(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】難燃性複合パッドとその製造方法、それを含む二次電池モジュール及び二次電池パック
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20240729BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20240729BHJP
H01M 50/211 20210101ALI20240729BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240729BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B32B27/18 B
H01M50/293
H01M50/211
H01M50/204 401F
H01M50/204 401H
C09K21/02
(21)【出願番号】P 2022545120
(86)(22)【出願日】2021-01-27
(86)【国際出願番号】 KR2021001086
(87)【国際公開番号】W WO2021153988
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0009902
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】518056140
【氏名又は名称】コングク ユニバーシティ インダストリアル コーオペレーション コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨ-ミン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ボム-ヨン・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-ホ・ハ
(72)【発明者】
【氏名】キ-ジェ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヨン-コン・アン
(72)【発明者】
【氏名】キュ-ビン・イ
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-010808(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163839(WO,A1)
【文献】特表2012-506327(JP,A)
【文献】天然炭酸カルシウムと人造炭酸カルシウムの識別,関税中央分析所報,日本,2019年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/18
H01M 50/293
H01M 50/211
H01M 50/204
C09K 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜が積層された複合パッドであって、
前記複合パッドは、第1高分子樹脂単層膜及び第2高分子樹脂単層膜を含み、
前記第1高分子樹脂単層膜は、前記第2高分子樹脂単層膜に比べてより低い温度範囲で作用する消火物質を含む、複合パッドにおいて、
前記第1高分子樹脂単層膜は、ポリジメチルシロキサン及び水酸化アルミニウムを含み、前記第2高分子樹脂単層膜は、ポリジメチルシロキサン及び臭化カルシウムを含む、複合パッド。
【請求項2】
前記複合パッドは、二つの前記第1高分子樹脂単層膜同士の間に前記第2高分子樹脂単層膜が介在されていることを特徴とする、請求項1に記載の複合パッド。
【請求項3】
前記消火物質は、水酸化金属化合物、リン系及び硫酸化合物、ハロゲン系化合物からなる固形分の物質から選択される、請求項1または2に記載の複合パッド。
【請求項4】
前記消火物質は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、または、臭化カルシウムである、請求項1または2に記載の複合パッド。
【請求項5】
相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜を順次に製膜する段階を含む複合パッドの製造方法であって、
前記複合パッドは、第1高分子樹脂単層膜及び第2高分子樹脂単層膜を含み、
前記第1高分子樹脂単層膜は、前記第2高分子樹脂単層膜に比べてより低い温度範囲で作用する消火物質を含む、複合パッドの製造方法において、
前記相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜を順次に製膜する段階は、
第1消火物質と第1高分子樹脂とを混合した第1難燃性組成物を製造する段階と、
前記第1難燃性組成物を塗布した後、硬化させて前記第1高分子樹脂単層膜を形成する段階と、
第2消火物質と第2高分子樹脂とを混合した第2難燃性組成物を製造する段階と、
前記第1高分子樹脂単層膜上に前記第2難燃性組成物を塗布した後、硬化させて前記第2高分子樹脂単層膜を形成する段階と、を含み、
前記第1消火物質は水酸化アルミニウムを含み、前記第2消火物質は臭化カルシウムを含む、複合パッドの製造方法。
【請求項6】
前記第1難燃性組成物を製造する段階は、
第1高分子樹脂に第1消火物質を0%超50%以下で添加して第1混合物を形成する段階と、
前記第1混合物を撹拌する段階と、
前記第1混合物に硬化剤を添加する段階と、を含み、
前記第2難燃性組成物を製造する段階は、
第2高分子樹脂に第2消火物質を0%超80%以下で添加して第2混合物を形成する段階と、
前記第2混合物を撹拌する段階と、
前記第2混合物に硬化剤を添加する段階と、を含む、請求項5に記載の複合パッドの製造方法。
【請求項7】
前記複合パッドは、二つの前記第1高分子樹脂単層膜同士の間に前記第2高分子樹脂単層膜が介在されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の複合パッドの製造方法。
【請求項8】
相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜を順次に製膜する段階を含む複合パッドの製造方法であって、
前記複合パッドは、第1高分子樹脂単層膜及び第2高分子樹脂単層膜を含み、
前記第1高分子樹脂単層膜は、前記第2高分子樹脂単層膜に比べてより低い温度範囲で作用する消火物質を含む、複合パッドの製造方法において、
前記第1高分子樹脂単層膜は、ポリジメチルシロキサン及び水酸化アルミニウムを含み、前記第2高分子樹脂単層膜は、ポリジメチルシロキサン及び臭化カルシウムを含む、複合パッドの製造方法。
【請求項9】
相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜を順次に製膜する段階を含む複合パッドの製造方法であって、
前記複合パッドは、第1高分子樹脂単層膜及び第2高分子樹脂単層膜を含み、
前記第1高分子樹脂単層膜は、前記第2高分子樹脂単層膜に比べてより低い温度範囲で
消火作用
を奏する消火物質を含む、複合パッドの製造方法において、
前記消火物質は、水酸化金属化合物、リン系及び硫酸化合物、ハロゲン系化合物からなる固形分の物質から選択される、複合パッドの製造方法。
【請求項10】
相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜を順次に製膜する段階を含む複合パッドの製造方法であって、
前記複合パッドは、第1高分子樹脂単層膜及び第2高分子樹脂単層膜を含み、
前記第1高分子樹脂単層膜は、前記第2高分子樹脂単層膜に比べてより低い温度範囲で
消火作用
を奏する消火物質を含む、複合パッドの製造方法において、
前記消火物質は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、または、臭化カルシウムである、複合パッドの製造方法。
【請求項11】
請求項1から4のいずれか一項に記載の複合パッドを含む、二次電池モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載の二次電池モジュールを含む、二次電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性部材及びそれを含む装置に関し、特に、難燃性複合パッド、それを含む二次電池モジュール及び二次電池パックに関する。
【0002】
本出願は、2020年1月28日付け出願の韓国特許出願第10-2020-0009902号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
技術の発展に伴い、エネルギー貯蔵技術に対する関心が益々高まっている。携帯電話、カムコーダー及びノートパソコンなどの適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力も益々具体化されている。電気化学素子の中でも充放電可能な二次電池の開発には関心が寄せられている。特に、リチウム二次電池は、作動電圧が3.6V程度と、電子装置の電源として多く用いられるニッケル‐カドミウム電池またはニッケル‐水素電池よりも容量が大きくて単位重量当りエネルギー密度が高いため、その活用が急速に増加している。近年、多様なデザインの電気製品に適用し易く、体積を減少できるという長所から、電極組立体及び電解液をフィルムから製造したパウチ外装材に入れて密封して使用するパウチ型二次電池が普及されている。
【0004】
一方、二次電池は、過熱されると爆発する危険性があるため、安全性を確保することが重要な課題の一つである。二次電池の過熱は様々な原因で発生するが、そのうち一つとして二次電池を通じて限界以上の過電流が流れる場合が挙げられる。過電流が流れれば、二次電池がジュール熱(Joule heating)によって発熱するため、二次電池の内部温度が急速に上昇する。また、温度の急速な上昇は、電解液の分解反応を起こして熱暴走現象(thermal runaway)を引き起こし、二次電池の爆発にまでつながるようになる。過電流は、尖った金属物体が二次電池を貫通するか、正極と負極との間に介在された分離膜の収縮によって正極と負極との間の絶縁が破壊されるか、または、外部に連結された充電回路や負荷の異常によって突入電流(rush current)が二次電池に印加されるなどの場合にも発生する。過電流だけではなく、過充電、物理的な外部衝撃などによって非正常的な発熱が発生する場合にも、二次電池の爆発または発火につながって火災事故の危険があるため、厳格な管理が必要である。
【0005】
二次電池は、化石燃料を使用する従来のガソリン車両、ディーゼル車両などによる大気汚染などの解決方案として提示されている電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)などの動力源として注目されている。このような用途で使用される中大型二次電池モジュールや二次電池パックは、所定の装置で求める出力及び容量を提供するため、多数のリチウム二次電池が電気的に接続され、外力に対して安定的な構造が維持できなければならない。
【0006】
このような二次電池モジュールや二次電池パックに含まれる多数の二次電池は、他の電池に比べて高出力の長所がある一方、上述したように爆発の危険性が高くて安全性が低いという短所がある。前記中大型二次電池モジュールや二次電池パックに多数の二次電池が含まれる場合、その安定性の問題は一層深刻になる。
【0007】
特に、従来は、二次電池モジュール内で二次電池の異常過熱によって火災が発生すると、隣接する他の二次電池へと火災の伝播及び拡散の危険性がある。これは、集団的発火及び爆発にさらにつながり、大型の火災事故を引き起こすことになる。したがって、前記二次電池で発生した火炎が二次電池の外部に広がることを遮断することで、火炎による爆発または中大型二次電池モジュールや二次電池パックの危険状況に対してより迅速且つ敏感に対処することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上記のような問題を解決するため、リチウム二次電池の使用中に火災が発生したとき、火炎の伝播を遮断して二次電池の使用上の安全性を確保することができる難燃性部材及び該難燃性部材を製造する方法、このような難燃性部材を含む二次電池モジュール及び二次電池パックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明で提案する難燃性部材は、相異なる消火及び難燃基材を有する消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜が積層された複合パッドであって、二次電池の発火または爆発を効果的に抑制できるという効果がある。本発明では、その製造方法、そのような複合パッドを含む二次電池モジュール及び二次電池パックも提案する。
【0010】
本発明による複合パッドは、相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜が積層された複合パッドであって、前記複合パッドは、第1高分子樹脂単層膜及び第2高分子樹脂単層膜を含み、前記第1高分子樹脂単層膜は、前記第2高分子樹脂単層膜に比べてより低い温度範囲で作用する消火物質を含んでいる。
【0011】
望ましくは、前記複合パッドは、二つの前記第1高分子樹脂単層膜同士の間に前記第2高分子樹脂単層膜が介在されているものであることを特徴としている。
【0012】
ここで、前記第1高分子樹脂単層膜は、ポリジメチルシロキサン(poly(dimethyl siloxane)、PDMS)及び水酸化アルミニウム(Al(OH)3)を含み、前記第2高分子樹脂単層膜は、PDMS及び臭化カルシウム(CaBr2)を含むものであり得る。
【0013】
本発明において、前記消火物質は、水酸化金属化合物、リン系及び硫酸化合物、ハロゲン系化合物からなる固形分の物質から選択され得る。高分子樹脂単層膜の高分子樹脂は、メチルメタクリル樹脂、スチロール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂またはポリウレタン樹脂であり得る。
【0014】
前記消火物質は、Al(OH)3、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)またはCaBr2であってもよい。
【0015】
また、本発明は、このような複合パッドの製造方法を提案する。該方法は、相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜を順次に製膜する段階を含む複合パッドの製造方法であって、前記複合パッドは、第1高分子樹脂単層膜及び第2高分子樹脂単層膜を含み、前記第1高分子樹脂単層膜は、前記第2高分子樹脂単層膜に比べてより低い温度範囲で作用する消火物質を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明による複合パッドの製造方法において、前記相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれた二つ以上の高分子樹脂単層膜を順次に製膜する段階は、第1消火物質と第1高分子樹脂とを混合した第1難燃性組成物を製造する段階と、前記第1難燃性組成物を塗布した後、硬化させて前記第1高分子樹脂単層膜を形成する段階と、第2消火物質と第2高分子樹脂とを混合した第2難燃性組成物を製造する段階と、前記第1高分子樹脂単層膜上に前記第2難燃性組成物を塗布した後、硬化させて前記第2高分子樹脂単層膜を形成する段階と、を含む。
【0017】
ここで、前記第1難燃性組成物を製造する段階は、第1高分子樹脂に第1消火物質を0%超50%以下で添加して第1混合物を形成する段階と、前記第1混合物を撹拌する段階と、前記第1混合物に硬化剤を添加する段階と、を含み、前記第2難燃性組成物を製造する段階は、第2高分子樹脂に第2消火物質を0%超80%以下で添加して第2混合物を形成する段階と、前記第2混合物を撹拌する段階と、前記第2混合物に硬化剤を添加する段階と、を含み得る。そして、前記第1消火物質はAl(OH)3を含み、前記第2消火物質はCaBr2を含み得る。
【0018】
本発明による二次電池モジュールは、本発明による複合パッドを含む。
【0019】
本発明による二次電池パックは、本発明による二次電池モジュールを含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、二次電池の発火または爆発を効果的に抑制することができる複合パッドが提供される。前記複合パッドは、第1高分子樹脂単層膜及び第2高分子樹脂単層膜を含み、それぞれの高分子樹脂単層膜中の各消火物質の作用温度範囲を異なるものにすれば、温度に応じて段階的な消火効果を奏することができる。
【0021】
特に、最外郭層である第1高分子樹脂単層膜には低温範囲で消火及び難燃効果を発現できる消火物質を含み、内層である第2高分子樹脂単層膜には高温で消火メカニズムが発現される消火物質を含めば、低温領域から高温まで(発火前まで)時間に応じて温度が徐々に上昇する。すなわち、熱伝播(thermal propagation)抑制効果に優れる。
【0022】
このような複合パッドは、二次電池同士の間に挿入され、異常挙動などによって二次電池の内部で火炎が発生する場合、火炎が外部に伝播することを遮断する。二次電池の内部で発生した火炎による追加的な連鎖反応及び被害を最小化する効果がある。
【0023】
このように本発明による複合パッドは、これを含む二次電池モジュールや二次電池パックの安全性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態による複合パッドの断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態による複合パッドの断面図である。
【
図3】
図2に示された複合パッドの部分切開斜視図である。
【
図4】本発明による二次電池モジュールの概略的な構成を示した図である。
【
図6】比較例1-2及び実施例に対し、評価前、火炎に接触してから15秒までの比較写真である。
【
図7】比較例及び実施例に対し、二次電池に発火が転移する時間を測定する実験の模式図である。
【
図8】比較例及び実施例に対し、二次電池に発火が転移する時間を測定して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付された図面を参照して本発明の実施形態を、本発明が属する技術分野で通常の知識を持つ者が容易に実施できるように詳しく説明する。本発明は、多様な相異なる形態で具現でき、後述する実施形態に限定されない。
【0026】
本発明を明確に説明するため、説明と関係ない部分は省略し、明細書の全体に亘って同一または類似の構成要素に対しては同じ参照符号を付けて説明する。
【0027】
また、図面において各構成の大きさ及び厚さは、説明の便宜上、任意に示されたため、本発明が図示に必ずしも限定されることはない。図面において、多くの層及び領域を明確に表すため、厚さは拡大して示した。さらに、図面において、説明の便宜上、一部の層及び領域の厚さは誇張して示した。
【0028】
本発明は、発火したとき、火災の伝播を抑制する消火及び難燃組成物から製造した複合パッド、その製造方法、そのような複合パッドを採用した二次電池モジュール及び二次電池パックに関する。
【0029】
本発明の目的は、二次電池モジュール単位の電池安全性の向上のため、多層構造からなる複合パッドを、難燃及び消火機能性物質を含む高分子樹脂系パッドから製造し、二次電池モジュール及び二次電池パック内に挿入することである。
【0030】
図1は本発明の一実施形態による複合パッドの断面図であり、
図2は本発明の他の実施形態による複合パッドの断面図であり、
図3は
図2に示された複合パッドの部分切開斜視図である。
【0031】
図1~
図3を参照すると、本発明による複合パッド100、100’は、第1高分子樹脂単層膜10及び第2高分子樹脂単層膜20を含む。第1高分子樹脂単層膜10と第2高分子樹脂単層膜20とには、相異なる種類の消火物質がそれぞれ含まれている。相異なる種類の消火物質は、機能上相異なる消火及び難燃機序を有するものであってもよく、物質上互いに区別されるものであってもよい。
【0032】
本発明による複合パッド100、100’は、第1高分子樹脂単層膜10及び第2高分子樹脂単層膜20のように二つ以上の高分子樹脂単層膜が積層されているものである。このような複合パッド100、100’は、消火物質が含まれた高分子樹脂からなるパッド形態であって、二次電池の発火または爆発を効果的に抑制できるという効果を奏する。
【0033】
第1高分子樹脂単層膜10及び第2高分子樹脂単層膜20のそれぞれの厚さ、これらを含む複合パッド100、100’の厚さは特に制限されない。高分子樹脂を用いた製膜方法により均一な層を形成可能な最小厚さから、二次電池モジュールに挿入したとき二次電池モジュールの大きさを過度に増加させないながらも製造コストなどを考慮した最大厚さまでの範囲から適切に決定できる。
【0034】
第1高分子樹脂単層膜10及び第2高分子樹脂単層膜20は「消火物質」と称する、難燃及び消火機能性物質を含む高分子樹脂系パッドであって、消火物質及び高分子樹脂を含んでいる。
【0035】
消火物質とは、消火作用、すなわち、望ましくは火災抑制作用をし、及び/または、火災の発生を阻止するかまたは発生し難くする物質または混合物質である。消火作用とは、本発明において望ましくは、火災を阻止する作用、すなわち火災の連続または発生を抑制するかまたは弱化させる作用を意味する。望ましい消火物質は、例えば、火災を持続させる化学反応物質を火点(fire source)から除去するか、発火または火災の持続に必要な化学反応を抑制する物質であるか、または、火炎のエネルギーを吸収する吸熱反応を起こして温度下降及び消炎の効果をもたらす物質である。
【0036】
前記消火物質は、水酸化金属化合物、リン系及び硫酸化合物、ハロゲン系化合物からなる固形分の物質から選択され得る。そして、前記高分子樹脂は、メチルメタクリル樹脂、スチロール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂またはポリウレタン樹脂であり得る。前記消火物質の代表的な例としては、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)または臭化カルシウム(CaBr2)が挙げられる。高分子樹脂自体でも難燃性を有することが望ましいが、消火物質を含ませた高分子樹脂の組成物で構成されるフィルムであって、高分子樹脂と消火物質との複合体形態である高分子樹脂単層膜を製造することで、難燃性を一層高めることができる。
【0037】
第1高分子樹脂単層膜10に含まれた高分子樹脂(以下、「第1高分子樹脂」とも称する)と第2高分子樹脂単層膜20に含まれた高分子樹脂(以下、「第2高分子樹脂」とも称する)とは同じものであってもよく、相異なるものであってもよい。しかし、第1高分子樹脂単層膜10に含まれた消火物質(以下、「第1消火物質」とも称する)と第2高分子樹脂単層膜20に含まれた消火物質(以下、「第2消火物質」とも称する)とは、相異なる種類である。特に、第1高分子樹脂単層膜10に含まれた消火物質としては、第2高分子樹脂単層膜20に含まれた消火物質に比べてより低い温度範囲で作用するものを用いる。このような意味で、第1高分子樹脂単層膜10を低温活性層、第2高分子樹脂単層膜20を高温活性層と区分して称することもできる。
【0038】
例えば、第1消火物質は、低温範囲(例えば、200~400℃)で消火及び難燃効果を発現可能な物質である。第2消火物質は、高温範囲(例えば、700℃以上)で消火及び難燃効果を発現可能な物質である。このようにして第1高分子樹脂単層膜10と第2高分子樹脂単層膜20とに含まれたそれぞれの消火物質の作用温度範囲を異なるものにすれば、温度に応じて段階的な消火効果を奏することができる。
【0039】
望ましくは、第1高分子樹脂単層膜10はポリジメチルシロキサン(PDMS)及びAl(OH)3を含み、第2高分子樹脂単層膜20はPDMS及びCaBr2を含む。すなわち、第1高分子樹脂及び第2高分子樹脂は同じくPDMSであり、第1消火物質はAl(OH)3であり、第2消火物質はCaBr2である。Al(OH)3の消火機序はCaBr2の消火機序と異なって、Al(OH)3がCaBr2よりも低い温度範囲で消火作用をする。
【0040】
図1の複合パッド100は、第1高分子樹脂単層膜10上に第2高分子樹脂単層膜20が積層されているものであって、二重膜構造を有する。
図2の複合パッド100’は、二つの第1高分子樹脂単層膜10同士の間に第2高分子樹脂単層膜20が介在されているものであって、三重膜構造を有する。三重膜構造の他の例として、二つの第2高分子樹脂単層膜20同士の間に第1高分子樹脂単層膜10が介在されていてもよいが、より低い温度範囲で作用する消火物質を含む第1高分子樹脂単層膜10が第2高分子樹脂単層膜20よりも外側に位置して、第1高分子樹脂単層膜10が第2高分子樹脂単層膜20よりも二次電池側に近く適用される構造が望ましい。
【0041】
図2の複合パッド100’は、三層構造の消火及び難燃機能性複合パッドである。大気安定性に優れたAl(OH)
3が最外郭層に含まれることで、内層のCaBr
2を含む高分子樹脂膜の安定性確保に役立ち、火災が発生したとき、炎と接触して発生する熱によって比較的低い温度(180~200℃)で分解されて不燃性の酸化アルミニウム(Al
2O
3)と水(H
2O)とを生成する。このとき、生成された水は炎の温度を迅速に下げる冷却作用をする。
【0042】
その後、炎の燃焼が進行し続ければ、複合パッド100’の温度が増加して内層に含まれたCaBr2が約730℃で熱分解される。CaBr2が酸素(O2)によって熱分解されれば、CaOとBr2とを生成する。CaBr2が水によって熱分解されれば、CaOとHBrとを生成する。このうち、熱分解産物であるHBrは、燃焼によって生成された高いエネルギーの活性ラジカル(・O・、OH・、・H・)が連鎖担体(chain carrier)として作用することを抑制し、化学的消火効果を有する。
【0043】
以上のように、電池安全性を向上させるための難燃及び消火機能性の難燃性部材は、本発明で提案するように、多層構造の複合パッド100、100’で構成され、最外郭層である第1高分子樹脂単層膜10には低温範囲で消火及び難燃効果を発現する消火組成物が含まれ、内層である第2高分子樹脂単層膜20には高温で消火機序が発現される消火組成物が含まれるようにすることで、温度に応じて段階的に消火効果を奏することができる。このような構造で製造された高分子系複合パッドは、
図4に示されたように、二次電池モジュール内の含まれ得る。
【0044】
図4は、本発明による二次電池モジュールの概略的な構成を示した図である。
図4を参照すると、二次電池モジュール200は、複数の二次電池210及び複数の複合パッド100’を含む。複合パッド100’は、二次電池210同士の間に挿入されて、火災の発生時に吸熱反応を通じて熱の移動を遅延させ、火災による燃焼作用及び伝播を抑制することで消火機能を発現するようになる。
【0045】
二次電池210は、パウチ型二次電池であり得る。それぞれの二次電池210は板状構造であり、一面または両面が隣接した他の二次電池に対面するように積層配列されて積層体を形成し得る。複合パッド100’は、このような二次電池210の積層体を囲むように挿入されてもよいが、ある二次電池210で発火したとき、他の二次電池への伝播または拡散を阻止するためには、図示したように二次電池210同士の間毎に挿入されることが望ましい。
【0046】
このような二次電池モジュール200を少なくとも一つ含む二次電池パックも提供され得る。二次電池パックは、所望の出力及び容量に応じて単位モジュールとして前記二次電池モジュール200を組み合わせて製造され得、搭載効率性、構造的安定性などを考慮すると、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグ-インハイブリッド電気自動車、電力貯蔵装置などの電源として望ましく適用され得るが、適用範囲がこれらに限定されることはない。
【0047】
以下、このような複合パッド100’の製造方法について説明する。
【0048】
複合パッド100’は、第1高分子樹脂単層膜10及び第2高分子樹脂単層膜20を順次に製膜して製造する。
【0049】
まず、第1消火物質と第1高分子樹脂とを混合した第1難燃性組成物を製造する。第1難燃性組成物を適切な基材、例えばアルミニウムプレートやガラス基板のような基板に塗布した後、硬化させて第1高分子樹脂単層膜10を形成する。均一な厚さの製膜のため、キャスティング又はそれに準ずる工程を使用できる。キャスティング工程では、製膜装置のベルト上に第1難燃性組成物を供給し、キャスティングダイでプレスして均一な厚さの膜を形成する。
【0050】
第2消火物質と第2高分子樹脂とを混合した第2難燃性組成物も製造する。第1高分子樹脂単層膜10上に前記第2難燃性組成物を塗布した後、硬化させて第2高分子樹脂単層膜20を形成する。均一な厚さの製膜のため、キャスティング又はそれに準ずる工程を使用できる。この工程が完了すれば、二重膜、すなわち二層構造の複合パッド100が製造される。
【0051】
その後、第2高分子樹脂単層膜20上に前記第1難燃性組成物を塗布した後、硬化させて第1高分子樹脂単層膜10を形成する。均一な厚さの製膜のため、キャスティング又はそれに準ずる工程を使用できる。
【0052】
前記第1難燃性組成物及び第2難燃性組成物を塗布した後の硬化は、85℃で4時間維持して実施できる。
【0053】
ここで、前記第1難燃性組成物は、第1高分子樹脂に第1消火物質を0%超50%以下で添加して第1混合物を形成した後、撹拌装置を用いて前記第1混合物を撹拌することで、第1消火物質を第1高分子樹脂内に均一に分散させる。第1混合物の均一な混合のため、マグネチックバーを用いた撹拌及び/または音波処理(sonication)を行ってもよい。その後、硬化剤を一定比率で添加し、均一に混合されるように撹拌作業をさらに行って製造する。
【0054】
そして、前記第2難燃性組成物は、第2高分子樹脂に第2消火物質を0%超80%以下で添加して第2混合物を形成した後、撹拌装置を用いて前記第2混合物を撹拌することで、第2消火物質を第2高分子樹脂内に均一に分散させる。その後、硬化剤を一定比率で添加し、均一に混合されるように撹拌作業をさらに行って製造する。
【0055】
そして、前記第1消火物質はAl(OH)3を含み、前記第2消火物質はCaBr2を含み得る。前記第1高分子樹脂及び第2高分子樹脂はPDMSであり得る。PDMS系複合パッドは難燃性及び柔軟性を確保することができる。
【0056】
以上のようにして、三重膜、すなわち三層構造の複合パッド100’を製造することができる。また、積層工程を繰り返すことで、最終的な目標厚さに到達するまで三層またはそれ以上の多層構造パッドを製造してもよい。複合パッド100’は、最初に第1高分子樹脂単層膜10を塗布したアルミニウムプレートやガラス基板のような基板または製膜装置のベルトから容易に分離されてフリー・スタンディングする固体化したプレートで得られる。
【0057】
以下、実験例を通じて本発明をより詳しく説明する。しかし、本発明が後述する実験例に制限されることはない。
【0058】
比較例1-1:
PDMSのみを持って高分子樹脂単層膜を製造した。すなわち、消火物質を含まないPDMS膜を製造した。実験に用いた製膜方法では最小厚さ0.4mmから製造可能であることを確認した。比較例1-1のPDMS膜の厚さは0.4mmであった。
【0059】
比較例1-2:
PDMSのみを持って高分子樹脂単層膜を製造した。すなわち、消火物質を含まないPDMS膜を製造した。厚さは1.5mmであった。
【0060】
比較例2-1:
PDMS及びAl(OH)3を含む第1高分子樹脂単層膜(PDMS+Al(OH)3)を製造した。厚さは0.4mmであった。
【0061】
比較例2-2:
PDMS及びAl(OH)3を含む第1高分子樹脂単層膜を製造した。厚さは1.5mmであった。
【0062】
比較例3-1:
PDMS及びCaBr2を含む第2高分子樹脂単層膜(PDMS+CaBr2)を製造した。厚さは0.4mmであった。
【0063】
比較例3-2:
PDMS及びCaBr2を含む第2高分子樹脂単層膜を製造した。厚さは1.5mmであった。
【0064】
比較例4:
厚さ0.5mmでPDMS膜を製造した後、PDMS及びCaBr2を含む第2高分子樹脂単層膜を0.5mmの厚さで積層した。その上に厚さ0.5mmのPDMS膜をさらに積層した。このようにしてPDMS/PDMS+CaBr2/PDMSの三重膜構造を1.5mmの厚さで製造した。
【0065】
比較例5:
厚さ1.5mmの雲母(Mica)シートを用意した。
【0066】
実施例:
PDMS及びAl(OH)3を含む第1高分子樹脂単層膜を0.5mmの厚さで製造した後、PDMS及びCaBr2を含む第2高分子樹脂単層膜を厚さ0.5mmで積層した。その上に厚さ0.5mmで、PDMS及びAl(OH)3を含む第1高分子樹脂単層膜をさらに積層した。このようにしてPDMS+Al(OH)3/PDMS+CaBr2/PDMS+Al(OH)3の三重膜構造を1.5mmの厚さで製造した。
【0067】
【0068】
図5の(a)及び(b)は比較例1-1の写真であり、(c)は比較例2-1の写真であり、(d)は比較例3-1の写真である。PDMS単一膜及び消火物質が含まれた膜が何れも0.4mmの厚さを有する場合である。本発明に用いた製膜方法によって最小0.4mmの厚さから製膜が可能であることさを確認した結果である。
【0069】
比較例及び実施例の難燃特性を評価するため、UL-94(アメリカ保険業者安全試験所、垂直燃焼試験)評価を実施した。UL-94は、難燃性(火に燃え難い程度)評価項目であって、特にプラスチックに対する難燃性を評価する項目である。評価の目的は、物品の垂直方向に炎を加えたとき、物品の燃焼様相及び周囲への火炎伝播程度を評価することである。これを通じて自己消火性(self extinguish)程度を調べることができる。実際の規格試験は、所定大きさの試片を用意し、試片の下端中央に十数回炎を接触させ、6インチ炎を試片から離し、試片の燃焼時間を測定する。消火後、直ちに20秒間再び炎を接触させてから除去する。燃焼時間、グロー時間(grow time)及び12インチ下方に敷いた外科用脱脂綿の着火有無を記録して等級を分ける。
【0070】
比較例1-2及び実施例に対し、評価前、炎に接触してから15秒までの比較写真を
図6に示した。
【0071】
比較例1-2は消火物質を含まないものである。炎接触時間が長くなるにつれ、火炎グローのため赤く見える面積が増加している。これに比べて、実施例では、炎接触時間が長くなってもグロー自体が少ない。したがって、本発明の場合、難燃性を有することが確認でき、二次電池モジュールやパックの内部にこのような複合パッドを適用すると、二次電池で炎が発生してもそれ以上の大きい火災に広がることを防止することができると期待できる。
【0072】
図7は、比較例及び実施例に対し、二次電池に発火が転移する時間を測定する実験の模式図である。代表的に実施例を用いた場合を示した。
【0073】
ガスバーナー300上のダイ310に実施例である複合パッド100’を載置し、その上に二次電池210を位置させた後、二次電池210の電圧をモニタリングすることで、ガスバーナー300から発生した炎が転移する時間を測定した。使用装置は、グラフテック社製のGL3820であった。
【0074】
図8は、比較例及び実施例に対し、二次電池に発火が転移する時間を測定して示したグラフである。
【0075】
この実験にはすべて1.5mmの厚さを有するものが使われ、断層構造である比較例2-2、比較例3-2、三重構造である実施例、比較例4、及び雲母シートである比較例5であった。
【0076】
図8において、横軸は時間、左側縦軸は二次電池210の電圧、右側縦軸は二次電池210の温度を示す。ガスバーナー300の炎が比較例及び実施例を通じて二次電池210に転移すれば、二次電池210の電圧測定が不可能になる瞬間に温度の最大ピークが現れる。このピークの出現時点が発火転移時間である。表1に発火転移時間を示した。
【0077】
【0078】
図8及び表1の結果から分かるように、本発明の実施例の場合、発火転移時間が著しく長い。特に、本発明の実施例は、断層構造である比較例2-2、比較例3-2だけでなく、熱伝導性の面で相対的に有利な比較例5よりも優れた性能を見せる。さらに、同じ多層構造であって三重構造である比較例4よりも約70%以上性能が良いことが確認される。
【0079】
特に、
図8のグラフに示されたように、本発明の実施例は、低温領域から高温まで(発火前まで)の時間に応じた温度曲線において、温度上昇の傾きが緩やかである。すなわち、低温活性層同士の間に高温活性層を介在させた構造であるとき、熱伝播(thermal propagation)抑制効果に優れると判断される。
【0080】
以上、本発明の望ましい実施形態を詳しく説明したが、本発明の権利範囲が上述した実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を用いた当業者の多様な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
10 第1高分子樹脂単層膜
20 第2高分子樹脂単層膜
100 複合パッド
100’ 複合パッド
200 二次電池モジュール
210 二次電池
300 ガスバーナー
310 ダイ