(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】血液がんを治療するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20240729BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240729BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240729BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P35/02
A61K39/395 N
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2022555613
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(86)【国際出願番号】 US2019062184
(87)【国際公開番号】W WO2021101521
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-06-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510293969
【氏名又は名称】プロヴェクタス ファーマテック,インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】507132329
【氏名又は名称】ユーティーアイ リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100086368
【氏名又は名称】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】エリック エー. ワクター
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】アル ナレンドラン
(72)【発明者】
【氏名】サトビアー タークル
(72)【発明者】
【氏名】ルーシー スウィフト
(72)【発明者】
【氏名】チュンフェン ジャン
(72)【発明者】
【氏名】モヒト ジェイン
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0133940(US,A1)
【文献】国際公開第2018/083635(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0290318(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/352
A61P 35/02
A61K 39/395
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白血病細胞を有する哺乳動物対象に第1のがん細胞毒性剤として静脈内(IV)投与される
ための治療薬であって、
前記静脈内(IV)投与は、前記第1のがん細胞毒性剤を、
前記白血病細胞を有する前記哺乳動物対象に投与するステップ(A)と、
前記白血病細胞の死を誘導するに十分な期間維持するステップ(B)とを含み、
前記第1のがん細胞毒性剤は、治療有効量のハロゲン化キサンテン、その薬学的に許容可能な塩またはそのC
1-C
4アルキルエステルであるローズベンガル二ナトリウム塩が薬学的に許容可能な水性媒体に溶解または分散されて構成される治療薬。
【請求項2】
前記ステップ(A),(B)は繰り返し行われる、請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
前記白血病細胞は、急性B細胞またはT細胞リンパ芽球性白血病細胞、あるいは急性骨髄性白血病細胞である、請求項1に記載の治療薬。
【請求項4】
前記静脈内(IV)投与は、前記哺乳動物対象においてインビボで行われる、請求項1に記載の治療薬。
【請求項5】
前記哺乳動物対象は、ヒト、類人猿、サル、実験動物、コンパニオンアニマル、および食用動物からなる群から選択される、請求項4に記載の治療薬。
【請求項6】
前記薬学的に許容可能な水性媒体は
、等張性の水溶液である、請求項1に記載の治療薬。
【請求項7】
前記ステップ(A)の静脈内(IV)投与は、薬学的に許容可能な媒体に溶解または分散された、第2の治療有効量の第2の異なる作用のがん細胞毒性剤の前記哺乳動物対象への投与と併せて実施
する、請求項1に記載の治療薬。
【請求項8】
前記第2のがん細胞毒性剤は、薬学的に許容可能な固体媒体に溶解または分散されている、請求項7に記載の治療薬。
【請求項9】
前記第2のがん細胞毒性剤を含有する前記薬学的に許容可能な固体媒体は、経口投与される、請求項8に記載の治療薬。
【請求項10】
前記第2のがん細胞毒性剤は、分子量
が200
~1000Daの低分子である、請求項7に記載の治療薬。
【請求項11】
前記低分子は、前記第1のがん細胞毒性剤との相乗効果を示す、請求項7に記載の治療薬。
【請求項12】
前記第2のがん細胞毒性剤は、薬学的に許容可能な水性媒体に溶解または分散されている、請求項7に記載の治療薬。
【請求項13】
前記第2のがん細胞毒性剤を含有する前記薬学的に許容可能な水性媒体は、静脈内投与される、請求項12に記載の治療薬。
【請求項14】
前記第2のがん細胞毒性剤は、無傷モノクローナル抗体またはそのパラトープ含有部分を含む、請求項13に記載の治療薬。
【請求項15】
前記無傷モノクローナル抗体またはそのパラトープ含有部分は、免疫チェックポイントタンパク質阻害剤である、請求項14に記載の治療薬。
【請求項16】
前記免疫チェックポイントタンパク質阻害剤は、CTLA-4、PD-1、PD-L1、PD-L2、およびOX40からなる群のうちの1つまたは複数から選択される1つまたは複数のタンパク質性物質に結合する、請求項15に記載の治療薬。
【請求項17】
前記第1のがん細胞毒性剤および前記第2のがん細胞毒性剤は、同時に、または互いに約3時間以内に投与される、請求項7に記載の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白血病、リンパ腫、および多発性骨髄腫などの血液がんを治療するための治療レジメンに係り、特に、小児においてそのような治療を実施するための治療レジメンに関する。
【背景技術】
【0002】
成人の血液には、1マイクロリットル(μL)あたり約7000個の白血球が含まれる。これらの白血球のうち、約65%が顆粒球(約4500個/μL)、約30%が単球(約2100個/μL)、約5%がリンパ球(約350個/μL)である[非特許文献1]。上記の白血球数は、当然ながら、一般化された平均値であり、顆粒球数は正常な患者のものである。すなわち、疾患のない患者は、典型的には、約2000個から約7000個/μLの顆粒球数を有する。
【0003】
慢性顆粒球性白血病(CGL)とも呼ばれる慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞の新生物疾患である。その初期段階では、白血球増加、末梢血中の未熟顆粒球数の増加、脾腫および貧血が特徴として生じる。これらの未熟顆粒球には、好塩基球、好酸球、および好中球が含まれる。未熟顆粒球は、骨髄、脾臓、肝臓、時には他の組織にも蓄積する。この病気に罹患している患者では、1マイクロリットル(μL)あたりの白血球数が75000を超えるのが特徴であり、その数は500000/μLを超える場合もある。
【0004】
CMLは、米国において白血病全体の約20%を占めている。毎年100万人あたり約15人の新規患者が報告され、年間で約3000~4000人の新規患者が発生している。この病気は、45歳未満のヒトでは稀であり、65歳までに急速に増加し、その後も高率に推移する。慢性骨髄性白血病患者の診断時からの寿命の中央値は、約4年である。
【0005】
CML患者の約60~80%は、急性転化を発症する。急性転化では急性白血病の症状が現れる。芽球細胞上に存在する特定のマーカにより、急性転化時のこれらの芽球細胞がリンパ系由来であることが示唆される場合がある。
【0006】
急性転化の治療に使用される化学療法剤は、他の急性白血病の治療に使用されるものと同じである。例えば、急性骨髄性白血病の治療に使用されるシタラビンとダウノルビシンは、CMLの急性転化の治療にも用いられる。また、急性リンパ性白血病に対して用いられる治療レジメであるプレドニゾンとビンクリスチンも、CMLの急性転化の治療に用いられる。しかし、CMLの急性転化段階におけるこれらの薬物療法の成功率は、他の急性白血病の治療の成功率よりもさらに低い。
【0007】
小児のがんは稀であり、その発生率は、年間100万人(年齢15歳未満)あたり140~155人である。これは、毎年7000人に1人の小児ががんと診断されていることを意味する。がんは稀であるにもかかわらず、悪性新生物は、5歳から14歳の小児において事故の次に多く見られる死亡原因であり、死亡率の23%を占める。小児がんは、化学療法以前の時代には多くが致命的であったが、その生存率は、1960年代の20~30%から1970年代には62%、最近では83%と劇的に向上している[非特許文献2]。
【0008】
白血病は最も多く見られる小児がんであり、小児(1~14歳)がんの診断全体の約30%を占めている。急性リンパ芽球性白血病(ALL)は小児がんの約25%を占め、急性骨髄性白血病(AML)は残りの約5%を占めている。非ホジキンリンパ腫(NHL)とホジキンリンパ腫は、それぞれ小児がんの約6%と約4%を占める。(非特許文献2)
【0009】
ALLに対する現在の治療法には、ペグ化アスパラギナーゼ、リポソームダウノルビシン、リポソームアナマイシン、スフィンゴソームビンクリスチン、およびリポソームシタラビンが含まれる。AMLに対する現在の治療法には、全トランス型レチノイン酸(ATRA)、三酸化ヒ素、ATRAと組み合わせたアントラサイクリン、および大量シタラビンと組み合わせたイダルビシンの使用が含まれる。ソラフェニブ(マルチキナーゼ阻害剤)とクロファラビンおよびシタラビンとの併用は、第I相試験で成功を収めており[非特許文献3]、カリケアマイシン結合CD33抗体であるゲムツズマブオゾガマイシン(商品名:マイロターグ(登録商標))は有望であるとされている[非特許文献4]。
【0010】
成人の非ホジキンリンパ腫(NHL)は一般に低・中悪性度であるが、小児のNHLは高悪性度であることが多い。NHLは、表現型(B細胞/T細胞)と分化度によって分類可能であり、次の3つのカテゴリーに分類される:(I)バーキット/バーキット様リンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を含む成熟B細胞NHL;(II)リンパ芽球性リンパ腫(LL)(ほとんどが前駆T細胞);(III)未分化大細胞リンパ腫(ALCL)(成熟T細胞またはヌル細胞)。バーキットリンパ腫(BL)が最も多く、小児NHLの1/3を占める[非特許文献2]。
【0011】
リツキシマブ(CD20抗体)の単独使用および化学療法との併用は、BL患者およびDLBCL患者を対象に臨床試験が行われている[非特許文献5および6]。CD30キメラ抗体とモノメチルアウリスタチンEとからなるブレンツキシマブベドチンは、成人の第II相試験で奏効と寛解を示しており[非特許文献7]、一方クリゾチニブおよびALK(未分化リンパ腫キナーゼ)阻害剤は、第I相試験で9人中8人のALCL患者に奏効をもたらしている[非特許文献8]。
【0012】
ホジキンリンパ腫(HL)は、15歳から19歳の年齢層に最も多く見られるがんであり、15歳未満の年齢層よりも4~5倍高い頻度で発生している。HLは一般的に、古典的HLと結節性リンパ球優位型HLに分類される。
【0013】
HLは、MOPP(ナイトロジェンマスタード、ビンクリスチン、プロカルバジン、およびプレドニゾンを含む)化学療法レジメンが導入された1960年代までは、致死的な病気であった。小児HLの治癒率は過去20年間で90%を超え、最も治癒が見込める小児がんの一つとなっている。残念ながら、小児HLの生存者は、治療に関連した重大な長期疾病リスクおよび長期死亡リスクにさらされている。
【0014】
従前の治療では、化学療法と共に放射線を使用することが一般的であったため、以前に治療を受けた女性において乳がんが多く発見されるようになっていた。最近のアプローチでは、迅速初期奏効者(RER)と呼ばれる2サイクルの化学療法後に完全奏効した患者には放射線の使用を制限し、低リスクのRERには領域照射療法(IFRT)を省略するとともに、男性には性腺毒性の低いアルキル化療法を用い、女性にはIFRTを避けるという、性別に基づいた治療法の変更が行われている。
【0015】
小児白血病の生存率は大幅に改善されているものの、再発は治療失敗の主要な原因となっている。小児ALL患者の約15~20%、および小児AML患者の約30~40%が再発しており、ALLの再発は4番目に多く見られる小児悪性腫瘍とされている。
【0016】
再発小児白血病の治療には、化学療法レジメンの強化や骨髄移植(BMT)の利用が含まれる。しかし、併用化学療法の強化や第二選択薬の導入は、累積毒性を伴うことが多く、効果の増分はわずかである。
【0017】
小児がんに対する免疫系の相互作用を理解するには、適切な動物モデルを利用できることが重要な要素である。現在の異種移植モデルは、重症複合免疫不全(SCID)マウスを用いて確立されているため、免疫系の寄与に関する情報を得ることができないという限界がある。また、免疫正常動物におけるヒト造血幹細胞の再構築などのアプローチは、煩雑でコストが高く、複雑な生物学的変数をシステムに導入してしまうことが多い。
【0018】
近年、マウス胎児をヒト腫瘍細胞に対して寛容化することで、免疫正常マウスを用いた新たな異種移植腫瘍モデルが開発された[非特許文献9]。このモデルを使用することで、異種移植技術を通じてがん細胞と免疫系との複雑な相互作用をよりよく説明することができるため、有利である。
【0019】
成人のがん性腫瘍に有用な抗がん剤グループの1つは、ハロゲン化キサンテン、またはその薬学的に許容可能な塩である。特許文献1~7を参照されたい。これらのハロゲン化キサンテンのうち、ローズベンガル二ナトリウム(4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン二ナトリウム;RB)は特に効果的で容易に利用できることがわかっている。
【0020】
PV-10は、0.9%生理食塩水中のRBの10%無菌溶液であり、乳幼児の肝機能を測定するために臨床的に使用されている[非特許文献10]。これまでの研究では、PV-10ががん細胞のリソソームに蓄積し[非特許文献11]、様々な成人がんで細胞死を誘導することが示されている[非特許文献12~16]。
【0021】
PV-10は、単体の抗がん剤として、また低分子抗がん剤やモノクローナル抗体抗がん剤との併用で、多くの臨床試験で使用されている。そのうちのいくつかの試験について以下に述べる。細胞毒性剤としてPV-10を単独で使用した第I相および第II相臨床試験では、「有害事象は主に軽度から中等度で治療部位に限局しており、治療に関連したグレード4または5の有害事象は生じなかった」[非特許文献17]、「試験治療下で発現した有害事象(TEAE)は、各薬剤の既存のパターンと一致しており、主にPV-10に起因するグレード1~2の注射部位反応とペムブロリズマブに起因するグレード1~3の免疫媒介反応であり、大きな重複や予想外の毒性は見られなかった:・・・」[非特許文献18]と例示的に報告されている。このように、RBはがん細胞に対しては毒性があるが、非がん細胞に対しては無毒であるように思われる。
【0022】
成人の腫瘍と小児の腫瘍とではしばしば動態が大きく異なるため、RBおよび類似のハロゲン化キサンテンを小児のがん細胞、特にがん性血液細胞に対して使用した場合に有効であるかどうかは不明であった。細胞培養物中の神経芽細胞腫細胞株に対し、RBを単独でまたは既知の抗がん剤と組み合わせて添加した予備的なインビトロ試験、およびマウスへ病巣内注射した異種移植試験において、がん細胞の死滅が示されたことが、本発明者の一人および共同研究者によって報告された[非特許文献19]。
【0023】
また、ハロゲン化キサンテンを腫瘍内に病巣内投与することで、活性な細胞毒性剤を最高濃度で腫瘍に直接供給することができる。現在企図されている後述の治療法では、標的のがん性血液細胞から離れた場所に投与する場合が多いため、殺がん効果のあるハロゲン化キサンテン剤の有効性は低下する可能性がある。
【0024】
しかし、難治性転移性悪性黒色腫患者を対象とした第II相臨床試験において、PV-10の病巣内(IL)注射は腫瘍の退縮を誘導し、全奏効率は51%であった[非特許文献17]。PV-10は、in-transitまたは転移性悪性黒色腫患者を対象とした第II相臨床試験において、放射線治療との併用でも有効性を実証し、全奏効率は86.6%であった[非特許文献20]。
【0025】
直接的ながん細胞死の誘導に加えて、PV-10は、マウス研究[非特許文献12、13、21]とヒト臨床試験[非特許文献9、22、23、24]の両方において、腫瘍特異的免疫反応を誘導することも示されている。悪性黒色腫のマウスモデルでは、PV-10による治療は、悪性黒色腫細胞の壊死と単核腫瘍浸潤リンパ球の局所的な増加を誘導した[非特許文献22]。
【0026】
腫瘍抗原を近くの抗原提示細胞(APC)に放出する、PV-10誘導性の免疫原性細胞死によって、抗腫瘍T細胞およびB細胞の活性化が促進されたことが示唆されている。同系のマウス大腸がんモデルでは、PV-10によりインビトロで処理したがん細胞を同じ腫瘍を持つマウスに注入したところ、腫瘍の増殖が遅くなった[非特許文献12]。さらに、同系のマウス悪性黒色腫モデルでは、病巣内PV-10と抗PD1抗体との併用治療により、腫瘍の増殖が遅延し、T細胞の活性化が促進された[非特許文献24]。
【0027】
以下の開示では、企図される発明を説明するとともに、小児白血病の治療においてPV-10等のハロゲン化キサンテンを使用した研究の結果を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】米国特許第6331286号
【文献】米国特許第7390668号
【文献】米国特許第7648695号
【文献】米国特許第9107887号
【文献】米国特許第9808524号
【文献】米国特許第9839688号
【文献】米国特許第10130658号
【文献】米国特許第5998597号
【文献】米国特許第6493570号
【文献】米国特許第8974363号
【文献】米国特許第10471144号
【非特許文献】
【0029】
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【文献】Swift et al., Blood, 132, No. Suppl 1: 5207 (November 21, 2018)
【発明の概要】
【0030】
本発明は、血液系非腫瘍性がん細胞を有する哺乳動物対象を治療する方法を企図する。例示的な血液系非腫瘍性がんには、白血病、リンパ腫、および骨髄腫が含まれる。本方法は、(A)上記のような哺乳動物対象に、治療有効量のハロゲン化キサンテン、その薬学的に許容可能な塩またはそのC1-C4アルキルエステルを、薬学的に許容可能な水性媒体に溶解または分散された第1のがん細胞毒性剤として投与するステップを含む。哺乳動物対象は、血液系非腫瘍性がん細胞の死を誘導するのに十分な期間維持される。企図される投与は通常、繰り返し行われる。
【0031】
企図される治療方法は、当該哺乳動物対象への、薬学的に許容可能な媒体に溶解または分散された、第2の治療有効量の第2の異なる作用のがん細胞毒性剤の投与と併せて実施することもできる。第2のがん細胞毒性剤は、低分子、無傷抗体、またはパラトープ含有抗体部分であり得る。第1および第2のがん細胞毒性剤は、同一のまたは異なる媒体中で一緒に、または異なる時間に投与することができる。第2のがん細胞毒性剤は、固形のタブレット、カプセル、錠剤等の形態で、または液体の媒体を用いて投与することができる。
【0032】
一態様において、分子量が約200~約1000Daである低分子がん細胞毒性剤の使用が企図される。ドキソルビシン、エトポシド、ビンクリスチンなどの、ハロゲン化キサンテンと相乗作用する化合物が好ましい。無傷抗体、またはパラトープ含有抗体部分は、がん細胞毒性剤の第2のグループである。これらの薬剤の中で好ましいのは、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれるものである。[例えば、非特許文献25参照]
【0033】
本発明はまた、血液系非腫瘍性がん細胞を有する哺乳動物対象の治療のための、薬学的に許容可能な水性媒体に溶解または分散された第1のがん細胞毒性剤としての治療有効量のハロゲン化キサンテン、その薬学的に許容可能な塩またはそのC1-C4アルキルエステルの使用も企図し、ハロゲン化キサンテンは、血液系非腫瘍性がん細胞の死を誘導するのに十分な期間、哺乳動物対象において維持される。更なる実施形態において、第1のがん細胞毒性剤であるハロゲン化キサンテン、その薬学的に許容可能な塩またはそのC1-C4アルキルエステルは、ローズベンガル、その薬学的に許容可能な塩またはそのC1-C4アルキルエステルである。更に別の実施形態において、ローズベンガルはローズベンガル二ナトリウム塩である。更に、血液系非腫瘍性がん細胞は、白血病、リンパ腫、または骨髄腫である。更に、血液系非腫瘍性がん細胞、白血病、リンパ腫、または骨髄腫は、急性B細胞またはT細胞リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、およびホジキンリンパ腫からなる群から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
一態様において、本発明は、白血病、リンパ腫、および骨髄腫等の血液系非腫瘍性がん細胞の治療(殺傷)に用いるための医薬組成物を企図する。企図される医薬組成物は、(液体である)水性媒体中に、ハロゲン化キサンテン、ハロゲン化キサンテンの生理的に許容可能な塩、またはそのC1-C4アルキルエステルである第1のがん細胞毒性剤を、0.1%(w/v)から約20%(w/v)の濃度で含有する。特に好ましいハロゲン化キサンテン塩は、PV-10中に存在するようなローズベンガル(4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン)二ナトリウム塩である。本組成物は、白血病、リンパ腫、および骨髄腫等の血液系非腫瘍性がん性疾患、より具体的には、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、またはホジキンリンパ腫(HL)を有するヒトなどの哺乳動物に対し、治療有効量の第1のがん細胞毒性剤を供給するために投与される。
【0035】
哺乳動物対象は、血液系非腫瘍性がん細胞を死滅させるのに十分な時間維持される。がんが死滅したという事実、及び死滅したがんの相対的な量は、血液系非腫瘍性がんの状態を分析するための通常の手段によって判定することができる。
【0036】
哺乳動物対象は、典型的にはその後再び治療され、通常は複数回治療される。維持の期間、および更なる投与を実施するという判断は、いずれも哺乳動物の種、個々の哺乳動物対象、疾患の重症度、疾患の種類、対象の年齢および健康状態などに応じて決定することが可能である。これらの要素は通常、血液系非腫瘍性がんを治療する技術に熟練した医師によって検討される。
【0037】
また、通常は検出可能ながん細胞を体から取り除くことが望まれるが、常にそれが可能であるとは限らない。時には、疾患を安定した状態でコントロールするのに十分な量のがん細胞を死滅させるか、または他の治療が実施できるようにがんによる細胞の負荷を軽減することで十分な場合もある。
【0038】
以下に提供されるデータは、いくつかの白血病細胞株に対してインビトロでRBを使用する場合のIC50値が約50~約100μMであることを示している。RBの分子量が1018g/molであることを考えると、上記のIC50値では、1リットル当たりに約50~約100mgのRBが含まれる計算となる。インビボ治療中にがん細胞と接触させる際には、この濃度を達成することが好ましい。
【0039】
古典的な静脈内(IV)での診断用途でRBを用いる場合には、1回100mgのRBをIV投与していた。PV-10の臨床試験では、RBは1500mgのIV投与で耐容性が確認されている。標準的な成人の血液量は約5Lである。したがって、血流中でIC50値を達成するべく血中濃度を100mg/Lとするには、成人患者には約500mgのRBをIV投与する必要がある。RBは循環血液から短時間で排出されるため(t1/2は約30分)、IV投与では、循環血液中のRBのピークレベルを維持するために、継続的な(すなわち、最大で数時間以上の)注入が必要となる。
【0040】
IC50値レベルでの投与は、循環しているすべての血液系非腫瘍性がん細胞に対して毒性があるわけではない。つまり、IC50値では約半数の細胞のみが影響を受ける。したがって、約1500mg(すなわち、300μM)までの、IC50値の倍数の量でRBを投与することが好ましいといえる。
【0041】
代替的には、残存腫瘍負荷に対する機能的免疫反応を開始させるために、ほんの一部のがん細胞のみを死滅させれば十分な場合もある。後者のケースは、毒性反応(すなわち、急速に死滅したがん細胞が大量に存在することによる、いわゆる「腫瘍崩壊症候群」)を回避するために好ましいと考えられる。この場合、ハロゲン化キサンテンががん細胞に細胞毒性を与えることによって生じたがん細胞の残骸が免疫反応を誘導し、その結果、がん性の血液系非腫瘍性細胞がさらに死滅する。
【0042】
以下に列挙する同様に有用なハロゲン化キサンテン化合物およびその薬学的に許容可能な塩は、互いに約3倍異なる分子量を有し得る(特許文献2の第15~16欄の表3を参照)。RB以外のハロゲン化キサンテンの正確な使用量は、そのような各化合物の公開されている分子量とRBの分子量とに基づいて計算されることが好ましい。
【0043】
企図されるハロゲン化キサンテンには、特に好適であるローズベンガル(4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン)、エリスロシンB、フロキシンB、4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン、2’,4,5,6,7-ペンタクロロ-4’,5’,7’-トリヨードフルオレセイン、4,4’,5,6,7-ペンタクロロ-2’,5’,7’-トリヨードフルオレセイン、2’,4,5,6,7,7’-ヘキサクロロ-4’,5’-ジヨードフルオレセイン、4,4’,5,5’,6,7-ヘキサクロロ-2’,7’-ジヨードフルオレセイン、2’,4,5,5’,6,7-ヘキサクロロ-4’,7’-ジヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’-トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,7’-トリヨードフルオレセイン、4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,5’-トリヨードフルオレセイン、および4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,7’-トリヨードフルオレセインが含まれる。医薬化合物と共に薬学的に許容可能な塩を形成する、一般的に使用される薬学的に許容可能な酸および塩基のリストについて、読者は非特許文献26を参照されたい。
【0044】
上記ハロゲン化キサンテン化合物の内の1つのC1-C4アルキルエステルも使用することができ、C2、すなわち、エチルエステルを使用することが好ましい。例えば、RB、エチルレッド3(エリスロシンエチルエステル;2’,4’,5’,7’-テトラヨード-フルオレセインエチルエステル)、4,5,6,7-テトラブロモ-2’,4’,5’,7’-テトラヨードフルオレセイン、およびエチルフロキシンB(4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラブロモフルオレセインエチルエステル)の各々を用いたインビトロ試験では、CCL-142腎腺がんに対して同様の抗腫瘍作用が示された。
【0045】
ローズベンガルの好ましい形態は、以下の構造式を有するローズベンガル二ナトリウムである。
【0046】
【0047】
上記のハロゲン化キサンテンを含む医薬組成物の医薬用途の更なる詳細は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる特許文献1~11に記載されている。
【0048】
企図されるハロゲン化キサンテンまたはその薬学的に許容可能な塩は、典型的には、水性医薬組成物中に溶解または分散した状態で使用される。ハロゲン化キサンテンは、典型的には、水性0.9%生理食塩水医薬組成物中に0.1%~約20%(w/v)の濃度で存在する。
【0049】
企図される医薬組成物は、通常、静脈内法などによる非経口投与を意図したものであるため、そのような組成物は電解質を含有するべきであり、好ましくはほぼ生理的な浸透圧およびpH値を有すべきである。薬学的に許容可能な水性媒体中の一価電解質イオンの濃度は、好ましくは約0.5~約1.5%(w/v)、より好ましくは約0.8~約1.2%(w/v)、最も好ましくは約0.9%(w/v)である。約0.9%(w/v)の濃度は、ほぼ等張性の水溶液に相当するため、特に好ましい。更なる好ましい実施形態では、ケモアブレーション用医薬組成物中の電解質は、塩化ナトリウムである。
【0050】
上記のようなレベルの電解質は、薬学的に許容可能な水性媒体の浸透圧を増大させる。従って、電解質濃度の範囲を特定するかわりに、浸透圧を用いて組成物の電解質レベルをある程度特徴付けることができる。好ましくは、組成物の浸透圧は約100mOsm/kgより大きく、より好ましくは、組成物の浸透圧は約250mOsm/kgより大きく、最も好ましくは約300~約500mOsm/kgである。
【0051】
ハロゲン化キサンテンの水性賦形剤への溶解度を最大化し、生体組織への親和性を確保するには、薬学的に許容可能な水性媒体のpH値は、約4~約9であることが好ましい。特に好ましいpH値は、約5~約8であり、より好ましくは約6~約7.5の間である。これらのpH値において、ハロゲン化キサンテンは通常、pH値が低いときに形成される水不溶性ラクトンではなく、二塩基性形態のままである。
【0052】
薬学的に許容可能な水性媒体のpH値は、当業者に公知のあらゆる適切な手段によって制御又は調整することができる。酸又は塩基などの追加により、組成物を中和するか、またはpH値を調整することができる。ハロゲン化キサンテン又はその生理的に許容可能な塩は弱酸であるから、ハロゲン化キサンテンの濃度及び/又は電解質の濃度によっては、組成物のpH値のために中和剤及び/又はpH調整剤を使用せずにすむ可能性がある。しかしながら、組成物は、投与されてから生体環境に適合できるよう、いかなる中和剤も含まないことが特に好ましい。
【0053】
本発明の目的は、細胞毒性濃度のハロゲン化キサンテンを最終的にがん細胞の周囲にもたらし、その中で、これらのがん細胞がハロゲン化キサンテンと接触できるようにすることであるため、本発明において、医薬組成物中のハロゲン化キサンテンの具体的な量は、組成物を腫瘍に病巣内注射する場合ほどには重要でないと考えられる。以下に提供されるデータは、インビトロ培養白血病細胞に対するローズベンガル二ナトリウムのIC50濃度が、約50~約100μMであることを示している。
【0054】
インビトロ培養白血病細胞を用いた上記の結果からは、驚くべきことに、非特許文献27によって報告された、培養SK-N-AS、SK-N-BE(2)、IMR5、LAN1、SHEP、およびSK-N-SH神経芽細胞腫細胞、培養SK-N-MC神経上皮腫細胞、並びに、培養正常初代、BJ、およびWI38線維芽細胞に対するインビトロ細胞毒性研究で得られたデータに類似するデータがもたらされた。当該文献の著者は、PV-10処理細胞の処理後96時間時点における半数阻害濃度(IC50)値について、試験を行った神経芽細胞腫細胞株では65~85μM、神経上皮腫株SK-N-MCでは49μMであった旨を報告している。また、著者は3つの組織源由来のヒト上皮細胞に対する毒性も検討し、IC50値は93~143μMであった旨を報告している。
【0055】
白血病細胞に対するIC50値は約50~約100μMであると仮定すると、成人の白血病細胞の約半数を死滅させるためのRBの投与量は、RB二ナトリウムの分子量1018g/molに基づき、1リットル当たり約50~約100mgであると計算される。古典的なIVでの診断用途でRBを用いる場合には、1回100mgのRBをIV投与していた。標準的な成人の血液量は約5Lである。したがって、血流中でIC50値を達成するべく血中濃度を100mg/Lとするには、成人患者には約500mgのRBをIV投与する必要がある。静脈内(IV)投与は、ハロゲン化キサンテン含有組成物を必要とする哺乳動物対象に投与するための好ましい方法である。
【0056】
PV-10の臨床試験では、RBは1500mgのIV投与で耐容性が確認されている。RBは循環血液から短時間で排出されるため(t1/2は約30分)、IV投与では、単回投与の間、循環血液中のRBのピークレベルを維持するために、継続的な(すなわち、最大で数時間以上の)注入が必要となる。
【0057】
IC50レベルの循環RB濃度を達成するのに十分な量のRBを投与した場合、すべての循環白血病細胞に対して毒性があるわけではない(つまり、IC50では約半数の白血病細胞のみが影響を受ける)。いくつかの実施形態では、約1500mg(すなわち、300μM)までの、IC50レベルの倍数の量でRBを投与することが好ましい場合がある。しかしながら、代替的には、個々の投与によってほんの一部の腫瘍細胞のみを死滅させれば十分な場合もある。
【0058】
後者のケースは、急速に死滅した腫瘍細胞の負荷によって生じ得る毒性反応(すなわち、腫瘍崩壊症候群)を回避するために好ましいと考えられる。例えば、非特許文献28によると、腫瘍崩壊症候群は、血液がんを治療する医師が最も多く遭遇する疾患関連の緊急事態である。
【0059】
治療が必要な白血病、リンパ腫、または骨髄腫を有し、ハロゲン化キサンテンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を投与できる哺乳動物(哺乳動物対象)は、ヒトなどの霊長類、チンパンジーまたはゴリラなどの類人猿、カニクイザルまたはマカクなどのサル、ラット、マウスまたはウサギなどの実験動物、犬、猫、馬などのコンパニオンアニマル、あるいは、雌牛または去勢雄牛、羊、子羊、ブタ、ヤギ、ラマなどの食用動物であってよい。
【0060】
以下でより詳細に説明するように、残存がん細胞負荷に対する機能的免疫反応を開始させるために、1回の治療中に白血病細胞の一部のみを死滅させることも有利であり得る。RBによって開始される機能的免疫系反応は、RBによって生じた体内を循環する壊死性細胞破片が、免疫反応を誘導するという作用によって少なくとも部分的に引き起こされると考えられ、誘導された免疫反応により、RBなどのハロゲン化キサンテンの初期投与の効果を延長することができる。
【0061】
誘導された免疫反応は、接触したがん細胞を即座に死滅させる場合よりも、進行するのに長い時間がかかりうる。このように効果が遅延する理由は、白血病細胞を攻撃して死滅させるのに適切なB細胞およびT細胞の集団の誘導や、循環を続けることで患者を再発から守ることが可能な長期記憶T細胞の誘導には、時間が必要となるためである。
【0062】
別の態様では、上記の医薬組成物は、第2の異なる作用の細胞障害性抗がん剤、すなわち、作用機序が第1の細胞毒性剤であるハロゲン化キサンテンとは異なる細胞障害性抗がん剤と組み合わせて使用される。前述のように、ハロゲン化キサンセンは、がん細胞のリソソームに局在し、細胞周期のG1期にある細胞の割合を増加させ、アポトーシスによる細胞死を誘導する[非特許文献19]。
【0063】
第2の細胞毒性剤の第1のタイプは、いわゆる「低分子」である。このような低分子は、一般に非がん細胞よりもがん細胞をより特異的に死滅させるという点で、半特異的な細胞毒と見なすことができる。ほぼすべての低分子抗がん剤は、企図されるハロゲン化キサンテンよりもがん特異性が低いため、低分子抗がん剤のレシピエント被験者が治療レジメンから離脱する原因となり得る吐き気、脱毛、その他の苦痛を被験者に引き起こす可能性がある。
【0064】
これらの低分子の分子量は、典型的には約200~約1000ダルトン(Da)であり、好ましくは約250~約850Daである。この低分子のグループには、カリケアマイシン(1368Da)、ビンブラスチン(811Da)、ビンクリスチン(825Da)、モノメチルアウリスタチン(718Da)、エトポシド(589Da)、ダウノルビシン(528Da)、ドキソルビシン(544Da)、アナマイシン(640Da)、ソラフェニブ(465Da)、クロファラビン(304Da)、シスプラチン(300Da)、イリノテカン(587Da)、およびシタラビン(243Da)などの、血液がんを治療するために使用される多くの前述の分子が含まれる。これらの低分子の多くは、その塩、プロドラッグ、および/またはエステルとして使用され、その結果、上記の概数値よりも大きな分子量を有することに留意されたい。
【0065】
第2の細胞障害性抗がん剤を有する医薬組成物は、タンパク質、界面活性剤、および/またはポリ(エチレングリコール)[PEG]のようなポリマーなどのより大きな分子に結合された、上記のような低分子を含むこともできる。このような結合により、しばしば、低分子の毒性が最小限に抑えられるとともに、がん細胞に結合する抗体を使用することで、送達の位置が向上する。さらに、がん細胞に特異的に結合するように、および/またはがん細胞内へエンドサイトーシスされるように適合させることが可能なリポソーム、ミセル、またはシクロデキストリン分子内に、低分子細胞毒性剤を封入することができる。この封入および結合された低分子のグループは、その活性細胞毒性剤が低分子であるため、先に述べた第2の細胞毒性剤の低分子のグループに含まれる。
【0066】
このような第2の細胞毒性剤の実例としては、リポソームダウノルビシン、リポソームアナマイシン、スフィンゴソームビンクリスチン、リポソームシタラビン、ゲムツズマブオゾガマイシンと称されるカリケアマイシン結合CD33抗体、およびブレンツキシマブベドチンと称されるCD30キメラ抗体とモノメチルアウリスタチンEとの組み合わせが挙げられる。
【0067】
簡潔に説明すると、リポソームは、コレステロールおよびリン脂質分子から通常調製される、一般的に球形の人工小胞であり、1つまたは2つの二重層を構成して、送達を補助するために低分子の第2の細胞毒性剤を封入する。非特許文献29を参照されたい。
【0068】
カリケアマイシンは、高分子量の低分子(1368Da)であり、ベンゾチオエートのS-エステル結合によって中断された4つの連結した単糖類と、DNA配列を切断するエンジイン基とを含む。カリケアマイシンは非常に毒性が強いため単体では使用できず、ヌードマウスにおけるLD50は320μg/kgである[非特許文献30]。同様に、モノメチルアウリスタチンは、CD30(細胞膜タンパク質であり、がんマーカであるTNF受容体ファミリーメンバ)に対する抗体への結合を介して、全身(広範囲)への高い毒性を示し[いくつかのがん細胞株において、IC50<1nM;非特許文献31]、大細胞リンパ腫およびホジキン病に対して有用であると報告された[非特許文献32]一方で、モノメチルアウリスタチンの抗CD79bモノクローナルへの結合は、NHLの3つの異種移植モデルの治療において有利であった[非特許文献33]。
【0069】
低分子(非タンパク質性、約1000グラム/モル未満)またはより大きなタンパク質性分子である全身性抗がん剤は、ハロゲン化キサンテンの病巣内投与によって行われる局所投与と比較して、薬剤が治療対象である哺乳動物対象の全身に行きわたるように哺乳動物対象に投与される。静脈内投与は、そのような薬剤の広がりを達成するための好ましい方法である。
【0070】
例示的な低分子抗がん剤には、本明細書で使用したドキソルビシン、エトポシド、ビンクリスチン、シスプラチン、イリノテカン、およびシタラビンが含まれ、また、例示的なタンパク質性分子はペグアスパラギナーゼである。これらの薬剤のうち、ドキソルビシン、エトポシド、およびビンクリスチンは、致死未満量のPV-10による治療と相乗作用するようであり、好ましい。
【0071】
本明細書で論じられる第2のがん細胞毒性剤は、いずれも複数回投与可能であることを理解されたい。そのような複数回の投与は、治療を行う医師の監督下で行われ、第1のがん細胞毒性剤の投与と同時に行われるか、または別々に行われ得る。
【0072】
低分子の全身性抗がん剤の有用な有効量は、FDA、国内機関、または国際機関が承認した薬剤の添付文書情報に記載されている用量である。一般的に、単剤療法の投与計画は、初期臨床試験において最大耐用量(MTD)を決定することにより設定される。MTD(またはそのバリエーションである近似の量)はその後、有効性の評価と、安全性のより詳細な評価のために、後期臨床試験に適用される(promulgated)。これらのMTDは、臨床試験終了後、治療用量として確立されることが多い。しかしながら、低分子の全身性抗がん剤はPV-10との併用が企図されているため、MTDは通常使用される最大量であり、その量は通常の手順に従って漸減される。
【0073】
本発明においてハロゲン化キサンテン療法と組み合わせることが可能な各種の全身性抗がん剤の投与計画例を、下記の表Aに示す。なお、以下に挙げる薬剤のいくつかは、上記で定義された「低分子」であるのに対し、他の薬剤は、抗体などの大きなタンパク質性分子である。それでもなお、これらは全身投与される。
【0074】
【0075】
本発明の併用療法および治療方法では、全身性薬剤を下記のようなIV投与療法と組み合わせて使用するとき、相加効果または相乗効果によって、表Aに記載するような全身性薬剤の典型的な投与計画以下のレベルで当該全身性薬剤を使用することが一般的に可能となる。しかしながら、表Aに示される投与計画は、治療を開始する際の有用な指針を提供するものであり、そこから、個々の患者を担当する医師が適切と考える量へ投与量を漸減することが可能である。
【0076】
ハロゲン化キサンテンおよび第2の細胞障害性抗がん剤は、一緒に投与する必要はなく、同一の投与手段で投与する必要もないことに留意されたい。したがって、ハロゲン化キサンセンをIV投与する一方で、錠剤またはカプセルを使用して第2の細胞障害性抗がん剤を投与することが可能である。当業者は、抗がん剤を投与するための様々な方法をよく承知している。
【0077】
PV-10中に存在するようなハロゲン化キサンテンとの併用治療に有用である、第2の細胞毒性剤の第2のタイプは、特殊な全身性抗がん剤ともいえる免疫チェックポイント阻害剤である。免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞などの免疫系細胞や一部のがん細胞によって作られる特定のチェックポイントタンパク質に結合して、当該タンパク質をブロックする薬剤である。これらのタンパク質は、ブロックされていない状態では免疫反応を阻害するため、免疫反応が抑制され、T細胞によるがん細胞の殺傷が妨げられる。これらの免疫チェックポイントタンパク質をブロックすることで、免疫系の「ブレーキ」が解除されるため、T細胞が活性化し、がん細胞を殺傷することができるようになる。
【0078】
有用な免疫チェックポイント阻害剤は、好ましくは、投与されることで上記の特定のタンパク質の作用をブロックし、それによって、免疫系ががん細胞を異物として認識し、このがん細胞を体から排除する手助けを行うことを可能にする、ヒトまたはヒト化モノクローナル抗体、またはその結合部分である。免疫チェックポイント阻害剤としては、抗CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4)モノクローナル抗体であるイピリムマブおよびトレメリムマブが挙げられ、これらは、CTLA-4の働きをブロックすることによって免疫系の下方制御に対抗し、がんに対するT細胞の反応を増強するように設計されている。同様に、ピジリズマブ、ニボルマブ、ラムブロリズマブ、およびペムブロリズマブなどのモノクローナル抗体は、PD-1(プログラム死1)受容体に結合して免疫系の下方制御に対抗し、がん細胞に対するT細胞の反応を増強する。PD-1受容体の免疫チェックポイントタンパク質リガンド(PD-L1)を標的とする抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブ、およびデュルバルマブの3種類である。PD-1受容体のリガンドであるPD-L1およびPD-L2に対する抗体、例えばPD-L1に対するBMS-936559やMEDI4736(デュルバルマブ)等、に関する初期研究でも、免疫系の下方制御の抑制とがんに対するT細胞の反応の増強が示されている。
【0079】
チェックポイント阻害剤様作用を有する別の抗体のグループは、細胞表面受容体OX40(CD134)と免疫反応して、メモリーTリンパ球およびエフェクターTリンパ球の増殖を促進することにより、がん細胞に対するT細胞媒介性免疫反応を活性化させる。このようなヒト化抗OX40モノクローナル抗体の例としては、現在文献でgsk3174998(IgG1)、ポガリズマブ(MOXR0916)、およびMED10562と呼ばれるものがあり、また、ヒト抗OX40 IgG2抗体としてはPF-04518600(PF-8600)と称されるものがある。
【0080】
無傷モノクローナル抗体、ならびに、Fab領域、Fab’領域、F(ab’)2領域、およびFv領域などのそのパラトープ含有部分(結合部位含有部分)、更に、一本鎖ペプチド結合配列は、免疫チェックポイントタンパク質阻害剤として有用であり得る。無傷のチェックポイント阻害モノクローナル抗体は、ヒトの体内での半減期が約1~3週間であり[例えば、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ)終末相t1/2=15.4日;添付文書12/2013;キートルーダ(登録商標)(ペムブロリズマブ)終末相t1/2=23日;添付文書03/2017]、一本鎖オリゴまたはポリペプチドのインビボでの半減期は、より短い傾向にある。
【0081】
低分子の第2の細胞障害性抗がん剤とハロゲン化キサンテン薬剤の半減期は比較的短いため、両薬剤は単一の組成物中で投与してもよいし、別々の組成物中で投与してもよい。別々に投与する場合、両タイプの抗がん剤を互いに数分から約3時間以内に投与することが好ましい。より好ましくは、両者を互いに1時間未満内に投与する。
【0082】
本明細書において、「投与」は治療レジメンの開始を意味するために使用される。したがって、錠剤または他の経口剤形を飲み込むことは、IVフローが開始される時点と同様に、治療レジメンの始まりにあたる。第1および第2の細胞障害性抗がん剤の両方が同一且つ単一の組成物中に一緒に存在する場合、投与は、その単一の組成物が被験者の体内に入るときに開始される。
【0083】
第2の細胞障害性抗がん剤がモノクローナル抗体などの免疫チェックポイント阻害剤である場合、ハロゲン化キサンテンと第2の細胞障害性抗がん剤である免疫チェックポイント阻害剤とは、一緒に投与しても、一方を先に投与してもよく、第2の細胞障害性抗がん剤である免疫チェックポイント阻害剤は、ハロゲン化キサンテンの最大約1ヶ月前に投与することが可能である。好ましくは、2つの細胞障害性抗がん剤を一緒に投与するか、または第2の細胞障害性抗がん剤である免疫チェックポイント阻害剤をハロゲン化キサンテンの投与後数日以内に投与する。第2の細胞障害性抗がん剤である免疫チェックポイント阻害剤は、ハロゲン化キサンテンの投与から約1ヶ月後に投与することも可能である。
【0084】
結果
PV-10で処理を行った、原発性または再発小児白血病患者由来の市販の白血病細胞株11種(表1)と、原発性白血病サンプル2種(表2)とからなるパネルを用いて実施された、予備的なインビトロ細胞培養生存率アッセイの結果を示す。
【0085】
細胞生存率は、処理の96時間後にアラマーブルーアッセイによって測定した。PV-10は、試験を行った小児白血病細胞株11種(平均IC50値92.8μM)および原発性白血病サンプル3種(平均IC50値122.5μM)において、濃度および時間依存的にがん細胞の生存率を低下させた。その結果、PV-10は白血病細胞株に対して平均IC50値92.8μMで細胞毒性を示し(下記表1)、原発性白血病サンプル2種に対して平均IC50値122.5μMで細胞毒性を示す(下記表2)ことが分かった。
【0086】
【0087】
【0088】
4種類の白血病細胞株(Molm-13、MV4-11、SEM、TIB-202)を位相差顕微鏡法およびタイムラプスビデオ顕微鏡法により観察した結果、PV-10はがん細胞に対して細胞毒性であるとともに、がん細胞に対する細胞増殖抑制効果は有さないことが示された。タイムラプスビデオ顕微鏡実験に基づいて死細胞を定量化したところ、PV-10は細胞株に対して濃度依存的に細胞毒性を示すことが明らかとなった。
【0089】
100μMのPV-10で処理した場合、処理後24時間時点で、MV4-11細胞の88%、Molm-13細胞の69%、TIB-202細胞の27%、SEM細胞の25%が細胞死を起こしていた。PV-10の濃度を200μMに上げた場合、処理後24時間時点で、MV4-11細胞およびMolm13細胞の100%、SEM細胞の94%、TIB-202細胞の60%が細胞死を起こしていた。
【0090】
さらに、タイムラプスビデオ顕微鏡法による観察では、PV-10処理により細胞が収縮したことから、アポトーシスによる細胞の死滅が示唆された。PV-10によるアポトーシスの誘導は、ウェスタンブロットで検出された用量および時間依存的なPARPの切断によって立証された。[非特許文献34]
【0091】
これらの研究は、小児白血病におけるPV-10の効果と作用機序について、前臨床データとして最初の証拠を提供している。これらのデータは、再発・難治性小児白血病患者を対象とした追加の研究および初期臨床試験の策定の根拠を提供している。
【0092】
方法
原発性または再発小児白血病患者由来の細胞株11種(CEM-C1、CCRF-SB、Kasumi-1、KOPN8、Molm-13、Molt-3、Molt-4、MV4-11、SEM、SUP-B15、およびTIB-202)と、原発性白血病患者検体3種の細胞(T-ALL、AML、乳児AML)とからなるパネルに対し、濃度を高めながらPV-10での処理を行い、処理の96時間後にアラマーブルーアッセイで細胞生存率を測定した。標的の調節と細胞死経路の誘導については、ウェスタンブロット、位相差顕微鏡法、およびタイムラプスビデオ顕微鏡法にて調査を行った。
【0093】
細胞周期の変化の解析およびアポトーシスの誘導は、フローサイトメトリによって測定を行った。PV-10と相乗効果のある抗がん剤を特定するためには、併用試験が行われ、小児白血病に対するPV-10の効果をインビボで特定するためには、小児白血病の動物モデルが使用される。
【0094】
先行研究
先行研究により、先に述べたハロゲン化キサンテン化合物は、がん性腫瘍細胞に対して、RBと同様の結果をもたらすことが示されている。
【0095】
先行研究の手順
A.1×104細胞/mLをBALB/cヌードマウスに皮下注射した。腫瘍が治療可能な体積まで増殖するのに2~3週間を要した。
B.20μLから40μLのハロゲン化キサンテン溶液(0.01、0.001、または0.1%w/v)を、腫瘍に完全に浸潤するまで注射した。薬剤が注入されるにつれて腫瘍が赤色に変化していくのを確認することができた。
C.注射の24時間後、腫瘍にレーザを照射した。レーザ:Coherent社製、Verdi 5W、532nm CWレーザ、200mW/cm2、100J/cm2、処理領域:4cm2。
【0096】
D.バイオアッセイによる特異性の確認:照射後に痂皮および体積減少が認められることによって明示される、腫瘍に限局した光力学的損傷の存在を確認することにより、腫瘍内注射から24時間後の腫瘍における薬剤の保色性を判断した。また、原発部位における腫瘍の再発の有無を記録した。
E.蛍光による特異性の確認:CWレーザで励起された腫瘍内のハロゲン化キサンテン剤の蛍光を目視で観察することにより、腫瘍内送達から24時間後の腫瘍内における化合物の保持を確認した。532nmの励起波長は、メレスグリオ社製フィルタ(部品番号:03 FIM 008)を用いて除去した。化合物の蛍光は、オリンパス株式会社(登録商標)製デジタルカメラ(型番:0-300-L)を用いて記録した。
【0097】
結果
【0098】
【0099】
本明細書で引用した特許、特許出願、および論文の各々は、参照により組み込まれる。冠詞「a」及び「an」は、本明細書において、その冠詞の文法的対象の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。本明細書で引用した特許、特許出願、および論文の各々は、参照により組み込まれる。
【0100】
前述の説明および実施例は、例示を目的としたものであり、限定として解釈されるべきではない。本発明の主旨および範囲内でさらに他の変更が可能であり、当業者はこれらの変更に容易に想到するであろう。