機能の鍵である。この多様性は、集団の遺伝的多様性を促進する。各HLAは特定の構造のペプチドに対して異なる親和性を有することから、HLAの種類が多いほど、細胞表面に「提示」される抗原の種類も多くなる。各個人は、それぞれの親から1種類ずつ、最大2種類のHLA-Aを発現し得る。一部の個人は、両親から同じHLA-Aを継承し、個々のHLAの多様性を減少させる。しかし、大多数の個人は、HLA-Aの2つの異なるコピーを受け継ぐ。全てのHLA群が、同じパターンに従う。換言すれば、全ての人は、現在1740の活性タンパク質をコードする2432の既知のHLA-A対立遺伝子のうち、1つまたは2つだけを発現する。HLA-A*02は特定のHLA対立遺伝子を表し、ここで文字Aは対立遺伝子が属するHLA遺伝子を表わし、接頭辞「*02接頭辞」はA2血清型を示す。MHCクラスI依存性免疫反応では、ペプチドは、腫瘍細胞によって発現される特定のMHCクラスI分子に結合できる必要があるだけでなく、特定のTCRを有するT細胞によって認識される必要もある。
【0051】
本発明による好ましい方法の第2のステップでは、ペプチドリガンド/MHC(pMHC)分子複合体を形成させるために、適切に安定化されたMHC分子を多数のペプチドリガンドに接触させる。二重特異性TCRコンストラクトを可逆的に固定化できる多種多様な再生可能なバイオセンサーが存在することから、固定化の代わりに可溶性分析物としてpMHC複合体を使用することは、迅速で費用効果の高い高スループットスクリーニングにのために好ましい。
【0052】
本発明の文脈における「接触」とは、ペプチドのかなりの部分が空のおよび/または低親和性のペプチド負荷MHC分子と複合体を形成する(「負荷される」)ように、ペプチドが空のおよび/または低親和性のペプチド負荷MHC分子に接触されることを意味するものとする。好ましい一例として、MHC複合体の負荷は、適切な緩衝液中のモノマー溶液に対して少なくとも100対1のモル比の所望のペプチドを添加および混合し、室温で最低5分間インキュベートすることによって実施された。
【0053】
2つのらせんの間の溝は、(i)MHC分子の側鎖とペプチドの主鎖との間の保存された水素結合の組の形成、および(ii)ペプチド側鎖(MHCクラスI中のアンカー残基P2またはP5/6およびPΩ、およびMHCクラスII中のP1、P4、P6、およびP9)によって画定されたポケットの占有に基づいて、ペプチドを収容する。個々のペプチド側鎖とMHCとの相互作用のタイプは、結合溝の幾何配置、電荷分布、および疎水性に左右される。MHCクラスIでは、結合溝は保存されたチロシン残基によって両端で閉じられており、結合ペプチドのサイズは通常8~10残基に制限され、そのC末端はFポケット内にドッキングしている。対照的に、MHCクラスIIタンパク質は、通常、ペプチドのN末端が通常P1ポケットから押し出された状態で、13~25残基の長さのペプチドをそれらの開放結合溝に収容している。MHCクラスI内のFポケット領域とMHCクラスII内のP1領域(P2部位を含む)における相互作用は、安定なpMHC複合体の提示と特定のペプチド性エピトープの免疫優位性に、支配的な影響を及ぼすように見えることが報告されている。興味深いことに、これらのポケットは、それぞれのMHCクラスIおよびMHCクラスII構造の結合溝の反対側の端に位置する。
【0054】
多数のペプチドリガンドは、少なくとも約1,500の異なるMHC結合ペプチド、好ましくは少なくとも約5,000の異なるMHC結合ペプチド、より好ましくは少なくとも約15,000の異なるMHC結合ペプチド、最も好ましくは少なくとも約150,000のMHC結合ペプチドを有する免疫ペプチドーム調製物を含んでなり得る。前記ペプチドは、MHCクラスIタンパク質では8~10残基の長さ、MHCクラスIIタンパク質では13~25残基の長さの結合モチーフを含んでなり、8~100、好ましくは8~30、より好ましくは8~16残基の長さであり得る。最も好ましいのは、実際の結合モチーフからなるペプチドである。
【0055】
本発明の文脈で使用されるリガンドペプチドは、がん関連、感染関連(細菌またはウイルス)、さらには免疫(例えば、自己免疫)疾患関連のポリペプチドに由来し得る。用語にはまた、適切に変異した、または天然に存在する変異した、すなわち、それぞれのポリペプチドに存在するそれらの基礎となる配列とは異なる、リガンドペプチドが含まれる。
【0056】
好ましいのは本発明による方法であり、前記接触は、約4℃~37℃、好ましくはほぼ室温(15~25℃、好ましくは20℃)で、前記MHC結合ペプチドをMHCに負荷することを含んでなる。
【0057】
驚くべきことに、負荷されたHLA/ペプチド分子(pMHCまたはpMHC複合体)は、約4℃で、約1日を超えて、好ましくは1週間を超えて(例えば、2週間を超えて)非常に安定していることが見いだされた。これにより、上記の既知の方法よりもさらに多くの用途における、効果的かつ便利な使用が可能になる。
【0058】
また、本発明の文脈において、上記の文献とはいくらか対照的に、本方法は、WTのpMHC分子を使用するUV交換の一般的な方法よりも明らかに優れており、チップまたはスライドガラスのような表面上で(特に、高スループット形式で)それを実施できようにすることが判明した。UV媒介ペプチドリガンド交換は、多数の異なるpMHC複合体を生成し得る一方で、交換効率は、ペプチドと、そのそれぞれのMHCクラスI対立遺伝子への結合に対する親和性次第で変動し、サンプル中に異なるpMHC濃度が生じる。正確な親和性を判定するためには濃度の正確な知識が必要とされるので、可溶性分析物として使用されるpMHCを用いた親和性測定では、この不確実性が問題となる。ジスルフィド安定化MHC変異体はペプチドなしで安定であるため、この制限は当てはまらない。空のMHC複合体を飽和させるのに十分高い濃度でペプチドが添加されると、pMHCの有効濃度が分かり、測定の精度が大幅に向上し、偽陰性が回避される。
【0059】
本発明の方法の次のステップでは、前記pMHC分子複合体がTCR結合についてスクリーニングされる。この相互作用の結合および動態属性は、保護的T細胞媒介免疫のパラメータであり、より強いTCR-pMHC相互作用は相互作用半減期の増加を示し、したがって弱い相互作用よりも優れたT細胞活性化と応答性をもたらす。TCRとpMHCリガンドの間の相互作用の強さは、典型的には、特定の相互作用のオンレート定数konとオフレート定数koffの比である、解離定数Kdとして記述され測定される。より小さなKd値はより強い結合を表すので、解離定数Kdは特定の相互作用の結合強度と逆相関する。
【0060】
スクリーニングは、例えば、構造的TCR-pMHC親和性/結合力測定など、pMHC/TCR結合を測定および/または検出するための任意の適切な既知の方法を含んでなり得る。一例は、本明細書で開示されるように、特殊な形態の反射干渉法(RI)であるバイオレイヤー干渉法(BLI)による、TCR結合についてのペプチド-MHCライブラリのスクリーニングであり、前記TCRに対する結合相互作用は、方法に適する感度閾値Kd1.0×10-5より強く検出され、測定されたKdの値は、3.7×10-9~7.2×10-6の範囲であり、または感度閾値よりも弱い場合には、前記TCRに対する結合相互作用は検出されなかった。
【0061】
その他の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)、または反射型干渉分光法(RIfS)、または単色反射法(SCORE、Biametrics、独国チュービンゲン)のような、RIのその他の形態;または例えば、NTAmer(TCMetrix,スイス国エパランジュ)またはpMHCまたはTCR四量体を使用したフローサイトメトリー分析などのマーカーベースのアッセイ;またはタンパク質マイクロアレイのようなその他の形態の蛍光読み出しを伴う。もちろん、理想的にはこれらの方法は、高スループット形式で実施され得て、またはそのために容易に調節され得る。
【0062】
本発明の文脈において、「約」という用語は、特に明記されない限り、所与の値の±10%を含むことを意味するものとする。
【0063】
本発明は一例として、使用前にペプチドを単に添加するだけで負荷され得る、ジスルフィド安定化された空のHLA-A*02:01分子の使用を提示する。この修飾MHC分子を使用して生成されたpMHCは、非修飾野生型変種に相当するものであり、したがって高親和性TCRの結合モチーフの高スループット判定、並びに潜在的に交差反応性のペプチドの同定と特性評価に適していることが実証される。
【0064】
好ましいのは本発明による方法であり、ここで前記MHC分子は、HLA、または二量体、三量体、および四量体からなる群から選択される、HLA、MHC IまたはMHC IIの多量体である。スクリーニングで一度に2つ以上のMHC分子を使用する方法は、例えば、Altman,et al.(in:”Phenotypic Analysis of Antigen-Specific T Lymphocytes.”,Science.4 Oct 1996:Vol.274,Issue 5284,pp.94-969からなど、当該技術分野で公知である。同様に、二量体または三量体が使用され得る。
【0065】
使用されるMHC分子は、アミノ酸間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋を含む。この架橋は、組換え的に導入されたジスルフィド架橋、架橋されるべき非天然アミノ酸の導入、光架橋アミノ酸の導入、および化学的に導入された架橋から選択される。システインを使用した架橋の導入は、本明細書に記載されており;二量体架橋試薬の例はDPDPBおよびHBVSであり、三量体架橋剤の例はTMEAである。
【0066】
好ましいのは本発明による方法であり、ここでアミノ酸間の前記少なくとも1つの人為的に導入された共有結合架橋は、例えば、(i)大部分のHLAではチロシンであるMHC Iの84位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではアラニンである139位のアミノ酸(
図13を参照されたい)をシステインに変異させること、および/または(ii)大部分のHLAではフェニルアラニンであるMHC Iの22位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではセリンであるMHC Iの71位のアミノ酸(
図13を参照されたい)を変異させること、および/または(iii)大部分のHLAではトリプトファンであるMHC Iの51位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではグリシンであるMHC Iの175位のアミノ酸(
図13を参照されたい)を変異させること、または(iv)大部分のHLAではフェニルアラニンであるMHC Iの22位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大部分のHLAではセリンであるMHC Iの71位のアミノ酸(
図13を参照されたい)を変異させること、および大多数のHLAではトリプトファンであるMHC Iの51位のアミノ酸(
図13を参照されたい)、および大多数のHLAではグリシンであるMHC Iの175位のアミノ酸(
図13を参照)を変異させること(最初の24アミノ酸を除くIGMT番号付けに基づく)によってαらせん間に導入される。α
1およびα
2ドメイン、またはMHC-I全体の分子動力学シミュレーションは、空のMHC-Iとペプチド結合MHC-Iとの顕著な違いを示唆しており、ペプチドの非存在下では、Fポケット領域を挟むらせんセクション(それぞれ、α
1およびα
2らせんの残基74~85および138~149)は、可動性が著しくより高い。結合ペプチドはこの領域の可動性を制限し、ペプチド結合ポケットの異なる構造的特徴を好ましくはジスルフィド結合である共有結合と連結することによって、同様の有利な安定化高次構造的制限が達成されるように見える。
【0067】
所与の各HLA対立遺伝子中の上記残基22、51、71、74~85、138~149、および175に対応する位置のアミノ酸を判定するために、それぞれの配列は上記の参照抗体と整列される。公式HLA(MHCクラスI)参照タンパク質配列と、マウスMHC I H2Kbタンパク質の複数の配列とのアラインメントの一例;アミノ酸22、51、71、84、85、139、140、および175(太字)、および安定化変異の導入に適したさらなる領域(灰色)が強調されて、
図13に示される。
図13は、当業者が、所与の各HLA対立遺伝子中の上記残基22、51、71、74~85、138~149、および175に対応する位置のアミノ酸を同定することを可能にするであろう。
【0068】
好ましい一実施形態では、本発明で使用されるMHC I分子は、好ましくは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、HLA-H、HLA-J、HLA-K、HLA-Lである、MHCクラスI HLAタンパク質である。これらの好ましいHLAタンパク質は、IMGT命名法の参照配列に従って、それぞれ、それらのα1ドメインおよびα2ドメインで変異され得る。好ましくは、これらのHLAタンパク質は、22位内の1つまたは複数の好ましくは1つのアミノ酸、51位内の1つまたは複数の好ましくは1つのアミノ酸、71位内の1つまたは複数の好ましくは1つのアミノ酸、74~85位内の1つまたは複数の好ましくは1つのアミノ酸、138~149位内の1つまたは複数の好ましくは1つのアミノ酸、175位内の1つまたは複数の好ましくは1つのアミノ酸が、変異している。さらにより好ましくは、84または85位の1つのアミノ酸が変異しており、139または140位で1つのアミノ酸が変異している。さらにより好ましくは、1つのアミノ酸は22位で変異し、1つのアミノ酸は71位で変異している。さらにより好ましくは、1つのアミノ酸は22位で変異し、1つのアミノ酸は71位で変異し、1つのアミノ酸は51位で変異し、1つのアミノ酸は175位で変異している。好ましいアミノ酸変異は、74~85位の1つのアミノ酸、および138~149位の1つのアミノ酸のシステインへの置換である。なおもより好ましいアミノ酸変異は、22位の1つのアミノ酸のシステインへの置換である。なおもより好ましいアミノ酸変異は、51位の1つのアミノ酸のシステインへの置換である。なおもより好ましいアミノ酸変異は、71位の1つのアミノ酸のシステインへの置換である。なおもより好ましいアミノ酸変異は、175位の1つのアミノ酸のシステインへの置換である。
【0069】
別の好ましい実施形態では、HLA-Aタンパク質は、HLA-A1、HLA-A2、HLA-A3、およびHLA-A11からなる群から選択される。これらの好ましいHLA-Aタンパク質は、IMGT命名法の参照配列に従って、それぞれ、それらのα1ドメインおよびα2ドメインで変異され得る。好ましくはこれらのHLAタンパク質は、アミノ酸22、51、74~85、138~149位、およびアミノ酸175位で変異され得る。なおもより好ましくは、HLA-Aタンパク質は、HLA-A*02タンパク質である。好ましいHLA-A対立遺伝子は、HLA-A*02:01;HLA-A*01:01またはHLA-A*03:01である。
【0070】
別の好ましい実施形態では、HLA-Bタンパク質はHLA-B*07、HLA-B*08、HLA-B*15、HLA-B*35またはHLA-B*44からなる群から選択される。これらの好ましいHLA-Bタンパク質は、IMGT命名法の参照配列に従って、それぞれ、それらのα1ドメインおよびα2ドメインで変異され得る。好ましくはこれらのHLBタンパク質、アミノ酸74~85位およびアミノ酸138~149位で変異され得る。好ましいHLA-B対立遺伝子は、HLA-B*07:02;HLA-B*08:01、HLA-B*15:01、HLA-B*35:01またはHLA-B*44:05である。
【0071】
本発明の文脈において、「TCR」という用語は、TCR由来のまたはTCR様結合ドメインを含んでなる任意のタンパク質性分子/コンストラクトを含むものとし、ここで分子/コンテクストは、本明細書に記載されるように本発明によるpMHC/TCR結合の分析/検出に適する。TCRのα鎖および/またはβ鎖の場合、これは分子を含んでもよく、ここで、双方の鎖は(非修飾α鎖および/またはβ鎖、または融合タンパク質または修飾α鎖および/またはβ鎖のいずれかで)T細胞受容体を形成でき、これは、特に(特異的な)pMHCへの結合、および/またはペプチドの活性化に伴う機能的シグナル伝達などのその生物学的機能を発揮する。好ましいのは本発明による方法であり、ここで前記TCRは、天然TCRと、可溶性TCR分子と、一本鎖TCRと、例えば、本明細書に記載されるような二重特異性(bs)TCRなどのTCR由来またはTCR様結合ドメイン(例えば、抗体に由来する)を含んでなるTCR様分子とから選択される。
【0072】
好ましい実施形態における本発明による方法は、UV交換関連方法をはじめとする一般的な技術と比較して、はるかにより多くのペプチドリガンドおよび/またはpMHCの並行検出、分析、および/またはスクリーニングを可能にする。クラスIおよびクラスIIのヒト白血球抗原(HLA)分子によって細胞表面に提示されるペプチドの集まりは、免疫ペプチドームと称される。2017年5月には、既に119,073の高信頼性HLAクラスIペプチド、および73,465の高信頼性HLAクラスIIペプチドが報告されており(Shao W,Pedrioli PGA,Wolski W,et al.The SysteMHC Atlas project.Nucleic Acids Research.2018;46(Database issue):D1237-D1247)、したがって、ヒト免疫ペプチドームは、クラスIおよびIIのそれぞれについて、150,000のMHC結合ペプチドを超えることが予測され得る。現在の方法は、1日に約700のペプチドを分析し得て、そのため「真の」高スループット法、すなわち、少なくとも約1,500の異なるMHC結合ペプチド、好ましくは少なくとも約5,000の異なるMHC結合ペプチド、より好ましくは少なくとも約15,000の異なるMHC結合ペプチド、最も好ましくは少なくとも約150,000のMHC結合ペプチドを有する実質的に完全な免疫ペプチドーム調製物を含んでなる、多数のペプチドリガンドの分析が求められている。
【0073】
本発明の方法は、免疫ペプチドーム全体のスクリーニングを1日以内という短い期間で可能にする。
【0074】
検出/分析されるpMHC/TCR結合の数を考慮すると、高スループットスクリーニング(HTS)形式として実施される、本発明による方法が好ましい。HTSでは、最大数十万個の実験サンプルを所与の条件下で、pMHC/TCR結合の同時試験に供し得る。サンプルは通常、好ましくは、サンプルの調製、処理、およびデータ分析を自動化する検査室ロボット工学によって処理される。したがって、HTSは、大規模なデータセットを容易かつ確実に生成し使用して、例えば、本明細書に記載されるような、pMHC/TCR結合動態および本明細書に記載の生物学的機能などの複雑な生物学的質問に回答する。
【0075】
HTSでは古典的に、サンプルを配列形式で準備する必要がある。必要ならば、配列されたサンプルは、液体中のマイクロタイタープレートまたは固体寒天上で増殖させ得る。プレートの密度は、96、192、384、768、1,536、または6,144の範囲であり得る。これらの密度は全て96の倍数であり、9mm間隔で8×12に配置された元の96ウェルマイクロタイタープレートを反映する。(例えば、Bean GJ,Jaeger PA,Bahr S,Ideker T.”Development of Ultra-High-Density Screening Tools for Microbial”Omics.””PLoS ONE.2014 Jan 21;9(1):e85177もまた参照されたい)。
【0076】
本明細書に記載されるように、検出/分析されたpMHC/TCR結合動態に関連する用途のために、チップ、バイオセンサー、スライドガラスまたはビーズなどの固体表面が使用され得て、その上にいくつかの分析試薬(例えば、TCRまたはMHC分子のどちらか)が、例えばスポットされるなど、適切に固定化され得る。固定化のために、例えば、ビオチンストレプトアビジン相互作用などの任意の適切な技術が用いられ得る。本明細書に記載されるような実施形態の例は、少なくとも1つの固定化されたpMHCに対する少なくとも1つの可溶性TCRの結合、または少なくとも1つの可溶性pMHCに対する少なくとも1つの固定化TCRの結合が関与する、結合アッセイである。
【0077】
好ましいのは本発明による方法であり、ここで前記TCRおよび/またはMHC分子は、検出可能なマーカーで標識されていないか、または適切に標識されていない。それぞれのマーカーは当該技術分野で公知であり、放射性、蛍光または化学基(例えば、色素)による直接的または間接的な標識が挙げられる。また、酵素マーカーまたは抗原マーカー(抗体による検出用)、および質量マーカーも使用され得る。別の選択肢は、マーカー(例えば、特定の核酸)をコードすることである。標識がない場合、結合を同定するために、質量変化、電荷変化、または例えば、分析物の結合によるバイオレイヤーの光学的厚さ、ひいては干渉パターンまたは反射係数などの光学特性の変化などの、複合体形成/結合時の物理的状態の変化に基づく結合の検出が用いられ得る。
【0078】
結合、特にpMHCとTCRとの「特異的」結合を検出する方法は、当該技術分野で公知である。本発明において好ましいのは本発明による方法であり、ここでKd値ならびにkonおよびkoff値は、前記TCRについて、好ましくは1×10-10M~1×10-3MのKdsの感度で測定され得て、感度は分析対象物の濃度によって決まる。
【0079】
好ましい一例として、親和性は、500nMで始まる1:2の分析物希釈系列を使用して、または500nMで始まる1/√10分析物希釈系列を使用して測定される。好ましい一例として、ペプチドリガンド/MHC分子複合体は、異なる濃度を有する並行アッセイ反応で使用される。
【0080】
本発明による方法のなおも別の重要な態様では、前記方法は、TCRと、前記TCRに結合するTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体とを含んでなる、T細胞活性化を測定するステップをさらに含んでなる。結合、特にpMHCのTCRへの「特異的」結合を通じて、このようなT細胞活性化を検出する方法は、当該技術分野で公知である。本発明では、一例として、ペプチドが負荷された標的細胞、Jurkatエフェクター細胞、および6つの異なる濃度のbs-868Z11-CD3の同時インキュベーションアッセイが実施され、位置スキャニングライブラリからのペプチドリガンドに対する測定された親和性と、バックグラウンドの3倍のルミネセンス増加を誘導するのに必要な最低bsTCR濃度との相関が、カットオフとして採用された。
【0081】
本発明のさらに別の重要な態様は、本明細書に記載されるような本発明による方法を実施するステップを含んでなる、事前選択されたTCRが選択され、それに対して特定のアミノ酸結合モチーフが検出または生成される、TCRの特定のアミノ酸結合モチーフを検出または生成するための方法である。方法は、a)適切に安定化されたMHC分子を提供するステップと、b)前記適切に安定化されたMHC分子をその多数のペプチドリガンドに接触させて、ペプチドリガンド/MHC(pMHC)分子複合体を形成するステップと、c)前記事前に選択されたTCRを使用して、前記pMHC分子複合体をTCR結合についてスクリーニングするステップとを含んでなり、前記MHC分子は、MHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とα2ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋、およびMHC IIの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とβ1ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋を含んでなる。追加的なステップでは、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列が決定され、任意選択的にそして好ましくは比較され、前記事前選択されたTCRの特定のアミノ酸結合モチーフの同定がもたらされる。
【0082】
追加的な一実施形態は、同定後に特定のアミノ酸配列を変異誘発するステップと、前記変異ペプチドを適切に安定化されたMHC分子に接触させるステップと、前記pMHC分子複合体を、事前選択されたTCRとのTCR結合についてスクリーニングし、前記事前選択されたTCRのアミノ酸結合モチーフを得るステップとを含んでなる。ペプチドの変異誘発は、例えば、変異ペプチドを合成することによって、またはそれぞれのペプチドバインダー中の既存のアミノ酸を化学的に修飾することによって、容易に実施され得る。変異誘発はまた、診断的に有効なバインダーを同定するために、ペプチドにマーカーまたはその他の基を添加することを伴い得る。この態様は、本明細書に記載されるような本発明による方法に関し、前記方法ステップは、同定された前記事前選択されたTCRの修飾アミノ酸配列からなるペプチドのプールを含んでなるように繰り返される。修飾は、アミノ酸配列の修飾に基づいて改善された結合パラメーターを計算するために用いられる、既知のコンピューターアルゴリズムおよび/またはプログラムの1つによってさらに導かれ得る。
【0083】
その一例は、本明細書で開示されるようなバイオレイヤー干渉法(BLI)によるTCR結合のために事前選択されたTCRに対して、前記様式で作製されたペプチドを含んでなるpMHC複合体ライブラリのスクリーニングであり、前記TCRに対する結合相互作用は、方法に適する感度閾値K
d1.0×10
-5Mより強く検出され、測定されたK
dの値は、3.7×10
-9M~7.2×10
-6Mの範囲であり、または感度閾値よりも弱い場合には、前記TCRに対する結合相互作用は検出されなかった。前記実施形態では、適切に安定化されたMHC分子とのpMHC複合体の生成は予測可能な量のpMHCを生成し、ひいては既存の方法と比較してK
d測定精度を高めるので、本発明は既存の方法に対して特定の改善を示す(
図5)。
【0084】
1つの追加的な実施形態において、ペプチドリガンドの多数は、例えば、質量分析によって同定されるように、免疫ペプチドームからの既知のペプチドリガンドから大部分が構成され、ここで事前選択されたTCRは、TCR結合についてスクリーニングされて、前記TCRに対する既存の交差反応性ペプチドリガンドが直接同定される。好ましいのは、異なるペプチドの数が、並行して測定される、少なくとも約1500の異なるMHC結合ペプチド、好ましくは少なくとも約5000の異なるMHC結合ペプチドを含んでなる、この実施形態による方法である。
【0085】
本発明のなおも別の重要な態様は、本明細書に記載されるようなTCRの特定のアミノ酸結合モチーフを検出または生成するための方法を実施するステップと、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記TCRの交差反応性を同定する追加的なステップとを含んでなる、TCRの交差反応性を検出または判定するための方法である。この態様は、単一のTCRによって認識されるペプチドの変異型を検出する。
【0086】
本発明のなおも別の重要な態様は、事前選択されたTCRを含んでなる、本明細書に記載されるような本発明による、TCR結合のためのTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体をスクリーニングするための方法を実施するステップと、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記TCRの交差反応性を同定する追加的なステップとを含んでなる、TCRの交差反応性を検出または判定するための方法である。この態様もまた、単一のTCRによって認識されるペプチドの変異型を検出する。
【0087】
その一例は、本発明による変異誘発由来のpMHC複合体ライブラリを用いてTCR結合について事前選択されたTCRをスクリーニングすることによって、以前に判定されたアミノ酸結合モチーフに基づく交差反応性ペプチドリガンドを同定し、既知のまたは想定されるペプチドリガンドのデータベース内で一致するペプチドリガンドを検索することである。
【0088】
本発明のなおも別の重要な態様は、事前選択されたpMHCを含んでなる、本明細書に記載されるような本発明による、TCR結合のためのTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体をスクリーニングするための方法を実施するステップと、それについてpMHC結合が検出されたTCRを同定し、それによって前記TCRの交差反応性を特定する追加的なステップとを含んでなる、ペプチドリガンド/MHC分子複合体の交差反応性を検出または判定するための方法である。この態様は、単一のペプチドを認識するTCRの変異型を検出する。
【0089】
これらの態様では、上記のように、pMHCと事前選択されたTCRとの結合を検出するための同一方法が使用され得る。それにもかかわらず、TCR結合は必ずしも特異的である必要はないので、結合を測定し評価するためのカットオフ値および感度は最適である必要はなく、当業者であれば理解できるように、それぞれの状況下で最適なものが選択されるべきである。
【0090】
本発明による方法の別の重要な態様では、前記方法は、TCRと、前記TCRに結合するTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体とを含んでなるT細胞活性化を測定するステップをさらに含んでなり得る。結合、特にpMHCのTCRへの「特異的」結合を通じて、このようなT細胞活性化を検出する方法は、当該技術分野で公知である。本発明では、一例として、ペプチドが負荷された標的細胞、Jurkatエフェクター細胞、および6つの異なる濃度のbs-868Z11-CD3の同時インキュベーションアッセイが実施され、位置スキャニングライブラリからのペプチドリガンドに対する測定された親和性と、バックグラウンドの3倍のルミネセンス増加を誘導するのに必要な最低bsTCR濃度との相関が、カットオフとして採用された。
【0091】
本発明の別の重要な態様は、次に、適切に安定化されたMHC分子を含んでなる医薬組成物に関し、ここで前記MHC分子は、MHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とα2ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋、および/またはMHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインの2つのアミノ酸間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋、および/またはMHC IIの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とβ1ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋を含んでなり、ここで前記安定化されたMHC分子は、ビーズ、フィラメント、ナノ粒子またはその他の適切な担体に結合している。
【0092】
好ましい実施形態では、医薬組成物は、本発明の第2の態様で上述したように、本発明の第2の態様による安定化されたMHC分子を含んでなる。好ましくは、医薬組成物に含まれる安定化されたMHC分子は、膜貫通ドメインを含まない。
【0093】
医薬組成物は、適切な緩衝剤および/または賦形剤をさらに含んでなる。好ましくは、本発明による前記医薬組成物は、抗CD28または抗41BB抗体など、これらの共刺激分子の1つおよび/または時系列配列の組み合わせをさらに含んでなり得る。
【0094】
本発明の別の重要な態様は、次に、本明細書の本発明による方法における、本発明による医薬組成物の使用に関する。
【0095】
一実施形態では、医薬組成物は、ワクチンに含まれる。別の実施形態では、医薬組成物は、薬剤の製造で使用するためのワクチンに含まれる。好ましくは、ワクチンは、がんの予防に使用される。さらにより好ましくは、ワクチンは、それを必要とする対象に投与された後、対象のT細胞応答を惹起または誘発する。好ましくは、ワクチン中の医薬組成物に含まれる安定化されたMHC分子は、膜貫通ドメインを含まない。
【0096】
本発明の別の重要な態様は、次に、pMHC複合体で刺激して特定の患者のための細胞医薬品を生成することによる、T細胞受容体の個別化同定、またはT細胞の活性化、および/またはがんなどの増殖性疾患に対するT細胞治療薬の改善のための方法に関する。このような刺激は、本発明による方法を含んでなる、前記患者からがん組織および/またはがん細胞のサンプルを入手/提供するステップと、前記患者から正常組織および/または細胞のサンプルを入手/提供することを提供するステップと、XPRESIDENT(登録商標)または同等の方法を使用して、前記サンプル中のMHCの文脈で提示されたペプチドを検出するステップと、前記ペプチドの少なくとも1つの配列を決定するステップと、任意選択的に、決定された前記ペプチドの基礎となる遺伝子の発現を検出するステップと、前記サンプル中で検出されたペプチドのMHC提示レベル/数を検出するステップと、任意選択的に、前記腫瘍および正常組織および/または細胞サンプル中で検出されたペプチドの前記MHC提示レベル/数を比較するステップと、最適化されたTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体をスクリーニングするステップとによって同定された、ペプチドが負荷されたpMHC複合体に基づき得る。前記T細胞は、前記患者から直接回収されたものを含み、前記刺激の後に細胞医薬品として再投与され得る。前記刺激は、好ましくは臨床グレードの条件(例えば、GMP)の下で製造された適切に安定化されたMHC分子を例えばフィラメントまたはビーズなどの担体に固定化することによって製造され、次に、それにオンデマンドで例えば臨床現場で直接、ペプチドが負荷され得る、事前に作成された刺激フレームワークの使用を含み得る。これらの刺激フレームワークは、適切に安定化されたMHC分子と共に固定化されたその他の共刺激分子(例えば、抗CD28抗体、抗41BB抗体)もまた含み得る。
【0097】
上記方法の好ましい態様では、前記ペプチド、例えば、特定のタイプのがんまたはその他の種類の増殖性疾患に特異的なペプチドは、別の患者における以前の同定を通じて、処置を行う当業者には既に知られている。したがって、前記ペプチドは、同一タイプのがんを有する異なる患者のために迅速に選択および生成され、前記刺激フレームワーク上に負荷されて、細胞医薬品を製造するために使用され得る。
【0098】
上記方法の好ましい態様では、前記T細胞活性化のプロセス、および/または前記患者から直接回収されたT細胞治療薬は、腫瘍特異的外因性T細胞受容体(TCR)を発現するようにT細胞を導入するステップと、任意選択的に、前記得られたT細胞治療薬を適切に配合するステップともまた含んでなる。
【0099】
「T細胞」という用語は、当該技術分野で定義されているTリンパ球を指し、組換えT細胞を含むことが意図される。本明細書の用法では、「T細胞受容体」および「TCR」という用語は、MHC分子に結合する抗原の認識に関与するT細胞の表面上に見られる分子を指し、習慣的に、MHC分子によって提示された際にペプチドを認識できる分子を指す。分子は、α鎖およびβ鎖(または選択的にγ鎖およびδ鎖)を含むヘテロ二量体、またはシグナルを発生するTCRコンストラクトである。本発明のTCRは、その他の種に由来する配列を含むハイブリッドTCRである。例えば、マウスTCRはヒトT細胞においてヒトTCRよりも効果的に発現されるので、TCRはヒト可変領域およびマウス定常領域を含む。この用語は、結合に必要な相補性決定領域(CDR)を含む限り、可溶性TCR分子およびその誘導体もまた含む。
【0100】
XPRESIDENT(登録商標)技術は、とりわけ、それらの全体が参照により援用される、国際公開第03/100432号パンフレット、国際公開第2005/076009号パンフレット、および国際公開第2011/128448号パンフレットに記載されている。
【0101】
上記方法の好ましい態様では、増殖性疾患に対する改善された個別化T細胞受容体、T細胞、および/またはT細胞治療薬の前記開発は、腫瘍特異的外因性T細胞受容体(TCR)を発現するように患者の自己由来の(自身の)T細胞を形質導入するステップと、任意選択的に、前記得られたT細胞治療薬を適切に配合するステップとをさらに含んでなる。
【0102】
本発明者らは、例としてのジスルフィド修飾HLA-A*02:01分子が、安定した空のMHCモノマーとして容易に生成され、再折りたたみ後にリガンドペプチドが負荷され、野生型pMHC複合体を使用して収集されたデータと良好に一致する、親和性データを生成するために使用され得ることを実証している。
【0103】
ジスルフィド修飾HLA-A*02:01分子と二重特異性TCRの双方をBLIベースのスクリーニングと併用して、現在、文献でこれらの相互作用のために現在使用されている表面プラズモン共鳴測定よりもはるかにより高いスループットを有するプラットフォームである、pMHC-bsTCRの結合親和性が測定され得る。ジスルフィド修飾HLA-A*02:01分子はこのプラットフォームの一部であり、信頼性が高く、なおも高スループットのpMHC生成を提供する。このプラットフォームは、モノクローナル抗体または二重特異性物質(例えば、BITE)などのpMHCを標的化する場合、その他の生物製剤の分析にも役立ち得る。pMHC-bsTCR結合親和性は、本発明者らが、機能的な二重特異性物質T細胞エンゲージャーを用いて双方を実施した場合に、細胞アッセイと良好に相関した。本発明者らの知る限りでは、これは、幅広い親和性にわたる、pMHC-bsTCR結合親和性と生体外活性の関係の最初の詳細な分析である。細胞スクリーニングと比較して、親和性スクリーニングプラットフォームはより使いやすく、顕著に迅速に機能し、そのため早期スクリーニングツールとして適任である。ジスルフィド修飾HLA-A*02:01分子が、低親和性ペプチドリガンドでさえpMHC複合体として予測通りに提示する能力により、本発明者らは、外因性ペプチド負荷アプローチにおいて遭遇する変動を考慮する必要なしに、pMHC-bsTCR結合親和性を正確に測定し得て、その結果、潜在的に価値のある情報が失われることはない。本発明者らは、提示された親和性解析プラットフォームの使いやすさが、安全かつ効果的なT細胞受容体ベースの二重特異性物質分子の開発を早期段階から支援すると考えている。
【0104】
一例として、本発明者らは、pMHC-bsTCR結合親和性データセットを迅速に生成し、それらから交差反応性検索モチーフを外挿することが可能であることを示している。本発明者のHLAペプチドミクスベースのXPRESIDENT(登録商標)プラットフォームによって導かれ、検索モチーフを使用して、潜在的に交差反応性のペプチドリガンドが同定され得る。提示されたこのストラテジーの実施において、本発明者らは、bsTCRによって強く認識され、T細胞活性化を誘導できる多数のペプチドを同定し得て、元の標的と比較して、配列コンセンサスは、9つの位置のうち1つという低さであった。
【0105】
この刺激的で革新的な技術は、発見された免疫ペプチドーム全体のスクリーニングをもたらし得て;このような次元のpMHCライブラリは、現在、ランダムに変異した一本鎖ペプチドMHCライブラリ(32、33)を用いた、酵母ディスプレイによってのみ利用可能である。それらは、広範なTCR解析のためには有用であるが、抗体開発で典型的に使用されるペプチドマイクロアレイと比較して、使用がはるかにより複雑であり、ペプチドリガンド組成の予測が困難である。本発明のジスルフィド修飾HLA-A*02:01分子は、その安定性と低労力のペプチド負荷プロセスのために、例えば、空のMHCの大規模コーティングと近代的ペプチドマイクロアレイインクジェットプリンタの高スループットを組み合わせることによって、将来的に非常に複雑なpMHCマイクロアレイの作成に理想的に適合してもよい。
【0106】
主要組織適合性複合体(MHC)クラスI分子は、細胞傷害性CD8+T細胞による照合のために、細胞表面上に短いペプチドリガンドを提示する。腫瘍関連ペプチド(TUMAP)を提示するMHCクラスI複合体は、現在開発中のがん免疫療法アプローチの重要な標的であり、有効性ならびに安全性全性のスクリーニングにとって重要である。ペプチドリガンドなしでは、MHCクラスI複合体は不安定で急速に崩壊するため、分析目的での可溶性モノマーの製造のためには労働集約的である。本発明者らは、ペプチドなしで安定であるが、選択されたリガンドと数分以内にペプチド-MHC複合体を形成し得る、ジスルフィド結合安定化HLA-A*02:01分子を開発した。本発明者らは、野生型または成熟高親和性TCRの結合親和性に関して、操作された変異体と野生型変異型との間の一致を例示する。本発明者らは、二重特異性TCR分子の高スループット親和性スクリーニングにおける分析物としてのそれらの可能性を実証し、オフターゲット相互作用を同定するための包括的なTCR結合モチーフを生成する。
【0107】
本発明の別の態様は、本発明の第2の態様の安定化MHC分子またはそのペプチド結合断片をコード化する核酸およびベクターに関する。MHC Iが全てのペプチド結合ドメイン、すなわち1つのポリペプチド鎖上のα1ドメインおよびα2ドメインを含んでなる一方で、MHC IIが2つのポリペプチド鎖上のα1ドメインおよびβ1ドメインを自然に含んでなることは、当該技術分野で周知である。前述したように、機能的なMHC IIはまた、β1ドメインをα1ドメインに融合させることによって、単一のペプチド上に提供され得る。したがって、本発明のMHC IおよびIIをコード化する核酸は、1つまたは2つのポリペプチドをコード化してもよく、または2つのポリペプチドはまた、2つの別個の核酸によってコード化されてもよい。
【0108】
「核酸」という用語は、本発明の文脈において、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド塩基、またはその双方の一本鎖または二本鎖オリゴまたはポリマーを指す。ヌクレオチドモノマーは、核酸塩基、五炭糖(リボースまたは2’-デオキシリボースなどであるがこれらに限定されるものではない)、および1~3つのリン酸基からなる。典型的には、核酸は、個々のヌクレオチドモノマー間のリン酸ジエステル結合を通じて形成されるが、本発明の文脈において、核酸という用語は、リボ核酸(RNA)およびデオキシリボ核酸(DNA)分子を含むがこれらに限定されず、その他の連結体からなる核酸の合成形態も含む(例えば、Nielsen et al.(Science 254:1497-1500,1991)に記載されるようなペプチド核酸)。典型的には、核酸は一本鎖または二本鎖分子であり、天然に存在するヌクレオチドからなる。核酸の一本鎖の描写はまた、(少なくとも部分的に)相補鎖の配列を画定する。核酸は一本鎖または二本鎖であってもよく、または二本鎖および一本鎖配列の双方の部分を含有してもよい。例示された二本鎖核酸分子は、3’または5’のオーバーハングを有し得て、したがって、それらの全長にわたって完全に二本鎖である必要はなく、または想定もされない。本発明の核酸は、生物学的、生化学的、化学的合成法によって、または増幅法、およびRNAの逆転写法をはじめとするがこれらに限定されるものではない、当技術分野で知られている方法のいずれかによって得られてもよい。核酸という用語は、染色体または染色体のセグメント、ベクター(例えば、発現ベクター)、発現カセット、裸のDNAまたはRNAポリマー、プライマー、プローブ、cDNA、ゲノムDNA、組換えDNA、cRNA、mRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)または低分子干渉RNA(siRNA)を含んでなる。核酸は、例えば、一本鎖、二本鎖、または三本鎖であり得て、その長さは特に限定されない。別段の指示がない限り、特定の核酸配列は、明示的に示された任意の配列に加えて、相補的な配列を含んでなりまたはそれをコード化する。
【0109】
本発明の別の態様は、本発明の第2の態様の安定化たMHC分子またはそのペプチド結合断片をコード化する核酸を含んでなる、ベクターである。このようなベクターは、患者におけるワクチンの発現が望ましいワクチン接種ストラテジーで使用されてもよい。このような場合、ベクターは、それに対する免疫応答、好ましくはT細胞応答が所望される、タンパク質、またはその断片を含んでなるT細胞エピトープをさらにコード化してもよい。このようにして、ベクターを含んでなる患者の細胞で発現されたMHC分子のペプチド結合ポケットに、正しいペプチドが負荷されていることが、確認されてもよい。代案としては、MHC分子は、融合タンパク質中にT細胞エピトープを含んでなるペプチドを含んでなるように、修飾されてもよい。典型的には、ペプチドは、介在するペプチドリンカーによってMHC分子に融合され、ペプチドがMHC分子の結合溝によって結合されることを可能にする。
【0110】
本発明の文脈において、「ベクター」という用語は、関心のあるタンパク質をコード化するポリヌクレオチド、またはポリペプチドと関心のあるタンパク質をコード化するポリヌクレオチドとを含んでなる混合物を指し、この混合物は、細胞内に導入されることができ、またはそれが含んでなるタンパク質および/または核酸を細胞内に導入できる。ベクターの例としては、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、または人工染色体が挙げられるが、これらに限定されるものではないい。ベクターを使用して、例えば、外来性または異種DNAなどの関心のある遺伝子産物が宿主細胞に導入される。ベクターは、宿主細胞におけるベクターの自律複製を容易にする「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含有してもよい。外来性DNAは異種DNAとして定義され、これはベクター分子を複製し、選択可能またはスクリーニング可能なマーカーをコード化し、または導入遺伝子をコード化する、宿主細胞内で天然に見られないDNAである。宿主細胞に入ると、ベクターは宿主染色体DNAとは独立してまたは同時に自己複製し得て、ベクターおよびその挿入DNAの複数のコピーが生成され得る。さらに、ベクターは、挿入されたDNAのmRNA分子への転写を可能にするのに、さもなければ挿入されたDNAをRNAの複数のコピーに複製させるのに、必要な要素もまた含み得る。ベクターは、関心のある遺伝子の発現を調節する「発現制御配列」をさらに包含してもよい。典型的には、発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、またはリプレッサーなどのポリペプチドまたはポリヌクレオチドである。関心のある1つまたは複数の遺伝子産物をコード化する2つ以上のポリヌクレオチドを含んでなるベクターにおいて、発現は、1つまたは複数の発現制御配列によって一緒にまたは別々に制御されてもよい。より具体的には、ベクターに含まれる各ポリヌクレオチドは、別個の発現制御配列によって制御されてもよく、またはベクターに含まれる全てのポリヌクレオチドは、単一の発現制御配列によって制御されてもよい。単一の発現制御配列によって制御される単一のベクターに含まれるポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレームを形成してもよい。一部の発現ベクターは、挿入されたDNAに隣接する配列要素をさらに含有し、それは発現されたmRNAの半減期を延長し、および/またはmRNAのタンパク質分子への翻訳ができるようにする。したがって、挿入されたDNAによってコード化されるmRNAおよびポリペプチドの多数の分子が、迅速に合成され得る。このようなベクターは、プロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどの調節エレメントを含んでなり、対象への投与時に前記ポリペプチドの発現を引き起こしまたは指示してもよい。動物細胞のための発現ベクターで使用されるプロモーターおよびエンハンサーの例としては、SV40の初期プロモーターおよびエンハンサー(Mizukami T.et al.1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターおよびエンハンサー(Kuwana Y et al.1987)、免疫グロブリンH鎖などのプロモーター(Mason JO et al.1985)およびエンハンサー(Gillies SD et al.1983)が挙げられる。ヒト抗体C領域をコード化する遺伝子を挿入して発現させることができる限り、動物細胞のための任意の発現ベクターが使用され得る。適切なベクターの例としては、pAGE107(Miyaji H et al.1990)、pAGE103(Mizukami T et al.1987)、pHSG274(Brady G et al.1984)、pKCR(O’Hare K et al.1981)、pSG1 β d2-4-(Miyaji H et al.1990)などが挙げられる。プラスミドのその他の例としては、複製起点を含んでなる自己複製プラスミド、または例えば、pUC、pcDNA、pBRなどの統合プラスミドが挙げられるる。
【0111】
要約すると、本発明は以下の項目に関する。
【0112】
項目1.a)適切に安定化されたMHC分子を提供するステップと、b)前記適切に安定化されたMHC分子をその多数のペプチドリガンドに接触させて、ペプチドリガンド/MHC(pMHC)分子複合体を形成するステップと、c)前記pMHC分子複合体をTCR結合についてスクリーニングするステップとを含んでなり、前記MHC分子が、MHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とα2ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋、およびMHC IIの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とβ1ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋を含んでなる、TCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体をスクリーニングする方法。
【0113】
項目2.前記MHC分子が、HLA、二量体、三量体、および四量体からなる群から選択される、HLA、MHC IまたはMHC II多量体である、項目1に記載の方法。
【0114】
項目3.アミノ酸間の前記人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋が、組換え的に導入されたジスルフィド橋、架橋されるべき非天然アミノ酸の導入、光架橋アミノ酸の導入、および化学的に導入された架橋から選択される、項目1または2に記載の方法。
【0115】
項目4.アミノ酸間の前記少なくとも1つの人為的に導入された共有結合架橋が、例えば、MHC Iの84位のチロシンおよび139位のアラニンをシステインに変異させることによって、αらせん間に導入される、項目1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0116】
項目5.前記多数のペプチドリガンドは、少なくとも約1,500の異なるMHC結合ペプチド、好ましくは少なくとも約5,000の異なるMHC結合ペプチド、より好ましくは少なくとも約15,000の異なるMHC結合ペプチド、最も好ましくは少なくとも約150,000MHC結合ペプチドを有する免疫ペプチドーム調製物を含んでなる、項目1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
項目6.前記接触が、前記MHC結合ペプチドを約4℃~約30℃で、好ましくはほぼ室温で負荷するステップを含んでなる、項目1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
項目7.前記負荷されたHLA/ペプチド分子が、約4℃で、約1日以上、好ましくは、約1週間以上安定である、項目1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0119】
項目8.pMHC複合体への結合についてのTCRの親和性スクリーニングの感度レベルが、約Kd1.0×10-9よりも高く、好ましくは約Kd1.0×10-6Mよりも高く、より好ましくは約Kd1.0×10-3Mよりも高い、項目1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
項目9.前記TCRが、天然TCR、可溶性TCR分子、およびbsTCRなどのTCR様分子から選択される、項目1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0121】
項目10.TCRまたはMHC分子のどちらかが、チップ、バイオセンサー、スライドガラスまたはビーズなどの固体表面上に適切に固定化される、項目1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
項目11.前記TCRおよび/またはMHC分子が標識および/またはマーカーを含まない、項目1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
項目12.前記方法が、高スループットスクリーニング形式で実施される、項目1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
項目13.事前選択されたTCRを含んでなる項目1~12のいずれか1つに記載のを実施するステップと、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を決定および比較し、それによって、前記事前選択されたTCRの特定のアミノ酸結合モチーフを同定する、追加的なステップとを含んでなる、TCRの特定のアミノ酸結合モチーフを検出または生成するための方法。
【0125】
項目14.前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体が、異なる濃度を有する並行アッセイ反応で使用される、項目13に記載の方法。
【0126】
項目15.同定された前記事前選択されたTCRのための修飾アミノ酸結合モチーフからなるペプチドのプールを含んでなる、前記方法ステップが繰り返される、項目13または14に記載の方法。
【0127】
項目16.項目15に記載の方法を実施するステップと、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記TCRの交差反応性を同定する追加的なステップとを含んでなる、TCRの交差反応性を検出または判定するための方法。
【0128】
項目17.事前選択されたTCRを含んでなる項目1~12のいずれか1つに記載のを実施するステップと、TCR結合が検出された前記ペプチドリガンド/MHC分子複合体中のそれらのペプチドリガンドのアミノ酸配列を判定および比較し、それによって前記TCRの交差反応性を同定する追加的なステップとを含んでなる、TCRの交差反応性を検出または判定するための方法。
【0129】
項目18.TCRと、前記TCRに結合するTCR結合ペプチドリガンド/MHC分子複合体とを含んでなるT細胞活性化を測定するステップをさらに含んでなる、項目1~17のいずれか1つに記載の方法。
【0130】
項目19.刺激フレームワークを担持するペプチドリガンド/MHC分子複合体を用いて、細胞集団(例えば、特異的T細胞集団)を活性化および/または刺激および/または増殖させるための方法であって、前記フレームワークが、例えばビーズ、フィラメント、ナノ粒子などの担体、または前記複合体を担持できる任意の担体上に固定化されたペプチドリガンド/MHC分子複合体を危うくし、適切に安定化されたMHC複合体が担体上に固定化され、ペプチドリガンドの添加前にフレームワークがこのような状態で長期間保存され得て、ひいては、研究または臨床診療において抗原提示細胞を模倣するこのような刺激フレームワークの実用性が大幅に向上される、方法。
【0131】
項目20.MHC Iの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とα2ドメインのアミノ酸との間に人為的的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋、およびMHC IIの場合、前記安定化されたMHC分子のα1ドメインのアミノ酸とβ1ドメインのアミノ酸との間に人為的に導入された少なくとも1つの共有結合架橋を含んでなる、適切に安定化されたMHC分子を含んでなり、前記安定化されたMHC分子が、ビーズ、フィラメント、ナノ粒子またはその他の適切な担体に結合している、医薬組成物。
【0132】
項目21.例えば、抗CD28抗体または抗41BB抗体などのより多くの共刺激分子および/またはこれらの共刺激分子の時系列配列の1つまたは組み合わせをさらに含んでなる、項目20に記載の医薬組成物。
【0133】
項目22.前記安定化MHC分子が、ペプチドリガンドの添加前に、例えば、室温または4℃または約-80℃で、長期間保存され得る、項目20または21に記載の医薬組成物。
【0134】
項目23.項目1~19のいずれか1つに記載の方法における、項目20~22のいずれか1つに記載の医薬組成物の使用。
【0135】
ここで、本発明を添付の図面を参照して実施例でさらに説明するが、それでもなお、それに限定されることは望まない。本発明の目的で、引用される全ての参考文献は、その内容全体が参照により援用される。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【
図1】ジスルフィド安定化されたHLA-A
*02:01の生成、および親和性測定のための使用の概要を示す。(a)重鎖およびβ
2mの発現プラスミドが大腸菌に形質移入され、関心のあるタンパク質が封入小体中で発現される。HLAモノマーは、サイズ排除を用いて精製される。(b)空のジスルフィド修飾HLA-A
*02:01分子には、室温でのインキュベーションによって、ペプチドリガンドが負荷され得る。親和性測定では、それらは、例えば、ビオチンストレプトアビジン相互作用によって、機能化されたバイオセンサー上に固定化され、TCRまたはTCR様分子の結合および解離を記録するために使用される。
【
図2】1G4 TCRと様々なMHCモノマーとの結合および解離挙動を示す。生データは
図2(a)および
図2(b)に示され、曲線適合は
図2(c)および
図2(d)に示される。全ての測定は、24μMから開始する1:2分析物希釈系列として実施された。(a)固定化されたESO 9V Y84C/A139C HLA-A
*02:01 pMHCに対する、1G4 TCRの結合曲線。(b)固定化されたESO 9V WT-A
*02:01 pMHCに対する、1G4 TCRの結合曲線。(c)固定化された空のY84C/A139C HLA-A
*02:01に対する、1G4 TCRの結合曲線。(d)固定化されたSL9 Y84C/A139C HLA-A
*02:01 pMHCに対する、1G4 TCRの結合曲線。
【
図3】SL9特異的bs-868Z11-CD3 bsTCRと、様々なMHCモノマーおよびペプチドリガンドとの親和性を示す。(a)固定化されたSL9 Y84C/A139C HLA-A
*02:01 pMHCに対する、bs-868Z11-CD3の結合曲線。生データは
図3(a)および
図3(b)に示され、曲線適合は
図3(c)および
図3(d)に示される。500nMから開始する1:2分析物希釈系列を使用して測定された。(b)固定化されたSL9 WT-A
*02:01 pMHCに対する、bs-868Z11-CD3の結合曲線。生データは黒で示され、曲線適合は赤で示される。500nMから開始する1:2分析物希釈系列を使用して測定された。(c)固定化された空のY84C/A139C HLA-A
*02:01に対する、bs-868Z11-CD3の結合曲線。500nMから開始する1:2分析物希釈系列を使用して測定された。(d)UV交換を使用して生成されたY84C/A139C HLA-A
*02:01pMHCまたはWT-A
*02:01 pMHC複合体を使用して測定された、親和性間の相関。K
dsは、双方の方法を使用して生成された140の異なるペプチドリガンドについてプロットされ、良好な曲線適合で連続した実験中に測定された。K
dsは、500nMおよび158nMの分析物濃度を用いて適合された。R2は計算された相関係数であり、破線は最適な比率を表す。
【
図4】可溶化分析物としてのY84C/A139C HLA-A
*02:01生成変異アミノ酸配列ライブラリと固定化されたbsTCRとを使用して生成された、bs-868Z11-CD3の結合モチーフを示す。K
dsは、本発明者らの分析物濃度のうち、少なくとも1つからの曲線を用いて、含まれるべき曲線に対して0.05nmのピークシグナルを有する曲線を用いて適合させた。適合可能な曲線のない位置には、5×10
-6MのK
d>が割り当てられた。500nMから開始する1/√10分析物希釈系列を使用して測定された。(a)導入されたアミノ酸およびペプチド配列内の交換された位置に応じた、親和性のヒートマップ。白い四角は、野生型ペプチドアミノ酸を示ます。(b)seq2logoグラフとしての結合モチーフの視覚化。個々の文字のサイズは、この位置で測定された各アミノ酸の親和性を反比例して表し、逆K
d値を10
8で除した値およびPSSM-Logoアルゴリズムを用いて計算される。(c)ALYNVLAKV(配列番号1)が負荷されたY84C/A139C HLA-A
*02:01 pMHCに対する、bs-868Z11-CD3 bsTCRの結合曲線。500nMから開始する1/√10分析物希釈系列を使用して測定された。
【
図5】ペプチドが負荷された標的細胞、Jurkatエフェクター細胞、および6つの異なる濃度のbs-868Z11-CD3の同時インキュベーションアッセイの結果を示す。(a)SL9野生型ペプチドが負荷されたT2標的細胞の存在下で、異なる濃度のbs-868Z11-CD3で刺激されたJurkat細胞のバックグラウンドを超える測定された倍数誘導。(b)位置スキャンライブラリからのペプチドリガンドに対する測定された親和性と、バックグラウンドの3倍のルミネセンス増加を誘導するために必要な最低のbsTCR濃度との相関。ペプチドは、野生型配列における交換の位置に応じて、9つの異なるグループにグループ化される。(c)位置スキャニングライブラリからのペプチドリガンドに対する測定された親和性と、それらのNetMHC予測pMHC結合ランクとの相関。ペプチドは、バックグラウンドの3倍のルミネセンス増加を誘導するために必要な最低bsTCR濃度に応じて、6つの異なるグループにグループ化される。(d)交差反応性ペプチドリガンド候補について測定された親和性と、バックグラウンドの3倍のルミネセンス増加を誘導するために必要な最低のbsTCR濃度との相関。(e)ALYNVLAKV(配列番号1)ペプチドが負荷されたT2標的細胞の存在下で、異なる濃度のbs-868Z11-CD3で刺激されたJurkat細胞のバックグラウンドを超える測定された倍数誘導。誤差棒は生物学的三連に相当する。
【
図6】固定化されたbs-868Z11-CD3を使用した親和性測定のための可溶性分析物としての、Y84C/A139C HLA-A
*02:01またはUV交換で生成されたWT-A
*02:01 pMHC複合体の比較を示す。Y84C/A139C HLA-A
*02:01複合体は左、WT-A
*02:01複合体は右にある。全ての測定は、500nMから開始する1:2分析物希釈系列を使用して実施された。
【
図7】1G4と複合体形成した、ESO9VY84C/A139C HLA-A
*02:01およびESO 9V WT-A
*02:01の結晶構造を示す。(a)ペプチドおよびアミノ酸側鎖配向に焦点を当てた、WTおよびY84C/A139C HLA-A
*02:01構造のオーバーレイ。(b)Fポケット、およびα1とα2の間に導入されたジスルフィド結合のクローズアップ。(c)ペプチドおよびMHC主鎖と相互作用する、1G4 CDRループのオーバーレイ。(d)側面から見た双方の結晶構造のオーバーレイ。誤差棒は生物学的三連に相当する。
【
図8】可溶性分析物としてのY84C/A139CHLA-A
*02:01生成位置スキャニングライブラリと固定化されたbsTCRとを使用して生成された、bs-868Z11-CD3との結合モチーフを示す。測定は、4つの可溶性分析物濃度を使用して実施された。適合可能な曲線のない位置には、5×10
-6MのK
d>が割り当てられた。500nMから開始する1/分析物希釈系列によって生成された、可溶性分析物濃度範囲。導入されたアミノ酸およびペプチド配列内の交換された位置に応じた、親和性のヒートマップ。
【
図9】bsTCRbs-868Z11-CD3コンストラクトの図を示す。868Z11ドメインはSLYNTVATL反応性TCR868をベースにしており、Varela-Rohena et al.(8)によって同定された、CDR2β(YYEEEE~YVRGEE)およびCDR3α領域(CAVRTNSGYALN~CAVRGAHDYALN)における親和性増強変異が組み込まれている。親和性増強TCRのVβおよびVαドメインは、一本鎖リンカー(GSADDAKKDAAKKDGKS)を介して連結され、Vα2領域(F49S)の表面安定性付与変異でさらに修飾されて、Aggen et al.(22)による可溶性発現が可能になる。bs-868Z11-CD3分子を作製するために、この868Z11 scTvドメインは、2つのシステインノックアウト(C
226SおよびC
229S)を有するIgG2由来のCH2ヒンジドメイン(APPVAG)を介して、ヒト化抗CD3抗体のF(ab’)重鎖部分に融合され、発現時にF(ab’)
2ホモ二量体が形成されるのを防ぐために組み込まれた。
【
図10】SLYNTVATLベースの位置スキャニングライブラリリから選択された28の異なるペプチドのUV交換効率、およびOctet測定結果の分析を示す。(a)左軸:抗β2m ELISAを用いて判定された、UV感光性pMHCモノマー25000ng/mlを用いたUV交換後のpMHC濃度。点線は、ペプチドを含まないUV交換に基づくELISA/UV交換バックグラウンドシグナルを表す。誤差棒は技術的三連に相当する。右軸:OctetRED384システム上で固定化されたbs-868Z11-CD3に対する可溶性pMHC分析物の結合応答の比率。pMHCは、UV交換を使用して、またはY84C/A139C HLA-A
*02:01ペプチド負荷によって調製された。同様に負荷された抗F(ab)バイオセンサーとの60秒間の結合後のUV-A
*02:01応答をY84C/A139C HLA-A
*02:01応答で除して、計算された比率。(b)NetMHCランク15以上の4つのペプチドの詳細な曲線適合。Y84C/A139C HLA-A
*02:01複合体は左、WT-A
*02:01複合体は右にある。全ての測定は、500nMから開始する1:2分析物希釈系列を使用して実施された。
【
図11】複数の異なる可溶性TCRおよびbsTCRbs-868Z11-CD3の、非負荷Y84C/A139CHLA-A
* 02:01または無関係のペプチドが負荷されたY84C/A139C HLA-A
*02:01に対する結合を示す。(a)3つの異なるHLA-A
*02:01拘束性可溶性TCRおよびbs-868Z11-CD3の、機能的に空のY84C/A139C HLA-A
*02:01への結合。Y84C/A139C HLA-A
*02:01はストレプトアビジンセンサー上に固定化され、各TCRは1mg/ml(可溶性TCRは20μM、bsTCRは13.3μM)で提供された。(b)同一TCRの、無関係のペプチドが負荷されたY84C/A139C HLA-A
*02:01への結合。
【
図12】交換直後および4℃で2週間保管した後の、固定化されたbs-868Z11-CD3を使用したY84C/A139C HLA-A
*02:01 SLYNTVATL pMHCのoctet親和性測定を示す。どちらの測定も、277.8nMから開始する1:2分析物希釈系列を使用して実施された。
【
図13-1】様々なHLA対立遺伝子と1つのマウス対立遺伝子の多重配列アラインメントを示す。配列アラインメントでは、安定化アミノ酸置換を導入するための領域が強調表示されている。このアラインメントは、当業者に、所与の各HLA対立遺伝子において、MHC分子を安定化するために置換されるアミノ酸を決定するための基礎を提供する。
【
図14】異なるジスルフィド修飾HLA-A
*02:01複合体を用いて生成されたSL9p MHCに対する、SL9特異的bs-868Z11-CD3bsTCRの親和性を示す。結合曲線は、固定化されたSL9 pMHCに対するbs-868Z11-CD3の結合と解離を示す。500nMから開始する1:2分析物希釈系列を使用して測定された。固定化されたSL9WT-HLA
*02:01 pMHCに対する、bs-868Z11-CD3 bsTCRの結合曲線(左上図)。固定化されたSL9Y84C/A139C HLA
*02:01 pMHCに対する、bs-868Z11-CD3 bsTCRの結合曲線(右上の図)。固定化されたSL9F22C/S71C HLA
*02:01に対する、bs-868Z11-CD3 bsTCRの結合曲線(左下図)。固定化されたSL9 F22C/S71C W51C/G175C HLA-A
*02:01 pMHCに対する、bs-868Z11-CD3 bsTCRの結合曲線(右下図)。
【
図15】異なるpMHC複合体に対する、高親和性TCRのK
d値を示す。いずれの場合も、WT-A
*02:01分子のK
dがX軸上に示され、2つの異なるジスルフィド修飾HLA-A
*02:01 MHC分子のK
dがy軸上に示され、各ドットはMHC分子上に負荷された異なるペプチドの1つを表す。配列番号1~5および16~325は、以下の実施例で使用されたペプチド配列を示す。
【実施例】
【0137】
1.ペプチド合成
全てのペプチドは、標準的なFmoc化学を使用して、Syro IIペプチド合成装置を用いて施設内で生成した。引き続いて、HPLCを使用してペプチドを分析し、平均純度は74%であった。UV感光性ペプチドは、2-ニトロフェニルアミノ酸残基を有する感光性構成要素を含有した。ジペプチドGMは、Bachemから調達した。使用前に、ペプチドをDMSO(Sigma、カタログ番号41640)、0.5%TFA(Sigma、カタログ番号T6508)で、所望の使用例に応じて2mg/ml~10mg/mlの範囲の濃度で溶解した。
【0138】
2.再折りたたみおよび精製によるMHC複合体の生成
組換えHLA-A*02:01野生型(WT-A*02:01、配列番号322)、またはC末端BirAシグナル配列とヒトβ2m軽鎖とを有するジスルフィド修飾HLA-A*02:01重鎖を大腸菌(Escherichia coli)中の封入小体として生成し、既述のように精製した(2)。HLA-A*02:01複合体の再折りたたみ反応は、わずかな修正を加えて既述のように実施した(Saini et al 2013)。手短に述べると、WT-A*02:01またはジスルフィド修飾HLA-A*02:01重鎖、β2m軽鎖、およびペプチドを再折りたたみ緩衝液(100mMトリス・Cl、pH8、0.5Mのアルギニン、2mMのEDTA、0.5mMの酸化グルタチオン、5mMの還元グルタチオン)で希釈し、濃縮前に、撹拌しながら4℃で2~8日間インキュベートした。濃縮されたタンパク質は、HiLoad 26/600200pgカラム(GE Healthcare)を使用して、AKTAprimeシステム(GE Healthcare)上で、20mMのTris-HCl、pH8/150mMのNaCl中でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。ピーク画分を2000μg/mlに直接濃縮し、分注して-80℃で凍結し、または製造業者の取扱い説明書に従って4℃で一晩BirAビオチン-タンパク質リガーゼ(Avidity)によってビオチン化し、2000μg/mlに最終濃縮する前に第2のゲル濾過に供し、分注して-80℃で保存した。
【0139】
HLA-A*02:01野生型ペプチド-MHC複合体を生成するために、9mer(全長)ペプチドまたはUV感光性9merペプチド(全長)を、30μMの濃度で再折りたたみ緩衝液に入れた。空のY84C/A139C HLA-A*02:01(配列番号323)複合体を生成するために、ジペプチドGMを10mMの濃度で再折りたたみ緩衝液に入れた。F22C/S71C HLA-A*02:01(配列番号324)複合体体を生成するために、再折りたたみ緩衝液にペプチドは添加しなかった。F22C/S71CW51C/G175C HLA-A*02:01(配列番号325)複合体体を生成するために、再折りたたみ緩衝液にペプチドは添加しなかった。
【0140】
以下の表1は、異なるジスルフィド修飾HLA-A
*02:01分子およびWT-A
*02:01分子の再折りたたみ方法を示す。
【表1】
表1:+:タンパク質は再折りたたみ可能;-タンパク質は再折りたたみ不可能。
【0141】
3.UV媒介ペプチドリガンド交換または空のジスルフィド修飾HLA-A*02:01分子を使用したペプチド交換HLA-A*02:01 pMHC複合体の生成
UV光切断可能ペプチドとのペプチド交換反応は、既述のように実施された。要約すると、所望の九量体ペプチドをビオチン化されたUV感光性pMHC複合体と100対1のモル比で混合し、366nmのUV光(Camag)に少なくとも30分間曝した。
【0142】
空のジスルフィド修飾HLA-A*02:01 MHC複合体とのペプチド負荷反応は、所望のペプチドをモノマー溶液に少なくとも100対1のモル比で添加して混合し、室温で5分間インキュベートして実施した。
【0143】
4.可溶性TCR生成
可溶性TCRは、既述のように生成した(20)。要約すると、TCRαおよびTCRβ鎖コンストラクトを大腸菌中の封入小体として別々に発現させ精製した。TCRα鎖はスレオニンをシステインに置き換えることによって48位で変異させ、TCRβ鎖はセリンをシステインに置き換えることによって57位で変異させ、鎖間ジスルフィド結合を形成させる。
【0144】
5.bsTCRの設計と生成
bs-868Z11-CD3分子は、scTv 868Z11をヒト化抗CD3抗体のF(ab’)ドメインのC末端に結合することによって生成した(22、23)。この目的を達成するために、scTvのVβドメインをヒトIgG2(APPVAG、配列番号2)に由来する上部CH2領域に直接融合させた。ヒンジ内のシステインノックアウトC226SおよびC229Sは、F(ab) 2分子の形成を防ぐ。記のコンストラクトまたはヒト化抗CD3抗体の軽鎖のどちらかをコード化するHCMV駆動発現ベクターをExpiCHO細胞(Thermo)に一過性に同時形質移入した。12日後、上清をタンデムクロマトグラフィー(プロテインLとそれに続く分取サイズ排除、GE Biosciences)で処理し、高純度のモノマーbsTCRをPBS中で調合した。
【0145】
6.OctetREDベースのバイオレイヤー干渉法の動態親和性測定
異なるpMHC複合体に対するsTCRまたはbsTCR分子の親和性は、動態または定常状態の結合分析を使用して、OctetRED384システム(Pall Fortebio)上で測定した。全ての分析物またはリガンドは、特に指定されていない場合は、動態緩衝液(PBS、0.1%BSA、0.05%ツィーン20)でそれらの最終濃度に希釈した。全てのバイオセンサーは、使用前に動態緩衝液で少なくとも10分間水和させた。負荷および測定は、3mmのセンサーオフセットで、少なくとも40μlの384傾斜ウェルプレート(Pall Fortebio)内で実施した。プレート温度は25℃、振盪機速度は1000rpmに設定した。ステップ間の補正ベースラインを可能にするために、結合期の前と次の解離期を同じウェル内で実施した。必要に応じて、動態緩衝液を適切な濃度でDMSOが添加された解離緩衝液として使用し、分析物の組成を一致させた。
【0146】
pMHC固定化浸漬および読み取りの場合は、ストレプトアビジン(SA;Pall Fortebioカタログ番号18-5021)バイオセンサーを使用して、ビオチン化されたpMHCモノマーを25μg/mlの推定濃度で60秒間固定化し、60秒間のベースラインと、特に指定されていない場合には、それぞれ60秒間の結合期および解離期がそれに続いた。
【0147】
bsTCR固定化浸漬および読み取りの場合は、抗ヒトFab-CH1第2世代(FAB2G;Pall Fortebioカタログ番号18-5127)バイオセンサーを使用して、bsTCR分子を100μg/mlの濃度で60秒間固定化し、15秒間のベースラインと、特に指定されていない場合には、それぞれ60秒間の結合期および解離期がそれに続いた。FAB2Gバイオセンサーは、負荷されたバイオセンサーを10mMグリシンpH1.5および動力学緩衝液中でそれぞれ5秒間連続して3回インキュベートすることによって、最大4回再生させた。FAB2Gもまた、最初のリガンド固定化の前にそのように事前調節した。
【0148】
全てのセンサーグラムは、OctetREDソフトウエア「Data Analysis HT」バージョン10.0.3.7(Pall Fortebio)を使用して分析した。データをベースラインステップの終了点に整列させることによって、生のセンサーデータをY軸で整列させ、ステップ間補正を使用して、解離の開始を結合期の終了に整列させた。Savitzky-Golayフィルタリングは、適用しなかった。次に、得られたセンサーグラムを1:1のラングミュア動態結合モデルを使用して適合させた。
【0149】
7.細胞株
TAP欠損HLA-A*02:01発現細胞株T2をATCC(CRL-1992)から調達し、10%熱不活化FCS(Life Technologies、カタログ番号10270106)および抗生物質ペニシリンおよびストレプトマイシン(Biozym、カタログ番号882082、各100μg/ml)を添加したRPMI培地1640 GlutaMAX(商標)(Thermo Fisher、カタログ番号61870010)中で、必要に応じて継代数16まで培養した。GloResponse(商標)NFAT-luc2 Jurkat細胞株をPromega(カタログ番号CS1764)から継代数6で調達し、10%熱不活化FCS(Life Technologies、カタログ番号10270106)、1%ピルビン酸ナトリウム(C.C.Pro、カタログ番号Z-20M)および抗生物質ハイグロマイシンB(Merck Millipore、カタログ番号10270106)、1%ピルビン酸ナトリウム(C.C.Pro、カタログ番号Z-20M)および抗生物質ハイグロマイシンB(Merck Millipore、カタログ番号400052、200μg/ml)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(Biozym、カタログ番号882082、各100μg/ml)を添加したRPMI培地1640 GlutaMAX(商標)(Thermo Fisher、カタログ番号61870010)中で培養し、必要に応じて継代数14まで培養した。
【0150】
8.T細胞活性化アッセイ
GloResponse(商標)NFAT-luc2 Jurkat細胞およびペプチドを負荷したT2標的細胞を使用したT細胞活性化アッセイは、製造業者の取扱い説明書に従って実施した。要約すると、連続細胞培養からT2細胞を採取し、T2培地中で洗浄して3.3×106細胞/mlの濃度で再懸濁し、96ウェル丸底プレート(Corning costar(登録商標)、カタログ番号3799)に移した。DMSO、0.5%TFA中のペプチドを100nMの最終濃度で添加し、懸濁液を37℃、5%CO2で2~3時間にわたりインキュベートした。PBS中で調合したbsTCRをT2培養培地中で所望の濃度に希釈し、それぞれの希釈液の25μlを白色96ウェル平底プレート(Brand、カタログ番号781965)に分配した。GloResponse(商標)NFAT-luc2 Jurkat細胞を連続細胞培養から採取して洗浄し、3.0×106細胞ml-1の濃度でT2培地に再懸濁し、細胞懸濁液の25μlをbsTCR希釈液と共に白色96ウェル平底プレートに分配した。
【0151】
ペプチド負荷後、T2細胞を再懸濁し、1:1の最終的なエフェクター対標的比で(各75,000の細胞)、25μlをbsTCR希釈液およびGloResponse(商標)NFAT-luc2 Jurkat細胞と共に、白色96ウェル平底プレートに分配した。完全に組み立てられたプレートをプレート振盪機上で300rpmで5分間混合し、37℃、5%CO2で18~20時間インキュベートした。インキュベーション時間後、75μlのBio-Glo(商標)ルシフェラーゼ試薬を各ウェルに添加し、プレートを暗所でプレート振盪機上で300rpmで数分間インキュベートしてから、Synergy2プレートリーダー(Biotek)を用いて0.5秒間の積分時間でルミネセンスを読み取った。相対光単位(RLU)で測定されたルミネセンスは、測定されたRLUを対照ウェルのRLUで除して、各ウェルの倍数誘導に変換した。
【0152】
9.結晶化およびイメージング
Y84C/A139C HLA-A*02:01-SLLMWITQV複合体と1G4TCRを濃縮して1:1の比率で混合し、結晶化のために7mg/mlの濃度を得た。シッティングドロップ蒸気拡散実験は、0.1M酢酸アンモニウム、0.1Mビストリス(pH5.5)、および17%ポリエチレングリコール(PEG)10,000を含有する母液の存在下で、結晶をもたらした。単結晶は、0.1M酢酸アンモニウム、0.1Mビストリス(pH5.5)、20%(w/v)PEG10,000、および10%グリセロールを含有する凍結防止剤溶液に移した。結晶は、EIGER16M検出器を収容するドイツ電子シンクロトロンで、EMBL P14ビームライン上に載せて、100Kで極低温冷却させた。X線データセットは、2.5Aの分解能で収集した(表2)。
【0153】
表2:データ収集および精緻化統計1G4/Y84C/A139C HLA-A
*02:01/SLLMWITQV
【表2】
【0154】
データをXDSで処理し、AIMLESS(35、36)でスケーリングした。分子置換は、最初に天然複合体のTCR部分の座標を有するMOLREPを使用して行い、pMHC[ProteinData Bank(PDB)2BNR]がそれに続き、構造はREFMAC5(37、38)で精緻化した。操作されたジスルフィド結合は、Coot(39)を用いて手動で構築した。構造を精緻化し、R因子22.9%(27.3%のRfree)とした。MolProbityを用いて幾何配置を検証したところ、93.9%の残基がラマチャンドランプロットの許容領域内にあることが示された[1つのグリシン残基(Gly143)が非許容領域内にある](40)。
【0155】
10.潜在的に交差反応性のペプチドリガンドのモチーフに基づく同定
検索モチーフによって許容される潜在的な組み合わせの1つに一致する九量体ペプチドリガンドの検索は、NCBIヒトタンパク質データベースを使用して実施した。このデータベースは、全ての非冗長GenBank CDS翻訳物、ならびにPDB、SwissProt、PIR、およびPRFからの記録をカバーするが、全ゲノムショットガンプロジェクトからの環境サンプルは除外されている。データベースは、NCBIサーバーから直接取得した。
【0156】
11.Seq2Logo生成
結合モチーフを可視化したSeq2Logosは、それぞれの相互作用のKd値の逆数を取り、108で除して作成した。これらの値は、位置特異的重み行列ファイル形式で組み立て、デンマーク工科大学バイオインフォマティクス部門のSeq2Logoオンラインリソース(27)のPSSM-Logoタイプを用いて処理した。
【0157】
12.蛍光異方性によって測定されたペプチド結合
ペプチド結合は、300nMの精製された再折りたたみY84C/A139C HLA-A*02:01を用いた蛍光異方性アッセイにおいて評価した。100nMの蛍光標識された高親和性ペプチドNLVPKFITCVATV(Genecast)を折りたたまれたY84C/A139C HLA-A*02:01に添加し、動態測定は、異方性(FITCλex=494nm、λem=517nm)を測定する、Tecan Infinite M1000 PRO(Tecan、独国クライルスハイム)マルチモードプレートリーダーを用いて実施した。Y84C/A139C HLA-A*02:01は、再折りたたみ後に直接使用するか、または測定前に示された時間にわたり保存緩衝液(10%グリセロール、50mMのTris-HCL、pH8.0)中で-80℃で保存した。動態測定は、50mMのHEPESバッファー、pH7.5で室温(22~24℃)で実施した。データは、GraphPad Prism v7を使用してプロットした。
【0158】
13.抗β-2ミクログロブリンELISA
ストレプトアビジン(Molecular Probes、カタログ番号S888)をPBS中の最終濃度2μg/mlでNunc MAXIsorpプレート(Thermo Fisher、カタログ番号439454)に添加し、密閉プレートを湿った環境下で室温で一晩インキュベートした。翌日、ELx405プレート洗浄機(Biotek)を使用して、プレートを洗浄緩衝液洗浄(PBS、0.05%ツイーン-20)で4回洗浄した。300μlのブロック緩衝液(2%BSA添加PBS)を各ウェルに添加し、密封プレートを37℃で1時間インキュベートした。ブロック緩衝液は、それぞれのUV交換pMHC調製物のブロック緩衝液中の1:100希釈の100μlを添加する前に廃棄した。従来の再折りたたみpMHCモノマーに基づく500ng/ml~15.6ng/mlの標準系列が、各プレートに含まれていた。エッジ効果を低減するために、縁部ウェルを300μlのブロック緩衝液で充填し、密封プレートを37℃で1時間インキュベートした。プレートを再度4回洗浄した後、100μlの抗β2ミクログロブリンHRP結合二次抗体(Acris、カタログ番号R1065HRP)を最終濃度1μg/mlで各ウェルに添加した。密封プレートを37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で再度4回洗浄した後、100μlの室温TMB基質(Sigma、カタログ番号T0440)を各ウェルに添加した。プレートを室温で5分間インキュベートした後、各ウェルに50μlの1N H2SO4を添加して、停止させた。Synergy2プレートリーダーを使用して450nmで5秒間にわたり吸光度を読み取ることにより、プレートを即座に分析した。pMHC濃度は、Synergy2ソフトウエアを用いた標準曲線適合(Log(Y)=A*Log(X)+B)に基づいて算出した。データは、GraphPad Prism v7を使用してプロットした。
【0159】
14.フローサイトメトリーT2ペプチド結合アッセイ
TAP欠損HLA-A*02:01発現細胞株T2をATCC(CRL-1992)から調達し、10%熱不活化FCS(Life Technologies、カタログ番号10270106)および抗生物質ペニシリンおよびストレプトマイシン(Biozym、カタログ番号882082、各100μg/ml)を添加したRPMI培地1640 GlutaMAX(商標)(Thermo Fisher、カタログ番号61870010)中で、必要に応じて継代数16まで培養した。連続細胞培養からT2細胞を採取し、T2培地中で洗浄して3.3×106細胞/mlの濃度で再懸濁し、96ウェル丸底プレート(Corning costar(登録商標)、カタログ番号3799)に移した。DMSO、0.5%TFA中のペプチドを10μMの最終濃度で添加し、懸濁液を37℃、5%CO2で2時間インキュベートした。プレートをPFEA(PBS、2%FCS、2mMのEDTA、0.01%アジ化ナトリウム)で2回洗浄した後、PFEAで1:250に希釈したウェルあたり50μlのPE標識抗ヒトHLA-A2(Biolegend、カタログ番号343305)を最終濃度0.8μg/mlに添加した。プレートを4℃で30分間インキュベートした後、PFEAで2回洗浄した。最後に、細胞を固定化溶液(PFEA、1%ホルムアルデヒド)に再懸濁して4℃で保存した後、iQue Screener(Intellicyt)を用いて分析した。T2細胞をFSC-A/SSC-Aシグナルに基づいてゲートし、FSC-H/FSC-Aダブレット排除を使用してダブレットを除去した。PEチャネルの正ゲート座標は、未染色対照に基づいていた。データは、GraphPad Prism v7を使用してプロットした。
【0160】
15.配列アライメント
Clustal Omegaの多重配列アラインメントを使用して、多配列アラインメントを実施した。(www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)(Madeira et al.”The EMBL-EBI search and sequence analysis tools APIs in 2019”,Nucleic Acids Research,47:W636-W641,2019,doi:10.1093/nar/gkz268)。
【0161】
16.統計解析
全てのデータは、GraphPad Prismソフトウエアバージョン7を使用してプロットした。xデータセットとyデータセット間の相関は、ピアソン相関係数を算出することによって計算され、GraphPad Prismソフトウェアバージョン7を使用してR2として報告した。バイオレイヤー干渉結合動態測定の曲線適合のためのR2およびX2値は、Octet RED384システムソフトウエアDataAnalysis HTバージョン10.0.3.7を使用して計算した。
【0162】
17.ジスルフィド安定化された空のHLA-A*02:01分子の設計と生成
空のMHCクラスI分子とペプチド負荷MHCクラスI分子の分子動力学シミュレーションは、前者がペプチドリガンドのC末端を収容するFポケット内での可動性が増加していることを示している(16)。マウスMHCクラスI分子H-2Kbに関する先行研究では、84位のチロシンと139位のアラニンをシステインに変異させることで、Fポケット内の対向する残基間にジスルフィド結合を導入することで、複合体を安定化できた。この変異体は、全長ペプチドなしで再折りたたみができ、遡及的なペプチド結合が可能であった(17、18)。
【0163】
本発明者らは、同一概念が、ヒトMHCクラスI分子HLA-A*02:01に適用され得ると仮説を立てた。84位のチロシンと139位のアラニンのシステインへの変異をもたらす修飾をHLA-A*02:01重鎖発現プラスミドに導入した。大腸菌(E.coli)中の封入小体として生成した後、重鎖を同様に生成されたβ2mと共にインキュベートしたが、再折りたたみ緩衝液にペプチドは含まれなかった。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)後、9merペプチドで再折りたたみされた野生型対照と比較して、HLA-A*02:01関連モノマー画分は観察されなかった。
【0164】
第2のアプローチでは、ジペプチドGMを再折りたたみに添加した;このジペプチドは、MHCクラスI複合体に対する親和性が非常に低く、再折りたたみを支援する(19)。それはSEC中に、泳動用緩衝液に対する緩衝液交換によって、結合ポケットから迅速に解離し、精製された空のジスルフィド安定化Y84C/A139C HLA-A*02:01が生成する。空の野生型A*02:01複合体(WT-A*02:01)は、同一様式では生成できなかった。WT-A*02:01複合体は、ジペプチドと共に生成し得るが、緩衝液交換によってジペプチドを除去する試みに際して変性する。
【0165】
本発明者らはまた、22位のフェニルアラニンおよび71位のセリンのシステインへの変異をもたらす改変をHLA-A*02:01重鎖発現プラスミドに導入した。大腸菌(E.coli)中の封入小体として生成した後、重鎖を同様に生成されたβ2mと共にインキュベートしたが、再折りたたみ緩衝液にペプチドは含まれなかった。SECは、精製された空のジスルフィド安定化F22C/S71CHLA-A*02:01複合体をもたらした。本発明者らはまた、22位のフェニルアラニンおよび71位のセリン、ならびに51位のトリプトファンおよび175位のグリシンのシステインへの変異をもたらす改変をHLA-A*02:01重鎖発現プラスミドに導入した。大腸菌(E.coli)中の封入小体として生成した後、重鎖を同様に生成されたβ2mと共にインキュベートしたが、再折りたたみ緩衝液にペプチドは含まれなかった。SECは、精製された空のジスルフィド安定化F22C/S71C W51C/G175C HLA-A*02:01複合体をもたらした。
【0166】
精製モノマー中にジペプチドGMが存在しないことは、緩衝液交換による熱安定性分析によって示し得て;空のY84C/A139CHLA-A*02:01分子は、未だにジペプチドGMと複合体化している同じ分子よりも温度安定性が低かった(すなわち、融解温度が低かった)。
【0167】
得られた分子を4℃で一晩ビオチン化し、2回目のSEC実行によって過剰なビオチンから分離し、または使用前に-80℃で直接保存した。
【0168】
18.可溶性TCRおよび野生型またはジスルフィド修飾MHCを使用したペプチド負荷および親和性測定
次に、本発明者らは、ジスルフィド修飾HLA-A
*02:01分子が、ペプチド-MHC複合体形成およびTCRリガンド結合できるかどうかを判定した。親和性測定は、可溶性分析物として再折りたたみTCR1G4を用いて、OctetRED 384上でバイオレイヤー干渉法(BLI)によって実施した。このTCRは、がん精巣抗原NY-ESO-1またはその合成変異型SLLMWITQV(ESO 9V、配列番号4)に由来するHLA-A
*02:01特異的ペプチドSLLMWITQC(ESO 9C、配列番号3)を認識する(20,21)。ビオチン化されたY84C/A139CHLA-A
*02:01は、その空の状態で直接固定化し、またはストレプトアビジン被覆されたバイオセンサー上でペプチドESO 9Vと短時間インキュベートした後に固定化した(
図1b)。組立後に親和性測定を開始するのに必要な最短時間である5分間のペプチドインキュベーションと、より長い時間との間に差は検出されなかった。さらなる分析では、高濃度のペプチドを使用した場合、1~2分以内に完全な交換が実際に達成されたことが示された。動態を複数の1G4濃度にわたって測定し、野生型HLA-A
*02:01がESO 9Vで直接再折りたたみされたものを対照として使用した。
【0169】
Y84C/A139C HLA-A
*02:01 9VまたはWT-A
*02:01 ESO 9Vのどちらかへの1G4 TCR結合は、曲線適合から得られるセンサーグラムおよびK
dsに関して非常に類似していた(
図2aおよび2b)。1G4の高濃度では、空の固定化モノマーに対して弱い結合シグナルが検出された(しかし、解離は検出されなかった)(
図2c)。この結合は、SLYNTVATLのような1G4によって認識されないペプチドをその後に添加することによって、防止し得る(
図2d、配列番号5)。空のY84C/A139C HLA-A
*02:01で得られた弱いシグナルは、生体内のTCRが典型的には遭遇しない状態である、TCRと空の結合ポケットとの非特異的な相互作用によって説明できるかもしれない。様々な特異性を有するその他のA
*02:01拘束性可溶性TCRは同様に挙動し、無関係に負荷されたY84C/A139C HLA-A
*02:01 pMHCには結合しないが、機能的に空の分子には相対的に低い応答ではあるが結合することが示された(
図11)。
【0170】
19.親和性成熟TCRに対するジスルフィド修飾HLA-A*02:01とWT-A*02:01親和性測定値間の相関
未修飾TCRに対するWT-A*02:01と同等のリガンドとしてのY84C/A139C HLA-A*02:01分子の有用性が確立されたことから、本発明者らは、この解析を変異した高親和性TCRおよびより多くのペプチドリガンドに向けて拡張したいと考えた。本発明者らは、HIV p17 Gag由来HLA-A*02:01拘束性ペプチドSLYNTVATL(SL9、配列番号5)を認識するTCRの親和性成熟変異型である成熟一本鎖TCR(scTv)868Z11を使用した(8、22)。
【0171】
本発明者らは、空のまたはSL9ペプチド負荷ジスルフィド修飾HLA-A
*02:01分子をストレプトアビジンバイオセンサー上に固定化することによって、そしてヒト化抗CD3抗体との融合で発現した868Z11 scTvのbsTCR変異型である、可溶性bs-868Z11-CD3に対する測定によって、親和性測定を実施した(
図9)(23)。Y84C/A139C HLA-A
*02:01、F22C/S71C HLA-A
*02:01またはF22C/S71C W51C/G175C HLA-A
*02:01のいずれかを使用した、SL9ジスルフィド修飾HLA-A
*02:01 pMHC複合体に対する結合親和性は、2.35nMおよび3.24nMで、それぞれUV光媒介ペプチドリガンド交換(25)を実施することによって生成された、SL9 WT-A
*02:01 pMHCと同様であった(
図3aならびに
図14)。このbsTCRの空のMHC分子(
図3c)、および13.3μMの高モル濃度の無関係に負荷されたY84C/A139CHLA-A
*02:01複合体では、結合は測定不能であった。
【0172】
次に、本発明者らは、SL9ペプチド配列に基づく位置スキャニングライブラリに対するbs-868Z11-CD3結合親和性を分析した。このライブラリは、野生型SL9ペプチドの1つの位置にあるアミノ酸を、残りの18のタンパク質構成アミノ酸と交換することによって作成され、九量体の全ての位置で実施すると、162の異なるペプチドが得られた(システインは二量体化する傾向があるので除外された)(24)。本発明者らは、前述したのと同様にY84C/A139CHLA-A*02:01分子への添加によって、またはpMHC複合体の生成に用いられる技術であるUV光媒介ペプチドリガンド交換を実施することによって、pMHC複合体を生成した(25)。それぞれのpMHC複合体をストレプトアビジン上に固定化し、2つの異なるbs-868Z11-CD3濃度で動態を測定した。予測通り、交互のペプチドリガンドを使用して、選択された設定の感度の限界内で検出できないものから、未修飾SL9ペプチドとの相互作用に匹敵する、またはそれ以上に強力でさえある、広範な異なるKdsがもたらされた。
【0173】
直接比較のために、分析物濃度および少なくとも0.9のR2値を有する曲線適合の双方で評価可能なシグナルを有し、選択されたK
d感度範囲内のシグナルに相当する、全ての測定されたpMHC複合体を選択した。得られた140のペプチドリガンドのK
d値は、互いにプロットしたときに、全親和性範囲にわたって非常に類似しており、高い相関係数値によって支持される所見であった(
図3d)。不一致は、pMHC対の90%以上で2倍の範囲内であり、最大で6.82倍の違いであった。変化が2倍を超えるグループ内では、Y84C/A139C HLA-A
*02:01分子を使用した測定で、解離定数がより大きくなる傾向が観察された。
【0174】
位置スキャニングライブラリからの140の異なるペプチドリガンドについて報告されたRmax値によって表される、各バイオセンサー上に固定化された機能性pMHCの量は、野生型およびジスルフィド安定化pMHCの双方で同等であった(相関係数R2=0.9459)。
【0175】
図15は、異なるpMHC複合体に対する、高親和性TCRのK
d値を示す。いずれの場合も、WT-A
*02:01分子またはY84C/A139CHLA-A
*02:01分子のK
dがX軸に示され、2つの異なるジスルフィド修飾HLA-A
*02:01MHC分子のK
dがy軸に示され、各ドットはMHC分子に負荷された異なるペプチドの1つを表す。
図15の各四角には、次のペプチドが示されている:
A:HIV-005 WT(SLYNTVATL、配列番号5)
B:HIV-005 6I(SLYNTIATL、配列番号110)
C:HIV-005 8V(SLYNTVAVL、配列番号145)
D:HIV-005 3F(SLFNTVATL、配列番号59)
E:HIV-005 3F6I8V(SLFNTIAVL)、配列番号318)
F:HIV-005 3F8V(SLFNTVAVL、配列番号319)
G:HIV-005 3F6I(SLFNTIATL、配列番号320)
H:HIV-005 6I8V(SLYNTIAVL、配列番号321)
【0176】
左上のパネルでは、WT-A*02:01 pMHC複合体の上記の各ペプチドのKdが、ジスルフィド修飾F22C/S71C HLA-A*02:01 pMHC複合体のKdに対してプロットされる。ジスルフィド修飾F22C/S71C HLA-A*02:01 pMHC複合体は、調査された各ペプチドについてWT-A*02:01 pMHC複合体とほぼ同一のKD値を示す。左下のパネルでは、WT-A*02:01 pMHC複合体の上記の各ペプチドのKdが、ジスルフィド修飾F22C/S71C W51C/G175C HLA-A*02:01 pMHC複合体のKDに対してプロットされ、調査された各ペプチドについてもWT-A*02:01 pMHC複合体とほぼ同じKd値が示される。
【0177】
右上のパネルでは、Y84C/A139CHLA-A*02:01 pMHC複合体の上記の各ペプチドのKdが、ジスルフィド修飾F22C/S71C HLA-A*02:01 pMHC複合体のKdに対してプロットされる。右下のパネルでは、Y84C/A139CHLA-A*02:01 pMHC複合体の上記の各ペプチドのKdが、ジスルフィド修飾F22C/S71C W51C/G175C HLA-A*02:01 pMHC複合体のKdに対してプロットされる。F22C/S71CおよびF22C/S71C W51C/G175C変異体のジスルフィド修飾pMHC複合体は、調査された各ペプチドについて、Y84C/A139C HLA-A*02:01 pMHC複合体と比較して、ほぼ同一のKd値を有する。したがって、異なるペプチドが負荷されてpMHC複合体を形成するジスルフィド修飾HLA-A*02:01分子は、WTHLA-A*02:01 pMHC複合体に対するそれぞれの親和性成熟TCRによって、同等に認識されると結論付け得る。したがって、ペプチド(pMHC複合体)が負荷されたジスルフィド修飾HLA-A*02:01分子の機能は、HLA-A*02:01分子への安定化アミノ酸変異の導入による影響を受けない。
【0178】
図15に示された結果は、ペプチドリガンドが負荷されてジスルフィド修飾pMHC複合体を形成する本発明に従ったジスルフィド修飾HLA-A
*02:01分子が、それぞれのTCRに結合した際に、T細胞応答を惹起することを当業者にとって信ずるに足るものにする。
【0179】
20.結合モチーフ生成のための高スループット動態スクリーニング
pMHCの迅速かつ柔軟な生成は、多くの異なるpMHCに対する大規模な結合親和性データセットの収集を容易にする。このようなデータセットの一例は、位置スキャンライブラリをスクリーニングしてpMHC-bsTCR結合モチーフを生成することであり、これは、bsTCR安全性スクリーニングアプローチの1つの構成要素の役割を果たし得る。このような測定を実施するためには、pMHCは理想的には可溶性分析物として使用されるべきであり、これは複数の利点を提供するためである。第一に、例えば、bsTCRなどの既知の活性を有する同一リガンドを繰り返し固定化することにより、適合結果、特に報告されたRmax値をより良く解釈することができる。第二に、二重特異性TCRコンストラクトを可逆的に固定化できる多種多様な再生可能なバイオセンサーが存在することから、固定化の代わりに可溶性分析物としてpMHC複合体を使用することは、迅速で費用効果の高い高スループットスクリーニングにのために好ましい。これらのバイオセンサーは通常、抗体で被覆されており、読み取り品質を損なうことなく、動態測定に少なくとも20回使用できる。第三に、bsTCRを固定化することは、bsTCRまたは抗体が複数のpMHC結合部位を有する場合、一価親和性を測定するために利用可能な唯一の方向性であるが、これは、固定化されたpMHCでは、結合力しか測定できないためである。
【0180】
UV媒介ペプチドリガンド交換は、多数の異なるpMHC複合体を生成し得る一方で、交換効率は、ペプチドと、そのそれぞれのMHCクラスI対立遺伝子への結合に対する親和性次第で変動し、その結果、サンプル中に異なるpMHC濃度が生じる(
図10)。正確な親和性を判定するためには濃度の正確な知識が所望されるので、可溶性分析物として使用されるpMHCを用いた親和性測定では、この不確実性が問題となる。ジスルフィド安定化されたY84C/A139C HLA-A
*02:01変異体はペプチドなしで安定であるので、この制限は当てはまらない。空のMHC複合体を飽和させるのに十分高い濃度でペプチドが添加されると、pMHCの有効濃度が分かり、測定の精度が大幅に向上し、偽陰性が回避される。この挙動の例は、位置スキャニングライブラリにおいて検出され得て、その結果、Y84C/A139C HLA-A
*02:01ペプチド負荷(
図5、6、10)と比較して、UV交換調製物が使用されたときに、不良な適合データおよび親和性の計算違いが生じた(26)(
図5、6、10)。このようなペプチドのbsTCR親和性を正確に測定することは、結合モチーフの生成のコンテキストで重要であり得るが、これは、これらの置換がその他の位置の置換と組み合わされると、関連するMHCバインダーをもたらしてもよいためである。したがって、bsTCRによるアミノ酸の耐性は、包括的結合モチーフに正しく反映されなければならない。
【0181】
bs-868Z11-CD3 bsTCRを固定化することによって、本発明者らは、20分の1の値下げ価格で4時間の無人測定時間以内に、500~15.8nMの範囲の各ペプチドリガンドの4つの異なる可溶性pMHC濃度で、位置スキャニングライブラリを分析できた。少なくとも0.05nmのシグナルレベルに達する全ての曲線が適合に含まれ、包括的TCR結合モチーフが得られた(
図4a、8、表3)。
【0182】
表3:SV9ペプチト゛SLYNTVATL(配列番号5)および位置スキャニングライブラリからのペプチド(配列番号16~177)に対するbs-868Z11-CD3結合親和性。表は、Fortebio Data Analysis HT 10.0.3.7ソフトウェアを使用して、1:1ラングミュア結合モデルに従った曲線適合によって判定された、K
D、k
on、およびk
off値を含む。モデルに応じたそれぞれの誤差、ならびに精度が報告されている。「適合なし」として報告されたペプチドは、いずれの濃度においても、少なくとも0.05nmのピークシグナルに達する評価可能な曲線を有していなかった。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0183】
表4:位置スキャンライブラリを用いて測定された親和性に基づくbs-868Z11-CD3の交差反応性ペプチドリガンド検索モチーフ。各位置で調査された19のタンパク質構成アミノ酸のうち、bsTCRのそれぞれの親和性を50nMを超えて増加させたアミノ酸を除去して、検索モチーフに到達した。
【表4】
【0184】
可溶性Y84C/A139C HLA-A
*02:01 pMHC調製物は、品質を損なうことなく4℃で少なくとも2週間保存し得て、複数の分析に使用される(
図12;1日目:K
D=1.35E
-09M、R
2=0.9992;14日目:K
D=1.08E
-09M、R
2=0.9991)。
【0185】
868Z11 TCRは予測された認識パターンを示し;3~7位のアミノ酸の変化が、bsTCRの結合親和性に最も大きな影響を及ぼした。興味深いことに、たった1つのアミノ酸の変化が、野生型ペプチドとの相互作用と比較してbs-868Z11-CD3による結合親和性の増加をもたらし、TCRがその親和性成熟状態の標的に対して有する顕著な親和性が示される。この挙動はまた、結合モチーフをSeq2Logoグラフ(
図4b)として可視化すると、図示され得る(
図4b)(27)。
【0186】
21.bs-868Z11-CD3と交差反応するペプチドリガンドの同定
本発明者らはさらに、生成された結合モチーフを用いて、ヒトゲノムから交差反応性ペプチドリガンドを同定し得るかどうか探求したいと考えた。本発明者らは、50nMの例示的なKd閾値を導入することによって、親和性データセットからペプチドリガンド検索モチーフを作成し;その閾値を超えてbs-868Z11-CD3Kdを増加させる全ての単一アミノ酸置換は、モチーフから除外した(表4)。このモチーフに基づいて、本発明者らは、NCBIヒト非冗長タンパク質配列データベースにおいて、モチーフによって許容される組み合わせに一致する九量体配列を検索した。この検索は、ヒトゲノム内で400を超えるヒットを同定し、野生型配列SLYNTVATLとの配列同一性は、1~6位の同一位置に及んだ。140のペプチドを選択し、より大きなグループの配列同一性分布に相当するようにサンプリングし、合成して親和性測定のために使用した。(表5;配列番号178-317)。本発明者らは、これらのペプチドのうちの91について、1桁のKds以上の結合親和性を検出できた。
【0187】
表5:bs-868Z11-CD3結合モチーフに基づいて同定された選択されたペプチドリガンドに対するbs-868Z11-CD3結合親和性。NCBIデータベースに準拠したペプチド配列と関連遺伝子が報告されており、ペプチドはK
dsの降順でソートされている。表は、Fortebio Data Analysis HT 10.0.3.7ソフトウェアを使用して、1:1ラングミュア結合モデルに従った曲線適合によって判定された、K
D、k
on、およびk
off値を含む。モデルに応じたそれぞれの誤差、ならびに精度が報告されている。「適合なし」として報告されたペプチドは、いずれの濃度においても、少なくとも0.05nmのピークシグナルに達する評価可能な曲線を有していなかった。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【表5-6】
【表5-7】
【0188】
それらのうちの1つ、ALYNVLAKV(配列番号1)は特筆すべき価値があった。それは、理論的ペプチドとして選択されたが、XPRESIDENT(登録商標)免疫ペプチドミクスデータベースによると、さらに組織サンプルおよび細胞株からも発見された。このデータベースは、LC-MS分析に基づく定量的HLAペプチドミクスと、健常組織および腫瘍組織からのRNAseqによって提供される定量的トランスクリプトミクスを組み合わせて、腫瘍組織上に排他的または優勢に発現するペプチドを同定する(28、29)。中間径フィラメントファミリーオーファン1または2(IFFO1/2)からの抗原であるALYNVLAKVは、頭頸部がん、脾臓がん、腎臓がんから、非小細胞肺がんまたは腎細胞がんに至る、複数の健常組織および腫瘍組織サンプル上で検出された。pMHC-bsTCR結合親和性は、65.9nMのK
Dで測定した(
図4c)。本発明者らは、第2のLC-MS検出ペプチド、KTFNLIPAV(配列番号226)を同定でき、3つの腫瘍組織サンプルでより低い413nMのK
dが検出された。
【0189】
22.bsTCR親和性とT細胞活性化の相関
pMHC-bsTCRの結合親和性は、この抗スループットスクリーニングプラットフォームを使用して測定され得るが、さらにより有用であるためには、機能性T細胞係合bsTCRとしての生体外活性と一貫性がなくてはならない。一般に、適切な読み取りと連動する標的細胞とエフェクター細胞の生体外同時インキュベーションを使用して、これらのコンストラクトを特性評価する。NFAT応答エレメントによって駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現する細胞株であるGloResponse(商標)NFAT-luc2 Jurkatエフェクター細細胞、および外因性ペプチド負荷を通じた復元可能なpMHC提示を有するTAP欠損A
*02:01細胞株であるペプチド負荷T2標的細胞をbs-868Z11-CD3の存在下でインキュベートし、この文脈での動態スクリーニングの有意性を裏付けた。T2細胞に100nMの濃度で位置スキャニングライブラリからのそれぞれのペプチドを別々に負荷し、引き続いて読み取りの前に、Jurkatsおよび異なるbsTCR濃度と共に18時間にわたり同時インキュベートした。予測通り、本発明者らは、いかなるbsTCR濃度でも検出可能なT細胞活性化がないものから、例えば野生型ペプチド(
図5a)のように低濃度から始まる強い応答に至るまで、幅広いスペクトルの結果に遭遇した。選択されたbsTCR濃度範囲の多くの相互作用についてEC50値を判定できなかったので、本発明者らは、3倍を超えるシグナルを誘導することができる最低のbsTCR濃度として定義される、T細胞活性化の開始によって、個々のペプチドを分類した。開始値をそれぞれ、測定されたK
Dsに対してプロットした(
図5b)。
【0190】
全体的に、本発明者らは、判定されたK
d値とT細胞活性化との間の良好な相関を検出したが、強いpMHC-bsTCR結合親和性を有しながらT細胞活性化の発現が遅く、または活性化が全くない、1つの顕著な外れ値のグループがあった。本発明者らは、これらのペプチドと、それらのNetMHC予測されたMHCに対する結合強度との間の直接的な関係を特定できた(
図5c)(26)。異なるペプチド結合親和性は、外因性負荷後の標的細胞上のそれぞれのpMHCの異なる提示レベルをもたらし得るので、これは可能な説明を提供した。これらのレベルは、次に、pMHC-bsTCR複合体の数、最終的にはJurkatエフェクター(T細胞)の活性化に影響を及ぼすかもしれない。仮説を裏付けるために、本発明者らは、抗HLA-A2抗体を使用してフローサイトメトリーT2ペプチド結合アッセイを実施し、より低い結合親和性を有するペプチド、特にNetMHCランクが2以上のペプチドについては、ペプチド負荷後にHLA-A2表面レベルの上昇が低いことを検出でき、初期仮説が支持された。pMHC-bsTCRの結合親和性は、0.05~2のNetMHCランクではペプチドリガンドのT細胞活性化の開始と良好に相関した一方で、この閾値を超えると、pMHC-bsTCRの結合親和性とはほとんどかかわりなく、NetMHCランクのさらなる上昇と共にT細胞活性化が低下した。
【0191】
本発明者らはまた、結合モチーフ検索によって選択された140のペプチドリガンドについてT細胞活性化アッセイを実施し、24のペプチドリガンドは、供給されたbsTCR濃度の少なくとも1つで、バックグラウンドの3倍のT細胞活性化を誘導できた(
図5d)。測定されたK
dsは、位置スキャニングライブラリで得られた結果と同様に、T細胞活性化の開始と相関した。以前に強調表示されたIFFO1抗原ALYNVLAKV(配列番号1)もまた、レポーターアッセイにおいて反応性であった(
図5e)。
【0192】
本発明者らは、pMHC-bsTCR結合親和性が、抗CD3T細胞エンゲージャーと共役したscTv868Z11の生体外機能の良好な指標であることを示した。これは、pMHC-bsTCR結合動態スクリーニングプラットフォームの価値を協調するが、それは、このような分子の開発の早い段階でbsTCRの迅速かつ適切な特性評価を可能にするためである。
【0193】
23.1G4 Y84C/A139C HLA-A
*02:01:01 ESO 9V TCR-pMHCの結晶構造
1G4TCRがESO9VY84C/A139CHLA-A
*02:01をESO9VWT-A
*02:01と区別なく認識することをさらに確認する。野生型ESO9V HLA-A
*02:01分子について以前に報告されたように、TCRと、ESO 9Vで再折りたたみされたジスルフィド安定化MHCとを共結晶化し、X線結晶学で分析した(表2)(21)。結晶構造の比較は、双方の複合体間の高度の構造的重複を明らかにした。双方のHLA-A
*02:01分子の主鎖は、Cα(T細胞受容体のα鎖の定常部分;
図7A)に対して計算された、1.14Aの二乗平均平方根偏差(RMSD)値でほぼ完全に整列していた。同じことは、ジスルフィド結合に近接している場合でさえも、全ての原子にわたって計算された1.27AのRMSD値で、それらの側鎖を含めた双方の結合ペプチドに当てはまった(
図7B)。1G4 TCRとの相互作用についても、同様の結論を下し得た。WT-A
*02:01 1G4とY84C/A139CHLA-A
*02:01 1G4の結晶構造を比較すると、ペプチドおよびMHC主鎖と相互作用する相補性決定領域(CDR)ループ領域は、境界面のわずかな偏差と4.13°の小さなドッキング角の変化を示した。このシフトは、繰り返し結晶化した場合でも、同一複合体の予測偏差の範囲内であった(
図7、CおよびD)。総合して、判定された結合親和性および結晶構造は、TCR結合に関して、野生型複合体と比較して、Y84C/A139C HLA-A
*02:01 pMHC複合体のペプチド受容性および同様の特性を示す。1G4 Y84C/A139C HLA-A
*02:01 ESO 9V複合体の結晶構造は、受入れ番号6Q3SでPDBに寄託されている。
【0194】
24.考察
本明細書において、本発明者らは、ジスルフィド安定化された機能的に空のHLA-A*02:01分子を提示しており、これは、例えばジペプチドGMなどの典型的に必要とされる高親和性ペプチドを使用することなく、再折りたたみおよび精製され得る。得られたモノマーは、一段階の負荷手順でペプチドを添加した後に、pMHCを形成し得る。ジスルフィド橋はMHC分子の安定性を高めるが、導入は野生型と比較して、ジスルフィド修飾HLA*02:01 pMHC複合体へのTCRの結合を阻害せずまたは有意に変化させない。この技術は、親和性測定に適した大規模なpMHCライブラリを迅速に作成するための優れたツールである。ジスルフィド修飾HLA*02:01で生成されたpMHC複合体ライブラリをバイオレイヤー干渉法に基づく分析と組み合わせることで、高スループットpMHC-bsTCR結合動態スクリーニングが可能なプラットフォームがもたらされる。この設定は、モノクローナル抗体または二重特異性T細胞エンゲージャーなどの二重特異性物質のような、pMHC複合体を標的化するその他の生物製剤の分析にも役立ち得る。このプラットフォームの1つの適用において、本発明者らは、HIV特異的bsTCR bs-868Z11-CD3についてのpMHC-bsTCR結合親和性データセットを迅速に収集できた。それぞれのpMHCに対するbsTCR結合親和性は、提示されたT細胞エンゲージャーと連動して細胞レポーターアッセイで試験した場合の生体外活性の指標であり、これらのデータセットはbsTCRの特性評価のために有益である。広範囲のpMHC-bsTCR親和性にわたる、結合親和性とbsTCR媒介細胞活性化との関係の分析は、このようなデータセットを実行可能に収集するために利用できるツールが限られていることから、これまで困難であった。
【0195】
収集された結合モチーフは、野生型TCR868の結合モチーフとの類似性を明らかにした。Cole et al.による868-SV9結晶構造の分析、ならびに付属するアラニンスキャン(34)は、CDR3α領域と、SLYNTVATLのアミノ酸4Nおよび5Tとの間の顕著な相互作用を明らかにした。この挙動は保存されているようであるが、868Z11コンストラクト中ではCDR3αのかなりの部分が変異している。結合モチーフおよびモデル検索ストラテジーを用いて、本発明者らは、ヒトプロテオームから複数のペプチドを同定できたが、これは、bsTCRとの高親和性、および標的細胞に提示されるとbsTCR媒介Jurkatエフェクター活性化を誘導する可能性を実証した。
【0196】
複数のアミノ酸の同時交換は、孤立した交換とは異なる効果をもたらすかもしれないので、単一アミノ酸置換ライブラリに由来するTCR結合モチーフは、特異的TCR(sTCR)が認識できる全てのペプチドを反映していない可能性があることに留意されたい。代替アプローチとしては、例えば、それぞれがペプチドの1つの位置以外の全ての位置でランダム化されている高度多様性ペプチドプールを用いた標的細胞の負荷を通じた、または酵母表面にpMHC複合体として提示されたランダム化ペプチドライブラリに対するスクリーニングを通じた、より複雑なライブラリのスクリーニングが挙げられる(10、32、33)。それぞれの長所と短所をより深く理解するには、これらのアプローチを直接比較するさらなる研究が必要である。究極的に、臨床用候補の安全性スクリーニングは、リスクを最小限に抑えるために、例えば、結合モチーフ誘導分析と健常組織由来細胞株の大きなパネルの細胞スクリーニングを組み合わせることにより、常に複数のアプローチから構成されなければならない。本明細書に提示された結果は、pMHC-bsTCR結合動態スクリーニングプラットフォームと組み合わせて、潜在的に関連するオフターゲット相互作用を同定するためのこのアプローチの能力を強調する。それは、複雑なpMHCライブラリの迅速な解析を提供するので、それは、開発過程の早い段階で有望な候補を選択するために使用し得て、確立された方法を補完する。このプラットフォームはまた、既知の免疫ペプチドームをカバーする質量分析データ駆動型組織特異的pMHCライブラリに対して、後期候補のより大規模で包括的なスクリーニングを容易にし得る。その安定性および低労力のペプチド負荷手順により、ジスルフィド修飾HLA*02:01分子は、潜在的にさらに高スループットのプラットフォームを可能にし得る。これらの特性のおかげで、これらは、例えば、ジスルフィド修飾HLA*02:01分子の大規模コーティングと最新の近代的高スループットペプチドマイクロアレイインクジェットプリンタを組み合わせることで、数千の異なるpMHC複合体を含む高度に複雑なpMHCマイクロアレイの作成に完璧に適し得る。
【0197】
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