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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】過酢酸濃度計
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240729BHJP
   G01N 27/404 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G01N27/416 302G
G01N27/404 341E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021542715
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2020030658
(87)【国際公開番号】W WO2021039393
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019155838
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】川口 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 智子
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230173(JP,A)
【文献】特開2018-189444(JP,A)
【文献】特開2001-235443(JP,A)
【文献】米国特許第05770039(US,A)
【文献】国際公開第2016/035377(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液の過酢酸濃度を測定する隔膜式の過酢酸濃度計であって、
過酢酸を透過する隔膜と、
前記隔膜を透過した過酢酸が溶解する内部液と、
前記内部液に浸漬する作用極及び対極と、
前記隔膜の試料溶液と接する側の表面に積層され、有機物の透過を抑制する透過抑制層とを具備し、
前記透過抑制層が、半透膜と、前記半透膜を支持する支持基材とをさらに備えることを特徴とする過酢酸濃度計。
【請求項2】
前記支持基材が多孔質膜である請求項1に記載の過酢酸濃度計。
【請求項3】
前記透過抑制層が、前記隔膜における試料溶液と接触する側の表面に前記支持基材が積層され、該支持基材における前記隔膜とは反対側の表面に前記半透膜が積層されている請求項1又は2に記載の過酢酸濃度計。
【請求項4】
前記半透膜が、セルロース、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル系ポリマーアロイ及びポリスルホンからなる群より選ばれる1種以上の成分を含有する膜である請求項1~3のいずれか一項に記載の過酢酸濃度計。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の過酢酸濃度計を備えることを特徴とする過酢酸濃度測定装置。
【請求項6】
前記過酢酸濃度計の試料溶液と接する表面に対して、紫外線を照射する光源をさらに備えることを特徴とする請求項記載の過酢酸濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料溶液に含まれる過酢酸の濃度を測定する過酢酸濃度計に関する。
【背景技術】
【0002】
過酢酸濃度計としては、例えば特許文献1に記載されたような隔膜式ものがある。
このような隔膜式の過酢酸濃度計は、過酢酸を選択的に透過する隔膜を備えており、この隔膜を透過した過酢酸が作用極の表面で反応するときに発生する電流変化を測定している。
【0003】
しかしながら、測定対象である過酢酸溶液には、食品や人体由来の有機物が含まれている場合があり、条件によっては一部の有機物は隔膜を透過して内部液中に入り込み電極作用極表面に達する場合がある。
作用極の表面に到達した有機物は作用極に付着し、作用極表面での過酢酸の反応を阻害するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-230173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、有機物による作用極表面の汚れを抑制して、従来よりも精度よく過酢酸濃度を測定することができる過酢酸濃度計を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る過酢酸濃度計は、試料溶液の過酢酸濃度を測定する隔膜式の過酢酸濃度計であって、過酢酸を透過する隔膜と、前記隔膜を透過した過酢酸が溶解する内部液と、前記内部液に浸漬する作用極及び対極と、前記隔膜の試料溶液と接する側の表面上に積層され有機物の透過を抑制する透過抑制層とを具備することを特徴とする。
【0007】
このように構成した過酢酸濃度計によれば、前記隔膜の試料溶液と接する側の表面に積層された前記透過抑制層を備えているので、試料溶液中に含まれる有機物の内部液への透過を抑制することができる。
その結果、有機物による作用極表面の汚れを抑制し、この汚れに起因する作用極表面での過酢酸の反応阻害を低減することができるので、従来よりも精度よく過酢酸濃度を測定することができる。
【0008】
前記透過抑制層が半透膜を備えるものであれば、分子量によって透過率を制御することができるので、過酢酸の透過を阻害することなく、有機物の透過を抑制することができる。
【0009】
前記透過抑制層が、前記半透膜を支持する支持基材を備えるものであれば、隔膜と半透膜との成分の相性や半透膜の強度等を気にすることなく、より多くの種類の半透膜を使用することができる。
【0010】
例えば、前記隔膜における試料溶液と接する側の表面に、前記支持基材が積層され、該支持基材の前記隔膜とは反対側の表面に前記半透膜が積層されているものであれば、前記半透膜の性質上、隔膜の表面に前記半透膜を直接塗布して積層することが難しい場合であっても、前記支持基材が介在することによって、前記隔膜の表面に前記透過抑制層を積層することができる。
【0011】
具体的な実施態様としては、前記半透膜が、セルロース、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル系ポリマーアロイ及びポリスルホンからなる群より選ばれる1種以上の成分を含有する膜であるものを挙げることができる。
【0012】
前記過酢酸濃度計の試料溶液と接触する表面に紫外線を照射する光源を備えた過酢酸濃度測定装置であれば、前記透過抑制層の表面の汚れを抑制して、過酢酸濃度測定の精度をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る過酢酸濃度計によれば、試料溶液由来の有機物による作用極表面の汚れを抑制して、従来よりも精度よく過酢酸濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における過酢酸濃度計の全体模式図。
図2】本発明の一実施形態における過酢酸濃度計の概略図。
図3】本発明の一実施形態における過酢酸濃度計の概略断面図。
図4】本発明の一実施形態において図3のA部分を拡大した拡大断面図。
図5】本発明の他の実施形態における過酢酸濃度計の概略断面図。
【符号の説明】
【0015】
1・・・過酢酸濃度計
4・・・作用極
5・・・対極
11・・隔膜
12・・中間膜
13・・内部液
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る過酢酸濃度計1の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態における過酢酸濃度計1は、この過酢酸濃度計1を試料溶液に浸漬させて該試料溶液中の過酢酸濃度を測定するものである。そして、この過酢酸濃度計1は、図1及び図2に示すように、内部液を収容するため容器1aと、容器1aを密閉するための蓋部1bとを備える。
【0018】
容器1aは、一端面が開口するとともに他端面が閉塞された中空の円筒形状をなすものであって、開口端を塞ぐように蓋部1bを取り付けると、その内部に内部液13を収容するための空間が形成されるものである。また、その開口端付近の内壁には、蓋部1bを取り付けるための図示しないねじ山が形成される。
【0019】
そして、他端面の一部には、試料溶液に含まれる特定物質を透過させて、容器1a内に侵入させる隔膜11が設けられている。
【0020】
隔膜11は、試料溶液中の過酢酸、過酸化水素、溶存酸素、残留塩素等を透過させるものであって、例えばシリコン、フッ素樹脂又はポリエチレンを含む材料から構成されるものである。なお、フッ素樹脂としては、例えばテフロン(登録商標)等を用いることができる。また、隔膜11の膜厚としては、例えば10μm~200μmのものを用いることができる。
【0021】
蓋部1bは、容器1aを密閉するものであって、容器1a側の略中央部には、作用極4及び対極5を保持する保持部材16が突出するように設けられている。この保持部材16は、蓋部1bが容器1aに取り付けられた状態で、容器1aと蓋部1bとの間に形成される空間に収容されるものである。また、容器1a側の反対側には、外部機器を接続するためのケーブルが取り付けられるコネクタ部6が設けられている。
【0022】
保持部材16は、絶縁性材料から構成されるものであって、図3に示すように、作用極4の周囲を囲んで作用極4を保持するとともに、対極5を周囲に巻回して保持するものである。また、保持部材16には、蓋部1bを容器1aに取り付けるための螺旋状の溝が設けられており、容器1a側に設けられた図示しないねじ山と嵌合させることで、蓋部1bを容器1aに取り付けることができる。さらに、保持部材16には、外部へ気体を排出するための空気孔7が設けられている。なお、この空気孔7の開口一端には、気液を分離するフィルタが設けられている。
【0023】
作用極4は、例えば金や白金等の導電性材料から構成されるものであって、本実施形態では、図2及び図3に示すように、棒形状をなし、その一端が図4に示すように、保持部材16の先端面10よりもわずかに突出するように配置されている。また、この作用極4の表面には図示しない微小な凹凸が設けられている。
【0024】
対極5は、例えば白金や銀-塩化銀(Ag/AgCl)等の導電性材料から構成されるものであって、本実施形態では、線形状をなすように構成されている。
【0025】
作用極4及び対極5は、図3に示すように、導線8を介して接続されており、該導線8を介して外部に設けられた図示しない電力供給手段から電圧が印加される。また、導線8には、導線8を流れる電流を検知する電流計9が設けられている。なお、導線8や電流計9は蓋部1bの外部に設けられたものであってもよい。
【0026】
そして、図1及び図3に示すように、蓋部1bを容器1aに取り付けた状態で、蓋部1bと容器1aとの間に形成される空間には内部液13が収容される。
この内部液13は、水素イオン濃度に対して緩衝作用を有する緩衝液が用いられるものであって、過酢酸と反応する物質を含まないものである。本実施形態では、内部液13が緩衝液のみで構成される。この緩衝液は、緩衝液であれば特に限定されず、酸性緩衝液、中性緩衝液、アルカリ性緩衝液等を用いることができるが、さらに好ましくは酸性緩衝液、中性緩衝液を用いることができる。本実施形態では、例えばリン酸緩衝液や酢酸緩衝液、トリス、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液等を用いることができる。
【0027】
容器1aの内側に配置する隔膜11には、内部液13に対してぬれ性を有する中間膜12が積層されている。この中間膜12は、容器1aを蓋部1bに取り付けた状態で隔膜11と作用極4との間に配置されて、作用極4をこの中間膜12を介して隔膜11に接触させるものである。ここで、ぬれ性とは、中間膜12と内部液13との間に親和性があり、中間膜12に内部液13が留まり、中間膜12を濡れさせて、中間膜12の表面に内部液13による液層を形成する性質を有することを示す。この中間膜12の膜厚としては、1μm~200μmのものを用いることができる。
【0028】
また、中間膜12に用いられる材料としては、隔膜11の弾性率よりも大きい弾性率を有する材料を用いることができ、例えばポリマー等から構成されたもの、特にポリカーボネイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンとポリイミドを混合した混合樹脂、ポリイミド、セルロース等を用いることができる。
そして、この中間膜12は酸素等の気泡の大きさ(500μm以上)よりも十分小さい孔径0.05μm~100μmの細孔12aが無数に設けられ多孔質膜で構成されている。
【0029】
また、容器1aの外側に配置する隔膜11には、隔膜11が中間膜12と接触する領域をさけて保護膜17が積層されている。この保護膜17を構成する材料としては特に限定されず、例えばポリプロピレン、PFA、PET等を用いることができる。なお、この保護膜17は、比較的硬度が高く、物質を実質的に透過させない材質からなるものであることが望ましい。
【0030】
しかして、本実施形態に係る過酢酸濃度計1は、隔膜の試料溶液と接する側の表面全体を覆うように積層され、有機物の透過を抑制する透過抑制層18を備えている。
【0031】
この透過抑制層18は、例えば、半透膜18aと、該半透膜18aを支持する支持基材18bとを備えるものである。
【0032】
前記半透膜18aは、過酢酸の透過を阻害せず、有機物の透過を抑制する分子篩としての機能を有するものであればよく、例えば、セルロース、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリルなどのイオン交換膜、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル系ポリマーアロイ及びポリスルホンからなる群より選ばれる1種以上の成分を含有する膜を挙げることができる。
前記半透膜18aの厚みは、1nm以上50μm以下の範囲であればよく、2nm以上30μm以下であることが好ましい。
【0033】
前記支持基材18bは、過酢酸の透過を阻害しないものであれば良く、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、多孔質ポリプロピレンなどの樹脂を含有する多孔質膜等を挙げることができる。この多孔質膜に形成されている開口の大きさは、例えば、10nm以上200nm以下のものを挙げることができる。過酢酸の透過を阻害しないために、支持基材18bの厚みはできるだけ薄いものが好ましく、例えば、5μm以上300μm以下であればよい。支持基材18bの厚みは、前記10μm以上50μm以下であれば好ましく、10μm以上20μm以下であればより好ましい。
【0034】
上述した過酢酸濃度計1の製造方法、特に前述した透過抑制層18を隔膜11に積層する方法について、以下に説明する。
ここでは、一例として、アセチルセルロース膜を前記半透膜18aとして使用した場合を説明する。
まず、隔膜11の試料溶液と接触する側の表面に、例えば、ポリエチレンからなる多孔質の支持基材18bを積層する。
次に、アセチルセルロースをアセトンやシクロヘキサン等の溶媒に溶解して、前記半透膜組成液を作成する。
この半透膜組成液を前述した多孔質の支持基材18b表面に、例えば50μmのローラーコータ等を使用して塗工し、乾燥させることによって、透過抑制層18を作製する。
その後、前述したような保護膜17で隔膜11及び透過抑制層18を固定する。
【0035】
このように構成した過酢酸濃度計1の動作について以下に説明する。
【0036】
容器1aに蓋部1bを取り付けると、作用極4は、図4に示すように、中間膜12を介して隔膜11に接触する。具体的には、作用極4は先端面10から突出するように配置されているので、作用極4は、中間膜12を介して隔膜11と押圧接触する。
【0037】
また、容器1aと蓋部1bとの間には、内部液13が封入される。この封入された内部液13は、図4に示すように、隔膜11と中間膜12との微小な隙間及び中間膜12と作用極4との微小な隙間に侵入する。ここで、中間膜12は、内部液13に対してぬれ性を有するので、中間膜12の表面には内部液13の液層が形成される。また、中間膜12は多孔質膜であるので、中間膜12に設けられた細孔12aから中間膜12の内部に内部液13が侵入する。そのため、作用極4はこの液層を介して中間膜12に接触するとともに、中間膜12も液層を介して隔膜11と接触するが、上述した液層は非常に薄い層であるので、作用極4は、実質的に中間膜12を介して隔膜11に接触しているものとみなすことができる。
【0038】
そして、作用極4も内部液13に浸漬されるとともに、対極5も内部液13に浸漬されるので、内部液13を介して作用極4と対極5とが電気的に接続される。
【0039】
上述した過酢酸濃度計1を、試料溶液に浸漬すると、試料溶液中に含まれる過酢酸、過酸化水素、溶存酸素、残留塩素等の特定物質が隔膜11を透過し、該特定物質は、容器1aと蓋部1bとの間に形成された空間に収容された内部液13に溶解する。そして、作用極4と対極5との間に図示しない電力供給手段から導線8を介して電圧が印加されると、作用極4の表面で過酢酸が酸化還元反応するとともに、対極5の表面で酸化還元反応が生じる。これらの反応によって、導線8に電流が流れるので、この電流値を電流計9で測定すれば、過酢酸濃度を検知することができる。
【0040】
なお、例えば、過酢酸濃度計1のコネクタ部6をケーブル等を介して外部機器に接続して、外部機器に電流計9で測定された電流値を示す出力信号を送信して、外部機器で過酢酸の濃度を算出することもできる。
【0041】
上述したように構成した過酢酸濃度計1によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0042】
隔膜11における試料溶液と接する側の表面に過酢酸の透過は阻害せず、有機物の透過を抑制する透過抑制層18が積層されているので、試料溶液に含まれる有機物の隔膜11透過を抑制することができる。
その結果、作用極4の表面が有機物で汚れてしまう恐れを低減することができるので、過酢酸濃度測定の精度を従来よりも向上させることができる。
【0043】
透過抑制層18が、半透膜18aとしてアセチルセルロース膜を備えているので、200Da以上の分子量を有する物質の透過を抑制することができる。そのため、作用極4の表面の汚れの原因となる高分子有機物の透過をより確実に抑制することができる。
【0044】
アセチルセルロースを含有する半透膜組成液は、隔膜11の表面に直接塗工すると隔膜11の表面ではじかれてしまいアセチルセルロース膜を形成することが難しい。
この点、本実施形態に係る過酢酸濃度計1においては、透過抑制層18が、半透膜を支持する支持基材18bを備えており、この支持基材18bの素材としてアセチルセルロースを含有する半透膜組成液をはじかない素材を選択している。
そのため、隔膜11の表面にまず支持基材18bを積層してから、この支持基材18bの表面にアセチルセルロースを含有する半透膜組成液を塗工すれば、簡単に透過抑制層18を積層することができる。
なお、先に支持基材18bの表面にアセチルセルロースを含有する半透膜組成液を塗工し、乾燥させて透過抑制層18を予め作成してから、この透過抑制層18を過酢酸濃度計1の隔膜11の試料溶液と接触する側の表面に、支持基材18bと隔膜11とが互いに接するように、隔膜11の表面に積層するようにしてもよい。
【0045】
作用極4が中間膜12を介して隔膜11と接触しているので、作用極4と隔膜11との距離を近づけながら、中間膜12によって作用極4と隔膜11とが隙間なく密着することを防ぐことができる。また、この中間膜12は内部液13に対してぬれ性を有し、中間膜12の表面には内部液13による液層が形成されるので、この液層から作用極4の表面に内部液13に溶解した特定物質を供給することができる。そのため、隔膜11と作用極4との距離を近づけてセンサの応答性を向上しながら、作用極4の表面での反応が阻害されることを防止して、センサの感度が悪化することを防ぐことができる。
【0046】
また、本実施形態では作用極4の表面に微小な凹凸が設けられており、この微小な凹凸によって内部液13と接触する比表面積が大きくなるので、作用極4表面での反応の応答性をより向上させることができる。
【0047】
さらに、特定物質が溶解した内部液13が、中間膜12に設けられた細孔12aを通過して作用極4の表面に供給されるので、過酢酸が作用極4の表面に到達するまでの距離をさらに縮めることができ、作用極4の表面での応答性をより向上させることができる。また、細孔12aを通じて内部液13を作用極4の表面に供給することができるので、安定的に過酢酸を検知することができる。
【0048】
また、多孔質膜の細孔12aの孔径が、0.05μm~100μmであるので、センサ内に気泡が生じた場合であっても、この気泡は細孔12aよりも十分大きく、細孔12a内に残存することがない。そのため、気泡によって阻害されることなく、作用極4の表面に細孔12aを通じて内部液13を供給することができるので、センサの感度の悪化を防止することができる。
【0049】
上述した効果について、以下具体的に説明する。
従来の隔膜式過酢酸濃度計では、試料溶液中に含まれる気泡やセンサに付着した気泡がガス透過性を有する隔膜11を透過してセンサ内に侵入したり、又は作用極4の表面の酸化還元反応によって気泡が生じたりする場合がある。この気泡は作用極4と隔膜11との間に残存して、作用極4の表面での反応を阻害し、センサの感度を悪化させるという問題を生じさせる。
【0050】
試料溶液に含まれる過酢酸を測定する場合、過酢酸は自然に分解して酸素を発生するとともに、酸化還元反応によっても酸素を発生するので、センサ内には必ず気泡が発生し、センサの感度を悪化させてしまう。
【0051】
しかし、本実施形態の過酢酸濃度計1では多孔質膜で構成される中間膜12を具備し、この多孔質膜の細孔12aの孔径は、酸素等の気泡の大きさ(500μm以上)よりも十分小さいので、気泡は中間膜12に残存することがない。そのため、気泡によって作用極4表面での反応が阻害されないので、気泡の発生によるセンサ感度の悪化を防止することができる。
【0052】
また、本実施形態における過酢酸濃度計1では、中間膜12の弾性率(体積弾性率)が隔膜11の弾性率よりも大きいものであるので、隔膜11に比べて変形し難く、中間膜12自体が、作用極4の表面に密着することを確実に防いで、作用極4での応答性を向上することができる。
【0053】
さらに、作用極4が、中間膜12を介して隔膜11に押圧接触しているので、作用極4と隔膜11との距離をより縮めることができ、作用極4表面での応答性をより向上することができる。
【0054】
加えて、保持部材16に空気孔7が設けられているので、容器1aに蓋部1bを取り付けた際にかかる内圧をこの空気孔7から逃がすことができるとともに、上述したように、センサ内に気泡(ガス)が生じた場合であっても、この気泡をこの空気孔7から逃がすことができ、センサの故障を防ぐことができる。
【0055】
また、隔膜11が中間膜12と接触する領域を除くように、隔膜11の試料溶液と接触する面に保護膜17が設けられているので、保護膜17によって隔膜11が破損することを防ぎ、内部液13が試料溶液側に漏出することを防ぐことができる。そして、保護膜17が比較的硬度が大きいものを用いているので、隔膜11の破損をより確実に防ぐことができる。また、試料溶液中の不純物等が隔膜11を介して内部液13内に侵入することを防ぐことができ、検知精度を高めることができる。さらに、保護膜17が、実質的に物質を透過させない程度に密な材質からなるものであれば、保護膜17が物質の透過を抑えるので、内部液13が試料溶液側に漏出することや試料溶液中の不純物等が隔膜11を介して内部液13内に侵入することより確実に防ぐことができる。
【0056】
さらに、中間膜12をポリマー等で構成する、特にポリカーボネイトを用いることで、作用極4の応答性をより向上させることができる。
【0057】
本発明は、その趣旨に反しない範囲で様々な変形が可能である。
例えば、前記実施形態では、透過抑制層18が半透膜18aと支持基材18bとを備えるものを挙げたが、隔膜11の表面に直接半透膜18aを積層することができる場合であって、かつ膜構造を保持できる程度の強度が確保できる場合には支持基材18bを省略してもかまわない。
【0058】
前述した過酢酸濃度計1が、前述した導線8、電流計9、該電流計9から出力される信号を受信して過酢酸濃度を算出する算出部及び該算出部によって算出された過酢酸濃度を表示する表示部などを備えた過酢酸濃度測定装置に組み込まれているようにしてもよい。前記算出部や前記表示部などは、例えば、増幅器と、A/Dコンバータと、CPU、メモリ、通信ポート、ディスプレイなどを備えたコンピュータが所定のプログラムに従って動作することで、その機能を発揮するものである。
【0059】
このような過酢酸濃度測定装置が、過酢酸濃度計1のケーシングや透過抑制層18の試料溶液と接する側の表面に対して外側から紫外線を照射する光源Lをさらに備えるようにしても良い。
前記光源Lとしては、例えば、およそ400nm以下、より好ましくは370nm以下の波長の光を射出するLEDチップ(発光ダイオードチップ)を挙げることができる。
前記光源Lから射出される光は、その波長がおよそ500nm以下のものであれば良く、例えば、波長が500nm以下の青色光、430以下の紫色光などであっても良い。
前記光源Lから射出される紫外線としては、この実施形態では、前記透過抑制層18の外表面の位置で、例えば、8mW/cm程度の光が観測できる強度のものとすればよい。
より具体的には、前記光源Lは、1mM/cm以上15mW/cm以下の光を射出できるものであればよく、より好ましくは、2mW/cm以上12mW/cmの光を射出できるものであれば良い。
【0060】
隔膜を保護する保護膜17を別途設けずに、例えば、前述した容器1aの先端部分が、保護部材として隔膜11が中間膜12と接触する領域をさけるように、隔膜11を覆うものとしても良い。
【実施例
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
本実施例では、有機物を含有する模擬試料を使用し、透過抑制層の有無が過酢酸濃度計の感度に与える影響を調べた。
【0062】
(実施例1)
実施例1では、前記隔膜の試料溶液側に前記透過抑制層を備えた過酢酸濃度計を使用した。前記透過抑制層としては、前記隔膜の表面に積層された支持基材と、該支持基材に指示されている半透膜とを備えるものを採用している。本実施例では、前記支持基材としては、ポリエチレン膜を、前記半透膜としてはアセチルセルロース膜をそれぞれ採用した。この時のポリエチレン膜の平均厚みは、100μm、アセチルセルロース膜の平均厚みは2~3nmとなるようにした。また、前記隔膜には、シリコン膜を使用し、前記保護膜としてはポリプロピレン膜を使用し、前記中間膜としてポリカーボネイト膜を使用している。
【0063】
前記模擬試料としては、0.4%の過酢酸と、10ppmのC16飽和脂肪酸及び10ppmのC18飽和脂肪酸を含有する水溶液を使用した。
この模擬試料の過酢酸濃度を5日間連続して測定し、過酢酸濃度測定の感度の変化調べた。模擬試料の温度は全て25℃とした。
【0064】
本実施例に係る過酢酸濃度計で測定したものと同じ模擬試料の過酢酸濃度を、卓上型過酢酸モニターで並行して測定し、前記過酢酸濃度計で測定した過酢酸濃度と前記卓上型過酢酸モニターで測定した過酢酸濃度とを比較して、前記過酢酸濃度計の感度変化を算出した。実験は2回行った。
前記卓上型過酢酸モニターとしては、過酢酸とヨウ素との反応を利用して過酢酸濃度を測定する理工協産製RK-POXII型を用いた。
【0065】
その結果、5日後の感度は、初回の測定に比べて1回目は-6%、2回目は-7%低下した。この感度の低下は、2回の実験とも、あらかじめ評価して得た前記卓上型過酢酸モニターの測定誤差±7%の範囲に入るものであった。
【0066】
(比較例1)
前記透過抑制層を備えていない点だけが、前述した実施例1の過酢酸濃度計と異なる過酢酸濃度計を使用して、前記模擬試料の過酢酸濃度を実施例1と同様に5日間連続して測定し、前記卓上型過酢酸モニターで測定した過酢酸濃度とを比較して過酢酸濃度測定の感度の変化調べた。
【0067】
その結果、5日後の感度は、1回目は-51%、2回目は-26%と、2回とも実施例1に比べて大きく低下した。
【0068】
実施例1と比較例1の過酢酸濃度計は、透過抑制層の有無の点においてのみ異なっているので、前述した過酢酸濃度計の感度変化は、前記透過抑制層の有無に左右されていると考えられる。
従って、これら実施例1及び実施例2の結果から、実施例1の過酢酸濃度計は透過抑制層を備えていることによって、有機物を含有する試料を長期間連続して測定しても、過酢酸濃度計の感度がほとんど変化しないことが分かった。
前記透過抑制層を備えている過酢酸濃度計では、試料溶液に含有される有機物の内部液への混入を抑えることができるので、作用電極表面の汚れが抑えられ、その結果、過酢酸濃度測定の感度が安定すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る過酢酸濃度計によれば、試料溶液由来の有機物による作用極表面の汚れを抑制して、従来よりも精度よく過酢酸濃度を測定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5