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特許7528148二次電池劣化判定装置及び二次電池劣化判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】二次電池劣化判定装置及び二次電池劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20240729BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240729BHJP
   G01R 31/3835 20190101ALI20240729BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20240729BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240729BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/3835
G01R31/388
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022094305
(22)【出願日】2022-06-10
(65)【公開番号】P2023180752
(43)【公開日】2023-12-21
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】503374488
【氏名又は名称】株式会社トヨタシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148655
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 淳一
(72)【発明者】
【氏名】高木 淳
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-136629(JP,A)
【文献】国際公開第2021/020250(WO,A1)
【文献】特開2022-020404(JP,A)
【文献】特開2020-169943(JP,A)
【文献】特開2020-180942(JP,A)
【文献】特開2021-021686(JP,A)
【文献】特開2016-125932(JP,A)
【文献】国際公開第2011/135813(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定対象となる二次電池の劣化判定を行う二次電池劣化判定装置であって、
少なくとも前記二次電池の充電特性を示す充電曲線上の前記二次電池の充電開始時間から第1の所定時間を経過した充電中における第1の時点と、前記第1の時点から第2の所定時間を経過した充電中における第2の時点とがあらかじめ特定され、前記充電曲線上の前記第1の時点と前記第2の時点との間の電圧値の傾きと、前記充電曲線上の前記第1の時点における電圧値とに基づいて前記二次電池の推定電気容量を算定する算定手段と、
前記算定手段により算定された推定電気容量に基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う劣化判定手段と
を備える二次電池劣化判定装置。
【請求項2】
前記算定手段は、
前記推定電気容量を目的変数とし、前記二次電池の充電曲線上の前記第1の時点と前記第2の時点との間の電圧値の傾きと、前記充電曲線上の前記第1の時点における電圧値とを説明変数に含む重回帰モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する請求項1に記載の二次電池劣化判定装置。
【請求項3】
前記算定手段は、
前記充電曲線上の前記第1の時点と前記第2の時点との間の電圧値の傾き及び前記充電曲線上の前記第1の時点における電圧値とともに、前記二次電池の充電開始時の電圧値及び/又は充電曲線計測時の温度を説明変数に含む重回帰モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する請求項2に記載の二次電池劣化判定装置。
【請求項4】
複数の二次電池についての充電曲線及び電気容量に基づいて前記重回帰モデルの係数を算出する係数算出手段をさらに備え、
前記算定手段は、
前記係数算出手段により算出された係数を適用した重回帰モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する請求項3に記載の二次電池劣化判定装置。
【請求項5】
前記算定手段は、
所定の多層ニューラルネットワークに対して、複数の二次電池についての充放電特性を示す充放電曲線及び正解データとなる電気容量を教師データとした教師有り学習を行うことにより生成された学習済モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する請求項1に記載の二次電池劣化判定装置。
【請求項6】
前記算定手段は、
決定木の勾配ブースティングを用いた機械学習により生成された学習済モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する請求項1に記載の二次電池劣化判定装置。
【請求項7】
前記劣化判定手段は、
前記推定電気容量が所定の閾値以上である場合には前記二次電池が再利用可能な良品であると判定し、前記推定電気容量が所定の閾値未満である場合には前記二次電池が再利用不能な劣化品であると判定する請求項1に記載の二次電池劣化判定装置。
【請求項8】
判定対象となる二次電池の劣化判定を行う二次電池劣化判定装置における二次電池劣化判定方法であって、
少なくとも前記二次電池の充電特性を示す充電曲線上の前記二次電池の充電開始時間から第1の所定時間を経過した充電中における第1の時点と、前記第1の時点から第2の所定時間を経過した充電中における第2の時点とがあらかじめ特定され、前記充電曲線上の前記第1の時点と前記第2の時点との間の電圧値の傾きと、前記充電曲線上の前記第1の時点における電圧値とに基づいて前記二次電池の推定電気容量を算定する算定工程と、
前記算定工程により算定された推定電気容量に基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う劣化判定工程と
を含む二次電池劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行うことができる二次電池劣化判定装置及び二次電池劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の車両の急激な電動化に伴って車両用の二次電池の需要が増加しており、かかる状況に伴って二次電池の再利用のニーズも増している。車両が廃車となったならば、この車両から二次電池を取り出してリサイクル会社に送られ、リサイクル会社において二次電池の劣化判定が行われる。そして、劣化判定の結果、二次電池が再利用可能であると判定された場合には、リビルドして中古市場で利用される。
【0003】
このため、かかる二次電池の劣化判定を行う従来技術が知られている。例えば、特許文献1には、前回の満充電容量から走行期間中の使用電気量及び走行期間後の残存容量を減じた値に基づいて、走行期間中の二次電池の負極副反応電流を測定し、負極副反応電流に基づいて被膜量を推定し、この被膜量に基づいて二次電池の劣化状態を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-020404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のものは、充電器において劣化判定するものであり、走行期間中の使用電気量及び走行期間後の残存容量を取得する必要があるため、リサイクル会社において二次電池の劣化判定を行う場合に利用することができない。このため、リサイクル会社において二次電池を満充電し、その後放電させて充放電特性を取得し、充放電特性に基づいて劣化判定をせざるを得ないことになるが、かかる充放電特性を取得するためには多大の時間を要する。
【0006】
本発明は、上記従来技術による問題点(課題)を解決するためになされたものであって、二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行うことができる二次電池劣化判定装置及び二次電池劣化判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、判定対象となる二次電池の劣化判定を行う二次電池劣化判定装置であって、少なくとも前記二次電池の充電特性を示す充電曲線上の前記二次電池の充電開始時間から第1の所定時間を経過した充電中における第1の時点と、前記第1の時点から第2の所定時間を経過した充電中における第2の時点とがあらかじめ特定され、前記充電曲線上の前記第1の時点と前記第2の時点との間の電圧値の傾きと、前記充電曲線上の前記第1の時点における電圧値とに基づいて前記二次電池の推定電気容量を算定する算定手段と、前記算定手段により算定された推定電気容量に基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う劣化判定手段とを備える。
【0008】
また、本発明は、上記発明において、前記算定手段は、前記推定電気容量を目的変数とし、前記二次電池の充電曲線上の前記第1の時点と前記第2の時点との間の電圧値の傾きと、前記充電曲線上の前記第1の時点における電圧値とを説明変数に含む重回帰モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する。
【0009】
また、本発明は、上記発明において、前記算定手段は、前記充電曲線上の前記第1の時点と前記第2の時点と間の電圧値の傾き及び前記充電曲線上の前記第1の時点における電圧値ととともに、前記二次電池の充電開始時の初期電圧値及び/又は充電曲線計測時の温度を説明変数に含む重回帰モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する請求項2に記載の二次電池劣化判定装置。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、複数の二次電池についての充電曲線及び電気容量に基づいて前記重回帰モデルの係数を算出する係数算出手段をさらに備え、前記算定手段は、前記係数算出手段により算出された係数を適用した重回帰モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記算定手段は、所定の多層ニューラルネットワークに対して、複数の二次電池についての充放電特性を示す充放電曲線及び正解データとなる電気容量を教師データとした教師有り学習を行うことにより生成された学習済モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記算定手段は、決定木の勾配ブースティングを用いた機械学習により生成された学習済モデルを用いて、前記二次電池の推定電気容量を算定する。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記劣化判定手段は、前記推定電気容量が所定の閾値以上である場合には前記二次電池が再利用可能な良品であると判定し、前記推定電気容量が所定の閾値未満である場合には前記二次電池が再利用不能な劣化品であると判定する。
【0017】
また、本発明は、判定対象となる二次電池の劣化判定を行う二次電池劣化判定装置における二次電池劣化判定方法であって、少なくとも前記二次電池の充電特性を示す充電曲線上の前記二次電池の充電開始時間から第1の所定時間を経過した充電中における第1の時点と、前記第1の時点から第2の所定時間を経過した充電中における第2の時点とがあらかじめ特定され、前記充電曲線上の前記第1の時点と前記第2の時点との間の電圧値の傾きと、前記充電曲線上の前記第1の時点における電圧値とに基づいて前記二次電池の推定電気容量を算定する算定工程と、前記算定工程により算定された推定電気容量に基づいて、前記二次電池の劣化判定を行う劣化判定工程とを含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態1に係る二次電池劣化判定システムの概要を説明する説明図である。
図2図2は、本実施形態1に係る二次電池劣化判定システムのシステム構成を示す図である。
図3図3は、図2に示した二次電池劣化判定装置の構成を説明するための機能ブロック図である。
図4図4は、充電曲線の計測点の一例を説明する説明図である。
図5図5は、重回帰分析結果のモデルの要約の一例を示す図である。
図6図6は、重回帰分析の係数の一例を示す図である。
図7図7は、図2に示した二次電池劣化判定装置の処理手順を示すフローチャート(その1)である。
図8図8は、図2に示した二次電池劣化判定装置の処理手順を示すフローチャート(その2)である。
図9図9は、充放電曲線の計測点の一例を説明する説明図である。
図10図10は、変形例1の重回帰モデルの説明変数の一例を示す図である。
図11図11は、図10に示した説明変数を用いた重回帰モデルの推定満充電容量を示す図である。
図12図12は、変形例2の重回帰モデルの説明変数の一例を示す図である。
図13図13は、図12に示す説明変数を用いた重回帰モデルの推定満充電容量を示す図である。
図14図14は、変形例3の汎用化モデルの作成を説明するための説明図である。
図15図15は、実施形態2に係る二次電池劣化判定システムのシステム構成を示す図である。
図16図16は、図15に示した二次電池劣化判定装置の構成を説明するための機能ブロック図である。
図17図17は、図16に示す学習済モデルの層構成の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る二次電池劣化判定装置及び二次電池劣化判定方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ここでは、電動車両又はハイブリッド車両に搭載される車両用の二次電池(バッテリー)の劣化判定を行う場合を中心に説明する。ただし、本発明は車両用の二次電池に限定されるものではなく、再利用される各種の二次電池を用いる場合に適用することができる。
【0023】
[実施形態1]
<二次電池劣化判定システムの概要>
まず、本実施形態1に係る二次電池劣化判定システムの概要について説明する。図1は、実施形態1に係る二次電池劣化判定システムの概要を説明するための説明図である。本実施形態1に係る二次電池劣化判定システムは、二次電池20の推定満充電容量Qに基づいて二次電池20の劣化判定を行うシステムである。
【0024】
従来、車両が廃車となったならば、この車両から二次電池を取り出してリサイクル会社に送られ、簡易検査が行われた後、リビルド会社に送られる。リビルド会社では、二次電池の劣化判定が行われる。そして、劣化判定の結果、二次電池が再利用可能であると判定された場合には、リビルドして中古市場で利用される。このため、かかる二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行う必要がある。
【0025】
このため、本実施形態1に係る二次電池劣化判定システムでは、二次電池の満充電容量Q0を目的変数とし、二次電池の充電曲線(二次電池計測時の電池温度を含む)を説明変数とする重回帰モデルを事前に構築する。そして、あらかじめ準備した複数の二次電池を二次電池劣化判定装置10に接続し、二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0を計測し(S1)、計測した充電曲線及び満充電容量Q0を用いて重回帰モデルの係数を算出する(S2)。かかる充電曲線は、複数の所定の時間における二次電池の電圧値のデータである。
【0026】
評価対象となる二次電池20の劣化判定を行う場合には、二次電池20を二次電池劣化判定装置10に接続し、二次電池20の充電曲線を計測し(S3)、計測した充電曲線と重回帰モデルを用いて推定された満充電容量(以下、「推定満充電容量Q」と言う)を算出する(S4)。そして、この推定満充電容量Qに基づいて二次電池20の劣化判定を行う(S5)。
【0027】
具体的には、推定満充電容量Qが所定の閾値以上である場合は、二次電池20が再利用可能な良品であると判定し、推定満充電容量Qが所定の閾値未満である場合には、二次電池20は再利用に適さない不良品であると判定する。
【0028】
ここで、充電曲線とは、安定化電源を用いて二次電池20に一定の直流電流を流した場合に得られる二次電池の両端の電圧の時間tに対する電圧値を描いた曲線である、そして、二次電池のプラス端子及びマイナス端子に、それぞれ定電流電源のプラス端子及びマイナス端子を接続し計測する。また、放電曲線とは、定電流負荷を用いて二次電池20から一定の直流電流を流した場合に得られる二次電池20の両端の電圧の時間tに対する電圧値を描いた曲線である。また、放電曲線には、定電流負荷を用いないで、二次電池のプラス端子とマイナス端子を解放状態にして無負荷放電した場合も含まれる。
【0029】
また、ここでは、充放電曲線の電圧の変化をパラメータとして重回帰分析を行っている。これは、充放電特性から容量素子及び抵抗素子から構成される等価回路の等価回路定数を求めて、これら等価回路定数を説明変数にすることもできる。しかし、時間によって変化する等価回路定数を説明変数として重回帰分析を行うのは複雑な計算が必要である。そこで、等価回路定数の時間的変化は、充放電特性の充放電曲線上に現れることに注目し、充放電曲線上の電圧の変化をパラメータとして重回帰分析を行う。
【0030】
<二次電池劣化判定システムのシステム構成>
次に、本実施形態1に係る二次電池劣化判定システムのシステム構成について説明する。図2は、本実施形態1に係る二次電池劣化判定システムのシステム構成を示す図である。ここでは、あらかじめ重回帰モデルの係数が算出されているものとする。
【0031】
図2に示すように、本実施形態1に係る二次電池劣化判定システムは、二次電池劣化判定装置10、定電流電源30、定電流負荷31、スイッチ32、電流センサ33、電圧センサ34及び恒温槽35を有する。図中に示す実線は回路素子間を接続する接続線を示し、図中に示す破線は制御線を示している。
【0032】
二次電池20は、充電及び放電を繰り返して使用できる電池であり、例えばニッケル水素電池等である。定電流電源30は、二次電池20を充電する場合に一定の電流を流す電源である。定電流負荷31は、二次電池20を放電する場合に一定の電流を流して放電する負荷装置である。
【0033】
スイッチ32は、二次電池20を充電する場合には、二次電池20に定電流電源30を接続し、二次電池20を放電する場合は、二次電池20に定電流負荷31を接続するように切り替えるスイッチである。
【0034】
電流センサ33は、定電流電源30から二次電池20に流れ込む電流及び二次電池20から定電流負荷31へ流れ出る電流を計測するセンサである。電圧センサ34は、二次電池20の電圧値を計測する電圧センサである。恒温槽35は、二次電池20を一定の温度に保つ装置である。
【0035】
ここで、図2に示す二次電池劣化判定装置10は、定電流電源30、定電流負荷31及び恒温槽35の電源を投入し設定を初期化する(S11)。そして、二次電池劣化判定装置10は、定電流電源30が二次電池20に接続されるようスイッチ32を制御した後、二次電池20を充電する(S12)。
【0036】
二次電池劣化判定装置10は、二次電池20の充電時の電圧値を電圧センサ34より計測する(S13)。この際、二次電池20の充電時の電流値を電流センサ33により計測し、この電流値が所定値となるように電流制御を行う。その後、二次電池劣化判定装置10は、二次電池20が定電流負荷31に接続されるようスイッチ32を制御し、二次電池20に蓄積された電荷を放電させる(S14)。
【0037】
その後、二次電池劣化判定装置10は、二次電池20の充電曲線に基づいて重回帰モデルを用いて推定満充電容量Qを算出する(S15)。その後、二次電池劣化判定装置10は、二次電池20の推定満充電容量Qに基づいて二次電池20の劣化判定を行う(S16)。
【0038】
<二次電池劣化判定装置10の構成>
次に、二次電池劣化判定装置10の構成について説明する。図3は、図2に示した二次電池劣化判定装置10の構成を説明する機能ブロック図である。図3に示すように、二次電池劣化判定装置10は、表示部11、入力部12、記憶部13及び制御部14を有する。また、二次電池劣化判定装置10は、定電流電源30、定電流負荷31、スイッチ32,電流センサ33、電圧センサ34及び恒温槽35が接続されている。
【0039】
表示部11は、液晶パネル又はディスプレイ装置等の表示デバイスであり、入力部12は、テンキーやマウスなどの入力デバイスである。なお、表示部11及び入力部12をまとめて表示操作部とすることもできる。
【0040】
記憶部13は、ハードディスク装置や不揮発性メモリなどの記憶デバイスであり、初期設定データ13aと、電圧データ13bと、重回帰モデル係数13cと、推定満充電容量データ13dとを記憶する。初期設定データ13aは、定電流電源30、定電流負荷31及び恒温槽35等の初期値である。電圧データ13bは、電圧センサ34で計測した二次電池20の電圧値のデータである。
【0041】
重回帰モデル係数13cは、複数の二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0に基づいて、充電曲線を説明変数として重回帰分析を行い算出した係数である。推定満充電容量データ13dは、評価対象の二次電池20の推定満充電容量Qのデータである。
【0042】
制御部14は、二次電池劣化判定装置10の全体を制御する制御部であり、初期設定部14aと、スイッチ制御部14bと、電流・電圧計測部14cと、重回帰モデル係数算出部14dと、推定満充電容量算出部14eと、劣化判定部14fとを有する。実際には、これらのプログラムをCPUにロードして実行することにより、初期設定部14aと、スイッチ制御部14bと、電流・電圧計測部14cと、重回帰モデル係数算出部14dと、推定満充電容量算出部14eと、劣化判定部14fとにそれぞれ対応するプロセスを実行させることになる。
【0043】
初期設定部14aは、定電流電源30及び定電流負荷31等に初期値を設定処理する設定部である。例えば、定電流電源30が出力する電流の電流値が1アンペア(1A)に設定される。
【0044】
スイッチ制御部14bは、二次電池20を定電流電源30に接続するためのスイッチ制御と、二次電池20を定電流負荷31に接続するためのスイッチ制御を行う制御部である。スイッチの制御は、あらかじめ決められた充電時間及び放電時間に合わせてスイッチ制御を行う。
【0045】
電流・電圧計測部14cは、二次電池20を充電する場合には、二次電池20に流れ込む電流値を電流センサ33により計測させ、二次電池20を放電する場合には、二次電池20から流れる電流値を電流センサ33により計測させる。また、二次電池20の電圧値を電圧センサ34により計測させ、電圧データ13bとして記憶部13に記憶する処理を行う。
【0046】
重回帰モデル係数算出部14dは、あらかじめ計測された複数の二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0に基づいて、重回帰モデルの係数を算出する処理部である。推定満充電容量算出部14eは、重回帰モデルを用いて推定満充電容量Qを算出する処理部である。
【0047】
劣化判定部14fは、推定満充電容量算出部14eにより算出された推定満充電容量Qに基づいて、二次電池20が再利用可能な良品であるか否かを判定する処理部である。具体的には、二次電池20の推定満充電容量Qが所定の閾値以上である場合は、二次電池20は再利用可能な良品であると判定し、推定満充電容量Qが所定の閾値未満である場合には、二次電池20は再利用に適さない不良品であると判定する。
【0048】
定電流電源30は、初期設定部14aで設定された一定の電流を二次電池20に流す電源である。定電流負荷31は、初期設定部14aで設定された一定の電流を二次電池20から流す負荷である。スイッチ32は、あらかじめ決められた時間で二次電池20に定電流電源30を接続するか、定電流負荷31を接続するかを切り替える。
【0049】
電流センサ33は、スイッチ32と二次電池20に直列に接続され、二次電池20を充電する場合には、二次電池20に流れ込む電流値を計測し、二次電池20を放電する場合には、二次電池20から流れる電流値を計測するセンサである。電圧センサ34は、二次電池20の電圧値を計測するセンサである。恒温槽35は、二次電池20の充電曲線を計測する場合に、二次電池20の雰囲気温度Taを一定に保つ槽である。
【0050】
<重回帰モデル係数の算出について>
次に、重回帰モデルの係数の算出について説明する。ここでは、二次電池の充電曲線に基づくパラメータを電池温度Tb、初期電圧値V0及び充電曲線の任意の二点間の電圧値の傾きとし、これらパラメータを説明変数とし、二次電池の満充電容量Q0を目的変数として重回帰モデル係数を算出する。図4は、充電曲線の計測点の一例を説明する説明図である。
【0051】
図4に示すように、充電曲線上にA点からF点までの6点を設ける。A点は、充電開始点であり、B点は充電開始から垂直に上昇する電圧の終点である。C点は、A点の時間をt=0とした場合に、第1の所定時間t1秒後である。第1の所定時間t1秒は、例えば300m秒である。
【0052】
D点は、C点から第2の所定時間t2秒後である。第2の所定時間t2秒は、例えば3秒である。E点は、充電終了点(放電開始点)F点から第2の所定時間t2秒前である。ここでは、充電時間を8秒としている。重回帰分析を行う場合に、A点~F点の電圧値を説明変数とすることもできるが、ここでは、二次電池の充電曲線の電圧値の傾きを算出する。
【0053】
例えば、C点とD点の時間に対する電圧値の傾きCDは、CD=(VC-VD)/(tC-tD)により算出することができる。また、E点とF点の時間に対する電圧値の傾きEFは、EF=(VE-VF)/(tE-tF)により算出することができる。
【0054】
また、各計測点の電圧値は、二次電池20の初期電圧値と充電曲線を計測する場合の電池温度Tbに依存するため、電池温度Tbを重回帰分析の説明変数に含める。このため、重回帰分析に用いる説明変数は、電池温度Tb、初期電圧値V0、電圧の傾きCD及び電圧の傾きEFとなる。
【0055】
そして、推定満充電容量Qは、Q=B1Tb+B20+B3CD+B4EF+eによって算出される。B1~B4は、重回帰分析で求められる偏回帰変数でありeは残差である。一般的に、説明変数となる電池温度Tb、初期電圧値V0、電圧の傾きCD及び電圧の傾きEFは単位と大きさが異なるため、平均と標準偏差を用いて変換したデータにより重回帰分析を行う。重回帰分析は、例えば二次電池20を100個用意し、例えば電池温度Tbを5℃、15℃、25℃及び35℃の4つの条件として二次電池の充電曲線を計測し、合計400組のデータを使用する。
【0056】
図5は、重回帰分析結果のモデルの要約の一例を示す図である。図5に示すように、重相関係数Rは0.920となり、決定係数R2は0.847となり、自由度調整済R2は0.845となり、推定値の標準誤差は0.449となる。自由度調整済R2が0.845であるため、このモデルは信頼することができる。
【0057】
図6は、重回帰分析の係数の一例を示す図である。図6に示す例では、重回帰モデルの係数は、定数に対して非標準係数B=22.226、非標準係数標準誤差=5.616、t値=3.957及び有意確率=0.000であり、電池温度Tbに対して非標準係数B=-0.077、非標準係数標準誤差=0.006、標準化係数ベータ=-0.757、t値=-13。481及び有意確率=0.000である場合を示している。
【0058】
また、重回帰モデル1の係数は、V0に対して非標準係数B=-1.525、非標準係数標準誤差=0.694、標準化係数ベータ=-0.067、t値=-2.197及び有意確率=0.029であり、CDに対して非標準係数B=-639354.99、非標準係数標準誤差=146437.18、標準化係数ベータ=-0.376、t値=-4.366及び有意確率=0.000であり、EFに対して非標準係数B=-3035009.82、非標準係数標準誤差=169843.687、標準化係数ベータ=-0.942、t値=-17.869及び有意確率=0.000である場合を示している。t値は、各説明変数が目的変数に与える寄与の大きさを示している。
【0059】
重回帰モデルから、説明変数は、T、CD及びEFが1%有意であり、V0が5%有意であるため、説明変数のT、V0、CD及びEFは、目的変数(推定満充電容量Q)を推定するための変数として妥当である。
【0060】
<二次電池劣化判定装置10の処理手順>
次に、二次電池劣化判定装置10の処理手順について説明する。図7及び図8は、図2に示した二次電池劣化判定装置10の処理手順を示すフローチャートである。ここでは、重回帰モデル係数13cがあらかじめ算出されているものとする。図7に示すように、二次電池劣化判定装置10は、まず、定電流電源30と、定電流負荷31との電流値等の初期設定及び恒温槽35の初期設定を行う(ステップS101)。
【0061】
そして、二次電池劣化判定装置10は、定電流電源30が二次電池20に接続されるようスイッチ32を制御した後、所定の一定電流で二次電池20を充電する(ステップS102)。二次電池劣化判定装置10は、電圧センサ34を用いて所定時間ごとに電圧値を計測する(ステップS103)。ここで、所定時間とは、例えば、充電開始から0秒、0.05秒、0.3秒、3.3秒、5秒及び8秒等である。
【0062】
二次電池劣化判定装置10は、所定の時間を経過したか否かを判定し(ステップS104)、所定の時間を経過していない場合は(ステップS104;No)、ステップS103に移行し、計測を続行する。ここで、所定の時間とは、例えば、充電時間の8秒である。
【0063】
これに対して、所定の時間を経過している場合は(ステップS104;Yes)、二次電池20が定電流負荷31に接続されるようスイッチ32を制御し、所定の電流で二次電池20に蓄積された電荷を放電させる(ステップS105)。二次電池劣化判定装置10は、所定の時間を経過したか否かを判定し(ステップS106)、所定の時間を経過していない場合は(ステップS106;No)、所定の時間が経過するまで放電を続行する。
【0064】
これに対して、所定の時間を経過している場合は(ステップS106;Yes)、二次電池劣化判定装置10は、充電曲線に基づいて電池温度Tb、初期電圧値V0及び任意の二点間の電圧値の傾き等のパラメータを取得する(ステップS107)。その後、二次電池劣化判定装置10は、充電曲線のパラメータに基づいて二次電池20の推定満充電容量Qを算出し(ステップS108)、算出した推定満充電容量Qに基づいて二次電池20の劣化を判定する(ステップS109)。
【0065】
二次電池劣化判定装置10は、推定満充電容量Qに基づいて推定満充電容量Qが所定の閾値以上であった場合は(ステップ109;Yes)、二次電池20は再利用可能な良品と判定し(ステップS110)、一連の処理を終了する。また、推定満充電容量Qが所定の閾値未満である場合は(ステップS109;No)、二次電池20は再利用に適さない不良品と判定し(ステップS111)、一連の処理を終了する。
【0066】
上述してきたように、本実施形態1では、二次電池劣化判定システムは、あらかじめ複数の二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0を計測し、計測した充電曲線から取得したパラメータ及び満充電容量Q0のデータを用いて重回帰モデルの係数を算出し、事前に重回帰モデルを構築する。そして、評価対象である二次電池20の充電曲線を計測し、その充電曲線からパラメータを取得し、パラメータに基づいて重回帰モデルより推定満充電容量Qを算出し、算出した推定満充電容量Qに基づいて、二次電池20の劣化を判定するようにしたので、二次電池20の劣化判定を迅速かつ効率的に行うことができる。
【0067】
なお、実施形態1の推定満充電容量算出部14eは、請求項1の算定手段に対応し、実施形態1の劣化判定部14fは、請求項1の劣化判定手段に対応する。また、実施形態1では、充電曲線の計測した電池温度Tb、初期電圧値V0及び充電曲線の任意の二点間の電圧値の傾きを説明変数とした場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、説明変数を初期電圧値V0及び充電曲線の任意の二点の電圧値の傾きとする場合に適用することもできる。
【0068】
また、実施形態1では、説明変数に電池温度Tbを用いた場合について説明したが、一度に複数の二次電池20を評価するためには、多くの温度測定器が必要になることから、複数の二次電池20を収納する恒温槽35の雰囲気温度Taを説明変数として用いることもできる。
【0069】
<変形例1>
実施形態1では、二次電池劣化判定装置10は、重回帰モデルの説明変数を充電曲線のパラメータ(電池温度Tb、初期電圧値V0及び充電曲線の任意の二点間の電圧値の傾き)とした場合を説明したが、本変形例1では、説明変数に充電曲線の任意の点の電圧値を追加し、さらに放電曲線の任意の二点の電圧値の傾き及び放電曲線の任意の点の電圧値を追加した場合について説明する。
【0070】
図9は、充放電曲線の計測点の一例を説明する説明図である。図9に示すように、充放電曲線上にA点からK点までの11点を設ける。A点からF点までの定義は実施形態1と同様である。C点は、A点から0.31秒後ある。また、E点は、F点より10秒前である。また、充電時間及び放電時間は300秒とする。
【0071】
G点は、放電開始から垂直に電圧が降下する終点である。H点は、放電開始から0.01秒後であり、I点は、H点から10秒後である。J点は、放電開始から10秒後であり、K点はJ点から20秒後である。
【0072】
放電曲線上のH点とI点の時間に対する電圧値の傾きHIは、HI=(VH-VI)/(tH-tI)により算出することができる。また、J点とK点の時間に対する電圧値の傾きJKは、JK=(VJ-VK)/(tJ-tK)により算出することができる。
【0073】
図10は、変形例1の重回帰モデルの説明変数の一例を示す図である。図10に示すように、変形例1の説明変数は、充電開始時の初期電圧値V0、C点とD点の傾きCD、C点の電圧値VC、E点とF点の傾きEF、E点の電圧値VE、H点とI点の傾きHI、H点の電圧値VH、J点とK点の傾きJK及びJ点の電圧値VJからなる。
【0074】
図11は、図10に示した説明変数を用いた重回帰モデルの推定満充電容量Qを示す図である。図11に示すように、図10に示した説明変数を用いた重回帰モデルは、自由度調整済R2=0.9251であり、信頼できるモデルが作成できている。
【0075】
なお、本変形例1では、放電曲線の任意の二点の電圧値の傾き及び放電曲線の任意の点の電圧値の双方を追加する場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、放電曲線の任意の二点の電圧値の傾き及び放電曲線の任意の点の電圧値の一方を追加する場合に適用することもできる。
【0076】
<変形例2>
次に、変形例2では、説明変数に充放電曲線上の所定の時間における電圧の傾き(一次微分係数)及び充放電曲線の曲がりの具合(二次微分係数)を追加する場合について説明する。一次微分係数及び二次微分係数は、充放電曲線上の離散した電圧値では求めることができないので、時間に対する電圧値のグラフを、主成分分析を用いていくつかの主成分ベクトルの線形結合で表し、それぞれの主成分ベクトルを多項式を用いて滑らかに補間することによって元の電圧式も時間に対する連続関数とできることから、連続関数となった電圧式を用いて求める。具体的には、特許第3941569号公報に記載された主成分分析を用いた多項式フィッティング技術を用い、この多項式を用いて一次微分係数及び二次微分係数を算出する。
【0077】
図12は、変形例2の重回帰モデルの説明変数の一例を示す図である。図12に示すように、変形例2の説明変数は、充電開始時の初期電圧値V0、充電開始から垂直に上昇する電圧の終点B点の電圧値VB、充電開始から2秒後のC点の電圧値VC、充電開始から270秒後のE点の電圧値VE、C点の一次微分係数C’、E点の一次微分係数E’、H点(放電開始から26秒後)の一次微分係数H’、J点(放電開始から50秒後)の一次微分係数J’、L点(充電開始から20秒後)の二次微分係数L”及びN点(充電開始から26秒後)の二次微分係数N”からなる。
【0078】
図13は、図12に示す説明変数を用いた重回帰モデルの推定満充電容量Qを示す図である。図13に示すように、図13に示した説明変数を用いた重回帰モデルは、自由度調整済R2=0.9465であり、信頼できるモデルが作成できている。
【0079】
なお、本変形例2では、説明変数に充放電曲線上の所定の時間における一次微分係数及び二次微分係数の双方を追加する場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、説明変数に充放電曲線上の所定の時間における一次微分係数及び二次微分係数の一方を追加する場合に適用することもできる。
【0080】
<変形例3>
実施形態1では、二次電池劣化判定装置10は、あらかじめ計測した二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0を用いて重回帰モデルの係数を算出する場合について説明したが、本変形例3では、あらかじめ計測した二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0のデータをトレーニングデータ、検証用データ及び汎化性能検証用データに分けて、トレーニングデータを用いて汎化性能を向上した重回帰モデルの係数を算出する場合について説明する。
【0081】
図14は、変形例3の汎用化モデルの作成を説明するための説明図である。図14に示すように、ここでは、あらかじめ計測した二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0の全計測データNALLは、NALL=60とする。そして、汎用化モデルを作成するために、この全計測データNALLを、トレーニングデータNT=50、検証用データNK=5及び汎化性能検証用データNH=5に分ける。そして、汎用化モデルは、トレーニングデータを用いて重回帰分析を行い、重回帰モデルの係数を算出する。
【0082】
そして、トレーニングデータNTを用いて生成した重回帰モデルに検証用データNKを入力し、交差検証を行う。ここで、それぞれの重回帰モデルの決定係数R2が所定値よりも大きい場合は、作成した重回帰モデルは有用であると判定する。なお、汎用化モデルは、トレーニングデータNTと検証用データNKの組み合わせを変えて複数作成する。
【0083】
その後、交差検証を行った複数の重回帰モデルの標準化係数ベータの平均を求め、その平均化された標準化係数ベータを用いた重回帰モデルに汎化性能検証用データを入力し、重回帰モデルの汎化性能を判定する。汎化性能の判定は、汎化性能検証用データを入力した重回帰モデルの自由度調整済R2が所定値よりも大きい場合は、作成した重回帰モデルは有用であると判定する。
【0084】
[実施形態2]
ところで、上記実施形態1では、推定満充電容量Qを算出するために重回帰モデルを利用した場合について説明したが、本実施形態2では、あらかじめ計測した二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0を教師データとして多層ニューラルネットワークを用いて教師有り学習を行った学習済モデルを利用する場合について説明する。
【0085】
<二次電池劣化判定システムのシステム構成>
本実施形態2に係る二次電池劣化判定システムのシステム構成を説明する。図15は、実施形態2に係る二次電池劣化判定システムのシステム構成を示す図である。なお、実施形態1と同様の箇所には、同一の符号を付すこととして、その詳細な説明を省略する。
【0086】
図15に示すように、二次電池劣化判定システムは、二次電池劣化判定装置40に定電流電源30、定電流負荷31、スイッチ32、電流センサ33、電圧センサ34及び恒温槽35を有する。図中に示す実線は回路素子間を接続する接続線を示し、図中に示す破線は制御線を示している。
【0087】
ここで、図15に示す二次電池劣化判定装置40は、定電流電源30、定電流負荷31及び恒温槽35の電源を投入し設定を初期化する(S21)。そして、二次電池劣化判定装置40は、定電流電源30が二次電池20に接続されるようスイッチ32を制御した後、二次電池20を充電する(S22)。
【0088】
二次電池劣化判定装置40は、二次電池20の充電時の電圧値を電圧センサ34より計測する(S23)。この際、二次電池20の充電時の電流値を電流センサ33により計測し、この電流値が所定値となるように電流制御を行う。その後、二次電池劣化判定装置40は、二次電池20が定電流負荷31に接続されるようスイッチ32を制御し、二次電池20に蓄積された電荷を放電させる(S24)。
【0089】
その後、二次電池劣化判定装置10は、二次電池20の充電曲線に基づいて多層ニューラルネットワークの学習済モデルを用いて推定満充電容量Qを算出する(S25)。その後、二次電池劣化判定装置10は、二次電池20の推定満充電容量Qに基づいて二次電池20の劣化を判定する(S26)。
【0090】
<二次電池劣化判定装置40の構成>
次に、二次電池劣化判定装置40の構成について説明する。図16は、図15に示した二次電池劣化判定装置40の構成を説明する機能ブロック図である。図16に示すように、二次電池劣化判定装置40は、表示部11、入力部12、記憶部43及び制御部44を有する。また、二次電池劣化判定装置40は、定電流電源30、定電流負荷31、スイッチ32,電流センサ33、電圧センサ34及び恒温槽35が接続されている。
【0091】
記憶部43は、ハードディスク装置や不揮発性メモリなどの記憶デバイスであり、初期設定データ13aと、電圧データ13bと、推定満充電容量データ13dと、学習済モデル43aとを記憶する。学習済モデル43aは、多層ニューラルネットワーク(CNN;Convolutional Neural Network)を深層学習により学習させることにより得られる学習済モデルである。学習済モデル43aは、別途サーバ、あるいはクラウド等を用いて教師データとして複数の二次電池を計測した充電曲線と、その充電曲線に対応した満充電容量Q0を正解値としたデータセットにより学習処理を行い生成されたものである。
【0092】
ここで、学習済モデル43aの層構成について説明する。図17は、図16に示す学習済モデル43aの層構成の一例を説明するための説明図である。図12に示すように、学習済モデル43aは、コンボリューション層(Convolution)51、コンボリューション層(Convolution)52、アベレージ・プーリング層(Average Pooling)53、コンボリューション層(Convolution)54、アベレージ・プーリング層(Average Pooling)55、全結合層(Fully Connect)56、全結合層(Fully Connect)57及び出力層(Softmax)58を有する。ただし、CNNの層構成は、これに限定されるものではない。
【0093】
コンボリューション層51、52、54は、局所的な特徴を抽出するために、前層で近くにあるノードにフィルタを畳み込んで特徴マップを生成する。アベレージ・プーリング層53、55は、局所的な特徴をまとめあげるために、前層であるコンボリューション層から出力された特徴マップをさらに縮小して新たな特徴マップとする。このように、CNNの隠れ層は、コンボリューション層とアベレージ・プーリング層により形成される。
【0094】
全結合層56、57は、特徴部分が取り出された特徴マップを一つのノードに結合し、所定の活性化関数によって変換された値を出力する。この活性化関数には、周知技術であるReLU(Rectified Linear Unit)等を用いることができる。出力層58は、全結合層57からの出力(特徴変数)をソフトマックス関数により確率に変換し、それぞれ正しく分類される確率を出力する。なお、オーバーフィッティングを避けるためにドロップアウト層を追加することもできる。なお、CNNの基本構造は公知技術であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0095】
図16に戻り、制御部44は、二次電池劣化判定装置40の全体を制御する制御部であり、初期設定部14aと、スイッチ制御部14bと、電流・電圧計測部14cと、劣化判定部14fと、推定満充電容量算出部44aとを有する。実際には、これらのプログラムをCPUにロードして実行することにより、初期設定部14aと、スイッチ制御部14bと、電流・電圧計測部14cと、劣化判定部14fと、推定満充電容量算出部44aとにそれぞれ対応するプロセスを実行させることになる。
【0096】
推定満充電容量算出部44aは、計測した二次電池20の充電曲線に基づいて学習済モデル43aを用いて推定満充電容量Qを算出する。
【0097】
上述してきたように、本実施形態2では、二次電池劣化判定システムは、あらかじめ複数の二次電池の充電曲線及び満充電容量Q0を計測し、計測した充電曲線及び満充電容量Q0のデータを用いて多層ニューラルネットワークを用いた学習済モデルを生成し、評価対象の二次電池20の充電曲線を計測し、その充電曲線に基づいて学習済モデルを用い推定満充電容量Qを算出し、算出した推定満充電容量Qに基づいて、二次電池20の劣化を判定するようにしたので、二次電池20の劣化判定を迅速かつ効率的に行うことができる。
【0098】
なお、上記実施形態2では、深層学習により学習済モデルを生成する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、今回の充放電曲線上のパラメータを用いて決定木を構築すれば、決定木の勾配ブースティングを用いた機械学習により学習済モデルを生成することもできる。例えば、XGBoostまたはLightGBMなどを適用することもできる。
【0099】
また、上記実施形態1及び実施形態2では、推定満充電容量Qを求める重回帰モデルは、二次電池の充電曲線のパラメータを説明変数としていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも充電曲線の任意の二点間の電圧値の傾きを含む充放電曲線のパラメータを説明変数として選択してもよい。また、重回帰モデルは、充放電曲線の各計測点の電圧値を説明関数としてもよい。
【0100】
また、上記実施形態1及び実施形態2では、充放電曲線の計測に流す電流を1Aの定電流としていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、2.5A等の他の定電流値であってもよい。
【0101】
また、上記実施形態1及び実施形態2では、充放電曲線上の電圧値をパラメータとした場合について説明したが、充電状態(State of Charge)を用いた場合にも適用することができる。
【0102】
上記の各実施形態で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係る二次電池劣化判定装置及び二次電池劣化判定方法は、二次電池の劣化判定を迅速かつ効率的に行う場合に適している。
【符号の説明】
【0104】
10 二次電池劣化判定装置
11 表示部
12 入力部
13 記憶部
13a 初期設定データ
13b 電圧データ
13c 重回帰モデル係数
13d 推定満充電容量データ
14 制御部
14a 初期設定部
14b スイッチ制御部
14c 電流・電圧計測部
14d 重回帰モデル係数算出部
14e 推定満充電容量算出部
14f 劣化判定部
20 二次電池
30 定電流電源
31 定電流負荷
32 スイッチ
33 電流センサ
34 電圧センサ
35 恒温槽
40 二次電池劣化判定装置
43 記憶部
43a 学習済モデル
44 制御部
44a 推定満充電容量算出部
51、52、54 コンボリューション層
53、55 アベレージ・プーリング層
56、57 全結合層
58 出力層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17