(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】高分子電解質膜の製造方法及びそれにより製造された電解質膜
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1058 20160101AFI20240729BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240729BHJP
H01M 8/1069 20160101ALI20240729BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240729BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
H01M8/1058
H01M8/10 101
H01M8/1069
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2022541310
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 KR2021013275
(87)【国際公開番号】W WO2022071732
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】10-2020-0127287
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0127503
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【氏名又は名称】相田 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100199004
【氏名又は名称】服部 洋
(72)【発明者】
【氏名】キム ナヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンフン
(72)【発明者】
【氏名】イ ウンス
(72)【発明者】
【氏名】パク ジュンファ
(72)【発明者】
【氏名】イ ヘソン
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-019273(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148017(WO,A1)
【文献】特表2021-525450(JP,A)
【文献】国際公開第2015/059848(WO,A1)
【文献】特表2017-511589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1058
H01M 8/10
H01M 8/1069
H01B 13/00
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)多数の空隙を含む多孔性支持体を準備するステップ、
(b)イオン伝導体を分散媒に分散してイオン伝導体分散溶液を準備するステップ、
(c)前記分散媒と前記多孔性支持体とを接触させて多孔性支持体上に分散媒を湿潤するステップ、及び
(d)前記分散媒が湿潤された多孔性支持体にイオン伝導体分散溶液を塗布して、前記多孔性支持体の少なくともいずれか一面にイオン伝導体を導入するステップ、
を含み、
前記(c)ステップは、気体状態の分散媒が多孔性支持体と接触することであり、
前記(c)ステップは、気体状態の分散媒が供給されるチャンバー(chamber)で行われることであり、
前記チャンバーの内部温度は、60℃~100℃であり、前記チャンバー内部の相対湿度(RH)は、50%~120%であり、
前記(c)ステップの分散媒と多孔性支持体は、0.1分~60分間接触するもの
であり、
前記分散媒は、水を含む、
高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記分散媒は、
更に、エタノール(ethanol)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、n-プロピルアルコール(n-propyl alcohol)、ブチルアルコール(butyl alcohol)ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide)、ジメチルホルムアミド(N,Ndimethyl formamide)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulphoxide)、N-メチルピロリドン(N-methyl-2-pyrolidone)、トリエチルホスフェート(triethylphosphate)、メチルエチルケトン(methylethylketone)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、アセトン(acetone)、及びこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
(e)イオン伝導体が導入された多孔性支持体を40℃~120℃で乾燥するステップをさらに含むものである、請求項1に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜の製造方法及びそれにより製造された高分子電解質膜に関するものであり、より詳細には、イオン伝導体の含浸性が向上しながらも、イオン伝導度性能に優れた高分子電解質膜の製造方法及びそれにより製造された高分子電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、メタノール、エタノール、天然ガスなどの炭化水素系の燃料物質中に含まれている水素と酸素の酸化/還元反応などの化学反応エネルギーを直接電気エネルギーに変換する発電システムを備えた電池であり、高いエネルギー効率性を有し、汚染物質の排出が少ない環境に優しいという特徴があることから、化石エネルギーに取って代わる次世代のクリーンエネルギー源として脚光を浴びている。
【0003】
このような燃料電池は、単位電池の積層によるスタック構成で、様々な範囲の出力を出せる利点を有しており、小型リチウム電池に比べて4~10倍のエネルギー密度を示すため、小型及び移動用携帯電源として注目を集めている。
【0004】
燃料電池において電気を実質的に発生させるスタックは、膜-電極アセンブリ(Membrane Electrode Assembly、MEA)とセパレーター(Separator)(又は、バイポーラプレート(Bipolar Plate)ともいう)からなる単位セルが数個~数十個で積層された構造を有し、膜-電極アセンブリは、一般的に電解質膜を隔ててその両側に酸化極(Anode、又は、燃料極)と還元極(Cathode、又は、空気極)がそれぞれ配置された構造を有する。
【0005】
燃料電池は、電解質の状態及び種類によって、アルカリ電解質燃料電池、高分子電解質燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell、PEMFC)などに分類することができるが、その中で高分子電解質燃料電池は、100℃未満の低い作動温度、速い始動と応答特性、及び優れた耐久性などの利点から、携帯用、車両用及び家庭用の電源装置として脚光を浴びている。
【0006】
高分子電解質燃料電池の代表例としては、水素ガスを燃料として使用する水素イオン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell、PEMFC)、液状のメタノールを燃料として使用する直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell、DMFC)などが挙げられる。
【0007】
高分子電解質燃料電池で起こる反応を要約すると、まず、水素ガスなどの燃料が酸化極に供給されると、酸化極では水素の酸化反応によって水素イオン(H+)と電子(e-)が生成される。生成された水素イオンは高分子電解質膜を介して還元極に伝達され、生成された電子は外部回路を介して還元極に伝達される。還元極では酸素が供給され、酸素が水素イオン及び電子と結合して酸素の還元反応によって水が生成される。
【0008】
一方、高分子電解質燃料電池の商業化を実現するためには、まだまだ解決しなければならない技術的障壁が多く、必要不可欠な改善要因には、高性能、長寿命化、生産コスト削減の実現などがある。これに最も影響を及ぼす構成要素が膜-電極アセンブリであり、その中でも高分子電解質膜は膜-電極アセンブリの性能と価格に最も大きな影響を及ぼす中核的な要素の一つである。
【0009】
前記高分子電解質燃料電池の運転に必要な高分子電解質膜の要求条件には、高い水素イオン伝導度、化学的安定性、低い燃料透過性、高い機械的強度、低い含水率、優れた寸法安定性などがある。従来の高分子電解質膜は、特定の温度及び相対湿度の環境、特に高温/低加湿の条件下で正常に高性能を発現するのが難しい傾向がある。これにより、従来の高分子電解質膜が適用された高分子電解質燃料電池は、その使用範囲において限界がある。
【0010】
このような高分子電解質膜の性能及び耐久性、機械的、化学的物性を同時に確保するために、補強材が適用された強化複合膜タイプの高分子電解質膜の開発が進められてきた。しかし、電解質膜の機械的耐久性の向上のために補強材を導入する場合、抵抗損失が増加し、電解質膜のイオン伝導度が低下して、その結果としてそれを含む燃料電池の性能が低減する可能性があるという欠点がある。
【0011】
一方、強化複合膜は、多孔性の補強材をイオン伝導体が分散された分散溶液に浸漬させて製造するか、或いは、追加で片面又は両面にイオン伝導体層をさらに付加して形成される。
【0012】
このとき、多孔性の補強材にイオン伝導体が十分に含浸しない場合、空いた空隙は水素イオン伝導を妨げて水素イオン伝導度を低下させ、これは燃料電池の性能を低下させる要因として作用するという問題がある。
【0013】
従って、高分子電解質膜の機械的耐久性を向上させながらも、水素イオン伝導度の低下を防止するために、強化複合膜の含浸率を向上させることが重要であり、高分子電解質膜の商用化のためには、高い性能とともに含湿乾燥の際における寸法安定性を高めて、機械的耐久性を向上させなければならず、そのためには、強化複合膜の最適な構造を確保し、イオン伝導度を同時に向上させることが求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、形態安定性に優れて、電解質膜の機械的耐久性が向上すると同時に、高分子電解質膜の含浸率を向上させて、イオン伝導度に優れながらも、水素透過度を低減させることができる高分子電解質膜の製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、前記高分子電解質膜の製造方法により製造された電解質高分子膜を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、前記高分子電解質膜を含む膜-電極アセンブリを提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、前記膜-電極アセンブリを含む燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一実施例は、(a)多数の空隙を含む多孔性支持体を準備するステップ、
【0019】
(b)イオン伝導体を分散媒に分散してイオン伝導体分散溶液を準備するステップ、
【0020】
(c)前記分散媒と前記多孔性支持体とを接触させて多孔性支持体上に分散媒を湿潤するステップ、及び
【0021】
(d)前記分散媒が湿潤された多孔性支持体にイオン伝導体分散溶液を塗布して、前記多孔性支持体の少なくともいずれか一面にイオン伝導体を導入するステップ、
を含む高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【0022】
前記(c)ステップは、気体状態の分散媒が多孔性支持体と接触することであってもよい。
【0023】
前記(c)ステップは、気体状態の分散媒が供給されるチャンバー(chamber)で行われることであってもよい。
【0024】
前記チャンバーの内部温度は、60℃~100℃であってもよい。
【0025】
前記チャンバー内部の相対湿度(RH)は、50%~120%であってもよい。
【0026】
前記(c)ステップの分散媒と多孔性支持体は、0.1分~60分間接触するものであってもよい。
【0027】
前記分散媒は、水、エタノール(ethanol)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、n-プロピルアルコール(n-propyl alcohol)、ブチルアルコール(butyl alcohol)ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide)、ジメチルホルムアミド(N,Ndimethyl formamide)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulphoxide)、N-メチルピロリドン(N-methyl-2-pyrolidone)、トリエチルホスフェート(triethylphosphate)、メチルエチルケトン(methylethylketone)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、アセトン(acetone)、及びこれらの組み合わせを含むことができる。
【0028】
前記高分子電解質膜の製造方法は、(e)イオン伝導体が導入された多孔性支持体を40℃~120℃で乾燥するステップをさらに含むことができる。
【0029】
本発明の別の一実施例は、前記製造方法により製造された高分子電解質膜を提供する。
【0030】
本発明の別の一実施例は、互いに対向して位置するアノード電極とカソード電極、そして、前記アノード電極とカソード電極との間に位置する前記高分子電解質膜を含む膜-電極アセンブリを提供する。
【0031】
本発明の別の一実施例は、前記膜-電極アセンブリを含む燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る高分子電解質膜の製造方法は、多孔性支持体のイオン伝導体の含浸性を改善して、電解質膜の機械的耐久性が向上すると同時に、イオン伝導度に優れた高分子電解質膜を具現化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施例に係る膜-電極アセンブリを概略的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る燃料電池の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の具現例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるよう詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で具現化することができ、ここで説明する具現例に限定されない。
【0035】
本明細書で使用される用語及び単語は、実施例における機能を考慮して選択された用語であり、その用語の意味は、発明の意図又は慣例などに応じて異なり得る。従って、後述する実施例で使用される用語は、本明細書で具体的に定義されている場合にはその定義に従い、具体的な定義がない場合は、当業者らが一般的に認識する意味として解釈されるべきである。
【0036】
図面において、複数の層及び領域を明確に表現するために厚さを拡大して示しており、明細書全体において類似した部分には同一の図面の符号を付けた。層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする時、これは他の部分の「真上に」ある場合だけでなく、その中間に別の部分がある場合も含む。逆に、ある部分が他の部分の「真上に」あるとする時は、中間に他の部分がないことを意味する。
【0037】
以下、一具現例に係る高分子電解質膜の製造方法について説明する。
【0038】
本発明は、燃料電池の駆動過程における加湿、乾燥条件の繰り返しによる電解質膜の物理的耐久性の低下を最小限に抑え、電解質膜のイオン伝導度及び性能を向上させることができる高分子電解質膜の製造方法及びそれにより製造された高分子電解質膜に関するものである。
【0039】
具体的には、本発明の一具現例に係る高分子電解質膜の製造方法は、(a)多数の空隙を含む多孔性支持体を準備するステップ、(b)イオン伝導体を分散媒に分散してイオン伝導体分散溶液を準備するステップ、(c)前記分散媒と前記多孔性支持体とを接触させて多孔性支持体上に分散媒を湿潤するステップ、及び(d)前記分散媒が湿潤された多孔性支持体にイオン伝導体分散溶液を塗布して、前記多孔性支持体の少なくともいずれか一面にイオン伝導体を導入するステップを含む。
【0040】
まず、多数の空隙を含む多孔性支持体を準備する。
【0041】
前記多孔性支持体は、一つの例示として、熱的及び化学的分解に対する抵抗性に優れた高度にフッ素化された重合体、好ましくは、過フッ素化重合体を含むことができる。例えば、前記多孔性支持体は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はテトラフルオロエチレンとCF2=CFCnF2n+1(nは1~5の実数)又はCF2=CFO-(CF2CF(CF3)O)mCnF2n+ 1(mは0~15の実数、nは1~15の実数)との共重合体であってもよい。
【0042】
前記PTFEは、商業的に用いられているので、前記多孔性支持体として好適に使用することができる。また、高分子フィブリルの微細構造、又はフィブリルによって節が互いに連結された微細構造を有する発泡ポリテトラフルオロエチレンポリマー(e-PTFE)も、前記多孔性支持体として好適に使用でき、前記節が存在しない高分子フィブリルの微細構造を有するフィルムも、前記多孔性支持体として好適に使用することができる。
【0043】
前記過フッ素化重合体を含む多孔性支持体は、分散重合PTFEを潤滑剤の存在下でテープに押出成形し、これにより得られた材料を延伸してより多孔質であり、より強い多孔性支持体を製造することができる。また、前記PTFEの融点(約342℃)を超える温度で前記e-PTFEを熱処理することにより、PTFEの非晶質含有率を増加させることもできる。前記方法で製造されたe-PTFEフィルムは、様々な直径を有する微細気孔及び空隙率を有することができる。前記方法で製造されたe-PTFEフィルムは、少なくとも35%の空隙を有することができ、前記微細気孔の直径は、約0.01μm~1μmであってもよい。
【0044】
前記多孔性支持体のもう一つの例示として、前記多孔性支持体は、不織繊維質ウェブ(nonwoven fibrous web)であってもよい。
【0045】
前記不織繊維質ウェブは、インターレイド(interlaid)されるが、織布と同様の方式ではなく、個々の繊維又はフィラメントの構造を有するシートのことを意味する。前記不織繊維質ウェブは、カーディング(carding)、ガーネッティング(garneting)、エア-レイング(air-laying)、ウェット-レイング(wet-laying)、メルトブローイング(melt blowing)、スパンボンディング(spunbonding)、及びステッチボンディング(stitch bonding)からなる群から選択されるいずれか一つの方法により製造することができる。
【0046】
前記繊維は、一つ以上の重合体材料を含むことができ、一般的に、繊維形成重合体材料として使用されるものなら、いかなるものでも使用可能であり、具体的には、炭化水素系繊維形成重合体材料を使用することができる。例えば、前記繊維形成重合体材料は、ポリオレフィン、例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン及びポリエチレン;ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート;ポリアミド(ナイロン-6及びナイロン-6,6);ポリウレタン;ポリブテン;ポリ乳酸;ポリビニルアルコール;ポリフェニレンスルフィド;ポリスルホン;流体結晶質重合体;ポリエチレン-co-ビニルアセテート;ポリアクリロニトリル;環状ポリオレフィン;ポリオキシメチレン;ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー;及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つを含むが、これに限定されない。
【0047】
前記不織繊維質ウェブ形態の多孔性支持体のもう一つの別の例示として、前記多孔性支持体は、ナノ繊維が多数の気孔を含む不織布形態で集積されたナノウェブを含むことができる。
【0048】
前記ナノ繊維は、優れた耐化学性を示し、疎水性を有しているので、高湿の環境で水分による形態変形が生じる恐れのない炭化水素系高分子を好ましく使用することができる。具体的には、前記炭化水素系高分子としては、ナイロン、ポリイミド、ポリアラミド、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアニリン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリビニルクロライド、ポリビニルアルコール、ポリビニリデンフルオリド、ポリビニルブチレン、ポリウレタン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの共重合体、及びこれらの混合物からなる群から選択されるものを使用することができ、その中でも、耐熱性、耐化学性、及び形態安定性により優れたポリイミドを好ましく使用することができる。
【0049】
前記ナノウェブは、電界紡糸により製造されたナノ繊維が配列されたナノ繊維の集合体である。ここで、前記ナノ繊維は、前記ナノウェブの多孔度及び厚さを考慮して、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、JSM6700F、JEOL)を用いて50本の繊維の直径を測定して、その平均から計算した時、40~5,000nmの平均直径を有することが好ましい。もし、前記ナノ繊維の平均直径が40nm未満である場合、前記多孔性支持体の機械的強度が低下する可能性があり、前記ナノ繊維の平均直径が5,000nmを超える場合、多孔度が著しく低下し、厚さが厚くなる可能性がある。
【0050】
前記不織繊維質ウェブは、坪量(basic weight)が5mg/cm2~30mg/cm2であってもよい。前記不織繊維質ウェブの坪量が5mg/cm2未満である場合、目に見える気孔が形成されて、多孔性支持体として機能しにくい可能性があり、30mg/cm2を超える場合には、ポアがほとんど形成されない紙又は織物の形態のように製造される可能性がある。
【0051】
前記多孔性支持体の多孔度は45%以上であってもよく、具体的には、60%以上であってもよい。一方、前記多孔性支持体は、90%以下の多孔度を有することが好ましい。もし、前記多孔性支持体の多孔度が90%を超える場合、形態安定性が低下することにより、後工程が円滑に行われなくなる可能性がある。前記多孔度は、下記の数式1に従って、前記多孔性支持体の全体積に対する空気体積の割合によって計算することができる。このとき、前記全体積は、長方形状のサンプルを製造して、横、縦、厚さを測定して計算し、空気体積は、サンプルの質量を測定した後、密度から逆算した高分子の体積を全体積から差し引くことによって求めることができる。
【0052】
[数1]
多孔度(%)=(多孔性支持体内の空気体積/多孔性支持体の全体積)×100
【0053】
前記多孔性支持体の厚さは、0.1μm~100μmであってもよく、具体的には、1μm~50μmであってもよい。前記多孔性支持体の厚さが0.1μm未満である場合、これを含む電解質膜の機械的強度が減少することにより、物理的耐久性が減少する可能性があり、燃料電池の駆動システムが加湿されることにより、電解質膜が膨潤して安定性が低下する可能性がある。前記多孔性支持体の厚さが100μmを超える場合、電解質膜の抵抗損失が増加し、軽量化及び集積化が低下する可能性がある。
【0054】
次に、イオン伝導体を分散媒に分散してイオン伝導体分散溶液を準備する。
【0055】
前記イオン伝導体は、プロトンなどの陽イオン交換基を有する陽イオン伝導体であるか、又はヒドロキシイオン、カーボネート又はバイカーボネートなどの陰イオン交換基を有する陰イオン伝導体であってもよい。
【0056】
前記陽イオン交換基は、スルホン酸基、カルボキシル基、ボロン酸基、リン酸基、イミド基、スルホンイミド基、スルホンアミド基、スルホン酸フルオリド基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つであってもよく、一般的に、スルホン酸基又はカルボキシル基であってもよい。
【0057】
前記陽イオン伝導体は、前記陽イオン交換基を含み、主鎖にフッ素を含むフルオロ系高分子;ベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリホスファゼン又はポリフェニルキノキサリンなどの炭化水素系高分子;ポリスチレン-グラフト-エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、又はポリスチレン-グラフト-ポリテトラフルオロエチレン共重合体などの部分フッ素化された高分子;スルホンイミドなどが挙げられる。
【0058】
より具体的には、前記陽イオン伝導体が水素イオン陽イオン伝導体である場合、前記高分子は、側鎖にスルホン酸基、カルボキシル酸基、リン酸基、ホスホン酸基及びこれらの誘導体からなる群から選択される陽イオン交換基を含むことができ、その具体的な例としては、ポリ(パーフルオロスルホン酸)、ポリ(パーフルオロカルボキシル酸)、スルホン酸基を含むテトラフルオロエチレンとフルオロビニルエーテルの共重合体、脱フッ素化された硫化ポリエーテルケトン、又はこれらの混合物を含むフルオロ系高分子;スルホン化されたポリイミド(sulfonated polyimide、S-PI)、スルホン化されたポリアリールエーテルスルホン(sulfonated polyarylethersulfone、S-PAES)、スルホン化されたポリエーテルエーテルケトン(sulfonated polyetheretherketone、SPEEK)、スルホン化されたポリベンゾイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole、SPBI)、スルホン化されたポリスルホン(sulfonated polysulfone、S-PSU)、スルホン化されたポリスチレン(sulfonated polystyrene、S-PS)、スルホン化されたポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)、スルホン化されたポリキノキサリン(sulfonated polyquinoxaline)、スルホン化されたポリケトン(sulfonated polyketone)、スルホン化されたポリフェニレンオキシド(sulfonated polyphenylene oxide)、スルホン化されたポリエーテルスルホン(sulfonated polyether sulfone)、スルホン化されたポリエーテルケトン(sulfonated polyether ketone)、スルホン化されたポリフェニレンスルホン(sulfonated polyphenylene sulfone)、スルホン化されたポリフェニレンスルフィド(sulfonated polyphenylene sulfide)、スルホン化されたポリフェニレンスルフィドスルホン(sulfonated polyphenylene sulfide sulfone)、スルホン化されたポリフェニレンスルフィドスルホンニトリル(sulfonated polyphenylene sulfide sulfone nitrile)、スルホン化されたポリアリーレンエーテル(sulfonated polyarylene ether)、スルホン化されたポリアリーレンエーテルニトリル(sulfonated polyarylene ether nitrile)、スルホン化されたポリアリーレンエーテルエーテルニトリル(sulfonated polyarylene ether ether nitrile)、スルホン化されたポリアリーレンエーテルスルホンケトン(sulfonated polyarylene ether sulfone ketone)、及びこれらの混合物を含む炭化水素系高分子が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0059】
前記陰イオン伝導体は、ヒドロキシイオン、カーボネート又はバイカーボネートなどの陰イオンを移送させることができるポリマーであり、陰イオン伝導体は、ヒドロキシド又はハライド(一般的にクロライド)の形態が商業的に入手可能であり、前記陰イオン伝導体は、産業的浄水(water purification)、金属分離又は触媒工程などに使用することができる。
【0060】
前記陰イオン伝導体は、一般的に、金属水酸化物がドーピングされたポリマーを使用することができ、具体的には、金属水酸化物がドーピングされたポリ(エーテルスルホン)、ポリスチレン、ビニル系ポリマー、ポリ(ビニルクロライド)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ベンゾイミダゾール)又はポリ(エチレングリコール)などを使用することができる。
【0061】
具体的には、前記イオン伝導体は、フッ素化された高分子であってもよく、具体的には、高度にフッ素化された側鎖を含む高度にフッ素化された高分子であってもよい。前記用語「高度にフッ素化された」は、ハロゲン及び水素原子の総数の少なくとも90モル%以上がフッ素原子に置換されたことを意味する。
【0062】
前記高度にフッ素化された高分子は、高分子骨格及び前記骨格に付着した循環側鎖を含み、前記側鎖は、前記イオン交換基を有することができる。例えば、第1フッ素化ビニルモノマー及びスルホン酸基を有する第2フッ素化ビニルモノマーの共重合体であってもよい。
【0063】
前記第1フッ素化ビニルモノマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン、ビニルフルオリド、ビニリデンフルオリド、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、及びこれらの混合物であってもよく、前記スルホン酸基を有する第2フッ素化ビニルモノマーは、スルホン酸基を有する様々なフッ素化ビニルエーテル類であってもよい。
【0064】
前記イオン伝導体の分散溶液又は分散液を製造するための分散媒としては、イオン伝導体を分散させて均一な組成の分散液を製造できるものであれば特に限定されないが、例えば、 水、エタノール(ethanol)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、n-プロピルアルコール(n-propyl alcohol)、ブチルアルコール(butyl alcohol)ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide)、ジメチルホルムアミド(N,Ndimethyl formamide)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulphoxide)、N-メチルピロリドン(N-methyl-2-pyrolidone)、トリエチルホスフェート(triethylphosphate)、メチルエチルケトン(methylethylketone)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、アセトン(acetone)、及びこれらの組み合わせから選択されるものを使用することができる。前記イオン伝導体を溶媒に分散させる方法は、従来一般的に知られた方法を用いることが可能であるため、具体的な説明は省略する。
【0065】
次に、前記分散媒と前記多孔性支持体とを接触させて多孔性支持体上に分散媒を湿潤する。
【0066】
高性能の燃料電池の具現化に向けて、高分子電解質膜の耐久性、機械的、化学的物性を同時に確保するために補強材を適用した、いわゆる強化複合膜タイプの高分子電解質の場合、前記補強材、即ち支持体の微細な気孔にイオン伝導体を形成することにより、電解質膜のイオン伝導度を確保することができるが、イオン伝導体が支持体の微細気孔に完全に含浸できずデッドポア(dead pore)が発生し、その結果、高分子電解質膜の性能が低下するという問題点がある。
【0067】
本発明に係る高分子電解質膜の製造方法は、電解質膜の物理的、機械的特性を確保するために、多孔性支持体を電解質膜に導入しながらも、前記多孔性支持体にイオン伝導体を導入する前に、イオン伝導体分散溶液の分散媒を前記多孔性支持体と先に接触させて多孔性支持体を湿潤するステップを含むことにより、多孔性支持体の内部気孔までイオン伝導体が含浸されてデッドポアの発生が減少し、イオン伝導体のモビリティ(mobility)を向上させて支持体の表面からの含浸速度を向上させることができる。
【0068】
一具現例において、前記支持体は気体状態の分散媒と接触して多孔性支持体を湿潤するものであり得る。前記分散媒を加熱することにより気体状態の分散媒を確保することができ、分散媒の種類によって各分散媒の沸点(boiling point、BP)が様々であり得るため、導入しようとするイオン伝導体の特性と分散媒の沸点を考慮して分散媒の加熱温度を適切に選択する。このように、気体状態の分散媒を介して多孔性支持体を湿潤する場合、多孔性支持体の微細気孔の内部まで分散媒で湿潤されてイオン伝導体分散溶液の含浸性(wetting)を高めることができ、これにより、高分子電解質膜のイオン伝導度を低減させることなく、抵抗損失を防ぐことができる。
【0069】
一具現例において、前記湿潤過程は、気体状態の分散媒が供給されるチャンバー(chamber)で行うことができる。チャンバーとは、前記多孔性支持体を内部空間に位置させて、気体状態の分散媒によって湿潤が行われるようにする作業空間を意味する。前記チャンバー内部には、多孔性支持体を引き入れることを可能にする移送部や多孔性支持体を載置できるステージなどが構成されていてもよい。また、チャンバーには、内部を加熱できるヒーター及び温度制御を行う装置も備えられてもよく、チャンバー外部には、分散媒を供給する供給部、真空ポンプ、真空ラインなどを含むことができる。
【0070】
一具現例において、チャンバー内部の相対湿度(RH)は、50%~120%であってもよく、好ましくは、70%~120%であってもよい。もし、チャンバー内部の相対湿度が50%未満である場合、気体状態の分散媒が多孔性支持体内部の微細気孔まで伝達できず、イオン伝導体分散溶液による含浸性が低下する可能性があり、チャンバー内部の相対湿度が120%を超える場合、チャンバー内部の圧力が過度に上昇して安定性の問題が生じる可能性があり、気体状態で供給された分散媒が、高い蒸気圧で再び凝縮して液化する可能性があるため、前記範囲内でチャンバー内部の相対湿度を適切に調整する。
【0071】
一具現例において、チャンバー内部の温度は、40℃~120℃であってもよく、好ましくは、50℃~100℃であってもよい。チャンバー内部の温度が40℃未満である場合、分散媒が気化できず、気体状態の分散媒を確保することが難しくなる可能性があるため、イオン伝導体の含浸性が低下する恐れがあり、チャンバー内部の温度が120℃を超える場合、多孔性支持体が溶融して微細気孔が閉塞したり、気体状態の分散媒が燃焼したりして安定性の問題が生じる可能性があるため、前記範囲内でチャンバー内部の温度を適切に調整する。
【0072】
一具現例において、前記分散媒と前記多孔性支持体は、0.1分~60分間接触するものであってもよい。分散媒と多孔性支持体との接触時間が0.1分未満である場合、分散媒と多孔性支持体との接触時間が短くて、多孔性支持体が分散媒によって十分に湿潤できず、イオン伝導体分散溶液が多孔性支持体に十分に含浸できない可能性があり、分散媒と多孔性支持体との接触時間が60分を超える場合、多孔性支持体の過度な湿潤により、イオン伝導体分散溶液が含浸された後に分散媒が多孔性支持体に残存する可能性がある。
【0073】
次に、前記分散媒が湿潤された多孔性支持体にイオン伝導体分散溶液を塗布して、前記多孔性支持体の少なくともいずれか一面にイオン伝導体を導入する。多孔性支持体にイオン伝導体を導入する方法は、イオン伝導体分散溶液を多孔性支持体に紡糸する方法を用いることができ、また、多孔性支持体をイオン伝導体分散溶液に担持又は含浸して、イオン伝導体で多孔性支持体の空隙を埋めるステップを経て行うことができる。
【0074】
一具現例において、前記イオン伝導体が導入された多孔性支持体を40℃~120℃で乾燥するステップをさらに含むことができ、例えば、50℃~120℃、より好ましくは、60℃~120℃の温度下で行うことができる。このとき、前記乾燥温度は、乾燥のために供給される熱媒体の温度又は乾燥工程における熱媒体及び乾燥反応器内部の温度と定義することができる。乾燥温度が低くて乾燥時間が長くなる場合、工程の効率性が低下するので、これを防止するために、乾燥温度は40℃以上であることが好ましい。前記乾燥ステップにおける乾燥時間は特に限定されないが、工程効率及び高分子電解質膜の物性などを考慮して、前記乾燥温度下で10分~60分に調整することができる。
【0075】
本発明の別の一具現例に係る高分子電解質膜は、前記製造方法により製造された高分子電解質膜であってもよい。
【0076】
前記一具現例に係る高分子電解質膜は、多数の空隙を含む多孔性支持体、前記多孔性支持体の少なくともいずれか一面に位置するイオン伝導体を含むものであってもよい。前記多孔性支持体及びイオン伝導体については前述した通りであるため、以下、具体的な説明は省略する。
【0077】
本発明の一具現例に係る高分子電解質膜は、電解質膜の物理的、機械的特性を確保するために、多孔性支持体を電解質膜に含めながらも、多孔性支持体にイオン伝導体を導入する前に、イオン伝導体の分散溶液に用いられる溶媒を先に接触させて、多孔性支持体が湿潤された状態でイオン伝導体が含浸されることにより、多孔性支持体の内部気孔までイオン伝導体が含浸されてデッドポアの発生が減少し、イオン伝導体のモビリティ(mobility)が増加して支持体の表面からのイオン伝導体の含浸速度が向上した結果、優れた性能の高分子電解質膜を具現化することができる。
【0078】
本発明の別の一実施例によれば、前記高分子電解質膜を含む膜-電極アセンブリ及び燃料電池を提供する。
【0079】
具体的には、前記膜-電極アセンブリは、互いに対向して位置するアノード電極とカソード電極、及び前記アノード電極とカソード電極との間に位置する前記高分子電解質膜を含む。
【0080】
図1は、本発明の一実施例に係る膜-電極アセンブリを概略的に示す断面図である。
図1を参照して説明すると、前記膜-電極アセンブリ100は、前記高分子電解質膜50及び前記高分子電解質膜50の両面にそれぞれ配置される前記燃料電池用電極20、20'を含む。前記電極20、20'は、電極基材40、40'と、前記電極基材40、40'の表面に形成された触媒層30、30'とを含み、前記電極基材40、40'と前記触媒層30、30'との間に前記電極基材40、40'での物質拡散を容易にするために、炭素粉末、カーボンブラックなどの導電性微細粒子を含む微細気孔層(図示しない)をさらに含むこともできる。
【0081】
前記膜-電極アセンブリ100において、前記高分子電解質膜50の一面に配置されて、前記電極基材40を通過して前記触媒層30に伝達された燃料から水素イオンと電子を生成させる酸化反応を引き起こす電極20をアノード電極といい、前記高分子電解質膜50の他方の一面に配置されて、前記高分子電解質膜50を介して供給された水素イオンと電極基材40'を通過して前記触媒層30'に伝達された酸化剤から水を生成させる還元反応を引き起こす電極20'をカソード電極という。
【0082】
前記アノード及びカソード電極20、20'の触媒層30、30'は触媒を含む。前記触媒としては、電池の反応に関わって、通常燃料電池の触媒として使用可能なものならいかなるものでも使用することができる。具体的には、好ましくは、白金系金属を使用することができる。
【0083】
前記白金系金属は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、白金-M合金(前記Mは、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ランタン(La)及びロジウム(Rh)からなる群から選択されるいずれか一つ以上)、非白金合金及びこれらの組み合わせからなる群から選択される一つを含むことができ、より好ましくは、前記白金系触媒金属群から選択された2種以上の金属を組み合わせたものを使用することができるが、これに限定されるものではなく、本技術分野で使用可能な白金系触媒金属であるならば制限なく使用することができる。
【0084】
具体的には、前記白金合金は、Pt-Pd、Pt-Sn、Pt-Mo、Pt-Cr、Pt-W、Pt-Ru、Pt-Ru-W、Pt-Ru-Mo、Pt-Ru-Rh-Ni、Pt-Ru-Sn-W、Pt-Co、Pt-Co-Ni、Pt-Co-Fe、Pt-Co-Ir、Pt-Co-S、Pt-Co-P、Pt-Fe、Pt-Fe-Ir、Pt-Fe-S、Pt-Fe-P、Pt-Au-Co、Pt-Au-Fe、Pt-Au-Ni、Pt-Ni、Pt-Ni-Ir、Pt-Cr、Pt-Cr-Ir、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0085】
また、前記非白金合金は、Ir-Fe、Ir-Ru、Ir-Os、Co-Fe、Co-Ru、Co-Os、Rh-Fe、Rh-Ru、Rh-Os、Ir-Ru-Fe、Ir-Ru-Os、Rh-Ru-Fe、Rh-Ru-Os、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0086】
このような触媒は、触媒自体(black)で使用することもでき、担体に担持させて使用することもできる。
【0087】
前記担体は、炭素系担体、ジルコニア、アルミナ、チタニア、シリカ、セリアなどの多孔性無機酸化物、ゼオライトなどから選択することができる。前記炭素系担体は、黒鉛、スーパーピー(super P)、炭素繊維(carbon fiber)、炭素シート(carbon sheet)、カーボンブラック(carbon black)、ケッチェンブラック(Ketjen Black)、デンカブラック(Denka black)、アセチレンブラック(acetylene black)、カーボンナノチューブ(carbon nano tube、CNT)、炭素球体(carbon sphere)、炭素リボン(carbon ribbon)、フラーレン(fullerene)、活性炭素、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤ、カーボンナノボール、カーボンナノホーン、カーボンナノケージ、カーボンナノリング、規則性ナノ多孔性炭素(ordered nano-/meso-porous carbon)、カーボンエアロゲル、メソポーラスカーボン(mesoporous carbon)、グラフェン、安定化カーボン、活性化カーボン、及びこれらの一つ以上の組み合わせから選択することができるが、これに限定されるものではなく、本技術分野で使用可能な担体なら制限なく使用することができる。
【0088】
前記触媒粒子は、担体の表面上に位置することもでき、担体の内部気孔(pore)を埋めながら担体の内部に浸透することもできる。
【0089】
前記担体に担持された貴金属を触媒として使用する場合には、商用化された市販のものを使用することもでき、また、担体に貴金属を担持させて製造して使用することもできる。前記担体に貴金属を担持させる工程は、当該分野において広く知られた内容であるため、本明細書での詳しい説明は省略しても、当該分野に従事する人々にとって容易に理解できる内容である。
【0090】
前記触媒粒子は、前記触媒電極30、30'の全体重量に対して20重量%~80重量%で含まれてもよく、20重量%未満で含まれる場合には、活性低下の問題が生じる可能性があり、80重量%を超える場合には、前記触媒粒子の凝集によって活性面積が減少して、触媒活性が逆に低下する可能性がある。
【0091】
また、前記触媒電極30、30'は、前記触媒電極30、30'の接着力向上及び水素イオンの伝達のためにバインダーを含むことができる。前記バインダーとしては、イオン伝導性を有するイオン伝導体を使用することが好ましく、前記イオン伝導体に関する説明は、前述したものと同様であるため、繰り返しの説明は省略する。
【0092】
ただし、前記イオン伝導体は、単一物又は混合物の形態で使用することが可能であり、また、選択的に高分子電解質膜50との接着力をより向上させる目的で、非伝導性化合物と併用することもできる。その使用量は、使用目的に適するよう調整して使用することが好ましい。
【0093】
前記非伝導性化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン/テトラフルオロエチレン(ethylene/tetrafluoroethylene(ETFE))、エチレンクロロトリフルオロ-エチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオリド、ポリビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンのコポリマー(PVdF-HFP)、ドデシルベンゼンスルホン酸及びソルビトール(sorbitol)からなる群から選択された1種以上のものを使用することができる。
【0094】
前記バインダーは、前記触媒電極30、30'の全体重量に対して20重量%~80重量%で含まれてもよい。前記バインダーの含有量が20重量%未満である場合には、生成されたイオンがうまく伝達されなくなる可能性があり、80重量%を超える場合には、気孔が足りず水素又は酸素(空気)の供給が難しく、反応できる活性面積が減る可能性がある。
【0095】
前記電極基材40、40'としては、水素又は酸素の円滑な供給が行われるよう、多孔性の導電性基材を使用することができる。その代表例として、炭素ペーパー(carbon paper)、炭素布(carbon cloth)、炭素フェルト(carbon felt)、又は金属布(繊維状態の金属布からなる多孔性のフィルム又は高分子繊維で形成された布の表面に金属フィルムが形成されたものをいう)を使用することができるが、これに限定されるものではない。また、前記電極基材40、40'は、フッ素系樹脂で撥水処理したものを使用することが、燃料電池の駆動時に発生する水によって反応物の拡散効率が低下することを防止することができるので好ましい。前記フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリパーフルオロスルホニルフルオリドアルコキシビニルエーテル、フルオリネイテッドエチレンプロピレン(Fluorinated ethylene propylene)、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はこれらのコポリマーを使用することができる。
【0096】
また、前記電極基材40、40'における反応物の拡散効果を増大させるための微細気孔層(microporous layer)をさらに含むこともできる。この微細気孔層は、一般的に粒径の小さい導電性粉末、例えば、炭素粉末、カーボンブラック、アセチレンブラック、活性炭素、カーボンファイバー、フラーレン(fullerene)、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤ、カーボンナノホーン(carbon nano-horn)又はカーボンナノリング(carbon nano ring)を含むことができる。
【0097】
前記微細気孔層は、導電性粉末、バインダー樹脂及び溶媒を含む組成物を前記電極基材40、40'にコーティングして製造される。前記バインダー樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリパーフルオロスルホニルフルオリド、アルコキシビニルエーテル、ポリビニルアルコール、セルロースアセテート、又は、これらのコポリマーなどを好ましく使用することができる。前記溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール、水、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフランなどを好ましく使用することができる。コーティング工程としては、組成物の粘性によって、スクリーンプリンティング法、スプレーコーティング法、又は、ドクターブレードを用いたコーティング法などを使用することができ、これに限定されるものではない。
【0098】
前記膜-電極アセンブリ100は、前記高分子電解質膜50として、本発明に係る高分子電解質膜50を使用することを除いては、通常の燃料電池用膜-電極アセンブリの製造方法に従って製造することができる。
【0099】
本発明の別の一実施例に係る燃料電池は、前記膜-電極アセンブリ100を含むことができる。
【0100】
図2は、前記燃料電池の全体構成を示す模式図である。
【0101】
前記
図2を参照すると、前記燃料電池200は、燃料と水が混合された混合燃料を供給する燃料供給部210、前記混合燃料を改質して水素ガスを含む改質ガスを発生させる改質部220、前記改質部220から供給される水素ガスを含む改質ガスが酸化剤と電気化学的反応を起こして電気エネルギーを発生させるスタック230、及び酸化剤を前記改質部220及び前記スタック230に供給する酸化剤供給部240を含む。
【0102】
前記スタック230は、前記改質部220から供給される水素ガスを含む改質ガスと酸化剤供給部240から供給される酸化剤の酸化/還元反応を誘導して電気エネルギーを発生させる複数の単位セルを備える。
【0103】
各単位セルは、電気を発生させる単位のセルを意味するものであり、水素ガスを含む改質ガスと酸化剤中の酸素を酸化/還元させる前記膜-電極接合体と、水素ガスを含む改質ガスと酸化剤を膜-電極接合体に供給するための分離板(又はバイポーラプレート(bipolar plate)ともいい、以下、「分離板」と称する)を含む。前記分離板は、前記膜-電極接合体を中心に置き、その両側に配置される。このとき、前記スタックの最外側にそれぞれ位置する分離板を特にエンドプレートとも称する。
【0104】
前記分離板の中で前記エンドプレートには、前記改質部220から供給される水素ガスを含む改質ガスを注入するためのパイプ状の第1供給管231と、酸素ガスを注入するためのパイプ状の第2供給管232が設けられ、他方のエンドプレートには、複数の単位セルで最終的に反応せずに残った水素ガスを含む改質ガスを外部に排出させるための第1排出管233と、前記単位セルで最終的に反応せずに残った酸化剤を外部に排出させるための第2排出管234が設けられる。
【0105】
前記燃料電池において、本発明の一実施例に係る膜-電極アセンブリ100が使用されることを除いては、前記電気発生部を構成するセパレーター、燃料供給部及び酸化剤供給部は、通常の燃料電池で使用されるものであるため、本明細書での詳細な説明は省略する。
【発明を実施するための形態】
【0106】
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるよう本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で具現化することができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0107】
[実施例:高分子電解質膜の製造]
【0108】
(実施例1)
【0109】
(1)多孔性支持体として、厚さ10μm、気孔率75%のe-PTFE(expanded Polytetrafluoroethylene)を準備する。
【0110】
(2)アイオノマー分散液であるNafion(ナフィオン) D2021を分散媒である蒸留水に投入して、前記Nafionを1重量%の含有量で含むアイオノマー分散液を製造する。
【0111】
(3)前記e-TFE支持体を、内部温度50℃、分散媒雰囲気の相対湿度(RH)90%で維持されたチャンバーに投入し、10分間維持して、e-PTFE支持体が分散媒によって十分に湿潤されるようにした。
【0112】
(4)以後、前記湿潤されたe-PTFE支持体をチャンバーから取り出して、アイオノマー分散液(Nafion D2021)をe-PTFE支持体に含浸させた後、80℃で1時間、150℃で30分間、乾燥及び熱処理して、20μm厚の強化複合膜である高分子電解質膜を製造した。
【0113】
(実施例2)
【0114】
内部温度が80℃で維持されたチャンバーでe-PTFE支持体が湿潤されるようにしたことを除いては、前記実施例1と同一にして高分子電解質膜を製造した。
【0115】
(実施例3)
【0116】
相対湿度(RH)が70%で維持されたチャンバーでe-PTFE支持体が湿潤されるようにしたことを除いては、前記実施例1と同一にして高分子電解質膜を製造した。
【0117】
(実施例4)
【0118】
相対湿度(RH)が120%で維持されたチャンバーでe-PTFE支持体が湿潤されるようにしたことを除いては、前記実施例2と同一にして高分子電解質膜を製造した。
【0119】
(実施例5)
【0120】
チャンバー内の湿潤維持時間を60分としたことを除いては、前記実施例2と同一にして高分子電解質膜を製造した。
【0121】
(比較例1)
【0122】
アイオノマー分散液(Nafion D2021)を離型フィルムであるポリエチレンフィルムに塗布した後、これを80℃で1時間、150℃で30分間、乾燥及び熱処理した。
【0123】
前記乾燥された高分子膜を離型フィルムから剥がして、20μm厚の高分子電解質膜を製造した。
【0124】
(比較例2)
【0125】
10μm厚のe-PTFE(expanded Polytetrafluoroethylene)(気孔率75%)にアイオノマー分散液(Nafion D2021)を含浸させた後、80℃で1時間、150℃で30分間、乾燥及び熱処理して、20μm厚の強化複合膜である高分子電解質膜を製造した。
【0126】
[評価例:高分子電解質膜の水素透過度測定]
【0127】
前記実施例1~5及び比較例1~2で製造された各高分子電解質膜を用いて膜-電極アセンブリ(MEA)を製造した後、そのウェット/ドライ(wet/dry)サイクルをNEDOプロトコルに従って測定して、その結果を下記表1に示した。
【0128】
具体的には、80℃で、アノード及びカソードに窒素ガスを800NmL/minの流量でそれぞれ注入しながら、加湿(150%RH、2分)及び乾燥(0%RH、2分)からなるウェット/ドライ(wet/dry)サイクルを繰り返した。1,000サイクル毎に、前記MEAの水素透過度(hydrogen crossover)を、LSV(linear sweep voltammetry)を用いて測定した。具体的には、80℃及び100%RHで、アノードに水素ガスを200NmL/minの流量で注入し、カソードに窒素ガスを200NmL/minの流量で注入しながら、0.2-0.5V区間を0.5mV/sのスキャン速度(scan rate)でスイープ(sweep)して、0.4-0.5V区間の電流密度データを抽出した。前記データを線形フィッティング(linear fitting)して、電圧が0である区間の電流密度値を得た。NEDOの燃料電池自動車用の機械的加速耐久基準に従って20,000サイクルまで繰り返して測定した後、終了した。ただし、1,000サイクル毎に測定された水素透過度が最初の水素透過度の10倍以上になったら、途中で評価を終了し、それまでに行われたサイクル回数を、前記MEAのウェット/ドライ(wet/dry)サイクルとした。例えば、計9,000サイクル終了後に測定された水素透過度は、最初の水素透過度の10倍未満であったが、計10,000サイクル終了後に測定された水素透過度が最初の水素透過度の10倍以上になった場合、MEAのウェット/ドライ(wet/dry)サイクルは「10,000サイクル終了」となる。
【0129】
【0130】
前記表1を参照すると、実施例1~5に係る高分子電解質膜の場合、比較例1又は比較例2の高分子電解質膜に比べて、MEAウェット/ドライ(wet/dry)サイクルのテスト前後に水素透過率が低いことが確認され、これにより、多孔性支持体にイオン伝導体を導入する前に、イオン伝導体分散溶液の分散媒を前記多孔性支持体と先に接触させて多孔性支持体を湿潤するステップを含むことにより、多孔性支持体の内部気孔までイオン伝導体が含浸されてデッドポアの発生が減少し、気孔内部のイオン伝導体の密度が高くなって、水素透過度の低減効果があることを確認した。これは、支持体の表面からのイオン伝導体分散液に対する濡れ性が向上して、支持体気孔の内部へのイオン伝導体の含浸性が向上する効果があることを意味する。
【0131】
以上、本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、後述する特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を用いた当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0132】
20、20':電極
30、30':触媒層
40、40':電極基材
50:高分子電解質膜
100:膜-電極アセンブリ
200:燃料電池
210:燃料供給部 220:改質部
230:スタック 231:第1供給管
232:第2供給管 233:第1排出管
234:第2排出管 240:酸化剤供給部