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特許7528159珪素粒子を含む大型フォーマット電池アノード
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】珪素粒子を含む大型フォーマット電池アノード
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20240729BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240729BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240729BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240729BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20240729BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240729BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/131
H01M4/134
H01M4/1393
H01M4/1395
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/64 A
H01M10/052
H01M10/0568
【請求項の数】 25
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022128643
(22)【出願日】2022-08-12
(62)【分割の表示】P 2019541681の分割
【原出願日】2017-10-13
(65)【公開番号】P2022145945
(43)【公開日】2022-10-04
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】62/407,938
(32)【優先日】2016-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519135758
【氏名又は名称】シリオン,インク.
【氏名又は名称原語表記】SILLION,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンス,タイラー
(72)【発明者】
【氏名】パイパー,ダニエラ モリーナ
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/123718(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/070120(WO,A1)
【文献】特開2011-086427(JP,A)
【文献】特開2005-285581(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0260239(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101222041(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0015160(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13 - 1399
H01M 4/36 - 62
H01M 4/64
H01M 10/052
H01M 10/0568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5マイクロメートル超の表面粗さRを有する集電体基板であって、当該集電体基板は、界面の展開比Sdrの3倍未満である算術平均高さSaを有する、集電体基板と、
前記集電体基板上に配置された薄膜と、
を含み、
前記薄膜が、
複数の活物質粒子と、
前記活物質粒子上に配置された伝導性ポリマー膜コーティングであって、環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性ポリマーを含む前記伝導性ポリマー膜コーティングと、
を含む、
アノード。
【請求項2】
前記薄膜は、10から80マイクロメートルの厚さを有する、
請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
前記複数の活物質粒子は、珪素、硬質炭素、グラファイト、グラフェン、ゲルマニウム、酸化チタン、錫、マグネシウム、アンチモン、鉛、及びこれらの組み合わせを含むグループから選択される、
請求項1に記載のアノード。
【請求項4】
前記複数の活物質粒子は、珪素粒子、珪素-炭素コンポジット材料粒子、及びこれらの組み合わせを含むグループから選択される粒子を含む、
請求項1に記載のアノード。
【請求項5】
前記粒子は、ナノ球体珪素、ナノワイヤー珪素、ナノロッド珪素、ウィスカー珪素、珊瑚形状珪素、ミクロ球状珪素、珪素-グラファイト、珪素-グラフェン、珪素-硬質炭素、及びこれらの組み合わせを含むグループから選択される、
請求項4に記載のアノード。
【請求項6】
前記アノードが30~60wt.%珪素粒子を含む、
請求項4に記載のアノード。
【請求項7】
前記アノードが60wt.%以上の珪素粒子を含む、
請求項4に記載のアノード。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸、及びこれらの組み合わせを含むグループから選択される環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された、
請求項1に記載のアノード。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリアクリロニトリル(PAN)を含む環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された、
請求項8に記載のアノード。
【請求項10】
前記薄膜の空隙率が50~70%の間である、
請求項1に記載のアノード。
【請求項11】
請求項1に記載の前記アノードと、
カソードと、
電解質と、を含む、
エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項12】
前記電解質がイミド系室温イオン液体を含む、
請求項11に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項13】
アノードを作る方法であって、
活物質、添加剤粉末、ポリマー粉末、及び前記ポリマー粉末を溶解する事が出来る溶媒を組み合わせる事によりスラリーを生成する事であって、前記ポリマー粉末は、環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性ポリマーを含む事と、
前記スラリーを集電体基板上にキャスティングする事によりキャスト薄膜を生成する事であって、前記集電体基板は、1.5マイクロメートル超の表面粗さR を有し、前記集電体基板は、界面の展開比Sdrの3倍未満である算術平均高さSaを有する事と、
前記キャスト薄膜を乾燥する事と、
前記キャスト薄膜を熱処理する事と、
を含む、方法。
【請求項14】
乾燥されて熱処理された前記キャスト薄膜は、10から80マイクロメートルの厚さを有する、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記熱処理は、前記キャスト薄膜に、200から400℃の温度に於いて1から12時間の時間に渡って熱を適用する事、を含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記熱処理は、真空又は不活性ガス流下に於いて完了する、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記スラリーは、室温に於いて20から100RPMで2000~6000cPのブルックフィールド粘度を有する、
請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記活物質は、珪素及び炭素質物質を含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項19】
珪素:炭素質材料重量比は、10:90から90:10である、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
珪素:炭素質材料:ポリマー粉末重量比は、30:55:15である、
請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記添加剤粉末は、リチウム金属粉末、窒化リチウム、シュウ酸、及びこれらの組み合わせを含むグループから選択される材料を含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホン(DMSO )、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、及びこれらの組み合わせを含むグループから選択される、
請求項13に記載の方法。
【請求項23】
エネルギー貯蔵デバイスを作る方法であって、
請求項13に記載の方法によってアノードを作る事と、
前記アノードと、カソードと、電解質とをハウジングに配置する事と、を含む、
方法。
【請求項24】
1.5マイクロメートル超の表面粗さR を有する集電体基板と、
前記集電体基板上に配置された薄膜と、
を含み、
前記薄膜が、
複数の活物質粒子と、
前記活物質粒子上に配置された伝導性ポリマー膜コーティングであって、環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性ポリマーを含む前記伝導性ポリマー膜コーティングと、
を含み、
前記薄膜の空隙率が50~70%の間である、
アノード。
【請求項25】
アノードを作る方法であって、
活物質、添加剤粉末、ポリマー粉末、及び前記ポリマー粉末を溶解する事が出来る溶媒を組み合わせる事によりスラリーを生成する事であって、前記ポリマー粉末は、環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性ポリマーを含み、前記添加剤粉末は、リチウム金属粉末、窒化リチウム、シュウ酸、及びこれらの組み合わせを含むグループから選択される材料を含む事と、
前記スラリーを集電体基板上にキャスティングする事によりキャスト薄膜を生成する事であって、前記集電体基板は、1.5マイクロメートル超の表面粗さR を有する事と、
前記キャスト薄膜を乾燥する事と、
前記キャスト薄膜を熱処理する事と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願(単数又は複数)の相互参照
本願は2016年10月13日出願の米国仮特許出願第62/407,938号の優先権を主張し、其の全体は此処で参照に依って組み込まれる。
【0002】
連邦政府資金に依る研究についての陳述
本発明は、エネルギー省に依って授与された助成金番号DE-SC0013852の下に於ける政府の支援に依って成された。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、リチウムイオン電気化学セル及び電池等のエネルギー貯蔵デバイスに関する。より具体的には、本開示は、例えばリチウムイオンエネルギー貯蔵デバイス及び電池への使用にとって好適な珪素アノード電極シートの大スケール化可能な生産に関する。
【背景技術】
【0004】
電池は今日の社会に於いてユビキタスに成っており、補聴器からスマートホン、フォークリフト、及び輸送機器さえ迄の凡ゆる物に電力供給している。今日の電池技術は、重く、嵩張り、安価な鉛蓄電池からより軽く、より小さく、より高額なリチウムイオン電池(LIB)迄の範囲に及ぶ。但し、充電式LIBはポータブルエレクトロニクス市場に於いて十年近くに渡って優勢であり、近年では、其れ等は、電動輸送機器セクター、及び軍用適用を包含するスペシャリティ市場に於いて可成りの牽引力を獲得している。材料加工及びデバイス製造の軽微な改善は、各年に凡そ5から6%というエネルギー密度の改善を可能にしており、ゆっくりとした漸増的な発展である。現在まで、Liイオン技術の改善は、第一に、第1世代材料を改変する事と其れ等をより小さくより安全なパッケージに収める事とに成功している。先行技術の電池は尚も重く、嵩張り、高価で、不安全であり、次世代適用の電力/コスト要件への障害を生じている。将来のエネルギー貯蔵目標に到達する事は、次世代電極材料のブレークスルーを要求するであろう。より高いエネルギー密度の活物質を組み込む事が必要事である。
【0005】
近年、珪素はLIBの為の最も魅力的な高エネルギーアノード材料の1つとして同定されている。珪素の低い作動電圧と、先行技術のグラファイトアノードの物よりも10倍近く高い3579mAhg-1という高い理論比容量とは、現実的なSi系電極を開発する事を狙った広汎な研究活動を助長している。Si電極の利点にも拘わらず、主に材料の深刻な体積膨張に結び付けられた数々の課題が其の商品化を妨げている。商品化されたグラファイト電極はリチウムインターカレーションの間に大体10から13%膨張する一方で、Siの膨張は300%近くに達し、肝要な固体-電解質被膜(SEI)の構造的劣化及び不安定性を発生させる。斯かる不安定性は、最終的には電池寿命を不充分なレベルに迄短くする。活物質の劣化は、150nmよりも小さい材料を組み込む事に依って又は膨張を低減する事が出来る電極アーキテクチャーのナノ構造設計に依って緩和され得る。残念乍ら、以前の仕事に於いて提示された電極アーキテクチャーは十分に高いクーロン効率を欠く。なぜなら、主として、Si合金化及び脱合金化の間の体積変化はSi-電解質界面に於けるSEIを機械的に不安定にするからである。
【0006】
リチウムイオン電池アノードへの珪素の利用を狙った多くの活動は、珪素を従来の活物質と組み合わせる為に努力している。此れは、珪素材料の欠点(例えば、体積膨張、活物質利用等)を最小化する一方で、より高い容量を提供する。先行技術のグラファイト電極に於けるナノ珪素(ナノSi)粒子の混合物は、今日のアノードの容量を増大させる為に商業的な慣行に実装されている。然し乍ら、此のプロセスは約5%(質量に依る)のナノ珪素活物質の包含のみに限定される。5%の限定を上回る何れかの量は、リチウム化及び脱リチウム化の間のSiの激しい体積膨張及び収縮が原因で、電極の従来のネットワークを破壊するであろう。
【0007】
出願人に依って行われた予備的な仕事は、ナノSi電極/室温イオン液体(RTIL又はIL)システムの印象的な長期サイクル安定性、及び電気活性物質質量に対して正規化された今日の先行技術の技術の比エネルギー×1.35を送達する事が出来るLiイオンセルの為の商業的に利用可能な「L333」カソードとの其の組み合わせを実証した。ナノ珪素-環化ポリアクリロニトリル(nSi-cPAN)電極は、イミド系RTIL電解質と組み合わせられた時には、堅牢な電極アーキテクチャーと安定な固体-電解質被膜(SEI)層の形成との協同効果が原因で、99.97%超という平均ハーフセルクーロン効率を維持する。参照に依って其の全体が本願に組み込まれる特許文献1は、Liイオン電池に於いてnSi-cPAN電極と特定組成のRTIL電解質との組み合わせ及び利用の間に形成される組成物を記載している。具体的には、特許文献1はnSi-cPAN電極及びRTIL電解質の間に形成されるSEIの組成を開示している。
【0008】
nSi-cPANシステムの実証の次に、出願人は「ミクロンSi」(μSi)アノードを開発した。μSiの利用は、cPANコーティングの機械的強度を活用する事に依って可能に成される。耐久性で伝導性のコーティングマトリックス中にμSi粒子を包み込む事に依って、大きいSi粒子の微粉化が抑制される。此のメカニズムは「自己抑制された断片化(fragmentization)」と呼ばれている。断片化した珪素粒子はcPANコーティングマトリックスに接着した儘であり、材料の長期の完全な利用を最小限の容量低下に依って可能にする。此のメカニズムは、電極が多くのサイクルに渡って其の容量を保持する能力に依って検証され、珪素粒子が微粉化後でさえも電子伝導性のcPANマトリックスへのアクセスを維持するという事を証明している。此れは図1に於いて実証されており、cPANマトリックス中の大きい珪素粒子を電気化学的に微粉化する事に依って形成される組成物を記載している特許文献1に記載されている。
【0009】
nSi-RTILシステム及びμSi-cPAN電極の開発は、珪素アノードを含有するLiイオンフルセルの世界記録的性能(珪素の高い搭載質量、前処理なし/プレリチウム化珪素アノード、長いサイクル寿命、高いエネルギー)を齎した一方で、此の性能は実験室スケールに於いて実証されたのみであった。其れ等の発明を実証する為に用いられたアノードは、総アノード質量に対して相対的に70%超の珪素を含有する一方で、薄く、商業的な適用にとって好適ではなかった。其れ等は概念実証及び現実性実証の為に成された「ベンチトップ」実証であった。其れ等のアノードを作製する為に用いられたスラリーは12.5から25wt.%固体含量を含有した(極めて低い固体含量。商業的製造にとって好適ではない)。実験室標準の集電体基板(25から30ミクロン超の厚さ)、低い電極コーティング厚さ(~2mAhcm-2を齎す)、小さい電極面積、及び低い電流(コイン型セル実証にとって好適。マイクロアンペア範囲)は、斯かる実証を可能にした。此れらの技術をベンチトップから商業的製造ラインに移す事は、全く新たなセットの課題を提示する。
【0010】
商業的なアノードは、其れが大型フォーマットLiイオン電池の改善されたエネルギー密度及びコストの為にカソードと対にされ得る様に、少なくとも2mAhcm-2という面積当りの容量を提供しなければ成らない。此れは、以前に開発されたアノードが(魅力的なエネルギー密度を成し遂げる為には、搭載質量及び厚さを包含する殆どのメトリクスに於いて2×)大スケール化され、商業的に現実的な手段に依って加工されなければ成らないという事を意味する。商業的なアノードは、其々パウチ又は円筒形セルに積層又は巻回される時にカソード容量と適切に調和する為に、其れ等の面積当りの容量(mAhcm-2)がアノードシート全体に渡って一定の儘である様にも又開発されなければ成らない。アノードが商業的なレベル迄大スケール化される時には、コーティングと集電体基板との間の接着、コーティングの物理的特性、及びアノード電気化学さえも変化する。2から3mAhcm-2超の面積当りの(aerial)搭載容量で現実的な高性能珪素アノードを達成する事は非常に困難であり、特に、此れは高い質量パーセンテージ(10wt.%超)の珪素材料を含有するアノードについて真であるという事が周知である。此れは、其々リチウム化及び脱リチウム化の間の珪素活物質の膨張及び収縮が原因で生起する、接着(電極と銅集電体基板との間)及び結着(電極自体の中の電極の構造インテグリティーの維持)の問題が原因である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2016/123396号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、背景技術の課題を解決するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願には、Liイオン電池の為の一定の高品質の商業スケールのSi-cPANアノードを容易化する為に用いられる、プロセス及び組成物の種々の実施形態が記載される。幾つかの実施形態に於いて、アノードは集電体基板上にキャスティングされた薄膜を含み、薄膜は活物質粒子(例えば珪素粒子)と活物質粒子上の伝導性のポリマー膜コーティングとを含む。幾つかの実施形態に於いて、伝導性ポリマー膜コーティングは、環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性プラスチックを含む。斯かるアノードは、カソード及び電解質と併せてエネルギー貯蔵デバイスに組み込まれ得る。
本願に於いて開示されるアノードを製造する方法も又記載される。幾つかの実施形態に於いて、方法は、活物質、添加剤粉末、ポリマー粉末、及び溶媒を包含するスラリーを調製するステップを包含する。其れから、スラリーは一時期に渡って混合され、次にスラリーを集電体基板上にキャスティングする。其れから、乾燥及び加熱ステップが遂行される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】乃至
図1B】フッ素化電解質添加剤を含有するμSi-cPANハーフセルのサイクルデータを例示する一対のグラフであり、以前に開示された出願人のμSi-cPAN/mRTILシステムの使用に依って達成される急速なCE安定化を示している。
図2A】乃至
図2D】ポリアクリロニトリルに依ってコーティングされたナノ球体珪素粒子の高解像度透過電子顕微鏡法画像(HR-TEM)を提供している。
図3】0.9というN/P比を有する、ミクロン珪素(アノード)及びNMC[622](カソード)作用電極並びにリチウムカウンター電極に依るフルセルパウチの3電極実験を例示するグラフである。
図4】低いN/P比のインパクトを十分なN/P比と比較するパウチフルセルサイクルデータを例示する一対のグラフである。
図5A】乃至
図5E】異なる表面粗さを有する様々な銅の上の1から3マイクロメートル珪素粒子(D50サイズ)の性能を強調する珪素/PANアノードのハーフセルサイクル性能を示すグラフと、変動する表面粗さを有する種々の銅材料の表面形状(b)~(e)の画像とを提供する。
図6】PAN伝導性バインダーに依る珪素/炭素活物質(総アノードコーティング質量に対して正規化して30から35%の珪素)とNMC[622]カソードとを含有するフルセル(コイン)を示すグラフであり、アノード集電体粗さを比較している。
図7】種々の銅タイプの概要、其れ等の関係する粗さパラメータ、及び第1の銅タイプ(「O.M.10um(粗)」銅)の代表的な表面の表面粗さ計スペクトルを提供している。
図8】ポリアクリロニトリル加熱プロセスを例示している。
図9】アルゴン下での熱処理後の、珪素及びPANを含むポリマーに依って駆動されるナノコンポジットのSEM及びEDS(マッピングに依る)を提供する。
図10A】乃至
図10B】PAN/Siナノコンポジットアノードの電気化学的性能を例示する一対のグラフである。アルゴン(上)及び空気(下)環境下で300℃に於いて熱処理され、次にアルゴン下での600℃に於ける熱処理をされた。
図11】真空オーブン内及びアルゴン流下に於ける管状炉内の環化を比較するグラフであり、何方の環境下に於いて環化された時にも高いCE及び高い容量を示している。
図12A】乃至
図12D】ニッケルリッチNCMカソード及びSi-cPANアノードを含有するフルセルの第1サイクル電圧プロファイルを示す一連のグラフであり、其の中のアノード成分は種々の手続きに依って熱処理された。
図13】本願に記載される方法によって生産される30から35%珪素(総アノード質量に対して正規化)アノードを含有する例示的なハーフセルを例示するグラフである(6mAh/cm搭載)。
図14】商業レベルの性能(商業的な搭載質量、商業的に現実的な補助成分)にとって好適な、大量生産される本願に記載される例示的なアノードを含有するフルセルシングルスタックパウチを例示する一対のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次の記載は、商業スケールのSi-cPAN電極を生ずる事に結び付けられた方法の種々の実施形態、其れ等の方法の幾つか又は全てに結び付けられた電気化学的な意味、及び齎される組成物の種々の実施形態を詳述する。記載は電極を作製する為に用いられるステップに従って項に分けられており、各ステップは改善された電池性能を得る為に用いられ得る物理的パラメータを記載している。
【0016】
従来、Si系電極は、粘性のスラリーを生産する為にN-メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒中に於いて混合されたポリマーバインダー(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、スチレン-ブタジエンゴム、又はカルボキシメチルセルロース)、伝導性添加剤(通常はカーボンブラック)、及びSi粒子に依って作製される。其れから、スラリーは銅箔集電体上にブレード塗工され、乾燥されてアノード電極を形成する。本願に記載される実施形態は、ポリマーに依って駆動されるコンポジットSiアノードの作製に関し、此れは可成りの面で従来の方法とは異なる。
【0017】
驚く可き事に、本願に記載される方法は従来の製造インフラに適合性があり、Liイオン市場に於いて利用可能な初めての真の「ドロップ・イン」高搭載珪素アノードを可能にする。他の珪素アノード生産方法はコスト及び資源集約的であり、下で論じられる方法に可成りの価値を提供する。下でより詳細に記載される通り、珪素活物質がポリアクリロニトリル(PAN)等の伝導性ポリマーに依ってコーティングされ、銅箔上にキャスティングされ、其れから熱に依って処理され、フルセル性能を可能にする為の特定の様式でカソードと対にされる。
【0018】
本願に於いては、開示される方法に依る適用の為の例示的な伝導性ポリマーとしてポリアクリロニトリルが論じられるが、他のポリマーが用いられ得る。他の好適なポリマーは、ポリ(アクリル酸)(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びアルギン酸を包含するが、此れに限定されない。PANは樹脂性で繊維状の有機ポリマーであり、アクリロニトリルを主成分とするモノマーの混合物から作られる。PAN繊維は、然るべく改変される時には高品質炭素繊維の化学的前駆体であり、其れ等は商業的には数々の高度技術及び普通の日常的適用に於いて見出される。
【0019】
数々の活物質タイプも又本願に記載される方法に依って利用され得る。此の方法に依る適用の為の例示的なアノード活物質として珪素が論じられ、何れかの珪素形状はアノードスラリー及び電極シートへの組み入れが出来るであろう。珪素形状は、ナノ球体、ナノワイヤー、ナノロッド、ウィスカー、「珊瑚形状」珪素、ミクロ球状珪素、及び種々の有ナノフィーチャ大粒子珪素材料を包含するが、此れに限定されない。珪素-グラファイト、珪素-グラフェン、珪素-硬質炭素、及び他の珪素-炭素コンポジット材料も又、本願に記載される方法に依る適用の為の網羅的でない例示的なアノード活物質である。珪素とグラファイト又は硬質炭素等の炭素質材料との混合物も又、網羅的でない例示的なアノード活物質である。
【0020】
大量スラリー混合
Si-cPAN電極を大スケールで作製する為に、一般的には、本願に記載される方法はスラリーを調製する事に依って開始し得る。一般的には、スラリーは、活物質、ポリマー、補助的な材料、及び添加剤を溶媒中に於いて混合する事に依って調製される。好ましくは、齎されるスラリーは、Liイオン電池の最も高い電気化学的サイクル性能を提供する為に特定のレオロジー特性を有する。幾つかの実施形態に於いて、溶媒に追加される組成物は約10から約50wt.%のPAN及び約50から約90wt.%の活物質を包含する。幾つかの実施形態に於いて、スラリーは約30から約60wt.%の固体を約70から約40wt.%の溶媒中に含む。
【0021】
スラリーの調製に用いられる活物質は、材料の組み合わせを異なる組成で包含し得る。例えば、炭素質活物質(グラファイト、グラフェン、硬質炭素等)が混ぜ合わされて、10:90の珪素:炭素質材料重量比又は90:10の珪素:炭素質材料重量比を形成し得る。例示的な商業的なSi:cPANアノードは30:55:15のSi:炭素質材料:PAN重量比を包含し得る。他の例示的な重量比は40から80wt.%の珪素を包含し、5から50wt.%炭素質材料及び10から20wt.%PANを有する。炭素質材料は活物質及び伝導性添加剤の混合物を包含し得、カーボンブラック又はカーボンナノチューブを包含するが、此れに限定されない。
【0022】
活物質及び伝導性バインダー粉末の混合物はスラリーを形成する様に溶媒中に分散される。幾つかの実施形態に於いて、溶媒は其れが伝導性バインダーを溶解する事が出来る様に選ばれる。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、99%)は、PANポリマーを利用する時に、本願に記載される方法に依る適用の為の例示的な溶媒である。他の好適な溶媒は、ジメチルスルホン(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、炭酸エチレン(EC)、及び炭酸プロピレン(PC)を包含するが、此れに限定されない。
【0023】
スラリー粘度は、混合品質、コーティング品質、及び集電体基板上に大きい薄膜を発生させる能力を決定する。ブルックフィールド粘度(スピンドル64)を用いて、例示的なスラリー粘度が決定され得る(全ての測定は室温23℃に於いて取られる)。スラリー粘度は、溶媒/ポリマー質量比及びポリマー鎖長に依って並びに総スラリー質量に対して相対的な溶媒の質量に依って決定される。本願に記載される材料及び方法を用いて作られる例示的なスラリーは、従来のLiイオンアノードスラリーよりも著しくニュートン的な性質を呈する。ニュートン流体は、流体の流れから生起する粘性応力が歪み速度又は流体の変形の変化の範囲に線形に比例する流体である。此れは、剪断力が本願に記載されるスラリーに適用されるに連れて、スラリーは従来のLiイオンアノードスラリーに対して相対的に余り剪断流動化を呈さないという事を意味する。此れは、アノード混合及びコーティングプロセスに於いて意味を有する。何故なら、スラリーは大分より高いRPMに於いて混合され得、非常に低い厚さで首尾良くコーティングされ得るからである。スラリーの低い剪断流動化性はブルックフィールド粘度計を用いて研究され得、此れはレオロジーキャラクタリゼーションの普通の測定器である。幾つかの実施形態に於いて、スラリーは、室温に於ける12から100RPMのスピンドル回転(スチールスピンドル#64)の間に、3000から6000センチポアズ(cP)の間の範囲に及ぶブルックフィールド粘度を有し、所与のスラリー混合物については1000cP未満だけ変動する。様々な剪断力(RPMに依るスピンドル回転に依って記述される)に渡っての粘度の比較的低い変動は、スラリーのニュートン性を示唆する。他の例示的なスラリーは、室温に於いて20から100RPMで粘度が3500から5000cPの範囲に及ぶ。
【0024】
スラリー混合パラメータは齎されるアノードの性能への寄与因子である。質量パーセンテージ、粉末混合、及びスラリー粘度と併せて、スラリー撹拌時間及びスラリー体積は、活物質上のポリマーコーティング品質を決定する上で重要な因子である。スラリー時間は、懸濁された活物質粒子上に一様なポリマーコーティングを可能にする為に重要である。幾つかの実施形態に於いては、最高で12時間迄のスラリー混合時間が十分である。幾つかの実施形態に於いては、より低い撹拌時間、例えば2時間撹拌が適切な装置に依って十分である。
【0025】
スラリー混合は種々の装置に依って完了し得る。真空及び非真空の遊星型遠心ミキサー(例えば、「シンキーミキサー」又は「ロス」ミキサー)、スラリー遊星型分散真空混合機、遊星型ダブル分散機ミキサー、ホモジナイザー、及び撹拌バー又は撹拌プレートに依るビーカー中での単純撹拌は、充分な混合条件を生じ得る。
【0026】
充分な混合を生ずる為には、充分量の材料が存在しなければ成らないので、スラリー体積は重要である。スラリー体積は齎されるアノードの電気化学的性能にも又影響を及ぼす。スラリー体積が余りに低い場合には、材料の比較的大きい部分が撹拌/混合を受けず、一様なコーティングが適用されないであろう。例えば、200mg活物質プラスポリマー粉末と1.6g溶媒(87.5%総スラリー質量の溶媒)とから成る混合物は適切に混合しないであろう。此のケースでは、混合方法に拘わらず、十分な混合を生ずる為の十分なスラリーがない。8.4g溶媒(87.5%の総スラリー質量の溶媒)中の1.2g活物質プラスポリマー粉末を利用するスラリーは、4~6g溶媒中の1.2g活物質プラスポリマー粉末を利用するスラリーと同じく良好に混合し、一様なポリマーコーティングを活物質上に齎す。然し乍ら、此の固体含量(12.5wt.%固体)は大スケール製造装置に依るコーティングにとって好適ではない。此れ等のスラリーは余りに低い粘度を有しており、ロール・トゥ・ロール方法に依るコーティングが出来ないであろう(例えば、コンマバー、スロットダイ等)。
【0027】
先述のパラメータから齎される珪素材料上のPANコーティング品質は、アノード搭載質量が増大するに連れて益々重要に成る。充分なコーティングが達成されたか否かは、透過電子顕微鏡法等の顕微鏡法を用いてコーティングの均質性及び厚さを同定する事に依って確認され得る。電気化学的サイクルに渡って強い形状保持を齎すPANコーティングは、少なくとも3から5ナノメートルの厚さであり、活物質粒子の全表面上に見出され、電極に渡って存在する可きである。上に記載されている方法を用いて形成される例示的なコーティングの例が図2に示されている。電子エネルギー損失分光(EELS)は珪素及びPANのコーティングを強調している(d)。一様な3から5nmのコーティングが電極マトリックスに渡って粒子上に存在している。
【0028】
スラリーを調製する時には、フルセルLiイオン電池の性能を向上させる事が出来る電極添加剤を追加する事も又好適であり得る。例示的な電極添加剤は、リチウム金属粉末(例えば、安定化リチウム金属粉末SLMP)及び窒化リチウム(LiN)、並びに他の高リチウム含量粉末及び塩を包含するが、此れに限定されない。此れ等の乾燥粉末はスラリーに直接追加され、他のスラリー成分と併せて混合され得る。分散及び接着特性を改善する為に、シュウ酸も又スラリーに追加され得る。
【0029】
一般的に述べると、ポリマーは溶媒中に溶解する。其れから、ポリマー/溶媒溶液中に分散された活物質粉末をポリマー材料が充分にコーティングする為に、スラリーは混合される。
【0030】
電極コーティング
スラリーを混合した後に、スラリーは例えばロール・トゥ・ロールコーティング方法に依って集電体基板上にキャスティングされる。ロール・トゥ・ロールコーティング機械は、数百メートルの電極を一回の実行で生ずる為に用いられ得る。ロール・トゥ・ロールコーティングプロセスはスラリーの物理的特性(例えば、剪断、粘度等)に依って決定される。集電体箔は0.2から50メートル/分のスピードでコーターを通して引かれ、コーティングされた箔は、水系スラリーでは30から70℃、溶媒系スラリーでは110から160℃の温度にセットされた乾燥機内を通過する。本願に依って記載される技術のケースでは、溶媒系システムであるにも拘わらず乾燥機温度は30から70℃にセットされる可きである。
【0031】
電極コーティングにとって重要な因子は、平方センチメートル当りの珪素の齎される面積当りの搭載質量、此れが提供する容量、及び其れ等の数がフルセルに利用されるカソードと如何様に調和するかである。「ニッケルリッチNMC」(ニッケルコバルトマンガン酸化物カソード)を包含する高エネルギーカソード材料と対になる為には、アノードの面積当りの容量は、カソードの面積当りの容量×1.3から2.0である可きである。此の因子は産業界に於いて「N/P比」(負極容量/正極容量)として公知である。グラファイトアノードを含有する従来のLiイオンセルでは、N/P比は典型的には1.1から1.2であり、サイクル間のアノード上のリチウムプレーティングを防ぐ様にセットされる。本願に記載されるシステムについて考案されるN/P比は、初期サイクルの間の効率損失をカバーし、アノードハーフセル電圧をLi/Liに対して0.01及び1.5Vの間に「pin」する様に設計される。N/P比が余りに低い場合には、アノードハーフセル電圧は0.01Vよりも下に落ち(珪素の完全な及び過剰なリチウム化が原因)、アノードは破壊されるであろう。此れは図3に例示されている。図4は、強いN/P比を有するセルと比較して不良なN/P比を有するセルを示している。より高い相対N/P比は、薄膜中に存在する珪素材料の膨張及び収縮が原因のアノード薄膜の皺発生及び変形をも又防止する。望ましいN/P比は総アノード薄膜質量に対して相対的な珪素搭載質量に依存する。アノード薄膜が20から50wt.%珪素を含む場合には、N/P比は1.2から1.6である可きである。アノード薄膜が50wt.%超の珪素を含む場合には、N/P比は1.6超である可きである。幾つかの実施形態に於いては、システムにとって最小限のN/P比を得る為には、アノード中の珪素の重量パーセントが「1」に加算され得る。換言すると、アノードが40wt.%珪素を含む場合には、齎されるフルセルシステムのN/P比は1.4超である可きである。
【0032】
集電体基板
集電体基板、典型的には金属箔は電子をセル外から電極に動かす為に用いられ、逆も同様である。電極スラリーは一様な厚さのコーティングとして箔上にキャスティングされる。Liイオン電池が適切に機能する為には、電極コーティングは充分に集電体箔に接着される可きであり、サイクルの間は此の接着状態を維持する可きである。珪素等の電極を合金化する際には、活物質の膨張特性を考えると、此れは大型フォーマット電極(其れ等は非常に厚い傾向がある)を用いる時には特に困難である。伝導性バインダーはアノード薄膜を集電体基板に接着する事を担う。大型フォーマット電極では、接着状態を可能にする為に十分なバインダーを存在させる事が必要である。本願に記載される珪素プラスPANシステムに於いては、総アノードコーティング質量に対して相対的に10から25%のPANが、許される最小限のポリマー含量である。此れは、5マイクロメートル超の厚さを有する大スケール化された大型フォーマット珪素アノードに特有である。
【0033】
重要且つ驚く可き事に、集電体基板の物理的特性は齎されるアノードシートの性能にとって高度に重要である。アノード組成と併せて、集電体基板の物理的特性はセル長寿命を可能にする。銅箔は例示的な集電体基板であり、従来のLiイオンセルに最も普通に用いられている。本願に於いては銅箔特性が論じられる。
【0034】
アノード薄膜接着に関連して銅の重要な物理的特性は表面粗さである。粗さの1つの尺度は10点高さ又は最大高さ(R)である。此れは二乗平均平方根値である。Rは所与の走査領域内のピークからバレーの数の平均として定義され、少なくとも5つの連続点が測定される(5つの最も高いピーク+5つの最も高い値=10点)。本願に記載されるアノードの幾つかの実施形態がサイクルの間に接着状態を維持する為には、銅Rは少なくとも1.5マイクロメートルである可きである。より大きい活物質に依る他の実施形態は、最高で6から7マイクロメートル迄のより高い表面粗さを要求し得る。ナノスケール活物質に依る他の実施形態は0.5マイクロメートル超のR値を要求する。従来の/以前に商品化されたLiイオンアノードに用いられる銅箔は、普通には0.5ミクロン又は其れよりも下のR値を有する。
【0035】
表面粗さの別の尺度は算術平均高さ(Sa)であり、此れは表面の算術平均と比較した各点の高さの差の大きさを表現する。表面粗さの未だ別の尺度は界面の展開面積比(Sdr)であり、此れは平面定義領域と比較したテクスチャが寄与する領域の表面のパーセンテージである(即ち、完全に平らな表面はSdr=0を有する)。此れ等のパラメータの其々は、其れ等の相対的大きさと併せて、本願に記載されるシステムの性能にとって重要である。
【0036】
以前に言及された通り、現実的な性能の為の要求される銅表面粗さは活物質サイズに高度に依存する。現行のデータは、電極薄膜膨張がz軸(電極基板に対して直交)に於いて50%よりも下であり、活物質粒子サイズが500ナノメートルよりも上である場合には、0.5マイクロメートル超の表面粗さRを有する銅が最も良好な性能を提供するという事を示唆している。電極薄膜膨張がz軸(電極基板に対して直交)に於いて50%よりも上であり、活物質粒子サイズが500ナノメートルよりも上である場合には、2マイクロメートル超の表面粗さRを有する銅が最も良好な性能を提供する。
【0037】
残念乍ら、より高い表面粗さは必然的なより高い厚さに結び付き、此れは電池エネルギー密度にとって有害である。何故なら、より厚い集電体(セル容量に寄与しない補助的な材料)はスペースを取り、エネルギーは提供しないからである。より粗い銅表面上に於ける改善した接着状態は、伝導性ポリマーと銅との間の接着状態の為に利用可能な増大した表面面積に依って説明される。図5を参照すると、種々の銅表面が比較の為に光学顕微鏡に依ってイメージングされた。
【0038】
珪素プラスPANアノードを含有するハーフセルの性能も又図5に示されており、活物質形状及びアノード薄膜構造に基づいて、多くの充電-放電サイクルの間にアノード薄膜への接着状態を維持する為の適当な銅表面粗さの明瞭な必要を実証している。ハーフセルでは、より粗い銅箔を含有するセルに於いて、第1サイクルクーロン効率(CE)はより高く、CEは大分より迅速に安定化する。此れはセル内に於ける維持された電子的接触とより速い電子輸送とに帰せられる。CE挙動及び結び付けられた電子輸送/接着特性は、図6に示されている通り500ナノメートル超のサイズの活物質粒子に依るより高性能のフルセルに於いて現れる。1ミクロンの又は其の下のRを有するアノード集電体薄膜を含有するフルセルでは、セル性能は徐々に衰え、結果的に50サイクル以内にクラッシュする。
【0039】
種々の銅タイプの概要、其れ等の関係する粗さパラメータ、及び第1の銅タイプ(「O.M.10um(粗)」銅)の代表的な表面の表面粗さ計スペクトルが図7に提供されている。網掛けフォントに依って表記されている銅タイプ(「O.M.10um(粗)」及び「VL10|23um」銅)は、様々な珪素材料タイプ及びアノード薄膜ミクロ構造に於いて最も良好な性能を提供する。一般的には、図7に示されている材料は、本願に記載される大スケール化された電極システムについて最も良好に働く。其処で、粗さパラメータに基づいて最も良好な性能の銅箔を記述する為に新たなパラメータSa/Sdrが用いられる。Sa/Sdrは、箔表面のピーク及びバレーの平均高さ対、粗さに依って引き起こされる表面のパーセンテージの大きさの比を記述する。換言すると、高いSa/Sdrは、銅表面が総粗さに対して相対的に非常に高いピークを有し、低い頻度を有するという事を意味する。此処で、1に近いSa/Sdrは、銅表面ピーク/バレー高さがより均等に分布しているという事を示唆する。1により近いSa/Sdrは好都合である事が見出され、3よりも下のSa/Sdrは、様々な珪素材料タイプ並びにアノード薄膜組成及びミクロ構造について高い性能の為に十分である事が見出される。
【0040】
電極カレンダリング
幾つかの実施形態に於いて、電極はロール・トゥ・ロールコーティング装置に依るコーティング後に乾燥され、乾燥機温度は、空気流下に於いて30から70℃にセットされる可きである。集電体箔上へのスラリーキャスティング及び溶媒乾燥/蒸発の後に、従来のグラファイトアノードは其れ等の元々の薄膜厚さの約70%迄カレンダリングされる。此のカレンダリングは約40から50%の空隙率を齎す。斯かるプロセスは、充分な電解質浸透を尚も可能にする一方で、より高度の粒子接触を提供する。50%空隙率を越えると、従来のアノードは電池生産及び稼働に耐える為の十分な機械的強度を欠く。本願に記載されるシステムは異なる。電極は、珪素材料の体積膨張を受け入れる為により高い空隙率を要求し、より高い薄膜間表面面積が、堅牢なSEI層の形成及びより速いLiイオン輸送の為に有利である。珪素プラスPANアノードを包含する本願に記載されるアノードは、40から70%の空隙率迄カレンダリングされる。Si-cPANコンポジットの例示的な空隙率は50から60%であろう。此れは約(abot)30から40%空隙率である従来のグラファイトアノードに匹敵する。今日では最高で15wt.%Siの範囲に及ぶ珪素を含有する従来の電極(PAA、CMC、SBR等バインダー)は、40から50%の範囲に及ぶ空隙率を有する。より高度の膨張を示す活物質は、より高い空隙率を有する電極を要求する。
【0041】
電極熱処理
本願に記載されるアノードの重要な態様は、伝導性ポリマーバインダーがバインダー材料として、及びコンポジット内の効率的な電荷移動を提供する事が出来る電子伝導性マトリックスとして両方で作用する能力にある。此のタイプの高性能アノード薄膜を大スケールで生ずる事は実に困難であり、上に記載されている通り多くの複雑さの理解を要求するが、電子伝導性を成し遂げる為に多くの伝導性ポリマーを処理する必要に依って別の層の複雑性が追加される。本願に於いて論じられる例示的な伝導性ポリマー(例えばPAN)は、電子伝導性を呈する為に還元雰囲気に於いて又は真空下に於いて加熱され得る。同時に、ポリマーは、ポリマーマトリックスが電池サイクルの機械的効果にとって余りに脆性に成らない様に処理され得る(非常に高温に於ける又は不充分な雰囲気下に於ける熱処理に依って引き起こされる)。其の上、処理は、電極(即ち銅)の補助的な成分が影響されず、電池稼働にとって正しい状態の儘である様に実施される可きである。
【0042】
多くの伝導性ポリマーは電子伝導性を齎す化学的変化が出来る。然し乍ら、殆どは其れ等の化学反応を触媒する為の架橋剤の追加を必要とする。PAN及びPANのコポリマーは、其れ等が熱処理プロセスに依って自己触媒的であるという点で特有である。PANは分子式(CN)を有する特有の線形の半結晶性有機ポリマーである。PANの分子構造は配位ニトリル基を有する炭素鎖から成る。熱安定化に依るPANの特有の自己触媒的環化反応及び架橋故に、PANの化学は特段に興味深い。PANの鎖は其れ等が溶融状態に到達する前に分解し、普通には「環化」と言われる分解プロセスが線形のPAN鎖を熱安定な共役梯子様構造に転じさせ、其れ等は流動又は溶解しない。此れは図8に例示されている。此の熱安定化は、繊維が炭化及びグラファイト化温度(約1000から3000℃)に耐え、過度の重量損失(lost)又は鎖切断なしに高性能炭素繊維を産み出す事を許す。
【0043】
PANの熱安定化は、ポリマー繊維から高温耐久性繊維への低温(一般的には200から300℃)変換を言う。変換は、繊維が炭化(800から1300℃)及びグラファイト化(1300から3000℃)を生き延び、可能な最も高い炭素収率及び優れた特性を有する為に必要である。此のプロセスに関わる主要な化学反応は環化、脱水素、酸化、及び架橋として公知であり、此れ等は熱安定な共役梯子構造の形成を齎す。
【0044】
環化はPANの安定化の間の重要な反応であり、本願に記載されるアノードの処理の主な焦点である。環化は、ニトリル結合(C≡N)が反応してPANの分子間に架橋を発達させ、二重結合(C=N)と縮合したピリジン環同士の安定な共役梯子ポリマーとを生ずる時に起こる。安定化された繊維の熱安定性は、ニトリル基の環化に依る梯子構造の形成に帰せられ、炭素質材料の最小限の揮発に依って高温に於ける安定化されたPANの稼働を可能にする。環化は、安定化した繊維が色を白色から黄色、褐色、黒色に変化させる理由である。環化は発熱的であり、余りに迅速にされる場合には繊維を傷つける可能性を有する。繊維は過度に縮み、可成りの質量を損失し、一緒に溶融及び縮合さえもし得る。反対に、安定化手続きが(時間及び熱両方について)余りに控えめである場合には、繊維は部分的に安定化するのみであろう。脱水素とは違って、環化は起こる為には酸素の存在を必要とせず、其の為、其れは不活性雰囲気に於いて起こり得る。反応雰囲気は本願に記載される方法に於いて重要である。何故なら、アノード銅箔集電体はPANの熱処理に関わり、100℃よりも上の温度に於ける酸素への何れかの暴露は箔を酸化し、欠陥の問題(電子的抵抗及び電気化学的副反応)を生ずるであろうからである。
【0045】
本願に記載される実施形態に於いて、PANは其の安定化(具体的には「環化」)段階迄のみ処理され、其れから、齎されるピリジン系共役ポリマーは堅牢な機械的特性及び固有の電子的特性を有する電極バインダー/コーティングとして適用される。高い炭素収率及び高性能炭素の為の従来の安定化手続き(炭化及びグラファイト化を行う為の酸化、脱水素、及び環化)から逸脱する理由は、高度の膨張及び収縮をし易い活物質の周りの高度に配向した(基底平面同士の整列)剛性で脆性のコーティングの形成を防ぐ事である。
【0046】
環化に依る線形分子から梯子ポリマー化合物へのPANの安定化は100から500℃の不活性環境に於ける加熱に依って実施され得、PANの環化熱処理の為の例示的な温度を300℃に有し、5℃/minの速度で、2から12hrのホールド時間をピーク温度に於いて有する。様々な温度を実行する事は、PAN/珪素構成の電気化学的性能の最も良好なピークを決定する事を可能にする。図9は、其れ等のポリマーに依って駆動されるナノコンポジット試料の幾つかについて、走査電子顕微鏡法(SEM)画像及びエネルギー分散型分光法(EDS)分析を示している。PAN/珪素試料は上に記載されている方法を用いて試験された。他は、爾後にPANの炭化の為に処理され、1hrに渡って同じ(an the same)アルゴン雰囲気下に於いて500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、及び1000℃のピーク温度にホールドされた。此の第2段階の加熱についても、再び5℃/minの加熱速度が保たれた。図10及び図11は種々の熱処理試験の電気化学的データを例示している。
【0047】
加熱時間及び温度の処理パラメータに加えて、利用される装置及び齎される雰囲気条件が重要である。以前に論じられた通り、アノードは真空又は不活性ガス流下に於いて処理される可きである。アルゴン及び窒素が例示的な不活性ガス雰囲気であり、20から80PSIの圧力は最も一定の加熱条件を提供する。真空下に於ける熱処理も又、充分な環化条件及び高性能アノードを可能にする。是等の雰囲気は、管状炉、グローブボックス、真空オーブン、又は他の雰囲気制御オーブンを包含する様々な装置タイプに依って提供され得る。熱処理の間のガス流は、改善された加熱及び電気化学的性能を可能にする。何故なら、ポリマー化学反応の副生成物(PAN環化の間の水素ガス放出を包含する)がシステムからフラッシュされ、其れ故に電極又は集電体基板と反応し得ないからである。最も良好な性能の為には、管状炉内のガス流は時間当り100から1,000リットルの速度にセットされる可きである。アノードの一ロール全体又はアノードの複数ロールは単一のオーブンに依って処理され得る。雰囲気制御炉も又、電極作製の為に利用される産業界標準のロール・トゥ・ロールコーティングシステムに追加され得る。典型的には、電極はコーティングの直後に乾燥オーブン内を搬送される。スプールに巻かれる前にポリマーの化学的変化(即ち、PAN環化)を誘導する様にセットされた条件に依る初期乾燥の次に、電極は雰囲気制御炉内をも又通過させられ得る。此の装置の代わりに、管状炉は、珪素/ポリアクリロニトリルコンポジットを包含するアノードの大きいロールを処理する商業的に現実的な手段を提供する。
【0048】
特に此れは商業スケールの製造に関するので、加熱時間及び加熱ランプ速度がアノードミクロ構造及びサイズに従ってチューニングされる可きであると言う知見は特段に重要である。具体的には、アノード厚さ、PAN重量パーセンテージ、及び処理を受けるアノード材料の量が、其れ等の加工パラメータに影響する。図12に図示されている通り、単に2時間の加熱時間は適切な電気化学的性能にとって十分であり得る。
【0049】
電気化学的性能
図13は、本願に記載される方法に依って作製されるミクロン珪素:ポリアクリロニトリル(Si:PAN)アノードハーフセルの例示的なデータを提示している。搭載質量、加工、及び齎される組成物は商業的な使用にとって十分である。図14は、本願に記載される例示的なアノードと「ニッケルリッチ」高エネルギーカソード(「NMC[622]」)とを含むフルセルについて、例示的なデータを提示している。
【0050】
上述から、例示の目的の為に本発明の特定の実施形態が本願に記載されたという事と、本発明の範囲から逸脱する事なしに種々の改変が成され得るという事とは了解されるであろう。従って、本発明は添付の請求項に依る以外は限定されない。
(付記1)
カソードと、
電解質と、
1.5ミクロン超の表面粗さR を有する集電体基板上にキャスティングされた10から80マイクロメートルの厚さを有する薄膜を含むアノードと、
を含み、
薄膜が、
A)複数の活物質粒子と(活物質粒子は、珪素、硬質炭素、グラファイト、グラフェン、ゲルマニウム、酸化チタン、錫、マグネシウム、アンチモン、及び鉛の少なくとも1つを包含する)、
B)活物質粒子上の伝導性ポリマー膜コーティングと(伝導性ポリマー膜コーティングは、環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性ポリマーを含む)、
を含む、
エネルギー貯蔵デバイス。
(付記2)
アノードが30~60wt.%珪素粒子を含み、アノードの面積当りの重量当り容量がカソードの面積当りの重量当り容量の物の1.3から1.6倍である、付記1に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
(付記3)
アノードが60wt.%超又は其れに等しい珪素粒子を含み、アノードの面積当りの重量当り容量がカソードの面積当りの重量当り容量の物の1.6から2.0倍である、付記1に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
(付記4)
環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性ポリマーがポリアクリロニトリルを含む、付記1に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
(付記5)
電解質がイミド系室温イオン液体を含む、付記1に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
(付記6)
アノード薄膜の空隙率が50~70%の間である、付記1に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
(付記7)
算術平均高さSaの大きさが界面の展開比Sdrの3倍未満である、付記1に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
(付記8)
薄膜が、複数の活物質と、環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性ポリマーとを含み、
方法が、
A)活物質、添加剤粉末、及びポリマー粉末の混合物を、ポリマー粉末を溶解する事が出来る溶媒中に置く事によって、室温に於いて#64スピンドルを用いて20から100RPMで2000~6000cPのブルックフィールド粘度を有するスラリーを調製する事と、
B)スラリーを1から4時間の時間に渡って混合する事と、
C)スラリーを集電体基板上にキャスティングする事と、
D)キャスティングされた薄膜を乾燥する事と、
E)キャスティングされた薄膜に、200から400℃の温度に於いて1から12時間の時間に渡って熱を適用する事と、
を含む、
集電体基板上のキャスティングされた10から80マイクロメートルの薄膜厚さを含むアノードを作る方法。
(付記9)
活物質が、珪素、硬質炭素、グラファイト、ゲルマニウム、酸化チタン、錫、マグネシウム、アンチモン、及び鉛の少なくとも1つを包含する、付記8に記載の方法。
(付記10)
環化した非塑性梯子化合物に成る様に処理された熱可塑性ポリマーがポリアクリロニトリルを含む、付記8に記載の方法。
(付記11)
添加剤粉末がリチウム金属粉末を含む、付記8に記載の方法。
(付記12)
添加剤粉末が窒化リチウムを含む、付記8に記載の方法。
(付記13)
添加剤粉末がシュウ酸を含む、付記8に記載の方法。
(付記14)
200から400℃の熱の適用が真空又は不活性ガス流下に於いて完了する、付記8に記載の方法。
(付記15)
アノードの面積当りの重量当り容量がカソードの面積当りの重量当り容量の物の1.3から2.0倍である、付記8に記載の方法に従って製造されるアノード、カソード、及び電解質を含むエネルギー貯蔵デバイス。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14