(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】スルホンアミド構造キナーゼ阻害剤の新規塩酸塩形態
(51)【国際特許分類】
C07D 403/04 20060101AFI20240729BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20240729BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240729BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C07D403/04 CSP
A61K31/4184
A61P35/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021512769
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 FI2019050629
(87)【国際公開番号】W WO2020049217
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-31
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516207078
【氏名又は名称】アウリジーン オンコロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨナイティス、ダビド
(72)【発明者】
【氏名】カルヤライネン、オスカリ
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-528469(JP,A)
【文献】芦澤一英,医薬品の多形現象と晶析の科学,2002年09月20日,p.273,278,305-17
【文献】長瀬博監訳,最新 創薬化学 下巻,株式会社テクノミック,1999年09月25日,pp. 347-365
【文献】川口洋子ら,医薬品と結晶多形,生活工学研究,2002年,310-317頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4.7、14.2、16.1、18.0、21.2、23.5および26.5度2θのピークを含む粉末X-線回折パターンにより特徴づけられるN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド
である化合物(I)の塩酸塩の結晶形8。
【請求項2】
4.7、9.4、14.2、16.1、16.9、18.0、18.5、19.0、21.2、23.5、24.0、24.4、25.3、26.5、27.5および29.5度2θのピークを含む粉末X-線回折パターンにより特徴づけられる請求項
1記載の結晶形8。
【請求項3】
一水和物である請求項
1または
2記載の結晶形8。
【請求項4】
N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミドである化合物(I)の塩酸塩の結晶形5の製造方法であって、
化合物(I)の塩酸塩のいずれかの結晶形を水の存在下ですりつぶすこと、および結晶生成物を単離することを含
み、
結晶形5が8.3、9.5、18.5、19.8、21.1、23.9、25.1および27.4度2θのピークを含む粉末X-線回折パターンにより特徴づけられる、
製造方法。
【請求項5】
(i)化合物(I)を塩酸およびギ酸の存在下、高温で水および2-プロパノールの混合物に溶解すること;
(ii)混合物を冷却すること;および
(iii)結晶生成物を単離すること
を含む、請求項
1~
3のいずれか1項に記載の結晶形8の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の塩酸塩の結晶形
8を含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の塩酸塩の結晶形
8を含む、異常なFGFRシグナル伝達により特徴づけられるがんの治療用医薬。
【請求項8】
異常なFGFRシグナル伝達により特徴づけられるがんが、多発性骨髄腫、胃がん、子宮内膜がん、前立腺がん、乳がん、胆管癌および尿路上皮癌である請求項
7記載の異常なFGFRシグナル伝達により特徴づけられるがんの治療用医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の新規な塩酸塩形態およびその製造に関する。さらに、本発明は、そのような新規な塩形態を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)の化合物、N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミドおよびその誘導体が特許文献1に開示されている。式(I)の化合物は、FGFR/VEGFRキナーゼファミリーの選択的阻害薬であり、種々のがん、特に異常なFGFRシグナル伝達が報告されているがん、例えば
多発性骨髄腫、胃がん、子宮内膜がん、前立腺がん、乳がん、胆管癌および尿道上皮癌などの治療において有用である。
【化1】
【0003】
化合物(I)は、生理的pH範囲において水に実質的に不溶であり、経口投与後、非常に低いバイオアベイラビリティを示す。また、塩形成能も乏しく、生理的pH範囲内で中性であるようである。クエン酸、L-リンゴ酸、メタンスルホン酸、コハク酸およびL-酒石酸などの種々の酸、ならびに水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、L-アルギニンおよび酢酸マグネシウムなどの種々の塩基との塩の製造が試みられた。しかしながら、塩は全く形成されないか、または化学的もしくは物理的に不安定であるかのいずれかであった。したがって、塩の形成は、改善されたバイオアベイラビリティを有する化合物(I)の経口投与のための安定な医薬製品を開発するための期待できるアプローチであるようには見えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ここで、化合物(I)は、安定な医薬製品の製造における使用に適し、かつ増強された水溶性と顕著に改善された経口投与後のバイオアベイラビリティを示す塩酸塩の形態で存在できることを見出した。特に、塩酸塩の結晶多形は、種々の製造および保存条件下で化学的におよび物理的に安定であり、低い吸湿性を有し、一貫した方法で得ることができ、そして医薬成分として特に好適なものである有機溶媒和物の形態ではないことが見出された。
【0006】
したがって、一実施態様において、本発明はN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の塩酸塩を提供する。
【0007】
別の実施態様において、本発明はN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の結晶性塩酸塩を提供する。
【0008】
別の実施態様において、本発明はN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の塩酸塩を結晶形1で提供する。
【0009】
別の実施態様において、本発明はN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の塩酸塩を結晶形3で提供する。
【0010】
別の実施態様において、本発明はN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の塩酸塩を結晶形5で提供する。
【0011】
別の実施態様において、本発明はN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の塩酸塩を結晶形8で提供する。別の実施態様において、当該結晶形8は一水和物の形態である。
【0012】
別の実施態様において、本発明は、異常なFGFRシグナル伝達により特徴づけられるがん、特に多発性骨髄腫、胃がん、子宮内膜がん、前立腺がん、乳がん、胆管癌および尿路上皮癌の治療において使用するための上記化合物のいずれかを提供する。
【0013】
また別の実施態様において、本発明は、上記化合物のいずれかの治療に有効な量を治療を必要とする対象に投与することを含む、異常なFGFRシグナル伝達により特徴づけられるがん、特に多発性骨髄腫、胃がん、子宮内膜がん、前立腺がん、乳がん、胆管癌および尿路上皮癌の治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1において得られた化合物(I)の塩酸塩の結晶形1の粉末X-線回折パターンを示す図である。
【
図2】実施例2において得られた化合物(I)の塩酸塩の結晶形3の粉末X-線回折パターンを示す図である。
【
図3】実施例3において得られた化合物(I)の塩酸塩の結晶形5の粉末X-線回折パターンを示す図である。
【
図4】実施例4において得られた化合物(I)の塩酸塩の結晶形8の粉末X-線回折パターンを示す図である。
【
図5】結晶形1、3、5および8の吸湿性を示す水蒸気吸着プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(I)の塩酸塩を提供する。特に、本発明は、結晶の形態で化合物(I)の塩酸塩を提供する。
【0016】
化合物(I)の塩酸塩の結晶形1、3、5および8は、粉末X-線回折(XRPD)試験により特徴づけられている。
【0017】
したがって、一実施態様において、本発明は、約4.6、9.6、18.7、19.2、23.5、25.0および26.9度2θに特徴的なピークを含む粉末X-線回折パターンを有する化合物(I)の塩酸塩の結晶形1を提供する。
【0018】
別の実施態様において、本開示は、約7.2、9.2、11.6、16.1、18.5、25.9および27.9度2θに特徴的なピークを含む粉末X-線回折パターンを有する化合物(I)の塩酸塩の結晶形3を提供する。
【0019】
別の実施態様において、本開示は、約8.3、9.5、18.5、19.8、21.1、23.9、25.1および27.4度2θに特徴的なピークを含む粉末X-線回折パターンを有する化合物(I)の塩酸塩の結晶形5を提供する。
【0020】
別の実施態様において、本開示は、約4.7、14.2、16.1、18.0、21.2、23.5および26.5度2θに特徴的なピークを含む粉末X-線回折パターンを有する化合物(I)の塩酸塩の結晶形8を提供する。別の実施形態において、当該結晶形8は一水和物の形態である。
【0021】
また別の実施態様において、本開示は、約4.6、9.6、11.6、12.6、14.4、16.2、17.4、18.7、19.2、22.5、23.1、23.5、25.0、26.9および27.2度2θに特徴的なピークを含む粉末X-線回折パターンを有する化合物(I)の塩酸塩の結晶形1を提供する。さらなる実施態様において、結晶形1は、
図1に示す粉末X-線回折パターンによりさらに特徴づけられる。
【0022】
また別の実施態様において、本開示は、約7.2、9.2、11.6、15.8、16.1、18.5、21.2、22.5、23.6、24.4、25.9および27.9度2θに特徴的なピークを含む粉末X-線回折パターンを有する化合物(I)の塩酸塩の結晶形3を提供する。さらなる実施態様において、結晶形3は、
図2に示す粉末X-線回折パターンによりさらに特徴づけられる。
【0023】
また別の実施態様において、本開示は、約8.3、9.5、12.6、14.0、15.5、17.7、18.5、19.8、20.4、21.1、23.9、25.1、27.4および29.6度2θに特徴的なピークを含む粉末X-線回折パターンを有する化合物(I)の塩酸塩の結晶形5を提供する。さらなる実施態様において、結晶形5は、
図3に示す粉末X-線回折パターンによりさらに特徴づけられる。
【0024】
また別の実施態様において、本開示は、約4.7、9.4、14.2、16.1、16.9、18.0、18.5、19.0、21.2、23.5、24.0、24.4、25.3、26.5、27.5および29.5度2θに特徴的なピークを含む粉末X-線回折パターンを有する化合物(I)の塩酸塩の結晶形8を提供する。さらなる実施態様において、結晶形8は、
図4に示す粉末X-線回折パターンによりさらに特徴づけられる。なお別の実施態様において、結晶形8は一水和物である。
【0025】
XRPD測定は、X-線源として銅充填X-線管(45kV×40mA)を、固定1°散乱防止スリット、10mm照射長を有するプログラム可能な飛散スリット、およびリアルタイムマルチストリップ検出器X’Celeratorを用いて室温で粉末X-線回折計 PANalytical X’Pert PROで行った。データの収集は、3~40°2θの範囲において0.1°/sの走査スピードで0.017°ステップでなされた。
【0026】
化合物(I)の塩酸塩の上記結晶形は、典型的には溶媒和された形態(水和物)として得られる。結晶形の水分含量は、適用される条件によって種々の比率で変化し得る。したがって、各結晶形は、化学量論的な量または非化学量論的な量のいずれかで水分子をその格子構造内に組み込むことができる。結晶形は、半水和物、一水和物、二水和物および三水和物、中間水和物結晶(intermediate hydrates crystals)、およびそれらの混合物などの種々の水和状態に現れるように、化合物(I)の塩酸塩1分子当たり5分子まで水を含んでもよい。特に、その比率は、化合物(I)の塩酸塩1分子当たり水が約0.5~約5分子の範囲、より特には、化合物(I)の塩酸塩1分子当たり水が約1~約3分子の範囲であり得る。
【0027】
化合物(I)の塩酸塩の結晶形1は、化合物(I)を塩酸水溶液およびアセトンの混合物に接触させること、および結晶生成物を単離することにより適切に製造することができる。特に、化合物(I)の塩酸塩の結晶形1は、例えば、化合物(I)ならびにアセトンおよびHCl水溶液の混合物を含むスラリーを撹拌することにより製造することができる。HClおよび化合物(I)の当モル量が好適に使用される。例えば、アセトンと37%HCl水溶液の混合物を液相として使用することができる。アセトンと37%HCl水溶液との比率は、例えば、500:1~300:1であってよく、例えば400:1であってよい。スラリーは、およそ室温で化合物(I)がその塩酸塩の形態1に変換されるのに十分な時間、例えば1~3日間、好適に撹拌される。塩酸塩の結晶形1は、例えばろ過により回収され、減圧下で乾燥される。
【0028】
化合物(I)の塩酸塩の結晶形3は、化合物(I)を塩酸水溶液およびエタノールの混合物に接触させること、および結晶生成物を単離することにより好適に製造することができる。特に、化合物(I)の塩酸塩の結晶形3は、例えば、化合物(I)ならびにエタノールおよびHCl水溶液の混合物を含むスラリーを撹拌することにより製造することができる。HClおよび化合物(I)の当モル量が好適に使用される。例えば、エタノールと37%HCl水溶液の混合物を液相として使用することができる。エタノールと37%HCl水溶液の比率は、例えば、200:1~50:1であってよく、例えば90:1であってよい。スラリーは、およそ室温で化合物(I)がその塩酸塩形1に変換されるのに十分な時間、例えば16時間~2日間、好適に撹拌される。塩酸塩の結晶形3は、例えばろ過により回収され、減圧下で乾燥される。
【0029】
化合物(I)の塩酸塩の結晶形5は、化合物(I)の塩酸塩のいずれかの結晶形を水の存在下ですりつぶす(grind)すること、および結晶生成物を単離することにより好適に製造することができる。相対的に少ない量の水で十分であることが見出された。例えば、水と化合物(I)の塩酸塩(いずれかの結晶形)との重量比1:1が好適であることが見出された。混合物は、例えばボールミルにおいて、およそ室温で化合物(I)の塩酸塩の初期の結晶形が結晶形5に変換されるのに十分な時間、例えば15分間~16時間好適にすりつぶされる。塩酸塩の結晶形5は、例えばすりつぶされた物質を減圧下で乾燥させることにより回収することができる。
【0030】
化合物(I)の塩酸塩の結晶形8は、(i)化合物(I)を塩酸およびギ酸の存在下、高温で水および2-プロパノールの混合液に溶解すること、(ii)混合物を冷却すること、ならびに(iii)結晶生成物を単離することを含む方法により好適に製造することができる。特に、化合物(I)の塩酸塩の結晶形8は、化合物(I)を、例えば50~70℃、好ましくは55~65℃などの高温で、例えば30%塩酸水溶液などの塩酸およびギ酸の存在下、水および2-プロパノールの混合液に溶解することにより製造することができる。水と2-プロパノールの比率は、約1:1が好適であり、HClのモル量は、化合物(I)に対して1.5当量が好適である。ギ酸と30%塩酸水溶液との比率は、15:1~10:1、例えば12:1が好適である。溶液は、好適には熱い間にろ過される。その後、さらに水/2-プロパノール混合液を、好適には再度約1:1の比率で、温度を55~65℃に維持しながら加えることができる。溶液には、必要に応じて任意に結晶種が播種されてもよい。さらに水/2-プロパノール混合液を、好適には再度約1:1の比率で、温度を55~65℃に維持しながら加えることができる。混合物は数時間、例えば4~10時間かけておよそ室温まで冷却するあいだ撹拌される。混合物をさらに0~10℃に冷却し、その後約1時間撹拌することができる。結晶形8は、例えばろ過により単離し、洗浄し、そして常圧または減圧下、高温、好適には40~60℃、例えば50℃で乾燥することができる。この方法は、結晶形8を通常一水和物として生成する。
【0031】
あるいは、結晶形8は、化合物(I)をテトラヒドロフランに溶解し、酸性エーテル(ジエチルエーテル中1N HCl)をその混合物に加えることにより得ることができる。析出した固体は、例えばろ過により回収し、例えば一晩乾燥空気をパージすることにより乾燥される。
【0032】
化合物(I)の塩酸塩の結晶形は、本技術分野において既知の賦形剤と共に、錠剤、カプセル剤、粉末剤または懸濁液などの医薬剤形に製剤化することができる。
【0033】
本発明は以下の非限定的な実施例によりさらに説明される。
【実施例】
【0034】
実施例1.N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド塩酸塩結晶形1の製造
【0035】
200.9mgのN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミドと15mlのアセトンを20mlバイアル中で合わせた。そのバイアルに1mlの酸性アセトン(195.9mgの37%塩酸水溶液をアセトンと混合し総量5mlとした)を入れた。これは、およそ1当量のHClである。スラリーを室温で3日間、磁力で撹拌した。得られた固体を真空ろ過により回収し、ガラスバイアルに保存した。
【0036】
実施例2.N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド塩酸塩結晶形3の製造
【0037】
2.9995gのN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミドと49mlの無水エタノールを125mlのエーレンマイヤーフラスコに入れた。そのフラスコに0.998mlの酸性エタノール(17.604gの37%塩酸水溶液を無水エタノールと混合し総量30mlとした)を入れた。これは、およそ1当量のHClである。スラリーを室温で一晩、磁力で撹拌した。得られた固体を真空ろ過により回収し、ガラスバイアルに保存した。
【0038】
実施例3.N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド塩酸塩結晶形5の製造
【0039】
102.1mgのN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド塩酸塩結晶形3をプラスチック製のグラインドカップ(grind cup)に入れ、その後0.1mlの水を入れた。ステンレススチールのボールをそのカップに加えた。そのカップをRetsch Millに置き、20分間、100%の出力でひいた。得られた固体をグラインドカップからかき集め、ガラスバイアルに保存した。
【0040】
実施例4.N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド塩酸塩結晶形8の製造
【0041】
125.4mgのN-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミドをビーカーに入れた60mlのテトラヒドロフランに溶解した。そのビーカーに248μlの酸性エーテル(ジエチルエーテル中1N HCl)を加えた。これは、およそ1当量のHClである。固体が直ちに析出した。乾燥した空気をそのビーカーに一晩パージした。得られた固体をビーカーからかき集め、ガラスバイアルに保存した。
【0042】
実施例5.N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド塩酸塩結晶形8の製造(別の方法)
【0043】
不活性化された(N2)フラスコに水(23.5ml)、2-プロパノール(23.5ml)、ギ酸(66ml)および塩酸(5.21ml、30重量%、1.5当量)を入れた。この溶液に、N-(2’,4’-ジフルオロ-5-(5-(1-メチル-1H-ピラゾル-4-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾル-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)シクロプロパンスルホンアミド(18.9g)を加えた。混合物を60±5℃に加熱した。溶液を熱い間にポリッシュフィルターでろ過した。温度を60±5℃に維持しながら、ろ液に60mlの水および2-プロパノールの1:1混合物を加えた。溶液に結晶種が播種され、その後、1:1水/2-プロパノール混合物をさらに70ml温度を60±5℃に維持しながら加えた。混合物を20±5℃に数時間かけて冷却する前に30分間撹拌した。塊をさらに5±5℃に冷却し、ろ過により単離する前に1時間撹拌した。ケーキをイソプロピルアルコール(50ml)で洗浄し、50℃の真空オーブン中で乾燥し、17.88g(93.0%)の結晶形8を一水和物として得た。
【0044】
実施例6.種々の水分活性条件における結晶形の安定性
【0045】
種々の水分活性条件における結晶形の安定性は、結晶形1および3が、HClの存在下、水およびメタノールの混合物中で3日間、室温で撹拌され酸性条件が維持されたスラリー実験において調べられた。そこでは、結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
結果は、結晶形3がより低い水分活性条件(周囲(ambient)~約0.3)下で好ましく、結晶形8は中程度の範囲の水分活性条件(約0.4~約0.8)下で好ましく、結晶形5は高い水分活性条件(約0.9)下で好ましいということを示す。
【0048】
実施例7.種々の保存条件での結晶形3および8の長期安定性
【0049】
種々の保存条件での結晶形3および8の長期安定性を調べた。条件は、a)閉鎖容器において25℃/RH60%、b)閉鎖容器において40℃/RH75%、c)開放容器において40℃/RH75%、およびd)開放容器において25℃/RH100%であった。結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
結晶形8は、すべての保管条件で良好な安定性を示すが、結晶形3は、開放保存条件の40℃/RH75%および25℃/RH100%ではそれぞれ結晶形8および5に変化する。
【0052】
実施例8.吸湿性(動的水蒸気吸着測定)
【0053】
結晶形1、3、5および8の吸湿性は、DVS-1動的水蒸気吸着装置(サーフェース メジャーメント システムズ社、ロンドン、イギリス)を用いて評価した。5~10mgの量の各結晶形を20%RHで平衡化した。30%、40%、50%、60%、70%、80%および90%RH、T=25℃で質量変化(%)を記録した。各点での平衡条件は、dm/dt≦0.0003であった。
【0054】
結果を
図5に表す。結晶形1、5および8は、20%~90%RHの間で特に低い吸湿性を示し、結晶形8特に非吸湿性であることを示す。
【0055】
実施例9.熱重量分析(TGA)
【0056】
結晶形1、3、5および8に関するTGAサーモグラムをTGA装置(TAインスツルメンツ)で収集した。各操作の間に回収されたガスをヘッドスペース質量分析計(アジレントGSシステム)により分析した。測定により、Clイオンの急速な蒸発(不均化)が始まった温度を記録した。
【0057】
結晶形1、3、5および8の不均化の開始温度をTGA分析に基づき決定した。結果を表3に示す。結晶形8は不均化に対して最も高い温度安定性を示した。
【0058】